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  • 特許-測距装置および測距方法 図1
  • 特許-測距装置および測距方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-04
(45)【発行日】2023-12-12
(54)【発明の名称】測距装置および測距方法
(51)【国際特許分類】
   G01S 13/32 20060101AFI20231205BHJP
【FI】
G01S13/32
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019190250
(22)【出願日】2019-10-17
(65)【公開番号】P2021063783
(43)【公開日】2021-04-22
【審査請求日】2022-09-05
(73)【特許権者】
【識別番号】599161890
【氏名又は名称】NECネットワーク・センサ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】浅尾 博之
(72)【発明者】
【氏名】長井 祥之
【審査官】梶田 真也
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-340674(JP,A)
【文献】特開平05-203732(JP,A)
【文献】特開2016-038267(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 13/00 - 17/95
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
変調信号を用いて搬送波を周波数変調することにより送信信号を生成する、周波数変調手段と、
前記送信信号をレーダー波として送信し、前記レーダー波が目標で反射された反射波を受信信号として受信する、レーダー波送受信手段と、
前記送信信号と前記受信信号とを混合することにより中間信号を生成する、送受信信号混合手段と、
前記中間信号の(+n)次側波(nは1以上の整数)と、前記中間信号の(-n)次側波と、の位相差を算出する、位相差算出手段と、
前記変調信号を(2n)逓倍した基準信号の位相を基準位相として算出する、基準位相算出手段と、
前記位相差と前記基準位相との差分に基づいて、前記目標との距離を算出する、距離算出手段と、
を備え
前記位相差算出手段は、前記中間信号をフーリエ変換処理して、前記(+n)次側波と前記(-n)次側波を検出し、前記(+n)次側波の位相および前記(-n)次側波の位相に基づいて、前記位相差を算出する、
測距装置。
【請求項2】
前記送受信信号混合手段は、前記送信信号を周波数変換したローカル信号と前記受信信号とを混合し、前記中間信号を生成する、請求項1に記載の測距装置。
【請求項3】
前記測距装置は、当該測距装置の高度を取得する高度取得手段と、
前記高度と鉛直方向の前記距離とに基づいて、前記目標の高度を算出する高度算出手段と、をさらに備える、請求項1または2記載の測距装置。
【請求項4】
変調信号を用いて搬送波を周波数変調することにより送信信号を生成し、
前記送信信号をレーダー波として送信し、
前記レーダー波が目標で反射された反射波を受信信号として受信し、
前記送信信号と前記受信信号とを混合することにより中間信号を生成し、
前記中間信号の(+n)次側波(nは1以上の整数)と、前記中間信号の(-n)次側波と、の位相差を算出し、
前記変調信号を(2n)逓倍した基準信号の位相を基準位相として算出し、
前記位相差と前記基準位相との差分に基づいて、前記目標との距離を測定する、
測距方法であって、
前記中間信号をフーリエ変換処理して、前記(+n)次側波の位相と前記(-n)次側波の位相を検出し、前記(+n)次側波の位相および前記(-n)次側波の位相に基づいて、前記位相差を算出する、
測距方法。
【請求項5】
前記送信信号を周波数変換したローカル信号と前記受信信号とを混合し、前記中間信号を生成する、請求項に記載の測距方法。
【請求項6】
測距装置の高度を取得し、
前記高度と鉛直方向の前記距離とに基づいて、前記目標の高度を算出する、請求項4または5に記載の測距方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測距装置および測距方法に関する。
【背景技術】
【0002】
レーダーとは、目標に向けて電波を送信し、反射波を受信する装置である。パルス波を送信するレーダーを、パルスレーダーという。パルスレーダーは、送信パルスの送信時刻と受信パルスの受信時刻との時間差に基づいて目標との距離を測定する。
【0003】
一方、パルス波ではなく連続波を用いるレーダーも存在する。特許文献1は、変調信号を用いて連続波を変調し、被測定物体に向けて送信する測距装置を開示している。当該測距装置は、変調信号と受信信号との位相差に基づいて、被測定物体との距離を測定することが可能である。
【0004】
送信信号は、ノイズの発生、素子の非直線性等の誤差要因による影響を受ける。特許文献1に記載の測距装置において、変調信号の位相と送信信号の位相との間に誤差が生じると、変調信号の位相と受信信号の位相との間にも当該誤差が含まれることとなる。このような場合、測距装置は、被測定物体との距離を正確に測定することができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平05-203732号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の様に、送信信号の位相に含まれる誤差によって、測距装置と被測定物体との距離を正確に測定することができないという問題があった。
【0007】
本開示は上記課題を解決するためにされたものであって、送信信号に含まれる誤差の影響を低減することが可能な測距装置および測距方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示にかかる測距装置は、変調信号を用いて搬送波を周波数変調することにより送信信号を生成する、周波数変調手段と、前記送信信号をレーダー波として送信し、前記レーダー波が目標で反射された反射波を受信信号として受信する、レーダー波送受信手段と、前記送信信号と前記受信信号とを混合することにより中間信号を生成する、送受信信号混合手段と、前記中間信号の(+n)次側波(nは1以上の整数)と、前記中間信号の(-n)次側波と、の位相差を算出する、位相差算出手段と、前記変調信号を(2n)逓倍した基準信号の位相を基準位相として算出する、基準位相算出手段と、前記位相差と前記基準位相との差分に基づいて、前記目標との距離を算出する、距離算出手段と、を備えるものである。
【0009】
本開示にかかる測距方法は、変調信号を用いて搬送波を周波数変調することにより送信信号を生成し、前記送信信号をレーダー波として送信し、前記レーダー波が目標で反射された反射波を受信信号として受信し、前記送信信号と前記受信信号とを混合することにより中間信号を生成し、前記中間信号の(+n)次側波(nは1以上の整数)と、前記中間信号の(-n)次側波と、の位相差を算出し、前記変調信号を(2n)逓倍した基準信号の位相を基準位相として算出し、前記位相差と前記基準位相との差分に基づいて、前記目標との距離を測定する、ものである。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、送信信号に含まれる誤差の影響を低減することが可能な測距装置および測距方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施の形態1にかかる測距装置の機能構成を示す構成図である。
図2】実施の形態1にかかる測距装置における処理の流れを示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<実施の形態1>
図1は、本実施の形態にかかる測距装置100の機能構成を示す構成図である。測距装置100は、周波数変調部110、レーダー波送受信部120、送受信信号混合部130、位相差算出部140、基準位相算出部150および距離算出部160を備える。
【0013】
周波数変調部110は、変調信号を用いて搬送波を周波数変調し、送信信号を生成する。変調信号は、例えば、正弦波信号である。レーダー波送受信部120は、周波数変調部110が生成した送信信号をレーダー波として送信し、当該レーダー波が目標で反射された反射波を受信信号として受信する。目標とは、レーダー波により測距を行う対象、つまり被測定物体である。目標は、飛行機、乗用車であってもよく、海面の波であってもよい。
【0014】
送受信信号混合部130は、送信信号と受信信号とを混合し、中間信号を生成する。混合処理によって、送信信号と受信信号との両方に含まれている誤差要因を相殺することが可能となる。
【0015】
位相差算出部140は、中間信号の(+n)次側波と、中間信号の(-n)次側波との位相差を算出する。周波数変調を行った信号は、変調周波数を整数倍した周波数に対応する高調波成分を含むことが知られている。(+n)次側波とは、変調周波数をn倍した周波数に対応する周波数の信号である。(-n)次側波とは、変調周波数を(-n)倍した周波数に対応する周波数の信号である。ここで、nの値は、測定対象となる目標ごとに適切に設定されてもよい。nは、1以上の整数である。
【0016】
位相差算出部140は、中間信号をフーリエ変換処理して、(+n)次側波と(-n)次側波を検出し、当該(+n)次側波の位相および当該(-n)次側波の位相を算出し、差分を取る処理を行うことによって位相差を計算してもよい。フーリエ変換処理は、例えば、FFT(Fast Fourier Transform)処理である。
【0017】
基準位相算出部150は、変調信号を(2n)逓倍した基準信号の位相を基準位相として算出する。基準位相の算出方法については後述する。距離算出部160は、上述した基準位相と、位相差算出部140が算出した位相差との差に基づいて、目標との距離を算出する。距離を算出する式については、後述する。
【0018】
本実施の形態にかかる測距装置は、送信信号と受信信号とを混合し誤差を相殺した上で、混合された信号の側波の位相差に基づいて被測定物体との距離を計測する。したがって、装置内部の誤差によらず、高精度の測距が可能となる。
【0019】
図2は、本実施の形態における処理の流れの例を示すブロック図である。図1の各機能と対応する箇所には、同一の符号を付している。まず、測距装置100は、基準として用いられる変調信号fを生成する(S101)。変調信号fは、式(1)で表される。ωは、偏移角速度である。変調信号fは、周波数変調部110と基準位相算出部150とに分配される。
【0020】
【数1】
【0021】
周波数変調部110は、変調信号を用いて搬送波を周波数変調し、式(2)に示す送信信号fを生成する(S111)。Aは、振幅値である。振幅値は、任意の値であってよい。ωは、キャリア角速度といい、搬送波の角速度を表す。mfは、変調指数である。送信信号は、レーダー波送受信部120および送受信信号混合部130に分配される。
【0022】
【数2】
【0023】
次に、レーダー波送受信部120における処理について説明する。送信信号fは、マジックT125およびアンテナ127を介し、目標に向けて送信される(S121)。なお、マジックT125の代わりにサーキュレータを用いてもよい。レーダー波送受信部120は、目標によって反射されたエコー信号(受信信号)を、アンテナ127およびマジックT125を介して受信する(S122)。受信信号fは、式(3)で表される。Bは、任意の振幅値である。τは、遅延時間である。受信信号fは、送信信号fに対し、レーダー波が目標との間を往復する時間τ分遅れた信号となる。
【0024】
【数3】
【0025】
次に、送受信信号混合部130における処理について説明する。まず、送受信信号混合部130は、送信信号の周波数をシフトするために用いられるローカル周波数信号を生成する(S131)。次に、送受信信号混合部130は、平衡ミキサによってローカル周波数信号と送信信号fとを混合し、ローカル信号fを生成する(S132)。ローカル信号fは、式(4)で表される。Cは、任意の振幅値である。ωは、ローカル角速度であり、ローカル周波数信号の角速度を表す。ローカル信号fは、送信信号fをローカル周波数分だけシフトした信号となっている。
【0026】
【数4】
【0027】
次に、送受信信号混合部130は、受信ミキサを用いて受信信号fとローカル信号fとを混合し、周波数変換を行う(S133)。次に、送受信信号混合部130は、ローパスフィルタ(LPF:Low-Pass Filter)を用いて受信ミキサから出力された信号の低周波成分を抽出する(S134)。上述した処理によって、式(5)に示す中間信号frlが生成される。なお、式(5)のMは、式(6)で表される。また、式(5)のφは、式(7)で表される。Dは、振幅値である。
【0028】
【数5】
【0029】
【数6】
【0030】
【数7】
【0031】
次に、位相差算出部140における処理について説明する。位相差算出部140は、中間信号frlをFFT(Fast Fourier Transform)処理する(S141)。次に、位相差算出部140は、FFT処理の結果から+n次側波を検出し、+n次側波の位相を検出する。つまり、測距装置は、FFTの結果から(+n)次側波のピークを検出し(S142)、当該ピークの周波数における位相をFFT結果から取得する(S143)。検出された(+n)次側波の位相θ+nは、式(8)で表される。
【0032】
【数8】
【0033】
位相差算出部140は、(+n)次側波における処理(S142~S143)と同様に、FFT処理の結果から(-n)次側波を検出し(S144)、(-n)次側波の位相を検出する(S145)。検出された(-n)次側波の位相θ-nは、式(9)で表される。
【0034】
【数9】
【0035】
次に、位相差算出部140は、θ+nとθ―nとの差分をとる処理を行うことにより、±n次側波の位相差θを算出する(S146)。θは、式(10)で表される。
【0036】
【数10】
【0037】
次に、基準位相算出部150における処理について説明する。基準位相算出部150は、変調信号の周波数を2n逓倍することにより基準信号fを生成する(S151)。なお、fの周波数(2*n*ω)は、(+n)次側波の周波数と(-n)次側波の周波数との差分になっている。基準信号fは、式(11)で表される。
【0038】
【数11】
【0039】
次に、基準位相算出部150は、基準信号fの位相θを検出する。位相検出は、例えば、基準信号に含まれるI成分とQ成分の逆正接を計算することにより算出されてもよい。ここで、I成分とは同相(In―Phase)成分を表し、Q成分とは直交位相(Quadrature)成分を表す。基準位相θbは、式(12)で表される。
【0040】
【数12】
【0041】
次に、距離算出部160における処理について説明する。まず、距離算出部160は、位相差θと基準位相θとの差分を取る処理を行い、当該差分を位相θとして算出する(S161)。位相θは、式(13)で表される。
【0042】
【数13】
【0043】
次に、距離算出部160は、位相θを距離Rに換算する(S162)。距離Rは、測距装置100と目標との間の距離を表す。距離Rは、式(14)で表される。cは、電波伝搬速度(光速度)である。
【0044】
【数14】
【0045】
なお、距離Rの変化に対する位相θの変化量は、式(15)で表される。上述のように本実施の形態は、周波数変調を行った連続波を用いて、送信信号と受信信号の位相差を検出することにより電波が往復する時間を測定する方式である。
【0046】
【数15】
【0047】
以上の動作によると、距離Rは、偏移角速度ωに反比例することとなる。本実施の形態にかかる測距装置100は、偏移角速度ωを基準とした連続波を用いて、距離Rに対応する位相θを連続計測する。したがって、パルスレーダーにおいて問題となるような装置自体の動揺、近傍反射、目標における反射位置の変動等による影響を軽減することができる。よって、本実施の形態によると、リアルタイムかつ高精度に測距を行うことが可能となる。
【0048】
以下、本実施の形態の効果について説明する。
関連する測距装置は、パルスレーダー方式を用いて目標との距離をリアルタイムに測定していた。パルスレーダーは、まず、目標に向けて電波を送信し、次に、目標から反射されたエコーを受信する。そして、電波が目標との間を往復する時間の変化を検出することにより、目標との距離を測定することが可能となる。
【0049】
パルスレーダーを高精度化するために、パルス圧縮等のアルゴリズムが採用されている。しかし、装置自体の動揺による電波のパスレングスの変動による誤差等の問題に対処することは困難であった。
【0050】
また、空中線の指向性の程度により、目標地点においてビームの広がりが生じる場合がある。このような場合、目標の反射点の変動による誤差の発生、目標の反射点の変化による測定結果における連続性の欠如といった問題が生じていた。さらに、装置内で生じるノイズ等の様々な誤差要因に対処することが困難であった。
【0051】
したがって、パルスレーダーの用途によっては、空中線の指向性の向上、分解能の向上、極めて立ち上がりが早く幅の狭いパルスの採用、補正アルゴリズムの採用等の対応を行う必要があった。さらに、用途によっては、計測する周波数、測距装置の設置環境等を制限しなければならないという問題があった。
【0052】
本実施の形態は、周波数変調を行った連続波を用いて、送信信号と受信信号との位相差を検出することにより、レーダー波が往復する時間を測定する。したがって、本実施の形態は、あらゆる周波数帯のあらゆる周波数で使用することが可能である。また、測定された距離と測距装置の高度とを組み合わせることにより、目標の絶対高度を計測することも可能となる。例えば、測距装置が航空機に搭載されている場合、測距装置の高度は、航空機が備える高度計により取得可能である。
【0053】
上述の実施の形態における各種の処理は、ハードウェアでもソフトウェアでも実現できる。例えば、任意の処理を、CPU(Central Processing Unit)にコンピュータプログラムを実行させることにより実現することも可能である。
【0054】
プログラムは、様々なタイプの非一時的なコンピュータ可読媒体(non-transitory computer readable medium)を用いて格納され、コンピュータに供給することができる。非一時的なコンピュータ可読媒体は、様々なタイプの実体のある記録媒体(tangible storage medium)を含む。非一時的なコンピュータ可読媒体の例は、磁気記録媒体(例えばフレキシブルディスク、磁気テープ、ハードディスクドライブ)、光磁気記録媒体(例えば光磁気ディスク)、CD-ROM(Read Only Memory)、CD-R、CD-R/W、半導体メモリ(例えば、マスクROM、PROM(Programmable ROM)、EPROM(Erasable PROM)、フラッシュROM、RAM(random access memory))を含む。また、プログラムは、様々なタイプの一時的なコンピュータ可読媒体(transitory computer readable medium)によってコンピュータに供給されてもよい。一時的なコンピュータ可読媒体の例は、電気信号、光信号、及び電磁波を含む。一時的なコンピュータ可読媒体は、電線及び光ファイバ等の有線通信路、又は無線通信路を介して、プログラムをコンピュータに供給できる。
【0055】
なお、本発明は上記実施の形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。
【符号の説明】
【0056】
100 測距装置
110 周波数変調部
120 レーダー波送受信部
125 マジックT
127 アンテナ
130 送受信信号混合部
140 位相差算出部
150 基準位相算出部
160 距離算出部
図1
図2