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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-04
(45)【発行日】2023-12-12
(54)【発明の名称】硬質表面の処理方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 183/08 20060101AFI20231205BHJP
   C09D 5/00 20060101ALI20231205BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20231205BHJP
   C09K 3/00 20060101ALI20231205BHJP
【FI】
C09D183/08
C09D5/00 D
C09D7/63
C09K3/00 R
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019134308
(22)【出願日】2019-07-22
(65)【公開番号】P2021017502
(43)【公開日】2021-02-15
【審査請求日】2022-06-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087642
【弁理士】
【氏名又は名称】古谷 聡
(74)【代理人】
【氏名又は名称】義経 和昌
(72)【発明者】
【氏名】國友 凜
(72)【発明者】
【氏名】穂積 賢司
【審査官】水野 明梨
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/230514(WO,A1)
【文献】国際公開第2009/030764(WO,A1)
【文献】特開2007-119643(JP,A)
【文献】特開2015-098098(JP,A)
【文献】特表2015-510445(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00-10/00
C09D 101/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記工程I及び工程IIを含む、表面の処理方法であり、前記表面に付着させる下記(a)成分の総量と下記(b)成分の総量との質量比(a)/(b)が、0.01以上50以下であり、前記表面がガラス、プラスチック、セラミックス及び金属から選ばれる材質からなる、表面の処理方法。
<工程I>
シラザン骨格を構成単位として含む高分子化合物[以下、(a)成分という]を含有する組成物(A)を表面に付着させる工程。
<工程II>
工程Iで作成した、組成物(A)を付着させた表面の部分に、下記一般式(b1)で表され、アルコキシシリル基又はハロゲノシリル基を有する双性イオン化合物[以下、(b)成分という]を含有する組成物(B)を付着させる工程。
【化1】

(式中、R1b、R2b、R3bは、それぞれ独立に、炭素数1以上5以下のアルコキシ基、ハロゲノ基、及び炭素数1以上5以下のアルキル基から選ばれる基であり、R1b、R2b、R3bの内少なくとも一つはアルコキシ基又はハロゲノ基である。R4bは、エステル基、アミド基、又は尿素基で分断されてもよい炭素数1以上6以下のアルキレン基であり、R5b、R6bは、それぞれ独立に、炭素数1以上5以下のアルキル基である。R7bは、ヒドロキシ基で置換されてもよい炭素数1以上6以下のアルキレン基であり、Xは-SO又は-COOから選ばれる基である。)
【請求項2】
(a)成分中、前記シラザン骨格の構成単位が、下記一般式(a1)で表される構成単位である、請求項1に記載の表面の処理方法。
【化2】

(式中、R1a、R2a、R3aは、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1以上3以下のアルキル基である。)
【請求項3】
組成物(A)中、(a)成分を0.1質量%以上20質量%以下含有する、請求項1又は2に記載の表面の処理方法。
【請求項4】
組成物(B)中、(b)成分を0.1質量%以上10質量%以下含有する、請求項1~3の何れか1項に記載の表面の処理方法。
【請求項5】
組成物(B)が水を含有し、pHが5.0以上9.0以下である、請求項1~4の何れか1項に記載の表面の処理方法。
【請求項6】
工程Iが、下記の工程I-1、工程I-2を含む工程である、請求項1~5の何れか1項に記載の表面の処理方法。
<工程I>
工程I-1:組成物(A)を表面に付着させる工程。
工程I-2:工程I-1で、組成物(A)を付着させた表面を、5℃以上50℃以下の温度で、0.1分以上300分以下、乾燥させる工程。
【請求項7】
工程IIが、下記の工程II-1、工程II-2を含む工程である、請求項1~6の何れか1項に記載の表面の処理方法。
<工程II>
工程II-1:工程Iで作成した、組成物(A)を付着させた表面の部分に、組成物(B)を付着させる工程。
工程II-2:工程II-1で、組成物(B)を付着させた表面を、5℃以上100℃以下の温度で、5分以上300分以下、乾燥させる工程。
【請求項8】
シラザン骨格を構成単位として含む高分子化合物[以下、(a)成分という]を含有する組成物(A)と、下記一般式(b1)で表され、アルコキシシリル基又はハロゲノシリル基を有する双性イオン化合物[以下、(b)成分という]を含有し、組成物(B)とを含んで構成される、表面の処理用キットであり、前記表面に付着させる(a)成分の総量と(b)成分の総量との質量比(a)/(b)が、0.01以上50以下で用いられ、ガラス、プラスチック、セラミックス及び金属から選ばれる材質からなる表面に用いられる、表面の処理用キット。
【化3】

(式中、R1b、R2b、R3bは、それぞれ独立に、炭素数1以上5以下のアルコキシ基、ハロゲノ基、及び炭素数1以上5以下のアルキル基から選ばれる基であり、R1b、R2b、R3bの内少なくとも一つはアルコキシ基又はハロゲノ基である。R4bは、エステル基、アミド基、又は尿素基で分断されてもよい炭素数1以上6以下のアルキレン基であり、R5b、R6bは、それぞれ独立に、炭素数1以上5以下のアルキル基である。R7bは、ヒドロキシ基で置換されてもよい炭素数1以上6以下のアルキレン基であり、Xは-SO又は-COOから選ばれる基である。)
【請求項9】
請求項1~7の何れか1項に記載の表面の処理方法に用いられる、請求項8に記載の表面の処理用キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬質表面の処理方法、及び硬質表面の処理用キットに関する。
【背景技術】
【0002】
硬質表面を水に対する接触角を低下させて、硬質表面を親水化させることにより、油汚れの付着や黴の付着を抑制する防汚性、水滴の付着を抑制する防曇性、水などで簡単に汚れが除去できる易洗性などを硬質表面に付与することができる。その目的のために硬質表面の親水化技術が研究されており、親水化された硬質表面の耐久性の点からシラン化合物を用いる技術が研究されている。
【0003】
特許文献1には、(A)両性イオン低分子化合物、(B)親水性ポリマー、(C)Si,Ti,Zr,Alから選択される元素を含むアルコキシド化合物、(D)金属錯体触媒を含有することで、防汚性、防曇性に優れ、良好な耐摩擦性を有する親水膜を形成するのに用いられる親水性組成物が開示されている。
特許文献2には、親水性、防曇性および防曇効果の保持性ならびに耐水性を有する被膜を形成するための親水性コート剤であって、ベタインモノマーおよびアルコキシシリル基含有化合物を含有するモノマー成分を重合させることによって得られるアルコキシシリル基含有ポリマーを含有する親水性コート剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2008-239949号公報
【文献】国際公開2014/084219号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の発明は、対象とする硬質表面に両性イオン低分子化合物などの親水性組成物により親水膜を形成させる前にグロー処理や紫外線処理などの親水化処理を施す必要があり、作業が煩雑であるという課題がある。また特許文献2に記載の発明は、前記アルコキシシリル基含有ポリマーを用いて、対象とする表面を親水化処理すると、親水化処理された表面がぬるつき、対象表面が床などである場合にすべりやすくなるという課題があることを本発明者らは見出した。また、これらの発明は、対象とする硬質表面の材質が限られるため、多種の材質の硬質表面を簡便に親水化できる技術が求められる。また親水化した硬質表面の磨耗に対する耐久性が求められる。
【0006】
本発明は、多種の材質の硬質表面を簡便に親水化させることができ、また親水化処理させた後の硬質表面の磨耗に対する耐久性があり、また親水化処理させた後の表面がぬるつかない硬質表面の処理方法、及び硬質表面の処理用キットを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、下記工程I及び工程IIを含む、硬質表面の処理方法に関する。
<工程I>
シラザン骨格を構成単位として含む高分子化合物[以下、(a)成分という]を含有する組成物(A)を硬質表面に付着させる工程。
<工程II>
工程Iで作成した、組成物(A)を付着させた硬質表面の部分に、アルコキシシリル基又はハロゲノシリル基を有する双性イオン化合物[以下、(b)成分という]を含有する組成物(B)を付着させる工程。
【0008】
また本発明は、(a)成分を含有する組成物(A)と、(b)成分を含有する組成物(B)とを含んで構成される、硬質表面の処理用キットに関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、多種の材質の硬質表面を簡便に親水化させることができ、また親水化処理させた後の硬質表面の磨耗に対する耐久性があり、また親水化処理させた後の表面がぬるつかない硬質表面の処理方法、及び硬質表面の処理用キットが提供される。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[硬質表面の処理方法]
<工程I>
本発明の硬質表面の処理方法において、工程Iは、(a)成分を含有する組成物(A)(以下、本発明の組成物(A)という)を硬質表面に付着させる工程である。
【0011】
本発明の組成物(A)は、(a)成分として、シラザン骨格を構成単位として含む高分子化合物を含有する。(a)成分は、組成物(A)を硬質表面に付着させた場合に、(a)成分中に含まれるシラザン骨格の構成単位が、空気中に含まれる水、又は酸素と反応することにより、シリカに転化して硬化するものであればよい。すなわち、(a)成分は、シラザン骨格を構成単位として含む、硬化性の高分子化合物である。
【0012】
本発明の(a)成分において、シラザン骨格の構成単位は、親水化の観点から、下記一般式(a1)で表される構成単位であることが好ましい。
【0013】
【化1】
【0014】
(式中、R1a、R2a、R3aは、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1以上3以下のアルキル基である。)
【0015】
1a、R2a、R3aは、親水化の観点から、それぞれ独立に、好ましくは水素原子、又はメチル基であり、より好ましくは少なくとも一つが水素原子であり、残りがメチル基であり、更に好ましくは全てが水素原子である。
【0016】
(a)成分は、(a)成分の硬化反応を損なわない限りにおいて、シラザン骨格の構成単位以外の構成単位を含んでもよく、含有する場合には、構成単位全体に対して50モル%以下、好ましくは30モル%以下、より好ましくは10モル%以下である。(a)成分は、シラザン骨格の構成単位以外の構成単位を含有しないのがより好ましい。シラザン骨格の構成単位以外の構成単位としては、シラザン骨格の構成単位と共重合可能な構成単位であればいずれでもよい。
【0017】
(a)成分において、全構成単位中、シラザン骨格の構成単位の含有量は、親水化の観点から、好ましくは50モル%以上、より好ましくは70モル%以上、更に好ましくは90モル%以上、そして、好ましくは100モル%以下であり、また100モル%であってもよい。
(a)成分において、全構成単位中、一般式(a1)で表される構成単位の含有量は、親水化の観点から、好ましくは50モル%以上、より好ましくは70モル%以上、更に好ましくは90モル%以上、そして、好ましくは100モル%以下であり、また100モル%であってもよい。
【0018】
(a)成分の数平均分子量は、好ましくは100以上、より好ましくは200以上、そして、好ましくは50,000以下、より好ましくは20,000以下である。
(a)成分の数平均分子量は、凝固点降下法(溶媒:乾燥ベンゼン)により求めることができる。
【0019】
本発明の組成物(A)は、(a)成分を、親水化の観点から、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは1質量%以上、更に好ましくは8質量%以上、そして、好ましくは30質量%以下、より好ましくは20質量%以下、更に好ましくは15質量%以下含有する。
【0020】
本発明の組成物(A)は、(a)成分を常温でシリカに転化させて硬化させる観点から、触媒を含有することが好ましい。
触媒としては、アンモニア、有機アミン、有機酸、及び金属若しくは有機金属から選ばれる1種以上の触媒が挙げられる。
【0021】
触媒として有機アミンを用いる場合、有機アミンとしては、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、n-プロピルアミン、イソプロピルアミン、ジ-n-プロピルアミン、ジ-イソプロピルアミン、トリ-n-プロピルアミン、n-ブチルアミン、イソブチルアミン、ジ-n-ブチルアミン、ジ-イソブチルアミン、トリ-n-ブチルアミン、n-ペンチルアミン、ジ-n-ペンチルアミン、トリ-n-ペンチルアミン、ジシクロヘキシルアミン、アニリン、2,4-ジメチルピリジン、4,4-トリメチレンビス-(1-メチルピペリジン)、1,4-ジアザビシクロ(2,2,2)オクタン、N,N-ジメチルピペラジン、シス-2,6-ジメチルピペラジン、トランス-2,5-ジメチルピペラジン、4,4-メチレンビス(シクロヘキシルアミン)、ステアリルアミン、1,3-ジ-(4-ピペリジル)プロパン、N,N-ジメチルプロパノールアミン、N,N-ジメチルヘキサノールアミン、N,N-ジメチルオクタノールアミン、N,N-ジエチルエタノールアミン、1-ピペリジンエタノール、及び4-ピペリジノールから選ばれる1種以上が挙げられる。
【0022】
触媒として有機酸を用いる場合、有機酸としては、炭素数2以上6以下のカルボン酸が挙げられ、より具体的には、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、及びカプロン酸から選ばれる1種以上が挙げられる。
【0023】
触媒として金属若しくは有機金属を用いる場合、金属若しくは有機金属としては、パラジウム、酢酸パラジウム、パラジウムアセチルアセトネート、プロピオン酸パラジウム、ニッケル、ニッケルアセチルアセトネート、銀粉、銀アセチルアセトネート、白金、白金アセチルアセトネート、ルテニウム、ルテニウムアセチルアセトネート、ルテニウムカルボニル、金、銅、銅アセチルアセトネート、アルミニウムアセチルア
セトネート、及びアルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)から選ばれる1種以上が挙げられる。
【0024】
これらの触媒の中でも、触媒は、常温でシリカに転化させて硬化させる観点から、有機アミン及びパラジウム化合物から選ばれる1種以上がより好ましい
【0025】
本発明の組成物(A)は、触媒を含有する場合、触媒を、(a)成分を常温でシリカに転化させて硬化させる観点から、0.1質量%以上10質量%以下含有することが好ましい。
【0026】
本発明の組成物(A)は、貯蔵安定性の観点から、水も反応性基(例えばヒドロキシル基又はアミノ基)も含まない有機溶剤を含有することが好ましい。すなわち本発明の組成物(A)は液状であることが好ましい。
有機溶剤としては、石油溶剤、パラフィン系溶剤、芳香族系溶剤、環式脂肪族系溶剤、エーテル類、エステル類、ケトン類、及びハロゲン化炭化水素から選ばれる1種以上の有機溶剤が挙げられる。
【0027】
石油溶剤としては、例えば、ミネラルスピリットが挙げられる。
パラフィン系溶剤としては、例えば、オクタン、2,2,3-トリメチルペンタン、ノナン、2,2,5-トリメチルヘキサン、デカン、及びn-ウンデカンから選ばれる1種以上が挙げられる。
芳香族系溶剤としては、例えば、キシレン、クメン、メシチレン、ナフタレン、テトラヒドロナフタレン、ブチルベンゼン、p-シメン、ジエチルベンゼン、テトラメチルベンゼン、及びペンチルベンゼンから選ばれる1種以上が挙げられる。
環式脂肪族系溶剤としては、例えば、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、p-メンタン、α-ピネン、ジペンテン、及びデカリンから選ばれる1種以上が挙げられる。
エーテル類としては、例えば、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、ポリグリコールエーテル、及びテトラヒドロフランから選ばれる1種以上が挙げられる。
エステル類としては、例えば、酢酸エチル、及び酢酸ブチルから選ばれる1種以上が挙げられる。
ケトン類としては、例えば、アセトン、及びメチルエチルケトンから選ばれる1種以上が挙げられる。
ハロゲン化炭化水素としては、例えば、ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム、及びクロロベンゼンから選ばれる1種以上が挙げられる。
【0028】
これら有機溶剤の中でも、有機溶剤は、貯蔵安定性と硬化促進の観点から、エーテル類から選ばれる1種以上が好ましく、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、ポリグリコールエーテル、及びテトラヒドロフランから選ばれる1種以上がより好ましく、ジブチルエーテルが更に好ましい。
【0029】
本発明の組成物(A)は、有機溶剤を含有する場合、有機溶剤を、貯蔵安定性と硬化促進の観点から、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、そして、好ましくは99.9質量%以下、より好ましくは92質量%以下含有する。
【0030】
本発明の組成物(A)は、貯蔵安定性と硬化促進の観点から、(a)成分と触媒及び有機溶剤以外の成分は含有しないことが好ましい。特に水や反応性基(例えばヒドロキシル基又はアミノ基)を有する化合物は(a)成分と反応し失活するため、組成物(A)中に、含有しないことが好ましい。
【0031】
本発明の組成物(A)を、硬質表面に付着させる方法としては、液状の組成物(A)を、塗布又は噴霧する方法が好ましく、具体的には、例えば、布拭き法、スポンジ拭き法、スプレーコート、フローコート、ローラーコート、ディップコート等の方法が挙げられる。
【0032】
工程Iにおいて、組成物(A)中に含有される(a)成分を、硬質表面に付着させる総量は、親水化の観点から、好ましくは0.02mg/cm以上、より好ましくは0.2mg/cm以上、更に好ましくは2.0mg/cm以上、そして、好ましくは7.5mg/cm以下、より好ましくは5.5mg/cm以下、更に好ましくは4.0mg/cm以下である。
【0033】
本発明の組成物(A)を、硬質表面に付着させた後は、(a)成分中に含まれるシラザン骨格の構成単位をシリカに転化して硬化させる観点から、硬質表面を、5℃以上50℃以下の温度で、0.1分以上300分以下、乾燥させることが好ましい。
すなわち、工程Iは、下記の工程I-1、工程I-2を含む工程であることが好ましい。
<工程I>
工程I-1:組成物(A)を硬質表面に付着させる工程。
工程I-2:工程I-1で、組成物(A)を付着させた硬質表面を、5℃以上50℃以下の温度で、0.1分以上300分以下、乾燥させる工程。
【0034】
工程I-2において、組成物(A)を付着させた硬質表面を乾燥させる温度は、親水化と硬化促進の観点から、5℃以上、好ましくは10℃以上、より好ましくは15℃以上であり、かつ100℃以下、好ましくは80℃以下、より好ましくは50℃以下である。
【0035】
工程I-2において、組成物(A)を付着させた硬質表面を乾燥させる時間は、安定的に塗膜を形成させる観点から、0.1分以上、好ましくは0.5分以上、より好ましくは1分以上、更に好ましくは5分以上、そして、300分以下、好ましくは150分以下、より好ましくは75分以下、更に好ましくは30分以下、より更に好ましくは15分以下である。
【0036】
<工程II>
本発明の硬質表面の処理方法において、工程IIは、工程Iで作成した、組成物(A)を付着させた硬質表面の部分に、(b)成分を含有する組成物(B)(以下、本発明の組成物(B)という)を付着させる工程である。
【0037】
本発明の組成物(B)は、(b)成分として、アルコキシシリル基又はハロゲノシリル基を有する双性イオン化合物を含有する。工程Iで硬質表面に付着させて組成物(A)の部分の上に、組成物(B)を付着させた場合に、(a)成分がシリカに転化した部分と、(b)成分中のアルコキシシリル基又はハロゲノシリル基とが化学結合し、(b)成分中の双生イオンの部分で、硬質表面を親水性に改質することができる。
【0038】
(b)成分は、親水化能の観点から、下記一般式(b1)で表される化合物が好ましい。
【0039】
【化2】
【0040】
(式中、R1b、R2b、R3bは、それぞれ独立に、炭素数1以上5以下のアルコキシ基、ハロゲノ基、及び炭素数1以上5以下のアルキル基から選ばれる基であり、R1b、R2b、R3bの内少なくとも一つはアルコキシ基又はハロゲノ基である。R4bは、エステル基、アミド基、又は尿素基で分断されてもよい炭素数1以上6以下のアルキレン基であり、R5b、R6bは、それぞれ独立に、炭素数1以上5以下のアルキル基である。R7bは、ヒドロキシ基で置換されてもよい炭素数1以上6以下のアルキレン基であり、Xは-SO又は-COOから選ばれる基である。)
【0041】
1b、R2b、R3bは、親水化の観点から、それぞれ独立に、好ましくは炭素数1以上5以下のアルコキシ基、及びハロゲノ基から選ばれる基であり、より好ましくは炭素数1または2のアルコキシ基、更に好ましくはメトキシ基である。
4bは、親水化の観点から、好ましくは炭素数3以上5以下のアルキレン基である。
5b、R6bは、親水化の観点から、それぞれ独立に、好ましくは炭素数1以上3以下のアルキル基である。
7bは、親水化の観点から、ヒドロキシ基で置換されてもよい炭素数1以上3以下のアルキレン基である。
【0042】
本発明の組成物(B)は、(b)成分を、親水化の観点から、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、そして、好ましくは20質量%以下、より好ましくは10質量%以下、更に好ましくは5質量%以下含有する。
【0043】
本発明の組成物(B)は、貯蔵安定性の観点から、親水性溶剤を含有することが好ましい。すなわち本発明の組成物(B)は液状、好ましくは溶液であることが好ましい。親水性溶剤とは、水そのもの又は20℃の水100mlに5g以上溶解する有機液体である。親水性溶剤としては、水、炭素数1以上6以下の脂肪アルコール、及び水溶性ケトンから選ばれる1種以上が好ましく、水、及び炭素数1以上6以下の脂肪アルコールから選ばれる1種以上がより好ましく、水が更に好ましい。水溶性ケトンとしては、アセトン、2-ブタノンが挙げられる。
親水性溶剤として水を含む場合、親水性溶剤中の水の含有量は、好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上、更に好ましくは90質量%以上、そして、100質量%以下であり、また100質量%であってもよい。
【0044】
本発明の組成物(B)は、親水性溶剤を、貯蔵安定性の観点から、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、そして、好ましくは99.9質量%以下、より好ましくは99.5質量%以下含有する。
【0045】
本発明の組成物(B)が水を含有する水溶液である場合、本発明の組成物(B)のpHは、親水化の観点から、好ましくは5.0以上、より好ましくは6.0以上、更に好ましくは7.0以上、そして、好ましくは9.0以下、より好ましくは8.0以下である。pH調整剤としては一般的な有機酸、無機酸、有機アルカリ、無機アルカリを用いることができる。特に塩酸、硫酸などの無機酸と水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどの無機アルカリを用いることができる。本発明の組成物(B)のpHの上記範囲は、20℃におけるpHであってよい。
【0046】
本発明の組成物(B)は、(b)成分の安定性の観点から、(b)成分が一般式(b1)で表される化合物である場合、一般式(b1)中のR1b、R2b、R3bのアルコキシ基またはハロゲノ基と反応する化合物を含有しないことが好ましい。本発明の組成物(B)において、(b)成分、親水性溶剤、及びpH調整剤の合計含有量は、80質量%以上、好ましくは90質量%以上、そして、100質量%以下であり、また100質量%であってもよい。
【0047】
本発明の組成物(B)を、組成物(A)を付着させた硬質表面の上層に付着させる方法としては、液状の組成物(B)を、塗布又は噴霧する方法が好ましく、具体的には、例えば、布拭き法、スポンジ拭き法、スプレーコート、フローコート、ローラーコート、ディップコート等の方法が挙げられる。
【0048】
工程IIにおいて、組成物(B)中に含有される(b)成分を、硬質表面に付着させる総量は、親水化の観点から、好ましくは0.1mg/cm以上、より好ましくは0.5mg/cm以上、更に好ましくは1mg/cm以上、そして、好ましくは20mg/cm以下、より好ましくは10mg/cm以下、更に好ましくは5mg/cm以下である。
【0049】
本発明の硬質表面の処理方法において、硬質表面に付着される(a)成分の総量と(b)成分の総量との質量比(a)/(b)は、親水性の持続性の観点から、好ましくは0.005以上、より好ましくは0.01以上、更に好ましくは0.1以上、より更に好ましくは0.2以上、そして、好ましくは50以下、より好ましくは30以下、更に好ましくは10以下、より更に好ましくは5以下、より更に好ましくは2以下、特に好ましくは1.8以下である。
【0050】
本発明の組成物(B)を、硬質表面に付着させた後は、(a)成分がシリカに転化した部分と、(b)成分中のアルコキシシリル基又はハロゲノシリル基とを化学反応により結合させ、硬質表面を親水性に改質する観点から、硬質表面を、5℃以上100℃以下の温度で5分以上300分以下の間、乾燥させることが好ましい。
すなわち、工程IIは、下記の工程II-1、工程II-2を含む工程であることが好ましい。
<工程II>
工程II-1:工程Iで作成した、組成物(A)を付着させた硬質表面の部分に、組成物(B)を付着させる工程。
工程II-2:工程II-1で、組成物(B)を付着させた硬質表面を、5℃以上100℃以下の温度で、5分以上300分以下、乾燥させる工程。
【0051】
工程II-2において、組成物(B)を付着させた硬質表面を乾燥させる温度は、親水化の観点から、10℃以上、好ましくは25℃以上、より好ましくは50℃以上、そして、100℃以下である。
【0052】
工程II-2において、組成物(B)を付着させた硬質表面を乾燥させる時間は、親水化の観点から、5分以上、好ましくは10分以上、そして、300分以下、好ましくは150分以下、より好ましくは75分以下、更に好ましくは50分以下、より更に好ましくは30分以下である。
【0053】
本発明の硬質表面の処理方法は、あらゆる材質の硬質表面を親水性に改質することができる。特に水への接触角が大きい疎水性の硬質表面であっても、本発明の硬質表面の処理方法を用いれば硬質表面を親水性に改質することができる。
【0054】
一般に硬質表面を親水化するためには親水性の樹脂成分を被処理表面に被覆することで可能となるが、親水性能の持続性が課題となる。そこで持続性・耐久性を得る目的から被処理表面と表面処理剤を接着させるプライマー処理が施されることが一般的に行われるが、プライマー処理は被処理表面の材質、表面処理剤の物性などに従って選択されるのが一般的であり、材質ごとにプライマーの種類や表面処理剤の種類を選択するため非常に煩雑になる。
【0055】
本発明では一種類のプライマー処理と一種類の表面処理剤で、被処理表面物性にかかわらずあらゆる硬質表面を親水化でき、しかも非常に耐久性のある親水性表面を得ることができる。その作用機序は明確ではないが工程1のポリシラザンによる処理により形成されたシリカと工程2の(b)成分中のアルコキシシリル基又はハロゲノシリル基と反応することで得られる表面が、あらゆる表面に対して耐久性のある親水効果を付与できることは、通常の技術常識では想起できない格別の効果である。
【0056】
硬質表面の材質としては、ガラス、プラスチック、セラミックス及び金属から選ばれる材質が挙げられる。特にプラスチック、セラミックス及び金属から選ばれる材質からなる疎水性の硬質表面が、本発明の効果を享受する観点から好適である。疎水性の硬質表面としては、具体的には、プラスチックとして、ポリエステル(例えばポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタラート)、ポリカーボネート、ポリアクリレート、ポリアクリレート、ポリスチレン、フッ素化表面(例えば、ポリテトラフルオロエチレン)、繊維強化プラスチック(FRP)、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレン、ポリエチレン、ABS、ポリアミドが挙げられる。また、金属として、ステンレス、アルミニウムなどが挙げられる。ここで、疎水性の硬質表面とは、硬質表面に1μlのイオン交換水の水滴を処理表面に着滴させ、着滴3秒後から1秒間隔で10回接触角を測定し、その平均値が60°以上である硬質表面をいう。静止接触角の測定は、全自動接触角計を用いて行うことができる。一例として、協和界面科学株式会社製の全自動接触角計DM-500が挙げられる。
【0057】
台所、浴室及びトイレには、前記した疎水性硬質表面を与える材質が多用されており、且つ食品や人体由来の疎水性汚れが付着しやすい環境にあることから、硬質表面を親水化することによる疎水性汚れに対する防汚性付与の意義が大きい。本発明の硬質表面用の処理方法は、台所、浴室及びトイレの疎水性硬質表面を親水化させることにより優れた防汚性を付与できる。よって、本発明の硬質表面の処理方法は、台所用、浴室用、又はトイレ用として用いられることが好ましい。また本発明の硬質表面の処理方法を硬質表面に行った後の表面がぬるつかないため、台所、浴室及びトイレの床などに好適に用いることができる。具体的には、本発明の硬質表面の処理方法は、台所まわりの疎水性硬質表面(壁、床、シンクなど)や台所で用いられる製品(コンロ、電子レンジ、オーブン、冷蔵庫など)の疎水性硬質表面に対して適用できる。また、本発明の硬質表面の処理方法は、浴室まわりの疎水性硬質表面(壁、床、浴槽など)や浴室で用いられる製品(浴室用イス、洗面器など)の疎水性硬質表面に対して適用できる。また、本発明の硬質表面の処理方法は、トイレの疎水性硬質表面(壁、床、便器など)やトイレで用いられる製品(収納棚、ごみ箱など)の疎水性硬質表面に対して適用できる。
【0058】
[硬質表面の処理用キット]
本発明は、(a)成分を含有する組成物(A)と、(b)成分を含有する組成物(B)とを含んで構成される、硬質表面の処理用キットを提供する。
本発明の硬質表面の処理用キットにおいて、組成物(A)と組成物(B)は、本発明の硬質表面の処理方法で記載した組成物(A)と組成物(B)と同じである。
本発明の硬質表面の処理用キットは、本発明の硬質表面の処理方法で記載した事項を適宜適用することができる。
本発明の硬質表面の処理用キットは、本発明の硬質表面の処理方法用として、好適に用いることができる。
【実施例
【0059】
表1中の実施例、比較例で使用した各成分は以下の通りである。
(a)成分
(a-1):ポリシラザン、一般式(a1)中、R1a、R2a、R3aが水素原子である構成単位からなる高分子化合物、メルク(株)製 NL 120A
(a’)成分((a)成分の比較成分)
(a’-1):ポリビニルアルコール、重量平均分子量70000、メルク(株)製
(a’-2):ドデシルトリメトキシシラン、東京化成工業(株)製
(a’-3):カテコール、東京化成工業(株)製
【0060】
(b)成分
(b-1):ベタインシラン、一般式(b1)中、R1b、R2b、R3bがメトキシ基、R4bが炭素数3のアルキレン基、R5b、R6bがメチル基、R7bが炭素数3のアルキレン基、Xが-SOである化合物
(b’)成分((b)成分の比較成分)
(b’-1):大阪有機化学工業製 LAMBIC-771WP(末端のアルコキシシリル基にN-アクリロイルオキシエチル-N、N-ジメチル-N-(3スルホプロピル)スルホベタインを重合させた、分子量1万以上のアクリル系スルホベタインポリマー)
【0061】
[工程I]
(a)成分又は(a’)成分が表1、2に記載の濃度となるようにジブチルエーテル又は水を用いて希釈した液を作成し、組成物(A)として用いた。組成物(A)をガラスプレート(縦:75mm、横:25mm、厚さ:1mm)上に、(a)成分又は(a’)成分の総量が表1、2に記載の量になるようにフローコートし、表1、2に記載の乾燥温度、乾燥時間で静置した。余剰の組成物(A)を水道水で洗浄することによって除去したのち、基板を乾燥させることにより表面改質基板を作製した。
【0062】
[工程II]
(b)成分又は(b’)成分が表1、2に記載の濃度となるように、0.01mol/L NaOH水溶液と0.01mol/L HCl水溶液を用いて、表1、2に記載のpHとなるように調整しながら希釈した液を作製し、組成物(B)として用いた。組成物(B)を工程Iにて作製した表面改質基板上に、(b)成分又は(b’)成分の総量が表1、2に記載の量になるようにフローコートし、温風乾燥機内に入れ、表1、2に記載の乾燥温度、乾燥時間で静置した。余剰の組成物(B)を水道水で洗浄することによって除去したのち、基板を乾燥させることにより表面親水化基板を作製した。
【0063】
[接触角の評価]
工程I、IIで処理した基板のイオン交換水に対する静止接触角を測定した。測定には協和界面科学株式会社製の全自動接触角計DM-500を使用し、20μlのイオン交換水の水滴を処理表面に着滴させ、着滴3秒後から1秒間隔で10回接触角を測定し、その平均値をデータとして記載した。結果を表1、2に示す。なお、処理前のガラス基板、ポリプロピレン基板、ステンレス基板、テフロン(登録商標)基板の静止接触角は、それぞれ28°、100°、88.3°、106.8°であった。
【0064】
[ぬるつき性の評価]
工程I、IIで処理した基板を流水ですすぎながら表面を指でこすりながら、その表面の感触を未処理のガラス基板と比較して、官能評価で下記基準により判定した。流水の条件は水温が25℃、流速が5L/minの水道水を使用した。なお、比較例1~3、5~7は、接触角が28°以上であったため、ぬるつき性の評価を行わなかった。
〇:ガラス基板と比較して、同程度のぬるつき性である。
△:ガラス基板と比較して、ややぬるつきを感じる。
×:ガラス基板と比較して、ぬるつきを感じる。
【0065】
[耐久性の評価]
工程I、IIで処理した基板の摩耗試験に対する耐久性を評価した。表3に記載の各基板を学振型摩擦堅牢度試験機に固定し、水道水に浸した状態で、スポンジ(キクロン株式会社)で250回、500回、及び1000回摩耗を行い、乾燥させた後、上記した接触角の測定方法と同様の方法で静止接触角を測定した。結果を表3に示す。
【0066】
【表1】
【0067】
【表2】
【0068】
【表3】