(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-04
(45)【発行日】2023-12-12
(54)【発明の名称】プレス成形方法及びプレス成形品の製造方法
(51)【国際特許分類】
B21D 22/26 20060101AFI20231205BHJP
【FI】
B21D22/26 C
(21)【出願番号】P 2023550653
(86)(22)【出願日】2023-05-19
(86)【国際出願番号】 JP2023018764
【審査請求日】2023-08-22
(31)【優先権主張番号】P 2022088351
(32)【優先日】2022-05-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2022110284
(32)【優先日】2022-07-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2022161456
(32)【優先日】2022-10-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2022196030
(32)【優先日】2022-12-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 裕之
【審査官】石川 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-082143(JP,A)
【文献】特開2022-080353(JP,A)
【文献】国際公開第2014/185428(WO,A1)
【文献】特開2021-159951(JP,A)
【文献】特許第5168429(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21D 22/26
B21D 24/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
天板部と、該天板部から連続する縦壁部と、該縦壁部から連続するフランジ部と、を有し、上面視で凹状に湾曲する凹状湾曲部位を備えたプレス成形品を目標形状としてプレス成形するプレス成形方法であって、
前記目標形状の凹状湾曲部位の湾曲に対応する凹形状が設けられたブランクを作成するブランク作成工程と、
該作成したブランクを、天板部と、該天板部から連続する縦壁部と、該縦壁部から連続するフランジ部と、を有し、上面視で凹状に湾曲する凹状湾曲部位を備え、該凹状湾曲部位の湾曲中央部における前記フランジ部と前記縦壁部の一部、または、前記フランジ部と前記縦壁部と前記天板部の一部に欠け部が設けられた中間形状のプレス成形品にプレス成形する中間形状成形工程と、
該中間形状のプレス成形品を前記目標形状にプレス成形する目標形状成形工程と、を含み、
前記中間形状成形工程は、前記ブランクに設けられた凹形状の一部が前記欠け部になるようにプレス成形する、ことを特徴とするプレス成形方法。
【請求項2】
天板部と、該天板部から連続する縦壁部と、を有し、上面視で凹状に湾曲する凹状湾曲部位を備えたプレス成形品を目標形状としてプレス成形するプレス成形方法であって、
前記凹状湾曲部位の湾曲に対応する凹形状が設けられたブランクを作成するブランク作成工程と、
該作成したブランクを、天板部と、該天板部から連続する縦壁部と、を有し、上面視で凹状に湾曲する凹状湾曲部位を備え、該凹状湾曲部位の湾曲中央部における前記縦壁部と前記天板部の一部に欠け部が設けられた中間形状のプレス成形品にプレス成形する中間形状成形工程と、
該中間形状のプレス成形品を前記目標形状にプレス成形する目標形状成形工程と、を含み、
前記中間形状成形工程は、前記ブランクに設けられた凹形状の一部が前記欠け部になるようにプレス成形する、ことを特徴とするプレス成形方法。
【請求項3】
前記中間形状成形工程において、前記中間形状の前記凹状湾曲部位の湾曲端部における曲率半径R
Eを、前記目標形状の前記凹状湾曲部位における曲率半径R
0よりも大きくする、ことを特徴とする請求項1または2に記載のプレス成形方法。
【請求項4】
天板部と、該天板部から連続する縦壁部と、該縦壁部から連続するフランジ部と、を有し、上面視で凹状に湾曲する凹状湾曲部位を備えたプレス成形品を目標形状として製造するプレス成形品の製造方法であって、
前記目標形状の凹状湾曲部位の湾曲に対応する凹形状が設けられたブランクを作成するブランク作成工程と、
該作成したブランクを、天板部と、該天板部から連続する縦壁部と、該縦壁部から連続するフランジ部と、を有し、上面視で凹状に湾曲する凹状湾曲部位を備え、該凹状湾曲部位の湾曲中央部における前記フランジ部と前記縦壁部の一部、または、前記フランジ部と前記縦壁部と前記天板部の一部に欠け部が設けられた中間形状のプレス成形品にプレス成形する中間形状成形工程と、
該中間形状のプレス成形品を前記目標形状にプレス成形する目標形状成形工程と、を含み、
前記中間形状成形工程は、前記ブランクに設けられた凹形状の一部が前記欠け部になるようにプレス成形する、ことを特徴とするプレス成形品の製造方法。
【請求項5】
天板部と、該天板部から連続する縦壁部と、を有し、上面視で凹状に湾曲する凹状湾曲部位を備えたプレス成形品を目標形状として製造するプレス成形品の製造方法であって、
前記凹状湾曲部位の湾曲に対応する凹形状が設けられたブランクを作成するブランク作成工程と、
該作成したブランクを、天板部と、該天板部から連続する縦壁部と、を有し、上面視で凹状に湾曲する凹状湾曲部位を備え、該凹状湾曲部位の湾曲中央部における前記縦壁部と前記天板部の一部に欠け部が設けられた中間形状のプレス成形品にプレス成形する中間形状成形工程と、
該中間形状のプレス成形品を前記目標形状にプレス成形する目標形状成形工程と、を含み、
前記中間形状成形工程は、前記ブランクに設けられた凹形状の一部が前記欠け部になるようにプレス成形する、ことを特徴とするプレス成形品の製造方法。
【請求項6】
前記中間形状成形工程において、前記中間形状の前記凹状湾曲部位の湾曲端部における曲率半径R
Eを、前記目標形状の前記凹状湾曲部位における曲率半径R
0よりも大きくなるようにプレス成形する、ことを特徴とする請求項4または5に記載のプレス成形品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天板部と、天板部から連続する縦壁部と、を有し、上面視で凹状に湾曲した凹状湾曲部位を備えたプレス成形品を目標形状としてプレス成形するプレス成形方法及びプレス成形品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車や家電製品は多くのプレス成形品を構成部材としており、これらプレス成形品は金属板であるブランクをプレス成形して製造される。近年では、引張強度が590MPa級以上の高張力鋼板やアルミニウム合金板等といった高強度な金属板がプレス成形に用いられている。しかしながら、このような金属板は延性やランクフォード値が低いため、プレス成形時に割れが発生しやすいという問題がある。
【0003】
割れの発生しやすいプレス成形品の形状の例として、天板部と、天板部から稜線部を介して連続する縦壁部と、を有し、上面視で天板部と稜線部と縦壁部とが凹状に湾曲した形状の凹状湾曲部位を有するプレス成形品がある。このようなプレス成形品を金属板であるブランクからプレス成形すると、プレス成形過程においてブランクの湾曲に沿った方向の引張変形により割れ(伸びフランジ割れ)が発生しやすく、成形不良の原因となる。
【0004】
そこで、従来、上面視で凹状湾曲部位を有するプレス成形品のプレス成形過程における伸びフランジ割れの発生を抑制する技術が提案されている。
【0005】
例えば、特許文献1には、凹状外周縁部を有する天板部と、凹状外周縁部から連続して湾曲するフランジ部(本願の縦壁部に相当)とを備えた板金成形品をプレス成形する場合において、フランジ部における伸びフランジ割れの発生を抑制する技術が開示されている。当該技術においては、まず、大きい曲率を有する大曲率部と、これらに挟まれて小さい曲率を有する小曲率部とで構成されたフランジ部をブランクに形成して予成形品を得る。ここで、大曲率部の曲率は、板金成形品のフランジ部を構成する曲率部よりも大きいものとし、小曲率部の曲率は、板金成形品のフランジ部を構成する曲率部よりも小さいものとする。さらに、予成形品のフランジ部は、平面視における線長を、板金成形品のフランジ部の平面視における線長と比較して短くする。そして、このように得られた予成形品を目標形状にリストライクすることにより、フランジ部の割れを抑制することができるとされている。
【0006】
また、特許文献2には、天板部と、弧状に湾曲している部位を有する屈曲部を介して天板部につながり、且つ、屈曲部と反対側にフランジ部を有する縦壁部とを有し、天板部と縦壁部とフランジ部とによる部品を素材金属板から成形する技術が開示されている。当該技術においては、素材金属板の天板部に相当する部位の少なくとも一部をパッドにより加圧した状態で、素材金属板のL字の下側に相当する部分の端部をダイ金型のうち天板部に対応する部位の上でスライドさせつつ、縦壁部およびフランジ部を成形する。これにより、フランジ部の割れを抑制することができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2021-159951号公報
【文献】特許第5168429号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に開示されている技術により、天板部と、天板部から稜線部を介して連続する縦壁部とを有し、上面視で凹状に湾曲した凹状湾曲部位を有するプレス成形品をプレス成形すると、伸びフランジ割れが発生しやすい場合があった。特に、凹状湾曲部位の曲率半径が小さい(曲率が大きい)と、中間形状のプレス成形品の縦壁部(特許文献1の予成形品のフランジ部)の線長が短すぎて、凹状湾曲部位の縦壁部に集中する引張ひずみを十分に低減することができなかった。その結果、凹状湾曲部位における縦壁部の端部は湾曲に沿った方向に大きな引張変形を受けて成形されるために引張ひずみが集中し、伸びフランジ割れが発生しやすいという問題があった。
【0009】
また、特許文献2に開示されている技術においては、素材金属板のL字の下側に相当する部分の端部をダイ金型のうち天板部に対応する部位の上でスライドさせつつ縦壁部とフランジ部を成形するため、プレス成形中に素材金属板が移動してしまった。これにより、プレス成形された部品の形状の変化が大きくなって寸法精度が変動し、伸びフランジ割れの抑制効果も変動してしまうという問題があった。
【0010】
本発明は、上記のような課題を解決するためなされたものであり、天板部と縦壁部とを有し、上面視で凹状に湾曲した凹状湾曲部位を備えたプレス成形品の伸びフランジ割れを十分に抑制することができるプレス成形方法及びプレス成形品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、
(1)本発明に係るプレス成形方法は、天板部と、該天板部から連続する縦壁部と、該縦壁部から連続するフランジ部と、を有し、上面視で凹状に湾曲する凹状湾曲部位を備えたプレス成形品を目標形状としてプレス成形するものであって、前記目標形状の凹状湾曲部位の湾曲に対応する凹形状が設けられたブランクを作成するブランク作成工程と、該作成したブランクを、天板部と、該天板部から連続する縦壁部と、該縦壁部から連続するフランジ部と、を有し、上面視で凹状に湾曲する凹状湾曲部位を備え、該凹状湾曲部位の湾曲中央部における前記フランジ部と前記縦壁部の一部、または、前記フランジ部と前記縦壁部と前記天板部の一部に欠け部が設けられた中間形状のプレス成形品にプレス成形する中間形状成形工程と、該中間形状のプレス成形品を前記目標形状にプレス成形する目標形状成形工程と、を含み、前記中間形状成形工程は、前記ブランクに設けられた凹形状の一部が前記欠け部になるようにプレス成形する、ことを特徴とするものである。
【0012】
(2)本発明に係るプレス成形方法は、天板部と、該天板部から連続する縦壁部と、を有し、上面視で凹状に湾曲する凹状湾曲部位を備えたプレス成形品を目標形状としてプレス成形するものであって、前記凹状湾曲部位の湾曲に対応する凹形状が設けられたブランクを作成するブランク作成工程と、該作成したブランクを、天板部と、該天板部から連続する縦壁部と、を有し、上面視で凹状に湾曲する凹状湾曲部位を備え、該凹状湾曲部位の湾曲中央部における前記縦壁部と前記天板部の一部に欠け部が設けられた中間形状のプレス成形品にプレス成形する中間形状成形工程と、該中間形状のプレス成形品を前記目標形状にプレス成形する目標形状成形工程と、を含み、前記中間形状成形工程は、前記ブランクに設けられた凹形状の一部が前記欠け部になるようにプレス成形する、ことを特徴とするものである。
【0013】
(3)本発明に係るプレス成形方法は、上記(1)または(2)の発明において、前記中間形状成形工程において、前記中間形状の前記凹状湾曲部位の湾曲端部における曲率半径REを、前記目標形状の前記凹状湾曲部位における曲率半径R0よりも大きくする、ことを特徴とするものである。
【0014】
(4)本発明に係るプレス成形品の製造方法は、天板部と、該天板部から連続する縦壁部と、該縦壁部から連続するフランジ部と、を有し、上面視で凹状に湾曲する凹状湾曲部位を備えたプレス成形品を目標形状として製造するものであって、前記目標形状の凹状湾曲部位の湾曲に対応する凹形状が設けられたブランクを作成するブランク作成工程と、該作成したブランクを、天板部と、該天板部から連続する縦壁部と、該縦壁部から連続するフランジ部と、を有し、上面視で凹状に湾曲する凹状湾曲部位を備え、該凹状湾曲部位の湾曲中央部における前記フランジ部と前記縦壁部の一部、または、前記フランジ部と前記縦壁部と前記天板部の一部に欠け部が設けられた中間形状のプレス成形品にプレス成形する中間形状成形工程と、該中間形状のプレス成形品を前記目標形状にプレス成形する目標形状成形工程と、を含み、前記中間形状成形工程は、前記ブランクに設けられた凹形状の一部が前記欠け部になるようにプレス成形する、ことを特徴とするものである。
【0015】
(5)本発明に係るプレス成形品の製造方法は、天板部と、該天板部から連続する縦壁部と、を有し、上面視で凹状に湾曲する凹状湾曲部位を備えたプレス成形品を目標形状として製造するものであって、前記凹状湾曲部位の湾曲に対応する凹形状が設けられたブランクを作成するブランク作成工程と、該作成したブランクを、天板部と、該天板部から連続する縦壁部と、を有し、上面視で凹状に湾曲する凹状湾曲部位を備え、該凹状湾曲部位の湾曲中央部における前記縦壁部と前記天板部の一部に欠け部が設けられた中間形状のプレス成形品にプレス成形する中間形状成形工程と、該中間形状のプレス成形品を前記目標形状にプレス成形する目標形状成形工程と、を含み、前記中間形状成形工程は、前記ブランクに設けられた凹形状の一部が前記欠け部になるようにプレス成形する、ことを特徴とするものである。
【0016】
(6)本発明に係るプレス成形品の製造方法は、上記(4)または(5)の発明において、前記中間形状成形工程において、前記中間形状の前記凹状湾曲部位の湾曲端部における曲率半径REを、前記目標形状の前記凹状湾曲部位における曲率半径R0よりも大きくなるようにプレス成形する、ことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係るプレス成形方法及びプレス成形品の製造方法においては、凹状湾曲部位の湾曲に対応する凹形状が設けられたブランクを作成し、作成したブランクを、凹状湾曲部位の湾曲中央部に欠け部が設けられた中間形状のプレス成形品にプレス成形する。このとき、ブランクに設けられた凹形状が欠け部となるようにプレス成形する。これにより、欠け部の近傍に作用する引張応力を小さくし、かつ、凹状湾曲部位における湾曲の両端側に引張応力を分散させることができる。その結果、中間形状のプレス成形品を目標形状にプレス成形した際に、伸びフランジ割れを十分に抑制することができ、割れのない安定したプレス成形を可能とし、生産性の向上や歩留まり向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、実施形態に係るプレス成形方法における処理の流れを示すフロー図である。
【
図2】
図2は、本実施形態において、成形対象とするプレス成形品の一例を示す斜視図である((a)Z字断面形状、(b)コ字断面形状、(c)ハット断面形状)。
【
図3】
図3は、上面視で凹状湾曲部位を有するプレス成形品を1工程でプレス成形する従来技術を説明する図である。
【
図4】
図4は、従来技術により1工程でプレス成形したプレス成形品の板厚減少率の結果の一例を示すコンター図である。
【
図5】
図5は、比較条件の方法においてプレス成形される予成形品(中間形状のプレス成形品)を説明する図である。
【
図6】
図6は、比較条件の方法によりプレス成形した予成形品(中間形状のプレス成形品)及び板金成形品(目標形状のプレス成形品)それぞれのプレス成形品の板厚減少率の結果の一例を示すコンター図である。
【
図7】
図7は、実施形態に係るプレス成形方法によりプレス成形する中間形状及び目標形状のプレス成形品を説明する図である。
【
図8】
図8は、実施形態に係るプレス成形方法により、上面視で凹状湾曲部位を有するプレス成形品をプレス成形する工程を説明する図である((a)中間形状成形工程、(b)目標形状成形工程)。
【
図9】
図9は、実施形態に係るプレス成形方法によりプレス成形した中間形状及び目標形状それぞれのプレス成形品の板厚減少率の結果の一例を示すコンター図である。
【
図10】
図10は、本発明に係るプレス成形方法においてプレス成形される中間形状のプレス成形品の凹状湾曲部位における稜線部の好適な位置を説明する図である。
【
図11】
図11は、本発明に係るプレス成形方法においてプレス成形される中間形状のプレス成形品の凹状湾曲部位における欠け部の具体例を説明する図である。
【
図12】
図12は、実施例において、成形対象としたハット断面形状のプレス成形品の目標形状を示す図である。
【
図13】
図13は、実施例において、本発明に係る方法により中間形状と目標形状のプレス成形品のそれぞれをプレス成形する工程を説明する図である((a)中間形状成形工程、(b)目標形状成形工程)。
【
図14】
図14は、実施例において、目標形状のプレス成形品を1工程でプレス成形する従来例を説明する図である。
【
図15】
図15は、実施例において、従来例における目標形状のプレス成形品について求めた板厚減少率のコンター図である。
【
図16】
図16は、実施例において、比較例における中間形状と目標形状のプレス成形品について求めた板厚減少率のコンター図である((a)中間形状のプレス成形品、(b)目標形状のプレス成形品)。
【
図17】
図17は、実施例において、発明例1における中間形状と目標形状のプレス成形品について求めた板厚減少率のコンター図である((a)中間形状のプレス成形品、(b)目標形状のプレス成形品)。
【
図18】
図18は、実施例において、発明例2における中間形状と目標形状のプレス成形品について求めた板厚減少率のコンター図である((a)中間形状のプレス成形品、(b)目標形状のプレス成形品)。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明に係るプレス成形方法及びプレス成形品の製造方法の実施形態について説明する。なお、本実施形態により本発明が限定されるものではない。
【0020】
本発明の実施形態に係るプレス成形方法及びプレス成形品の製造方法について説明するに先立ち、本発明で成形対象とするプレス成形品と、本発明に至った経緯について説明する。
【0021】
<プレス成形品>
図2は、本発明において成形対象とするプレス成形品の具体例について示す斜視図である。
【0022】
図2(a)のプレス成形品210は、天板部211と、天板部211から稜線部213を介して連続する縦壁部215と、縦壁部215からダイ肩部217を介して連続するフランジ部219と、を有するZ字断面形状のプレス成形品の一例である。そして、プレス成形品210は、上面視で稜線部213と縦壁部215とダイ肩部217とフランジ部219側が凹状に湾曲する凹状湾曲部位221と、凹状湾曲部位221の湾曲の両端から直線状に延出する直線部位223と、を備えている。
【0023】
また、
図2(b)のプレス成形品230は、天板部231と、その両端辺から稜線部233を介して連続する縦壁部235と、を有するコの字断面形状のプレス成形品の一例である。そして、プレス成形品230は、上面視で稜線部233aと縦壁部235a側が凹状に湾曲する凹状湾曲部位241と、凹状湾曲部位241の湾曲の両端から直線状に延出する直線部位243と、を備えている。
【0024】
さらに、
図2(c)のプレス成形品250は、天板部251と、その両端辺から稜線部253を介して連続する縦壁部255と、縦壁部255からダイ肩部257を介して連続するフランジ部259と、を有するハット断面形状のプレス成形品の一例である。そして、プレス成形品250は、上面視で稜線部253aと縦壁部255aとダイ肩部257aとフランジ部259a側が凹状に湾曲する凹状湾曲部位261と、凹状湾曲部位261の湾曲の両端から直線状に延出する直線部位263と、を備えている。
【0025】
このように、本発明において成形対象とするプレス成形品は、
図2に例示したように、天板部と、天板部から稜線部を介して連続する縦壁部と、を有し、上面視で凹状に湾曲する凹状湾曲部位を備えたものであればよい。そのため、成形対象とするプレス成形品は、その他の具体的な形状、例えば、断面形状や、凹状湾曲部位の湾曲の曲率半径や、直線部位の長さ等を限定するものではない。
【0026】
以下、
図2(a)に示すZ字断面形状のプレス成形品210を目標形状としてプレス成形する場合を例として、説明する。
【0027】
<本発明に至った経緯>
従来、
図2(a)に示したような上面視で凹状湾曲部位221を備えたZ字断面形状のプレス成形品210は、
図3に示すように、ダイ23とパンチ25とパッド27とを備えた金型21を用いて、1工程で目標形状にプレス成形されていた。このとき、ダイ側凹状湾曲部位成形部23aとパンチ側凹状湾曲部位成形部25aとにより成形される凹状湾曲部位221は、伸びフランジ成形となる。
【0028】
1工程で目標形状にプレス成形されたプレス成形品210について、本発明者は、
図3に示す金型21を用いてプレス成形する過程の有限要素法解析(FEM解析)を行い、プレス成形後のプレス成形品210の板厚減少率を求めた。ここで、板厚減少率とは、プレス成形前の金属板であるブランク100の板厚からプレス成形後の各部位の板厚を減じてブランク100の板厚で除した値である。
【0029】
図4に示すように、従来の1工程でプレス成形されたプレス成形品210においては、凹状湾曲部位221におけるフランジ部219の端部の板厚減少率が21.5%と最も大きく、伸びフランジ成形により割れが発生しやすいことが分かる。
【0030】
このような伸びフランジ成形による割れの発生を抑制するために、前述した特許文献1においては、フランジアップ工程(予成形工程)とリストライク工程との2工程に分けてプレス成形を行う方法が提案されていた。
【0031】
特許文献1の方法は、まずはフランジアップ工程において、
図5に示すように、予成形品である中間形状のプレス成形品170を得る。そして、続くリストライク工程において、予成形品を板金成形品である目標形状のプレス成形品210にリストライクする。
【0032】
特許文献1の方法において、中間形状のプレス成形品170は、曲率の大きい(曲率半径REの小さい)2つの湾曲端部181bと、これらに挟まれた曲率の小さい(曲率半径RCの大きい)湾曲中央部181aと、を有するものである。
【0033】
ここで、中間形状のプレス成形品170としては、
図5に示した、凹状湾曲部位181における湾曲の稜線長さ(湾曲efgh)を目標形状のプレス成形品210の凹状湾曲部位221における湾曲の稜線長さ(湾曲pq)よりも短くした条件を考える。この条件は、特許文献1で開示している、「予成形品のフランジ部は、平面視における線長を、板金成形品のフランジ部の平面視における線長と比較して短くする。」という条件を満たしている。このとき、中間形状のプレス成形品170の凹状湾曲部位181における湾曲の稜線長さ(湾曲efgh)とは、稜線部173の湾曲に沿った方向における始点eから終点hまでの長さのことをいう。また、目標形状のプレス成形品210の凹状湾曲部位221における湾曲の稜線長さ(湾曲pq)とは、破線で示した稜線部213の湾曲に沿った方向における始点pから終点qまでの長さのことをいう。
【0034】
そして、本願発明者は、
図5に示した条件における各工程について有限要素法解析を行い、中間形状のプレス成形品170と目標形状のプレス成形品210それぞれの板厚減少率を求めた。
【0035】
図6に示すように、
図5に示した条件による中間形状のプレス成形品170の板厚減少率は最大で24.4%であった。さらに、目標形状のプレス成形品210の板厚減少率は最大で25.4%であった。このように、
図5に示した条件では、従来の1工程でプレス成形した場合(
図4)よりも板厚減少率が増大し、伸びフランジ割れが多発する事態を招いた。すなわち、
図5に示した条件では、伸びフランジ割れを抑制する効果がほとんどないことが判明した。
【0036】
そこで、本願発明者は、このような伸びフランジ割れを抑制する手段を鋭意検討した。当該検討において、本願発明者は、従来の方法において伸びフランジ割れが発生する部位に着目した。すなわち、従来の方法により目標形状にプレス成形したプレス成形品210においては、
図4及び
図6に示すように、凹状湾曲部位221のフランジ部219における湾曲中央部221aまたはその近傍において板厚減少率が大きい結果であった。そのため、当該部位において、伸びフランジ割れが発生しやすいことに着目した。
【0037】
そこで、本願発明者は、凹状湾曲部位に引張応力が作用する伸びフランジ成形において、その部位または近傍に作用する引張応力を小さくし、凹状湾曲部位における湾曲の両端側に引張応力を分散させる方法を鋭意検討した。その結果、中間形状のプレス成形品において、凹状湾曲部位の一部が切り欠かれた形状とすることにより、当該部位またはその近傍に作用する引張応力を小さくし、凹状湾曲部位における湾曲の両端側に引張応力を分散させることを着想するに至った。そして、凹状湾曲部位における引張応力を小さくすることで、中間形状及び目標形状のプレス成形品における伸びフランジ割れを抑制することが可能となることを見い出した。
【0038】
本発明は、かかる検討結果に基づいてなされたものであり、その構成は以下のとおりである。
【0039】
<プレス成形方法>
実施形態に係るプレス成形方法は、前述した
図2(a)に一例として示したような、上面視で凹状に湾曲した凹状湾曲部位221を備えたプレス成形品210を目標形状としてプレス成形するものである。そして、当該プレス成形方法は、
図1に示すように、ブランク作成工程S1と、中間形状成形工程S3と、目標形状成形工程S5と、を含むものである。なお、上記のプレス成形方法を実行することによって、プレス成形品210が製造されるので、プレス成形方法の発明は、プレス成形品の製造方法の発明として構成することができる。したがって、以下に説明するプレス成形方法の実施形態は、プレス成形品の製造方法の実施形態と共通するものである。以下、
図7及び
図8を参照して上記の各工程について説明する。
【0040】
≪ブランク作成工程≫
ブランク作成工程S1は、目標形状のプレス成形品210の凹状湾曲部位221の湾曲に対応する凹形状101が設けられたブランク100(
図8(a)参照)を作成する工程である。凹状湾曲部位221の湾曲とは、例えば、凹状湾曲部位221における稜線部213の湾曲のことをいうものとする。
【0041】
≪中間形状成形工程≫
中間形状成形工程S3は、ブランク100を、
図7(a)に示す中間形状のプレス成形品110にプレス成形する工程である。ここで、中間形状のプレス成形品110は、天板部111と、天板部111から連続する稜線部113を介して連続する縦壁部115と、縦壁部115からダイ肩部117を介して連続するフランジ部119と、を有する。また、中間形状のプレス成形品110は、上面視で凹状に湾曲する凹状湾曲部位121と、凹状湾曲部位121の湾曲の両端から直線状に延出する直線部位123と、を備えている。さらに、凹状湾曲部位121の湾曲中央部121aに、フランジ部119と縦壁部115の一部とが欠けた形状の欠け部125が設けられている。そして、中間形状成形工程S3は、ブランク100に設けられた凹形状101の一部が欠け部125になるようにプレス成形する。この、凹状湾曲部位121の縦壁部115に設ける欠け部125とは、本来、縦壁部115となるべき部分で、材料がない状態となっている部分のことをいう。欠け部125の高さ方向の長さは、凹状湾曲部位121以外の部分の縦壁部115の高さ方向の長さよりも短くなる。
【0042】
中間形状成形工程S3では、例えば、
図8(a)に示すように、中間形状成形用ダイ3と、中間形状成形用パンチ5と、パッド7と、を備えた中間形状成形用金型1を用いて、中間形状のプレス成形品110にプレス成形することができる。
【0043】
中間形状成形用ダイ3は、中間形状の凹状湾曲部位121を成形するダイ側中間形状凹状湾曲部位成形部3aと、中間形状の直線部位123を成形するダイ側中間形状直線部位成形部3bと、を有する。
【0044】
中間形状成形用パンチ5は、パンチ側中間形状凹状湾曲部位成形部5aと、パンチ側中間形状直線部位成形部5bと、を有する。パンチ側中間形状凹状湾曲部位成形部5aは、ダイ側中間形状凹状湾曲部位成形部3aと協働して中間形状の凹状湾曲部位121を成形する。パンチ側中間形状直線部位成形部5bは、ダイ側中間形状直線部位成形部3bと協働して中間形状の直線部位123を成形する。
【0045】
パッド7は、ブランク100を中間形状成形用パンチ5側に押圧してブランク100を押さえるものである。なお、中間形状成形工程S3において、中間形状成形用金型1は、パッド7を必ずしも要するものではなく、中間形状成形用ダイ3に天板成形部を有してもよい。
【0046】
≪目標形状成形工程≫
目標形状成形工程S5は、中間形状成形工程S3においてプレス成形された中間形状のプレス成形品110を、
図7(b)に示す目標形状のプレス成形品210にプレス成形する工程である。
【0047】
目標形状成形工程S5では、例えば、
図8(b)に示すように、目標形状成形用ダイ13と、目標形状成形用パンチ15と、パッド17と、を備えた目標形状成形用金型11を用いてプレス成形することができる。
【0048】
目標形状成形用ダイ13は、目標形状の凹状湾曲部位221を成形するダイ側目標形状凹状湾曲部位成形部13aと、目標形状の直線部位223を成形するダイ側目標形状直線部位成形部13bと、を有する。
【0049】
目標形状成形用パンチ15は、パンチ側目標形状凹状湾曲部位成形部15aと、パンチ側目標形状直線部位成形部15bと、を有する。パンチ側目標形状凹状湾曲部位成形部15aは、ダイ側目標形状凹状湾曲部位成形部13aと協働して目標形状の凹状湾曲部位221を成形する。パンチ側目標形状直線部位成形部15bは、ダイ側目標形状直線部位成形部13bと協働して目標形状の直線部位223を成形する。
【0050】
パッド17は、中間形状のプレス成形品110の天板部111を目標形状成形用パンチ15側に押圧してプレス成形品110を押さえるものである。なお、目標形状成形工程S5において、目標形状成形用金型は、パッド17を必ずしも要するものではなく、目標形状成形用ダイ13に天板成形部を有してもよい。
【0051】
<作用効果>
実施形態に係るプレス成形方法は、まず、ブランク作成工程S1において、目標形状のプレス成形品210の凹状湾曲部位221の湾曲に対応した凹形状101を設けたブランク100を作成する。次に、実施形態に係るプレス成形方法は、中間形状成形工程S3において、作成したブランク100を、凹状湾曲部位121の湾曲中央部121aに欠け部125が設けられた中間形状のプレス成形品110にプレス成形する。
【0052】
このようにプレス成形した中間形状のプレス成形品110においては、欠け部125の近傍に作用する引張応力が小さくなる。さらに、凹状湾曲部位121における湾曲の両端側に引張応力が分散する。その結果、中間形状のプレス成形品110を目標形状のプレス成形品210にプレス成形する過程において、伸びフランジ割れを抑制して、目標形状のプレス成形品をプレス成形することができるわけである。
【0053】
このことは、
図8に一例として示した実施形態に係るプレス成形方法におけるプレス成形過程の有限要素法解析(FEM解析)により検証される。当該検証では、凹形状101を設けたブランク100を中間形状のプレス成形品110にプレス成形する過程と、中間形状のプレス成形品110を目標形状のプレス成形品210にプレス成形する過程のそれぞれについて有限要素法解析を行った。そして、中間形状のプレス成形品110と目標形状のプレス成形品210とのそれぞれについて板厚減少率を算出した。
【0054】
図9は、中間形状のプレス成形品110と目標形状のプレス成形品210とにおける板厚減少率のコンター図である。ここで、中間形状のプレス成形品110は、
図10に示すように、中間形状の凹状湾曲部位121の稜線部113を、目標形状の凹状湾曲部位221の稜線部213よりも外側となるようにした。なお、目標形状の稜線部213より外側とは、目標形状の凹状湾曲部位221における湾曲pqよりも湾曲の中心側のことをいう。さらに、凹状湾曲部位121における稜線部113の稜線長さ(例えば300mm)は、目標形状の凹状湾曲部位221における稜線部213の稜線長さ(例えば250mm)よりも長くした。
【0055】
図9に示すように、中間形状のプレス成形品110の板厚減少率の最大値は14.8%であり、目標形状のプレス成形品210の板厚減少率の最大値は18.5%であった。これは、
図4に示した従来の1工程でプレス成形する方法によるプレス成形品210の板厚減少率の最大値(=21.5%)よりも小さい結果となった。同様に、
図6に示した、特許文献1の方法によるプレス成形品210の板厚減少率の最大値(=25.4%)よりも小さい結果となった。
【0056】
これらの結果から、実施形態に係るプレス成形方法によれば、プレス成形過程において凹状湾曲部位221に伸びフランジ割れの発生を抑制して、目標形状のプレス成形品210をプレス成形できることが示唆される。
【0057】
このように、実施形態に係るプレス成形方法においては、まず、目標形状のプレス成形品210の凹状湾曲部位221の湾曲に対応した凹形状101を設けたブランク100(
図8(a))を作成する。次に、実施形態に係るプレス成形方法においては、作成したブランク100を、凹状湾曲部位121の湾曲中央部121aに欠け部125が設けられた中間形状のプレス成形品110にプレス成形する(
図9(a))。さらに、実施形態に係るプレス成形方法においては、中間形状のプレス成形品110を目標形状のプレス成形品210にプレス成形する(
図9(b))。
【0058】
これにより、中間形状のプレス成形品110をプレス成形する過程において、凹状湾曲部位121における欠け部125の近傍に作用する引張応力を小さくし、且つ、凹状湾曲部位121における湾曲の両端側に引張応力を分散させることができる。
【0059】
その結果、中間形状のプレス成形品110を目標形状のプレス成形品210にプレス成形した際に、伸びフランジ割れを十分に抑制することができ、割れのない安定したプレス成形を可能とし、生産性の向上や歩留まり向上を図ることができる。
【0060】
さらに、実施形態に係るプレス成形方法は、特許文献2に記載の方法のようにプレス成形中にブランク100を移動させることを要するものではない。そのため、実施形態に係るプレス成形方法によれば、寸法精度の変動を抑えて良好な目標形状のプレス成形品210を得ることができ、生産性の向上や歩留まり向上を図ることが可能である。
【0061】
なお、上記の説明は、中間形状の凹状湾曲部位121の稜線部113を、前掲した
図10に示すように、目標形状の凹状湾曲部位221の稜線部213よりも外側に位置させるものであったが、本発明はこれに限るものではない。
【0062】
もっとも、本発明は、
図10に示すように、中間形状の凹状湾曲部位121の稜線部113を、目標形状の凹状湾曲部位221の稜線部213よりも外側に位置させることが好ましい。この場合には、目標形状の凹状湾曲部位221と比較すると、凹状湾曲部位121における天板部111と稜線部113と縦壁部115とに材料が余ることになる。これにより、中間形状の縦壁部115とフランジ部119の一部が欠けていても、天板部211と縦壁部215とフランジ部219とを備えた目標形状のプレス成形品210に確実にプレス成形することができる。
【0063】
さらに、中間形状の凹状湾曲部位121における稜線部113を目標形状の稜線部213より外側に位置するようにすると、中間形状成形工程S3において、凹状湾曲部位121の成形により局所的な伸びフランジ変形で生じる材料流れに追随する材料が確保できる。そして、続く目標形状成形工程S5において、プレス成形される目標形状の凹状湾曲部位221のフランジ部219の端部に生じるひずみも広範囲に分散できて小さくすることができ、伸びフランジ割れをさらに抑制することが可能となる。
【0064】
また、中間形状の凹状湾曲部位121における稜線部113を目標形状の稜線部213より外側に位置するようにする場合、凹状湾曲部位121は、湾曲の曲率半径を一定としたものであってもよい。あるいは、
図10に示すように、中間形状の凹状湾曲部位121は、曲率半径の異なる湾曲中央部121a(曲率半径R
C)と湾曲端部121b(曲率半径R
E)とを備えたものとしてもよい。また、中間形状の凹状湾曲部位121の湾曲端部121bにおける曲率半径R
Eは、目標形状の凹状湾曲部位221における曲率半径R
0に対する制約はなく、R
0<R
EとR
0>R
Eとのいずれも可である。R
0=R
Eとしてもよい。
【0065】
さらに、上記の場合では、中間形状の凹状湾曲部位221における稜線部113の長さ(稜線長さ)を、目標形状の凹状湾曲部位221における稜線部213の長さ(稜線長さ)に比べて長くするとよい。これにより、中間形状成形工程での凹状湾曲部位121の成形により、局所的な伸びフランジ変形で生じる材料流れに追随する材料を、より多く確保することができて好ましい。
【0066】
上記の実施形態は、Z字断面形状のプレス成形品210を成形対象とし、
図11(a)の(i)に示すように、中間形状のプレス成形品110のフランジ部119と縦壁部115の一部が欠けた形状とした。もっとも、本発明において、中間形状のプレス成形品110は、
図11(a)の(ii)に示すように、凹状湾曲部位121におけるフランジ部119、縦壁部115及び天板部111の一部が欠けた形状の欠け部127が設けられたものであってもよい。このように、フランジ部119を有する中間形状のプレス成形品110の「欠け部」とは、本来、縦壁部115もしくは天板部111となるべき部分で、材料がない状態となっている部分のことをいう。
【0067】
また、本発明は、前述したように、コ字断面形状のプレス成形品230(
図2(b))や、L字断面形状のプレス成形品や、ハット断面形状のプレス成形品250(
図2(c))を成形対象とするものであってもよい。
【0068】
L字断面形状のプレス成形品を成形対象とする場合には、まず、
図11(b)に例示するようなプレス成形品130を中間形状としてプレス成形し、これを目標形状のプレス成形品にプレス成形する。この場合、中間形状のプレス成形品130は、
図11(b)に示すように、天板部131と、天板部131から稜線部133を介して連続する縦壁部135と、を有する。また、中間形状のプレス成形品130は、上面視で凹状に湾曲する凹状湾曲部位141を備えたものである。
【0069】
そして、ブランク100に設けられた凹形状101(
図8(a))の一部が、
図11(b)に示すように、凹状湾曲部位141の湾曲中央部141aにおける欠け部147となるようにプレス成形すればよい。ここで、
図11(b)に示す欠け部147は、凹状湾曲部位141の湾曲中央部141aにおける縦壁部135と天板部131の一部が欠けた形状のものである。このように、L字断面形状のプレス成形品の成形における、中間形状のプレス成形品130における「欠け部」とは、本来、天板部131となるべき部分で、材料がない状態となっている部分のことをいう。
【0070】
また、ハット断面形状のプレス成形品250を成形対象とする場合、中間形状のプレス成形品は、ブランクに設けられた凹形状の一部が、凹状湾曲部位の湾曲中央部における欠け部となるようにプレス成形したものであればよい。この場合、中間形状のプレス成形品における欠け部は、凹状湾曲部位の湾曲中央部におけるフランジ部と縦壁部の一部、または、フランジ部と縦壁部と天板部の一部が欠けた形状のものいずれであってもよい。
【0071】
このような欠け部を有する中間形状のプレス成形品を得るためには、ブランク作成工程において、ブランク100に設ける凹形状101の曲率半径を適切に調整するとよい(
図8(a)参照)。具体的には、例えば、ブランクの凹形状の曲率半径を、目標形状のプレス成形品の上面視における凹状湾曲部位の稜線部の曲率半径(
図10中の曲率半径R
0参照)よりも小さくするとよい。
【0072】
あるいは、中間形状のプレス成形品が欠け部を有するように、中間形状成形工程において、ブランク100を中間形状成形用金型に設置する位置を調整してもよい。なお、上述のプレス成形方法の各工程を実行することで、目標とするプレス成形品が製造でき、製造されたプレス成形品は伸びフランジ割れを十分に抑制されたものとなる。
【実施例】
【0073】
本発明に係るプレス成形方法及びプレス成形品の製造方法の作用効果を実証するための解析を行ったので、以下、これについて説明する。
【0074】
本実施例では、
図12に示すハット断面形状のプレス成形品250を成形対象とした。ここで、プレス成形品250においては、
図12に示すように、成形高さを50mm、凹状湾曲部位261の湾曲の曲率半径を150mm、稜線部253及びダイ肩部257の曲げRをいずれも10mmとした。さらに、プレス成形品250においては、凹状湾曲部位261における稜線部253の湾曲部の長さを236mmとした。
【0075】
まず、凹状湾曲部位261の湾曲に対応する凹形状101が設けられたブランク100を作成した(
図13(a)参照)。ここで、凹形状101の湾曲半径は80mmとした。
【0076】
次に、
図13(a)に示すように、中間形状成形用ダイ33と中間形状成形用パンチ35とパッド37とを備えた中間形状成形用金型31を用いて、ブランク100を、中間形状のプレス成形品150(
図13(b)参照)にプレス成形した。ここで、中間形状の凹状湾曲部位161について、湾曲中央部161aを直線状として、湾曲端部161bの曲率半径R
Eを80mmとした場合を発明例1とした。発明例1では、中間形状の凹状湾曲部位161の稜線部長さを273mmとした。また、中間形状の凹状湾曲部位161について、湾曲中央部161aを直線状として、湾曲端部161bの曲率半径R
Eを160mmとした場合を発明例2とした。発明例2は、中間形状の凹状湾曲部位161の湾曲端部161bの曲率半径R
Eが、目標形状の凹状湾曲部位261における曲率半径R
0よりも大きい条件である。発明例2では、中間形状の凹状湾曲部位161の稜線部長さを322mmとした。中間形状のプレス成形品150は、
図13(b)に示すように、上面視で凹状に湾曲する凹状湾曲部位161とその両端から延出する直線部位163とを有するものである。さらに、中間形状のプレス成形品150は、凹状湾曲部位161の湾曲中央部161aにおけるフランジ部159と縦壁部155の一部に欠け部165が設けられたものとした。
【0077】
続いて、
図13(b)に示すように、目標形状成形用ダイ43と目標形状成形用パンチ45とパッド47とを備えた目標形状成形用金型41を用いて、中間形状のプレス成形品150を目標形状のプレス成形品250にプレス成形した。
【0078】
また、本実施例では、比較対象として、
図14に示すように、ダイ53とパンチ55とパッド57とを備えた金型51を用いて、ブランク100を、
図12に示す目標形状のプレス成形品250に1工程でプレス成形する場合を従来例とした。さらに、前述した
図5に示した形状の金型を用いた条件により、目標形状のプレス成形品250を2工程でプレス成形する場合を比較例とした。比較例では、中間形状の凹状湾曲部位181について、湾曲中央部181aを直線状として、湾曲端部181bの曲率半径R
Eを80mmとした。比較例では、中間形状の凹状湾曲部位181の稜線部長さを211mmとした。そして、従来例と比較例とのそれぞれについてプレス成形する過程の有限要素法解析を行い、板厚減少率を求めた。
【0079】
図15は、従来例における目標形状のプレス成形品250の板厚減少率のコンター図である。
図16は、比較例における中間形状のプレス成形品150と目標形状のプレス成形品250との板厚減少率のコンター図である。
図17は、発明例1における中間形状のプレス成形品150と目標形状のプレス成形品250との板厚減少率のコンター図である。
図18は、発明例2における中間形状のプレス成形品150と目標形状のプレス成形品250との板厚減少率のコンター図である。なお、従来例については、1工程でプレス成形しているため、目標形状のプレス成形品250の結果のみを示す。
【0080】
従来例においては、
図15に示すように、最も板厚が減少した部位は凹状湾曲部位261におけるフランジ部259の端部であり、板厚減少率の最大値は20.5%であった。
【0081】
比較例においては、
図16に示すように、中間形状のプレス成形品190の稜線部193の湾曲の線長が短いため、凹状湾曲部位201の湾曲中央部201aの板厚減少率は比較的小さい。しかしながら、凹状湾曲部位201の両端側の湾曲端部201bの板厚減少率の最大値は24.4%であり、従来例に係る目標形状のプレス成形品250における板厚減少率の最大値(=20.5%)に比べて著しく増加した。さらに、中間形状のプレス成形品190を目標形状にプレス成形したプレス成形品250は、凹状湾曲部位261における湾曲の端部の板厚減少率の最大値は25.4%であり、当該部位に引張ひずみが集中して伸びフランジ割れが発生しやすい結果となった。
【0082】
これらに対して、発明例1においては、
図17に示すように、中間形状のプレス成形品150における板厚減少率の最大値が14.8%であり、従来例及び比較例と比べて、欠け部165を設けることにより板厚減少率を低くすることができた。さらに、発明例1において、目標形状のプレス成形品250における板厚減少率の最大値は18.3%であった。この板厚減少率は、従来例に係る目標形状のプレス成形品250及び比較例に係る目標形状のプレス成形品250における板厚減少率の最大値に比べて低い値となった。
【0083】
また、発明例2においては、
図18に示すように、中間形状のプレス成形品150における板厚減少率の最大値が13.9%であり、従来例及び比較例と比べて、欠け部165を設けることにより板厚減少率を低くすることができた。さらに、発明例2において、目標形状のプレス成形品250における板厚減少率の最大値は18.8%であった。この板厚減少率は、従来例に係る目標形状のプレス成形品250及び比較例に係る目標形状のプレス成形品250における板厚減少率の最大値に比べて低い値となった。また、発明例2における凹状湾曲部位261の両端部における板厚減少率は最大で14.2%となっており、発明例1における凹状湾曲部位261の両端部における板厚減少率の最大値16.2%よりも、さらに板厚減少率を低減することができた。
【0084】
このように、本発明に係るプレス成形方法によれば、中間形状の凹状湾曲部位161の湾曲端部161bの曲率半径REについて、目標形状の凹状湾曲部位261における曲率半径R0よりも大きい条件とすることが可能となる。さらに、この湾曲端部161bの曲率半径REを適宜設定することによって、目標形状の凹状湾曲部位261の両端部における板厚減少を抑制することが可能となる。
【0085】
以上、本発明に係るプレス成形方法によれば、凹状湾曲部位を有する目標形状のプレス成形品をプレス成形する過程での凹状湾曲部位における伸びフランジ割れを低減できることが示唆された。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明は、天板部と縦壁部とを有し、上面視で凹状に湾曲した凹状湾曲部位を備えたプレス成形品の伸びフランジ割れを十分に抑制することができるプレス成形方法及びプレス成形品の製造方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0087】
1 中間形状成形用金型
3 中間形状成形用ダイ
3a ダイ側中間形状凹状湾曲部位成形部
3b ダイ側中間形状直線部位成形部
5 中間形状成形用パンチ
5a パンチ側中間形状凹状湾曲部位成形部
5b パンチ側中間形状直線部位成形部
7 パッド
11 目標形状成形用金型
13 目標形状成形用ダイ
13a ダイ側目標形状凹状湾曲部位成形部
13b ダイ側目標形状直線部位成形部
15 目標形状成形用パンチ
15a パンチ側目標形状凹状湾曲部位成形部
15b パンチ側目標形状直線部位成形部
17 パッド
21 金型
23 ダイ
23a ダイ側凹状湾曲部位成形部
25 パンチ
25a パンチ側凹状湾曲部位成形部
27 パッド
31 中間形状成形用金型
33 中間形状成形用ダイ
35 中間形状成形用パンチ
37 パッド
41 目標形状成形用金型
43 目標形状成形用ダイ
45 目標形状成形用パンチ
47 パッド
51 金型
53 ダイ
55 パンチ
57 パッド
100 ブランク
101 凹形状
110 プレス成形品
111 天板部
113 稜線部
115 縦壁部
117 ダイ肩部
119 フランジ部
121 凹状湾曲部位
121a 湾曲中央部
121b 湾曲端部
123 直線部位
125 欠け部
127 欠け部
130 プレス成形品
131 天板部
133 稜線部
135 縦壁部
141 凹状湾曲部位
141a 湾曲中央部
147 欠け部
150 プレス成形品
153 稜線部
155 縦壁部
157 ダイ肩部
159 フランジ部
161 凹状湾曲部位
161a 湾曲中央部
161b 湾曲端部
163 直線部位
165 欠け部
170 プレス成形品
173 稜線部
181 凹状湾曲部位
181a 湾曲中央部
181b 湾曲端部
190 プレス成形品
193 稜線部
201 凹状湾曲部位
201a 湾曲中央部
201b 湾曲端部
210 プレス成形品
211 天板部
213 稜線部
215 縦壁部
217 ダイ肩部
219 フランジ部
221 凹状湾曲部位
221a 湾曲中央部
223 直線部位
230 プレス成形品
231 天板部
233 稜線部
233a 稜線部
235 縦壁部
235a 縦壁部
241 凹状湾曲部位
243 直線部位
250 プレス成形品
251 天板部
253 稜線部
253a 稜線部
255 縦壁部
255a 縦壁部
257 ダイ肩部
257a ダイ肩部
259 フランジ部
259a フランジ部
261 凹状湾曲部位
263 直線部位
【要約】
本発明に係るプレス成形方法及びプレス成形品の製造方法は、天板部211と縦壁部215とフランジ部219を有し、上面視で凹状に湾曲する凹状湾曲部位221を備えたプレス成形品210を目標形状としてプレス成形するものであって、凹状湾曲部位221の湾曲に対応する凹形状101が設けられたブランク100を作成する工程(S1)と、作成したブランク100を、天板部111と縦壁部115とフランジ部119を有し、上面視で凹状に湾曲する凹状湾曲部位121を備え、凹状湾曲部位121の湾曲中央部121aにおけるフランジ部119と縦壁部115の一部に欠け部125が設けられた中間形状のプレス成形品110にプレス成形する工程(S3)と、中間形状のプレス成形品110を目標形状にプレス成形する工程(S5)と、を含む。