(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-04
(45)【発行日】2023-12-12
(54)【発明の名称】不織布ロールおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
B65H 18/00 20060101AFI20231205BHJP
D04H 3/011 20120101ALI20231205BHJP
【FI】
B65H18/00
D04H3/011
(21)【出願番号】P 2023521749
(86)(22)【出願日】2023-03-23
(86)【国際出願番号】 JP2023011449
【審査請求日】2023-06-22
(31)【優先権主張番号】P 2022055763
(32)【優先日】2022-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】池尻 祐希
(72)【発明者】
【氏名】五十川 貴裕
(72)【発明者】
【氏名】若林 千夏
【審査官】久米 伸一
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-138704(JP,A)
【文献】特開平07-190046(JP,A)
【文献】特開平06-306757(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第112359489(CN,A)
【文献】国際公開第2017/038977(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/043324(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/043322(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65H 18/00
D04H 3/011
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂を主成分とする繊維からなる長繊維不織布が、ロール状に巻き取られてなる不織布ロールであって、前記長繊維不織布の見掛け密度が0.70g/cm
3以上0.90g/cm
3以下であり、前記不織布ロールの巻き硬度が35.0g以上50.0g以下で、かつ、ロール幅方向の硬度差が7.0g以上20.0g以下である、不織布ロール。
【請求項2】
前記不織布ロールの巻き長が100m以上20500m以下であり、かつ、ロール外層の長繊維不織布の厚みとロール内層の長繊維不織布の厚みとの差が0.010mm以下である、請求項1に記載の不織布ロール。
【請求項3】
前記不織布ロールのロール幅が0.5m以上1.5m以下である、請求項1または2に記載の不織布ロール。
【請求項4】
前記長繊維不織布の平滑度が両面とも10秒以上60秒以下である、請求項1または2に記載の不織布ロール。
【請求項5】
前記熱可塑性樹脂がポリエステル系樹脂である、請求項1または2に記載の不織布ロール。
【請求項6】
下記
工程a~
工程d
の工程を順次施す、不織布ロールの製造方法。
(
工程a)熱可塑性樹脂を吐出孔を有する紡糸口金
(1
)から紡出して長繊維を得た後、
前記長繊維の走行方向に対して垂直な方向で、冷却部
(2
)を通して気体を長繊維に当て、
次いで、前記長繊維の走行方向に対して垂直な方向に、気体供給部
(3
)を通して気体を長繊維に当てた後、
前記長繊維を、前記気体供給部
(3
)の直下に設けられてなる、長さ1mm以上150mm以下の吸排気部
(4
)を通過させ、紡糸速度3000m/分以上5500m/分以下で吸引延伸する工程
(
工程b)延伸した長繊維を、移動するネットコンベア
(6
)上に捕集して繊維ウェブ
(9
)を形成する工程
(
工程c)前記繊維ウェブ
(9
)を、ロール表面温度が前記熱可塑性樹脂の融点よりも60℃以上120℃以下低い温度の一対のフラットな仮圧着ロール
(7
)により、100N/cm以上700N/cm以下の線圧で仮接着して、不織布シート
(10
)を得る工程
(
工程d)前記不織布シートを2層以上重ね合わせ、少なくとも片方のロール表面温度が前記工
程c
のロール表面温度よりも20℃以上100℃以下高い温度の一対のフラットロールにより、500N/cm以上5000N/cm以下の線圧で熱圧着して長繊維不織布を得て、その後、該長繊維不織布を巻き取って、不織布ロールを得る工程
【請求項7】
前記工
程a
が、以下の
工程a’
であり、前記工
程c
における熱可塑性樹脂の融点が低融点重合体の融点である、請求項6に記載の不織布ロールの製造方法。
(
工程a’)高融点重合体と前記高融点重合体の融点よりも10℃以上110℃以下低い融点を有する低融点重合体とを、吐出孔を有する複合紡糸口金
(1
)から紡出して、
高融点重合体を露出させずに低融点重合体が覆ってなる長繊維を得た後、
前記長繊維の走行方向に対して垂直な方向に、冷却部
(2
)を通して気体を長繊維に当て、
次いで、前記長繊維の走行方向に対して垂直な方向に、気体供給部
(3
)を通して気体を長繊維に当てた後、
前記長繊維を、前記気体供給部
(3
)の直下に設けられてなる、長さ1mm以上150mm以下の吸排気部
(4
)を通過させ、
紡糸速度3000m/分以上5500m/分以下で吸引延伸する工程
【請求項8】
前記工
程a
の熱可塑性樹脂がポリエステル系樹脂、または、前記工
程a’
の高融点重合体および/または低融点重合体がポリエステル系樹脂である、請求項6または7に記載の不織布ロールの製造方法。
【請求項9】
前記工
程d
において、工
程c
により得られた不織布シートの幅方向を分割した不織布シートを、以下の
式1
を満たすように重ね合わせて、熱圧着して長繊維不織布を得て、その後、該長繊維不織布を巻き取って、不織布ロールを得る、請求項6または7に記載の不織布ロールの製造方法。
0.90≦W
Min/W
Max≦1.00 ・・・(1)
ここで、重ね合わせた不織布シートの幅方向において、最大の目付W
Maxと(g/m
2)と最小の目付W
Min(g/m
2)とする。
【請求項10】
前記長繊維不織布の見掛け密度が0.70g/cm
3以上0.90g/cm
3以下であり、前記不織布ロールの巻き硬度が35.0g以上50.0g以下で、かつ、ロール幅方向の硬度差が7.0g以上20.0g以下である、請求項6または7に記載の不織布ロールの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不織布ロールおよびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の水処理は、多くの場合において膜技術が適用されており、浄水場での水処理や海水の淡水化等の用途に分離膜が用いられている。
【0003】
海水の淡水化等に用いられる逆浸透膜等の半透膜においては、不織布や織布等の支持体と一体化した平膜が用いられる。逆浸透膜は、不織布や織布等の支持体上に高分子重合体の溶液を流延し支持層を形成させた後に、その支持層上に半透膜を形成させる方法等により製造される。
【0004】
この支持層を形成する工程においては、ブレードのついたローラーと支持体との間に流延した樹脂溶液を溜めて、ブレード部で余分な樹脂溶液を掻き取るコンマコート方式や、金型の役割を担うダイを支持体に接触させて樹脂溶液を塗布するダイコート方式が挙げられる。コンマコート方式ではブレード部と支持体との間に異物や突起があった場合、支持体が破断して工程通過性が悪化するため、ダイコート方式での支持層の形成が好まれていた。
【0005】
また支持層を形成する際には、支持体となる不織布や織布等に、高分子重合体の溶液を流延あるいは塗布した際に、それが過浸透により裏抜けしたり、膜物質が剥離したり、さらには支持体の毛羽立ち等による膜の不均一化やピンホール等の欠点が生じないような優れた製膜性が要求される。
【0006】
海水の淡水化等に用いられる逆浸透膜では、一定の運転圧力で連続運転や供給海水の水質や温度の変化や造水量の変動などに対応する運転圧力を変化させる運転をする場合がある。
【0007】
そのため不織布や織布等の支持体には、高い機械的強度と高い寸法安定性および膜剥離強度が要求されることから、熱可塑性連続フィラメントで構成された長繊維不織布からなる支持体が提案されている(特許文献1参照。)。
【0008】
また、コンマコート方式での膜形成を行うための不織布からなる半透膜支持体においては、不織布が、通気度が5~50cc/cm2/秒の低密度層と、通気度が0.1cc/cm2/秒以上で5cc/cm2/秒未満の高密度層とを積層一体化した二層構造の不織布とし、かつ不織布全体の通気度が0.1~4.5cc/cm2/秒の半透膜支持体が提案されている(特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】国際公開第2009/017086号
【文献】日本国特公平5-35009号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1で開示する技術は、連続フィラメントからなる長繊維不織布による支持体であることから、均一な膜を塗布するダイコート方式では、支持体の厚みのバラツキによる欠点が発生し、不織布ロールとなった際にそのバラツキがより顕在化し、膜形成不良やシワが発生する課題がある。
【0011】
また、特許文献2で開示する技術は、連続フィラメントでなく短繊維で構成された不織布であり、毛羽立ちによる膜の不均一化や欠点発生の恐れがある。さらに、支持体である不織布の強度についてなんら改善もなく、支持体として十分な機械的強度と寸法安定性は得られていない。
【0012】
そこで本発明の目的は、長繊維不織布からなり、十分な機械的強度と寸法安定性を有しながら、広幅のダイコート方式での膜塗布加工性にも優れる不織布ロールを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、上記の課題を解決せんとするものであり、本発明によれば、以下の発明が提供される。
【0014】
[1] 熱可塑性樹脂を主成分とする繊維からなる長繊維不織布が、ロール状に巻き取られてなる不織布ロールであって、前記長繊維不織布の見掛け密度が0.70g/cm3以上0.90g/cm3以下であり、前記不織布ロールの巻き硬度が35.0g以上50.0g以下で、かつ、ロール幅方向の硬度差が7.0g以上20.0g以下である、不織布ロール。
【0015】
[2] 前記不織布ロールの巻き長が100m以上20500m以下であり、かつ、ロール外層の長繊維不織布の厚みとロール内層の長繊維不織布の厚みとの差が0.010mm以下である、前記[1]に記載の不織布ロール。
【0016】
[3] 前記不織布ロールのロール幅が0.5m以上1.5m以下である、前記[1]または[2]に記載の不織布ロール。
【0017】
[4] 前記長繊維不織布の平滑度が両面とも10秒以上60秒以下である、前記[1]~[3]のいずれかに記載の不織布ロール。
【0018】
[5] 前記熱可塑性樹脂がポリエステル系樹脂である、前記[1]~[4]のいずれかに記載の不織布ロール。
【0019】
[6] 下記工程a~工程dの工程を順次施す、不織布ロールの製造方法。
(工程a)熱可塑性樹脂を吐出孔を有する紡糸口金(1)から紡出して長繊維を得た後、
前記長繊維の走行方向に対して垂直な方向で、冷却部(2)を通して気体を長繊維に当て、
次いで、前記長繊維の走行方向に対して垂直な方向に、気体供給部(3)を通して気体を長繊維に当てた後、
前記長繊維を、前記気体供給部(3)の直下に設けられてなる、長さ1mm以上150mm以下の吸排気部(4)を通過させ、紡糸速度3000m/分以上5500m/分以下で吸引延伸する工程
(工程b)延伸した長繊維を、移動するネットコンベア(6)上に捕集して繊維ウェブ(9)を形成する工程
(工程c)前記繊維ウェブ(9)を、ロール表面温度が前記熱可塑性樹脂の融点よりも60℃以上120℃以下低い温度の一対のフラットな仮圧着ロール(7)により、100N/cm以上700N/cm以下の線圧で仮接着して、不織布シート(10)を得る工程
(工程d)前記不織布シートを2層以上重ね合わせ、少なくとも片方のロール表面温度が前記工程cのロール表面温度よりも20℃以上100℃以下高い温度の一対のフラットロールにより、500N/cm以上5000N/cm以下の線圧で熱圧着して長繊維不織布を得て、その後、該長繊維不織布を巻き取って、不織布ロールを得る工程
[7] 前記工程aが、以下の工程a’であり、前記工程cにおける熱可塑性樹脂の融点が低融点重合体の融点である、前記[6]に記載の不織布ロールの製造方法。
(工程a’)高融点重合体と前記高融点重合体の融点よりも10℃以上110℃以下低い融点を有する低融点重合体とを、吐出孔を有する複合紡糸口金(1)から紡出して、
高融点重合体を露出させずに低融点重合体が覆ってなる長繊維を得た後、
前記長繊維の走行方向に対して垂直な方向に、冷却部(2)を通して気体を長繊維に当て、
次いで、前記長繊維の走行方向に対して垂直な方向に、気体供給部(3)を通して気体を長繊維に当てた後、
前記長繊維を、前記気体供給部(3)の直下に設けられてなる、長さ1mm以上150mm以下の吸排気部(4)を通過させ、
紡糸速度3000m/分以上5500m/分以下で吸引延伸する工程
[8] 前記工程aの熱可塑性樹脂がポリエステル系樹脂、または、前記工程a’の高融点重合体および/または低融点重合体がポリエステル系樹脂である、前記[6]または[7]に記載の不織布ロールの製造方法。
【0020】
[9] 前記工程dにおいて、工程cにより得られた不織布シートの幅方向を分割した不織布シートを、以下の式1を満たすように重ね合わせて、熱圧着して長繊維不織布を得て、その後、該長繊維不織布を巻き取って、不織布ロールを得る、前記[6]~[8]のいずれかに記載の不織布ロールの製造方法。
【0021】
0.90≦WMin/WMax≦1.00 ・・・(1)
ここで、重ね合わせた不織布シートの幅方向において、最大の目付WMaxと(g/m2)と最小の目付WMin(g/m2)とする。
【0022】
[10] 前記長繊維不織布の見掛け密度が0.70g/cm3以上0.90g/cm3以下であり、前記不織布ロールの巻き硬度が35.0g以上50.0g以下で、かつ、ロール幅方向の硬度差が7.0g以上20.0g以下である、前記[6]~[9]のいずれかに記載の不織布ロールの製造方法。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、分離膜支持体用途として使用した際に十分な機械的強度と寸法安定性を有しながら、広幅のダイコート方式で膜塗布加工性にも優れる不織布ロールを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】
図1は、本発明の不織布ロールの製造方法に係る熱可塑性樹脂を紡糸口金から紡出し、不織布シートを得るまでの製造装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の一実施態様の不織布ロールは、熱可塑性樹脂を主成分とする繊維からなる長繊維不織布がロール状に巻き取られてなる不織布ロールであって、前記長繊維不織布の見掛け密度が0.70g/cm3以上0.90g/cm3以下であり、前記不織布ロールの巻き硬度が35.0g以上50.0g以下で、かつ幅方向の硬度差が7.0g以上20.0g以下である不織布ロールである。以下に、その構成要素について詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下に説明する範囲に何ら限定されるものではなく、そして、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0026】
(熱可塑性樹脂)
本発明の一実施態様の不織布ロールは、熱可塑性樹脂を主成分とする繊維からなる長繊維不織布がロール状に巻き取られてなるものである。
【0027】
上記の熱可塑性樹脂としては、例えばポリエステル、ポリアミド、ポリオレフィン、あるいはこれらの混合物や共重合体等を挙げることができる。なかでもポリエステルが、より機械的強度や耐熱性、耐水性、耐薬品性等の耐久性に優れることから好ましい。
【0028】
ポリエステルは酸成分とアルコール成分とからなる。酸成分としては、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸などの芳香族カルボン酸、アジピン酸、セバシン酸などの脂肪族ジカルボン酸、シクロヘキサンカルボン酸等の脂環族ジカルボン酸などを用いることができる。アルコール成分としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコールなどを用いることができる。
【0029】
ポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネート、これらの共重合体等を挙げることができる。
【0030】
(熱可塑性樹脂を主成分とする繊維)
上記の熱可塑性樹脂を主成分とする繊維には、結晶核剤や艶消し剤、滑剤、顔料、防カビ剤、抗菌剤、難燃剤、親水剤等を添加してもよい。特に長繊維不織布の熱圧着成形の際、熱伝導性を増すことで長繊維不織布の接着性を向上させる効果がある酸化チタン等の金属酸化物や、熱圧着ロールと繊維ウェブ間の離型性を増すことで接着安定性を向上させる効果があるエチレンビスステアリン酸アミド等の脂肪族ビスアミド、および/またはアルキル置換型の脂肪族モノアミドを添加することが好ましい。これら各種の添加剤は、熱可塑性繊維中に存在させてもよいし、熱可塑性繊維の表面に存在させてもよい。
【0031】
また、熱可塑性樹脂を主成分とする繊維の断面形状としては、円形、扁平、多角形、X型やY型等の多葉型、中空型等を挙げることができる。
【0032】
そして、前記の熱可塑性樹脂を主成分とする繊維が複合繊維であることも好ましい。
【0033】
この複合繊維としては、高融点重合体の周りに当該高融点重合体の融点よりも低い融点を有する低融点重合体を配した複合繊維であることが好ましい。
【0034】
このような複合繊維とすることにより、熱圧着した際に熱可塑性連続繊維が不織布内において強固に接着し、表面平滑性を得ることができ、支持体として用いた際、繊維の毛羽立ちによる高分子重合体溶液の流延時の不均一化や、膜欠点を抑制することができる。
【0035】
また、このような複合繊維とすることにより、不織布を構成する長繊維ウェブ同士が強固に接着することに加え、融点の異なる繊維同士を混繊させたものに比べ不織布における接着点の数も多くなるため、支持体の中でも、特に使用時に高い圧力がかけられる半透膜支持体として用いた際の寸法安定性と耐久性の向上につながる。
【0036】
ここで主成分とは、複合繊維の成分のうち、50質量%以上を占める成分のことである。
【0037】
上記の高融点重合体と低融点重合体との融点の差としては10℃以上110℃以下が好ましい。融点の差を10℃以上、より好ましくは20℃以上、さらに好ましくは30℃以上とすることで、所望の熱接着性を得ることができる。また、110℃以下、より好ましくは100℃以下、さらに好ましくは90℃以下とすることで、熱圧着時に熱圧着ロールに低融点重合体成分が融着し生産性が低下することを抑制することができる。
【0038】
また、上記複合繊維における高融点重合体の融点としては、160℃以上320℃以下が好ましい。160℃以上、より好ましくは170℃以上、さらに好ましくは180℃以上とすることで、熱が加わる加工工程においても形態安定性に優れる。また、320℃以下、より好ましくは300℃以下、さらに好ましくは280℃以下とすることで、長繊維不織布製造時に溶融するための熱エネルギーを多大に消費し生産性が低下するのを抑制することができる。
【0039】
一方、上記複合繊維における低融点重合体の融点としては、前記の高融点重合体と低融点重合体の融点の差を確保した上で、150℃以上310℃以下であることが好ましい。150℃以上、より好ましくは160℃以上、さらに好ましくは170℃以上とすることで、熱が加わる加工工程においても形態安定性に優れる。また、310℃以下、より好ましくは290℃以下、さらに好ましくは270℃以下とすることで、長繊維不織布製造時に溶融するための熱エネルギーを多大に消費し生産性が低下するのを抑制することができる。
【0040】
かかる高融点重合体および低融点重合体の組み合わせ(高融点重合体/低融点重合体)の具体例としては、ポリエチレンテレフタレート/ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート/ポリトリメチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート/ポリ乳酸、ポリエチレンテレフタレート/共重合ポリエチレンテレフタレート等が挙げられる。共重合ポリエチレンテレフタレートの共重合成分としては、イソフタル酸等が好ましい。
【0041】
なお、本発明において熱可塑性樹脂の融点は、以下のように測定される値を採用するものとする。
(1)示差走査熱量計を用いて、次の条件で1回測定を行う。なお、示差走査熱量計としては、例えば、TA Instruments社製「Q100」が用いられる。
・測定雰囲気:窒素流(150mL/分)
・温度範囲 :30~350℃
・昇温速度 :20℃/分
・試料量 :5mg
(2)吸熱ピーク頂点温度の平均値を算出して、測定対象の融点とする。ただし、繊維形成前の樹脂において吸熱ピークが複数存在する場合は、最も高温側のピーク頂点温度とする。また、繊維を測定対象とする場合には、同様に測定し、複数の吸熱ピークから各成分の融点を推定する。その際、複合繊維による吸熱ピークは、最も高温側の吸熱ピーク(A)と、経過時間の小さい側(早くピークが現れる側)に現れる吸熱ピークであって、最も高温側の吸熱ピークの次に高いピーク(吸熱ピーク(B))を示すピーク群であり、吸熱ピーク(A)が高融点重合体の融点を示すものであるのに対し、前記の吸熱ピーク(B)が低融点重合体の融点を示すものである。
【0042】
かかる複合繊維における低融点重合体の占める割合としては、複合繊維中10質量%以上70質量%以下であることが好ましい。10質量%以上、より好ましくは15質量%以上、さらに好ましくは20質量%以上とすることで、所望の熱接着性を得ることができる。また、70質量%以下、より好ましくは60質量%以下、さらに好ましくは50質量%以下とすることで、熱圧着時に熱圧着ロールに低融点重合体成分が融着し生産性が低下することを抑制することができる。
【0043】
かかる複合繊維の複合形態としては例えば、同心芯鞘型、偏心芯鞘型、海島型等を挙げることができる。中でも同心芯鞘型、特に低融点重合体が鞘成分となる態様が、熱圧着により繊維同士を強固に接着させることができる点で好ましい。複合繊維が異形型の断面形状を採用する場合には、低融点重合体成分が熱圧着に寄与できるように繊維断面の外周部近傍に存在することが好ましい。
【0044】
また、上記のような複合繊維を用いる場合、その断面形状としては、とりわけ円形が好ましい。このようにすることで、繊維同士を均一かつ強固に融着でき機械的強度に優れた長繊維不織布となる。
【0045】
上記の熱可塑性樹脂を主成分とする繊維は、その平均単繊維径が3μm以上17μm以下であることが好ましい。平均単繊維径を好ましくは3μm以上とし、より好ましくは7μm以上とし、さらに好ましくは10μm以上とすることにより、長繊維不織布の製造時に紡糸性が低下することが少なく、支持体の通気性を維持できるため、高分子重合体溶液の流延時の膜剥離等が少なく良好な製膜性を得ることができる。
【0046】
一方、平均単繊維径を好ましくは17μm以下とし、より好ましくは15μm以下とし、さらに好ましくは14μm以下とすることにより、均一性に優れた長繊維不織布および支持体を得ることができ、また支持体を高密度化できるため、高分子重合体溶液の流延時の過浸透等が少なく良好な製膜性を得ることができる。
【0047】
なお、前記の熱可塑性樹脂を主成分とする繊維の平均単繊維径(μm)は、以下の手順によって算出される値を採用するものとする。
(1)長繊維不織布からランダムに小片サンプル(100mm×100mm)10個を採取する。
(2)マイクロスコープ(例えば、株式会社キーエンス製「VHX-D500」)で500倍以上3000倍以下の表面写真を撮影し、各サンプルから10本ずつ、計100本の単繊維の直径を測定する。
(3)測定した100本の値の算術平均値を、小数点以下第一位を四捨五入して平均単繊維径(μm)を算出する。
【0048】
(長繊維不織布)
本発明の一実施態様の長繊維不織布の見掛け密度は0.70g/cm3以上0.90g/cm3以下である。長繊維不織布の見掛け密度は0.70g/cm3以上、好ましくは0.75g/cm3以上、より好ましくは0.80g/cm3以上とすることにより、高分子溶液流延時の過浸透等が少なく良好な製膜性を得ることができ、高い膜剥離強度および機械的強度を有し耐久性に優れた分離膜を得ることができる。一方、長繊維不織布の見掛け密度は0.90g/cm3以下、好ましくは0.88/cm3以下、より好ましくは0.85g/cm3以下とすることにより、高分子溶液流延時に支持体内部に速やかに浸透して強固に接着し、膜剥離強度に優れた分離膜を得ることができる。
【0049】
なお、前記の長繊維不織布の見掛け密度(g/cm3)は、以下の手順によって算出する。
(1)長繊維不織布の目付(g/m2)を長繊維不織布の厚さ(mm)より単位換算した上で除して、その小数点以下第三位を四捨五入し算出される値を採用するものとする。
【0050】
長繊維不織布の目付と厚さについては後述の手順によって算出する。
【0051】
前記の長繊維不織布の目付は、20g/m2以上150g/m2であることが好ましい。目付は好ましくは20g/m2以上、より好ましくは30g/m2以上、さらに好ましくは40g/m2以上とすることにより、高分子溶液流延時の過浸透等が少なく良好な製膜性を得ることができ、高い膜剥離強度および機械的強度を有し耐久性に優れた分離膜を得ることができる。一方、目付は好ましくは150g/m2以下、より好ましくは120g/m2以下、さらに好ましくは90g/m2以下とすることにより、支持体として用いた際に厚さを低減し、流体分離素子ユニットあたりの分離膜面積を増大させることができる。
【0052】
なお、前記の長繊維不織布の目付(g/m2)は、以下の手順によって算出する。
(1)30cm×50cmの長繊維不織布を3個採取する。
(2)各試料の質量をそれぞれ測定し、得られた値の平均値を単位面積当たりの質量(g)に換算し、小数点以下第一位を四捨五入して、目付を算出する。
【0053】
また、前記の長繊維不織布の厚さは、0.030mm以上0.200mm以下であることが好ましい。長繊維不織布の厚さは好ましくは0.030mm以上、より好ましくは0.040mm以上、さらに好ましくは0.050mm以上とすることにより、支持体として用いた際に、高分子溶液流延時の過浸透等が少なく良好な製膜性を得ることができる。また高い寸法安定性を有するため製膜後のカールや折れ曲がりを抑制して流体分離素子製造時の優れた加工性を得ることができ、高い膜剥離強度および機械的強度を有し耐久性に優れた分離膜を得ることができる。一方、長繊維不織布の厚さは好ましくは0.200mm以下、より好ましくは0.160mm以下、さらに好ましくは0.120mm以下とすることにより、分離膜の厚さを低減し、流体分離素子ユニットあたりの分離膜面積を増大させることができる。
【0054】
なお、前記の長繊維不織布の厚さ(mm)は、以下の手順によって算出する。
(1)直径10mmの加圧子を使用し、荷重10kPaで長繊維不織布の幅方向に等間隔に1mあたり10点の厚さを0.01mm単位で測定する。
(2)上記10点の平均値の小数点以下第四位を四捨五入する。
【0055】
本発明の一実施態様の長繊維不織布の平滑度は、両面とも10秒以上60秒以下であることが好ましい。長繊維不織布の平滑度は好ましくは10秒以上、より好ましくは15秒以上、さらに好ましくは20秒以上とすることにより、分離膜製造時に水を主成分とする凝固液の支持体裏面から内部への過度の浸透を抑制して、支持体上に流延した高分子溶液が支持体内部へ十分に浸透した後に凝固させることができ、形成した分離膜の膜剥離強度を向上せしめることができる。また、分離膜製造時の巻取工程において製膜面と裏面が擦過することにより生じる分離膜面の傷を抑制できる。一方、長繊維不織布の平滑度は好ましくは60秒以下、より好ましくは50秒以下、さらに好ましくは45秒以下とすることにより、分離膜製造時に支持体内部の空気が速やかに排出され、部分的な膜剥離強度の低下を抑制して、ピンホールなどの製膜欠点の発生を抑制することができる。
【0056】
なお、前記の長繊維不織布の平滑度(秒)は、以下の手順によって算出する。
(1)長手方向10cm幅なりの長繊維不織布を3個採取する。
(2)平滑度試験機(例えば、旭精工株式会社製「王研式平滑度試験機EBO1-5型」)を用い、JIS P8155:2010「紙及び板紙-平滑度試験方法-王研法」に基づいて、長繊維不織布の両面をそれぞれ、幅方向において10cm間隔で平滑度をベック秒で測定する。例えば、不織布の幅が105cmの場合は、両端7.5cmを除き、10cm等間隔で10点測定を実施する。
(3)得られた測定値の算術平均値を両面それぞれ算出し、小数点以下第一位を四捨五入する。得られた値を、採取した3個の長繊維不織布の両面それぞれで算術平均して小数点以下第一位を四捨五入して、平滑度(秒)とする。
【0057】
また、この長繊維不織布の平滑度を上記範囲の範囲とするには、不織布シートの製造方法の仮接着および熱圧着する工程における、上下一対のフラットな仮圧着ロールの表面の温度や線圧を後述する範囲に調整することで達成することができる。
【0058】
(不織布ロール)
本発明の一実施態様の不織布ロールは、巻き硬度が35.0g以上50.0g以下である。
【0059】
不織布ロールの巻き硬度は35.0g以上、好ましくは37.0g以上、より好ましくは40.0g以上とすることにより、巻きズレや弛んだ際のシワ発生がない不織布ロールを得ることができる。一方、不織布ロールの巻き硬度は50.0g以下、好ましくは48.0g以下、より好ましくは47.0g以下とすることにより、不織布ロールに過度な巻き締まり張力がかかることなく、巻き取りコアに負荷がかかることがないので長繊維不織布にシワ発生がない不織布ロールを得ることができる。
【0060】
また、不織布ロールの幅方向の硬度差は7.0g以上20.0g以下である。不織布ロールの幅方向の硬度差は7.0g以上、好ましくは8.0g以上、より好ましくは9.0g以上とすることにより、広幅の支持体として、ダイコート方式で塗布加工をした際に、支持膜加工性に優れる。一方、不織布ロールの幅方向の硬度差は20.0g以下、好ましくは19.0g以下、より好ましくは18.0g以下とすることにより、支持体を長尺化した際の幅方向のバラツキによる変形を抑制して、分離膜製造時の塗布不良の発生を抑制することができる。
【0061】
なお、前記の不織布ロールの巻き硬度(g)ならびに幅方向の硬度差(g)は、以下の手順によって算出する。
(1)ロール硬度計(例えば、ACA System社製「RoQロール巻き硬さ測定器」)を用い、不織布ロールを静置した状態で、不織布ロールを断面から見た際に3時あるいは9時の角度より幅方向端部より、もう一方の端部まで同一方向に計3回測定し、得られた幅方向0.2cm間隔の数値の算術平均値を小数点以下第二位で四捨五入し、不織布ロールの巻き硬度(g)を算出する。なお、前記のACA System社製「RoQロール巻き硬さ測定器」は、前記測定器の底面にハンマーが設けられており、ハンマー部がロール表面を叩き、ロール表面にハンマーが当たり減速し、停止するまでのマイナス重力加速度を硬度(単位:g、1g=9.81m/s2である。)として計測する機構を有するものである。
(2)上記方法で得られた、幅方向0.2cm間隔の硬度データ両端7.5cmを除いた数値の最大値と最小値の差を求め、小数点以下第二位を四捨五入し、ロール幅方向の硬度差(g)を算出する。
【0062】
また、この不織布ロールの巻き硬度を上記範囲の範囲とするには不織布シートの製造方法の仮接着および熱圧着する工程における、上下一対のフラットな仮圧着ロールの表面の温度や線圧を後述する範囲に調整することで達成することができる。
【0063】
また、不織布ロールの幅方向の硬度差を上記範囲の範囲とするには、不織布シートの製造方法における、重ね合わせた最大目付WMax(g/m2)と最小の目付WMin(g/m2)を後述する範囲に調整することで達成することができる。
【0064】
本発明の一実施態様の不織布ロールは、巻き長が100m以上20500m以下であることが好ましい。不織布ロールの巻き長は好ましくは100m以上、より好ましくは1000m以上、さらに好ましくは3000m以上とすることにより、分離膜製造時のハンドリング性にも優れる不織布ロールを得ることができる。一方、不織布ロールの巻き長は好ましくは20500m以下、より好ましくは15500m以下、さらに好ましくは11500m以下とすることにより、不織布ロールに過度な巻き締まり張力がかかることを防止して、巻き取りコアの変形を抑制でき、また不織布ロール運搬時のハンドリング性にも優れる不織布ロールを得ることができる。
【0065】
本発明の一実施態様の不織布ロールは、ロール外層不織布とロール内層不織布の厚みの差が0.010mm以下であることが好ましい。ロール外層不織布とロール内層不織布の厚みの差は好ましくは0.010mm以下、より好ましくは0.005mm以下、さらに好ましくは0.003mm以下とすることにより、ロール長尺化した際のロール内層不織布の巻きズレを抑制して巻き取ることが可能である。
【0066】
ここで述べるロール内層不織布、ロール外層不織布とは、不織布ロールの半径から巻き芯の半径を差し引いた距離の巻き芯側10%以内をロール内層不織布とし、不織布ロール最外側10%以内をロール外層不織布とし、上記各範囲内の位置にある不織布一枚の厚さを示す。
【0067】
前記の長繊維不織布の厚さ(mm)と厚みの差(mm)は、以下の手順によって算出する。
(1)ロール内層不織布とロール外層不織布をそれぞれ3箇所任意で採取する。
(2)任意で採取した不織布の幅方向において10cm等間隔で、直径10mmの加圧子(例えば、株式会社ミツトヨ製「ダイヤルゲージ2109S-10(測定子:フラット測定子101117)」)を使用して、荷重10kPa、0.001mm単位で、厚さを測定する。例えば、不織布の幅が105cmの場合は、両端7.5cmを除き、10cm等間隔で10点測定を実施する。
(3)上記等間隔で測定した値の平均値を、ロール内層不織布とロール外層不織布のそれぞれ3つにおいて算出し、更にロール内層不織布とロール外層不織布のそれぞれ3つの平均値の算術平均値を小数点以下第四位で四捨五入して、ロール内層不織布の厚さとロール外層不織布の厚さとする。
(4)求めたロール内層不織布の厚さとロール外層不織布の厚さの差を求める。
【0068】
本発明の不織布ロールに用いる巻芯は、一般的な紙管やポリエチレンやポリプロピレンあるいはABS等の樹脂製でもよいが、長尺巻き取り時に巻き芯が潰れないように巻き芯部を金属で強化した紙管や繊維強化プラスチック等からなる巻き芯を用いることが好ましい。不織布ロールの巻芯の外径サイズは、限定されるものではないが、巻き始めは折込みシワなどが入り易く、巻取を容易にするために、50mm以上が好ましく、物流面での積載効率の観点から200mm以下が好ましい。
【0069】
本発明の一実施態様の不織布ロールは、ロール幅が0.5m以上1.5m以下であることが好ましい。不織布ロールのロール幅は好ましくは0.5m以上、より好ましくは0.6m以上、さらに好ましくは0.7m以上とすることにより、支持体製造時の生産性に優れる不織布ロールを得ることができる。一方、不織布ロールのロール幅は1.5m以下、より好ましくは1.4m以下、さらに好ましくは1.3m以下とすることにより、不織布ロールの幅方向のバラツキによる影響を損なうことなく支持体製造時の加工性に優れた不織布ロールを得ることができる。
【0070】
また、本発明において不織布ロールの巻きズレは0mm以上8mm以下であることが好ましい。巻きズレとは、ロール端面と一部外側に飛び出している不織布との間の距離を言う。この不織布ロールの巻きズレは5mm以下がさらに好ましい。このようにすることにより、支持体加工時に蛇行によりシワが入ることなく加工することができる。
【0071】
(不織布ロールの製造方法)
次に、本発明の不織布ロールの製造方法は、下記
工程a~
工程d
の工程を順次施すことを特徴とする不織布ロールの製造方法である。
図1を参考にして詳述する。
(
工程a)熱可塑性樹脂を吐出孔を有する紡糸口金
(1
)から紡出して長繊維を得た後、前記長繊維の走行方向に対して垂直な方向に、冷却部
(2
)を通して気体を長繊維に当て、次いで、前記長繊維の走行方向に対して垂直な方向に、気体供給部
(3
)を通して気体を長繊維に当てた後、前記長繊維を、前記気体供給部
(3
)の直下に設けられてなる、長さ1mm以上150mm以下の吸排気部
(4
)を通過させ、紡糸速度3000m/分以上5500m/分以下で吸引延伸する工程、
(
工程b)延伸した長繊維を、移動するネットコンベア
(6
)上に捕集して繊維ウェブ
(9
)を形成する工程、
(
工程c)前記繊維ウェブ
(9
)を、ロール表面温度が前記熱可塑性樹脂の融点よりも60℃以上120℃以下低い温度の一対のフラットな仮圧着ロール
(7
)により、100N/cm以上700N/cm以下の線圧で仮接着して、不織布シート
(10
)を得る工程、
(
工程d)前記不織布シートを2層以上重ね合わせ、少なくとも片方のロール表面温度が前記工
程c
のロール表面温度よりも20℃以上100℃以下高い温度の一対のフラットロールにより、500N/cm以上5000N/cm以下の線圧で熱圧着して長繊維不織布を得て、その後、該長繊維不織布を巻き取って、不織布ロールを得る工程。
【0072】
なお、長繊維不織布を構成する繊維として芯鞘型等の複合繊維を用いる場合には、以下のようにすることが好ましい。すなわち、前記の工程aが、以下の工程a’であり、前記工程cにおける熱可塑性樹脂の融点が低融点重合体の融点である。
(工程a’)高融点重合体と前記高融点重合体の融点よりも10℃以上110℃以下低い融点を有する低融点重合体とを、吐出孔を有する複合紡糸口金(1)から紡出して、
高融点重合体を露出させずに低融点重合体が覆ってなる長繊維を得た後、
前記長繊維の走行方向に対して垂直な方向に、冷却部(2)を通して気体を長繊維に当て、
次いで、前記長繊維の走行方向に対して垂直な方向に、気体供給部(3)を通して気体を長繊維に当てた後、
前記長繊維を、前記気体供給部(3)の直下に設けられてなる、長さ1mm以上150mm以下の吸排気部(4)を通過させ、
紡糸速度3000m/分以上5500m/分以下で吸引延伸する工程。
【0073】
(工程a)長繊維を得た後、吸引延伸する工程
本発明の不織布ロールを構成する長繊維不織布の製造方法としては、スパンボンド法、フラッシュ紡糸法、湿式法、カード法およびエアレイド法等を挙げることができる。
【0074】
中でも、スパンボンド法により製造されるスパンボンド不織布は好ましい態様の一例である。熱可塑性フィラメントから構成された長繊維不織布であるスパンボンド不織布は、生産性に優れる他、支持体として使用する際に短繊維不織布を用いたときに起こりやすい毛羽立ちを抑制することができる。また、スパンボンド不織布は、機械的強度と寸法安定性にもより優れていて、支持体として使用した際に耐久性に優れる加工品を得ることもできるという観点からも好ましく用いられる。
【0075】
本発明において、不織布を構成する繊維として前記のような複合繊維を用いる場合、その複合繊維の製造には通常の複合方法を採用することができる。
【0076】
熱可塑性樹脂を紡糸口金(1)から溶融押し出し後、前記紡出した長繊維(8)の走行方向に対して垂直な方向に、冷却部(2)を通して気体を長繊維に当て、次いで、前記長繊維の走行方向に対して垂直な方向に、気体供給部(3)を通して気体を長繊維に当てた後、前記長繊維を、前記気体供給部(3)の直下に設けられてなる、長さ1mm以上150mm以下の吸排気部(4)を通過させ、吸引延伸させる。
【0077】
上記のとおり実施することにより、紡出した長繊維を冷却し、外気の流入を抑制しつつ吸引延伸による気流に影響し、糸切れや糸揺れによる幅方向の目付分布を悪化させることなく、繊維ウェブを形成することができる。
【0078】
気体供給部(3)については、糸揺れを最小限とするため、冷却部の下段にさらに取り付けるものであるが、糸揺れを最小限化するために、冷却部の幅よりも気体供給部の幅の方が長い方が好ましい。なお、ここで言う、冷却部の幅とは、冷却部(2)において、糸条が走行する通路の壁面間の距離のうち、最も短い距離のことを言い、気体供給部の幅とは、気体供給部(3)において、糸条が走行する通路の壁面間の距離のうち、最も短い距離のことを言う。
【0079】
また、長繊維の走行方向に対して垂直な方向に、気体供給部を通して気体を当てるものであれば特に指定はないが、糸揺れを抑制するために気体供給部内に整流化するためにメッシュが入っていることが好ましい。このメッシュのサイズについては好ましくは20mesh以上、より好ましくは40mesh以上、さらに好ましくは100mesh以上である。
【0080】
吸排気部(4)については、吸引に必要な気体流入を取り込むため、メッシュ構造や千鳥状等規則的に孔を配列した板を配することが好ましい。
【0081】
吸排気部の長さについては、長さ1mm以上150mm以下であることが好ましい。吸排気部の長さが、1mm以上、より好ましくは5mm以上、さらに好ましくは10mm以上であれば、吸引に必要な気体の流入を吸排気部で高風速化を抑制し、長繊維の糸切れを低減することができる。また、吸排気部の長さが、150mm以下、より好ましくは、100mm以下、さらに好ましくは75mm以下であれば、外気の流入による長繊維の糸揺れを抑制でき、幅方向の目付分布に優れる繊維ウェブを得ることができる。なお、「吸排気部の長さ」とは、吸排気部
(4
)において、糸条が走行する通路に面する部分の、垂直方向の距離(
図1の上下方向の距離)のことを言う。
【0082】
吸引延伸については、エジェクター(5)を用いて空気により延伸することが一般的であり、このとき、後工程での仮接着や熱圧着時に繊維が収縮してシワが発生したり、熱ロールに低融点重合体成分が融着して生産性が低下したりすることがないように、得られる繊維ウェブを構成する長繊維をより高度に配向結晶化させることが好ましく、紡糸速度は3000m/分以上とすることが好ましく、より好ましくは3500m/分以上であり、さらに好ましくは4000m/分以上である。また、繊維の過度の配向結晶化を抑制することにより、スパンボンド不織布の機械的強度の向上に資する熱接着性を得ることができることから、紡糸速度は5500m/分以下であることが好ましく、より好ましくは5000m/分以下であり、さらに好ましくは4500m/分以下である。
【0083】
(工程b)繊維ウェブを形成する工程
上記の工程aにより得られた長繊維を移動するネットコンベア(6)上に捕集して、繊維ウェブ(9)を得る。捕集とは、回転移動しているネットコンベア(6)上に、エジェクター(5)から噴射された前記の長繊維を順次堆積させていくことを指し、ネットコンベアとは、ベルトコンベアのベルト部分がパンチングプレート、網状物、あるいは多孔質体などのネット状になっているものを指す。ただし、捕集された長繊維が、網状物の貫通部分、あるいはパンチングプレート、多孔質体の孔部分(以下、これらを「孔部分等」と略記する)からネットコンベア内部へ落下したり、孔部分等に目詰まりしたりすることがないよう、長繊維を構成する樹脂や長繊維の繊維径等を考慮して、孔部分等の大きさを適宜設定することが好ましい。なお、ネット状部分は、金属製であっても合成樹脂製であってもよい。
【0084】
(工程c)不織布シートを得る工程
ネットコンベア(6)上に捕集して形成された繊維ウェブ(9)は、毛羽立ちを抑制するために一対のフラットな仮圧着ロール(7)に接触させるものであれば何ら制限されるものではないが、所定温度に加熱したフラットな仮圧着ロール(7)を繊維ウェブ(9)に接触させる熱処理加工が好ましく、フラットな仮圧着ロールとは、ロールの表面に凹凸のないロールである。
【0085】
この仮接着における熱処理加工について、フラットな仮圧着ロールの表面温度は、繊維ウェブの表面に存在する繊維ウェブを構成する、最も融点の低い重合体の融点に対して、60℃以上120℃以下低いことが好ましい。即ち、この融点を(Tm)とした場合、フラットな仮圧着ロールの表面温度は、(Tm-60)℃以上(Tm-120)℃以下であることが好ましく、(Tm-70)℃以上(Tm-110)℃以下がより好ましく、(Tm-80)℃以上(Tm-100)℃以下が最も好ましい。フラットな仮圧着ロールの表面温度が(Tm-120)℃よりも低い場合は、繊維ウェブの熱圧着が不十分となって、繊維ウェブを搬送不良が生じる。また、フラットな仮圧着ロールの表面温度が(Tm-60)℃よりも高い場合には、熱処理が強くなりすぎ、表層部の構成繊維が融着状態となり、十分な機械的強度を得られず、後加工での熱圧着時の接着性劣るものとなる。
【0086】
繊維ウェブ(9)を一対のフラットな仮圧着ロール(7)により仮接着する際の線圧は、100N/cm以上700N/cm以下の範囲が好ましく、より好ましくは200N/cm以上600N/cm以下の範囲である。線圧が200N/cm以上の場合であれば、繊維ウェブ形成に十分な線圧が得られる。線圧が600N/cm以下の場合には、繊維同士の接着が強くなり過ぎることなく、十分な機械的強度を得られる。
【0087】
(工程d)長繊維不織布を得て、不織布ロールを得る工程
仮接着し得られた前記不織布シート(10)においては、そのまま上下1対のフラットロールによりさらに熱圧着してもよいが、幅方向の目付の均一性を向上させるために、幅方向に2~5分割し、重ね合わせることが好ましい。
【0088】
重ね合わせを実施する際には不織布シートを、以下の式1を満たすように重ね合わせて、熱圧着を実施することが好ましい
0.90≦WMin/WMax≦1.00 ・・・(1)
ここで、重ね合わせた不織布シートの幅方向において、最大の目付WMax(g/m2)と最小の目付WMin(g/m2)とする。これにより、端部の最も低い目付部同士を同方向に積層し、幅方向の目付の均一性が悪化し、支持体として使用した際に、加工性に優れる不織布を得ることができる。
【0089】
また、目付の均一性を向上させるために、前記不織布シートの層間にメルトブロー不織布を配して、重ね合わせてもよい。
【0090】
なお、本発明においては、前記不織布シートのWMin、WMaxは、以下の手順によって算出される値を採用するものとする。
(1)X線式目付計(例えば、株式会社ヒューテック製「AccureX3」)でスキャン回数40回以上により計測された5mm間隔の目付分布平均値を算出する。
(2)繊維ウェブ幅分割位置より両端0~20cmに該当する目付データを平均化し小数点以下第二位を四捨五入し算出し、最小値の目付WMinと最大値のWMaxを算出する。なお、WMinの片側がWMaxとなる場合は次いで最も高い数値を採用する。
【0091】
熱圧着については、上下1対のフラットロールにより熱圧着し一体化することがより好ましい。熱圧着で使用するフラットロールにおいては、金属製ロールや弾性ロールを採用することができる。弾性ロールとしては、ペーパー、コットン、アラミドペーパー等のいわゆるペーパーロールや、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、シリコン系樹脂、硬質ゴム等の樹脂製ロール等が挙げられる。1対のフラットロールの組み合わせとしては、金属製ロールと金属製ロールを対にしたり、金属製ロールと弾性ロールを対にしたりして用いることができる。
【0092】
また、長繊維不織布表面の繊維の融着を抑え、形態を保持することで、支持体として使用した際に分離膜の剥離を抑制する投錨効果を得られることから、1対のフラットロールのロール間に温度差をつけることが好ましい。特に、不織布シートを加熱した金属製ロールと非加熱の弾性ロールにより熱圧着する方式を上記投錨効果の点から好ましく採用することができる。
【0093】
不織布ロールを構成する長繊維不織布を得るための熱圧着の方法としては、少なくとも片方のロール表面温度が前記仮接着時のロール表面温度よりも20℃以上100℃以下高い温度の一対のフラットロールにより、熱圧着を実施することが好ましい。即ち、フラットロールの高温側の表面温度は、20℃以上100℃以下であることが好ましく、30℃以上90℃以下がより好ましく、40℃以上80℃以下が最も好ましい。ロール表面温度を100℃以下とすることにより、高密度になりすぎ、部分的なフィルム化を抑制することにより、支持体とし、使用した際、支持膜の浸透不足による膜剥がれを抑制することができる。また、ロール表面温度を20℃以上とすることにより、不織布シートを十分に熱圧着し、表面を十分平滑し、支持体として使用した際に均一に支持膜を塗布することができる。
【0094】
また、1対のフラットロールのうちもう一方(低温側の)フラットロールの温度としては、高温側のフラットロールの温度よりも40℃以上120℃以下の温度とすることが好ましい。低温側のフラットロールと高温側のフラットロールとの温度差を40℃以上、より好ましくは60℃以上とすることで、長繊維不織布の表面に極端な高密度部分が生じることを抑制でき、支持体塗布時の支持膜溶液浸透不足による膜剥離等が少なく、良好な製膜性を得ることができる。一方、低温側のフラットロールと高温側のフラットロールとの温度差を120℃以下、より好ましくは100℃以下とすることで、十分に熱圧着でき、支持体塗布時の過浸透等が少なく良好な加工性を得ることができる。
【0095】
また、上下それぞれのロールの熱圧着時の温度は、加工開始時の温度を中心に±15℃以下の範囲であることが好ましく、±10℃以下の範囲であることがより好ましく、±5℃以下の範囲であることがさらに好ましい。非加熱の弾性ロールの温度は、一般的に厳密に制御することは困難であるが、加工前に加熱した金属製ロールと接触させた状態で予備運転を行ったり、加工中に弾性ロールの温度が高くなりすぎる場合は、エアブロー、シャワーリング、冷却ロールとの接触などを行ったり、逆に低くなりすぎる場合は、赤外線ヒーターによる加熱、ロール内部の熱媒循環、加熱ロールとの接触などを行ったりすることで、制御することができる。
【0096】
不織布ロールを構成する長繊維不織布を得るための熱圧着の線圧は500N/cm以上5000N/cm以下の範囲が好ましい。好ましくは、500N/cm以上5000N/cm以下の範囲の範囲であり、より好ましくは750N/cm以上4000N/cm以下、さらに好ましくは1000N/cm以上3000N/cm以下である。線圧が500N/cm以上の場合であれば、繊維ウェブが十分熱圧着し、表面が平滑化することで支持体として使用した際の製膜加工性に優れる。また、線圧が5000N/cm以下とすることにより、長繊維不織布の表面に極端な高密度部分が生じることを抑制でき、支持体として使用した際に、支持膜溶液の流延時の浸透不足による膜剥離等が少なく、良好な製膜性を得ることができる。
【0097】
熱圧着した長繊維不織布を巻き取るための巻き取り機の方式としては、芯の中心軸を回転駆動することで巻成ロールの表面に材料ウェブを巻きつけていくセンターワインディング方式や、1本もしくは2本以上の支持ローラーの上にロールコアを載置し、支持ローラーの少なくとも1本を回転駆動することでロールコアに材料ウェブを巻きつけていく、サーフェイスワインディング方式であってもよい。また、抑え圧や巻き取り張力を調整でき、より安定的に巻き取りが可能であることが好ましい。
【0098】
熱圧着した長繊維不織布が巻き取った不織布ロールについては、シート端部と中央部で収縮差が発生することから不織布ロールとして巻き取る際に両端部を耳スリットすることが好ましい。耳スリット幅については、好ましくは1cm以上10cm以下であることが好ましい。好ましくは、1cm以上10cm以下の範囲であり、より好ましくは2cm以上9cm以下、さらに好ましくは3cm以上8cm以下である。耳スリット幅が1cm以上の場合であれば、耳スリット部が蛇行した際に切れてスリット不良が発生することなく巻き取ることが可能である。また10cm以下であれば不織布ロールのロスを削減し生産性にも優れる。
【0099】
また、熱圧着した長繊維不織布を巻き取る際の巻き取り張力については、40N/m以上170N/m以下であることが好ましい。好ましくは、40N/m以上160N/m以下の範囲であり、より好ましくは50N/m以上150N/m以下、さらに好ましくは60N/m以上150N/m以下である。巻き取り張力が40N/m以上の場合であれば、長繊維不織布が弛んで不織布ロールにシワが発生することなく巻き取ることが可能である。また、巻き取り張力が170N/m以下とすることにより、逆に張力が強くなりすぎて不織布ロールにシワを発生させることなく巻き取ることが可能である。
【実施例】
【0100】
次に、実施例に基づき本発明の不織布ロールとその製造方法について、具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0101】
[測定方法]
実施例で用いた評価方法とその測定条件について説明する。各物性の測定において、特段の記載がないものは、前記の方法に基づいて測定を行ったものである。
【0102】
(1)固有粘度(IV):
ポリエチレンテレフタレート樹脂の固有粘度(IV)は、次の方法で測定した。オルソクロロフェノール100mlに対し試料8gを溶解し、温度25℃においてオストワルド粘度計を用いて相対粘度ηrを、下記式により求めた。
・ηr=η/η0=(t×d)/(t0×d0)
(ここで、ηはポリマー溶液の粘度、η0はオルソクロロフェノールの粘度、tは溶液の落下時間(秒)、dは溶液の密度(g/cm3)、t0:はオルソクロロフェノールの落下時間(秒)、d0はオルソクロロフェノールの密度(g/cm3)を、それぞれ表す。)
次いで、上記の相対粘度ηrから、下記式により、固有粘度(IV)を算出した。
・固有粘度(IV)=0.0242ηr+0.2634 。
【0103】
(2)融点(℃):
使用した熱可塑性樹脂の融点は、示差走査熱量計(TA Instruments社製Q100)を用いて、上記の条件で測定し、吸熱ピーク頂点温度の平均値を算出して、測定対象の融点とした。
【0104】
(3)不織布シートの幅方向における最大の目付WMax(g/m2)、最小の目付WMin(g/m2):
不織布シートの幅方向における最大の目付WMax、最小の目付WMinは、X線式目付計として、株式会社ヒューテック製「AccureX3」を用い、前記の方法によって測定した。
【0105】
(4)長繊維不織布の平滑度(秒):
長繊維不織布の平滑度は、旭精工株式会社製「王研式平滑度試験機EBO1-5型」を用い、前記の方法によって測定した。なお、表1において、平滑度(1)とは、熱圧着時に温度の高い面の平滑度のことを、平滑度(2)とは、熱圧着時に温度の低い面の平滑度のことを略記したものであり、一般的に平滑度(1)>平滑度(2)とした値である。
【0106】
(5)不織布ロールの巻き硬度(g)、幅方向の硬度差(g):
不織布ロールの巻き硬度、幅方向の硬度差は、ロール硬度計として、ACA System社製「RoQロール巻き硬さ測定器」を用い、前記の方法によって測定した。
【0107】
[実施例1]
(繊維ウェブ)
熱可塑性樹脂を主成分とする繊維として、芯成分として以下の高融点重合体、鞘成分として以下の低融点重合体からなる複合繊維を用いた。以下に、用いた熱可塑性樹脂について示す。
高融点重合体:固有粘度(IV)が0.65、融点が260℃であり、酸化チタンを0.3質量%含むポリエチレンテレフタレート樹脂を水分率10ppm以下に乾燥したもの。
低融点重合体:固有粘度(IV)が0.66、イソフタル酸共重合率が11モル%、融点が230℃であり、酸化チタンを0.2質量%の共重合ポリエチレンテレフタレート樹脂を水分率10ppm以下に乾燥したもの。
【0108】
上記の芯成分を295℃、鞘成分を280℃で溶融し、芯/鞘の複合比を質量比で80/20として円形断面の同心芯鞘型に複合し、口金温度300℃で細孔より紡出し長繊維を得た。その紡出した長繊維(8)を走行方向に対して垂直な方向に、冷却部(2)を通して気体を長繊維に当て、次いで、長繊維の走行方向に対して垂直な方向に、長さ100mmの気体供給部(3)を通して気体を長繊維に当てた。なお、気体供給部(3)は、冷却部の幅よりも50mm大きいもので、内部に100meshの金網を搭載したものであった。気体供給部を通して気体を当てた後、気体供給部の直下に設けられている、長さ20mmの吸排気部(4)を通過させ、エジェクター(5)で圧縮エアーにより紡糸速度4300m/分で吸引延伸し、移動するネットコンベア(6)上に捕集して繊維ウェブ(9)を得た。上記のようにして捕集した繊維ウェブを、上下1対の金属製のフラットな仮圧着ロール(7)に通し、仮圧着ロールの各ロールの表面温度が135℃、線圧が490N/cmで仮接着し、平均単繊維直径が11.4μm、目付が34.5g/m2の仮接着した、幅が2.3mの不織布シート(10)を得た。
【0109】
(不織布ロール)
上記不織布シートを1.15mに2分割し、2層を重ね合わせ熱圧着を実施した。重ね合わせは、不織布シートを2分割した際の位置より両端0~20cmに該当する目付を確認し、片側端部Wminが34.2g/m2と2分割部端部のWMAXが35.8g/m2が重なり合うように実施した。
【0110】
重ね合わせたシートを1組の3本フラットロールを通して熱圧着した。上のフラットロールは硬度(ShoreD)91、表面平均粗さRaが4μmの樹脂製の弾性ロールで表面温度を130℃、中のフラットロールは表面温度が195℃の金属ロール、下のフラットロールは硬度(ShoreD)75、表面平均粗さRaが4μmの樹脂製の弾性ロールで表面温度が130℃であり、フラットロールの中-下の間に通して熱圧着し、さらに上-中の間を通して線圧1850N/cmで熱圧着した。
【0111】
その後、上記の熱圧着したシートの中フラットロールの金属ロールと接触した面を、ロール表面温度が45℃の金属製の冷却ロールに1秒間接触させ、次いで両端2.5cmを耳スリットしながら、シート巻き取り張力120N/mで、内径が17.5cm、肉厚が10mmの繊維強化プラスチックコアに2軸サーフェイス方式ワインダーで5000m巻き取り、幅が1.1mの不織布ロールを得た。
【0112】
得られた不織布は目付が70g/m2、見掛け密度が0.82g/cm3、平滑度は熱圧着時の金属ロール接着面、弾性ロール接着面がそれぞれ45秒、14秒であった。
【0113】
巻き取った不織布ロールはシワもなく、巻きズレも0mmであり、巻き硬度が40.5g、硬度差が8.2g、ロール外層不織布の厚さとロール内層不織布の厚さがそれぞれ0.086mm、0.086mmであった。
【0114】
[実施例2]
実施例1において、不織布ロールの巻き長を12000mとした以外は同じ方法で実施した。
【0115】
巻き取った不織布ロールはシワもなく、巻きズレも0mmであり、巻き硬度が42.3g、硬度差が8.4g、ロール外層不織布の厚さとロール内層不織布の厚さがそれぞれ0.086mm、0.086mmであった。
【0116】
[実施例3]
実施例2において、繊維ウェブを得る際に気体供給部の長さを20mm、吸排気部を100mmとしたこと以外は同じ方法で実施した。不織布シートのWminは33.4g/m2、WMAXは36.6g/m2であり、得られた不織布は目付が70g/m2、見掛け密度が0.81g/cm3、平滑度は熱圧着時の金属ロール接着面、弾性ロール接着面がそれぞれ43秒、12秒であった。
【0117】
巻き取った不織布ロールはシワもなく、巻きズレも0mmであり、巻き硬度が43.1g、硬度差が19.6g、ロール外層不織布の厚さとロール内層不織布の厚さがそれぞれ0.085mm、0.087mmであった。
【0118】
[実施例4]
実施例2において、繊維ウェブを得る際に吸排気部の長さを5mmとしたこと以外は同じ方法で実施した。不織布シートのWminは34.4g/m2、WMAXは35.6g/m2であり、得られた不織布は目付が70g/m2、見掛け密度が0.82g/cm3、平滑度は熱圧着時の金属ロール接着面、弾性ロール接着面がそれぞれ44秒、13秒であった。
【0119】
巻き取った不織布ロールはシワもなく、巻きズレも0mmであり、巻き硬度が42.1g、硬度差が17.2g、ロール外層不織布の厚さとロール内層不織布の厚さがそれぞれ0.085mm、0.086mmであった。
【0120】
[実施例5]
実施例2において、繊維ウェブを幅方向に3分割し、重ね合わせ熱圧着し両端3.0cmを耳スリットし、幅が0.7mの不織布ロールとしたこと以外は同じ方法で実施した。得られた不織布は目付が70g/m2、見掛け密度が0.78g/cm3、平滑度は熱圧着時の金属ロール接着面、弾性ロール接着面がそれぞれ42秒、12秒であった。
【0121】
巻き取った不織布ロールはシワもなく、巻きズレも0mmであり、巻き硬度が41.7g、硬度差が7.5g、ロール外層不織布の厚さとロール内層不織布の厚さがそれぞれ0.088mm、0.089mmであった。
【0122】
[実施例6]
実施例2において、繊維ウェブを幅方向に4分割し、重ね合わせ熱圧着し両端3.2cmを耳スリットし、幅が0.5mの不織布ロールとしたこと以外は同じ方法で実施した。得られた不織布は目付が70g/m2、見掛け密度が0.77g/cm3、平滑度は熱圧着時の金属ロール接着面、弾性ロール接着面がそれぞれ41秒、11秒であった。
【0123】
巻き取った不織布ロールはシワもなく、巻きズレも0mmであり、巻き硬度が41.5g、硬度差が7.1g、ロール外層不織布の厚さとロール内層不織布の厚さがそれぞれ0.089mm、0.089mmであった。
【0124】
[比較例1]
実施例2において、繊維ウェブを得る際に気体供給部を0mmとし、吸排気部を150mmとしたこと以外は同じ方法で実施した。繊維ウェブを得る際に両端部での長繊維の糸揺れが大きくなる様子が確認できた。得られた不織布は目付が70g/m2、見掛け密度が0.81g/cm3、平滑度は熱圧着時の金属ロール接着面、弾性ロール接着面がそれぞれ45秒、14秒であった。
【0125】
巻き取った不織布ロールはシワもなく、巻きズレも0mmであったものの不織布ロールの表面凹凸が見られ、巻き硬度が41.6g、硬度差が24.6g、ロール外層不織布の厚さとロール内層不織布の厚さがそれぞれ0.086mm、0.086mmであった。
【0126】
[比較例2]
実施例2において、繊維ウェブを得る際に、吸排気部を150mmとしたこと以外は同じ方法で実施した。繊維ウェブを得る際に全幅での長繊維の糸揺れが大きくなる様子が確認できた。得られた不織布は目付が70g/m2、見掛け密度が0.82g/cm3、平滑度は熱圧着時の金属ロール接着面、弾性ロール接着面がそれぞれ44秒、14秒であった。
【0127】
巻き取った不織布ロールはシワもなく、巻きズレも0mmであったものの不織布ロールの表面凹凸が見られ、巻き硬度が41.8g、硬度差が23.2g、ロール外層不織布の厚さとロール内層不織布の厚さがそれぞれ0.086mm、0.087mmであった。
【0128】
[比較例3]
実施例2において、繊維ウェブを得る際に、吸排気部を0mmとしたこと以外は同じ方法で実施した。繊維ウェブを得る際に全幅での長繊維の糸揺れが大きく糸切れが多発し、仮接着時にフラットな仮圧着ロールに繊維ウェブが巻き付き、採取不可能であった。
【0129】
[比較例4]
実施例2において、繊維ウェブを得る際に、目付が69g/m2となるようネットコンベアの移動速度を調整し採取した。得られた不織布は不織布シートの1.15mに2分割し、片側のみを用い実施例2と同様に熱圧着を実施した。得られた不織布は目付が70g/m2、見掛け密度が0.82g/cm3、平滑度は熱圧着時の金属ロール接着面、弾性ロール接着面がそれぞれ45秒、14秒であった。
【0130】
巻き取った不織布ロールは巻きズレも0mmであったものの一部で巻き取りシワが発生し、巻き硬度が43.2g、硬度差が25.3g、ロール外層不織布の厚さとロール内層不織布の厚さがそれぞれ0.087mm、0.088mmであった。
【0131】
【0132】
<まとめ>
実施例1~6ならびに比較例1、2および4の不織布ロールを以下のダイコート方式の方法により分離膜を形成した。
【0133】
(分離膜形成)
得られた不織布ロールを、12m/分の速度で巻き出し、ダイコート方式で平滑度が高い面を塗布面側とし、その上にポリスルホン(ソルベイアドバンスドポリマーズ社製の「Udel」(登録商標)-P3500)の16質量%ジメチルホルムアミド溶液(キャスト液)を35μm厚みで、室温(20℃)でダイコート方式により塗布し、ただちに純水中に室温(20℃)で10秒間浸漬した後、75℃の温度の純水中に120秒間浸漬し、続いて90℃の温度の純水中に120秒間浸漬し、120N/mの張力で巻き取り、ポリスルホン膜を形成して分離膜を作製した。
【0134】
その結果、実施例1~6の不織布ロールを用いた場合においては、塗布加工時にシワの発生や塗布不良もなく加工性良好であった。一方、比較例1、2では分離膜塗布後にシワが発生、さらに、比較例4では、巻き出し時よりシワが発生し、加工時も塗布不良が発生し、加工性が不良であった。
【0135】
これらの結果より、表1に示されるように、熱可塑性樹脂を主成分とする繊維からなる長繊維不織布がロール状に巻き取られてなる不織布ロールであって、前記長繊維不織布の見掛け密度が0.70g/cm3以上0.90g/cm3以下であり、前記不織布ロールの巻き硬度が35.0g以上50.0g以下で、かつ、ロール幅方向の硬度差が7.0g以上20.0g以下である、不織布ロールとすることで、分離膜支持体用途として使用した際に十分な機械的強度と寸法安定性を有していながら、広幅でのダイコート方式で支持膜塗布加工性にも優れる不織布ロールが得られた。
【産業上の利用可能性】
【0136】
本発明の不織布ロールは、十分な機械的強度と寸法安定性を有していながら、広幅でのダイコート方式で膜塗布加工性にも優れる不織布ロールであることから、特に、水処理をはじめとした分離膜支持体をはじめ、幅広い分野に好適に使用することができる。
【符号の説明】
【0137】
1:紡糸口金
2:冷却部
3:気体供給部
4:吸排気部
5:エジェクター
6:ネットコンベア
7:仮圧着ロール
8:紡出された長繊維
9:繊維ウェブ
10:不織布シート
11:長繊維の走行方向を示す矢印
【要約】
本発明は、十分な機械的強度と寸法安定性を有していながら、広幅でのダイコート方式で膜塗布加工性にも優れる不織布ロールを提供する。
本発明の不織布ロールは、熱可塑性樹脂を主成分とする繊維からなる長繊維不織布がロール状に巻き取られてなる不織布ロールであって、前記長繊維不織布の見掛け密度が0.70g/cm3以上0.90g/cm3以下であり、前記不織布ロールの巻き硬度が35.0g以上50.0g以下で、かつ、ロール幅方向の硬度差が7.0g以上20.0g以下である、不織布ロールである。