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特許7396472位置計測装置、測位方法、及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-04
(45)【発行日】2023-12-12
(54)【発明の名称】位置計測装置、測位方法、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G01S 19/44 20100101AFI20231205BHJP
【FI】
G01S19/44
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022518503
(86)(22)【出願日】2020-04-28
(86)【国際出願番号】 JP2020018161
(87)【国際公開番号】W WO2021220417
(87)【国際公開日】2021-11-04
【審査請求日】2022-08-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100124844
【弁理士】
【氏名又は名称】石原 隆治
(72)【発明者】
【氏名】吉田 誠史
【審査官】梶田 真也
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-165031(JP,A)
【文献】特開2015-161540(JP,A)
【文献】特開2009-150663(JP,A)
【文献】特開2013-004021(JP,A)
【文献】特表2013-517480(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0068001(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 5/00 - 5/14
G01S 19/00 - 19/55
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体の測位を行う位置計測装置であって、
前記移動体の属性、及び地理空間情報に基づいて、前記移動体の位置の候補エリア種別を決定し、
測位演算の結果得られた位置の近傍のエリアであって、前記候補エリア種別に該当するエリアである候補エリアを複数のグリッドに分割し、当該複数のグリッドの中から前記移動体が位置すると推定されるグリッドを特定し、
前記特定されたグリッドの中心位置を初期座標値とすることにより得られた絶対位置測位部による搬送波位相測位演算の測位解を出力する測位制御部
を備える位置計測装置。
【請求項2】
前記測位制御部は、前記移動体の周辺の構造物のデータと地理空間情報とを比較することにより、前記複数のグリッドの中から前記移動体が位置すると推定されるグリッドを特定する
請求項1に記載の位置計測装置。
【請求項3】
前記測位制御部は、機械学習により学習されたグリッド特定モデルを用いて、前記移動体が受信したGNSS衛星信号の観測データに基づいて、前記複数のグリッドの中から前記移動体が位置すると推定されるグリッドを特定する
請求項1に記載の位置計測装置。
【請求項4】
前記絶対位置測位部は、前記特定されたグリッドの中心位置を初期座標値とする搬送波位相測位演算を行い、
前記搬送波位相測位演算の測位解として、収束解、又は、前記特定されたグリッド内の2次元座標値を有するフロート解が得られた場合に、前記測位制御部は、当該収束解又は当該フロート解を出力し、
前記搬送波位相測位演算の測位解として、前記収束解と前記フロート解のいずれも得られなかった場合に、前記測位制御部は、前記特定されたグリッドの中心位置の2次元座標値と、当該中心位置の高さを示す座標値とを測位結果として出力する
請求項1ないし3のうちいずれか1項に記載の位置計測装置。
【請求項5】
前記絶対位置測位部は、前記特定されたグリッドの中心位置を初期座標値とする搬送波位相測位演算を行い、
前記搬送波位相測位演算の測位解として、収束解、又は、前記候補エリア内の2次元座標値を有するフロート解が得られた場合に、前記測位制御部は、当該収束解又は当該フロート解を出力し、
前記搬送波位相測位演算の測位解として、前記収束解と前記フロート解のいずれも得られなかった場合に、前記測位制御部は、前記特定されたグリッドの中心位置の2次元座標値と、当該中心位置の高さを示す座標値とを測位結果として出力する
請求項1ないし3のうちいずれか1項に記載の位置計測装置。
【請求項6】
前記絶対位置測位部は、前記特定されたグリッドの中心位置を初期座標値とし、当該中心位置における可視衛星信号を使用した搬送波位相測位演算を行い、
前記搬送波位相測位演算の測位解として、収束解、又は、前記特定されたグリッド内の2次元座標値を有するフロート解が得られた場合に、前記測位制御部は、当該収束解又は当該フロート解を出力し、
前記搬送波位相測位演算の測位解として、前記収束解と前記フロート解のいずれも得られなかった場合に、前記測位制御部は、前記特定されたグリッドの中心位置の2次元座標値と、当該中心位置の高さを示す座標値とを測位結果として出力する
請求項1ないし3のうちいずれか1項に記載の位置計測装置。
【請求項7】
移動体の測位を行う位置計測装置が実行する測位方法であって、
前記移動体の属性、及び地理空間情報に基づいて、前記移動体の位置の候補エリア種別を決定するステップと、
測位演算の結果得られた位置の近傍のエリアであって、前記候補エリア種別に該当するエリアである候補エリアを複数のグリッドに分割し、当該複数のグリッドの中から前記移動体が位置すると推定されるグリッドを特定するステップと、
前記特定されたグリッドの中心位置を初期座標値とすることにより得られた絶対位置測位部による搬送波位相測位演算の測位解を出力するステップと
を備える測位方法。
【請求項8】
コンピュータを、請求項1ないし6のうちいずれか1項に記載の位置計測装置における測位制御部として機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動体の位置を高精度に計測する技術に関連するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、航法衛星システム、GNSS(Global Navigation Satellite System)による測位が幅広いアプリケーションにおいて活用されている。
【0003】
GNSSによる測位方式には、数メートル程度の測位精度が得られるコード測位(Code based positioning)方式や、センチメートル級の測位精度を実現する搬送波位相測位(Carrier-phase based positioning)方式がある。搬送波位相測位の方式としては、例えば、移動体にも対応したリアルタイムキネマティック(Real Time Kinematic)方式が使用される。
【0004】
GNSS測位を用いるアプリケーションの1つとして自動走行車両の測位がある。自動走行では車両の走行するレーンや、レーン内の車両位置の判定が可能なサブメートル(数cm~数10cmオーダー)の絶対位置の測位精度が要求される。このため、主に搬送波位相測位方式が適用されることが想定される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】P. D. Groves, 2011. Shadow Matching: A New GNSS Positioning Technique for Urban Canyons. The Journal of Navigation, vol. 64, no. 03, pp. 417-430
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
GNSS測位では受信位置の周辺に高層の建造物等の構造物が存在する、アーバンキャニオンと呼ばれる受信環境においては搬送波位相測位の収束(Fix)率が低下するだけでなく、誤った搬送波位相測位解を出力したり、搬送波位相測位解が得られない場合に使用されるコード測位解の精度が劣化したりする課題があった。
【0007】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、アーバンキャニオン受信環境における測位精度を改善することを可能とする技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
開示の技術によれば、移動体の測位を行う位置計測装置であって、
前記移動体の属性、及び地理空間情報に基づいて、前記移動体の位置の候補エリア種別を決定し、
測位演算の結果得られた位置の近傍のエリアであって、前記候補エリア種別に該当するエリアである候補エリアを複数のグリッドに分割し、当該複数のグリッドの中から前記移動体が位置すると推定されるグリッドを特定し、
前記特定されたグリッドの中心位置を初期座標値とすることにより得られた絶対位置測位部による搬送波位相測位演算の測位解を出力する測位制御部
を備える位置計測装置が提供される。
【発明の効果】
【0009】
開示の技術によれば、アーバンキャニオン受信環境における測位精度を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施の形態における位置計測装置の機能構成図である。
図2】位置計測装置のハードウェア構成の例を示す図である。
図3】実施例1の位置計測装置の動作のフローチャートである。
図4】実施例2の位置計測装置の動作のフローチャートである。
図5】実施例3の位置計測装置の動作のフローチャートである。
図6】実施例4の位置計測装置の動作のフローチャートである。
図7】実施例5の位置計測装置の動作のフローチャートである。
図8】実施例6の位置計測装置の動作のフローチャートである。
図9】位置計測装置の動作を説明するための図である。
図10】位置計測装置の動作を説明するための図である。
図11】位置計測装置の動作を説明するための図である。
図12】絶対位置測位部がクラウド上にある場合の構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態(本実施の形態)を説明する。以下で説明する実施の形態は一例に過ぎず、本発明が適用される実施の形態は、以下の実施の形態に限定されるわけではない。
【0012】
以下の実施の形態では、測位を行う対象となる移動体として、アーバンキャニオン受信環境の道路を走行する自動車を挙げているが、これは一例である。本発明は道路を走行する自動車に限らない移動体全般に適用可能である。
【0013】
(装置構成)
図1に、本実施の形態における位置計測装置100の機能構成図を示す。図1に示すように、本実施の形態における位置計測装置100は、絶対位置測位部110、相対位置測位部120、出力部130、測位制御部140、データ格納部150を有する。相対位置測位部120についてはこれを備えないこととしてもよい。ただし、相対位置測位部120を備えることで、後述する、移動体の変動特性の取得や、候補エリア内のグリッドの選択の際に用いることができる。
【0014】
絶対位置測位部110は、GNSS衛星信号を受信し、コード測位又は搬送波位相測位を行う。絶対位置測位部110は、搬送波位相測位を行う際に必要となる、基準局の観測データ及び位置情報を収集する機能を備える。相対位置測位部120は、車速パルス計測機、IMU(Inertial Measurement Unit)、車載カメラ、LiDAR(Light Detection and Ranging)、GNSSドップラーシフト計測機、等である。車速パルス計測機により、車両の速さ、つまり、単位時間に進む距離がわかる。IMUに搭載された3軸のジャイロと3方向の加速度計によって、3次元の角速度と加速度が求められる。車載カメラにより撮影された画像データ中の物体の動きにより車両の相対位置を求めることができる。LiDARでは、レーザー光を走査しながら対象物に照射してその散乱や反射光を観測することで、対象物までの距離を計測し、車両の相対位置を求めることができる。GNSSドップラーシフトでは、搬送波の周波数変化分を計測することで速度を計測し、これを時間的に積分することにより、移動体の位置の相対変位を求めることができる。
【0015】
相対位置測位部120は、車速パルス計測機、IMU、車載カメラ、LiDAR、GNSSドップラーシフト計測機、等の測位手段のうちの複数の測位手段であってもよいし、1つの測位手段であってもよい。相対位置測位部120が複数の測位手段を有する場合に、複数の測位手段のそれぞれで得られた測位結果のうち、最も精度の良い測位結果を選択して出力する仕組みが備えられていてもよいし、それぞれで得られた測位結果の全て又は一部をカルマンフィルタ等によりカップリングして出力する仕組みが備えられていてもよい。
【0016】
また、相対位置測位部120には、GNSS衛星信号への時刻同期で得られる高精度クロック信号が絶対位置測位部110から供給される。高精度クロック信号が途切れた場合でも、相対位置測位部120はGNSS衛星信号への時刻同期に依らず、ホールドオーバ(発振器による自走動作)により、クロック信号の精度を維持することが可能である。
【0017】
測位制御部140は、後述する手順の処理を実行する。データ格納部150には、地理空間情報、測位に用いるパラメータ、移動体の属性情報、等が格納されている。なお、地理空間情報については、測位制御部140が地理空間情報を提供するサーバにアクセスして、当該サーバから取得してもよい。
【0018】
出力部130は、測位制御部140から出力された測位解である移動体の現在位置を装置外部に出力する。現在位置は(x,y,z)の3次元座標で表されるが、出力される情報は、地理座標系や投影座標系による3次元座標そのものであってもよいし、その他の情報であってもよい。例えば、自動走行車両の制御部への制御信号が出力されてもよいし、地図上に位置を示した画像情報が出力されてもよい。
【0019】
位置計測装置100は、物理的にまとまった1つの装置であってもよいし、いくつかの機能部が物理的に分離していて、分離された複数の機能部がネットワークにより接続された装置であってもよい。例えば、位置計測装置100が測位制御部140のみを備え、その他の機能部が位置計測装置100の外部に備えられてもよい。
【0020】
また、位置計測装置100はその全体が移動体に搭載されて使用されてもよいし、一部の機能がネットワーク上(例えばクラウド上)に備えられ、残りの機能が移動体に搭載されて使用されてもよい。例えば、測位制御部140がクラウド上に備えられ、残りの機能が移動体に搭載されて使用されてもよい。
【0021】
また、例えば、移動体に備えたGNSS搬送波位相測位受信機から観測データ(Raw dataとも呼ばれる)を出力し、当該観測データをクラウド上に設けた搬送波位相測位演算処理機能部に送信することで、搬送波位相測位演算をクラウド上で実施してもよい。この場合、クラウド上の搬送波位相測位演算処理機能部から測位制御部140へ測位演算結果が返される。
【0022】
(ハードウェア構成例)
図2は、本実施の形態における位置計測装置100、あるいは、位置計測装置100における測位制御部140として使用することができるコンピュータのハードウェア構成例を示す図である。図2のコンピュータは、それぞれバスBで相互に接続されているドライブ装置1000、補助記憶装置1002、メモリ装置1003、CPU1004、インタフェース装置1005、表示装置1006、入力装置1007、及び出力装置1008等を有する。
【0023】
当該コンピュータでの処理を実現するプログラムは、例えば、CD-ROM又はメモリカード等の記録媒体1001によって提供される。プログラムを記憶した記録媒体1001がドライブ装置1000にセットされると、プログラムが記録媒体1001からドライブ装置1000を介して補助記憶装置1002にインストールされる。但し、プログラムのインストールは必ずしも記録媒体1001より行う必要はなく、ネットワークを介して他のコンピュータよりダウンロードするようにしてもよい。補助記憶装置1002は、インストールされたプログラムを格納すると共に、必要なファイルやデータ等を格納する。
【0024】
メモリ装置1003は、プログラムの起動指示があった場合に、補助記憶装置1002からプログラムを読み出して格納する。CPU1004は、メモリ装置1003に格納されたプログラムに従って、位置計測装置100あるいは測位制御部140等に係る機能を実現する。インタフェース装置1005は、ネットワークに接続するためのインタフェースとして用いられる。表示装置1006はプログラムによるGUI(Graphical User Interface)等を表示する。入力装置1007はキーボード及びマウス、ボタン、又はタッチパネル等で構成され、様々な操作指示を入力させるために用いられる。出力装置1008は演算結果を出力する。
【0025】
以下、上記の構成を有する位置計測装置100の動作例として、実施例1~6を説明する。実施例1~6では、移動体(例えば自動車)に位置計測装置100が搭載された場合における位置計測装置100の動作例を説明する。
【0026】
(実施例1)
実施例1を図3のフローチャートの手順に沿って説明する。
【0027】
<S101>
測位制御部140は、絶対位置測位部110から移動体の測位結果(移動体の位置情報)を、相対位置測位部120から物体の方位、傾き、位置の変位の計測結果を例えば、一定の周期で取得している。
【0028】
S101において、測位制御部140は、絶対位置測位部110及び相対位置測位部120から取得した情報により得られる、移動体の経時的な位置(測位結果)の変動特性(移動速度、加速度、等)から移動体の属性(歩行者、自動車・自動二輪車、自転車、鉄道、等の種別)及び移動体の進行方向を推定する。例えば、測位制御部140は、移動体が60km/h程度の速さで一定の方向に移動することを検知すると、移動体は自動車・自動二輪車もしくは鉄道であると推定することができる。
【0029】
なお、位置計測装置100が移動体に搭載される形態(カーナビ等)においては、位置計測装置100に予め、マニュアル操作で移動体の属性(自動車等)の情報を設定しておくこととしてもよい。また、例えば、位置計測装置100が、歩行者が保持するスマートフォン端末等である場合には、予め、マニュアル操作で移動体の属性として「歩行者」を設定しておくこととしてもよいし、バスに乗車した際には「自動車」、鉄道に乗車した際には「鉄道」等と、状況に応じて設定を変更しておくこととしてもよい。設定された情報はデータ格納部150に格納される。
【0030】
<S102>
S102において、測位制御部140は、S101で特定した移動体の属性と進行方向、及び、データ格納部150(あるいはインターネット上のサーバ)から取得した地理空間情報(地図データ等)に基づき、移動体の位置の「候補エリア種別」を絞り込む。候補エリア種別とは、例えば、"歩道"、"車道"、"車線"、"鉄道線路"、"案内軌条式鉄道の軌道"、"自転車専用道路"、"横断歩道"、等である。
【0031】
地理空間情報は、高さ情報(標高、海抜高度等)を含む地理空間情報である。実施例1では、地理空間情報は、例えば、交通規制/工事情報/事故/渋滞/信号情報等の刻々と変化する動的情報と、高精度3次元位置情報(2次元地図情報、路面情報、車線情報、3次元構造物情報、等)の静的情報とを組み合わせたダイナミックマップであることを想定している。
【0032】
例えば、コード測位による測位結果が歩道上の位置であっても、移動体の属性が自動車であれば、測位制御部140は、移動体の位置の候補エリア種別を道路上の"車線"であるとし、さらに移動体の進行方向からいずれの方向の車線であるかを絞り込むことができる。また、もしも移動体の属性が「歩行者」である場合、測位結果に基づき、"歩道"、"横断歩道"等が候補エリア種別として絞り込まれる。例えば、移動体が60km/h程度の速さで一定の方向に移動することに基づき、移動体の属性を自動車・自動二輪車もしくは鉄道であると推定している場合、経時的な移動特性が鉄道の線路に沿ったものであり、かつ信号、渋滞等での一時停止や減速がみられず、かつ平行して自動車専用道路が存在しない場合は、候補エリア種別を進行方向の"鉄道線路"であると絞り込むことができる。
【0033】
<S103>
S103において、絶対位置測位部110は、コード測位演算を行う。
【0034】
<S104>
S104において、測位制御部140は、まず、S102で決定した候補エリア種別、S103でのコード測位演算の結果、及び地理空間情報に基づいて、「候補エリア」を特定し、候補エリアを複数のグリッドに分割する。なお、本明細書では、「グリッド」を1つの升目の領域の意味で使用している。当該升目(グリッド)は、正方形であってもよいし、長方形であってもよいし、ひし形であってもよいし、不定形な形であってもよい。
【0035】
候補エリアは、コード測位演算の結果得られた位置の近傍の(例えば最も近い)、候補エリア種別に該当するエリアである。例えば、図9に示す例において、絶対位置測位部110によるコード測位演算の結果が「A]で示す歩道上の位置であり、候補エリア種別が"車線"である場合、測位制御部140は、コード測位演算の結果得られた位置に最も近い候補エリア種別のエリアとして、「A」に最も近い車道における、移動体の進行方向の中央分離帯よりも左側の車線(図9の「B」)を特定する。
【0036】
候補エリア種別に該当するエリアの決定にあたって、付加的な情報を使用してもよい。例えば、曜日、時刻等により、移動体の属性に応じた移動体の存在するエリア、進行方向を特定できる場合には、その特定した情報を用いて候補エリア種別に該当するエリアを決定することができる。例えば、時刻等による交通規制、歩行者天国のエリア、イベントの開催エリア、等がこれに該当する。
【0037】
図9に示した候補エリアBの道路に垂直方向の幅は例えば、道路幅の半分として決定することができる。また、道路に平行な方向の長さについては、例えば、移動体の速さや受信環境に基づき決定することができる。受信環境に基づく長さの決定方法の一例として、開空間率の低い、ディープ・アーバンキャニオン環境においてはより長く、比較的開空間率の高い、ライト・アーバンキャニオン環境においてはより短く設定される。
【0038】
また、例えば、予め定められたスケジュールおよびルートに従って運行する、公共交通機関の車両等の移動体については、運行計画を考慮して長さを設定してもよい。
【0039】
図10に、複数のグリッド(A~L)に分割された候補エリアの例を示す。グリッドのサイズは任意である。例えば、予め定められたサイズであってもよいし、候補エリアのサイズ(車線幅等)に基づいて決定してもよい。例えば、1車線上に候補エリアを設けた場合に、2m四方のサイズのグリッドとしてもよい。
【0040】
図10は、車道(片側車線)に沿って、各グリッドを生成した例であるが、このようにグリッドを生成することは一例に過ぎない。例えば、図11に示すように、緯度・経度の方向に沿った升目になるようにグリッドを生成してもよい。
【0041】
測位制御部140は、各グリッドの同一位置(ここでは例としてグリッドの中心位置とする)とコード測位演算の結果である位置が最も近い(つまり、最も直線距離の短い)グリッドを特定する。グリッドの中心位置は、特に断らない限り、3次元座標値(x,y,z)で表される位置である。
【0042】
グリッドの中心位置に関し、水平面(2次元)のx、y座標値は、地理空間情報における2次元地図の情報から得ることができる。また、グリッドの中心位置の高さ(z座標値)については、地理空間情報における、グリッドの中心位置の地表(例えば、道路であれば道路表面)の高さの値、もしくはこれに移動体の受信位置の道路表面からの高さを加えた値を使用することができる。
【0043】
例えば、図10に示す例において、コード測位演算の結果である位置がAであるとし、Aに最も近い中心を持つグリッドがDであるとすると、測位制御部140は、最も直線距離の短いグリッドとしてグリッドDを特定する。
【0044】
上記のようにしてコード測位演算の結果である位置から最も直線距離の短いグリッドを特定することは、候補エリア内において移動体が位置すると推定される1つのグリッドを特定する方法の一例である。候補エリア内において移動体が位置すると推定される1つのグリッドを「特定グリッド」と呼ぶことにする。
【0045】
<S105>
S105において、測位制御部140は、特定グリッドの中心位置を初期座標値とする搬送波位相測位演算を行うよう絶対位置測位部110に指示し、絶対位置測位部110は、当該初期座標値を用いた搬送波位相測位演算を行う。
【0046】
<S106>
S106において、測位制御部140は、絶対位置測位部110による特定グリッドの中心位置を初期座標値とする搬送波位相測位演算において収束(Fix)解が得られたか、又は、当該搬送波位相測位演算において、候補エリア内のx,y座標値のフロート解が得られたか否かを判定する。
【0047】
候補エリア内のx,y座標値のフロート解が得られたとは、搬送波位相測位演算で収束(Fix)解は得られないが、フロート解が得られており、その解(位置)である3次元座標値(x,y,z)における(x,y)で示される2次元位置が、候補エリアの2次元領域の中にあることである。
【0048】
S106の判定結果がYesであればS107に進み、S106の判定結果がNoであればS108に進む。
【0049】
<S107:S106の判定結果がYesの場合>
測位制御部140は、絶対位置測位部110により得られた収束(Fix)解又はフロート解を出力部130に送信し、出力部130が当該収束(Fix)解又はフロート解を出力する。
【0050】
<S108:S106の判定結果がNoの場合>
測位制御部140は、特定グリッドの中心位置のx,y座標値と、地理空間情報から得られる特定グリッドの中心位置の高さ情報(道路面の高さ、道路面の高さに移動体の受信位置の高さを加えた値、等)であるz座標値とを測位結果として出力部130に送信し、出力部130が当該測位結果を出力する。
【0051】
実施例1では、搬送波位相測位演算において、収束(Fix)解が得られずに、候補エリア内のx,y座標値のフロート解が得られた場合に当該フロート解を出力しているが、搬送波位相測位演算において、収束(Fix)解が得られずに、特定グリッド内のx,y座標値のフロート解が得られた場合に当該フロート解を出力することとしてもよい。
【0052】
(実施例2)
以下、実施例2を図4のフローチャートを参照して説明する。実施例2では、実施例1と異なる点を主に説明する。
【0053】
<S201~S203>
図4のS201、S202、S203の処理はそれぞれ、実施例1で説明したS101、S102、S103の処理と同じである。
【0054】
<S204>
S204において、まず、測位制御部140は、実施例1のS104での処理と同様にして、候補エリアを特定し、候補エリアを複数のグリッドに分割する。実施例2では、候補エリア内において移動体が位置すると推定される1つのグリッドを特定する方法として、下記の方法を用いる。
【0055】
測位制御部140は、相対位置測位部120(例:車載カメラ、全方位カメラ、LiDAR)により収集された移動体周辺の構造物のデータと、地理空間情報とを比較することで、移動体が位置すると推定されるグリッドを特定する。移動体周辺の構造物のデータは、車載カメラによる画像、全方位カメラによる天空画像、あるいはLiDARで取得した点群データ、等から取得することができる。
【0056】
測位制御部140は、例えば、移動体(自動車)の進行方向の左真横に、特定のビルがあることを検知した場合、そのビルに最も近いグリッドを移動体が位置すると推定されるグリッドであると特定することができる。
【0057】
地理空間情報と比較することで、移動体が位置すると推定されるグリッドを特定するその他の方法としては、例えば、移動体がビルや地下鉄のコンコース等の出口から屋外に移動する際には屋内測位等の手段で出口のID(識別子)の情報を取得することにより、地理空間情報から出口の位置に最も近いグリッドを特定することができる。
【0058】
<S205>
S205において、測位制御部140は、特定グリッドの中心位置を初期座標値とする搬送波位相測位演算を行うよう絶対位置測位部110に指示し、絶対位置測位部110は、当該初期座標値を用いた搬送波位相測位演算を行う。
【0059】
<S206>
S206において、測位制御部140は、絶対位置測位部110による特定グリッドの中心位置を初期座標値とする搬送波位相測位演算において収束(Fix)解が得られたか、又は、当該搬送波位相測位演算において、特定グリッド内のx,y座標値のフロート解が得られたか否かを判定する。
【0060】
特定グリッド内のx,y座標値のフロート解が得られたとは、搬送波位相測位演算で収束(Fix)解は得られないがフロート解が得られており、その解(位置)である3次元座標値(x,y,z)における(x,y)で示される2次元位置が、特定グリッドの2次元領域の中にあることである。
【0061】
S206の判定結果がYesであればS207に進み、S206の判定結果がNoであればS208に進む。
【0062】
<S207:S206の判定結果がYesの場合>
測位制御部140は、絶対位置測位部110により得られた収束(Fix)解又はフロート解を出力部130に送信し、出力部130が当該収束(Fix)解又はフロート解を出力する。
【0063】
<S208:S206の判定結果がNoの場合>
測位制御部140は、特定グリッドの中心位置のx,y座標値と、地理空間情報から得られる特定グリッドの中心位置の高さ情報(道路面の高さ、道路面の高さに移動体の受信位置の高さを加えた値、等)であるz座標値とを測位結果として出力部130に送信し、出力部130が当該測位結果を出力する。
【0064】
(実施例3)
以下、実施例3を図5のフローチャートを参照して説明する。実施例3では、実施例1と異なる点を主に説明する。
【0065】
<S301~S303>
図5のS301、S302、S303の処理はそれぞれ、実施例1で説明したS101、S102、S103の処理と同じである。
【0066】
<S304>
S304において、まず、測位制御部140は、実施例1のS104での処理と同様にして、候補エリアを特定し、候補エリアを複数のグリッドに分割する。実施例3では、候補エリア内において移動体が位置すると推定される1つのグリッドを特定する方法として、下記の方法を用いる。
【0067】
測位制御部140は、各グリッドの同一位置(ここでは例としてグリッドの中心位置とする)において、推定されるGNSS衛星信号の受信状態(可視/不可視の状態)と移動体におけるGNSS衛星信号の受信状態(実測値)とを比較し、両者が最も近いグリッドを特定する。なお、この手法は非特許文献1に開示されているシャドウマッチングと呼ばれる手法に基づく。
【0068】
測位制御部140は、データ格納部150から(あるいは、モバイル網のSUPL(Secure User Plane Location)サーバ、もしくはインターネット上のサーバから)全GNSS衛星の軌道情報を取得し、データ格納部150から(あるいはインターネット上のサーバから)地理空間情報(前述したダイナミックマップ等)を取得する。測位制御部140は、これらの情報に基づいて、各GNSS衛星の現在位置を算出し、グリッド毎に、その現在位置にあるGNSS衛星から送信されたGNSS衛星信号が、地理空間情報に含まれる建物等によって遮断・反射されずに、グリッドの中心位置に直接到達するか、どうかを計算(3次元レイ・トレースシミュレーション)によって判定する。GNSS衛星信号がグリッドに直接到達するとは、当該GNSS衛星がそのグリッドの中心位置から直接に(見通し状態で)見ることができる位置にあること(可視であること)を意味する。グリッドの中心位置に直接到達するGNSS衛星信号を可視衛星信号と呼ぶ。
【0069】
また、絶対位置測位部110は、受信する各GNSS衛星信号の受信品質(例:CNR(Carrier-to-Noise Ratio:搬送波対雑音比))を計測し、計測したGNSS衛星信号毎の受信品質を測位制御部140に渡す。
【0070】
測位制御部140は、受信品質が予め定めた閾値以上であるGNSS衛星信号を、移動体の現在位置において移動体がGNSS衛星から直接に(建物等によって遮断・反射されずに)受信したGNSS衛星信号、つまり可視衛星信号であると推定する。
【0071】
実際には多数(例えば50個程度)のGNSS衛星からの信号を受信し得るが、ここでは簡単のために5つのGNSS衛星1、GNSS衛星2、GNSS衛星3、GNSS衛星4、GNSS衛星5があるものとして説明する。
【0072】
例えば、あるグリッド(グリッドAとする)の中心位置において、GNSS衛星の軌道情報と地理空間情報とから計算により得られた可視衛星信号の受信状態が、(GNSS衛星1,GNSS衛星2,GNSS衛星3,GNSS衛星4,GNSS衛星5)=(1,0,1,0,0)であるとする。ここで、「1」は、そのGNSS衛星から可視衛星信号として当該グリッドの中心位置に直接に信号が届くことを意味し、「0」はそうではないこと(建物に遮断・反射すること)を意味する。
【0073】
また、絶対位置測位部110による衛星信号の受信状態に基づき、測位制御部140における受信品質の閾値判定により得られた、移動体の現在位置での可視衛星信号の受信状態が(GNSS衛星1,GNSS衛星2,GNSS衛星3,GNSS衛星4,GNSS衛星5)=(1,0,1,0,0)であるとする。
【0074】
上記の例の場合、理論値の受信状態と観測に基づく受信状態が一致するので、測位制御部140は、移動体の位置がグリッドA上にあると推定できる。
【0075】
測位制御部140は、各グリッドで上記のように衛星信号の受信状態を計算により推定し、実測に基づく受信状態と比較することで両者が最も近いグリッドを特定する。例えば、上記のように可視衛星信号の受信状態に0、1を使用した場合において、実測に基づく受信状態の0/1と、計算により得られた受信状態の0/1の一致するGNSS衛星の数が最も多いグリッドを、「両者が最も近いグリッド」であると特定する。このようにして特定されたグリッドは、候補エリア内において移動体が位置すると推定される特定グリッドである。上記の比較方法では、使用する衛星の数が多いほどグリッドの特定精度は向上する。
【0076】
<S305>
S305において、測位制御部140は、特定グリッドの中心位置を初期座標値とする搬送波位相測位演算を行うよう絶対位置測位部110に指示し、絶対位置測位部110は、当該初期座標値を用いた搬送波位相測位演算を行う。
【0077】
<S306>
S306において、測位制御部140は、絶対位置測位部110による特定グリッドの中心位置を初期座標値とする搬送波位相測位演算において収束(Fix)解が得られたか、又は、当該搬送波位相測位演算において、特定グリッド内のx,y座標値のフロート解が得られたか否かを判定する。
【0078】
特定グリッド内のx,y座標値のフロート解が得られたとは、搬送波位相測位演算で収束(Fix)解は得られないがフロート解が得られており、その解(位置)である3次元座標値(x,y,z)における(x,y)で示される2次元位置が、特定グリッドの2次元領域の中にあることである。
【0079】
S306の判定結果がYesであればS307に進み、S306の判定結果がNoであればS308に進む。
【0080】
<S307:S306の判定結果がYesの場合>
測位制御部140は、絶対位置測位部110により得られた収束(Fix)解又はフロート解を出力部130に送信し、出力部130が当該収束(Fix)解又はフロート解を出力する。
【0081】
<S308:S306の判定結果がNoの場合>
測位制御部140は、特定グリッドの中心位置のx,y座標値と、地理空間情報から得られる特定グリッドの中心位置の高さ情報(道路面の高さ、道路面の高さに移動体の受信位置の高さを加えた値、等)であるz座標値とを測位結果として出力部130に送信し、出力部130が当該測位結果を出力する。
【0082】
(実施例4)
次に、実施例4を図6のフローチャートを参照して説明する。実施例4では、実施例3と異なる点を主に説明する。
【0083】
<S401~S404>
図6のS401、S402、S403、S404の処理はそれぞれ、実施例3におけるS301、S302、S303、S304の処理と同じである。
【0084】
<S405>
S405において、測位制御部140は、地理空間情報に基づいて、特定グリッドの中心位置における可視衛星信号を特定し、特定グリッドの中心位置を初期座標値とし、特定された可視衛星信号を使用した搬送波位相測位演算を行うよう絶対位置測位部110に指示する。絶対位置測位部110は、当該搬送波位相測位演算を行う。このように、可視衛星信号を使用した搬送波位相測位演算を行うことで、測位精度を向上させることができる。
【0085】
また、S405において、可視衛星信号の数が所定閾値以上である場合には、可視衛星信号のみを使用して搬送波位相測位演算を行い、可視衛星信号の数が所定閾値未満である場合には、可視衛星信号と不可視衛星信号の両方を使用して搬送波位相測位演算を行うこととしてもよい。上記の所定閾値は、例えば5である。
【0086】
<S406~S408>
図6のS406、S407、S408の処理はそれぞれ、実施例3で説明したS306、S307、S308の処理と同じである。
【0087】
(実施例5)
以下、実施例5を図7のフローチャートを参照して説明する。実施例5では、実施例1と異なる点を主に説明する。
【0088】
<S501~S503>
図7のS501、S502、S503の処理はそれぞれ、実施例1で説明したS101、S102、S103の処理と同じである。
【0089】
<S504>
S504において、まず、測位制御部140は、実施例1のS104での処理と同様にして、候補エリアを特定し、候補エリアを複数のグリッドに分割する。実施例5では、候補エリア内において移動体が位置すると推定される1つのグリッドを特定する方法として、下記の方法を用いる。
【0090】
絶対位置測位部110は、受信する各GNSS衛星信号の測位演算における観測データを得る。ここで得られる観測データは可視衛星信号だけではなく、マルチパスとして受信される不可視衛星信号を含む、受信された全ての衛星信号の観測データである。観測データは一例として、受信する各GNSS衛星信号の受信品質(例:CNR)の情報やGNSSレシーバの測位演算における疑似距離及び搬送波位相計測の結果の情報である。絶対位置測位部110は、測定したGNSS衛星信号毎の観測データを測位制御部140に渡す。
【0091】
測位制御部140は、機械学習により学習済みのモデル(便宜上、「グリッド特定モデル」と呼ぶ)を保持している。なお、グリッド特定モデルがデータ格納部150に格納されていて、測位制御部140は、当該グリッド特定モデルをデータ格納部150から読み出して使用することとしてもよい。
【0092】
測位制御部140は、絶対位置測位部110から受け取ったGNSS衛星信号毎の観測データをグリッド特定モデルに入力し、グリッド特定モデルは、1つのグリッドを出力する。この出力されたグリッドは、候補エリア内において移動体が位置すると推定される1つのグリッドであり、実施例1~4で説明した「特定グリッド」である。上記グリッド特定モデルは、機械学習におけるどのようなモデルであってもよいが、例えば、ニューラルネットワークである。
【0093】
グリッド特定モデルの学習に関しては、例えば、任意の時刻における様々な場所(それぞれ正解グリッドがある)において実測した、GNSS衛星信号の観測データ(例えば受信品質)と正解グリッドを教師データとして用いることで学習を行うことができる。つまり、グリッド特定モデルにGNSS衛星信号の観測データを入力し、グリッド特定モデルから出力される値(グリッド)と正解グリッドとの差が小さくなるようにグリッド特定モデルのパラメータを調整することで学習を行う。尚、実測した、GNSS衛星信号の観測データの収集には、クラウドソーシングの手法を用いることもできる。例えば、バスの停留所付近の乗客の保持するスマートフォン端末から、時刻と位置の特定されたGNSS衛星信号の観測データを収集することができる。
【0094】
また、教師データとして、上記のような実測値の観測データを用いることに代えて、地理空間情報に基づく3次元レイ・トレースシミュレーションにより、マルチパスを含む疑似信号を模擬可能な、GNSS信号シミュレータを使用して、任意の時刻における様々な場所(それぞれ正解グリッドがある)における観測データ(例えば受信品質)を生成し、当該観測データと正解グリッドを学習データとして使用して学習を行ってもよい。
【0095】
グリッド特定モデルの学習の処理は、位置計測装置100の測位制御部140が行ってもよいし、位置計測装置100とは別の装置で行って、得られたグリッド特定モデルを位置計測装置100の測位制御部140(又はデータ格納部150)に入力することとしてもよい。
【0096】
<S505>
S505において、測位制御部140は、特定グリッドの中心位置を初期座標値とする搬送波位相測位演算を行うよう絶対位置測位部110に指示し、絶対位置測位部110は、当該初期座標値を用いた搬送波位相測位演算を行う。
【0097】
<S506>
S506において、測位制御部140は、絶対位置測位部110による特定グリッドの中心位置を初期座標値とする搬送波位相測位演算において収束(Fix)解が得られたか、又は、当該搬送波位相測位演算において、特定グリッド内のx,y座標値のフロート解が得られたか否かを判定する。
【0098】
特定グリッド内のx,y座標値のフロート解が得られたとは、搬送波位相測位演算で収束(Fix)解は得られないがフロート解が得られており、その解(位置)である3次元座標値(x,y,z)における(x,y)で示される2次元位置が、特定グリッドの2次元領域の中にあることである。
【0099】
S506の判定結果がYesであればS507に進み、S506の判定結果がNoであればS508に進む。
【0100】
<S507:S506の判定結果がYesの場合>
測位制御部140は、絶対位置測位部110により得られた収束(Fix)解又はフロート解を出力部130に送信し、出力部130が当該収束(Fix)解又はフロート解を出力する。
【0101】
<S508:S506の判定結果がNoの場合>
測位制御部140は、特定グリッドの中心位置のx,y座標値と、地理空間情報から得られる特定グリッドの中心位置の高さ情報(道路面の高さ、道路面の高さに移動体の受信位置の高さを加えた値、等)であるz座標値とを測位結果として出力部130に送信し、出力部130が当該測位結果を出力する。
【0102】
(実施例6)
次に、実施例6を図8のフローチャートを参照して説明する。実施例6では、実施例5と異なる点を主に説明する。
【0103】
<S601~S604>
図8のS601、S602、S603、S604の処理はそれぞれ、実施例5におけるS501、S502、S503、S504の処理と同じである。
【0104】
<S605>
S605において、測位制御部140は、地理空間情報に基づいて、特定グリッドの中心位置における可視衛星信号を特定し、特定グリッドの中心位置を初期座標値とし、特定された可視衛星信号を使用した搬送波位相測位演算を行うよう絶対位置測位部110に指示する。絶対位置測位部110は、当該搬送波位相測位演算を行う。このように、可視衛星信号を使用した搬送波位相測位演算を行うことで、測位精度を向上させることができる。
【0105】
また、S605において、可視衛星信号の数が所定閾値以上である場合には、可視衛星信号のみを使用して搬送波位相測位演算を行い、可視衛星信号の数が所定閾値未満である場合には、可視衛星信号と不可視衛星信号の両方を使用して搬送波位相測位演算を行うこととしてもよい。上記の所定閾値は、例えば5である。
【0106】
<S606~S608>
図8のS606、S607、S608の処理はそれぞれ、実施例5におけるS506、S507、S508の処理と同じである。
【0107】
実施例2~6では、搬送波位相測位演算において、収束(Fix)解が得られずに、特定グリッド内のx,y座標値のフロート解が得られた場合に当該フロート解を出力しているが、搬送波位相測位演算において、収束(Fix)解が得られずに、候補エリア内のx,y座標値のフロート解が得られた場合に当該フロート解を出力することとしてもよい。
【0108】
また、実施例1のS105及び実施例2のS205においても、実施例4のS405及び、実施例2のS605と同様に、測位制御部140は、地理空間情報に基づいて、特定グリッドの中心位置における可視衛星信号を特定し、特定グリッドの中心位置を初期座標値とし、特定された可視衛星信号を使用した搬送波位相測位演算を行うよう絶対位置測位部110に指示してもよい。絶対位置測位部110は、当該搬送波位相測位演算を行う。
【0109】
(変形例)
前述したように、位置計測装置100は、物理的にまとまった1つの装置であってもよいし、いくつかの機能部が物理的に分離していて、分離された複数の機能部がネットワークにより接続された装置であってもよい。例えば、搬送波位相測位演算をネットワークを介した装置、例えばクラウド上の装置で行ってもよい。図12はその場合のシステム構成例である。
【0110】
ネットワーク300上に絶対位置測位装置200が備えられる。この絶対位置測位装置200はクラウド上の装置である。
【0111】
絶対位置測位装置200は、絶対位置測位演算部210、観測データ受信部220、測位結果送信部230を備える。観測データ受信部220が、移動体(位置計測装置100)によりGNSS衛星信号を観測して得られた観測データを受信する。絶対位置測位演算部210が当該観測データを用いて搬送波位相測位演算を実行する。測位結果送信部230は、得られた測位結果を位置計測装置100に送信する。
【0112】
図12に示す位置計測装置100は、図1の構成と比較して、絶対位置測位部110を備えずに、観測データ取得送信部160と測位結果受信部170を備える。観測データ取得送信部160は、GNSS衛星信号を受信、観測して、観測データを絶対位置測位装置200に送信する。測位結果受信部170は、絶対位置測位装置200から測位結果を受信し、測位結果を測位制御部140に渡す。
【0113】
絶対位置測位に関する処理以外の処理内容は、これまでに説明した処理内容と同じである。これまでに説明した測位制御部140と絶対位置測位部110との間の情報のやりとりは、図12の構成では、ネットワーク300を介した測位制御部140と絶対位置測位装置200との間の情報のやりとりになる。
【0114】
また、前述したように、測位制御部140がクラウド上に備えられてもよい。例えば、図12の構成において、測位制御部140が位置計測装置100ではなく、絶対位置測位装置200に備えられてもよいし、絶対位置測位演算を行う手段は位置計測装置100に残し、測位制御部140のみをクラウド上に備えてもよい。
【0115】
(実施の形態の効果)
以上説明したように、本実施の形態によれば、移動体の属性に基づき、位置の候補エリア種別を特定し、その候補エリア種別に該当する候補エリア内のグリッドを地理空間情報に基づき絞り込み、その結果に基づいた測位演算を実行するので、アーバンキャニオン受信環境における測位精度を改善することができる。搬送波位相測位方式においては初期座標値が真値に近いほど、また、可視衛星信号を多く使用するほど、収束(Fix)解が得られる可能性が向上するが、本実施の形態によれば地理空間情報を併用することによりGNSS衛星信号のみを使用した測位の場合と比較して、これら両者の効果を高めることが期待できる。
【0116】
(実施の形態のまとめ)
(第1項)
移動体の測位を行う位置計測装置であって、
前記移動体の属性、及び地理空間情報に基づいて、前記移動体の位置の候補エリア種別を決定し、
前記候補エリア種別に該当する候補エリアを複数のグリッドに分割し、当該複数のグリッドの中から前記移動体が位置すると推定されるグリッドを特定し、
前記特定されたグリッドを用いて得られた絶対位置測位部による搬送波位相測位演算の測位解を出力する測位制御部
を備える位置計測装置。
(第2項)
前記測位制御部は、前記移動体の周辺の構造物のデータと地理空間情報とを比較することにより、前記複数のグリッドの中から前記移動体が位置すると推定されるグリッドを特定する
第1項に記載の位置計測装置。
(第3項)
前記測位制御部は、機械学習により学習されたグリッド特定モデルを用いて、前記移動体が受信したGNSS衛星信号の観測データに基づいて、前記複数のグリッドの中から前記移動体が位置すると推定されるグリッドを特定する
第1項に記載の位置計測装置。
(第4項)
前記絶対位置測位部は、前記特定されたグリッドの中心位置を初期座標値とする搬送波位相測位演算を行い、
前記搬送波位相測位演算の測位解として、収束解、又は、前記特定されたグリッド内の2次元座標値を有するフロート解が得られた場合に、前記測位制御部は、当該収束解又は当該フロート解を出力し、
前記搬送波位相測位演算の測位解として、前記収束解と前記フロート解のいずれも得られなかった場合に、前記測位制御部は、前記特定されたグリッドの中心位置の2次元座標値と、当該中心位置の高さを示す座標値とを測位結果として出力する
第1項ないし第3項のうちいずれか1項に記載の位置計測装置。
(第5項)
前記絶対位置測位部は、前記特定されたグリッドの中心位置を初期座標値とする搬送波位相測位演算を行い、
前記搬送波位相測位演算の測位解として、収束解、又は、前記候補エリア内の2次元座標値を有するフロート解が得られた場合に、前記測位制御部は、当該収束解又は当該フロート解を出力し、
前記搬送波位相測位演算の測位解として、前記収束解と前記フロート解のいずれも得られなかった場合に、前記測位制御部は、前記特定されたグリッドの中心位置の2次元座標値と、当該中心位置の高さを示す座標値とを測位結果として出力する
第1項ないし第3項のうちいずれか1項に記載の位置計測装置。
(第6項)
前記絶対位置測位部は、前記特定されたグリッドの中心位置を初期座標値とし、当該中心位置における可視衛星信号を使用した搬送波位相測位演算を行い、
前記搬送波位相測位演算の測位解として、収束解、又は、前記特定されたグリッド内の2次元座標値を有するフロート解が得られた場合に、前記測位制御部は、当該収束解又は当該フロート解を出力し、
前記搬送波位相測位演算の測位解として、前記収束解と前記フロート解のいずれも得られなかった場合に、前記測位制御部は、前記特定されたグリッドの中心位置の2次元座標値と、当該中心位置の高さを示す座標値とを測位結果として出力する
第1項ないし第3項のうちいずれか1項に記載の位置計測装置。
(第7項)
移動体の測位を行う位置計測装置が実行する測位方法であって、
前記移動体の属性、及び地理空間情報に基づいて、前記移動体の位置の候補エリア種別を決定するステップと、
前記候補エリア種別に該当する候補エリアを複数のグリッドに分割し、当該複数のグリッドの中から前記移動体が位置すると推定されるグリッドを特定するステップと、
前記特定されたグリッドを用いて得られた絶対位置測位部による搬送波位相測位演算の測位解を出力するステップと
を備える測位方法。
(第8項)
コンピュータを、第1項ないし第6項のうちいずれか1項に記載の位置計測装置における測位制御部として機能させるためのプログラム。
【0117】
以上、本実施の形態について説明したが、本発明はかかる特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0118】
100 位置計測装置
110 絶対位置測位部
120 相対位置測位部
130 出力部
140 測位制御部
150 データ格納部
160 観測データ取得送信部
170 測位結果受信部
200 絶対位置測位装置
210 絶対位置測位演算部
220 観測データ受信部
230 測位結果送信部
300 ネットワーク
1000 ドライブ装置
1001 記録媒体
1002 補助記憶装置
1003 メモリ装置
1004 CPU
1005 インタフェース装置
1006 表示装置
1007 入力装置
1008 出力装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12