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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-04
(45)【発行日】2023-12-12
(54)【発明の名称】耐油紙及び包装袋
(51)【国際特許分類】
   D21H 21/14 20060101AFI20231205BHJP
   D21H 19/22 20060101ALI20231205BHJP
   D21H 27/10 20060101ALI20231205BHJP
   B65D 65/40 20060101ALI20231205BHJP
   B65D 30/02 20060101ALI20231205BHJP
   B32B 27/10 20060101ALI20231205BHJP
【FI】
D21H21/14 Z
D21H19/22
D21H27/10
B65D65/40 D
B65D30/02
B32B27/10
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019117897
(22)【出願日】2019-06-25
(65)【公開番号】P2021004422
(43)【公開日】2021-01-14
【審査請求日】2022-06-17
(73)【特許権者】
【識別番号】390029148
【氏名又は名称】大王製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100159499
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 義典
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 一規
(74)【代理人】
【識別番号】100159581
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 勝誠
(74)【代理人】
【識別番号】100106264
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 耕治
(74)【代理人】
【識別番号】100139354
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 昌子
(72)【発明者】
【氏名】中島 一
【審査官】川口 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-126994(JP,A)
【文献】特開2005-280287(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21H 21/14
D21H 19/22
D21H 27/10
B65D 65/40
B65D 30/02
B32B 27/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒートシール性を有する耐油紙であって、
耐油剤を含有する紙基材と、
ヒートシール層と
を備え、
上記紙基材が片面又は両面に積層されるヒートシール層を有し、
上記ヒートシール層が無機顔料を含有せず、
上記ヒートシール層におけるオレフィン系樹脂の含有量が90.0質量%超であり、
上記ヒートシール層の表面のJIS-P8119(1998)に準拠して測定される平滑度が、9秒以上200秒以下であり、
JIS-Z0208(1976)に準拠する透湿度が、600g/m ・24h以上1500g/m ・24h以下である耐油紙。
【請求項2】
上記ヒートシール層が積層される上記紙基材の表面のJIS-P8119(1998)に準拠して測定される平滑度が、8秒以上30秒以下である請求項1に記載の耐油紙。
【請求項3】
上記耐油剤の主成分が、フッ素系樹脂、アクリル系樹脂、合成ゴムラテックス又はこれらの組み合わせである請求項1又は請求項2に記載の耐油紙。
【請求項4】
上記耐油剤の添加量が、紙基材のパルプ繊維に対して、4.0kg/t以上10.0kg/t以下である請求項1、請求項2又は請求項3に記載の耐油紙。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の耐油紙を有する包装袋。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐油紙及び包装袋に関する。
【背景技術】
【0002】
惣菜類やファーストフード等の食品の包装材においては、包装された内容物からの油分が外側に染み出すことにより外面が油分によって汚れることを防止するために、耐油紙が広く用いられている。
【0003】
近年、近年、食生活の変化に伴い、食材を油で揚げたフライ食品の惣菜テイクアウト用の袋や、電子レンジ用の包装袋等、ヒートシールで製袋する耐油紙ではポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート等の樹脂フィルムを積層したラミネート紙が使用されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-22957号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、樹脂フィルムを積層したラミネート紙は、この樹脂フィルムが積層された面は耐油性を有するが、積層されていない面や、紙基材の内部や側面に耐油性能を付与することができないおそれがある。また、包装する内容物が湿気を有する場合、包装の中に水滴が溜まり内容物に付着することで内容物がふやけて品質が低下するおそれがある。さらに、上記ラミネート紙は、フィルムが残るため古紙に再生できないことや、マイクロプラスチックとして海洋汚染に繋がるおそれがある。従って、ラミネート紙に替わる環境に優しく、耐油性及びヒートシール性に優れる耐油紙が求められている。
【0006】
本発明は、以上のような事情に基づいてなされたものであり、環境に優しく、耐油性及びヒートシール性に優れる耐油紙及び当該耐油紙を有する包装袋を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の実施形態に係る耐油紙は、ヒートシール性を有する耐油紙であって、耐油剤を含有する紙基材と、ヒートシール層とを備え、上記紙基材が片面又は両面に積層されるヒートシール層を有し、上記ヒートシール層の表面のJIS-P8119(1998)に準拠して測定される平滑度が、9秒以上200秒以下である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、環境に優しく、耐油性及びヒートシール性に優れる耐油紙を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[本発明の実施形態の説明]
本発明の一実施形態に係る耐油紙は、ヒートシール性を有する耐油紙であって、耐油剤を含有する紙基材と、ヒートシール層とを備え、上記紙基材が片面又は両面に積層されるヒートシール層を有し、上記ヒートシール層の表面のJIS-P8119(1998)に準拠して測定される平滑度が、9秒以上200秒以下である。
【0010】
当該耐油紙は、耐油剤を紙基材が含有することで、紙基材の内部や側面においても耐油性に優れる。また、上記ヒートシール層の表面の上記平滑度が、9秒以上200秒以下であることでヒートシール層同士のブロッキング抑制効果を向上できる。従って、当該耐油紙は、耐油性及びヒートシール性に優れる耐油紙を提供することができる。また、当該耐油紙は、樹脂フィルムを用いないことから、環境に優しい。
【0011】
当該耐油紙は、上記ヒートシール層が積層される上記紙基材の表面のJIS-P8119(1998)に準拠して測定される平滑度が、8秒以上30秒以下であることが好ましい。上記平滑度が、8秒以上30秒以下であることで、ヒートシール層同士のブロッキング抑制効果をより向上できる。
【0012】
上記ヒートシール層が主成分としてオレフィン系樹脂を含有することが好ましい。上記ヒートシール層が主成分としてオレフィン系樹脂を含有することで常温のみならず、低温下でもヒートシール強度を発揮できる。
【0013】
上記耐油剤の主成分が、フッ素系樹脂、アクリル系樹脂、合成ゴムラテックス又はこれらの組み合わせであることが好ましい。上記耐油剤の主成分が、フッ素系樹脂、アクリル系樹脂又は合成ゴムラテックスであることで、当該耐油紙は、良好な耐油性を備える。
【0014】
上記耐油剤の添加量としては、紙基材のパルプ繊維に対して、4.0kg/t以上10.0kg/t以下が好ましい。上記紙基材のパルプ繊維に対する耐油剤の添加量が上記範囲であることで、耐油性及び紙基材とヒートシール層との密着性が優れる。「kg/t」とは、紙基材のパルプ繊維1トンに対する添加量(kg)を表す。
【0015】
当該耐油紙のJIS-Z0208(1976)に準拠する透湿度が、600g/m・24h以上1500g/m・24h以下であることが好ましい。当該耐油紙の上記透湿度が上記範囲であることで、包装する内容物の湿気が水滴になりにくく、適度に湿度を保つため、内容物の品質を良好に保持できる。
【0016】
本発明の他の実施形態に係る包装袋は、当該耐油紙を有する。当該包装袋は、当該耐油紙を有するので、耐油性及びヒートシール性に優れる。
【0017】
[本発明の実施形態の詳細]
以下において、本発明について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、代表的な実施形態や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に限定されるものではない。
以下、本発明の一実施形態に係る耐油紙について詳説する。なお、以下で説明する紙基材に配合する各材料の配合量(絶乾内添量)は、特に記載がない場合は、紙基材のパルプの絶乾質量に対する質量割合を指す。また、ヒートシール層形成用組成物に配合する各材料の含有率は、特に記載がない場合は、ヒートシール層全体の質量に対する各材料の絶乾質量割合を指す。
【0018】
<耐油紙>
当該耐油紙は、紙基材及びこの紙基材の少なくとも一方の面にヒートシール層を備える。上記ヒートシール層は、単層又は多層構造のいずれであってもよい。
【0019】
[紙基材]
紙基材は、原料パルプを含有するスラリーを抄紙して得られる。紙基材は、単層又は多層のいずれであってもよい。
(原料パルプ)
紙基材は、主成分として原料パルプからなるものであることが好ましい。紙基材を構成する原料パルプとしては、例えば、バージンパルプ、古紙パルプ、これらのパルプを組み合わせたもの等を使用することができる。
【0020】
バージンパルプとしては、例えば、広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)、広葉樹未晒クラフトパルプ(LUKP)、針葉樹未晒クラフトパルプ(NUKP)、広葉樹半晒クラフトパルプ(LSBKP)、針葉樹半晒クラフトパルプ(NSBKP)、広葉樹亜硫酸パルプ、針葉樹亜硫酸パルプ等の化学パルプ;ストーングランドパルプ(SGP)、加圧ストーングランドパルプ(TGP)、ケミグランドパルプ(CGP)、砕木パルプ(GP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)等の機械パルプ(MP)から、化学的に又は機械的に製造されたパルプ等を、単独で又は複数を組み合わせて使用することができる。
【0021】
古紙パルプとしては、例えば、茶古紙、クラフト封筒古紙、雑誌古紙、新聞古紙、チラシ古紙、オフィス古紙、段ボール古紙、上白古紙、ケント古紙、模造古紙、地券古紙等から製造される離解古紙パルプ、離解・脱墨古紙パルプ(DIP)、離解・脱墨・漂白古紙パルプ等を、単独で又は複数を組み合わせて使用することができる。
【0022】
(耐油剤)
耐油剤はフッ素系樹脂、澱粉、セルロース誘導体、ゼラチン、カゼイン、大豆蛋白、ポリビニルアルコール、ポリイソプレン、クロロプレンの重合体または共重合体、ポリジエン、ポリアルケン、ビニル系単量体の重合体または共重合体、合成ゴムラテックス、ポリウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、オレフィン-無水マレイン酸系樹脂、シリコン系樹脂、アクリル系樹脂、メラミン系樹脂、植物系ワックス、動物系ワックス、鉱物系ワックス、石油系ワックス、合成炭化水素ワックス、12-ヒドロキシステアリン酸アミド、ステアリン酸アミド、無水フタル酸イミド、塩素化炭化水素の高級脂肪酸アミド又はエステル又はケトン又はエーテルなどの化合物を1種又は2種以上併用して以上添加することができる。上記耐油剤のなかでも耐油性の観点から、アクリル系樹脂、合成ゴムラテックス、フッ素系樹脂を主成分とする耐油剤を添加することが好ましく特にフッ素系樹脂が好ましい。当該耐油紙は、主成分がフッ素系樹脂である耐油剤を紙基材に添加することで、紙基材の内部や側面においても、より低添加量で耐油性に優れる。主成分がフッ素系樹脂である耐油剤は、フッ素樹脂の高い表面張力が影響し、紙基材中に分散し易く、添加量が低くても耐油性を発揮できていると推測される。
【0023】
上記フッ素系樹脂としては、例えばアニオン性フッ素系樹脂又はカチオン性フッ素系樹脂を挙げることができる。アニオン性フッ素系耐油剤の市販品としては、旭硝子社製のアサヒガード(登録商標)AG-E080、AG-E090、ダイキン工業社製のユニダイン(登録商標)TG-8111、TG8731、Solvay社製のソルベラ(登録商標)PT5060、PT5045等が挙げられる。カチオン性フッ素系耐油剤の市販品としては、旭硝子社製のアサヒガード(登録商標)AG-E060、AG-E070、DuPont社製のCAPSTONE(登録商標)P620、P623等が挙げられる。これらの中でも低い添加量で耐油性を得られる観点から、アニオン性フッソ樹脂が好ましい。
【0024】
上記耐油剤の添加量の下限としては、紙基材のパルプ繊維に対して4.0kg/tが好ましい。上記耐油剤の添加量の上限としては、紙基材のパルプ繊維に対して10.0kg/tが好ましく、8.0kg/tがより好ましい。上記紙基材のパルプ繊維に対する耐油剤の添加量が上記範囲であることで、耐油性及び紙基材とヒートシール層の密着性が優れる。
【0025】
(その他の添加剤)
紙基材には、必要によりその他の添加剤を内添することができる。添加剤としては、例えば、填料、顔料、サイズ剤、凝結剤、耐油剤、蛍光増白剤、硫酸バンド、歩留り向上剤、濾水性向上剤、乾燥紙力増強剤、湿潤紙力増強剤、着色染料、着色顔料、耐水化剤等を、単独で又は複数を組み合わせて使用することができる。
【0026】
(抄紙)
紙基材の抄紙方法は、上記の原料パルプ及び添加剤を含む原料スラリーを公知の抄紙機を用いて行うことができる。必要により、カレンダー工程を設けることもできる。
【0027】
[ヒートシール層]
ヒートシール層は、紙基材の片面又は両面にヒートシール層形成用組成物を塗工することで形成される。
【0028】
上記ヒートシール層は、主成分としてオレフィン系樹脂を含有することが好ましい。オレフィン系樹脂としては、例えば、ポリエチレン系樹脂及びポリプロピレン系樹脂が挙げられる。ポリエチレン系樹脂としては、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、エチレンアクリル酸共重合体(EAA)、エチレン-メタクリル酸共重合体(EMAA)、エチレン-アクリル酸エチル共重合体(EEA)、エチレン-アクリル酸メチル共重合体(EMA)、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、カルボン酸変性ポリエチレン、アイオノマー、及びこれらの誘導体、並びにこれらの混合物が挙げられる。また、ポリプロピレン系樹脂としては、ポリプロピレン(PP)ホモポリマー、ランダムポリプロピレン(ランダムPP)、ブロックポリプロピレン(ブロックPP)、塩素化ポリプロピレン、カルボン酸変性ポリプロピレン、及びこれらの誘導体、並びにこれらの混合物が挙げられる。が挙げられる。これらの中でも100~130℃前後の低温度領域でのヒートシール性の観点から、エチレンアクリル酸共重合体がより好ましい。
【0029】
ヒートシール層の全固形分に対するオレフィン系樹脂の含有率の下限としては50.0質量%であり、好ましくは90.0質量%である。上記オレフィン系樹脂の含有率が50.0質量%未満であると、十分なヒートシール性が得られないおそれがある。一方、上記オレフィン系樹脂の含有率の上限としては、100.0質量%であり、好ましくは95.0質量%である。
【0030】
(その他の添加剤)
本発明のヒートシール層には、上記以外のその他の添加剤を配合することができる。その他の添加剤としては、例えば、水溶性高分子、接着剤、無機顔料、有機顔料、サイズ剤、粘度調整剤、着色染料、着色顔料、耐水化剤、潤滑剤等を、単独で又は複数を組み合わせて使用することができる。
【0031】
[耐油紙の物性]
(平滑度)
上記ヒートシール層の表面のJIS-P8119(1998)に準拠して測定されるベック平滑度の下限としては、9秒であり、15秒がより好ましい。上記平滑度の上限としては、200秒であり、150秒がより好ましい。上記平滑度が、上記下限以下の場合、耐油紙の表面が粗くなるため(接触面積が小さくなり)、ヒートシール強度が低下するおそれがある。上記平滑度が、上記上限を超えると、上記ヒートシール層のブロッキング抑制効果が低下するおそれがある。上記ヒートシール層の表面の上記平滑度が、9秒以上200秒以下であることで、ヒートシール層同士のブロッキング抑制効果を向上でき、内容物の付着を防止できる。
【0032】
また、上記ヒートシール層が積層される上記紙基材の表面の上記平滑度の下限としては、5秒が好ましく、8秒がより好ましい。上記平滑度の上限としては、180秒が好ましく、30秒がより好ましい。上記平滑度が上記下限以下の場合、耐油紙の表面が粗くなるため(空隙が多い)、ヒートシール層塗工液が紙基材の内部に浸透し過ぎるので、ヒートシール強度が低下するおそれがある。上記平滑度が、上記上限を超えると、ヒートシール層同士のブロッキング抑制効果が低下するおそれがある。
【0033】
(耐油度)
当該耐油紙の耐油性の指標であるキット値の下限としては、5以上が好ましく、6以上がより好ましい。キット値が5未満であると、耐油紙としての機能を果せない可能性がある。当該耐油紙のキット値の上限は特に限定されない。ここで、「キット値」とは、23℃、湿度50%の条件で測定した表面及び断面の耐油度(JAPAN TAPPI No.41 紙及び板紙-はつ油度試験方法-キット法によるキット値)を示し、数値が大きいほど耐油性が高い。
【0034】
(透湿度)
当該耐油紙の透湿度は、JIS-Z0208[1976]防湿包装材料の透湿度試験方法[カップ法]に準拠して、条件Bに基づいて測定する。当該耐油紙が製袋加工して使用される場合、上記透湿度の下限としては、600g/m・24hが好ましく、900g/m・24hがより好ましい。また、上記透湿度の上限としては、1500g/m・24hが好ましく、1200g/m・24hがより好ましい。上記透湿度が上記範囲であることにより、良好な耐油性を備えつつ、包装された内容物の湿気が水滴になりにくく、適度に湿度を保つため内容物の品質を良好に保つことができる。
【0035】
当該耐油紙によれば、耐油性及びヒートシール性に優れる耐油紙を提供することができる。また、当該耐油紙は、離解可能なヒートシール層を有することでリサイクルが可能となり、樹脂フィルムを用いないことから、環境保全を図ることができる。
【0036】
[耐油紙の製造方法]
当該耐油紙の製造方法は、特に限定されないが、例えば紙基材の原料となるパルプスラリーを抄紙する工程と、ヒートシール層形成用組成物を生成する工程と、紙基材の少なくとも一方の面にヒートシール層形成用組成物を塗工する工程とを有する。
【0037】
抄紙工程では、上述した原料パルプ、耐油剤及びその他の添加剤を含む原料スラリーを公知の抄紙機を用いて行う。
【0038】
次に、上記抄紙工程で抄紙された紙基材の片面をヤンキードライヤーにより乾燥して艶面を形成する工程を備えることが好ましい。本工程では、ヤンキードライヤーとの接触面が艶面として形成される。より詳細には、ヤンキードライヤーにいわゆる毛布にて湿紙を押し当て、ヤンキードライヤーのシリンダー表面の鏡面を湿紙に写し取ることで片艶クラフト紙の艶面が得られる。ヤンキードライヤーでの乾燥処理においては、ドライヤーの表面温度が100℃以上150℃以下の範囲で、ヤンキードライヤー鏡面に圧接される。また、ヤンキードライヤーとの非接触面が非艶面として形成される。上記非艶面側においては、毛布の素材や毛布をヤンキードライヤーに押し当てるタッチロールの加圧加減で平滑度を調整する。上記調整方法のなかでも、タッチロールの加圧加減による方法が好ましい。その結果、紙基材の密度を維持したまま、上記艶面と非艶面の平滑度の表裏差を広げることが可能である。上記艶面と非艶面を有する紙基材は、非艶面側にヒートシール層を積層させることで、ブロッキング抑制効果を奏し、非艶面側は印刷適性に優れた効果を奏することができる。ここで、「艶面」とは、光沢を有する面をいう。「非艶面」とは、光沢性を有さない面をいう。
【0039】
上述したように、上記ヒートシール層が積層される上記紙基材の表面のベック平滑度としては、8秒以上30秒以下が好ましいが、当該耐油紙が片面にヒートシール層を有する場合、紙基材の非艶面のベック平滑度が、この範囲に調整される。
【0040】
ヒートシール層形成用組成物生成工程では、主成分としてオレフィン系樹脂を含有するヒートシール層形成用組成物を生成する。
【0041】
ヒートシール層形成用組成物の塗工方法は、公知の塗工方法を採用でき、例えば2ロールサイズプレスコーター、ゲートロールコーター、ブレードメタリングコーター、ロッドメタリングコーター、ブレードコーター、エアナイフコーター、ロールコーター、ブラッシュコーター、キスコーター、スクイズコーター、カーテンコーター、ダイコーター、バーコーター、グラビアコーター等の公知の塗工機を用いることができる。
【0042】
ヒートシール層形成用組成物の片面の塗工量(固形分換算)の下限としては、2.5g/mが好ましい。上記塗工量が上記下限を満たさないと、ヒートシール層が十分な耐油性及びヒートシール性を有さないおそれがある。一方、この塗工量の上限としては、3.5g/mが好ましい。上記塗工量が上記上限を超えると、ブロッキング抑制性が低下するおそれがある。また、塗工層が厚くなり過ぎることで、包装袋に加工する際に折り工程での塗工粕が発生し易くなるおそれがある。
【0043】
塗工したヒートシール層形成組成物の乾燥には、公知の乾燥装置を採用でき、例えば赤外線乾燥装置、熱風乾燥装置、接触型ドライヤー乾燥装置等を用いることができる。
【0044】
このようにして得られた耐油紙は、各種公知の仕上げ装置、例えばスーパーカレンダー、グロスカレンダー、ソフトカレンダー、マットカレンダーなどを利用でき、適宜製品仕上げを施すこともできる。
【0045】
<包装袋>
本発明の他の実施形態に係る包装袋は、当該耐油紙を有する。当該包装袋は、当該耐油紙を有するので、耐油性及びヒートシール性に優れる。また、透湿性が高いので、内容物の湿気が水滴になりにくく、適度に湿度を保つため内容物の品質を良好に保持できる。
【0046】
<その他の実施形態>
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、上記態様の他、種々の変更、改良を施した態様で実施することができる。
【0047】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0048】
[実施例1~実施例9及び比較例1~比較例2]
(紙基材の製造)
先ず、広葉樹クラフトパルプ[LBKP]100質量%を調製して、パルプスラリーを得た。このパルプスラリーには、表1に示す添加量の耐油剤(フッ素系樹脂:ダイキン社製「ユニダインTG8811」、合成ゴムラテックス:市販品、アクリル系樹脂:市販品)それぞれを添加した。また、その他の添加剤として、硫酸バンド、歩留剤、サイズ剤をそれぞれ内添した。得られたパルプスラリーは、オントップ型長網抄紙機にて抄紙して、紙基材を得た。紙基材の坪量は50.0g/mであった。
【0049】
(ヒートシール層の積層)
次に、紙基材の片面にヒートシール層を形成し、坪量が53.0g/mの耐油紙を得た。ヒートシール層形成用組成物の組成については表1に示す通りとした。また、ヒートシール層形成用組成物に使用したオレフィン系樹脂及び塗工量については、以下の製品を使用した。なお、以下の表1中の「-」は、該当する成分を用いなかったことを示す。
【0050】
[比較例3]
ポリプロピレンフィルムを含む1層のラミネート紙を作製した。
基紙の構成は、市販のクラフト紙(坪量50.0g/m)を用いた。
ポリプロピレンフィルムは、市販のポリプロピレン樹脂をペレッターにて押し出ラミネートして、基紙上に20μmの厚みで片面のみに積層させた。
【0051】
以上のようにして得られた耐油紙の各種評価を行った。
【0052】
(平滑度)
JIS-P8119(1998)に準拠してヒートシール層の表面及びこのヒートシール層が積層される紙基材の表面のベック平滑度を測定した。
【0053】
(耐油度)
JAPAN TAPPI No.41 紙及び板紙-はつ油度試験方法-キット法に準拠して耐油紙の表面及び断面のキット値を測定した。キット値が5以上の場合、耐油度が良好である。
【0054】
(透湿度)
実施例及び比較例の耐油紙の透湿度については、JIS-Z0208[1976]防湿包装材料の透湿度試験方法[カップ法]に準拠して、条件Bに基づいて測定した。
【0055】
(ヒートシール強度)
熱傾斜試験機(株式会社東洋精機製作所製)を用いて、大気圧2atm下、シーラー圧2kg/cm、シーラー時間1秒間、シール温度140℃の条件で加工後、ロードセル型引張試験機を用いてヒートシール部分の剥離強度を測定した。評価基準は以下の3段階の通りとした。評価が○及び△の場合、ヒートシール強度が良好である。
○:剥離強度が3.0N/25mm以上である。
△:剥離強度が2.0N/25mm以上3.0N/25mm未満である。
×:剥離強度が2.0N/25mm未満である。
【0056】
(ブロッキング抑制性)
各実施例及び比較例について、2枚の耐油紙のヒートシール層を塗工した面同士を密着させ、1kgの圧着ローラーで1往復圧力を加えた。次に、40℃の条件下で1日保管した後、両手で剥離させた結果を以下の3段階の基準で評価した。評価が○及び△の場合、ブロッキング抑制性が良好である。
○:ブロッキングが無く、スムーズに剥離する。
△:若干ブロッキングしているが、剥離性は問題のない範囲である。
×:ブロッキングを起こしており、剥離性に難がある。
【0057】
各実施例及び比較例の評価結果を表1に示す。
【0058】
【表1】
【0059】
表1に示されるように、耐油剤を含有する紙基材を備え、ヒートシール層の表面の平滑度が、9秒以上200秒以下である実施例1~実施例9は、耐油度、ヒートシール強度及びブロッキング抑制性が良好であった。特に、ヒートシール層が積層される上記紙基材の表面の平滑度が8秒以上30秒以下であり、ヒートシール層形成用組成物の片面の塗工量が、2.5g/m以上3.5g/m以下の実施例1~実施例3は、ヒートシール強度及びブロッキング抑制性が優れていた。
一方、ヒートシール層の表面の平滑度が9秒未満又は200秒超である比較例1及び比較例2の耐油紙は、ヒートシール強度及びブロッキング抑制性のいずれかが劣っていた。
比較例3は、ポリプロピレン(PP)ラミネート紙であるため、環境汚染の観点で望ましくない。また、透湿度が低いため、包装袋として使用した場合、内容物の鮮度が低下する恐れがあると考えられる。
以上のように、当該耐油紙は、耐油性及びヒートシール性に優れることが示された。
また、当該耐油紙は、離解可能なヒートシール層を有することで、リサイクルが可能となり、樹脂フィルムを用いないことから、環境保全を図ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の耐油紙は、環境に優しく、耐油性及びヒートシール性に優れ、食品等の包装材に好適である。