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特許7396678恒常性を示す生体模倣システムを模倣するための血液及び尿回路が組み込まれた新規微小流体デバイス
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-04
(45)【発行日】2023-12-12
(54)【発明の名称】恒常性を示す生体模倣システムを模倣するための血液及び尿回路が組み込まれた新規微小流体デバイス
(51)【国際特許分類】
   C12M 3/00 20060101AFI20231205BHJP
   C12M 3/06 20060101ALI20231205BHJP
   C12N 5/07 20100101ALI20231205BHJP
   C12N 5/079 20100101ALI20231205BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20231205BHJP
【FI】
C12M3/00 Z
C12M3/06
C12N5/07
C12N5/079
C12Q1/02
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020531470
(86)(22)【出願日】2018-12-21
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-03-04
(86)【国際出願番号】 EP2018086628
(87)【国際公開番号】W WO2019122349
(87)【国際公開日】2019-06-27
【審査請求日】2021-11-10
(31)【優先権主張番号】17210385.5
(32)【優先日】2017-12-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】62/609,567
(32)【優先日】2017-12-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】513277061
【氏名又は名称】ティスーゼ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】TissUse GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】110001302
【氏名又は名称】弁理士法人北青山インターナショナル
(72)【発明者】
【氏名】マルクス,ウーヴェ
(72)【発明者】
【氏名】デーナー,エヴァ-マリア
(72)【発明者】
【氏名】ハ-ゼンベルク,トビアス
【審査官】小田 浩代
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/086329(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0024346(US,A1)
【文献】国際公開第2011/040889(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/086486(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 5/00- 5/28
C12Q 1/00- 3/00
C12M 1/00- 3/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
微小流体デバイスであって、当該微小流体デバイスが、
(i)腸相当物を含む細胞培養コンパートメント、神経相当物を含む細胞培養コンパートメント、及び肝臓相当物を含む細胞培養コンパートメントを有する血液回路と、
(ii)有足細胞を含む生物学的障壁を含む濾過ユニット及び腎尿細管細胞を含む生物学的障壁を含む再吸収ユニットを有する尿回路と、
(iii)システムに栄養液を添加する機能を有する貯留コンパートメントと
を含み、
前記血液回路及び前記尿回路は、前記濾過ユニット及び前記再吸収ユニットを介して互いに連結され、前記濾過ユニットは、分子のサイズ及び電荷に基づき、前記血液回路から前記尿回路へ前記分子を選択的に通過させ、前記再吸収ユニットは、前記尿回路からの流体を前記血液回路に再吸収させ、
前記腸相当物を含む細胞培養コンパートメントにおいて栄養液が供給され、
前記細胞培養コンパートメントが微小流体網により相互に接続されている
ことを特徴とする微小流体デバイス。
【請求項2】
毒性試験、創薬スクリーニング及び/又は薬物動態-薬力学解析における、請求項1に記載の微小流体デバイスの使用。
【請求項3】
請求項1に記載の微小流体デバイスを動作させる方法であって、前記腸相当物を含む細胞培養コンパートメントを介して、前記微小流体デバイスに栄養液を選択的に添加するステップを備えることを特徴とする方法
【請求項4】
請求項1に記載の微小流体デバイスを用いて分析物を検出する方法であって、供試サンプルを前記血液回路の細胞培養コンパートメントに添加するステップを備えることを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項に記載の方法において、前記細胞培養コンパートメントは、胃腸管、皮膚又は気道の上皮細胞を含む組織を含むことを特徴とする方法。
【請求項6】
請求項1に記載の微小流体デバイスを動作させるステップを備える、恒常性を模倣する方法。
【請求項7】
請求項に記載の方法において、胃腸管、皮膚又は気道の上皮細胞を含む細胞培養コンパートメントを介して、前記微小流体デバイスに栄養液を選択的に添加するステップを備えることを特徴とする方法。
【請求項8】
請求項に記載の方法において、前記上皮細胞は、胃腸管の上皮細胞であることを特徴とする方法。
【請求項9】
請求項に記載の方法において、前記胃腸管の上皮細胞は、小腸の上皮細胞であることを特徴とする方法。
【請求項10】
請求項1に記載の微小流体デバイスに細胞を播種するステップを備える、細胞を培養及び/又は維持する方法。
【請求項11】
請求項1に記載の微小流体デバイス及び使用説明書を含む、キット。
【請求項12】
請求項1に記載の微小流体デバイスを含む、ADME(吸収、分布、代謝、排泄)試験又はADMET(吸収、分布、代謝、排泄、毒性)試験。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、新規な微小流体デバイス、及び生体模倣システムを動作させるためのその使用に関する。この新規微小流体デバイスは、ADME(T)プロファイリングに関する薬物動態-薬力学解析に特に有用である。本開示は、1つ以上の細胞培養コンパートメントを有する第1「血液」回路と、腎濾過及び再吸収ユニットを含む第2「尿」回路と、を含む新規微小流体デバイスであって、両回路は濾過ユニット及び再吸収ユニットを介して互いに連結されている、デバイスを提供する。更に本開示は、新規微小流体デバイスを組み込んだ(implement)方法、キット及び試験を提供する。
【背景技術】
【0002】
微小流体デバイスは、ヒト生物学をin vitroで生物学的に許容される最小スケールで模倣することができるものである。従来の(静置)細胞及び組織培養とは対照的に、生体模倣システムは、ヒトの細胞及び組織の使用を最小限にして臓器機能を模倣するための要素として、組織を生理的に栄養する(physiological nutrition)ための流体を動的に流動させるものである。多臓器チップの技術は、創薬及び毒性試験という点で、特に製薬業界から関心が寄せられている。多臓器チップモデルにより、複雑な生物学的プロセスの基礎的理解を高めることができると共に、医薬品のみならず化粧品についても、より短時間で、正確に、経済的に、且つ臨床的意義のある試験が行えると考えられている。したがって、当該技術分野において、微小流体デバイス上で実施される生体模倣システムを用いたin vitro試験は、in vivo試験よりも有効であると共に信頼性も高くなり得るという認識が高まっている。
【0003】
長時間に亘り安定な微環境を維持するための生理的条件を支援し、臓器機能を模倣する2種以上のモデルの生理的相互作用を模倣することが可能な、新規多臓器微小流体システムが当該技術分野において必要とされている。本開示は、具体的には、恒常性を示す生体模倣システムを確立する血液回路及び尿回路を特徴とする新規微小流体デバイスを提供することにより、この要求に対処するものである。
【0004】
Sakolish及びMahler(RSC Adv.,2017,7,4216-4225)は、特にヒト腎臓細胞の培養に使用される微小流体デバイス上に配置される糸球体及び尿細管の腎濾過障壁の配置図を記載している。Giobbeら(Nat.Methods,2015,12(7),637-640)は、ヒト多能性幹細胞をチップ上で機能的に分化させることを記載している。Zhangら(Future Sci.OA,2017,3(2),FS0197)は、微小流体デバイス上で幹細胞を培養及び分化して臓器チップとすることを記載している。
【発明の概要】
【0005】
本開示により提供される新規微小流体デバイスは、とりわけ、恒常性を示す生体模倣システムからデータを生成することができるように、1つのシステム内で2種以上の臓器機能の生理的相互作用を模倣することが可能である。この新規微小流体デバイスを用いて確立された生体模倣システムは、臓器機能を模倣する複数のモデルの相互作用及びクロストークを模倣するシステムにおいて、安定な微環境を維持するための生理的条件を支援するものである。
【0006】
本開示により提供される新規微小流体デバイスは、本明細書において実証するように、ヒトの臓器間のクロストーク、ADME経路及び臓器モデル間の全身的な(systemic)制御回路を模倣することが可能である。特に、この新規微小流体デバイスは、ADME(T)プロファイリングに関連する薬物動態-薬力学解析を行うための試験の確立に特に適した、安定な微環境を有する生体模倣システムを提供する。
【0007】
本開示により提供される新規微小流体デバイスは、オルガノイド又は組織工学に、誘導多能性幹細胞(iPSC)由来臓器特異的前駆細胞又はiPSC由来臓器特異的オルガノイドを用いるin vitro生体模倣システムを更に提供する。
【0008】
特に本開示は、以下を提供する:
[1]1つ以上の細胞培養コンパートメントを有する第1回路と、濾過ユニット及び再吸収ユニットを含む第2回路と、を含み、両回路は濾過ユニット及び再吸収ユニットを介して互いに連結されている、微小流体デバイス。
[2][1]に記載の微小流体デバイスであって、濾過ユニットは、分子のサイズ及び電荷に基づき、第1回路から第2回路へ分子を選択的に通過させる濾過障壁を含む、微小流体デバイス。
[3][2]に記載の微小流体デバイスであって、濾過障壁は、機械的又は生物学的障壁、好ましくは、有足細胞を含む生物学的障壁である、微小流体デバイス。
[4][1]~[3]のいずれか一つに記載の微小流体デバイスであって、再吸収ユニットは、第2回路からの流体を第1回路に再吸収させることを可能にする障壁を含む、微小流体デバイス。
[5][4]に記載の微小流体デバイスであって、再吸収障壁は、生物学的障壁、好ましくは、腎尿細管細胞を含む生物学的障壁である、微小流体デバイス。
[6][1]~[5]のいずれか一つに記載の微小流体デバイスであって、第1回路の細胞培養コンパートメントの少なくとも1つは、肝臓機能を模倣する臓器相当物を含み、第1回路の細胞培養コンパートメントの少なくとも1つは、腸機能を模倣する臓器相当物を含む、微小流体デバイス。
[7][1]~[6]のいずれか一つに記載の微小流体デバイスの、分析試験、診断、研究、標的検証、毒性試験、組織工学、組織生産、創薬スクリーニング及び/又は薬物動態-薬力学解析における使用。
[8][1]~[6]のいずれか一つに記載の微小流体デバイスを利用する生体模倣システムを動作させる方法。
[9][8]に記載の方法であって、胃腸管の上皮細胞を含み、腸機能を模倣する臓器相当物又は組織を含む細胞培養コンパートメントを介して生体模倣システムに栄養液を選択的に添加することを更に含む、方法。
[10][1]~[6]のいずれか一つに記載の微小流体デバイスを利用する生体模倣システムにおいて分析物を検出する方法であって、供試サンプルを第1回路の細胞培養コンパートメントに添加することを含み、好ましくは、細胞培養コンパートメントは、胃腸管、皮膚又は気道の上皮細胞を含む組織を含む、方法。
[11]1つ以上の細胞培養コンパートメントを有する第1回路と、濾過ユニット及び再吸収ユニットを含む第2回路と、を含む生体模倣システムを動作させることを含む、恒常性を模倣する方法であって、両回路は濾過ユニット及び再吸収ユニットを介して互いに連結されている、方法。
[12][11]に記載の方法であって、栄養液を生体模倣システムに、胃腸管、皮膚又は気道の上皮細胞を含む細胞培養コンパートメントを介して選択的に添加することを含み、好ましくは、上皮細胞は、胃腸管の、好ましくは小腸の上皮細胞である、方法。
[13]請求項[1]~[6]のいずれか一項に記載の微小流体デバイスに細胞を播種することを含む、細胞を培養及び/又は維持する方法。
[14]請求項[1]~[6]のいずれか一項に記載の微小流体デバイス及び使用説明書を含む、生体模倣システムを動作させるためのキット。
[15]請求項[1]~[6]のいずれか一項に記載の微小流体デバイスを含む、ADME(吸収、分布、代謝、排泄)試験、又はADMET(吸収、分布、代謝、排泄、毒性)試験。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、例示的なADME-Nチップの設置面積(footprint)(上段)及び別々の層の等角図(下段)を示すものである。等角図は、2つの回路(血液回路及び尿回路)の間の膜の配置を例示している。ADME-N=ADMEチップに神経相当物を追加したもの。
図2図2は、iPSCチップ及び初代(primary)組織チップの実験計画を示すものである。RPTEC=腎近位尿細管上皮細胞株。iPSC=誘導多能性幹細胞。2A:実験計画1.1及び1.2、2B:実験計画2。
図3図3は、グルコース濃度及びLDH活性の測定値を示すものである。3A:実験1.1(iPSCチップ)におけるグルコース濃度及びLDH活性測定;3B:実験1.2(初代組織チップ)におけるグルコース濃度及びLDH活性測定。測定は、腸相当物の頂端側コンパートメント、「血液」媒体貯留器(血液回路用)及び「尿」媒体貯留器(尿回路用)において毎日行った。
図4図4は、ヒトRPTECを完全播種(fully seeded)したADME-Nチップの尿細管相当物を示すものである(実験1.1、day7)。A:day7の培養物の明視野(BF)画像。B-D:day14のRPTECの免疫組織染色(実験1.2);B:DAPI(4’,6-ジアミジン-2-フェニルインドール)で染色した核;C:NaK-ATPaseで染色した細胞膜;D:サイトケラチン8/18で染色した細胞骨格。RPTEC=腎近位尿細管上皮細胞。
図5図5は、培地貯留器1の「血液」回路及び培地貯留器2の「尿」回路におけるアスパラギン酸アミノ基転移酵素(AST)濃度の測定を示すものである。
図6図6は、ADME-Nチップ培養(実験1.1)のday7における初代内皮細胞を有するiPSC腸相当物の例示的な免疫組織学的検査を示すものである。A:DAPIで染色した核;B:CD31で染色した初代内皮細胞;C:NaK-ATPaseで染色したiPSC腸オルガノイド;D:DAPIで染色した核;E:Cyp3A4で染色したiPSC腸オルガノイド;F:ビメンチンで染色したiPSC由来線維芽細胞。
図7図7は、ADME-Nチップで2週間培養した初代肝臓相当物(InSphero)(実験1.2)の例示的な免疫組織学的検査を示すものである。A:DAPI;B:アルブミン;C:Cyp3A4で染色した核。
図8図8は、ADME-Nチップで3週間培養したiPSC由来肝臓相当物(実験2)の例示的な免疫組織学的検査を示すものである。A:DAPIで染色した核;B:ビメンチンで染色したiPSC線維芽細胞;C:サイトケラチン8/18で染色した肝実質細胞(hepatocyte)の細胞骨格;D:DAPIで染色した核;E:ZO-1;F:アルブミンで染色したタイトジャンクション。
図9図9は、ADME-Nチップで2週間培養したiPSC神経相当物(実験1.2)の例示的な免疫組織学的検査を示すものである。A:DAPIで染色した核;B:bチューブリンIIIで染色した神経細胞;C:vWF(フォン・ヴィレブランド因子)で染色した初代内皮細胞;D:内皮細胞を含む印刷されたハイドロゲル上に伸展している(lying)神経スフェロイドの明視野画像。
図10図10は、腸相当物の頂端側コンパートメント、培地貯留器1における血液回路及び培地貯留器2における尿回路のLDH濃度の測定値を示すものである(実験2)。腸相当物及び腎相当物のバリア機能は、3つ全てのコンパートメントにおけるLDHの濃度が異なることにより示される。
図11図11は、多臓器チップの流路におけるiPSC由来内皮細胞の伸長を示すものである。day8のチップ培養物に内皮マーカーCD31が高発現している。
図12図12は、本開示のADMEチップの横断面図を示すものである。A=投与、D=分布、M=代謝、E=排泄
【発明を実施するための形態】
【0010】
本開示により提供される新規微小流体デバイスは、1つのシステム内で2種以上の臓器機能の生理的相互作用を模倣することができ、それにより、恒常性を示す生体模倣システムからデータを生成することが可能になる。この新規微小流体デバイスを用いて確立される生体模倣システムにより、臓器機能を模倣する複数のモデルの相互作用及びクロストークを模倣するシステムにおいて安定な微環境を維持するために必須の生理的条件が支援される。図1に、例示的なADME-N(ADME+神経相当物)チップの設置面積(上段)及び別々の層の等角図(下段)を示す。等角図は、2つの回路(血液回路及び尿回路)の間の膜の配置を例示するものである。図12は、本開示のADMEチップの部分横断面図を示すものである。
【0011】
図2は、iPSCチップ及び初代組織チップの実験計画を示すものである。チップの組を7、14及び21日間培養した。終了後に、細胞サンプルを免疫組織学的検査、qPCR及びRNAシーケンシング用に採取した。上清を、グルコース、ラクテート、LDH(乳酸脱水素酵素)、アルブミン、尿素、ALT(アラニンアミノ基転移酵素)及びAST(アスパラギン酸アミノ基転移酵素)含有量に関し分析した。対照は、所与の臓器相当物の静置培養物から0、7及び14日目に採取した。
【0012】
本開示により提供される新規微小流体デバイスは、具体的には、オルガノイド又は組織工学に、誘導多能性幹細胞(iPSC)由来臓器特異的前駆細胞又はiPSC由来臓器特異的オルガノイドを使用するin vitro生体模倣システムを提供する。本開示はまた、多臓器チップの流路内におけるiPSC由来内皮細胞の伸長が剪断応力により促進されることも実証する(図11)。
【0013】
本開示により提供される新規微小流体デバイスにより、本明細書において実証するように、ヒト臓器間のクロストーク、ADME経路及び臓器モデル間の全身制御回路を模倣することが可能になる。特に、この新規微小流体デバイスは、ADME(T)プロファイリングに関連する薬物動態-薬力学解析を行うための試験の確立に特に適した、安定な微環境を有する生体模倣システムを提供する。本開示により提供される新規微小流体デバイスは、図3及び10に示すグルコース及びLDH測定から明らかなように、生体模倣システムにおいて安定な恒常性を確立及び維持することが示された。
【0014】
腎糸球体及び尿細管コンパートメント(濾過ユニット及び再吸収ユニット)は、ポリカーボネート膜及び腎細胞の高密度(tight)層を組み合わせることにより達成することができる(図4)。前者は、分子量のより大きな培地構成成分を濾過し、それらの拡散を遅らせる技術的障壁となる。後者は、物質を再吸収し、「血液」及び「尿」回路全体に亘る濃度勾配を構築する。この勾配は、LDHのみならず、アスパラギン酸アミノ基転移酵(AST、図5)に関しても確認できる。これらの両者の濃度が明確に異なることは、本開示により提供される新規微小流体ADMEチップの腎膜が機能していることを実証している。ASTは肝実質細胞内に見られる細胞内酵素であり、肝臓相当物に由来する。
全ての臓器相当物について、同一性、機能性及び生存力を決定するために免疫組織化学的試験を実施した(図6~9)。
【0015】
代謝解析により、全ての臓器相当物間に再現可能な恒常性が確立されたことが判明した。本開示により、in vivoで観測される細胞の分極化、再編成、バリア機能及び輸送を実証することが可能である。1つ以上の細胞培養コンパートメントを有する第1回路と、腎ユニット内で第1回路と重複する濾過及び再吸収ユニットを含む第2回路と、を組み合わせた新規微小流体デバイスにおいて、安定な微環境を達成することにより、例えば、創薬における反復投与試験の可能性が開ける。
【0016】
本開示は、1つ以上の細胞培養コンパートメントを有する第1回路と、濾過ユニット及び再吸収ユニットを有する第2回路と、を含む、新規微小流体デバイスであって、両回路が濾過ユニット及び再吸収ユニットを介して互いに連結している、デバイスを提供する。図1に、次に示す臓器相当物:腸、肝臓、腎臓(糸球体及び尿細管に分離)及び神経組織を組み込むためのキャビティを含む、2つの回路(「血液回路」及び「尿回路」と称する)を有する新規微小流体デバイスの例示的な配置図を示す。前者の3種の組織は、いわゆるADMEプロファイル(吸着、分布、代謝、排泄)を得るために使用される。後者はこのプロファイルを補足する追加組織である。したがって、このチップをADME-Nチップ(ADME+神経相当物/組織)と称する。各回路内の1つの貯留コンパートメントにより、上清のサンプル採取が可能になる(「培地貯留器1及び2」)。培地は、組み込まれた2つの空気圧マイクロポンプ(各回路に1つずつ)により、微小流体網を通じて灌流される。この回路は2つの腎ユニットコンパートメントが重複しており、ポリカーボネート製の多孔質膜で分離されている。
【0017】
単一臓器システム/チップと比較すると、本開示の生体模倣システム/微小流体チップは、微小流体デバイスが2つの回路を含み、それにより、少なくとも2つの細胞培養コンパートメントを含み、そのうちの一方が第1回路内に局在しており、他方が、腎機能を模倣する第2回路のユニットの1つ、特に再吸収ユニットであるということを考慮し、多臓器システム/チップと見なすことができる。
【0018】
様々な実施形態において、新規微小流体デバイスは、1つ以上の細胞培養コンパートメントを含む第1回路と、濾過ユニット及び再吸収ユニット含む第2回路と、を含み、両回路は濾過ユニット及び再吸収ユニットで重複していると見なすことができる。様々な好ましい実施形態において、2つの回路の重複部分(又は両回路を互いに連結している部分)は多孔質膜で分離されている。これらの重複/連結部分は、具体的には、濾過ユニット及び再吸収ユニットを意味する。
【0019】
様々な実施形態において、2つの回路の重複/連結部分を分離する前記多孔質膜は、合成又は生物学的多孔質膜である。様々な実施形態において、前記多孔質膜は、コラーゲン、フィブリン、細胞外マトリックス(脱細胞化臓器マトリックスを含む)又はこれらの混合物のいずれかから作製することができるが、これらに限定されるものではない。様々な実施形態において、多孔質膜は、Transwell(登録商標)インサートと同一の性質を示す。様々な実施形態において、多孔質膜は、細胞により再吸収可能である。他の様々な実施形態において、多孔質膜はポリカーボネート製である。他の様々な実施形態において、多孔質膜は、ポリ(ジメチルシロキサン)(PDMS)製の多孔質膜である。
【0020】
濾過ユニット及び再吸収ユニットは、腎臓細胞、特に、腎糸球体相当物(濾過ユニット)及び尿細管相当物(再吸収ユニット)を組み込むための別々の細胞培養コンパートメントである。
【0021】
本明細書に記載する、「細胞培養コンパートメント」及び「細胞培養チャンバ」又は「細胞培養キャビティ」という語は、本明細書においては互換的に使用することができる。本開示に従う細胞培養コンパートメントは、本開示に関連して使用及び記載される細胞及び組織の培養に特に好適なコンパートメント、チャンバ又はキャビティである。様々な実施形態において、細胞培養コンパートメントは、ウェルプレート形式、特に6、12、24、48、96及び384ウェル形式のいずれかの(マイクロ)ウェル細胞培養プレート(又はマルチウェル)を含む。好ましい実施形態は、24、48、96又は384ウェル形式のマルチウェルを包含する。マルチウェルは様々な材料から作製することができるが、最も一般的な材料はポリスチレン及びポリプロピレンであり、これは、本開示の様々な実施形態において使用することができる。他の様々な実施形態において、細胞培養コンパートメントは、Transwell(登録商標)(微小流体)インサート、より好ましくは、ポリカーボネート(PC)、ポリエステル(PE)、コラーゲンコートされたポリテトラフルオロエチレン(PTFE)又はPET(ポリエチレンテレフタレート)から作製されたTranswell(登録商標)(微小流体)インサートである。本明細書に記載するように、本開示に関連して使用される細胞培養コンパートメントは、細胞/組織培養及び増殖のための多孔質膜(表面)を有するものと表すことができる。
【0022】
本明細書に記載するように、多孔質膜は、具体的には、これらに限定されるものではないが、化学及び/又は生物学的分子の濾過、供給量調節(metering)及び/又は分離のみならず、細胞又は組織を培養及び増殖させるための表面としても使用することができる、多孔質構造を有する膜を意味する。本開示に関連して使用される細胞培養コンパートメントの多孔質膜は、具体的には、細胞培養コンパートメントに含まれる臓器相当物と微小流体網との間の流体連通を確立する役割を果たす。したがって、様々な実施形態において、本明細書に記載する細胞培養コンパートメントの多孔質膜は、多孔質膜表面上に配置された臓器相当物(細胞/組織)が微小流体デバイスの微小流体流路と流体連通するように配置されている。様々な実施形態において、多孔質膜は、膜の両側に細胞を播種することができる。好ましくは、多孔質膜の底側に内皮細胞が播種される。
一般に、細孔サイズは製造プロセスにより数ナノメートルからマイクロメートルまで調整することが可能であり、それにより、標的の化学及び生物学的分子を濾過、供給量調節及び分離することが可能となると共に、細胞培養コンパートメント及び微小流体流路網内の臓器相当物の間に流体を流動させることも可能になる。様々な実施形態において、多孔質膜は、上に記載した多孔質膜である。したがって、多孔質膜は、合成又は生物学的多孔質膜とすることができる。様々な実施形態において、前記多孔質膜は、コラーゲン、フィブリン又は細胞外マトリックス(脱細胞化臓器マトリックスを含む)のいずれかから作製することができるが、これらに限定されるものではない。様々な実施形態において、多孔質膜は、Transwell(登録商標)インサートと同一の性質を示す。様々な実施形態において、多孔質膜は、細胞により再吸収可能である。他の様々な実施形態において、多孔質膜はポリカーボネート製である。他の様々な好ましい実施形態において、多孔質膜はポリ(ジメチルシロキサン(PDMS)製多孔質膜である。
【0023】
本明細書に記載する「第1回路」という語は、具体的には、哺乳動物の血管系を模倣する、より具体的には、ヒトの血管系を模倣する循環器系を意味する。本明細書において更に記載するように、「第1回路」及び「血液回路相当物」又は「生体模倣血液回路」という語は、本明細書においては互換的に使用することができる。同様に、本明細書に記載する「第2回路」という語は、具体的には、哺乳動物の泌尿器系を模倣する、より具体的には、ヒトの泌尿器系を模倣する循環器系を意味する。本明細書において更に記載するように、「第2回路」及び「尿回路相当物」又は「生体模倣尿回路」という語は、本明細書においては互換的に使用することができる。
【0024】
腎濾過は、受動的及び能動的濾過の両方を包含し、糸球体は、分子量のより大きな血清タンパク質がネフロンに侵入することを阻止する受動的濾過障壁として作用する。したがって、このような分子量のより大きな血清タンパク質は血流中を循環し続ける。本明細書に記載するように、本明細書に開示する新規微小流体デバイスの濾過ユニットは、分子のサイズ及び電荷に基づき第1回路(「血液回路」)から第2回路(「尿回路」)へ分子を選択的に通過させ、それにより、選択的な糸球体濾過障壁を模倣する、濾過障壁を含む。
【0025】
本開示の様々な実施形態において、濾過ユニットに含まれる濾過障壁は、濾過ユニット(及び再吸収ユニット)を血液回路から分離する(2つの回路の重複部分を分離する)多孔質膜により確立される。したがって、この種の実施形態によれば、濾過障壁は、(多孔質)機械的濾過障壁と見なすことができる。具体的には、(多孔質)機械的濾過障壁は、糸球体濾過障壁を模倣している。したがって、様々な実施形態において、濾過障壁は、多孔質膜を有する細胞培養コンパートメントにより確立することさえできる。好ましい実施形態において、機械的濾過障壁の細孔サイズは約8nmであるが、細孔サイズを≦8nmとすることもできる。他の好ましい実施形態によれば、機械的濾過障壁は、第2(尿)回路に侵入する血清タンパク質の上限を約69kDaに設定する細孔サイズを有する。様々な実施形態において、機械的濾過障壁は、第2(尿)回路に侵入するアルブミン、好ましくは血清アルブミン(又は血中アルブミン)の限界を設定する細孔サイズを有する。
【0026】
本開示の他の様々な実施形態において、濾過ユニットに含まれる濾過障壁は、生物学的濾過障壁である。好ましくは、生物学的濾過障壁は、第2(尿)回路に侵入する血清タンパク質の上限を約69kDaに設定する濾過スリットを有する障壁である。様々な実施形態において、生物学的濾過障壁は、有足細胞(臓側上皮細胞とも称される)を含む。より具体的には、生物学的濾過障壁は、血漿タンパク質が第2(尿)回路に侵入することを阻止する有足細胞(濾過)障壁である。有足細胞濾過障壁は、好ましくは、第2(尿)回路に侵入する血清タンパク質の上限を約69kDaに設定する濾過スリットを有する。様々な実施形態において、有足細胞濾過障壁は、第2(尿)回路に侵入するアルブミン、好ましくは血清アルブミン(又は血中アルブミン)の限界を設定する細孔サイズを有する。
【0027】
腎生理学において、再吸収(又は尿細管再吸収)は、ネフロンが尿細管液(原尿)から水分及び溶質を除去し、それらを循環血に戻すプロセスである。糸球体の濾液は、尿を生成する段階の一つとして、一層濃縮される。再吸収により、多くの有用な溶質(主としてグルコース及びアミノ酸)、塩及び水分を血液循環に戻すことができる。本明細書に記載するように、本明細書に開示する新規微小流体デバイスの再吸収ユニットは、第2回路(尿回路)からの流体を第1回路(血液回路)に再吸収させることを可能にする障壁を含む。本開示の様々な実施形態において、再吸収ユニットに含まれる再吸収障壁は、再吸収障壁を模倣する(多孔質)機械的障壁とすることができる。好ましくは、再吸収障壁は、生物学的障壁、より好ましくは腎尿細管細胞(又は尿細管細胞)を含む生物学的再吸収障壁である。より具体的には、生物学的再吸収障壁は、水分、塩及び溶質(後者はタンパク質を含む)を第1回路(血液回路)に戻す尿細管細胞(再吸収)障壁である。本明細書に記載するように、再吸収は、再吸収障壁(具体的には尿細管細胞)から第1回路(血液回路)への腎糸球体濾液の流れと見なすことができ、それにより、特定の物質、特に水分、塩及び溶質を選択的に通過させ、第1回路(血液回路)に戻すことが可能になる。様々な実施形態において、尿細管細胞は、腎近位尿細管細胞と見なすことができる。
【0028】
本明細書に開示する新規微小流体デバイスの第2回路は、細胞培養コンパートメントとしての役割を果たさないが、(培地)貯留コンパートメントとしての役割を果たすコンパートメントを含むことができる。好ましくは、この種の(培地)貯留コンパートメントは、第2回路からサンプルを採取するための「サンプル採取用貯留器」又は「サンプル採取チャンバ/コンパートメント」としての役割のみを果たすことができ、及び/又は微小流体の第2回路に供試サンプルを添加するための「サンプル貯留器」又は「サンプルチャンバ/コンパートメント」としての役割のみを果たすことができる。したがって、好ましい実施形態において、第2回路は、濾過ユニット及び再吸収ユニットを構成する2つのコンパートメント/ユニット以外の細胞培養コンパートメントを含まないが、第2回路からサンプルを採取する(サンプル採取コンパートメント)役割を果たす、及び/又は供試サンプルを微小流体システムの第2回路に添加するための「サンプル貯留器」又は「サンプルチャンバ/コンパートメント」としの役割を果たす、別個の(更なる)貯留コンパートメントを含む。
貯留コンパートメントは、栄養液をシステムに添加するために使用することができ、これが、培地貯留コンパートメントとも称される理由である。したがって、貯留器コンパートメントは、サンプル採取並びに供試サンプルの供給及び添加の3種の機能を果たすことができるが、臓器相当物を保持する細胞培養コンパートメントの役割は果たさない。
【0029】
本明細書に開示する新規微小流体デバイスの第1回路も同様に、細胞培養コンパートメントとしての役割を果たさないが、(培地)貯留コンパートメントとしての役割を果たすコンパートメントを含むことができる。好ましくは、この種の(培地)貯留コンパートメントは、第1回路からサンプルを採取する役割のみを果たすことができる。同様に、この種の貯留コンパートメントは、栄養液をシステムに添加するために使用することもでき、これが培地貯留コンパートメントと称することができる理由である。したがって、第1回路の貯留コンパートメントは、サンプル採取及び栄養供給(feeding)の両方の役割を果たすことができるが、臓器相当物を保持する細胞培養コンパートメントの役割は果たさない。したがって、好ましい実施形態において、第1回路は、1つ以上の細胞培養コンパートメントに加えて、第1回路からサンプルを採取する(サンプル採取コンパートメント)及び/又は培地(栄養液)をシステムに添加する役割を果たす貯留コンパートメントも含むことができる。
【0030】
本開示の好ましい実施形態において、新規微小流体デバイスの第1回路の細胞培養コンパートメントの少なくとも1つは肝臓機能を模倣する組織(「肝臓相当物」)を含む。
【0031】
本開示の他の好ましい実施形態において、新規微小流体デバイスの第1回路の細胞培養コンパートメントの少なくとも1つは肝臓相当物を含み、第1回路の細胞培養コンパートメントの少なくとも1つは腸相当物を含む。この種の実施形態は、微小流体チップが腸及び肝臓の臓器相当物(第1回路)及び腎臓の臓器相当物(第2回路)を含むことから、ADMEプロファイリングの達成に特に有用である。本明細書に記載するように、腸、肝臓及び腎臓の臓器相当物は、「ADME」臓器相当物と見なすことができる。様々な実施形態において、新規微小流体デバイスは、腸、肝臓及び腎臓の「ADME」臓器相当物とは異なる、1種以上の更なる「非ADME」臓器相当物を含むことができる。様々な実施形態において、この種の更なる「非ADME」臓器相当物としては、これらに限定されるものではないが、神経相当物、皮膚相当物又は気道相当物(好ましくは肺相当物)が挙げられる。
【0032】
本開示の更なる他の好ましい実施形態において、新規微小流体デバイスの第1回路の細胞培養コンパートメントの少なくとも1つは肝臓相当物を含み、第1回路の細胞培養コンパートメントの少なくとも1つは腸相当物を含み、第1回路の細胞培養コンパートメントの少なくとも1つは神経相当物を含み、それによりADME-Nチップが確立される。
【0033】
本開示の他の好ましい実施形態において、新規微小流体デバイスの第1回路の細胞培養コンパートメントの少なくとも1つは肝臓相当物を含み、第1回路の細胞培養コンパートメントの少なくとも1つは皮膚相当物を含む。この種の実施形態は、微小流体チップが皮膚及び肝臓の臓器相当物(第1回路)と腎臓の臓器相当物(第2回路)とを含むため、ADMEプロファイリングの達成にも有用である。その場合、供試サンプル(試験薬)の投与は皮膚相当物を介して実施される。この種の実施形態は、クリーム等の化粧品及び/又は消費者製品の試験に特に有用である。
【0034】
本開示の他の好ましい実施形態において、新規微小流体デバイスの第1回路の細胞培養コンパートメントの少なくとも1つは肝臓相当物を含み、第1回路の細胞培養コンパートメントの少なくとも1つは気道相当物、具体的には肺相当物を含む。この種の実施形態は、微小流体チップが気道/肺及び肝臓の臓器相当物(第1回路)と腎臓の臓器相当物(第2回路)とを含むため、ADMEプロファイリングの達成にも有用である。その場合、供試サンプル(試験薬)の投与は気道/肺相当物を介して実施される。この種の実施形態は、気道/肺を介して適用することが意図された薬物を含む物質の試験に特に有用である。
【0035】
本開示の他の様々な実施形態において、新規微小流体デバイスの第1回路の細胞培養コンパートメントの少なくとも1つは肝臓相当物を含み、第1回路の細胞培養コンパートメントの少なくとも1つは腸相当物を含み、第1回路の細胞培養コンパートメントの少なくとも1つは皮膚相当物を含む。
【0036】
本開示の他の様々な実施形態において、新規微小流体デバイスの第1回路の細胞培養コンパートメントの少なくとも1つは肝臓相当物を含み、第1回路の細胞培養コンパートメントの少なくとも1つは腸相当物を含み、第1回路の細胞培養コンパートメントの少なくとも1つは気道、好ましくは肺相当物を含む。
【0037】
本開示の更なる他の実施形態において、新規微小流体デバイスの第1回路の細胞培養コンパートメントの少なくとも1つは肝臓相当物を含み、第1回路の細胞培養コンパートメントの少なくとも1つは腸相当物を含み、第1回路の細胞培養コンパートメントの少なくとも1つは皮膚相当物を含み、第1回路の細胞培養コンパートメントの少なくとも1つは気道、好ましくは肺相当物を含む。
【0038】
本開示の更なる他の実施形態において、新規微小流体デバイスの第1回路の細胞培養コンパートメントの少なくとも1つは肝臓相当物を含み、第1回路の細胞培養コンパートメントの少なくとも1つは腸相当物を含み、第1回路の細胞培養コンパートメントの少なくとも1つは皮膚相当物を含み、第1回路の細胞培養コンパートメントの少なくとも1つは気道、好ましくは肺相当物を含み、第1回路の細胞培養コンパートメントの少なくとも1つは神経相当物を含む。
【0039】
本開示の様々な実施形態において、新規微小流体デバイスの第1回路の細胞培養コンパートメントの少なくとも1つは肝臓相当物を含み、第1回路の細胞培養コンパートメントの少なくとも1つは腸相当物を含み、第1回路の細胞培養コンパートメントの少なくとも1つは神経相当物を含み、第1回路の細胞培養コンパートメントの少なくとも1つは皮膚相当物を含む。
【0040】
本開示の様々な実施形態において、新規微小流体デバイスの第1回路の細胞培養コンパートメントの少なくとも1つは肝臓相当物を含み、第1回路の細胞培養コンパートメントの少なくとも1つは腸相当物を含み、第1回路の細胞培養コンパートメントの少なくとも1つは神経相当物を含み、第1回路の細胞培養コンパートメントの少なくとも1つは気道、好ましくは肺相当物を含む。
【0041】
好ましい臓器相当物としては、腎臓相当物、肝臓相当物、腸相当物、好ましくは小腸相当物、神経(脳)相当物、気道/肺相当物及び皮膚相当物が挙げられる。腎臓(又は腎)相当物の場合、この相当物は、具体的には、糸球体及び尿細管相当物を意味する。より具体的には、この種の糸球体及び尿細管相当物は、本明細書において提供する新規微小流体デバイスの第2回路の別々のユニット(それぞれ濾過ユニット及び再吸収ユニット)に配置されている。
【0042】
本明細書に記載する「細胞培養コンパートメント」は、臓器機能を模倣する細胞及び組織を含む臓器相当物を含む(comprise)又は収容する(contain)。したがって、様々な実施形態において、「臓器相当物」及び「臓器機能を模倣する細胞/組織」は、本明細書においては互換的に使用することができる。
様々な実施形態において、臓器機能を模倣する臓器相当物又は組織は、初臓器組織、例えば、初代肝臓組織又は初代腸組織である。好ましくは、初代臓器組織は、各臓器の上皮細胞、即ち、例えば、胃腸管、皮膚又は気道の上皮細胞を含む。
様々な実施形態において、臓器機能を模倣する組織は、各臓器の上皮細胞、即ち、例えば、胃腸管、皮膚又は気道の上皮細胞を含む組織とすることができる。他の様々な実施形態において、臓器機能を模倣する組織は、市販の細胞株から得られ得る細胞等の、細胞株の細胞を含む組織とすることができる。
他の様々な実施形態において、臓器機能を模倣する組織は、誘導多能性幹細胞(iPSC)由来の細胞を含む組織である。具体的には、細胞は、単一(即ち、同一)ドナーiPSCに由来する(即ち、分化した)ものとすることができ、該iPSCは、元々は、単一種の体細胞から得られた(即ち、再プログラム化された)ものである。例えば、細胞は、単一の(即ち、同一の)iPSCに由来する(即ち、分化した)ものであり、該iPSCは、例えば、皮膚体細胞、白血球、腎細胞、脂肪細胞等から得られた(即ち、再プログラム化された)ものである。
【0043】
本明細書における他の箇所に記載するように、臓器機能を模倣する細胞又は組織として、オルガノイド及びスフェロイドが挙げられる。したがって、様々な実施形態において、臓器相当物は、具体的には、特定の臓器機能を有するオルガノイド又はスフェロイド、例えば、腸細胞若しくは肝実質細胞のオルガノイド、又は腸細胞若しくは肝実質細胞のスフェロイドを意味する。
【0044】
本開示により提供される微小流体デバイスの細胞、組織及び/又は臓器は、二次元(2D)、三次元(3D)又は器官型の複雑さ(organotypic complexity)でモデル化することができる。2Dは、単層細胞培養懸濁液を意味し、一方、3Dは、例えば、異なる幾何学形状の多層培養物、例えば、オルガノイド及びスフェロイド等を含む。器官型は、in vivoの臓器構造という更なる特徴を獲得している点が3Dとは異なる。
【0045】
様々な実施形態において、臓器相当物を含む細胞培養コンパートメントは、オルガノイドを含む細胞培養コンパートメントである。本明細書に記載する「オルガノイド」という語は、最小の機能的臓器又は組織単位を意味する又は表すと見なすことができる。オルガノイド組織構造(いずれも該当する機能及び非常に変化に富む集合体形状(conglomerate geometry)を有する)の選択は、15の主要なヒトの臓器に関しMarxらにより発表されている(Marx et al.2012,Altern Lab Anim 40,235-257)。その開示を明示的に本明細書の一部を構成するものとしてここに援用する。本明細書において更に記載するように、本開示によるオルガノイドは、具体的には、iPSC由来細胞のオルガノイドを意味するが、これに限定されるものではない。本明細書において更に記載するように、オルガノイドは、臓器機能を模倣する細胞/組織培養物と見なすことができる。本明細書において更に記載するように、オルガノイドは、これらに限定されるものではないが、典型的には、次に示す特徴のいずれかにより特徴付けることができる:(i)(少なくとも)三次元の多細胞構築物又は構造物;(ii)臓器特異的な細胞種の集合;(iii)幹細胞(好ましくはiPSC)から作製された場合は、通常、発生における器官形成プログラムを再現している;(iv)自己組織化(細胞が自己集合又は/及び自己組織化して組織になる能力)。
【0046】
様々な実施形態において、オルガノイドは、細胞外マトリックス、好ましくは細胞外ゲルマトリックス、より好ましくは基底膜様細胞外マトリックス抽出物(典型的には組織細胞外環境様)に埋め込まれている。様々な実施形態において、基底膜様細胞外(ゲル)マトリックス抽出物は、ゼラチン質タンパク質混合物を含む。好ましくは、ゼラチン質タンパク質混合物は、Engelbreth-Holm-Swarm(EHS)マウス肉腫細胞から分泌されるゼラチン質タンパク質混合物である。より好ましくは、基底膜様細胞外(ゲル)マトリックスは、Matrigel(登録商標)基底膜マトリックス(Corning)である。本開示の様々な実施形態において、細胞外(ゲル)マトリックスはハイドロゲルである。本開示の様々な実施形態において、細胞外(ゲル)マトリックスは、コラーゲン、アガロース、アジネート(aginate)又はMatrigel(登録商標)ハイドロゲルである。他の様々な実施形態において、ハイドロゲルは合成ハイドロゲルである。
【0047】
様々な実施形態において、臓器相当物を含む細胞培養コンパートメントは、臓器機能を模倣するスフェロイドを含む細胞培養コンパートメントである。本明細書に記載するように、本開示によるスフェロイドは、具体的には、iPSC由来細胞のスフェロイドを意味するが、これらに限定されるものではない。本明細書において更に記載するように、スフェロイドは、in vivoの臓器組織に非常に類似した、細胞の凝集体(aggregation)又は自己集合体(球状の集塊)と見なすことができる。スフェロイドは、オルガノイドと同様に、三次元に構築された構造(structural architecture)を有する。オルガノイドと比較すると、スフェロイド培養物とは対照的に、オルガノイドはより高次の自己集合状態にあると見なされる。様々な実施形態において、オルガノイドは、臓器機能を模倣する細胞/組織培養物と見なすことができる。
【0048】
好ましいオルガノイドとしては、腎臓オルガノイド、肝臓オルガノイド、腸オルガノイド、好ましくは小腸オルガノイド、神経(脳)オルガノイド、気道/肺オルガノイド及び皮膚オルガノイドが挙げられる。腎臓(又は腎)オルガノイドの場合、オルガノイドは、具体的には、糸球体及び尿細管のオルガノイドを意味する。より具体的には、この種の糸球体及び尿細管のオルガノイドは、本明細書において提供される新規微小流体デバイスの第2回路の別々のユニット(それぞれ濾過ユニット及び再吸収ユニット)に配置されている。
【0049】
様々な実施形態において、第2回路の濾過ユニット及び再吸収ユニットは、腎臓又は腎相当物と見なすことができる。好ましくは、腎臓又は腎相当物は、腎臓又は腎オルガノイドを意味する。本明細書に記載するように、腎臓又は腎オルガノイドは、好ましくは、有足細胞及び腎尿細管細胞のオルガノイド、より好ましくは、iPSC由来有足細胞及びiPSC由来腎尿細管細胞のオルガノイドを意味する。同様に、肝臓オルガノイドは、好ましくは、肝実質細胞のオルガノイド、より好ましくは、iPSC由来肝実質細胞のオルガノイドを意味する。同様に、(小)腸オルガノイドは、好ましくは、(小)腸細胞のオルガノイド、より好ましくは、iPSC由来(小)腸細胞のオルガノイドを意味する。同様に、神経オルガノイドは、好ましくは、神経細胞のオルガノイド、より好ましくは、iPSC由来神経細胞のオルガノイドを意味する。同様に、気道(好ましくは肺)オルガノイドは、好ましくは、気道の細胞、好ましくは肺細胞、より好ましくは肺上皮細胞のオルガノイドを意味する。好ましくは、気道の細胞又は肺細胞は、それぞれ、気道のiPSC由来細胞又はiPSC由来肺細胞である。
【0050】
本開示の様々な実施形態において、新規微小流体デバイスは、図1に示す配置図に従う細胞培養コンパートメントの配置を有するが、これらに限定されるものではない。したがって、様々な好ましい実施形態において、腸相当物及び肝臓相当物を含む細胞培養コンパートメントは、後者(「肝臓相当物」)が前者(「腸相当物」)の下流に位置するように配置されている(図1に示す「血液回路」に関する配置図に従うが、これらに限定されるものではない)。好ましくは、「肝臓相当物」及び「腸相当物」を含む細胞培養コンパートメントは、主微小流路構造の分岐である別々の微小流路に配置されている(図1に示す「血液回路」に関する配置図に従うが、これらに限定されるものではない)。好ましくは、腸相当物の細胞培養コンパートメント及び肝臓相当物の細胞培養コンパートメントの間に他の細胞培養コンパートメントは位置しない。様々な実施形態において、第1及び第2回路は、分岐した微小流体網(又は微小流体流路の分岐網)を含むことができる。他の好ましい実施形態において、新規微小流体デバイスの細胞培養コンパートメントの配置は、「肝臓相当物」を含む細胞培養コンパートメント及び「腸相当物」を含む細胞培養コンパートメントに加えて、「肝臓相当物」及び「腸相当物」とは異なる更なる臓器相当物を含む別個の細胞培養コンパートメントが、「肝臓相当物」を含む細胞培養コンパートメント及び「腸相当物」を含む細胞培養コンパートメントと平行に配置されているものである。より好ましくは、このような更なる細胞培養コンパートメントは、「肝臓相当物」を含む細胞培養コンパートメント及び「腸相当物」を含む細胞培養コンパートメントを含む微小流路分岐と平行に配置された、別個の微小流路分岐に配置されている(図1に示す「血液回路」に関する配置図に従うが、これらに限定されるものではない)。好ましくは、「肝臓相当物」及び「腸相当物」とは異なる更なる臓器相当物を含む更なる細胞培養コンパートメントは、神経相当物を含む。
微小流体デバイスが別個の培地貯留器又はサンプル採取貯留器を含む場合、これは、好ましくは、主微小流路構造内に配置される、即ち、分岐微小流路構造内に配置されない(図1に示す「血液回路」の配置図に従うが、これに限定されるものではない)。
更に、微小流体デバイスがマイクロポンプを含む場合、マイクロポンプは、好ましくは、主微小流路構造内に配置される、即ち、分岐微小流路構造内に配置されない(図1に示す「血液回路」の配置図に従うが、これに限定されるものではない)。
様々な好ましい実施形態において、第2回路は、分岐網ではなく、非分岐回路又は循環系である。「回路」及び「循環系」という語は、本明細書においては互換的に使用することができる。
【0051】
新規生体模倣システムは、好ましくは閉鎖流路系である。したがって、新規微小流体デバイスの第1及び第2回路は、閉鎖回路、より具体的には、微小流体流路の閉鎖回路である。より具体的には、新規生体模倣システムは、自立型又は自己完結型(self-contained)生体模倣システムと見なすことができる。2つの腎機能ユニット(濾過ユニット及び再吸収ユニット)を含む閉鎖流路系では、具体的には、試験薬の腎毒性を試験することが可能である。好ましい実施形態において、生体模倣システム又は微小流体デバイスは、第2回路内の血液模倣液溶液及び/又は尿模倣液溶液を用いて動作させる。
【0052】
本開示の様々な態様において、新規微小流体デバイスの第1回路の細胞培養コンパートメントの少なくとも1つはiPSC由来肝臓相当物を含み、第1回路の細胞培養コンパートメントの少なくとも1つはiPSC由来腸相当物を含み、第1回路の細胞培養コンパートメントの少なくとも1つはiPSC由来神経相当物を含み、新規微小流体デバイスの第2回路は腎近位尿細管上皮細胞(RPTEC)、より具体的には、再吸収ユニットに播種されたRPTECを含む。好ましくは、iPSC由来腸相当物を含む少なくとも1つの細胞培養コンパートメントは、iPSC由来腸細胞のオルガノイドを含む。より好ましくは、iPSC由来腸細胞のオルガノイドは、細胞外マトリックス、好ましくは細胞外ゲルマトリックス、より好ましくは基底膜様細胞外(ゲル)マトリックス抽出物(典型的には組織細胞外環境様)に埋め込まれている。様々な実施形態において、基底膜様細胞外(ゲル)マトリックス抽出物は、ゼラチン質タンパク質混合物を含む。好ましくは、基底膜様細胞外マトリックスは、Matrigel(登録商標)基底膜マトリックス(Corning)を含む。
他の好ましい実施形態において、iPSC由来腸相当物、具体的には、iPSC由来腸細胞のオルガノイドを含む少なくとも1つの細胞培養コンパートメントは、線維芽細胞及び内皮細胞、より好ましくはiPSC由来線維芽細胞及びiPSC由来内皮細胞、又はiPSC由来線維芽細胞及び初代微小血管内皮細胞を更に含む。初代微小血管内皮細胞又はiPSC由来内皮細胞は、好ましくは細胞培養コンパートメントの側底側に播種される。
更に、iPSC由来神経相当物を含む少なくとも1つの細胞培養コンパートメントは、好ましくは、iPSC由来神経スフェロイドを含む。より好ましくは、iPSC由来神経相当物、具体的にはiPSC由来神経スフェロイドを含む少なくとも1つの細胞培養コンパートメントは、バイオプリントされた血液脳関門を含む。より具体的には、iPSC由来神経相当物、具体的にはiPSC由来神経スフェロイドを含む少なくとも1つの細胞培養コンパートメントは、神経スフェロイドの下側にバイオプリントされた内皮細胞、好ましくはiPSC由来内皮細胞で富化されている。
更に、iPSC由来肝臓相当物を含む少なくとも1つの細胞培養コンパートメントは、好ましくは、iPSC由来肝実質細胞のスフェロイドを含む。より好ましくは、iPSC由来肝臓相当物、具体的には、iPSC由来肝実質細胞のスフェロイドを含む少なくとも1つの細胞培養コンパートメントは、線維芽細胞、好ましくはiPSC由来線維芽細胞を更に含む。好ましい実施形態において、iPSC由来肝臓相当物は、iPSC由来肝実質細胞のスフェロイドを、iPSC由来線維芽細胞と共に、それぞれの細胞培養コンパートメントに配置することにより達成される。
様々な実施形態において、RPTECは、腎近位尿細管上皮細胞株を含む。
【0053】
本開示の様々な態様において、新規微小流体デバイスの第1回路の細胞培養コンパートメントの少なくとも1つは、初代肝臓組織を含み、第1回路の細胞培養コンパートメントの少なくとも1つは初代腸組織、好ましくは初代小腸組織を含み、第1回路の細胞培養コンパートメントの少なくとも1つはiPSC由来神経相当物を含み、新規微小流体デバイスの第2回路は腎近位尿細管上皮細胞(RPTEC)、より具体的には、再吸収ユニットに播種されたRPTECを含む。様々な実施形態において、初代肝臓組織は初代(ヒト)肝実質細胞を含む。初代肝臓組織は、市販の肝臓モデル、例えば、InSpheroの3D InSight(商標)Human Liver Microtissues XLとすることができる。様々な実施形態において、初代肝臓組織又は肝臓モデルは、それぞれ3000個の初代肝実質細胞を含む50個のスフェロイドを含み得る。更に、好ましい実施形態において、初代腸組織は初代(ヒト)細胞由来腸上皮及び内皮細胞を含み、より好ましくは、(ヒト)線維芽細胞を更に含む。初代腸組織は、市販の腸モデル、例えば、3D Epilntestinal(登録商標)組織モデル(MatTek Corporation)とすることができる。
更に、iPSC由来神経相当物を含む少なくとも1つの細胞培養コンパートメントは、好ましくは、iPSC由来神経スフェロイドを含む。より好ましくは、iPSC由来神経相当物、具体的には、iPSC由来神経スフェロイドを含む少なくとも1つの細胞培養コンパートメントは、バイオプリントされた血液脳関門を含む。より具体的には、iPSC由来神経相当物、具体的には、iPSC由来神経スフェロイドを含む少なくとも1つの細胞培養コンパートメントは、神経スフェロイドの下側にバイオプリントされた内皮細胞、好ましくはiPSC由来内皮細胞で富化されている。
様々な実施形態において、RPTECは、腎近位尿細管上皮細胞株を含む。
【0054】
本開示の様々な態様において、新規微小流体デバイスの第1回路の細胞培養コンパートメントの少なくとも1つはiPSC由来肝臓相当物を含み、第1回路の細胞培養コンパートメントの少なくとも1つはiPSC由来腸相当物を含み、第1回路の細胞培養コンパートメントの少なくとも1つはiPSC由来神経相当物を含み、新規微小流体デバイスの第2回路は、iPSC由来腎相当物を含む。好ましくは、iPSC由来腸相当物を含む少なくとも1つの細胞培養コンパートメントは、iPSC由来腸細胞のオルガノイドを含む。より好ましくは、iPSC由来腸細胞のオルガノイドは、細胞外マトリックス、好ましくは細胞外ゲルマトリックス、より好ましくは基底膜様細胞外(ゲル)マトリックス抽出物(典型的には、組織細胞外環境様)に埋め込まれている。様々な実施形態において、基底膜様細胞外(ゲル)マトリックス抽出物はゼラチン質タンパク質混合物を含む。好ましくは、基底膜様細胞外マトリックスはMatrigel(登録商標)基底膜マトリックス(Corning)である。
他の好ましい実施形態において、iPSC由来腸相当物、具体的には、iPSC由来腸細胞のオルガノイドを含む少なくとも1つの細胞培養コンパートメントは、線維芽細胞及び内皮細胞、より好ましくはiPSC由来線維芽細胞及びiPSC由来内皮細胞、又はiPSC由来線維芽細胞および初代微小血管内皮細胞を更に含む。初代微小血管内皮細胞又はiPSC由来内皮細胞は、好ましくは、細胞培養コンパートメントの側底側に播種される。
更に、iPSC由来神経相当物を含む少なくとも1つの細胞培養コンパートメントは、好ましくは、iPSC由来神経スフェロイドを含む。より好ましくは、iPSC由来神経相当物、具体的には、iPSC由来神経スフェロイドを含む少なくとも1つの細胞培養コンパートメントは、バイオプリントされた血液脳関門を含む。より具体的には、iPSC由来神経相当物、具体的には、iPSC由来神経スフェロイドを含む少なくとも1つの細胞培養コンパートメントは、細胞培養コンパートメントの側底側に播種された内皮細胞、好ましくはiPSC由来内皮細胞で富化されている。
更に、iPSC由来肝臓相当物を含む少なくとも1つの細胞培養コンパートメントは、好ましくは、iPSC由来肝実質細胞のスフェロイドを含む。より好ましくは、iPSC由来肝臓相当物、具体的には、iPSC由来肝実質細胞のスフェロイドを含む少なくとも1つの細胞培養コンパートメントは、線維芽細胞、好ましくはiPSC由来線維芽細胞を更に含む。好ましい実施形態において、iPSC由来肝臓相当物は、iPSC由来肝実質細胞のスフェロイドをiPSC由来線維芽細胞と共にそれぞれの細胞培養コンパートメントに配置することにより達成される。
【0055】
本開示の様々な態様において、新規微小流体デバイスの第1回路の細胞培養コンパートメントの少なくとも1つは初代肝臓組織を含み、第1回路の細胞培養コンパートメントの少なくとも1つは初代腸組織、好ましくは初代小腸組織を含み、第1回路の細胞培養コンパートメントの少なくとも1つは初代神経組織を含み、新規微小流体デバイスの第2回路は、初代腎組織、好ましくは再吸収ユニットに初代腎組織、より好ましくは、再吸収ユニットに初代尿細管(上皮細胞)組織を含み、濾過ユニットに初代腎糸球体組織を含む。好ましくは、初代腎組織は、腎上皮細胞、より具体的には、腎近位尿細管上皮細胞(RPTEC)を含み、腎上皮細胞又はRPTECは再吸収ユニットに播種することができ、初代腎糸球体組織は有足細胞を含み、これは濾過ユニットに播種することができる。様々な実施形態において、初代肝臓組織は、初代(ヒト)肝実質細胞を含む。初代肝臓組織は市販の肝臓モデル、例えば、InSpheroの3D InSight(商標)Human Liver Microtissues XLとすることができる。更に、好ましい実施形態において、初代腸組織は、初代(ヒト)細胞由来腸上皮及び内皮細胞を含み、より好ましくは、(ヒト)線維芽細胞を更に含む。初代腸組織は、市販の腸モデル、例えば、3D Epilntestinal(登録商標)組織モデル(MatTek Corporation)とすることができる。
更に、初代神経組織は、好ましくは、初代神経細胞を含む。更なる他の好ましい実施形態において、初代神経組織、具体的には初代神経細胞を含む最小1つの細胞培養コンパートメントは、バイオプリントされた血液脳関門を含む。より具体的には、初代神経組織、具体的には初代神経細胞を含む少なくとも1つの細胞培養コンパートメントは、細胞培養コンパートメントの側底側に播種されているか又は神経スフェロイドの下側にバイオプリントされているかのいずれかとすることができる内皮細胞で富化されている。
【0056】
本開示の様々な態様において、新規微小流体デバイスの第1回路の細胞培養コンパートメントの少なくとも1つは肝臓オルガノイドを含み、第1回路の細胞培養コンパートメントの少なくとも1つは腸オルガノイド、好ましくは小腸オルガノイドを含み、新規微小流体デバイスの第2回路は、再吸収ユニット及び/又は濾過ユニットに腎オルガノイドを含む。様々な実施形態において、第1回路の少なくとも1つの更なる細胞培養コンパートメントは、肝臓オルガノイド、腸オルガノイド(小腸オルガノイドを含む)及び腎オルガノイドとは異なる更なるオルガノイドを更に含む。この種の更なるオルガノイドは「非ADME」オルガノイドと見なすことができ、一方、肝臓オルガノイド、腸オルガノイド(小腸オルガノイドを含む)及び腎オルガノイドは「ADME」オルガノイドと見なすことができる。様々な実施形態において、この種の更なる(非ADME)オルガノイドは、神経オルガノイド、皮膚オルガノイド又は気道(好ましくは肺)オルガノイドのいずれかとすることができる。様々な実施形態において、第1回路の少なくとも2つの更なる細胞培養コンパートメントは、肝臓オルガノイド、腸オルガノイド(小腸オルガノイドを含む)及び腎オルガノイドとは異なる2つの更なる「非ADME」オルガノイドを更に含む(更なる細胞培養コンパートメント当たり1種のオルガノイド)。様々な実施形態において、この2つの更なる(非ADME)オルガノイドは、神経オルガノイド、皮膚オルガノイド及び/又は気道(好ましくは肺)オルガノイドのいずれかから選択することができる。更なる他の実施形態において、第1回路の少なくとも3つの更なる細胞培養コンパートメントは、3種の更なる「非ADME」オルガノイド(更なる細胞培養コンパートメント当たり1種のオルガノイド)を更に含む。様々な実施形態において、この3種の更なる「非ADME」オルガノイドは、神経オルガノイド、皮膚オルガノイド及び/又は気道(好ましくは肺)オルガノイドである。好ましくは、オルガノイドは、iPSC由来臓器細胞のオルガノイドである。具体的には、肝臓オルガノイドは、好ましくは、iPSC由来肝実質細胞のオルガノイドであり、腸オルガノイドは、好ましくは、iPSC由来腸細胞のオルガノイド、より好ましくはiPSC由来小腸細胞のオルガノイドであり、神経オルガノイドは、好ましくは、iPSC由来神経細胞のオルガノイド、腎オルガノイドは、好ましくは、iPSC由来腎細胞のオルガノイドである。
【0057】
本開示の様々な態様において、新規微小流体デバイスの第1回路の細胞培養コンパートメントの少なくとも1つは肝臓スフェロイドを含み、第1回路の細胞培養コンパートメントの少なくとも1つは腸スフェロイド、好ましくは小腸オルガノイドを含み、新規微小流体デバイスの第2回路は、再吸収ユニット及び/又は濾過ユニットに腎スフェロイドを含む。様々な実施形態において、第1回路の少なくとも1つの更なる培養コンパートメントは、肝臓スフェロイド、腸スフェロイド(小腸スフェロイドを含む)及び腎スフェロイドとは異なる更なるスフェロイドを更に含む。この種の更なるスフェロイドは「非ADME」スフェロイドと見なすことができ、一方、肝臓スフェロイド、腸スフェロイド(小腸スフェロイドを含む)及び腎スフェロイドは「ADME」スフェロイドと見なすことができる。様々な実施形態において、この種の更なる(非ADME)スフェロイドは、神経スフェロイド、皮膚スフェロイド及び/又は気道(好ましくは肺)スフェロイドのいずれかとすることができる。様々な実施形態において、第1回路の少なくとも2つの更なる細胞培養コンパートメントは、肝臓スフェロイド、腸スフェロイド(小腸スフェロイドを含む)及び腎スフェロイドとは異なる2つの更なる「非ADME」スフェロイドを更に含む(更なる細胞培養コンパートメント当たり1種のスフェロイド)。様々な実施形態において、この2つの更なる(非ADME)スフェロイドは、神経スフェロイド、皮膚スフェロイド及び/又は気道(好ましくは肺)スフェロイドのいずれかから選択することができる。更なる他の実施形態において、第1回路の少なくとも3つの更なる細胞培養コンパートメントは、3種の更なる「非ADME」スフェロイドを更に含む(更なる細胞培養コンパートメント当たり1種のスフェロイド)。様々な実施形態において、3種の更なる「非ADME」スフェロイドは、神経スフェロイド、皮膚スフェロイド及び/又は気道(好ましくは肺)スフェロイドである。好ましくは、スフェロイドは、iPSC由来臓器細胞のスフェロイドである。具体的には、肝臓スフェロイドは、好ましくは、iPSC由来肝実質細胞のスフェロイドであり、腸スフェロイドは、好ましくは、iPSC由来腸細胞のスフェロイド、より好ましくは、iPSC由来小腸細胞のスフェロイドであり、神経スフェロイドは、好ましくは、iPSC由来神経細胞のスフェロイドであり、腎スフェロイドは、好ましくは、iPSC由来腎細胞のスフェロイドである。
【0058】
様々な実施形態において、細胞培養コンパートメントは、1種以上の臓器相当物、例えば、神経相当物を腸相当物と一緒に又は組み合わせて含むことができる。他の様々な実施形態において、各細胞培養コンパートメント(又は単一の細胞培養コンパートメント)は、細胞培養コンパートメント当たり1種の各臓器相当物という原則に従い、1種の臓器相当物のみを含むことができる。他方、例えば、新規微小流体デバイスの第1回路の細胞培養コンパートメントの少なくとも1つが肝臓相当物を含む場合、これは、第1回路にそれぞれ肝臓相当物を含む2つの細胞培養コンパートメントが存在し得ることを意味する。しかしながら、好ましい実施形態において、新規微小流体デバイスは、微小流体デバイス当たり(又は生体模倣システム当たり)1種の各臓器相当物という原則に従い、各臓器相当物を1つのみ含む。
【0059】
本開示は、本明細書に記載する新規微小流体デバイスの、分析試験、診断、研究、標的検証、毒性試験、組織工学、組織生産、創薬スクリーニング及び/又は薬物動態-薬力学解析における使用を提供する。
【0060】
本開示は、生体模倣システムを動作させることを可能にし、本明細書において提供される新規微小流体デバイスに基づくいわゆるADMEプロファイリングを確立する。したがって本開示は、本明細書に記載する新規微小流体デバイスを利用する生体模倣システムを動作させる方法を提供し、本開示により提供される新規微小流体デバイスを含むADME(吸収、分布、代謝、排泄)試験を更に提供する。更に本明細書においては、本明細書に記載する新規微小流体デバイスを含むADMET(吸収、分布、代謝、排泄、毒性)試験を開示する。
具体的には、創薬プロセスにおいて、in vitroADMEプロファイリング(又はスクリーニング)を行うことにより、新規分子物質を選択するための基準が得られ、新薬候補の選択並びに後期前臨床及び臨床開発に必要な、所望の薬物代謝、薬物動態又は安全性プロファイルを有する化合物が導かれる。薬剤(試験物質)のADME(T)プロファイル(又は特性)は、新薬開発者が規制当局の承認を受けるために必要な安全性及び有効性のデータを理解させるためのものである。
生体模倣システムを動作させる方法において、培養時間は数週間又は数ヵ月間続く可能性さえあり、疾患モデリング及び反復投与による物質曝露が可能となる。
【0061】
本開示は、本開示により提供される新規微小流体デバイスを利用してADME(吸収、分布、代謝、排泄)プロファイリングを実施する方法を提供する。本開示はまた、本明細書に記載する新規微小流体デバイスを利用してADMET(吸収、分布、代謝、排泄、毒性)プロファイリングを実施する方法も提供する。更に本明細書において、(試験)薬のADMEプロファイル又はADMETプロファイルを作成する方法であって、本開示により提供される新規微小流体デバイスを使用してADMEスクリーニング又はADMETスクリーニングをそれぞれ実施することを含む、方法を開示する。
【0062】
本明細書に開示する生体模倣システムを動作させる方法は、好ましくは、栄養液を生体模倣システムに、胃腸管相当物、好ましくは腸相当物、より好ましくは小腸相当物を含む細胞培養コンパートメントを介して選択的に添加することを含む。この臓器相当物は、好ましくは、胃腸管の、好ましくは腸の、一層好ましくは小腸の上皮細胞を含む組織を含む。生理学的in vivo条件を忠実に反映するために、本開示は、好ましくは、栄養液を生体模倣システムに、胃腸管相当物、好ましくは腸相当物、より好ましくは小腸相当物を含む細胞培養コンパートメントを介して選択的に添加して、生体模倣システムを動作させる。
【0063】
様々な実施形態において、栄養液は、生体模倣システムに、皮膚相当物及び/又は気道相当物、より具体的には肺相当物を含む細胞培養コンパートメントを介して選択的に添加される。
【0064】
本明細書に記載するように、栄養液は、具体的には、細胞又は身体が成長又は回復するために必須の物質(栄養素)(アミノ酸、塩(電解質)及びグルコースを含む)及び糖質形態の熱量を含む。具体的には、本明細書に記載する栄養液は、細胞増殖のための栄養液である。本明細書に記載する「栄養液」及び「細胞培養培地」という語は、本明細書において互換的に使用することができる。
【0065】
驚くべきことに、本明細書において提供する新規微小流体チップは、生体模倣システムに恒常性を確立することができることが見出された。これは、グルコース及びLDHの量が一定であることにより示された(図3)。グルコース濃度が一定であることは、利用可能なグルコースの消費が一定であり、能動的に調節されることを示唆している。グルコース濃度は全てのコンパートメントで等しい濃度に到達した。更に驚くべきことに、腸相当物を通じて(腸相当物を通じて頂端的に)選択的に供給することが、「血液」回路及び「尿」回路の両方の必要を満たすのに十分であることが見出された。同様に、LDH活性は、実験全体を通して比較的一定であったことが示された。グルコースと比較して、LDH濃度は各コンパートメントで異なる。腸相当物及び腎相当物のバリア機能は、3つ全ての「コンパートメント」(即ち、血液回路->培地貯留器1;尿回路->培地貯留器2;及び腸コンパートメント)でLDH濃度が異なることにより示される。したがって、このバリアにより、横断する物質が区別される。他の物質を保持しながら、グルコースが能動又は受動的に透過されることは、チップシステムの部分集合間で実際的な相互作用があることを示唆している。
【0066】
したがって本開示は、恒常性を模倣する方法であって、1つ以上の細胞培養コンパートメントを有する第1回路と、濾過ユニット及び再吸収ユニットを含む第2回路と、を含む生体模倣システムを動作させることを含み、両回路は、濾過ユニット及び再吸収ユニットを介して互いに連結されている、方法を提供する。新規微小流体デバイスに関し本明細書の他の箇所に記載されている(好ましい)実施形態によれば、生体模倣システムの第2回路に含まれる濾過ユニットは、好ましくは、分子のサイズ及び電荷に基づき第1回路から第2回路へ分子を選択的に通過させる濾過障壁を含む。より好ましくは、濾過障壁は生物学的障壁であり、一層好ましくは、生物学的障壁は有足細胞を含む。
【0067】
同じく、新規微小流体デバイスに、関し本明細書の他の箇所に記載されている(好ましい)実施形態によれば、生体模倣システムの第2回路に含まれる再吸収ユニットは、好ましくは、第2回路から第1回路への流体の再吸収を可能にする障壁を含む。より好ましくは、再吸収障壁は生物学的障壁であり、一層好ましくは、生物学的障壁は腎尿細管細胞を含む。
【0068】
恒常性を模倣する新規方法の様々な実施形態において、栄養液は、胃腸管相当物、より具体的には腸相当物、一層具体的には小腸相当物を含む細胞培養コンパートメント(第1回路の)を介して生体模倣システムに選択的に添加される。様々な実施形態において、臓器相当物は、胃腸管、好ましくは腸、一層好ましくは小腸の上皮細胞又は上皮細胞を含む組織を含む。
【0069】
新規微小流体デバイスに関し本明細書に記載する(好ましい)実施形態は、本明細書に記載する生体模倣システムを動作させることを含む、恒常性を模倣する新規方法にも適用される。したがって、新規微小流体デバイスに関連して本明細書の他の箇所に記載されている(好ましい)実施形態は、生体模倣システムを動作させることを含む、恒常性を模倣する新規方法に関連する好ましい実施形態でもある。より具体的には、新規微小流体デバイスに関連して本明細書の他の箇所に記載されている(好ましい)実施形態は、恒常性を模倣する新規方法に含まれる生体模倣システムの好ましい実施形態でもある。
【0070】
更に本開示は、本明細書に記載する新規微小流体デバイスを利用して生体模倣システム中の分析物を検出する方法であって、供試サンプルを第1回路の細胞培養コンパートメントに添加することを含み、好ましくは、前記細胞培養コンパートメントは、胃腸管相当物、より具体的には、腸相当物、皮膚相当物及び/又は気道相当物、より具体的には肺相当物のいずれかから選択される、臓器相当物を含む、方法を提供する。この臓器相当物は、好ましくは、胃腸管、皮膚又は気道の上皮細胞を含む組織を含む。好ましい実施形態において、供試サンプルは、胃腸管相当物、より具体的には腸相当物を含む細胞培養コンパートメントに添加される。より好ましくは、供試サンプルは胃腸管相当物、具体的には腸相当物、より具体的には小腸相当物を含む細胞培養コンパートメントに選択的に添加される。
様々な実施形態において、供試サンプルは、皮膚相当物及び/又は気道相当物、より具体的には肺相当物を含む細胞培養コンパートメントを介して生体模倣システムに選択的に添加される。
他の様々な実施形態において、供試サンプルは、生体模倣システムに、臓器相当物を含む細胞培養コンパートメントとは異なるキャビティを介して選択的に添加される。この種のキャビティは、血液回路及び/又は尿回路の「培地貯留器」とすることができる。本明細書の他の箇所に記載するように、この種の「培地貯留器」は、微小流体システムからサンプル又は培養物上清を採取する役割のみを果たす「サンプル採取貯留器」若しくは「サンプル採取チャンバ/コンパートメント」用である、及び/又は微小流体システムに供試サンプルを添加する役割のみを果たす「サンプル貯留器」若しくは「サンプルチャンバ/コンパートメント」用である。
様々な実施形態において、供試サンプルは液体供試サンプルであり、好ましくは、胃腸管相当物、具体的には腸相当物、より具体的には小腸相当物を含む細胞培養コンパートメントを介して生体模倣システムに添加される。様々な実施形態において、供試サンプルは、クリーム等の化粧品又は消費者製品であり、これは、好ましくは、皮膚相当物を含む細胞培養コンパートメントを介して生体模倣システムに添加される。
本開示による分析物を検出する方法は、血液回路及び/又は尿回路の「培地貯留器」からサンプルを採取することを含むことができる。本明細書の他の箇所に記載するように、この種の「培地貯留器」は、微小流体システムからサンプル又は培養物上清を採取する役割を果たす「サンプル採取貯留器」若しくは「サンプル採取チャンバ/コンパートメント」用とすることができ、及び/又は供試サンプルを微小流体システムに添加する役割を果たすが、臓器相当物用細胞培養コンパートメントとしての役割を果たさない「サンプル貯留器」若しくは「サンプル採取チャンバ/コンパートメント」用とすることができる。
本開示による分析物を検出する方法は、微小流体システムからサンプル採取チャンバを介して採取したサンプルを、代謝物、好ましくは毒性代謝物の有無に関し分析することを更に含むことができる。本開示による分析物を検出する方法は、具体的には、生体模倣システムに供試サンプルとして添加した薬剤の代謝物を検出することが可能である。
本開示による分析物を検出する方法は、第1回路及び/又は第2回路の流体の流れの中の分析物を検出することを更に含むことができる。
分析物を検出する方法の好ましい実施形態において、供試サンプルは、栄養液が添加される細胞培養コンパートメントと同一又は異なる第1回路の細胞培養コンパートメントに添加又は堆積される。
【0071】
更に、本明細書に記載する新規微小流体デバイスに細胞を播種することを含む、細胞を培養及び/又は維持する方法を本明細書に開示する。
【0072】
更に本明細書において、ここに記載した新規微小流体デバイス及び使用説明書を含む、生体模倣システムを動作させるためのキットを開示する。
【0073】
本開示により提供される微小流体デバイスは、プレート又はチップの形態とすることができる。プレートは、通常、マイクロタイタープレートの寸法に基づき、重力を利用した(gravity-based)受動的な微小流体流動又は搭載型ポンプによる能動的な送液(active on-board pumping)を利用する。スライドガラスサイズ又は他の形式のチップを能動的又は受動的な微小流体流動により動作させ、それにより、毛細管内又は間質内の生理学的速度の剪断応力を模倣することができる。能動的微小流体流動の場合は、外部又はチップ上のマイクロポンプを使用することができる。好ましくは、本開示により提供される微小流体デバイスはチップの形態にある。
【0074】
本明細書に開示する新規微小流体デバイス又は新規生体模倣システムの様々な実施形態において、第1回路は、内皮細胞が内張りされた1つ以上の微小流体流路を含む。本明細書の他の箇所に記載するように、多臓器チップの流路内のiPSC由来内皮細胞の伸長が剪断応力により促進されることが本開示により実証される(図11)。
【0075】
様々な実施形態において、新規微小流体デバイス又は新規生体模倣システムは、マイクロポンプ、好ましくは蠕動マイクロポンプを含む。様々な実施形態において、2つの回路(第1及び第2回路)の一方は、マイクロポンプ(即ち、「血液回路マイクロポンプ」又は「尿回路マイクロポンプ」)を有することができる。好ましい実施形態においては、2つの回路(第1及び第2回路)のそれぞれ専用のマイクロポンプ(即ち、「血液回路マイクロポンプ」及び「尿回路マイクロポンプ」)を有することができる。新規微小流体デバイス又は新規生体模倣システムが閉鎖流路系である好ましい実施形態によれば、マイクロポンプは好ましくは「チップ搭載型(on-chip)」マイクロポンプである。
【0076】
本明細書に記載するように、本明細書において提供する新規方法は、臓器相当物、好ましくは、それぞれの臓器の(上皮)細胞又はiPSC由来(上皮)細胞を含む組織を、第1回路の細胞培養コンパートメント内で堆積させる及び/又は培養する工程を包含することができる。
【0077】
様々な実施形態において、腸相当物は、線維芽細胞、特にiPSC由来線維芽細胞を(更に)含むことができる。好ましくは、腸相当物は、線維芽細胞、特に、iPSC由来線維芽細胞を更に含むiPSC由来腸相当物である。より好ましくは、腸相当物は、線維芽細胞、特に、iPSC由来線維芽細胞に覆われた細胞外マトリックスの層から形成されたiPSC由来の相当物である。細胞外マトリックスの層は、好ましくは、細胞外マトリックスのゲルを基体とする層である。一層好ましくは、腸相当物は、iPSC由来腸細胞のオルガノイドである。好ましくは、腸相当物は、基底膜様細胞外マトリックス抽出物(典型的には、組織細胞外環境様)の層から形成された、iPSC由来の相当物、好ましくは、iPSC由来腸細胞のオルガノイドであり、この層は、線維芽細胞、特にiPSC由来線維芽細胞で覆われている。様々な実施形態において、基底膜様細胞外マトリックス抽出物はゼラチン質タンパク質混合物を含む。好ましくは、基底膜様細胞外マトリックスは、Matrigel(登録商標)基底膜マトリックス(Corning)である。
様々な実施形態において、好ましくはiPSC由来腸細胞のオルガノイドである腸相当物は、上述の細胞外マトリックスに混合されている(incorporated)か又は埋め込まれている。
【0078】
様々な実施形態において、好ましくはiPSC由来腸細胞のオルガノイドである腸相当物は、初代微小血管内皮細胞又はiPSC由来内皮細胞(後者が好ましい)等の内皮細胞の(閉じた)層を、細胞培養コンパートメントの側底側に含む。様々な実施形態において、好ましくはiPSC由来腸細胞のオルガノイドである腸相当物は、iPSC由来内皮細胞の(閉じた)層を、細胞培養コンパートメントの側底側に含む。
【0079】
様々な実施形態において、腸相当物は、上に記載した線維芽細胞及び内皮細胞、特に、iPSC由来線維芽細胞及びiPSC由来内皮細胞を(更に)含むことができる。したがって、様々な実施形態において、腸相当物は、線維芽細胞、特にiPSC由来線維芽細胞に覆われた細胞外マトリックスの層により形成された、iPSC由来腸相当物であり、腸相当物は、内皮細胞、好ましくは初代微小血管内皮細胞の他の層を、細胞培養コンパートメント側底側に更に含む。或いは、様々な実施形態において、腸相当物は、線維芽細胞、特にiPSC由来線維芽細胞で覆われた、細胞外マトリックスの層により形成されたiPSC由来腸相当物であり、更に腸相当物は、iPSC由来内皮細胞の他の層を、細胞培養コンパートメントの側底側に更に含む。
様々な実施形態において、腸相当物は、上述の細胞外マトリックスに混合されているか又は埋め込まれている。
更に、上に記載したように、iPSC由来腸相当物は、好ましくは、iPSC由来腸細胞のオルガノイドである。同様に、細胞外マトリックスの層は、好ましくは、細胞外マトリックスのゲルを基体とする層、より好ましくは、基底膜様細胞外マトリックス抽出物の層(典型的には、組織細胞外環境様)である。基底膜様細胞外マトリックス抽出物は、ゼラチン質タンパク質混合物を含むことができる。好ましくは、基底膜様細胞外マトリックスはMatrigel(登録商標)基底膜マトリックス(Corning)である。
【0080】
様々な実施形態において、神経相当物は、内皮細胞、特にiPSC由来内皮細胞を(更に)含むことができる。好ましくは、神経相当物は、内皮細胞、特にiPSC由来内皮細胞を更に含む、iPSC由来の相当物である。より好ましくは、内皮細胞、特にiPSC由来内皮細胞は、神経相当物を含む細胞培養コンパートメントの神経相当物の側底側に存在する。或いは、神経相当物は、神経相当物の下側にバイオプリントされた(したがって存在する)iPSC由来内皮細胞を更に含むiPSC由来神経相当物である。好ましくは、iPSC由来神経相当物は、iPSC由来神経細胞のスフェロイド又はオルガノイドを含み、iPSC由来内皮細胞が、iPSC由来神経細胞の神経スフェロイド又はオルガノイドの下側にバイオプリントされている(したがって存在する)。好ましくは、iPSC由来神経相当物は、iPSC由来神経細胞のスフェロイド又はオルガノイドを含み、これは細胞外マトリックスの層に混合されているか又は埋め込まれている。好ましくは、iPSC由来内皮細胞は、iPSC由来神経細胞の神経スフェロイド又はオルガノイドの下側(側底)の細胞外マトリックスにバイオプリントされている(したがって、存在する)。上に記載したように、細胞外マトリックスは、好ましくは、細胞外ゲルマトリックス、より好ましくは、基底膜様細胞外マトリックス抽出物(典型的には、組織細胞外環境様)である。基底膜様細胞外マトリックス抽出物は、ゼラチン質タンパク質混合物を含むことができる。好ましくは、基底膜様細胞外マトリックスは、Matrigel(登録商標)基底膜マトリックス(Corning)である。
【0081】
神経スフェロイド若しくはオルガノイドの下側にバイオプリントされた、又は神経相当物の側底側、特に、神経相当物を含む細胞培養コンパートメントの側底側に播種された内皮細胞は、血液脳関門に類似しており、その密着性は、チップで2週間培養した後のTEERが20~78W×cmであるものとして示された。経上皮/経内皮電気抵抗(TEER)は、内皮及び上皮細胞層の細胞培養モデルのタイトジャンクションの動態の完全性を測定するための、広く受け入れられている定量化技法である。TEERは、例えば、薬物又は化学物質の輸送を評価する前の細胞バリアの完全性の有力な指標である。TEER測定は、細胞を損傷することなくリアルタイムで実施することができ、一般に、オーム性抵抗の測定又は幅広い周波数スペクトルに亘るインピーダンス測定に基づく。市販の測定システム以外にも、特注製作の微小流体的手段(microfluidic implementation)を用いた、様々な種類の細胞に関する測定が報告されている。TEERを用いて広く特徴付けられているバリアモデルには、血液脳関門(BBB)、胃腸(Gl)管及び肺モデルがある。
本開示の様々な実施形態において、神経スフェロイド若しくはオルガノイドの下側にバイオプリントされた、又は神経相当物の側底側、特に神経相当物を含む細胞培養コンパートメントの側底側に播種された内皮細胞は、具体的には、チップで2週間培養した後に20~78W×cmのTEERを示す。
【0082】
本開示の様々な実施形態において、腸相当物の細胞は、スクラーゼ-イソマルターゼ、腸オリゴペプチドトランスポーターSLC15A1/ペプチドトランスポーター1(PEPT1)及び主要な代謝酵素であるCYP3A4等の腸上皮細胞の特異的マーカーの発現により特徴付けられる。
【0083】
本開示の様々な実施形態において、腸相当物及び/又は肝臓相当物の細胞は、主要な代謝酵素であるCYP3A4を含む特異的マーカーの発現により特徴付けられる。
【0084】
本開示の様々な実施形態において、肝臓相当物の細胞は、サイトケラチン8/18を含む特異的マーカーの発現により特徴付けられる。
【0085】
本開示の様々な実施形態において、肝臓相当物は、タイトジャンクションZO-1タンパク質の発現により特徴付けられる。
【0086】
本開示の様々な実施形態において、神経相当物の細胞は、βチューブリンIIIを含む特異的マーカーの発現により特徴付けられる。
【0087】
本開示の様々な実施形態において、(初代)内皮細胞は、CD31及び/又はフォン・ヴィレブランド因子(vWF)の発現により特徴付けられる。
【0088】
本開示の様々な実施形態において、(iPSC由来)線維芽細胞は、ビメンチンの発現により特徴付けられる。
【0089】
本明細書に記載するように、本開示において使用され、記載される任意の種類の細胞は、誘導多能性幹細胞(iPSC)由来のものとすることができる。具体的には、細胞は、単一の(即ち、同一の)ドナーiPSC(これは、元々は、単一種の体細胞から得られた(即ち、再プログラム化された)ものである)に由来する(即ち、分化した)ものとすることができる。例えば、細胞は、例えば、皮膚体細胞、白血球、腎細胞、脂肪細胞等から得られた(即ち、再プログラム化された)ものである単一の(即ち、同一の)iPSCに由来する(即ち、分化した)ものとすることができる。したがって、細胞が、iPSC由来細胞として既に同定されたものではない範囲で、本開示において使用され、記載されている細胞は、様々な実施形態に従うiPSC由来細胞、好ましくは、単一種の体細胞から得られた(即ち、再プログラム化された)単一の(即ち、同一の)ドナーiPSCから分化したiPSC由来細胞とすることができる。
【0090】
本明細書に記載する、「腸」を指す場合、好ましい実施形態によれば、これは「小腸」を指すことを意味する。例えば、「腸相当物」又は「腸の細胞」を指す場合、好ましい実施形態によれば、それぞれ「小腸相当物」又は「小腸の細胞」を指すことを意味する。
【0091】
本明細書に記載するように、「細胞」を指す場合、「哺乳動物細胞」を指すことを包含するが、好ましくは「ヒト細胞」を指す。例えば、「内皮細胞」を指す場合は、「哺乳動物内皮細胞」を指すことを包含するが、好ましくは「ヒト内皮細胞」を指す。
【0092】
本明細書において更に記載するように、「組織」を指す場合、「哺乳動物組織」を指すことを包含するが、好ましくは「ヒト組織」を指す。例えば、「肝臓組織」を指す場合、「哺乳動物肝臓組織」を指すことを包含するが、好ましくは「ヒト肝臓組織」を指す。
【0093】
本明細書において更に記載するように、様々な実施形態において、「組織」という語は、「組織培養物」と見なすことができる。
【0094】
更に、本明細書に記載するように、「細胞の培養」は、好ましくは「細胞の流動培養(fluidic culturing)」を意味する。
【0095】
様々な実施形態において、本開示は、流動(fluidic)(又は流体)剪断応力、具体的には、生理学的に意味のある流動(又は流体)剪断応力を包含する。
【実施例
【0096】
ADME-Nチップのチップ設計
ヒトの生理機能の制約を縮小することによりチップ設計を達成した。寸法データのみならず流動特性も考慮した。配置図は、次に示す臓器相当物:腸、肝臓、腎臓(糸球体及び尿細管に分離)及び神経組織(図1)を組み込むためのキャビティを収容した2つの回路(「血液」及び「尿」と称する)を含む。前者の3種の組織は、いわゆるADMEプロファイル(吸着、分布、代謝、排泄)を得るために使用する。後者はこのプロファイルを補足する追加の組織である。したがって、このチップは、ADME-Nチップと称される。各回路の1つの貯留コンパートメントにより、上清をサンプル採取することが可能になる(培地貯留器1及び2)。培地の灌流は、組み込まれた2つ(各回路に1つずつ)の空気圧マイクロポンプにより、微小流体網を通じて行われる。回路は2つの腎臓コンパートメントが重複しており、ポリカーボネート製の多孔質膜で分離されている。
【0097】
腸コンパートメント
腸相当物は、24ウェル自立型細胞培養インサートをそれぞれのキャビティ(細胞培養コンパートメント)に配置することにより達成した。インサートは、市販の腸モデル(Epilntestinal(登録商標)、MatTek)を収容したもの、又はiPSC由来線維芽細胞及びiPSC由来内皮細胞も含むMatrigelに埋め込まれたiPSC由来腸細胞のオルガノイドを収容したもののいずれかとした。iPSC由来腸相当物モデル上には、初代微小血管内皮細胞又はiPSC由来内皮細胞を、24ウェル自立型細胞培養インサートの側底側に播種した。インサートの頂端側を使用して、栄養液(B.BraunのNutriflex(登録商標)peri)を毎日供給した。頂端側は、上清を合計250pL収容するものとした。
【0098】
神経コンパートメント
血液脳関門を有する神経相当物は、iPSC由来神経スフェロイドを収容した96ウェル吊下型細胞培養インサートから構成されるものとし、96ウェル吊下型細胞培養インサートの側底側に播種された、又は神経スフェロイドの下側にバイオプリントされた、iPSC由来内皮細胞で富化したものとした。インサートの頂端側は75pLの量を収容するものとした。
【0099】
肝臓コンパートメント
肝臓相当物は市販の肝臓モデル(InSpheroの3D InSight(商標)Human Liver Microtissues XL)又はiPSC由来線維芽細胞を含むiPSC由来肝実質細胞のスフェロイドのいずれかをそれぞれのキャビティに配置することにより達成した。前者は、それぞれ3000個の初代肝実質細胞を含む50個のスフェロイドを1つのチップに配置した。後者は、それぞれ50000個の細胞を含む20個のスフェロイドを1つのチップに配置した。
【0100】
腎臓(腎)コンパートメント
腎臓コンパートメントには、腎近位尿細管上皮細胞株(RPTEC)又はiPSC由来腎細胞のいずれかを播種した。
使用したiPSC由来細胞の分化プロトコルは、表1に列挙した様々な論文のプロトコルを適合させた。
【0101】
表1:iPSC由来細胞の一覧。一覧の論文から分化プロトコルを適合させた。
【0102】
「血液」回路の総容量は約1.37mL(頂端部の容量を含まない)とした。「尿」回路の総容量は約0.58mLとした。最初は、チップは、グルコース及び血清を含む培地を含むものとした。サンプルを両培地貯留器及び腸相当物の頂端側から毎日採取した。採取した分の量を、「血液」培地貯留器はグルコース無添加培地に、「尿」培地貯留器はグルコース及び血清無添加培地に交換した。腸コンパートメントにはグルコースに富むNutriflex(登録商標)peri solutionを与えた。このようにして、1.0mgのグルコースを腸相当物のみを介してシステムに毎日供給した。
【0103】
チップの組を7、14及び21日間培養した(図2)。終了時に、細胞サンプルを免疫組織学的検査、qPCR及びRNAシーケンシング用に採取した。上清を、グルコース、ラクテート、LDH、アルブミン、尿素、ALT及びAST含有量に関し分析した。day0、7及び14に所与の臓器相当物の静置培養物から対照を採取した。
【0104】
実験1.1:iPSCチップ-3チップ
・iPSC肝臓相当物
・iPSC腸相当物
・印刷された血液脳関門を含むiPSC神経相当物
・RPTEC腎臓
【0105】
腸コンパートメント
腸相当物のインサートは、iPSC由来線維芽細胞及びiPSC由来内皮細胞も含むMatrigelにiPSC由来腸細胞のオルガノイドを埋め込んだものを含む。iPSC由来腸相当物モデル上には、24ウェル自立型細胞培養インサートの側底側に初代微小血管内皮細胞又はiPSC由来内皮細胞を播種する。
【0106】
神経 コンパートメント
血液脳関門を含む神経相当物は、iPSC由来神経スフェロイドを収容した細胞培養インサートから構成されるものとし、神経スフェロイドの下側をバイオプリントされたiPSC由来内皮細胞で富化した。
【0107】
肝臓コンパートメント
肝臓相当物は、iPSC由来線維芽細胞を含むiPSC由来肝実質細胞のスフェロイドをそれぞれのキャビティに配置することにより達成する。それぞれ50000個の細胞を含む20個のスフェロイドを1つのチップ上に配置する(肝実質細胞:線維芽細胞比24:1)。
【0108】
腎臓(腎)コンパートメント
腎臓コンパートメントに腎近位尿細管上皮細胞株(RPTEC)を播種する。
【0109】
実験1.2:初代組織チップ-10チップ
・初代肝臓組織
・初代小腸
・印刷された血液脳関門を有するiPSC神経相当物
・RPTEC腎臓
【0110】
腸コンパートメント
腸相当物のインサートは市販の腸モデル(Epilntestinal(登録商標)、MatTek)を含む。
【0111】
神経コンパートメント
血液脳関門を有する神経相当物は、iPSC由来神経スフェロイドを収容した細胞培養インサートから構成されるものとし、神経スフェロイドの下側をバイオプリントされたiPSC由来内皮細胞で富化する。
【0112】
肝臓コンパートメント
肝臓相当物は市販の肝臓モデル(InSpheroの3D InSight(商標)Human Liver Microtissues XL)をそれぞれのキャビティに配置することにより実現する。それぞれ3000個の初代肝実質細胞を含む50個のスフェロイドを1つのチップに配置する。
【0113】
腎臓(腎)コンパートメント
腎臓コンパートメントには腎近位尿細管上皮細胞株(RPTEC)を播種する。
【0114】
実験2:iPSCチップ-21チップ
・iPSC肝臓相当物
・iPSC腸相当物
・血液脳関門を有するiPSC神経相当物
・iPSC腎相当物
【0115】
腸コンパートメント
腸相当物のインサートは、iPSC由来線維芽細胞及びiPSC由来内皮細胞も含むMatrigelに埋め込まれたiPSC由来腸細胞のオルガノイドを収容するものとする。iPSC由来腸相当物モデル上には、24ウェル自立型細胞培養インサートの側底側に、初代微小血管内皮細胞又はiPSC由来内皮細胞を播種する。
【0116】
神経コンパートメント
血液脳関門を有する神経相当物は、iPSC由来神経スフェロイドを収容する細胞培養インサートから構成されるものとし、細胞培養インサートの側底側に播種されたiPSC由来内皮細胞で富化する。
【0117】
肝臓コンパートメント
肝臓相当物は、iPSC由来線維芽細胞を含むiPSC由来肝実質細胞のスフェロイドをそれぞれのキャビティに配置することにより達成する。それぞれ50000個の細胞を含む20個のスフェロイドを1つのチップに配置する(肝実質細胞:線維芽細胞比24:1)。
【0118】
腎臓(腎)コンパートメント
腎臓コンパートメントにはiPSC由来腎細胞を播種する。
【0119】
結果
チップは恒常性を有していた。このことは、グルコース及びLDHの濃度が一定であることにより示された(図3)。グルコース濃度が一定であったことは、利用可能なグルコースの消費が一定であり、能動的に調節されることを示唆している。グルコース濃度は全てのコンパートメントで等しい濃度に到達した。腸相当物の頂端側のみからの供給でも「血液」及び「尿」回路の両方の必要を満たすのに十分であった。同様に、LDH活性は、実験全体を通じて比較的一定であることが示された。グルコースと比較して、LDH濃度は各コンパートメントで異なっていた。腸相当物及び腎相当物のバリア機能は、3つ全てのコンパートメント(即ち、血液回路->培地貯留器1;尿回路->培地貯留器2;及び腸コンパートメント)でLDH濃度が異なることにより示される。したがって、このバリアにより、横断する物質が区別される。他の物質を保持しながら、グルコースが能動的又は受動的に透過されることは、チップシステムの部分集合間で実際的な相互作用があることを示唆している。
【0120】
腎糸球体及び尿細管コンパートメントは、ポリカーボネート膜及び腎細胞の密着層を組み合わせることにより達成した(図4)。前者は、大きな培地構成成分を濾過し、それらの拡散を遅延させる技術的障壁を実現したものである。後者は、物質を再吸収し、「血液」及び「尿」回路全体に亘る濃度勾配を構築する。この勾配は、LDHのみならずアスパラギン酸アミノ基転移酵(AST、図5)でも確認できる。これらの両方の濃度が明確に異なることは、ADME-Nチップの腎臓膜が機能していることを実証している。ASTは、肝実質細胞及び筋細胞に見られる細胞内酵素であることから、肝臓相当物のみに由来し得る。
【0121】
全ての臓器相当物を、同一性、機能性及び生存力を決定するために免疫組織化学的試験に付した(図6~9)。iPSC由来腸相当物は、iPSC由来線維芽細胞で覆われたMatrigelの層から形成した。管腔を囲む腸オルガノイドをゲルに組み込んだ(図6)。iPSC由来腸細胞はNaK-ATPase及びCyp3A4を発現した。実験1.2において、初代微小血管内皮細胞の閉じた層で、更に、細胞培養インサートの側底側に他の層を形成させた。
【0122】
初代肝臓相当物は、2週間の培養期間終了後に機能性マーカーを示した(図7)。同様に、iPSC由来肝臓相当物の場合、機能性マーカーはADME-Nチップ内で3週間培養した後に確認された(図8)。
【0123】
iPSC由来神経相当物は、2週間の培養期間終了後、βチューブリンIIIの機能性マーカーを発現した(図9)。ハイドロゲルに印刷された内皮細胞は、チップで2週間培養した後にvWFを発現した(実験1.2)。チップで2週間培養した後の血液関門の密着性は、TEER値で20~78W×cmを示した(実験2)。
【0124】
表1に引用した参考文献の一覧:
1. Szkolnicka,D.,Farnworth,S.L.,Lucendo-villarin,B.& Hay,D.C.Deriving Functional Hepatocytes from Pluripotent Stem Cells.1-12(2014).doi:10.1002/9780470151808.sc01g05s30
2. Zou,L.et at.A simple method for deriving functional MSCs and applied for osteogenesis in 3D scaffolds.Sci.Rep.3,2243 (2013)
3. Kauffman,A.L.,Ekert,J.E.,Gyurdieva,A.V,Rycyzyn,M.A.& Hornby,P.J.Directed differentiation protocols for successful human intestinal organoids derived from multiple induced pluripotent stem cell lines.2,1-10(2015)
4. Morizane,R.& Bonventre,J.V.Generation of nephron progenitor cells and kidney organoids from human pluripotent stem cells.Nat.Protoc.12,195-207(2016)
5. Rigamonti,A.et at.Stem Cell Reports.Stem Cell Reports 6,993-1008(2016)
6. Lippmann Ethan S,Azarin Samira M,Kay Jennifer E,Nessler Randy A,Wilson Hannah K,Al-Ahmad Abraham,Palecek Sean P,S.E.V. Human Blood-Brain Barrier Endothelial Cells Derived from Pluri potent Stem Cells.Nat.Biotechnol.30,783-791(2012)
7. Harding,A. et at.Highly Efficient Differentiation of Endothelial Cells from Pluri potent Stem Cells Requires the MARK and the PI3K Pathways.Stem Cells 35,909-919(2017)
図1
図2-1】
図2-2】
図3-1】
図3-2】
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12