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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-04
(45)【発行日】2023-12-12
(54)【発明の名称】電力変換器
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/493 20070101AFI20231205BHJP
   H02M 7/48 20070101ALI20231205BHJP
【FI】
H02M7/493
H02M7/48 M
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2022535169
(86)(22)【出願日】2021-03-05
(86)【国際出願番号】 JP2021008642
(87)【国際公開番号】W WO2022185519
(87)【国際公開日】2022-09-09
【審査請求日】2022-06-09
(73)【特許権者】
【識別番号】501137636
【氏名又は名称】東芝三菱電機産業システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003199
【氏名又は名称】弁理士法人高田・高橋国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鶴間 義徳
【審査官】柳下 勝幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-189633(JP,A)
【文献】特開2017-221008(JP,A)
【文献】特開平10-243660(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/493
H02M 7/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
蓄電池からなる直流電源に直流側で並列接続され、複数の半導体素子を有する複数のインバータユニットと、
前記直流電源と前記複数のインバータユニットとの間の電路にそれぞれ設けられ、前記複数のインバータユニットのうち、いずれかのインバータユニットで短絡故障が発生したときに、前記直流電源と前記短絡故障が発生したインバータユニットとの間の前記電路で溶断される直流ヒューズと、
を備え、
前記複数のインバータユニットの数は、前記直流電源と前記短絡故障が発生したインバータユニットとの間の前記直流ヒューズが溶断されたときに、前記直流電源と前記短絡故障が発生していない他の複数のインバータユニットとの間の複数の前記直流ヒューズがいずれも溶断されないという条件が満たされる数であり、
前記複数のインバータユニットの数は、前記複数の半導体素子の数よりも大きい数であり、
前記複数のインバータユニットの数は8であり、前記複数の半導体素子の数は2であり、
前記複数の半導体素子のそれぞれの素子定格が1700Vであるときに、前記直流ヒューズの電流定格が525Aであ
ことを特徴とする電力変換器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力変換器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電力変換器の大容量化を図るため、直流電力を交流電力に変換するインバータユニットが複数並列に接続された電力変換器が知られている。そして、このようなインバータユニットが複数並列に接続された大容量の電力変換器を実現する際に、従来は、各インバータユニットの容量を大きく取り、インバータユニットの数をなるべく少なくして配線の省力化などを図っていた。
【0003】
このような電力変換器において、このように複数並列に接続された各インバータユニット内の素子に素子破損等の短絡故障が発生した場合に、電流を遮断するために直流ヒューズを設ける保護方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2007-074823号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、直流ヒューズの容量が大きすぎると、直流ヒューズの溶断がされたとしても、溶断されるタイミングが遅くなり、直流リンク電圧(インバーターに入力される直流電圧)の上昇が大きくなってしまう。この直流リンク電圧の上昇具合が素子の耐圧を大幅に超過すると、健全なインバータユニットにおいても二次的な素子破損が起きてしまう。
【0006】
そこで、本発明は、素子破損時に速やかに直流ヒューズを溶断させ、直流リンク電圧の上昇を抑制することで、健全なインバータユニットにおける二次的な素子破損の発生を抑制する電力変換器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に係る電力変換器は、蓄電池からなる直流電源に直流側で並列接続され、複数の半導体素子を有する複数のインバータユニットと、直流電源と複数のインバータユニットとの間の電路にそれぞれ設けられ、複数のインバータユニットのうち、いずれかのインバータユニットで短絡故障が発生したときに、直流電源と短絡故障が発生したインバータユニットとの間の電路で溶断される直流ヒューズと、を備え、複数のインバータユニットの数は、直流電源と短絡故障が発生したインバータユニットとの間の直流ヒューズが溶断されたときに、直流電源と短絡故障が発生していない他の複数のインバータユニットとの間の複数の直流ヒューズがいずれも溶断されないという条件が満たされる数であり、複数のインバータユニットの数は、複数の半導体素子の数よりも大きい数であり、複数のインバータユニットの数は8であり、複数の半導体素子の数は2であり、前記複数の半導体素子のそれぞれの素子定格が1700Vであるときに、前記直流ヒューズの電流定格が525Aであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、素子破損時に速やかに直流ヒューズを溶断させ、直流リンク電圧の上昇を抑制することで、健全なインバータユニットにおける二次的な素子破損の発生を抑制する電力変換器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】一の実施形態に係る電力変換器の構成例を示す図である。
図2】直流遮断器を用いた直流回路保護の一例を示す図である。
図3】直流ヒューズを用いた直流回路保護の一例を示す図である。
図4】電力変換器の大容量化の一例を説明する図である。
図5図4に示す大容量の電力変換器の故障時における動作例を示す図である。
図6】インバータユニット及び半導体素子の並列接続の例を示す図である。
図7】直流ヒューズ定格の例を示す図である。
図8】比較例に係る従来の電力変換器の構成例と、一の実施形態に係る電力変換器の構成例とを示す図である。
図9図8に示す比較例に係る従来の電力変換器において、短絡故障が発生したときの直流電流及び直流電圧の動作例と、一の実施形態に係る電力変換器において、短絡故障が発生したときの直流電流及び直流電圧の動作例とを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係る電力変換器の実施形態について、図面を用いて説明する。
【0013】
<一の実施形態>
図1は、一の実施形態に係る電力変換器1の構成例を示す図である。図1(a)は、2レベルの電力変換器1Aの構成例を示す図であり、図1(b)は、中性点スイッチ型3レベルの電力変換器1Bの構成例を示す図であり、図1(c)は、中性点クランプ型3レベルの電力変換器1Cの構成例を示す図である。
【0014】
例えば、図1(a)における2レベルの電力変換器1Aは、直流側に正極Pと、負極Nとを有する。図1(b)における中性点スイッチ型3レベルの電力変換器1B及び図1(c)における中性点クランプ型3レベルの電力変換器1Cは、直流側に正極Pと、負極Nと、中性点Cとを有する。正極P、負極N、及び中性点Cは、電路(直流母線)を介して直流電源10(図2参照)と接続される。なお、本実施形態における直流電源10(図2参照)は、蓄電池である。このため、以下、直流電源10を蓄電池10とも称することがある。
【0015】
なお、本発明は、本実施形態における電力変換器1A、1B、1Cのいずれにも適用することができる。以下、本実施形態において、電力変換器1A、1B、1Cをまとめて、電力変換器1又はインバータ1と称する。電力変換器1は、交流端から、例えば、不図示の高調波フィルタ等を介して交流系統20と接続される。
【0016】
図1(a)における2レベルの電力変換器1Aを例に説明すると、電力変換器1は、アーム2と、レグ3と、コンデンサ4とを有する。アーム2は、ブリッジ回路において、各個別の要素のことを示す。レグ3は、直流側の正極と負極との間において、アーム2が直列接続されている上下一組の部分を示す。なお、単相フルブリッジ回路は、2アーム(1レグ)又は4アーム(2レグ)で構成され、三相フルブリッジ回路は、6アーム(3レグ)で構成されるが、本発明においては、相数は問わない。電力変換器1は、図1(a)中、上下のアーム2が、交互にスイッチングすることによって、交流側に正弦波状の電流を流す。
【0017】
コンデンサ4は、直流電源10側に負担をかけさせないため、上下のアーム2が交互にスイッチングすることによって発生するリプル電流(リップル電流)を吸収する。なお、図1(b)における中性点スイッチ型3レベルの電力変換器1B及び図1(c)における中性点クランプ型3レベルの電力変換器1Cも図1(a)における2レベルの電力変換器1Aと同様の構成を有する。
【0018】
図2は、直流遮断器を用いた直流回路保護の一例を示す図である。図2において、電力変換器1は、三相のレグ3を有し、直流側で、直流電源(蓄電池)10に接続され、交流側で、交流系統20と接続される。なお、本実施形態における電力変換器1は、電圧形インバータである。
【0019】
一般に、電圧形インバータである電力変換器1において、図中上のアーム2と下のアーム2とは、同時にオンされないように制御系が組まれている。上下のアーム2が同時にオンしてしまうと、PN短絡(正極側と負極側との短絡)が起き、素子破損が起こることがあるためである。しかし、半導体の偶発故障やノイズによる誤動作等によって、素子が破損してしまうことがある。例えば、図中一番左の下のアーム2がスイッチングしているときに、上のアーム2が短絡故障を起こすとPN短絡が発生する。この状態を放置すると、直流電源10から短絡点に過大な電流が流入し続け、健全にスイッチングしていた下のアーム2にも過大な電流が流れて故障がおこる。さらに故障を放置すると、さらに電流が流入し、故障が他に波及したり、発火や発煙が起こったりする危険がある。そのため、電力変換器1は、直流回路の保護が必要である。
【0020】
まずは、図2に示すとおり、直流回路の蓄電池10と電力変換器1との間に直流遮断器5を設け、PN短絡が発生したときに、直流遮断器5を用いて短絡点を蓄電池10から切り離すことが考えられる。なお、直流遮断器5は、事故電流を遮断することが可能な開閉手段である。直流遮断器5によれば、短絡故障の事故電流を検知して、電路(母線)を開閉することで、短絡点を蓄電池10から切り離すことができる。
【0021】
しかし、例えば1500Vクラス以上の高圧の直流遮断器5は、非常に高価であり、仮にあったとしても非常に大型である。このため、例えば、1000Vクラス以下では直流遮断器5による直流回路の保護手段も採られるが、例えば、1500Vクラス以上の高圧になると、直流遮断器5による直流回路の保護手段は通常採られない。このため、例えば、1500Vクラス以上の高圧の場合、直流回路に直流ヒューズ6(図3参照)を設け、直流ヒューズ6によって、短絡点と他の健全な回路とを切り離す手段が採られる。
【0022】
図3は、直流ヒューズを用いた直流回路保護の一例を示す図である。図3に示すとおり、直流ヒューズを用いて直流回路を保護する場合、正極P側と負極N側の入口に直流ヒューズ6を設ける。直流ヒューズ6は、一般に、定格電流で運転しても不要に溶断することがないように、所定のマージンを持った電流定格であり、かつ、事故電流では確実に溶断する定格のものが選定される。
【0023】
このような直流ヒューズ6であれば、例えば、上下のアーム2で短絡故障が起こったとしても、事故電流でこの直流ヒューズ6が溶断され、事故点を蓄電池10から切り離すことができる。一方、このような直流ヒューズ6であれば、定格電流で運転しても、不要な溶断や、誤動作等が起きることはない。このため、例えば、1500Vクラス以上の高圧の場合、直流回路に直流ヒューズ6を設け、直流ヒューズ6によって、短絡点と他の健全な回路とを切り離す手段が採られる。
【0024】
図4は、電力変換器1の大容量化の一例を説明する図である。図4において、電力変換器1は、3台のインバータユニット30が、蓄電池10と並列に接続されている。図4の下部に示すように、各インバータユニット30には、各アーム2(各レグ3)において、半導体素子40が複数並列に接続されている。なお、符号7は、蓄電池10の内部インピーダンス(例えば、LR成分)を表している。ここで、大容量の基準は、数値の基準ではないが、単一の半導体素子40を複数並列しないと実現できないような容量のことである。
【0025】
ある基本設計の電力変換器1が存在した場合において、当該基本設計の電力変換器1よりも大容量の(すなわち、基本設計の電力変換器1よりも大きい電力変換が可能な)電力変換器1を実現しようとする。この場合、電圧を高くするか、電流を大きくすることで、実現する手法が考えられる。しかし、電圧を高くする手法については、一般に蓄電池設備は、単電池セルを多数直並列にして実現されるものであるが、これは各電池メーカーの設計によるものである。すなわち、1つの電池が何百ボルト、何千アンペアという電流を流せるわけでは無いため、電圧を高くする手法は、1つのセルは数ボルト、数アンペアという単位で小さな単電池セルを詰め込んで多直並列にして実現されることがほとんどである。また、耐圧の問題などから、いくらでも電圧を高くすることができるものでもない。
【0026】
一方、電流を大きくする手法については、インバータの並列接続数を増やせばよいため、電圧を高くする手法に比べ、容易に大容量の電力変換器1を構築することが可能である。この手法を採るためには、同一の電力変換器1を多数並列に設置するか、電力変換器1の単機容量を大きくすることが考えられる。そして、電力変換器1の単機容量を大きくするためには、基本の半導体素子40よりも電流定格の大きい半導体素子40を用いるか、半導体素子40を多数並列接続する手法が考えられる。しかし、電流定格の大きい半導体素子40を用いる手法については限度があるため、半導体素子40を多数並列接続する手法が採られることになる。すなわち、この手法は、半導体素子40を多数並列接続して1つのスイッチとする手法である。但し、半導体素子40を増やし過ぎると、冷却手段(フィンなど)が大きくなり、製造性、保守性が悪くなる。
【0027】
このため、半導体素子40も際限なく増やせるわけではない。従って、通常のインバータユニット30よりもある程度容量が大きい単位インバータユニット30(単位ユニット30)を並列に盤内に実装することがある。また、このような、複数の単位インバータユニット30を並列接続した、基本設計の電力変換器1よりも大容量の電力変換器1(単に「大容量の電力変換器1」とも称する。)を用いる場合、上述のとおり、直流ヒューズ6を用いて直流回路の保護を行うことになる。
【0028】
図5は、図4に示す大容量の電力変換器1の故障時における動作例を示す図である。図5において、図中一番上のインバータユニット30にPNの短絡故障8が発生している。一番上のインバータユニット30に短絡故障8が発生した場合、事故点に、図中(i)、(ii)、(iii)で示す電流が流れ込む。(i)の電流は、短絡故障8が起きたインバータユニット30自身の直流コンデンサ4から流入する電流である。(ii)の電流は、隣接する健全なインバータユニット30の直流コンデンサ4から流入する電流である。(iii)の電流は、蓄電池10から流入する電流である。
【0029】
図5で示すとおり、(i)で示す電流は、短絡故障8が起きたインバータユニット30自身の直流ヒューズ6を経由しないため、直流ヒューズ6の溶断には寄与しない。また、(iii)で示す電流は、蓄電池10と電力変換器1との間の配線や、蓄電池10の内部インピーダンス(LR成分)7などの影響で、(i)の電流や(ii)の電流に比べると立ち上がりが遅い。このため、一般に、複数のインバータユニットを並列接続した大容量の電力変換器1においては、(ii)の電流により、短絡故障が起きたインバータユニット30の直流ヒューズ6を溶断させることが基本となる。
【0030】
図6は、インバータユニット30及び半導体素子40の並列接続の例を示す図である。例えば、基本設計の電力変換器1よりも大容量化を図った電力変換器1を実現するため、1相当たり、15~16の半導体素子40を並列接続する必要がある場合、図6に示すとおり、いくつかのパターンを採り得る。
【0031】
例えば、図6中左から順に、2素子並列8ユニット構成として、16の半導体素子40を並列接続するパターン、3素子並列5ユニット構成として、15の半導体素子40を並列接続するパターンがある。また、4素子並列4ユニット構成として16の半導体素子40を並列接続するパターン、5素子並列3ユニット構成として、15の半導体素子40を並列接続するパターンがある。また、8素子並列2ユニット構成として、16の半導体素子40を並列接続するパターンがある。
【0032】
これらにはそれぞれ利点がある。例えば、配線数で言えば、不図示の制御装置から半導体素子40をオンオフする信号(ゲート信号)を送る場合、8素子並列2ユニット構成であれば、すなわち、インバータユニット30が2台しかなければ、2本配線すればよい。一方、2素子並列8ユニット構成の場合、すなわち、インバータユニット30が8台ある場合、8本配線しなければならない。すなわち、インバータユニット30の数を多くすればするほど、配線数が多くなる。また、盤内の構成も、細かく区切れば区切るほど、内部の板金も増え、構成は複雑になる。
【0033】
一方、保守性という点に着目すれば、2素子並列8ユニット構成のインバータユニット30は、8素子並列2ユニット構成のインバータユニット30に比べ、小型で軽いユニットが実現できる。このため、保守性という点に着目すれば、2素子並列8ユニット構成のインバータユニット30の方が良い。
【0034】
このため、これらのパターンは、上述のとおり、いくつかの要素でトレードオフの関係となる。従来は、各単位インバータユニット30の容量を大きく取り、インバータユニット30の数をなるべく少なくして配線の省力化や、盤内構成の単純化などを図っていた。しかし、本発明では、次から述べるとおり、直流ヒューズ6の性質に着目することで、各単位インバータユニット30の容量をあえて小さく取り、インバータユニット30の数をあえて多くしている。
【0035】
図7は、直流ヒューズ定格の例を示す図である。図7では、2つのヒューズの仕様が列挙されている。一番左は、ボディサイズであり、2つともボディサイズは30である。一つ右は、定格電流(電流定格)であり、上のヒューズは200(A)であり、下のヒューズは400(A)である。右に行き、次は、定格電圧(電圧定格)であり、2つとも690(V)である。もう一つ右に行き、左から4番目は、溶断Itである。定格電流が200(A)のヒューズの溶断Itは、3(As×10)であり、定格電流が400(A)のヒューズの溶断Itは、23(As×10)である。
【0036】
溶断Itは、ヒューズ溶断のバロメータとなり、溶断Itが大きいほどヒューズは溶断されにくい。図7で示すとおり、電流定格と溶断Itは比例関係に無い。すなわち、図7に示すとおり、ヒューズの電流定格が200(A)から400(A)に倍になると、溶断Itは、3(As×10)から23(As×10)まで7倍以上となる。言い換えれば、ヒューズの電流定格を400(A)から200(A)まで半分にすれば、溶断Itは、23(As×10)から3(As×10)まで1/7以下にすることができる。一方、ヒューズの電流定格が200(A)であれば、200(A)の電流を流し続けてもヒューズが切れることはない。
【0037】
例えば、直流ヒューズ6の電流定格を半分に下げれば、何倍も早く直流ヒューズ6を溶断させることができる。本発明では、上記の直流ヒューズ6の性質に着目し、各単位インバータユニット30の容量をあえて小さくすることで、より早く直流ヒューズ6を溶断させることとしている。なお、図7の表の右側の2つの数字は、本発明とは関連性が低いため、ここでは説明を割愛する。
【0038】
図8は、比較例に係る従来の電力変換器100の構成例と、一の実施形態に係る電力変換器1の構成例とを示す図である。図8(a)は、比較例に係る従来の電力変換器100の構成例を示す図である。図8(b)は、一の実施形態に係る電力変換器1の構成例を示す図である。
【0039】
なお、図8(a)に示す電力変換器100及び図8(b)に示す電力変換器1において、両者とも半導体素子40が16個であることが前提となっている。
【0040】
図8(a)によれば、比較例に係る従来の電力変換器100は、インバータユニット130が4台並列接続されている。半導体素子40が16個であることが前提となっているため、各インバータユニット130には、各4個ずつの半導体素子40が配置されている。直流ヒューズ106は、インバータユニット130の容量に合わせた定格電流のものが用いられている。
【0041】
図8(b)によれば、電力変換器1は、インバータユニット30が8台並列接続されている。半導体素子40が16個であることが前提となっているため、各インバータユニット30には、各2個ずつの半導体素子40が配置されている。直流ヒューズ6は、インバータユニット30の容量に合わせた定格電流のものが用いられている。
【0042】
図8(a)に示す電力変換器100と、図8(b)に示す電力変換器1とを比較すると、インバータユニット130に比べ、インバータユニット30の台数がになっている。このため、インバータユニット130に比べ、インバータユニット30の容量は半分である。これにより、本実施形態に係る電力変換器1では、直流ヒューズ6の電流定格を、比較例に係る電力変換器100の直流ヒューズ106の電流定格に比べ、半分にすることができる。図7で説明したとおり、直流ヒューズ6の電流定格を半分にすれば、ヒューズの溶断されやすさを示す溶断Itが何分の1にも下がる。これにより、本実施形態に係る直流ヒューズ6は、比較例に係る直流ヒューズ106よりも何倍も早く溶断されることとなる。
【0043】
図9は、図8に示す比較例に係る従来の電力変換器100において、短絡故障が発生したときの直流電流及び直流電圧の動作例と、一の実施形態に係る電力変換器1において、短絡故障が発生したときの直流電流及び直流電圧の動作例を示す図である。
【0044】
図9(a)は、図8(a)に示す比較例に係る従来の電力変換器100において、短絡故障が発生したときの直流電流及び直流電圧の動作例を示す図である。図9(a)は、図8(a)に示すとおり、インバータユニット130の並列数が少ない場合(4素子並列4ユニット構成)に短絡故障が発生したときの直流電流及び直流電圧の動作例を示す図である。図9(a)では、4台のインバータユニット130が並列接続されているうちの1台について短絡故障が発生したときの直流電流及び直流電圧の動作例を示している。なお、図9(a)に示す装置では、素子定格が1700Vの半導体素子40を使用している。
【0045】
図9(a)では、短絡故障が発生してから220マイクロ秒後に直流ヒューズ106が溶断されている。しかし、溶断された後に直流電圧が跳ね上がり、このピーク値が3.1kVに達する。これは、直流ヒューズ106の電流定格が大きいため(1100A)、溶断Itも大きく、直流ヒューズ106が溶断するまでの時間が長いためである。これにより、直流ヒューズ106が溶断後に、直流電圧が上昇している。
【0046】
なお、図9(a)に示す装置の場合、上述のとおり、素子定格が1700Vの半導体素子40を使用している。このとき、この3.1kVという電圧が、他の健全な半導体素子40の上アーム2と下アーム2に均等にかかっているうちは問題ない。しかし、このような事故時には、アンバランスな波形となることがあり、このような場合、3.1kVという直流電圧がかかると、半導体素子40を過電圧で破損してしまう恐れがある。このため、比較例に係る従来の電力変換器100では、他の健全なインバータユニット30においても二次的に半導体素子40の素子破損が起きてしまう。
【0047】
図9(b)は、図8(b)に示す一の実施形態に係る電力変換器1において、短絡故障が発生したときの直流電流及び直流電圧の動作例を示す図である。図9(b)は、図8(b)に示すとおり、インバータユニット30の並列数が多い場合(2素子並列8ユニット構成)に短絡故障が発生したときの直流電流及び直流電圧の動作例を示す図である。図9(b)では、8台のインバータユニット30が並列接続されているうちの1台について短絡故障が発生したときの直流電流及び直流電圧の動作例を示している。なお、図9(b)に示す装置では、図9(a)に示す装置と同様に、素子定格が1700Vの半導体素子40を使用している。
【0048】
図9(b)では、短絡故障が発生してから速やかに直流ヒューズ6が溶断されている。直流電圧の跳ね上がりも小さく、1.47kVである。これは、直流ヒューズ6の電流定格が小さいため(525A)、溶断Itも小さく、直流ヒューズ6が溶断するまでの時間が、直流ヒューズ106に比べ、何倍も短いためである。
【0049】
なお、図9(b)に示す装置の場合、上述のとおり、素子定格が1700Vの半導体素子40を使用している。このとき、この1.47kVという電圧が、他の健全な半導体素子40の上アーム2と下アーム2にアンバランスな波形でかかり続けたとしても、素子定格よりも低い電圧であるため、半導体素子40が過電圧で破損することはない。このため、本実施形態に係る電力変換器1では、他の健全なインバータユニット30においても二次的な半導体素子40の素子破損を抑制することができる。
【0050】
図9(a)及び図9(b)に示すとおり、蓄電池10からの流入電流の立ち上がりを抑制することができれば、その後の直流電圧の跳ね上がりを抑えることができる。蓄電池10からの流入電流が大きく立ち上がってしまうと、その分蓄電池10と電力変換器1との間の配線のインピーダンス7、主にインダクタンスにエネルギーが蓄えられることになる。インダクタンスLのリアクトル、インダクターにIという電流が流れると1/2LIというエネルギーが蓄えられ、そのようなエネルギーが流入してくることで、電圧の跳ね上がりに響いてくると考えられる。
【0051】
以上より、4素子並列4ユニット構成の電力変換器100に比べ、2素子並列8ユニット構成の電力変換器1の方が、直流ヒューズ6の溶断Itの定格を何倍も小さくすることができるため、直流ヒューズ6が早く溶断され、直流電圧の上昇を抑制できる。これは、直流ヒューズ6の溶断特性によるものである。すなわち、これは、直流ヒューズ6の電流定格と溶断Itとは比例関係に無く、電流定格が倍になった場合、溶断Itが倍以上になり、電流定格を半分にした場合、溶断Itが半分以下となり、より早く直流ヒューズ6が溶断するという特性によるものである。
【0052】
なお、大容量の電力変換器1を実現するためには、まず、各素子並列/ユニット並列の案を列挙し、各パターンで解析する。インバータユニット30の並列が少ない方が、直流ヒューズ6が溶断するのが遅く、他の健全なインバータユニット30の直流ヒューズ6も溶断する傾向にあり、また直流電圧の跳ね上がりも大きい。このとき、インバータユニット30の並列数をどこまで増やせば、他の健全なインバータユニット30の直流ヒューズ6が溶断されずに、直流電圧の跳ね上がりが小さいかを判定する。そして、上記の判定結果を元に大容量の電力変換器1を実現する。
【0053】
大容量の電力変換器1の実現が出来ない場合は、直流電圧の跳ね上がりが大きく、他の健全なインバータユニット30の直流ヒューズ6も溶断されてしまう場合である。なぜなら、インバータユニット30の容量が大きいと、インバータユニット30の並列数が少なく、1ユニットの半導体素子40の並列数が多くなる。大きなインバータユニット30であればあるほど1個の直流ヒューズ6の溶断Itが大きくなり、直流ヒューズ6が溶断されるのが遅くなって、他の健全なインバータユニット30のヒューズまで溶断されてしまうためである。
【0054】
このため、本実施形態に係る大容量の電力変換器1は、インバータユニット30の数が、短絡解析を行った際に、他の健全なインバータユニット30における直流ヒューズ6がいずれも溶断されないという条件を満たす数である必要がある。一例として、インバータユニット30の数が、半導体素子40の数よりも大きい数であることが挙げられる。また、一例として、インバータユニット30の数が4よりも大きい数であることが挙げられる。さらに、一例として、本実施形態に示すとおり、インバータユニット30の数が8であり、半導体素子40の数が2であることが挙げられる。
【0055】
<一の実施形態の作用効果>
本実施形態によれば、素子破損時に速やかに直流ヒューズ6を溶断させ、直流電圧(直流リンク電圧)の上昇を抑制することで、健全なインバータユニット30における二次的な素子破損の発生を抑制する電力変換器1を提供することができる。
【0056】
<実施形態の補足事項>
以上の詳細な説明により、実施形態の特徴点および利点は明らかになるであろう。これは、特許請求の範囲がその精神および権利範囲を逸脱しない範囲で前述のような実施形態の特徴点および利点にまで及ぶことを意図するものである。また、当該技術分野において通常の知識を有する者であれば、あらゆる改良および変更に容易に想到できるはずである。したがって、発明性を有する実施形態の範囲を前述したものに限定する意図はなく、実施形態に開示された範囲に含まれる適当な改良物および均等物に拠ることも可能である。
【符号の説明】
【0057】
1、1A、1B、1C…電力変換器(インバータ);2…アーム;3…レグ;4…直流コンデンサ(コンデンサ);5…直流遮断器(遮断器);6…直流ヒューズ(ヒューズ);7…インピーダンス;8…短絡故障(短絡事故);10…直流電源(蓄電池);20…交流系統;30…インバータユニット(ユニット、単位インバータユニット、単位ユニット);40…半導体素子(素子);100…電力変換器;106…直流ヒューズ(ヒューズ);130…インバータユニット(ユニット、単位インバータユニット、単位ユニット);C…中性点;L…インダクタンス;N…負極;P…正極
図1
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図9