(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-04
(45)【発行日】2023-12-12
(54)【発明の名称】データ処理装置およびデータ処理方法
(51)【国際特許分類】
G01S 13/90 20060101AFI20231205BHJP
G06T 1/00 20060101ALI20231205BHJP
【FI】
G01S13/90 191
G06T1/00 285
(21)【出願番号】P 2022508661
(86)(22)【出願日】2020-03-17
(86)【国際出願番号】 JP2020011744
(87)【国際公開番号】W WO2021186557
(87)【国際公開日】2021-09-23
【審査請求日】2022-09-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000004237
【氏名又は名称】日本電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103090
【氏名又は名称】岩壁 冬樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124501
【氏名又は名称】塩川 誠人
(72)【発明者】
【氏名】田中 大地
(72)【発明者】
【氏名】宝珠山 治
【審査官】藤脇 昌也
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-533051(JP,A)
【文献】特表2010-522401(JP,A)
【文献】特開2010-230462(JP,A)
【文献】特開2016-57092(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第103675818(CN,A)
【文献】国際公開第2016/125206(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00 - 7/42
13/00 - 13/95
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の複素画像の同じ位置にあたる画素の相関を表すコヒーレンス行列を算出するコヒーレンス行列算出手段と、
複数の複素画像の各々における画素の相関である空間相関に関する事前情報を表すデータを生成する空間相関生成手段と、
前記コヒーレンス行列に関する画素の相関と前記空間相関とを統合し、統合された相関に基づいて、統計的に尤もらしく、かつ、矛盾のない位相差を、ノイズ除去された位相差として算出する位相差推定手段と
を備えたデータ処理装置。
【請求項2】
前記矛盾のない位相差は、位相差を任意の位相差の組み合わせから計算したときに、いずれの計算結果も一致することになる位相差である
請求項1記載のデータ処理装置。
【請求項3】
前記位相差推定手段は、観測された画素の値に基づく位相とノイズ除去された位相差との相関、および、ノイズ除去後の画素間の相関を、前記コヒーレンス行列に基づく重み、および、前記事前情報に基づく重みの下で大きくする演算手段と、
前記演算手段の演算結果から位相差を算出する位相差算出手段と
を含む
請求項1または請求項2記載のデータ処理装置。
【請求項4】
前記位相差推定手段は、前記統合された相関を表す評価関数を生成し、
前記演算手段は、前記演算結果として、前記評価関数を最大にする画素値をノイズ除去された画素値として求め、
前記位相差算出手段は、前記画素値から位相差を算出する
請求項3記載のデータ処理装置。
【請求項5】
前記空間相関生成手段は、前記事前情報を表すデータとして空間相関行列を生成する
請求項1から請求項4のうちのいずれか1項に記載のデータ処理装置。
【請求項6】
前記位相差推定手段は、前記空間相関行列を低次元分解する手段を含む
請求項5記載のデータ処理装置。
【請求項7】
複数の複素画像の同じ位置にあたる画素の相関を表すコヒーレンス行列を算出し、
複数の複素画像の各々における画素の相関である空間相関に関する事前情報を表すデータを生成し、
前記コヒーレンス行列に関する画素の相関と前記空間相関とを統合し、統合された相関に基づいて、統計的に尤もらしく、かつ、矛盾のない位相差を、ノイズ除去された位相差として算出する
データ処理方法。
【請求項8】
前記矛盾のない位相差は、位相差を任意の位相差の組み合わせから計算したときに、いずれの計算結果も一致することになる位相差である
請求項7記載のデータ処理方法。
【請求項9】
観測された画素の値に基づく位相とノイズ除去された位相差との相関、および、ノイズ除去後の画素間の相関を、前記コヒーレンス行列に基づく重み、および、前記事前情報に基づく重みの下で大きくする演算を行い、
演算結果から位相差を算出する
請求項7または請求項8記載のデータ処理方法。
【請求項10】
コンピュータに、
複数の複素画像の同じ位置にあたる画素の相関を表すコヒーレンス行列を算出する処理と、
複数の複素画像の各々における画素の相関である空間相関に関する事前情報を表すデータを生成する処理と、
前記コヒーレンス行列に関する画素の相関と前記空間相関とを統合し、統合された相関に基づいて、統計的に尤もらしく、かつ、矛盾のない位相差を、ノイズ除去された位相差として算出する処理と
を実行させる
ためのデータ処理プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成開口レーダの受信電磁波の位相に基づいて画像解析を行う画像解析システムに適用可能なデータ処理装置およびデータ処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
合成開口レーダ(SAR:Synthetic Aperture Radar)技術は、人工衛星や航空機などの飛翔体が移動しながら電磁波を送受信し、大きな開口を持つアンテナと等価な観測画像が得られる技術である。合成開口レーダは、例えば、地表からの反射波を信号処理して、標高や地表変位等を解析するために利用される。特に、精度が必要である場合等に、解析装置は、合成開口レーダによって得られる時系列のSAR画像(SARデータ)を入力とし、入力されたSAR画像を時系列解析する。
【0003】
標高や地表変位を解析するための有効な手法として、干渉SAR解析がある。干渉SAR解析では、違う時期に撮影された複数(例えば、2枚)のSAR画像を構成する電波信号の位相差が計算される。そして、位相差に基づいて撮影時期間で生じた飛翔体と地面間の距離の変化が検出される。
【0004】
特許文献1には、コヒーレンス行列を用いる解析手法が記載されている。コヒーレンス行列は、複数の複素画像の同じ位置にあたる画素の相関を表す。
【0005】
コヒーレンスは、N(N≧2)枚のSAR画像における複数のSAR画像の同じ位置にあたる画素の複素相関で計算される。SAR画像のペアを(m,n)とし、コヒーレンス行列の成分をcm,nとする。m,nは、それぞれ、N以下の値であり、N枚のSAR画像のいずれかを示す。SAR画像のペアについて、位相θm,n(具体的には、位相差)が算出される。そして、コヒーレンス算出対象の画素を含む所定領域内の複数の画素についてexp(-jθm,n)が平均化された値の絶対値が、コヒーレンス行列の成分cm,nとなる。また、SAR画像m における強度をAm、SAR画像n における強度をAnとして、Am・An・exp(-jθm,n)を平均化してもよい。
【0006】
cm,nの絶対値||cm,n||から、位相θm,nの分散の大きさを把握可能である。
【0007】
コヒーレンス行列は、分散のように位相ノイズ量の程度を推測可能な情報を含む。
【0008】
地表等の変位解析のために、位相θm,nが変位速度および撮影時刻差に相関することが利用される。例えば、位相差の平均値に基づいて変位が推定される。なお、位相ノイズ量を使用して変位解析の精度を検証することが可能である。したがって、コヒーレンス行列は、変位解析のために使用可能である。
【0009】
標高解析のために、位相θm,nが解析対象物の標高および飛翔体間距離(例えば、飛翔体の2つの撮影位置の間の距離)に相関することが利用される。例えば、位相差の平均値に基づいて標高が推定される。なお、位相ノイズ量を使用して標高解析の精度を検証することが可能である。したがって、コヒーレンス行列は、標高解析のために使用可能である。
【0010】
特許文献1には、コヒーレンス行列に対して変位等のモデルをフィッティングし、ノイズの影響を除外した位相を復元する手法が記載されている。また、非特許文献1にも、類似の手法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【非特許文献】
【0012】
【文献】A. M. Guarnieri et.al., "On the Exploitation of Target Statistics for SAR Interferometry Applications", IEEE Transactions on Geoscience and Remote Sensing, Vol. 46, No. 11, pp.3436-3443, November 2008
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
特許文献1に記載された手法および非特許文献1に記載された手法によれば、位相差に含まれるノイズを減らすことができる。しかし、変位解析および標高解析が実行されるときに、位相差に含まれるノイズはできるだけ少ないことが好ましいので、より多くのノイズが除去されることが要望される。
【0014】
本発明は、位相ノイズ低減の程度をより大きくすることができるデータ処理装置およびデータ処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明によるデータ処理装置は、複数の複素画像の同じ位置にあたる画素の相関を表すコヒーレンス行列を算出するコヒーレンス行列算出手段と、複数の複素画像の各々における画素の相関である空間相関に関する事前情報を表すデータを生成する空間相関生成手段と、コヒーレンス行列に関する画素の相関と空間相関とを統合し、統合された相関に基づいて、統計的に尤もらしく、かつ、矛盾のない位相差を、ノイズ除去された位相差として算出する位相差推定手段とを含む。
【0016】
本発明によるデータ処理方法は、複数の複素画像の同じ位置にあたる画素の相関を表すコヒーレンス行列を算出し、複数の複素画像の各々における画素の相関である空間相関に関する事前情報を表すデータを生成し、コヒーレンス行列に関する画素の相関と空間相関とを統合し、統合された相関に基づいて、統計的に尤もらしく、かつ、矛盾のない位相差を、ノイズ除去された位相差として算出する。
【0017】
本発明によるデータ処理プログラムは、コンピュータに、複数の複素画像の同じ位置にあたる画素の相関を表すコヒーレンス行列を算出する処理と、複数の複素画像の各々における画素の相関である空間相関に関する事前情報を表すデータを生成する処理と、コヒーレンス行列に関する画素の相関と空間相関とを統合し、統合された相関に基づいて、統計的に尤もらしく、かつ、矛盾のない位相差を、ノイズ除去された位相差として算出する処理とを実行させる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、位相ノイズ低減の程度をより大きくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】第1の実施形態のデータ処理装置の構成例を示すブロック図である。
【
図2】矛盾のない位相を説明するための説明図である。
【
図3】第1の実施形態のデータ処理装置の動作を示すフローチャートである。
【
図4】第2の実施形態のデータ処理装置の構成例を示すブロック図である。
【
図5】第2の実施形態のデータ処理装置の動作を示すフローチャートである。
【
図6】第3の実施形態のデータ処理装置の構成例を示すブロック図である。
【
図7】第3の実施形態のデータ処理装置の動作を示すフローチャートである。
【
図8】第4の実施形態および第5の実施形態のデータ処理装置の構成例を示すブロック図である。
【
図9】第4の実施形態および第5の実施形態のデータ処理装置の動作を示すフローチャートである。
【
図10】第6の実施形態のデータ処理装置の構成例を示すブロック図である。
【
図11】第6の実施形態のデータ処理装置の動作を示すフローチャートである。
【
図12】第7の実施形態のデータ処理装置の構成例を示すブロック図である。
【
図13】第7の実施形態のデータ処理装置の動作を示すフローチャートである。
【
図14】CPUを有するコンピュータの一例を示すブロック図である。
【
図15】データ処理装置の主要部を示すブロック図である。
【
図16】他の態様のデータ処理装置の主要部を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態を図面を参照して説明する。
【0021】
実施形態1.
図1は、第1の実施形態のデータ処理装置の構成例を示すブロック図である。
図1に示すデータ処理装置10は、コヒーレンス行列算出部120、空間相関予測部140および位相推定部160を含む。データ処理装置10は、位相ノイズが低減された位相(具体的には、位相差)を得ることができる。
【0022】
例えば、SAR画像からコヒーレンス行列が算出される場合、SAR画像格納部(図示せず)に、N(N≧3)枚のSAR画像(複素画像:振幅および位相情報を含む。)が格納される。コヒーレンス行列算出部120は、画素の位相を用いてコヒーレンス行列を算出する。空間相関予測部140は、画像における画素の相関係数を予測し、相関係数を要素とする行列である空間相関行列を生成する。位相推定部160は、コヒーレンス行列に基づき、空間相関行列を考慮して、矛盾のない位相(具体的には、位相差)を推定する。
【0023】
なお、第1の実施形態では、コヒーレンス行列算出部120がSAR画像格納部に格納されているSAR画像からコヒーレンス行列を算出する場合を例にするが、後述するように、コヒーレンス行列算出部120がSAR画像格納部に格納されているSAR画像からコヒーレンス行列を算出することは一例である。コヒーレンス行列算出部120は、他の情報(データ)を用いてコヒーレンス行列を算出することもできる。
【0024】
なお、「矛盾のない位相」は、位相差を、他のどのような位相差の組み合わせ(任意の位相差の組み合わせ)から再計算しても、計算結果の値が一致することを意味する。
【0025】
図2は、矛盾のない位相を説明するための説明図である。
図2には、3枚のSAR画像が例示されている。SAR画像を示す矩形の内部の数字は、画像番号を示す。例えば、画像3と画像1との位相差が、画像1と画像2との位相差と、画像2と画像3の位相差との和に等しい場合、すなわち、下式が満たされる場合には、画像1~3では「矛盾のない位相」の状態が達成されている。下式において、例えば、φ
a-bは、画像aと画像bとの位相差を示す。
図2に示す例では、下式において、a=1、b=2、c=3である。なお、2枚のSAR画像の位相差は、各々の画像における対応画素の位相差を意味する。
【0026】
φa-b+φb-c=φc-a
位相の特性上2πの整数倍の差があっても同一の位相であるため、下記の式が満たされる場合にも矛盾のない位相が達成されているとみなせる。下式において、kは任意の整数である。
φa-b+φb-c=φc-a+2kπ
【0027】
N枚の画像の全てについて、上式が満たされる場合には、SAR画像における位相は、「矛盾のない位相」の状態にある。以下、上式が満たされることを、制約を満たすということがある。
【0028】
次に、
図1に示されたデータ処理装置10の動作を、
図3のフローチャートを参照して説明する。
【0029】
コヒーレンス行列算出部120は、例えばSAR画像格納部に格納されているN枚のSAR画像を対象としてコヒーレンス行列Cpを算出する(ステップS110)。上述したように、例えば、SAR画像のペアを(m,n)とし、コヒーレンス行列Cpの成分をcm,nとする。m,nは、それぞれ、N以下の値であり、N枚のSAR画像のいずれかを示す。コヒーレンス行列算出部120は、SAR画像のペアについて、位相θm,n(具体的には、位相差)を算出する。そして、コヒーレンス行列算出部120は、コヒーレンス算出対象の画素を含む所定領域内の複数の画素についてexp(-jθm,n)を平均化した値を、コヒーレンス行列Cpの成分cm,nとする。
【0030】
コヒーレンス行列算出部120は、強度Am,An込みで Am,Anexp(-jθm,n)を平均化することによってコヒーレンス行列を得てもよい。また、コヒーレンス行列算出部120は、このように強度込みで得たコヒーレンス行列を仮にΓとしたときに、この対角成分の平均が1になるように行列の全要素を定数倍することによって、平均的な強度に影響されない形でコヒーレンス行列を計算しなおしてもよい。また、コヒーレンス行列算出部120は、このように強度込みで得たコヒーレンス行列Γに対して、その対角成分がすべて1になるように、Γの左右から対角行列を乗算してもよい。また、コヒーレンス行列算出部120は、解析対象の地域に対して、例えば植生が含まれるかコンクリート製の人工構造物が含まれるのかといったSAR以外の情報や、どのような撮影条件で入力SAR画像の各々を撮影したのかといった情報などに基づいて、どの撮影条件のペアでどの程度のノイズが乗るかを推測し、コヒーレンス行列として用いてもよい。
【0031】
空間相関予測部140は、SAR画像における解析対象領域(全領域でもよい。)に関する事前情報(既知のデータ)に基づいて、空間相関(解析対象領域における画素の相関)を作成(算出)する(ステップS120)。なお、ステップS110の処理とステップS120の処理との実行順序は、
図3に示された順序に限定されない。例えば、ステップS120の処理がステップS110の処理よりも先に実行されてもよいし、双方の処理が同時に実行されてもよい。
【0032】
空間相関は、事前にデータ処理装置10に与えられるが、例えば、相関係数を要素とする空間相関行列Kで表現される。ただし、空間相関行列Kは空間相関の表現の一例であって、他の表現が用いられてもよい。事前情報として、例えば、以下のような情報が例示される。
【0033】
・データ処理装置10が適用された画像解析システムの解析対象物(例えば、変位解析の対象である構造物)の概略形状。一例として、鉄塔などの細長い形状の構造物が対象物である場合には、構造物の延伸方向に画素が滑らかな相関を持つように空間相関を作成する。
・相関が既知であるグラフ(ノード:画素、エッジ(重み):相関)における重み。この事前情報を使用する場合、重みに基づく値を要素とする空間相関行列Kを作成する。
・過去に得られたSAR画像から得られる情報。すなわち、解析対象領域の既知画像における画素の相関。
【0034】
事前情報は、上記の例示に限られず、解析対象物の空間相関を予測可能であれば、他の類いの情報でもよい。
【0035】
位相推定部160は、双方の相関を統合し、統計的に尤もらしく、かつ、矛盾のない位相(具体的に、位相差)を算出する(ステップS130)。
【0036】
第1の実施形態では、SAR画像における画素の相関を考慮して位相ノイズを除去する処理が行われるので、より効果的に位相ノイズを低減できる。
【0037】
実施形態2.
図4は、第2の実施形態のデータ処理装置の構成例を示すブロック図である。
図4に示すデータ処理装置20は、コヒーレンス行列算出部120、空間相関予測部140および位相推定部170を含む。位相推定部170は、第1の評価関数生成部171、第2の評価関数生成部172、および位相算出部173を含む。
【0038】
第2の実施形態のデータ処理装置20は、
図1に示された第1の実施形態のデータ処理装置10が具体化されたデータ処理装置に相当する。
【0039】
なお、第2の実施形態でも、コヒーレンス行列算出部120がSAR画像格納部(図示せず)に格納されているSAR画像からコヒーレンス行列を算出する場合を例にする。しかし、コヒーレンス行列算出部120がSAR画像格納部に格納されているSAR画像からコヒーレンス行列を算出するのではなく、他の情報(データ)を用いてコヒーレンス行列を算出してもよい。
【0040】
第1の評価関数生成部171は、コヒーレンス行列Cpを入力し、第1の評価関数(観測信号評価関数)を生成する。観測信号評価関数は、コヒーレンス行列Cpに応じた観測信号とノイズのない位相とに基づく評価関数である。
【0041】
第2の評価関数生成部172は、空間相関(例えば、空間相関行列K)を入力し、画像内で位相差が滑らかに分布することを表す第2の評価関数(空間相関評価関数)を生成する。換言すれば、第2の評価関数生成部172は、空間的にどの程度滑らかな位相が算出されるべきかを表す情報(データ)が含まれる空間相関評価関数を生成する。
【0042】
位相算出部173は、観測信号評価関数および空間相関評価関数を使用して、ノイズがないと推定される位相を算出する。
【0043】
次に、
図4に示されたデータ処理装置20の動作を、
図5のフローチャートを参照して説明する。
【0044】
コヒーレンス行列算出部120は、第1の実施形態の場合と同様に、SAR画像格納部に格納されているN枚のSAR画像を対象としてコヒーレンス行列Cpを算出する(ステップS110)。
【0045】
位相推定部170において、第1の評価関数生成部171は、観測信号評価関数を生成する(ステップS111)。すなわち、第1の評価関数生成部171は、ノイズが除去された位相差について、観測関数との相関を評価するための評価関数を生成する。
【0046】
空間相関予測部140は、第1の実施形態の場合と同様に、SAR画像における解析対象領域に関する事前情報に基づいて、空間相関を作成(算出)する(ステップS120)。第2の実施形態では、空間相関予測部140が空間相関行列Kを生成する場合を例にする。
【0047】
位相推定部170において、第2の評価関数生成部172は、空間相関評価関数を生成する(ステップS121)。すなわち、第2の評価関数生成部172は、ノイズが除去された位相差の空間相関と空間相関行列Kとの合致度を評価するための評価関数を生成する。
【0048】
位相推定部170において、位相算出部173は、観測信号評価関数と空間相関評価関数との双方を最大化することによって、矛盾のない位相差を推定する(ステップS131)。
【0049】
第2の実施形態では、SAR画像における画素の空間相関評価関数も使用して位相ノイズを除去する処理が行われるので、より効果的に位相ノイズを低減できる。
【0050】
実施形態3.
図6は、第3の実施形態のデータ処理装置の構成例を示すブロック図である。
図6に示すデータ処理装置30は、コヒーレンス行列算出部120、空間相関予測部140および位相推定部180を含む。位相推定部180は、第1の評価関数生成部181、第2の評価関数生成部182、評価関数統合部183、画素値推定部184、および位相取得部185を含む。
【0051】
第3の実施形態のデータ処理装置30は、
図4に示された第2の実施形態のデータ処理装置20がより具体化されたデータ処理装置に相当する。
【0052】
なお、第3の実施形態でも、コヒーレンス行列算出部120がSAR画像格納部(図示せず)に格納されているSAR画像からコヒーレンス行列を算出する場合を例にする。しかし、コヒーレンス行列算出部120がSAR画像格納部に格納されているSAR画像からコヒーレンス行列を算出するのではなく、他の情報(データ)を用いてコヒーレンス行列を算出してもよい。
【0053】
第1の評価関数生成部181は、コヒーレンス行列Cpを入力し、第1の評価関数(観測信号評価関数)を生成する。第3の実施形態では、観測信号評価関数として、(1)式の評価関数が用いられる。なお、(1)式の右辺の演算が実行されるときに、C(コヒーレンス行列に相当)の逆行列を用いる演算が実行される。Cの逆行列は、コヒーレンス行列に基づく重みに相当する。
【0054】
【0055】
第2の評価関数生成部182は、空間相関行列Kを入力し、画像内で位相差が滑らかに分布することを表す第2の評価関数(空間相関評価関数)を生成する。第3の実施形態では、空間相関評価関数として、(2)式の評価関数が用いられる。なお、(2)式の右辺の演算が実行されるときに、空間相関行列Kの逆行列を用いる演算が実行される。空間相関行列Kの逆行列は、事前情報に基づく重みに相当する。
【0056】
【0057】
評価関数統合部183は、観測信号評価関数と空間相関評価関数とを統合する。第3の実施形態では、統合された評価関数として、(3)式の評価関数が用いられる。
【0058】
【0059】
(1)~(3)式において、yn,pは、n(n:1~N)枚目の画像における位置P(画素p)での観測画素値を示す。xn,pは、n枚目の画像における位置p(画素p)でのノイズがない画素値(ノイズが除去された画素値)を示す。なお、「H」は複素共役転置を表す。
【0060】
「・」(例えば、y・,pにおける「・」)は、全ての要素(例えば、y・は、y1~yNを要素とするベクトル)を示す。したがって、例えばp=1の場合、y・,pは、y11,y21,・・・,yN1を要素とする行ベクトルである。
【0061】
(1)式の観測信号評価関数において、Cpは、画素pにおけるコヒーレンス行列である。右辺のNは、複素正規分布における確率密度関数である。条件(制約)を示す縦線の右側において、「0」は平均値である。アダマール積を示す「○」の右側のx・,px・H
,pは、観測された画像の画素pにおける位相差に相当する。アダマール積の結果は、分散共分散行列に相当する。
【0062】
(2)式の空間相関評価関数において、xH
n,・は、各画像n(n:1~N)毎の各画素の値(ノイズが除去された場合の)を表す。条件(制約)を示す縦線の右側に空間相関(具体的には、空間相関行列K)が設定されているので、xH
n,・は、空間相関に従うことになる。
【0063】
(3)式において、Πは総乗を示す。よって、(3)式の評価関数は、全ての画像(N枚の画像)における全ての画素についての、観測信号評価関数と空間相関評価関数との積に相当する。そして、画素値推定部184は、(3)式の評価関数を最大にするxを求める。なお、評価関数を最大にするxを求めることは、観測された画素の値に基づく位相とノイズ除去された位相差との相関、および、ノイズ除去後の画素間の相関を、コヒーレンス行列に基づく重み、および、事前情報に基づく重みの下で大きくすることに相当する。
【0064】
さらに、画像mと画像nとの位相差が、(4)に示すように求められる。すなわち、位相取得部185は、画像mにおける画素値と画像nにおける対応画素の画素値の複素共役との積に基づいて位相差を得る。
【0065】
【0066】
次に、
図6に示されたデータ処理装置30の動作を、
図7のフローチャートを参照して説明する。
【0067】
コヒーレンス行列算出部120は、第2の実施形態の場合と同様に、SAR画像格納部に格納されているN枚のSAR画像を対象としてコヒーレンス行列Cpを算出する(ステップS110)。
【0068】
位相推定部180において、第1の評価関数生成部181は、観測信号評価関数を生成する(ステップS111)。すなわち、第1の評価関数生成部181は、(1)式の評価関数を生成する。
【0069】
空間相関予測部140は、第2の実施形態の場合と同様に、SAR画像における解析対象領域に関する事前情報に基づいて、空間相関(この例では、空間相関行列K)を作成(算出)する(ステップS120)。
【0070】
位相推定部180において、第2の評価関数生成部182は、空間相関評価関数を生成する(ステップS121)。すなわち、第2の評価関数生成部182は、(2)式の評価関数を生成する。
【0071】
評価関数統合部183は、観測信号評価関数と空間相関評価関数とを統合する(ステップS132)。すなわち、評価関数統合部183は、(3)式の評価関数を生成する。画素値推定部184は、(3)式の評価関数を最大にするxを求める(ステップS133)。
【0072】
位相取得部185は、画像mにおける画素値と画像nにおける対応画素の画素値の複素共役との積を求め((4)参照)、求められた積に基づいて位相差を得る(ステップS134)。具体的には、位相取得部185は、積(複素数)の偏角を位相差として得る。
【0073】
第3の実施形態では、画素値xを算出した後に、画素値xに基づいて位相差を推定することによって、「矛盾のない位相」に関する制約が満たされる。具体的には、各画像に対してある位相値が割り当てられた後、再度位相差が計算されるので、制約が満たされることになる。
【0074】
実施形態4.
図8は、第4の実施形態のデータ処理装置の構成例を示すブロック図である。
図8に示すデータ処理装置40は、コヒーレンス行列算出部120、空間相関予測部140および位相推定部190を含む。位相推定部190は、第1の評価関数構成要素生成部191、第2の評価関数構成要素生成部192、評価関数統合部193、画素値推定部194、および位相取得部195を含む。
【0075】
なお、第4の実施形態でも、コヒーレンス行列算出部120がSAR画像格納部(図示せず)に格納されているSAR画像からコヒーレンス行列を算出する場合を例にする。しかし、コヒーレンス行列算出部120がSAR画像格納部に格納されているSAR画像からコヒーレンス行列を算出するのではなく、他の情報(データ)を用いてコヒーレンス行列を算出してもよい。
【0076】
位相推定部190において、第1の評価関数構成要素生成部191と第2の評価関数構成要素生成部192とは、第3の実施形態における第1の評価関数生成部181と第2の評価関数生成部182とは異なる処理を実行する。すなわち、第1の評価関数構成要素生成部191は、(5)式の右辺第2項の観測信号に関する評価を行うための行列を生成する。第2の評価関数構成要素生成部192は、(5)式の右辺第1項の空間相関を評価するための行列を生成する。なお、(5)式において、Cpの逆行列は、コヒーレンス行列に基づく重みに相当する。また、空間相関行列Kの逆行列は、事前情報に基づく重みに相当する。
【0077】
【0078】
(5)式において、yn,pは、n(n:1~N)枚目の画像における位置P(画素p)での観測画素値を示す。ただし、観測画素値は、すべての画像におけるすべての画素において絶対値が1になるように、各画像および各画素で実数倍されていてもよい。また、すべての画像間での画素ごとの絶対値平均または絶対値の2乗の平均が1になるように、各画素に対して全画像で共通した実数が乗算されてもよい。また、(5)式において、xn,pは、n枚目の画像における位置P(画素p)でのノイズがない画素値を示す。
【0079】
「・」(例えば、「y・,p」における「・」)は、全ての要素(例えば、y・は、y1~yNを要素とするベクトル)を示す。したがって、例えばp=1の場合、y・,pは、y11,y21,・・・,yN1を要素とする列ベクトルである。なお、「xn,・」は、画像nに対して、全ての画素pに対応する値をxから取り出して列方向に並べたベクトルである。
【0080】
INは、N×Nの単位行列である。epは、p行目が1で他の行が0の列ベクトルである。丸印の中に×が付された記号は、クロネッカー積を示す。「T」は転置を表す。
【0081】
なお、(5)式で生成される行列は、下記の(6)の形でvec(x)との積がとられることによって統合されて、xに対する評価関数になる。そのような評価関数は、第3の実施形態における(3)式の評価関数に対して対数をとり、負の符号を付加したもの、すなわちnegative log likelihood のうちでxに依存する部分を行列形式で表記した評価関数に相当する。すなわち、(3)式に対して最大化を行うことは、(6)の評価式において最小化を行うことと等価である。
【0082】
【0083】
評価関数統合部193は、(5)式による行列に基づいて評価関数を作成する。画素値推定部194は、評価関数を最小にするxを求める。位相取得部195は、xに基づいて位相差を得る。
【0084】
次に、第4の実施形態のデータ処理装置の動作を、
図9のフローチャートを参照して説明する。
【0085】
コヒーレンス行列算出部120は、第3の実施形態の場合と同様に、SAR画像格納部に格納されているN枚のSAR画像を対象としてコヒーレンス行列Cpを算出する(ステップS110)。
【0086】
位相推定部180において、第1の評価関数構成要素生成部191は、観測信号に関する評価を行うための行列を生成する(ステップS112)。第1の評価関数構成要素生成部191は、ステップS112の処理で、(5)式の右辺第2項の行列を生成する。
【0087】
空間相関予測部140は、第3の実施形態の場合と同様に、SAR画像における解析対象領域に関する事前情報に基づいて、空間相関(この例では、空間相関行列K)を作成(算出)する(ステップS120)。
【0088】
位相推定部180において、第2の評価関数構成要素生成部192は、空間相関を評価するための行列を生成する(ステップS122)。第2の評価関数構成要素生成部192は、ステップS122の処理で、(5)式の右辺第1項の行列を生成する。
【0089】
評価関数統合部193は、生成された行列に基づいて評価関数を作成する(ステップS135)。第4の実施形態では、評価関数統合部193は、ステップS135の処理で、(6)によって評価関数を生成する。画素値推定部194は、(6)による評価関数を最小にするxを求める(ステップS136)。(6)において、vec(x)は、xが列ベクトルに変換されたベクトルである。なお、下記の(6)を最小にするxを求めることは、観測された画素の値に基づく位相とノイズ除去された位相差との相関、および、ノイズ除去後の画素間の相関を、コヒーレンス行列に基づく重み、および、事前情報に基づく重みの下で大きくすることに相当する。
【0090】
位相取得部195は、画像mにおける画素値と画像nにおける対応画素の画素値の複素共役との積を求め((4)参照)、求められた積に基づいて位相差を得る(ステップS137)。具体的には、位相取得部195は、積(複素数)の偏角を位相差として得る。
【0091】
第4の実施形態では、画素値xを算出した後に、画素値xに基づいて位相差を推定することによって、「矛盾のない位相」に関する制約が満たされる。具体的には、各画像に対してある位相値が割り当てられた後、再度位相差が計算されるので、制約が満たされることになる。
【0092】
実施形態5.
第5の実施形態のデータ処理装置の構成は、
図8に示された第4の実施形態のデータ処理装置40の構成と同じでよい。また、第5の実施形態のデータ処理装置の動作は、
図9のフローチャートに示された動作と同じでよい。ただし、第5の実施形態では、第2の評価関数構成要素生成部192は、第4の実施形態における評価関数とは異なる評価関数を生成する。すなわち、第5の実施形態では、第2の評価関数構成要素生成部192は、空間相関行列をK
n(n:1~N)とすると、(7)式に示すように、K
nを要素とする対角行列を生成する。
【0093】
【0094】
なお、第5の実施形態でも、コヒーレンス行列算出部120がSAR画像格納部(図示せず)に格納されているSAR画像からコヒーレンス行列を算出する場合を例にする。しかし、コヒーレンス行列算出部120がSAR画像格納部に格納されているSAR画像からコヒーレンス行列を算出するのではなく、他の情報(データ)を用いてコヒーレンス行列を算出してもよい。
【0095】
第4の実施形態では、N枚の画像の全てにおいて空間相関は同じであるとされている。第5の実施形態は、N枚の各々の画像の空間相関(この例では、空間相関行列Kn(n:1~N))を異ならせたい場合に有用である。すなわち、第5の実施形態は、N枚の各々の画像の空間相関が異なる場合にも対応できる。
【0096】
次に、第5の実施形態のデータ処理装置の動作を、
図9のフローチャートを参照して説明する。
【0097】
コヒーレンス行列算出部120は、第4の実施形態の場合と同様に、SAR画像格納部に格納されているN枚のSAR画像を対象としてコヒーレンス行列Cpを算出する(ステップS110)。
【0098】
位相推定部190において、第1の評価関数構成要素生成部191は、観測信号に関する評価を行うための行列を生成する(ステップS112)。第5の実施形態では、第1の評価関数構成要素生成部191は、ステップS112の処理で、(8)式の右辺第2項の観測信号に関する評価を行うための行列を生成する。なお、(7),(8)式において、Cpの逆行列は、画素pにおけるコヒーレンス行列に基づく重みに相当する。また、空間相関行列Knの逆行列は、事前情報に基づく重みに相当する。
【0099】
【0100】
空間相関予測部140は、第4の実施形態の場合と同様に、SAR画像における解析対象領域に関する事前情報に基づいて、空間相関(この例では、空間相関行列Kn)を作成(算出)する(ステップS120)。
【0101】
位相推定部190において、第2の評価関数構成要素生成部192は、空間相関を評価するための行列を生成する(ステップS122)。第5の実施形態では、第2の評価関数構成要素生成部192は、ステップS122の処理で、空間相関行列Knを要素(対角成分)とするブロック対角行列を生成し、(8)式の右辺第1項の空間相関を評価するための行列を生成する。
【0102】
評価関数統合部193は、生成された行列に基づいて評価関数を作成する(ステップS135)。第5の実施形態でも、評価関数統合部193は、(6)によって評価関数を生成する。画素値推定部194は、上記の(6)を最小にするxを求める(ステップS136)。
【0103】
位相取得部195は、画像mにおける画素値と画像nにおける対応画素の画素値の複素共役との積を求め((4)参照)、求められた積に基づいて位相差を得る(ステップS137)。具体的には、位相取得部195は、積(複素数)の偏角を位相差として得る。
【0104】
第5の実施形態では、画素値xを算出した後に、画素値xに基づいて位相差を推定することによって、「矛盾のない位相」に関する制約が満たされる。具体的には、各画像に対してある位相値が割り当てられた後、再度位相差が計算されるので、制約が満たされることになる。
【0105】
実施形態6.
図10は、第6の実施形態のデータ処理装置の構成例を示すブロック図である。
図10に示すデータ処理装置50は、コヒーレンス行列算出部120、空間相関予測部140および位相推定部200を含む。位相推定部200は、第1の評価関数構成要素生成部201、第2の評価関数構成要素生成部202、評価関数統合部203、画素値推定部204、および位相取得部205を含む。
【0106】
なお、第6の実施形態でも、コヒーレンス行列算出部120がSAR画像格納部(図示せず)に格納されているSAR画像からコヒーレンス行列を算出する場合を例にする。しかし、コヒーレンス行列算出部120がSAR画像格納部に格納されているSAR画像からコヒーレンス行列を算出するのではなく、他の情報(データ)を用いてコヒーレンス行列を算出してもよい。
【0107】
位相推定部200において、第1の評価関数構成要素生成部201は、上記の(5)式の右辺第2項の観測信号に関する評価を行うための行列を生成する。第2の評価関数構成要素生成部202は、(5)式の右辺第1項の空間相関を評価するための行列を生成する。
【0108】
なお、第6の実施形態では、第4の実施形態の場合と同様に(5)式が用いられるが、第6の実施形態において、第5の実施形態の考え方を適用し、(8)式が用いられてもよい。
【0109】
評価関数統合部203は、観測信号に関する評価を行うための行列と空間相関を評価するための行列とを統合し、tr(ΛXH)を得る。「tr」は、トレース(行列の対角成分の総和)である。画素値推定部204は、所定の評価式の値を最小にするXを求める。位相取得部205は、Xに基づいて位相差を得る。
【0110】
Xは、下記の(9)に相当する行列である。ただし、(9)で計算される行列Xは必ずランクが1になるのに対して、本実施形態において、行列Xとして、後述するランクが少ない行列としてもよい。
【0111】
【0112】
次に、第6の実施形態のデータ処理装置の動作を、
図11のフローチャートを参照して説明する。
【0113】
コヒーレンス行列算出部120は、第4の実施形態等の場合と同様に、SAR画像格納部に格納されているN枚のSAR画像を対象としてコヒーレンス行列Cpを算出する(ステップS110)。
【0114】
位相推定部200において、第1の評価関数構成要素生成部201は、観測信号に関する評価を行うための行列を生成する(ステップS112)。第1の評価関数構成要素生成部201は、ステップS112の処理で、(5)式の右辺第2項の観測信号に関する評価を行うための行列を生成する。
【0115】
空間相関予測部140は、第4の実施形態等の場合と同様に、SAR画像における解析対象領域に関する事前情報に基づいて、空間相関(この例では、空間相関行列K)を作成(算出)する(ステップS120)。
【0116】
位相推定部200において、第2の評価関数構成要素生成部202は、空間相関を評価するための行列を生成する(ステップS122)。第2の評価関数構成要素生成部202は、ステップS122の処理で、(5)式の右辺第1項の空間相関を評価するための行列を生成する。
【0117】
評価関数統合部203は、生成した行列とを統合して、tr(ΛXH)を得る(ステップS138)。
【0118】
画素値推定部204は、tr(ΛXH)とrank(X)とを最小化するXを求める(ステップS139)。「rank」は、行列のランクである。なお、tr(ΛXH)とrank(X)とを最小化するXを求めることは、観測された画素の値に基づく位相とノイズ除去された位相差との相関、および、ノイズ除去後の画素間の相関を、コヒーレンス行列に基づく重み、および、事前情報に基づく重みの下で大きくすることに相当する。
【0119】
位相取得部205は、求められたXすなわち推定されたXと下記の(10)とを用いて得られる値に基づいて位相差を得る(ステップS140)。具体的には、位相取得部195は、得られた値(複素数)の偏角を位相差として得る。
【0120】
【0121】
上述したように、「矛盾のない位相」は、位相差を、他のどのような位相差の組み合わせから再計算しても、その値が一致することを意味するとされた。すなわち、どのような位相差の組み合わせから計算しても計算結果が一致することが、「矛盾のない位相」の制約とされた。第6の実施形態では、tr(ΛXH)とrank(X)とを最小化するようなXを推定することによって、結果として、「矛盾のない位相」の制約が緩和されている。
【0122】
実施形態7.
図12は、第7の実施形態のデータ処理装置の構成例を示すブロック図である。
図12に示すデータ処理装置60は、コヒーレンス行列算出部120、空間相関予測部140および位相推定部210を含む。位相推定部210は、第1の評価関数構成要素生成部211、第2の評価関数構成要素生成部212、評価関数統合部213、画素値推定部214、および位相取得部215を含む。
【0123】
なお、第7の実施形態でも、コヒーレンス行列算出部120がSAR画像格納部(図示せず)に格納されているSAR画像からコヒーレンス行列を算出する場合を例にする。しかし、コヒーレンス行列算出部120がSAR画像格納部に格納されているSAR画像からコヒーレンス行列を算出するのではなく、他の情報(データ)を用いてコヒーレンス行列を算出してもよい。
【0124】
第7の実施形態では、位相推定部210において、第1の評価関数構成要素生成部211は、(11)式の右辺第2項の観測信号に関する評価を行うための行列を生成する。第2の評価関数構成要素生成部212は、(11)式の右辺第1項の空間相関を評価するための行列を生成する。
【0125】
【0126】
第7の実施形態では、第2の評価関数構成要素生成部212は、(11)式の右辺第1項の空間相関を評価するための行列を生成するときに、まず、空間相関行列Kを、(12)式を用いて低次元分解する。このような近似として、例えばNystrom 近似と呼ばれる手法を用いてもよい。すなわち、Kの行数を最大値とする重複なしのランダムな整数列を生成し、その整数列に該当する列のベクトルのみを取り出して並べた行列をU、さらにUから整数列に該当する行のベクトルを取り出して並べた行列の逆行列をDとしてもよい。または、Kに対して特異値分解を行い、上位特異値の特異ベクトルを並べたものをU、上位特異値を対角成分に並べた対角行列をDとしてもよい。
【0127】
【0128】
(11)式および(12)式において、Dは、d×dの行列である(d<N)。Uは、N×dの行列(U=u1,u2,・・・,ud)である。
【0129】
評価関数統合部213は、生成された行列に基づいて評価関数を作成する。画素値推定部214は、評価関数の値を最小にするxを求める。位相取得部215は、xに基づいて位相差を得る。
【0130】
次に、第7の実施形態のデータ処理装置の動作を、
図13のフローチャートを参照して説明する。
【0131】
コヒーレンス行列算出部120は、第4の実施形態等の場合と同様に、SAR画像格納部に格納されているN枚のSAR画像を対象としてコヒーレンス行列Cpを算出する(ステップS110)。
【0132】
位相推定部210において、第1の評価関数構成要素生成部211は、観測信号に関する評価を行うための行列を生成する(ステップS112)。第7の実施形態では、第1の評価関数構成要素生成部211は、ステップS112の処理で、(11)式の右辺第2項の観測信号に関する評価を行うための行列を生成する。
【0133】
空間相関予測部140は、第4の実施形態等の場合と同様に、SAR画像における解析対象領域に関する事前情報に基づいて、空間相関(この例では、空間相関行列K)を作成(算出)する(ステップS120)。
【0134】
位相推定部210において、第2の評価関数構成要素生成部212は、空間相関行列Kを低次元分解した後、空間相関を評価するための行列を生成する(ステップS122)。第7の実施形態では、第2の評価関数構成要素生成部212は、ステップS122の処理で、(11)式の右辺第1項の空間相関を評価するための行列を生成する。
【0135】
評価関数統合部213は、生成された行列に基づいて評価関数を作成する(ステップS141)。第7の実施形態では、評価関数統合部213は、(13)によって評価関数を生成する。
【0136】
【0137】
画素値推定部214は、評価関数を最小化するxを求める(ステップS142)。
【0138】
位相取得部215は、求められたxすなわち推定されたxと上記の(4)とを用いて得られる値に基づいて位相差を得る(ステップS143)。具体的には、位相取得部215は、得られた値(複素数)の偏角を位相差として得る。
【0139】
第7の実施形態では、画素値xを算出した後に、画素値xに基づいて位相差を推定することによって、「矛盾のない位相」に関する制約が満たされる。具体的には、各画像に対してある位相値が割り当てられた後、再度位相差が計算されるので、制約が満たされることになる。
【0140】
また、第7の実施形態では、第2の評価関数構成要素生成部212が空間相関行列Kの次元数を少なくするので、特に演算量が多い空間相関行列に関する演算の演算量を減らすことができる。その結果、例えば、データ処理装置がコンピュータ(プロセッサ)で実現される場合に、処理に要する時間が短縮される。
【0141】
以下のような変形例も想定しうる。
【0142】
空間相関行列Kを、縦方向の相関と横方向の相関のクロネッカー積で定義する。空間相関行列Kをそのように定義した場合には、空間相関行列Kの低次元分解をx方向とy方向の低次元分解の組み合わせで効率的に算出できるようになる。
【0143】
空間相関行列Kをガウス関数等の解析的なフーリエ変換が分かっている関数で定義する。相関行列Kをそのように定義した場合には、相関行列Kの低次元分解を実行するときに、帯域に関する事前知識を活用して圧縮する次元数を決めることによって、次元削減後の位相差の精度を保証できる。
【0144】
空間相関行列Kを巡回するような形で定義する。空間相関行列Kをそのように定義した場合には、FFT(Fast Fourier Transform)による効率的な計算で空間相関行列Kを算出できるようになる。なお、「巡回するような形」は、画像の最上と最下とが接続されるような形を意味する。
【0145】
上記の各実施形態における各構成要素は、1つのハードウェアで構成可能であるが、1つのソフトウェアでも構成可能である。また、各構成要素は、複数のハードウェアでも構成可能であり、複数のソフトウェアでも構成可能である。また、各構成要素のうちの一部をハードウェアで構成し、他部をソフトウェアで構成することもできる。
【0146】
上記の実施形態における各機能(各処理)を、CPU(Central Processing Unit )等のプロセッサやメモリ等を有するコンピュータで実現可能である。例えば、記憶装置(記憶媒体)に上記の実施形態における方法(処理)を実施するためのプログラムを格納し、各機能を、記憶装置に格納されたプログラムをCPUで実行することによって実現してもよい。
【0147】
図14は、CPUを有するコンピュータの一例を示すブロック図である。コンピュータは、データ処理装置に実装される。CPU1000は、記憶装置1001に格納されたプログラム(ソフトウェア要素:コード)に従って処理を実行することによって、上記の実施形態における各機能を実現する。すなわち、
図1,
図4,
図6,
図8,
図10,
図12に示されたデータ処理装置における、コヒーレンス行列算出部120、空間相関予測部140、位相推定部160,170,180,190,200,210の機能を実現する。
【0148】
記憶装置1001は、例えば、非一時的なコンピュータ可読媒体(non-transitory computer readable medium )である。非一時的なコンピュータ可読媒体は、様々なタイプの実体のある記録媒体(tangible storage medium )を含む。非一時的なコンピュータ可読媒体の具体例として、磁気記録媒体(例えば、ハードディスク)、光磁気記録媒体(例えば、光磁気ディスク)、CD-ROM(Compact Disc-Read Only Memory )、CD-R(Compact Disc-Recordable )、CD-R/W(Compact Disc-ReWritable )、半導体メモリ(例えば、マスクROM、PROM(Programmable ROM)、EPROM(Erasable PROM )、フラッシュROM)がある。また、記憶装置1001は、SAR画像格納部としても使用可能である。
【0149】
また、プログラムは、様々なタイプの一時的なコンピュータ可読媒体(transitory computer readable medium )に格納されてもよい。一時的なコンピュータ可読媒体には、例えば、有線通信路または無線通信路を介して、すなわち、電気信号、光信号または電磁波を介して、プログラムが供給される。
【0150】
メモリ1002は、例えばRAM(Random Access Memory)で実現され、CPU1000が処理を実行するときに一時的にデータを格納する記憶手段である。メモリ1002に、記憶装置1001または一時的なコンピュータ可読媒体が保持するプログラムが転送され、CPU1000がメモリ1002内のプログラムに基づいて処理を実行するような形態も想定しうる。
【0151】
図15は、データ処理装置の主要部を示すブロック図である。
図15に示すデータ処理装置1は、複数の複素画像の同じ位置にあたる画素の相関を表すコヒーレンス行列を算出するコヒーレンス行列算出部(コヒーレンス行列算出手段)2(実施形態では、コヒーレンス行列算出部120で実現される)と、複数の複素画像の各々における画素の相関である空間相関に関する事前情報を表すデータを生成する空間相関生成部(空間相関生成手段)3(実施形態では、空間相関予測部140で実現される。)と、コヒーレンス行列に関する画素の相関と空間相関とを統合し、統合された相関に基づいて、統計的に尤もらしく、かつ、矛盾のない位相差を、ノイズ除去された位相差として算出する位相差推定部(位相差推定手段)4(実施形態では、位相推定部160,170,180,190,200,210で実現される)とを備えている。
【0152】
図16は、他の態様のデータ処理装置の主要部を示すブロック図である。
図16に示すデータ処理装置1において、位相差推定部4は、観測された画素の値に基づく位相とノイズ除去された位相差との相関、および、ノイズ除去後の画素間の相関を、前記コヒーレンス行列に基づく重み、および、前記事前情報に基づく重みの下で大きくする演算部(演算手段)41(実施形態では、位相算出部173、画素値推定部184,194,204,214で実現される。)と、演算部41の演算結果から位相差を算出する位相差算出部(位相差算出手段)42(実施形態では、位相算出部173、位相取得部185,195,205,215で実現される。)とを含む。
【0153】
上記の実施形態の一部または全部は、以下の付記のようにも記載され得るが、以下に限定されるわけではない。
【0154】
(付記1)複数の複素画像の同じ位置にあたる画素の相関を表すコヒーレンス行列を算出するコヒーレンス行列算出手段と、
複数の複素画像の各々における画素の相関である空間相関に関する事前情報を表すデータを生成する空間相関生成手段と、
前記コヒーレンス行列に関する画素の相関と前記空間相関とを統合し、統合された相関に基づいて、統計的に尤もらしく、かつ、矛盾のない位相差を、ノイズ除去された位相差として算出する位相差推定手段と
を備えたデータ処理装置。
【0155】
(付記2)前記矛盾のない位相差は、位相差を任意の位相差の組み合わせから計算したときに、いずれの計算結果も一致することになる位相差である
付記1のデータ処理装置。
【0156】
(付記3)前記位相差推定手段は、観測された画素の値に基づく位相とノイズ除去された位相差との相関、および、ノイズ除去後の画素間の相関を、前記コヒーレンス行列に基づく重み、および、前記事前情報に基づく重みの下で大きくする演算手段と、
前記演算手段の演算結果から位相差を算出する位相差算出手段と
を含む
付記1または付記2のデータ処理装置。
【0157】
(付記4)前記位相差推定手段は、前記統合された相関を表す評価関数を生成し、
前記演算手段は、前記演算結果として、前記評価関数を最大にする画素値をノイズ除去された画素値として求め、
前記位相差算出手段は、前記画素値から位相差を算出する
付記3のデータ処理装置。
【0158】
(付記5)前記空間相関生成手段は、前記事前情報を表すデータとして空間相関行列を生成する
付記1から付記4のいずれかのデータ処理装置。
【0159】
(付記6)前記位相差推定手段は、前記空間相関行列を低次元分解する手段を含む
付記5のデータ処理装置。
【0160】
(付記7)ソフトウェア要素(コード)を格納するメモリと、
前記メモリに格納されているソフトウェア要素に従って、前記コヒーレンス行列算出手段、前記空間相関生成手段、および前記位相差推定手段の機能を実現するプロセッサとを備えた
付記1から付記6のいずれかのデータ処理装置。
【0161】
(付記8)複数の複素画像の同じ位置にあたる画素の相関を表すコヒーレンス行列を算出し、
複数の複素画像の各々における画素の相関である空間相関に関する事前情報を表すデータを生成し、
前記コヒーレンス行列に関する画素の相関と前記空間相関とを統合し、統合された相関に基づいて、統計的に尤もらしく、かつ、矛盾のない位相差を、ノイズ除去された位相差として算出する
データ処理方法。
【0162】
(付記9)前記矛盾のない位相差は、位相差を任意の位相差の組み合わせから計算したときに、いずれの計算結果も一致することになる位相差である
付記8のデータ処理方法。
【0163】
(付記10)観測された画素の値に基づく位相とノイズ除去された位相差との相関、および、ノイズ除去後の画素間の相関を、前記コヒーレンス行列に基づく重み、および、前記事前情報に基づく重みの下で大きくする演算を行い、
演算結果から位相差を算出する
付記8または付記9のデータ処理方法。
【0164】
(付記11)前記統合された相関を表す評価関数を生成し、
前記演算結果として、前記評価関数を最大にする画素値をノイズ除去された画素値として求め、
前記画素値から位相差を算出する
付記10のデータ処理方法。
【0165】
(付記12)プロセッサで実現される
付記8から付記11のいずれかのデータ処理方法。
【0166】
(付記13)コンピュータに、
複数の複素画像の同じ位置にあたる画素の相関を表すコヒーレンス行列を算出する処理と、
複数の複素画像の各々における画素の相関である空間相関に関する事前情報を表すデータを生成する処理と、
前記コヒーレンス行列に関する画素の相関と前記空間相関とを統合し、統合された相関に基づいて、統計的に尤もらしく、かつ、矛盾のない位相差を、ノイズ除去された位相差として算出する処理と
を実行させるためのデータ処理プログラム。
【0167】
(付記14)コンピュータに、
観測された画素の値に基づく位相とノイズ除去された位相差との相関、および、ノイズ除去後の画素間の相関を、前記コヒーレンス行列に基づく重み、および、前記事前情報に基づく重みの下で大きくする演算と、
演算結果から位相差を算出する処理と
を実行させる付記13のデータ処理プログラム。
【0168】
(付記15)コンピュータに、
前記統合された相関を表す評価関数を生成する処理と、
前記演算結果として、前記評価関数を最大にする画素値をノイズ除去された画素値として求める処理と、
前記画素値から位相差を算出する処理と
を実行させる付記14のデータ処理プログラム。
【0169】
(付記16)データ処理プログラムが格納されたコンピュータ読み取り可能な記録媒体であって、
前記データ処理プログラムは、コンピュータに、
複数の複素画像の同じ位置にあたる画素の相関を表すコヒーレンス行列を算出する処理と、
複数の複素画像の各々における画素の相関である空間相関に関する事前情報を表すデータを生成する処理と、
前記コヒーレンス行列に関する画素の相関と前記空間相関とを統合し、統合された相関に基づいて、統計的に尤もらしく、かつ、矛盾のない位相差を、ノイズ除去された位相差として算出する処理と
を実行させる記録媒体。
【0170】
(付記17)前記データ処理プログラムは、コンピュータに、
観測された画素の値に基づく位相とノイズ除去された位相差との相関、および、ノイズ除去後の画素間の相関を、前記コヒーレンス行列に基づく重み、および、前記事前情報に基づく重みの下で大きくする演算と、
演算結果から位相差を算出する処理と
を実行させる付記16の記録媒体。
【0171】
(付記18)前記データ処理プログラムは、コンピュータに、
前記統合された相関を表す評価関数を生成する処理と、
前記演算結果として、前記評価関数を最大にする画素値をノイズ除去された画素値として求める処理と、
前記画素値から位相差を算出する処理と
を実行させる付記17の記録媒体。
【0172】
以上、実施形態を参照して本願発明を説明したが、本願発明は上記の実施形態に限定されるものではない。本願発明の構成や詳細には、本願発明のスコープ内で当業者が理解し得る様々な変更をすることができる。
【符号の説明】
【0173】
1 データ処理装置
2 コヒーレンス行列算出部
3 空間相関生成部
4 位相差推定部
10,20,30,40,50,60 データ処理装置
41 演算部
42 位相差算出部
120 コヒーレンス行列算出部
140 空間相関予測部
160,170,180,190,200,210 位相推定部
171,181 第1の評価関数生成部
191,201,211 第1の評価関数構成要素生成部
172,182 第2の評価関数生成部
192,202,212 第2の評価関数構成要素生成部
173 位相算出部
183,193,203,213 評価関数統合部
184,194,204,214 画素値推定部
185,195,205,215 位相取得部
1000 CPU
1001 記憶装置
1002 メモリ