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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-04
(45)【発行日】2023-12-12
(54)【発明の名称】圧電定数測定装置及び圧電定数測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01R 29/22 20060101AFI20231205BHJP
   H10N 30/01 20230101ALI20231205BHJP
【FI】
G01R29/22 E
G01R29/22 Z
H10N30/01
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021026845
(22)【出願日】2021-02-23
(65)【公開番号】P2022128529
(43)【公開日】2022-09-02
【審査請求日】2023-01-18
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】517106327
【氏名又は名称】リードテクノ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121337
【弁理士】
【氏名又は名称】藤河 恒生
(72)【発明者】
【氏名】早野 修二
【審査官】青木 洋平
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-128944(JP,A)
【文献】特開2013-210305(JP,A)
【文献】中国実用新案第204009619(CN,U)
【文献】特開2020-068333(JP,A)
【文献】特開2012-242360(JP,A)
【文献】特開2003-194864(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 29/22
H10N 30/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウェハの基板上の下部電極層の上に成膜された圧電薄膜の圧電定数d33を測定する圧電定数測定装置であって、
前記基板の下側の面である裏面に接し得る第1電極と、
前記基板と前記第1電極の下方にあってそれらを支持し2次元の水平方向に移動可能なウェハ台と、
前記圧電薄膜に上から接し得る第2電極と、
前記第2電極を上下に移動させ、かつ、該第2電極を介して前記圧電薄膜に荷重を加え得る荷重手段と、
前記荷重を計測する荷重計測手段と、
前記荷重が加えられることによって前記圧電薄膜に発生する電荷を前記第1電極又は/及び前記第2電極を通して入力して該電荷の量を計測する電荷量計測手段と、
前記計測された電荷の量から実験により前記計測された電荷の量に対して予め導出されている引張り応力に応じて前記圧電薄膜に発生した電荷の量を差し引いたものと前記計測された荷重により圧電定数d33を算出する圧電定数測定制御手段と、
を備える圧電定数測定装置。
【請求項2】
第1電極とウェハ台と第2電極と荷重手段と荷重計測手段と電荷量計測手段と圧電定数測定制御手段とを備える圧電定数測定装置を用いて、ウェハの基板上の下部電極層の上に成膜された圧電薄膜の圧電定数d33を測定する圧電定数測定方法であって、
前記ウェハの周縁近傍の前記圧電薄膜の一部取り除き、
前記ウェハ台により前記基板を支持させ、かつ、前記圧電薄膜の一部が取り除かれた部分の前記下部電極層の周縁近傍に第1電極を接しさせ、
前記荷重手段により、前記第2電極を下に移動させて前記圧電薄膜に接しさせ、かつ、該第2電極を介して前記圧電薄膜に荷重を加え、
前記荷重計測手段により前記荷重を計測
前記電荷量計測手段により、前記荷重が加えられることによって前記圧電薄膜に発生する電荷を前記第1電極又は/及び前記第2電極を通して入力して該電荷の量を計測させ
前記圧電定数測定制御手段により、前記計測された電荷の量前記計測された荷重により圧電定数d33を算出する圧電定数測定方法
【請求項3】
請求項に記載の圧電定数測定方法において、
前記圧電定数測定制御手段により、前記計測された電荷の量から、実験により前記計測された電荷の量に対して予め導出されている引張り応力に応じて前記圧電薄膜に発生した電荷の量を差し引いて圧電定数d33を算出する圧電定数測定方法
【請求項4】
請求項に記載の圧電定数測定装置において、
前記第2電極の下端面は平らな円形である圧電定数測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウェハの基板上の下部電極層の上に成膜された圧電薄膜の圧電定数d33を測定する圧電定数測定装置及び圧電定数測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
圧電デバイスは、各種センサからアクチュエータ等の幅広い分野に応用されている。圧電デバイスは、圧電定数を測定することで圧電特性の定量的評価が可能である。圧電定数には、加えられる荷重の方向とそれにより発生する電荷の量に応じたd31、d33などが有る。圧電定数の測定は、様々な圧電定数測定装置によって可能である。例えば、特許文献1には、圧電定数d33用の圧電定数測定装置に治具を取り付けることでd31が測定できるようにした圧電定数測定装置が開示されている。特許文献2には、複数個のパルス荷重により発生した複数個のパルス状の電荷の量の変化量を計測し、その変化量と計測されたパルス荷重から圧電定数d33(及びd31)が算出できる圧電定数測定装置が開示されている。
【0003】
近年、圧電デバイスの小型化、低消費電力化の流れから、圧電薄膜(圧電材料の薄膜)を用いた圧電デバイスの開発、商品化が盛んになっている。圧電薄膜は、製造ラインにおいて、シリコンなどのウェハの基板上の下部電極層の上にスパッタ法などにより成膜されるものである。ウェハは、その後、上部電極層の形成などの後続の工程を経てから所定の形状に分割されることで、圧電デバイスの製品となる。
【0004】
圧電薄膜が適正かどうかは、一般的には、製造ラインにおいて抜取り検査で抜取ったウェハから所定形状だけ切出して圧電定数測定装置により圧電定数が測定される。このような抜取り検査は抜取ったウェハがその後に使用できない破壊検査である。それに対して、例えば、特許文献3に示すようなウェハの状態で圧電定数を測定する非破壊検査も提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2014-081339号公報
【文献】特許第6241975号公報
【文献】特開2013-210305号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献3に示されているものは、ウェハ内での圧電定数のバラツキを測定することができず、また、圧電定数d31を測定するものである。
【0007】
本発明は、係る事由に鑑みてなされたものであり、その目的は、ウェハの状態でその複数箇所で圧電薄膜の圧電定数d33を容易に測定できる圧電定数測定装置及び圧電定数測定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の圧電定数測定装置は、ウェハの基板上の下部電極層の上に成膜された圧電薄膜の圧電定数d33を測定する圧電定数測定装置であって、前記基板の下側の面である裏面に接し得る第1電極と、前記基板と前記第1電極の下方にあってそれらを支持し2次元の水平方向に移動可能なウェハ台と、前記圧電薄膜に上から接し得る第2電極と、前記第2電極を上下に移動させ、かつ、該第2電極を介して前記圧電薄膜に荷重を加え得る荷重手段と、前記荷重を計測する荷重計測手段と、前記荷重が加えられることによって前記圧電薄膜に発生する電荷を前記第1電極又は/及び前記第2電極を通して入力して該電荷の量を計測する電荷量計測手段と、前記計測された電荷の量から実験により前記計測された電荷の量に対して予め導出されている引張り応力に応じて前記圧電薄膜に発生した電荷の量を差し引いたものと前記計測された荷重により圧電定数d33を算出する圧電定数測定制御手段と、を備える。
【0009】
請求項2に記載の圧電定数測定方法は、第1電極とウェハ台と第2電極と荷重手段と荷重計測手段と電荷量計測手段と圧電定数測定制御手段とを備える圧電定数測定装置を用いて、ウェハの基板上の下部電極層の上に成膜された圧電薄膜の圧電定数d33を測定する圧電定数測定方法であって、前記ウェハの周縁近傍の前記圧電薄膜の一部取り除き、前記ウェハ台により前記基板を支持させ、かつ、前記圧電薄膜の一部が取り除かれた部分の前記下部電極層の周縁近傍に第1電極を接しさせ、前記荷重手段により、前記第2電極を下に移動させて前記圧電薄膜に接しさせ、かつ、該第2電極を介して前記圧電薄膜に荷重を加え、前記荷重計測手段により前記荷重を計測前記電荷量計測手段により、前記荷重が加えられることによって前記圧電薄膜に発生する電荷を前記第1電極又は/及び前記第2電極を通して入力して該電荷の量を計測させ前記圧電定数測定制御手段により、前記計測された電荷の量前記計測された荷重により圧電定数d33を算出す
【0010】
請求項3に記載の圧電定数測定方法は、請求項に記載の圧電定数測定方法において、前記圧電定数測定制御手段により、前記計測された電荷の量から、実験により前記計測された電荷の量に対して予め導出されている引張り応力に応じて前記圧電薄膜に発生した電荷の量を差し引いて圧電定数d33を算出する。
【0011】
請求項4に記載の圧電定数測定装置は、請求項に記載の圧電定数測定装置において、前記第2電極の下端面は平らな円形である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の圧電定数測定装置及び圧電定数測定方法によれば、ウェハの状態でその複数箇所で圧電薄膜の圧電定数d33を容易に測定可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施形態に係る圧電定数測定装置を示すものであって、ウェハ台と第1電極と第2電極と荷重手段と荷重計測手段の一部は断面図で示し、荷重計測手段のその他の一部と電荷量計測手段と圧電定数測定制御手段はブロック図(又は模式図)で示したものである。
図2】同上の圧電定数測定装置の第1電極の配置の一例(図1とは異なる例)を示す平面図である。
図3】同上の圧電定数測定装置における圧電薄膜の様子を拡大して示す断面図である。
図4】同上の圧電定数測定装置における波形の例を示すもので、(a)が圧電薄膜に加えられる荷重の波形図であり、(b)が荷重により発生する電荷の量の波形図である。
図5】同上の圧電定数測定装置の電荷量計測手段の構成例を示す概略図である。
図6】同上の圧電定数測定装置の圧電定数測定制御手段での処理を説明するグラフあって、圧電薄膜に発生した電荷の量全体に対して引張り応力に応じて発生した電荷の量の関係を示すものである。
図7】同上の圧電定数測定装置の圧電定数測定制御手段の構成例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明を実施するための形態を、以下説明する。本発明の実施形態に係る圧電定数測定装置1は、ウェハWAの基板W1上の下部電極層W2の上に成膜された圧電薄膜W3(例えば、厚み1μm~200μm)の圧電定数d33を測定するものである(図1参照)。圧電薄膜W3は、製造ラインにおいて、シリコンや金属(例えば、SUS、Ni合金等)などのウェハWAの基板W1上に貴金属又は金属などの下部電極層W2が形成された後、その上にスパッタ法などにより成膜されるものである。ウェハWAは、圧電定数測定装置1による圧電定数d33の測定後、上部電極層の形成などの後続の工程を経てから所定の形状に分割されることで、圧電デバイスの製品となることが可能である。
【0015】
圧電定数d33は、圧電薄膜W3の厚み方向に応力が加えられたときに発生する電荷の量を示すものとすることができる。また、後述する圧電定数d31は、圧電薄膜W3の面に沿った方向(すなわち、厚み方向の垂直方向)に応力が加えられたときに発生する電荷の量を示すものとすることができる。
【0016】
ウェハWAの状態で圧電薄膜W3の圧電定数d33を測定する圧電定数測定装置1は、図1に示すように、ウェハ台2と第1電極3と第2電極4と荷重手段5と荷重計測手段6と電荷量計測手段7と圧電定数測定制御手段8とを備えている。なお、図1において、ウェハWAの各部及び第1電極3などは、図示の都合上、厚み方向を拡大して示している。
【0017】
ウェハ台2は、ウェハWAがその上に載せられ、それを支持するものである。ウェハ台2は、ウェハWAの複数箇所で圧電薄膜W3の圧電定数d33を測定するために、2次元の水平方向に移動可能とすることができる。
【0018】
第1電極3は、圧電薄膜W3の圧電定数d33を測定するときに、基板W1の裏面又は下部電極層W2の周縁近傍に接するものである。第1電極3又はそれと同電位のその他の箇所には、電気導線3Aが接続されている。第1電極3が基板W1の裏面に接する場合、ウェハWAにおいて基板W1と下部電極層W2の間に絶縁層が設けられていないとき、ウェハWAの下部電極層W2から第1電極3まで導電性が保たれる。その場合、第1電極3は、ウェハ台2の直上にそれとほぼ同じ面積で設けられるようにすることができる(図1参照)。
【0019】
第1電極3が下部電極層W2の周縁近傍に接する場合は、特にウェハWAにおいて基板W1と下部電極層W2の間に絶縁層が設けられているときに有効である。第1電極3は、図2に示すように、ウェハWAの周縁近傍の圧電薄膜W3の一部が化学的に又は機械的に取り除かれた部分に接するようにして、ウェハ台2から離して設けられるようにすることができる。この場合、圧電薄膜W3が取り除かれた部分は、通常、圧電デバイスの製品としては用いられない部分である。
【0020】
第2電極4は、圧電薄膜W3の圧電定数d33を測定するときに、圧電薄膜W3に上から接するものである。第2電極4(又はそれと同電位のその他の箇所)には、電気導線4Aが接続されている。第2電極4は、特に形状が限定されるものではないが、圧電薄膜W3に安定して接するために、その下端面は平らであるのが好ましく、特に平らな円形であるのが好ましい。また、第2電極4は、ウェハWAの複数箇所でd33を測定可能とするために、その下端面は小面積である。
【0021】
荷重手段5は、第2電極4を上下に移動させ、かつ、第2電極4を介して圧電薄膜W3に荷重を加えるものである。圧電薄膜W3は、図3に示すように、第2電極4により圧電薄膜W3が圧縮される向きに荷重(図中、矢印付き一点鎖線で示す)が加えられると、圧電薄膜W3の厚み方向の圧縮応力(図中、矢印付き実線で示す)が生じ、また、第2電極4の外周近傍に引張り応力(図中、矢印付き破線で示す)が生じる。そうすると、圧電薄膜W3には、圧縮応力に応じた量の電荷が発生する他、引張り応力に応じた量の電荷が発生する。この引張り応力に応じた量の電荷は、後に詳述する圧電定数測定制御手段8によって処理されるようにすることができる。
【0022】
荷重手段5は、様々な具体的な形態が可能であるが、本実施形態では、第2電極4によって圧電薄膜W3に静荷重を加え、かつ、この静荷重が加えられている間に複数個のパルス荷重を加えるものとしている。なお、静荷重と複数個のパルス荷重を加えることにより圧電定数を測定する点は、上記特許文献2に開示のものと同様である。
【0023】
パルス荷重(図4(a)の波形において線bで示す)は、パルス状の荷重である。静荷重(図4(a)の波形において線aで示す)は、複数個のパルス荷重が圧電薄膜W3に加えられるときに、その基準として一定に保たれている荷重である。静荷重は、例えば、複数個のパルス荷重が圧電薄膜W3に加えられるときに、0.01N~1N程度にすることができ、また、パルス荷重も、例えば、0.01N~1N程度にすることができる。この静荷重及びパルス荷重は、通常、圧電薄膜W3の圧電特性が変化しないようストレスが余り大きくならないようにする。また、パルス荷重は、例えば、0.5秒~1.5秒程度の幅とすることができる。
【0024】
本実施形態では、複数個のパルス荷重を加えることによって、図4(b)に示すように、複数個のパルス状の電荷の量の変化が発生する。複数個のパルス荷重は、例えば、3個以上のパルス荷重とする。なお、発生する電荷の量が荷重手段5やその他の部材からの機械的振動及び電気的ノイズの影響を余り受けないように、例えば、第2電極4を導電性樹脂材料等でコーティングしてその圧電薄膜W3への接触(コンタクト)を安定化したり、除振部材やシールド部材などを荷重手段5などに取り付けたりすることができる。
【0025】
荷重手段5は、詳細には、直動モータ51と、荷重検出器取付プレート52と、第2電極取付プレート53と、を有して構成されるようにすることができる。
【0026】
直動モータ51は、荷重検出器取付プレート52、荷重計測手段6の後に詳述する荷重検出器61を介して第2電極4を直動(直線移動)させることができる。直動モータ51は、直動部51aが支持部51bを基準の位置にして直動するモータであり、支持部51bは、直動部51aが上下動するように圧電定数測定装置1のフレーム(図示せず)に固定されている。直動部51aは、その下端部が荷重検出器取付プレート52に固定されている。直動モータ51は、特に限定されるものではないが、位置制御用のサーボモータなどを用いることができる。
【0027】
荷重検出器取付プレート52は、荷重検出器61が下方からの力を検出し得るようにそれが取り付けられるものである。
【0028】
第2電極取付プレート53は、第2電極4の端部(圧電薄膜W3に接触し得る端部)が下向きになるようにそれが取り付けられるものである。詳細には、第2電極4の上部には固定部4aが設けられており、それが第2電極取付プレート53にねじ込みなどにより固定されている。固定部4aの上端面は、第2電極取付プレート53から露出している。第2電極取付プレート53は、周辺部の上面に荷重検出器取付プレート摺動棒52A、52Aが取り付けられており、また、上方には、荷重検出器保持バネ52B、52Bを介して上記の荷重検出器取付プレート52が位置している。荷重検出器取付プレート52と第2電極取付プレート53は、荷重検出器取付プレート摺動棒52A、52Aにガイドされ、また、荷重検出器保持バネ52B、52Bに緩衝されて相対的に上下動可能となっている。なお、荷重検出器取付プレート摺動棒52A、52Aの上部には、荷重検出器取付プレート52と第2電極取付プレート53の最大の離間を決める頭部52Aa、52Aaが設けられている。
【0029】
第2電極4が圧電薄膜W3に接触するまでは、荷重検出器取付プレート52と第2電極取付プレート53は、それらの間の最大の離間を保って荷重検出器61が第2電極4(固定部4a)に接触していない状態で下降する。第2電極4が圧電薄膜W3に接触してからは、荷重検出器取付プレート52と第2電極取付プレート53の間が縮まっていき、荷重検出器61が第2電極4(固定部4a)に接触するようになる(図1参照)。そうすると、第2電極4を介して圧電薄膜W3に荷重が加えられるとともに、荷重計測手段6の荷重検出器61による荷重の計測が可能になる。
【0030】
荷重計測手段6は、圧電薄膜W3に加えられる荷重を計測するものである。本実施形態では、荷重計測手段6は、圧電薄膜W3に加えられる静荷重及び複数個のパルス荷重を計測するものである。本実施形態では、荷重計測手段6は、荷重を検出する荷重検出器(ロードセル)61と、検出した荷重に対応する電気信号をデジタルデータ化して圧電定数測定制御手段8に出力することなどを行う荷重計測処理器62を有する。荷重検出器61は、荷重手段5の機構に組み込まれており、図1において、符号61Aは、荷重検出器61と荷重計測処理器62とを接続する電気導線を示している。荷重計測処理器62は、荷重検出器61と一体化することも可能である。
【0031】
電荷量計測手段7は、荷重が加えられることによって圧電薄膜W3に発生する電荷を第1電極3又は/及び第2電極4を通して入力して電荷の量を計測する。例えば、第1電極3をアース電位として第2電極4を通して圧電薄膜W3に発生する電荷を入力して電荷の量を計測することができる。その場合、電荷量計測手段7は、図5に例示するように、オペアンプ71の反転入力端子と出力端子の間にコンデンサ72と高抵抗73を並列に接続して構成したチャージアンプとADコンバータ74とを有するものとすることができる。ここでは、オペアンプ71の非反転入力端子、反転入力端子にそれぞれ電荷量計測手段7の入力端子7a、7bを接続し、ADコンバータ74の入力端子、出力端子にそれぞれオペアンプ71の出力端子、電荷量計測手段7の出力端子7cを接続している。入力端子7a、7bにはそれぞれ、電気導線3A(アース電位)、電気導線4Aを接続する。電荷量計測手段7は、入力端子7bを通って入力された電荷をオペアンプ71とコンデンサ72と高抵抗73を用いたチャージアンプで電圧に変換し、その電圧をADコンバータ74によりデジタルデータに変換することで、電荷の量を計測し、出力端子7cから計測値を出力する。チャージアンプは、図示したものに限らず、種々の回路が可能である。
【0032】
なお、図5に示す電荷量計測手段7では、オペアンプ71の反転入力端子と出力端子の間にコンデンサ72及び高抵抗73と並列に接続スイッチ75を設けて、接続スイッチ75の開閉を制御端子7dを介して制御されるようにしている。接続スイッチ75が導通すると、オペアンプ71の非反転入力端子と反転入力端子の間の電位差がゼロになり、従って、それらに接続される圧電薄膜W3に発生している電荷の量がゼロになる。制御端子7dは、圧電定数測定制御手段8による制御が可能である。そうすることで、圧電薄膜W3に荷重が加えられる前に、圧電薄膜W3に発生している電荷の量をゼロにしておくことができる。
【0033】
圧電定数測定制御手段8は、電荷量計測手段7で計測された電荷の量と計測された荷重により圧電定数d33を算出する。電荷量計測手段7で計測された電荷には、上記のように、圧縮応力に応じて圧電薄膜W3に発生した電荷の他、引張り応力に応じて圧電薄膜W3に発生した電荷が含まれている。圧縮応力に応じて圧電薄膜W3に発生した電荷が、圧電定数d33の測定の対象となる電荷である。よって、電荷量計測手段7で計測された電荷の量から引張り応力に応じて圧電薄膜W3に発生した電荷の量を差し引いて圧電定数d33を算出するのが極めて好ましい。なお、引張り応力に応じて圧電薄膜W3に発生した電荷は、圧電定数d31の測定の対象となる電荷である。
【0034】
本実施形態では、例えば、複数個のパルス状の電荷の量の変化量と複数個のパルス荷重のうち、第1番目の立ち上りでの変化量ΔQ1uとパルス荷重ΔF1uが計測され(図4(a)、(b)参照)、圧電定数d331uが算出される。同様にして、第1番目の立ち下りでの変化量ΔQ1dとパルス荷重ΔF1d、第2番目の立ち上りでの変化量ΔQ2uとパルス荷重ΔF2u、第2番目の立ち下りでの変化量ΔQ2dとパルス荷重ΔF2d、第3番目の立ち上りでの変化量ΔQ3uとパルス荷重ΔF3u、第3番目の立ち下りでの変化量ΔQ3dとパルス荷重ΔF3d、が計測され(図4(a)、(b)参照)、圧電定数d331d、d332u、d332d、d333u、d333d、が算出される。そして、d331u、d331d、d332u、d332d、d333u、d333d、が平均化される。
【0035】
各変化量ΔQ1u~ΔQ3dをΔQ、各パルス荷重ΔF1u~ΔF3dをΔF、各圧電定数d331u~d333dをd33、と表すと、各圧電定数d33は、以下の式(1)で算出される。
d33=(ΔQ-ΔQ)/ΔF ・・・(1)
ここで、ΔQは、引張り応力に応じて圧電薄膜W3に発生した電荷の量である。ΔQの値は、ΔQの値との関係が、例えば、図6に示すように、予め圧電定数測定装置1を用いた実験等により導出されており、ΔQの値が決まると決まる値である。なお、図6では、ΔQがΔQに対してほぼ比例するとした場合を示している。
【0036】
或いは、各圧電定数のd33は、(1)を変形して、以下の式(1’)で算出されるようにしてもよい。
d33=(1-ΔQ/ΔQ)(ΔQ/ΔF)
=A(ΔQ/ΔF) ・・・(1’)
ここで、Aは、圧縮応力に応じた量の電荷の割合を示すことになる。
【0037】
また、各変化量ΔQ1u~ΔQ3dを平均化してΔQとし、各パルス荷重ΔF1u~ΔF3dを平均化してΔFとし、そのΔQとΔFを用いて式(1)又は式(1’)で平均化された圧電定数d33が算出されるようにしてもよい。
【0038】
このようにして、電荷量計測手段7で計測された電荷の量から引張り応力に応じて圧電薄膜W3に発生した電荷の量を差し引いて圧電定数d33を算出することができる。
【0039】
圧電定数測定制御手段8は、コンピュータ(パソコン)によって実現されるのが通常である。例えば、図7に示すように、プログラム記憶部81の中の圧電定数算出用プログラム81aに従って、CPU82は、荷重計測手段6で計測された荷重のデジタルデータ及び電荷量計測手段7で計測された電荷の量のデジタルデータを入力部83を介して入力端子8a、8bから入力する。そして、データ記憶部84などを用いて上述した算出方法で圧電定数d33を算出し、出力部85を介して出力端子8cから外部に出力する。また、圧電定数測定制御手段8は、荷重手段5の直動モータ51などを制御することができる。
【0040】
以上、本発明の実施形態に係る圧電定数測定装置及び圧電定数測定方法について説明したが、本発明の圧電定数測定装置は、実施形態に記載したものに限られることなく、特許請求の範囲に記載した事項の範囲内での様々な設計変更が可能である。
【符号の説明】
【0041】
1 圧電定数測定装置
2 ウェハ台
3 第1電極
3A 第1電極の電気導線
4 第2電極
4a 第2電極の固定部
4A 第2電極の電気導線
5 荷重手段
51 直動モータ
51a 直動モータの直動部
51b 直動モータの支持部
52 荷重検出器取付プレート
52A 荷重検出器取付プレート摺動棒
52Aa 荷重検出器取付プレート摺動棒の頭部
52B 荷重検出器保持バネ
53 第2電極取付プレート
6 荷重計測手段
61 荷重検出器
61A 荷重検出器の電気導線
62 荷重計測処理器
7 電荷量計測手段
7a、7b 電荷量計測手段の入力端子
7c 電荷量計測手段の出力端子
7d 電荷量計測手段の制御端子
71 電荷量計測手段のオペアンプ
72 電荷量計測手段のコンデンサ
73 電荷量計測手段の高抵抗
74 電荷量計測手段のADコンバータ
75 電荷量計測手段の接続スイッチ
8 圧電定数測定制御手段
8a、8b 圧電定数測定制御手段の入力端子
8c 圧電定数測定制御手段の出力端子
81 圧電定数測定制御手段のプログラム記憶部
81a 圧電定数測定制御手段の圧電定数算出用プログラム
82 圧電定数測定制御手段のCPU
83 圧電定数測定制御手段の入力部
84 圧電定数測定制御手段のデータ記憶部
85 圧電定数測定制御手段の出力部
WA ウェハ
W1 基板
W2 下部電極層
W3 圧電薄膜
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7