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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-04
(45)【発行日】2023-12-12
(54)【発明の名称】コンデンサ
(51)【国際特許分類】
   H01G 9/035 20060101AFI20231205BHJP
   H01G 9/02 20060101ALI20231205BHJP
   H01G 9/10 20060101ALI20231205BHJP
   H01G 9/08 20060101ALI20231205BHJP
【FI】
H01G9/035
H01G9/02
H01G9/10 F
H01G9/10 D
H01G9/08 F
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021545080
(86)(22)【出願日】2019-09-13
(86)【国際出願番号】 JP2019036149
(87)【国際公開番号】W WO2021049015
(87)【国際公開日】2021-03-18
【審査請求日】2022-06-20
(73)【特許権者】
【識別番号】595122132
【氏名又は名称】サン電子工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001933
【氏名又は名称】弁理士法人 佐野特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹澤 隆志
(72)【発明者】
【氏名】細木 雅和
(72)【発明者】
【氏名】錦織 大和
【審査官】田中 晃洋
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-069390(JP,A)
【文献】特開2016-076663(JP,A)
【文献】実開平05-038866(JP,U)
【文献】特開平04-206708(JP,A)
【文献】特開平09-275037(JP,A)
【文献】実開平03-099427(JP,U)
【文献】実開平06-021241(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 9/035
H01G 9/02
H01G 9/10
H01G 9/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セパレータを介して巻回された陽極箔と陰極箔との間に所定の溶液を保持したコンデンサ素子と、前記コンデンサ素子を収納する本体ケースと、前記本体ケースを封止する封口体とを備えたコンデンサにおいて、前記セパレータの一部が前記封口体の前記コンデンサ素子側の面に沿わせた状態で複数点または面で接触するとともに、前記溶液が酸化により固化する封口体劣化抑止剤を親油性溶媒に溶解され、前記セパレータを介して前記封口体に供給される前記溶液が前記封口体内部に浸透して、前記封口体劣化抑止剤が固化した被覆部により前記封口体の外面が覆われ、前記被覆部よりも前記コンデンサ素子側の前記封口体内には前記溶液が存在し、前記封口体劣化抑止剤が脂溶性ビタミンであることを特徴とするコンデンサ。
【請求項2】
前記溶液が前記親油性溶媒に前記封口体劣化抑止剤及び電解質を溶解した電解液から成ることを特徴とする請求項1に記載のコンデンサ。
【請求項3】
前記電解液中の前記封口体劣化抑止剤の濃度が1重量%~90重量%であることを特徴とする請求項に記載のコンデンサ。
【請求項4】
前記電解液中の前記封口体劣化抑止剤の濃度が3重量%~80重量%であることを特徴とする請求項に記載のコンデンサ。
【請求項5】
前記親油性溶媒がガンマブチロラクトンであることを特徴とする請求項2~請求項4のいずれかに記載のコンデンサ。
【請求項6】
前記親油性溶媒が、スルホラン、エチレングリコール、ジエチレングリコールの少なくとも一つと、非イオン性界面活性剤とを含むことを特徴とする請求項1~請求項のいずれかに記載のコンデンサ。
【請求項7】
前記親油性溶媒が、ポリエチレングリコールに親油基を結合させたもの、または、ポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコール共重合体であることを特徴とする請求項1~請求項のいずれかに記載のコンデンサ。
【請求項8】
前記セパレータの短手方向の幅が前記陽極箔及び前記陰極箔の短手方向の幅よりも大きく、前記セパレータが前記陽極箔及び前記陰極箔よりも前記封口体側に突出することを特徴とする請求項1~請求項のいずれかに記載のコンデンサ。
【請求項9】
前記封口体の前記コンデンサ素子側の面の中央部が外周部よりも突出することを特徴とする請求項に記載のコンデンサ。
【請求項10】
前記本体ケースが内面上に突出して前記封口体の外周面を押圧する突出部を有し、前記突出部の頂点が前記封口体の厚み方向の中心よりも前記コンデンサ素子から離れた側に配されることを特徴とする請求項に記載のコンデンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、封口体により封止されるコンデンサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来のコンデンサは特許文献1に開示されている。このコンデンサは本体ケース、コンデンサ素子及び封口体を備えている。本体ケースは金属によって有底筒状に形成され、円筒状の周壁の一端を閉塞して他端に開口部を開口する。
【0003】
コンデンサ素子は酸化膜が形成された陽極箔と陰極箔とをセパレータを介して巻回され、本体ケースに収納される。陽極箔と陰極箔との間には電解液が保持される。また、陽極箔及び陰極箔にはそれぞれリード端子が接続される。コンデンサ素子を収納した本体ケースの開口部はゴム等の封口体により封口され、リード端子は封口体を貫通して本体ケース外に引き出される。
【0004】
ゴム等の高分子は空気中等の酸素存在下で熱や光のエネルギーを受けると、ラジカルの生成をきっかけとして連鎖的な酸化反応が起こり、物性低下を生ずると言われている。このため、封口体に酸化反応を抑制するための老化防止剤を混入することが述べられる。
【0005】
特許文献2及び特許文献3には電解液に替えて固体電解質を有するコンデンサが開示される。これらのコンデンサは特許文献1と同様の本体ケース、コンデンサ素子及び封口体を備えている。コンデンサ素子の陽極箔と陰極箔との間には固体電解質である導電性高分子が保持される。上記構成のコンデンサによると、導電性高分子によりESRを低くすることができる。
【0006】
また、特許文献3のコンデンサは、陽極箔と陰極箔の間に機能性液体(例えば水)を保持させている。機能性液体によって陽極箔及び陰極箔に形成した酸化膜の欠陥を修復することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2000-100670号公報(第2頁-第4頁、第1図)
【文献】特開2016-76562号公報(第7頁-第16頁、第2図)
【文献】国際公開第2014/050913号(第9頁-第23頁、第2図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
近年、コンデンサを搭載する機器の小型化及び高性能化により、大きな発熱を伴うモータ、エンジン、高速処理用半導体素子等の近傍にコンデンサを配置する場合が増えている。このため、高温環境下でのコンデンサの使用が多くなってきている。
【0009】
上記特許文献1に開示されるコンデンサによると、封口体に混入された老化防止剤は酸化防止作用を果たすにつれて消費され、次第に失われる。コンデンサを高温環境下で使用すると封口体は老化防止剤の消失に伴って急速に劣化する。このため、電解液が本体ケース外へ蒸散し、最終的にドライアップと言われる状態になることが多い。従って、コンデンサの特性を長期的に安定して維持できない問題があった。
【0010】
また、上記特許文献3に開示されるコンデンサも同様に、コンデンサを高温環境下で使用すると封口体が劣化する。このため、陽極箔と陰極箔との間に保持される機能性液体が本体ケース外へ抜け出て、酸化膜の修復を行うことができない。従って、コンデンサの特性を長期的に安定して維持できない問題があった。
【0011】
また、機能性液体が酸化膜を修復する場合だけでなくコンデンサの特性を高める機能を有する場合に、機能性液体が抜け出るとコンデンサの特性を長期的に安定して維持できない。
【0012】
本発明は、長期的に安定して特性を維持できるコンデンサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために本発明は、セパレータを介して巻回された陽極箔と陰極箔との間に所定の溶液を保持したコンデンサ素子と、前記コンデンサ素子を収納する本体ケースと、前記本体ケースを封止する封口体とを備えたコンデンサにおいて、前記セパレータの一部が前記封口体の前記コンデンサ素子側の面に沿わせた状態で複数点または面で接触するとともに、前記溶液が酸化により固化する封口体劣化抑止剤を親油性溶媒に溶解され、前記セパレータを介して前記封口体に供給される前記溶液が前記封口体内部に浸透して、前記封口体劣化抑止剤が固化した被覆部により前記封口体の外面が覆われ、前記被覆部よりも前記コンデンサ素子側の前記封口体内には前記溶液が存在し、前記封口体劣化抑止剤が脂溶性ビタミンであることを特徴としている。
【0015】
また本発明は、上記構成のコンデンサにおいて、前記溶液が前記親油性溶媒に前記封口体劣化抑止剤及び電解質を溶解した電解液から成ることを特徴としている。
【0016】
また本発明は、上記構成のコンデンサにおいて、前記電解液中の前記封口体劣化抑止剤の濃度が1重量%~90重量%であることを特徴としている。
【0017】
また本発明は、上記構成のコンデンサにおいて、前記電解液中の前記封口体劣化抑止剤の濃度が3重量%~80重量%であることを特徴としている。
【0018】
また本発明は、上記構成のコンデンサにおいて、前記親油性溶媒がガンマブチロラクトンであることを特徴としている。
【0019】
また本発明は、上記構成のコンデンサにおいて、前記親油性溶媒が、スルホラン、エチレングリコール、ジエチレングリコールの少なくとも一つと、非イオン性界面活性剤とを含むことを特徴としている。
【0020】
また本発明は、上記構成のコンデンサにおいて、前記親油性溶媒が、ポリエチレングリコールに親油基を結合させたもの、または、ポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコール共重合体であることを特徴としている。
【0021】
また本発明は、上記構成のコンデンサにおいて、前記セパレータの短手方向の幅が前記陽極箔及び前記陰極箔の短手方向の幅よりも大きく、前記セパレータが前記陽極箔及び前記陰極箔よりも前記封口体側に突出することを特徴としている。
【0022】
また本発明は、上記構成のコンデンサにおいて、前記封口体の前記コンデンサ素子側の面の中央部が外周部よりも突出することを特徴としている。
【0023】
また本発明は、上記構成のコンデンサにおいて、前記本体ケースが内面上に突出して前記封口体の外周面を押圧する突出部を有し、前記突出部の頂点が前記封口体の厚み方向の中心よりも前記コンデンサ素子から離れた側に配されることを特徴としている。
【発明の効果】
【0024】
本発明によると、コンデンサ素子が親油性溶媒に封口体劣化抑止剤を溶解した溶液を保持し、セパレータが封口体のコンデンサ素子側の面に沿わせた状態で複数点または面で接触する。封口体にはセパレータを介して供給される溶液が浸透し、封口体劣化抑止剤の酸化によって固化した被覆部により封口体の外面が覆われる。これにより、封口体の酸化による劣化を長期的に抑止することができる。このため、コンデンサ素子に保持される溶液が抜け出ることを防止し、コンデンサの特性を長期的に安定して維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の第1実施形態に係るコンデンサを上方から見た斜視図
図2】本発明の第1実施形態に係るコンデンサを下方から見た斜視図
図3】本発明の第1実施形態に係るコンデンサを示す正面断面図
図4】本発明の第1実施形態に係るコンデンサのコンデンサ素子を示す斜視図
図5図3のH部詳細図
【発明を実施するための形態】
【0026】
<第1実施形態>
以下に図面を参照して本発明の実施形態を説明する。図1及び図2は第1実施形態のコンデンサ1を上方から見た斜視図及び下方から見た斜視図を示している。コンデンサ1は電解コンデンサから成り、座板15上に装着される。座板15は合成樹脂により形成され、コンデンサ1を保持する。座板15には一対の貫通孔16が設けられる。
【0027】
コンデンサ1はリード端子8、9を有し、座板15の貫通孔16に挿通されたリード端子8、9が外側に折曲される。これにより、コンデンサ1は本体ケース2の上面を自動機により保持して回路基板上に配され、リード端子8、9を回路基板のランドに半田付けして実装される。
【0028】
図3はコンデンサ1の正面断面図を示している。コンデンサ1は本体ケース2、コンデンサ素子3及び封口体4を備えている。本体ケース2はアルミニウム等の金属により断面円形の有底筒状に形成され、一端を上壁2aにより塞がれて他端に開口部2bを開口する。本体ケース2内にコンデンサ素子3が収納され、開口部2bが封口体4により封止される。
【0029】
図4はコンデンサ素子3の斜視図を示している。コンデンサ素子3は陽極箔5、陰極箔7及びセパレータ6を有している。陽極箔5及び陰極箔7は金属箔によりそれぞれ長尺の帯状に形成される。セパレータ6は不織布等により長尺の帯状に形成される。
【0030】
コンデンサ素子3はセパレータ6を介して陽極箔5及び陰極箔7を円筒状に巻回して形成される。帯状の陽極箔5、陰極箔7及びセパレータ6は巻回方向(長手方向)に細長く、巻回方向に対して直交する方向(短手方向)の幅が巻回方向の長さよりも短い。陽極箔5または陰極箔7の終端はテープ12によって固定される。陽極箔5にはリード端子8が接続され、陰極箔7にはリード端子9が接続される。
【0031】
セパレータ6の短手方向(軸方向)の幅は陽極箔5及び陰極箔7の短手方向の幅よりも大きく形成される。これにより、セパレータ6は陽極箔5及び陰極箔7に対して上方(上壁2a側)及び下方(開口部2b側)に突出し、陽極箔5と陰極箔7との短絡が防止される。
【0032】
陽極箔5はアルミニウム、タンタル、ニオブ、チタン等の弁作用金属から成っている。陰極箔7はセパレータ6を介して陽極箔5に対向し、アルミニウム等により形成される。陽極箔5及び陰極箔7の表面には酸化膜(不図示)が形成される。
【0033】
また、コンデンサ素子3の陽極箔5と陰極箔7との間には電解液が保持される。電解液にコンデンサ素子3を所定時間浸漬することにより、電解液がセパレータ6に浸透して陽極箔5と陰極箔7との間に保持される。電解液は実質上の陰極として機能する。また、電解液によって陽極箔5及び陰極箔7の酸化膜の欠陥を修復することができる。
【0034】
電解液は親油性溶媒に電解質及び封口体劣化抑止剤を溶解した溶液から成っている。本実施形態は親油性溶媒としてガンマブチロラクトンを用いている。スルホラン、エチレングリコール、ジエチレングリコールの少なくとも一つと、非イオン性界面活性剤とを含む親油性溶媒を用いてもよい。また、親油性溶媒としてポリエチレングリコールに親油基を結合させたものを用いてもよく、ポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコール共重合体を用いてもよい。
【0035】
電解質は溶媒に溶解することによってイオンに解離して電気伝導性を発揮し、ホウ酸化合物またはカルボン酸化合物の有機アミン塩等が用いられる。
【0036】
封口体劣化抑止剤は親油性溶媒に溶解できるものであり、酸素の存在下で酸化反応に基づく一連の反応により固化する化合物である。封口体劣化抑止剤として、脂溶性ビタミン、不飽和脂肪酸、分子内に不飽和脂肪酸基を含むポリグリセリンエステル、飽和脂肪酸、またはこれらの誘導体を用いることができる。これらの封口体劣化抑止剤の親油性溶媒に対する溶解を容易にするため、両親媒性化合物を添加してもよい。
【0037】
酸化により固化する脂溶性ビタミンとして、ビタミンA(レチノール、α-カロテン、β-カロテン、β-クリプトキサンチン)、ビタミンE(α-トコフェロール、トコトリエノール)、ビタミンD(ビタミンD2、ビタミンD3)、ビタミンK(ビタミンK1、ビタミンK2、メナキノン7)等が挙げられる。α-トコフェロールを除く上記脂溶性ビタミンは分子内に芳香環以外の二重結合を有し、酸化により固化しやすい。また、α-トコフェロールは分子内に芳香環以外の二重結合を有さないが、高温下で酸化により固化する。
【0038】
乾性油に含まれる不飽和脂肪酸や、分子内に不飽和脂肪酸基を含むポリグリセリンエステル(ポリグリセリン脂肪酸エステル)等の化合物は、分子内に二重結合や三重結合を複数持つ。このため、空気中の酸素との反応により脂肪酸基同士が結合して分子量が増えて固化しやすい。このような化合物として、例えばオレイン酸を脂肪酸基としたテトラグリセリントリエステル等を挙げることができる。
【0039】
飽和脂肪酸や、飽和脂肪酸のエステル化合物等の誘導体は、分子内のカルボニル基が酸素存在下の160℃等の高温環境下において酸化されて固化する性質を有する。
【0040】
図3において、封口体4は絶縁体の弾性材料の成形品により円板状に形成され、一対の貫通孔10、11を有している。コンデンサ素子3のリード端子8、9は圧入によって貫通孔10、11に挿通される。封口体4として、ブチルゴム、シリコンゴム、フッ素ゴム等を用いることができる。
【0041】
ブチルゴムは耐熱老化性、耐薬品性、耐候性等の環境抵抗性や電気絶縁特性が高く、気体の透過性が低いためより望ましい。シリコンゴム、フッ素ゴムはブチルゴムよりも気密性が低いが、後述する被覆部17で封口体4の外面を覆うことによって気密性を高くすることができる。
【0042】
本体ケース2の開口部2bに封口体4を配した状態で、本体ケース2には外周面を押圧する絞り加工が施される。これにより、本体ケース2には内面側に突出する突出部13が形成される。突出部13によって封口体4の外周面が内周方向に圧縮され、本体ケース2の内周面に密着する。また、封口体4の圧縮により貫通孔10、11の内面がリード端子8、9に密着する。これにより、本体ケース2の開口部2bが封口体4により封止され、コンデンサ素子3に保持された電解液が本体ケース2外に漏れ出さないようにしている。
【0043】
この時、突出部13の頂点13aが封口体4の厚み方向の中心4a(厚みをtとして下端からt/2の位置)よりもコンデンサ素子3から離れた側に配される。これにより、封口体4の外周面が図中、下方から押圧され、封口体4の上面(コンデンサ素子3側)が上に凸に湾曲して中央部が外周部よりもコンデンサ素子3側に突出する。
【0044】
また、本体ケース2の開口端は封口体4の外面(コンデンサ素子3とは反対側の面)側に折り返された折り返し部14を形成する。折り返し部14及び突出部13によって封口体4が本体ケース2外に抜け出ることを防止している。
【0045】
図5図3のH部詳細図を示している。陽極箔5及び陰極箔7に対して下方に突出するセパレータ6の少なくとも一部は、封口体4の上面(コンデンサ素子3側の面)に沿わせた状態で複数点または面で接触する。この時、封口体4の上面の中央部が上方に突出するように湾曲するため、セパレータ6が封口体4に沿った状態で複数点または面で確実に封口体4に接触する。
【0046】
セパレータ6の短手方向の幅は陽極箔5及び陰極箔7の幅よりも0.15mm~2.0mm大きくすることが好ましい。0.15mm以上、より好ましくは0.2mm以上とすることでセパレータ6が撓み、陽極箔5及び陰極箔7に応力をかけない状態でセパレータ6の下端部を封口体4の上面に確実に接触させることができる。
【0047】
封口体4にはセパレータ6を介して継続的に電解液が供給される。電解液は封口体4の内部の分子間隙間を介して封口体4の内部に浸透し、封口体4の外面(コンデンサ素子3の反対側の面)に到達する。そして、封口体4の外面は封口体劣化抑止剤が酸化により固化した被覆部17(図3参照)により覆われる。この時、被覆部17よりもコンデンサ素子3側の封口体4内には電解液が存在している。
【0048】
コンデンサ1は製造工程において、陽極箔5及び陰極箔7に形成されている酸化膜の修復作業が行われる。修復作業は例えば、125℃の高温環境でリード端子8、9間に35Vの電圧を30分加えることにより行われる。高温状態での酸化膜の修復作業時に封口体4の外面に到達した封口体劣化抑止剤は酸化して固化し、被覆部17が形成される。
【0049】
即ち、酸化膜の修復作業時に封口体4の外面側では本体ケース2外に多くの空気が存在し、高温環境に配される。これにより、封口体4の外面は前駆体である封口体劣化抑止剤が酸化により固化した被覆部17で覆われ、封口体4全体が本体ケース2外の酸素と触れ難くなる。このため、封口体4の酸化による劣化が抑止され、封口体4のクラック等を介して電解液が蒸散されることを防止することができる。従って、高温環境下でもコンデンサ1の特性を長期的に安定して維持することができる。
【0050】
加えて、被覆部17よりもコンデンサ素子3側の封口体4内部には液状の電解液が浸透して存在するので、被覆部17の一部が劣化してもその部分に電解液が供給される。これにより、封口体劣化抑止剤が固化して被覆部17が修復される。従って、コンデンサ1の特性をより長期的に安定して維持することができる。
【0051】
被覆部17の形成は陽極箔5及び陰極箔7の酸化膜の修復作業時に行ってもよく、酸化膜の修復作業と異なる工程で行ってもよい。高温環境下では電解液の封口体4への供給が速くなり、封口体劣化抑止剤の酸化反応が速くなる。このため、被覆部17の形成時の温度は105℃以上が好ましく、125℃以上がより好ましい。尚、封口体劣化抑止剤が飽和脂肪酸または飽和脂肪酸のエステル化合物の場合は固化の反応に時間がかかるため、160℃以上で被覆部17を形成する方が好ましい。
【0052】
被覆部17の形成を十分に進めるため、高温環境下に置く時間は30分以上が好ましく1時間以上がより好ましいが、160℃以上の場合はより短時間でもよい。
【0053】
電解液中の封口体劣化抑止剤の濃度は1重量%~90重量%にすると好ましい。電解液中の封口体劣化抑止剤が1重量%よりも少ないと、封口体4の酸化抑制効果を長期的に継続できない。また、電解液中の封口体劣化抑止剤が90重量%を超えると電解液の粘度が高くなる。このため、コンデンサ素子3に電解液を保持させる時間及びコンデンサ素子3から封口体4に電解液が供給される時間が長くなり、コンデンサ1の工数が大きくなる。電解液中の封口体劣化抑止剤の濃度を3重量%~80重量%にするとより酸化抑制効果を発揮して工数を削減できるため更に好ましい。
【0054】
次に、コンデンサ1を150℃の高温環境下で耐久試験を行い、時間経過による静電容量の変化を調べた。本実施形態のコンデンサ1の電解液は親油性溶媒としてガンマブチロラクトンを用い、封口体劣化抑止剤としてビタミンD3を用いている。電解液中の封口体劣化抑止剤の濃度は10重量%である。また、本実施形態に対して電解液の封口体劣化抑止剤を省いた比較例についても耐久試験を行った。本実施形態及び比較例のコンデンサ1の封口体4はブチルゴムにより形成している。
【0055】
耐久試験の結果、本実施形態のコンデンサ1は初期の静電容量に対して8000時間経過後の静電容量が20%以内の変化量であった。従って、高温環境下でも、長期的に安定した特性を発揮することができる。
【0056】
これに対して、比較例は4000時間を経過すると封口体4にクラックが形成され、電解液の蒸散によって静電容量が初期に対して急激に30%以上低下した。従って、高温環境下では、品質保証が問題となる。
【0057】
本実施形態によると、コンデンサ素子3が親油性溶媒に封口体劣化抑止剤を溶解した電解液を保持し、セパレータ6が封口体4のコンデンサ素子3側の面に沿わせた状態で複数点または面で接触する。封口体4にはセパレータ6を介して供給される電解液が浸透し、封口体劣化抑止剤の酸化によって固化した被覆部17により封口体4の外面が覆われる。これにより、封口体4の酸化による劣化を長期的に抑止することができる。このため、コンデンサ素子3に保持される電解液が抜け出ることを防止し、コンデンサ1の特性を長期的に安定して維持することができる。
【0058】
また、被覆部17よりもコンデンサ素子3側の封口体4内部に電解液が浸透して存在するので、被覆部17の一部が劣化してもその部分に電解液が供給される。これにより、封口体劣化抑止剤が固化して被覆部17が修復され、コンデンサ1の特性をより長期的に安定して維持することができる。
【0059】
また、封口体劣化抑止剤が脂溶性ビタミンであると、酸化により固化して被覆部17を形成する封口体劣化抑止剤を容易に実現することができる。
【0060】
また、電解液中の封口体劣化抑止剤の濃度が1重量%~90重量%であると、工数の増大を抑制し、封口体4の劣化を長期的に抑止することができる。
【0061】
また、電解液中の封口体劣化抑止剤の濃度が3重量%~80重量%であると、工数の増大をより抑制し、封口体4の劣化を長期的に抑止することができる。
【0062】
また、電解液の親油性溶媒がガンマブチロラクトンであると、封口体劣化抑止剤が溶解した電解液を容易に実現することができる。
【0063】
また、電解液の親油性溶媒が、スルホラン、エチレングリコール、ジエチレングリコールの少なくとも一つと、非イオン性界面活性剤とを含むと、封口体劣化抑止剤が溶解した電解液を容易に実現することができる。
【0064】
また、電解液の親油性溶媒が、ポリエチレングリコールに親油基を結合させたもの、または、ポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコール共重合体であると、封口体劣化抑止剤が溶解した電解液を容易に実現することができる。
【0065】
また、セパレータ6が陽極箔5及び陰極箔7よりも封口体4側に突出するので、セパレータ6が封口体4に沿った状態で複数点または面で確実に封口体4に接触することができる。
【0066】
また、封口体4のコンデンサ素子3側の面の中央部が外周部よりも突出するので、セパレータ6をより確実に封口体4に接触させることができる。
【0067】
また、本体ケース2の内面上に突出する突出部13の頂点13aが封口体4の厚み方向の中心4aよりもコンデンサ素子3から離れた側に配される。これにより、コンデンサ素子3側の面の中央部が外周部よりも突出した封口体4を容易に形成することができる。
【0068】
尚、封口体4は上面(コンデンサ素子3側の面)が突出するため下面(コンデンサ素子3の反対側の面)が窪んだ状態となる。このため、封口体4の下面は平面に対して窪んだことで表面積が広くなり、下面を覆う被覆部17と封口体4との接触面積が広がる。その結果、封口体4と被覆部17との一体化強度を高くすることができる。このため、被覆部17によってコンデンサ素子3に保持される電解液が抜け出ることを確実に防止し、コンデンサ1の特性をより長期的に安定して維持することができる。
【0069】
また、封口体4の下面の中央部を外側に突出させる形状としても、封口体4の下面の表面積を広くすることができる。この場合でも、被覆部17と封口体4との接触面積が広がり、同様の効果を得ることができる。
【0070】
<第2実施形態>
次に、第2実施形態について説明する。本実施形態はコンデンサ素子3が電解液に替えて固体電解質(不図示)及び所定の機能性液体を保持する。その他の部分は第1実施形態と同様である。
【0071】
固体電解質は導電性高分子等により構成される。導電性高分子によってコンデンサ1のESRを低くすることができる。導電性高分子として、ポリチオフェン、ポリピロールまたはこれらの誘導体等を用いることができる。ポリエチレンジオキシチオフェンは電気伝導率が高いためより望ましい。
【0072】
導電性高分子の分散液にコンデンサ素子3を所定時間浸漬した後に乾燥することにより、導電性高分子から成る固体電解質を陽極箔5と陰極箔7との間に保持することができる。
【0073】
また、陽極箔5と陰極箔7との間にはコンデンサ1の耐電圧を高くする機能を有した機能性液体が保持される。機能性液体は親油性溶媒に封口体劣化抑止剤を溶解した溶液から成っている。親油性溶媒として、ガンマブチロラクトンを用いることができる。スルホラン、エチレングリコール、ジエチレングリコールの少なくとも一つと、非イオン性界面活性剤とを含む親油性溶媒を用いてもよい。また、親油性溶媒としてポリエチレングリコールに親油基を結合させたものを用いてもよく、ポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコール共重合体を用いてもよい。これらの親油性溶媒により耐電圧を高くすることができるとともに、封口体劣化抑止剤を溶解させることができる。
【0074】
封口体劣化抑止剤は上記と同様に、脂溶性ビタミン、不飽和脂肪酸、分子内に不飽和脂肪酸基を含むポリグリセリンエステル、飽和脂肪酸、またはこれらの誘導体を用いることができる。これらの封口体劣化抑止剤の親油性溶媒に対する溶解を容易にするため、両親媒性化合物を添加してもよい。
【0075】
脂溶性ビタミンとして、ビタミンA(レチノール、α-カロテン、β-カロテン、β-クリプトキサンチン)、ビタミンD(ビタミンD2、ビタミンD3)、ビタミンE(トコフェロール、トコトリエノール)、ビタミンK(ビタミンK1、ビタミンK2、メナキノン7)等が挙げられる。
【0076】
また、固体電解質は機能性液体により膨潤状態となるため、固体電解質を挟む陽極箔5及び陰極箔7に対する固体電解質の密着度が高くなる。これにより、コンデンサ1のESRを低下させることができる。従って、機能性液体はコンデンサ1のESRを低下させる機能も有している。
【0077】
第1実施形態と同様にコンデンサ素子3のセパレータ6は封口体4の上面(コンデンサ素子3側の面)に沿わせた状態で複数点または面で接触する。封口体4にはセパレータ6を介して継続的に機能性液体が供給される。機能性液体は封口体4の内部の分子間隙間を介して封口体4の内部に浸透し、封口体4の外面(コンデンサ素子3の反対側の面)に到達する。そして、封口体4の外面は封口体劣化抑止剤が酸化により固化した被覆部17(図3参照)により覆われる。
【0078】
これにより、封口体4全体が本体ケース2外の酸素と触れ難くなるため、封口体4の酸化による劣化が抑止される。このため、封口体4のクラック等を介して機能性液体が蒸散されることを防止することができる。従って、高温環境下でもコンデンサ1の特性を長期的に安定して維持することができる。
【0079】
本実施形態によると、コンデンサ素子3が親油性溶媒に封口体劣化抑止剤を溶解した機能性液体を保持し、セパレータ6が封口体4に接触する。封口体4にはセパレータ6を介して供給される機能性液体が浸透し、封口体劣化抑止剤の酸化によって固化した被覆部17により封口体4の外面が覆われる。これにより、封口体4の酸化による劣化を長期的に抑止することができる。このため、コンデンサ素子3に保持される機能性液体が抜け出ることを防止し、コンデンサ1の特性を長期的に安定して維持することができる。
【0080】
また、被覆部17よりもコンデンサ素子3側の封口体4内部に機能性液体が浸透するので、被覆部17の一部が劣化してもその部分に機能性液体が供給される。これにより、封口体劣化抑止剤が固化して被覆部17が修復され、コンデンサ1の特性をより長期的に安定して維持することができる。
【0081】
本実施形態において、機能性液体がコンデンサ1の耐電圧を高くする機能を有するが、コンデンサ1の他の特性を高める機能を有してもよい。
【0082】
また、機能性液体に替えて第1実施形態と同様の電解液を陽極箔5と陰極箔7との間に保持してもよい。陽極箔5と陰極箔7との間に固体電解質及び電解液を保持することにより、酸化膜の修復機能を高めるとともに、コンデンサ1のESRをより低くすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明は、電解コンデンサ等のコンデンサ及びコンデンサを回路に実装した自動車、電子機器等に利用することができる。
【符号の説明】
【0084】
1 コンデンサ
2 本体ケース
2b 開口部
3 コンデンサ素子
4 封口体
5 陽極箔
6 セパレータ
7 陰極箔
8、9 リード端子
10、11 貫通孔
12 テープ
13 突出部
13a 頂点
14 折り返し部
15 座板
16 貫通孔
17 被覆部
図1
図2
図3
図4
図5