(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-04
(45)【発行日】2023-12-12
(54)【発明の名称】ロボット
(51)【国際特許分類】
B25J 19/06 20060101AFI20231205BHJP
【FI】
B25J19/06
(21)【出願番号】P 2019190855
(22)【出願日】2019-10-18
【審査請求日】2022-06-16
(73)【特許権者】
【識別番号】390008235
【氏名又は名称】ファナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118913
【氏名又は名称】上田 邦生
(74)【代理人】
【識別番号】100142789
【氏名又は名称】柳 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100163050
【氏名又は名称】小栗 眞由美
(74)【代理人】
【識別番号】100201466
【氏名又は名称】竹内 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】菊地 要
(72)【発明者】
【氏名】本門 智之
(72)【発明者】
【氏名】井上 俊彦
【審査官】國武 史帆
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-077602(JP,A)
【文献】特開昭62-140786(JP,A)
【文献】特開昭62-166980(JP,A)
【文献】特開2004-132529(JP,A)
【文献】特開2010-079845(JP,A)
【文献】特開平09-201745(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25J 1/00 - 21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の関節および該複数の関節をそれぞれ駆動する複数の駆動部を有するロボット機構部と、
前記複数の駆動部を制御することによって対象駆動部を点検するための所定の点検動作を前記ロボット機構部に実行させる制御部と、
前記対象駆動部が有するギヤのバックラッシ量を算出するバックラッシ算出部と、
前記対象駆動部の保守に関する保守情報であって、前記バックラッシ算出部によって算出された前記バックラッシ量に基づく前記保守情報を報知する報知部と、
を備え、
前記対象駆動部が、前記複数の駆動部の内、モータおよびギヤを有するいずれか1つの駆動部であり、
前記所定の点検動作が、
前記対象駆動部によって駆動される前記関節である対象関節を所定の回転角度だけ回転させる制御指令を前記対象駆動部の前記モータに与えることによって、前記ロボット機構部の先端または該先端に接続されたツールを所定の開始位置から所定の位置の物体に接近させ押し付ける動作と、
前記ロボット機構部の前記先端または前記ツールを前記物体から離間させる動作と、を含み、
前記バックラッシ算出部が、前記所定の点検動作中の前記モータの電流値の最大値に基づいて、前記対象駆動部の前記ギヤのバックラッシ量を算出する、ロボット。
【請求項2】
6つの関節および該6つの関節をそれぞれ駆動する6つの駆動部を有する6軸垂直多関節ロボットであるロボット機構部と、
前記6つの駆動部を制御することによって対象駆動部を点検するための所定の点検動作を前記ロボット機構部に実行させる制御部と、
前記対象駆動部の保守に関する保守情報を報知する報知部と、を備え、
前記対象駆動部が、前記6つの関節の内、先端側の3つの関節をそれぞれ駆動する3つの駆動部の中から選択され、該3つの駆動部の各々が、モータおよびギヤを有し、
前記保守情報が、前記所定の点検動作中の前記対象駆動部の前記モータの電流値または該電流値と関連する情報に基づくものであり、
前記所定の点検動作が、
前記対象駆動部によって駆動される前記関節である対象関節を所定の回転角度だけ回転させる制御指令を前記対象駆動部の前記モータに与えることによって、前記ロボット機構部の先端または該先端に接続されたツールを所定の開始位置から所定の位置の物体に接近させ押し付ける動作と、
前記ロボット機構部の前記先端または前記ツールを前記物体から離間させる動作と、を含み、
前記制御部が、前記所定の点検動作において、前記対象駆動部以外の他の前記駆動部のバックラッシの影響を受け難い点検用の姿勢に前記ロボット機構部を配置させ、
前記点検用の姿勢において、
前記対象関節の軸が鉛直方向に配置され、
前記3つの関節の内、前記対象関節以外の2つの前記関節の軸が、前記対象関節の軸に直交する方向に平行である、ロボット。
【請求項3】
前記所定の点検動作が、前記対象関節の回転によって、前記ロボット機構部の前記先端または前記ツールを、前記物体とは反対側から前記所定の開始位置へアプローチさせる動作を含む、請求項1
または請求項
2に記載のロボット。
【請求項4】
前記バックラッシ算出部によって算出された前記バックラッシ量を時系列で記憶する記憶部を備える、請求項1に記載のロボット。
【請求項5】
前記物体が、前記ロボット機構部の一部である、請求項1から請求項
4のいずれかに記載のロボット。
【請求項6】
点検プログラムを格納する記憶部を備え、
前記制御部が、前記点検プログラムに従って前記駆動部を制御することによって前記所定の点検動作を前記ロボット機構部に実行させる、請求項1から請求項
5のいずれかに記載のロボット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロボットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、様々な機械の駆動部にギヤが使用されている。ギヤのバックラッシは、機械の長期間の使用に伴って増加することがある。そこで、ギヤのバックラッシを測定する方法が提案されている(例えば、特許文献1~3参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開昭62-140786号公報
【文献】特開2013-249027号公報
【文献】特開2018-073327号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
産業用ロボットのアームを駆動する駆動部に、減速機としてギヤが使用されている。ギヤのバックラッシの増加によって、アームの先端および該先端に接続されているツールの位置が不安定になる。したがって、アームの先端およびツールの位置が不安定になる前に、ギヤの保守を計画的に行いたいという要求がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一態様は、複数の関節および該複数の関節をそれぞれ駆動する複数の駆動部を有するロボット機構部と、前記複数の駆動部を制御することによって対象駆動部を点検するための所定の点検動作を前記ロボット機構部に実行させ、前記対象駆動部が、前記複数の駆動部の内、モータおよびギヤを有するいずれか1つの駆動部である、制御部と、前記対象駆動部の保守に関する保守情報であって、前記所定の点検動作中の前記対象駆動部の前記モータの電流値または該電流値と関連する情報に基づく前記保守情報を報知する報知部と、を備え、前記所定の点検動作が、前記対象駆動部によって駆動される前記関節である対象関節を所定の回転角度だけ回転させる制御指令を前記対象駆動部の前記モータに与えることによって、前記ロボット機構部の先端または該先端に接続されたツールを所定の開始位置から所定の位置の物体に接近させ押し付ける動作と、前記ロボット機構部の前記先端または前記ツールを前記物体から離間させる動作と、を含む、ロボット。
である。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】一実施形態に係るロボットの全体構成図であり、第4関節用の駆動部の点検動作の一例を説明する図である。
【
図2】
図1のロボットの第5関節用の駆動部の点検動作の一例を説明する図である。
【
図3】
図1のロボットの第6関節用の駆動部の点検動作の一例を説明する図である。
【
図4】
図1のロボットの制御装置の機能ブロック図である。
【
図5】点検動作中のツールの移動を説明する図である。
【
図6】点検動作中の対象駆動部のサーボモータの電流値の時間変化の例を示すグラフである。
【
図7】バックラッシ量が異なる複数の駆動部のサーボモータの点検動作中の電流値の時間変化を示すグラフである。
【
図8】バックラッシ量とサーボモータの最大電流値との相関図である。
【
図9】ツールを使用しない場合の
図1のロボットの点検動作の例を説明する図である。
【
図10】第4関節用の駆動部の点検動作の他の例を説明する図である。
【
図11】第5関節用の駆動部の点検動作の他の例を説明する図である。
【
図12】第6関節用の駆動部の点検動作の他の例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本開示の一実施形態に係るロボット10について図面を参照して説明する。
ロボット10は、
図1から
図3に示されるように、ロボット機構部1と、ロボット機構部1と接続された制御装置2とを備える。
図2および
図3において、制御装置2の図示は省略されている。
【0008】
ロボット機構部1は、6つの関節J1,J2,J3,J4,J5,J6を有する6軸の垂直多関節ロボットである。具体的には、ロボット機構部1は、ベース3、旋回胴4、第1アーム5、第2アーム6および手首部7を備え、手首部7のフランジ部7aにツール8が取り付けられている。
また、ロボット機構部1は、関節J1,J2,J3,J4,J5,J6をそれぞれ回転駆動する6つの駆動部11,12,13,14,15,16を備える。駆動部15,16は、第2アーム6および手首部7の内部に設けられている。
【0009】
ベース3は床に固定されている。
旋回胴4は、ベース3上に配置され、第1関節J1を介してベース3と連結されている。第1関節J1の回転によって、ベース3に対して旋回胴4が鉛直方向の第1軸線A1回りに回転する。
第1アーム5は、第2関節J2を介して旋回胴4と連結されている。第2関節J2の回転によって、旋回胴4に対して第1アーム5が水平な第2軸線A2回りに回転する。
【0010】
第2アーム6は、第3関節J3および第4関節J4を介して第1アーム5の先端に連結されている。第3関節J3の回転によって、第1アーム5に対して第2アーム6が、第2軸線A2と平行な第3軸線A3回りに回転する。第4関節J4の回転によって、第1アーム5に対して第2アーム6が、第2アーム6の長手軸である第4軸線A4回りに回転する。
【0011】
手首部7は、第5関節J5を介して第2アーム6の先端に連結されている。第5関節J5の回転によって、第2アーム6に対して手首部7が、第2アーム6の長手軸に直交する第5軸線A5回りに回転する。
フランジ部7aは、第6関節J6を介して手首部7に支持されている。第6関節J6の回転によって、第2アーム6に対してフランジ部7aが、第5軸線A5に直交する第6軸線A6回りに回転する。
【0012】
図4に示されるように、駆動部11,12,13,14,15,16は、サーボモータ11a,12a,13a,14a,15a,16aと、サーボモータ11a,12a,13a,14a,15a,16aの回転を減速する減速機11b,12b,13b,14b,15b,16bと、をそれぞれ有する。
基端側の3つの関節J1,J2,J3用の減速機11b,12b,13bの内、少なくとも減速機11bは、ギヤのバックラッシが無い、またはほとんど無い精密減速機であり、例えばRV減速機(登録商標)である。減速機12b,13bも精密減速機であってもよい。
【0013】
先端側の3つの関節J4,J5,J6用の減速機14b,15b,16bは、相互に噛み合う複数のギヤからなるギヤ減速機である。例えば、各減速機14b,15b,16bは、相互に噛み合う入力ハイポイドギヤと出力ハイポイドギヤとからなるハイポイドギヤを含む。各出力ハイポイドギヤは、軸線A4、A5またはA6と同軸に配置されたリングギヤであり、第2アーム6、手首部7またはフランジ部7aと固定される。各入力ギヤは、サーボモータ14a、15aまたは16aの回転力が入力される。
減速機14b,15b,16bは、ハイポイドギヤに代えて、一般に減速機として使用される他の種類のギヤを含んでいてもよい。
【0014】
制御装置2は、
図4に示されるように、記憶部21と、制御部22と、バックラッシ算出部23と、報知部24とを備える。
記憶部21は、RAM、ROMおよびその他の任意の記憶装置を有する。記憶部21には、対象駆動部の減速機を点検するための点検プログラムが格納されている。対象駆動部は、6つの駆動部11~16の内、ギヤを有するいずれか1つの駆動部である。
【0015】
本実施形態において、記憶部21には、減速機14b用の点検プログラム21aと、減速機15b用の点検プログラム21bと、減速機16b用の点検プログラム21cとが格納されており、対象駆動部は、ギヤ減速機14b,15b,16bを備える3つの駆動部14,15,16の中から選択される。
【0016】
制御部22は、CPUのようなプロセッサを有する。制御部22は、サーボモータ11a~16aを制御するための制御指令をサーボモータ11a~16aに送信し、それにより、関節J1~J6の回転動作を制御する。
【0017】
制御部22は、点検プログラム21aに従ってサーボモータ11a~16aを制御することによって、減速機14bを点検するための所定の点検動作をロボット機構部1に実行させる。
制御部22は、点検プログラム21bに従ってサーボモータ11a~16aを制御することによって、減速機15bを点検するための所定の点検動作をロボット機構部1に実行させる。
制御部22は、点検プログラム21cに従ってサーボモータ11a~16aを制御することによって、減速機16bを点検するための所定の点検動作をロボット機構部1に実行させる。
これらの所定の点検動作は、ユーザによる指示に従って、または予め設定されたスケジュールに従って、定期的に、例えば週に1回、実行される。
【0018】
図5に示されるように、所定の点検動作は、アプローチ動作と、押し付け動作と、離間動作とを含む。矢印S1、S2,S3は、アプローチ動作、押し付け動作および離間動作でのツール8の移動をそれぞれ表している。
点検動作には、ツール8と、ロボット機構部1の周囲に配置された所定の物体Mとが使用される。後述するように、点検動作において、ツール8が物体Mに押し付けられる。
【0019】
ツール8は、ワークの把持または加工等の作業用のツールであってもよく、点検動作専用のツールであってもよい。減速機14b,15b,16bの点検を可能にするために、ツール8は、第6軸線A6から第6軸線A6に直交する方向にオフセットした位置に、物体Mと接触する接触点または接触面を有する。
物体Mは、ツール8が押し付けられることによって変形したり変位したりすることがない頑丈な構造物であり、例えば、架台である。物体Mは、床に固定されおり、ベース3に対して所定の位置に配置されている。
【0020】
アプローチ動作において、制御部22は、ロボット機構部1を動作させることによってツール8を、所定の開始位置P1に対して物体Mとは反対側の所定の経由位置P2に配置する。所定の開始位置P1は、ツール8が物体Mからわずかに離間する位置であり、物体Mと開始位置P1のツール8との間の隙間は、例えば、数百μmである。このときに、ロボット機構部1は、対象関節の回転によってツール8が開始位置P1を通り物体Mに向かって移動する姿勢に、配置される。対象関節は、対象駆動部によって駆動される関節であり、本実施形態では関節J4,J5,J6のいずれかである。次に、制御部22は、対象関節を回転させることによって、ツール8を、物体Mとは反対側の経由位置P2から開始位置P1へアプローチさせる。
【0021】
アプローチ動作の結果、開始位置P1において、対象駆動部の減速機14b、15bまたは16bの相互に噛み合うギヤのバックラッシは所定の状態となる。すなわち、ギヤの回転方向の一側においてギヤの歯面同士が接触し、ギヤの回転方向の他側のみにバックラッシが形成される。
【0022】
次に、押し付け動作において、制御部22は、対象関節を所定の回転角度だけ一定速度で回転させる制御指令を対象駆動部のサーボモータ14a、15aまたは16aに与える。これにより、制御部22は、対象関節のみを回転させ、ツール8を所定の開始位置P1から物体Mに接近させツール8を物体Mに押し付ける。所定の回転角度は、例えば、数十分である。
【0023】
図6は、所定の点検動作中の対象駆動部のサーボモータの電流値の時間変化の一例を示している。対象関節の回転開始後、対象関節の回転角度が所定の回転角度に達する前にツール8が物体Mに接触する。ツール8の物体Mとの接触後、
図6に示されるように、物体Mからの力に抗してツール8をさらに移動させようとするため対象駆動部のサーボモータ14a、15aまたは16aの電流値は漸次増大し、物体Mへのツール8の押し付け力は漸次増大する。
次に、離間動作において、制御部22は、対象関節を逆回転させることによってツール8を物体Mから離間しさせる。
【0024】
バックラッシ算出部23は、所定の点検動作中の対象関節のサーボモータ14a、15aまたは16aの電流値を監視する。バックラッシ量と、所定の点検動作中の電流値との間には、バックラッシ量が大きい程、電流値の最大値が低下するという所定の関係がある。この所定の関係に基づき、バックラッシ算出部23は、電流値の最大値から、対象駆動部の減速機14b、15bまたは16bのギヤのバックラッシ量を算出する。
【0025】
図7は、減速機のバックラッシ量が異なる対象駆動部について、所定の点検動作中のサーボモータの電流値を測定した実験結果を示している。
図7の実験において、対象駆動部は第5関節J5用の駆動部であり、押し付け動作での第5関節J5の所定の回転角度は0.3°である。
図8は、
図7の電流値のグラフから得られた、サーボモータの電流値の最大値とバックラッシ量との相関図である。
図7および
図8に示されるように、バックラッシ量が大きい程、電流値の最大値が小さくなる。これは、バックラッシ量が大きい程、電流値が上昇するタイミングT(
図6参照。)が遅くなり、それにより、物体Mへのツール8の最終的な押し付け力が小さくなるからである。
【0026】
報知部24は、バックラッシ算出部23によって算出されたバックラッシ量に基づく保守情報を作業者に報知する。保守情報は、対象駆動部の保守に関する情報である。例えば、報知部24は、制御装置2の表示パネル(図示略)に保守情報を表示させるか、または保守情報の内容に応じた音を制御装置2から出力させる。
【0027】
例えば、バックラッシ量が所定の閾値よりも大きい場合、報知部24は、対象駆動部の減速機の交換時期が来たことを表す保守情報を報知する。
バックラッシ量が所定の閾値以下である場合、報知部24は、対象駆動部の減速機の交換時期を予測し、予測された交換時期を表す保守情報を報知する。例えば、報知部24は、ロボット機構部1の稼働時間と現在のバックラッシ量とからバックラッシ量の増加速度を算出し、算出された増加速度でバックラッシ量が増加したと仮定した場合にバックラッシ量が所定の閾値に達するまでの残りの稼働時間を算出し、残りの稼働時間から交換時期を予測する。
【0028】
バックラッシ量が急激に増加した場合、報知部24は、バックラッシ量の急激な増加を表す保守情報を報知する。バックラッシ量の急激な増加は、例えば、ロボット機構部1の周辺物体との衝突等が原因で生じる。バックラッシ量が急激に増加したか否かは、例えば、前回測定されたバックラッシ量と今回測定されたバックラッシ量との差分が所定量以上であるか否かによって判断される。
【0029】
次に、ロボット10の作用について説明する。
制御部22は、点検プログラム21a,21b,21cに従って対象駆動部14,15,16の減速機14b,15b,16bの点検動作を順番にロボット機構部1に実行させる。
減速機14bの点検動作において、制御部22は、サーボモータ11a~16aを制御しロボット機構部1を動作させることによってツール8を経由位置P2に配置し、続いて、サーボモータ14aを制御し第4関節J4を回転させることによってからツール8を経由位置P2から開始位置P1へアプローチさせる。次に、制御部22は、所定の回転角度だけ回転させるための制御指令をサーボモータ14aに送信し第4関節J4のみを回転させることによって、ツール8を開始位置P1から物体Mへ向かって移動させ物体Mに押し付ける。次に、制御部22は、サーボモータ14aを制御し第4関節J4を逆方向に回転させることによって、ツール8を物体Mから離間させる。
【0030】
上記の点検動作の実行中、バックラッシ算出部23によって、サーボモータ14aの電流値が監視され、電流値の最大値が検出される。次に、バックラッシ算出部23によって、電流値の最大値から減速機14bのギヤのバックラッシ量が算出される。
次に、報知部24によって、減速機14bのギヤのバックラッシ量に基づく保守情報が作業者に報知される。
減速機14bの点検動作に続き、減速機15bおよび減速機16bの点検動作が同様に行われ、減速機15b,16bのギヤのバックラッシ量に基づく保守情報が作業者に報知される。
【0031】
作業者は、報知部24によって報知された保守情報に基づき、減速機14b,15b,16bの予防保守を計画することができる。
例えば、減速機14bの交換時期が来たことを表す保守情報が報知された場合、作業者は、減速機14bのバックラッシ量が所定の閾値以上まで増加したことを認識し、ツール8の位置が不安定になる前に減速機14bを新しいものに交換する。減速機14bの予測された交換時期を表す保守情報が報知された場合、作業者は、減速機14bを交換するための交換時期までのスケジュールを立てる。バックラッシ量の急激な増加を表す保守情報が報知された場合、作業者は、何らかの理由により減速機14bのバックラッシ量が急激に増加したことを認識し、必要に応じて減速機14bを新しいものに交換する。
【0032】
このように、本実施形態によれば、駆動部14,15,16の減速機14b,15b,16bの点検動作が定期的に実行され、点検動作において減速機14b,15b,16bのギヤのバックラッシ量が測定され、バックラッシ量に応じた保守情報が報知部24によって報知される。作業者は、各減速機14b,15b,16bに必要な保守を保守情報に基づいて認識し、ロボット機構部1の先端およびツール8の位置が不安定になる前に減速機14b,15b,16bの予防保守を計画することができる。
【0033】
また、本実施形態によれば、上記所定の点検動作をロボット機構部1に実行させることによって、特別な装置を使用することなく、点検動作中のサーボモータ14a,15a,16aの電流値に基づいてバックラッシ量を測定することができる。
また、本実施形態によれば、点検プログラム21a,21b,21cを記憶部21内に用意しておくことによって、作業者がプログラムを作成せずとも、減速機14b,15b,16cの点検動作をロボット機構部1に実行させることができる。
【0034】
複数の駆動部にギヤが使用されている場合、バックラッシ算出部23によって算出される対象駆動部のギヤのバックラッシ量は、他の駆動部のギヤのバックラッシの影響を受け得る。したがって、制御部22は、ロボット機構部1を、対象駆動部のギヤのバックラッシ量が対象駆動部以外の他の駆動部のギヤのバックラッシの影響を受け難い点検用の姿勢に配置した状態で、上記所定の点検動作をロボット機構部1に実行させることが好ましい。
【0035】
図1、
図2および
図3は、減速機14b、15bおよび16bの点検動作におけるロボット機構部1の点検用の姿勢の例をそれぞれ示している。
なお、前述したように、基端側の3つの減速機11b,12b,13bの内、少なくとも減速機11bは、バックラッシが無い、またはほとんど無い精密減速機である。したがって、減速機14b,15b,16bのバックラッシ量の測定は、減速機11bのバックラッシの影響を受けない。
【0036】
図1、
図2および
図3の点検用の姿勢において、第1アーム5は、第1アーム5に作用する重力による重力トルクが第2関節J2に作用する姿勢に配置され、第2アーム6は、第2アーム6に作用する重力トルクが第3関節J3に作用する姿勢に配置されている。このような姿勢において、第2関節J2用の減速機12bでは、ギヤの回転方向の一側においてギヤの歯面同士が接触し、ギヤの回転方向の他側のみにバックラッシが形成される。同様に、第2アーム6に作用する重力によって、第3関節J3用の減速機13bでは、ギヤの回転方向の一側においてギヤの歯面同士が接触し、ギヤの回転方向の他側のみにバックラッシが形成される。したがって、減速機12b,13bのギヤのバックラッシに影響されることなく、点検動作において対象関節J4、J5またはJ6を回転させることができる。
【0037】
また、
図1、
図2および
図3の点検用の姿勢において、先端側の3つの関節J4,J5,J6の内、対象関節の軸が鉛直方向に配置され、他の2つの関節の軸が、対象関節の軸に直交する方向に平行である。具体的には、
図1において、第4軸線A4は鉛直方向に配置され、第5軸線A5および第6軸線A6は、第4軸線A4に直交する方向に平行である。
図2において、第5軸線A5は鉛直方向に配置され、第4軸線A4および第6軸線A6は、第5軸線A5に直交する方向に平行である。
図3において、第6軸線A6は鉛直方向に配置され、第4軸線A4および第5軸線A5は、第6軸線A6に直交する方向に平行である。このような姿勢において、対象関節の回転によるツール8の移動方向に対して、他の2つの関節の回転によるツール8の移動方向が直交する。したがって、他の2つの関節の減速機のギヤのバックラッシに影響されることなく、点検動作において対象関節を回転させることができる。
【0038】
上記実施形態において、バックラッシ算出部23によって算出されたバックラッシ量が記憶部21に時系列に記憶されてもよい。
この構成によれば、各減速機14b,15b,16bのバックラッシ量の時系列データが記憶部21に生成される。バックラッシ量の時系列データは、減速機14b,15b,16bの予防保守に有効である。
【0039】
例えば、ツール8によって把持されたワークを部品に嵌合させる嵌合作業において、突然、ワークが部品に嵌合しなくなるという不具合が発生することがある。このような不都合の原因の1つは、減速機14b、15bまたは16bのバックラッシ量の急激な増加である。作業者は、記憶部21に記憶されているバックラッシ量の時系列データを参照し、減速機14b,15b,16bのバックラッシ量が急激に増加しているか否かを確認することによって、不具合の原因が減速機14b,15b,16bにあるか否かを判断することができる。
【0040】
上記実施形態において、点検動作において、ツール8を物体Mに押し付けることとしたが、これに代えて、
図9に示されるように、ロボット機構部1の先端の手首部7を物体M押し付けてもよい。
このように、手首部7を物体Mに直接押し付けることによっても、ツール8を物体Mに押し付ける場合と同様に、サーボモータ14a,15a,16aの電流値の最大値に基づいてバックラッシ量を算出することができる。
【0041】
上記実施形態において、報知部24が、バックラッシ算出部23によって算出されたバックラッシ量に基づいて、作業者に報知すべき保守情報の内容を判断することとしたが、これに代えて、所定の点検動作中のサーボモータ14a、15aまたは16aの電流値の最大値に基づいて、作業者に報知すべき保守情報の内容を判断してもよい。
例えば、報知部24は、所定の点検動作中の対象関節のサーボモータ14a、15aまたは16aの電流値を監視し、電流値の最大値を検出し、最大値に基づく保守情報を報知してもよい。
この場合、バックラッシ算出部23は、必ずしもロボット10に設けられていなくてもよい。
【0042】
上記実施形態において、所定の物体が、ロボット機構部1の周囲に設置された構造物Mであることとしたが、これに代えて、所定の物体がロボット機構部1の一部であってもよい。
この構成によれば、ロボット機構部1の周囲に点検動作に適した構造物が無い場合であっても、点検動作を実行することができる。
【0043】
図10、
図11および
図12は、所定の物体としてロボット機構部1の一部を使用する場合の、減速機14b、15bおよび16bの点検動作の例をそれぞれ示している。
図10、
図11および
図12において、ロボット機構部1は点検用の姿勢に配置されている。
図10から
図12に示される点検動作において、ツール8は、第2アーム6の基端部に押し付けられる。第2アーム6の基端部に、ツール8を押し付けるための面を提供する頑丈な部材5aが設けられていてもよい。
【0044】
上記実施形態において、バックラッシ算出部23によって算出されたバックラッシ量を、ギヤ減速機14b,15b,16bの予防保守に使用することとしたが、これに代えて、またはこれに加えて、ツール8の位置補正に使用してもよい。
減速機14b,15b,16bのバックラッシ量が大きい程、ツール8の位置の誤差が大きくなる。制御部22は、バックラッシ量に基づいて補正値を算出し、算出された補正値によって補正された制御指令をサーボモータに送信してもよい。
【0045】
上記実施形態において、バックラッシ算出部23が、電流値からバックラッシ量を算出することとしたが、これに代えて、電流値と関連する他の情報からバックラッシ量を算出してもよい。
例えば、バックラッシ算出部23は、外乱値からバックラッシ量を算出してもよい。外乱値は、サーボモータの入力電流の指令値と電流の実測値との差分である。バックラッシ量と外乱値との間にも相関関係があるので、外乱値に基づいてバックラッシを算出することができる。
【0046】
上記実施形態において、ロボット機構部1が6軸の垂直多関節ロボットであることとしたが、これに代えて、ロボット機構部1が、他の種類の産業用ロボットであってもよい。例えば、ロボット機構部1は、他の軸数の垂直多関節ロボット、パラレルリンクロボット、または平行リンクロボットであってもよい。
【符号の説明】
【0047】
1 ロボット機構部
10 ロボット
11,12,13,14,15,16 駆動部
11a,12a,13a,14a,15a,16a サーボモータ(モータ)
11b,12b,13b 減速機
14b,15b,16b 減速機(ギヤ)
21 記憶部
21a,21b,21c 点検プログラム
22 制御部
23 バックラッシ算出部
24 報知部
J1,J2,J3,J4,J5,J6 関節
M 物体