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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-04
(45)【発行日】2023-12-12
(54)【発明の名称】車両の電源管理システム
(51)【国際特許分類】
   B60L 9/18 20060101AFI20231205BHJP
   B60L 3/00 20190101ALI20231205BHJP
   B60L 58/10 20190101ALI20231205BHJP
   H02H 7/20 20060101ALI20231205BHJP
   H02J 7/00 20060101ALI20231205BHJP
【FI】
B60L9/18 J
B60L3/00 J
B60L58/10
H02H7/20 A
H02J7/00 P
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2023535025
(86)(22)【出願日】2022-05-13
(86)【国際出願番号】 JP2022020248
【審査請求日】2023-06-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100183689
【弁理士】
【氏名又は名称】諏訪 華子
(74)【代理人】
【識別番号】110003649
【氏名又は名称】弁理士法人真田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】杉本 浩隆
【審査官】岩田 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-102057(JP,A)
【文献】特開2020-36447(JP,A)
【文献】特開2019-92341(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60L 9/18
B60L 3/00
B60L 58/10
H02H 7/20
H02J 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータに供給される電力の周波数を制御するインバータ回路とバッテリとに接続されたメイン回路に介装されるメインコンタクタと、
前記メインコンタクタに対して並列に接続されたプリチャージ回路に介装されるプリチャージコンタクタ及びプリチャージ抵抗と、
前記インバータ回路に対して並列に接続された平滑回路に介装されるコンデンサと、
前記メイン回路の接続要求を意味するレディ要求を受けて前記プリチャージコンタクタを接続することで前記コンデンサの電圧を上昇させるプリチャージ制御と、前記コンデンサの電圧が前記バッテリの電圧に達した後に前記メインコンタクタを接続するとともに前記プリチャージコンタクタを切断するメイン制御と、を実施する制御装置とを備え、
前記制御装置が、前記プリチャージ制御の実施中に前記レディ要求がなくなった場合であっても、前記コンデンサの電圧が前記バッテリの電圧に達するまで前記プリチャージコンタクタの接続状態を維持するとともに、
前記制御装置が、前記プリチャージ制御の実施中に前記レディ要求がなくなった場合であって、前記コンデンサの電圧が前記バッテリの電圧に達した場合に、現在時刻を基準とした直近の過去の所定期間における前記プリチャージ抵抗の通電回数を判定し、
前記通電回数が所定回数以上である場合に、前記メインコンタクタを接続するとともに前記プリチャージコンタクタを切断し、現在時刻を基準とした直近の過去の所定期間における前記通電回数が前記所定回数未満になるまで前記メインコンタクタの接続状態を維持する第一待機制御を実施する
【請求項3】
前記制御装置が、前記通電回数の判定に際し、
前記通電回数が前記所定回数未満である場合に、前記メインコンタクタ及び前記プリチャージコンタクタを切断するオフ制御を実施する
ことを特徴とする、請求項1記載の車両の電源管理システム。
【請求項4】
前記制御装置が、前記通電回数の判定に際し、
前記通電回数が前記所定回数未満である場合に、待機時間が経過するまで前記メインコンタクタまたは前記プリチャージコンタクタの接続状態を維持する第二待機制御を実施する
ことを特徴とする、請求項1記載の車両の電源管理システム。
【請求項5】
前記制御装置が、前記第二待機制御に際し、前記メインコンタクタの接続状態を維持したまま待機し、前記待機時間が経過したときに前記メインコンタクタを切断する
ことを特徴とする、請求項4記載の車両の電源管理システム。
【請求項6】
前記制御装置が、前記第二待機制御に際し、前記プリチャージコンタクタの接続状態を維持したまま待機し、前記待機時間が経過したときに前記プリチャージコンタクタを切断する
ことを特徴とする、請求項4記載の車両の電源管理システム。
【請求項7】
前記待機時間が、第一待機時間と第二待機時間との合計に等しいものとして、
前記制御装置が、前記第二待機制御に際し、前記プリチャージコンタクタの接続状態を維持したまま待機し、前記第一待機時間が経過したときに前記プリチャージコンタクタを切断するとともに前記メインコンタクタを接続し、その後に前記第二待機時間が経過したときに前記メインコンタクタを切断する
ことを特徴とする、請求項4記載の車両の電源管理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件は、車両の電源管理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車載モータの駆動電力を生成するインバータに車載バッテリの電力を供給するための主電源回路(メイン回路)において、インバータに対して平滑回路を並列に接続し、メインコンタクタに対してプリチャージ回路を並列に接続したものが知られている。平滑回路とは、コンデンサが介装される回路であり、プリチャージ回路とは、プリチャージコンタクタ及びプリチャージ抵抗が介装される回路である。メインコンタクタの接続に先立ってプリチャージコンタクタを接続することで突入電流が小さくなり、主電源回路の保護性が向上する。
【0003】
プリチャージコンタクタの接続に際し、プリチャージ抵抗の温度はその通電回数や通電時間に応じて上昇する。したがって、例えば短時間のうちに主電源のオンオフ操作が繰り返されたような場合には、プリチャージ抵抗が過剰に昇温するおそれがある。そこで、プリチャージ抵抗の通電回数をカウントし、設定時間以内での通電回数が設定回数に達した場合に、プリチャージ制御(プリチャージ抵抗への通電)を中断する制御を実施することが提案されている。このような制御により、プリチャージ抵抗の過昇温が抑制されうる(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第4086807号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記のような制御においては、たとえ運転者の誤操作や不注意によってイグニッションスイッチ(主電源スイッチ)の断接操作が繰り返されたような場合であっても、通電回数の増加によりプリチャージ制御が中断されてしまう。したがって、車両の始動性が損なわれやすく、特に誤操作や不注意によって中断されたプリチャージ制御からのリカバリーが困難であるという課題がある。なお、ここでいう車両の始動には、走行開始時だけでなく、外部充電開始時やエアコンを作動させるときの始動も含まれる。
【0006】
本件の目的の一つは、上記のような課題に照らして創案されたものであり、簡素な構成でメイン回路の保護性及び車両の始動性を改善できるようにした車両の電源管理システムを提供することである。なお、この目的に限らず、後述する「発明を実施するための形態」に示す各構成から導き出される作用効果であって、従来の技術では得られない作用効果を奏することも、本件の他の目的として位置付けられる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
開示の車両の電源管理システムは、以下に開示する態様または適用例として実現でき、上記の課題の少なくとも一部を解決する。
開示の車両の電源管理システムは、モータに供給される電力の周波数を制御するインバータ回路とバッテリとに接続されたメイン回路に介装されるメインコンタクタを備える。また、前記メインコンタクタに対して並列に接続されたプリチャージ回路に介装されるプリチャージコンタクタ及びプリチャージ抵抗を備える。また、前記インバータ回路に対して並列に接続された平滑回路に介装されるコンデンサを備える。
【0008】
また、前記メイン回路の接続要求を意味するレディ要求を受けて前記プリチャージコンタクタを接続することで前記コンデンサの電圧を上昇させるプリチャージ制御と、前記コンデンサの電圧が前記バッテリの電圧に達した後に前記メインコンタクタを接続するとともに前記プリチャージコンタクタを切断するメイン制御と、を実施する制御装置を備える。前記制御装置は、前記プリチャージ制御の実施中に前記レディ要求がなくなった場合であっても、前記コンデンサの電圧が前記バッテリの電圧に達するまで前記プリチャージコンタクタの接続状態を維持する。
【発明の効果】
【0009】
開示の車両の電源管理システムによれば、プリチャージ制御の実施中にレディ要求がなくなった場合であっても、プリチャージが完了するまではプリチャージコンタクタの接続状態を維持できる。これにより、プリチャージが完了するまでの間に再びレディ要求を受けた場合には、プリチャージの完了後に、メイン回路の通電状態を遮断することなくメイン制御を実施できる。したがって、簡素な構成でメイン回路の保護性及び車両の始動性を改善できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】車両の電源管理システムの構成を示す回路図である。
図2】プリチャージ制御によるコンデンサ電圧の経時変化を示すグラフである。
図3】オフ制御の手順を示すフローチャートである。
図4】カウントダウン制御の手順を示すフローチャートである。
図5】プリチャージ制御の手順を示すフローチャートである。
図6】メイン制御の手順を示すフローチャートである。
図7】メイン制御(変形例)の手順を示すフローチャートである。
図8】第一待機制御の手順を示すフローチャートである。
図9】第二待機制御の手順を示すフローチャートである。
図10】第二待機制御(変形例)の手順を示すフローチャートである。
図11】第二待機制御(変形例)の手順を示すフローチャートである。
図12】第二待機制御(変形例)の手順を示すフローチャートである。
図13】第二待機制御(変形例)の手順を示すフローチャートである。
図14】プリチャージ制御中にレディ要求がなくなった場合であって、プリチャージ制御の完了時の通電カウントが10回の場合の制御を示すタイムチャートである。
図15】プリチャージ制御中にレディ要求がなくなった場合であって、プリチャージ制御の完了時の通電カウントが9回の場合の制御を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
開示の車両の電源管理システムは、以下の実施例のように実現されうる。本実施例の電源管理システムは、走行用のモータ及びバッテリが搭載された電動車〔例えば、電気自動車,ハイブリッド自動車(HEV),プラグインハイブリッド自動車(PHEV)など〕に適用される。モータは、例えば交流電動発電機であり、バッテリの電力を消費して車輪を回転駆動する機能や、車輪の慣性回転を利用して発電する機能を兼ね備える。また、プラグインハイブリッド自動車とは、バッテリに対する外部充電、または、バッテリからの外部給電が可能なハイブリッド自動車を意味する。プラグインハイブリッド自動車には、外部充電設備からの電力が送給される充電ケーブルを差し込むための充電口(インレット)や、外部給電用のコンセント(アウトレット)が設けられる。
【実施例
【0012】
[1.構成]
図1は、実施例としての車両の電源管理システム1の構成を示す回路図である。この電源管理システム1には、車両に搭載されるバッテリ2の電力を二つのモータ(第一モータ10,第二モータ20)に供給するためのメイン回路3が設けられる。バッテリ2は、例えばリチウムイオン二次電池,ニッケル水素電池などの二次電池や燃料電池である。
【0013】
第一モータ10は、例えば車両の前輪を駆動するフロントモータであり、第二モータ20は、例えば車両の後輪を駆動するリヤモータである。なお、二つのモータ10,20の片方は省略可能である。また、左右輪が個別のモータで制御される車両にあっては、例えば第一モータ10を右輪モータとし、第二モータ20を左輪モータとしてもよい。四輪のすべてが個別のモータで制御される車両にあっては、四つのモータを設けてもよい。
【0014】
第一モータ10には、第一インバータ11(フロントインバータ)が接続され、第二モータ20には、第二インバータ21(リヤインバータ)が接続される。これらのインバータ11,21は、バッテリ2側の直流電力とモータ10,20側の交流電力とを相互に変換する変換装置である。第一インバータ11の内部には、DC-AC変換に係る第一インバータ回路12と電圧平滑化のための第一平滑回路13とが設けられる。
【0015】
第一インバータ回路12には、複数のスイッチング素子(例えば、IGBTやMOSFET等)が内蔵される。各スイッチング素子を高周期に断接することで直流電力から多相の交流電力が生成される。第一モータ10で発生する駆動トルクの大きさは、第一インバータ回路12から出力される交流電圧のパルス幅を変更することによって調節されうる。また、第一平滑回路13は、第一インバータ回路12に対して並列に接続される回路である。
【0016】
第一平滑回路13には、蓄電素子である第一コンデンサ14が介装される。第一コンデンサ14は、バッテリ2から出力される直流電圧の脈動を抑制する機能を持つ。例えば、バッテリ2の出力電圧が一時的に低下した場合には、低下分の電圧が第一コンデンサ14にストックされていた電荷で補填される。つまり、バッテリ2から第一インバータ回路12に導入される直流電圧の一時的な変化やノイズ成分は、第一コンデンサ14の働きによって吸収される。これにより、第一インバータ回路12に入力される電圧変動が安定化し、延いては第一インバータ11で生成される交流電圧が安定する。
【0017】
第二インバータ21の構成は、第一インバータ11と同様である。第二インバータ21の内部には、第二インバータ回路22と第二平滑回路23とが設けられる。第二平滑回路23は、第二インバータ回路22に対して並列に接続される。また、第二平滑回路23には、第二コンデンサ24が介装される。メイン回路3は、第一モータ10に供給される電力の周波数を制御する第一インバータ回路12とバッテリ2とに接続され、かつ、第二モータ20に供給される電力の周波数を制御する第二インバータ回路22とバッテリ2とに接続される。
【0018】
メイン回路3には、Pコンタクタ4(正極側コンタクタ)とNコンタクタ5(負極側コンタクタ)とが介装される。これらはともに、メイン回路3の通電状態を断接するためのメインコンタクタである。Pコンタクタ4は、インバータ回路12,22とバッテリ2の正極との間に介装され、Nコンタクタ5は、インバータ回路12,22とバッテリ2の負極との間に介装される。Pコンタクタ4及びNコンタクタ5の断接状態は、後述する制御装置30によって制御される。
【0019】
メインコンタクタ4,5のいずれか一方には、プリチャージ回路6が並列に接続される。プリチャージ回路6は、メインコンタクタ4,5を接続したときの突入電流を抑えるための回路である。図1には、Pコンタクタ4にプリチャージ回路6が並列に接続された例を図示する。プリチャージ回路6には、プリチャージコンタクタ7及びプリチャージ抵抗8(プリチャージレジスタ)が直列に介装される。制御装置30によるPコンタクタ4及びNコンタクタ5の接続に際し、プリチャージコンタクタ7はPコンタクタ4よりも先に接続されるように制御される。
【0020】
制御装置30は、Pコンタクタ4,Nコンタクタ5,プリチャージコンタクタ7の断接状態を制御するためのコンピュータ(電子制御装置,ECU,Electronic Control Unit)である。制御装置30は、プロセッサ(演算処理装置)及びメモリ(記憶装置)を内蔵する。制御装置30が実施する制御の内容(制御プログラム)はメモリに保存され、その内容がプロセッサに適宜読み込まれることによって実行される。
【0021】
制御装置30には、バッテリ電圧や電流の情報のほか、第一コンデンサ14及び第二コンデンサ24の電圧情報が入力される。また、制御装置30には、パワースイッチ31及びブレーキセンサ32が接続される。パワースイッチ31は、車両の主電源をオンオフするためのボタン型の切り替えスイッチであり、ブレーキセンサ32は、ブレーキペダルの踏み込みを検出するセンサである。制御装置30は、パワースイッチ31の操作状態に関する情報やブレーキペダルの踏み込みの情報を用いて、車両の主電源のオンオフ状態を制御する。
【0022】
パワースイッチ31には、車両の主電源の状態を視覚的に表示するための表示装置(光源やディスプレイなど)が含まれうる。例えば、主電源がオフのときに消灯し、主電源がオンのときに点灯するLED(Light Emitting Diode)をパワースイッチ31の押圧面に取り付けてもよい。また、主電源がオフからオンへと移行している状態(プリチャージコンタクタ7の接続中)においては、このLEDを点滅させてもよい。
【0023】
[2.制御]
本実施例の制御装置30は、オフ制御,プリチャージ制御,メイン制御,第一待機制御,第二待機制御を実施する。これらの制御は、互いに排他的に実施される。
オフ制御は、例えば車両の主電源がオフのときに実施されている制御であって、すべてのコンタクタ(Pコンタクタ4,Nコンタクタ5,プリチャージコンタクタ7)をオフ状態に維持する制御である。オフ制御の実施中であっても、制御装置30には図示しない低圧バッテリの電力が通電されている。オフ制御の実施中に、後述するレディ要求を受けた場合(レディ要求がある場合)には、プリチャージ制御が実施される。なお、オフ制御は、後述するプリチャージ回数Xの判定において、プリチャージ回数Xが所定回数未満である場合にも実施されうる。
【0024】
レディ要求とは、乗員や制御装置30以外の電子制御装置が「メイン回路3が接続された状態にすること」を要求している旨を表す信号またはフラグである。例えば、ブレーキペダルが踏み込まれた状態でパワースイッチ31が押圧操作された場合には、運転者が車両の主電源をオンにして車両を走行させる準備を完了させる意思(車両の主電源投入の要求)があるため、制御装置30は、「レディ要求(メイン回路3の接続要求)を受けた(メイン回路3の接続要求がある)」と判断する。また、車載充電器のインレットに外部充電用の充電ガンが挿入された場合(外部充電が要求された場合)や、車両の主電源がオフの状態でエアコンを作動させる場合(無線通信を介してプレ空調が指示された場合やプレ空調の予約時間になった場合)にも、制御装置30は「レディ要求(メイン回路3の接続要求)を受けた(メイン回路3の接続要求がある)」と判断し、プリチャージ制御を実施する。具体的なメイン回路3の接続要求の有無の判定条件については、公知の条件を適用可能である。
【0025】
プリチャージ制御は、Pコンタクタ4を切断したままNコンタクタ5及びプリチャージコンタクタ7を接続することで、第一コンデンサ14及び第二コンデンサ24の電圧を上昇させる制御(第一コンデンサ14及び第二コンデンサ24を充電する制御)である。これらのコンデンサ14,24の電圧がバッテリ電圧に達した場合には、プリチャージが完了したと判断されてプリチャージ制御が終了し、代わりにメイン制御が実施される。また、プリチャージ制御の実施中(プリチャージが完了する前)にレディ要求がなくなった場合であっても、プリチャージ制御は中断されない。すなわち、コンデンサ電圧がバッテリ電圧に達するまでは、プリチャージコンタクタ7の接続状態が維持される。
【0026】
図2は、プリチャージ制御時におけるバッテリ電圧とコンデンサ電圧との関係を示すグラフである。時刻Aにプリチャージコンタクタ7が接続されると、コンデンサ14,24のプリチャージが開始される。これにより、各々のコンデンサ電圧が上昇し、バッテリ電圧に漸近する。時刻Bは、コンデンサ電圧がバッテリ電圧に達した時刻(コンデンサ電圧がバッテリ電圧とほぼ等しくなった時刻であって、コンデンサ電圧とバッテリ電圧との差が所定の微小値以下になった時刻)である。両方のコンデンサ14,24のコンデンサ電圧がバッテリ電圧に達した時点で、コンデンサ14,24のプリチャージが完了する。
【0027】
プリチャージ制御時にプリチャージコンタクタ7が接続され、プリチャージ抵抗8への通電が確認されると、制御装置30はプリチャージ回数Xの値に1を加算(インクリメント)する演算を実行する。プリチャージ回数Xとは、現在時刻を基準とした直近の過去の所定期間(例えば50~300秒程度)におけるプリチャージ抵抗8の通電回数(あるいは、プリチャージコンタクタ7の接続成功回数)を表す変数である。プリチャージ回数Xの値は、プリチャージ制御以外の制御が実施されているときには、上記の所定期間毎に1ずつ減算(デクリメント)されるようになっている。したがって、プリチャージ回数Xの値は、比較的短時間のうちにプリチャージ抵抗8への通電が繰り返し断接されたような場合に増大し、その後は比較的長時間をかけて緩慢に減少する。また、例えば所定期間に一回程度の低頻度でプリチャージ抵抗8への通電が断接されたような場合には、ほとんど増大しない。
【0028】
プリチャージ回数Xの値は、おおむねプリチャージ抵抗8やプリチャージコンタクタ7の温度に対応する。例えば、プリチャージ回数Xの値が大きいほど、プリチャージ抵抗8やプリチャージコンタクタ7の温度が高温になっている可能性が高く、プリチャージ回数Xの値が小さいほど、プリチャージ抵抗8やプリチャージコンタクタ7の温度が低温になっている可能性が高い。上記の所定期間は、例えばプリチャージ抵抗8やプリチャージコンタクタ7の通電時における熱の持ちやすさ(温度上昇速度)や、非通電時における熱の冷めやすさ(温度低下の速度)や、熱容量などを考慮して設定される。
【0029】
本実施例では、プリチャージが完了した時点でレディ要求を受けている場合に限り、プリチャージ制御からメイン制御へと移行する。一方、プリチャージが完了した時点でレディ要求がない場合(すなわち、プリチャージ制御の実施中にレディ要求がなくなった場合であって、コンデンサ電圧がバッテリ電圧に達した場合)には、プリチャージ抵抗8の通電回数(プリチャージ回数X)が判定され、プリチャージ回数Xに応じて第一待機制御,第二待機制御,オフ制御のいずれかが実施される。
【0030】
メイン制御は、プリチャージコンタクタ7を切断したままPコンタクタ4及びNコンタクタ5を接続し、インバータ11,21に電力を供給する制御である。メイン制御が実施されている状態は、メイン回路3が接続された状態(例えば、車両を走行させる準備が完了した状態)に相当し、レディ要求が達成された状態である。したがって、メイン制御はレディ要求が存続している限り継続される。一方、メイン制御の実施中にレディ要求がなくなった場合には、第一待機制御,第二待機制御,オフ制御のいずれかが実施される。このとき、プリチャージ回数Xを考慮して第一待機制御,第二待機制御,オフ制御のいずれかを選択してもよい。
【0031】
第一待機制御は、プリチャージ回数Xの判定において、プリチャージ回数Xが所定回数以上(例えば10回)である場合に実施される制御である。第一待機制御では、Pコンタクタ4及びNコンタクタ5が接続され、プリチャージコンタクタ7が切断されるとともに、プリチャージ回数Xが所定回数未満になるまでPコンタクタ4及びNコンタクタ5の接続状態が維持される。つまり、第一待機制御は、第一待機制御の開始後に再びレディ要求を受けた場合に、即座にメイン制御へと復帰できるように、通電状態の遮断を遅延させる(メインコンタクタ4,5を接続したままプリチャージ抵抗8を冷ます)制御である。プリチャージ回数Xが所定回数未満になった後には、オフ制御を実施してもよいし、第二待機制御を実施してもよい。また、第一待機制御の実施中に再びレディ要求を受けた場合には、メイン制御が実施される。
【0032】
第二待機制御は、プリチャージ回数Xの判定において、プリチャージ回数Xが所定回数未満(例えば1~9回)である場合に実施される制御である。第二待機制御では、所定の待機時間が経過するまで、Nコンタクタ5の接続状態とPコンタクタ4またはプリチャージコンタクタ7の接続状態とが維持される。言い換えれば、待機時間が経過するまで、メインコンタクタ4,5の接続状態が維持されるか、Nコンタクタ5及びプリチャージコンタクタ7の接続状態が維持される。
【0033】
ここで判定される待機時間は、上記の所定期間に依存することなく任意に設定されうる時間(例えば数秒~数十秒)である。つまり、第二待機制御は、通電状態の遮断をさらに遅延させる(再びレディ要求を受ける可能性に備えて通電状態を維持する)制御である。また、第二待機制御の実施中に再びレディ要求を受けた場合には、メイン制御が実施される。なお、第二待機制御を実質的に省略してもよい場合には、レディ要求がないことを確認した直後にオフ制御を実施してもよい。
【0034】
第二待機制御において通電状態の遮断を遅延させる手法としては、三通りの手法が挙げられる。第一の手法は、Pコンタクタ4及びNコンタクタ5をオンにし、待機時間後にこれらをオフにする手法である。この手法によれば、プリチャージコンタクタ7を冷却しつつ通電状態の遮断を遅延させることができる。第二の手法は、プリチャージコンタクタ7及びNコンタクタ5をオンにし、待機時間後にこれらをオフにする手法である。この手法によれば、Pコンタクタ4の消耗や劣化を抑制しつつ通電状態の遮断を遅延させることができる。
【0035】
第三の手法は、最初にプリチャージコンタクタ7及びNコンタクタ5をオンにし、次にPコンタクタ4及びNコンタクタ5をオンにし、トータルで待機時間後にこれらをオフにする手法である。この手法は、第一の手法と第二の手法とのコンビネーションである。ここで、最初にプリチャージコンタクタ7及びNコンタクタ5をオンにする時間を第一待機時間とし、次にPコンタクタ4及びNコンタクタ5をオンにする時間を第二待機時間とする。各々の時間は、これらの合計が待機時間に等しくなるように設定される。
【0036】
[3.フローチャート]
図3は、オフ制御の手順を示すフローチャートである。
ステップA1では、Pコンタクタ4,Nコンタクタ5,プリチャージコンタクタ7のすべてがオフにされる。このとき、いずれかのコンタクタ4,5,7がオンであれば、そのオン状態がオフ状態へと切り替えられる。また、すべてのコンタクタ4,5,7がすでにオフであった場合には、そのオフ状態が維持される。なお、各コンタクタ4,5,7をオフするタイミングにディレイがあってもよい。
【0037】
続くステップA2では、レディ要求の有無が判定される。ここでレディ要求があると判定された場合には、オフ制御が終了してプリチャージ制御が開始される。一方、ステップA2でレディ要求がないと判定された場合には、ステップA3に進み、カウントダウン制御が実行される。カウントダウン制御とは、上記の所定期間を計時して、プリチャージ回数Xを減算(デクリメント)するためのサブルーチンである。カウントダウン制御の実行後、この制御周期でのオフ制御が終了する。次回の制御周期ではオフ制御が継続され、ステップA1が再び実行される。
【0038】
図4は、カウントダウン制御(サブルーチン)の手順を示すフローチャートである。このサブルーチンでは、所定期間が経過するたびにプリチャージ回数Xの値を1ずつ減少させる演算が実施される。フロー中の変数Zは、所定期間を計測するための変数であり、初期値は0である。このフローでは、変数Zの値が100までカウントされる(このサブルーチンが100回実行される)時間が、所定期間に相当する時間となる。なお、変数Zのカウント数は、プリチャージ回数Xに応じた可変値であってもよい。すなわち、プリチャージ回数Xの値を1ずつ減少させるための所定期間が、プリチャージ回数Xの関数として与えられてもよい。
【0039】
ステップB1では、プリチャージ回数Xが1以上であるか否かが判定される。この条件が成立する場合にはステップB2に進む。一方、ステップB1の条件が成立しない場合(プリチャージ回数Xが0になっている場合)には、ステップB2~B5がスキップされてサブルーチンが終了する。ステップB2では、変数Zの値に1を加算(インクリメント)する演算が実行される。続くステップB3では、変数Zの値が100であるか否かが判定される。この条件が成立する場合にはステップB4に進み、プリチャージ回数Xの値から1を減算(デクリメント)する演算が実行される。また、続くステップB5では、変数Zの値が0にリセットされる。ステップB3の条件が成立しない場合には、ステップB4~B5がスキップされてサブルーチンが終了する。
【0040】
図5は、プリチャージ制御の手順を示すフローチャートである。
ステップC1では、Pコンタクタ4がオフにされ、Nコンタクタ5及びプリチャージコンタクタ7がオンにされる。続くステップC2では、プリチャージ抵抗8に通電されたか否かが判定され、この条件が成立するまでステップC1が繰り返される。ステップC2の条件が成立するとステップC3に進み、プリチャージ回数Xの値に1が加算される。
【0041】
ステップC4では、コンデンサ電圧がバッテリ電圧に達したか否かが判定され、この条件が成立するまでステップC4が繰り返される。ここでは、たとえコンデンサ電圧がバッテリ電圧に達する前にレディ要求がなくなったとしても、コンデンサ電圧がバッテリ電圧に達するまではプリチャージコンタクタ7の接続状態が維持される。ステップC4の条件が成立するとステップC5に進む。
【0042】
ステップC5では、レディ要求があるか否かが判定される。ここで、レディ要求がある場合には、プリチャージ制御が終了してメイン制御が開始される。一方、レディ要求がない場合にはステップC6に進む。ステップC6では、プリチャージ回数Xの値が10以上(所定回数以上)であるか否かが判定される。この条件が成立する場合には、プリチャージ制御が終了して第一待機制御が開始される。また、この条件が成立しない場合には、プリチャージ制御が終了してオフ制御、または、第二待機制御が開始される。
【0043】
図6図7は、メイン制御の手順を示すフローチャートである。図6は、メイン制御の実施中にレディ要求がなくなった場合に、直ちにオフ制御を開始する場合のフローチャートである。これに対して図7は、変形例としての制御を示すものである。図7は、メイン制御の実施中にレディ要求がなくなった場合に、プリチャージ回数Xの値に応じて第一待機制御や第二待機制御を実施する場合のフローチャートである。
【0044】
図6のステップD1では、Pコンタクタ4及びNコンタクタ5がオンにされ、プリチャージコンタクタ7がオフにされる。また、ステップD2では、カウントダウン制御が実行される。続くステップD3では、レディ要求があるか否かが判定される。ここで、レディ要求がある場合には、この制御周期でのメイン制御が終了する。次回の制御周期ではメイン制御が継続され、ステップD1が再び実行される。一方、レディ要求がない場合には、メイン制御が終了してオフ制御が開始される。
【0045】
図7のステップE1~E3は、図6のステップD1~D3とほぼ同一である。ステップE3においてレディ要求がない場合にはステップE4に進み、プリチャージ回数Xの値が10以上(所定回数以上)であるか否かが判定される。この条件が成立する場合には、メイン制御が終了して第一待機制御が開始される。また、この条件が成立しない場合には、メイン制御が終了してオフ制御、または、第二待機制御が開始される。
【0046】
図8は、第一待機制御の手順を示すフローチャートである。第一待機制御は、少なくともレディ要求がなく、かつ、プリチャージ回数Xの値が10以上(所定回数以上)である場合に実施される。ステップF1では、Pコンタクタ4及びNコンタクタ5がオンにされ、プリチャージコンタクタ7がオフにされる。また、ステップF2では、カウントダウン制御が実行される。続くステップF3では、レディ要求があるか否かが判定される。ここで、レディ要求がある場合には、第一待機制御が終了してメイン制御が開始される。このとき、プリチャージ回数Xの値や変数Zの値はそのまま引き継がれる。したがって、メイン制御においても、カウントダウン制御が継続されることになる。
【0047】
ステップF3において、レディ要求がない場合にはステップF4に進み、プリチャージ回数Xの値が10以上(所定回数以上)であるか否かが判定される。この条件が成立する場合には、この制御周期での第一待機制御が終了する。次回の制御周期では第一待機制御が継続され、ステップF1が再び実行される。一方、ステップF4の条件が成立しない場合には、第一待機制御が終了してオフ制御、または、第二待機制御が開始される。
【0048】
図9図13は、第二待機制御の手順を示すフローチャートである。第二待機制御は、少なくともレディ要求がなく、かつ、プリチャージ回数Xの値が10未満(所定回数未満,1~9回)である場合に実施される。図9図10は、Pコンタクタ4及びNコンタクタ5の接続状態を維持する場合のフローチャートである。また、図11図12は、Nコンタクタ5及びプリチャージコンタクタ7の接続状態を維持する場合のフローチャートである。図13は、最初にNコンタクタ5及びプリチャージコンタクタ7を接続し、次にPコンタクタ4及びNコンタクタ5を接続する場合のフローチャートである。
【0049】
図9のステップG1では、Pコンタクタ4及びNコンタクタ5がオンにされ、プリチャージコンタクタ7がオフにされる。また、ステップG2では、カウントダウン制御が実行される。続くステップG3では、レディ要求があるか否かが判定される。ここで、レディ要求がある場合には、第二待機制御が終了してメイン制御が開始される。このとき、プリチャージ回数Xの値や変数Zの値はそのまま引き継がれる。したがって、メイン制御においても、カウントダウン制御が継続されることになる。一方、ステップG3においてレディ要求がない場合には、第二待機制御が終了してオフ制御が開始される。
【0050】
図10のステップH1~H3は、図9のステップG1~G3とほぼ同一である。ステップH3においてレディ要求がない場合にはステップH4に進み、第二待機制御が開始されてから待機時間が経過したか否かが判定される。ここで、待機時間が経過している場合には、第二待機制御が終了してオフ制御が開始される。一方、待機時間が経過していない場合には、ステップH2に進む。これにより、レディ要求を受けない限り、待機時間が経過するまで第二待機制御が継続される。
【0051】
図11のステップJ1では、Nコンタクタ5及びプリチャージコンタクタ7がオンにされ、Pコンタクタ4がオフにされる。また、ステップJ2では、カウントダウン制御が実行される。続くステップJ3では、レディ要求があるか否かが判定される。ここで、レディ要求がある場合には、第二待機制御が終了してメイン制御が開始される。一方、ステップJ3においてレディ要求がない場合には、第二待機制御が終了してオフ制御が開始される。
【0052】
図12のステップK1~K3は、図11のステップJ1~J3とほぼ同一である。ステップK3においてレディ要求がない場合にはステップK4に進み、第二待機制御が開始されてから待機時間が経過したか否かが判定される。ここで、待機時間が経過している場合には、第二待機制御が終了してオフ制御が開始される。一方、待機時間が経過していない場合には、ステップK2に進む。これにより、レディ要求を受けない限り、待機時間が経過するまで第二待機制御が継続される。
【0053】
図13のステップL1~L3は、図12のステップK1~K3とほぼ同一である。ステップL3においてレディ要求がない場合にはステップL4に進み、第二待機制御が開始されてから第一待機時間が経過したか否かが判定される。ここで、第一待機時間が経過していない場合にはステップL2に進み、ステップL1の状態が維持される。また、第一待機時間が経過している場合にはステップL5へ進む。
【0054】
ステップL5では、Pコンタクタ4及びNコンタクタ5がオンにされ、プリチャージコンタクタ7がオフにされる。また、ステップL6では、カウントダウン制御が実行される。続くステップL7では、レディ要求があるか否かが判定される。ここで、レディ要求がある場合には、第二待機制御が終了してメイン制御が開始される。一方、ステップL7においてレディ要求がない場合には、ステップL8に進み、ステップL5の状態になってから第二待機時間が経過したか否かが判定される。言い換えれば、ステップL8では、第二待機制御が開始されてから待機時間(第一待機時間と第二待機時間との合計時間)が経過したか否かが判定される。ステップL8の条件が成立する場合には、第二待機制御が終了してオフ制御が開始される。一方、ステップL8の条件が成立しない場合には、ステップL6に進む。これにより、レディ要求を受けない限り、第二待機制御が継続される。
【0055】
[4.作用]
図14は、プリチャージ制御中にレディ要求がなくなった場合の制御状態を示すタイムチャートである。ここでは、プリチャージ制御の完了時におけるプリチャージ回数Xが10回である場合の例を示す。
時刻t以前はオフ制御が実施されており、高電圧シーケンス(メイン回路3の通電状態)は「なし」である。時刻tに、例えば車両の運転者がブレーキペダルを踏み込んだままパワースイッチ31を押圧操作すると、レディ要求が発生する。このレディ要求を受けて、制御装置30はオフ制御を終了させるとともにプリチャージ制御を開始する。これにより、高電圧シーケンスは「プリチャージ(プリチャージ制御の実施状態)」となる。
【0056】
一方、時刻tに、運転者が誤ってブレーキペダルから足を離してしまった場合、レディ要求が消失する。しかし、制御装置30はプリチャージ制御を中断せず、コンデンサ電圧がバッテリ電圧に達するまでプリチャージコンタクタ7の接続状態を維持する。したがって、時刻tにプリチャージ抵抗8への通電が確認されたときも、時刻tにプリチャージ回数Xが加算されたときも、プリチャージコンタクタ7の接続状態が維持されたままとなる。なお、仮にレディ要求が消失した直後にプリチャージ制御を中断した場合には、プリチャージ回数Xが加算されるタイミング(時刻t)よりも前にオフ制御が開始される可能性があり、プリチャージ回数Xの値が不正確になるおそれがある。このような課題に対し、本実施例ではプリチャージ制御が中断されないため、プリチャージ回数Xの値の算出が正確になる。
【0057】
時刻tにコンデンサ電圧がバッテリ電圧に達してコンデンサ14,24の充電が完了すると、プリチャージ抵抗8の通電回数に対応するプリチャージ回数Xの値が判定される。ここで、プリチャージ回数Xが10回(所定回数以上)であれば、制御装置30がプリチャージ制御の代わりに第一待機制御を実施する。これにより、時刻t以降の高電圧シーケンスは「メイン(メイン制御の実施状態)」となる。なお、仮にレディ要求が消失した直後にプリチャージ制御を中断した場合に、プリチャージ回数Xの値が加算されるタイミング(時刻t)とオフ制御が開始されるタイミングとが重なってしまう可能性がある。この場合、プリチャージ回数Xが所定回数未満になるまでメイン回路3への通電を禁止することが望ましい状態になり、車両の始動性が大きく損なわれる。このような課題に対し、本実施例ではプリチャージ制御に引き続き第一待機制御が実施されるため、始動性に係る課題が払拭される。
【0058】
その後、時刻tにプリチャージ回数Xの値が10から9へと減少すると、制御装置30が第一待機制御の代わりに例えばオフ制御を実施する。時刻t以後にレディ要求が発生したとしても、すでにプリチャージ回数Xの値が所定回数未満になっているため、メイン回路3への通電を禁止する必要がなく、良好な始動性が得られる。また、コンデンサ14,24の充電が時刻tに完了していることから、時刻t以後に再びプリチャージ制御が実施されたとしても、極めて短時間でプリチャージが完了する。このような意味でも、電源回路の保護性及び車両の始動性が大きく改善される。なお、時刻t以降に、オフ制御の代わりに第二待機制御を実施してもよい。
【0059】
図15は、プリチャージ制御中にレディ要求がなくなった場合の制御状態を示すタイムチャートである。ここでは、プリチャージ制御の完了時におけるプリチャージ回数Xが9回である場合の例を示す。時刻t以前の制御内容は、図14のタイムチャートと同一である。時刻tにコンデンサ電圧がバッテリ電圧に達すると、プリチャージ回数Xの値が判定される。ここで、プリチャージ回数Xが9回(所定回数未満)であれば、制御装置30がプリチャージ制御の代わりに第二待機制御を実施する。
【0060】
第二待機制御における時刻t~tの高電圧シーケンスとして、三通りのシーケンスを例示する。実線は、Pコンタクタ4及びNコンタクタ5をオンにした場合(図9図10の制御)に対応し、破線は、プリチャージコンタクタ7及びNコンタクタ5をオンにした場合(図11図12の制御)に対応する。また、一点鎖線は、最初にプリチャージコンタクタ7及びNコンタクタ5をオンにし、次にPコンタクタ4及びNコンタクタ5をオンにした場合(図13の制御)に対応する。第二待機制御の待機時間は、時刻t~tの時間に相当する。また、第一待機時間は、時刻t~tの時間に相当し、第二待機時間は、時刻t~tの時間に相当する。
【0061】
このように、第二待機制御を実施しておくことで、新たなレディ要求が生じたときの始動性が大きく改善される。例えば、高電圧シーケンスを「メイン」に維持しておけば、新たなレディ要求に対してプリチャージ制御を実施する必要がなく、かつ、プリチャージ抵抗8の降温も期待できる。一方、高電圧シーケンスを「プリチャージ」に維持しておけば、Pコンタクタ4の駆動回数を抑えつつ、極めて短時間でプリチャージ制御を完了させることができ、電源回路の保護性及び車両の始動性がさらに向上する。
【0062】
[5.効果]
(1)上記の車両の電源管理システム1は、モータ10,20に供給される電力の周波数を制御するインバータ回路12,22とバッテリ2とに接続されたメイン回路3に介装されるメインコンタクタ4,5を備える。また、本電源管理システム1は、メインコンタクタ4に対して並列に接続されたプリチャージ回路6に介装されるプリチャージコンタクタ7及びプリチャージ抵抗8と、インバータ回路12,22に対して並列に接続された平滑回路13,23に介装されるコンデンサ14,24とを備える。
【0063】
また、本電源管理システム1は、レディ要求を受けてプリチャージコンタクタ7を接続することでコンデンサ14,24の電圧を上昇させるプリチャージ制御と、コンデンサ14,24の電圧がバッテリ2の電圧に達した後にメインコンタクタ4,5を接続するとともにプリチャージコンタクタ7を切断するメイン制御と、を実施する制御装置30を備える。この制御装置30は、プリチャージ制御の実施中にレディ要求がなくなった場合であっても、コンデンサ14,24の電圧がバッテリ2の電圧に達するまでプリチャージコンタクタ7の接続状態を維持する。
【0064】
上記の構成によれば、プリチャージ制御の実施中にレディ要求がなくなった場合であっても、プリチャージが完了するまではプリチャージコンタクタ7の接続状態を維持できる。これにより、プリチャージが完了するまでの間に再びレディ要求を受けた場合には、プリチャージの完了後に、メイン回路3の通電状態を遮断することなくメイン制御を実施できる。特に、レディ要求の消失が運転者の誤操作や不注意によるものだった場合に、プリチャージ制御が中断されることがなくなるため、リカバリーが容易である。したがって、簡素な構成でメイン回路3(電源回路)の保護性及び車両の始動性を改善できる。
【0065】
また、プリチャージ制御の実施中にレディ要求がなくなった場合であって、プリチャージが完了するまでの間に再びレディ要求を受けることなくメイン回路3の通電状態が遮断された場合であっても、その後のプリチャージ制御にかかる時間(コンデンサ電圧を上昇させるのに要する時間)を短縮することができる。したがって、簡素な構成でメイン回路3の保護性及び車両の始動性を改善できる。
【0066】
(2)上記の電源管理システム1では、プリチャージが完了する直前にプリチャージ回数X(通電回数)が判定される。すなわち、制御装置30は、プリチャージ制御の実施中にレディ要求がなくなった場合であって、コンデンサ14,24の電圧がバッテリ2の電圧に達した場合に、現在時刻を基準とした直近の過去の所定期間におけるプリチャージ抵抗8の通電回数を判定する。この通電回数が所定回数以上(例えば10回)である場合には、第一待機制御が実施される。第一待機制御とは、メインコンタクタ4,5を接続するとともにプリチャージコンタクタ7を切断し、メインコンタクタ4,5の接続状態を維持する制御である。
【0067】
このように、プリチャージ回数Xが比較的多い場合には、メイン回路3における通電状態の遮断を遅延させつつプリチャージコンタクタ7を切断することで、メイン回路3の通電状態を維持したままプリチャージ抵抗8を冷却できる。したがって、プリチャージ抵抗8の保護性を向上させつつ、車両の始動性を改善できる。
【0068】
(3)上記の制御装置30は、プリチャージ抵抗8の通電回数が所定回数未満(例えば1~9回)である場合に、オフ制御を実施しうる。オフ制御とは、メインコンタクタ4,5及びプリチャージコンタクタ7を切断する制御である。オフ制御を実施することで、メインコンタクタ4,5及びプリチャージコンタクタ7の作動時間を短縮でき、消耗や劣化を抑制できる。また、バッテリ2の電力の浪費を防止できる。さらに、再びレディ要求を受けた場合には、直ちにプリチャージ制御を実施でき、メイン回路3の保護性及び車両の始動性を改善できる。
【0069】
(4)上記の制御装置30は、プリチャージ抵抗8の通電回数が所定回数未満(例えば1~9回)である場合に、第二待機制御を実施しうる。第二待機制御とは、待機時間が経過するまでメインコンタクタ4,5またはプリチャージコンタクタ7の接続状態を維持する制御であり、言い換えれば、高電圧シーケンスを「メイン」または「プリチャージ」に維持する制御である。第二待機制御を実施することで、新たなレディ要求が生じたときに再びプリチャージ制御を実施する必要がなくなるため、車両の始動性を大きく改善できる。
【0070】
(5)上記の第二待機制御において、メインコンタクタ4,5の接続状態を維持したまま待機し(図15中の時刻t~tの実線)、待機時間が経過したときにメインコンタクタ4,5を切断してもよい。このように、プリチャージ制御の直後にメインコンタクタ4,5の接続状態を維持しておけば、時刻t以降に新たなレディ要求が生じた場合に高電圧シーケンスを変更する必要がなく、プリチャージ制御を実施する必要もない。したがって、車両の始動性を大きく改善できる。また、第二待機制御の間にプリチャージ抵抗8を冷却することができる。
【0071】
(6)上記の第二待機制御において、プリチャージコンタクタ7の接続状態を維持したまま待機し(図15中の時刻t~tの破線)、待機時間が経過したときにプリチャージコンタクタ7を切断してもよい。このように、プリチャージ制御の直後にプリチャージコンタクタ7の接続状態を維持しておけば、少なくともPコンタクタ4の駆動回数を抑えることができ、Pコンタクタ4の消耗や劣化を抑制できる。また、極めて短時間でプリチャージ制御を完遂でき、メイン回路3の保護性及び車両の始動性を大きく改善できる。
【0072】
(7)上記の第二待機制御において、最初の第一待機時間はプリチャージコンタクタ7の接続状態を維持したまま待機し、その後の第二待機時間はプリチャージコンタクタ7を切断してメインコンタクタ4,5の接続状態を維持してもよい(図15中の時刻t~tの一点鎖線)。このような制御により、車両の始動性を大きく改善でき、かつ、Pコンタクタ4の消耗や劣化をある程度抑制しつつプリチャージ抵抗8の冷却を促進できる。
【0073】
[6.その他]
上記の実施例はあくまでも例示に過ぎず、本実施例で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。本実施例の各構成は、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施できる。また、本実施例の各構成は、必要に応じて取捨選択でき、あるいは、適宜組み合わせることができる。
【0074】
例えば、上記の実施例では、プリチャージ回路6をPコンタクタ4に対して並列に接続した回路構成を例示したが、プリチャージ回路6をNコンタクタ5に対して並列に接続してもよいし、複数のメインコンタクタの各々に対してプリチャージ回路6を設けてもよい。また、第一モータ10側の回路を断接するメインコンタクタとは別個に、第二モータ20側の回路を断接するメインコンタクタを設けてもよい。具体的な回路構造を問わず、プリチャージ制御の実施中にレディ要求がなくなった場合に、コンデンサ電圧がバッテリ電圧に達するまでプリチャージコンタクタ7の接続状態を維持する制御を実施することで、上記の実施例と同様の作用効果を奏するものとなる。
【0075】
また、上記の実施例では、プリチャージが完了する直前にプリチャージ回数Xを判定し、通電回数が所定回数以上である場合に第一待機制御を実施する制御構成を例示したが、第一待機制御は省略可能である。同様に、第二待機制御も省略可能である。少なくとも、プリチャージ制御の実施中にレディ要求がなくなった場合であってもプリチャージ制御を継続することで、電源回路(メイン回路3)の保護性及び車両の始動性を改善できる。
【0076】
また、上記の実施例では、車両の主電源投入の要求を受けてプリチャージ制御を実施するものを例示したが、車載充電器のインレットに外部充電用の充電ガンが挿入されるようなメイン回路3の接続要求を受けた場合にプリチャージ制御を実施してもよい。あるいは、車両の主電源がオフの状態でエアコンを作動させるべくメイン回路3の接続要求を受けた場合にプリチャージ制御を実施してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本件は、車両に適用される電源管理システムの製造産業に利用可能であり、その電源管理システムが装備される車両の製造産業にも利用可能である。
【符号の説明】
【0078】
1 電源管理システム
2 バッテリ
3 メイン回路
4 Pコンタクタ(メインコンタクタ)
5 Nコンタクタ(メインコンタクタ)
6 プリチャージ回路
7 プリチャージコンタクタ
8 プリチャージ抵抗
10 第一モータ
11 第一インバータ
12 第一インバータ回路
13 第一平滑回路
14 第一コンデンサ
20 第二モータ
21 第二インバータ
22 第二インバータ回路
23 第二平滑回路
24 第二コンデンサ
30 制御装置
31 パワースイッチ
32 ブレーキセンサ
X プリチャージ回数(通電回数)
【要約】
開示の車両の電源管理システム(1)は、メインコンタクタ(4,5)とプリチャージコンタクタ(7)及びプリチャージ抵抗(8)とコンデンサ(14,24)と制御装置(30)とを備える。制御装置(30)は、プリチャージ制御とメイン制御とを実施する。プリチャージ制御は、レディ要求を受けてプリチャージコンタクタ(7)を接続することでコンデンサ(14,24)の電圧を上昇させる制御である。メイン制御は、コンデンサ(14,24)の電圧がバッテリ(2)の電圧に達した後にメインコンタクタ(4,5)を接続するとともにプリチャージコンタクタ(7)を切断する制御である。制御装置(30)は、プリチャージ制御の実施中にレディ要求がなくなった場合であっても、コンデンサ(14,24)の電圧がバッテリ(2)の電圧に達するまでプリチャージコンタクタ(7)の接続状態を維持する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15