(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-04
(45)【発行日】2023-12-12
(54)【発明の名称】偏波変動推定装置及び偏波変動推定方法
(51)【国際特許分類】
H04B 10/079 20130101AFI20231205BHJP
H04B 10/61 20130101ALI20231205BHJP
H04J 14/06 20060101ALI20231205BHJP
G06N 20/00 20190101ALI20231205BHJP
【FI】
H04B10/079 150
H04B10/61
H04J14/06
G06N20/00 130
(21)【出願番号】P 2022514338
(86)(22)【出願日】2021-03-04
(86)【国際出願番号】 JP2021008398
(87)【国際公開番号】W WO2021205786
(87)【国際公開日】2021-10-14
【審査請求日】2022-10-03
(31)【優先権主張番号】P 2020069132
(32)【優先日】2020-04-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004237
【氏名又は名称】日本電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109313
【氏名又は名称】机 昌彦
(74)【代理人】
【識別番号】100149618
【氏名又は名称】北嶋 啓至
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 正規
【審査官】赤穂 美香
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2010/026894(WO,A1)
【文献】特開2009-218646(JP,A)
【文献】特開2000-48269(JP,A)
【文献】特開2016-152556(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 10/079
H04B 10/61
H04J 14/06
G06N 20/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力された偏波多重光信号から単一偏波の光信号を生成する偏波分離手段と、
生成された前記光信号を電気信号に変換する光電変換手段と、
前記電気信号に応じて、前記偏波多重光信号の偏波変動速度の推定を行う推定手段と、
を備える偏波変動推定装置。
【請求項2】
前記推定手段に入力されるアナログ信号をデジタル信号に変換するアナログデジタル変換手段をさらに備える、請求項1に記載された偏波変動推定装置。
【請求項3】
前記偏波分離手段で生成された前記光信号とローカル光とのビート光信号を出力する光混合手段を備え、
前記光電変換手段は、前記ビート光信号を前記電気信号に変換する、
請求項1又は2に記載された偏波変動推定装置。
【請求項4】
前記電気信号を増幅する増幅手段をさらに備え、
前記推定手段は、前記増幅された電気信号の振幅に応じて前記推定を行う、
請求項1乃至3のいずれか1項に記載された偏波変動推定装置。
【請求項5】
前記増幅手段の利得は、前記増幅された電気信号の振幅が一定となるように制御され、
前記推定手段は、前記利得に応じて前記推定を実施する、
請求項4に記載された偏波変動推定装置。
【請求項6】
前記推定手段は、前記電気信号の振幅に基づく周波数スペクトルに応じて前記推定を行う、請求項4又は5に記載された偏波変動推定装置。
【請求項7】
前記推定手段は、前記偏波多重光信号に対応する前記電気信号を、既知の偏波変動速度に対応する前記電気信号の機械学習によって作成されたモデルに適用することで前記推定を実施する、請求項1乃至6のいずれか1項に記載された偏波変動推定装置。
【請求項8】
前記推定手段は、前記推定の結果に応じて、前記偏波多重光信号が伝搬した光伝送路の正常性を判断する、請求項1乃至7のいずれか1項に記載された偏波変動推定装置。
【請求項9】
前記推定手段は、前記偏波多重光信号に対応する前記電気信号を、既知の光伝送路の正常状態及び異常状態に対応する前記電気信号の機械学習によって作成されたモデルに適用することで前記光伝送路の異常を推定する、請求項1乃至8のいずれか1項に記載された偏波変動推定装置。
【請求項10】
入力された偏波多重光信号から単一偏波の光信号を生成し、
前記単一偏波の光信号を電気信号に変換し、
前記電気信号に応じて、前記偏波多重光信号の偏波変動速度の推定を行う、
偏波変動推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は偏波変動推定装置及び偏波変動推定方法に関し、特に、光伝送システムにおける偏波の変動速度を推定するための装置、方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年の伝送速度が100Gbps(Giga bit per second)を超える大容量基幹系光伝送システムでは、偏波多重デジタルコヒーレント方式が用いられる。偏波多重デジタルコヒーレント方式では、光送信機はQPSK(Quadrature Phase Shift Keying)やQAM(Quadrature Amplitude Modulation)等で変調された2つの光信号を偏波多重して、偏波多重光信号を生成する。光受信機では、受信した偏波多重光信号をコヒーレントレシーバが検波することにより、偏波多重光信号が電気信号であるアナログ信号に変換される。コヒーレントレシーバの後段に位置するアナログデジタル変換器(Analog to Digital Converter、以下「ADC」という。)は、アナログ信号をデジタル信号に変換する。デジタル信号に変換された受信信号は、デジタル信号処理により復調される。
【0003】
偏波多重デジタルコヒーレント方式の光受信機は、偏波多重光信号を、コヒーレントレシーバとデジタル信号処理との組み合わせによって各偏波の信号へ分離する。ここで、光伝送路が偏波多重光信号に与える偏波状態の変動は、デジタル信号処理による偏波分離性能に大きく影響する。従って、伝送路を伝搬した偏波多重光信号の偏波変動速度を正確に推定できることが、光伝送システムの性能確保や故障検知の上では好ましい。
【0004】
本発明に関連して、特許文献1は、コヒーレント方式の光受信機における光信号のパワーモニタに関して記載している。また、特許文献2は、偏波多重された光信号の偏波状態の推定に関して記載している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2019-071679号公報
【文献】特開2018-174413号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般的な偏波多重デジタルコヒーレント方式では、偏波ビームスプリッタ(Polarization Beam Splitter、以下「PBS」という。)によって偏波多重された光信号の光学的な偏波分離が行われ、その後、デジタル信号処理によって精密な偏波分離が行われる。特許文献2は、有限インパルス応答(Finite Impulse Response、以下「FIR」という。)フィルタを用いた適応等化器を用いて精密な偏波分離を行う一般的なデジタル信号処理の手順について記載している。具体的には、特許文献2は、偏波多重された光信号の偏波状態を、適応等化器のフィルタ係数から推定する手法を提案している。しかし、特許文献2に記載された手順には、以下の課題がある。
【0007】
第1の課題は、受信信号の品質が低く受信信号を復調できない場合は、特許文献2に記載された手順は偏波変動速度を算出できないことである。なぜならば、特許文献2に記載された手順は、適応等化器による受信信号の復調が可能であることを前提とするからである。また、特許文献2に記載された手順は、受信信号の変調方式やシンボルレートが既知でない場合も受信信号を復調できないため、このような場合も偏波変動速度を算出できない。
【0008】
第2の課題は、特許文献2に記載された手順の性能が適応等化器の偏波追従性能に依存することである。例えば、光信号の偏波変動速度が適応等化器を用いて復調可能な速度を超える場合には、特許文献2に記載された手順ではFIRフィルタのタップ係数を適切に設定することができない。このような場合には特許文献2の手順は適用できないため、偏波変動速度を推定できない。
【0009】
このように、特許文献2に記載された偏波変動速度の測定手順には、受信信号の品質の影響や適応等化器の偏波変動への追従能力の制限によって、常に高い精度で偏波変動速度を推定することが困難であるという課題がある。また、特許文献1は、このような課題を解決するための手段を開示していない。
(発明の目的)
本発明は、受信信号の品質に依存せず高い精度で偏波変動速度を推定するための技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の偏波変動推定装置は、入力された偏波多重光信号から単一偏波の光信号を生成する偏波分離手段と、生成された前記光信号を電気信号に変換する光電変換手段と、前記電気信号に応じて、前記偏波多重光信号の偏波変動速度の推定を行う推定手段と、を備える。
【0011】
本発明の偏波変動推定方法は、入力された偏波多重光信号から単一偏波の光信号を生成し、生成された前記光信号を電気信号に変換し、前記電気信号に応じて、前記偏波多重光信号の偏波変動速度の推定を行う、手順を含む。
【0012】
本発明の偏波変動推定装置のプログラムは、入力された偏波多重光信号から生成された単一偏波の光信号から変換された電気信号に応じて、前記偏波多重光信号の偏波変動速度の推定を行う手順を実行させる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の偏波変動推定装置、偏波変動推定方法及び偏波変動推定装置のプログラムは、受信信号の品質に依存せず高い精度で偏波変動速度を推定することを可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】光伝送システム1の構成例を示すブロック図である。
【
図2】偏波変動推定部200の構成例を示すブロック図である。
【
図3】光ミキサ220の構成例を示すブロック図である。
【
図4】第2の実施形態の偏波変動推定部201の構成例を示すブロック図である。
【
図5】増幅器240の構成例を示すブロック図である。
【
図6】モニタ信号の波形を時間領域から周波数領域に変換する例を示す図である。
【
図7】第4の実施形態の偏波変動推定部202の構成例を示すブロック図である。
【
図8】機械学習における学習フェーズを説明する図である。
【
図9】機械学習における運用フェーズを説明する図である。
【
図10】第6の実施形態の光受信機21の構成例を示す図である。
【
図11】MIMO等化器281の構成例を示す図である。
【
図12】第7の実施形態の光伝送システム2の構成例を示すブロック図である。
【
図13】中継局40の構成例を示すブロック図である。
【
図14】モニタ回路403Aの構成例を示すブロック図である。
【
図15】モニタ回路403Bの構成例を示すブロック図である。
【
図16】モニタ回路403Cの構成例を示すブロック図である。
【
図17】中継局40Aの構成例を示すブロック図である。
【
図18】第7の実施形態の変形例の光伝送システム3の構成例を示すブロック図である。
【
図19】第8の実施形態の偏波変動推定装置500の構成例を示すブロック図である。
【
図20】偏波変動推定装置500の動作例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の実施形態について図面を参照して以下に説明する。図中に示された矢印は信号の向きあるいは処理の順序を例示するものであり、これらの限定を意図しない。実施形態及び図面では既出の要素には同一の参照符号を付して、重複する説明は省略する。
【0016】
(第1の実施形態)
図1は、本発明の光伝送システム1の構成例を示すブロック図である。光伝送システム1は、光送信機10、光受信機20及び光伝送路30を備える。光送信機10は、入力された伝送データをX偏波、Y偏波それぞれの同相(Inphase、以下「I」という。)成分、直交(Quadrature、以下「Q」という。)成分に変換し、XI、XQ、YI、YQそれぞれの電気信号を用いて光変調器を駆動する。さらに、光送信機10は、変調された光信号を偏波合成することで、偏波多重光信号を生成する。変調方式は、光搬送波に対する位相変調又は強度変調である。生成された偏波多重光信号は光伝送路30に送出される。
【0017】
光伝送路30は光ファイバであり、光受信機20は光伝送路30を伝搬した偏波多重光信号を受信する。光受信機20は偏波変動推定部200及び、アナログデジタル変換器(ADC)270、復調部280を備える。ADC270は、偏波変動推定部200に含まれていてもよい。
【0018】
図2は、偏波変動推定部200の構成例を示すブロック図である。偏波変動推定部200は、偏波分離・信号変換部800、モニタ信号取得部250及び推定演算部260を備える。偏波分離・信号変換部800は光フロントエンド810及び増幅器240を備える。光フロントエンド810は、光伝送路30から受信した偏波多重光信号をコヒーレント検波して電気信号に変換する。増幅器240は、光フロントエンド810が生成した電気信号を増幅して出力する。
【0019】
光フロントエンド810は、局部発振器(Local Oscillator、以下「LO」という。)210、光ミキサ220及び光電変換器230を備える。LO210は例えば半導体レーザであり、受信された光信号と同一又は近接した波長の光である局部発振光(以下、「LO光」という。)を生成する。
【0020】
図3は、光ミキサ220の構成例を示すブロック図である。光ミキサ220は、PBS221及び90度光ハイブリッド回路222を備える。PBS221は、偏波多重光信号を偏波面が直交する2つの光信号に分離する。直交するそれぞれの偏波はX偏波、Y偏波と呼ばれる。分離された2つの光信号は、90度光ハイブリッド回路222においてLO光と混合される。90度光ハイブリッド回路222は、X偏波の光信号とLO光とのビート光信号、及び、Y偏波の光信号とLO光とのビート光信号を出力する。本実施形態では、90度光ハイブリッド回路222は、XI信号、YI信号、XQ信号、YQ信号を出力する。XI信号は、X偏波の光信号に含まれる同相信号である。XQ信号は、X偏波の光信号に含まれる、位相がI信号と直交する直交信号である。YI信号は、Y偏波の光信号に含まれる同相信号である。YQ信号は、Y偏波の光信号に含まれる直交信号である。偏波多重光信号の偏波を分離する手順及び90度光ハイブリッド回路がXI信号、XQ信号、YI信号及びYQ信号を生成する手順はよく知られているため、詳細な説明は省略する。
【0021】
光電変換器230、増幅器240及びADC270は、XI信号、XQ信号、YI信号及びYQ信号のそれぞれについて独立に動作する。光電変換器230は、90度光ハイブリッド回路220から出力されたビート光信号を、アナログ電気信号(以下、「アナログ信号」という。)に変換する。光電変換器230は、例えばフォトダイオードである。光電変換器230から出力された4つのアナログ信号の振幅は、それぞれ、XI信号、XQ信号、YI信号及びYQ信号の振幅に比例する。アナログ信号は、増幅器240へ出力される。
【0022】
増幅器240は、光電変換器230から入力されたXI信号、XQ信号、YI信号及びYQ信号に対応するそれぞれのアナログ信号を増幅して、ADC270へ出力する。ADC270はアナログデジタル変換器であり、増幅器240で増幅されたアナログ信号をデジタル信号に変換する。デジタル信号は、後段の復調部280に入力される。
【0023】
上述のように、偏波変動推定部200は、ADC270をさらに含んでもよい。また、偏波変動推定部200は、LO210を含まなくともよい。偏波変動推定部200は、偏波変動推定装置の一形態である。
【0024】
光伝送路30に加わる外的な圧力や光伝送路30の周囲温度の変動等の原因により、偏波多重光信号の偏波面は回転する。このため、光送信機10において偏波多重された際の偏波多重光信号の偏波面は、光ミキサ220においてコヒーレント検波される際のX偏波及びY偏波の偏波面と必ずしも一致しない。その結果、光ミキサ220から出力されるXI信号及びXQ信号にはY偏波の成分が混在し、YI信号及びYQ信号にはX偏波の成分が混在する。復調部280は、混在している偏波の成分をデジタル信号処理により分離する。復調部280は、CPU(Central Processing Unit)やDSP(Digital Signal Processor)を用いたデジタル信号処理により、XI信号、XQ信号、YI信号及びYQ信号に含まれる混在した偏波成分を分離し、伝送されたデータを復調する。
【0025】
一方、XI信号、XQ信号、YI信号及びYQ信号の振幅を示すアナログ信号は、光電変換器230の出力から分岐されてモニタ信号取得部250へ入力される。モニタ信号取得部250へ入力される信号を、以下では「モニタ信号」と呼ぶ。モニタ信号取得部250はアナログデジタル変換器を含む電気回路であり、入力されたモニタ信号の振幅をデジタル信号に変換して推定演算部260へ出力する。推定演算部260はCPU又はDSPを備える電気回路であり、モニタ信号取得部250から入力されたデジタル信号に応じて、偏波多重光信号の偏波変動速度を推定し、推定された偏波変動速度を出力する。
【0026】
光送信機10、光受信機20及び光伝送路30で用いられるデバイスや光ファイバには、光学的特性の偏波依存性や電気デバイスの個体ばらつきに起因する特性変動が、偏波依存損失(Polarization Dependent Loss、以下、「PDL」という。)として現れる。PDLは偏波多重光信号に偏波間のレベル差を生じさせる。PDLが存在しない場合には、光ミキサ220から出力される各信号の出力レベルは偏波の変動による影響を受けない。しかし、PDLが存在する場合には、光信号の偏波に応じて光信号に含まれる偏波成分の割合が変化する。その結果、偏波多重光信号の伝搬中の偏波変動に応じて光ミキサ220の出力信号に混在する偏波成分が変動する。すなわち、光ミキサ220から出力されるXI信号、XQ信号、YI信号及びYQ信号の振幅は、いずれも、偏波変動に追従して変動する。従って、光ミキサ220から出力されるXI信号、XQ信号、YI信号及びYQ信号の少なくとも1つの振幅の変動(すなわち時間的な波形)を監視することにより、伝搬中の偏波変動速度を推定することができる。偏波変動速度の推定結果は復調部280に入力され、偏波多重光信号の精密な偏波分離処理に用いられる。具体的な偏波分離処理の例は後の実施形態で説明する。
【0027】
本実施形態の偏波変動推定部200は、光信号の種類や状態に依存することなく、光信号の偏波変動速度を高い精度で推定できる。その第1の理由は、光電変換器230から取得されるモニタ信号は光信号の強度変動に応じた信号であるため、光信号の変調方式、品質、あるいは光信号の復調の可否に関わらず偏波変動速度を推定できるからである。また、第2の理由は、光伝送路の起こりうる偏波変動速度に対して、光電変換器230の応答は充分に高速であり、偏波変動速度の推定は光電変換器230の応答速度の影響を受けないからである。
【0028】
なお、偏波変動推定部200は、XI信号、XQ信号、YI信号及びYQ信号のいずれか1つの振幅のみに基づいて偏波変動速度を推定してもよい。この場合、偏波変動推定部200の回路規模や計算量を低減できる。また、偏波変動推定部200は、XI信号、XQ信号、YI信号及びYQ信号の2つ以上の振幅に基づいて偏波変動を推定してもよい。推定の演算に用いる複数の振幅に平均化等の統計処理を行うことによって、雑音の影響を低減できる。何個の振幅を用いるかは、回路規模及び計算時間と、求められる推定の精度とに応じて決定してもよい。
【0029】
また、光電変換器230の出力がモニタ信号取得部250に入力される場合は、増幅器240は偏波変動推定部200の外部に配置されてもよい。さらに、増幅器240が利得一定となるように制御される場合は、増幅器240の出力をモニタ信号としてもよい。
【0030】
(第2の実施形態)
図4は、第2の実施形態の偏波変動推定部201の構成例を示すブロック図である。偏波変動推定部201は、第1の実施形態の偏波変動推定部200に代えて用いられる。偏波変動推定部201が備える増幅器240は4個の増幅回路241を含む。増幅回路241は、それぞれ、XI信号、XQ信号、YI信号及びYQ信号を増幅する。偏波変動推定部201が備える推定演算部260は、増幅回路241の利得に応じて偏波多重光信号の偏波変動速度を推定する。
【0031】
図5は、
図4に示した増幅器240の構成例を示すブロック図である。増幅器240に含まれる4個の増幅回路241の構成は同一である。増幅回路241は可変利得増幅回路242及び利得制御回路243を備える。利得制御回路243は、可変利得増幅回路242で増幅された信号の振幅に応じて可変利得増幅回路242の利得を調整する。本実施形態では、利得制御回路243は、可変利得増幅回路242の出力の振幅A1が一定となる制御を行う(Automatic Level Control、以下「ALC」という)。具体的には、利得制御回路243は、可変利得増幅回路242から出力される信号の振幅が一定値A1となるように、可変利得増幅回路242の利得Gを制御する。振幅A1は、ADC270への入力レベルが好適な範囲となるように定められてもよい。利得制御回路243は、可変利得増幅回路242の出力信号の振幅A1となる利得Gを示す信号を可変利得増幅回路242へ出力する。ここで、光電変換器230から可変利得増幅回路242に入力される信号の振幅をA0、可変利得増幅回路242の利得をG、可変利得増幅回路242から出力される信号の振幅をA1とすると、A0×G=A1である。
【0032】
偏波変動推定部201は、第1の実施形態の偏波変動推定部200と比較して、増幅回路241の利得を示す信号がモニタ信号として用いられる点が相違する。すなわち、XI信号、XQ信号、YI信号及びYQ信号の可変利得増幅回路242におけるそれぞれの利得Gを示す信号が、モニタ信号として、対応する利得制御回路243の出力から分岐されてモニタ信号取得部250へ入力される。モニタ信号取得部250はアナログデジタル変換器を含む電気回路であり、入力されたモニタ信号がアナログ信号である場合には、当該アナログ信号に含まれる利得Gをデジタル信号に変換して推定演算部260へ出力する。モニタ信号の振幅が利得Gと対応する場合には、モニタ信号取得部250は、モニタ信号の振幅をデジタル信号に変換する。
【0033】
可変利得増幅回路242の出力信号の振幅はA1である。従って、可変利得増幅回路242がALCで動作する場合は、光電変換器230から出力されるXI信号、XQ信号、YI信号及びYQ信号のそれぞれの振幅A0は、A1/Gとして容易に求められる。第1の実施形態では光電変換器230の出力をモニタ信号として用いることで偏波変動速度を推定した。しかし、本実施形態のように利得Gをモニタ信号として用いても、推定演算部260は、容易な換算により第1の実施形態と同様の手順で偏波変動速度を推定できる。
【0034】
また、光ファイバ伝送路における偏波多重光信号の偏波変動速度は一般的に数百kHz以下であり、可変利得増幅回路242及び利得制御回路243のフィードバックループの応答速度は数MHzである。従って、モニタ信号に含まれる利得Gの時間的な変動は偏波多重光信号の偏波変動に追従できる。その結果、推定演算部260は、モニタ信号取得部250から出力されたデジタル信号に基づいて、モニタ信号から得られる偏波多重光信号の偏波回転速度を推定できる。
【0035】
以上説明したように、本実施形態の偏波変動推定部201は、可変利得増幅回路242の利得Gを示す信号をモニタ信号として用いる。4個の増幅回路241がいずれもALCで動作する場合は、光電変換器230の4個の出力信号に代えて利得Gを示す4個の信号をモニタ信号として用いることができる。また、利得制御回路243が可変利得増幅回路242に通知する利得を外部へ出力する端子を備える場合には、その端子を使用して容易にモニタ信号をモニタ信号取得部250へ出力できる。
【0036】
さらに、本実施形態の偏波変動推定部201は、光信号の種類や状態に依存することなく、光信号の偏波変動速度を推定できる。その第1の理由は、増幅器240から取得するモニタ信号は光信号の強度変動に対応する利得Gを示す信号であるため、光信号の変調方式や品質に依存せずに偏波変動速度を推定できるからである。その第2の理由は、光伝送路において起こりうる偏波変動速度に対して、光電変換器230の応答及び増幅器240の応答は充分に高速であり、偏波変動速度の推定は光電変換器230及び増幅器240の応答速度の影響を受けないからである。
【0037】
(第3の実施形態)
第1及び第2の実施形態において、モニタ信号の振幅の時間的な変動の波形を時間領域から周波数領域に変換すると、光伝送路30における偏波多重光信号の偏波変動を含む周波数応答が得られる。
図6は、モニタ信号の波形を時間領域から周波数領域に変換する例を示す図である。
図6の縦軸は振幅、横軸は時間又は周波数を示す。具体的には、推定演算部260は、モニタ信号の振幅の時間的な変動(
図6の左側の波形例)をデジタル演算によってフーリエ変換し、得られた周波数スペクトル(
図6の右側の波形例)に基づいて、偏波変動速度を推定してもよい。なお、
図6の波形は時間領域から周波数領域への変換の概念を示すためのものであり、実際の波形を示すものではない。
【0038】
光フロントエンド810が備える光電変換器230から出力されるアナログ信号の振幅の変動速度及びALC制御された可変利得増幅回路242の利得Gの変動速度は、いずれも、偏波分離された光信号の強度がPDLによって変動する速度を含む。このため、モニタ信号の振幅の変動を周波数領域で解析することによってモニタ信号の変動速度の解析が容易になり、より短時間で光信号の偏波変動速度を推定できる。
【0039】
(第3の実施形態の変形例)
また、推定演算部260は、モニタ信号の周波数スペクトルに平滑化を行ってもよい。周波数スペクトルの平滑化は、例えば、モニタ信号の周波数スペクトルを算出する際のバンドパスフィルタの帯域幅(resolution)の拡大によって行われてもよい。また、算出された周波数スペクトルに対して、時間的な統計処理(平均化等)を行ってもよい。これらの処理により、推定された偏波変動速度に含まれる雑音の影響を低減し、精度を向上させることができる。
【0040】
あるいは、推定演算部260は、モニタ信号に対して時間領域で平滑化を行ってもよい。例えば、推定演算部260は、フーリエ変換する前のモニタ信号を、バンドパスフィルタやローパスフィルタを通過させてもよい。
【0041】
(第4の実施形態)
本実施形態では偏波変動速度の推定に機械学習を適用した例を説明する。
図7は、本実施形態の偏波変動推定部202の構成例を示すブロック図である。偏波変動推定部202は、既述の偏波変動推定部201と比較して、モニタ信号記憶部251を備えるとともに、推定演算部260に代えて推定演算部261を備える。偏波変動推定部202の外部には測定装置600が配置される。測定装置600は、光伝送路30の偏波変動速度の実測値を出力可能な、一般的な測定器である。
【0042】
モニタ信号記憶部251は、モニタ信号取得部250が生成する、デジタル信号化されたモニタ信号を記憶する。特に、記憶されるモニタ信号に対応する偏波多重光信号の偏波変動速度が既知である場合に、モニタ信号記憶部251は、当該既知の偏波変動速度とその偏波変動速度に対応するモニタ信号とを対応付けて記憶する。測定装置600は、偏波変動速度の実測値を既知の偏波変動速度としてモニタ信号記憶部251に通知する。モニタ信号記憶部251は、測定装置600から通知された既知の偏波変動速度を、モニタ信号取得部250から入力されたモニタ信号と対応付けて記憶する。モニタ信号記憶部251は、測定装置600から偏波変動速度の実測値を取得した後に、当該実測値に対応するモニタ信号をモニタ信号取得部250から取得してもよい。また、1つの偏波変動速度の実測値に対して、対応するモニタ信号が複数記憶されてもよい。記憶されたモニタ信号及び偏波変動速度は、以下で説明する機械学習機能の学習フェーズにおいて使用される。
【0043】
推定演算部261は、既述の推定演算部260の機能を、機械学習機能により実現する。機械学習機能は、学習フェーズ及び運用フェーズの2つの動作モードを含む。学習フェーズでは、偏波変動速度を推定するためのモデルが作成される。運用フェーズでは、作成されたモデルを用いて、受信された偏波多重光信号の偏波変動速度が推定される。機械学習機能は、推定演算部261のハードウエア、推定演算部261において実行可能なプログラム、又はこれらの組み合わせにより実現できる。機械学習には、時間領域のデータ(時間的な波形)および周波数領域のデータ(スペクトル)のいずれの形態のモニタ信号を用いてもよい。
【0044】
図8及び
図9は、機械学習における学習フェーズ及び運用フェーズの手順をそれぞれ説明するフローチャートである。学習フェーズにおいては、モニタ信号記憶部251は、偏波変動速度が既知(例えばV1)である、デジタル信号化されたモニタ信号を記憶する(
図8のステップS01)。記憶されるモニタ信号は、偏波変動速度が既知の伝送路に偏波多重光信号を伝搬させることで作成されてもよい。既知の偏波変動速度V1は、測定装置600からモニタ信号記憶部251へ通知される。推定演算部261は、学習に必要となるモニタ信号に加えて当該モニタ信号に対応する既知の偏波変動速度V1を、モニタ信号記憶部251に記憶されたモニタ信号及び偏波変動速度から取得する。推定演算部261は、取得したモニタ信号及びそれに対応する既知の偏波変動速度V1を機械学習機能に入力する(ステップS02)。機械学習機能は、入力されたモニタ信号から偏波変動速度の出力がV1となるモデルを作成する(ステップS03)。推定演算部261は、作成された学習モデルを記憶する。機械学習機能は、偏波変動速度が互いに異なる複数のモニタ信号のデータの特徴を定量的に表現した特徴量を抽出することで、偏波変動速度を分類するモデルを作成する。
【0045】
運用フェーズにおいては、運用中の偏波多重光信号のモニタ信号が機械学習機能に入力される(
図9のステップS11)。運用フェーズでは、学習フェーズと同一の形態(すなわち、時間的な波形又はスペクトル)のモニタ信号が機械学習機能に入力される。機械学習機能は、学習フェーズで作成された学習モデルを入力データに適用し、偏波変動速度を推定して出力する(ステップS12)。
【0046】
本実施形態の偏波変動推定部202は、第2の実施形態で説明した偏波変動推定部201と同様に、モニタ信号に基づいて偏波変動速度を推定する。このため、偏波変動推定部202は、受信信号の品質に依存することなく、受信信号の偏波変動速度を高い精度で推定できる。
【0047】
さらに、偏波変動推定部202は、機械学習機能の学習フェーズにおいて、測定装置600によって測定された偏波変動速度及び対応するモニタ信号に基づいてモデルを作成する。そして、偏波変動推定部202は、機械学習機能の運用フェーズにおいて、このモデルを用いた機械学習機能によって、受信された偏波多重光信号のモニタ信号に基づいて偏波変動速度を推定する。このような構成を備える偏波変動推定部202による偏波変動の推定手順は、第1乃至第3の実施形態の手順、及び、一般的な測定装置600のみを用いた場合と比較して、受信信号の偏波変動速度をより高い精度で推定することができる、という効果を奏する。
【0048】
(第5の実施形態)
第1乃至第4の実施形態では、偏波多重光信号の偏波変動速度の推定手順について説明した。本実施形態では、機械学習を用いた光伝送路30の異常の推定について説明する。
【0049】
予め、光伝送路30が正常状態にあるときのモニタ信号、及び、光伝送路30が異常状態にあるときのモニタ信号が、学習データとして、光伝送路30の状態と対応付けられてモニタ信号記憶部251に記憶される。光伝送路30の状態には、正常状態及び内容の異なる複数の異常状態が含まれる。モニタ信号は、光伝送路30の1つの状態に対して複数用意されてもよい。光伝送路30の異常状態としては、光伝送路30への振動や圧力の増加、周囲温度の上昇等が挙げられる。さらに、例えば、光伝送路30と接続された光送信機、光中継器又は光受信機のそれぞれが備える光デバイスの故障も異常状態に含まれてもよい。正常状態及び異常状態における学習データは、光伝送路や通信機器の状態が既知である場合に収集できる。
【0050】
本実施形態では、機械学習機能は、学習フェーズにおいて、モニタ信号記憶部251に記憶されたモニタ信号及び当該モニタ信号に対応する光伝送路30の状態を用いて、光伝送路30の状態を推定するモデルを作成する。そして、機械学習機能は、運用フェーズにおいて、運用中の偏波多重光信号に応じたモニタ信号にモデルを適用する。すなわち、機械学習機能は、学習フェーズにおいて正常状態及び異常状態の学習データの特徴を定量的に表現した特徴量を抽出することで、正常な伝送路や異常な伝送路の状態を分類するモデルを作成する。そして、機械学習機能は、運用フェーズにおいて、運用中の偏波多重光信号のモニタ信号に対して作成されたモデルを適用し、その適用結果に基づいて伝送路の状態を推定する。
【0051】
第4及び第5の実施形態で説明した機械学習機能を含む構成は、本願の他の実施形態に適用されてもよい。例えば、光受信機20は、機械学習機能を用いて偏波多重光信号の偏波変動速度を推定し、また、光伝送システム1の異常を推定することができる。なお、第4及び第5の実施形態において、モニタ信号記憶部251は、シミュレーションによって任意の偏波変動速度に対応するモニタ信号をデジタル信号として生成し、生成されたモニタ信号を記憶してもよい。また、推定演算部261は、他の装置が備える機械学習機能によって作成された学習モデルを記憶し、そのモデルに基づいて偏波変動速度及び光伝送路の異常を推定してもよい。
【0052】
(第1乃至第5の実施形態の他の変形例)
推定演算部260及び261は、機械学習機能を用いず、推定された偏波変動速度の特異な値の発生をトリガとして光伝送路の異常を検出してもよい。特異な値の発生のトリガは、例えば、モニタ信号の振幅の瞬時値の閾値超過、モニタ信号の周波数スペクトルにおける所定の周波数以上の帯域のパワーの変動、あるいは所定の周波数帯域内のパワーの変動である。
【0053】
第1乃至第5の実施形態では、XI信号、XQ信号、YI信号及びYQ信号に対応する4個のモニタ信号が推定演算部260又は261に入力される。推定演算部260及び261は、これらのモニタ信号を適宜選択して偏波変動速度又は異常状態を推定してもよい。例えば、推定演算部260及び261は、入力されたそれぞれのモニタ信号から推定された偏波変動速度の平均値を求めて出力してもよい。推定演算部260及び261は、1個のモニタ信号又は偏波(X、Y)及び位相(I、Q)に基づいて組み合わされた2個乃至4個のモニタ信号を推定に用いてもよい。このようなモニタ信号の選択は、偏波変動速度及び異常推定の精度の改善に用いられる。また、第5の実施形態において、推定演算部260及び261は、入力されたそれぞれのモニタ信号から推定される異常状態をすべて出力してもよい。
【0054】
(第6の実施形態)
図10は、第6の実施形態の光受信機21の構成例を示す図である。光受信機21は、偏波変動推定部203、ADC270及び復調部280を備える。ADC270は、偏波変動推定部203に含まれてもよい。偏波変動推定部203は選択部290を備え、復調部280はMIMO(Multi-Input Multi-Output)等化器281を備える。選択部290は、推定演算部260又は261が推定した偏波変動速度の推定値に基づいてMIMO等化器281で使用されるステップサイズパラメータμを選択する。MIMO等化器281は、ADC270においてデジタル信号に変換されたX偏波信号(XI信号及びXQ信号)とY偏波信号(YI信号及びYQ信号)とに含まれる、不要な偏波成分をステップサイズパラメータμに基づいて除去する。MIMO等化器281は、このようにして精密に偏波分離されたX偏波信号及びY偏波信号を、復調部280における次の処理の入力へ提供する。
【0055】
図11は、MIMO等化器281の構成例を示す図である。MIMO等化器281は、X偏波信号及びY偏波信号を入力とする適応等化器である。MIMO等化器281は、FIRフィルタのタップ係数(
図11のhxx、hxy、hyx、hyy)を、特許文献2に記載された以下の(1)式により更新することで、X偏波複素信号の偏波変動を補償し、X偏波信号及びY偏波信号の偏波分離を行う。
【0056】
推定演算部260又は261において推定された偏波変動速度は選択部290に入力される。選択部290は偏波変動速度と(1)式で用いられるμの値とを対応付けたテーブルを保持する。μ(ステップサイズパラメータ)は、FIRフィルタの係数の更新ステップの大きさを規定する値である。ステップサイズパラメータμは、予め定められた値であってもよいし、偏波状態の変動速度に基づいて定められる値であってもよい。本実施形態の選択部290は、偏波変動速度の推定値に基づいて、ステップサイズパラメータμの最適値をテーブルから選択し、MIMO等化器281へ出力する。MIMO等化器281は、選択部290から入力されたμの値に基づいて(1)式によって、X偏波信号及びY偏波信号の偏波分離の演算を行う。MIMO等化器281におけるFIRフィルタ係数の演算は、CPU又はDSPによる演算又はハードウエアロジックで行うことができる。
【0057】
μを小さくするとより高精度な偏波分離が可能となり復調誤差が減少するが、偏波追従速度は低下する。逆にμを大きくすると偏波分離の精度が低下し復調誤差が増加するが偏波追従速度は向上する。本実施例では推定した伝送路の偏波変動速度に応じた適切なμを選択することで、復調誤差を最小化する。
【0058】
本実施形態の偏波変動推定部203においても、モニタ信号取得部250が増幅器240から取得するモニタ信号は光信号の強度変動に応じた信号である。このため、推定演算部260又は261は、光信号の変調方式、品質、あるいは光信号の復調の可否に関わらず偏波変動速度を推定できる。また、光伝送路30において起こりうる偏波変動速度に対して、光電変換器230及び増幅器240の応答は充分に高速であり、モニタ信号には偏波分離された光信号の強度変動が反映されている。従って、偏波変動推定部203は適応等化器の動作速度に依存することなく偏波多重光信号の偏波変動速度を推定できる。その結果、選択部290は、より好ましいステップサイズパラメータμをMIMO等化器281に提供できる。
【0059】
(第7の実施形態)
図12は、本発明の第7の実施形態の光伝送システム2の構成例を示すブロック図である。光伝送システム2は、光送信機10、光受信機20、光伝送路30及び中継局40を備える。中継局40は光伝送路30を伝搬する偏波多重光信号を中継する。偏波多重光信号は、光送信機10から光受信機20へ伝搬する。中継局40は、陸上又は海中に設置された中継局である。光送信機10と光受信機20との間に、複数の中継局40が配置されていてもよい。一般的な偏波多重光信号の伝送システムでは、数十km毎に中継局40が設置される。中継局40は、中継器の一構成例である。
【0060】
図13は、中継局40の構成例を示すブロック図である。中継局40は、中継装置400及びモニタ回路403を備える。中継装置400は、光増幅器や光フィルタを用いて、光伝送路30を伝搬した偏波多重光信号の増幅や波形整形を行う。
【0061】
カプラ401は光分岐デバイスである。カプラ401は光伝送路30から入力された偏波多重光信号を分岐して、一方を中継回路402へ出力し、他方をモニタ回路403へ出力する。中継回路402は、光増幅器や光フィルタを用いて偏波多重光信号の増幅や波形整形を行い、これらの処理が行われた偏波多重光信号を次の中継区間の光伝送路30へ出力する。
【0062】
モニタ回路403は、偏波多重光信号を光電変換した信号をモニタ信号として取得し、モニタ信号をアナログデジタル変換した信号を中継回路402へ出力する。中継回路402は、モニタ回路403から入力されたモニタ信号を、光伝送システム2の監視回線の光信号(以下、「監視光」という。)に重畳して光伝送路30へ送出する。監視光は、光伝送路を介して光受信機20に送信される。監視光を受信した光受信機20は、これまでの実施形態で説明した推定演算部260及び261の機能を用いて、中継局40から受信した監視光から抽出されたモニタ信号に基づいて、中継局40が受信する偏波多重光信号の偏波変動速度を推定できる。
【0063】
図14-
図16は、それぞれ、モニタ回路403の構成例であるモニタ回路403A-403Cを示すブロック図である。
【0064】
図14は、モニタ回路403Aの構成例を示すブロック図である。モニタ回路403Aは、
図4に示した偏波変動推定部201に含まれる、LO210、光ミキサ220、光電変換器230、増幅器240及びモニタ信号取得部250を備える。モニタ回路403Aには、カプラ401で分岐された偏波多重光信号が入力される。モニタ回路403Aにおいて、偏波多重光信号に基づくモニタ信号がモニタ信号取得部250へ出力され、モニタ信号取得部250がモニタ信号をデジタル信号として出力する手順は、第2の実施形態と同様である。モニタ信号取得部250は、デジタル信号に変換されたモニタ信号を中継回路402へ出力する。
【0065】
図15は、モニタ回路403Bの構成例を示すブロック図である。モニタ回路403Bは、PBS411、光電変換器412、増幅器413及びモニタ信号取得部250を備える。カプラ401で分岐された偏波多重光信号は、PBS411において、偏波面が直交するX偏波光信号とY偏波光信号との2つの光信号に分離される。分離された2つの光信号は、それぞれ光電変換器412に入力され、アナログ信号に変換される。光電変換器412は例えばフォトダイオードである。増幅器413は、X偏波光信号に対応するアナログ信号及びY偏波光信号に対応するアナログ信号をそれぞれ増幅する。第2の実施形態と同様に、増幅器413がALCによって動作する場合には、モニタ信号取得部250には増幅器413が備える2つの増幅回路のそれぞれの利得Gに対応するモニタ信号が入力される。モニタ信号取得部250は、デジタル信号に変換されたモニタ信号を中継回路402へ出力する。
【0066】
図16は、モニタ回路403Cの構成例を示すブロック図である。モニタ回路403Cは、PBS411、光電変換器414、増幅器415及びモニタ信号取得部250を備える。PBS411は、偏波面が直交するX偏波とY偏波とのいずれかの偏波の光信号のみを光電変換器414へ出力する。モニタ回路403Cにおいては、PBS411に代えて偏光板が用いられてもよい。偏光板を用いても、X偏波とY偏波とのいずれかの偏波の光信号のみを光電変換器414へ出力できる。光電変換器414は例えばフォトダイオードである。増幅器415は、光電変換器414でアナログ信号を増幅する。増幅器415がALCによって動作する場合には、モニタ信号取得部250には増幅器413が備える増幅回路の利得Gに対応するモニタ信号が入力される。モニタ信号取得部250は、デジタル信号に変換されたモニタ信号を中継回路402へ出力する。
【0067】
図14-
図16で説明したモニタ回路403A-403Cは、光伝送路30を伝搬した偏波多重光信号に基づいて、その偏波変動速度の情報を含むデジタル信号を生成する。中継局40は、このデジタル信号を、監視回線を用いて光受信機20に送信する。その結果、中継局40がモニタ回路403A-403Cのいずれかを備える光伝送システム2は、中継局40に入力される偏波多重光信号の偏波変動速度を推定できる。なお、光送信機10が推定演算部260又は261を備える場合には、中継局40は監視光を光送信機10へ送信してもよい。これにより、光送信機10においても偏波変動速度の推定が可能となる。
【0068】
(第7の実施形態の第1の変形例)
図17は、中継局40の変形例である中継局40Aの構成例を示すブロック図である。中継局40Aは、中継装置400及びモニタ回路403に加えて、推定演算部404を備える。中継局40Aが備えるモニタ回路403は、モニタ信号をアナログデジタル変換した信号を推定演算部404へ出力する。推定演算部404は、モニタ回路から入力されたモニタ信号に基づいて中継局40Aに入力される偏波多重光信号の偏波変動速度を推定する。
【0069】
中継回路402は、推定演算部404から入力されたモニタ信号を、光伝送システム2の監視光に重畳して光伝送路30へ送出する。監視光を受信した光受信機20は、中継局40から受信した監視光から偏波変動速度を得ることができる。
【0070】
以上説明した中継局40及び40Aは、第2乃至第4の実施形態で説明した推定演算部260又は261を含む手順と同様の手順を用いて偏波多重光信号の偏波変動速度を推定してもよい。また、中継局40又は偏波変動速度が重畳された監視光を受信した光受信機20は、第5の実施形態で説明した手順を用いて伝送路の異常状態の推定を行ってもよい。
【0071】
(第7の実施形態の第2の変形例)
図18は、本発明の第7の実施形態の変形例の光伝送システム3の構成例を示すブロック図である。光伝送システム3は、光送信機10、光受信機20、光伝送路30、中継局40及び管理装置50を備える。管理装置50は、光送信機10、光受信機20又は中継局40に直接または間接に接続された通信装置又はサーバである。管理装置50は光伝送システム3を管理する機能及び推定演算部260又は261の機能を備える。
【0072】
光伝送システム3では、中継局40は、モニタ回路403が出力するモニタ信号を、管理装置50に送信する。管理装置50又は中継局40は、モニタ回路403が出力する信号が光伝送システム3の監視光によって伝送されるように、中継回路402を制御してもよい。この場合、モニタ回路403が出力するモニタ信号は、光送信機10又は光受信機20を経由して管理装置50へ送られる。
【0073】
管理装置50は、複数の中継局40のそれぞれのモニタ回路403が出力するモニタ信号を収集することで、特定の中継区間の偏波変動量を推定できる。また、光伝送システム3が中継局40Aを含む場合には、管理装置50は、中継局40Aから偏波変動量の推定結果を受信する。そして、管理装置50は、1つ又は複数の中継局40又は40Aから受信した偏波変動量の推定結果に基づいて、光伝送システム3の中継区間の異常の原因の推定を行うことができる。
【0074】
(第8の実施形態)
図19は、第8の実施形態の偏波変動推定装置500の構成例を示すブロック図である。偏波変動推定装置500は、偏波分離器501、光電変換器502、推定部503を備える。偏波分離器501は、入力された偏波多重光信号から単一偏波の光信号を生成する。光電変換器502は、偏波分離器501において生成された光信号を電気信号に変換する。従って、推定部503には偏波分離器501から出力された偏波の光信号の振幅に対応する電気信号が入力される。推定部503は、当該電気信号に基づいて、偏波多重された光信号の偏波変動速度を推定する。偏波分離器501は、偏波分離手段とも呼ばれる。偏波推定装置500においては、偏波分離器501として偏光板又はPBSが用いられてもよい。光電変換器502は、光電変換手段とも呼ばれる。推定部503は、推定手段とも呼ばれる。
【0075】
また、偏波変動推定装置500の動作手順は、
図20のフローチャートとしても記載できる。すなわち、偏波分離器501は、偏波多重光信号から単一偏波の光信号を生成する(
図20のステップS21)。光電変換器502は、単一偏波の光信号を電気信号に変換する(ステップS22)。推定部503は、電気信号に応じて、偏波多重光信号の偏波変動速度を推定する(ステップS23)。
【0076】
このような構成を備える偏波変動推定装置500は、モニタ信号に基づいて、高い精度で偏波変動速度を推定できる。その理由は、偏波分離器501によってX偏波及びY偏波に分離された光信号の強度は偏波多重光信号の偏波変動に基づいて変化するため、分離された光信号の強度変動から偏波変動速度を推定できるからである。また、光電変換器502の応答速度は、光伝送システムにおける偏波多重光信号の一般的な偏波変動速度よりも高いため、光信号の強度変動に基づく偏波変動速度の推定に影響を与えないからである。
【0077】
以上の各実施形態に記載された機能及び手順は、推定演算部260、261、404又は推定部504が備えるCPU又はDSPがプログラムを実行することにより実現されてもよい。プログラムは、有形であり、かつ一時的でない(tangible and non-transitory)記録媒体に記録される。記録媒体としては半導体メモリ又は固定磁気ディスク装置が用いられるが、これらには限定されない。CPUは各実施形態の偏波変動推定部内の他の場所に備えられてもよい。
【0078】
上記の実施形態の一部又は全部は、以下の付記のようにも記載されうるが、以下には限られない。
【0079】
(付記1)
入力された偏波多重光信号から単一偏波の光信号を生成する偏波分離手段と、
生成された前記光信号を電気信号に変換する光電変換手段と、
前記電気信号に応じて、前記偏波多重光信号の偏波変動速度の推定を行う推定手段と、
を備える偏波変動推定装置。
【0080】
(付記2)
前記推定手段に入力されるアナログ信号をデジタル信号に変換するアナログデジタル変換手段をさらに備える、付記1に記載された偏波変動推定装置。
【0081】
(付記3)
前記偏波分離手段で生成された前記光信号とローカル光とのビート光信号を出力する光混合手段を備え、
前記光電変換手段は、前記ビート光信号を前記電気信号に変換する、
付記1又は2に記載された偏波変動推定装置。
【0082】
(付記4)
前記電気信号を増幅する増幅手段をさらに備え、
前記推定手段は、前記増幅された電気信号の振幅に応じて前記推定を行う、
付記1乃至3のいずれか1項に記載された偏波変動推定装置。
【0083】
(付記5)
前記増幅手段の利得は、前記増幅された電気信号の振幅が一定となるように制御され、
前記推定手段は、前記利得に応じて前記推定を実施する、
付記4に記載された偏波変動推定装置。
【0084】
(付記6)
前記推定手段は、前記電気信号の振幅に基づく周波数スペクトルに応じて前記推定を行う、付記4又は5に記載された偏波変動推定装置。
【0085】
(付記7)
前記推定手段は、前記偏波多重光信号に対応する前記電気信号を、既知の偏波変動速度に対応する前記電気信号の機械学習によって作成されたモデルに適用することで前記推定を実施する、付記1乃至6のいずれか1項に記載された偏波変動推定装置。
【0086】
(付記8)
前記推定手段は、前記推定の結果に応じて、前記偏波多重光信号が伝搬した光伝送路の正常性を判断する、付記1乃至7のいずれか1項に記載された偏波変動推定装置。
【0087】
(付記9)
前記推定手段は、前記偏波多重光信号に対応する前記電気信号を、既知の光伝送路の正常状態及び異常状態に対応する前記電気信号の機械学習によって作成されたモデルに適用することで前記光伝送路の異常を推定する、付記1乃至8のいずれか1項に記載された偏波変動推定装置。
【0088】
(付記10)
入力された偏波多重光信号から単一偏波の光信号を生成する偏波分離手段と、生成された前記光信号を電気信号に変換する光電変換手段と、前記電気信号をデジタル信号に変換するアナログデジタル変換手段と、を備える中継手段と、
前記アナログデジタル変換手段から出力された電気信号に応じて前記偏波多重光信号の偏波変動速度の推定を行う推定手段を備える通信手段と、
が通信可能に接続された光伝送システム。
【0089】
(付記11)
前記通信手段は前記偏波多重光信号の送信元の光送信機である、付記10に記載された光伝送システム。
【0090】
(付記12)
前記通信手段は前記偏波多重光信号の送信先の光受信機である、付記10に記載された光伝送システム。
【0091】
(付記13)
前記通信手段は、前記光伝送システムの管理装置である、付記10に記載された光伝送システム。
【0092】
(付記14)
偏波多重光信号から生成された単一偏波の光信号の振幅に基づいて生成された電気信号を受信し、前記電気信号に応じて前記偏波多重光信号の偏波変動速度の推定を行う推定手段を備える、管理装置。
【0093】
(付記15)
複数の中継手段から通知されたそれぞれの前記電気信号に応じて、前記偏波多重光信号の伝送路の異常を推定する、付記14に記載された管理装置。
【0094】
(付記16)
入力された偏波多重光信号から単一偏波の光信号を生成し、
前記単一偏波の光信号を電気信号に変換し、
前記電気信号に応じて、前記偏波多重光信号の偏波変動速度の推定を行う、
偏波変動推定方法。
【0095】
(付記17)
前記電気信号をデジタル信号に変換する手順を含む、付記16に記載された偏波変動推定方法。
【0096】
(付記18)
前記単一偏波の光信号とローカル光とのビート光信号を前記電気信号に変換する、
付記16又は17に記載された偏波変動推定方法。
【0097】
(付記19)
前記電気信号を増幅し、
前記増幅された電気信号の振幅に応じて前記推定を行う、
付記16乃至18のいずれか1項に記載された偏波変動推定方法。
【0098】
(付記20)
前記電気信号の増幅時の利得を前記増幅された電気信号の振幅が一定となるように制御し、
前記利得に応じて前記推定を実施する、
付記19に記載された偏波変動推定方法。
【0099】
(付記21)
前記電気信号の振幅に基づく周波数スペクトルに応じて前記推定を行う、付記19又は20に記載された偏波変動推定方法。
【0100】
(付記22)
前記偏波多重光信号に対応する前記電気信号を、既知の偏波変動速度に対応する前記電気信号の機械学習によって作成されたモデルに適用することで前記推定を実施する、付記16乃至21のいずれか1項に記載された偏波変動推定方法。
【0101】
(付記23)
前記推定の結果に応じて、前記偏波多重光信号が伝搬した光伝送路の正常性を判断する、付記16乃至22のいずれか1項に記載された偏波変動推定方法。
【0102】
(付記24)
前記偏波多重光信号に対応する前記電気信号を、既知の光伝送路の正常状態及び異常状態に対応する前記電気信号の機械学習によって作成されたモデルに適用することで前記光伝送路の異常を推定する、付記16乃至23のいずれか1項に記載された偏波変動推定方法。
【0103】
(付記25)
入力された偏波多重光信号から単一偏波の光信号を生成し、
前記単一偏波の光信号を電気信号に変換し、
前記電気信号をデジタル信号に変換し、
前記デジタル信号に応じて前記偏波多重光信号の偏波変動速度の推定を行う、
光伝送方法。
【0104】
(付記26)
前記偏波多重光信号の送信元の光送信機によって前記推定を行う、付記25に記載された光伝送方法。
【0105】
(付記27)
前記偏波多重光信号の送信先の光受信機によって前記推定を行う、付記25に記載された光伝送方法。
【0106】
(付記28)
光伝送システムの管理装置によって前記推定を行う、付記25に記載された光伝送方法。
【0107】
(付記29)
偏波多重光信号から生成された単一偏波の光信号の振幅に基づいて生成された電気信号を受信し、
前記電気信号に応じて前記偏波多重光信号の偏波変動速度の推定を行う、
管理装置の制御方法。
【0108】
(付記30)
複数の中継手段から通知されたそれぞれの前記電気信号に応じて、前記偏波多重光信号の伝送路の異常を推定する、付記29に記載された管理装置の制御方法。
【0109】
(付記31)
入力された偏波多重光信号から生成された単一偏波の光信号から変換された電気信号に応じて、前記偏波多重光信号の偏波変動速度の推定を行う手順を偏波変動推定装置のコンピュータに実行させるための偏波変動推定装置のプログラムを記録した、記録媒体。
【0110】
以上、実施形態を参照して本発明を説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されない。本発明の構成や詳細には、本発明のスコープ内で当業者が理解し得る様々な変更をすることができる。例えば、各実施形態は、海底ケーブルシステムに限らず、陸上の光伝送システムにも適用されうる。
【0111】
また、それぞれの実施形態に記載された構成は、必ずしも互いに排他的なものではない。本発明の作用及び効果は、上述の実施形態の全部又は一部を組み合わせた構成によって実現されてもよい。
【0112】
この出願は、2020年4月7日に出願された日本出願特願2020-069132を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。
【符号の説明】
【0113】
1-3 光伝送システム
10 光送信機
20、21 光受信機
30 光伝送路
40、40A 中継局
50 管理装置
200-203 偏波変動推定部
210 局部発振器
220 光ミキサ
221 PBS
222 90度光ハイブリッド回路
230 光電変換器
240 増幅器
241 増幅回路
242 可変利得増幅回路
243 利得制御回路
250 モニタ信号取得部
260、261 推定演算部
280 復調部
281 MIMO等化器
290 選択部
400 中継装置
401 カプラ
402 中継回路
403、403A、403B、403C モニタ回路
404 推定演算部
411 PBS
412 光電変換器
413 増幅器
414 光電変換器
415 増幅器
500 偏波変動推定装置
501 偏波分離器
502 光電変換器
503 推定部
800 偏波分離・信号変換部
810 光フロントエンド