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特許7396593石垣又は石積み壁の補強工法及び補強構造
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-04
(45)【発行日】2023-12-12
(54)【発明の名称】石垣又は石積み壁の補強工法及び補強構造
(51)【国際特許分類】
   E02D 29/02 20060101AFI20231205BHJP
   E02D 17/20 20060101ALI20231205BHJP
【FI】
E02D29/02 308
E02D17/20 103H
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020034634
(22)【出願日】2020-03-02
(65)【公開番号】P2021139103
(43)【公開日】2021-09-16
【審査請求日】2023-02-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000006839
【氏名又は名称】日鉄建材株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】502245118
【氏名又は名称】学校法人国士舘
(73)【特許権者】
【識別番号】000112886
【氏名又は名称】フリー工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000000446
【氏名又は名称】岡部株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000000077
【氏名又は名称】アキレス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000201490
【氏名又は名称】前田工繊株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100174207
【弁理士】
【氏名又は名称】筬島 孝夫
(72)【発明者】
【氏名】堀 謙吾
(72)【発明者】
【氏名】岩佐 直人
(72)【発明者】
【氏名】橋本 隆雄
(72)【発明者】
【氏名】岩津 雅也
(72)【発明者】
【氏名】前田 和徳
(72)【発明者】
【氏名】田中 弘栄
(72)【発明者】
【氏名】大山 謙吾
【審査官】荒井 良子
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-070980(JP,A)
【文献】特許第4316939(JP,B2)
【文献】特許第6259750(JP,B2)
【文献】特開2008-274578(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 29/02
E02D 17/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向に複数の排出孔が設けられた中空棒状補強部材を築石層の目地部に挿入して位置決めすると共に、前記排出孔を利用して行う注水手段又はエアブロー手段により前記中空棒状補強部材の外周の土砂成分を除去する工程と、
前記中空棒状補強部材の内部に筒状の透水性シートを摺動させてセットする工程と、
前記筒状の透水性シート内に固化材を注入し、前記透水性シートから前記中空棒状補強部材の内側へ染み出した固化材を前記排出孔を通じて外部へ略均等に染み出させることにより、前記中空棒状補強部材の外周に筒状固化層体を形成して補強する工程と、
を有することを特徴とする、石垣又は石積み壁の補強工法。
【請求項2】
前記中空棒状補強部材は、その奥端部を、築石層の背後の栗石層を介して存在する定着層に定着させることにより位置決めし、前記筒状固化層体を前記栗石層に形成して補強することを特徴とする、請求項1に記載した石垣又は石積み壁の補強工法。
【請求項3】
前記中空棒状補強部材の排出孔は、前記固化材を注入するとき、上半部分で開口するように設けていることを特徴とする、請求項1又は2に記載した石垣又は石積み壁の補強工法。
【請求項4】
前記固化材を注入した後、前記中空棒状補強部材の基端部に固定プレートを設けて前記石垣又は石積み壁を支圧することを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載した石垣又は石積み壁の補強工法。
【請求項5】
筒状の透水性シートを内装した中空棒状補強部材が築石層の背後に位置決めされていること、
前記中空棒状補強部材は、軸方向に複数の排出孔が設けられ、前記筒状の透水性シートの中空部を通じて前記排出孔から排出された固化材が外部へ略均等に染み出して固化されることにより前記中空棒状補強部材の外周に筒状固化層体が形成されて補強されていることを特徴とする、石垣又は石積み壁の補強構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、石垣又は石積み壁の補強工法及び補強構造の技術分野に属し、更にいえば、歴史的に貴重で保存価値が高い建築物の外壁部分である石垣又は石積み壁を保存し、その内部(背後)に改良を加えて保存・再生の目的を達成する補強技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、表層の地盤が崩落または剥落する恐れのある斜面の地盤を安定化させるための斜面安定工として、例えば、特許文献1~3に係る技術が知られている。これらの技術は、共通して、地盤に掘削した孔に注入管を配置し、前記注入管に加圧注入した注入材によって補強材を造成する発明であり、引き抜き力に対する補強材の支圧抵抗力を増加させることができる等、一応の効果は認められる。
【0003】
しかしながら、前記特許文献1~3に係る技術は、石垣又は石積み壁の補強技術に適用しようとすると、掘削工程を含み削孔を形成して行うので外観を損なう等、好ましくない。歴史的に貴重で保存価値が高い石垣又は石積み壁であれば尚更である。
一方、特許文献4は、掘削工程を含まない(削孔を形成しない)で石積壁を補強する技術であり、注目される。
【0004】
前記特許文献4の図1図2等に示したように、傾斜地山の前面に、裏込め栗石層を介在させて、複数の間知石を相互に隣接するようにして積み上げた石積壁に対して、複数の前記間知石同士が当接する目地部の複数箇所に、それぞれ補強材を打設し、前記補強材の周囲にグラウト材を充填することにより、前記補強材を前記傾斜地山に定着し、前記補強材の打設により、前記目地部の外周に隣接配置された複数の前記間知石を外方に押しやることで、前記間知石同士を相互に拘束する石積壁の補強方法の発明が開示されている(請求項2等の記載を参照)。
そして、同文献4の段落[0032]に、前記グラウト材を補強材の周囲に充填する方法として、例えば、所定配合の流動性を有するモルタルを、石積壁の前面側から、補強材の周囲にポンプを用いて圧入させる方法(第1の方法)や、あるいは、予め、補強材の外周面にグラウト材を塗布しておいて、これを補強材とともに打設する方法(第2の方法)、さらには、補強材の内部ないしは外部にグラウト材の供給通路を形成しておき、補強材の打設後に、供給通路を介して、グラウト材を補強材の周囲に充填する方法(第3の方法)のいずれかを採用することができる旨の記載が認められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第6259750号公報
【文献】特許第6322542号公報
【文献】特許第6322543号公報
【文献】特許第4316939号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記特許文献4に係る発明は、掘削工程を含まないで石積壁を補強できる利点はあるものの、グラウト材を充填する方法に課題がある。
すなわち、前記栗石層のように空隙が大きい箇所に充填する場合、前記第1の方法では、流動性を有するが故に必然的に圧入時にモルタルが重力方向に流れ落ちてしまい補強材のまわりに均一に固化体を形成できない課題がある。前記第2の方法では、どのようにすれば実現できるのか具体的手段が不明な上に、仮に実現できたとしても効果が曖昧で明らかに確実性に乏しい課題がある。前記第3の方法では、供給口付近の通路(孔)から多くのグラウト材が吐出してしまい、奥の傾斜地山までグラウト材が到達せず、不均一な補強材が形成されてしまう等、品質に問題があり十分な耐震補強性能を発揮できない課題がある。
【0007】
また、前記栗石層は、栗石等の粗石だけで構成されているとは限らず、細かい土砂混じりの石礫で構成されている場合がある。その場合、栗石層にグラウト材等の注入材が万遍なく充填させることができない課題もある。
【0008】
したがって、本発明は、上述した背景技術の課題に鑑みて案出されたものであり、その目的とするところは、掘削工程を含まない(削孔を形成しない)で、均一で高品質な補強材である筒状固化層体を確実に形成することにより、十分な耐震補強性能を発揮することができる、石垣又は石積み壁の補強工法及び補強構造を提供することにある。
また、本発明は、栗石層が細かい土砂混じりの石礫等の土砂成分で構成されている場合であっても、掘削工程を含まないで、均一で高品質な補強材である筒状固化層体を確実に形成することにより、十分な耐震補強性能を発揮することができる、石垣又は石積み壁の補強工法及び補強構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための手段として、請求項1に記載した発明に係る石垣又は石積み壁の補強工法は、
軸方向に複数の排出孔が設けられた中空棒状補強部材を築石層の目地部に挿入して位置決めすると共に、前記排出孔を利用して行う注水手段又はエアブロー手段により前記中空棒状補強部材の外周の土砂成分を除去する工程と、
前記中空棒状補強部材の内部に筒状の透水性シートを摺動させてセットする工程と、
前記筒状の透水性シート内に固化材を注入し、前記透水性シートから前記中空棒状補強部材の内側へ染み出した固化材を前記排出孔を通じて外部へ略均等に染み出させることにより、前記中空棒状補強部材の外周に筒状固化層体を形成して補強する工程と、
を有することを特徴とする。
【0010】
請求項2に記載した発明は、請求項1に記載した石垣又は石積み壁の補強工法において、前記中空棒状補強部材は、その奥端部を、築石層の背後の栗石層を介して存在する定着層に定着させることにより位置決めし、前記筒状固化層体を前記栗石層に形成して補強することを特徴とする。
【0011】
請求項3に記載した発明は、請求項1又は2に記載した石垣又は石積み壁の補強工法において、前記中空棒状補強部材の排出孔は、前記固化材を注入するとき、上半部分で開口するように設けていることを特徴とする。
【0012】
請求項4に記載した発明は、請求項1~3のいずれか1項に記載した石垣又は石積み壁の補強工法において、前記固化材を注入した後、前記中空棒状補強部材の基端部に固定プレートを設けて前記石垣又は石積み壁を支圧することを特徴とする。
【0013】
請求項5に記載した発明に係る石垣又は石積み壁の補強構造は、
筒状の透水性シートを内装した中空棒状補強部材が築石層の背後に位置決めされていること、
前記中空棒状補強部材は、軸方向に複数の排出孔が設けられ、前記筒状の透水性シートの中空部を通じて前記排出孔から排出された固化材が外部へ略均等に染み出して固化されることにより前記中空棒状補強部材の外周に筒状固化層体が形成されて補強されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る石垣又は石積み壁の補強工法及び補強構造によれば、以下の効果を奏する。
(1)掘削工程を含まない(削孔を形成しない)で、均一で高品質な補強材である筒状固化層体を確実に形成することにより、十分な耐震補強性能を発揮する石垣又は石積み壁を実現(再生)することができる。
また、栗石層が細かい土砂混じりの石礫等の土砂成分で構成されている場合であっても、掘削工程を含まないで、均一で高品質な補強材である筒状固化層体を確実に形成することにより、十分な耐震補強性能を発揮する石垣又は石積み壁を実現することができる。
(2)掘削工程を含まないので、外観保持の利点があり、歴史的に貴重で保存価値が高い建築物の外壁部分である石垣又は石積み壁を保存し、その内部(背後)に改良を加えて保存・再生の目的を達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明に係る石垣又は石積み壁の補強工法の施工状況を概略的に示した説明図である。
図2図1の正面図(左側面図)である。
図3】本発明に係る石垣又は石積み壁の補強工法及び補強構造を概略的に示した立断面図である。
図4図3の正面図(左側面図)である。
図5】Aは、本発明に係る筒状の透水性シートを内装した中空棒状補強部材を示した全体図であり、Bは、中空棒状補強部材を示した正面図であり、Cは、筒状の透水性シートを示した正面図である。
図6図5AのX-X線矢視の拡大断面図である。
図7】Aは、図5Bの中空棒状補強部材のA-A線矢視の拡大断面図であり、Bは、同B-B線矢視の拡大断面図である。
図8図5Cの筒状の透水性シートの拡大断面図である。
【0016】
次に、本発明に係る石垣又は石積み壁の補強工法及び補強構造を図面に基づいて説明する。
【実施例1】
【0017】
図1図8は、本発明に係る石垣20の補強工法及び補強構造の実施例を示している。
この石垣20の補強工法は、軸方向に複数の排出孔1aが設けられた中空棒状補強部材1を築石層21の目地部に挿入して位置決めすると共に、前記排出孔1aを利用して行う注水手段又はエアブロー手段により前記中空棒状補強部材1の外周の石礫等の土砂成分13を除去する工程(図1図2参照)と、
前記中空棒状補強部材1の内部に筒状の透水性シート2を摺動させてセットする工程と、前記筒状の透水性シート2内に固化材8を注入し、前記透水性シート2から前記中空棒状補強部材1の内側へ染み出した固化材8を前記排出孔1aを通じて外部へ略均等に染み出させることにより、前記中空棒状補強部材1の外周に筒状固化層体9を形成して補強する工程(図3図4参照)とを有する。
【0018】
前記中空棒状補強部材1は、本実施例では、その奥端部を、築石層(築石)21の背後の栗石層22を介して存在する地山等の定着層23にセメントやグラウト等の定着材12で定着させることにより位置決めし、前記筒状固化層体9を前記栗石層22に形成して補強する構成で実施している。
前記固化材8は、本実施例では発泡ウレタンが採用されるが発泡グラウトでも実施可能である。もっとも、重要文化財である石垣20等では栗石22と固化材8とを固着させると文化財的価値を失ってしまうため、栗石層22の隙間を埋めて栗石22を固定でき、また、容易に分離させることのできる発泡ウレタンが望ましい。
【0019】
また、前記中空棒状補強部材1は、図5B図7A、Bに示したように、肉厚の硬質な金属等の中空多孔管で実施されている。本実施例では一例として、内径13mm、外径28.5mm、全長2800mmの鋼管で実施している。奥端部にはロッドリング等を介して削孔ビット(ロストビット)7が回転自在に接続されている。
前記中空棒状補強部材1の中間部(栗石層22の領域に相当する)の周壁には、軸方向長さ1500mmにわたって、内外を連通する排出孔1a(本実施例では、φ5~8mm程度)が、軸方向に所定のピッチ(本実施例では、37.5mmピッチ)で、周方向に所定の間隔をあけて列状(本実施例では、2列)に多数設けられている。前記2列とは具体的に、図7A、Bに示したように、横断面でみると垂直線の左右両側の位置に約45°方向に傾けた対称配置に2箇所設けられ、前記固化材8を斜め上向きに等しく排出可能な構造とされている。
【0020】
前記排出孔1aの大きさは、前記したようにφ5~8mm程度が好ましい。本実施例では、注入口が近く固化材8の排出量が多くなりやすい手前(築石21)側の径を小さいφ5mmで実施し(図7A参照)、注入口から遠く固化材8の排出量が少なくなりやすい奥(定着層23)側の径を大きいφ8mmで実施し(図7B参照)、かつ、奥側へいくほどピッチ(孔間隔)を短く(例えば25mmピッチ)することにより、外部への排出量を手前側から奥側へわたって略均等になるよう調整し、栗石層22に形成する前記筒状固化層体9を偏りがなくバランスの良い形状とする工夫を施している。
なお、前記排出孔1aの径、配置間隔、及び穿設個数は、勿論これに限定されず、固化材8を栗石層22へ効率よく排出・拡散できることを前提に、構造設計に応じて適宜設計変更可能である。
【0021】
前記筒状の透水性シート2は、図5C図8に示したように、前記中空棒状補強部材1に内装可能なように、厚み0.2mm、外径(φ)17.8mm、長さ1500mm程度の略円筒形状に製作されている。
本実施例では、前記注水手段又はエアブロー手段により前記石礫等の土砂成分13を除去した後、予め筒状に成形した透水性シート2を前記中空棒状補強部材1の内周部に内嵌めし、前記排出孔1aが配設された前記中間部(栗石層22)全域を覆うまで摺動させて位置決めする。もっとも、前記透水性シート2の全長は、図示例のような前記中間部(栗石層22)全域を覆う程度に止まらず、前記築石層21に届く長さ(2300mm程度)で実施することもできる。
前記位置決め手段は種々あるが、本実施例では、前記透水性シート2の要所をテープ材(例えば両面テープ)を貼着させて前記中空棒状補強部材1の内周部へ固定している。
前記透水性シート2の性能(透過性)は、注入された固化材8を堰き止めつつ外部(中空棒状補強部材1の内周部)へ略均等に程よく染み出させることを可能とする、例えば透水係数が5×10-3cm/s程度が好ましい。
【0022】
この石垣20の補強工法は、前記栗石層22が、細かい土砂混じりの石礫等の土砂成分13で構成されている場合、これを取り除き、後に注入する固化材8の充填効果、特には発泡効果を効率良く確実に発揮せしめるために実施される。
【0023】
本補強工法は、先ず、前記中空棒状補強部材1を、回転しながら打撃を加えるドリフター等の削孔機(軽量ボーリングマシン。図示省略)により、築石層21の目地部に挿入し、水平方向やや斜め下方に勾配(例えば5~10度程度)をつけて地山等の定着層23へ向けて打ち込む。本実施例では、図示は省略するが、前記削孔機にロッドを介して連結したインナービットを前記中空棒状補強部材1の先端部の削孔ビット7に内接させた構造とし、前記削孔機を作動させて前記ロッド及びインナービットを回転させつつ打撃力(推進力)を加え、前記インナービットの回転に追従(連動)して前記削孔ビット7を回転させることにより打ち込む。
なお、本実施例では、固化材8の良好な流動等を考慮し水平方向やや斜め下方に勾配をつけて定着層23へ打設しているがこれに限定されず、水平方向へ打設して実施することも勿論できる。
【0024】
前記中空棒状補強部材1を前記定着層23の所定位置まで打ち込んだ後(又は打ち込みながら)、前記中空棒状補強部材1を回転させつつ、前記中空棒状補強部材1の注入口から中空部へ水又は空気を所定の圧力で注入することにより、前記中空部を通じて前記排出孔1aから外部である栗石層22へ注入又はエアブローを行い、前記中空棒状補強部材1の周辺における前記栗石層22内の細かい土砂混じりの石礫等の土砂成分13を除去(洗浄)する。
【0025】
前記除去作業を終えた後、前記中空棒状補強部材1を、その後端部が石垣20の外側から若干突き出す程度に位置決めした状態で前記定着層23へ定着させる。この段階で、図6に示したように、前記中空棒状補強部材1の排出孔1aは上半部分で開口するように設けておく。前記排出孔1aを上向きに設ける意義は、前記排出孔1aから排出される固化材8を、前記中空棒状補強部材1の周辺部の下方だけではなく、可能な限り上方へも排出・拡散させるためである。ひいては、固化領域が広い高強度・高品質の筒状固化層体9を形成するためである。
【0026】
前記定着作業は、前記中空棒状補強部材1の中空部内にセメントやグラウト等の定着材12を注入するための注入用チューブ(例えばφ13mm程度。図示省略)を奥まで挿入する等の位置調整を行う。必要に応じ、リーク(漏れ)防止のための逆止弁パッカーを装着したインサートパッカーを挿入する等して注入部と非注入部とを区分する。
次に、前記注入用チューブを通じて前記定着材12を注入し、前記中空棒状補強部材1の奥端部から外部へ吐出させ、図3に示したように、前記中空棒状補強部材1周辺の定着層23を前記定着材12で固結させてアンカーの役割を課す。
【0027】
次に、前記中空棒状補強部材1の注入口から前記筒状の透水性シート2を前記中空棒状補強部材1の内周部に内嵌めし、前記排出孔1aが配設された前記中間部(栗石層22)全域を覆うまで摺動させて位置決めする。この位置決め作業は、本実施例では、前記透水性シート2の破損を防止するべく作業員の手指で慎重に行う。
【0028】
前記中空棒状補強部材1の内部に前記筒状の透水性シート2をセットした後は、前記筒状の透水性シート2内に固化材(発泡ウレタン)8を注入する。前記固化材8は、前記透水性シート2の中空部を通じて前記透水性シート2の全長にわたって外部(前記中空棒状補強部材1の内部)へ略均等に染みだし、さらに前記排出孔1aを通じて栗石層22へ排出・拡散される。かくして、前記中空棒状補強部材1の内部はもとより、その周辺の栗石22間に形成された間隙を埋めつつ栗石22同士が固結され、もって、栗石層22を所定の強度・剛性に改良する筒状固化層体9が形成される。
【0029】
しかる後、前記中空棒状補強部材1の後端部(基端部)の突き出し部に固定プレート11をボルト、溶接等の接合手段で接合することにより前記石垣20を支圧する。
【0030】
そして、上記段落[0023]~[0029]で説明した施工工程を、打設する前記中空棒状補強部材1の本数(図示例では略千鳥配置に12本)に応じて繰り返し行い、もって、石垣20の補強工法を終了する。
【0031】
かくして、上述した石垣20の補強工法で施工した補強構造は、前記中空棒状補強部材1は、築石層21の背後の栗石層22を介して定着層23に位置決め固定され、前記筒状の透水性シート2の中空部を通じて前記透水性シート2の全長にわたって外部(前記中空棒状補強部材1の内部)へ略均等に染みだした固化材8が前記排水孔1aから外部へ略均等に排出・拡散して固化されることにより前記中空棒状補強部材1の外周に、均一で高品質な筒状固化層体9が形成されて補強された構造を呈する。
【0032】
以上、実施例を図面に基づいて説明したが、本発明は、図示例の限りではなく、その技術的思想を逸脱しない範囲において、当業者が通常に行う設計変更、応用のバリエーションの範囲を含むことを念のために言及する。
例えば、前記中空棒状補強部材1、透水性シート2の寸法、性能等は、あくまでも一例に過ぎない。中空棒状補強部材1は、一本物のほか、端部がネジきり加工された管材同士をカプラーで連結した構成で実施することも勿論できる。
また、本実施例では石垣20を中心に説明したが、石積み壁にも同様に適用できる。
【符号の説明】
【0033】
1 中空棒状補強部材
1a 排出孔
2 透水性シート
3 保護管
3a スリット
4 削孔ビット(ロストビット)
8 固化材
9 筒状固化層体
11 固定プレート
12 定着材(セメント)
13 土砂成分(石礫等)
20 石垣
21 築石層(築石)
22 栗石層(栗石)
23 定着層(地山)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8