(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-04
(45)【発行日】2023-12-12
(54)【発明の名称】微小電流検出装置および微小電流検出方法
(51)【国際特許分類】
G01R 33/02 20060101AFI20231205BHJP
G01R 15/24 20060101ALI20231205BHJP
G01R 19/00 20060101ALI20231205BHJP
【FI】
G01R33/02 A
G01R15/24 D
G01R19/00 C
G01R19/00 V
(21)【出願番号】P 2018072103
(22)【出願日】2018-04-04
【審査請求日】2021-03-29
【審判番号】
【審判請求日】2023-01-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000107804
【氏名又は名称】スミダコーポレーション株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114971
【氏名又は名称】青木 修
(72)【発明者】
【氏名】芳井 義治
【合議体】
【審判長】濱野 隆
【審判官】九鬼 一慶
【審判官】濱本 禎広
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-3325(JP,A)
【文献】国際公開第2015/107907(WO,A1)
【文献】特開2017-162910(JP,A)
【文献】国際公開第2015/099147(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第107567590(CN,A)
【文献】国際公開第2015/136930(WO,A1)
【文献】特開2007-115512(JP,A)
【文献】池田新平、佐藤宣夫、木村建次郎,電流可視化装置による短絡箇所を有する模擬電池の観測,平成28年電気学会全国大会講演論文集,2016年,第1分冊,46頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 33/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
NVCを含有する磁気センサー及びベクトルポテンシャル装置を備え
、
前記ベクトルポテンシャル装置は、(a)導線をコイル状に巻いたチューブ状体をさらに巻回したコイル体であり、(b)前記コイル体の内部空間に配置される電池に対して、交流電場を与え、
前記磁気センサーは、前記電池の2つの電極間に発生している漏洩電流通路を通じて、前記交流電場によって発生する漏洩電流により生じる磁場を、前記NVCを使用して検出すること、
を特徴とする微小電流検出装置。
【請求項2】
前記NVCを含有する磁気センサーは、NVCを含有する基板を含むセンシング部、入
射装置、出射検出装置及び磁場発生装置を備えていること
を特徴とする請求項1記載の微小電流検出装置。
【請求項3】
導線をコイル状に巻いたチューブ状体をさらに巻回したコイル体であるベクトルポテンシャル装置によって、前記コイル体の内部空間に配置された電池に対して、交流電場を与え、
NVCを含有する磁気センサーによって、前記電池の2つの電極間に発生している漏洩電流通路を通じて、前記交流電場によって発生する漏洩電流により生じる磁場を、前記NVCを使用して検出し、
前記電池の2つの電極が、前記コイル体の中心軸に沿って配列されるように、前記電池が前記コイル体の内部空間に配置されること、
を特徴とする微小電流検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微小電流検出装置および微小電流検出方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、窒素格子欠陥(NVC:Nitrogen Vacancy Center)を含有する構造に関しては、磁気センサー分野における応用が、注目されている。
【0003】
通常、基底状態の電子が緑光で励起された後、基底状態に戻る際に赤光を発する。一方、例えば、ダイヤモンド構造中の窒素と格子欠陥(NVC:Nitrogen Vacancy Center)中の電子は、2.87GHz前後の高周波磁場の照射により、基底状態中の3つのサブレベルの中で一番低いレベル(ms=0)から、基底状態中のそれより高いエネルギー軌道のレベル(ms=±1)に遷移する。その状態の電子が緑光で励起されると、無輻射で基底状態中の3つのサブレベルの中で一番低いレベル(ms=0)に戻るため発光量が減少し、この光検出より、高周波磁場により磁気共鳴が起こったかどうかを知ることができる。
【0004】
ある測定系では、ダイヤモンドサンプルの下に、スプリットリング式の共振器、あるいは、コイルまたはワイヤ式アンテナが設置され、その共振器からサンプルに対して、2.87GHz前後のマイクロ波領域の高周波磁場が照射され、高周波磁場および励起光を掃引して、検出装置により電子からの赤色光の減少点を検出することにより、上述のダイヤモンド構造の近くにある細胞の情報を獲得している(例えば非特許文献1参照)。
【0005】
また、電池分野において、特に自動車や民生分野によく使用されているリチウム電池などに関しては、電極の剥離や、過酷の使用環境により、電極間の漏電や、短絡することが予想される。このような状況を常に監視するため、例えば、磁気センサーを利用して電池を破壊せず、漏洩電流を検出する装置が開発された。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【文献】Kento Sasaki, et. al., 「Broadband, large-area microwave antenna for optically-detected magnetic resonance of nitrogen-vacancy centers in diamode」REVIEW OF SCIENTIFIC INSTRUMENTS 87, 053904 (2016)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上述に利用された磁気センサーに関しては、感度の限界があるため、微小電流、例えばnA級の漏洩電流に関しては、検出できない問題点がある。
【0009】
また、NVCなどの磁気センサーの感度は、1/fノイズの影響により、より周波数領域で、高い感度を持つことが知られており、より効率的に測定感度を上げるためには、被測定場にACの変調をかけることが、有効である。
また、
図4に示すように、電極150に電源130から交流電流が供給されている場合、電極150の上方に配置されている磁気検出素子120により、電極150間の漏洩電流が検出できるが、
図5のシミュレーションの結果から、この交流電流により電極150間に大きく分布した磁場が発生してしまい、結局漏洩電流による磁場の変動がはっきり見えなくなることが分かった。言い換えれば、nA級の漏洩電流に関しては、従来の検出手法が、感度の向上の面においては限界がある。
【0010】
本発明は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、窒素格子欠陥を有する構造を用い
て、検出感度を高めることができる微小電流検出装置および微小電流検出方法を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る微小電流検出装置は、NVCを含有する磁気センサー及びベクトルポテン
シャル装置を備える。そのベクトルポテンシャル装置は、(a)導線をコイル状に巻いたチューブ状体をさらに巻回したコイル体であり、(b)そのコイル体の内部空間に配置される電池に対して、交流電場を与え、その磁気センサーは、その電池の2つの電極間に発生している漏洩電流通路を通じて、その交流電場によって発生する漏洩電流により生じる磁場を、NVCを使用して検出する。また、本発明に係る微小電流検出方法は、(a)導線をコイル状に巻いたチューブ状体をさらに巻回したコイル体であるベクトルポテンシャル装置によって、前記コイル体の内部空間に配置された電池に対して、交流電場を与え、(b)NVCを含有する磁気センサーによって、その電池の2つの電極間に発生している漏洩電流通路を通じて、その交流電場によって発生する漏洩電流により生じる磁場を、NVCを使用して検出する。その際、その電池の2つの電極が、そのコイル体の中心軸に沿って配列されるように、電池がコイル体の内部空間に配置される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、微小の漏洩電流も検出でき、磁気センサーとしての感度を高めることができる微小電流検出装置が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は本発明の実施の形態1に係る微小電流検出装置を示す図である。
【
図2】
図2は本発明の実施の形態1に係るNVCを含有する磁気センサーを示す模式図である。
【
図3】
図3は本発明の実施の形態1に係る微小電流検出装置の
図1におけるA-A´断面を示す図である。
【
図4】
図4は従来の漏洩電流検出装置を示す図である。
【
図5】
図5は従来の検出方法による電極間の磁場のシミュレーション図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
【0015】
実施の形態1.
【0016】
図1は、本発明の実施形態1に係る微小電流検出装置10を示す図である。微小電流検出装置10は、NVCを含有する磁気センサー20およびベクトルポテンシャル装置70を備える。この微小電流装置10のNVCを含有する磁気センサー20は、検査対象である電池40の電極50の上方において、電極50に平行しながら、電池40と接触せず設置されている。
【0017】
また、
図2は本発明の実施の形態1に係るNVCを含有する磁気センサーを示す模式図である。
図2に示すように、NVCを含有する磁気センサー20は、NVCを含有する基板を含むセンシング部21、入射装置22、出射検出装置23および磁場発生装置24を備えている。
【0018】
このNVCを含有する磁気センサー20の動作原理について、説明する。
【0019】
センシング部21のダイヤモンド基板中のNVC構造において、捕獲された電子が磁気量子数ms=-1、0、+1のスピン3重項状態を形成する。本来、この電子は、入射装置22から発射された緑のレーザ光でms=0の基底状態から励起され、高いエネルギー準位に遷移するが、その後赤い蛍光を発しながら、ms=0基底状態に戻る。しかし、磁場発生装置24から発する交流磁場Bにより、このような電子がms=+1または-1の基底状態へ遷移し、そこからレーザ光で励起した場合、一部の電子は光を発さず、基底状態に戻る現象もある。即ち、出射検出装置23を用いて、出射光を検出する際、赤色光輝度の低下点を検出することができる。この現象を利用して、磁場強度を測定することができる。即ち、後述漏洩電流の磁場からの影響を受け、出射光の輝度がさらに変わるので、その変化が出射検出装置23により検出され、磁場強度の変化がわかる。
【0020】
また、NVCを含有する磁気センサー20の感度を高めるためには、被測定対象磁場が交流成分を持つと感度を高められる。被測定対象に交流電圧変化を印加することで、漏洩電流は、交流電圧により変化し、それにより発生する磁場も交流成分をもち、より高精度に検出可能になる。
【0021】
しかし、単純に電極50の間にAC電流を印加することは、従来技術のような交流磁場が発生してしまうので、その課題を解決するため、後述のベクトルポテンシャル装置70が用いられている。
【0022】
ベクトルポテンシャル装置70は、例えば導線をコイル状に巻いて長いチューブ状体71が形成されてから、このチューブ状体71を用いて更に巻回された大きなコイル体72である。即ちベクトルポテンシャル装置70が閉路的なものである。また、ベクトルポテンシャル装置70は、検査対象である電池40を囲むような形状に形成されている。また、チューブ状体71の直径が小さいため、
図1においては、実線を使ってチューブ状体71が表現されている。言い換えれば、電池40の電極50がベクトルポテンシャル装置70のコイル体の開口面と平行になるように、設置されている。
【0023】
図3は本発明の実施の形態1に係る微小電流検出装置の
図1におけるA-A´断面を示す図である。
図3においては、チューブ状体71を表す実線は導線である。また、導線からなる複数の円形状は、チューブ状体71の断面を表す。
図3に示すように、このようなベクトルポテンシャル装置70中に交流電流を流すと、その大きなコイル体72の巻回構造の内部空間においては、磁場がなく、交流電場のみ存在する状態を作りだすことができる。このため、
図3に示すように、電池40の電極50の間に、均一の交流電場(交流電圧)を作りだすことができる。
【0024】
このような構成により、電池40の電極50の間に、例えば罅や電極の剥離などにより微小電流通路60が現れたとしても、その微小電流通路60を通して微小の漏洩電流が生じられ、その微小電流からなる磁場に、ベクトルポテンシャル装置70から交流成分が与えられるため、その漏洩電流が容易にNVCを含有する磁気センサー20により検出できる。
【0025】
また、ベクトルポテンシャル装置70において、そのチューブ状体71からなるコイル体72の直径Dは、電池40、特に電極50より大きいほうが好ましい。
【0026】
また、電池40の面積が大きい場合、NVCを含有する磁気センサー20を走査しながら、漏洩電流を検査することも可能である。
【0027】
また、
図2においては、磁場発生装置24と、入射装置22、出射検出装置23とは、NVCを含有する基板を含むセンシング部21の異なる側に配置されていることが示しているが、同側に配置することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明は、例えば、電池などに対して、微小電流を検出する装置に適用可能である。
【符号の説明】
【0029】
10 微小電流検出装置
20 NVCを含有する磁気センサー
21 NVCを含有する基板を含むセンシング部
22 入射装置
23 出射検出装置
40 電池
50、150 電極
60、160 微小電流通路
70 ベクトルポテンシャル装置
71 チューブ状体
72 コイル体
120 磁気検出素子
130 電源