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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-04
(45)【発行日】2023-12-12
(54)【発明の名称】地切り制御装置、及び、移動式クレーン
(51)【国際特許分類】
   B66C 13/46 20060101AFI20231205BHJP
【FI】
B66C13/46 E
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2022539537
(86)(22)【出願日】2021-07-28
(86)【国際出願番号】 JP2021027929
(87)【国際公開番号】W WO2022025126
(87)【国際公開日】2022-02-03
【審査請求日】2023-01-26
(31)【優先権主張番号】P 2020127962
(32)【優先日】2020-07-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000148759
【氏名又は名称】株式会社タダノ
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中岡 翔平
【審査官】中田 誠二郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-131586(JP,A)
【文献】特開2002-362880(JP,A)
【文献】特開2018-20890(JP,A)
【文献】特開2018-87069(JP,A)
【文献】特開平4-235895(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66C 13/00-15/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブーム、及び、フックを支持したワイヤロープを巻上げるウインチを有するクレーンに搭載され、吊荷の地切り制御を行う地切り制御装置であって、
前記ブームの先端部に設けられ、前記フックを含む画像を撮影する撮像部と、
前記ウインチの巻上げ動作及び前記ブームの起仰動作を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は
記画像に基づいて前記ブームの先端部と前記フックとのずれ量を算出し、前記ずれ量を小さくするように前記ブームの起仰をフィードバック制御して前記吊荷の揺れを抑制し、
前記フィードバック制御とともに、荷重の時間変化に基づいて前記ブームの起伏角度の変化量を推定し、推定した前記起伏角度の変化量を補うように前記ブームの起仰をフィードフォワード制御する、
地切り制御装置。
【請求項2】
ブーム、及び、フックを支持したワイヤロープを巻上げるウインチを有するクレーンに搭載され、吊荷の地切り制御を行う地切り制御装置であって、
前記ブームの先端部に設けられ、前記フックを含む画像を撮影する撮像部と、
前記ウインチの巻上げ動作及び前記ブームの起仰動作を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は
前記画像における前記ブームの先端部と前記フックの中心とを結ぶベクトルを算出し、算出したベクトルに基づいて前記ブームの先端部と前記フックとのずれ量を算出し、前記ずれ量を小さくするように前記ブームの起仰をフィードバック制御して前記吊荷の揺れを抑制する、
地切り制御装置。
【請求項3】
前記制御部は、
前記ブームの起伏角度の初期値及び前記荷重の初期値に基づいて、前記起伏角度の変化量を推定するためのテーブル又は式を選択し、
前記荷重の時間変化と、選択した前記テーブル又は前記式と、に基づいて前記起伏角度の変化量を推定する、
請求項に記載の地切り制御装置。
【請求項4】
前記撮像部は、常時、鉛直方向下方向を向いている、請求項1又は2に記載の地切り制御装置。
【請求項5】
前記ブームに作用する荷重を検出する荷重検出部を、更に備え、
前記制御部は、前記荷重検出部の検出値における最初の極大値を検出した場合に、地切が完了したと判定する、請求項1又は2に記載の地切り制御装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記地切り制御において、前記ウインチを定速で巻上げるように前記ウインチを制御する、請求項1又は2に記載の地切り制御装置。
【請求項7】
請求項1又は2に記載の地切り制御装置を備える、移動式クレーン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地面から吊荷を吊り上げる際の荷振れを抑制するための地切り制御装置及び移動式クレーンに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、ブームを備えたクレーンにおいて、地面から吊荷を吊り上げる際に、すなわち吊荷を地切りする際に、ブームに生じるたわみによって作業半径が増大することによって、吊荷が水平方向に振れる「荷振れ」が問題となっている(図1参照)。
【0003】
地切りの際の荷振れを防止することを目的として、例えば、特許文献1に記載された鉛直地切り制御装置は、エンジン回転数センサによってエンジンの回転数を検出し、ブームの起仰作動をエンジン回転数に応じた値に補正するように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平8-188379号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで特許文献1を含む従来の地切り制御装置は、作業半径を一定に保つために、ウインチ用のアクチュエータ及び起伏用のアクチュエータを併用して制御していた。そのため、複雑な制御となることで地切りに時間がかかってしまう、という問題があった。
【0006】
そこで、本発明は、荷振れを抑制しつつ、迅速に吊荷を地切りすることのできる地切り制御装置と、地切り制御装置を備えた移動式クレーンと、を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る地切り制御装置の一態様は、
ブーム、及び、ワイヤロープを巻上げるウインチを有するクレーンに搭載され、吊荷の地切り制御を行う地切り制御装置であって、
ブームの先端部に設けられ、フックを含む画像を撮影する撮像部と、
ウインチの巻上げ動作及びブームの起仰動作を制御する制御部と、を備え、
制御部は、画像に基づいてブームの先端部とフックとのずれ量を算出し、ずれ量を小さくするようにブームの起仰をフィードバック制御して吊荷の揺れを抑制する。
上述のような地切り制御装置を実施する場合に、好ましくは、
制御部は、フィードバック制御とともに、荷重の時間変化に基づいてブームの起伏角度の変化量を推定し、推定した起伏角度の変化量を補うようにブームの起仰をフィードフォワード制御する。
又、本発明に係る地切り制御装置の一態様は、
ブーム、及び、フックを支持したワイヤロープを巻上げるウインチを有するクレーンに搭載され、吊荷の地切り制御を行う地切り制御装置であって、
ブームの先端部に設けられ、フックを含む画像を撮影する撮像部と、
ウインチの巻上げ動作及びブームの起仰動作を制御する制御部と、を備え、
制御部は、
画像におけるブームの先端部とフックの中心とを結ぶベクトルを算出し、算出したベクトルに基づいてブームの先端部とフックとのずれ量を算出し、ずれ量を小さくするようにブームの起仰をフィードバック制御して吊荷の揺れを抑制する。
【0008】
本発明に係る移動式クレーンの一態様は、
上述の地切り制御装置を備える。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、荷振れを抑制しつつ、迅速に吊荷を地切りすることのできる地切り制御装置と、地切り制御装置を備えた移動式クレーンと、を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、吊荷の荷振れについて説明する説明図である。
図2図2は、移動式クレーンの側面図である。
図3図3は、地切り制御装置のブロック線図である。
図4図4は、地切り制御装置の全体のブロック線図である。
図5図5は、地切り制御のブロック線図である。
図6図6は、地切り制御のフローチャートである。
図7図7は、地切り判定の手法について説明するグラフである。
図8図8は、荷重-起伏角の関係を示すグラフである。
図9図9は、移動式クレーンの地切りの状況を示す概略図である。
図10A図10Aは、地切り時の撮像手段の画像である。
図10B図10Bは、地切り時の撮像手段の画像である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係る実施形態の一例について図面を参照して説明する。ただし、以下の実施形態に記載されている構成要素は例示であり、本発明の技術範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0012】
[実施形態]
本実施形態では、移動式クレーンとしては、例えば、ラフテレーンクレーン、オールテレーンクレーン、及びトラッククレーン等が挙げられる。以下、本実施形態に係る作業車両としてラフテレーンクレーンを例に説明するが、他の移動式クレーンにも、本発明に係る地切り制御装置を適用することができる。
【0013】
(移動式クレーンの構成)
まず、図2を用いて、移動式クレーンの構成について説明する。本実施形態のラフテレーンクレーン1は、図2に示すように、走行機能を有する車両の本体部分となる車体10と、車体10の四隅に設けられたアウトリガ11と、車体10に水平旋回可能に取り付けられた旋回台12と、旋回台12の後方に取り付けられたブーム14と、を備えている。
【0014】
アウトリガ11は、スライドシリンダを伸縮させることによって、車体10から幅方向外側にスライド張出又はスライド格納可能である。また、アウトリガ11は、ジャッキシリンダを伸縮させることによって車体10から上下方向にジャッキ張出/ジャッキ格納可能である。
【0015】
旋回台12は、旋回モータ61の動力が伝達されるピニオンギヤを有しており、このピニオンギヤが車体10に設けた円形状のギヤに噛み合うことで旋回軸を中心に回動する。旋回台12は、右前方に配置された操縦席18と、後方に配置されたカウンタウェイト19と、を有している。
【0016】
さらに、旋回台12の後方には、ワイヤ16の巻上げ及び巻下げを行うためのウインチ13が配置されている。ウインチ13は、ウインチモータ64を正方向又は逆方向に回転させることによって、巻上げ方向(巻き取る方向)又は巻下げ方向(繰り出す方向)の2方向に回転する。
【0017】
ブーム14は、基端ブーム141と(1つ又は複数の)中間ブーム142と先端ブーム143とによって入れ子式に構成されており、内部に配置された伸縮シリンダ63によって伸縮する。先端ブーム143の最先端のブームヘッド144にはシーブが配置され、シーブにワイヤ16が掛け回されてフック17が吊下げられている。
【0018】
基端ブーム141の基端部は、旋回台12に設置された支持軸に回動自在に取り付けられている。基端ブーム141は、支持軸を回転中心として上下に起伏できる。そして、旋回台12と基端ブーム141の下面との間には、起伏シリンダ62が架け渡されている。起伏シリンダ62を伸縮することでブーム14全体が起伏する。
【0019】
また、ブームヘッド144、例えばブームヘッド144の先端側には、撮像部の一例である撮像手段100が取り付けられている。撮像手段100は、ブームヘッド144から鉛直方向下方側を広角に撮影する。撮像手段100は、例えば、CCDやCMOS等の撮像素子及び光学レンズを有するデジタルカメラ等である。撮像手段100は、ブームヘッド144に対して、ジンバル等の揺動体を介して、ブーム14の少なくとも起伏方向に揺動可能に取り付けられている。撮像手段100は、起伏方向において、鉛直下方を向いている。
【0020】
このため、撮像手段100は、ブーム14の起伏状態(起伏角)に関わらず、ブーム14の起伏方向において鉛直方向下方を向いた状態で、フック17を含む画像を撮影する。
【0021】
(制御系の構成)
次に、図3のブロック線図を用いて、本実施形態の地切り制御装置Dの制御系の構成について説明する。地切り制御装置Dは、制御部としてのコントローラ40を中心として構成されている。コントローラ40は、入力ポート、出力ポート、及び演算装置などを有する汎用のマイクロコンピュータである。
【0022】
本実施形態のコントローラ40には、ブームヘッド144に取り付けられた撮像手段100が接続されている。コントローラ40は、撮像手段100から受け取った画像を画像処理する画像処理手段40aを有する。
【0023】
また、本実施形態のコントローラ40は、操作レバー51~54(旋回レバー51、起伏レバー52、伸縮レバー53、及びウインチレバー54)からの操作信号を受けて、図示しない制御バルブを介してアクチュエータである旋回モータ61、起伏シリンダ62、伸縮シリンダ63、及びウインチモータ64を制御する。
【0024】
さらに、本実施形態のコントローラ40には、地切り制御を開始又は停止するための地切りスイッチ20と、地切り制御におけるウインチ13の速度を設定するためのウインチ速度設定手段21と、ブーム14に作用する荷重を検出する荷重検出手段22と、ブーム14の姿勢を検出するための姿勢検出手段23と、が接続されている。
【0025】
地切りスイッチ20は、地切り制御の開始又は停止を指示するための入力機器であり、例えば、ラフテレーンクレーン1の安全装置に付加する構成であってよい。地切りスイッチ20は、操縦席18に配置されることが好ましい。
【0026】
ウインチ速度設定手段21は、地切り制御におけるウインチ13の速度を設定する入力機器である。ウインチ速度設定手段21は、あらかじめ設定された速度から適切な速度を選択する方式のものや、テンキーによって入力する方式のものがある。さらに、ウインチ速度設定手段21は、地切りスイッチ20と同様に、ラフテレーンクレーン1の安全装置に付加する構成であってよい。ウインチ速度設定手段21は、操縦席18に配置されることが好ましい。ウインチ速度設定手段21によってウインチ13の速度を調整することで、地切り制御に要する時間を調整することができる。
【0027】
荷重検出手段22は、ブーム14に作用する荷重を検出する検出機器である。荷重検出手段22は、例えば、起伏シリンダ62に作用する圧力を検出する圧力計であってよい。荷重検出手段22(例えば、圧力計)によって検出された検出値(例えば、圧力値)に関する信号は、コントローラ40に伝送される。
【0028】
姿勢検出手段23は、ブーム14の姿勢を検出する検出機器である。姿勢検出手段23は、ブーム14の起伏角度を検出する起伏角度計231と、起伏角速度を検出する起伏角速度計232と、から構成される。具体的には、起伏角度計231は、例えば、ポテンショメータである。また、起伏角速度計232は、起伏シリンダ62に取り付けられたストロークセンサである。起伏角度計231によって検出された起伏角度信号、及び、起伏角速度計232によって検出された起伏角速度信号は、コントローラ40に伝送される。
【0029】
コントローラ40は、ブーム14及びウインチ13の作動を制御する制御部である。コントローラ40は、地切りスイッチ20がONにされると、ウインチ13を巻上げて吊荷の地切り動作を開始する。コントローラ40は、地切り動作において、撮像手段100によって撮影された画像に基づいて、ブーム14の先端とフック17の中心とのズレ量(例えば、水平方向のズレ量)を算出する。そして、コントローラ40は、算出したズレ量を0とするようにブーム14を起仰させる。このようにしてコントローラ40は、吊荷の揺れを抑制する。このようなコントローラ40が実行する制御は、フィードバック制御(FB制御)である。また、コントローラ40は、上記FB制御と並行して、荷重検出手段22によって検出された荷重の時間変化に基づいて、ブーム14の起伏角度の変化量を予測する。そして、コントローラ40は、予測した変化量を補うようにブーム14を起仰させる。このようなコントローラ40が実行する制御は、フィードフォワード制御(FF制御)である。
【0030】
より具体的に言うと、コントローラ40は、上記FB制御及び上記FF制御を実施するための機能部として、撮像手段100から送信された画像を画像処理する画像処理部である画像処理手段40aと、特性テーブル又は伝達関数を選択するための選択機能部40cと、クレーン全体の作動を制御すると共に、実際に地切りされたか否かを判定することによって地切り制御を停止させる地切り判定を行う制御部40bと、を有している。
【0031】
画像処理手段40aは、ブーム14の先端とフック17の中心とのズレ量を算出するズレ量算出部としても機能する。このような画像処理手段40aは、先ず、撮像手段100から送信された画像に対してエッジ検出を施す。そして、画像処理手段40aは、検出したエッジに関する情報に基づいて、所定の形状(例えば、円形状)のハフ変換を行い、上記画像から形状(以下、抽出形状と称する。)を抽出する。そして、画像処理手段40aは、抽出形状の中から、フック17の上面形状を抽出する。具体的には、画像処理手段40aは、クレーンの揚程情報及びフックの形状情報に基づいて、抽出形状の中から、フック17の上面形状として最も適切な形状を、フック17の上面形状として抽出する。そして、抽出したフック17の上面形状の中心点を、フック17の重心として設定する。
【0032】
次に、画像処理手段40aは、撮像手段100で撮影された画像110a(図10A参照)に示すように、画像座標系における画像中心120aから、フック17の重心130aまでのベクトルB1を算出する。本実施形態においては、撮像手段100は、ジンバル等の揺動体を介してブームヘッド144に対して揺動可能に取り付けられており、常時に鉛直方向下方(真下)を向いている。また、図9の実線で示すように、玉掛け終了時においては、ブーム14の先端が吊荷の真上にあるため、ベクトルB1は、水平方向におけるブーム14の先端とフック17の中心との間のズレ量が0の状態に対応するベクトル(初期値)である。以下、ベクトルB1を、初期値のベクトルB1と称することもある。なお、画像処理手段40aは、計算サイクル毎に、画像座標系における画像中心から、上記のフック17の中心(重心)までのベクトルを算出する。そのため、図9の破線で示すようにブーム先端が起仰方向に移動した場合、画像座標系における画像中心120bからフック17の重心130bまでのベクトルB2が算出される(図10Bの画像110b参照)。そして、画像処理手段40aは、算出されたベクトルB2と、初期値のベクトルB1とのなす角度を、ブーム14の先端とフック17の中心とのズレ量として算出する。尚、図9は、ブーム14の先端とフック17の中心との間のズレ量の概念について説明するための図であって、地切り制御におけるブーム14の状態を示す図ではない。
【0033】
コントローラ40は、地切り制御において、算出されたズレ量を0とするようにブーム14を起仰させるように、起伏シリンダ62を制御する(フィードバック(FB)制御)。なお、上記例では、画像処理手段40aがブーム14の先端とフック17の中心とのズレ量を算出するズレ量算出部を兼ねる構成について説明したが、ズレ量算出部と画像処理手段40aとは、別々に設ける構成、例えば制御部40bがズレ量算出部を兼ねる構成であっても良い。
【0034】
なお、上記では、撮影手段が、ジンバル等の揺動体を介してブームヘッド144に対して揺動可能に取り付けられており、常に鉛直方向下方を向く例について説明したが、本発明はこの点において限定されない。例えば、撮像手段100は、ブームヘッド144に対して揺動不能に固定されている構成、即ち、ブームヘッド144の起伏に応じて撮像手段100の向きが変わる構成であっても良い。この場合、画像処理手段40aは、撮像手段100で撮影された画像において、画像座標系における画像中心と、フック17の重心とを一致させる。そして、撮像手段100が真下を向いている場合には、フック17の重心が画像座標系における画像中心と一致するように(即ち、ズレ量が0となるように)起伏シリンダ62を制御する。一方、ブーム14の起仰によって撮像手段100が真下を向いていない場合、撮像手段100は、ターゲットとなるフック17の重心を追尾する。そして、コントローラ40は、撮像手段の角度及びその時点のブーム14の起伏角から、補正すべ起伏角度を算出し、算出した起伏角度に基づいて起伏シリンダ62を制御する。
【0035】
特性テーブル又は伝達関数の選択機能部40cは、荷重検出手段22(例えば、圧力計)の検出値(例えば、圧力値)の初期値と、姿勢検出手段23(例えば、起伏角度計)の検出値(例えば、起伏角度)の初期値と、を取得し、取得した荷重検出手段22の検出値の初期値及び姿勢検出手段23の検出値の初期値とに基づいて適用する特性テーブル又は伝達関数を決定する。ここにおいて、伝達関数としては、以下のように、線形係数aを用いた関係を適用することができる。
【0036】
まず、図8の荷重-起伏角のグラフに示すように、荷振れが生じないようにブーム先端位置が常に吊荷の真上にくるように調整した場合に、荷重と起伏角(先端対地角度)は線形の関係にあることがわかっている。地切り中に、時刻tから時刻tの間に荷重LoadがLoadへ変化したと仮定すると、起伏角θと荷重Loadとの関係、起伏角θと荷重Loadとの関係、及び起伏角θと荷重Loadとの関係は、下記の式で表される。
【0037】
【数1】

2式の差は、差分方程式により、下記の式で表される。
【0038】
【数2】
【0039】
起伏角を制御するためには、下記の式で表される起伏角速度を与える必要がある。
【0040】
【数3】


ここで、aは定数(線形係数)である。すなわち、起伏角制御は、荷重の時間変化(微分)が入力になる。
【0041】
制御部40bは、画像処理手段40aが算出したブーム14の先端とフック17の中心とのズレ量を監視すると共に、荷重検出手段22(例えば、圧力計)の検出値(例えば、圧力信号)に基づいて算出した荷重値の時系列データを監視し、地切りの有無を判定する地切り判定手段としても機能する。地切り判定の手法については、図7を用いて後述する。
【0042】
(全体のブロック線図)
次に、図4のブロック線図を用いて、本実施形態の地切り制御を含む全体の要素間の入力・出力関係を詳細に説明する。まず、荷重変化算出部71において、荷重検出手段22によって検出された荷重の時系列データに基づいて荷重変化が計算される。計算された荷重変化は、フィードフォワード(FF)制御のために、目標軸速度算出部73に入力される。このフィードフォワード(FF)制御における、目標軸速度算出部73の入力・出力関係については、図5を用いて後述する。
【0043】
また、ズレ量算出部72において、ブーム14の先端とフック17の中心とのズレ量を算出する。算出されたズレ量は、フィードバック(FB)制御のために、目標軸速度算出部73に入力される。
【0044】
目標軸速度算出部73では、起伏角の初期値と、設定されたウインチ速度と、入力されたズレ量変化と、入力された荷重変化(荷重の時間変化)と、に基づいて、目標軸速度が算出される。目標軸速度は、ここでは、目標起伏角速度(及び、必須ではないが、目標ウインチ速度)である。算出された目標軸速度は、軸速度コントローラ74に入力される。ここまでの前半部分の制御が、本実施形態の地切り制御に関する処理である。
【0045】
その後、軸速度コントローラ74、軸速度の操作量変換処理部75を経て操作量が制御対象76に入力される。この後半部分の制御は、通常の制御に関する処理であり、検出された起伏角速度に基づいてフィードバック制御されている。
【0046】
(フィードフォワード制御のブロック線図)
次に、図5のブロック線図を用いて、特にフィードフォワード制御の目標軸速度算出部73における要素の入力・出力関係について説明する。まず、起伏角度の初期値が、特性テーブル又は伝達関数の選択機能部81(40c)に入力される。選択機能部81では、特性テーブル(LookupTable)又は伝達関数(式)を使用して、最も適切な定数(線形係数)aが選択される。
【0047】
そして、数値微分部82において、荷重変化の数値微分(時間に関する微分)が実施されて、この数値微分の結果に定数aを乗ずることで、目標起伏角速度が計算される。すなわち、前述した(式3)の計算が実行されることで、目標起伏角速度が計算される。このように、目標起伏角速度の制御は、特性テーブル(又は伝達関数)を用いて、フィードフォワード制御されている。
【0048】
(フローチャート)
次に、図6のフローチャートを用いて、本実施形態の地切り制御の全体の流れについて説明する。
【0049】
はじめに、吊荷を玉掛けし、ブーム先端が吊荷の真上にある状態で、オペレータが地切りスイッチ20を押して地切り制御が開始される(START)。このとき、地切り制御のあらかじめ開始前に又は開始後に、ウインチ速度設定手段21を介して、ウインチ13の目標速度が設定される。この目標速度は、例えば、一定の速度である。
【0050】
そして、撮像手段100で撮像された画像の画像処理手段40aによる画像処理により、画像中心からフック中心までのベクトルの測定を開始する(ステップS1)。つまり、ステップS1において、ズレ量の検出が開始される。この際、ベクトルの初期値が、ブーム先端が吊荷の真上にある状態での画像中心からフック中心までのベクトルとされる。尚、ベクトルの向きは、画像中心からフック中心に向かう方向に限らず、フック中心から画像中心に向かう方向であってもよい。
【0051】
次に、コントローラ40は、目標速度で、ウインチ制御を開始する(ステップS2)。
【0052】
そして、ウインチ13が巻上げられると同時に、荷重検出手段22による吊荷検出が開始されて、コントローラ40に荷重値が入力される(ステップS3)。そうすると、選択機能部40cでは、荷重の初期値と、姿勢検出手段23(例えば、起伏角度計)からの起伏角度の初期値と、の入力を受けて、適用する特性テーブル又は伝達関数が決定される(ステップS4)。
【0053】
次に、コントローラ40では、適用される特性テーブル又は伝達関数と、荷重変化と、に基づいて、起伏角が算出される(ステップS5)。すなわち、フィードフォワード制御によって、起伏角制御がなされる。
【0054】
ステップS4とステップS5と並行して、フィードバック制御によって、起伏角制御がなされる(ステップS6)。なお、起伏角制御において、上述したように、ステップS1で算出されたベクトルと初期値のベクトルとのなす角度が算出される。このなす角度は、ブーム14の先端とフック17の中心とのズレ量として算出される。コントローラ40は、算出されたズレ量を0とするようにブーム14を起仰させるように、起伏シリンダ62を制御する。
【0055】
そして、検出されている荷重の時系列データ及び、ブーム14の先端とフック17の中心とのズレ量に基づいて地切りの有無が判定される(ステップS7)。なお、判定手法については後述する。判定の結果、地切りされていない場合は(ステップS7のNO)、ステップS2へ戻って、荷重に基づくフィードフォワード制御及びズレ量に基づくフィードバック制御を繰り返す(ステップS2~ステップS6)。
【0056】
判定の結果、地切りされている場合は(ステップS7のYES)、地切り制御を緩停止する(ステップS8)。すなわち、ウインチモータによるウインチ13の回転駆動速度を落としながら停止するとともに、起伏シリンダ62による起伏駆動速度を落としながら停止する。
【0057】
(地切り判定)
次に、図7のグラフを用いて、本実施形態の地切り判定の手法について説明する。本実施形態では、コントローラ40は、地切り制御においてウインチ13を巻き上げている途中に、ブーム14の先端とフック17の中心とのズレ量及び検出された荷重の時系列データを監視しており、ズレ量が閾値以下又はゼロの場合に、時系列データの最初の極大値を捉えて地切りしたものと判定するようにされている。
【0058】
より具体的に言うと、図7に示すように、一般に、荷重データの時系列をとると、地切りした次の瞬間にオーバーシュートし、さらにアンダーシュートし、その後、振動し続けるように推移する。したがって、振動の最初の山の頂点の時刻、すなわち、最初の極大値、を捉えることで、地切りしたことを判定することができる。ただし、実際には、地切りしていると判定した時刻である、最初の極大値を記録した時刻では、慣性力を受けてややオーバーシュートしている状態と考えられる。
【0059】
(効果)
次に、本実施形態の地切り制御装置Dの奏する効果を列挙して説明する。
【0060】
(1)上述してきたように、本実施形態の地切り制御装置Dは、起伏自在に構成されるブームと、ブームの先端側に取り付けられ、鉛直方向下方側を撮影する撮像手段と、フック及びフックに取り付けられるワイヤを介して吊荷を巻上る又は巻下げるウインチと、ブーム及びウインチを制御する制御部であって、ウインチを巻上げて前記吊荷を地切りする際に、撮像手段により撮影された画像に基づいて、前記ブームの先端から前記フックの中心までのベクトルを算出し、前記ベクトルに基づいて前記ブームを起仰させる、制御部と、を備えている。このような構成であるから、荷振れを抑制しつつ、迅速に吊荷を地切りすることのできる地切り制御装置Dとなる。
【0061】
つまり、本実施形態の地切り制御装置Dでは、鉛直方向下方側を撮影する撮像手段による画像に基づいて、ブーム先端位置と吊荷の重心位置とのズレ量をゼロとするように、別の言い方をすると、常に吊荷の真上にブームの先端が位置するように、フィードバック制御を実施することで、迅速に吊荷を地切りすることができる。
【0062】
(2)また、地切り制御装置Dでは、ウインチを巻上げて吊荷を地切りする際に、コントローラ40は、検出された荷重の時間変化に基づいてブームの起伏角度の変化量を求め、変化量を補うようにブームを起仰させる。この際、コントローラ40は、ブームの姿勢を検出する姿勢検出手段により検出されたブームの姿勢の初期値と、検出された荷重の初期値と、に基づいて対応する特性テーブル又は伝達関数を選択する。そして、コントローラ40は、選択した特性テーブル又は伝達関数を使用して、検出された荷重の時間変化からブームの起伏角度の変化量を求める。このように構成すれば、地切り制御の開始時に、ウインチ13を一定速度で巻上げ、荷重変化に合わせて特性テーブル(又は伝達関数)から起伏角制御量を算出してフィードフォワード制御を実施することで、荷振れなく迅速に地切りすることができる。加えて、調整するパラメータが少なくなることで、出荷時の調整を迅速かつ容易に実施できる。
【0063】
(3)フィードフォワード制御では、荷重と起伏角補量の特性データの個体差、油温特性変化などの誤差要因や外乱影響に対応できないという問題点を有する。しかしながら、本実施形態のフィードバック制御を利用することで、製品ごとの個体差や油温変動があった場合でも荷振れなく自動で地切りすることができる。
【0064】
(4)さらに、地切り制御装置Dは、ウインチを巻上げて吊荷を地切りする際に、ウインチを定速で巻上げるようにされていることが好ましい。このように構成すれば、慣性力等の外乱の影響を抑制して、応答(検出された荷重値)を安定させることで、地切り判定を容易にすることができる。
【0065】
(5)また、地切り制御装置Dは、ウインチを巻上げて吊荷を地切りする際に、ウインチの速度を調整することによって、地切りに要する時間を調整するように構成されていることが好ましい。このように構成すれば、吊荷の重量や環境条件に応じて適切なウインチの速度を選択することで、安全かつ効率よく作業することができる。
【0066】
(6)さらに、本実施形態の地切り制御装置Dは、ウインチを巻上げて吊荷を地切りする際に、検出された荷重の時系列データを監視し、時系列データの最初の極大値を捉えて地切りしたと判定するようにされている。このように荷重のみに基づいて制御することによって、簡易かつ迅速に地切りを判定することができる。
【0067】
(7)また、本実施形態の移動式クレーンであるラフテレーンクレーンは、上述したいずれかの地切り制御装置Dを備えることで、荷振れを抑制しつつ、迅速に吊荷を地切りすることのできるラフテレーンクレーンとなる。
【0068】
以上、図面を参照して、本発明の実施形態を詳述してきたが、具体的な構成は、この実施形態に限らず、本発明の要旨を逸脱しない程度の設計的変更は、本発明に含まれる。
【0069】
例えば、実施形態では特に説明しなかったが、ウインチとしてメインウインチを使用して地切りする場合でも、サブウインチを使用して地切りする場合でも、本発明の地切り制御装置Dを適用することができる。
【0070】
2020年7月29日出願の特願2020-127962の日本出願に含まれる明細書、図面、及び要約書の開示内容は、すべて本願に援用される。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明に係る地切り制御装置は、種々の移動式クレーンに適用できる。
【符号の説明】
【0072】
D 地切り制御装置
a 線形係数
1 ラフテレーンクレーン
10 車体
12 旋回台
13 ウインチ
14 ブーム
16 ワイヤ
17 フック
20 地切りスイッチ
21 ウインチ速度設定手段
22 圧力計(荷重検出手段)
23 起伏角度計(姿勢検出手段)
40 コントローラ
40a 画像処理手段
40b 制御部
40c 選択機能部(特性テーブルor伝達関数)
51 旋回レバー
52 起伏レバー
53 伸縮レバー
54 ウインチレバー
61 旋回モータ
62 起伏シリンダ
63 伸縮シリンダ
64 ウインチモータ
100 撮像手段
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10A
図10B