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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-04
(45)【発行日】2023-12-12
(54)【発明の名称】毛髪用化粧料
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/98 20060101AFI20231205BHJP
   A61K 8/73 20060101ALI20231205BHJP
   A61K 8/88 20060101ALI20231205BHJP
   A61K 8/81 20060101ALI20231205BHJP
   A61K 8/85 20060101ALI20231205BHJP
   A61Q 1/10 20060101ALI20231205BHJP
   A61Q 5/00 20060101ALI20231205BHJP
   D01F 2/08 20060101ALI20231205BHJP
【FI】
A61K8/98
A61K8/73
A61K8/88
A61K8/81
A61K8/85
A61Q1/10
A61Q5/00
D01F2/08
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2023066539
(22)【出願日】2023-04-14
【審査請求日】2023-04-14
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】500101243
【氏名又は名称】株式会社ファーマフーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】富永 久美
(72)【発明者】
【氏名】浅井 咲子
(72)【発明者】
【氏名】古賀 啓太
(72)【発明者】
【氏名】坂下 真耶
(72)【発明者】
【氏名】金 英一
(72)【発明者】
【氏名】金 武祚
【審査官】駒木 亮一
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-238585(JP,A)
【文献】特開2005-126381(JP,A)
【文献】特開2014-205633(JP,A)
【文献】特開2006-273864(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00- 8/99
A61Q 1/00-90/00
D01F 1/00- 6/96
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Japio-GPG/FX
Mintel GNPD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
卵殻膜を含有する繊維を含む毛髪用マスカラであって、前記卵殻膜が卵殻膜加水分解物を含み、前記卵殻膜を含有する繊維のゼータ電位が0mV以上である、毛髪用マスカラ
【請求項2】
前記繊維が、セルロース、アセテート、麻、コットン、シルク、ウール、ナイロン、ポリプロピレン、ポリエステル、およびポリ乳酸から選択される1種または2種以上の繊維を含む、請求項1に記載の毛髪用マスカラ
【請求項3】
前記セルロースが、ビスコースレーヨンを含む、請求項2に記載の毛髪用マスカラ
【請求項4】
前記繊維が、原料繊維100質量部に対して、前記卵殻膜を約0.5質量部以上、約25質量部以下含む、請求項1に記載の毛髪用マスカラ
【請求項5】
前記繊維の可撓性が、前記卵殻膜を含有しない同種の繊維よりも高いことを特徴とする、請求項1に記載の毛髪用マスカラ
【請求項6】
前記卵殻膜を含有する繊維が、
前記卵殻膜を含む溶液を得る工程と、
原料繊維を含む紡糸原液と、前記卵殻膜を含む溶液とを混合して、卵殻膜含有紡糸原液を得る工程と、
前記卵殻膜含有紡糸原液から、前記卵殻膜を含有する繊維を製造する工程と
を含む、方法によって製造される、請求項1に記載の毛髪用マスカラ
【請求項7】
睫毛用、頭髪用、および/または眉毛用である、請求項1に記載の毛髪用マスカラ
【請求項8】
前記繊維の繊維長が約0.1mm~約5.0mmである、請求項1に記載の毛髪用マスカラ
【請求項9】
前記繊維の太さが約0.001デシテックス~約5.0デシテックスである、請求項1に記載の毛髪用マスカラ
【請求項10】
毛髪用マスカラに配合するための、卵殻膜を含有する繊維を製造する方法であって、
前記卵殻膜を含む溶液を得る工程と、
原料繊維を含む紡糸原液と、前記卵殻膜を含む溶液とを混合して、卵殻膜含有紡糸原液を得る工程と、
前記卵殻膜含有紡糸原液から、前記卵殻膜を含有する繊維を製造する工程と
を含み、前記卵殻膜が卵殻膜加水分解物を含み、前記卵殻膜を含有する繊維のゼータ電位が0mV以上である、方法。
【請求項11】
前記卵殻膜を含有する繊維が、原料繊維約100質量部に対して、前記卵殻膜を約0.5質量部以上、約25質量部以下含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記卵殻膜を含有する繊維の可撓性が、前記卵殻膜を含有しない同種の繊維よりも高いことを特徴とする、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
請求項10に記載の方法によって製造された、毛髪用マスカラに配合するための、卵殻膜を含有する繊維。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、毛髪用化粧料に関し、特に卵殻膜を含有する繊維を含むものに関する。
【背景技術】
【0002】
卵殻膜は卵の殻の内にある薄皮であり、そのアミノ酸の細胞産生作用や網目構造による組織への密着性、卵殻膜が有する適度な保湿性および通気性などの特性を生かした化粧品、創傷被覆材などとして有効であることは古くから知られていた。しかし、卵殻膜は、水を含めほとんどの溶剤に不溶であり、繊維状に成型することが困難である。そこで卵殻膜を可溶化するために加水分解処理を行い、水に可溶な卵殻膜成分として利用している。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
本発明者らは、年間数万トン廃棄焼却される卵殻膜を繊維に混成したものを毛髪用化粧料の材料として用いることにより、繊維単体や従来の合成樹脂繊維を用いたもの以上の化粧効果を得られることを見出した。したがって、本願発明では、卵殻膜を含有する繊維を含む毛髪用化粧料を提供する。
【0004】
したがって、本発明の主要な観点によれば、以下の発明が提供される。
(項目1)
卵殻膜を含有する繊維を含む、毛髪用化粧料。
(項目2)
前記卵殻膜が卵殻膜加水分解物を含む、上記項目に記載の毛髪用化粧料。
(項目3)
前記繊維が、セルロース、アセテート、麻、コットン、シルク、ウール、ナイロン、ポリプロピレン、ポリエステル、およびポリ乳酸から選択される1種または2種以上の繊維を含む、上記項目のいずれか一項に記載の毛髪用化粧料。
(項目4)
前記セルロースが、ビスコースレーヨンを含む、上記項目のいずれか一項に記載の毛髪用化粧料。
(項目5)
前記繊維が、原料繊維100質量部に対して、前記卵殻膜を約0.5質量部以上、約25質量部以下含む、上記項目のいずれか一項に記載の毛髪用化粧料。
(項目6)
前記繊維のゼータ電位が、0mV以上である、上記項目のいずれか一項に記載の毛髪用化粧料。
(項目7)
前記繊維の可撓性が、前記卵殻膜を含有しない同種の繊維よりも高いことを特徴とする、上記項目のいずれか一項に記載の毛髪用化粧料。
(項目8)
前記卵殻膜を含有する繊維が、
前記卵殻膜を含む溶液を得る工程と、
原料繊維を含む紡糸原液と、前記卵殻膜を含む溶液とを混合して、卵殻膜含有紡糸原液を得る工程と、
前記卵殻膜含有紡糸原液から、前記卵殻膜を含有する繊維を製造する工程と
を含む、方法によって製造される、上記項目のいずれか一項に記載の毛髪用化粧料。
(項目9)
睫毛用である、上記項目のいずれか一項に記載の毛髪用化粧料。
(項目10)
前記繊維の繊維長が約0.1mm~約5.0mmである、上記項目のいずれか一項に記載の毛髪用化粧料。
(項目11)
前記繊維の太さが約0.001デシテックス~約5.0デシテックスである、上記項目のいずれか一項に記載の毛髪用化粧料。
(項目12)
毛髪用化粧料に配合するための、卵殻膜を含有する繊維を製造する方法であって、
前記卵殻膜を含む溶液を得る工程と、
原料繊維を含む紡糸原液と、前記卵殻膜を含む溶液とを混合して、卵殻膜含有紡糸原液を得る工程と、
前記卵殻膜含有紡糸原液から、前記卵殻膜を含有する繊維を製造する工程と
を含む、方法。
(項目13)
前記卵殻膜が卵殻膜加水分解物を含む、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目14)
前記卵殻膜を含有する繊維が、原料繊維約100質量部に対して、前記卵殻膜を約0.5質量部以上、約25質量部以下含む、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目15)
前記卵殻膜を含有する繊維のゼータ電位が、0mV以上である、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目16)
前記卵殻膜を含有する繊維の可撓性が、前記卵殻膜を含有しない同種の繊維よりも高いことを特徴とする、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目17)
上記項目のいずれか一項に記載の方法によって製造された、毛髪用化粧料に配合するための、卵殻膜を含有する繊維。
【0005】
本開示において、上記の1つまたは複数の特徴は、明示された組み合わせに加え、さらに組み合わせて提供され得ることが意図される。なお、本開示のさらなる実施形態および利点は、必要に応じて以下の詳細な説明を読んで理解すれば、当業者に認識される。
【0006】
なお、上記した以外の本開示の特徴及び顕著な作用・効果は、以下の発明の実施形態の項及び図面を参照することで、当業者にとって明確となる。
【発明の効果】
【0007】
本発明の毛髪用化粧料は、従来の毛髪用化粧料と比較して、毛髪の形状に添って柔軟に折れ曲がり、また表面電位がプラスになることで毛髪に付着しやすくなる。また曲げ回復性が低いため、毛髪に付着させることで、その変形した状態を維持することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本開示を最良の形態を示しながら説明する。本明細書の全体にわたり、単数形の表現は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。従って、単数形の冠詞(例えば、英語の場合は「a」、「an」、「the」など)は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。また、本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。したがって、他に定義されない限り、本明細書中で使用される全ての専門用語および科学技術用語は、本開示の属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。矛盾する場合、本明細書(定義を含めて)が優先する。
【0009】
以下に本明細書において特に使用される用語の定義および/または基本的技術内容を適宜説明する。
【0010】
本明細書において、「約」とは、後に続く数値の±10%を意味する。
【0011】
本明細書において、「毛髪用化粧料」とは、人体の毛髪、例えば、髪、眉毛、睫毛など、および人工毛に用いる化粧料であり、例えば、マスカラ、アイブロー、毛髪用マスカラ、およびヘアファンデーションなどが挙げられる。
【0012】
(好ましい実施形態)
以下に本開示の好ましい実施形態を説明する。以下に提供される実施形態は、本開示のよりよい理解のために提供されるものであり、本開示の範囲は以下の記載に限定されるべきでない。したがって、当業者は、本明細書中の記載を参酌して、本開示の範囲内で適宜改変を行うことができることは明らかである。また、本開示の以下の実施形態は単独でも使用されあるいはそれらを組み合わせて使用することができる。
【0013】
本願発明の一局面において、卵殻膜を含有する繊維を含む毛髪用化粧料が提供される。
[卵殻膜]
本発明の毛髪用化粧料の材料となる卵殻膜の由来は特に限られるものではない。例えば、卵殻膜としては、ニワトリ、ウズラ、シチメンチョウ、カモ、アヒル、ガチョウ、ダチョウ、ホロホロチョウ、オナガドリ、チャボ、ハト、コブハクチョウ、エミュー、またはキジなどの家禽鳥類の卵殻膜を用いることができる。本発明の一実施形態においては、入手が容易で、産卵種としても多産であり、卵も大きく大量飼育方法が確立しているという点でニワトリが好ましい。
【0014】
通常、卵殻膜には卵殻が付着しており、このまま加水分解すると卵殻が不溶のまま残存して、湿式紡糸をする際に口金の詰まりを生じ、口金の破損を起こすため好ましくない。卵殻を除去するためには、卵殻が含まれている卵殻膜を塩酸、リン酸等の水溶液に浸し、卵殻を水に溶解してろ過、水洗により予め取り除いてもよいし、あるいは卵殻を含んだままの卵殻膜を加水分解して溶剤に可溶とした後に、溶剤に不溶な卵殻をろ過・遠心分離等により物理的に取り除いてもよい。
【0015】
[卵殻膜粉砕]
本発明の一実施形態において、卵殻膜の加水分解をスムーズに行うために卵殻膜を予め粉砕しておくことが好ましく、加水分解をスムーズに行い得る程度に粉砕されていれば、その粉砕後のサイズは特に限られない。一実施形態において、粉砕した卵殻膜はその径が約0.1μm以上、約5mm以下であることが好ましく、約1μm以上、約1mm以下であることがより好ましい。この範囲の卵殻膜とすることにより、卵殻膜を加水分解する際に、均一に加水分解することができる。卵殻膜の径を約0.1μm未満にするには製造上も困難であり、加水分解した卵殻膜成分の分子量が低くなり過ぎ、好ましくない。
【0016】
[卵殻膜の加水分解]
本発明の卵殻膜は加水分解して繊維製造に供することができる。
卵殻膜の加水分解については、アルカリ存在下、高温で加水分解することにより、分子量が比較的大きい可溶化卵殻膜が得られることが知られており(特許6288686)、この場合、分解反応を停止させるために酸性物質で中和させる。
【0017】
またアルカリ領域に至適pHを有するタンパク質分解酵素を作用させることによりシスチン含量の多い卵殻膜加水分解物も得ることができる(特開2018-177713号公報)。また卵殻膜をチオプロピオン酸等に溶解してエレクトロスピニング法により紡糸して繊維集合体を提供することもできる(特開2009-89859号公報、特許5166953)。また他の実施形態において、卵殻膜を還元剤共存下で加水分解した可溶化卵殻膜を繊維生地に加工することもできる(特許4387806、特開2004-84154号公報)。
【0018】
本発明の一実施形態において、卵殻膜の加水分解処理は、酸(塩酸、硫酸等)、アルカリ(水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等)、タンパク質分解酵素(微生物起源の酵素、植物起源の酵素、動物起源の酵素)等により行うことができるが、アルカリによって行うことが好ましく、アルカリ性水溶液中で行われることがさらに好ましい。本発明の毛髪化粧料の材料となる卵殻膜加水分解物は、水酸化ナトリウムによる加水分解物であってもよく、水酸化リチウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属または、水酸化カルシウムなどのアルカリ土類金属の水溶液などを用いることもできる。タンパク質を構成するペプチド結合は極めて安定な結合であるため、アルカリを用いて非酵素的に分解するために、高いpHで高温に加熱して分解することもでき、比較的弱アルカリ性のアルカリを用いる場合には、長時間にわたって高温で処理することもできる。
【0019】
他の実施形態において、卵殻膜をペプシン、トリプシン、レニン、パパイン、カスパーゼ、キモトリプシン、プロテアーゼ、ペプチダーゼなどのタンパク質分解酵素や、クエン酸、塩酸、硫酸などの酸を用いて加水分解することもできる。
【0020】
本発明の一実施形態において、水酸化ナトリウムなどのアルカリによる加水分解の場合、原料として卵殻膜を準備して、この卵殻膜にアルカリを加えて攪拌させる。この際の攪拌条件は原料とアルカリが十分に攪拌され、アルカリが原料におけるペプチド結合を加水分解して本発明に係る加水分解卵殻膜が適切に得られるものであればよい。
【0021】
一実施形態において、卵殻膜をアルカリで処理する場合のアルカリ濃度は約0.1~約20%が好ましく、約0.5~約10%がより好ましい。約0.1%未満では充分な加水分解物が得られず、約20%以上では加水分解速度が早過ぎ、加水分解の程度をコントロールすることが難しく好ましくない。
【0022】
また本発明の一実施形態において、加水分解する温度は約10~約90℃が好ましく、約40~約80℃がより好ましい。約10℃未満では加水分解がほとんど進まず、約90℃以上では加水分解の程度をコントロールするのが難しく好ましくない。
【0023】
一実施形態において、卵殻膜をアルカリで処理する場合の反応時間は、反応温度やアルカリ濃度、または目的の分子量などによって適宜変更することができ、卵殻膜が適切に加水分解される時間であれば特に限られない。例えば、一実施形態において、反応時間は約30分~約6時間、好ましくは、約1時間~約4時間とすることができる。
【0024】
本発明の一実施形態において、加水分解に要する溶剤は水が好ましいが、水溶性の有機溶剤、例えばメタノール、エタノール、アセトン、n-プロパノール、イソプロパノール等を併用してもよい。作業環境および排水処理の観点から水溶媒での加水分解が好ましい。
【0025】
[加水分解工程の停止]
本発明における加水分解反応は、得られる加水分解物において、重量平均分子量(Mw)が約10,000~約100,000となるタイミングで、好ましくは約15,000~約80,000となるタイミングで、さらに好ましくは約30,000~約60,000となるタイミングで停止されることが好ましい。加水分解反応は、当該分野で任意の手段によって達成され得る。好ましい実施形態において、卵殻膜の加水分解を停止する工程には次の2つの方法があり、いずれの工程を用いてもよい。
【0026】
(1)卵殻膜をアルカリ存在下で加水分解した後に二硫化炭素を加え加水分解を停止する場合
加水分解反応終了後、約30℃まで冷却し、二硫化炭素を投入してアルカリ存在下で加水分解を停止する。加水分解が終了した後、加水分解を停止するために速やかに冷却することができ、氷等の寒剤を系内に投入することもできる。
【0027】
アルカリ存在下でも加水分解を完全に停止するために、仕込んだ卵殻膜の重量に対し、約0.2~約50%の二硫化炭素と反応させて、アミノ基(-NH-)と二硫化炭素(CS)の錯体を形成することが有効であり、さらに好ましくは約1~約40%、特に好ましくは約2~約30%の二硫化炭素と反応させることが好ましい。約0.2%以下ではアルカリ加水分解を停止させるのが不十分であり、約50%を超えると過剰の二硫化炭素が分離して存在し、製造上の安全性に問題がある。
【0028】
(2)卵殻膜をアルカリ存在下で加水分解した後に酸で中和する場合
加水分解反応後、速やかに約50℃まで冷却し、アルカリ加水分解に使用したアルカリ剤の約0.5~約1.0当量の酸を速やかに投入し、加水分解を停止する。投入する酸としては強酸であっても弱酸であってもいずれであってもよいが、塩酸や硫酸などの強酸では約0.5等量の酸を添加した段階で加水分解卵殻膜が析出し、更に硫黄臭の発生が激しくシスチン及び/またはシステインの脱落があるため、弱酸であることが好ましい。一実施形態において、弱酸としては、水中での酸解離定数(pKa)が0以上を示す酸を挙げることができ、好ましくは約0.2以上であり、さらに好ましくは約1.0以上であり、さらに好ましくは約1.5以上であり、さらに好ましくは約2.0以上であり、さらに好ましくは約3.0以上であり、上限は特に設定されない。例えば、酢酸のpKa=4.6、炭酸のpKa=6.4、シュウ酸のpKa=1.0、クエン酸のpKa=3.1、安息香酸のpKa=4.0等が挙げられる。
【0029】
本発明において使用する有機カルボン酸としては、特に限定されるものではないが、当量中和までの量では加水分解卵殻膜が不溶物として析出しないため、クエン酸などの弱酸であることが好ましい。中和に使用する有機カルボン酸量は使用したアルカリ剤に対し、約0.5~約1.0当量の酸であり、約0.6~約0.8当量がさらに好ましい。約0.5当量以下では経時により加水分解が進み、約1.0当量以上では加水分解した卵殻膜成分が析出するので好ましくない。
【0030】
有機カルボン酸で中和した場合、若干のアルカリ剤が残存した状態で次の紡糸工程に進んでも問題ないが、アルカリ吸着剤(例えば、協和化学工業株式会社製「キョーワード700」など)で処理した後に濾過で吸着剤を取り除くことが好ましい。こうすることにより、アルカリ剤の存在がほぼなくなり、経時的に安定な卵殻膜加水分解物が得られ好ましい。
【0031】
一実施形態において、有機カルボン酸としては、加水分解を中和できるものであれば特に限られないが、好ましくはクエン酸、酢酸、炭酸、またはシュウ酸などの弱酸を挙げることができ、特にクエン酸は繊維や化粧品などの用途で使用されている点で好ましい。
【0032】
一実施形態において、上記のような二硫化炭素での加水分解の停止と、クエン酸などの有機カルボン酸での加水分解の中和は、いずれか一方のみが行われてもよく、または2つを併用して加水分解を停止ないし中和してもよい。
【0033】
上記のように得られる卵殻膜加水分解物の分子量はGPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)による重量平均分子量(Mw)が約10,000~約100,000であり、好ましくは約15,000~約80,000であり、さらに好ましくは約30,000~約60,000である。
【0034】
分子量が約10,000未満であればレーヨン繊維に紡糸する際に水への溶解性が増すため残存率が低くなり、また約100,000を超えるとビスコースとの相溶性が悪く紡糸した際の残存率が悪くなり好ましくない。
【0035】
本発明の一実施形態において、本発明の卵殻膜加水分解物は、少なくとも約3日間、少なくとも約5日間、または少なくとも約7日間、室温~約40℃で静置した場合に、その分子量が約30%以内、約20%以内、好ましくは約15%以内、さらに好ましくは約10%以内、またさらに好ましくは約5%以内の数値に維持されていることができる。
【0036】
[繊維]
本発明の一実施形態において、卵殻膜や卵殻膜成分を混成する繊維は特に限られるものではなく、本発明の効果を奏する限り、合成繊維、半合成繊維、人造繊維、天然繊維、合成樹脂繊維などを用いることができる。卵殻膜や卵殻膜成分を混成する繊維は、例えば、セルロース、アセテート、麻、コットン、シルク、ウール、ナイロン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリ乳酸などから選択される1種または2種以上の繊維を含むことができ、好ましくはセルロース、特に好ましくはビスコースレーヨンを用いることができる。
【0037】
本発明では、特殊な装置を必要とせず、現行製造工程で対応可能な製造方法で卵殻膜成分を再生セルロース繊維に練り込み、そのような繊維を含む毛髪用化粧料を提供する。
【0038】
一実施形態において、本発明の毛髪用化粧料は卵殻膜を含有する繊維を含み、好ましくは卵殻膜加水分解物を含有する繊維を含む。本発明の毛髪用化粧料に使用する繊維は、原料繊維100質量部に対して、前記卵殻膜を約0.5質量部以上、約25質量部以下含むことができる。
【0039】
一実施形態において、本発明の毛髪用化粧料において、卵殻膜を含有する繊維は、卵殻膜を含む溶液を得る工程と、原料繊維を含む紡糸原液と、前記卵殻膜を含む溶液とを混合して、卵殻膜含有紡糸原液を得る工程と、前記卵殻膜含有紡糸原液から、前記卵殻膜を含有する繊維を製造する工程とを含む、方法によって得ることができる。
【0040】
したがって、本発明の一局面において、毛髪用化粧料に配合するための、卵殻膜を含有する繊維を製造する方法であって、前記卵殻膜を含む溶液を得る工程と、原料繊維を含む紡糸原液と、前記卵殻膜を含む溶液とを混合して、卵殻膜含有紡糸原液を得る工程と、前記卵殻膜含有紡糸原液から、前記卵殻膜を含有する繊維を製造する工程とを含む、方法が提供される。
【0041】
また本発明の他の局面において、本明細書の他の箇所で説明した方法によって製造された、毛髪用化粧料に配合するための、卵殻膜を含有する繊維が提供される。
【0042】
一実施形態において、本発明の毛髪用化粧料に配合される繊維の製造方法は、例えば、セルロースを銅アンモニア錯体化することにより可溶化して得た紡糸原液を紡糸する銅アンモニア法、セルロースをアルカリセルロースとした後に二硫化炭素を反応させてセルロースザンテートとすることで可溶化して得た紡糸原液(ビスコース)を紡糸するビスコース法、セルロースを特殊な溶剤に溶解して得た紡糸原液を紡糸する溶剤紡糸法等が挙げられる。その中でもビスコース法により得られるビスコースレーヨン繊維が特に有用である。
【0043】
一実施形態において、卵殻膜を含有する繊維の製造工程では卵殻膜をアルカリ存在下で加水分解する工程、前記加水分解を停止して卵殻膜加水分解物を含む溶液を得る工程、原料繊維を含む紡糸原液に、前記卵殻膜加水分解物を含む溶液を混合して卵殻膜含有紡糸原液を調製する工程、及び前記卵殻膜含有紡糸原液から、前記卵殻膜を含有する繊維を製造する工程、を含むことができる。
【0044】
一実施形態において、次の工程を経てビスコース法により製造される卵殻膜成分含有ビスコースレーヨン繊維を得ることもできる。
(1)卵殻膜をアルカリ存在下で加水分解した後に二硫化炭素を加え加水分解を停止する工程
(2)卵殻膜をアルカリ存在下で加水分解した後に有機カルボン酸で中和することにより加水分解を停止する工程
(3)(1)または(2)の工程を経て得られた卵殻膜加水分解物を紡糸原液ビスコースと配合し湿式紡糸法によりビスコースレーヨン繊維を得る工程
(4)(3)の工程を経て得られたビスコースレーヨン繊維をステープルに加工する工程
【0045】
本発明の一実施形態において、本発明の毛髪用化粧料に用いる繊維は機能性を有しており、その素材は卵殻膜が天然素材であるため、天然物由来繊維であることが好ましく、特に、再生セルロース繊維であるビスコースレーヨン繊維が好ましい。一実施形態において、ビスコースレーヨン繊維は、木材あるいは非木材由来の天然セルロースをアルカリセルロースとした後に二硫化炭素を反応させてセルロースザンテートを得る工程、セルロースザンテートを水溶液とした紡糸原液であるビスコースを得る工程、前記ビスコースを紡糸して再生セルロース繊維を得る工程によって製造される。
【0046】
[卵殻膜成分とビスコースの配合]
本発明の一実施形態において、卵殻膜成分とビスコースを配合することができる。一実施形態において、二硫化炭素で加水分解を停止させた卵殻膜加水分解物は、アルカリセルロースを二硫化炭素と反応させたセルロースザンテートの水溶液であるビスコースと任意の割合で室温での配合が可能である。また他の実施形態において、有機カルボン酸で中和した卵殻膜加水分解物も任意の割合で室温での配合が可能であり、ビスコースと混合するとアルカリ剤存在下であってもビスコースに存在する二硫化炭素により加水分解が停止されることにより安定化させることができる。
【0047】
[卵殻膜成分練り込み紡糸]
一実施形態において、卵殻膜成分とビスコースを配合する場合、加水分解卵殻膜成分を添加したビスコースは通常のビスコースレーヨン紡糸設備を使用して、公知の条件により紡糸が可能である。一実施形態において、原料ビスコースは、例えば、セルロースを約7質量%以上約10質量%以下、水酸化ナトリウムを約5質量%以上約8質量%以下、二硫化炭素を約2質量%以上約3.5質量%以下含んでもよい。一実施形態において、原料ビスコースの温度は約18℃以上約23℃以下に保持するのが好ましい。
【0048】
一実施形態において、卵殻膜成分とビスコースを配合する場合、卵殻膜加水分解物における卵殻膜成分のビスコースに対する添加量は、原料ビスコース中のセルロース約100質量%に対して卵殻膜成分として約0.5質量%以上約25質量%以下であることが好ましく、約1.0質量%以上約20質量%以下であることがより好ましく、約2.0質量%以上約15質量%以下であることがさらに好ましい。
【0049】
上述の条件で調製した卵殻膜成分含有ビスコースを紡糸することで、繊維強度を損なうことなく、卵殻膜成分を繊維内部に効果的に含有させた卵殻膜成分含有ビスコースレーヨン繊維を得ることができる。
【0050】
一実施形態において、本発明の卵殻膜成分含有ビスコースレーヨン繊維は、例えば通常の円形ノズルを用いて紡糸することができる。紡糸ノズルとしては、目的とする生産量にもよるが、直径0.05mm以上0.12mm以下であり、ホール数が1000以上20000以下である円形ノズルを用いることが好ましい。前記紡糸ノズルを用いて、前記紡糸用ビスコース液を紡糸浴中に押し出して紡糸し、凝固再生させる。紡糸速度は30m/分以上80m/分以下の範囲が好ましい。また延伸率は39%以上55%以下が好ましい。ここで延伸率とは、延伸前のスライバー速度を100としたとき、延伸後のスライバー速度をどこまで速くしたかを示すものである。倍率で示すと、延伸前が1、延伸後は1.39倍以上1.55倍以下となる。
【0051】
紡糸浴(ミューラー浴)としては、例えば、硫酸を約95g/L以上約130g/L以下、硫酸亜鉛を約10g/L以上約17g/L以下、硫酸ナトリウム(芒硝)を約290g/L以上約370g/L以下含む強酸性浴を用いることが好ましい。より好ましい硫酸濃度は、約95g/L以上約120g/L以下である。
【0052】
[卵殻膜成分含有繊維の精練]
一実施形態において、上記のようにして得られた卵殻膜成分含有繊維は所定の長さにカットして通常の精練処理を行うことができる。精練工程は通常の方法により、熱水処理、水硫化処理、漂白、酸洗いの順で行うことができる。漂白は通常の繊維と同一条件により行うことができ、次亜塩素酸ナトリウムまたは過酸化水素を使用してもよい。一実施形態において、次亜塩素酸ナトリウム(次亜塩素酸ソーダ)で漂白を行うのが好ましい。
【0053】
一実施形態において、本発明の毛髪用化粧料における卵殻膜成分含有繊維は、卵殻膜成分が、原料繊維100質量部に対して、約0.5質量部以上、約25質量部以下で含有される。好ましくは、卵殻膜成分は、約1.0質量部以上約20質量部以下、より好ましくは約2.0質量部以上約15質量部以下で含有される。卵殻膜成分の含有量が約0.5質量部未満であると、卵殻膜の特性を十分に発揮することができず、約25質量部を超えると、繊維強度の低下が著しくなる。
【0054】
本発明の毛髪用化粧料における卵殻膜成分含有繊維は、卵殻膜加水分解物の分子量が、GPCにより測定したとき、約10,000~約100,000であり、好ましくは約15,000~80,000であり、さらに好ましくは約30,000~約60,000である。分子量が約10,000未満であると、水への溶解性が増すため繊維に紡糸する際の残存率が低くなり、分子量が約100,000を超えると、紡糸性が低下する傾向にあるため好ましくない。
【0055】
本発明の毛髪用化粧料における卵殻膜成分含有繊維は、そのゼータ電位が、0mV以上とすることができる。理論に縛られるものではないが、ヒトの毛髪の表面は、タンパク質の末端基が解離することによって負の電荷を帯びているところ、卵殻膜成分をレーヨンなどの繊維に混成させることにより、表面電位がプラスに転じ、毛髪に付着しやすくなる。ゼータ電位とは溶液中で繊維表面に発生する帯電により形成される電位であり、繊維層を構成する素材によりゼータ電位は大きく異なる。
【0056】
ゼータ電位の測定法として、例えば、電気泳動光散乱(Electrokinetic Light Scattaring)法、分散液に交流電場を印加して音場を測定するESA(Electrokinetic Sonic Amplitude)法やコロイド振動電流法などが挙げられる。本発明のゼータ電位は、好ましくは電気泳動光散乱法により測定される。
【0057】
電気泳動光散乱法では、粒子(フィラー)に電場をかけることで粒子を移動(電気泳動)させ、さらに、移動する粒子にレーザー照射して、照射光と散乱光の周波数の変化から電気泳動速度を計算することによりゼータ電位を算出することができる。当業者に公知の各種機器は、例えば大塚電子株式会社のELSZシリーズ(ELSZneo、ELSZneoSE、ELSZ-2000ZS)や、Brookhaven Instrument社のZetaPlusまたはZetaPALSシリーズなどを挙げることができる。非常に小さな電位を測定する場合、または無極性媒体中や高塩濃度で測定する場合は、いわゆる相分析光散乱(PALS)技術も適用することができる。本発明において、卵殻膜を含有する繊維のゼータ電位は、0mV以上であり、典型的には0mV超(すなわち、ゼータ電位がプラスである)であり得、具体的には0mV~約1.5mVであり得る。好ましくは卵殻膜を含有する繊維のゼータ電位は、約0.05mv以上、約0.06mv以上、約0.07mv以上、約0.08mv以上、約0.09mv以上、または約0.1mv以上であり、より好ましくは約0.5mV以上、約0.6mV以上、約0.7mV以上、約0.8mV以上、約0.9mV以上、約1.0mV以上であり得る。本発明において、卵殻膜を含有する繊維のゼータ電位は、電気泳動光散乱法で測定した値であり得る。典型的には、本発明の繊維のゼータ電位は、セル内の電気浸透流を実測することによって、電気泳動光散乱法によるゼータ電位を求めることができる大塚電子株式会社製のELSZシリーズ(ELSZ-2000ZSまたはELSZneoなど)で測定したものであり得る。
【0058】
本発明の毛髪用化粧料における卵殻膜成分含有繊維は、その可撓性が、卵殻膜を含有しない同種の繊維よりも高いことを特徴とする。卵殻膜を繊維に混成させることにより、可撓性が向上し、毛髪の形状に添って柔軟に折れ曲がりやすくすることができる。
【0059】
本発明の毛髪用化粧料は、長さの異なる複数種の卵殻膜成分含有繊維を含むこともできる。一実施形態において、本発明の毛髪用化粧料に配合される繊維は、例えば、いずれも繊維長が約0.1mm~約5.0mm、好ましくは約0.5~約4.0mm、さらに好ましくは約1.0~約3.0mmの範囲内である。また一実施形態において、本発明の毛髪用化粧料に配合される繊維の繊維長は、その用途に応じて適宜設定可能であり、例えば、約0.1mm、約0.5mm、約1.0mm、約1.5mm、約2.0mm、約2.5mm、約3.0mm、約3.5mm、約4.0mm、約4.5mm、約5.0mmなどとすることができる。繊維長が約5.0mmを超えると繊維が長すぎるため、ブラシに絡みついて移動しないという問題があり、約0.1mmを下回る場合には繊維長が短いため、繊維相互の繋がりが弱くなる。また、用途に応じて、精練後、繊維を切断しない長繊維束として使用することもできる。
【0060】
一実施形態において、本発明の毛髪用化粧料に配合される卵殻膜成分含有繊維は、その繊度によって特に限定されるものではない。例えば、本発明の毛髪用化粧料に配合される卵殻膜成分含有繊維の繊度は、約0.001~約5.0デシテックス(dtex)であり、好ましくは約0.005~約4.0dtex、より好ましくは約0.01~約3.0dtexである。また一実施形態において、本発明の毛髪用化粧料に配合される繊維の繊度は、その用途に応じて適宜設定可能であり、例えば、約0.001dtex、約0.005dtex、約0.01dtex、約0.05dtex、約0.1dtex、約0.5dtex、約1.0dtex、約1.2dtex、約1.5dtex、約1.7dtex、約2.0dtex、約3.0dtex、約4.0dtex、約5.0dtexなどとすることができる。太さ(繊度)が約0.001デシテックス未満の場合は、繊維が細すぎるために、ブラシに絡みついて移動しないという問題があり、約5.0デシテックスを上回る場合には太すぎるため、重くなり、長い睫が得られにくい。
【0061】
本発明の一実施形態において、本発明の毛髪用化粧料に配合される卵殻膜成分含有繊維は、天然成分由来の卵殻膜成分を含むため柔らかく、人体の毛髪への密着性も優れており、繊維集合体の形状や面積に制限はない。
【0062】
また本発明の一実施形態において、本発明の毛髪用化粧料に配合される卵殻膜成分含有繊維は、繊維や繊維集合体自体が卵殻膜成分を含有するので、天然の卵殻膜とほぼ同様の性質を備えることができる。具体的には、卵殻膜成分自体が繊維形成に寄与しているので、単に卵殻膜成分をフィルム状にした場合や、合成繊維や天然繊維の表面に卵殻膜成分を単に付着させた場合と異なり、卵殻膜固有の性質が強く発揮される。
【0063】
本発明の一実施形態において、本発明の毛髪用化粧料は、睫毛用または頭髪用とすることができる。
【0064】
本明細書において「または」は、文章中に列挙されている事項の「少なくとも1つ以上」を採用できるときに使用される。「もしくは」も同様である。本明細書において「2つの値」の「範囲内」と明記した場合、その範囲には2つの値自体も含む。
本明細書において引用された、科学文献、特許、特許出願などの参考文献は、その全体が、各々具体的に記載されたのと同じ程度に本明細書において参考として援用される。
【0065】
以上、本開示を、理解の容易のために好ましい実施形態を示して説明してきた。以下に、実施例に基づいて本開示を説明するが、上述の説明および以下の実施例は、例示の目的のみに提供され、本開示を限定する目的で提供したのではない。従って、本開示の範囲は、本明細書に具体的に記載された実施形態にも実施例にも限定されず、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【実施例
【0066】
以下の実施例等における配合量は特に断らない限り質量%を示す。なお、以下の実施例において、マスカラ化粧料に配合した卵殻膜成分含有繊維は以下のとおりに製造した。
【0067】
<卵殻膜溶液の調製>
水洗した鶏卵卵殻膜(500g)を5%苛性ソーダ水溶液(3500g)に入れ、55~65℃で3時間攪拌し加水分解した。その後、30℃まで冷却し二硫化炭素120gを投入し、1時間反応させた。その後にろ布ろ過して卵殻膜加水分解液(4000g)を得た。
【0068】
<ビスコースレーヨン繊維の製造>
[紡糸原液の調製]
調製した加水分解卵殻膜液を卵殻膜成分がセルロース100質量部に対して10質量部となるように原料ビスコースに添加し、撹拌混合を行った。
【0069】
原料ビスコースはセルロース含有量8.5質量%、水酸化ナトリウム含有量5.7質量%、二硫化炭素2.7質量%を含むものを用いた。温度は20℃に保った。
【0070】
[紡糸条件]
得られた紡糸液を、2浴緊張紡糸法により、紡糸速度50m/分、延伸率43%で紡糸して、繊度1.7dtexの繊維を得た。第1浴(紡糸浴)の組成は、硫酸100g/L、硫酸亜鉛15g/L、硫酸ナトリウム350g/L含むミューラー浴(50℃)を用いた。また、紡糸液を吐出する紡糸口金には、孔径0.06mmのホールを4000個有するノズルを用いた。
【0071】
[精練・漂白処理]
上記で得られたビスコースレーヨンの糸条を、繊維長38mmにカットし、精練処理を行った。精練処理は熱水処理後に水洗を行い、続いて水硫化処理、漂白(次亜塩素酸ソーダ)、酸洗いの順で行った。油剤を付与した後に圧縮ローラーにより余分な水分と油剤を除去し、その後、乾燥処理(60℃、7時間)を行い、レーヨン繊維を得た。
【0072】
(実施例1:卵殻膜成分含有繊維を含むマスカラの製造)
以下の表1に挙げた組成を有するマスカラ化粧料を調製した。なお、表中、「卵殻膜ハイブリッドレーヨン」とは、上記のように製造したレーヨンである。
【表1】
【0073】
A相の原料を80~85℃に加熱溶解し、B相の原料を80~85℃に加熱溶解した。溶解したB層にC相を添加し、攪拌混合し、この混合物にA層を加え、ホモミキサーで処理して乳化した。冷却し、40℃でD相を加えて攪拌混合し、さらに30℃まで冷却し、E層を加えて均一分散させた。
【0074】
(実施例2:卵殻膜成分含有繊維の表面電位(ゼータ電位の測定))
卵殻膜成分含有繊維試料の表面のゼータ電位を、電気泳動光散乱法によって測定した。測定装置は、ゼータ電位測定システム(大塚電子社製、ELSZ-2000ZS)を用いた。繊維の基材表面のゼータ電位は平板試料用セルユニットを用いて測定した。トレーサー粒子は、型番「EL-9001」の平板モニター粒子をイオン交換水で300倍に希釈して使用した。溶媒条件は、屈折率1.3328、粘度0.8878cP、誘電率78.3、測定温度25℃とした。試料は、平板測定用セルのサンプル設置面に両面テープを貼付し、重ねず隙間がないように並べて敷き詰めて、密着させた状態で測定した。
【0075】
結果を以下の表に示した。なお、表中、「卵殻膜レーヨン」とは、本発明の卵殻膜加水分解物を含む繊維(レーヨン)であり、「浸漬レーヨン」とは、本発明の卵殻膜加水分解物を含む繊維の製造時に使用した処理液(卵殻膜加水分解物の10%水溶液)に、レーヨンを2時間浸漬後、軽く水洗したものである。
【表2】

【0076】
ヒトの毛髪の表面は、タンパク質の末端基が解離することによって負の電荷を帯びている。上記のとおり、本発明の卵殻膜加水分解物を含む繊維は表面電位がプラスに転じることにより、毛髪に付着しやすくなることがわかる。また浸漬レーヨンでは表面電位がプラスに転じていないことから、単に繊維を処理液に浸すだけでは表面電位がプラスに転じることはなく、卵殻膜加水分解物を混成した繊維によってはじめて表面電位をプラスにすることができる。
【0077】
(実施例3:可撓性試験)
ハンドルオメーター(型式 No.226、安田精機製作所製)を用いて、卵殻膜成分含有繊維試料の可撓性(物体が柔軟であり、折り曲げることが可能である性質)を測定した。
【0078】
幅200mmの試験片を作製し、この試験片を、幅10mmのスリット上にスリットと直角となるようにセットし、試験片の辺から67mm(試験片幅の1/3)の位置を、ブレードにて荷重(フルスケール)981mN、15秒かけて8mm下降させ、このときの抵抗値を剛軟度としてN=3の平均値で評価した。測定により得られた値が小さいほど、可撓性が良好であることを示す。
【0079】
結果を以下の表に示した。
【表3】

【0080】
卵殻膜加水分解物をレーヨンに混成させることにより、可撓性が向上し、毛髪の形状に添って柔軟に折れ曲がりやすくなることがわかった。
【0081】
(実施例4:曲げ回復性試験)
純曲げ試験機(型式KES-FB2-A、カトーテック株式会社製)を用いて、最大曲率制御方式により、卵殻膜成分含有繊維試料の曲げ回復性(曲げヒステリシス)を測定した。
【0082】
試料は、長さ200mm、幅200mmとし、1cmの間隔のチャックに試料を把持し、0.50cm-1、Bは曲率0.5~1.5cm-1、2HBは1cm-1の範囲で純曲げ試験を行い、ヒステリシス(2HB)を求めた。測定により得られた値が大きいほど、変形からの回復性が悪い(変形状態を維持する)ことを示す(測定温度20℃、湿度65%)。
【0083】
結果を以下の表に示した。
【表4】

【0084】
卵殻膜加水分解物をレーヨンに混成させることにより、変形状態維持能が向上することがわかった。
【0085】
(実施例5:官能性評価)
実施例1で調製したマスカラ化粧料を用いて、以下の基準で評価を行った。
調製したマスカラ化粧料をモニター5名により使用してもらい、(1)ダマになりにくい、(2)先端まで綺麗に付着する、(3)まつ毛と一体感がある、(4)長さがアップしているように見える、(5)総合的評価(仕上がりの美しさ)の各項目について評価した。それぞれ5段階評価とし、数字が大きいほど高評価とした。以下の結果は5名の平均値を示す。
【表5】

【0086】
また、調製したマスカラ化粧料をつけまつげに使用し、モニター10名によってその外観ブラインドの評価を行った結果を以下の表に示す。
【表6】

【0087】
上記表に示すとおり、本発明の卵殻膜加水分解物を含む繊維を配合したマスカラは、従来のマスカラに比べて、ダマになりにくく、先端まで綺麗に付着し、まつ毛と一体感があり、長さがアップしているように見えるという評価を得た。また総合的評価(仕上がりの美しさ)についても従来のマスカラよりも高かった。
【0088】
(注記)
以上のように、本開示の好ましい実施形態を用いて本開示を例示してきたが、本開示は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。本明細書において引用した特許、特許出願及び他の文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明の毛髪用化粧料は、卵殻膜成分を有することで、従来の毛髪用化粧料と比較して、毛髪に付着しやすくすることができる。これにより、化粧料分野において応用が可能となる。
【要約】      (修正有)
【課題】毛髪に付着しやすい毛髪用化粧料を提供すること。
【解決手段】本願発明は、卵殻膜を含有する繊維を含む、毛髪用化粧料を提供する。このような化粧料は、卵殻膜を含有する繊維を製造する方法であって、前記卵殻膜を含む溶液を得る工程と、原料繊維を含む紡糸原液と、前記卵殻膜を含む溶液とを混合して、卵殻膜含有紡糸原液を得る工程と、前記卵殻膜含有紡糸原液から、前記卵殻膜を含有する繊維を製造する工程とを含む、方法によって得ることができる。
【選択図】なし