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特許7396539イオン液体含浸触媒粒子、燃料電池用膜電極接合体、及び燃料電池
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  • 特許-イオン液体含浸触媒粒子、燃料電池用膜電極接合体、及び燃料電池 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-04
(45)【発行日】2023-12-12
(54)【発明の名称】イオン液体含浸触媒粒子、燃料電池用膜電極接合体、及び燃料電池
(51)【国際特許分類】
   B01J 31/28 20060101AFI20231205BHJP
   H01M 4/86 20060101ALI20231205BHJP
   H01M 4/90 20060101ALI20231205BHJP
   H01M 8/10 20160101ALI20231205BHJP
【FI】
B01J31/28 M
H01M4/86 B
H01M4/86 M
H01M4/90 M
H01M8/10 101
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2023532065
(86)(22)【出願日】2022-06-30
(86)【国際出願番号】 JP2022026308
(87)【国際公開番号】W WO2023277148
(87)【国際公開日】2023-01-05
【審査請求日】2023-09-29
(31)【優先権主張番号】P 2021110203
(32)【優先日】2021-07-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【弁理士】
【氏名又は名称】宮坂 徹
(72)【発明者】
【氏名】栗原 均
【審査官】森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-282635(JP,A)
【文献】特開2008-177134(JP,A)
【文献】国際公開第2019/208310(WO,A1)
【文献】特開2015-149247(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00 - 38/74
H01M 4/86
H01M 4/90
H01M 8/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性担体と、
前記導電性担体に担持された金属粒子と
からなる触媒粒子において、
前記金属粒子が、多孔性無機材料により包接されており、
前記多孔性無機材料を含む触媒粒子は、イオン液体が含浸されている
ことを特徴とするイオン液体含浸触媒粒子。
【請求項2】
前記多孔性無機材料は、(前記多孔性無機材料)/(前記多孔性無機材料+触媒粒子)の重量比が、0.01以上0.2以下である
ことを特徴とする請求項1に記載のイオン液体含浸触媒粒子。
【請求項3】
前記イオン液体の含浸量は、前記多孔性無機材料を含む触媒粒子のメソ孔体積の50体積%以上100体積%以下の体積である
ことを特徴とする請求項1に記載のイオン液体含浸触媒粒子。
【請求項4】
前記イオン液体が、1-アルキル-3-メチルイミダゾリウム ビス(トリフロオロメタンスルホニル)イミド(ただし、アルキルは、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチルのうちのいずれか一種である。)を含んでなる
ことを特徴とする請求項1に記載のイオン液体含浸触媒粒子。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載のイオン液体含浸触媒粒子を用いた触媒層を備えた
ことを特徴とする燃料電池用膜電極接合体。
【請求項6】
請求項1から4のいずれか一項に記載のイオン液体含浸触媒粒子を有する
ことを特徴とする燃料電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン液体含浸触媒粒子、該イオン液体含浸触媒粒子により形成される膜電極接合体、該膜電極接合体を備えてなる燃料電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
固体高分子型燃料電池として、イオン交換樹脂から形成される電解質層と、燃料が供給される燃料側電極(アノード)と、酸素が供給される酸素側電極(カソード)とを備える燃料電池が知られている。このような燃料電池では、アノードに燃料が供給されるとともに、カソードに空気が供給されることによって、起電力が発生して発電される。カソード触媒として、例えば、カーボンに白金が担持された白金担持カーボン触媒が提案されているが、耐久性に課題があり、担持された白金粒子が、電解質層中に溶出することにより、燃料電池の性能低下を招いてしまう。
【0003】
そのため、例えば、下記特許文献1では、導電性担体と、導電性担体上に配接された金属粒子とを、多孔性無機材料で包接することにより、金属粒子の溶出を防ぎ、燃料電池の性能低下を抑制することが可能な電極材料を提案している。また、下記非特許文献1では、Pt触媒粒子と水との反応を抑制するために、Pt触媒粒子のまわりに、イオン液体をコートすることにより、酸素還元活性を向上できることを報告している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2008-4541号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】ACS Catalysis, 2018, 8, 8244-8254.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の電極材料においては、金属粒子の溶出抑制に効果があるものの、多孔性無機材料が金属粒子を覆うため、アイオノマーとの接触が悪くなり、抵抗が増大して、電圧の低下を引き起こす問題があった。また、非特許文献1に記載の技術では、Pt触媒粒子の担体の空孔にイオン液体が主に保持されることから、担体が結晶性の高いカーボンであると、担体の空隙率が小さくて、イオン液体を十分に保持し辛くなり、イオン液体によるコート効果が十分に得られなかった。さらに、担体の表面に主に担持された高担持のPt触媒粒子の場合も、イオン液体によるコート効果が十分に得られなかった。
【0007】
本発明は、上記のような点に着目したもので、酸素還元活性が優れ、触媒粒子の金属粒子の溶出を抑制するイオン液体含浸触媒粒子、燃料電池用膜電極接合体、及び燃料電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、鋭意研究を重ねた結果、結晶性の高いカーボン担体かつ、金属粒子が高担持されている触媒粒子に対して、金属粒子に多孔性無機材料を包接し、かつ、イオン液体を含侵することで、多孔性無機材料を含む触媒粒子および、イオン液体をコートした触媒粒子よりも、酸素還元活性の向上と、金属粒子の溶出抑制効果が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
前述した課題を解決するための、本発明に係るイオン液体含浸触媒粒子は、導電性担体と、前記導電性担体に担持された金属粒子とからなる触媒粒子において、前記金属粒子が多孔性無機材料により包接されており、前記多孔性無機材料を含む触媒粒子は、イオン液体が含浸されているものである。
【0010】
なお、(前記多孔性無機材料)/(前記多孔性無機材料+触媒粒子)の重量比は、0.01以上0.2以下であると好ましい。
【0011】
また、前記イオン液体の含浸量は、前記多孔性無機材料を含む触媒粒子のメソ孔体積の50体積%以上100体積%以下の体積であると好ましい。
【0012】
また、前記イオン液体が、1-アルキル-3-メチルイミダゾリウム ビス(トリフロオロメタンスルホニル)イミド(ただし、アルキルは、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチルのうちのいずれか一種である。)を含んでなると好ましい。
【0013】
そして、前述した課題を解決するための、本発明に係る燃料電池用膜電極接合体は、上述した本発明に係るイオン液体含浸触媒粒子を用いた触媒層を備えている。
【0014】
そして、前述した課題を解決するための、本発明に係る燃料電池は、上述した本発明に係るイオン液体含浸触媒粒子を有している。例えば、上述した本発明に係るイオン液体含浸触媒粒子を用いた触媒層を備えた膜電極接合体を備えている。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、多孔性無機材料によって、金属粒子の溶出抑制が可能であると共に、イオン液体が金属粒子の表面に安定に保持されるので、酸素還元特性が高く、耐久性に優れたイオン液体含浸触媒粒子、燃料電池用膜電極接合体、及び燃料電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明に係るイオン液体含浸触媒粒子の主な実施形態の要部断面を模式的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明に係るイオン液体含浸触媒粒子、燃料電池用膜電極接合体、及び燃料電池の実施形態を図面に基づいて以下に説明する。なお、本発明は図面に基づいて説明する以下の実施形態のみに限定されるものではなく各実施形態で説明する技術的事項をそれぞれ必要に応じて適宜組み合わせることも可能である。
【0018】
[主な実施形態]
本発明に係るイオン液体含浸触媒粒子、燃料電池用膜電極接合体、及び燃料電池の主な実施形態を図1に基づいて以下に説明する。
【0019】
〈イオン液体含浸触媒粒子〉
図1に示すように、本実施形態に係るイオン液体含浸触媒粒子は、導電性担体2と、導電性担体2に担持された金属粒子3とを有する触媒粒子1を含む。金属粒子3は、多孔性無機材料4によって包接されている。そして、多孔性無機材料4と金属粒子3との間は、イオン液体5が含浸されている。すなわち、多孔性無機材料4内は、その細孔内も含めてイオン液体5により満たされている。
【0020】
多孔性無機材料4は、主に金属粒子3を包接しており、電子伝導の確保は可能である。多孔性無機材料4の細孔内は、イオン液体5で満たされており、水と金属粒子3との接触を抑制できる。多孔性無機材料4内にイオン液体5を満たすことで、イオン液体5を安定に保持することができ、金属粒子3の溶出を抑えられる。また、プロトンは、イオン液体5を通して、金属粒子3へ円滑に移動することができ、抵抗過電圧を抑制することができる。
【0021】
イオン液体5が満たされている量(イオン液体5の含浸量)としては、触媒粒子1のメソ孔体積の50体積%以上100体積%以下の体積相当が含まれている。メソ孔体積は、例えば、低温窒素吸着法により求めることができる。メソ孔体積として、1nmから100nmまでの空孔総体積を用いた。イオン液体5が、50体積%より少ないと、十分な効果が得られず、100体積%より多いと、触媒粒子1を用いた電極を組み込んだ燃料電池の発電中に、イオン液体5が流れ出てしまう。
【0022】
触媒粒子1に用いられる金属粒子3は、Pt、Rh、Pd、AuおよびIrのうち1つ以上の成分を含んでなり、例えば、Pt単体やPtとCoとの合金粒子、PdコアにPt粒子が被覆されたコアシェル粒子等が用いられる。多孔性無機材料4は、シリカ(SiO)、ジルコニア(ZrO)およびチタニア(TiO)のうち、1つ以上の成分を含んでなる。多孔性無機材料4としては、好ましくは、シリカが用いられる。
【0023】
多孔性無機材料4の被覆量は、(前記多孔性無機材料)/(前記多孔性無機材料+触媒粒子)の重量比が、0.01以上0.2以下の範囲であり、触媒粒子の重量は、金属粒子と導電性担体の総重量である。
【0024】
多孔性無機材料4の被覆量は、例えば、X線光電子分光法(XPS)で求めることができる。多孔性無機材料4が、1質量%より少ない場合、イオン液体5を多孔性無機材料4内で十分に保持することが難しく、20質量%より多い場合、触媒粒子1の導電性を十分に確保することが難しくなってしまう。
【0025】
イオン液体5は、1-アルキル-3-メチルイミダゾリウム ビス(トリフロオロメタンスルホニル)イミドを含んでなり、アルキル部位は、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチルのうちのいずれか一種が用いられる。アルキル部位としては、特に、ブチル基が好ましい。
【0026】
〈燃料電池用膜電極接合体〉
本実施形態に係る燃料電池用膜電極接合体は、本実施形態に係る上述のイオン液体含浸触媒粒子を用いた触媒層を備える。このような燃料電池用膜電極接合体は、例えば、高分子電解質膜と、本実施形態に係る上述したイオン液体含浸触媒粒子を用い、高分子電解質膜を上下から挟持する一対の電極触媒層とを備える。なお、燃料電池用膜電極接合体は、アノード側のイオン液体含浸触媒粒子を省略することも可能であり、カソード側のみイオン液体含浸触媒粒子を用いることも可能である。
【0027】
〈燃料電池〉
本実施形態に係る燃料電池は、本実施形態に係る上述のイオン液体含浸触媒粒子を有する。このような燃料電池は、例えば、一対のガス拡散層を備え、それぞれのガス拡散層が本実施形態に係る上述の膜電極接合体の各電極触媒層と対向するように配置される。そして、それぞれのガス拡散層と電極触媒層とによって、カソード(正極)及びアノード(負極)が形成される。
【0028】
〈本実施形態の効果〉
本実施形態に係る発明は、以下の効果を奏する。
【0029】
(1)本実施形態に係るイオン液体含浸触媒粒子は、導電性担体2と、導電性担体2に担持された金属粒子3とを有する触媒粒子1の、少なくとも金属粒子3が、多孔性無機材料4に包接されており、多孔性無機材料4内は、イオン液体5により満たされている。
このような構成によれば、多孔性無機材料4は、触媒粒子1の全体を覆っておらず、主に金属粒子3を包接していることから、導電性担体2によって、電子伝導の確保は可能である。多孔性無機材料4の細孔内は、イオン液体5で満たされており、水と金属粒子3との接触を抑制でき、酸素還元特性を向上させることができる。多孔性無機材料4内にイオン液体5を満たすことで、燃料電池運転下でも、静電相互作用により、イオン液体5を安定に保持することができ、耐久性を向上させることができる。
【0030】
(2)本実施形態に係るイオン液体含浸触媒粒子は、イオン液体5と多孔質無機材料4と触媒粒子1とから構成されており、イオン液体5は、多孔性無機材料4を含む触媒粒子1のメソ孔体積の50体積%以上100体積%以下の体積相当を含む構成とした。
このような構成によれば、多孔性無機材料4内へのイオン液体5の安定な保持ができ、プロトンは、イオン液体5を介して、金属粒子3上に円滑に移動することができ、抵抗過電圧を抑制することができる。
【0031】
(3)本実施形態に係るイオン液体含浸触媒粒子に用いられる触媒粒子1の金属粒子3は、Pt、Rh、Pd、AuおよびIrのうち1つ以上の成分を含んでなり、例えば、Pt単体やPtとCoとの合金粒子、PdコアにPt粒子が被覆されたコアシェル粒子等が用いられる。多孔性無機材料4は、シリカ(SiO)、ジルコニア(ZrO)およびチタニア(TiO)のうち、1つ以上の成分を含んでなり、好ましくは、シリカが用いられる。
このような構成によれば、イオン液体含浸触媒粒子は、高い酸素還元活性を示し、特に、燃料電池用カソード触媒として用いることができる。
【0032】
(4)本実施形態に係るイオン液体含浸触媒粒子の多孔性無機材料4は、(前記多孔性無機材料)/(前記多孔性無機材料+触媒粒子)の重量比が、0.01以上0.2以下である。触媒粒子1は、導電性担体2と金属粒子3とからなる。
このような構成によれば、イオン液体含浸触媒粒子は、多孔性無機材料4によってイオン液体5を保持しつつ、抵抗成分である多孔性無機材料4の影響を抑えることができる。
【0033】
(5)本実施形態に係るイオン液体含浸触媒粒子では、イオン液体5は、1-アルキル-3-メチルイミダゾリウム ビス(トリフロオロメタンスルホニル)イミドを含んでなり、アルキル部位は、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチルのうちの少なくとも一種である化学構造とした。
このようなイオン液体5であれば、触媒粒子1の金属粒子3が覆われても、プロトンや酸素が金属粒子3へ円滑に移動することができ、良好な酸素還元活性を示すことができる。
【実施例
【0034】
本発明に係るイオン液体含浸触媒粒子、燃料電池用膜電極接合体、及び燃料電池の実施例を以下に具体的に説明する。なお、本発明は具体的に説明する以下の実施例のみに限定されるものではなく各実施例の技術的事項をそれぞれ必要に応じて適宜組み合わせることも可能である。
【0035】
〈Pt担持カーボンの合成〉
Pt担持カーボンは、既知の方法に従って合成され、Pt/C=70/30(質量比)のPt担持量とした。カーボン担体は、ラマン分光より、Gバンド/Dバンド比1.3以上のものを用いた。
【0036】
〈シリカ被覆Pt担持カーボンの合成〉
テトラデシルトリメチルアンモニウムブロミド(TTAB)水溶液にPt担持カーボンを加えて分散し、続いて、テトラエトキシシラン(TEOS)とエタノールとの混合溶液を加えた。水酸化ナトリウムを加えて、2時間撹拌後、処理したPt担持カーボンを遠心分離機にて分離して、80℃で6時間乾燥させた。最後に、空気雰囲気下、350℃で熱処理して、付着したTTABを除去し、シリカ被覆Pt担持カーボンを得た。合成したシリカ被覆Pt担持カーボンにおけるシリカ被覆量は、用いるTEOSの量で調整した。シリカ被覆量は、XPSで求めた。
【0037】
〈イオン液体含侵シリカ被覆Pt担持カーボンの合成〉
合成したシリカ被覆Pt担持カーボンをアセトニトリルに加え、シリカ被覆Pt担持カーボンのメソ孔体積に応じて、イオン液体を添加した。30分間超音波分散させた後、エバポレータでアセトニトリルを除去して、イオン液体含侵シリカ被覆Pt担持カーボンを得た。イオン液体の添加量は、低温窒素吸着法により、1nmから100nmのメソ孔体積より求めた。
【0038】
〈実施例1〉
前述の工程に従って、Pt担持カーボン(Pt/C=70/30(質量比))に対し、10質量%のシリカ被覆量であるシリカ被覆Pt担持カーボンを合成し、メソ孔体積の80体積%の1-ブチル-3-メチルイミダゾリウム ビス(トリフロオロメタンスルホニル)イミドを用いて、実施例1の触媒粒子(イオン液体含侵シリカ被覆Pt担持カーボン)を得た。
【0039】
〈実施例2〉
前述の工程に従って、Pt担持カーボン(Pt/C=70/30(質量比))に対し、1質量%のシリカ被覆量であるシリカ被覆Pt担持カーボンを合成し、メソ孔体積の80体積%の1-ブチル-3-メチルイミダゾリウム ビス(トリフロオロメタンスルホニル)イミドを用いて、実施例2の触媒粒子(イオン液体含侵シリカ被覆Pt担持カーボン)を得た。
【0040】
〈実施例3〉
前述の工程に従って、Pt担持カーボン(Pt/C=70/30(質量比))に対し、20質量%のシリカ被覆量であるシリカ被覆Pt担持カーボンを合成し、メソ孔体積の80体積%の1-ブチル-3-メチルイミダゾリウム ビス(トリフロオロメタンスルホニル)イミドを用いて、実施例3の触媒粒子(イオン液体含侵シリカ被覆Pt担持カーボン)を得た。
【0041】
〈実施例4〉
前述の工程に従って、Pt担持カーボン(Pt/C=70/30(質量比))に対し、10質量%のシリカ被覆量であるシリカ被覆Pt担持カーボンを合成し、メソ孔体積の50体積%の1-ブチル-3-メチルイミダゾリウム ビス(トリフロオロメタンスルホニル)イミドを用いて、実施例4の触媒粒子(イオン液体含侵シリカ被覆Pt担持カーボン)を得た。
【0042】
〈実施例5〉
前述の工程に従って、Pt担持カーボン(Pt/C=70/30(質量比))に対し、10質量%のシリカ被覆量であるシリカ被覆Pt担持カーボンを合成し、メソ孔体積の100体積%の1-ブチル-3-メチルイミダゾリウム ビス(トリフロオロメタンスルホニル)イミドを用いて、実施例5の触媒粒子(イオン液体含侵シリカ被覆Pt担持カーボン)を得た。
【0043】
〈実施例6〉
前述の工程に従って、Pt担持カーボン(Pt/C=70/30(質量比))に対し、10質量%のシリカ被覆量であるシリカ被覆Pt担持カーボンを合成し、メソ孔体積の80体積%の1-エチル-3-メチルイミダゾリウム ビス(トリフロオロメタンスルホニル)イミドを用いて、実施例6の触媒粒子(イオン液体含侵シリカ被覆Pt担持カーボン)を得た。
【0044】
〈比較例1〉
Pt担持カーボン(Pt/C=70/30(質量比))を比較例1の触媒粒子(Pt担持カーボン)とした。
【0045】
〈比較例2〉
前述の工程に従って、Pt担持カーボン(Pt/C=70/30(質量比))に対し、0.1質量%のシリカ被覆量であるシリカ被覆Pt担持カーボンを合成し、メソ孔体積の80体積%の1-ブチル-3-メチルイミダゾリウム ビス(トリフロオロメタンスルホニル)イミドを用いて、比較例2の触媒粒子(イオン液体含侵シリカ被覆Pt担持カーボン)を得た。
【0046】
〈比較例3〉
前述の工程に従って、Pt担持カーボン(Pt/C=70/30(質量比))に対し、30質量%のシリカ被覆量であるシリカ被覆Pt担持カーボンを合成し、メソ孔体積の50体積%の1-ブチル-3-メチルイミダゾリウム ビス(トリフロオロメタンスルホニル)イミドを用いて、比較例3の触媒粒子(イオン液体含侵シリカ被覆Pt担持カーボン)を得た。
【0047】
〈比較例4〉
前述の工程に従って、Pt担持カーボン(Pt/C=70/30(質量比))に対し、10質量%のシリカ被覆量であるシリカ被覆Pt担持カーボンを合成し、メソ孔体積の40体積%の1-ブチル-3-メチルイミダゾリウム ビス(トリフロオロメタンスルホニル)イミドを用いて、比較例4の触媒粒子(イオン液体含侵シリカ被覆Pt担持カーボン)を得た。
【0048】
〈比較例5〉
前述の工程に従って、Pt担持カーボン(Pt/C=70/30(質量比))に対し、10質量%のシリカ被覆量であるシリカ被覆Pt担持カーボンを合成し、メソ孔体積の110体積%の1-ブチル-3-メチルイミダゾリウム ビス(トリフロオロメタンスルホニル)イミドを用いて、比較例5の触媒粒子(イオン液体含侵シリカ被覆Pt担持カーボン)を得た。
【0049】
〈比較例6〉
前述の工程に従って、Pt担持カーボン(Pt/C=70/30(質量比))に対し、10質量%のシリカ被覆量であるシリカ被覆Pt担持カーボンを合成し、比較例6の触媒粒子(シリカ被覆Pt担持カーボン)を得た。
【0050】
〈比較例7〉
前述の工程に従って、Pt担持カーボン(Pt/C=70/30(質量比))に対し、メソ孔体積の80体積%の1-ブチル-3-メチルイミダゾリウム ビス(トリフロオロメタンスルホニル)イミドを用いて、比較例7の触媒粒子(イオン液体含侵Pt担持カーボン)を得た。
【0051】
〈比較例8〉
前述の工程に従って、Pt担持カーボン(Pt/C=70/30(質量比))に対し、10質量%のシリカ被覆量であるシリカ被覆Pt担持カーボンを合成し、メソ孔体積の80質量%の1-オクチル-3-メチルイミダゾリウム ビス(トリフロオロメタンスルホニル)イミドを用いて、比較例8の触媒粒子(イオン液体含侵シリカ被覆Pt担持カーボン)を得た。
【0052】
〈触媒インクの作製〉
水とノルマルプロピルアルコール(NPA)とエタノールとの混合溶液(7:2:1)と、実施例1~6及び比較例1~8の触媒粒子と、パーフルオロカーボン(米国シグマ-アルドリッチ社製「ナフィオン(登録商標)」)の分散液とを混合して、ボールミルで分散させて、実施例1~6及び比較例1~8の触媒インクをそれぞれ作成した。I(イオノマー)/C(担体カーボン)比率は、0.8とし、固形分は、14.5質量%とした。
【0053】
〈膜電極接合体の作製〉
実施例1~6及び比較例1~8の触媒粒子による触媒インクをPt目付0.44mg/cmとなるようにパーフルオロカーボン(米国シグマ-アルドリッチ社製「ナフィオン(登録商標)」)の膜上に塗布した。続いて、80℃で5分間乾燥させてカソード側触媒層を得た。また、Pt担持カーボン(Pt/C=30/70(質量比))を用いて上述と同様にして触媒インクを作製し、この触媒インクをPt目付0.1mg/cmとなるようにカソード側触媒層と反対側のパ―フルオロカーボン膜上に塗布した。続いて、80℃で5分間乾燥させてアノード側触媒層を得た。これにより、実施例1~6及び比較例1~8の膜電極接合体をそれぞれ作製した。
【0054】
〈I-V測定方法〉
得られた膜電極接合体の両側に、ガス拡散層とガスシールを積層させて、日本自動車研究所(JARI)標準セル(電極面積5×5cm)にセットし、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のセル評価解析プロトコルに従ってI-V測定を実施した。電流密度を低電流密度から高電流密度へ、測定電流密度で5分間保持しつつ、シフトさせた。測定電流密度は、0、0.025、0.050、0.075、0.1、0.2、0.4、0.6、0.8、1.0、1.2、1.4、1.5、1.6A/cmとした。
【0055】
〈耐久性試験方法〉
耐久性試験についても、NEDOのセル評価解析プロトコルに従って実施した。負荷応答模擬応答の電位サイクル試験を30000サイクル実施した。
【0056】
〈評価結果〉
実施例1~6及び比較例1~8の触媒を用いた各燃料電池において、耐久性試験の前後でI-V測定を行った評価結果を表1に示す。具体的には、比較例1(Pt担持カーボン)を基準として、I-V測定時の1.5A/cmの電圧差が、0mVよりも小さい場合を『×』とし、0~10mVの場合を『〇』とし、10mVよりも大きい場合を『◎』としている。
【0057】
【表1】
【0058】
表1に示したように、シリカ被覆のみをしたPt担持カーボンである比較例6は、耐久性試験後の電圧が比較例1よりも高く、耐久性が高かった。また、イオン液体のみを充填した触媒である比較例7は、耐久性試験の前後ともに電圧が比較例1よりも高かったが、差は小さかった。
【0059】
実施例1、2、3および比較例2,3は、異なるシリカ被覆量で調整したイオン液体含侵シリカ被覆Pt担持カーボンの評価であり、1質量%以上20質量%以下のシリカ被覆量で、耐久性試験後の電圧が比較例1よりも高くなった。
【0060】
実施例1、4、5および比較例4,5は、異なるイオン液体の充填量で調整したイオン液体含侵シリカ被覆Pt担持カーボンの評価であり、50質量%以上100質量%以下のイオン液体の充填量で、耐久性試験前の電圧が比較例1よりも高くなった。
【0061】
実施例6は、イオン液体を1-ブチル-3-メチルイミダゾリウム ビス(トリフロオロメタンスルホニル)イミドから、1-エチル-3-メチルイミダゾリウム ビス(トリフロオロメタンスルホニル)イミドに替えたものである。比較例8は、イオン液体を1-ブチル-3-メチルイミダゾリウム ビス(トリフロオロメタンスルホニル)イミドから、1-オクチル-3-メチルイミダゾリウム ビス(トリフロオロメタンスルホニル)イミドに替えたものである。1-アルキル-3-メチルイミダゾリウム ビス(トリフロオロメタンスルホニル)イミドのアルキル部位の炭素鎖が小さいと、耐久性試験の前後ともに電圧が比較例1よりも高くなったが、炭素鎖が長いと、耐久性試験の前後ともに比較例1よりも電圧が低くなった。
【0062】
これらのことから、シリカの空孔内にイオン液体を充填することにより、耐久性試験前後の電圧を大きく上昇できることが認められた。これは、以下の理由によるものと考えられる。イオン液体は、Pt表面の酸素還元を阻害する吸着種を抑制する効果があるものの、低配位のPtサイトを十分に被覆することができない。これに対し、シリカ被覆は、低配位のPtサイトを選択的に被覆保護することができるものの、親水性であることから、水由来の酸素還元を阻害する吸着種を抑制する効果がイオン液体よりもない。そのため、シリカ被覆とイオン液体とが組み合わさることで、高い酸素還元特性が得られると同時に、Ptの電気化学的安定性も向上したからと思われる。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明に係るイオン液体含浸触媒粒子、燃料電池用膜電極接合体、及び燃料電池は、酸素還元特性が高く、耐久性に優れていることから、産業上、極めて有効に利用することができる。
【符号の説明】
【0064】
1 触媒粒子
2 導電性担体
3 金属粒子
4 多孔性無機材料
5 イオン液体
図1