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特許7396577ARL4Cを標的分子とするアンチセンスオリゴヌクレオチド、及び当該アンチセンスオリゴヌクレオチドを使用した核酸医薬
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-04
(45)【発行日】2023-12-12
(54)【発明の名称】ARL4Cを標的分子とするアンチセンスオリゴヌクレオチド、及び当該アンチセンスオリゴヌクレオチドを使用した核酸医薬
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/113 20100101AFI20231205BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20231205BHJP
   A61P 35/04 20060101ALI20231205BHJP
   A61K 31/7115 20060101ALI20231205BHJP
   A61K 31/712 20060101ALI20231205BHJP
   A61K 31/7125 20060101ALI20231205BHJP
   A61K 31/711 20060101ALI20231205BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20231205BHJP
【FI】
C12N15/113 110Z
C12N15/113 ZNA
A61P35/00
A61P35/04
A61K31/7115
A61K31/712
A61K31/7125
A61K31/711
A61K48/00
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020541264
(86)(22)【出願日】2019-09-04
(86)【国際出願番号】 JP2019034746
(87)【国際公開番号】W WO2020050307
(87)【国際公開日】2020-03-12
【審査請求日】2022-08-25
(31)【優先権主張番号】P 2018165544
(32)【優先日】2018-09-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構 創薬支援推進事業・創薬総合支援事業 低分子量Gタンパク質を標的とする核酸医薬による新規がん治療‐スクリーニング(S1)」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(73)【特許権者】
【識別番号】505314022
【氏名又は名称】国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】504150450
【氏名又は名称】国立大学法人神戸大学
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【弁理士】
【氏名又は名称】水谷 馨也
(74)【代理人】
【識別番号】100175651
【弁理士】
【氏名又は名称】迫田 恭子
(72)【発明者】
【氏名】菊池 章
(72)【発明者】
【氏名】松本 真司
(72)【発明者】
【氏名】小比賀 聡
(72)【発明者】
【氏名】笠原 勇矢
(72)【発明者】
【氏名】福本 巧
【審査官】田ノ上 拓自
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-231978(JP,A)
【文献】BO, Xiaochen et al.,Selection of antisense oligonucleotides based on multiple predicted target mRNA structures,BMC Bioinformatics,2006年03月09日,Vol.7,122 (p.1-12)
【文献】YAHARA, Aiko et al.,Amido-Bridged Nucleic Acids (AmNAs): Synthesis, Duplex Stability, Nuclease Resistance, and in Vitro,ChemBioChem,2012年10月18日,Vol.13,p.2513-2516
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
A61P 35/00
A61P 35/04
A61K 31/7115
A61K 31/712
A61K 31/7125
A61K 31/711
A61K 48/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1に示す塩基配列を含み、且つ塩基数が15~20個である、ARL4Cを標的分子とするアンチセンスオリゴヌクレオチド。
【請求項2】
配列番号1又は2に示す塩基配列からなる、請求項に記載のアンチセンスオリゴヌクレオチド。
【請求項3】
少なくとも1個のヌクレオチドが2',4'-架橋型ヌクレオチドである、請求項1又は2に記載のアンチセンスオリゴヌクレオチド。
【請求項4】
前記2',4'-架橋型ヌクレオチドが以下の一般式(1)に示す構造を有する、請求項に記載のアンチセンスオリゴヌクレオチド。
【化1】
[ 一般式(1)において、Baseは置換基で置換されていてもよいプリン-9-イル基又は2-オキソ-1,2-ジヒドロピリミジン-1-イル基を示し、
Rは、水素原子、分岐又は環を形成していてもよい炭素数1~7のアルキル基、分岐又は環を形成していてもよい炭素数2~7のアルケニル基、置換基を有していてもよく、且つヘテロ原子を含んでいてもよい炭素数3~12のアリール基、置換基を有していてもよく、且つヘテロ原子を含んでいてもよい炭素数3~12のアリール部分を有するアラルキル基を示す。]
【請求項5】
ヌクレオシド間の結合部分の少なくとも1個がホスホロチオエート結合である、請求項1~のいずれかに記載のアンチセンスオリゴヌクレオチド。
【請求項6】
全てのヌクレオシド間の結合部分がホスホロチオエート結合であり、且つ5'末端側から1~3番目及び3'末端側から2及び3番目のヌクレオチドが2',4'-架橋型ヌクレオチドである、請求項1~のいずれかに記載のアンチセンスオリゴヌクレオチド。
【請求項7】
下記配列A又はBからなる化学修飾アンチセンスオリゴヌクレオチドである、請求項1~のいずれかに記載のアンチセンスオリゴヌクレオチド。
配列A:G(Y)^5(Y)^A(Y)^t^a^c^c^t^c^a^g^g^T(Y)^A(Y)^a
配列B:G(Y)^5(Y)^A(Y)^t^a^c^c^t^c^a^g^g^t^a^a^t^T(Y)^5(Y)^a
[前記配列A及びBにおいて、「G(Y)」はAmNA(前記一般式(1)においてRがメチル基である2',4'-架橋型ヌクレオチド)の構造のグアニン、「A(Y)」はAmNAの構造のアデニン、「T(Y)」はAmNAの構造のチミン、「5(Y)」はAmNAの構造の5-メチルシトシン、及び「^」はホスホロチオエート結合を示す。]
【請求項8】
請求項1~のいずれかに記載のアンチセンスオリゴヌクレオチドを含む核酸医薬。
【請求項9】
抗腫瘍剤として使用される、請求項に記載の核酸医薬。
【請求項10】
肝癌、大腸癌、肺癌、又は舌癌の治療に使用される、請求項又はに記載の核酸医薬。
【請求項11】
転移性肝癌の治療、又は膵癌からの転移性癌の治療に使用される、請求項7又は8に記載の核酸医薬。
【請求項12】
請求項1~のいずれかに記載のアンチセンスオリゴヌクレオチドの、抗腫瘍剤の製造のための使用。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ARL4Cを標的分子とするアンチセンスオリゴヌクレオチドに関する。また、本発明は、当該アンチセンスオリゴヌクレオチドを利用した、抗腫瘍効果を有する核酸医薬に関する。
【背景技術】
【0002】
ADPリボシル化因子様タンパク質(ADP-ribosylation factor-like proteins; Arls)は、低分子GTP結合タンパク質スーパーファミリーのサブグループの1つである(非特許文献1)。Arfサブファミリータンパク質は、アクチンリモデリングと膜輸送経路の調節に重要な役割を果たしていることが解明されている(非特許文献2)。しかしながら、殆どのArlsの機能については、依然として解明されていない(非特許文献3)。Arlsの1つであるARL4Cは、Wnt/β-カテニンシグナル伝達、及びEGF/Ras/分裂促進因子活性化タンパク質キナーゼ(mitogen-activated protein kinase;MAPK)シグナル伝達によって発現し、上皮形成及び腫瘍形成の両方において重要な役割を果たしている(非特許文献4及び5)。
【0003】
ARL4Cは、大腸癌、肺癌、及び舌癌において高頻度に過剰発現するが、これらの組織の非腫瘍領域ではほとんど発現していないことが明らかにされている(非特許文献5及び6)。また、大腸癌細胞HCT116及び肺腺癌細胞A549では、ARL4Cの発現が、Wnt/β-カテニンシグナル伝達、又はRas/MAPKシグナル伝達によって増加し、ARL4C遺伝子の低メチル化によって肺扁平上皮細胞癌細胞NCI-H520におけるARL4C発現量が増加することが分かっている(非特許文献5及び6)。前記癌細胞において、ARL4Cは、Racの活性化、Rhoの阻害、並びにYAP及びTAZの核局在化に関与し、癌細胞においてARL4Cの発現を抑制すると、in vitro及びin vivoの双方において、細胞遊走、細胞浸潤、及び細胞増殖を低減させることが知られている。更に、免疫不全マウスに移植したHCT116細胞の異種移植腫瘍に対してARL4Cに対するsiRNAを直接注入すると、腫瘍増殖が阻害されることも報告されている(非特許文献5)。そのため、ARL4Cは、癌治療における新規な標的分子になり得ることが示唆されている。
【0004】
一方、従来、難治性疾患の治療に、アンチセンスオリゴヌクレオチド、siRNA、アプタマー、miRNA等のオリゴヌクレオチドを使用することが試みられている。現在、サイトメガロウイルス網膜炎、加齢性黄斑変性症、家族性高コレステロール血症ホモ接合体、デュシェンヌ型筋ジストロフィー、及び脊髄性筋萎縮症について、アンチセンスオリゴヌクレオチドを使用した治療剤が米国では承認を受けている(非特許文献7)。
【0005】
また、オリゴヌクレオチドを使用した治療剤は、ヌクレアーゼ分解に対する感受性があり、全身投与後の標的細胞への非効率的な送達を伴うことがあり、実用化の上で障壁になっている。そこで、従来、オリゴヌクレオチドを化学修飾することにより、このような障壁を克服することが精力的に検討されている。例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチドに対して、2',4'-架橋核酸(LNA)とホスホロチオエート結合を導入すると、標的RNAに対する結合能が高く、優れたヌクレアーゼに対する耐性や薬物動態を具備できることが知られている。また、2',4'-架橋核酸の中でも、環状アミド構造が挿入されている架橋型核酸(AmNA)は、標的RNAに対する結合能、ヌクレアーゼ耐性、及び薬物動態を更に向上させ得ることが報告されている(非特許文献8)
【0006】
しかしながら、従来技術では、標的遺伝子の塩基配列を元にアンチセンスオリゴヌクレオチドの分子設計をして化学修飾を施すと、in vitroでも十分な効果を奏さないことが多く、更に、in vitroで十分な効果を奏するものが得られてもin vivoで十分な効果を奏することができないことが多いのが現状である。そのため、前述の通り、ARL4Cは癌治療における新規な標的分子になり得ることが示唆されており、オリゴヌクレオチドの化学修飾手法も開発されているが、ARL4Cに対するアンチセンスオリゴヌクレオチドについては、癌治療において臨床的に実用可能なものが開発できていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【文献】Matsumoto S. et al., Arl4c is a key regulator of tubulogenesis and tumourigenesis as a target gene of Wnt-β-catenin and growth factor-Ras signalling. J Biochem 2017;161:27-35.
【文献】D'Souza-Schorey C et al., ARF proteins: roles in membrane traffic and beyond. Nat Rev Mol Cell Biol 2006;7:347-58.
【文献】Burd CG. et al., Arf-like GTPases: not so Arf-like after all. Trends Cell Biol 2004;14:687-94.
【文献】Matsumoto S. et al., A combination of Wnt and growth factor signaling induces Arl4c expression to form epithelial tubular structures. EMBO J 2014;33:702-18.
【文献】Fujii S. et al., Arl4c expression in colorectal and lung cancers promotes tumorigenesis and may represent a novel therapeutic target. Oncogene 2015;34:4834-44.
【文献】Fujii S. et al., Epigenetic upregulation of ARL4C, due to DNA hypomethylation in the 3'-untranslated region, promotes tumorigenesis of lung squamous cell carcinoma. Oncotarget 2016;7:81571-87.
【文献】Stein CA. et al., FDA-Approved Oligonucleotide Therapies in 2017. Mol Ther 2017;25:1069-75.
【文献】Yahara A. et al., Amido-bridged nucleic acids (AmNAs): synthesis, duplex stability, nuclease resistance, and in vitro antisense potency. Chembiochem 2012;13:2513-6.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、ARL4Cを標的分子として生体内で抗腫瘍効果を奏するアンチセンスオリゴヌクレオチド、及び当該アンチセンスオリゴヌクレオチドを使用した核酸医薬を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、前記課題を解決すべく鋭意検討を行ったところ、配列番号1に示す塩基配列に含まれる10塩基以上の連続した塩基配列を含むアンチセンスオリゴヌクレオチドは、in vitroにおいて腫瘍細胞におけるARL4Cの発現を抑制し、その遊走及び増殖を抑制でき、更に全身投与するとin vivoでも優れた抗腫瘍効果を奏することを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて、更に検討を重ねることにより完成したものである。
【0010】
即ち、本発明は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1. 配列番号1に示す塩基配列に含まれる10塩基以上の連続した塩基配列を有する、ARL4Cを標的分子とするアンチセンスオリゴヌクレオチド。
項2. 塩基数が10~50個である、項1に記載のアンチセンスオリゴヌクレオチド。
項3. 配列番号1に示す塩基配列を有する、項1又は2に記載のアンチセンスオリゴヌクレオチド。
項4. 配列番号1又は2に示す塩基配列からなる、項1~3のいずれかに記載のアンチセンスオリゴヌクレオチド。
項5. 少なくとも1個のヌクレオチドが2',4'-架橋型ヌクレオチドである、項1~4のいずれかに記載のアンチセンスオリゴヌクレオチド。
項6. 前記2',4'-架橋型ヌクレオチドが以下の一般式(1)に示す構造を有する、項1~5のいずれかに記載のアンチセンスオリゴヌクレオチド。
【化1】
[ 一般式(1)において、Baseは置換基で置換されていてもよいプリン-9-イル基又は2-オキソ-1,2-ジヒドロピリミジン-1-イル基を示し、
Rは、水素原子、分岐又は環を形成していてもよい炭素数1~7のアルキル基、分岐又は環を形成していてもよい炭素数2~7のアルケニル基、置換基を有していてもよく、且つヘテロ原子を含んでいてもよい炭素数3~12のアリール基、置換基を有していてもよく、且つヘテロ原子を含んでいてもよい炭素数3~12のアリール部分を有するアラルキル基を示す。]
項7. ヌクレオシド間の結合部分の少なくとも1個がホスホロチオエート結合である、項1~6のいずれかに記載のアンチセンスオリゴヌクレオチド。
項8. 全てのヌクレオシド間の結合部分がホスホロチオエート結合であり、且つ5'末端側から1~3番目及び3'末端側から2及び3番目のヌクレオチドが2',4'-架橋型ヌクレオチドである、項1~7のいずれかに記載のアンチセンスオリゴヌクレオチド。
項9. 下記配列A又はBからなる化学修飾アンチセンスオリゴヌクレオチドである、項1~8のいずれかに記載のアンチセンスオリゴヌクレオチド。
配列A:G(Y)^5(Y)^A(Y)^t^a^c^c^t^c^a^g^g^T(Y)^A(Y)^a
配列B:G(Y)^5(Y)^A(Y)^t^a^c^c^t^c^a^g^g^t^a^a^t^T(Y)^5(Y)^a
[前記配列A及びBにおいて、「G(Y)」はAmNA(前記一般式(1)においてRがメチル基である2',4'-架橋型ヌクレオチド)の構造のグアニン、「A(Y)」はAmNAの構造のアデニン、「T(Y)」はAmNAの構造のチミン、「5(Y)」はAmNAの構造の5-メチルシトシン、及び「^」はホスホロチオエート結合を示す。]
項10. 項1~9のいずれかに記載のアンチセンスオリゴヌクレオチドを含む核酸医薬。
項11. 抗腫瘍剤として使用される、項10に記載の核酸医薬。
項12. 肝癌、大腸癌、肺癌、又は舌癌の治療に使用される、項10又は11に記載の核酸医薬。
項13. 転移性肝癌の治療、又は膵癌からの転移性癌の治療に使用される、項10に記載の核酸医薬。
項14. 項1~9のいずれかに記載のアンチセンスオリゴヌクレオチドの、抗腫瘍剤の製造のための使用。
項15. 項1~9のいずれかに記載のアンチセンスオリゴヌクレオチドの治療有効量を、腫瘍患者に投与する、腫瘍の治療方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドは、ARL4Cを標的分子として、その発現又は機能を抑制することによって、効果的に腫瘍細胞の増殖を抑制することができる。本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドは、原発性の腫瘍に対する治療効果だけでなく、転移性腫瘍を予防又は治療することもできる。
【0012】
また、本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドは、ARL4Cが高発現している腫瘍に対して、特に優れた抗腫瘍効果を示し、更に核酸医薬であるが故に全身投与によって肝臓に蓄積し易い性質がある。一方、肝癌及び肺癌ではARL4Cが高発現している頻度が高いため、本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドは、特に肝癌又は肺癌の治療、転移性肝癌の予防又は治療に有効である。更に、本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドは、膵癌からの転移性癌の予防又は治療にも有効である。
【0013】
また、ARL4Cは腫瘍細胞特異的に高発現しているため、本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドは、腫瘍特異性が高く、安全性の点でも優れている。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】(a)は、ARL4C陽性の原発肝癌について、抗ARL4C抗体で免疫染色した像を示す図である。(b)は、肝癌患者において、無再発生存率とARL4C発現の関係を分析した結果を示す図である。(c)は、大腸癌患者において、無再発生存率とARL4C発現の関係を分析した結果を示す図である。(d)は、TCGAデータセットを用いて、ARL4C発現と全生存率の関係を解析した結果を示す図である。(e)は、大腸癌肝転移腫瘍について、免疫組織学的にARL4C発現を測定した結果を示す図である。
図2】TCGAデータセットを用いて、肝癌と正常な肝臓、及び直腸癌と正常な直腸において、ARL4C mRNAの量を解析した結果を示す図である。
図3】(a)は、38種のARL4C ASOで処理したA549細胞のARL4C mRNA量を測定した結果を示す図である。(b)は、5種の肝癌細胞(HepG2、HLE、HLF、HuH-7、及びPLC)において、ARL4C mRNA量を測定した結果を示す図である。(c)は、ARL4C ASOs(ASO-1316、ASO-1312、ASO-1454、ASO-1450、ASO-3225、及びASO-3223)をそれぞれ25 nMでHLE細胞にトランスフェクトし、ARL4C mRNA量をリアルタイムPCRで測定した結果を示す図である。(d)は、ASO-1316及びASO-3223をそれぞれ25 nMでHLE細胞にトランスフェクトし、NLN及びFBXL19のmRNA量をリアルタイムPCRで測定した結果を示す図である。(e)は、HCT116細胞に対して、ASO-1316及びASO-3223を25 nMでトランスフェクトし、細胞遊走アッセイを行った結果を示す図である。
図4】(a)は、HLE細胞とHCT116細胞に対して、ARL4C ASOs(ASO-650、ASO-793、ASO-986、ASO-1065、ASO-1316、ASO-1454、及びASO-3225)を25 nMでトランスフェクトし、ARL4C mRNA量をリアルタイムPCRで測定した結果を示す図である。(b)は、ARL4C ASOs(ASO-1316、ASO-1312、ASO-3225、及びASO-3223)をそれぞれ0.5~25 nMでHLE細胞にトランスフェクトし、ARL4C mRNA量をリアルタイムPCRで測定した結果を示す図である。(c)は、HLE/GFP細胞、又はHLE/ARL4C-GFP細胞に対して、ASO-1316及びASO-3223を25 nMでトランスフェクトし、細胞遊走アッセイを行った結果を示す図である。(d)は、ASO-1316又はASO-3223をトランスフェクトしたHLE/GFP細胞及びHLE/ARL4C-GFP細胞の細胞溶解液に、抗ARL4C抗体及び抗Hsp90抗体を作用させてプローブした結果を示す図である。(e)は、HLE細胞に対して、コントロールASO、ASO-1316及びASO-3223を25 nMでトランスフェクトし、細胞増殖アッセイを行った結果を示す図である。
図5】(a)は、10 μMのPD184161又は10 nMのCTNNB1 siRNAを用いてHLE細胞を処理し、ARL4CのmRNA量をリアルタイムPCRで測定した結果を示す図である。(b)は、R2: Genomics Analysis and Visualization Platformを用いたTCGAデータセットを用いて、肝癌において、ARL4C mRNA量(X-axis)とPIK3CD mRNA量(Y-axis)をプロットした結果を示す図である。(c)は、HLE細胞を25μMのSecinH3又は50μMのNSC23766で処理し、リアルタイムPCRによりPIK3CD mRNA量を測定した結果を示す図である。(d)は、ARL4Cを発現するHepG2細胞に、25μMのSecinH3又は50μMのNSC23766で処理し、リアルタイムPCRによりPIK3CD mRNA量を測定した結果を示す図である。(e)は、HLE細胞に対して、PIK3CD siRNAを20 nMでトランスフェクトし、細胞増殖アッセイを行った結果を示す図である。(f)は、PIK3CD siRNAをトランスフェクトしたHLE細胞の細胞溶解液に抗リン酸化AKT(pAKT S473)抗体及び抗AKT抗体を作用させてプローブした結果を示す図である。(g)は、HLE細胞に対して、ASO-1316、及びASO-3223を25 nMでトランスフェクトし、PIK3CDのmRNA量をリアルタイムPCRで測定した結果を示す図である。(h)は、ASO-1316、及びASO-3223をトランスフェクトしたHLE細胞の細胞溶解液に抗phosphorylated AKT(pAKT S473)抗体及び抗AKT抗体を作用させてプローブした結果を示す図である。
図6】(a)は、10 nMのCTNNB1 siRNAを用いてHLE細胞を処理し、ARL4CのmRNA量をリアルタイムPCRで測定した結果を示す図である。(b)は、R2: Genomics Analysis and Visualization Platformを用いたTCGAデータセットを用いて、肝癌において、ARL4C mRNA量(X-axis)と、EGR1 mRNA量、FOS mRNA量、AXIN2 mRNA量、及びLGR5 mRNA量(Y-axis)をプロットした結果を示す図である。(c)は、HLE細胞又はA549細胞に対して、ASO-1316及びASO-3223を25 nMでトランスフェクトして、抗YAP/TAZ抗体で染色した結果を示す図である。
図7】(a)は、R2: Genomics Analysis and Visualization Platformを用いたTCGAデータセットを用いて、ARL4C mRNA量(X-axis)とPIK3CA及びPIK3CB mRNA量(Y-axis)をプロットした結果を示す図である。(b)は、当該TCGAデータセットを用いて、ARL4C mRNA量(X-axis)と、RAC1 mRNA量、ARF6 mRNA量、及びARF1 mRNA量(Y-axis)をプロットした結果を示す図である。(c)は、HLE細胞に対して、PIK3CD siRNAを20 nMでトランスフェクトし、リアルタイムPCRによりPIK3CD mRNA量を測定した結果を示す図である。
図8】原発性肝腫瘍モデルによりARL4C ASOの抗腫瘍効果を検証した結果を示す図である。(a)は、HLE細胞の移植から29日後に肝臓に形成された腫瘍を観察した結果を示す図である。(b)は、移植から29日後に肝臓に形成された腫瘍を抗ARL4C抗体及び抗PIK3CD抗体で免疫染色した結果を示す図である。(c)は、移植29日後に肝臓に形成された腫瘍を抗Ki-67抗体で免疫染色した結果を示す図である。(d)は、HLE細胞を移植したマウス癌モデルに6-FAM標識ASO-1316を投与し、4時間後に各種臓器における蛍光強度を測定した結果を示す図である。(e)は、HLE細胞を移植したマウス癌モデルに6-FAM標識ASO-1316を投与し、4時間後に得られた肝臓標本をファロイジン(F-アクチン)及びHoechst 33342(核)で染色した結果を示す図である。
図9】(a)は、HCT116細胞を移植しなかった正常マウスに6-FAM標識ASO-1316を皮下投与し、4時間後に各種臓器における蛍光強度を測定した結果を示す図である。(b)は、HCT116細胞を移植しなかった正常マウスに6-FAM標識ASO-1316を皮下投与し、4時間後に得られた肝臓標本をファロイジン(F-アクチン)及びHoechst 33342(核)で染色した結果を示す図である。
図10】転移性腫瘍モデルによりARL4C ASOの抗腫瘍効果を検証した結果を示す図である。(a)は、day 19、35及び47に、肝臓の腫瘍から発せられるルシフェラーゼの蛍光を観察した結果、及びday 47に肝臓の腫瘍から発せられるルシフェラーゼの発光強度を定量した結果を示す図である。(b)は、脾臓への移植から47日後に肝臓に形成された腫瘍を観察した結果、及び移植から47日後に肝臓に形成された腫瘍を抗ARL4C抗体で免疫染色した結果を示す図である。(c)は、移植から47日後に肝臓に形成された腫瘍を抗Ki-67抗体で免疫染色した結果を示す図である。
図11】肺癌細胞を用いた異種同所性移植モデルでのARL4C ASOの抗腫瘍効果を検証した結果を示す図である。(a)の左には、移植7及び21日後に観察された左肺の生物発光イメージを示し、(a)の右には、左肺の腫瘍から発せられるルシフェラーゼの発光強度を測定した結果を示す。(b)の左上には、移植21日後にA549/Luc細胞を移植した左肺の代表的な画像を示し、(b)の左中には、左肺の腫瘍から切片を調製し、抗ARL4C抗体で免疫染色した結果を示し、(b)の左下の画像は、左肺の腫瘍から切片を調製し、抗Ki-67抗体で免疫染色した結果を示す。(b)の右には、左肺の腫瘍から切片を調製して抗Ki-67抗体で免疫染色し、Ki-67陽性細胞をカウントした結果を示す。
図12】膵癌細胞を用いた異種同所性移植モデルでのARL4C ASOの腫瘍転移抑制効果及び抗腫瘍効果を検証した結果を示す図である。(a)には、膵癌細胞を用いた異種同所性移植モデルにおける試験条件を示す。(b)の左には、膵癌細胞の移植7、14及び21日後に観察された腹腔内の腫瘍の生物発光イメージを示し、(b)の右には、移植7日後のマウスについて放射輝度によって腹腔内の腫瘍量を定量した結果を示す。(c)には、膵癌細胞の移植28日後に、摘出した膵臓と腸間膜リンパ節で認められた腫瘍の代表的な画像を示す。(d)には、膵癌細胞の移植28日後に腸間膜リンパ節の数を測定した結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
1.定義
本明細書において、アンチセンスオリゴヌクレオチドは、「ASO」と略記することがある。
【0016】
また、本明細書に示す核酸(ASO等)の塩基配列は、左端が5'末端、右端が3'末端である。
【0017】
2.アンチセンスオリゴヌクレオチド
本発明のASOは、ARL4Cを標的分子とするASOであって、gcatacctcaggtaa(配列番号1)に含まれる10塩基以上の連続した塩基配列を含むことを特徴とする。以下、本発明のASOについて詳述する。
【0018】
[標的分子]
本発明のASOは、ARL4Cを標的分子とするASO(ARL4C ASO)であり、ARL4Cの発現を抑制することにより抗腫瘍効果を奏し得る核酸分子である。
【0019】
ヒトARL4CのmRNAは配列番号3に示す塩基配列を有しており、配列番号1に示す塩基配列は、配列番号3における第1316~1330位の塩基配列に対して相補的な配列になっている。
【0020】
[塩基配列]
本発明のASOは、塩基配列としてgcatacctcaggtaa(配列番号1)に含まれる10塩基以上の連続した塩基配列を含む。このような特定の塩基配列を含むことにより、ARL4Cの発現を効果的に抑制し、生体内で抗腫瘍効果を有効に奏させることが可能になる。
【0021】
本発明のASOの塩基数については、配列番号1に示す塩基配列に含まれる10塩基以上の連続した塩基配列を含み、且つARL4Cをノックダウンできることを限度として、特に制限されないが、好ましくは13個以上が挙げられ、より具体的には10~50個、好ましくは10~40個、より好ましくは12~30個、より一層好ましくは15~20個、更に好ましくは15~19個、特に好ましくは15~17個、最も好ましくは15個(即ち、配列番号1に示す塩基配列からなるもの)が挙げられる。
【0022】
本発明のASOの塩基数が10~14個である場合、本発明のASOの塩基配列は、配列番号1に示す塩基配列に含まれる10~14塩基の連続した塩基配列に設定すればよい。
【0023】
また、本発明のASOの塩基数が15個である場合、本発明のASOの塩基配列は配列番号1に示す塩基配列からなるものに設定すればよい。
【0024】
また、本発明のASOの塩基数が16個以上である場合、発明のASOの塩基配列は、配列番号1に示す塩基配列を含み、且つその5'末端側及び/又は3'末端側に1又は複数の塩基を連結させればよい。このような5'末端側及び/又は3'末端側に連結させる1又は複数の塩基の種類については、ARL4Cをノックダウンできることを限度として特に制限されないが、標的分子であるARL4CのmRNAの塩基配列に基づいて適宜設定することができる。
【0025】
本発明のASOの塩基配列の一例として、gcatacctcaggtaattca(配列番号2)を含む塩基配列が挙げられる。配列番号2に示す塩基配列は、配列番号1に示す塩基配列の3'末端側にttcaからなる4つの塩基が連結している塩基配列である。
【0026】
生体内で奏される抗腫瘍効果をより一層向上させるという観点から、本発明のASOとして、配列番号1又は2に示す塩基配列からなるもの、更に好ましくは配列番号1に示す塩基配列からなるものが挙げられる。
【0027】
[化学修飾]
本発明のASOは、化学修飾されていないASO(即ち、天然型のヌクレオチドからなるASO)であってもよいが、ヌクレアーゼに対する耐性、標的遺伝子に対する親和性、薬物動態等を改善又は向上させるために、化学修飾が施されていているASOであることが望ましい。
【0028】
本発明のASOにおいて化学修飾を施す場合、ヌクレオチドの塩基部分、糖部分、及びヌクレオシド間の結合部分の内のいずれか少なくとも1つが化学修飾されていればよいが、全てのヌクレオチドに対して化学修飾が施されていることが望ましい。
【0029】
塩基部分に化学修飾が施されたヌクレオチドとしては、塩基部分に置換基が導入されているヌクレオチドが挙げられる。当該置換基としては、具体的には、水酸基、炭素数1~6の直鎖アルキル基、炭素数1~6の直鎖アルコキシ基、メルカプト基、炭素数1~6の直鎖アルキルチオ基、アミノ基、炭素数1~6の直鎖アルキルアミノ基、及びハロゲン原子等が挙げられる。塩基がC(シトシン)である場合には、化学修飾が施されているシトシンの好適な例として、5-メチルシチジン、2'-O-メチルシチジン等が挙げられる。
【0030】
糖部分に化学修飾が施されたヌクレオチドとしては、例えば、2',4'-架橋型ヌクレオチド(BNA、Bridged Nucleic Acid)、糖部分の2'位の水酸基がアルコキシ基(例えば、メトキシ基、エトキシ基等の炭素数1~5のアルコキシ基)又はハロゲン原子(フッ素原子等)で置換されているヌクレオチド等が挙げられる。これらの中でも、好ましくは2',4'-架橋型ヌクレオチドが挙げられる。
【0031】
2',4'-架橋型ヌクレオチドの好適な例として、以下の一般式(1)に示す構造を有するヌクレオチドが挙げられる。
【化2】
【0032】
一般式(1)において、Baseは、塩基配列に対応する塩基であり、具体的には置換基で置換されていてもよいプリン-9-イル基又は2-オキソ-1,2-ジヒドロピリミジン-1-イル基を示す。当該置換基としては、具体的には、水酸基、炭素数1~6の直鎖アルキル基、炭素数1~6の直鎖アルコキシ基、メルカプト基、炭素数1~6の直鎖アルキルチオ基、アミノ基、炭素数1~6の直鎖アルキルアミノ基、及びハロゲン原子等が挙げられる。
【0033】
また、一般式(1)におけるBaseとして、具体的には、塩基がA(アデニン)の場合であれば、置換基で置換されていてもよい6-アミノプリン-9-イル基;塩基がG(グアニン)の場合であれば、置換基で置換されていてもよい2-アミノ-6-ヒドロキシプリン-9-イル基;塩基がC(シトシン)の場合であれば、置換基で置換されていてもよい2-オキソ-4-アミノ-1,2-ジヒドロピリミジン-1-イル基(例えば、4-アミノ-5-メチル-2-オキソ-1,2-ジヒドロピリミジン-1-イル基(5-メチルシトシン-1-イル基、2'-O-メチルシトシン-1-イル基等が含まれる);塩基がT(チミン)の場合であれば、置換基で置換されていてもよい2-オキソ-4-ヒドロキシ-5-メチル-1,2-ジヒドロピリミジン-1-イル基が挙げられる。
【0034】
一般式(1)において、Rは、水素原子、分岐又は環を形成していてもよい炭素数1~7のアルキル基、分岐又は環を形成していてもよい炭素数2~7のアルケニル基、置換基を有していてもよく、且つヘテロ原子を含んでいてもよい炭素数3~12のアリール基、置換基を有していてもよく、且つヘテロ原子を含んでいてもよい炭素数3~12のアリール部分を有するアラルキル基を表す。当該アリール基又はアラルキル基に含まれ得る置換基としては、具体的には、水酸基、炭素数1~6の直鎖アルキル基、炭素数1~6の直鎖アルコキシ基、メルカプト基、炭素数1~6の直鎖アルキルチオ基、アミノ基、炭素数1~6の直鎖アルキルアミノ基、及びハロゲン原子等が挙げられる。Rとして、好ましくは、水素原子、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、フェニル基、 又はベンジル基が挙げられ、更に好ましくは水素原子又はメチル基、特に好ましくはメチル基が挙げられる。本明細書において、一般式(1)におけるRがメチル基である2',4'-架橋型ヌクレオチドは「AmNA」と表記することがある。
【0035】
また、2',4'-架橋型ヌクレオチドの他の例としては、以下の一般式(2)に示す構造を有するヌクレオチドが挙げられる。当該ヌクレオチドは、グアニジン架橋型核酸とも称される公知の2',4'-架橋型ヌクレオチドである(国際公開第2014/046212号)。
【化3】
一般式(2)において、Baseは、前記一般式(1)におけるBaseと同様である。一般式(2)において、R1、R12、及びR13は、同一又は異なって、水素原子、分岐又は環を形成していてもよい炭素数1~7のアルキル基を示し、R14は、水素原子を示す。
【0036】
また、2',4'-架橋型ヌクレオチドの他の例としては、以下の一般式(3)に示す構造を有するヌクレオチドが挙げられる。当該ヌクレオチドは、スピロシクロプロパン架橋型核酸とも称される公知の2',4'-架橋型ヌクレオチドである(国際公開第2015/125783号)。
【化4】
【0037】
一般式(3)において、Baseは、前記一般式(1)におけるBaseと同様である。また、一般式(3)において、R21及びR22は、同一又は異なって、水素原子;ヘテロ原子を含んでいてもよい炭素数3から12のアリール基で置換されていてもよく、かつ分岐または環を形成していてもよい炭素数1~7のアルキル基;又はヘテロ原子を含んでいてもよい炭素数3から12のアリール部分を有するアラルキル基;であるか、或はR21及びR22は一緒になって、基-(CH2n-[式中、nは2~5の整数]である。
【0038】
また、2',4'-架橋型ヌクレオチドの他の例としては、以下の一般式(4)又は(4')に示す構造を有するヌクレオチドが挙げられる。当該ヌクレオチドは、エチレンオキシ架橋型核酸とも称される公知の2',4'-架橋型ヌクレオチドである(国際公開第2016/017422号)。
【化5】
【0039】
一般式(4)及び(4')において、Baseは、前記一般式(1)におけるBaseと同様である。また、一般式(4)及び(4')において、X3は酸素原子又は硫黄原子を示す。
【0040】
一般式(4)及び(4')において、R31及びR32は、同一又は異なって、水素原子;水酸基;分岐又は環を形成していてもよい炭素数1~7のアルキル基;分岐又は環を形成していてもよい炭素数1~7のアルコキシ基;又はアミノ基を示す。また、一般式(4)の場合には、R31及びR32は一緒になって、基=C(R35)R36[式中、R35及びR36は、同一又は異なって、水素原子、水酸基、メルカプト基、アミノ基、炭素数1~6の直鎖又は分岐鎖アルコキシ基、炭素数1~6の直鎖又は分岐鎖アルキルチオ基、炭素数1~6のシアノアルコキシ基、或は炭素数1~6の直鎖又は分岐鎖アルキルアミノ基を示す]を形成していてもよい。
【0041】
一般式(4)及び(4')において、R33は、水素原子、分岐又は環を形成していてもよい炭素数1~7のアルキル基、分岐又は環を形成していてもよい炭素数1~7のアルコキシ基、又は炭素数1~6の直鎖又は分岐鎖アルキルチオ基を示す。
【0042】
一般式(4)において、R34は、水素原子、分岐又は環を形成していてもよい炭素数1~7のアルキル基、分岐又は環を形成していてもよい炭素数1~7のアルコキシ基、又は炭素数1~6の直鎖又は分岐鎖アルキルチオ基を示す。
【0043】
更に、2',4'-架橋型ヌクレオチドの他の例としては、例えば、以下に示す構造が挙げられる。下記構造式中のBase及びRは、前記一般式(1)におけるBase及びRと同様である。
【化6】
【0044】
また、ヌクレオシド間の結合部分の化学修飾としては、ヌクレオシド間の結合が、ホスホロチオエート、キラルホスホロチオエート、ホスホロジチオエート、ホスホトリエステル、アミノアルキルホスホトリエステル、3'-アルキレンホスホネート、5'-アルキレンホスホネート、ホスフィネート、3'-アミノホスホラミデート、アミノアルキルホスホラミデート、チオノホスホラミデート、チオノアルキルホスホネート、チオノアルキルホスホトリエステル、セレノホスフェート、ボラノホスフェート等で結合されているものが挙げられる。ヌクレオシド間の結合部分の化学修飾として、好ましくはホスホロチオエートが挙げられる。
【0045】
本発明のASOにおいて、化学修飾は、一部のヌクレオチド及び/又はヌクレオシド間の結合部分に施されていてもよく、また全てのクレオチド及び/又はヌクレオシド間の結合部分に施されていてもよい。
【0046】
本発明のASOに施される化学修飾の好適な例として、少なくとも1個、好ましくは1~10個、より好ましくは2~8個、更に好ましくは2~6個、特に好ましくは5個の2',4'-架橋型ヌクレオチドを含んでいることが挙げられる。また、2',4'-架橋型ヌクレオチドを含む場合の好適な例として、5'末端側から1~3番目及び3'末端側から2及び3番目のヌクレオチドが2',4'-架橋型ヌクレオチド(好ましくはAmNA)であることが挙げられる。
【0047】
また、本発明のASOに施される化学修飾の好適な例として、ヌクレオシド間の結合部分の少なくとも1個がホスホロチオエート結合であることが挙げられる。また、ホスホロチオエート結合を含む場合の好適な例として、ヌクレオシド間の結合部分の総数100%当たり、好ましくは50%以上、より好ましくは80%以上、更に好ましくは90%以上、特に好ましくは100%(全てのヌクレオシド間の結合部分)がホスホロチオエート結合であることが挙げられる。
【0048】
本発明のASOの好適な例として、全てのヌクレオシド間の結合部分がホスホロチオエート結合であり、且つ5'末端側から1~3番目及び3'末端側から2及び3番目のヌクレオチドが2',4'-架橋型ヌクレオチド(好ましくはAmNA)である化学修飾ASOが挙げられる。
【0049】
本発明のASOの好適な具体例として、下記配列A又はBからなる化学修飾ASOが挙げられる。下記配列A又はBからなる化学修飾ASOは、ARL4Cの発現を格段効果的に抑制でき、生体内での抗腫瘍効果がとりわけ優れており、特に好適に使用できる。
配列A:G(Y)^5(Y)^A(Y)^t^a^c^c^t^c^a^g^g^T(Y)^A(Y)^a
配列B:G(Y)^5(Y)^A(Y)^t^a^c^c^t^c^a^g^g^t^a^a^t^T(Y)^5(Y)^a
【0050】
前記配列A及びBにおいて、「G(Y)」はAmNA(前記一般式(1)においてRがメチル基である2',4'-架橋型ヌクレオチド)の構造のグアニン、「A(Y)」はAmNAの構造のアデニン、「T(Y)」はAmNAの構造のチミン、「5(Y)」はAmNAの構造の5-メチルシトシン、「^」はホスホロチオエート結合を示す。
【0051】
[用途・適用方法]
本発明のASOは、ARL4Cを標的分子として作用し、腫瘍細胞におけるARL4Cの発現、遊走、及び増殖を抑制し、優れた抗腫瘍効果を奏するので、抗腫瘍剤として腫瘍患者に対して投与される核酸医薬として用いることができる。
【0052】
本発明のASOは、原発性腫瘍又は転移性腫瘍のいずれに対しても、優れた抗腫瘍効果を奏し得る。本発明のASOの適用対象となる原発性腫瘍又は転移性腫瘍については、特に制限されないが、具体的には、肝癌、転移性肝癌、大腸癌、肺癌、舌癌、膵癌、胃癌、結腸癌、直腸癌、膀胱癌、前立腺癌、子宮頚癌、頭頚部癌、胆管癌、胆嚢癌、口腔癌、咽頭癌、喉頭癌、脳腫瘍、神経膠腫(グリオーマ)、膠芽腫、多型性神経膠芽腫、肉腫、悪性黒色腫、腎癌、甲状腺癌等の固形癌;白血病、悪性リンパ腫等の血液癌が挙げられる。
【0053】
ARL4Cは、Wnt/β-カテニンシグナル及びEGF/Ras-MAPKシグナルの同時活性化によって腫瘍細胞特異的に高発現し、RacとRhoの活性を調節することにより、腫瘍細胞の運動性や浸潤能、及び腫瘍形成を亢進する作用を示す。これに対して、本発明のASOは、ARL4Cを高発現している腫瘍においてARL4Cの発現を阻害することによって効果的に腫瘍細胞の増殖抑制効果を奏するので、ARL4Cを発現している癌が、好適な適用対象といえる。特に、肝癌、大腸癌、肺癌、及び舌癌は、高い頻度でARL4Cが高発現しており、本発明のASOの適用対象となる癌として特に好適である。また、肝臓は、全身投与した核酸医薬が蓄積し易い臓器であるので、本発明のASOの適用対象として肝癌はとりわけ好適といえる。
【0054】
ARL4Cを高発現している腫瘍については、採取した腫瘍組織に対して組織免疫することによって確認することができる。具体的には、採取した腫瘍組織に対して、抗ARL4C抗体を用いて免疫染色し、腫瘍領域においてARL4Cの発現が認められる領域が20%以上存在する場合には、ARL4Cが高発現されていると判断される。
【0055】
前述の通り、肝臓は、全身投与した核酸医薬が蓄積し易い臓器であるので、本発明のASOの予防又は治療対象となる転移性腫瘍の好適な一例として、転移性肝癌が挙げられる。また、本発明のASOにおいて、予防又は治療の対象となる転移性腫瘍の他の好適な例として、膵癌からの転移性癌が挙げられる。
【0056】
本発明のASOは、ヒト用の核酸医薬として好適に使用される。
【0057】
本発明のASOの投与方法については、抗腫瘍効果が得られることを限度として、特に制限されないが、静脈注射、皮下注射、筋肉内注射、腹腔内注射等の全身投与;患部への局所注射、経肺投与、座薬投与等の局所投与等が挙げられる。
【0058】
本発明のASOの投与量については、使用する有効成分の種類、投与形態、適用対象となる腫瘍の種類、患者の症状の程度等に応じて、治療有効量を適宜設定すればよい。例えば、本発明のASOの1回量として、通常100 μg~100 mg/kg体重程度に設定し、3~7日間に1回程度の頻度で投与すればよい。
【0059】
また、本発明のASOは、単独で使用してもよいが、1種又は2種以上の抗腫瘍作用を有する他の薬剤及び/又は放射線療法と併用してもよい。
【0060】
[製剤形態]
本発明のASOは、投与形態に応じた製剤形態に調製して核酸医薬として使用される。本発明のASOを含む核酸医薬の製剤形態としては、例えば、液剤、懸濁剤、リポソーム剤等の液状製剤等が挙げられる。
【0061】
また、本発明のASOを含む核酸医薬は、その製剤形態に応じて、薬学的に許容される担体や添加剤を加えて製剤化される。例えば、液状製剤にする場合であれば、生理食塩水、緩衝液等を用いて製剤化することができる。
【0062】
また、本発明のASOを含む核酸医薬は、当該ASOが腫瘍細胞内に移行され易いように、核酸導入補助剤と共に製剤化されていることが望ましい。核酸導入補助剤としては、具体的には、リポフェクタミン、オリゴフェクタミン、RNAiフェクト、リポソーム、ポリアミン、DEAEデキストラン、リン酸カルシウム、デンドリマー等が挙げられる。
【実施例
【0063】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。但し、本発明は、以下の実施例に限定して解釈されるものではない。
【0064】
1.試験材料及び試験方法
1-1.患者及び癌組織
神戸大学医学部附属病院で2010年1月~2012年12月の間に外科的切除を受けた21~81歳(平均69歳)の128名の肝癌患者(ステージI~IVA)、及び大阪大学病院で2007年2月~2017年2月の間に外科的切除を受けた28~91歳(平均66歳)の115名の大腸癌患者を対象として、本試験を行った。大腸癌患者には、102名がステージ0~IIICであり、13名がステージIVA~IVBであった。腫瘍は、UICC(Union for International Cancer Control) TMN分類に従って分類した。切除標本は、巨視的検査により、腫瘍の位置及び大きさを決定した。組織学的標本は、10容量%ホルマリンで固定し、パラフィンで包埋した。標本は、4μmの厚さの切片を作製して、各解析のために、ヘマトキシン及びエオシン(HE)、又は免疫ペルオキシダーゼで染色した。本試験におけるプロトコールは、神戸大学大学院医学研究科等倫理審査委員会の承認(No.180048)及び大阪大学大学院医学系研究科の承認(No.13032)の下で行った。
【0065】
1-2.免疫組織化学試験
免疫組織化学試験は、Fujii S等(Oncogene 2015;34:4834-44.)によって報告されている方法を改良して実施した。腫瘍病変の総面積に対してARL4C染色が20%以上である場合には、ARL4C陽性と判定した。
【0066】
1-3.材料
肝癌細胞(HLE、HLF、HuH-7、及びPLC)は、東北大学加齢医学研究所医用細胞資源センターから購入した。HepG2細胞は、American Type Culture Collection (ATCC)から購入した。HCT116細胞は、Dr. T. Kobayashi(広島大学)から提供を受けた。A549細胞は、Dr. Y.Shintani(大阪大学)から提供を受けた。S2-CP8細胞は、東北大学加齢医学研究所 医用細胞資源センターから提供を受けた。
【0067】
HLE、HLF、HuH-7、PLC、HCT116、A549、及びS2-CP8細胞は、10%ウシ胎児血清(FBS)を含むダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)で増殖させた。HepG2細胞は、GlutaMAXTM I(Life Technologies, Darmstadt, Germany, catalog 35050-061)、MEM非必須アミノ酸(Life Technologies, catalog 11140-050)、及び10% FBSを含むイーグル最小必須培地(E-MEM)で増殖させた。
【0068】
GFPを安定に発現するHLE細胞(HLE/GFP細胞)、GFPをC末端側に融合させたARL4c-GFPを安定に発現するHLE細胞(HLE/ARL4C-GFP細胞、ARL4C-GFPが形質導入されてその発現が安定化している細胞)、ルシフェラーゼを安定に発現するHCT116細胞(HCT116/Luc細胞)、ルシフェラーゼを安定に発現するA549細胞(A549/Luc細胞)及びルシフェラーゼを安定に発現するS2-CP8細胞(S2-CP8/Luc細胞)は、Matsumoto S等(EMBO J 2014;33:702-18.)及びFujii S等(Oncogene 2015;34:4834-44.)で報告されている方法に従って、レンチウイルスを使用して作製した。なお、ARL4C-GFとは、GFPが融合されているARL4Cである。
【0069】
抗ARL4C抗体及び抗PIK3CD抗体は、それぞれAbcam (Cambridge, UK)及びSanta Cruz Biotechnology (Santa Cruz, CA, USA)から購入した。抗リン酸化AKT(S473)抗体、抗AKT抗体、抗Ki-67抗体、及び抗YAP/TAZは、Cell Signaling Technology (Beverly, MA, USA)から購入した。PD184161(MEK1/2阻害剤)及びVivoGlo luciferinは、それぞれSigma-Aldrich(Steinheim, Germany)及びPromega (Madison, WI, USA)から購入した。
【0070】
1-4.ARL4Cを標的とするASOの作製
AmNAモノマーを含みホスホジエステル結合で連結されている15mer又は19merのASO、及び6-カルボキシフルオレセイン(FAM)標識ASOを、Yahara A等(J Pharmacol Exp Ther 2012;343:489-96.)及びZuker M(Nucleic Acids Res 2003;31:3406-15.)に報告されている方法に従って、株式会社ジーンデザインによって合成された。
【0071】
準備したARL4Cを標的とするASOの配列は表1に示す通りである。
【0072】
なお、本明細書及び図面において、表1に示すASOの内、「hArl4c-1316-AmNA(15)」を「ASO-1316」、「hArl4c-1312-AmNA(19)」を「ASO-1312」、「hArl4c-650-AmNA(15)」を「ASO-650」、「hArl4c-793-AmNA(15)」を「ASO-793」、「hArl4c-986-AmNA(15)」を「ASO-986」、「hArl4c-1065-AmNA(15)」を「ASO-1065」、「hArl4c-1454-AmNA(15)」を「ASO-1454」、「hArl4c-3225-AmNA(15)」を「ASO-3225」、「hArl4c-1450-AmNA(19)」を「ASO-1450」、「hArl4c-3223-AmNA(19)」を「ASO-3223」と表記することがある。
【0073】
ASO-1316は配列番号1に示す塩基配列からなるものであり、ASO-1312は配列番号2に示す塩基配列からなるものである。
【0074】
【表1】
【0075】
Lipofectamine 3000 (Invitrogen, Carlsbad, CA, USA)又はRNAiMAX (Invitrogen)を用いて、25~50 nMのASO及び10~20 nMのsiRNAをHLE細胞、HCT116細胞、及びA549細胞にトランスフェクトした。トランスフェクトした細胞は、トランスフェクション終了から36~48時間後に実験に使用した。
【0076】
1-5.異種移植肝腫瘍形成、及びin vivoでのASOによる処置
HLE細胞(1×107 cells)ペレットを100μlのMatrigel matrix high concentration (BD Biosciences, San Jose, CA, USA)に懸濁し、8週齢の雄性ヌードマウス(BALB/cAJcl-nu/nu、日本クレア株式会社)の肝臓に麻酔下で注入した(day 0)。day 0から、ASO(50 μg/body;約2.5 mg/kg)を週2回の頻度で皮下投与した。マウスをHLE細胞移植から29日後に安楽死させ、腫瘍を回収し、組織学的分析に供した。
【0077】
HCT116/Luc細胞(2.5 × 105 cells)を100μlのリン酸緩衝液(PBS)に懸濁し、8週齢の雄性ヌードマウス(BALB/cAJcl-nu/nu、日本クレア株式会社)の脾臓に麻酔下で注入した。移植から19日後に、ASO(50 μg/body;約2.5 mg/kg)を週2回の頻度で皮下投与した。マウスをHCT116/Luc細胞移植から47日後に安楽死させ、組織学的分析に供した。
【0078】
腫瘍増殖の解析は、VivoGlo luciferin (30 mg/ml)を腹腔内投与し、VivoGlo luciferinの投与から10分後に、IVIS imaging system (Xenogen Corp., Alameda, CA, USA)を用いて、生物発光イメージングを週1回の頻度で記録することにより行った。
【0079】
1-6.オープンソースを用いた臨床データ解析
肝癌患者と大腸癌患者の肝臓におけるARL4C mRNA発現データは、Gene Expression Profiling Interactive Analysis(GEPIA)オンラインデータベース(http://gepia.cancer-pku.cn/)から取得した。GEPIAデータベースにおける腫瘍サンプルと正常サンプルは、Cancer Genome Atlas(TCGA)及びGenotype-Tissue Expression(GTEx)プロジェクトから得られたものである。発現差異解析は一元配置分散分析(one-way ANOVA)により行った。0.05未満のP値は統計学的に優位であると判断した。OncoLnc(http://www.oncolnc.org)を用いてTCGAデータセットの大腸癌におけるARL4C mRNA発現との全生存率の相関を分析し、GraphPad Prism(GraphPad Software、San Diego、CA)を用いて視覚化した。ARL4C高発現群及びARL4C低発現群は、データセット中の大腸癌患者におけるARL4C発現の中央値を境にして分類した。TCGAデータセットを用いた共発現解析は、R2: Genomics Analysis Platform (http:// r2.amc.nl)を用いて行い、GraphPad Prismを用いて視覚化した。P値及びr値は、GraphPad Prismを用いて算出した。
【0080】
1-7.候補遺伝子のin silico分析によるARL4C ASOsの潜在的オフターゲット遺伝子の同定
Human genomic plus transcript (Human G+T) データベース(Build 2.7.1)及びMegablast algorithmを用いたbasic local alignment search tools (BLAST+ programs)により、ARL4C ASO(hARL4C ASO-1316-AmNA [15-mer](ARL4C ASO-1316)及びhARL4C-3223-AmNA [19-mer](ARL4C ASO-3223))の潜在的なオフターゲット遺伝子を同定した。
【0081】
1-8.肺癌細胞を用いた異種同所性移植モデルの形成、及びin vivoでのASOによる処置
8週齢の雄性ヌードマウス(BALB/cAJcl-nu/nu、日本クレア株式会社)に、メデトミジン(0.75 mg/kg)、ミダゾラム(4 mg/kg)、及びベトルファノール(5 mg/kg)を腹腔内注射して麻酔した。異種同所性移植モデルの形成は、以下の点順で、マウスの左肺にヒト肺癌細胞を移植することによって行った。A549/Luc細胞(約2×106 cells)を10μlのPBS(phosphate buffered saline)及び10μlのマトリゲル(BD Biosciences, San Jose, CA, USA)に懸濁し、0.5 mlのインスリン注射器(BD Biosciences, San Jose, CA, USA)に装着された29Gニードルを使用して、肋間腔を通して、左肺の深さ2mmまで注入した。皮膚の切開部分は、5-0ポリプロピレン縫合糸で閉じて、マウスが完全に回復するまで、保温カーペット上で安静にさせた。
【0082】
腫瘍を移植してから1週間後に、IVIS imaging system (Xenogen Corp., Alameda, CA, USA)を用いて腫瘍の定着が確認された。in vivoイメージングでは、100μlのVivoGlo luciferin (30 mg/ml)を尾静脈投与し、その投与から5分後に生物発光イメージングを記録した。次いで、腫瘍が定着したマウスを、IVISシグナル強度が同程度になるように、control ASO吸入群(n = 7)、及びARL4C ASO吸入群(n = 9)の2群に分けた。腫瘍の移植から7、11及び15日後に、Kim MP等(Nat Protoc 2009;4:1670-80.)で報告されている手法に従って、25 μlに溶解させたASO (200 μg/body, 約10 mg/kg)を、22G静脈カテーテルを使用して経気管支投与した。腫瘍の移植から21日後に、IVIS imaging systemを用いて腫瘍サイズを測定した後に、マウスを安楽死させて組織学的分析を行った。本試験における全てのプロトコールは、大阪大学動物実験委員会の承認(No. 26-032-048)の下で行った。
【0083】
1-9.膵癌細胞を用いた異種同所性移植モデルの形成、及びin vivoでのASOによる処置
膵癌細胞を用いた異種同所性移植モデルによるアッセイは、文献(Kim MP. et. al., Nat Protoc 2009;4:1670-80.)に記載の手法をアレンジして行った。具体的には、S2-CP8/Luc細胞(5×105 cells)を50%マトリゲルを含む100μlのHBSS(Hanks' Balanced Salt Solution)に懸濁し、27Gニードルを使用して膵臓の中央部に同所移植した。移植の3日後に、control ASO投与群(n = 6)、及びARL4C ASO投与群群(n = 7)の2群に分けた。移植の3日後から1週間に2回、ASO (50 μg/body, approximately 2.5 mg/kg)を皮下投与した。1週間に1回、腫瘍量を、IVIS imaging system (Xenogen Corp.)を用いて定量した。in vivoイメージングでは、100μlのVivoGlo luciferin (30 mg/ml)を腹腔内投与し、その投与から8分後に生物発光イメージングを記録した。また、腫瘍量を定量は、対象領域(region of interest; ROI)を選択して、Living Image 4.3.1 Software (Caliper Life Science)を用いて、放射輝度の値(radiance value)を測定することにより行った。マウスは、移植から28日後に安楽死させ、腫瘍重量、及び腸間膜リンパ節(直径1mm超のリンパ節)の数を測定し、組織学的分析に供した。本試験における全てのプロトコールは、大阪大学動物実験委員会の承認(No. 26-032-048)の下で行った。
【0084】
1-10.統計解析
各実験は少なくとも3回実施し、結果は平均値±標準偏差(s.d.)として表した。無再発生存率の累積確率は、Kaplan-Meier法を用いて決定した。統計的有意差は、ログランク検定を用いて決定した。他の実験における統計的有意差は、スチューデントのt検定により決定した。0.05未満のP値は統計学的に有意差があると判定した。
【0085】
1-11.その他の試験方法及び試験材料
細胞遊走アッセイ及び定量的リアルタイムPCR分析は、Fujii S等(Oncogene 2015;34:4834-44.)で報告されている方法に従って行った。
【0086】
実験に使用したプライマー及びsiRNAは、表2及び3に示す通りである。
【表2】
【表3】
【0087】
細胞増殖アッセイは、CyQUANT NF Cell Proliferation Assay Kit (Thermo Fisher Scientific)を用いて、製造元が推奨する方法で行った。
【0088】
蛍光測定は、蛍光マイクロプレートリーダー(SynergyTM HTX Multi-Mode Microplate Reader, BioTek, Winooski, VT, USA).を用いて行った。
【0089】
2.試験結果
2-1.原発癌及び転移性癌におけるARL4Cの発現
原発肝癌におけるARL4Cの発現を免疫組織化学的に分析した。抗ARL4C抗体で染色された腫瘍細胞が20%を超える腫瘍はARL4C陽性と判定した。肝癌の128症例の中で、33症例(25.8%)でARL4C陽性であった。また、ARL4C陽性の原発肝癌について、抗ARL4C抗体で免疫染色した像を図1の(a)に示す。ARL4C陽性の原発肝癌において、非腫瘍領域ではARL4Cの発現は殆ど認められなかった。
【0090】
また、肝癌患者について、ARL4Cの発現と臨床病理学的要因の関係について分析した結果を表4に示す。Cancer Genome Atlas (TCGA)とGenotype-Tissue Expression (GTEx)を組み合わせたデータセット(Gene Expression Profiling Interactive Analysis; GEPIA)を用いた分析では、肝癌におけるARL4C mRNAの量は、正常肝細胞の場合と比べて、統計学的に有意に高くなっていなかった。但し、図2に示す通り、肝癌におけるARL4C mRNAの量は、正常な肝臓に比べて高い傾向があった。また、ARL4C陽性が血管浸潤と関連していることも明らかになった(P = 0.02)。
【表4】
【0091】
Coxの比例ハザードモデルにより肝癌患者の無再発生存率の単変量解析を行った結果を表5に示す。単変量解析の結果から、性別、腫瘍数>2、低分化タイプ、リンパ節転移、血管浸潤、ステージIIIA~IVA、及びARL4C発現は、無病生存期間の短期化と相関していることが分かった。
【表5】
【0092】
Coxの比例ハザードモデルによりステージ0~IIICの肝癌患者の無再発生存率の多変量解析を行った結果を表6に示す。多変量解析の結果から、腫瘍数>2は、独立した予後因子であることが明らかとなった(P=0.0003)。更に、ARL4C陽性は、独立して、予後不良に関連する傾向があることも明らかとなった(P=0.066)。また、肝癌患者において、無再発生存率とARL4C発現の関係を分析した結果を図1の(b)に示す。この結果から、ARL4C陽性の肝癌患者は、無再発生存率が有意に低下することが分かった(P=0.0328)。これらの結果から、ARL4C発現は、肝癌の活性と相関していることが示唆された。
【表6】
【0093】
また、大腸癌患者について、ARL4Cの発現と臨床病理学的要因の関係について分析した結果を表7に示す。ステージ0~IIICの肝癌患者102症例の内、24.5%の腫瘍がARL4C陽性であることが確認された。また、ARL4C陽性は、腫瘍浸潤、血管浸潤、及びステージIIA~IIICと相関があることも分かった。
【表7】
【0094】
Coxの比例ハザードモデルにより大腸癌患者の無再発生存率の単変量解析を行った結果を表8に示す。単変量解析の結果から、粘膜下層を超える腫瘍浸潤の深さ、血管浸潤、リンパ浸潤、リンパ節転移、ステージII~IIIC、及びARL4C発現は、無再発生存率の低下と関連していることが明らかになった。
【表8】
【0095】
Coxの比例ハザードモデルによりステージ0~IIICの大腸癌患者の無再発生存率の多変量解析を行った結果を表9に示す。この結果、大腸癌において、ARL4Cの発現は、独立した予後ファクターであることが分かった。また、大腸癌患者において、無再発生存率とARL4C発現の関係を分析した結果を図1の(c)に示す。この結果から、ARL4C陽性の大腸癌患者は、無再発生存率が有意に低下することも確認された(P< 0.0001)。
【表9】
【0096】
また、大腸癌患者について、Cancer Genome Atlas (TCGA)のデータセットを用いて、ARL4C発現と全生存率の関係を解析した結果を図1の(d)に示す。このTCGAデータセットによる解析結果でも、ARL4C高発現群は、ARL4C低発現群と比較して無再発生存率が低下することが確認された。
【0097】
大腸癌肝転移腫瘍(24症例)について、免疫組織学的にARL4C発現を測定した結果を図1の(e)に示す。当該24症例には、大腸癌切除後の再発肝転移(異時性肝転移)11例と肝転移を伴う大腸癌(同期肝転移)13例が含まれていた。異時性肝転移の症例では、ARL4Cは結腸腫瘍11例(100%)及び肝腫瘍9例(81.8%)で発現していた(図1e)。また、全ての症例において、ARL4Cは、非腫瘍領域では最小限にしか検出されなかった。以上の通り、大腸癌におけるARL4C発現は予後不良と関連し、肝転移を伴う大腸癌症例でARL4C発現量の増加が認められることが分かった。
【0098】
2-2.ARL4C ASOsのスクリーニング、及びARL4C ASOsが肝癌細胞及び大腸癌細胞の増殖及び遊走に及ぼす影響
先ず、ARL4C mRNAの構造に基づいて、15ヌクレオチドのARL4Cの塩基配列を選択した。数千のARL4C ASOの候補の中から、肝毒性を引き起こす可能性のあるものを除外し、ARL4CmRNAの高次元構造予測によって、38種のARL4C ASO(表1中のASOの内、ASO-1312、ASO-1450、及びASO-3223以外)を選択した。なお、本試験で使用したASOにおいて、全てのホスホジエステル結合はホスホロチオエート結合に置換したものを使用した。リアルタイムPCRを用いたスクリーニング実験により、A549細胞(肺腺癌細胞)におけるARL4C ASOsのノックダウン効率を調べた。なお、A549細胞は、ARL4C siRNAによる処置により、ARL4Cタンパク質量が低減することが確認できている。38種のARL4C ASOsで処理したA549細胞のARL4C mRNA量を測定した結果を図3の(a)に示す。38種のARL4C ASOsの中から、ノックダウン効率が高かった7個のARL4C ASOs(ASO-650、ASO-793、ASO-986、ASO-1065、ASO-1316、ASO-1454、及びASO-3225)を選択し、更なる分析に供した。
【0099】
5種の肝癌細胞(HLE、HLF、PLC、HuH-7 cells、及びHepG2)において、ARL4C mRNA量を測定した結果を図3の(b)に示す。図3の(b)から分かるように、HLE細胞は最もARL4C mRNA量が多く、HepG2細胞はARL4C mRNAを殆ど発現していない。
【0100】
HLE細胞とHCT116細胞に対して、前記7個のARL4C ASOsとコントロールAOSを25 nMでトランスフェクトし、ARL4C mRNA量をリアルタイムPCRで測定した結果を図4の(a)に示す。この結果、ASO-1316、ASO-1454及びASO-3225では、HLE細胞とHCT116細胞の双方においてARL4C mRNA量を低減できることが確認された。これらの3個のARL4C ASOsの効果を最適化するために、これらの3個のARL4C ASOsに4塩基を付加し、19塩基からなるASO-1312、ASO-1450、及びASO-3223を作製した。これらの6つのARL4C ASOs(ASO-1316、ASO-1312、ASO-1454、ASO-1450、ASO-3225、及びASO-3223)を用いて、ARL4Cに対するノックダウン効果の検証を進めた。
【0101】
ARL4C ASOs(ASO-1316、ASO-1312、ASO-1454、ASO-1450、ASO-3225、及びASO-3223)をそれぞれ25 nMでHLE細胞にトランスフェクトし、ARL4C mRNA量をリアルタイムPCRで測定した結果を図3の(c)に示す。また、ARL4C ASOs(ASO-1316、ASO-1312、ASO-3225、及びASO-3223)をそれぞれ0.5~25 nMでHLE細胞にトランスフェクトし、ARL4C mRNA量をリアルタイムPCRで測定した結果を図4の(b)に示す。この結果、前記6つのARL4C ASOsの中でも、低濃度でHLE細胞におけるARL4C mRNA量を低減させる効果が高いASOsとして、ASO-1316及びASO-3223を選択した。
【0102】
in silico分析により、ASO-1316及びASO-3223のオフターゲット遺伝子の候補として、NLN(neurolysin)、FBXL19(sapiens F-box and leucine-rich repeat protein 19)、KRTAP15-1(keratin-associated protein 15-1)、及びSIGLEC6(sialic acid binding Ig-like lectin 6)の4つの遺伝子を同定した。ASO-1316及びASO-3223をそれぞれ25 nMでHLE細胞にトランスフェクトし、NLN及びFBXL19のmRNA量をリアルタイムPCRで測定した結果を図3の(d)に示す。この結果、ASO-1316及びASO-3223は、NLN及びFBXL19の発現に有意な影響を及ぼさないことが分かった。また、KRTAP15-1及びSIGLEC6は、HLE細胞において僅かにしか発現していない(データは省略)。そのため、ASO-1316及びASO-3223の処理によって生じるオフターゲット効果は生じ得ないことが示唆された。
【0103】
GFPを安定に発現するHLE/GFP細胞、又はARL4C-GFPを安定に発現するHLE/ARL4C-GFP細胞に対して、コントロールASO、ASO-1316及びASO-3223を25 nMでトランスフェクトし、細胞遊走アッセイを行った結果を図4の(c)に示す。また、前記条件でASO-1316及びASO-3223をトランスフェクトしたHLE/GFP細胞又はHLE/ARL4C-GFP細胞の細胞溶解液に、抗ARL4C抗体及び抗Hp90抗体を作用させてプローブした結果を図4の(d)に示す。なお、Hp90はローディングコントロールである。これらの結果から、ASO-1316及びASO-3223は双方とも、ARL4Cの過剰発現によって起こるHLE細胞の遊走を抑制することが確認された。
【0104】
HLE細胞に対して、コントロールASO、ASO-1316及びASO-3223を25 nMでトランスフェクトし、増殖アッセイを行った結果を図4の(e)に示す。この結果から、ASO-1316及びASO-3223は、HLE細胞の増殖を阻害することが分かった。
【0105】
また、HCT116細胞に対して、コントロールASO、ASO-1316及びASO-3223を25 nMでトランスフェクトし、細胞遊走アッセイを行った結果を図3の(e)に示す。この結果でも、ASO-1316及びASO-3223は、HCT116細胞の遊走を抑制することが確認された。
【0106】
以上の結果から、ASO-1316及びASO-3223は、ARL4Cを発現している癌細胞の増殖及び遊走を抑制できることが明らかとなった。
【0107】
2-3.ARL4Cが肝癌細胞におけるPIK3CDに及ぼす影響
ARL4Cは、Wnt/β-カテニンシグナル及びEGF/Rasシグナルによって発現され、YAP/TAZの核局在化を誘導することが知られている(EMBO J 2014;33:702-18、Oncogene 2015;34:4834-44)。
【0108】
10 μMのPD184161又は10 nMのCTNNB1 siRNA(CTNNB1に対するsiRNA)を用いてHLE細胞を処理し、ARL4CのmRNA量をリアルタイムPCRで測定した結果を図5の(a)に示す。また、10 nMのβ-catenin siRNA(β-カテニンに対するsiRNA)を用いてHLE細胞を処理し、ARL4CのmRNA量をリアルタイムPCRで測定した結果を図6の(a)に示す。PD184161は、β-カテニンをノックダウンさせることなくMEKを阻害する化合物である。PD184161で処理したHLE細胞は、ARL4CのmRNA量が低減されていたことから、ARL4CはMAPK経路の下流で作用していることが示唆された。
【0109】
また、R2: Genomics Analysis and Visualization Platformを用いたTCGAデータセット(n=371)を利用して、肝癌において、ARL4C mRNA量(X-axis)と、EGR1 mRNA量、FOS mRNA量、AXIN2 mRNA量、及びLGR5 mRNA量(Y-axis)をプロットした結果を図6の(b)に示す。この結果から、MAPK経路の標的遺伝子であるEGR1及びFOSのmRNA量は、ARL4CのmRNA量と正の相関があるが、Wnt/β-カテニンシグナルの標的遺伝子であるAXIN2及びLGR5のmRNA量は、ARL4CのmRNA量と相関性がないことが分かった。つまり、このTCGAデータセットの解析結果は、図5の(a)及び図6の(a)の結果と一致していた。
【0110】
HLE細胞又はA549細胞に対して、コントロールASO、ASO-1316及びASO-3223を25 nMでトランスフェクトして、抗YAP/TAZ抗体で染色した結果を図6の(c)に示す。この結果、A549細胞におけるARL4Cのノックダウンは、YAPの核局在を阻害するが、HLE細胞ではARL4Cのノックダウンは、YAPの核局在に影響しないことが確認された。従って、ARL4Cの下流で発現され、癌細胞の増殖に関与する遺伝子は、肺癌細胞と肝癌細胞では異なる可能性があることが示唆された。
【0111】
ホスファチジイルイノシトール-3-キナーゼ触媒サブユニットδアイソフォーム(PIK3CD遺伝子産物)は、肝癌を含む多くの癌において発現していることが知られている(Blood 2010;116:1460-8.、Hepatology 2012;55:1852-62.、Mol Cancer Ther 2008;7:841-50.、Cancer Res 2003;63:1667-75.)。そこで、R2: Genomics Analysis and Visualization Platformを用いたTCGAデータセット(n=371)を利用して、肝癌において、ARL4C mRNA量と、PIK3CD mRNA量IK3CA mRNA量及びPIK3CB mRNA量との相関について分析した。当該TCGAデータセット(n=371)を利用して、肝癌において、ARL4C mRNA量(X-axis)とPIK3CD mRNA量(Y-axis)をプロットした結果を図5の(b)に示す。また、当該TCGAデータセット(n=371)を利用して、肝細癌において、ARL4C mRNA量(X-axis)と、PIK3CA mRNA量及びPIK3CB mRNA量(Y-axis)をプロットした結果を図7の(a)に示す。この結果、肝癌において、ARL4C mRNA量は、PIK3CA mRNA量及びPIK3CB mRNA量との相関は認められないが、PIK3CD mRNA量と正の相関関係があることが分かった。
【0112】
HLE細胞を25μMのSecinH3(inhibitor of Arf nucleotide-binding site opener (ARNO))又は50μMのNSC23766 (Rac inhibitor)で処理し、リアルタイムPCRによりPIK3CD mRNA量を測定した結果を図5の(c)に示す。この結果、SecinH3の処理によって、HLE細胞のPIK3CD mRNA量が低減することが確認された。また、ARL4Cを発現するHepG2細胞(ARL4Cを形質導入したHepG2細胞)に、25μMのSecinH3又は50μMのNSC23766で処理し、リアルタイムPCRによりPIK3CD mRNA量を測定した結果を図4の(d)に示す。HepG2細胞におけるARL4Cの過剰発現は、PIK3CD mRNA量を増大させるが、SecinH3及びNSC23766によってPIK3CD mRNA量の増大が抑制されていた。即ち、本結果から、ARL4Cは、ARF6及びRacを介してPIK3CDの発現をアップレギュレートすることが示唆された。
【0113】
また、R2: Genomics Analysis and Visualization Platformを用いたTCGAデータセット(n=371)を用いて、肝癌において、ARL4C mRNA量(X-axis)と、RAC1 mRNA量、ARF6 mRNA量、及びARF1 mRNA量(Y-axis)をプロットした結果を図7の(b)に示す。この結果、肝癌において、ARL4C mRNA量は、ARF1 mRNA量との相関は認められないが、ARF6及びRAC1のmRNA量とは正の相関関係があることが分かった。つまり、このTCGAデータセットの解析結果は、図5の(c)及び(d)の結果と一致していた。
【0114】
HLE細胞に対して、コントロールsiRNA、及びPIK3CD siRNA(PIK3CDに対するsiRNA)を20 nMでトランスフェクトし、増殖アッセイを行った結果を図5の(e)に示す。また、コントロールsiRNA、及びPIK3CD siRNAをトランスフェクトしたHLE細胞の細胞溶解液に抗phosphorylated AKT抗体及び抗AKT抗体を作用させてプローブした結果を図5の(f)に示す。また、HLE細胞に対して、コントロールsiRNA、及びPIK3CD siRNA(PIK3CDに対するsiRNA)を20 nMでトランスフェクトし、リアルタイムPCRによりPIK3CD mRNA量を測定した結果を図7の(c)に示す。これらの結果から、HLE細胞におけるPIK3CDのノックダウンは、細胞増殖を抑制し、AKT活性を低下させることが明らかとなった。
【0115】
HLE細胞に対して、コントロールASO、ASO-1316、及びASO-3223を25 nMでトランスフェクトし、PIK3CDのmRNA量をリアルタイムPCRで測定した結果を図5の(g)に示す。また、また、コントロールASO、ASO-1316、及びASO-3223をトランスフェクトしたHLE細胞の細胞溶解液に抗リン酸化AKT(pAKT S473)抗体及び抗AKT抗体を作用させてプローブした結果を図5の(h)に示す。これらの結果から、PIK3CDは癌細胞におけるARL4Cの下流標的分子であり、ASO-1316及びASO-3223はPIK3CD発現の抑制によって、癌細胞の増殖を阻害できることが示唆された。
【0116】
2-4.原発性肝腫瘍モデルでのARL4C ASOの抗腫瘍効果の検討
HLE細胞を肝臓に直接移植した原発性肝腫瘍モデルにおいて、ARL4C ASO(ASO-1316及びASO-3223)の皮下投与が、肝腫瘍に及ぼす影響を検討した。
【0117】
原発性肝腫瘍モデルにおける実験では、高濃度のHEL細胞を含むマトリゲルをマウスの肝臓に注入し(day 0)、day 0から、1週間に2回の頻度で、コントロールASO、ASO-1316、及びASO-3223の皮下投与を開始した。移植29日後に肝臓に形成された腫瘍を観察した結果を図8の(a)に示す。また、移植29日後に肝臓に形成された腫瘍について、抗ARL4C抗体及び抗PIK3CD抗体で免疫染色した結果を図8の(b)に示し、抗Ki-67抗体で免疫染色した結果を図8の(c)に示す。この結果、ASO-1316は、HLE腫瘍形成を抑制し、コントロールASOに比べて腫瘍サイズを半分にまで減少できていることが確認された。また、ASO-1316は、肝臓で形成された腫瘍においてARL4C及びPIK3CDの発現を抑制できており、Ki-67陽性細胞数を減少できていることも確認された。ASO-1316は、肝臓の非腫瘍領域において、組織学的損傷や細胞死は誘導していなかった。一方、ASO-3223は、HLE腫瘍形成、ARL4C及びPIK3CDの発現、並びにKi-67陽性細胞数には、殆ど影響しておらず、in vivoでは抗腫瘍効果は認められなかった。
【0118】
また、HLE細胞を移植しなかった正常マウスに6-FAM標識ASO-1316又は緩衝液(Saline)を皮下投与し、4時間後に各種臓器における蛍光強度を測定した結果を図9の(a)に示す。また、HLE細胞を移植しなかった正常マウスに6-FAM標識ASO-1316又は緩衝液(Saline)を皮下投与し、4時間後に得られた肝臓標本をファロイジン及びHoechst 33342で染色してF-アクチン及び核の局在部位を示した結果を図9の(b)に示す。これらの結果から、正常マウスに皮下投与されたASO-1316は肝臓に特異的に送達されるが、その取り込み量は少ないことが分かった。
【0119】
HLE細胞を移植したマウス原発性肝腫瘍モデルに6-FAM標識ASO-1316又は緩衝液(Saline)を皮下投与し、4時間後に各種臓器における蛍光強度を測定した結果を図8の(d)に示す。また、HLE細胞を移植したマウス癌モデルに6-FAM標識ASO-1316を投与し、4時間後に得られた肝臓標本をファロイジン及びHoechst 33342で染色してF-アクチン及び核の局在部位を示した結果を図8の(e)に示す。これらの結果から、マウス癌モデルにASO-1316を皮下投与すると、当該ASOが肝臓の腫瘍領域において効率的に集積し、腫瘍細胞における核内に蓄積することが確認された。
【0120】
また、ASO-1312は、ASO-1316と塩基配列が重複していることから、ASO-1316と同様に、原発性肝腫瘍モデルにおいて抗腫瘍効果が奏されることが十分に期待できる。
【0121】
2-5.転移性腫瘍モデルでのARL4C ASOの抗腫瘍効果の検討
HCT116細胞を脾臓に移植して、腫瘍を肝臓に転移させた転移性腫瘍モデルにおいて、ARL4C ASO(ASO-1316及びASO-3223)の皮下投与が、肝腫瘍に及ぼす影響を検討した。
【0122】
転移性腫瘍モデルにおける実験では、HCT116/Luc細胞を脾臓に注入し(0日目)、19日後に肝臓においてルシフェラーゼのシグナルが検出され、19日後から1週間に2回の頻度で、コントロールASO、ASO-1316、及びASO-3223の皮下投与を開始した。19、35及び47日後に、肝臓の腫瘍から発せられるルシフェラーゼの蛍光を観察した結果、及び47日後に肝臓の腫瘍から発せられるルシフェラーゼの蛍光強度をIVIS/Kodakソフトウェアで定量化した結果を図10の(a)に示す。ASO-1316を投与した場合には、HCT116/Luc細胞の注入から19日後に生着した肝腫瘍において、47日後までの増殖を抑制できた。また、HCT116/Luc細胞の移植から47日後に肝臓に形成された腫瘍を観察した結果、及び移植から47日後に肝臓に形成された腫瘍を抗ARL4C抗体で免疫染色した結果を図10の(b)に示し、移植から47日後に肝臓に形成された腫瘍を抗Ki-67抗体で免疫染色した結果を図10の(c)に示す。これらの結果から、ASO-1316で処置されたマウスの肝臓の腫瘍は、ARL4C発現量及びKi-67陽性細胞数が減少していることも確認された。
【0123】
一方、原発性肝腫瘍モデルの結果と同様に、転移性腫瘍モデルでも、ASO-3223は抗腫瘍効果を奏していなかった。
【0124】
また、ASO-1312は、ASO-1316と塩基配列が重複していることから、ASO-1316と同様に、転移性腫瘍モデルにおいて抗腫瘍効果が奏されることが十分に期待できる。
【0125】
2-6.肺癌腫瘍モデルでのARL4C ASOの抗腫瘍効果の検討
A549/Luc細胞を肺に移植した異種同所性移植モデルにおいて、ARL4C ASO(ASO-1316)が腫瘍に及ぼす影響について検討した。
【0126】
肺癌細胞を用いた異種同所性移植モデルにおける実験では、A549/Luc細胞を左肺に移植し(0日目)、移植から7、11及び15日後にコントロールASO及びARL4C ASO-1316の経気管支投与を行った。A549/Luc細胞の移植7及び21日後に観察された左肺の生物発光イメージを図11の(a)の左に示す。また、当該マウスにおいて、移植7及び21日後に、左肺の腫瘍から発せられるルシフェラーゼの発光強度をIVIS / Kodakソフトウェアを使用して測定した結果を図11の(a)の右に示す。この結果、ARL4C ASO-1316はA549/Luc細胞の増殖を阻害することが確認された。また、図11の(b)の左上に、移植21日後にA549/Luc細胞を移植した左肺の代表的な画像を示す。図11の(b)の左上の画像において、白い矢印は腫瘍の位置を示し、点線は腫瘍の輪郭を示している。また、図11の(b)の左中の画像は、左肺の腫瘍から切片を調製し、抗ARL4C抗体で免疫染色した結果を示し、図11の(b)の左下の画像は、左肺の腫瘍から切片を調製し、抗Ki-67抗体で免疫染色した結果を示している。また、図11の(b)の右には、左肺の腫瘍から切片を調製して抗Ki-67抗体で免疫染色し、Ki-67陽性細胞をカウントした結果(平均値±標準偏差)を示している。図11の(b)に示す結果からも、ASO-1316を投与したマウスでは、ARL4Cの発現とKi-67陽性細胞の数の減少していることが確認された。
【0127】
2-7.膵癌腫瘍モデルでのARL4C ASOの転移抑制効果及び抗腫瘍効果の検討
S2-CP8/Luc細胞を肺に移植した異種同所性移植モデルにおいて、ARL4C ASO(ASO-1316)が腫瘍形成及び腸間膜リンパ節(mLN)転移に及ぼす影響について検討した。
【0128】
膵癌細胞を用いた異種同所性移植モデルにおける実験では、S2-CP8/Luc細胞を膵臓に移植し(0日目)、移植から3日後にコントロールASO及びASO-1316を1週間に2回腹腔内投与した。S2-CP8/Luc細胞の移植7、14及び21日後に観察された腹腔内の腫瘍の生物発光イメージを図12の(b)の左に示し、移植7日後のマウスについて放射輝度によって腹腔内の腫瘍量を定量した結果を図12の(b)の右に示す。移植28日後に、摘出した膵臓と腸間膜リンパ節で認められた腫瘍の代表的な画像を図12の(c)に示す。また、移植28日後に、腸間膜リンパ節の数を測定した結果を図12の(d)に示す。図12の(d)において、腸間膜リンパ節の数は、平均値±標準偏差を示しており、*はP<0.05であることを示している。これらの結果から、ASO-1316は、腸間膜リンパ節への癌転移を抑制できることが確認された。
図1
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【配列表】
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