(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-04
(45)【発行日】2023-12-12
(54)【発明の名称】モータ制御装置、モータユニット、モータ制御方法
(51)【国際特許分類】
H02P 6/16 20160101AFI20231205BHJP
【FI】
H02P6/16
(21)【出願番号】P 2020086649
(22)【出願日】2020-05-18
【審査請求日】2022-11-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000144027
【氏名又は名称】株式会社ミツバ
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100196689
【氏名又は名称】鎌田 康一郎
(72)【発明者】
【氏名】大堀 竜
(72)【発明者】
【氏名】田井 貴
【審査官】安池 一貴
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-118661(JP,A)
【文献】特開2002-136168(JP,A)
【文献】特開2019-161933(JP,A)
【文献】特開平06-062592(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 6/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブラシレスモータにおいて、複数の相を有するコイルに通電を行ってロータの回転制御を行うモータ制御装置であって、
前記ロータの回転位置を検出し、位置検出信号を出力する複数のセンサと、
前記位置検出信号に基づいて、前記ブラシレスモータの回転数が所定の閾値以下であるか否かを判定する回転数判定部と、
前記ブラシレスモータの回転数が前記閾値を超える場合選択される第1モードと、前記ブラシレスモータの回転数が前記閾値以下となる場合選択される第2モードと、を選択可能なモータ制御部と、
を有し、
前記モータ制御部は、前記複数のセンサのそれぞれの前記位置検出信号に基づいて設定される所定の通電タイミングで、前記コイルの前記複数の相にそれぞれ通電を行う通電制御部を有し、
前記通電制御部は、前記第1モードにおいて、前記複数のセンサの内の第1のセンサの前記位置検出信号に基づいて設定される所定の通電タイミングで、前記複数の相の内の第1の相に通電を行うとした場合、前記第2モードでは、前記第1のセンサの前記位置検出信号に基づいて設定される所定の通電タイミングで、前記複数の相の内の第2の相に通電を行い、
前記第1モードにおいて、前記第1のセンサの前記位置検出信号がオンとなるタイミングに対して前記第2の相への通電タイミングが進角しており、前記第2モードにおいて、前記第1のセンサの前記位置検出信号がオンとなるタイミングに対して前記第2の相への通電タイミングが遅角している、
モータ制御装置。
【請求項2】
前記ブラシレスモータにかかる負荷が高負荷であるか否かを判定する負荷判定部を有し、
前記モータ制御部は、
前記ブラシレスモータが高負荷であり、かつ、前記ブラシレスモータの回転数が前記閾値以下である場合であって、前記ブラシレスモータを前記第1モードで駆動している場合には、前記第1モードから前記第2モードに切り替える
請求項1記載のモータ制御装置。
【請求項3】
ワイパアームを揺動動作させるブラシレスワイパーモータ、
ルーフパネルを開閉動作させるブラシレスサンルーフモータ、
ブラシレスパワーウインドウモータ、
ブラシレスパワーシートモータ、
のうちいずれかのブラシレスモータと、
請求項1または請求項2に記載のモータ制御装置と、
を有するモータユニット。
【請求項4】
ブラシレスモータにおいて、複数の相を有するコイルに通電を行ってロータの回転制御を行うモータ制御装置におけるモータ制御方法であって、
複数のセンサにより、前記ロータの回転位置を検出し、位置検出信号を出力し、
前記位置検出信号に基づいて、前記ブラシレスモータの回転数が所定の閾値以下であるか否かを判定し、
前記ブラシレスモータの回転数が前記閾値を超える場合は第1モードを選択し、前記ブラシレスモータの回転数が前記閾値以下となる場合は第2モードを選択し、
前記複数のセンサのそれぞれの前記位置検出信号に基づいて設定される所定の通電タイミングで、前記コイルの前記複数の相にそれぞれ通電を行い、
前記第1モードにおいて、前記複数のセンサの内の第1のセンサの前記位置検出信号に基づいて設定される所定の通電タイミングで、前記複数の相の内の第1の相に通電を行うとした場合、前記第2モードでは、前記第1のセンサの前記位置検出信号に基づいて設定される所定の通電タイミングで、前記複数の相の内の第2の相に通電を行い、
前記第1モードにおいて、前記第1のセンサの前記位置検出信号がオンとなるタイミングに対して前記第2の相への通電タイミングを進角させ、前記第2モードにおいて、前記第1のセンサの前記位置検出信号がオンとなるタイミングに対して前記第2の相への通電タイミングを遅角させる
モータ制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ制御装置、モータユニット、モータ制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ブラシレスモータは、3相のコイルU、VおよびWを有するステータと、界磁用の永久磁石を有するロータとを備え、ロータの回転位置に応じてステータの通電制御を行うことで駆動される。ロータの回転位置は、例えば、ロータが有する磁極の位置あるいはロータと共に回転するセンサマグネットの磁極の位置を複数のホールセンサ等を用いて検出することで、取得されている。
ブラシレスモータの各相に対する通電タイミングは、これらの各ホールセンサから得られる検出信号を元に、マイコン内においてタイマにてカウント値を求め、このカウント値を元に、タイムアップ(計時完了)すると、この通電タイミングに従って、電圧がコイルに印加される。このようなブラシレスモータの各相に対する通電タイミングの制御は、モータ出力を向上させる観点から進角制御が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、あるモータ回転数において通常の駆動をしている状態から、急激に拘束状態にすると、モータ回転数が低下(減速)する。このような場合、モータ回転数が低下することから、ホールセンサによって位置検出する時間間隔が長くなる(検出信号の入力が遅れる)。そうすると、位置検出する時間間隔が長くなる(検出信号の入力タイミングが遅くなる)につれて、通電タイミングとの誤差が大きくなるため、実際のロータ位置に対し通電タイミングがずれてしまう(早くなってしまう)。また、ロータの位置を見失う現象が発生する。そのため、過度に進角した通電タイミングで電圧を印加することになり、それによりハンチングが起こり、モータの挙動が不安定になってしまう。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、その目的は、モータ回転数の減速時においてモータの挙動が不安定になってしまうことを低減することができるモータ制御装置、モータユニット、モータ制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決するために、本発明の一態様は、ブラシレスモータにおいて、複数の相を有するコイルに通電を行ってロータの回転制御を行うモータ制御装置であって、前記ロータの回転位置を検出し、位置検出信号を出力する複数のセンサと、前記位置検出信号に基づいて、前記ブラシレスモータの回転数が所定の閾値以下であるか否かを判定する回転数判定部と、前記ブラシレスモータの回転数が前記閾値を超える場合選択される第1モードと、前記ブラシレスモータの回転数が前記閾値以下となる場合選択される第2モードと、を選択可能なモータ制御部と、を有し、前記モータ制御部は、前記複数のセンサのそれぞれの前記位置検出信号に基づいて設定される所定の通電タイミングで、前記コイルの前記複数の相にそれぞれ通電を行う通電制御部を有し、前記通電制御部は、前記第1モードにおいて、前記複数のセンサの内の第1のセンサの前記位置検出信号に基づいて設定される所定の通電タイミングで、前記複数の相の内の第1の相に通電を行うとした場合、前記第2モードでは、前記第1のセンサの前記位置検出信号に基づいて設定される所定の通電タイミングで、前記複数の相の内の第2の相に通電を行い、前記第1モードにおいて、前記第1のセンサの前記位置検出信号がオンとなるタイミングに対して前記第2の相への通電タイミングが進角しており、前記第2モードにおいて、前記第1のセンサの前記位置検出信号がオンとなるタイミングに対して前記第2の相への通電タイミングが遅角している。
【発明の効果】
【0007】
以上説明したように、この発明によれば、モータ回転数の減速時においてモータの挙動が不安定になってしまうことを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本実施形態におけるモータ制御装置を備えたワイパ装置12を搭載した車両10のフロントガラス11を示す概略構成の一例を示す図である。
【
図2】本実施形態におけるモータユニット19の外観の一例を示す図である。
【
図3】モータユニット19のアンダーカバー28が取り外された状態の底面図である。
【
図4】本実施形態におけるワイパ装置12の制御系の概略構成の一例を示す図である。
【
図5】本実施形態における制御部54の概略構成の一例を示す図である。
【
図6】進角制御モードにおける、回転角検出部から得られる位置検出信号と、U、V、W各相の通電タイミングの関係を説明するタイミングチャートである。
【
図7】遅角制御モードにおける、回転角検出部39から得られる位置検出信号と、U、V、W各相の通電タイミングの関係を説明するタイミングチャートである。
【
図8】モータ制御装置33の動作を説明するフローチャートである。
【
図9A】進角制御モードにおいて定常駆動から減速した後、拘束した場合における三相の電流波形を示す図である。
【
図9B】進角制御モードにおいて定常駆動から減速状態に移行した場合における三相の電流波形を示す図である。
【
図10】進角制御モードから遅角制御モードに切り替える機能を用いつつ、定常駆動から減速した後、モータを拘束した場合における三相の電流波形を示す図である。
【
図11】減速時に進角制御を行う場合と、減速時に遅角制御を行った場合における拘束トルクを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明の態様を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。なお、図面において、同一又は類似の部分には同一の符号を付して、重複する説明を省く場合がある。
【0010】
本実施形態のモータ制御装置は、ブラシレスモータを制御する。このようなブラシレスモータは、例えば、ワイパアームを揺動動作させるブラシレスモータ、ルーフパネルを開閉動作させるブラシレスサンルーフモータ、ブラシレスパワーウインドウモータ、ブラシレスパワーシートモータのいずれであってもよい。
以下に、本実施形態におけるモータ制御装置について、図を用いて説明する。ここでは、ブラシレスモータを用いてワイパアームを揺動動作させる場合を一例として説明する。
【0011】
図1は、本実施形態におけるモータ制御装置を備えたワイパ装置12を搭載した車両10のフロントガラス11を示す概略構成の一例を示す図である。
図1に示すように、車両10は、フロントガラス11及びワイパ装置12を備える。
ワイパ装置12は、フロントガラス11を払拭する。
ワイパ装置12は、ワイパアーム14,16、ワイパブレード17,18、モータユニット19及び動力伝達機構20を備える。
ワイパアーム14は、ピボット軸13を中心として揺動する。ワイパアーム16は、ピボット軸15を中心として揺動する。
ワイパブレード17は、ワイパアーム14の自由端に取り付けられている。ワイパブレード18は、ワイパアーム16の自由端に取り付けられている。
モータユニット19は、ワイパアーム14,16を駆動する。本実施形態では、モータユニット19の動力は、レバー、リンク等により構成された動力伝達機構20を経由して、ワイパアーム14,16に個別に伝達される。
【0012】
図2は、本実施形態におけるモータユニット19の外観の一例を示す図である。
図3は、
図2に示すモータユニット19のアンダーカバー28が取り外された状態の底面図である。
図2に示すように、モータユニット19の外観は、主としてケース23及びフレーム24によって構成される。
ケース23は、有底円筒形状を備えている。フレーム24は、中空の形状を備えている。フレーム24とケース23とは、図示しない締結部材により固定されている。
【0013】
図3に示すように、モータユニット19は、ブラシレスモータ30、ロータ軸22a、開口部24a、ウォームホイール25、出力軸26、減速機構27、アンダーカバー28、制御基板29、センサマグネット38及びモータ制御装置33を備える。
【0014】
ブラシレスモータ30は、モータ制御装置33の制御指示に基づいてワイパアーム14,16を揺動動作させる。
例えば、ブラシレスモータ30は、3相4極形であるブラシレスモータである。
ブラシレスモータ30は、ステータ21及びロータ(回転子)22を備える。
ステータ21は、ケース23の内周に固定されている。ステータ21は、3相の電機子コイル21u,21v,21wを備える。ステータ21は、その電機子コイル21u,21v,21wが巻装されている。例えば、3相の電機子コイル21u,21v,21wは、一端の中性点で接続されるデルタ結線により接続される。ただし、デルタ結線に限らず、Y結線であってもよい。また、ブラシレスモータ30は、各電機子コイル21u,21v,21wが、正極及び負極の両方として機能するモータである。
【0015】
例えば、ロータ22は、ステータ21の内側に設けられている。ロータ22は、ロータ軸22aと、ロータ軸22aに取り付けた4極の永久磁石22bとを備える。ケース23内には複数の軸受(不図示)が設けられており、ロータ軸22aは、複数の軸受により回転可能に支持されている。
なお、
図3に示すようにロータ22は、ステータ21の内側に配置されたインナロータ形の構造であるが、ロータ22がステータ21の外側に配置されたアウターロータ形の構造であってもよい。
【0016】
ロータ軸22aは、長さ方向の略半分がケース23の内部に配置されており、残りの略半分がフレーム24内に配置されている。
ロータ軸22aのうちフレーム24内に配置された部分の外周には、減速機構27が形成されている。減速機構27は、ウォーム22c及びギヤ25aを備える。
ウォーム22cは、フレーム24内に配置されたロータ軸22aの外周に設けられている。ギヤ25aは、フレーム24内に設けられたウォームホイール25の外周に形成されている。ギヤ25aは、ウォーム22cと噛合されている。
【0017】
ウォームホイール25は、出力軸26と一体回転するように構成されている。減速機構27は、ロータ22の動力を出力軸26に伝達する際に、ロータ22の回転数(入力回転数)よりも出力軸26の回転数(出力回転数)を低くする。また、
図2において、フレーム24の上部には、図示しない軸孔が設けられている。出力軸26におけるウォームホイール25が固定された端部に対して反対側の端部は、フレーム24の軸孔を経由して外部に露出している。出力軸26におけるフレーム24の外部に露出した部分には、
図1に示すように動力伝達機構20が連結されている。
【0018】
開口部24aは、フレーム24における軸孔の反対側の部分に設けられている。開口部24aは、フレーム24の内部にウォームホイール25等を取り付けるために形成されたものである。アンダーカバー28は、開口部24aを塞ぐように設けられている。アンダーカバー28はトレイ形状を備えている。
制御基板29は、アンダーカバー28とフレーム24とにより取り囲まれた空間に設けられている。
図2に示すように、例えば、制御基板29はアンダーカバー28に取り付けられる。この制御基板29には、ブラシレスモータ30を制御するモータ制御装置33が設けられている。
【0019】
センサマグネット38は、ロータ軸22aのうちフレーム24内に配置された箇所に設けられている。センサマグネット38は、ロータ軸22aと一体回転する。センサマグネット38は、ロータ軸22aの円周方向に沿って、N極とS極とが交互に並ぶように着磁されている。
【0020】
以下に、本実施形態におけるモータ制御装置33について、図面を用いて説明する。
図4は、本実施形態におけるワイパ装置12の制御系の概略構成の一例を示す図である。ワイパ装置12は、ワイパスイッチ37、回転角検出部39、車速センサ40及びモータ制御装置33を備える。
【0021】
ワイパスイッチ37は、車両10の車室内に備えられている。
ワイパスイッチ37は、ワイパアーム14,16を揺動動作させるスイッチである。
ワイパスイッチ37は、ワイパアーム14,16を低速(例えば、予め設定された速度)で動作させる低速作動モード、ワイパアーム14,16を低速作動モードより高速で動作させる高速作動モード、及びワイパアーム14,16の揺動動作を停止させる停止モードの各モードに切り換え可能である。
【0022】
ワイパスイッチ37は、運転者により操作されることで、その操作を示す操作信号をモータ制御装置33に出力する。例えば、運転者は、降雨量、降雪量等の条件に基づいて、ワイパスイッチ37を操作することでワイパアーム14,16の払拭速度を切り替えることができる。運転者は、降雨量、降雪量が少ないとき、ワイパスイッチ37を操作することでワイパアーム14,16を予め定められた低速で動作させる低速作動モードを選択することができる。この場合、ワイパスイッチ37は、運転者による、低速作動モードを選択する操作に基づいて、低速作動モードを示す低速作動モード信号を操作信号としてモータ制御装置33に出力する。
【0023】
一方、運転者は、降雨量、降雪量が多いとき、ワイパスイッチ37を操作して、ワイパアーム14,16を、上記の低速よりも高速で動作させる高速作動モードを選択することができる。この場合、ワイパスイッチ37は、運転者による、高速作動モードを選択する操作に基づいて、高速作動モードを示す高速作動モード信号を操作信号としてモータ制御装置33に出力する。
【0024】
また、運転者によりワイパスイッチ37に対してワイパアーム14,16の揺動動作を停止させる操作が行われた場合に、ワイパスイッチ37は、停止モードを示す停止モード信号を操作信号としてモータ制御装置33に出力する。
【0025】
車速センサ40は、車両10に設けられている。車速センサ40は、車両10の走行速度(以下、「車速」という。)Vを計測する。車速センサ40は、計測した車両10の車速Vをモータ制御装置33に出力する。
【0026】
回転角検出部39は、ロータ22の回転に応じた信号を検出する。例えば、回転角検出部39は、3つのホールIC(U相センサ、V相センサ、W相センサ)を備え、ロータ軸22aを中心として磁気的に互いに120度となる位置に設けられている。これらの3つのホールICは、ロータ22が回転すると、それぞれ互いに120度位相のずれたパルス信号をモータ制御装置33に対して出力する。すなわち、回転角検出部39は、ロータ22の回転に伴い、センサマグネット38の磁極の変化に基づいたパルス信号を発生し、モータ制御装置33に出力する。
【0027】
モータ制御装置33は、インバータ52及び制御部54を備える。
インバータ52は、3相ブリッジ接続された6個のスイッチング素子52a~52fと、各スイッチング素子52a~52fのそれぞれのコレクタ-エミッタ間に逆並列に接続されたダイオード53a~53fとを備える。各スイッチング素子52a~52fは、例えば、FET(Field Effect Transistor;電界効果トランジスタ)、又はIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor;絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)である。ブリッジ接続された6個のスイッチング素子52a~52fの各ゲートは制御部54に接続される。
【0028】
スイッチング素子52a~52fのドレインまたはソース(コレクタまたはエミッタ)は、デルタ結線された電機子コイル21u,21v,21wに接続される。これにより、6個のスイッチング素子52a~52fは、制御部54から出力される駆動信号(ゲート信号)に基づいてスイッチング動作を行い、インバータ52に印加される直流電源51の電源電圧を、3相(U相、V相、W相)の交流電圧として、電機子コイル21u,21v,21wに通電信号として供給する。
【0029】
制御部54は、回転角検出部39から供給されるパルス信号に基づいて、ロータ22の回転位置を決定する。また、制御部54は、パルス信号に基づいて、ロータ22の回転数を検出する。
【0030】
以下に、本実施形態における制御部54について、
図5を用いて説明する。
図5は、本実施形態における制御部54の概略構成の一例を示す図である。
制御部54は、位置検出部61、負荷判定部62、ワイパモード判定部63及び駆動制御部64を備える。
【0031】
位置検出部61は、回転角検出部39から供給されるパルス信号に基づいて、ロータ22の回転位置を検出する。位置検出部61は、検出したロータ22の回転位置を駆動制御部64に出力する。
【0032】
負荷判定部62は、ブラシレスモータにかかる負荷が高負荷であるか否かを判定する。
例えば、負荷判定部62は、モータに印加する電圧の出力デューティと、過負荷判定基準値とを対応付けられた判定データを参照することで、現在のロータ回転数に応じた出力デューティの過負荷判定基準値を読み出し、現在モータに印加されている電圧の出力デューティが、当該読み出した過負荷判定基準値を超えているか否かを判定する。ここでは、負荷判定部62は、現在の出力デューティが過負荷判定基準値を超えている場合には、過負荷状態であると判定する。すなわち、負荷判定部62は、ブラシレスモータにかかる負荷が高負荷であると判定する。一方、現在の出力デューティが過負荷判定基準値を超えていない場合には、負荷判定部62は、高負荷ではないと判定する。なお、判定データは、制御部54に設けられた記憶部に記憶しておき、負荷判定部62がこの記憶部を参照するようにしてもよい。
【0033】
また、負荷判定部62は、出力デューティに基づいて高負荷であるか否かを判定することができるが、高負荷状態の検出は、車速センサ40からの出力を用いるようにしてもよい。
この場合、負荷判定部62は、車速センサ40が計測した車速Vが予め設定された所定値Vthを超えたか否かを判定する。負荷判定部62は、車速センサ40が計測した車速Vが所定値Vthを超えた場合に、ブラシレスモータ30の負荷が高負荷であると判定する。負荷判定部62は、ブラシレスモータ30の負荷が高負荷であると判定した場合に、その判定結果を示す高負荷信号をワイパモード判定部63に出力する。これは、車両10の車速Vが上がると、車両10のフロントガラス11への風量が増大し、フロントガラス11上を払拭するワイパブレード17,18の動きが妨げられるためである。
【0034】
ワイパモード判定部63は、ブラシレスモータ30を低出力モードで駆動するか、高出力モードで駆動するか、又はブラシレスモータ30の駆動を停止するかのいずれかであるかを判定する。
ワイパモード判定部63は、ワイパスイッチ37から低速作動モード信号を取得した場合に、ブラシレスモータ30を低出力モードで駆動すると判定し、低出力モードを示す低出力モード信号を駆動制御部64に出力する。
ワイパモード判定部63は、ワイパスイッチ37から高速作動モード信号を取得した場合に、ブラシレスモータ30を高出力モードで駆動すると判定し、高出力モードを示す高出力モード信号を駆動制御部64に出力する。また、ワイパモード判定部63は、負荷判定部62から高負荷信号を取得した場合に、ブラシレスモータ30を高出力モードで駆動すると判定し、高出力モードを示す高出力モード信号を駆動制御部64に出力する。
【0035】
ワイパモード判定部63は、ワイパスイッチ37から停止モード信号を取得した場合に、ブラシレスモータ30の駆動を停止させる判定をし、ブラシレスモータ30の駆動の停止を示す停止信号を駆動制御部64に出力する。
【0036】
駆動制御部64は、回転数判定部641と、通電制御部642とを含む。
回転数判定部641は、ブラシレスモータ30の回転数が所定の閾値以下であるか否かを判定する。
この閾値は、例えば、モータがロックする一定程度前の速度を用いることができる。閾値として、モータがロックする一定程度前の速度を用いた場合、回転数判定部641は、モータがロックする可能性があり、モータの回転数がモータロックの少し前の速度であることを把握することができる。この閾値は任意に設定することができる。
【0037】
通電制御部642は、回転角検出部39のホールICが出力する位置検出信号に基づいて設定される所定の通電タイミングで、3相の電機子コイル21u,21v,21wにそれぞれ通電を行う。すなわち、通電制御部642は、制御部54に設けられたタイマーにより、位置検出信号のオンまたはオフのタイミングを始点としてカウントを行い、所定のタイマカウント値のタイミングで3相の電機子コイル21u,21v,21wに通電する。このタイマカウント値は、ロータ22の回転における1周期前の位置検出信号のオンまたはオフのタイミングの記録から算出される値を用いる。これにより、通電制御部642は、回転数(回転速度)に応じて通電タイミングを可変させる。通電制御部642は、モータの回転数が一定速度である場合や加速している場合には、ホールICから得られた位置検出信号を基準として進角タイミングで通電する進角制御を行い、モータが減速している場合には、モータが停止する前に、ホールICから得られた位置検出信号を基準として遅角タイミングで通電する遅角制御を行う。
具体的に、通電制御部642は、回転数判定部641によりブラシレスモータ30の回転数が所定の閾値を超える場合選択される進角制御モード(第1モード)と、ブラシレスモータ30の回転数が所定の閾値以下となる場合選択される遅角制御モード(第2モード)と、を選択可能である。
通電制御部642は、進角制御モードにおいて、3つのホールICの内のある1つのホールIC(第1のセンサ)の位置検出信号に基づいて設定される所定の通電タイミングで、3相の電機子コイル21u,21v,21wの内のある1つの相(第1の相)に通電を行うとした場合、遅角制御モードでは、この第1のセンサの位置検出信号に基づいて設定される所定の通電タイミングで、3相の電機子コイル21u,21v,21wの内の第1の相とは異なる第2の相に通電を行う。そして、通電制御部642は、進角制御モードにおいて、第1のセンサの位置検出信号がオンとなるタイミングに対して第2の相への通電タイミングが進角しており、遅角制御モードにおいて、第1のセンサの位置検出信号がオンとなるタイミングに対して前記第2の相への通電タイミングが遅角となるように通電する。
【0038】
一般的なモータ制御では、ホールICから出力される位置検出信号に基づくロータの位置に対し、回転速度に応じて通電タイミングを早める進角制御を行うが、上述のように、本実施形態においては、低速領域(減速時)において位置検出信号が示す位置に対し、通電タイミングを遅らせる(遅角)制御方式を用いる。
ここでいう遅角は、位置検出信号が得られるタイミングを基準とし、電気角が遅いタイミングである。
これにより、本実施形態によれば、低速領域(減速時)における遅角通電を行うことで減速時に位置検出信号の入力が遅れても、実際のロータ位置に対し、過度に進角した通電タイミングで電圧を印加してしまわないようにすることができる。
【0039】
なお、通電制御部642は、ロータがほぼ停止しており、ロータの位置推定が不可能である状態からモータを駆動する起動モードを有していてもよい。この起動モードでは、ホールICの位置検出信号と同期したタイミングで通電して駆動する基準通電を行うようにしてもよい。
【0040】
通電制御部642は、ブラシレスモータ30が高負荷であり、かつ、ブラシレスモータ30の回転数が閾値以下である場合であって、ブラシレスモータ30を進角制御モードで駆動している場合には、進角制御モードから遅角制御モードに切り替える。遅角制御モードに切り替えることで、遅角制御をすることができる。
【0041】
図6、
図7を用いて、通電制御部642による制御の具体例を説明する。
図6、
図7は、回転角検出部39のホールIC(U相センサ、V相センサ、W相センサ)から得られる位置検出信号と、電機子コイル21u(U相)、電機子コイル21v(V相)、電機子コイル21w(W相)の各相への通電タイミングとの関係を説明するタイミングチャートである。
図6は、ブラシレスモータ30の一定速時または加速時、つまり進角制御モードにおいて、従来のような進角制御を行う場合における位置検出信号と通電タイミングとの関係を説明するタイミングチャートである。電気角0°において、U相センサの位置検出信号がオンになると(符号600)、通電制御部642は、タイマにてカウントを開始し、所定のタイマカウント値のカウント後、カウントを終了し、カウントが終了すると同時にW相へ負の電圧の通電を開始する(符号601)。また、電気角120°において、V相センサの位置検出信号がオンになると(符号602)、通電制御部642は、タイマにてカウントを開始し、所定のタイマカウント値のカウント後、カウントを終了し、カウントが終了すると同時にU相へ負の電圧の通電を開始する(符号603)。また、電気角240°において、W相センサの位置検出信号がオンになると(符号604)、通電制御部642は、タイマにてカウントを開始し、所定のタイマカウント値のカウント後、カウントを終了し、カウントが終了すると同時にV相へ負の電圧の通電を開始する(符号605)。
また、電気角180°において、U相センサの位置検出信号がオフになると(符号610)、通電制御部642は、タイマにてカウントを開始し、所定のタイマカウント値のカウント後、カウントを終了し、カウントが終了すると同時にW相へ正の電圧の通電を開始する(符号611)。また、電気角300°において、V相センサの位置検出信号がオフになると(符号612)、通電制御部642は、タイマにてカウントを開始し、所定のタイマカウント値のカウント後、カウントを終了し、カウントが終了すると同時にU相へ正の電圧の通電を開始する(符号613)。また、電気角60°において、W相センサの位置検出信号がオフになると(符号614)、通電制御部642は、タイマにてカウントを開始し、所定のタイマカウント値のカウント後、カウントを終了し、カウントが終了すると同時にV相へ正の電圧の通電を開始する(符号615)。
これにより、U相への通電タイミングは、U相センサがオンまたはオフとなるタイミングに対して進角している。また、V相への通電タイミングは、V相センサがオンまたはオフとなるタイミングに対して進角している。また、W相への通電タイミングは、W相センサがオンまたはオフとなるタイミングに対して進角している。
【0042】
次に、ブラシレスモータ30の回転数が所定の閾値以下となっても、上述した進角制御を継続して行った場合について
図6を用いて説明する。
W相センサの位置検出信号がオンになると(符号604)、通電制御部642は、タイマにてカウントを開始する。この際に使用するタイマカウント値は1周期前のデータから算出されるため、この間にブラシレスモータ30の回転数が所定の閾値以下となった場合は、ロータ22が想定していた角度に到達する前にカウントが終了してしまい、V相への通電タイミングが過度に進角したタイミング(符号616)となる。
このような通電タイミングのずれは、W相センサの位置検出信号がオンになる場合だけでなく、位置検出信号がオフになるタイミングにおいても起こりうる。
また、このような通電タイミングのずれは、W相のみではなく、V相、U相のいずれの相においても起こりうる。
【0043】
これに対し、本実施形態において、通電制御部642は、減速時において遅角制御を行う。
図7は、ブラシレスモータ30の減速時、つまり遅角制御モードにおいて、通電制御部642が遅角制御を行う場合における位置検出信号と通電タイミングの関係を説明するタイミングチャートである。
電気角0°において、U相センサの位置検出信号がオンになると(符号700)、通電制御部642は、タイマにてカウントを開始し、所定のタイマカウント値のカウント後、カウントを終了し、カウントが終了すると同時にU相へ正の電圧の通電を開始する(符号701)。電気角120°において、V相センサの位置検出信号がオンになると(符号702)、通電制御部642は、タイマにてカウントを開始し、所定のタイマカウント値のカウント後、カウントを終了し、カウントが終了すると同時にV相へ正の電圧の通電を開始する(符号703)。電気角240°において、W相センサの位置検出信号がオンになると(符号704)、通電制御部642は、タイマにてカウントを開始し、所定のタイマカウント値のカウント後、カウントを終了し、カウントが終了すると同時にW相へ正の電圧の通電を開始する(符号705)。
また、電気角180°において、U相センサの位置検出信号がオフになると(符号710)、通電制御部642は、タイマにてカウントを開始し、所定のタイマカウント値のカウント後、カウントを終了し、カウントが終了すると同時にU相へ負の電圧の通電を開始する(符号711)。また、電気角300°において、V相センサの位置検出信号がオフになると(符号712)、通電制御部642は、タイマにてカウントを開始し、所定のタイマカウント値のカウント後、カウントを終了し、カウントが終了すると同時にV相へ負の電圧の通電を開始する(符号713)。また、電気角60°において、W相センサの位置検出信号がオフになると(符号714)、通電制御部642は、タイマにてカウントを開始し、所定のタイマカウント値のカウント後、カウントを終了し、カウントが終了すると同時にW相へ負の電圧の通電を開始する(符号715)。
これにより、U相への通電タイミングは、U相センサがオンまたはオフとなるタイミングに対して遅角している。また、V相への通電タイミングは、V相センサがオンまたはオフとなるタイミングに対して遅角している。また、W相への通電タイミングは、W相センサがオンまたはオフとなるタイミングに対して遅角している。
ここで、遅角制御モードにおけるタイマカウント値は、進角制御モードと同様に、1周期前の位置検出信号のオンまたはオフのタイミングの記録から算出される値を用いる。
【0044】
このように、進角制御では、進角の基準となる位置検出信号を出力するセンサ(ホールIC)と異なるセンサ(ホールIC)の位置検出信号のオンまたはオフのタイミングを始点としてカウントを行う。例えば、進角の基準となる位置検出信号(符号604)を出力するセンサ(W相センサ)と異なるセンサ(U相センサ)の位置検出信号(符号610)のオンまたはオフのタイミングを始点としてカウントを行い、このカウントの結果に基づいて、W相へのオンまたはオフにする通電を行う。すなわち、W相の通電制御を行うにあたり、W相とは別の相のセンサ(ここではU相センサ)からの位置検出信号をカウントの始点として用いる。同様に、U相の通電制御を行うにあたり、U相とは別の相のセンサ(ここではV相センサ)からの位置検出信号をカウントの始点として用い、V相の通電制御を行うにあたり、V相とは別の相のセンサ(ここではW相センサ)からの位置検出信号をカウントの始点として用いる。そのため、仮に減速時において進角制御をする場合には、位置検出信号の1周期前のタイマカウント値を用いて、位置検出信号の次の周期において進角制御をしていたため、電気角を元にタイマカウントした時間が経過したとしても、ロータの回転角度は、電気角よりも少ない角度しか回転していない。そのため、進角の基準となるセンサ信号入力(例えば位置検出信号(符号604))が、想定していたタイミングよりも遅れることになるため、進角によって通電されたタイミング(例えば符号611)とセンサ信号入力(例えば位置検出信号(符号604))のタイミングが開くことになり、その結果として過度な進角状態となってしまう。
【0045】
一方、本実施形態によれば、減速時において遅角制御を行うようにしたので、常に次の位置検出信号が入ってくるまで通電を待つことができる。言い換えると、減速制御では、遅角の基準となる位置検出信号を出力するセンサ(ホールIC)と同じセンサ(ホールIC)の位置検出信号のオンまたはオフのタイミングを始点としてカウントを行う。このように、進角制御において通電タイミングのトリガーとして用いるセンサ信号と、遅角制御において通電タイミングのトリガーとして用いるセンサ信号は異なる。これにより、前々回に得られた位置検出信号と前回得られた位置検出信号とから、回転数が減少している(位置検出信号の検出時間の間隔が広くなっている)ことを制御部54が検知した場合、今回得られた位置検出信号が得られたタイミングを基準として電気角で遅角となるタイミングで通電することができる。そのため、減速時においてモータの回転数が低下するように変化していても、より新しい回転位置の情報を基に制御することができる。これにより、モータの減速状態であっても通電タイミングのずれを緩和することが可能となり、ハンチングを防止することができる。
また、この構成によれば、減速時に、電気角を遅角させるようにしたので、モータ減速時であっても、必ずホールICの位置検出信号が入力された後に通電が開始される。これにより、ホールICの位置検出信号が入力された時点でタイマカウント値を元に算出されるロータ位置情報が更新され、モータ減速時でも正確なロータ位置を把握することが可能になることでハンチングを防止することができ、モータの挙動が安定化する。
【0046】
また、遅角制御をするにあたり、遅角する電気角の範囲としては、位置検出信号を基準にして、電気角で0°<θ<30°の間にすることが望ましい。仮に、30°<θ<60°とすると、モータの減速による通電タイミングのずれを抑制できないおそれがある。
【0047】
次に、
図8は、制御部54の動作を説明するフローチャートである。
制御部54は、負荷判定部62により、出力デューティが過負荷判定基準値を超えているか否かを判定する(ステップS101)。出力デューティが過負荷判定基準値を超えている場合(ステップS101-YES)、制御部54は、回転数判定部641により、ブラシレスモータ30の回転数が所定の閾値以下であるか否かを判定する(ステップS102)。
そして制御部54は、ブラシレスモータ30の回転数が閾値以下である場合には(ステップS102-YES)、遅角制御モードに移行する。
例えば、モータの回転数が減速時であり、特にモータ回転数が閾値以下である場合には、モータがロック直前の状態であることを判定できるため、印加した電圧に対して電流の遅れが0に近い状態である。このような状況では、遅角制御をしたとしても進角制御をする場合と比べて、印加電圧に対する電流の遅れの差がほとんどない。そのため、減速時においては遅角制御を用いても制御上、影響がない。
【0048】
一方、ステップS101において、出力デューティが過負荷判定基準値を超えていない場合(ステップS101-NO)や、モータ回転数が閾値以下ではない場合(ステップS102-NO)には、制御部54は、進角制御モードに移行する。これにより、過負荷時、減速時ではない場合においては、進角制御モードにて制御するため、必要に応じたモータ出力を得ることができる。ステップS102だけでなくステップ101を設けることで、遅角制御モードに移行する条件を限定し、遅角制御モードが不要な場合は、モータのトルクや回転数での特性を向上できる進角制御モードを使用するように設定できる。例えば、ワイパブレードの反転位置付近ではモータが減速するが、デューティが過負荷判定基準値を超えていなければ進角制御モードを維持する。
【0049】
図9Aは、進角制御モードにおいて定常駆動から減速した後、拘束した場合における三相の電流波形を示す図である。
図9Aにおいて、縦軸は電流値を示し、横軸は時間を示す。
モータを減速させた場合、区間900に示すように、U相(符号911)、V相(符号912)、W相(符号913)の電流が、いずれも波形としては崩れた状態となっており、モータの駆動状態が不安定であることを示している。
図9Bは、進角制御モードにおいて定常駆動から減速状態に移行した場合における三相の電流波形とV相センサの位置検出信号を示す図である。
図9Bにおいて、縦軸は電流値を示し、横軸は電気角を示す。
区間(符号950)において、定常駆動時においては、U相(符号951)における電流値のピークに重なるようなタイミングでV相センサの位置検出信号(符号952)がオンになっているため、U相に印加された駆動電流と、その駆動電流に応じてロータが回転することによって検出された位置検出信号のタイミングが概ね一致しており、駆動状態としては安定しているといえる。
しかし、減速時においては、区間960に示すように、U相における電流値のピークから外れたタイミングでV相センサの位置検出信号がオンになっているため、U相に印加された駆動電流と、その駆動電流に応じてロータが回転することによって検出された位置検出信号のタイミングにずれが生じている。そのため、駆動状態としては安定していないといえる。
【0050】
ここで、
図10は、進角制御モードから遅角制御モードに切り替える機能を用いつつ、定常駆動から減速した後、モータを拘束した場合における三相の電流波形を示す図である。
図10において、縦軸は電流値を示し、横軸は時間を示す。
モータ減速時において、遅角制御モードによって通電した場合には、区間960に示すように、U相(符号961)、V相(符号962)、W相(符号963)の電流が、いずれも波形としては概ね相似しているともいえる関係にあり、乱れた波形にはなっていないため、モータの駆動状態が安定であることを示している。
【0051】
図11は、減速時に進角制御を行う場合と、減速時に上述した遅角制御を行った場合における拘束トルクを説明する図である。拘束トルクは、モータをロックさせる瞬間におけるトルクの値である。
縦軸はトルクを示し、横軸は進角制御または遅角制御のいずれの制御であるかを表している。縦棒は、全体値の範囲を表しており、縦棒の上端が最大値、縦棒の下端が最小値を表す。縦棒の上端と下端との間にある点は、全体値を対象として求めた平均値を表す。
進角制御では、全体値において最大値と最小値の差が大きいためトルクが安定しないことを表している。トルクが安定しないことから、モータロック時におけるトルクが低い場合や高い場合が生じてしまっており、拘束トルクにばらつきが生じている。そのため、ハンチングが発生しやすい。
一方、上述した遅角制御をする場合には、全体値において最大値と最小値の差が、進角制御における全体値の最大値と最小値との差よりも小さいため、進角制御に比べてトルクが安定していることを表している。これにより、ハンチング現象は、進角制御に比べて遅角制御の方が改善される。ハンチング現象が改善されることで、モータ拘束時におけるモータの挙動を安定させることができる為、拘束トルクが上昇する。ここでは、モータロック時においても安定したトルクを出力することができているため、拘束トルクもばらつきが抑えられている。さらに、モータの挙動が安定しているため、拘束トルクを高い値の範囲内に収めることができている。また、ハンチングを抑制することができていることから、進角制御を行う場合に比べて、モータをロックする位置をある程度絞ることができ、ロック位置のばらつきを抑えることができる。
【0052】
上述した実施形態における制御部54の機能をコンピュータで実現するようにしてもよい。その場合、この機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することによって実現してもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD-ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムを送信する場合の通信線のように、短時間の間、動的にプログラムを保持するもの、その場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリのように、一定時間プログラムを保持しているものも含んでもよい。また上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよく、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであってもよく、FPGA(Field Programmable Gate Array)等のプログラマブルロジックデバイスを用いて実現されるものであってもよい。
【0053】
以上、この発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計等も含まれる。
【符号の説明】
【0054】
30…ブラシレスモータ、33…モータ制御装置、38…センサマグネット、39…回転角検出部、40…車速センサ、54…制御部、61…位置検出部、62…負荷判定部、63…ワイパモード判定部、64…駆動制御部、641…回転数判定部、642…通電制御部