(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-04
(45)【発行日】2023-12-12
(54)【発明の名称】判定プログラム、判定装置、および判定方法
(51)【国際特許分類】
G06T 7/20 20170101AFI20231205BHJP
G06T 7/00 20170101ALI20231205BHJP
G06V 40/16 20220101ALI20231205BHJP
【FI】
G06T7/20 300B
G06T7/00 660A
G06V40/16 B
(21)【出願番号】P 2022530404
(86)(22)【出願日】2020-06-09
(86)【国際出願番号】 JP2020022725
(87)【国際公開番号】W WO2021250786
(87)【国際公開日】2021-12-16
【審査請求日】2022-09-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000005223
【氏名又は名称】富士通株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 淳哉
(72)【発明者】
【氏名】内田 昭嘉
(72)【発明者】
【氏名】吉井 章人
(72)【発明者】
【氏名】森岡 清訓
(72)【発明者】
【氏名】村瀬 健太郎
【審査官】岡本 俊威
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-008949(JP,A)
【文献】山本 俊太 他,モーションキャプチャで得られた顔特徴点位置データを用いた表情の識別,電子情報通信学会技術研究報告 Vol.110 No.457 IEICE Technical Report,日本,社団法人電子情報通信学会,2011年02月28日,第110巻,101~106
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06T 7/00- 7/90
G06V 40/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マーカを付した顔を含む連続で撮像された撮像画像群を取得し、
前記マーカの位置推移を示す複数のパターンから、前記撮像画像群のうち連続した複数の画像に含まれる前記マーカの位置の時系列の変化に応じた第1のパターンを選択し、
前記第1のパターンに基づいて決定されたアクションユニットの判定基準と、前記撮像画像群のうち前記複数の画像の後に含まれる撮像画像に含まれる前記マーカの位置とに基づいて、前記アクションユニットの発生強度を判定する
処理をコンピュータに実行させることを特徴とする判定プログラム。
【請求項2】
前記第1のパターンを選択する処理は、前記顔の無表情試行の第1の開始時刻に基づいて、前記撮像画像群から、前記第1の開始時刻より前の第1の画像を含む前記複数の画像を決定し、前記第1の画像における前記マーカの位置に基づいて、前記第1のパターンを選択する処理を含み、
前記発生強度を判定する処理は、前記第1のパターンに基づいて、前記顔の無表情試行の第1の終了時刻より後の前記マーカの仮想の位置の推定値を算出し、前記撮像画像群における前記第1の終了時刻後の前記マーカの位置に対して、算出した前記推定値を基準として前記マーカの位置の移動量を算出し、前記発生強度を判定する処理を含む
ことを特徴とする請求項1に記載の判定プログラム。
【請求項3】
前記撮像画像群において前記マーカの位置が無表情時の位置に収束していることを判定することにより、無表情試行時間を検知することによって、前記第1の開始時刻および前記第1の終了時刻を取得することを前記コンピュータに実行させることを特徴とする請求項2に記載の判定プログラム。
【請求項4】
前記推定値を算出する処理は、前記第1のパターンの前記マーカの位置を、時間方向への平行移動、マーカ位置方向への拡大縮小、および前記マーカ位置方向への平行移動の少なくとも1つを実行することで、前記第1の画像における前記マーカの位置に合わせこみ、前記マーカの位置を合わせこんだ前記第1のパターンに基づいて、前記顔の無表情試行の第1の終了時刻より後の前記マーカの仮想の位置の推定値を算出する処理を含むことを特徴とする請求項2に記載の判定プログラム。
【請求項5】
前記第1のパターンを選択する処理は、前記複数のパターンの各々を、前記複数の画像における前記第1の開始時刻と前記第1の終了時刻との間の前記マーカの特定の位置に合わせこみ、前記複数のパターンのうち前記マーカの特定の位置との差が最も小さい前記第1のパターンを選択する処理を含むことを特徴とする請求項2に記載の判定プログラム。
【請求項6】
前記第1のパターンを選択する処理は、前記顔のユーザの身体的特徴に基づいて、前記第1のパターンを選択する処理を含むことを特徴とする請求項1に記載の判定プログラム。
【請求項7】
前記複数の画像の後に含まれる撮像画像と判定された前記アクションユニットの判定強度とに基づいて、機械学習用のデータを生成する処理を前記コンピュータにさらに実行させることを特徴とする請求項1に記載の判定プログラム。
【請求項8】
マーカを付した顔を含む連続で撮像された撮像画像群を取得する取得部と、
前記マーカの位置推移を示す複数のパターンから、前記撮像画像群のうち連続した複数の画像に含まれる前記マーカの位置の時系列の変化に応じた第1のパターンを選択する選択部と、
前記第1のパターンに基づいて決定されたアクションユニットの判定基準と、前記撮像画像群のうち前記複数の画像の後に含まれる撮像画像に含まれる前記マーカの位置とに基づいて、前記アクションユニットの発生強度を判定する判定部と
を備えたことを特徴とする判定装置。
【請求項9】
マーカを付した顔を含む連続で撮像された撮像画像群を取得し、
前記マーカの位置推移を示す複数のパターンから、前記撮像画像群のうち連続した複数の画像に含まれる前記マーカの位置の時系列の変化に応じた第1のパターンを選択し、
前記第1のパターンに基づいて決定されたアクションユニットの判定基準と、前記撮像画像群のうち前記複数の画像の後に含まれる撮像画像に含まれる前記マーカの位置とに基づいて、前記アクションユニットの発生強度を判定する
処理をコンピュータが実行することを特徴とする判定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、判定プログラム、判定装置、および判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ノンバーバルコミュニケーションにおいて、表情は重要な役割を果たしている。人を理解し人を支援するコンピュータを開発する上で、表情推定は必須の技術である。表情を推定するには、まず表情の記述方法を規定しなければならない。表情の記述方法として、表情の記述方法として、AU(Action Unit:アクションユニット)が知られている。AUは、顔面筋の解剖学的知見に基づき定義された、表情表出に関与する顔面上の動作で、これまでAUを推定する技術も提案されている。
【0003】
AUを推定するAU推定エンジンの代表的な形態は、大量の教師データに基づく機械学習をベースとし、教師データとして、顔表情の画像データと、各AUのOccurrence(発生の有無)やIntensity(発生強度)が用いられる。また、教師データのOccurrenceやIntensityは、Coder(コーダ)と呼ばれる専門家によりAnnotation(アノテーション)される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【文献】X. Zhang, L. Yin, J. Cohn, S. Canavan, M. Reale, A. Horowitz, P. Liu, and J. M. Girard. BP4D-spontaneous: A high-resolution spontaneous 3d dynamic facial expression database. Image and Vision Computing, 32, 2014. 1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の手法には、AU推定のための教師データを生成することが困難な場合があるという問題がある。例えば、コーダによるアノテーションでは、費用および時間のコストがかかるため、データを大量に作成することが困難である。また、顔画像の画像処理による顔の各部位の移動計測では、小さな変化を正確に捉えるのが困難であり、コンピュータが人の判断を介さずに顔画像からAUの判定を行うことは難しい。したがって、コンピュータが人の判断を介さずに顔画像にAUのラベルを付した教師データを生成することは困難である。
【0007】
1つの側面では、AU推定のための教師データを生成することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
1つの態様において、判定プログラムは、マーカを付した顔を含む連続で撮像された撮像画像群を取得する処理をコンピュータに実行させる。判定プログラムは、マーカの位置推移を示す複数のパターンから、撮像画像群のうち連続した複数の画像に含まれるマーカの位置の時系列の変化に応じた第1のパターンを選択する処理をコンピュータに実行させる。判定プログラムは、第1のパターンに基づいて決定されたアクションユニットの判定基準と、撮像画像群のうち複数の画像の後に含まれる撮像画像に含まれるマーカの位置とに基づいて、アクションユニットの発生強度を判定する処理をコンピュータに実行させる。
【発明の効果】
【0009】
1つの側面では、AU推定のための教師データを生成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、実施例1にかかる判定システムの構成例を示す図である。
【
図2】
図2は、実施例1にかかるカメラの配置例を示す図である。
【
図3】
図3は、実施例1にかかるマーカ移動の一例を示す図である。
【
図4】
図4は、実施例1にかかる発生強度の判定方法の一例を示す図である。
【
図5】
図5は、実施例1にかかるマーカ位置に対する垂直方向の移動推移の一例を示す図である。
【
図6】
図6は、実施例1にかかる無表情試行と真の無表情とのマーカ位置のズレの一例を示す図である。
【
図7】
図7は、実施例1にかかる判定装置の構成例を示すブロック図である。
【
図8】
図8は、実施例1にかかる無表情遷移パターンの選択の一例を示す図である。
【
図9】
図9は、実施例1にかかる時系列データと無表情遷移パターンとの合わせこみの一例を示す図である。
【
図10】
図10は、実施例1にかかる発生強度の判定方法の具体例を示す図である。
【
図11】
図11は、実施例1にかかるマーカ除去のためのマスク画像の生成方法の一例を示す図である。
【
図12】
図12は、実施例1にかかるマーカの除去方法の一例を示す図である。
【
図13】
図13は、実施例2にかかる推定システムの構成例を示す図である。
【
図14】
図14は、実施例2にかかる推定装置の構成例を示すブロック図である。
【
図15】
図15は、実施例1にかかる判定処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【
図16】
図16は、実施例2にかかる推定処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【
図17】
図17は、実施例1および2にかかるハードウェア構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本実施形態に係る判定プログラム、判定装置、および判定方法の実施例を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施例により本実施形態が限定されるものではない。また、各実施例は、矛盾のない範囲内で適宜組み合わせることができる。
【実施例1】
【0012】
図1を用いて、実施例に係る判定システムの構成を説明する。
図1は、実施例1にかかる判定システムの構成を示す図である。
図1に示すように、判定システム1は、RGB(Red、Green、Blue)カメラ31、IR(infrared:赤外線)カメラ32、判定装置10および機械学習装置20を有する。
【0013】
図1に示すように、まず、RGBカメラ31およびIRカメラ32は、マーカが付された人物の顔に向けられる。例えば、RGBカメラ31は一般的なデジタルカメラであり、可視光を受光し画像を生成する。また、例えば、IRカメラ32は、赤外線を感知する。また、マーカは、例えばIR反射(再帰性反射)マーカである。IRカメラ32は、マーカによるIR反射を利用してモーションキャプチャを行うことができる。また、以降の説明では、撮像対象の人物を被験者と呼ぶ。
【0014】
判定装置10は、RGBカメラ31によって撮像された画像およびIRカメラ32によるモーションキャプチャの結果を取得する。そして、判定装置10は、AUの発生強度121および撮像画像から画像処理によりマーカを削除した画像122を機械学習装置20に対し出力する。例えば、発生強度121は、各AUの発生強度を0~1の6段階評価で表現し、「AU1:2、AU2:5、AU4:0、…」のようにアノテーションが行われたデータであってもよい。また、発生強度121は、各AUの発生強度を、発生なしを意味する0と、AからEの5段階評価で表現し、「AU1:B、AU2:E、AU4:0、…」のようにアノテーションが行われたデータであってもよい。さらに、発生強度は、5段階評価で表現されるものに限られるものではなく、例えば2段階評価(発生の有無)によって表現されても良い。
【0015】
機械学習装置20は、判定装置10から出力された画像122およびAUの発生強度121を用いて機械学習を行い、画像からAUの発生強度の推定値を算出するためのモデルを生成する。機械学習装置20は、AUの発生強度をラベルとして用いることができる。なお、機械学習装置20の処理は、判定装置10で行ってもよい。この場合、機械学習装置20は、判定システム1に含まれなくてよい。
【0016】
ここで、
図2を用いて、カメラの配置について説明する。
図2は、実施例1にかかるカメラの配置例を示す図である。
図2に示すように、複数のIRカメラ32がマーカトラッキングシステムを構成していてもよい。その場合、マーカトラッキングシステムは、ステレオ撮影によりIR反射マーカの位置を検出することができる。また、複数のIRカメラ32のそれぞれの間の相対位置関係は、カメラキャリブレーションによりあらかじめ補正されているものとする。
【0017】
また、撮像される被験者の顔には、対象とするAU(例:AU1からAU28)をカバーするように、複数のマーカが付される。マーカの位置は、被験者の表情の変化に応じて変化する。例えば、マーカ401は、眉の根元付近に配置される。また、マーカ402およびマーカ403は、豊麗線の付近に配置される。マーカは、1つ以上のAUおよび表情筋の動きに対応した皮膚の上に配置されてもよい。また、マーカは、しわの寄りなどにより、テクスチャ変化が大きくなる皮膚の上を避けて配置されてもよい。
【0018】
さらに、被験者は、基準マーカが付された器具40を装着する。被験者の表情が変化しても、器具40に付された基準マーカの位置は変化しないものとする。このため、判定装置10は、基準マーカからの相対的な位置の変化により、顔に付されたマーカの位置の変化を検出することができる。また、 判定装置10は、基準マーカとの位置関係を基に、各マーカの平面上または空間上の座標を特定することができる。なお、判定装置10は、マーカ位置を、基準座標系から定めてもよいし、基準面の投影位置から定めてもよい。また、基準マーカの数を3つ以上にすることで、判定装置10は、3次元空間におけるマーカ位置を特定することができる。
【0019】
器具40は、例えばヘッドバンドであり、顔の輪郭外に基準マーカを配置する。また、器具40は、VRヘッドセットおよび固い素材のマスクなどであってもよい。その場合、判定装置10は、器具40のリジッド表面を基準マーカとして利用することができる。
【0020】
判定装置10は、AUの判定基準と複数のマーカの位置とに基づいて、複数のAUのそれぞれの発生の有無を判定する。判定装置10は、複数のAUのうち発生している1つ以上のAUに対して、発生強度を判定する。
【0021】
例えば、判定装置10は、判定基準に含まれる第1のAUに対応付けられた第1のマーカの基準位置と、第1のマーカの位置との距離に基づいて算出した第1のマーカの移動量を基に、第1のAUの発生強度を判定する。なお、第1のマーカは、特定のAUに対応する1つ、あるいは複数マーカということができる。
【0022】
AUの判定基準は、例えば、複数のマーカのうち、AU毎にAUの発生強度を判定するために使用される1つまたは複数のマーカを示す。AUの判定基準は、複数のマーカの基準位置を含んでもよい。AUの判定基準は、複数のAUのそれぞれについて、発生強度の判定に使用されるマーカの移動量と発生強度との関係(換算ルール)を含んでもよい。なお、マーカの基準位置は、被験者が無表情な状態(いずれのAUも発生していない)の撮像画像における複数のマーカの各位置に応じて定められてもよい。
【0023】
ここで、
図3を用いて、マーカの移動について説明する。
図3は、実施例1にかかるマーカの移動の一例を示す図である。
図3の(a)、(b)、(c)は、RGBカメラ31によって撮像された画像である。また、画像は、(a)、(b)、(c)の順で撮像されたものとする。例えば、(a)は、被験者が無表情であるときの画像である。判定装置10は、(a)の画像のマーカの位置を、移動量が0の基準位置とみなすことができる。
【0024】
図3に示すように、被験者は、眉を寄せるような表情を取っている。このとき、表情の変化に従い、マーカ401の位置は下方向に移動している。その際、マーカ401の位置と、器具40に付された基準マーカとの間の距離は大きくなっている。
【0025】
また、マーカ401の基準マーカからのX方向およびY方向の距離の変動値は、
図4のように表される。
図4は、実施例1にかかる発生強度の判定方法の一例を示す図である。
図4に示すように、判定装置10は、変動値を発生強度に換算することができる。なお、発生強度は、FACS(Facial Action Coding System)に準じて5段階に量子化されたものであってもよいし、変動量に基づく連続量として定義されたものであってもよい。
【0026】
判定装置10が変動量を発生強度に換算するルールとしては、様々なものが考えられる。判定装置10は、あらかじめ定められた1つのルールに従って換算を行ってもよいし、複数のルールで換算を行い、最も発生強度が大きいものを採用するようにしてもよい。
【0027】
例えば、判定装置10は、被験者が最大限表情を変化させたときの変動量である最大変動量をあらかじめ取得しておき、変動量の最大変動量に対する割合に基づいて発生強度を換算してもよい。また、判定装置10は、従来手法によりコーダがタグ付けしたデータを用いて最大変動量を定めておいてもよい。また、判定装置10は、変動量を発生強度にリニアに換算してもよい。また、判定装置10は、複数の被験者の事前測定から作成された近似式を用いて換算を行ってもよい。
【0028】
また、例えば、判定装置10は、判定基準としてあらかじめ設定された位置と、選択部142によって特定された第1のマーカの位置とに基づいて算出した第1のマーカの移動ベクトルを基に発生強度を判定することができる。この場合、判定装置10は、第1のマーカの移動ベクトルと、第1のAUに対してあらかじめ対応付けられたベクトルとの合致度合いを基に、第1のAUの発生強度を判定する。また、判定装置10は、既存のAU推定エンジンを使って、ベクトルの大きさと発生強度の対応を補正してもよい。
【0029】
以上、器具40に付された基準マーカからのマーカ位置の変動量に基づくAUの発生強度の判定方法の一例について説明した。しかしながら、器具40のズレなどにより、基準マーカからのマーカ位置の測定にズレが生じる場合があり、定期的に各マーカの基準位置のキャリブレーションが必要になってくる。
【0030】
基準マーカのキャリブレーションは、例えば、被験者を無表情にさせ、その時の器具40に付された基準マーカからの各マーカの位置を基準位置と定める。そのため、被験者が安静時の無表情である真の無表情になることが重要になってくるが、表情変化による筋肉の緊張や弛緩、および皮膚のクセにより、被験者は無表情のつもりでも、真の無表情になるには多少の時間がかかる。
【0031】
図5は、実施例1にかかるマーカ位置に対する垂直方向の移動推移の一例を示す図である。
図5では、無表情でない状態から無表情にしようとする時間を示す無表情試行時間t
1で無表情であった被験者がt
2で眉をひそめる表情をし、無表情試行時間t
3で再度、無表情にした際のマーカ401の位置の移動推移を示している。
図5に示すように、t
3で無表情にした際に、すぐにはt
5で示される真の無表情状態にはならず、t
4で示される15秒程度の遷移状態を経ていることがわかる。そのため、被験者が無表情にしたつもりでも、無表情試行時間が十分でなく、すぐに別の表情にしてしまうと、基準位置のキャリブレーションの精度が低下するという問題がある。
【0032】
このような問題が生じると、マーカ位置に基づいて算出するAUの発生の有無や発生強度の精度が低下してしまう。また、高精度なAU推定を実現するための教師データを作成するという観点から、被験者、怒りや笑いなどの感情表現、撮影場所や照明などの撮影条件などについて、様々なバリエーションをカバーできるように、何度も撮影する必要がある。そのため、被験者の無表情試行時間を長くとると、教師データの作成にかかる時間が膨大になるという問題がある。そこで、被験者の無表情試行時間が短くても、真の無表情状態のときの仮想のマーカ位置の推定値を算出する。
【0033】
図6は、実施例1にかかる無表情試行と真の無表情とのマーカ位置のズレの一例を示す図である。
図6では、被験者が無表情試行時間t
10で無表情にしたつもりで別の表情にしてしまい、基準マーカからの距離がd
10と大きく誤差が生じてしまったことを示している。また、無表情試行時間t
10後の実線が基準マーカからのマーカ位置の移動推移を示している。
【0034】
一方、無表情試行時間t
10後の破線は、被験者がそのまま無表情状態を続け、真の無表情になった場合の基準マーカからのマーカ位置の移動推移である。
図6に示すように、真の無表情状態になるためには無表情試行時間t
10では足りず、無表情試行時間t
11の時間が必要である。そこで、本実施形態では、無表情試行時間t
10のマーカ位置の移動推移から、無表情試行時間t
11経過時点の真の無表情状態のときの仮想のマーカ位置の推定値を算出し、より正確なAUの発生強度を判定する。
【0035】
図7を用いて、実施例1にかかる判定装置10の機能構成を説明する。
図7は、判定装置の構成例を示すブロック図である。
図7に示すように、判定装置10は、入力部11、出力部12、記憶部13、および制御部14を有する。
【0036】
入力部11は、データを入力するためのインタフェースである。例えば、入力部11は、RGBカメラ31、IRカメラ32、マウス、およびキーボードなどの入力装置を介してデータの入力を受け付ける。また、出力部12は、データを出力するためのインタフェースである。例えば、出力部12は、ディスプレイなどの出力装置にデータを出力する。
【0037】
記憶部13は、データや制御部14が実行するプログラムなどを記憶する記憶装置の一例であり、例えばハードディスクやメモリなどである。記憶部13は、AU情報131、無表情遷移パターンDB132、無表情モデルDB133を記憶する。
【0038】
AU情報131は、マーカとAUの対応関係を表す情報である。
【0039】
無表情遷移パターンDB132は、無表情試行の開始時刻の一定時刻前のマーカ位置と、無表情試行中のマーカ位置との時系列パターンを格納する。無表情遷移パターンDB132のデータは、真の無表情状態になるように無表情試行時間を十分にとって被験者を予め撮影し、作成されたデータである。
【0040】
無表情モデルDB133は、無表情試行の開始時刻の一定時刻前のマーカ位置を特徴量とし、真の無表情のときのマーカ位置を正解ラベルとして機械学習により生成したモデルを格納する。
【0041】
制御部14は、判定装置10全体を司る処理部であり、取得部141、選択部142、推定部143、判定部144、および生成部145を有する。
【0042】
取得部141は、顔を含む撮像画像を取得する。例えば、取得部141は、複数のAUに対応する複数の位置の各々にマーカを付した被験者の顔を含む連続で撮影された撮像画像群を取得する。取得部141によって取得される撮像画像は、上述したようにRGBカメラ31やIRカメラ32によって撮像される。
【0043】
ここで、RGBカメラ31およびIRカメラ32による撮影が行われる際、被験者は表情を変化させていく。この際、被験者は、自由に表情を変化させてもよいし、あらかじめ定められたシナリオに沿って表情を変化させてもよい。これにより、RGBカメラ31およびIRカメラ32は、時系列に沿って表情が変化していく様子を画像として撮影することができる。また、RGBカメラ31は、動画による撮影を行うこともできる。すなわち、動画は、時系列に並べられた複数の静止画とみなすことができる。
【0044】
また、取得部141は、撮像画像群から、マーカ位置の時系列データを取得する。マーカ位置の時系列データとは、時系列に沿って撮影された撮像画像群の各々に含まれるマーカ位置を特定することにより取得されるマーカ位置の移動推移を示すデータである。なお、撮像画像には複数のマーカが含まれるため、マーカごとに時系列データが取得される。また、マーカ位置は、マーカの基準位置からの相対位置とし、マーカの基準位置は、時系列データ取得前の無表情試行時間におけるマーカ位置に基づいて設定された位置とすることができる。
【0045】
また、取得部141は、例えば、被験者への無表情の指示時刻の記録から無表情試行の開始時刻および終了時刻を取得する。または、取得部141は、上記処理に限らず、時系列データを参照し、マーカ位置が無表情時の位置に収束していることを判定することにより、無表情試行時間を検知し、顔の無表情試行の開始時刻および終了時刻を取得するようにしてもよい。なお、複数の無表情試行時間を検知した場合、取得部141は、検知した無表情試行時間分の開始時刻および終了時刻を取得してもよい。そして、このように検知された複数の無表情試行時間を無表情試行時間の候補として設定することができる。このように、無表情試行時間を検知することにより、無表情試行時間をあらかじめ記録する手間を削減しつつ、信頼性のより高い無表情試行時間を用いてAUの発生強度を判定することができる。
【0046】
選択部142は、マーカの位置推移を示す複数のパターンから、撮像画像群のうち連続した複数の画像に含まれるマーカ位置の時系列の変化に応じたパターンを選択する。
【0047】
より具体的には、選択部142は、無表情遷移パターンDB132から、無表情試行の開始時刻の一定時刻前の特定のマーカ位置に対して、取得部141によって取得された時系列データの特定のマーカ位置とのマーカ位置の差が最も小さい無表情遷移パターンを選択する。
【0048】
図8は、実施例1にかかる無表情遷移パターンの選択の一例を示す図である。
図8では、左上のパターンが取得部141によって取得された時系列データであり、その他の3パターンが無表情遷移パターンDB132に格納された無表情遷移パターンである。
【0049】
図8に示すように、例えば、時系列データの無表情試行の開始時刻の一定時刻前のマーカ位置と、無表情遷移パターンDB132に格納された無表情遷移パターンの各々の無表情試行の開始時刻の一定時刻前の特定のマーカ位置とを比較する。そして、時系列データの特定のマーカ位置とのマーカ位置の差が最も小さい無表情遷移パターンを選択する。例えば、
図8の例では、右上の無表情遷移パターンが、時系列データの特定のマーカ位置とのマーカ位置の差が最も小さいパターンとして選択される。なお、
図8では、便宜上、無表情遷移パターンを3パターンしか示していないが、実際には、より多くの無表情遷移パターンが選択候補として無表情遷移パターンDB132に格納されている。
【0050】
また、選択部142は、複数設定された無表情試行時間の候補に基づいて、無表情遷移パターンDB132から無表情遷移パターンを、例えば、取得部141によって取得された時系列データの特定のマーカ位置とのマーカ位置の差が小さい順に複数選択する。取得部141によって取得される時系列データには、無表情試行時間が複数含まれる場合もあるため、その場合は、複数の無表情試行時間の各々に対して無表情遷移パターンが選択される。
【0051】
また、選択部142は、上記処理に限らず、無表情遷移パターンの各々を、取得部141によって取得された時系列データの開始時刻と終了時刻との間の特定のマーカ位置に合わせこんでもよい。そして、時系列データの特定のマーカ位置とのマーカ位置の差が最も小さい無表情遷移パターンを選択するようにしてもよい。これにより、より適切な無表情遷移パターンを選択することができる。
【0052】
ここで、時系列データに対する無表情遷移パターンの合わせこみについて説明する。
図9は、実施例1にかかる時系列データと無表情遷移パターンとの合わせこみの一例を示す図である。
図9に示すように、時系列データの開始時刻と終了時刻との間、すなわち、無表情試行時間t
10の間のマーカ位置に対し、無表情遷移パターンのマーカ位置を合わせこむ。
【0053】
合わせこむ際には、上記処理に限らず、例えば、無表情試行時間t10およびt20に対して、マーカ位置を、時間方向へ平行移動、マーカ位置方向へ拡大縮小および平行移動して二乗誤差が最小になるように調整することができる。なお、時間方向へ平行移動することは、無表情試行の開始時刻のズレの補正、マーカ位置方向へ拡大縮小および平行移動することは、器具40のズレなどによる定常的なマーカ位置のズレの補正を意図している。
【0054】
また、合わせこむ際には、上記処理に限らず、無表情遷移パターンを、無表情試行の開始時刻付近を除いて、時系列データに合わせこんでもよい。無表情試行の開始時刻付近の無表情遷移パターンとは、例えば、
図9の右側に示される時間t
x間のマーカ位置である。無表情試行の開始時刻付近のマーカ位置は分散が大きいため、これを除いて合わせこむことで、合わせこみの安定性を向上させることができる。
【0055】
図9は、時系列データに対して無表情遷移パターンを正確に合わせこめた例を示している。そのため、別の表情に遷移してしまった、無表情試行の終了時刻であるt
10経過時より後は、合わせこんだ無表情遷移パターンのマーカ位置を用いて、無表情状態が続いた場合の仮想のマーカ位置の推定値を算出することができる。特に、無表情遷移パターンの無表情試行の終了時刻であるt
20経過時点のマーカ位置の距離d
20に基づいて真の無表情状態のときの仮想のマーカ位置の推定値を算出することができる。
【0056】
また、選択部142は、無表情遷移パターンDB132から無表情遷移パターンを、例えば、無表情試行時間の開始時刻の一定時刻前の特定のマーカ位置とのマーカ位置の差が小さい順に複数抽出する。そして、選択部142は、複数抽出した無表情遷移パターンの各々のマーカ位置を、時系列データの開始時刻と終了時刻との間の特定のマーカ位置に合わせこむことにより、時系列データの特定のマーカ位置とのマーカ位置の差が最も小さい無表情遷移パターンを選択する。
【0057】
なお、選択部142による無表情遷移パターンの選択は、無表情遷移パターンDB132にさらに格納された各被験者の身体的な特徴データに基づいて、対象の被験者の身体的な特徴に対応する無表情遷移パターンの中から選択されてもよい。身体的な特徴データとは、例えば、被験者の老化度、肌年齢、実年齢、肥満度、身長、体重、BMI(Body mass index)、性別、人種などである。
【0058】
また、選択部142による無表情遷移パターンの選択は、上記処理に限らず、顔に付した複数のマーカ位置に基づき行われるようにしてもよい。これは、無表情遷移パターンDB132に、無表情試行の開始時刻の一定時刻前の顔に付した複数のマーカ位置と、無表情試行中の顔に付した複数のマーカ位置との時系列パターンを格納することにより行うことができる。これにより、被験者の顔全体の筋肉や皮膚の状態を考慮できるようになり、より適切な無表情遷移パターンを選択することができる。
【0059】
また、選択部142による無表情遷移パターンの選択は、上記処理に限らず、二次元または三次元の多次元のマーカ位置に基づき行われるようにしてもよい。これは、無表情遷移パターンDB132に、無表情試行の開始時刻の一定時刻前の多次元のマーカ位置と、無表情試行中の多次元のマーカ位置の時系列パターンを格納することにより行うことができる。これにより、より適切な無表情遷移パターンを選択することができる。
【0060】
推定部143は、選択部142によって選択された無表情遷移パターンを、取得部141によって取得された時系列データに合わせこむ。そして、合わせこんだ無表情遷移パターンに基づいて、真の無表情のときの仮想のマーカ位置の推定値を算出する。
図9の例の場合は、無表情遷移パターンの無表情試行の終了時刻であるt
20経過時のマーカ位置の距離d
20に基づいて、真の無表情のときの仮想のマーカ位置の推定値を算出することができる。
【0061】
また、推定部143は、複数選択された無表情遷移パターンの各々を時系列データに合わせこみ、時系列データの特定のマーカ位置とのマーカ位置の差が最も小さい無表情遷移パターンの無表情試行時間を、最終的な無表情試行時間として選択することができる。そして、推定部143は、時系列データの特定のマーカ位置とのマーカ位置の差が最も小さい無表情遷移パターンに基づいて、真の無表情のときの仮想のマーカ位置の推定値を算出することができる。または、推定部143は、選択した最終的な無表情試行時間の終了時刻のマーカ位置を真の無表情のときのマーカ位置に決定することができる。
【0062】
また、複数の無表情遷移パターンの合わせこみは、上記処理に限らず、時系列データに対して無表情遷移パターンの各々のマーカ位置を、時間方向へ平行移動、マーカ位置方向へ拡大縮小および平行移動して二乗誤差が最小になるようにしてもよい。これにより、無表情試行の開始時刻のズレや、器具40のズレなどによる定常的なマーカ位置のズレを補正した上で、より適切な無表情遷移パターンを選択することができる。また、複数の無表情遷移パターンの合わせこみは、上記処理に限らず、分散の大きい無表情試行の開始時刻付近のマーカ位置を除いて合わせこむことにより、合わせこみの安定性を向上させるようにしてもよい。
【0063】
判定部144は、選択部142によって選択された無表情遷移パターンに基づいて決定されたAUの判定基準と、撮像画像群のうち複数の画像の後に含まれる撮像画像に含まれるマーカ位置とに基づいて、AUの発生強度を判定する。
【0064】
より具体的には、判定部144は、取得部141によって取得された時系列データの終了時刻後のマーカ位置に対して、推定部143によって算出された推定値を基準としてマーカ位置の移動量を算出し、AUの発生強度(Intensity)を判定する。また、上記処理に限らず、算出した移動量が所定の閾値を超過するかに基づいて、AUの発生の有無(Occurrence)を判定するようにしてもよい。
【0065】
AUの発生強度の判定方法をより具体的に説明する。
図10は、実施例1にかかる発生強度の判定方法の具体例を示す図である。例えば、AU4に対応するAU4ベクトルが(-2mm,-6mm)のようにあらかじめ定められているものとする。このとき、判定部144は、マーカ401の移動ベクトルとAU4ベクトルの内積を計算し、AU4ベクトルの大きさで規格化する。ここで、内積がAU4ベクトルの大きさと一致すれば、判定部144は、AU4の発生強度を5段階中の5と判定する。一方、内積がAU4ベクトルの半分であれば、例えば、前述のリニアな換算ルールの場合は、判定部144は、AU4の発生強度を5段階中の3と判定する。
【0066】
また、例えば、
図10に示すように、AU11に対応するAU11ベクトルの大きさが3mmのようにあらかじめ定められているものとする。このとき、判定部144は、マーカ402とマーカ403の間の距離の変動量がAU11ベクトルの大きさと一致すれば、判定部144は、AU11の発生強度を5段階中の5と判定する。一方、距離の変動量がAU4ベクトルの半分であれば、例えば、前述のリニアな換算ルールの場合は、判定部144は、AU11の発生強度を5段階中の3と判定する。このように、判定部144は、選択部142によって特定された第1のマーカの位置および第2のマーカの位置との間の距離の変化を基に、発生強度を判定することができる。
【0067】
さらに、判定部144は、画像処理を行った画像とAUの発生強度とを対応付けて出力してもよい。その場合、生成部145は、撮像画像からマーカを除去する画像処理を実行することによって、画像を生成する。
【0068】
生成部145は、撮像画像群とAUの発生強度とを対応付けたデータセットを作成する。当該データセットを用いた機械学習を行うことにより、撮影画像群からAUの発生強度の推定値を算出するためのモデルを生成することができる。また、生成部145は、必要に応じて撮像画像群から画像処理によりマーカを除去する。マーカの除去について具体的に説明する。
【0069】
生成部145は、マスク画像を用いてマーカを除去することができる。
図11は、実施例1にかかるマスク画像の生成方法を説明する説明図である。
図11の(a)は、RGBカメラ31によって撮像された画像である。まず、生成部145は、あらかじめ意図的に付けられたマーカの色を抽出して代表色として定義する。そして、
図11の(b)のように、生成部145は、代表色近傍の色の領域画像を生成する。さらに、
図11の(c)のように、生成部145は、代表色近傍の色の領域に対し収縮、膨張などの処理を行い、マーカ除去用のマスク画像を生成する。また、マーカの色を顔の色としては存在しにくい色に設定しておくことで、マーカの色の抽出精度を向上させてもよい。
【0070】
図12は、実施例1にかかるマーカの除去方法を説明する説明図である。
図12に示すように、まず、生成部145は、動画から取得した静止画に対し、マスク画像を適用する。さらに、生成部145は、マスク画像を適用した画像を例えばニューラルネットワークに入力し、処理済みの画像を得る。なお、ニューラルネットワークは、被験者のマスクありの画像およびマスクなしの画像などを用いて訓練済みであるものとする。なお、動画から静止画を取得することにより、表情変化の途中データが得られることや、短時間で大量のデータが得られることがメリットとして生じる。また、生成部145は、ニューラルネットワークとして、GMCNN(Generative Multi-column Convolutional Neural Networks)やGAN(Generative Adversarial Networks)を用いてもよい。
【0071】
なお、生成部145がマーカを除去する方法は、上記のものに限られない。例えば、生成部145は、あらかじめ定められたマーカの形状を基にマーカの位置を検出し、マスク画像を生成してもよい。また、IRカメラ32とRGBカメラ31の相対位置のキャリブレーションを事前に行うようにしてもよい。この場合、生成部145は、IRカメラ32によるマーカトラッキングの情報からマーカの位置を検出することができる。
【0072】
また、生成部145は、マーカにより異なる検出方法を採用してもよい。例えば、鼻上のマーカは動きが少なく、形状を認識しやすいため、生成部145は、形状認識により位置を検出してもよい。また、口横のマーカは動きが大きく、形状を認識しにくいため、生成部145は、代表色を抽出する方法で位置を検出してもよい。
【0073】
また、生成部145は、無表情試行の開始時刻の一定時刻前のマーカ位置を特徴量とし、真の無表情のときのマーカ位置を正解ラベルとした機械学習によりモデルを生成する。生成部145は、マーカ位置の履歴、および身体的な特徴データの少なくとも1つをさらに特徴量とすることもできる。これにより、推定部143は、未知の被験者に対しても、生成部145によって生成されたモデルを格納した無表情モデルDB133により、真の無表情のときのマーカ位置の推定値を算出することができる。また、マーカ位置の履歴など様々な特徴量を使用することで、より高精度にマーカ位置の推定値を算出することができる。なお、生成部145は、生成したモデルに入力した特徴量と、出力された真の無表情のときのマーカ位置の推定値を訓練データとして用いて、生成したモデルに対して再訓練を行うこともできる。
【実施例2】
【0074】
次に、
図13を用いて、実施例に係る推定システムの構成を説明する。
図13は、実施例2にかかる推定システムの構成を示す図である。
図13に示すように、推定システム2は、RGBカメラ91、および推定装置60を有する。
【0075】
図13に示すように、RGBカメラ91は、人物の顔に向けられる。RGBカメラ91は、例えば、一般的なデジタルカメラである。また、RGBカメラ91の代わりに、またはRGBカメラ91と併せて、IRカメラ92(図示せず)を用いてもよい。
【0076】
推定装置60は、RGBカメラ91によって撮像された画像を取得する。また、推定装置60は、撮像画像群から取得されたAUの特定の発生強度とのAUの発生強度の差が最も小さい無表情遷移パターンを選択し、真の無表情のときのAUの発生強度の推定値を算出する。そして、推定装置60は、算出した推定値を基準として、撮像画像群から取得された、無表情試行の終了時刻後のAUの発生強度の変化量を算出し、新たなAUの発生強度とする。
【0077】
図14を用いて、推定装置60の機能構成を説明する。
図14は、実施例2にかかる推定装置の構成例を示すブロック図である。
図14に示すように、推定装置60は、入力部61、出力部62、記憶部63、および制御部64を有する。
【0078】
入力部61は、データを入力するための装置またはインタフェースである。例えば、入力部61は、RGBカメラ91、マウス、およびキーボードなどである。また、出力部62は、データを出力するための装置またはインタフェースである。例えば、出力部62は、画面を表示するディスプレイなどである。
【0079】
記憶部63は、データや制御部64が実行するプログラムなどを記憶する記憶装置の一例であり、例えばハードディスクやメモリなどである。記憶部63は、無表情遷移パターンDB631、およびモデル情報632を記憶する。
【0080】
無表情遷移パターンDB631は、無表情試行の開始時刻の一定時刻前のAUの発生強度と、無表情試行中のAUの発生強度との時系列パターンを格納する。
【0081】
モデル情報632は、生成部145や機械学習装置20などによって生成されたモデルを構築するためのパラメータなどである。
【0082】
制御部64は、推定装置60全体を司る処理部であり、取得部641、選択部642、推定部643、補正部644を有する。
【0083】
取得部641は、連続で撮像された撮像画像群から、AUの発生強度を取得する。例えば、取得部641は、モデル情報632によって構築されたモデルを用いて推定対象の人物の顔が写った連続で撮影された画像群から、1つまたは複数のAUの発生強度を取得する。取得部641によって取得される撮像画像は、上述したようにRGBカメラ91によって撮像される。
【0084】
また、取得部641は、無表情試行の開始時刻および終了時刻を取得する。これは、例えば、推定対象の人物への無表情の指示時刻の記録から取得することができる。または、取得部641は、推定対象のAUの発生強度の時系列データを参照し、AUの発生強度が無表情時の発生強度に収束していることを判定することにより、無表情試行時間を検知し、顔の無表情試行の開始時刻および終了時刻を取得することもできる。
【0085】
なお、複数の無表情試行時間を検知した場合、取得部641は、取得部641は、検知した無表情試行時間分の開始時刻および終了時刻を取得することもできる。そして、このように検知された複数の無表情試行時間を無表情試行時間の候補として設定することができる。
【0086】
選択部642は、無表情遷移パターンDB631から、無表情試行の開始時刻の一定時刻前のAUの特定の発生強度に対して、推定対象のAUの特定の発生強度とのAUの発生強度の差が最も小さい無表情遷移パターンを選択する。
【0087】
また、選択部642は、複数設定された無表情試行時間の候補に基づいて、無表情遷移パターンDB631から無表情遷移パターンを、例えば、取得部641によって取得された時系列データのAUの特定の発生強度とのAUの発生強度の差が小さい順に複数選択する。取得部641によって取得される時系列データには、無表情試行時間が複数含まれる場合もあるため、その場合は、複数の無表情試行時間の各々に対して無表情遷移パターンが選択される。
【0088】
推定部643は、選択部642によって選択された無表情遷移パターンを、推定対象のAUの特定の発生強度の時系列データに合わせこむ。そして、推定部643は、合わせこんだ無表情遷移パターンに基づいて、真の無表情のときのAUの発生強度の推定値を算出する。
【0089】
また、推定部643は、複数選択された無表情遷移パターンの各々を合わせこみ、時系列データのAUの特定の発生強度とのAUの発生強度の差が最も小さい無表情遷移パターンの無表情試行時間を、最終的な無表情試行時間として選択することができる。そして、推定部643は、時系列データのAUの特定の発生強度とのAUの発生強度の差が最も小さい無表情遷移パターンに基づいて、真の無表情のときのAUの発生強度の推定値を算出することができる。または、推定部643は、選択した最終的な無表情試行時間の終了時刻のAUの発生強度を真の無表情のときのAUの発生強度に決定することができる。
【0090】
補正部644は、推定対象のAUの発生強度の時系列データの終了時刻後のAUの発生強度に対して、推定部643によって算出された推定値を基準として発生強度の変化量を算出し、必要に応じて量子化して、新たな発生強度とする。人によって、基準となる無表情状態の場合であってもAUの発生強度が0でないことがある。また、表情を長時間固定し続けることで、筋肉や皮膚にクセがついて戻らなくなることがある。このような場合について、無表情のときのAUの発生強度を推定し、既存技術で算出したAUの発生強度を補正することで、適切な基準に基づくAUの発生強度を求めることができる。また、さらに後段の処理として、AUの発生強度に基づく感情推定を実施する場合は、その推定精度を向上させることができる。
【0091】
また、推定装置60は、撮像画像群とAUの発生強度とを対応付けたデータセットを作成することもできる。当該データセットを用いて、訓練済みモデルに対する再訓練を行うことができる。
【0092】
また、推定装置60は、補正部644によって算出された変化量が所定の閾値を超過するかに基づいて、アクションユニットの発生の有無(Occurrence)を判定することができる。
【0093】
また、推定装置60は、無表情試行の開始時刻の一定時刻前のAUの発生強度を特徴量とし、必要に応じて、AUの発生強度の履歴、および各対象の身体的な特徴データの少なくとも1つをさらに特徴量とし、真の無表情のときのAUの発生強度をラベルとした機械学習によりモデルを生成する。これにより、推定部643は、当該生成されたモデルにより、真の無表情のときのAUの派生強度の推定値を算出することもできる。また、AUの発生強度の履歴など様々な特徴量を使用することで、より高精度にAUの発生強度の推定値を算出することができる。
【0094】
なお、推定装置60によるAUの発生強度の推定値の算出や、新たなAUの発生強度の決定は、推定対象の人物の単一のAUのみならず、複数のAUに対して同時に実行されてよい。
【0095】
図15を用いて、判定装置10によるAUの発生強度の判定処理の流れを説明する。
図15は、実施例1にかかる判定処理の流れの一例を示すフローチャートである。
図15に示すように、まず、判定装置10の取得部141は、マーカを付した被験者の顔を含む連続で撮像された撮像画像群から、マーカ位置の時系列データを取得する(ステップS101)。次に、取得部141は、被験者の顔の無表情試行の開始時刻および終了時刻を取得する(ステップS102)。
【0096】
そして、判定装置10の選択部142は、無表情遷移パターンDB132から、無表情試行の開始時刻の一定時刻前の特定のマーカ位置に対して、時系列データの特定のマーカ位置とのマーカ位置の差が最も小さい無表情遷移パターンを選択する(ステップS103)。
【0097】
次に、判定装置10の推定部143は、選択された無表情遷移パターンを時系列データに合わせこむ(ステップS104)。そして、推定部143は、合わせこんだ無表情遷移パターンに基づいて、真の無表情のときの仮想のマーカの位置の推定値を算出する(ステップS105)。
【0098】
次に、判定装置10の判定部144は、時系列データの終了時刻後のマーカ位置に対して、算出した推定値を基準としてマーカ位置の移動量を算出し、AUの発生強度を判定する(ステップS106)。ステップS106の後、
図15に示す判定処理は終了する。
【0099】
図16を用いて、推定装置60によるAUの発生強度の推定処理の流れを説明する。
図16は、実施例2にかかる推定処理の流れの一例を示すフローチャートである。
図16に示すように、まず、推定装置60の取得部641は、推定対象の人物の顔を含む連続で撮像された撮像画像群から、AUの発生強度を取得する(ステップS201)。次に、取得部641は、推定対象の人物の顔の無表情試行の開始時刻および終了時刻を取得する(ステップS202)。
【0100】
そして、推定装置60の選択部642は、無表情遷移パターンDB132から、無表情試行の開始時刻の一定時刻前のAUの特定の発生強度に対して、時系列データのAUの特定の発生強度とのAUの発生強度の差が最も小さい無表情遷移パターンを選択する(ステップS203)。
【0101】
次に、推定装置60の推定部643は、選択された無表情遷移パターンを時系列データに合わせこむ(ステップS204)。そして、推定部143は、合わせこんだ無表情遷移パターンに基づいて、真の無表情のときのAUの発生強度の推定値を算出する(ステップS205)。
【0102】
次に、推定装置60の補正部644は、時系列データの終了時刻後のAUの発生強度に対して、算出した推定値を基準としてAUの発生強度の変化量を算出し、新たなAUの発生強度とする(ステップS206)。ステップS206の後、
図16に示す推定処理は終了する。
【0103】
上述したように、判定装置10は、マーカを付した顔を含む連続で撮像された撮像画像群を取得し、マーカの位置推移を示す複数のパターンから、撮像画像群のうち連続した複数の画像に含まれるマーカの位置の時系列の変化に応じた第1のパターンを選択し、第1のパターンに基づいて決定されたAUの判定基準と、撮像画像群のうち複数の画像の後に含まれる撮像画像に含まれるマーカの位置とに基づいて、AUの発生強度を判定する処理を実行する。
【0104】
これにより、より正確に、マーカの基準位置のキャリブレーション、およびAUの発生強度の判定を行うことができる。
【0105】
また、判定装置10により実行される発生強度を判定する処理は、第1のパターンを選択する処理は、顔の無表情試行の第1の開始時刻に基づいて、撮像画像群から、第1の開始時刻より前の第1の画像を含む複数の画像を決定し、第1の画像におけるマーカの位置に基づいて、第1のパターンを選択する、処理を含み、発生強度を判定する処理は、第1のパターンに基づいて、顔の無表情試行の第1の終了時刻より後のマーカの仮想の位置の推定値を算出し、撮像画像群における第1の終了時刻後のマーカの位置に対して、算出した推定値を基準としてマーカの位置の移動量を算出し、発生強度を判定する、処理を含む。
【0106】
これにより、被験者の無表情試行時間が短くても、真の無表情状態のときの仮想のマーカ位置の推定値を算出して、より正確に、マーカの基準位置のキャリブレーション、およびAUの発生強度の判定を行うことができる。
【0107】
また、判定装置10は、撮像画像群においてマーカの位置が無表情時の位置に収束していることを判定することにより、無表情試行時間を検知することによって、第1の開始時刻および第1の終了時刻を取得することを実行する。
【0108】
これにより、無表情試行時間をあらかじめ記録する手間を削減することができる。
【0109】
また、判定装置10により実行される推定値を算出する処理は、第1のパターンのマーカの位置を、時間方向への平行移動、マーカ位置方向への拡大縮小、およびマーカ位置方向への平行移動の少なくとも1つを実行することで、第1の画像におけるマーカの位置に合わせこみ、マーカの位置を合わせこんだ第1のパターンに基づいて、顔の無表情試行の第1の終了時刻より後のマーカの仮想の位置の推定値を算出する処理を含む。
【0110】
これにより、これにより、無表情試行の開始時刻のズレなどを補正した上で、より適切な無表情遷移パターンを選択することができる。
【0111】
また、判定装置10により実行される第1のパターンを選択する処理は、複数のパターンの各々を、複数の画像における第1の開始時刻と第1の終了時刻との間のマーカの特定の位置に合わせこみ、複数のパターンのうちマーカの特定の位置との差が最も小さい第1のパターンを選択する処理を含む。
【0112】
これにより、より適切な無表情遷移パターンを選択することができる。
【0113】
また、判定装置10により実行される第1のパターンを選択する処理は、顔のユーザの身体的特徴に基づいて、第1のパターンを選択する処理を含む。
【0114】
これにより、より適切な無表情遷移パターンを選択することができる。
【0115】
また、判定装置10は、複数の画像の後に含まれる撮像画像と判定されたアクションユニットの判定強度とに基づいて、機械学習用のデータを生成する処理をさらに実行する。
【0116】
これにより、作成されたデータセットを用いた機械学習を行い、撮影画像群からAUの発生強度の推定値を算出するためのモデルを生成することができる。
【0117】
上記文書中や図面中で示した処理手順、制御手順、具体的名称、各種のデータやパラメータを含む情報については、特記する場合を除いて任意に変更することができる。また、実施例で説明した具体例、分布、数値などは、あくまで一例であり、任意に変更することができる。
【0118】
また、図示した各装置の各構成要素は機能概念的なものであり、必ずしも物理的に図示の如く構成されていることを要しない。すなわち、各装置の分散や統合の具体的形態は図示のものに限られない。つまり、その全部または一部を、各種の負荷や使用状況などに応じて、任意の単位で機能的または物理的に分散・統合して構成することができる。さらに、各装置にて行われる各処理機能は、その全部または任意の一部が、CPUおよび当該CPUにて解析実行されるプログラムにて実現され、あるいは、ワイヤードロジックによるハードウェアとして実現され得る。
【0119】
図17は、実施例1および2にかかるハードウェア構成例を示す図である。
図17は、判定装置10や機械学習装置20、および推定装置60のハードウェア構成を説明するためのものであるため、
図17ではこれらの装置をまとめて情報処理装置1000として説明する。
図17に示すように、情報処理装置1000は、通信インタフェース1000a、HDD(Hard Disk Drive)1000b、メモリ1000c、プロセッサ1000dを有する。また、
図17に示した各部は、バスなどで相互に接続される。
【0120】
通信インタフェース1000aは、ネットワークインタフェースカードなどであり、他のサーバとの通信を行う。HDD1000bは、
図7や
図14などに示した機能を動作させるプログラムやDBを記憶する。
【0121】
プロセッサ10dは、CPU(Central Processing Unit)、MPU(Micro Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)などである。また、プロセッサ10dは、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)やFPGA(Field Programmable Gate Array)などの集積回路により実現されるようにしてもよい。プロセッサ10dは、
図7や
図14などに示した各処理部と同様の処理を実行するプログラムをHDD10bなどから読み出してメモリ10cに展開することで、
図7や
図14などで説明した各機能を実行するプロセスを動作させるハードウェア回路である。すなわち、このプロセスは、判定装置10や機械学習装置20、および推定装置60が有する各処理部と同様の機能を実行する。
【0122】
また、情報処理装置1000は、媒体読取装置によって記録媒体から上記プログラムを読み出し、読み出された上記プログラムを実行することで上記実施例と同様の機能を実現することもできる。なお、この他の実施例でいうプログラムは、情報処理装置1000によって実行されることに限定されるものではない。例えば、他のコンピュータまたはサーバがプログラムを実行する場合や、これらが協働してプログラムを実行するような場合にも、本発明を同様に適用することができる。
【0123】
このプログラムは、インターネットなどのネットワークを介して配布することができる。また、このプログラムは、ハードディスク、フレキシブルディスク(FD)、CD-ROM、MO(Magneto-Optical disk)、DVD(Digital Versatile Disc)などのコンピュータで読み取り可能な記録媒体に記録され、コンピュータによって記録媒体から読み出されることによって実行することができる。
【符号の説明】
【0124】
1 判定システム
2 推定システム
10 判定装置
11 入力部
12 出力部
13 記憶部
14 制御部
20 機械学習装置
31 RGBカメラ
32 IRカメラ
40 器具
60 推定装置
61 入力部
62 出力部
63 記憶部
64 制御部
91 RGBカメラ
121 発生強度
122 画像
131 AU情報
132 無表情遷移パターンDB
133 無表情モデルDB
141 取得部
142 選択部
143 推定部
144 判定部
145 生成部
401、402、403 マーカ
631 無表情遷移パターンDB
632 モデル情報
641 取得部
642 選択部
643 推定部
644 補正部
1000 情報処理装置
1000a 通信インタフェース
1000b HDD
1000c メモリ
1000d プロセッサ