(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-04
(45)【発行日】2023-12-12
(54)【発明の名称】合成樹脂レザー
(51)【国際特許分類】
D06N 3/00 20060101AFI20231205BHJP
A47C 27/15 20060101ALI20231205BHJP
A47C 31/02 20060101ALI20231205BHJP
B60N 2/90 20180101ALI20231205BHJP
【FI】
D06N3/00
A47C27/15 A
A47C31/02 J
B60N2/90
(21)【出願番号】P 2019104869
(22)【出願日】2019-06-04
【審査請求日】2020-06-05
【審判番号】
【審判請求日】2022-04-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000000550
【氏名又は名称】オカモト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000626
【氏名又は名称】弁理士法人英知国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】上村 知行
(72)【発明者】
【氏名】中屋 真
(72)【発明者】
【氏名】羽鳥 尊成
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 隆司
【合議体】
【審判長】久保 克彦
【審判官】西本 浩司
【審判官】藤原 直欣
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/004180(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/001732(WO,A1)
【文献】特開2010-111989(JP,A)
【文献】国際公開第2006/067848(WO,A1)
【文献】特開2013-11034(JP,A)
【文献】特開2006-188773(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06N 1/00 - 7/06
A47C 27/00 - 27/22
A47C 31/00 - 31/12
B60N 2/00 - 2/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
座席又は椅子の表皮材として用いられる合成樹脂レザーであって、
ニット生地からなる基布層と、可撓性を有して前記基布層の片面に接合される合成樹脂層と、を備え、
前記ニット生地は
、異なる材質又は同じ材質の前記マルチフィラメント糸のうち、複数本の前記マルチフィラメント糸
であって複数本合計の太さが111~444dtexであるものと
、単数本の前記マルチフィラメント糸
であって太さが111~444dtexであるものが編まれ、かつ、ヒートセットにより寸法が安定化されたものであり、前記ニット生地の表面側が前記合成樹脂層の裏面側に接着されることを特徴とする合成樹脂レザー。
【請求項2】
座席又は椅子の表皮材として用いられる合成樹脂レザーであって、
ニット生地からなる基布層と、可撓性を有して前記基布層の片面に接合される合成樹脂層と、を備え、
前記ニット生地は、太さが111~444dtexのマルチフィラメント糸を用い、異なる材質であって同じ太さの前記マルチフィラメント糸同士が編まれ、かつ、ヒートセットにより寸法が安定化されたものであり、前記ニット生地の表面側が前記合成樹脂層の裏面側に接着されることを特徴とする合成樹脂レザー。
【請求項3】
前記合成樹脂層がポリウレタン系熱可塑性エラストマーを主成分とし、前記合成樹脂層の厚みが前記ニット生地の厚みの0.25倍以上に設定されることを特徴とする請求項1又は2記載の合成樹脂レザー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車などの車両、航空機、船舶の座席やその他の椅子などの表皮材として用いられる合成樹脂レザーに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の合成樹脂レザーとして、基布表面上に、ウレタン系接着層及びポリウレタン表皮層を順次積層した合成皮革であって、基布が表面に起毛を有するメリヤスであり、起毛繊維の長さの20~99%が接着層中に存在する合成皮革がある(例えば、特許文献1参照)。
この基布を構成するメリヤスは、メリヤスのコース方向にヨコ糸としてスパン糸を通し、特殊編を施したメリヤスであり、基布の縦及び横の伸び率が60~100%である。
この特殊編メリヤスは、例えば、両面編みメリヤスを基本として、適切な間隔でコース方向にスパン糸をクロスミスインターロックにて編み込む等の方法で得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで昨今、車両の座席を製造する工程の変化或いは乗り心地をよくする上で座席の形状や硬さが変化している。この変化に伴い、座席に使用される表皮材においてもシワに対して、タフネスであることが要件となっている。
しかし乍ら、特許文献1では、基布となるメリヤスにスパン糸が用いられ、スパン糸は短繊維であるために複数本を並べ束ねて長い糸にしても、繊維組織となる短繊維同士が位置ズレを起こし易く、基布(生地)としての張り感が不足する。
これにより、自動車などの座席やその他の椅子の表皮材として用いた場合には、使用に伴いポリウレタン表皮層の表面にシワが生じると、シワが残り続けて回復せず、耐シワ性に劣るという問題があった。
このような状況下で、座席の表皮材としての使用時にシワ耐久性に優れた合成皮革(合成樹脂レザー)が要望されている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
このような課題を達成するために、本発明に係る合成樹脂レザーは、以下の独立請求項に係る構成を少なくとも具備するものである。
[請求項1] 座席又は椅子の表皮材として用いられる合成樹脂レザーであって、
ニット生地からなる基布層と、可撓性を有して前記基布層の片面に接合される合成樹脂層と、を備え、
前記ニット生地は、太さが111~444dtexのフィラメント糸を用い、異なる材質の前記フィラメント糸又は同じ材質の前記フィラメント糸のうち、複数本の前記フィラメント糸と単数本の前記フィラメント糸が編まれてヒートセットされたものであり、前記ニット生地の表面側が前記合成樹脂層の裏面側に接着されることを特徴とする合成樹脂レザー。
[請求項2] 座席又は椅子の表皮材として用いられる合成樹脂レザーであって、
ニット生地からなる基布層と、可撓性を有して前記基布層の片面に接合される合成樹脂層と、を備え、
前記ニット生地は、太さが111~444dtexのフィラメント糸を用い、異なる材質の前記フィラメント糸又は同じ材質の前記フィラメント糸のうち、同じ太さの前記フィラメント糸同士が編まれてヒートセットされたものであり、前記ニット生地の表面側が前記合成樹脂層の裏面側に接着されることを特徴とする合成樹脂レザー。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】本発明の実施形態に係る合成樹脂レザーの全体構成を示す説明図であり、(a)が要部を部分拡大した縦断正面図、(b)がニット生地の編み方の一例を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
本発明の実施形態に係る合成樹脂レザーAは、自動車などの車両、航空機、船舶の座席やその他の椅子などの表皮材として用いられる合成皮革であり、
図1(a)(b)に示すように、基布層1の片面に合成樹脂層2が貼り付けられる。
詳しく説明すると、本発明の実施形態に係る合成樹脂レザーAは、ニット生地11からなる基布層1と、可撓性を有して基布層1の片面に接合される合成樹脂層2と、を主要な構成要素として備えている。
さらに、基布層1と合成樹脂層2の間に積層される接着層3を備えることが好ましい。
【0008】
[基布層について]
基布層1は、
図1(a)(b)に示されるように、フィラメント糸1fのみを編み込んだニット生地11からなり、ニット生地11の表面側11aが合成樹脂層2の裏面2a側に接着される。
フィラメント糸1fは、スパン糸(短繊維)よりも長く連続した長繊維であり、特にスパン糸よりも太くて強度や弾性に優れた糸を用いる。フィラメント糸1fとしては、単糸(単繊維)が一本のモノフィラメント,複数本の単糸(単繊維)を撚り合わせたマルチフィラメント,繊維の段階で複数の原料を混ぜて紡績した混紡糸などが用いられる。
フィラメント糸1fの材質としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、(ビスコース)レーヨンなどのセルロース系繊維、ウレタン、アクリルなどの単独、又は、これらセルロース系繊維とPET、ウレタン、アクリルなどとの混紡が用いられる。
フィラメント糸1fの太さ(繊度)は、111~444dtex(又はT)、詳しくは150~400dtex、更に詳しくは160~350dtexに設定することが好ましい。
【0009】
ニット生地11は、フィラメント糸1fとして材質が異なる糸を交編するか、又は材質が同じ糸を編むことにより、ループが連続的に作られて立体的な編地を形成する編み物である。
フィラメント糸1fの編み方としては、平編み(天竺編み)、両面編み(スムース編み)、リブ編みなどのよこ(緯)編み、たて(経)編みなどが挙げられる。
ニット生地11の編み密度は、W(ウェール)/C(コース):30/25以上、伸びは経方向/緯方向:80/80以上とし、厚みは0.7~1.5mmに設定することが好ましい。
編み方の具体例として
図1(b)に示される場合には、フィラメント糸1fとして材質が異なる第一の糸1f′と第二の糸1f″により平編みしている。
また、その他の例として図示しないが、フィラメント糸1fの編み方を平編み以外に変更することも可能である。
さらに、基布層1のニット生地11は、熱処理により形態や寸法安定性が保つようにヒートセットを行うことが好ましい。ヒートセットによる加熱温度は、140~200℃、詳しくは170~190℃に設定することが好ましい。
【0010】
[合成樹脂層について]
合成樹脂層2は、例えば熱可塑性ポリウレタンや、それに類似する熱可塑性樹脂を主成分とする層によって形成される。熱可塑性ポリウレタンは、ジイソシアネート化合物と、ヒドロキシル基を2個以上有する化合物とを反応させて得ることができる。特に熱可塑性ポリウレタンの中でも、長鎖ポリオール、ジイソシアネート、鎖伸長剤から構成された、いわゆるソフトセグメントとハードセグメントからなるポリウレタン系熱可塑性エラストマー(TPU)を用いることが好ましい。熱可塑性ポリウレタンの硬度としては、ショアA硬度で70~95の樹脂硬度、詳しくは80~90の樹脂硬度を有するものが好ましい。なお、ショアA硬度とは、ASTM D 2240で測定した値(測定温度23℃)である。
合成樹脂層2の構成材料が混合樹脂成分の場合には、熱可塑性ポリウレタンの成分が50%以上含まれているか、或いは、複数種類の樹脂成分を含む場合には、その中で最も占有率が高い成分が熱可塑性ポリウレタンになっていることが好ましい。
基本的に合成樹脂層2は、熱可塑性ポリウレタンと他の樹脂成分との混合樹脂によって、高い柔軟性や屈曲性と良好な加工性や強度を備えているものが好ましい。
【0011】
合成樹脂層2の表面2bは、
図1(a)に示されるように、表面処理層2sを有してもよい。
表面処理層2sは、シリコーン共重合したポリカーボネート系ポリウレタンをイソシアネート系架橋剤で架橋した油性表面処理剤の塗布によって形成することができる。表面処理層2sは、有機溶剤系の表面処理剤の塗布によって形成され、有機溶剤によって浸透した合成樹脂層2の表面2bに高い密着性で形成されている。
合成樹脂層2の表面2bや表面処理層2sには、必要に応じて絞模様(シワ模様)など凹凸模様2cを形成することも可能である。
【0012】
そして、合成樹脂層2の主成分となる熱可塑性ポリウレタンを合成するためのジイソシアネート化合物としては、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ナフタリンジイソシアネート、トリジンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、水添ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソイアネートなどが用いられる。
【0013】
また、ヒドロキシル基を2個以上有する化合物としては、アジピン酸、フタル酸等の二塩基酸とエチレングリコール、1,4-ブタンジオール等のグリコールとの縮合反応物であるポリエステル系ポリオール;エチレンカーボネート等のカーボネートとグリコールとの反応物であるポリカーボネート系ポリオール;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコール等のポリエーテル系ポリオール等が用いられる。
本発明の実施形態に係る合成樹脂レザーAにおいては、その物性からポリエーテル系ポリオールを用いるのが好ましい。なお、ポリエーテル系ポリオールを原料とする熱可塑性ポリウレタンは、耐老化性、カレンダー加工性が良いので、この観点からも好ましい。
【0014】
鎖伸長剤としては、エチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-プロピレングリコール、ブタン1,2ジオール、ブタン1,3ジオール、ブタン1,4ジオール、ブタン2,3ジオール、ヘキサンジオールなどの低分子多価アルコール、或いはジアミン、水が用いられる。
【0015】
前述したように合成樹脂層2を熱可塑性ポリウレタンと他の樹脂成分との混合樹脂で形成する場合は、混合する一つの成分としてアクリル系軟質樹脂を選択することができる。アクリル系軟質樹脂は、常温で軟質ポリ塩化ビニルの如く柔軟性を示す樹脂である。このアクリル系軟質樹脂には、硬度がショアAで50~80のもの、特に55~65のものが好ましく用いられる。このアクリル系軟質樹脂は、多層構造重合体、すなわち2種以上のアクリル系重合体がコア-シェル型の多層構造を形成している粒子状の重合体が好ましい。これらのアクリル系軟質樹脂は、常温で良好な柔軟性を示し、屈曲耐久性を有し、耐候性に優れている。
【0016】
合成樹脂層2の成分として用いるアクリル系軟質樹脂の一例を示す。炭素数1~12のアルキル基を持つ少なくとも一種のアクリル酸アルキルエステル30~99.9重量%、炭素数1~8のアルキル基を持つ少なくとも一種のメタクリル酸アルキルエステル0~70重量%、共重合可能な不飽和単量体0~30重量%、多官能架橋性単量体及び/又は多官能性グラフト単量体0.1~10重量%からなる単量体混合物を重合してなるTgが30℃以下である少なくとも1層の重合体層[A]10~90重量部と、炭素数1~12のアルキル基を持つ少なくとも一種のアクリル酸アルキルエステル30~99重量%、炭素数1~8のアルキル基を持つ少なくとも一種のメタクリル酸アルキルエステル1~70重量%、共重合可能な不飽和単量体0~30重量%からなる単量体混合物を重合してなるTgが-20~50℃である少なくとも1層の重合体層[B]10~90重量部との組合せからなる多層構造重合体であり、且つ最外層が重合体層[B]であるアクリル系軟質多層構造樹脂である。
【0017】
アクリル系軟質樹脂の他の例を示す。炭素数1~8のアルキル基を持つアクリル酸アルキルエステル60~99.5重量%、共重合可能ビニル基を1個有する単官能性単量体0~39.5重量%、及びビニル基又はビニリデン基を少なくとも2個有する多官能性単量体0.5~5重量%を重合して得られるゴム層30~80重量部と、メタアクリル酸メチル40~100重量%、炭素数1~8のアルキル基を持つアクリル酸アルキルエステル0~60重量%、及び共重合可能なビニル基又はビニリデン基を有する単量体0~20重量%を重合して得られる硬質樹脂層20~70重量部とから構成され、且つ最外層が硬質樹脂層であるアクリル系軟質多層構造樹脂である。
【0018】
さらに、アクリル系軟質樹脂の他の例を示す。(A)メチルメタクリレート80~98.99重量%、炭素数1~8のアルキル基を持つアクリル酸アルキルエステル1~20重量%、多官能性グラフト剤0.01~1重量%及び多官能性架橋剤0~0.5重量%からなる単量体混合物を重合してなる最内層の硬質重合体層5~30重量部;(B)炭素数1~8のアルキル基を持つアクリル酸アルキルエステル70~99.5重量%、メチルメタクリレート0~30重量%、多官能性グラフト剤0.5~5重量%及び多官能性架橋剤0~5重量%からなる単量体混合物を重合してなる中間層の硬質重合体層20~45重量部;(C)メチルメタクリレート90~99重量%及び炭素数1~8のアルキル基を持つアクリル酸アルキルエステル1~10重量%からなる単量体混合物を重合してなる最外層の硬質重合体層50~75重量部からなり、平均粒度が0.01~0.3μmのアクリル系軟質多層構造樹脂である。
【0019】
合成樹脂層2を形成するに際して、熱可塑性ポリウレタンとアクリル系軟質樹脂との配合割合は、熱可塑性ポリウレタン70~95重量%、アクリル系軟質樹脂5~30重量%、好ましくは熱可塑性ポリウレタン80~90重量%、アクリル系軟質樹脂10~20重量%である。
【0020】
合成樹脂層2に可塑剤を配合すると、製品の柔軟性、手触りを改善できる。また、可塑剤の配合は混合樹脂のカレンダー加工の加工温度を下げることができ、そのため熱可塑性ポリウレタンの加工時の分解を抑制できる。可塑剤としては、フタル酸ジ2-エチルヘキシル、フタル酸イソブチル、フタル酸ジイソデシルなどのフタル酸エステル;トリメリット酸トリ-2エチルヘキシルなどのトリメリット酸エステル;ジ-2エチルヘキシルアジペート、ジ-イソノニルアジペート、ジ-2エチルヘキシルセバケートなどの脂肪族二塩基酸エステル;エポキシ化大豆油、エポキシステアリン酸ブチルなどのエポキシ系可塑剤、リン酸トリクレジルなどのリン酸エステル系、アセチルクエン酸トリブチルなどのクエン酸エステルなどが用いられる。このうち、可塑化効率が高く、且つブリード等の問題が少ないという観点から、特に、フタル酸エステル、トリメリット酸エステルなどの芳香族カルボン酸エステルが好ましく用いられる。可塑剤の配合量は、混合樹脂100重量部に対し0~50重量部、好ましくは3~20重量部である。
【0021】
合成樹脂層2には、更に必要に応じて、通常合成樹脂の配合に使用される滑剤、紫外線吸収剤、光安定剤、顔料、抗菌剤などが配合されていてもよい。滑剤としてはステアリン酸のカルシウム、マグネシウム、亜鉛、バリウムなどの脂肪族金属塩、ポリエチレンワックス、ステアリン酸、アルキレンビス脂肪酸アミドなどが用いられる。紫外線吸収剤としては2-(2'-ヒドロキシ-5'-メチルフェニル)ベンゾトリアゾールなどのベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤等が用いられる。光安定剤としてはビス-(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セバケートなどのヒンダードアミン系光安定剤等が用いられる。抗菌剤としては銀系無機抗菌剤などが用いられる。
【0022】
[接着層について]
基布層1のニット生地11と合成樹脂層2は、接着層3を介して貼り付けられる。
接着層3を形成する接着剤としては、ポリカーボネートウレタン(PCU)や二液性ポリウレタンなどのウレタン系接着剤、エチレン-酢酸ビニル共重合体系エマルジョン、ポリ塩化ビニルペーストなどが用いられる。この接着剤は、基布層1の表面側11aに塗布しても、合成樹脂層2の裏面2a側に塗布してもよい。この中でも水性のポリカーボネートウレタンを用いることが好ましい。
接着層3を介して一体化された基布層1及び合成樹脂層2からなる合成樹脂レザーAは、その永久歪を0.5~3.0%に設定することが好ましい。
【0023】
[合成樹脂層の厚みについて]
合成樹脂層2は、その主成分するTPUの配合比率が高く、且つ基布層1(ニット生地11)の厚みに対する合成樹脂層2の厚みが相対的に厚くなるほど、合成樹脂レザーAの永久歪が減少傾向にあることが実験により判った。
詳しく説明すると、ニット生地11の厚みが一定な状態で、合成樹脂層2におけるTPUの配合比率が85%で厚みが0.35mmの場合は、TPUの配合比率が75%で厚みが0.25mmの場合よりも、50%延伸時の永久歪(ヒステリシス損失)が約60%まで減少した。
この傾向は、自動車などの座席の表皮材としての実使用を仮定した後述する「耐シワ性」の試験においても同様であることが確認された。「耐シワ性」の指標の一つとして、繰返し伸びに対する残留歪(乗降耐久をイメージ)を評価するため、ヒステリシス損失測定を参考にした。繰り返し50%伸び測定時における残留歪を、単位エネルギー当りの歪量(残留歪/印加エネルギー)という見方で比較を行った。
このような実験結果から合成樹脂層2の厚みは、ニット生地11の厚みの0.25倍以上に設定すれば、永久歪が許容範囲内に抑えられることを算出した。
その一例として、ニット生地11の厚みが0.7~1.5mmであり、合成樹脂層2におけるTPUの配合比率が85%の場合には、合成樹脂層2を0.20~0.40mm又はそれ以上に設定することが好ましい。
【0024】
[製造方法]
次に本発明の実施形態に係る合成樹脂レザーAの製造方法を説明すると、熱可塑性ポリウレタンを主成分とする合成樹脂層2を成形する皮膜成形工程と、合成樹脂層2の裏面2a側に接着層3で基布層1を接着する基布接着工程と、含む。
皮膜成形工程は、カレンダー成形、押し出し成形などによって、例えば熱可塑性ポリウレタンを主成分とする合成樹脂層2を成形する。
基布接着工程は、合成樹脂層2の裏面2a側又は基布層1のニット生地11の表面側11aのいずれか一方若しくは両方に接着剤を塗布して、合成樹脂層2と基布層1のニット生地11が接着層3を介して接着される。
【0025】
このような本発明の実施形態に係る合成樹脂レザーAによると、基布層1となるニット生地11においてその編み糸のすべてを、太さが111~444dtexのフィラメント糸(長繊維)1fとすることにより、ニット生地11の密度が高くなると同時に張りが出る。
このため、可撓性を有する合成樹脂層2の裏面2a側にニット生地11の表面側11aが接着された貼り付け状態で、合成樹脂層2の可撓性を生かしながら、合成樹脂層2の表面2bに対して折れシワや座屈シワなどが付き難くなると同時に、折れシワや座屈シワなどの回復性も優れる。
したがって、着席時に合成樹脂層2が有する可撓性を損なうことなくシワ耐久性に優れ且つ風合い的にも良好な合成樹脂レザーAを提供することができる。
その結果、基布となるメリヤスにスパン糸が用いられる従来のものに比べ、自動車などの座席やその他の椅子の表皮材として用いた場合に座り心地がよくなって有用であり、長期に亘り高い商品価値を維持できて利便性に優れる。
【0026】
特に、基布層1のニット生地11をヒートセットすることが好ましい。
この場合には、ヒートセットを行うことで、ニット生地11の張り感が増して形状保持機能が寄与される。
したがって、シワ耐久性をより向上させることができる。
その結果、自動車などの座席やその他の椅子の表皮材として用いた場合に、より長期に亘って高い商品価値を維持できる。
【0027】
さらに、合成樹脂層2がポリウレタン系熱可塑性エラストマー(TPU)を主成分とし、合成樹脂層2の厚みをニット生地11の厚みの0.25倍以上に設定することが好ましい。
この場合には、TPUを主成分とした合成樹脂層2の厚みがニット生地11の厚みに対して厚くなることにより、永久歪みが少なくなって、シワが付き難くなると同時に、シワの回復性も優れる。
したがって、合成樹脂層2の可撓性を損なうことなくシワ耐久性を更に向上させることができる。
その結果、自動車などの座席やその他の椅子の表皮材として用いた場合に、更に長期に亘って高い商品価値を維持できる。
【実施例】
【0028】
以下に、本発明の実施例を説明する。
[実施例1~4及び比較例1~4]
表1に示す実施例1~4と表2に示す比較例1~4は、それらに記載された基布層(ニット生地)と合成樹脂層を用意し、基布層と合成樹脂層が接着層を介して貼り合わされたものである。そして、同じサイズの評価試料をそれぞれ作製した。
実施例1~4及び比較例1~4では、ニット生地の編み方が両面編み(リバーシブル編み)で、その厚みを1.1mmにしており、共通の構成にしている。なお、編み密度はW/C:36/29、伸びが経方向/緯方向:85/180に設定されている。実施例1~4及び比較例1,2のニット生地では、ヒートセットを行っており、共通の構成にしている。
実施例1~4及び比較例1~4の合成樹脂層は、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー(TPU)が85重量%とアクリル系軟質樹脂15重量%との混合樹脂で、その厚みを0.35mm、硬度を85Aにしており、共通の構成にしている。
実施例1~4及び比較例1~4の接着層3は、ポリカーボネートウレタン(PCU)からなり、その厚みを0.03mmにしており、共通の構成にしている。
【0029】
実施例1では、ニット生地のフィラメント糸のいずれか一方に、第一の糸としてポリエチレンテレフタレート(PET)製で太さ(繊度)が333dtexのフィラメント糸を用い、他方に第二の糸としてレーヨン製で太さが167dtexのフィラメント糸を用いている。333dtexのフィラメント糸は、167dtexのフィラメント糸を2本で作られている。
実施例2では、第一の糸としてPET製で太さが167dtexのフィラメント糸を用い、第二の糸としてレーヨン製で太さが167dtexのフィラメント糸を用いている。
実施例3では、第一の糸及び第二の糸としてPET製で太さが444dtexのフィラメント糸を用いている。
実施例4では、第一の糸及び第二の糸としてPET製で太さが111dtexのフィラメント糸を用いている。
【0030】
一方、比較例1では、第一の糸及び第二の糸としてPET製で太さが500dtexのフィラメント糸を用いたところが異なっている。500dtexのフィラメント糸は、167dtexのフィラメント糸を3本で作られている。
比較例2では、第一の糸及び第二の糸としてPET製で太さが84dtexのフィラメント糸を用いたところが異なっている。
比較例3では、実施例1と同様に第一の糸としてPET製で太さが333dtexのフィラメント糸を用い、第二の糸としてレーヨン製で太さが167dtexのフィラメント糸を用いたが、ヒートセットを行っていないところが異なっている。
比較例4では、第一の糸としてPET製で太さが167dtexのフィラメント糸を用い、第二の糸としてレーヨン製で太さが295dtexのスパン糸を用いたところが異なっている。さらにヒートセットも行っていない。
【0031】
[評価基準]
表1及び表2に示される評価結果(耐シワ性、風合い、耐摩耗性、耐寒屈曲性、柔軟性、耐薬品性、総合評価)は、以下の指標に基づくものである。
「耐シワ性」は、2009年度版のJIS L1059-2(繊維製品の防しわ性試験方法-第2部:しわ付け後の外観評価(リンクル法)に準じ、シワ付けされた後の生地の外観を目視判定により、シワの付き難さとシワの回復性を評価する測定方法である。詳しく説明すると、しわ付け装置(リンクル形しわ試験機)で、実施例1~4及び比較例1~4の各試験片を捻りながら圧縮荷重がかけられた後に、立体レプリカと比較して五段階で判定した。
「耐シワ性」の評価は、JIS L1059-2の9項に準拠した評価基準(5級:最も滑らかな外観~1級:最もシワの多い外観)で評価した。
「風合い」は、各試験片を自動車の座席の表皮材として用い、その使用感を軟質ポリ塩化ビニルレザー(合成樹脂層がポリ塩化ビニル100重量部に可塑剤フタル酸ジエチルヘキシル100重量部配合したポリ塩化ビニル組成物であるレザー)と対比する官能検査により、二段階で判定した。
この「風合い」の評価結果において、○:軟質ポリ塩化ビニルレザーと同等の風合いを有する、×:軟質ポリ塩化ビニルレザーよりやや風合いに劣る、のように評価した。
「耐摩耗性」は、JIS L0823(染色堅牢度試験用摩擦試験機)に規定する学振形摩擦試験機を用い、荷重1kgでJIS L3102の6号綿帆布による摩擦試験を実施し、30000回往復での破れの有無を確認するための試験である。その試験結果を二段階で評価した。なお、幅10mmで3mmのウレタンフォームを貼り付けたものを各試験片とした。
この「耐摩耗性」の評価結果において、○:合成樹脂層の破れがない、×:合成樹脂層の破れがある、のように評価した。
「耐寒屈曲性」は、デマッチャ屈曲試験機を使用し、JIS K6260に準拠した、一定のストロークで試験片(70mm×40mm)に繰り返し屈曲の負荷を与え、-30℃×30000回の繰り返しで割れの有無を確認するための試験である。その試験結果を二段階で評価した。
この「耐寒屈曲性」の評価結果において、○:割れ無し、×:割れ有り、のように評価した。
「柔軟性」は、各試験片を手で触り、その感触を軟質ポリ塩化ビニルレザーと対比する官能検査により、二段階で判定した。
この「柔軟性」の評価結果において、○:同等の感触を有する、×:感触が硬く、軟質ポリ塩化ビニルレザーの代替え不可、のように評価した。
「耐薬品性」は、任意の大きさに採取した各試験片上にろ紙を4枚重ね、オレイン酸を1.2ml滴下し、これをアルミホイルで密閉し、80℃環境下で24時間放置後に取り出し、表面を叩くように拭き取り、各試験片の浮き、破れ、処理層の剥がれを目視にて観察し、二段階で判定した。
この「耐薬品性」の評価結果において、○:良好、×:不良、のように評価した。
「総合評価」とは、前述した「耐シワ性」「風合い」「耐摩耗性」「耐寒屈曲性」「柔軟性」「耐薬品性」の評価結果に基づいて総合的に三段階で評価した。
この「総合評価」の評価結果において、◎:耐シワ性が4級以上で風合いを含めて全体的に良好なもの、○:耐シワ性が4級以上で風合いを含めて全体的にやや良好なもの、×:耐シワ性が4級未満のもの、のように評価した。
【0032】
【0033】
【0034】
[評価結果]
実施例1~4と比較例1~4を比較すると、実施例1~4は、耐シワ性、風合い、耐摩耗性、耐寒屈曲性、柔軟性、耐薬品性、総合評価の全てにおいて良好な評価結果が得られている。
この評価結果から明らかなように、実施例1~4は、座席や椅子の着席時に合成樹脂層が有する可撓性を損なうことなくシワ耐久性に優れ且つ風合い的にも良好な合成樹脂レザーであることが実証できた。
【0035】
しかし、これに対して、比較例1~4は、耐シワ性や耐寒屈曲性で不良な評価結果になっている。
詳しく説明すると、比較例1は、フィラメント糸が必要以上に太いため、感触が硬く耐寒屈曲性で不良な評価結果になった。
比較例2は、フィラメント糸が必要以上に細いため、ニット生地の張り感が不足して耐シワ性で不良な評価結果になった。
比較例3は、適度な太さのフィラメント糸であっても、ヒートセット無しのためニット生地の張り感が不足して耐シワ性で不良な評価結果になった。
比較例4は、フィラメント糸とスパン糸の組み合わせのため、ニット生地の張り感が不足して耐シワ性で不良な評価結果になった。なお、フィラメント糸とスパン糸の組み合わせでヒートセットしたものにおいても、同様な試験を行ったが、ニット生地の張り感が不足して耐シワ性で不良な評価結果になった。
【符号の説明】
【0036】
A 合成樹脂レザー 1 基布層
1f フィラメント糸 11 ニット生地
11a 表面側 2 合成樹脂層
2a 裏面