(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-04
(45)【発行日】2023-12-12
(54)【発明の名称】樹脂組成物およびレジンコーテッドサンド
(51)【国際特許分類】
B22C 1/22 20060101AFI20231205BHJP
B22C 1/10 20060101ALI20231205BHJP
【FI】
B22C1/22 L
B22C1/10 E
(21)【出願番号】P 2023548639
(86)(22)【出願日】2023-05-15
(86)【国際出願番号】 JP2023018063
【審査請求日】2023-08-10
(31)【優先権主張番号】P 2022079950
(32)【優先日】2022-05-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002141
【氏名又は名称】住友ベークライト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】村井 威俊
【審査官】中西 哲也
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-156601(JP,A)
【文献】特開2018-118298(JP,A)
【文献】特開2003-170244(JP,A)
【文献】特開2005-288447(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第112029058(CN,A)
【文献】特開2015-174894(JP,A)
【文献】米国特許第05260405(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22C 1/00-25/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レジンコーテッドサンド用の樹脂組成物であって、
当該樹脂組成物は、リグニン変性ノボラック型フェノール樹脂
、アミド化合物およびアミノシランカップリング剤を含み、
前記リグニン変性ノボラック型フェノール樹脂のリグニン変性率は、10%以上50%以下であり、
前記リグニン変性ノボラック型フェノール樹脂中の遊離フェノール類の含有量は、2質量%以下であり、
前記リグニン変性ノボラック型フェノール樹脂は、リグニン類と、フェノール類と、アルデヒド類とを、酸触媒の存在下で反応させて得られるノボラック型フェノール樹脂であ
り、
前記アミド化合物は、前記リグニン変性ノボラック型フェノール樹脂100質量部に対して、0.3質量部以上5質量部以下の量であり、
前記アミノシランカップリング剤は、前記リグニン変性ノボラック型フェノール樹脂100質量部に対して、0.05質量部以上5質量部以下の量である、樹脂組成物。
【請求項2】
前記リグニン変性ノボラック型フノール樹脂の数平均分子量は、200以上1,500以下である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記リグニン類の重量平均分子量は、2,000以上100,000以下である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記リグニン変性ノボラック型フェノール樹脂の軟化点は、70℃以上105℃以下である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
骨材と、
滑剤と、
請求項1~
4のいずれかに記載の樹脂組成物と、を含む、
レジンコーテッドサンド。
【請求項6】
シランカップリング剤をさらに含む、請求項
5に記載のレジンコーテッドサンド。
【請求項7】
前記骨材が、前記樹脂組成物からなる樹脂層で被覆されている、請求項
5に記載のレジンコーテッドサンド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シェルモールド用のレジンコーテッドサンドを製造するための樹脂組成物、およびこれを用いて得られるレジンコーテッドサンドに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、シェルモールド法で使用するシェルモールド鋳型の材料としては、レジンコーテッドサンド(RCS)が使用されている。レジンコーテッドサンドは、骨材である砂またはセラミックスの表面に、粘結剤となる樹脂層を被覆した材料である。レジンコーテッドサンドの樹脂層としては、一般的にフェノール樹脂が使用されている。
【0003】
レジンコーテッドサンド用の粘結剤として用いられるフェノール樹脂は、近年の環境破壊を抑制する観点から、カーボンニュートラルに対応するバイオマス由来原料を用いることが提案されている。例えば、特許文献1には、バイオマス由来樹脂と骨材とを含むコーテッドサンドにおいて、バイオマス由来樹脂として、酸により変性されたリグニンと、フェノール類と、アルデヒド類とを反応させて得られるリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂を用いることが記載されている。特許文献1には、カルボン酸により変性されたリグニン、または酢酸により変性されたリグニンを用いて得られるリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂は、カーボンニュートラルに対応し、抗折力およびなりより性において優れることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、本発明者が検討したところ、上記特許文献1に記載のリグニンフェノールは、機械的強度と膨張性の点で改善の余地があることが見出された。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は上記課題を鑑みてなされたものであり、遊離フェノール含有量が低減されたリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂を用いることにより、高い機械的強度を有するとともに、低膨張性であり、よってレジンコーテッドサンドの粘結剤として好適に使用できる樹脂組成物が得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
本発明によれば、以下に示される樹脂組成物およびレジンコーテッドサンドが提供される。
[1] レジンコーテッドサンド用の樹脂組成物であって、
当該樹脂組成物は、リグニン変性ノボラック型フェノール樹脂を含み、
前記リグニン変性ノボラック型フェノール樹脂中の遊離フェノール類の含有量は、2質量%以下である、樹脂組成物。
[2] 前記リグニン変性ノボラック型フェノール樹脂は、リグニン類と、フェノール類と、アルデヒド類とを、酸触媒の存在下で反応させて得られるノボラック型フェノール樹脂である、項目[1]に記載の樹脂組成物。
[3] 前記リグニン変性ノボラック型フノール樹脂の数平均分子量は、300以上1,500以下である、項目[1]または[2]に記載の樹脂組成物。
[4] 前記リグニン類の重量平平均分子量は、2,000以上100,000以下である、項目[2]に記載の樹脂組成物。
[5] 前記リグニン変性ノボラック型フェノール樹脂の軟化点は、70℃以上105℃以下である、項目[1]~[4]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[6] 前記リグニン変性ノボラック型フェノール樹脂のリグニン変性率は、10%以上50%以下である、項目[1]~[5]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[7] 滑剤をさらに含む、項目[1]~[6]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[8] 前記滑剤は、アミド化合物を含む、項目[7]に記載の樹脂組成物。
[9] シランカップリング剤をさらに含む、項目[1]~[8]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[10] 前記シランカップリング剤は、アミノシランカップリング剤を含む、項目[9]に記載の樹脂組成物。
[11] 骨材と、滑剤と、項目[1]~[10]のいずれかに記載の樹脂組成物と、を含む、レジンコーテッドサンド。
[12] シランカップリング剤をさらに含む、項目[11]に記載のレジンコーテッドサンド。
[13] 前記骨材が、前記樹脂組成物からなる樹脂層で被覆されている、項目[11]または[12]に記載のレジンコーテッドサンド。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、その硬化物が優れた機械的強度を有するとともに低膨張性であり、レジンコーテッドサンドの粘結剤として好適に用いることができる樹脂組成物、およびレジンコーテッドサンドが提供される。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0010】
[レジンコーテッドサンド用樹脂組成物]
本実施形態の樹脂組成物は、レジンコーテッドサンドの粘結剤として用いられ、リグニン変性ノボラック型フェノール樹脂を含む。本実施形態の樹脂組成物に用いられるリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂は、これに含まれる遊離フェノール類の含有量が、2質量%以下である。このようなリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂を用いることにより、これを含む樹脂組成物の硬化物は、優れた機械的強度を有するとともに、低膨張性である。またこのようなリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂を含む樹脂組成物は、ヤニやススの発生がほとんどないか低減されている。よって、このような樹脂組成物を粘結剤として用いて得られるレジンコーテッドサンドから製造される鋳型は、高い鋳型強度を有するとともに、ヤニまたはススの発生が低減されている。以下に、本実施形態の樹脂組成物に用いられる成分について記載する。
【0011】
(リグニン変性ノボラック型フェノール樹脂)
本実施形態の樹脂組成物に用いられるリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂は、遊離フェノール類の含有量が、2質量%以下である。ここで、リグニン変性ノボラック型フェノール樹脂に含まれる遊離フェノール類とは、このリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂を製造するための原料成分として使用されたフェノール類であって、未反応の状態で残留したフェノール類を指す。このような遊離フェノール含有量を有するリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂を用いることにより、得られる樹脂組成物は、レジンコーテッドサンドの粘結剤として使用するのに適切な機械的強度および膨張性を有する。
【0012】
本実施形態の樹脂組成物に用いられるリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂は、リグニン類と、フェノール類と、アルデヒド類とを、酸触媒の存在下で反応させて得られるノボラック型フェノール樹脂である。
【0013】
本実施形態の樹脂組成物に用いられるリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂は、その数平均分子量が、例えば、200~1,500であり、好ましくは、400~1,200であり、より好ましくは、500~1,000である。上記範囲の数平均分子量を有するリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂を用いることにより、得られる樹脂組成物の硬化物は、向上した機械的強度を有し得る。
【0014】
本実施形態の樹脂組成物に用いられるリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂は、そのリグニン変性率が、好ましくは、10%以上50%以下であり、より好ましくは、14%以上50%以下である。
【0015】
本実施形態の樹脂組成物に用いられるリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂は、好ましくは、70℃以上105℃以下、より好ましくは、75℃以上95℃以下の軟化点を有する。このような比較的低い温度範囲の軟化点を有するリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂を用いることにより、得られる樹脂組成物の硬化物は高い機械的強度を有する。
【0016】
(リグニン変性ノボラック型フェノール樹脂の製造方法)
本実施形態の樹脂組成物に用いられる、所定量の遊離フェノール類を含有するリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂は、好ましくは、リグニン類と、フェノール類と、アルデヒド類とを、酸触媒の存在下で反応させることにより作製される。本実施形態で用いられるリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂は、製造条件を調整することにより、上述の所望の物性を有する。以下、本実施形態の樹脂組成物に用いられるリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂の製造に用いる材料および製造条件について詳述する。
【0017】
<フェノール類>
本実施形態で使用されるリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂の製造に用いられるフェノール類としては、フェノール、フェノール誘導体及びこれらの組み合わせが挙げられる。フェノール誘導体としては、ベンゼン環に任意の置換基が導入されたフェノールを使用できる。置換基としては、ヒドロキシ基;メチル基、エチル基等の低級アルキル基;フッ素、塩素、臭素、ヨウ素等のハロゲン原子;アミノ基;ニトロ基;カルボキシ基等が挙げられる。用いることができるフェノール類の具体例としては、フェノール、カテコール、レソルシノール、ヒドロキノン、o-クレゾール、m-クレゾール、p-クレゾール、o-フルオロフェノール、m-フルオロフェノール、p-フルオロフェノール、o-クロロフェノール、m-クロロフェノール、p-クロロフェノール、o-ブロモフェノール、m-ブロモフェノール、p-ブロモフェノール、o-ヨードフェノール、m-ヨードフェノール、p-ヨードフェノール、o-アミノフェノール、m-アミノフェノール、p-アミノフェノール、o-ニトロフェノール、m-ニトロフェノール、p-ニトロフェノール、2,4-ジニトロフェノール、2,4,6-トリニトロフェノール、サリチル酸、p-ヒドロキシ安息香酸及びこれらの組み合わせ等が挙げられる。フェノール類は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0018】
フェノール類としてはまた、炭素数が2~18のアルキルフェノール類を用いることができる。アルキルフェノール類は、アルキル鎖に分岐鎖を有していても良いし、不飽和結合を有していても良い。またベンゼン環上のアルキル鎖の置換位はオルト、メタ、パラ置換のいずれであってもよい。アルキルフェノール類の例としては、例えば、エチルフェノール、プロピルフェノール、イソプロピルフェノール、ブチルフェノール、セカンダリーブチルフェノール、ターシャリーブチルフェノール、アミルフェノール、ターシャリーアミノフェノール、ヘキシルフェノール、へプチルフェノール、オクチルフェノール、ターシャリーオクチルフェノール、ノニルフェノール、ターシャリーノニルフェノール、デシルフェノール、ウンデシルフェノール、ドデシルフェノール、トリデシルフェノール、テトラデシルフェノール、ペンタデシルフェノール、カルダノール、カードル、ウルシオール、ヘキサデシルフェノール、メチルカードル、ヘプタデシルフェノール、ラッコール、チオール、オクタデシルフェノールが挙げられる。またアルキルフェノール類として、カシューナット殻液(カシューオイル)、ウルシ抽出物などの植物油を用いることができる。
【0019】
これらの中でも、フェノール類としては、フェノール、クレゾール、キシレノール、アルキルフェノールおよびビスフェノールからなる群より選ばれる1種以上を用いることが好ましく、製造コストの観点より、フェノール、クレゾール、ブチルフェノール、ビスフェノールAを用いることが好ましい。
【0020】
<リグニン類>
本実施形態で使用されるリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂の製造に用いられるリグニン類は、リグニンおよびリグニン誘導体から選択される少なくとも1つを含む。
リグニンは、セルロース及びヘミセルロースとともに、植物体の構造を形成する主要成分であり、また、自然界に最も豊富に存在する芳香属化合物の1つである。リグニンは植物中では一部が結合してリグノセルロースとして存在しているため、リグニンとは植物から分解等を経て得られるものを指すことが多く、例としては、クラフトリグニン、リグニンスルホン酸、ソーダリグニン、ソーダ-アントラキノンリグニン等のパルプリグニン;オルガノソルブリグニン;高温高圧水処理リグニンまたは爆砕リグニンに、濃硫酸にて抽出等時にフェノールが付加するリグノフェノール;フェノール化リグニン等が挙げられる。リグニンの由来は特に限定されず、リグニンを含み木質部が形成される木材や草本類等が挙げられ、スギ、マツ、ヒノキ、及び、トウヒ等の針葉樹、ブナ、白樺、ナラ、ケヤキ、及び、ユーカリ等の広葉樹、イネ、ムギ、トウモロコシ及びタケ等のイネ科植物(草本類)が挙げられる。
【0021】
本実施形態において、「リグニン誘導体」とは、リグニンを構成する単位構造、又はリグニンを構成する単位構造に類似する構造を有する化合物をいう。リグニン誘導体は、フェノール誘導体を単位構造とする。この単位構造は化学的及び生物学的に安定な炭素-炭素結合や炭素-酸素-炭素結合を有するため、化学的な劣化や生物的分解を受け難い。
【0022】
リグニン誘導体としては、下記式(1)の式(A)で表わされるグアイアシルプロパン(フェルラ酸)、下記式(B)で表わされるシリンギルプロパン(シナピン酸)、及び下記式(C)で表わされる4-ヒドロキシフェニルプロパン(クマル酸)等が挙げられる。リグニン誘導体の組成は、原料となるバイオマスによって異なる。針葉樹類からは主にグアイアシルプロパン構造を含むリグニン誘導体が抽出される。広葉樹類からは主にグアイアシルプロパン構造及びシリンギルプロパン構造を含むリグニン誘導体が抽出される。草本類からは主にグアイアシルプロパン構造、シリンギルプロパン構造及び4-ヒドロキシフェニルプロパン構造を含むリグニン誘導体が抽出される。
【0023】
【0024】
リグニン誘導体は、バイオマスを分解して得られたものが好ましい。バイオマスは光合成の過程で大気中の二酸化炭素を取り込み固定化したものであることから、バイオマスは大気中の二酸化炭素の増加抑制に寄与しており、バイオマスを工業的に利用することによって、地球温暖化の抑制に寄与することができる。バイオマスとしては、リグノセルロース系バイオマスが挙げられる。リグノセルロース系バイオマスとしては、リグニンを含有する植物の葉、樹皮、枝及び木材、並びにこれらの加工品等が挙げられる。リグニンを含有する植物としては、上述の広葉樹、針葉樹、草本類等が挙げられる。
【0025】
バイオマスの分解方法としては、薬品処理する方法、加水分解処理する方法、水蒸気爆砕法、超臨界水処理法、亜臨界水処理法、機械的に処理する方法、硫酸クレゾール法、パルプ製造法等が挙げられる。環境負荷の観点からは、水蒸気爆砕法、亜臨界水処理法、機械的に処理する方法が好ましい。コストの観点からは、パルプ製造法が好ましい。またコストの観点からは、バイオマス利用の副生成物を用いることが好ましい。リグニン誘導体は、例えばバイオマスを、各種蒸解液や溶媒存在下で150~400℃、1~40MPa、8時間以下で分解処理することにより調製できる。また、リグニン誘導体は、特開2009-084320号公報及び特開2012-201828号公報等に開示された方法で調製できる。
【0026】
リグニン誘導体としては、リグニンとセルロースとヘミセルロースとが結合したリグノセルロースを分解したもの等が挙げられる。リグニン誘導体は、リグニン骨格を有する化合物を主成分とするリグニン分解物、セルロース分解物及びヘミセルロース分解物等を含み得る。また、リグニン誘導体は、バイオマス由来またはプロセス由来の無機物も含み得るが、本実施形態の用途に使用する場合、無機物の含有量は、使用するリグニン誘導体全体に対して10質量%以下であることが好ましい。
【0027】
リグニン誘導体は、芳香環への親電子置換反応によって硬化剤が作用する反応サイトを多く有することが好ましく、反応サイト近傍の立体障害が少ない方が反応性に優れる点から、フェノール性水酸基を含む芳香環のオルト位及びパラ位の少なくとも一方が無置換であることが好ましく、リグニンの芳香族単位としてグアイアシル核や4-ヒドロキシフェニル核の構造を多く含む、針葉樹や草本類由来のリグニンが好ましい。リグニン誘導体としては、特開2009-084320号公報及び特開2012-201828号公報等に開示されたものが使用できる。
【0028】
また、リグニン誘導体は、上記基本構造の他、リグニン誘導体に官能基を有するもの(リグニン二次誘導体)であってもよい。
【0029】
リグニン二次誘導体が有する官能基としては、特に限定されないが、例えば2個以上の同じ官能基が互いに反応し得るもの、又は他の官能基と反応し得るものが好適である。具体的には、エポキシ基、メチロール基の他、炭素-炭素不飽和結合を有するビニル基、エチニル基、マレイミド基、シアネート基、イソシアネート基等が挙げられる。このうち、メチロール基が導入された(メチロール化された)リグニン誘導体が好ましく用いられる。このようなリグニン二次誘導体は、メチロール基同士の自己縮合反応により自己架橋が生じるとともに、下記架橋剤中のアルコキシメチル基や水酸基に対して架橋する。その結果、特に均質で剛直な骨格を有し、耐溶剤性に優れたリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂が得られる。
【0030】
さらに、本実施形態で用いるリグニン誘導体は、カルボキシル基を有してもよい。パルププロセスや高温高圧水処理により得られるリグニンは、カルボキシル基を有することがある。カルボキシル基を有するリグニン誘導体から得られるリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂は、下記に記載する硬化剤に対する架橋点を多く有するため、得られる架橋体の架橋密度を向上させることができ、結果として耐溶剤性に優れた架橋体を得ることができる。
【0031】
なお、上述したリグニン誘導体中がカルボキシル基を有する場合は、そのカルボキシル基は、カルボキシル基に帰属する13C-NMR分析に供されたとき、172~174ppmのピークの吸収の有無によって確認することができる。
【0032】
本実施形態で使用されるリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂の製造に用いられるリグニン類は、その重量平均分子量が、例えば、2,000以上100,000以下である。重量平均分子量の下限値は、好ましくは、2,500以上であり、より好ましくは、3,000以上であり、さらにより好ましくは、4,000以上である。重量平均分子量の上限値は、好ましくは、90,000以下であり、より好ましくは、80,000以下であり、さらにより好ましくは、75,000以下である。上記範囲の重量平均分子量を有するリグニン類を用いて得られたリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂を含む樹脂組成物は、硬化性に優れるとともに、その硬化物が高い機械的強度を有するとともに、低膨張性である。重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィーにより測定されたポリスチレン換算の数平均分子量であって、実施例の方法により求めることができる。
【0033】
本実施形態で使用されるリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂の製造に用いられるリグニン類は、その数平均分子量が、例えば、200以上5,000以下である。数平均分子量の下限値は、好ましくは、300以上であり、より好ましくは、350以上であり、さらにより好ましくは、400以上である。数平均分子量の上限値は、好ましくは、4,000以下であり、より好ましくは、3,000以下であり、さらにより好ましくは、2,000以下である。上記範囲の数平均分子量を有するリグニン類は、反応性に優れ、よってリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂の製造工程における作業性に優れるため好ましい。また、上記範囲の数平均分子量を有するリグニン類を用いることにより、得られるリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂は、硬化性に優れるとともに、その硬化物が高い機械的強度を有する。数平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィーにより測定されたポリスチレン換算の数平均分子量であって、実施例の方法により求めることができる。
【0034】
ここで、上述のゲル浸透クロマトグラフィーによって分子量を測定する方法の一例について説明する。
ゲル浸透クロマトグラフィーによって分子量を測定する方法において、まず、リグニン誘導体を溶媒に溶解させ、測定サンプルを調製する。このときに用いられる溶媒は、リグニン誘導体を溶解できるものであれば特に限定されるものではないが、ゲル浸透クロマトグラフィーの測定精度の観点から、例えば、テトラヒドロフラン、N-メチル-2-ピロリドンが好ましい。本実施形態で用いるリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂の製造に用いるリグニン類は、バイオマス、プロセス由来の無機物、植物由来の高分子量有機物による不溶分を含みうるため、リグニン類の分子量は、適正な溶媒を選択するとともに、不溶分はろ過して求められる。また得られるリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂のリグニン変性率を高めるためには、使用するリグニン類の不溶分は適正な溶媒下で30質量%以下が好ましい。またリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂の分子量は、同様に不溶分をろ過して求められる。リグニン変性ノボラック型フェノール樹脂中の不溶分含有は、15質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましい。上記含有量の量が上記程度であれば、リグニン変性ノボラック型フェノール樹脂は良好な硬化性を有し、特に、均一に硬化し得る。
【0035】
次に、GPCシステム「HLC-8420GPC EcoSEC Elite(東ソー製)」に、スチレン系ポリマー充填剤を充填した有機系汎用カラムである「TSKgel SuperAW4000(東ソー製)」、「TSKgel SuperAW3000(東ソー製)」、「TSKgel SuperAW2500(東ソー製)」、および「TSKgel SuperAW2500(東ソー製)」を直列に接続する。このGPCシステムに、前述の測定サンプルを30μL注入し、40℃において、溶離液のN-メチル-2-ピロリドンを0.3mL/minで展開し、示差屈折率(RI)、及び紫外吸光度(UV)を利用して保持時間を測定する。別途作製しておいた標準ポリスチレンの保持時間と分子量の関係を示した検量線から、対象の数平均分子量、重量平均分子量を算出することができる。検出モードとしては屈折率が好ましい。
【0036】
また、GPCシステム「HLC-8320GPC(東ソー製)」に、スチレン系ポリマー充填剤を充填した有機系汎用カラムである「TSKgelGMHXL(東ソー製)」、及び「G2000HXL(東ソー製)」を直列に接続する。このGPCシステムに、前述の測定サンプルを200μL注入し、40℃において、溶離液のテトラヒドロフランを1.0mL/minで展開し、示差屈折率(RI)、及び紫外吸光度(UV)を利用して保持時間を測定する。別途作製しておいた標準ポリスチレンの保持時間と分子量の関係を示した検量線から、対象の数平均分子量、重量平均分子量を算出することができる。検出モードとしては屈折率が好ましい。
【0037】
検量線を作成するために使用する標準ポリスチレンの分子量としては、特に限定されるものではないが、例えば、重量平均分子量が2,110,000、1,090,000、427,000、190,000、37,900、18,100、5,970、2,420及び500の標準ポリスチレン(東ソー製)のものを用いることができる。
【0038】
本実施形態のリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂の製造に用いられるリグニン類の種類および特性は、特に限定されないが、例えば、80℃以上の軟化点を有するリグニン類を用いることができる。このようなリグニンは、作業性、取扱い性が良好であるため好ましい。
【0039】
リグニン類の軟化点は、JISK2207に準じて、環球式軟化点試験機(たとえば、メルテック(株)製ASP-MG2型)を用いて測定することができる。なお、リグニン類は多量の水を含む場合は70℃以下で絶乾させたものを測定する。本実施形態では、例えば150~200℃の熱板にてリグニン類の熱溶融性によって良好なサンプルが調製できない場合は、軟化点が高く測定ができないと判断する。
【0040】
リグニン類の揮発分は、60質量%以下であることが好ましく、50質量%以下であることがより好ましく、40質量%以下であることがさらにより好ましい。リグニン類の揮発分が上記範囲内であることにより、リグニン類の反応性を向上させることができ、よって得られるリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂の反応率を上げることができる。主な揮発分は水であることが多く、例えばアルミカップに4gを広げて80℃20時間で乾燥させることで算出される。
【0041】
バイオマスを分解して得られたリグニン類を用いる場合は、低分子量の成分が多量に混入することがあり、加熱時の揮発分や臭気、軟化点の低下を引き起こすことがある。これらの成分は、そのまま利用することも出来るし、リグニン類の加熱、乾燥等によって除去し、軟化点や臭気を調整することもできる。
【0042】
<アルデヒド類>
本実施形態で使用されるリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂の製造に用いられるアルデヒド類としては、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、トリオキサン、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ポリオキシメチレン、クロラール、ヘキサメチレンテトラミン、フルフラール、グリオキザール、n-ブチルアルデヒド、カプロアルデヒド、アリルアルデヒド、ベンズアルデヒド、クロトンアルデヒド、アクロレイン、テトラオキシメチレン、フェニルアセトアルデヒド、o-トルアルデヒド、サリチルアルデヒド、パラキシレンジメチルエーテル等が挙げられる。好ましくは、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、トリオキサン、ポリオキシメチレン、アセトアルデヒド、パラキシレンジメチルエーテル及びこれらの組み合わせ等が挙げられる。アルデヒド類は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、生産性および安価な観点から、ホルムアルデヒドまたはアセトアルデヒドを用いることが好ましい。
【0043】
<酸触媒>
本実施形態で使用されるリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂の製造に用いられる酸触媒としては、反応の触媒として使用できるものであればよく、有機酸、無機酸及びこれらの組み合わせを使用することができる。有機酸としては、酢酸、ギ酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、安息香酸、サリチル酸、スルホン酸、フェノールスルホン酸、パラトルエンスルホン酸等が挙げられる。無機酸としては、塩酸、硫酸、硫酸エステル、リン酸、リン酸エステル等が挙げられる。
【0044】
本実施形態で使用されるリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂の製造において、フェノール類に対するアルデヒド類のモル比(F/P)は、例えば、0.4以上であり、好ましくは、0.45以上であり、より好ましくは、0.5以上である。フェノール類に対するアルデヒド類のモル比(F/P)の上限値は、例えば、1.0以下であり、好ましくは、0.9以下であり、より好ましくは、0.85以下である。フェノール類に対するアルデヒド類のモル比(F/P)が上記範囲である条件下で、反応を行うことにより、上述の特性を有する、硬化後の機械的強度が改善され、低膨張性のリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂を得ることができる。
【0045】
本実施形態のリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂の製造において、リグニン類と、フェノール類と、アルデヒド類とを、酸触媒の存在下で反応させる工程は、リグニン類とフェノール類とを70℃以上120℃以下の加熱下で混合してリグニン類を分散させて混合物を得る工程(工程1)と、工程1と同時または工程1の後に酸触媒を混合する工程(工程2)と、工程2の後に、アルデヒド類を混合する工程を含んでもよい。また、リグニン類と、フェノール類と、アルデヒド類とを、酸触媒の存在下で反応させる工程は、例えば、60℃~120℃の温度下、好ましくは80℃~105℃の温度下で、例えば、10分間~100分間の反応時間で実施されることが好ましい。これにより、効率よく反応を十分に進めることができる。また加熱下で実施することにより、出発物質が均一に混合され、分子間の絡み合いや分子間の作用により、得られるリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂が、均一に硬化し得、よって寸法精度に優れた成形を実現することができる。なお、反応時間は、特に制限はなく、出発原料の種類、配合モル比、触媒の使用量及び種類、反応条件に応じて適宜決定すればよい。
【0046】
上記工程1、工程2および工程3は、無溶媒下で実施することが好ましいが、溶媒として有機溶媒や水を用いてもよい。水添加の代わりに、含水のリグニンを使用しても良い。有機溶剤としては、例えば、アルコール類、ケトン類、エステル類、エーテル類、炭化水素類が挙げられる。アルコール類としては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、オクタノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等が挙げられる。ケトン類としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノン等が挙げられる。エステル類としては、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸メトキシブチル、酢酸アミル、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸ブチル等が挙げられる。エーテル類としては、プロピルエーテル、ジオキサン、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、プロピルセロソルブ、ブチルセロソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、メチルカルビトール、エチルカルビトール、ブチルカルビトール、メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート、プロピルセロソルブアセテート、ブチルセロソルブアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノプロピルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノブチルエーテルアセテートが挙げられる。炭化水素類としては、トルエン、キシレン、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、ソルベントナフサ、工業ガソリン、石油エーテル、石油ベンジン、リグロイン等が挙げられる。これらは単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0047】
ここで、フェノール類とリグニン類とアルデヒド類の反応比率を調整してリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂の分子量を高める従来の方法では、反応物の粘度が高くなり、脱水がしにくくなるため、プロセス時間が長くなる場合があった。また、未反応フェノール類が多く残存する場合があった。
これに対して、本実施形態では、従来のフェノール類とリグニン類とアルデヒド類の反応比率で分子量を高める場合と比較して、プロセス時間が短くすることができ、樹脂の収率を高めることができる。また、フェノール類に対するアルデヒド類のモル比(F/P)を上記範囲とするとともに、用いるリグニン類の分子量、分子量分布、添加量を調整することにより、得られるリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂の特性や樹脂材料の物性を所望の範囲に調整することができる。また上記条件を用いることにより、得られるリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂に含まれる未反応の遊離フェノール類を、リグニン変性ノボラック型フェノール樹脂に対して、2質量%以下の量に低減することができる。
【0048】
上記方法により得られるリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂は、好ましくは、200以上1,500以下の数平均分子量を有し、より好ましくは、400以上1,200以下、さらにより好ましくは、500以上1,000以下の数平均分子量を有する。上記範囲の数平均分子量を有するリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂は、レジンコーテッドサンドの粘結剤として使用するのに適切な、優れた機械的強度を有し、かつ低膨張性である。
【0049】
上記方法により得られるリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂は、好ましくは、70℃以上105℃以下、より好ましくは、75℃以上95℃以下の軟化点を有する。
【0050】
(滑剤)
本実施形態の樹脂組成物は、滑剤を含んでもよい。滑剤を用いることにより、レジンコーテッドサンドから製造される鋳型の強度の向上および耐ブロッキング性の向上を図ることができる。滑剤としては、たとえば、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、メチレンビスステアリン酸アミド、オキシステアリン酸アミド、ステアリン酸アミド、パルミチン酸アミド、オレイン酸アミド、メチロールアミド等のアミド化合物を用いることが好ましい。また他の使用可能な滑剤としては、ステアリン酸カルシウム、ポリエチレンワックス、パラフィンワックス、モンタンワックス、カルナバワックス等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0051】
滑剤は、リグニン変性ノボラック型フェノール樹脂100質量部に対して、0.3~5質量部の量で使用することが望ましい。0.3質量部未満では強度向上,耐ブロッキング性の効果が小さく、5質量部を超えると硬化速度が遅くなり、骨材(砂)間の接着力を阻害するため好ましくない。滑剤を配合する方法は、特に限定しないが、反応後の溶融状態において添加するか、70℃以上の温度の混錬機において添加することが望ましい。また、添加後の混合時間は特に限定しないが、5分以上混合することが好ましい。また、滑剤は、固形状の樹脂と混合することもできる。また、滑剤は、樹脂組成物製造後、この樹脂組成物(粘結剤)と骨材(砂)とを混練してレジンコーテッドサンドを製造する際に添加することもできる。
【0052】
(シランカップリング剤)
本実施形態の樹脂組成物は、シランカップリング剤を含んでもよい。シランカップリング剤を用いることにより、レジンコーテッドサンドから製造される鋳型の強度の向上および耐ブロッキング性の向上を図ることができる。シランカップリング剤としては、たとえば、N-β(アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-β(アミノエチル)-γ-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン等のアミノシランカップリング剤を使用することができる。シランカップリング剤は、リグニン変性ノボラック型フェノール樹脂100質量部に対して0.05~5質量部使用することが望ましい。このような範囲の量で使用することにより、鋳型の強度向上および耐ブロッキング性の向上の効果を得ることができる。シランカップリング剤を配合する方法は、特に限定しないが、反応後の溶融状態において添加するか、70℃以上の温度の混錬機において添加することが望ましい。また、添加後の混合時間は特に限定しないが、5分以上混合することが好ましい。また、シランカップリング剤は、樹脂組成物製造後、この樹脂組成物(粘結剤)と骨材(砂)とを混練してレジンコーテッドサンドを製造する際に添加することもできる。
【0053】
(樹脂組成物の製造方法)
本実施形態の樹脂組成物は、所定量の上記成分を、公知の方法により混練および撹拌することにより製造することができる。
【0054】
[レジンコーテッドサンド]
本実施形態のレジンコーテッドサンドは、骨材と、この骨材を被覆する樹脂層と、から構成され、当該樹脂層は、上述の本実施形態の樹脂組成物から形成される。
【0055】
(レジンコーテッドサンドの製造方法)
レジンコーテッドサンドを製造する方法は、特に制限されないが、例えば、まず、上記の方法により樹脂組成物を製造し、その後、骨材と樹脂組成物とを加熱混合する。
【0056】
骨材としては、耐火性粒状材料が用いられ、例えば、石英質を主成分とするけい砂、クロマイト砂、ジルコン砂、オリビン砂、ムライト砂、合成ムライト砂、マグネシア、アルミナ系人工砂、サンパール砂及びこれらの回収砂、再生砂等が挙げられる。また、耐火性粒状材料の粒度分布及び粒径は、鋳造に耐えうる耐火性と、鋳型形成に好適であれば、特に制限なく選択できる。
【0057】
加熱混合として、具体的には、例えば、まず、骨材を加熱する。加熱温度は、骨材の種類などに応じて適宜設定されるが、例えば、100℃以上、好ましくは、110℃以上であり、例えば、200℃以下、好ましくは、170℃以下である。
【0058】
次いで、加熱された骨材と、リグニン変性ノボラック型フェノール樹脂とを、所定の割合で混合および撹拌し、さらに、必要により、硬化剤、硬化促進剤、滑剤およびシランカップリング剤を添加して、冷却しながら、塊状の骨材が粒状に崩壊するまで混練および撹拌する。その後、必要により滑剤を添加し、さらに混練および撹拌する。
【0059】
これにより、骨材がリグニン変性-ノボラック型フェノール樹脂により被覆され、レジンコーテッドサンドが得られる。
【0060】
上記方法により製造されたレジンコーテッドサンドは、リグニン変性ノボラック型フェノール樹脂を含む樹脂組成物からなる樹脂層を含む。このようなレジンコーテッドサンドは、高い機械的強度有するとともに、低膨張性である。よって、本実施形態のレジンコーテッドサンドは、鋳型材料として、好適に用いられる。
【0061】
レジンコーテッドサンドを鋳型材料として用いる場合、例えば、成形型内に、重力落下方式や吹き込み方式などの公知の方法でレジンコーテッドサンドを充填し、加熱によりレジンコーテッドサンドを硬化させた後、成形型から取り出す。
【0062】
加熱条件は、例えば、200℃以上、好ましくは、250℃以上であり、例えば、350℃以下、好ましくは、300℃以下である。また、加熱時間は、例えば、30秒以上、好ましくは、1分以上であり、例えば、5分以下、好ましくは、3分以下である。これにより、硬化物として、中子鋳型などの鋳型を得ることができる。
【0063】
なお、レジンコーテッドサンドの用途は、上記に限定されず、種々の産業分野において、用いることができる。
【0064】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
【実施例】
【0065】
以下、本発明を実施例および比較例により説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0066】
[フェノール樹脂の調製]
(調製例1)
以下の方法で、リグニン変性ノボラック型フェノール樹脂1を製造した。
(リグニン誘導体の調製)
まず、リグニン変性ノボラック型フェノール樹脂の合成に用いるリグニン誘導体を以下の手順により調製した。
含水率50%のスギ木粉1500重量部に、蒸解液として純水5000重量部、水酸化ナトリウム180重量部、炭酸ナトリウム120質量部および蒸解助剤として9,10-アントラキノン7.5重量部を、容量10Lのステンレススチール製オートクレーブ設備に仕込み、撹拌下、170℃で3時間蒸解反応を行った。反応後の蒸解液を室温まで冷却し、パルプ成分をスクリーンで除去した後、リグニンを含む黒液を分離した。分離した黒液に希硫酸を加えてpH8に調整して、生じた沈澱を遠心分離した。500質量部の水で2回洗浄した後、沈澱を5倍量の水に懸濁し、希硫酸でpH2に再調整した。沈澱したリグニンを再度遠心分離し、水で洗浄した後、吸引濾過し、バットに広げて風乾して、70℃以下で減圧オーブン乾燥を行い、固形分70%以上の褐色粉末状のアルカリリグニン140質量部から150重量部(固形分換算)を得た。リグニンの固形分率はアルミカップに4gサンプルを入れ、135℃で1時間加熱乾燥させた後の残存率から算出した。得られたリグニン誘導体の数平均分子量(Mn)は、2,000であり、重量平均分子量(Mw)は、14,000であった。
【0067】
(リグニン変性ノボラック型フェノール樹脂の調製)
続いて、リグニン変性ノボラック型フェノール樹脂1を以下の手順により合成した。
撹拌機、冷却管及び温度計を備えた四口フラスコにフェノール100重量部を加え、上記のリグニン誘導体15.8重量部(固形分)を徐々に添加して60℃以上で混合して分散させて、シュウ酸1.3重量部加え、37%ホルムアルデヒド水溶液43.1重量部を60分かけて徐添して100℃で反応させて、添加後に100℃にて60分反応させて、常圧及び減圧脱水で150℃以上に昇温して所望のフェノール濃度になったところで取り出し、94.5重量部のリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂1を得た。
【0068】
(調製例2)
以下の方法で、リグニン変性ノボラック型フェノール樹脂2を製造した。
(リグニン誘導体の調製)
含水率50%のスギ木粉200重量部に、蒸解液として純水567重量部を、容量10Lのステンレススチール製オートクレーブ設備に仕込み、撹拌下、300℃で1時間処理を行った。反応後の蒸解液を室温まで冷却し、濾別して、リグニンを含む固形分を得た。得られた分固形分をアセトン250部に12時間浸漬した。これをろ過して、ろ液からアセトンを70℃以下で留去して乾燥することでリグニン誘導体15.2重量部を得た。得られたリグニン誘導体の数平均分子量(Mn)は、580であり、重量平均分子量(Mw)は、2,510であった。
【0069】
(リグニン変性ノボラック型フェノール樹脂の調製)
続いて、上記のリグニン誘導体41.7重量部(固形分)、37%ホルムアルデヒド水溶液49.2重量部を用いたこと以外は、調製例1と同様にして、120.3重量部のリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂2を得た。
【0070】
(調製例3)
以下の方法で、リグニン変性ノボラック型フェノール樹脂3を製造した。
(リグニン誘導体の調製)
蒸解液として、純水5000重量部、水酸化ナトリウム150重量部、硫化ナトリウム80重量部、炭酸ナトリウム70質量部および蒸解助剤として9,10-アントラキノン7.5重量部を用いて、170℃で2時間蒸解反応を行い、100℃以下で乾燥させたこと以外は、調製例1と同様にして、リグニン誘導体を得た。得られたリグニン誘導体の数平均分子量(Mn)は、1,920であり、重量平均分子量(Mw)は、15,100であった。
【0071】
(リグニン変性ノボラック型フェノール樹脂の調製)
続いて、上記のリグニン誘導体13.9重量部(固形分)、37%ホルムアルデヒド水溶液91.4重量部を用いたこと以外は、調製例1と同様にして、94.1重量部のリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂3を得た。
【0072】
(調製例4)
以下の方法で、リグニン変性ノボラック型フェノール樹脂4を製造した。
(リグニン誘導体の調製)
調製例1と同様にして、リグニン誘導体を得た。
【0073】
(リグニン変性ノボラック型フェノール樹脂の調製)
続いて、上記のリグニン誘導体15.8重量部(固形分)、37%ホルムアルデヒド水溶液47.4重量部を用いたこと以外は、調製例1と同様にして、98.2重量部のリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂4を得た。
【0074】
(調製例5)
カシュー変性ノボラック型フェノール樹脂5として、住友ベークライト社製PR-12686Eを用いた。
【0075】
(調製例6)
以下の方法で、未変性変性ノボラック型フェノール樹脂6を製造した。
(未変性ノボラック型フェノール樹脂の調製)
撹拌機、冷却管及び温度計を備えた四口フラスコに、フェノール100部、シュウ酸1 部、37%ホルマリン56.9部(F/P=0.68)を60分かけて徐添して100℃で反応させて、添加後に100℃にて60分反応させて、常圧及び減圧脱水で150℃以上に昇温して所望のフェノール濃度になったところで取り出し、87.9重量部の未変性ノボラック型フェノール樹脂6を得た。
【0076】
(調製例7)
以下の方法で、リグニン変性ノボラック型フェノール樹脂7を製造した。
(リグニン誘導体の調製)
調製例1と同様にして、リグニン誘導体を得た。
(リグニン変性ノボラック型フェノール樹脂の調製)
続いて、上記のリグニン誘導体40.5重量部(固形分)、37%ホルムアルデヒド水溶液54.8重量部を用いたこと以外は、調製例1と同様にして、125.2重量部のリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂7を得た。
【0077】
[フェノール樹脂の特性]
上記調製例で得られたフェノール樹脂の数平均分子量、リグニン変性率、遊離フェノールの含有量、および軟化点を、GPC法または環球式軟化点試験機により測定した。これらの測定結果を表1に、「フェノール樹脂の特性」として示す。
【0078】
<実施例1~3、比較例1~5>
[樹脂組成物の調製]
実施例1~3および比較例1~5において、以下の手順で、表1に示す成分を所定の配合量で混合して、樹脂組成物を得た。
(リグニン変性ノボラック型フェノール樹脂組成物の調製)
実施例1~3および比較例1~4では、フェノール樹脂100重量部、エチレンビスステアリン酸アマイド1部、シランカップリング剤としてアミノシラン1部とを、表面温度を70~90℃に調整したロール式混練機で5分間混練を行い、常温で固形の組成物を得た。得られた組成物を砕いて、ステアリン酸を0.2重量部と袋内で混合しフェノール樹脂組成物を得た。
比較例5では、上記と同様の方法で、フェノール樹脂100重量部とステアリン酸0.2重量部とを混合して、フェノール樹脂組成物を得た。
【0079】
表1に記載の成分の詳細を以下に示す。
(フェノール樹脂)
・フェノール樹脂1:調製例1のリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂1
・フェノール樹脂2:調製例2のリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂2
・フェノール樹脂3:調製例3のリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂3
・フェノール樹脂4:調製例4のリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂4
・フェノール樹脂5:カシュー変性ノボラック型フェノール樹脂(Mw=910、Mn=26700)
・フェノール樹脂6:未変性ノボラック型フェノール樹脂(Mw=640、Mn=1280)
・フェノール樹脂7:調製例7のリグニン変性ノボラック型フェノール樹脂7
(滑剤)
・滑剤1:エチレンビスステアリン酸アマイド
・滑剤2:ステアリン酸カルシウム
・カップリング剤1:N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン
【0080】
[樹脂組成物の物性]
各実施例および比較例で得られた樹脂組成物を、以下の物性について測定した。
(ヤニ・スス発生量)
各実施例および比較例で得たフェノール樹脂組成物100重量部とヘキサミン15重量部を小型粉砕機で粉砕混合を行い、メディアン径約30μmの熱硬化性樹脂組成物を得た。さらに150℃30分で硬化させて粉砕して硬化物を得た。続いてφ25mm、高さ30mmの坩堝(小)に硬化物1.5g入れ、アルミ箔を載せる。さらに坩堝(小)を、φ65mm、高さ55mmの坩堝(大)に入れて蓋をする。これを430℃で30分加熱し、放冷後、坩堝(大)とアルミ箔と蓋の重量を測定して、加熱処理による樹脂組成物からのヤニ・スス発生量を次式より算出した。
ヤニ・スス発生量(%)={[(430℃加熱後のアルミ箔の重量(g)+坩堝(大)の重量(g)+蓋の重量(g))-(430℃加熱前のアルミ箔の重量(g)+坩堝(大)の重量(g)+蓋の重量(g))]/加熱前の硬化物の重量(g)}×100(%)
【0081】
[レジンコーテッドサンドの調製]
各実施例および比較例で得られた樹脂組成物105部と130~140℃に加熱した骨材(再生硅砂)の7000部とを、実験用ワールミキサーに投入し、60秒間混錬した。更に、硬化剤(ヘキサメチレンテトラミン)の23部を水105部に溶解した水溶液を添加し、送風冷却し、その後、滑剤(ステアリン酸カルシウム)の7部を添加して、レジンコーテッドサンド(RCS)を得た。
【0082】
[レジンコーテッドサンドの物性]
得られたRCSを、以下の物性について測定した。
(冷間抗折強度:曲げ強度)
冷間抗折強度の測定は、JACT試験法SM-1に準拠して行った。すなわち、得られたRCSを用いて、JIS-K-6910(検体の焼成条件:250℃で60秒間)に準ずるJIS式テストピース(幅:10mm×厚さ:10mm×長さ:60mm)を作製し、その得られたJIS式テストピースについて、曲げ強度(Kgf/cm2)を測定した。
【0083】
(熱膨張率)
熱膨張率の測定は、JACT試験法SM-7に準拠して行った。すなわち、RCSを用いて直径×長さが30Φ×50mmの試験片を250℃で120秒間焼成して作製し、1000℃雰囲気下で熱膨張率を測定した。値の小さいものほど低熱膨張率で鋳込み時の割れの低減が期待できる。
【0084】
(融着点)
融着点の測定は、JACT試験法C-1(融着点試験法)に準拠して行った。すなわち、温度勾配をもたせた金属棒の上に、測定しようとするRCSを手早く散布し、60秒後に上記金属棒から10cm離れた位置に、案内棒に沿って移動する口径1.0mmのノズルを、空気圧0.1MPaで低温部から高温部に向けて往復1回動かして金属棒上のRCSを吹き飛ばす。吹き飛ばされたRCSと吹き飛ばされなかったRCSの境界線の温度を1℃まで読み取ることにより、融着点(℃)を求めた。
【0085】
【0086】
実施例の樹脂組成物の硬化物は、高い機械的強度を有するとともに、ヤニ、スス発生量が低減されていた。
【0087】
この出願は、2022年5月16日に出願された日本出願特願2022-079950号を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。
【要約】
レジンコーテッドサンド用の樹脂組成物であって、当該樹脂組成物は、リグニン変性ノボラック型フェノール樹脂を含み、前記リグニン変性ノボラック型フェノール樹脂中の遊離フェノール類の含有量は、2質量%以下である、樹脂組成物。