(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-04
(45)【発行日】2023-12-12
(54)【発明の名称】スライダおよび術具
(51)【国際特許分類】
A61B 34/35 20160101AFI20231205BHJP
B25J 17/02 20060101ALI20231205BHJP
【FI】
A61B34/35
B25J17/02 D
(21)【出願番号】P 2023513260
(86)(22)【出願日】2021-11-25
(86)【国際出願番号】 JP2021043244
(87)【国際公開番号】W WO2023095259
(87)【国際公開日】2023-06-01
【審査請求日】2023-02-22
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】515075692
【氏名又は名称】リバーフィールド株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】新藤 広樹
【審査官】和田 将彦
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2021/048548(WO,A1)
【文献】国際公開第2021/192255(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 34/30 - 34/37
B25J 15/04
B25J 17/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スライダであって、
術具の筺体に対して相対的に直線方向へ移動可能に配置されたスライダ本体と
、
前記筺体および前記スライダ本体に対して回転可能に配置された転動部と、
が設けられ、
前記転動部は、
前記スライダ本体の一方の側に配置される前記筺体
の一方の部分と、
前記筺体の前記一方の部分とは異なる部分であって、前記スライダ本体の前記一方の側とは反対側に配置される前記筺体
の他方の部分との間に挟まれるようにして配置されるとともに、前記直線方向に対して交差する回転軸線まわりに回転可能に前記スライダ本体に対して支持された円筒状または円柱状の形状を有する部材であり、
前記スライダ本体が前記直線方向へ移動すると、前記転動部は前記筺体の前記一方の部分、または前記筺体の前記他方の部分に接しながら転動する、
スライダ。
【請求項2】
術具であって、
筺体と、
前記筺体に対して相対的に直線方向へ移動可能に配置されたスライダ本体と
、
前記筺体および前記スライダ本体に対して回転可能に配置された転動部と、
が設けられ、
前記転動部は、
前記スライダ本体の一方の側に配置される前記筺体
の一方の部分と、
前記筺体の前記一方の部分とは異なる部分であって、前記スライダ本体の前記一方の側とは反対側に配置される前記筺体
の他方の部分との間に挟まれるようにして配置されるとともに、前記直線方向に対して交差する回転軸線まわりに回転可能に前記スライダ本体に対して支持された円筒状または円柱状の形状を有する部材であり、
前記スライダ本体が前記直線方向へ移動すると、前記転動部は前記筺体の前記一方の部分、または前記筺体の前記他方の部分に接しながら転動する、
術具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、マスタースレーブ型の手術ロボットに用いられるスライダおよび術具に関する。
【背景技術】
【0002】
マスタースレーブ型の手術ロボットにおいて、安全性向上や、医師の操作習得時間の短縮を図るために、隔離された場所でロボットを操作する術者にロボット鉗子に働く外力を伝える技術が要望されている。術者に伝えられる外力は、アクチュエータの位置や駆動力等の情報に基づいて推定される。以降において手術ロボットが備えるロボット鉗子を「術具」とも表記する。また、術者に伝えられる外力を推定することを「力覚推定」とも表記する。
【0003】
例えば、特許文献1に開示されているように、ロボットの術具を駆動する方法としては、アクチュエータ等の駆動源で発生させた駆動力をスライダおよびワイヤを用いて伝達し、伝達した駆動力によって術具を駆動する方法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
スライダなどには、スライダの周囲を囲う筺体との間に静止摩擦力や動摩擦力などの摩擦力が作用する。力覚推定は、上述の通り、アクチュエータの位置や駆動力等の情報が用いられて外力が推定される。そのため、スライダなどに作用する摩擦力は、力覚推定に影響を与える。言い換えると、摩擦力により力覚推定の精度が悪化する問題があった。
【0006】
また、伝達する駆動力が静止摩擦力よりも小さい場合、アクチュエータの位置が変わらない。そのため、静止摩擦力よりも小さな駆動力で術具を操作する際の力覚推定を行うことが困難になる問題があった。
【0007】
本開示は、駆動力を伝達する際の摩擦による損失を低減し、力覚推定精度の悪化を抑制することができるスライダおよび術具の一例を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一局面であるスライダには、術具の筺体に対して相対的に直線方向へ移動可能に配置されたスライダ本体と、前記筺体および前記スライダ本体の間に配置され、前記筺体および前記スライダ本体に対して回転可能に配置された転動部と、が設けられる。
【0009】
本開示の一局面である術具には、筺体と、前記筺体に対して相対的に直線方向へ移動可能に配置されたスライダ本体と、前記筺体および前記スライダ本体の間に配置され、前記筺体および前記スライダ本体に対して回転可能に配置された転動部と、が設けられる。
【0010】
このように構成されたスライダおよび術具によれば、筺体とスライダ本体の間に転動部が配置される。転動部は筺体およびスライダ本体に対して回転可能である。スライダ本体が筺体に対して直線方向へ相対移動すると、転動部は筺体およびスライダ本体の間で接触しながら回転する。そのため、筺体およびスライダ本体の間の摩擦力を低減しやすい。
【0011】
また、静止摩擦力を低減しやすいため、スライダ本体に加えられる駆動力が小さくてもスライダ本体を移動させやすくなる。つまり、駆動力を発生させるアクチュエータの位置が変わりやすい。
【0012】
また、摩擦力を低減することは、動摩擦力がより一定の値で安定し易いことになるため、スライダ本体が動作している際の駆動力が安定しやすく、力覚推定精度の悪化を抑制することができる。
【0013】
本開示の一局面であるスライダにおいて前記転動部は、前記直線方向に対して交差する回転軸線まわりに回転可能に前記スライダ本体に対して支持された円筒状または円柱状の形状を有する部材であり、前記スライダ本体が前記直線方向へ移動すると、前記転動部は前記筺体に接しながら転動する。
【0014】
このように構成されたスライダによれば、転動部はスライダ本体に回転軸線まわりに回転可能に支持される。さらに、転動部は円筒形状または円柱形状の円周面が筺体と接触しながら回転する。そのため、筺体およびスライダ本体の間の摩擦力を低減しやすい。
【0015】
本開示の一局面であるスライダにおいて前記転動部は、前記スライダ本体に対して回転可能に支持された球形状を有する部材であり、前記スライダ本体が前記直線方向へ移動すると、前記転動部は前記筺体に接しながら転動する。
【0016】
このように構成されたスライダによれば、転動部はスライダ本体に回転可能に支持される。転動部は球形状の表面が筺体と接触しながら回転する。そのため、筺体およびスライダ本体の間の摩擦力を低減しやすい。
【発明の効果】
【0017】
本開示のスライダおよび術具によれば、筺体とスライダ本体の間に転動部を配置することにより、駆動力を伝達する際の摩擦による損失を低減し、力覚推定精度の悪化を抑制するという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本開示による術具の外観を説明する斜視図である。
【
図2】
図1の術具における内部構成を説明する斜視図である。
【
図3】
図1の術具におけるスライダの配置を説明する斜視図である。
【
図4】
図3のスライダの構成を説明する分解斜視図である。
【
図5】筺体および挟持部と、転動部との配置関係を説明する断面視図である。
【
図7】転動部の他の変形例を説明する断面視図である。
【符号の説明】
【0019】
1…術具、 20…筺体、 28…挟持部(筺体)、 40…スライダ、
41…スライダ本体、 61…転動部
【発明を実施するための形態】
【0020】
本開示の一実施形態に係る術具について、
図1から
図5を参照しながら説明する。本実施形態の術具1は、遠隔操作可能な手術ロボットにおける多自由度マニピュレータに設けられる術具である。術具1は、患者の処置に用いられる器具である。術具1は、例えば内視鏡手術を行う際に用いる鉗子などの構成を有していてもよい。
【0021】
術具1には、
図1に示すように、シャフト10と、筺体20とが設けられている。
【0022】
なお、本実施形態では説明を容易にするために、シャフト10が延びる方向をZ軸とし、シャフト10の根本から先端に向かう方向を正方向として説明する。また、Z軸と直交する方向であって、後述する複数のスライダ40が並ぶ方向をX軸とし、Z軸の正方向に向かって左方向をX軸の正方向として説明する。さらに、Z軸およびX軸に直交する方向をY軸とし、筺体20におけるスライダ40が並ぶ面から反対の面に向かう方向をY軸の正方向として説明する。
【0023】
シャフト10は、患者の体内に挿入される棒状の部材である。シャフト10は、筺体20からZ軸の正方向に向かって延びて配置されている。シャフト10は円柱状または円筒状の構成を有する。
【0024】
例えば、シャフト10におけるZ軸の正方向の端部には、図示しない関節部および鉗子が設けられている。
【0025】
関節部は、後述するスライダ40から伝達される駆動力により、鉗子の向きを変更可能とする構成を有している。関節部の具体的な構成は、伝達される駆動力により、鉗子の向きを変更することが可能な一般的な構成でよく、特に限定されない。
【0026】
鉗子は、患者の処置を行う一般的な鉗子と同様の構成を有している。なお、本実施形態ではシャフト10の先端に鉗子が配置されている場合を例に説明するが、患者の処置に用いられる他の器具が配置されていてもよい。
【0027】
筺体20には、
図2および
図3に示すように、3つの従動溝21と、3つのスライダ40と、3つのワイヤ26と、1つの挟持部28と、が設けられている。挟持部28は筺体に相当する部分である。
【0028】
なお、
図3では説明を容易にするためにX軸方向中央の従動溝21に配置されたスライダ40およびワイヤ26のみを表示し、X軸方向の両端の従動溝21に配置されたスライダ40およびワイヤ26の表示は省略している。
【0029】
従動溝21は、筺体20におけるY軸の負方向側の端面に設けられた長孔である。言い換えると、従動溝21は、本体20と多自由度マニピュレータとの着脱面に設けられた長孔である。また、従動溝21は、Z軸に沿って延びる構成を有している。
【0030】
3つの従動溝21はX軸方向に等間隔に並んで配置されている。従動溝21の数は、関節部及び/又は鉗子などの動きなどに基づいて定めることができる。言い換えると、多自由度マニピュレータに求められる仕様に基づく動きに基づいて定めることができる。従動溝21の数は、求められる仕様に応じて3つよりも多い場合もあり得、少ない場合もあり得る。
【0031】
スライダ40は、多自由度マニピュレータから駆動力が伝達され、関節部や鉗子に駆動力を伝達する構成を有している。また、スライダ40は、多自由度マニピュレータと着脱が可能な構成を有している。
【0032】
3つの従動溝21のそれぞれに、1つのスライダ40が配置され、スライダ40は、従動溝21の内部をZ軸方向に移動可能に配置されている。言い換えるとスライダ40は、筺体20に対して相対的に直線方向に移動可能に配置されている。スライダ40は、全ての従動溝21のそれぞれに配置されてもよいし、一部の従動溝21にのみ配置されてもよい。
【0033】
3つのスライダ40の一部は、鉗子に駆動力を伝達する構成を有している。残りのスライダ40は、関節部に駆動力を伝達する構成を有している。例えば、3つのスライダ40のうち、2つのスライダ40は鉗子に駆動力を伝達する構成を有している。3つのスライダ40のうち、鉗子に駆動力を伝達するスライダ40を除く1つのスライダ40は関節部に駆動力を伝達する構成を有している。
【0034】
ワイヤ26は、スライダ40に伝達された駆動力を鉗子や関節部に伝達する構成を有している。1つのスライダ40には、1本または2本のワイヤ26が配置されている。
【0035】
ワイヤ26は、長尺状に形成されたワイヤである。本実施形態ではワイヤ26が、例えば、ステンレス鋼や、タングステン、タングステンを成分に含む合金、ピアノ線(例えば、JIS G 3522に規定されるもの。)などの手術用ロボットシステムのマニピュレータで使用される金属材料を用いて形成されている場合を例に説明する。
【0036】
挟持部28は、筺体20との間に3つのスライダ40を挟んで配置される部材である。挟持部28には、3つの従動溝21に対応する位置に3つのスリット29が設けられている。スリット29は、Z軸に沿って延びる構成を有している。スリット29の内部には、スライダ40が配置され、スライダ40はスリット29の内部をZ軸方向に移動可能に配置されている。
【0037】
筺体20の内部には、
図2に示すように、ワイヤ26をシャフト10へ導く2つの第1ガイドプーリ22、2つの第2ガイドプーリ23、および、3つの第3ガイドプーリ24がさらに設けられている。
【0038】
第1ガイドプーリ22は、スライダ40よりもシャフト10に近い位置に配置されている。2つの第1ガイドプーリ22は、それぞれX軸の正方向側および負方向側に並んで配置されている。
【0039】
2つの第1ガイドプーリ22は、X軸の正方向側のスライダ40から延びるワイヤ26および負方向側のスライダ40から延びるワイヤ26のそれぞれを、2つの第2ガイドプーリ23へ導いている。
【0040】
第2ガイドプーリ23は、第1ガイドプーリ22と同様にスライダ40よりもシャフト10に近い位置に配置されている。2つの第2ガイドプーリ23は、それぞれX軸の正方向側および負方向側に並んで配置されている。
【0041】
2つの2ガイドプーリ23は、X軸の正方向側の第1ガイドプーリ22から延びるワイヤ26および負方向側の第1ガイドプーリ22から延びるワイヤ26のそれぞれを、シャフト10の内部へ導いている。
【0042】
第3ガイドプーリ24は、スライダ40よりもシャフト10から遠い位置に配置されている。3つの第3ガイドプーリ24は、X軸方向に並んで配置されている。第3ガイドプーリ24は円筒状に形成され、円筒面にはワイヤ26がガイドされる複数の溝が設けられている。
【0043】
本実施形態では、3つの溝が、各第3ガイドプーリ24の円筒面のY軸方向に異なる位置にそれぞれ設けられている例について説明する。3つの第3ガイドプーリ24は、ワイヤ26が、ガイドされている溝から、隣接する他の溝へ移動可能な構成を有している。
【0044】
3つの第3ガイドプーリ24のうち、X軸の負方向側の第3ガイドプーリ24は、X軸の負方向側のスライダ40から延びるワイヤ26を、はじめに当該ワイヤ26がガイドされた溝から隣接する溝へ移動させてY軸方向の位置を異ならせた上でX軸の負方向側の第2ガイドプーリ23へ導いている。負方向側の第2ガイドプーリ23は、当該ワイヤ26をシャフト10の内部へ導いている。
【0045】
中央の第3ガイドプーリ24は、中央のスライダ40から延びるワイヤ26を、はじめに当該ワイヤ26がガイドされた溝から隣接する溝へ移動させてY軸方向の位置を異ならせた上でX軸の正方向側の第2ガイドプーリ23へ導いている。正方向側の第2ガイドプーリ23は、当該ワイヤ26をシャフト10の内部へ導いている。
【0046】
正方向側の第3ガイドプーリ24は、X軸の正方向側のスライダ40から延びるワイヤ26を、はじめに当該ワイヤ26がガイドされた溝から隣接する溝へ移動させてY軸方向の位置を異ならせた上でX軸の正方向側の第2ガイドプーリ23へ導いている。正方向側の第2ガイドプーリ23は、当該ワイヤ26をシャフト10の内部へ導いている。
【0047】
スライダ40には、
図4に示すように、スライダ本体41と、1つの第1保持部45と、1つの第2保持部51と、2つの固定部55と、4つの転動部61と、が設けられている。スライダ40には、更に別の部材が設けられてもよい。
【0048】
スライダ本体41はZ軸方向に延びる柱状に形成された部材である。より具体的には四角柱状に形成された部材である。スライダ本体41には、2つの雌ネジ孔42と、2つの位置決め凸部43と、4つの転動軸部44と、が設けられている。
【0049】
雌ネジ孔42は、後述する固定部55の雄ネジに対応し、第1保持部45および第2保持部51の保持に用いられるネジ孔である。2つの雌ネジ孔42は、それぞれスライダ本体41におけるZ軸正方向および負方向の端部に、Y軸方向に延びて形成されたネジ孔である。
【0050】
位置決め凸部43は、スライダ本体41に対する第1保持部45および第2保持部51の相対位置を定める凸部である。位置決め凸部43は、スライダ本体41からY軸正方向に突出する円柱形状の部材である。2つの位置決め凸部43は、それぞれ2つの雌ネジ孔42に隣接する位置であって、スライダ本体41の中央側の位置に設けられている。
【0051】
転動軸部44は、転動部61を回転軸線Lまわりに回転可能に支持する部材である。転動軸部44は、スライダ本体41からX軸方向に突出する円柱形状の部材である。当該円柱形状の中心軸線はX軸と平行な軸線であって、上述の回転軸線Lに相当する。
【0052】
4つの転動軸部44は、スライダ本体41のZ軸正方向の端部におけるX軸正方向の側面および負方向の側面と、Z軸負方向の端部におけるX軸正方向の側面および負方向の側面と、にそれぞれ設けられている。
【0053】
第1保持部45および第2保持部51は、ワイヤ26を間に挟んで保持する部材である。第1保持部45および第2保持部51は、スライダ本体41のY軸正方向側の面に重ねて配置される。第1保持部45はY軸正方向側に配置され、第2保持部51はY軸負方向側に配置される。
【0054】
第1保持部45はZ軸方向に長い矩形板状の構成を有している。第1保持部45には、1つの挿通孔46と、2つの第1位置決め孔47と、2つの第1固定孔48と、が設けられている。
【0055】
挿通孔46は、ワイヤ26の端部が挿通される貫通孔であり、第1位置決め孔47および第1固定孔48と比較して孔の内径が小さな貫通孔である。本実施形態では、挿通孔46が第1保持部45におけるZ軸方向の中央領域に設けられている。
【0056】
第1位置決め孔47は、孔の内径が位置決め凸部43の外径よりも大きく形成され、位置決め凸部43が挿通される貫通孔である。2つの第1位置決め孔47は、第1保持部45における位置決め凸部43と対向する位置にそれぞれ形成されている。本実施形態では、2つの第1位置決め孔47が、挿通孔46に隣接する位置、言い換えると、Z軸正方向に隣接する位置、および、Z軸負方向に隣接する位置にそれぞれ設けられている。
【0057】
第1固定孔48は、孔の内径が固定部55の雄ネジ外径よりも大きく形成され、固定部55が挿通される貫通孔である。第1固定孔48は、雌ネジ孔42と対向する位置に形成されている。
【0058】
2つの第1固定孔48は、第1保持部45における2つの第1位置決め孔47を挟む位置にそれぞれ形成されている。本実施形態では、2つの第1固定孔48が、Z軸正方向側の第1位置決め孔47に対してZ軸正方向に隣接する位置、および、Z軸負方向側の第1位置決め孔47に対してZ軸負方向に隣接する位置にそれぞれ設けられている。
【0059】
第2保持部51はZ軸方向に長い矩形板状の構成を有している。第2保持部51は、第1保持部45と比較して、Z軸方向の寸法が長い構成を有している。第2保持部51には、2つの第2位置決め孔52と、2つの第2固定孔53と、2つのガイド孔54と、が設けられている。
【0060】
第2位置決め孔52は、孔の内径が位置決め凸部43の外径よりも大きく形成され、位置決め凸部43が挿通される貫通孔である。第2位置決め孔52における孔の内径は、第1位置決め孔47の内径と同じであってもよいし、異なっていてもよい。2つの第2位置決め孔52は、第2保持部51における位置決め凸部43と対向する位置にそれぞれ形成されている。
【0061】
第2固定孔53は、孔の内径が固定部55の雄ネジ外径よりも大きく形成され、固定部55が挿通される貫通孔である。第2固定孔53における孔の内径は、第1固定孔48の内径と同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0062】
2つの第2固定孔53は、雌ネジ孔42と対向する位置にそれぞれ形成されている。2つの第2固定孔53は、第2保持部51における2つの第2位置決め孔52を挟む位置にそれぞれ形成されている。
【0063】
本実施形態では、2つの第2固定孔53が、Z軸正方向側の第2位置決め孔52に対してZ軸正方向に隣接する位置、および、Z軸負方向側の第2位置決め孔52に対してZ軸負方向に隣接する位置にそれぞれ設けられている。
【0064】
ガイド孔54は、ワイヤ26が挿通される貫通孔であり、Z軸方向に延びた長孔である。2つのガイド孔54は、第2保持部51における2つの第2固定孔53を挟む位置にそれぞれ形成されている。
【0065】
本実施形態では、2つのガイド孔54が、Z軸正方向側の第2固定孔53に対してZ軸正方向に隣接する位置、および、Z軸負方向側の第2固定孔53に対してZ軸負方向に隣接する位置にそれぞれ設けられている。
【0066】
2つのガイド孔54が設けられる位置は、第1保持部45および第2保持部51がスライダ本体41に取り付けられた状態において、第2保持部51が第1保持部45よりもZ軸正方向に突出した領域、および、Z軸負方向に突出した領域に含まれる。
【0067】
固定部55は、第1保持部45および第2保持部51をスライダ本体41に配置された状態に固定する構成を有する。さらに、第1保持部45および第2保持部51の間にワイヤ26が挟まれた状態で固定する構成を有している。本実施形態では固定部55が雄ネジを有する構成である例について説明する。
【0068】
転動部61は、転動軸部44によって回転軸線Lまわりに回転可能に支持される部材である。転動部61は、転動軸部44が挿通される孔が中心に設けられた円筒形状、または、円柱形状に形成された構成を有する。
【0069】
4つの転動部61は、スライダ本体41のZ軸正方向の端部におけるX軸正方向の側面および負方向の側面と、Z軸負方向の端部におけるX軸正方向の側面および負方向の側面と、にそれぞれ配置されている。
【0070】
次に、上記の構成からなる術具1におけるスライダ40の移動について
図5を参照しながら説明する。
【0071】
スライダ40には、手術ロボットの多自由度マニピュレータからZ軸の正方向または負方向へ移動する駆動力が伝達される。駆動力が伝達されたスライダ40は従動溝21に沿って、筺体20に対して相対的に直線移動する(
図3参照。)。
【0072】
スライダ40の転動部61は、円周面が筺体20または挟持部28の面に接触している。スライダ40が筺体に対して直線移動すると、転動部61は筺体20または挟持部28の面に接触しながら回転する。
【0073】
転動部61が筺体20の面に接触するか、挟持部28の面に接触するかは、スライダ本体41のY軸方向の配置位置によって決まる。スライダ本体41のY軸方向の配置位置は、ワイヤ26の配置位置によって決まる。ワイヤ26の配置位置は、第1ガイドプーリ22、第2ガイドプーリ23、および、第3ガイドプーリ24のいずれによって導かれるかによって決まる。
【0074】
1つのスライダ40に配置された4つの転動部61の全てが筺体20の面と接触してもよいし、全てが挟持部28の面と接触してもよい。また、1つのスライダ40に配置された4つの転動部61の少なくとも1つが筺体20の面と接触し、残りが挟持部28の面と接触してもよい。
【0075】
上記の構成のスライダ40および術具1によれば、筺体20および挟持部28とスライダ本体41との間に転動部61が配置される。転動部61は筺体20、挟持部28およびスライダ本体41に対して回転可能である。スライダ本体41が筺体20および挟持部28に対して直線方向へ相対移動すると、転動部61は筺体20または挟持部28と接触しながら回転する。そのため、筺体20および挟持部28とスライダ本体41との間の摩擦力を低減しやすく、力覚推定精度の悪化を抑制しやすい。
【0076】
また、静止摩擦力を低減しやすいため、スライダ本体41に加えられる駆動力が小さくてもスライダ本体41を移動させやすくなる。つまり、駆動力を発生させるアクチュエータの位置が変わりやすく、より小さな駆動力で術具1を操作することができ、力覚推定の精度を確保しやすい。
【0077】
転動部61はスライダ本体41に回転軸線Lまわりに回転可能に支持される。さらに、転動部61は円筒形状または円柱形状の円周面が筺体20の面、または、挟持部28の面と接触しながら回転する。そのため、筺体20および挟持部28とスライダ本体41との間の摩擦力を低減しやすい。
【0078】
なお、上述の実施形態では転動部61が円筒形状または円柱形状を有する例に適用して説明したが、転動部61は球形状を有してもよい。スライダ本体41には、球形状の転動部61が回転可能に配置される構成が設けられている。
【0079】
例えば、構成としては、転動部61が配置される凹部や溝などを例示することができる。また、
図6に示すように、スライダ本体41に対する相対位置を一定に保ちつつ、球形状の転動部61を回転可能に保持する保持部144を構成として例示することができる。
【0080】
球形状の転動部61はスライダ本体41に回転可能に支持されるため、転動部61は球形状の表面が筺体20と接触しながら回転する。そのため、筺体20およびスライダ本体41の間の摩擦力を低減しやすい。
【0081】
また、上述の実施形態では転動部61がスライダ本体41に回転可能に支持される例に適用して説明したが、
図7に示すように、転動部61は筺体20に回転可能に支持されてもよい。
【0082】
なお、本開示の技術範囲は上記実施形態に限定されるものではなく、本開示の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。例えば、本開示を上記の実施形態に適用したものに限られることなく、これらの実施形態を適宜組み合わせた実施形態に適用してもよく、特に限定するものではない。