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特許7396503原子吸光分光光度計および原子吸光分光光度計の制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-04
(45)【発行日】2023-12-12
(54)【発明の名称】原子吸光分光光度計および原子吸光分光光度計の制御方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/31 20060101AFI20231205BHJP
【FI】
G01N21/31 610A
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2022544883
(86)(22)【出願日】2020-08-24
(86)【国際出願番号】 JP2020031749
(87)【国際公開番号】W WO2022044060
(87)【国際公開日】2022-03-03
【審査請求日】2023-01-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小林 央祐
(72)【発明者】
【氏名】関谷 拓正
【審査官】井上 徹
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-109839(JP,A)
【文献】特開平7-128227(JP,A)
【文献】特開平4-355347(JP,A)
【文献】特開平7-239302(JP,A)
【文献】特開平5-99842(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00-G01N 21/01
G01N 21/17-G01N 21/61
G01N 21/62-G01N 21/74
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
IEEE Xplore
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子吸光分光光度計であって、
試料を加熱する炉と、
前記炉に印加する電圧を変換する変圧器を含み、前記炉に電流を供給する電源と、
前記炉で加熱した試料の吸光度を測定する測定部と、
前記電源および前記測定部を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、
測定する試料に応じて前記炉の加熱温度、加熱時間、冷却時間、加熱モードを含む温度プログラムを設定することができ、
設定された前記温度プログラムの情報から、連続測定中の前記変圧器の到達温度を予測し、
予測した前記到達温度が所定温度に達する場合、前記温度プログラムの加熱温度、加熱時間、冷却時間、加熱モードのうち少なくとも1つの変更をユーザに促す、原子吸光分光光度計。
【請求項2】
前記制御部は、
前記温度プログラムの情報から、前記炉の加熱温度と加熱時間との関数の積分値を、前記加熱時間と前記冷却時間との和で割った加熱指標の値を求め、
前記加熱指標に基づいて前記変圧器の前記到達温度を予測する、請求項1に記載の原子吸光分光光度計。
【請求項3】
前記制御部は、
前記加熱指標と前記変圧器の前記到達温度との関係を示すプロファイルを予め設定しておき、
前記温度プログラムの情報から求めた前記加熱指標と、設定された前記プロファイルとに基づいて前記変圧器の前記到達温度を予測する、請求項2に記載の原子吸光分光光度計。
【請求項4】
前記制御部は、前記プロファイルを所定条件に応じて変更する、請求項3に記載の原子吸光分光光度計。
【請求項5】
前記所定条件は、測定モード、前記変圧器の仕様、前記変圧器の駆動時間のうち少なくとも1つの条件を含む、請求項4に記載の原子吸光分光光度計。
【請求項6】
前記プロファイルは、前記加熱指標と前記変圧器の前記到達温度との関数として記憶される、請求項3~請求項5のいずれか1項に記載の原子吸光分光光度計。
【請求項7】
前記制御部は、
予測した前記到達温度が前記所定温度に達する場合、前記温度プログラムによる加熱後の前記冷却時間を長くするように変更をユーザに促す、請求項2に記載の原子吸光分光光度計。
【請求項8】
前記温度プログラムは、乾燥期間、灰化期間、原子化期間、クリーニング期間の各々の温度と時間との情報を含む、請求項1~請求項5のいずれか1項に記載の原子吸光分光光度計。
【請求項9】
前記制御部は、
予測した前記到達温度が前記所定温度に達する場合、乾燥を低くするように前記温度プログラムの前記乾燥期間の温度または時間の変更をユーザに促す、請求項8に記載の原子吸光分光光度計。
【請求項10】
前記炉は、グラファイトチューブである、請求項1~請求項5のいずれか1項に記載の原子吸光分光光度計。
【請求項11】
試料を加熱する炉と、前記炉に印加する電圧を変換する変圧器を含み、前記炉に電流を供給する電源と、前記炉で加熱した試料の吸光度を測定する測定部と、前記電源および前記測定部を制御する制御部とを備える原子吸光分光光度計の制御方法であって、
測定する試料に応じて前記炉の加熱温度、加熱時間、冷却時間、加熱モードを含む温度プログラムを設定するステップと、
設定された前記温度プログラムの情報から、連続測定中の前記変圧器の到達温度を予測するステップと、
予測した前記到達温度が所定温度に達する場合、前記温度プログラムの加熱温度、加熱時間、冷却時間、加熱モードのうち少なくとも1つの変更をユーザに促すステップと、を含む、制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、原子吸光分光光度計および原子吸光分光光度計の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
原子吸光分光光度計は、試料を原子化した原子蒸気に測定元素のホロカソードランプから光束を透過させ、測定対象の原子により吸収される吸光度から試料中に含まれる測定対象の元素の濃度を測定する。原子吸光分光光度計の一種として、黒鉛炉を用いる原子吸光分光光度計が広く用いられている。黒鉛炉を用いる原子吸光分光光度計は、試料を加熱するための昇温速度が速く、絶対感度が高い利点がある。この原子吸光分光光度計は、試料である化合物を遊離原子蒸気に分解するアトマイザーとしての黒鉛炉を用いている。
【0003】
この原子吸光分光光度計では、黒鉛炉にグラファイトチューブを用い、当該グラファイトチューブの中に試料を注入し、グラファイトチューブに流した電流のジュール熱で電気的にグラファイトチューブを加熱する。グラファイトチューブを電気で加熱する場合、変圧器(トランス)を用いてグラファイトチューブに交流電流を流してグラファイトチューブを加熱する交流加熱方式が知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2020-101523号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
交流加熱方式を採用した原子吸光分光光度計では、一回の測定の中でグラファイトチューブに流す電流量が大きく変動する。そのため、原子吸光分光光度計は、一回の測定の中で最大となる電流量を定格電流とする変圧器を採用することが考えられるが、最大となる電流量が流れる時間が一回の測定の中で短いためオーバースペックとなり、製造コストが高くなる。
【0006】
しかし、最大となる電流量より低い定格電流の変圧器を採用すると、原子吸光分光光度計は、変圧器内での発熱量が多くなり、正しく動作しない可能性があった。そのため、原子吸光分光光度計では、最大となる電流量より低い定格電流の変圧器を採用する場合、温度ヒューズ、サーモスタット等の遮断回路などの保護機構、または熱電対、サーミスタなどの温度監視機構を変圧器に設けることが考えられる。ただし、一回の測定の中で変圧器の保護機構、または温度監視機構が動作した場合、原子吸光分光光度計は、測定中のデータを取得できずに測定データの欠損など不都合が生じることがあった。
【0007】
本開示は、上記のような課題を解決するためになされたもので、製造コストを低減しつつ、測定データの欠損など不都合が生じないよう安定した測定が行える原子吸光分光光度計および原子吸光分光光度計の制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の原子吸光分光光度計は、試料を加熱する炉と、炉に印加する電圧を変換する変圧器を含み、炉に電流を供給する電源と、炉で加熱した試料の吸光度を測定する測定部と、電源および測定部を制御する制御部と、を備え、制御部は、測定する試料に応じて炉の加熱温度、加熱時間、冷却時間、加熱モードを含む温度プログラムを設定することができ、設定された温度プログラムの情報から、連続測定中の変圧器の到達温度を予測し、予測した到達温度が所定温度に達する場合、温度プログラムの加熱温度、加熱時間、冷却時間、加熱モードのうち少なくとも1つの変更をユーザに促す。
【0009】
本開示の原子吸光分光光度計の制御方法は、測定する試料に応じて炉の加熱温度、加熱時間、冷却時間、加熱モードを含む温度プログラムを設定するステップと、設定された温度プログラムの情報から、連続測定中の変圧器の到達温度を予測するステップと、予測した到達温度が所定温度に達する場合、温度プログラムの加熱温度、加熱時間、冷却時間、加熱モードのうち少なくとも1つの変更をユーザに促すステップと、を含む。
【発明の効果】
【0010】
上記の原子吸光分光光度計および原子吸光分光光度計の制御方法は、製造コストを低減しつつ、測定データの欠損など不都合が生じないよう安定した測定が行える。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施の形態に係る原子吸光分光光度計の構成を示す概略図である。
図2】実施の形態に係る原子吸光分光光度計の温度プログラムおよび吸光度を示すグラフである。
図3】実施の形態に係る原子吸光分光光度計の温度プログラムを設定する設定編集画面の一例を示す図である。
図4】加熱指標と到達温度の関係を示すグラフである。
図5】実施の形態に係る原子吸光分光光度計の温度プログラムを設定する設定編集画面の別の一例を示す図である。
図6】実施の形態に係る原子吸光分光光度計の温度プログラムを設定する設定編集画面で警告が表示された一例を示す図である。
図7】実施の形態に係る原子吸光分光光度計の温度プログラムを設定する方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示の実施の形態を、図を参照しながら詳細に説明する。図1は、実施の形態に係る原子吸光分光光度計の構成を示す概略図である。原子吸光分光光度計10は、ホロカソードランプなどの光源1、原子化部である炉2、分光器および光電子増倍管などを含む測定部3、炉2に電流を供給する加熱電源4、炉2に供給される電流を測定する電流センサ5、炉2からの光を測定する光センサ6、加熱電源4および測定部3などを制御する制御部7を有している。
【0013】
炉2は、例えばグラファイトチューブであり、当該グラファイトチューブの中央に試料を装入する試料装入口2aを有し、試料装入口2aから装入した試料を加熱して原子化する。なお、炉2は、グラファイトチューブ以外の材料で構成してもよい。炉2に電流を供給する加熱電源4は、変圧器4aを有し、当該変圧器4aを介して交流電源(図示せず)の電圧を炉2に印加する電圧に変換する。なお、グラファイトチューブ両端からアルゴンガスや窒素ガス、圧縮空気などのガスを流して試料装入口2aから外部に排出し、併せて灰化の促進およびグラファイトチューブの酸化現象を防止している。また、炉2の温度は、グラファイトチューブからの発光量を光センサ6で検出することにより測定される。
【0014】
測定部3は、炉2で加熱した試料の吸光度を測定するため、図示していない分光器および光電子増倍管などを含んでいる。分光器は、例えばツェルニターナ分光器であり、入口スリットと、反射鏡と、回折格子および出口スリットから構成されている。光電子増倍管で測定された吸光度は、増幅器で増幅され、A/D変換器でデジタル信号として制御部7に送られる。
【0015】
制御部7は、外部メモリ15、キーボード等を有する操作部16、液晶ディスプレイ等の表示部17を有している。また、制御部7は、制御中枢としてのCPU(Central Processing Unit)、CPUが動作するためのプログラムや制御データなどを記憶するROM(Read Only Memory)、CPUのワークエリアとして機能するRAM(Random Access Memory)、主に画像処理を行うGPU(Graphics Processing Unit)、周辺機器との間で信号の整合性を保つための入出力インターフェイスなどを含む。なお、CPUやGPUを、FPGA(field-programmable gate array)で構成してもよい。
【0016】
制御部7は、後述する温度プログラムに従い加熱電源4を制御して炉を加熱して、測定部3で試料の吸光度を測定する。具体的に、光源1から放射された輝線スペクトルを含む光は、炉2のグラファイトチューブ内部を通過して測定部3に導入される。導入された光は測定部3の分光器において所定波長に分光された後、光電子増倍管に達する。なお、図示していないが、光源1と炉2との間、炉2と測定部3との間にはそれぞれ適当な集光光学系が配置されており、光束を適切に集光して次段へ導入するようにしている。
【0017】
試料の測定時には、グラファイトチューブの中央に設けた試料装入口2aから試料をグラファイトチューブ内に装入し、加熱電源4からグラファイトチューブに大電流を流し、試料を加熱して原子化する。グラファイトチューブ内を通過する光は、試料に含まれる元素特有の波長の光が強く吸収される。制御部7は、このような吸収を受けない場合の受光強度と吸収を受けた場合の受光強度との比を計算し、その吸光度から試料の定量を行う。
【0018】
さらに、図を用いて原子吸光分光光度計10の温度プログラムおよび吸光度について詳しく説明する。図2は、実施の形態に係る原子吸光分光光度計の温度プログラムおよび吸光度を示すグラフである。試料を炉2のグラファイトチューブ内に装入した後、ユーザが操作部16のスタートスイッチを押すと、制御部7は設定した温度プログラムに従い処理を行なう。図3は、実施の形態に係る原子吸光分光光度計の温度プログラムを設定する設定編集画面の一例を示す図である。制御部7は、ROMまたは外部メモリ15等に予め格納されているプログラムに従い、図3に示す温度プログラムを設定する設定編集画面を表示部17に表示する。
【0019】
ユーザは、加熱電源4を制御することにより図2の一点鎖線で示す温度プログラムのパターンで炉2の加熱を行なうように、温度、時間、加熱モードを設定する。制御部7は、この温度プログラムに同期して、加熱電源4を乾燥-灰化-原子化-クリーニングと順に制御する。乾燥および灰化においては、グラファイトチューブ内に不活性ガス(例えばアルゴン)を送り込み、グラファイトチューブ内で発生した乾燥の期間の水蒸気や灰化の期間の煙を速やかに外部へ排出する。図3に示す温度プログラムの設定では、乾燥の期間としてステージ1~4が設定されている。ステージ1では、3秒で60℃に到達するように加熱する加熱モード(RAMP)とし、ステージ2では、25秒で120℃に到達するように加熱する加熱モード(RAMP)としている。ステージ3では、10秒で250℃に到達するように加熱する加熱モード(RAMP)とし、ステージ4では、10秒で1000℃に到達するように加熱する加熱モード(RAMP)としている。
【0020】
図3に示す温度プログラムの設定では、灰化の期間としてステージ5~6が設定されている。ステージ5では、1000℃を10秒間維持するように加熱する加熱モード(STEP)とし、ステージ6では、1000℃を3秒間維持するように加熱する加熱モード(STEP)としている。
【0021】
灰化後、図3に示す温度プログラムの設定では、原子化の期間としてステージ7が設定されている。ステージ7では、2700℃を3秒間維持するように加熱する加熱モード(STEP)としている。これにより、グラファイトチューブ内で原子化された試料のガスが光源1の光束を吸収し、その吸光度を測定部3で測定する。この原子化の期間において、測定部3は、図2に示すように試料の原子吸収を吸光度から測定することができる。
【0022】
原子化後、図3に示す温度プログラムの設定では、クリーニングの期間としてステージ8が設定されている。ステージ8では、2700℃を2秒間維持するように加熱する加熱モード(STEP)としている。その後、炉2は、15秒~30秒程度の冷却期間を挟んで、次の試料を測定するため温度プログラムの設定に基づく加熱が行われる。
【0023】
なお、制御部7では、炉2の温度を光センサ6で測定し、加熱電源4から炉2に供給される電流を電流センサ5で測定することで、炉2の温度が温度プログラムで設定した温度となるように温度制御を行なっている。
【0024】
このように、グラファイトチューブに電流を流して加熱する場合、加熱電源4の変圧器4aを用いてグラファイトチューブに交流電流を流してグラファイトチューブを加熱する。図3に示す温度プログラムから分かるように、一回の測定の中でグラファイトチューブに流す電流量が大きく変動する。そのため、原子吸光分光光度計は、一回の測定の中で最大となる電流量を定格電流とする変圧器を採用すると、最大となる電流量が流れる時間が一回の測定の中で短いためオーバースペックとなり、製造コストが高くなる。
【0025】
しかし、最大となる電流量より低い定格電流の変圧器を採用すると、原子吸光分光光度計は、変圧器内での発熱量が多くなり、正しく動作しない可能性があった。そのため、原子吸光分光光度計では、最大となる電流量より低い定格電流の変圧器を採用する場合、温度ヒューズ、サーモスタット等の遮断回路などの保護機構、または熱電対、サーミスタなどの温度監視機構を変圧器に設ける必要があった。
【0026】
そこで、本実施の形態に係る原子吸光分光光度計10では、最大となる電流量より低い定格電流の変圧器を採用しつつ、遮断回路などの保護機構、または熱電対、サーミスタなどの温度監視機構を設けることなく、設定した温度プログラムで変圧器の到達温度を予測して、変圧器が正しく動作するように制御する。つまり、原子吸光分光光度計10では、ハードウェア的な付加機構を設けることなく、ソフトウェアで変圧器が正しく動作するように制御する。
【0027】
特に、原子吸光分光光度計に遮断回路などの保護機構、または熱電対、サーミスタなどの温度監視機構を設けた場合、一回の測定の中で変圧器の保護機構、または温度監視機構が動作すると、原子吸光分光光度計は、測定中のデータを取得できずに測定データの欠損など不都合が生じる。しかし、原子吸光分光光度計10では、ソフトウェアで変圧器が正しく動作するように制御するので、測定中のデータを取得できずに測定データの欠損など不都合が生じることがない。
【0028】
具体的に、制御部7は、スタート前に設定する炉2の温度プログラムの情報から、連続測定(運転)した際の変圧器4aの到達温度を予測し、予測した変圧器4aの到達温度が制限温度以上となる場合、温度プログラムの変更をユーザに促す。
【0029】
制御部7は、変圧器4aの到達温度を加熱指標に基づいて予測する。ここで、加熱指標は、炉2の加熱温度と加熱時間との関数の積分値を、加熱時間と冷却時間との和で割った値である。つまり、加熱指標は、図3に示す温度プログラムの加熱温度と時間との面積を(加熱時間+放冷時間)で割った値である。図3に示す温度プログラムでは、冷却時間を30秒として加熱指標が約385と算出される。
【0030】
この加熱指標と連続測定時の変圧器4aの到達温度は、強い相関を示すことが実験的に分かっており、この関係から連続測定時の変圧器4aの到達温度を一義的に予想することができる。図4は、加熱指標と到達温度の関係を示すグラフである。図4に示す縦軸は変圧器4aの到達温度を示し、横軸は加熱指標をそれぞれ示している。なお、図4では、仕様の異なる2つの変圧器の加熱指標と到達温度の関係を示すグラフが図示されている。つまり、加熱指標と到達温度の関係を示すグラフは、加熱電源4に用いる変圧器の仕様により異なる。変圧器4aの加熱指標と到達温度の関係を示すグラフはグラフAであり、y(到達温度)=0.2437x(加熱指標)+25.701の一次関数で表すことができる。なお、この関数の寄与率(R)は、0.9997と高い。
【0031】
変圧器4aと異なる仕様の変圧器の加熱指標と到達温度の関係を示すグラフがグラフBであると説明したが、これに限られず、同じ仕様の変圧器4aであっても測定モード、変圧器4aの駆動時間など他の条件(所定条件)で加熱指標と到達温度の関係を示すグラフは変化する。例えば、冷却時間が異なる別の測定モードに変更した場合、変圧器の加熱指標と到達温度の関係を示すグラフを変更する。また、例えば、変圧器4aの駆動時間が所定時間を超えた場合、変圧器4aの劣化を考慮して変圧器の加熱指標と到達温度の関係を示すグラフを変更する。
【0032】
図4に示す変圧器の加熱指標と到達温度の関係を示すグラフは、加熱指標と変圧器の到達温度との関係を示すプロファイルで、当該プロファイルは、予め外部メモリ15に記憶してある。当該プロファイルは、上述のy(到達温度)とx(加熱指標)との関数として記憶しても、y(到達温度)とx(加熱指標)との数値をまとめたテーブルとして記憶してもよい。また、制御部7は、加熱指標と変圧器の到達温度との関係を示すプロファイル(グラフ)を所定条件に応じて変更する。
【0033】
図3に示す温度プログラムでは、図4に示すグラフAを用いて変圧器4aの到達温度が160℃(所定温度)未満となるように設定されている。つまり、図4に示すグラフAでは、変圧器4aの到達温度が160℃(所定温度)の場合、加熱指標が550であるので、図3に示す温度プログラムの加熱指標が約385で、所定温度の加熱指標である550に達していない。このように、制御部7は、温度プログラムの加熱指標を利用することで、連続測定中の変圧器4aの到達温度を予測し、間接的に予測した到達温度が所定温度に達したか否かを判断することができ、ソフトウェアにより変圧器の過熱保護機能を実現できる。なお、加熱指標は、所定温度の加熱指標である550を100として正規化してもよい。
【0034】
図3に示す温度プログラムの加熱指標が約385であれば、図4に示すグラフAから変圧器4aの到達温度が約120℃と予測できる。なお、温度プログラムの情報から変圧器4aの到達温度を予測できれば、加熱指標を算出しなくてもよい。
【0035】
図5は、実施の形態に係る原子吸光分光光度計10の温度プログラムを設定する設定編集画面の別の一例を示す図である。図5に示す温度プログラムの設定でも、図3に示す温度プログラムと同じように、乾燥の期間としてステージ1~4が設定されている。ステージ1では、3秒で60℃に到達するように加熱する加熱モード(RAMP)とし、ステージ2では、25秒で120℃に到達するように加熱する加熱モード(RAMP)としている。ステージ3では、10秒で250℃に到達するように加熱する加熱モード(RAMP)とし、ステージ4では、10秒で1000℃に到達するように加熱する加熱モード(RAMP)としている。
【0036】
図5に示す温度プログラムの設定でも、図3に示す温度プログラムと同じように、灰化の期間としてステージ5~6が設定されている。ステージ5では、1000℃を10秒間維持するように加熱する加熱モード(STEP)とし、ステージ6では、1000℃を3秒間維持するように加熱する加熱モード(STEP)としている。
【0037】
灰化後、図5に示す温度プログラムの設定でも、図3に示す温度プログラムと同じように、原子化の期間としてステージ7が設定されている。ステージ7では、2700℃を3秒間維持するように加熱する加熱モード(STEP)としている。
【0038】
原子化後、図5に示す温度プログラムの設定でも、図3に示す温度プログラムと同じように、クリーニングの期間としてステージ8が設定されている。しかし、図3に示すステージ8と異なり、図5に示すステージ8では、2700℃を12秒間維持するように加熱する加熱モード(STEP)としている。そのため、図5に示す温度プログラムでは、冷却時間を30秒として加熱指標が約603と算出される。
【0039】
制御部7は、図5に示す温度プログラムの加熱指標が約603と所定温度の加熱指標である550を超えているので、連続測定中の変圧器4aの到達温度を予測し、間接的に予測した到達温度が所定温度に達した判断することができる。そのため、制御部7は、温度プログラムの変更をユーザに促す。
【0040】
温度プログラムの変更をユーザに促す一例として、温度プログラムの設定編集画面に警告のウインドウを重畳して表示されることが考えられる。図6は、実施の形態に係る原子吸光分光光度計10の温度プログラムを設定する設定編集画面で警告が表示された一例を示す図である。図6では、警告のウインドウに温度が過度に上昇する情報と、それを回避するために温度プログラムの変更をユーザに促す情報とが表示されている。さらに、温度プログラムの変更をユーザに促す情報には、どの設定値を変更すればよいかのアドバイスの情報も表示されている。なお、制御部7は、温度プログラムの変更をユーザに促す方法として、図6に示す警告のウインドウに限定されず、警告音や変更が必要な設定値の部分を赤字で表示するなどの方法でもよい。
【0041】
次に、原子吸光分光光度計10の温度プログラムを設定する方法についてフローチャートを用いて詳しく説明する。図7は、実施の形態に係る原子吸光分光光度計10の温度プログラムを設定する方法を示すフローチャートである。まず、制御部7は、表示部17に図3に示す温度プログラムを設定する設定編集画面を表示する(ステップS11)。制御部7は、温度プログラムを設定する設定値の入力を受け付けたか否かを判断する(ステップS12)。具体的に、制御部7は、ユーザが操作部16を用いて温度プログラムを設定するために必要な設定値(例えば、最大ステージ数、温度、時間、加熱モードなど)のすべてについて入力を受け付け、すべて受け付けた場合、設定値の入力を受け付けたと判断する。そのため、すべての設定値の入力を受け付けていないと判断した場合(ステップS12でNO)、制御部7は、処理をステップS11に戻す。
【0042】
すべての設定値の入力を受け付けたと判断した場合(ステップS12でYES)、制御部7は、温度プログラムの設定値に基づき加熱指標を算出する(ステップS13)。制御部7は、図3に示す温度プログラムで設定した設定値に基づき、冷却時間を30秒として加熱指標を約385と算出する。
【0043】
制御部7は、算出した加熱指標から予測される変圧器4aの到達温度(加熱指標の到達温度)が所定温度以上か否かを判断する(ステップS14)。具体的に、制御部7は、算出した加熱指標と図4に示したグラフとを利用して、連続測定中の変圧器4aの到達温度を予測し、間接的に予測した到達温度が所定温度に達したか否かを判断する。算出した加熱指標の到達温度が所定温度以上でないと判断した場合(ステップS14でNO)、制御部7は、設定した温度プログラムに基づいて炉2を加熱して測定を開始する(ステップS15)。制御部7は、図3に示す温度プログラムの加熱指標が約385で、所定温度の加熱指標である550に達していないので、算出した加熱指標の到達温度が所定温度以上でないと判断して測定を開始する。
【0044】
一方、算出した加熱指標の到達温度が所定温度以上であると判断した場合(ステップS14でYES)、制御部7は、設定の変更を促す表示を表示部17で行う。具体的に、制御部7は、図6に示す警告のウインドウを設定編集画面に重畳して表示する。
【0045】
このように、原子吸光分光光度計10は、特別なハードウェアを必要とせず、ソフトウェアにより変圧器の過熱保護機能を実現できる。これにより、原子吸光分光光度計10は、リーズナブルな変圧器4aを搭載しつつ、安全性とコスト性とを両立させることができる。また、原子吸光分光光度計10は、連続測定により変圧器4aが過熱状態となる温度プログラムに対して、測定を開始する前にユーザに温度プログラムの変更を促すことができ、測定開始後に温度プログラムに起因して変圧器4aが過熱状態となり、測定を中断することがなくなる。もちろん、原子吸光分光光度計10にハードウェアの変圧器の保護機構、または温度監視機構を設けて二重の安全を確保してもよい。また、図7に示すフローチャートでは、算出した加熱指標の到達温度が所定温度以上でないと判断されるまで温度プログラムを変更し続ける必要があるが、原子吸光分光光度計10は、算出した加熱指標の到達温度が所定温度以上であっても、ユーザの判断で測定を開始できるようにしてもよい。
[態様]
上述した実施形態は、以下の態様の具体例であることが当業者により理解される。
【0046】
(第1項)
一態様に係る原子吸光分光光度計は、試料を加熱する炉と、炉に印加する電圧を変換する変圧器を含み、炉に電流を供給する電源と、炉で加熱した試料の吸光度を測定する測定部と、電源および測定部を制御する制御部と、を備え、制御部は、測定する試料に応じて炉の温度プログラムを設定することができ、設定された温度プログラムの情報から、連続測定中の変圧器の到達温度を予測し、予測した到達温度が所定温度に達する場合、温度プログラムの変更をユーザに促す。
【0047】
第1項に記載の原子吸光分光光度計によれば、予測した到達温度が所定温度に達する場合、温度プログラムの変更をユーザに促すので、製造コストを低減しつつ、測定データの欠損など不都合が生じないよう安定した測定が行える。
【0048】
(第2項)
項に記載の原子吸光分光光度計であって、制御部は、温度プログラムの情報から、炉の加熱温度と加熱時間との関数の積分値を、加熱時間と冷却時間との和で割った加熱指標の値を求め、加熱指標に基づいて変圧器の到達温度を予測する。
【0049】
第2項に記載の原子吸光分光光度計によれば、温度プログラムの情報から加熱指標の値を求め、加熱指標に基づいて変圧器の到達温度を予測するので、精度よく変圧器の到達温度を予測することができる。
【0050】
(第3項)
項に記載の原子吸光分光光度計であって、制御部は、加熱指標と変圧器の到達温度との関係を示すプロファイルを予め設定しておき、温度プログラムの情報から求めた加熱指標と、設定されたプロファイルとに基づいて変圧器の到達温度を予測する。
【0051】
第3項に記載の原子吸光分光光度計によれば、設定されたプロファイルに基づいて変圧器の到達温度を予測するので、さらに精度よく変圧器の到達温度を予測することができる。
【0052】
(第4項)
項に記載の原子吸光分光光度計であって、制御部は、プロファイルを所定条件に応じて変更する。
【0053】
第4項に記載の原子吸光分光光度計によれば、所定条件に応じてプロファイルが変更されるので、所定条件にあったプロファイルに基づいて変圧器の到達温度を予測することができる。
【0054】
(第5項)
項に記載の原子吸光分光光度計であって、所定条件は、測定モード、変圧器の仕様、変圧器の駆動時間のうち少なくとも1つの条件を含む。
【0055】
第5項に記載の原子吸光分光光度計によれば、測定モードが変更される、変圧器の仕様が変更される、変圧器の駆動時間が所定時間を超えるとプロファイルが変更されるので、所定条件にあったプロファイルに基づいて変圧器の到達温度を予測することができる。
【0056】
(第6項)
~第5項のいずれか1項に記載の原子吸光分光光度計であって、プロファイルは、加熱指標と変圧器の到達温度との関数として記憶される。
【0057】
第6項に記載の原子吸光分光光度計によれば、加熱指標と変圧器の到達温度との関数を利用して精度よく変圧器の到達温度を予測することができる。
【0058】
(第7項)
~第6項のいずれか1項に記載の原子吸光分光光度計であって、制御部は、予測した到達温度が所定温度に達する場合、温度プログラムによる加熱後の冷却時間の変更をユーザに促す。
【0059】
第7項に記載の原子吸光分光光度計によれば、温度プログラムによる加熱後の冷却時間の変更をユーザに促すことで、測定データの欠損など不都合が生じないよう安定した測定が行えるようになる。
【0060】
(第8項)
~第7項のいずれか1項に記載の原子吸光分光光度計であって、温度プログラムは、乾燥期間、灰化期間、原子化期間、クリーニング期間の各々の温度と時間との情報を含む。
【0061】
第8項に記載の原子吸光分光光度計によれば、乾燥期間、灰化期間、原子化期間、クリーニング期間の温度の各々の温度と時間との情報を含むので、精度よく変圧器の到達温度を予測することができる。
【0062】
(第9項)
項に記載の原子吸光分光光度計であって、制御部は、予測した到達温度が所定温度に達する場合、温度プログラムの乾燥期間の温度または時間の変更をユーザに促す。
【0063】
第9項に記載の原子吸光分光光度計によれば、温度プログラムの乾燥期間の温度または時間の変更をユーザに促すことで、測定データの欠損など不都合が生じないよう安定した測定が行えるようになる。
【0064】
(第10項)
~第9項のいずれか1項に記載の原子吸光分光光度計であって、炉は、グラファイトチューブである。
【0065】
第10項に記載の原子吸光分光光度計によれば、炉は、グラファイトチューブであるので、昇温速度が速く、絶対感度が高い。
【0066】
(第11項)
第11項に記載の試料を加熱する炉と、炉に印加する電圧を変換する変圧器を含み、炉に電流を供給する電源と、炉で加熱した試料の吸光度を測定する測定部と、電源および測定部を制御する制御部とを備える原子吸光分光光度計の制御方法であって、測定する試料に応じて炉の温度プログラムを設定するステップと、設定された温度プログラムの情報から、連続測定中の変圧器の到達温度を予測するステップと、予測した到達温度が所定温度に達する場合、温度プログラムの変更をユーザに促すステップと、を含む。
【0067】
(第11項)
第11項に記載の原子吸光分光光度計の制御方法によれば、予測した到達温度が所定温度に達する場合、温度プログラムの変更をユーザに促すので、製造コストを低減しつつ、測定データの欠損など不都合が生じないよう安定した測定が行える。
【0068】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した説明ではなく、請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0069】
1 光源、2 炉、2a 試料装入口、3 測定部、4 加熱電源、4a 変圧器、5 電流センサ、6 光センサ、7 制御部、8 ステージ、10 原子吸光分光光度計、15 外部メモリ、16 操作部、17 表示部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7