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特許7396709地盤削孔方法、並びに地盤削孔装置の削孔制御装置及びそのプログラム
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  • 特許-地盤削孔方法、並びに地盤削孔装置の削孔制御装置及びそのプログラム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-04
(45)【発行日】2023-12-12
(54)【発明の名称】地盤削孔方法、並びに地盤削孔装置の削孔制御装置及びそのプログラム
(51)【国際特許分類】
   E21B 44/02 20060101AFI20231205BHJP
   E21B 7/18 20060101ALI20231205BHJP
【FI】
E21B44/02
E21B7/18
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2022094355
(22)【出願日】2022-06-10
【審査請求日】2023-05-12
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】305025407
【氏名又は名称】株式会社ジオテック
(74)【代理人】
【識別番号】100121371
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 和人
(72)【発明者】
【氏名】安富 三代嗣
【審査官】柿原 巧弥
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-226979(JP,A)
【文献】特開2000-337074(JP,A)
【文献】特開2000-038889(JP,A)
【文献】実開昭58-180990(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21B 44/02
E21B 7/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
泥岩層,頁岩層,粘板岩層,蛇紋岩層等の粘性が高く地圧により膨張する粘膨張性層を含む地盤を削孔する地盤削孔方法であって、
コンプレッサーによりブロー圧を加えた圧縮空気を、ボーリングロッド内を通して前記ボーリングロッドの先端のビットから噴出させると共に、前記ボーリングロッドに接続された削岩機でフィード圧,回転圧,及び打撃圧を加えることで、前記ボーリングロッドを回転させつつ軸方向の押圧力及び軸方向の振動を加えながら、前記ビットを掘進させる削孔工程に於いて、
前記コンプレッサーの吐出流量、並びに前記削岩機の前記フィード圧,前記回転圧P及び前記打撃圧Pを所定の通常削孔時設定値に設定し、前記ビットを前進させつつ削孔を行う通常削孔工程と、
回転圧検出手段により各時刻tに於いて前記削岩機の回転圧P(t)を検出し、前記回転圧P(t)が所定の閾値Prth1以上となった場合、又は、前記回転圧P(t)の時間変分ΔP(t)が所定の閾値ΔPrth1以上となった場合、若しくは、前記回転圧P(t)の増減率RP(t)が所定の閾値RPrth1以上となった場合には、削孔制御モードを含水粘膨張性層モードに切り替える粘膨張性層モード切替工程と、
前記含水粘膨張性層モードに切り替わった後、
(a)前記削岩機の前記フィード圧を前記通常削孔時設定値の70~80%とし、且つ、前記打撃圧を前記通常削孔時設定値の25~55%とし、
(b)前記削岩機の回転圧が所定の閾値Prth2を超えないように、前記フィード圧及び前記打撃圧を調整しつつ、前記ビットを所定の距離d2だけ掘進させ、
(c)前記ビットが前記距離d2だけ前進すると、前記ビットを孔口まで後進させた後、再び前記ビットを孔尻まで前進させる、
というピストン削孔動作を繰り返し行うピストン削孔工程と、
を有することを特徴とする地盤削孔方法。
【請求項2】
前記ピストン削孔工程に於いて、前記ビットを前記距離d2だけ掘進させる際に、前記コンプレッサーのブロー圧Pが所定の閾値Pbth1を超えた場合、又は、前記ブロー圧Pの時間変分値ΔPが所定の閾値ΔPbth1を超えた場合、若しくは、削孔孔の孔尻で生じる削孔スライムの孔口からの排出が停止した場合には、前記ビットを孔口まで後進させた後、再び前記ビットを孔尻まで前進させ、前記ピストン削孔動作を継続して繰り返し行うことを特徴とする請求項1記載の地盤削孔方法。
【請求項3】
前記ピストン削孔工程に於いて、前記ビットを前記距離d2だけ掘進させる際に、前記回転圧検出手段により各時刻tに於いて前記削岩機の回転圧P(t)を検出し、前記回転圧P(t)が所定の閾値Prth2以下となった場合、又は、前記回転圧P(t)の時間変分ΔP(t)が所定の閾値ΔPrth2以下となった場合、若しくは、前記回転圧P(t)の増減率RP(t)が所定の閾値RPrth2以下となった場合には、削孔制御モードを、前記通常削孔工程を行う通常削孔モードに切り替える通常モード復帰工程、
を有することを特徴とする請求項1又は2記載の地盤削孔方法。
【請求項4】
先端にビットが取り付けられたボーリングロッドに、コンプレッサーによりブロー圧を加えた圧縮空気を、前記ボーリングロッド内を通して前記ビットに送気し、前記ビットから削孔スライム輸送用の圧縮空気を噴射させつつ、前記ボーリングロッドに接続された削岩機でフィード圧,回転圧,及び打撃圧を加えて地盤の削孔を行う地盤削孔装置の制御を行う地盤削孔装置の削孔制御装置であって、
各時刻tに於いて前記削岩機の回転圧P(t)を検出する回転圧検出手段と、
前記コンプレッサーに於ける前記コンプレッサーの吐出流量、並びに前記削岩機の前記フィード圧,前記回転圧及び前記打撃圧を所定の通常削孔時設定値に設定し、前記ビットを前進させつつ削孔させる制御を行う通常削孔制御手段と、
前記回転圧検出手段が検出する前記回転圧P(t)が所定の閾値Prth1以上となった場合、又は、前記回転圧P(t)の時間変分ΔP(t)が所定の閾値ΔPrth1以上となった場合、若しくは、前記回転圧P(t)の増減率RP(t)が所定の閾値RPrth1以上となった場合には、削孔制御モードを含水粘膨張性層モードに切り替える粘膨張性層モード切替手段と、
前記含水粘膨張性層モードに切り替わった後の制御を行う粘膨張性層削孔制御手段と、
を備え、
前記粘膨張性層削孔制御手段は、
(a)前記削岩機の前記フィード圧を前記通常削孔時設定値の70~80%に設定し、且つ、前記打撃圧を前記通常削孔時設定値の25~55%に設定し、
(b)前記削岩機の回転圧が所定の閾値Prth2を超えないように、前記フィード圧及び前記打撃圧を調整しつつ、前記ビットを所定の距離d2だけ掘進させ、
(c)前記ビットが前記距離d2だけ前進すると、前記ビットを孔口まで後進させた後、再び前記ビットを孔尻まで前進させる、
というピストン削孔制御を繰り返し行うピストン削孔制御手段を備えていること、を特徴とする地盤削孔装置の削孔制御装置。
【請求項5】
各時刻に於いて前記コンプレッサーのブロー圧Pを検出するブロー圧検出手段を備え、
前記粘膨張性層削孔制御手段は、
前記ピストン削孔制御手段により、前記ビットを前記距離d2だけ掘進させている際に、前記ブロー圧検出手段が検出する前記ブロー圧Pが所定の閾値Pbth1を超えた場合、又は、前記ブロー圧Pの時間変分値ΔPが所定の閾値ΔPbth1を超えた場合、若しくは、削孔孔の孔尻で生じる削孔スライムの孔口からの排出が停止した場合には、前記ビットを孔口まで後進させた後、再び前記ビットを孔尻まで前進させる割込ピストン制御手段を備えていること、
を特徴とする請求項4記載の地盤削孔装置の削孔制御装置。
【請求項6】
前記粘膨張性層削孔制御手段は、
前記ピストン削孔制御手段により、前記ビットを前記距離d2だけ掘進させている際に、前記回転圧検出手段により検出される前記回転圧P(t)が所定の閾値Prth2以下となった場合、又は、前記回転圧P(t)の時間変分ΔP(t)が所定の閾値ΔPrth2以下となった場合、若しくは、前記回転圧P(t)の増減率RP(t)が所定の閾値RPrth2以下となった場合には、削孔制御モードを、前記通常削孔制御手段が制御を行う通常削孔モードに切り替える通常モード復帰手段、
を備えていることを特徴とする請求項4又は5記載の地盤削孔装置の削孔制御装置。
【請求項7】
コンピュータに読み込ませて実行することにより、前記コンピュータを請求項4記載の地盤削孔装置の削孔制御装置の前記通常削孔制御手段、前記粘膨張性層モード切替手段、及び前記粘膨張性層削孔制御手段として機能させることを特徴とするプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地盤へのロックボルトやアンカー打設、地盤内への発破孔の削孔、地盤内への歪み計の設置等の際に用いられるノンコアボーリングの地盤削孔技術に関し、特に、エアー削孔(空気堀り)による、泥岩(シルト岩,粘土岩)層,頁岩層,粘板岩層,蛇紋岩層等の粘性が高く風化により膨張し易い粘膨張性層(本明細書では、泥岩層,頁岩層,粘板岩層,蛇紋岩層,砂泥層等の粘性が高く風化により膨張し易い性質を「粘膨張性」と呼ぶ。)を含む地盤の削孔に適した地盤削孔技術に関する。
【背景技術】
【0002】
ナトム(NATM;New Austrian Tunneling)工法を用い開設された山岳トンネル等のトンネルに於いては、年月が経つに従い覆工コンクリート(トンネルの地山削孔面を被覆するコンクリート構造体)にクラックが生じ漏水が多くなりコンクリート表面が剥離脱落する事故が発生している。その対策工事としてロックボルトによる既設トンネル補強工事(ロックボルト補強工)が行われている。「ロックボルト補強工」とは、覆工コンクリートと接する地山(掘削された地盤。)の土塊すべり面より以深まで削孔し鋼材を挿入して、グラウトにより鋼材全体を地山に定着させ、地山の変形に伴い鋼材に受動的に引張力を生じさせることで、地山の変形及びすべりの発生を抑制する工事である。一般に、ロックボルト補強工には、次のような工法がある。
(1)覆工コンクリートから地山深度2m~6mをノンコアリングボーリングによりロックボルト挿入孔を削孔し、その挿入孔(削孔により形成される孔)にドライモルタルを充填して鋼棒(ロックボルト)を挿入し補強する工法。
(2)覆工コンクリートから地山深度2m~6mをノンコアリングボーリングによりロックボルト挿入孔を削孔し、ドライモルタルを充填せずに膨張性鋼管を挿入し、高圧水で鋼管を膨らませて地山に密着させ、その鋼管と地山の摩擦抵抗力により、地山の補強及び覆工コンクリートと地山との一体化を行う工法。
【0003】
ロックボルト補強工が必要なトンネルは、活断層や地殻変動で断層や礫層が形成された地山(脆性地山)を貫くトンネルや、蛇紋岩,泥岩,頁岩,シルト岩等のように、地下水により風化・細粒化して粘土状となり膨潤性を有した地層で形成された地山(粘膨張性地山)を貫くトンネルに多く見られる。また、トンネルの覆工コンクリートと地山との境界は建設当初は密着しているが、年月の経過とともに、地下水により地山が風化し、外圧の変化により剥離・細粒化され、地下水の通り道に沿って、細粒化された土砂が流出することにより、覆工コンクリートと地山との間に空洞が生じている場合が多い。
【0004】
一般に、地盤の削孔に於いては、挿入孔の削孔で生じる削孔スライム(削孔の際に発生する岩粉や岩砕および土砂)の排出を、高圧水で行う方法と高圧エアー(圧縮空気)で行う方法がある。前者(輸送流体に高圧水を用いるもの)を「水削孔」、後者(輸送流体に圧縮空気を用いるもの)を「無水削孔(エアー削孔)」という。新設トンネルの削孔では、多くの場合水削孔を使用することが多いが、既設のトンネルの補修工事に於いては、以下の理由から、通常、無水削孔が選択される。
(1)水削孔では、高圧水によって定着部の細粒化された風化岩盤が洗い流されて、ボアホールが出来てしまう。
(2)水削孔では、挿入孔の外周面に泥土の被膜が形成され、ロックボルトを定着させるセメントと地山との接着性を低下させてしまう。
(3)水削孔では、削孔スライムは泥水として孔口から排出されるので、ロックボルト挿入孔の削孔中に、削孔スライムにより地山の地質や状態を判別することが困難である。
(4)粘膨張性地山に於いては、水削孔では、高圧水が粘膨潤性を有した地層の風化を促進させる。
(5)トンネル内の車両通行を片側規制して工事を行う場合、水削孔では、通行車両に泥水が飛散してクレームになる。
(6)狭いトンネル内スペースでは、泥浄化装置の設置・撤去を日々繰り返すことが困難である。
【0005】
上述のように、既設のトンネルの補修工事に於いては無水削孔が推奨されるが、エアー削孔には次のような問題点がある。
(a)礫層や風化破砕帯(亀裂が発達していて脆い岩盤)等の脆性地山のエアー削孔では圧縮空気のエアー圧により孔壁が緩んで乱され崩壊して挿入孔ができない。
(b)蛇紋岩,泥岩,頁岩,シルト岩等の粘膨張性層のエアー削孔では、削孔スライムの粘性が高く孔壁に付着して、削孔スライムの孔外排出が著しく困難である。また、粘土化している箇所は粘土が伸縮膨張するためビットは挿入していくが、ビットを抜くと孔内は膨張圧で潰れてしまって挿入孔が圧潰される。
【0006】
従って、孔壁が確立できない場所でのロックボルト補強工は、一般に、ドリフター(削岩機)の先端に装着した削孔ツールのロッド及びビットを削孔毎にそのまま鋼棒として用いる自穿孔ロックボルト方式(削孔に使用するロッド及びビットをロックボルト補強材とする方式)(非特許文献1,2参照)や、トンネルロックボルトの通常削孔径45~50mmの所を90mm以上の大口径で鋼管ケーシングを添わせながら削孔する二重管削孔方式(ケーシング削孔)が適用されている(非特許文献3,4参照)。しかし、どちらの工法もコストと時間を多く要する工事になる。
【0007】
脆性地山や粘膨張性地山の削孔に関連する現在公知の地盤削孔技術としては、例えば、特許文献1-4に記載のものが挙げられる。
【0008】
特許文献1記載の「掘削工法(及びそれに使用するロックビット)」及び特許文献2の「掘削工法(及び掘削ビット)」は、空気掘りによるダウンザホールハンマ工法に於いて、所定長掘削する毎に孔内で圧密ビットを前後往復移動させ、削孔で発生するズリ(削孔スライム)をビット外周部で孔壁に擦(こす)りつけて、孔壁を固めることを特徴とした地盤削孔技術である。特許文献1に記載の地盤削孔技術では、ロックビットとして、頭部外径がダウンザホールドリルのウエアスリーブの外径よりも大きく、頭部に硬質刃体と高圧エアー吐出口とズリの通路となるズリ溝とが設けられた圧密ビットを用いる(仝文献図2参照)。ロックビットから高圧エアーを吐出させつつ無水掘削を行うとともに、所定長さ削孔するごとに該削孔された孔内でロックビットを回転(回転数は60rpm以上(65~85rpm程度))させつつ前後往復移動(100~300mm程度を複数回(3~5回程度)往復移動。往復移動による圧密中は、ビットの回転数は60rpm未満(30~55rpm程度)。)させて、削孔により発生したズリをビットの外周部で孔壁に押し固める(圧密する)ことにより、削孔した孔の内壁部分の密度を向上させる(仝文献明細書〔0024〕-〔0026〕参照)。特許文献2に記載の地盤削孔技術では、打撃力発生用ハンマを内蔵したドリル本体1(ダウンザホールハンマ)を備えたダウンザホールハンマ式の削孔装置を用いる(仝文献図2図1参照)。このドリル本体1は、ドリル本体1を覆う筒体23(ウエアスリーブ)と、筒体23の先端に取着されると共に外周面部に圧密用チップ26を有する筒状の圧密リングビット21と、圧密リングビット21に同心状に内蔵されると共にズリ排出用のエアー吐出口20aを有するメインビット20と、を備えた掘削ビット2を具備する(仝文献図2図4参照)。そして、埋設孔Aを無水削孔(空気掘り)し、地盤E内の土質的に砂質土のN値が小さく不安定な地盤G内で、所定の深さ削孔するごとに孔内で圧密リングビット21を回転させると共に軸心方向に往復移動させ、掘削によって生じたズリを圧密用チップ26で孔壁に押し固めてボイド率の低い圧密孔壁Gaを形成して、圧密リングビット21で上記筒体23を上記埋設孔Aへ引き込みながら掘削する(仝文献明細書〔0034〕-〔0036〕参照)。
【0009】
特許文献3記載の「掘削装置および掘削工法」は、ダウンザホールビットのビット構造の工夫により、拡径ビット(掘削工具が円筒状のケーシングパイプに挿入されたロックビットであって、回転打撃力を受ける掘削工具先端に、先端面に多数のチップが設けられた複数のブロックが回動自在に設けられ、これらブロックが、掘削時の掘削工具の回転に伴い回転軸線からの外径が拡径する方向に回転し、互いの側面同士が当接したところでその外径が上記ケーシングパイプの外径よりも拡径して位置決めされ、かつ掘削時とは逆方向に掘削工具を回転させることにより、ブロックも逆方向に回転してその外径がケーシングパイプの内径よりも縮径するように構成されたロックビット。)を用いることなく、泥岩層や軟岩層のような比較的柔らかい地層に掘削孔を形成し、ケーシングパイプを建て込む地盤削孔技術である。この掘削工法では、ケーシングパイプ13の内周部先端側に、後端側よりも一段縮径する段部16を形成するとともに、掘削工具1の外周には、その掘削方向に向けて段部16に当接可能な当接部12を設け、この当接部12の外径をケーシングパイプ13の内周部後端側の内径よりも小さくする(仝文献図1図2参照)。これにより、掘削工具1を、その掘削方向に向けてケーシングパイプ13と係合して一体的に前進可能、かつこの掘削方向の後方側にケーシングパイプ13に対して後退可能とし、掘削工具1の先端部2とケーシングパイプ13の先端縁とによって掘削部9,17を構成し、この掘削部9,17によって掘削孔を形成しつつ、この掘削孔にケーシングパイプ13を建て込む(仝文献明細書〔0013〕-〔0016〕参照)。
【0010】
特許文献4記載の「掘削工具および掘削工法」は、ビット構造の工夫により、泥岩層や軟岩層のような比較的柔らかい地層に削孔孔を形成するものである。この掘削工具は、先端に工具本体1が取り付けられたロッド5をケーシングパイプ16内に挿入し、工具本体1の先端には先端切刃部3を設ける。先端切刃部3よりも後端側に突出切刃部2を設ける。工具本体1の外周面には、工具外周側に向かうに従い工具後端側に向けて傾斜する掘削屑排出用媒体の噴出孔6A,6B,6Bを開口させ、噴出孔6A,6Bの中心線Lと、ケーシングパイプ16の内周面16B又はその延長面Qとの交点Rを、ケーシングパイプ16の先端16Aから軸線O方向において工具後端側または工具先端側に突出切刃部2の外径D1の距離の範囲内に位置するように配置している(仝文献図4図5参照)。これにより、噴出孔6A,6Bが、工具後端側に向かうように傾斜しているので、噴射される圧縮空気が掘削屑を工具後端側に送り出し、ケーシングパイプ16内に収容する。また、上記交点Rが、ケーシングパイプの先端から上記軸線方向において工具後端側または工具先端側に上記突出切刃部の上記軸線回りの外径D1の距離の範囲内に位置するように配置されているので、削孔の孔壁の崩壊を防ぎつつもケーシングパイプ内に収容された上記掘削屑を確実に工具後端側に送り出して排出することが可能となると記載されている(仝文献明細書〔0009〕,〔0022〕-〔0024〕参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開2002-322891号公報
【文献】特開2009-174258号公報
【文献】特開2000-017982号公報
【文献】特開2000-186483号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
実際に、泥岩層,頁岩層,粘板岩層,蛇紋岩層等の粘性が高く地圧により膨張し易い粘膨張性層を空気堀により削孔する場合、削孔スライム(削孔の際に発生する岩粉や岩砕および土砂)が粘性質であるため、連続的に発生する削孔スライムが、水分を含むと削孔孔の孔壁に付着して孔内を徐々に狭めてゆき、しばらく後に削孔スライムが完全に孔内を塞いで、エアー(圧縮空気)の流れを止めてしまうという問題がある。孔内が塞がれば、ビットの先端からの吐出している高圧エアーは孔内の塞がった箇所とビットとの間に滞溜し、吐出圧とビット周辺外気圧が同じになり、そのまま削孔を続ければビットのエアー吐出孔からロット芯部のエアー通気穴へ粘性質の削孔スライムが押し込まれて圧密され、ビットが回転できなくなり削孔不能となる。
【0013】
上記特許文献1,2の地盤削孔技術は、所定の長さ削孔する毎に、孔内でビットを前後往復移動させ、削孔で発生する削孔スライムをビット外周部で孔壁に擦(こす)りつけて孔壁を固める、いわゆる「鏝(こて)仕上げ」と呼ばれる工法である。この工法が有効な箇所は、特許文献1,2に記載されているような、土砂等の圧縮転圧できる土質部だけである。これを、泥岩層,頁岩層,粘板岩層,蛇紋岩層等の粘性が高く地圧により膨張し易い粘膨張性層に適用すると、水分を含んだ粘性質の削孔スライムが孔壁に塗りつけられて、孔壁の表面は粘性質の削孔スライムで被覆され、却って削孔孔の孔内を狭めることとなり、上述のように、エアー(圧縮空気)の流れを止まって削孔不能となることを回避することはできない。故に、粘膨張性層での孔壁を形成させるには、特許文献1,2記載の地盤削孔技術のように圧密ビットを往復移動させて孔壁に圧密する方法は逆効果となる。
【0014】
また、特許文献3,4のように、ケーシングパイプで孔内を支保する工法は、粘膨張性層の削孔においては孔壁の圧潰を抑止するには有効であるが、上述したように、粘性質の削孔スライムが、ボーリングロッドとケーシングパイプの間のエアー(圧縮空気)の通路内に付着・堆積して、エアー(圧縮空気)の流れを止めてしまうという問題の解決にはならないと考えられる。
【0015】
そこで、本発明の目的は、泥岩層,頁岩層,粘板岩層,蛇紋岩層等の粘性が高く地圧により膨張し易い粘膨張性層を空気堀りによりボーリング削孔する場合に於いて、削孔スライムがビットと孔壁の間、又はボーリングロッドと孔壁の間に目詰まりすることなく削孔が出来る地盤削孔技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明に係る地盤削孔方法の第1の構成は、泥岩層,頁岩層,粘板岩層,蛇紋岩層等の粘性が高く地圧により膨張する粘膨張性層を含む地盤を削孔する地盤削孔方法であって、
コンプレッサーによりブロー圧を加えた圧縮空気を、ボーリングロッド内を通して前記ボーリングロッドの先端のビットから噴出させると共に、前記ボーリングロッドに接続された削岩機でフィード圧,回転圧,及び打撃圧を加えることで、前記ボーリングロッドを回転させつつ軸方向の押圧力及び軸方向の打撃を加えながら、前記ビットを掘進させる削孔工程に於いて、
前記コンプレッサーの吐出流量、並びに前記削岩機の前記フィード圧,前記回転圧P及び前記打撃圧Pを所定の通常削孔時設定値に設定し、前記ビットを前進させつつ削孔を行う通常削孔工程と、
回転圧検出手段により各時刻tに於いて前記削岩機の回転圧P(t)を検出し、前記回転圧P(t)が所定の閾値Prth1以上となった場合、又は、前記回転圧P(t)の時間変分ΔP(t)が所定の閾値ΔPrth1以上となった場合、若しくは、前記回転圧P(t)の増減率RP(t)が所定の閾値RPrth1以上となった場合には、削孔制御モードを含水粘膨張性層モードに切り替える粘膨張性層モード切替工程と、
前記含水粘膨張性層モードに切り替わった後、
(a)前記削岩機の前記フィード圧を前記通常削孔時設定値の70~80%とし、且つ、前記打撃圧を前記通常削孔時設定値の25~55%とし、
(b)前記削岩機の回転圧が所定の閾値Prth2を超えないように、前記フィード圧及び前記打撃圧を調整しつつ、前記ビットを所定の距離d2だけ掘進させ、
(c)前記ビットが前記距離d2だけ前進すると、前記ビットを孔口まで後進させた後、再び前記ビットを孔尻まで前進させる、
というピストン削孔動作を繰り返し行うピストン削孔工程と、
を有することを特徴とする。
【0017】
この構成によれば、ビットが含水粘膨張性層(水分を多く含んだ粘膨張性層。一般に風化が進んだ粘膨張性層は地下水を多く含む。)に侵入すると、ビットと削孔孔の孔壁との摩擦抵抗が大きくなることから、削岩機の回転圧P(t)が上昇する。そこで、回転圧の上昇に関連する判定閾値を予め設定しておき、粘膨張性層モード切替工程に於いて、回転圧P(t)が閾値Prth1以上となった場合、又は、回転圧P(t)の時間変分ΔP(t)が閾値ΔPrth1以上となった場合、若しくは、回転圧P(t)の増減率RP(t)が閾値RPrth1以上となった場合に、ビットが含水粘膨張性層に侵入したと判定して、削孔制御モードを含水粘膨張性層モードに切り替える。そして、含水粘膨張性層モードでは、ピストン削孔動作を繰り返し行うことで、削孔によって孔尻で連続的に発生する削孔スライムを、ビットを孔口まで後進させるによって、削孔孔の孔壁に付着した粘性質の削孔スライムを孔外へ押出排出する。また、含水粘膨張性層を掘進する際のフィード圧を通常削孔時設定値の70~80%、打撃圧を通常削孔時設定値の25~55%とすることで、ビットのエアー通気口に粘着性の高い削孔スライムが詰まることを防止できる。これにより、粘性質の削孔スライムで削孔孔が塞がることが防止され、削孔スライムがビットと孔壁の間、又はボーリングロッドと孔壁の間に目詰まりすることなく削孔が出来る。
【0018】
本発明に係る地盤削孔方法の第2の構成は、前記第1の構成に於いて、前記ピストン削孔工程に於いて、前記ビットを前記距離d2だけ掘進させる際に、前記コンプレッサーのブロー圧Pが所定の閾値Pbth1を超えた場合、又は、前記ブロー圧Pの時間変分値ΔPが所定の閾値ΔPbth1を超えた場合、若しくは、削孔孔の孔尻で生じる削孔スライムの孔口からの排出が停止した場合には、前記ビットを孔口まで後進させた後、再び前記ビットを孔尻まで前進させ、前記ピストン削孔動作を継続して繰り返し行うことを特徴とする。
【0019】
この構成によれば、含水粘膨張性層の粘膨張性が大きく、距離d2を削孔するよりも早い段階で、コンプレッサーのブロー圧が高まった場合や、削孔スライムの孔口からの排出が停止した場合には、削孔スライムで削孔孔が塞がれた可能性が高いため、その場合、削岩機の打撃を停止して、前記ビットを孔口まで後進させた後、再び前記ビットを孔尻まで前進させることで、削孔孔の孔壁に付着した粘性質の削孔スライムを孔外へ押出排出する。これにより、粘性質の削孔スライムで削孔孔が塞がることが防止され、削孔スライムがビットと孔壁の間、又はボーリングロッドと孔壁の間に目詰まりすることなく削孔が出来る。
【0020】
本発明に係る地盤削孔方法の第3の構成は、前記第1又は2の構成に於いて、前記ピストン削孔工程に於いて、前記ビットを前記距離d2だけ掘進させる際に、前記回転圧検出手段により各時刻tに於いて前記削岩機の回転圧P(t)を検出し、前記回転圧P(t)が所定の閾値Prth2以下となった場合、又は、前記回転圧P(t)の時間変分ΔP(t)が所定の閾値ΔPrth2以下となった場合、若しくは、前記回転圧P(t)の増減率RP(t)が所定の閾値RPrth2以下となった場合には、削孔制御モードを、前記通常削孔工程を行う通常削孔モードに切り替える通常モード復帰工程、を有することを特徴とする。
【0021】
この構成によれば、ビットと削孔孔の孔壁との摩擦抵抗が低下して回転圧P(t)が或る一定水準より下がれば、ビットが含水粘膨張性層を抜けたものと推定できるため、通常削孔工程を行う通常削孔モードに切り替えることで、削孔効率を高めることが出来る。
【0022】
本発明に係る地盤削孔装置の削孔制御装置の第1の構成は、先端にビットが取り付けられたボーリングロッドに、コンプレッサーによりブロー圧を加えた圧縮空気を、前記ボーリングロッド内を通して前記ビットに送気し、前記ビットから削孔スライム輸送用の圧縮空気を噴射させつつ、前記ボーリングロッドに接続された削岩機でフィード圧,回転圧,及び打撃圧を加えて地盤の削孔を行う地盤削孔装置の制御を行う地盤削孔装置の削孔制御装置であって、
各時刻tに於いて前記削岩機の回転圧P(t)を検出する回転圧検出手段と、
前記コンプレッサーに於ける前記コンプレッサーの吐出流量、並びに前記削岩機の前記フィード圧,前記回転圧及び前記打撃圧を所定の通常削孔時設定値に設定し、前記ビットを前進させつつ削孔させる制御を行う通常削孔制御手段と、
前記回転圧検出手段が検出する前記回転圧P(t)が所定の閾値Prth1以上となった場合、又は、前記回転圧P(t)の時間変分ΔP(t)が所定の閾値ΔPrth1以上となった場合、若しくは、前記回転圧P(t)の増減率RP(t)が所定の閾値RPrth1以上となった場合には、削孔制御モードを含水粘膨張性層モードに切り替える粘膨張性層モード切替手段と、
前記含水粘膨張性層モードに切り替わった後の制御を行う粘膨張性層削孔制御手段と、
を備え、
前記粘膨張性層削孔制御手段は、
(a)前記削岩機の前記フィード圧を前記通常削孔時設定値の70~80%に設定し、且つ、前記打撃圧を前記通常削孔時設定値の25~55%に設定し、
(b)前記削岩機の回転圧が所定の閾値Prth2を超えないように、前記フィード圧及び前記打撃圧を調整しつつ、前記ビットを所定の距離d2だけ掘進させ、
(c)前記ビットが前記距離d2だけ前進すると、前記ビットを孔口まで後進させた後、再び前記ビットを孔尻まで前進させる、
というピストン削孔制御を繰り返し行うピストン削孔制御手段を備えていること、を特徴とする。
【0023】
本発明に係る地盤削孔装置の削孔制御装置の第2の構成は、前記第1の構成に於いて、各時刻に於いて前記コンプレッサーのブロー圧Pを検出するブロー圧検出手段を備え、
前記粘膨張性層削孔制御手段は、
前記ピストン削孔制御手段により、前記ビットを前記距離d2だけ掘進させている際に、前記ブロー圧検出手段が検出する前記ブロー圧Pが所定の閾値Pbth1を超えた場合、又は、前記ブロー圧Pの時間変分値ΔPが所定の閾値ΔPbth1を超えた場合、若しくは、削孔孔の孔尻で生じる削孔スライムの孔口からの排出が停止した場合には、前記ビットを孔口まで後進させた後、再び前記ビットを孔尻まで前進させる割込ピストン制御手段を備えていること、
を特徴とする。
【0024】
本発明に係る地盤削孔装置の削孔制御装置の第3の構成は、前記第1又は2の構成に於いて、前記粘膨張性層削孔制御手段は、
前記ピストン削孔制御手段により、前記ビットを前記距離d2だけ掘進させている際に、前記回転圧検出手段により検出される前記回転圧P(t)が所定の閾値Prth2以下となった場合、又は、前記回転圧P(t)の時間変分ΔP(t)が所定の閾値ΔPrth2以下となった場合、若しくは、前記回転圧P(t)の増減率RP(t)が所定の閾値RPrth2以下となった場合には、削孔制御モードを、前記通常削孔制御手段が制御を行う通常削孔モードに切り替える通常モード復帰手段、
を備えていることを特徴とする。



【0025】
本発明に係るプログラムは、コンピュータに読み込ませて実行することにより、前記コンピュータを前記第1乃至3の何れか一の構成の地盤削孔装置の削孔制御装置の前記通常削孔制御手段、前記粘膨張性層モード切替手段、及び前記粘膨張性層削孔制御手段として機能させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0026】
以上のように、本発明に係る地盤削孔方法及び地盤削孔装置の削孔制御装置並びにプログラムによれば、ビットが粘膨張性層に侵入したことを回転圧から検知し、含水粘膨張性層では、ピストン削孔動作を繰り返し行うことで、削孔によって孔尻で連続的に発生する削孔スライム(クリ粉)を、ビットを孔口まで後進させるによって、削孔孔の孔壁に付着した粘性質の削孔スライムを孔外へ押出排出することで、含水粘膨張性層で発生する粘性質の削孔スライムで削孔孔が塞がることが防止され、削孔スライムがビットと孔壁の間、又はボーリングロッドと孔壁の間に目詰まりすることなく削孔が出来る。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明の実施例1に係る地盤削孔装置の側面全体図である。
図2】本発明の実施例1に係る地盤削孔装置のシステム構成を表すブロック図である。
図3】既設トンネル断面に於けるロックボルト補強工の一例を示す施工図である。
図4】実施例1の地盤削孔方法の各工程の説明図である。
図5】実施例1の地盤削孔方法の各工程の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照しながら説明する。
【実施例1】
【0029】
(2)地盤削孔装置の機械的構成
図1は、本発明の実施例1に係る地盤削孔装置の側面全体図である。本実施例の地盤削孔装置1は、削孔制御の制御システムに特徴があり、機械的な構成としては、図1に示したような、360度旋回機能を有したクローラドリル(クローラドリルにジャンボドリルの旋回体を装備したもの)を利用する。図1のクローラドリル(地盤削孔装置)1は、履帯(キャタピラ)2によって自走可能な台車3に、削岩機(ドリフタ)4及びその動力源となる油圧駆動装置5及びコンプレッサー6(図1には図示せず。図2参照)を搭載した削孔装置である。台車3の前部に、ガイドセル旋回装置7が設けられており、ガイドセル旋回装置7の先端の上下左右にスイング自在に設けられたガイドセル左右マウンチング8上に、削岩機4及び削岩機4を前後に移動させる軌道であるガイドセル9が設けられている。削岩機4には、先端にビット10を備えたボーリングロッド11が設けられている。削岩機4は、ボーリングロッド11に対して、回転力(回転圧)、軸方向の打撃力(打撃圧)、及び軸方向の推力(フィード圧)を負荷することができる。ここで、削岩機4は、油圧によって駆動される油圧式であり、「回転圧」はボーリングロッド11に対して回転力を与えるための油圧モーターの駆動油圧、「打撃圧」はボーリングロッド11に対して軸方向の打撃力与えるための油圧ピストンの駆動油圧、「フィード圧」は、削岩機4を削孔地山に押付ける油圧シリンダの駆動油圧である。ボーリングロッド11の先端側は、ガイドセル9の先端に固定して設けられたセントライザ12及び集塵フード13を挿通してガイドセル9の先端側に突出している。ボーリングロッド11は、長尺な中空円筒状であり、削岩機4に接続された基端側が、コンプレッサー6の吐出口に接続された油圧ホース・送気ホース14(油圧ホースと送気ホースとが纏められたもの)に連通しており、コンプレッサー6から圧送されてくる削孔スライム輸送用流体である圧縮空気をビット10に送る。ビット10には、先端部及び側面に、圧縮空気の噴射孔(図示せず)が複数設けられており、コンプレッサー6から圧送されてくる圧縮空気は、これらの噴射孔から外部へ噴射される。集塵フード13には吸引ホース15の上流端が接続されており、この吸引ホース15の下流端は集塵機(ダストコレクタ)(図示せず)が接続されている。集塵機は、削孔孔の孔口から集塵フード13内へ排出される繰り粉を、吸引ホース15を介して吸引し集塵する。
【0030】
(3)地盤削孔装置のシステム構成
図2は、本発明の実施例1に係る地盤削孔装置のシステム構成を表すブロック図である。図2に於いて、図1に対応する部分には、同符号を付している。ボーリングマシン4,5は、上述した通り、削岩機4及びその動力源となる油圧駆動装置5をまとめたものである。また、コンプレッサー6は、上述の通り、空気を圧縮して圧力を高めた圧縮空気を油圧ホース・送気ホース14に供給する装置である。地盤削孔装置1は、削孔制御部21,フィード圧制御部22,打撃圧制御部23,回転圧制御部24,ブロー制御部25,フィード圧検出部26,打撃圧検出部27,回転圧検出部28,ブロー圧検出部29,ダンピング圧検出部30,粉塵検出センサ31,及びクリ粉識別装置32を備えている。ここで、削孔制御部21,フィード圧制御部22,打撃圧制御部23,回転圧制御部24,ブロー制御部25,及びクリ粉識別装置31は、地盤削孔装置1が備えるコンピュータにプログラムを読み込ませて実行させることにより、機能モジュールとして実現される。



【0031】
削孔制御部21は、地盤削孔装置1の削孔動作全体を制御するモジュールである。フィード圧制御部22は、削岩機4及びボーリングロッド11に対して負荷するフィード圧の制御を行うモジュールである。このフィード圧制御部22は、ガイドセル9上で削岩機4の移動を行うフィードモーターを油圧制御するものであり、削岩機4及びボーリングロッド11の前進及び後退の動作の制御も、これにより行われる。打撃圧制御部23は、削岩機4からボーリングロッド11に対して加えられるロッド軸方向の打撃圧(振動圧)を制御するモジュールである。回転圧制御部24は、削岩機4からボーリングロッド11に対して加えられるロッド軸廻りの回転圧を制御するモジュールである。ブロー制御部25は、コンプレッサー6の吐出圧又は吐出流量の制御を行うモジュールである。フィード圧検出部26は、削岩機4のフィード圧を検出する油圧センサである。打撃圧検出部27は、削岩機4の打撃圧を検出する油圧センサである。回転圧検出部28は、削岩機4の回転圧を検出する油圧センサである。ブロー圧検出部29は、ダンピング圧検出部30を検出する圧力センサである。ダンピング圧検出部30は、削孔時に削岩機4が岩盤より受ける反力(削孔反力)を検出する油圧センサである。粉塵検出センサ31は、削孔孔の孔口から集塵フード13に流入する粉塵濃度を検出するセンサである(JIS Z 8852参照)。一般に、粉塵検出センサには、光散乱方式(測定光を粉塵に照射した際に、粉塵により吸収、散乱される測定光の散乱光強度が粉塵濃度と相関関係にあることを利用した粉塵濃度検出方式),光透過方式(測定光を粉塵に照射した際に、測定光が粉塵により遮光され元の光量が減衰されるが、この測定光の減衰量が粉塵濃度と相関関係にあることを利用した粉塵濃度検出方式),摩擦静電気方式(粉塵を含む流体中にプローブ状の電極を挿入すると、流体中の粉塵粒子が電極に衝突又は近傍を通過することにより粉塵粒子と電極との間で電荷の移動及び誘導現象が生じるが、この電荷の移動量が粉塵濃度と相関関係にあることを利用した粉塵濃度検出方式)などがあるが、削孔スライムには大粒径の岩屑も含まれることから、粉塵検出センサ31には、削孔スライムと非接触で検出する方式である光散乱方式又は光透過方式を採用するのが好ましい。クリ粉識別装置32は、粉塵検出センサ31により検出される粉塵濃度の検出値から、孔口から削孔スライムが噴出したか否かを判定するモジュールである。
【0032】
(4)地盤削孔装置による地盤削孔方法
次に、上述した本実施例の地盤削孔装置による地盤削孔方法について説明する。
【0033】
(4.1)削孔対象の説明
最初に、本実施例の地盤削孔方法での、削孔対象の一例として、既設トンネル断面におけるロックボルト孔の削孔について説明する。尚、本発明の適用対象は、これに限られるものではない。
【0034】
図3は、既設トンネル断面に於けるロックボルト補強工の一例を示す施工図である。図1に於いて、既設トンネルは、トンネルの削孔面を被覆するようにアーチ状の覆工コンクリートが打設されている。覆工コンクリートの内表面には、内巻コンクリートが打設されている。ロックボルト孔(削孔孔)は、図1に二点鎖線で示した各削孔線に沿って予め決められた長さだけ削孔される。各削孔線は、通常、トンネルの垂直断面内で、トンネルの鉛直中心軸上の一点から外に向かって放射状に設定される。一般に、ロックボルト孔の削孔には、ジャンボドリル(削孔装置)が使用されるが、本実施例では360度旋回型のクローラドリル(クローラドリルにジャンボドリルの旋回帯を装備したもの)を使用する。このクローラドリルは、図1で説明した通り、自走可能な台車に削岩機及びその動力源となる油圧駆動装置及びコンプレッサーを搭載した削孔装置である。削岩機及びその動力源となる油圧駆動装置をまとめてボーリングマシン(JIS M 0103:2020, 2101)と呼ぶ。360度旋回型のクローラドリルは、台車上で上下左右にスイング可能なガイドシェル上に設けられており、各削孔線の高さ及び削孔角度に合わせてボーリングマシンの位置及び向きの調整が可能とされている。ボーリングマシンは、長寸円筒棒状のボーリングロッド(JIS M 0103:2020, 5101)と、ボーリングロッドの先端に取り付けられた削孔用のビット(JIS M 0103:2020, 3101)を備えている。ボーリングマシンは、ボーリングロッドに対してロッド中心軸廻りの回転、ロッド中心軸方向の加圧、及びロッド中心軸方向の打撃、並びにロッド内を通してビットに対するコンプレッサーからの圧縮空気の送気を行うことができる。本実施例では、掘り進めている削孔孔(ロックボルト孔)の最深部を「孔尻(あなじり)」、削孔孔のトンネル内腔への開口端を「孔口」と呼ぶ。
【0035】
ロックボルト孔の削孔を行う場合には、まず、トンネル内腔面から内巻コンクリート及び覆工コンクリートを削孔して貫通し、その背面の地山を所定の深さ削孔する。実際の老朽化したトンネルでは、経年により覆工コンクリートの背後の地山の岩盤が、地下水による浸蝕,土圧の歪み,地震による振動等により風化・細粒化され、粘性土又は堆積礫となっていることが多い。また、トンネル上部の覆工コンクリートの背後には、風化滑落して空洞が生じている場合も多い。ロックボルト孔は、これらの粘性土又は堆積礫層や空洞層を貫通して、その背後の風化の影響を受けていない地山まで延伸される。本実施例では、この覆工コンクリート背後の地山が、泥岩(シルト岩,粘土岩)層,頁岩層,粘板岩層,蛇紋岩層等の粘性が高く地圧により膨張し易い粘膨張性層を有する場合について説明する。
【0036】
(4.2)地盤削孔方法の説明
図4図5は、実施例1の地盤削孔方法の各工程の説明図である。尚、図4図5では、説明の便宜上、覆工コンクリートの背後の粘性土または堆積礫層や空洞層は、本発明には直接関係がないため省略している。
【0037】
最初に、削孔制御部21は、削孔制御モードを「通常削孔モード」に設定する。ここで、「削孔制御モード」とは、削孔時のコンプレッサー6の吐出流量、及び削岩機4のフィード圧,打撃圧,回転圧の制御方式のことをいう。「通常削孔モード」では、削孔制御部21は、ブロー制御部25により、コンプレッサー6に於けるコンプレッサー6の吐出流量を予め決められた通常削孔時設定値(全開値)に設定し、フィード圧制御部22により、削岩機4に於けるフィード圧を予め決められた通常削孔時設定値(例えば、45kg/cm)に設定し、打撃圧制御部23により、削岩機4に於ける打撃圧を予め決められた通常削孔時設定値(例えば、100~150kg/cm)に設定し、回転圧制御部24により、削岩機4に於ける回転圧を予め決められた通常削孔時設定値(例えば、50~140kg/cm)に設定する。ここで、「通常削孔時設定値」は、前述した通り、通常の堅固な岩盤を削孔する際の、コンプレッサーの吐出流量、並びに削岩機のフィード圧,回転圧P及び打撃圧Pの設定値であって、予め初期値として設定されているものである。また、通常削孔モードによる削孔工程を「通常削孔工程」と呼ぶ。
【0038】
この通常削孔モードの動作状態で、地盤削孔装置によりトンネル内腔面から削孔を開始し、図4(a)に示したように、ビット10が覆工コンクリート等の層Aを貫通する。覆工コンクリート等の層Aでは、地圧による膨張が小さく、削孔スライムの粘着性も低いため、ビット10の回転抵抗は小さく、また削孔スライムが孔内へ付着し難く、コンプレッサー6のブロー圧の上昇も殆ど生じず安定している。
【0039】
さらに掘進を続け、図4(b)のように、ビット10が覆工コンクリート等の層Aを抜けて含水粘膨張性層(粘膨張性層の風化部)Bに侵入すると、孔内で生じる削孔スライムは水分を多く含んだ泥状又は粘土状となり、摩擦抵抗が上昇する。また、孔壁が地圧により孔内に向かって膨張し孔径を狭める。そのため、ビット10の回転抵抗が増大する。これは、削岩機4の回転圧P(t)の上昇として検出される。削孔制御部21は、回転圧検出部28により、各時刻tに於いて削岩機4の回転圧P(t)を検出し、回転圧P(t)が所定の閾値Prth1以上となった場合には、ビット10が含水粘膨張性層Bに侵入したと判定して、削孔制御モードを含水粘膨張性層モードに切り替える。
【0040】
尚、このビット10が含水粘膨張性層Bに侵入の判定は、上記回転圧P(t)そのものの閾値判定の他に、回転圧P(t)の時間変分ΔP(t)の閾値判定(回転圧P(t)の時間変分ΔP(t)が所定の閾値ΔPrth1以上となった場合)や、回転圧P(t)の増減率RP(t)の閾値判定(回転圧P(t)の増減率RP(t)が所定の閾値RPrth1以上となった場合)を用いることもできる。
【0041】
ここで、「回転圧P(t)の時間変分ΔP(t)」は、所定の時間間隔ΔTにおける回転圧P(t)の変化分を表し、前進変分ΔP(t)=P(t+ΔT)-P(t),後退変分ΔP(t)=P(t)-P(t-ΔT),又は中心変分ΔP(t)=P(t+ΔT/2)-P(t-ΔT/2)で表される量の何れを用いてもよい。又は、これらの量をΔTで割った差分値を用いても良い。また、「回転圧P(t)の増減率RP(t)」は、前進差分増減率(P(t+ΔT)-P(t))/P(t),後退差分増減率(P(t)-P(t-ΔT))/P(t),又は中心差分増減率(P(t+ΔT/2)-P(t-ΔT/2))/P(t),若しくはこれらの量をΔTで割ったもので表される量の何れを用いてもよい。
【0042】
含水粘膨張性層モードに切り替わった時点での孔尻の位置をP1とすると、初期位置P1から距離d2だけビット10が前進する区間が、次期ピストン削孔予定区間となる(図4(b)参照)。削孔制御部21は、含水粘膨張性層モードとなると、以下の(S1)~(S4)ようなピストン削孔動作制御を継続して繰り返し行う。
【0043】
(S1) まず、削孔制御部21は、削岩機4のフィード圧を通常削孔時設定値の70~80%に設定し、且つ、打撃圧を通常削孔時設定値の25~55%に設定する。
【0044】
(S2) そして、削岩機4の回転圧Pが所定の閾値Prth2(≦Prth1)を超えないように、フィード圧及び打撃圧を調整しつつ、ビット10を次期ピストン削孔予定距離d2だけ掘進させる。ここで、フィード圧及び打撃圧の制御方法としては、回転圧Pが閾値Prth2以上に達すると、フィード圧又は打撃圧の何れか又は両方を連続的又は段階的に低下させるとともに、回転圧Pが閾値Prth2-ΔP2を下回るとフィード圧又は打撃圧の何れか又は両方を連続的又は段階的に上昇させるといった、フィードバック制御などが用いられる。このとき、孔内で発生する粘着性の大きい削孔スライムは、図4(c)のように、削孔孔の孔壁に付着・堆積するため、削孔孔内の圧縮空気の流路抵抗が次第に大きくなり、ブロー圧検出部29により検出されるブロー圧は次第に大きくなる。
【0045】
(S3) さらに掘進を続け、図4(c)のように、ビット10が、初期位置P1から次期ピストン削孔予定距離d2だけ掘進した位置P2に達すると、図4(d)のように、削孔制御部21は、一旦、ビット10を孔口まで後進させた後、再びビット10を孔尻まで前進させピストン削孔を行う。ビット10を孔口まで後進することで、それまで削孔孔の孔内に残留していた削孔スライムが、エアー圧によって孔外へ押し出されて排出され、削孔孔は洗浄されるため、削孔孔内の圧縮空気の流路抵抗は再び低下する。
【0046】
(S4) そして、この孔尻位置P2から距離d2だけビット10が前進する区間が、新たな次期ピストン削孔予定区間となり(図4(d)参照)、上記(S1)~(S3)の削孔制御を繰り返す。
【0047】
ここで、上記削孔工程(S2)の途中に於いて、図5(e)のように、粘着質に削孔スライムが削孔孔内に付着・堆積して、削孔スライム輸送流体であるエアーの流路を閉塞する場合がある。この場合、ブロー圧検出部29により検出されるコンプレッサー6のブロー圧Pが急激に上昇したり、粉塵検出センサ31により孔口での削孔スライムの噴出が検出されなくなったりする。そこで、削孔制御部21は、上記削孔工程(S2)の途中に於いて、ブロー圧Pが所定の閾値Pbth1を超えた場合、又は、ブロー圧Pの時間変分値ΔPが所定の閾値ΔPbth1を超えた場合、若しくは、粉塵検出センサ31により孔口での削孔スライムの噴出が検出されなくなった場合には、ビット10が、初期位置P1から今期ピストン削孔予定距離d2の位置P2まで達していない場合であっても、一旦、ビット10を孔口まで後進させた後、再びビット10を孔尻まで前進させるといったピストン削孔を行う。これにより、孔内を閉塞する削孔スライムは孔外へ排出される。そして、この時の孔尻の位置P2’から距離d2だけビット10が前進する区間を、新たな次期ピストン削孔予定区間とし(図5(e)参照)、上記(S1)~(S3)の削孔制御を繰り返す。
【0048】
次に、ビット10が掘進して粘膨張性層の風化部(含水粘膨張性層B)を抜けた場合について説明する。図5(f)のように、ビット10が掘進して粘膨張性層の風化部を抜けて、未風化の非粘膨張性層C(削孔スライムの粘性が低い層。粘膨張性層の未風化部は含水量が少なく削孔スライムの粘性が低い。)に達すると、ビット10の回転抵抗が減少する。これは、削岩機4の回転圧P(t)の下降として検出される。削孔制御部21は、回転圧検出部28により、各時刻tに於いて削岩機4の回転圧P(t)を検出し、回転圧P(t)が一定の時間に亘り継続して所定の閾値Prth2以下となった場合には、ビット10が未風化の粘膨張性層Cに侵入したと判定して、削孔制御モードを通常削孔工程を行う通常削孔モードに切り替える。
【0049】
尚、この場合も、ビット10が未風化の粘膨張性層Cに侵入の判定は、上記回転圧P(t)そのものの閾値判定の他に、回転圧P(t)の時間変分ΔP(t)の閾値判定(回転圧P(t)の時間変分ΔP(t)が所定の閾値ΔPrth2以下となった場合)や、回転圧P(t)の増減率RP(t)の閾値判定(回転圧P(t)の増減率RP(t)が所定の閾値RPrth2以下となった場合)を用いることもできる。
【0050】
以上のような各工程により削孔を進め、最終的に図5(g)のように、ビット10が目的削孔深度に達すると、ビット10を孔口まで後進させる。
【符号の説明】
【0051】
1 地盤削孔装置
1a 削孔制御装置
2 履帯(キャタピラ)
3 台車
4 鑿岩機
5 油圧駆動装置
6 コンプレッサー
7 ガイドセル旋回装置
8 ガイドセル左右マウンチング
9 ガイドセル
10 ビット
11 ボーリングロッド
12 セントライザ
13 集塵フード
14 油圧ホース・送気ホース
15 吸引ホース
21 削孔制御部
22 フィード圧制御部
23 打撃圧制御部
24 回転圧制御部
25 ブロー制御部
26 フィード圧検出部
27 打撃圧検出部
28 回転圧検出部
29 ブロー圧検出部
30 ダンピング圧検出部
31 粉塵検出センサ
32 クリ粉識別装置
A 覆工コンクリート等の層
B 含水粘膨張性層(粘膨張性層の風化部)
C 未風化の粘膨張性層
【要約】      (修正有)
【課題】粘性が高く膨張し易い粘膨張性層を空気堀りによりボーリング掘削する場合に、繰粉が目詰まりすることなく掘削出来る地盤削孔技術の提供。
【解決手段】各時刻tに於いて前記削岩機の回転圧を検出し、回転圧の閾値判定によりビットの含水粘膨張性層への侵入を検出する。含水粘膨張性層では、(a)フィード圧を通常削孔時設定値の70~80%、打撃圧を通常削孔時設定値の25~55%とし、(b)削岩機の回転圧が閾値を超えないよう、フィード圧・打撃圧を調整しつつ、ビットを所定距離d2だけ掘進させ、(c)ビットが距離d2だけ前進すると、ビットを孔口まで後進させた後、再びビットを孔尻まで前進させる、というピストン削孔動作を繰り返し行う。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5