(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-04
(45)【発行日】2023-12-12
(54)【発明の名称】圧電デバイス及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H03H 9/19 20060101AFI20231205BHJP
H03H 3/02 20060101ALI20231205BHJP
【FI】
H03H9/19 D
H03H3/02 B
(21)【出願番号】P 2019199728
(22)【出願日】2019-11-01
【審査請求日】2022-06-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000232483
【氏名又は名称】日本電波工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】島尾 憲治
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 徹也
(72)【発明者】
【氏名】利川 興司
(72)【発明者】
【氏名】岩田 浩一
【審査官】志津木 康
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-197778(JP,A)
【文献】特開2007-158566(JP,A)
【文献】国際公開第2004/019424(WO,A2)
【文献】特開2013-027009(JP,A)
【文献】特開平04-334108(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03H3/007-H03H3/10
H03H9/00-H03H9/76
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水晶の結晶軸で表わされるX-Z′面を主面とし、
前記主面の平面形状が四角形状で
あり、水晶の結晶軸のZ′軸と交差する側面の少なくとも一方を、第1~第3の3つの面であってこの順に交わっている第1~第3の3つの面で構成してあり、かつ、前記第1の面は、前記主面を水晶のX軸を回転軸として4±3.5°回転させた面に相当する面であり、前記第2の面は、前記主面を水晶のX軸を回転軸として-57±5°回転させた面に相当する面であり、前記第3の面は、前記主面を水晶のX軸を回転軸として-42±5°回転させた面に相当する面であり、前記Z′軸に平行な2辺のうちの第1の辺の側で導電性接着剤によって容器に接続固定されているATカット水晶片と、当該容器と、を具える圧電デバイスにおいて、
前記ATカット水晶片
は、前記第1の辺と対向する第2の辺
の側に前記四角形状に由来する2つの角部を備え、かつ、前記第2の辺は、前記2つの角部の間において直線状であり、
前記2つの角部は、C面取りの表記のC寸法で言って、10~20μm以下の角部であり、
前記直線状の部分の長さをW1とし、当該水晶片のZ′方向に沿った幅寸法をW0としたとき、W1/W0が0.93~0.99であることを特徴とする圧電デバイス。
【請求項2】
前記W1/W0が0.96~0.99であることを特徴とする請求項1に記載の圧電デバイス。
【請求項3】
前記ATカット水晶片は、前記第1の辺及び第2の辺を短辺とし、かつ、水晶のX軸方向に沿う辺を長辺とする平面視で長方形状のATカット水晶片であることを特徴とする請求項1
または2に記載の圧電デバイス。
【請求項4】
請求項1~
3のいずれか1項に記載の圧電デバイスを、フォトリソグラフィ技術およびウエットエッチング技術によって製造するに当たり、
前記ウエットエッチング用の耐エッチングマスクであって、前記ATカット水晶片のパタンをマトリクス状に形成する第1マスク部と、前記マトリクスの間で、前記Z′軸に相当する方向に沿って伸び、前記X方向に沿って順次に配列された桟形成用のパタンを形成する第2マスク部と、当該ウエットエッチング後にATカット水晶片を桟に保持するためのブリッジパタンを形成する第3マスク部と、当該ATカット水晶片の前記第2の辺側の角部と前記第3マスク部との間に設けられ第2エッチング工程完了時には当該箇所の水晶を消失させる所定幅Wを持つ第4マスク部と、を有した耐エッチングマスクを、水晶ウエハに形成する工程と、
前記耐エッチングマスクを形成した水晶ウエハをフッ酸系のウエットエッチング液に所定時間浸漬する第1エッチング工程と、
前記第1エッチングが済んだ水晶ウエハから、前記第1マスク部及び第4マスク部を除去する工程と、
前記第1マスク部及び第4マスク部を除去した水晶ウエハをフッ酸系のウエットエッチング液に所定時間浸漬する当該第2エッチング工程と、
前記第2エッチング工程が済んだ水晶ウエハに励振用電極を形成する工程と、
前記励振用電極の形成が済んだ水晶ウエハから当該ATカット水晶片を個片化する工程と、
個片化した当該ATカット水晶片を容器に接続固定する
工程と、
を含むことを特徴とする
圧電デバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水晶振動子、水晶振動子を含む水晶発振器、サーミスタやPNダイオード等の温度センサを併用した水晶振動子等の圧電デバイスと、その製造方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
圧電デバイスの1種である水晶振動子の一層の小型化を図るため、フォトリソグラフィ技術及びウエットエッチング技術が用いられている。
【0003】
この出願の出願人に係る例えば特許文献1には、上記技術を用いた圧電デバイスが記載されている。具体的には、特許文献1の
図1に示されているように、水晶の結晶軸のZ′軸と交差する側面の少なくとも一方を、第1~第3の3つの面で構成したATカット水晶片であって、第1の面は、当該水晶片の、水晶の結晶軸で表わされるX-Z′面(主面)を、水晶のX軸を回転軸として4±3.5°回転させた面であり、第2の面は、前記主面を水晶のX軸を回転軸として-57±5°回転させた面に相当する面であり、第3の面は、前記主面を水晶のX軸を回転軸として-42±5°回転させた面に相当する面であるATカット水晶片を具えた、圧電デバイスが開示されている。
この圧電デバイスによれば、ATカット水晶振動子本来の振動以外の不要振動を従来に比べ抑制できるため、振動子のインピダンスすなわちクリスタルインピダンス(以下、CIともいう)を従来に比べ改善できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示された圧電デバイスは、CIの改善が図れるものであるが、この出願に係る発明者の研究においてCIの更なる改善が図れることが判明した。すなわち、特許文献1に開示された圧電デバイスは、所定の第1~第3の面を有する水晶片を具えたものであるが、所定の第1~第3の面を得るために、水晶ウエハを長時間エッチングする処理を採用している。そのため、当該水晶片の先端側、すなわち水晶片の導電性接着剤によって支持する側とは反対側を平面的に見たとき、当該先端の中央から両角部に向かう領域が略三角形状にエッチングされてしまい、その分だけ水晶片の面積が減少していた(後述する比較例や
図6、
図7(B)参照)。ATカット水晶片の場合、水晶片の平面的な面積が広い方が、CIは良化し易いことを考えると、特許文献1に開示された圧電デバイスは改善の余地があった。
この出願はこのような点に鑑みなされたものであり、従って、この出願の目的は上記問題点を軽減できる圧電デバイスと、その製造方法とを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的の達成を図るため、この出願の圧電デバイスの発明によれば、水晶の結晶軸で表わされるX-Z′面を主面とし、平面形状が四角形状で、水晶の結晶軸のZ′軸と交差する側面の少なくとも一方を、第1~第3の3つの面であってこの順に交わっている第1~第3の3つの面で構成してあり、かつ、前記第1の面は、前記主面を水晶のX軸を回転軸として4±3.5°回転させた面に相当する面であり、前記第2の面は、前記主面を水晶のX軸を回転軸として-57±5°回転させた面に相当する面であり、前記第3の面は、前記主面を水晶のX軸を回転軸として-42±5°回転させた面に相当する面であり、前記Z′軸に平行な2辺のうちの第1の辺の側で導電性接着剤によって容器に接続固定されているATカット水晶片と、当該容器と、を具える圧電デバイスにおいて、前記ATカット水晶片の、前記第1の辺と対向する第2の辺の側の2つの角部が、平面視したとき、各々、略直角となっていることを特徴とする。
【0007】
この発明を実施するに当たり、前記略直角は、前記角部を構成する2つの辺が交差する角度で言って85~90度の範囲の角度が好ましく、さらに、87~90度の角度であることが好ましい。
【0008】
また、この発明を実施するに当たり、前記第2の辺は、前記2つの角部の間において直線状であることが好ましい。
然も、前記第2の辺の直線状の部分の長さをW1とし、当該水晶片のZ′方向に沿った幅寸法をW0としたとき、W1/W0が0.90以上であることが好ましく、より好ましくは、W1/W0が0.93以上であることが良く、さらに好ましくは0.96以上であることが良い。
また、この発明を実施するに当たり、前記略直角は、前記2つの角部のC面取りの表記で定義した場合であれば、当該C寸法が20μm以下であることが好ましい。
【0009】
また、この出願の圧電デバイスの製造方法の発明によれば、上記したこの出願に係る圧電デバイスを、フォトリソグラフィ技術およびウエットエッチング技術によって製造するに当たり、
前記ウエットエッチング用の耐エッチングマスクであって、前記ATカット水晶片のパタンをマトリクス状に形成する第1マスク部と、前記マトリクスの間で、前記Z′軸に相当する方向に沿って伸び、前記X方向に沿って順次に配列された桟形成用のパタンを形成する第2マスク部と、当該ウエットエッチング後にATカット水晶片を桟に保持するためのブリッジパタンを形成する第3マスク部と、当該ATカット水晶片の前記第2の辺側の角部と前記第3マスク部との間に設けられ第2エッチング完了時には当該箇所の水晶を消失させる所定幅Wを持つ第4マスク部と、を有した耐エッチングマスクを、水晶ウエハに形成する工程と、
前記耐エッチングマスクを形成した水晶ウエハをフッ酸系のウエットエッチング液に所定時間浸漬する第1エッチング工程と、
前記第1エッチングが済んだ水晶ウエハから、前記第1マスク部及び第4マスク部を除去する工程と、
前記第1マスク部と第4マスク部とを除去した水晶ウエハをフッ酸系のウエットエッチング液に所定時間浸漬する当該第2エッチング工程と、
前記第2エッチング工程が済んだ水晶ウエハに励振用電極を形成する工程と、
前記励振用電極の形成が済んだ水晶ウエハから当該ATカット水晶片を個片化する工程と、
前記個片化した当該ATカット水晶片を容器に接続固定する固定と、
を含むことを特徴とする。
【0010】
なお、前記第2エッチング工程の前に実施する耐エッチングマスクの加工工程では、第3マスク部(桟形成用のパタン用のマスク部)は残存させ、第2マスク部(ブリッジパタンを形成用のマスク部)は、第2マスク部の大きさ等に応じて、残存させても除去しても良い。すなわち、ブリッジパタンが大きければ、第2マスク部を除去しても、第2エッチング工程後もブリッジは残存するので、第2マスク部は除去しても良いが、反対に、ブリッジパタンが小さい場合は、第2マスク部を除去せずに残して、第2エッチング工程でブリッジが消失しないように水晶片の該当部分を保護するのが良い。
【発明の効果】
【0011】
この出願に係る圧電デバイスの発明によれば、水晶のZ′軸と交差する側面が所定の第1~第3の面で構成されたATカット水晶片を用いた圧電デバイスについて、先端の角部を残存させて、当該水晶片の平面積を広げたことで、従来に比べCIが改善された圧電デバイスを提供できる。
また、この出願に係る圧電デバイスの製造方法の発明によれば、所定の第1~第4マスク部を具える耐エッチングマスクによって水晶ウエハに当該マスクを形成した後、この水晶ウエハを第1エッチングし、その後、第1マスク部及び第4マスク部除去した状態で、第2エッチングをするので、第2エッチングの際は、水晶片の第4マスク部を除去した部分は徐々に消失するものの水晶片の先端の角部は消失するまでは至らない。このため、水晶片の先端側の平面積が減少することを防止しつつ、第1~第3の面を持つ所望の側面を有した水晶片を容易に製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】(A)、(B)は、実施形態の圧電デバイス10の説明図である。
【
図2】(A)~(C)は、実施形態の圧電デバイス10に具わるATカット水晶片20の説明図である。
【
図3】(A)、(B)は、ATカット水晶片20の特にZ′軸に交差する側面の説明図である。
【
図4】(A)、(B)、(C)は、実施形態の圧電デバイス10の製造方法の要部を説明する図である。
【
図5】(A)、(B)は、実施形態の圧電デバイス10の製造方法の
図4に続く説明図である。
【
図7】(A)は実施例の水晶片を上方から観察したSEM写真、(B)は比較例の水晶片を上方から観察したSEM写真である。
【
図8】(A)は実施例の圧電デバイスのCI分布を示す特性図、(B)は比較例の圧電デバイスのCI分布を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照してこの発明の圧電デバイス及びその製造方法の実施形態について説明する。なお、説明に用いる各図はこれらの発明を理解できる程度に概略的に示してあるにすぎない。また、説明に用いる各図において、同様な構成成分については同一の番号を付して示し、その説明を省略する場合もある。また、以下の説明中で述べる形状、寸法、材質等はこの発明の範囲内の好適例に過ぎない。従って、本発明は以下の実施形態のみに限定されるものではない。
【0014】
1. 圧電デバイスの説明
先ず、
図1~
図3を参照して、実施形態の圧電デバイス10について説明する。ここで、
図1(A)は圧電デバイス10の上面図、
図1(B)は
図1(A)のP-P線に沿った圧電デバイス10の断面図である。なお、
図1(A)では、
図1(B)に具わる蓋部材35の図示を省略してある。また、
図2(A)は実施形態の圧電デバイス10に具わるATカット水晶片20の上面図、
図2(B)は
図2(A)中のP-P線に沿った水晶片20の断面図、
図2(C)は
図2(A)中のQ-Q線に沿った水晶片20の断面図である。また、
図3(A)は、ATカット水晶片20の、水晶のZ′軸と交差する側面を説明する図、図
3(B)は
図3(A)中のN部分を拡大して示した図である。なお、
図2中に示した座標軸X,Y′、Z′は、それぞれATカット水晶片20(以下、水晶片20と略称することもある)での水晶の結晶軸を示す。
【0015】
この実施形態の水晶片20は、平面形状が長方形状で、かつ、その長辺が水晶のX軸に平行で、その短辺が水晶のZ′軸に平行なATカットの水晶片である。
この水晶片20は、その両主面に励振用電極21と引出電極23とを具える。引出電極23は、励振用電極21から、水晶片20の1つの辺である第1の
辺20aの両端付近に、引き出してある。
この水晶片20は、
図1(A)に示したように、容器30の凹部30a内に実装してある。具体的には、この水晶片20は、その第1の辺20a側のかつ第1の辺20aに沿う両端付近で、容器30の支持パッド30bに、例えば導電性接着剤33によって固定してある。従って、水晶片20は、第1の辺20a側で容器30に片持ち保持されている。
容器30としては、例えばセラミック製パッケージを用いることができる。この容器30の外部側の底面には、この圧電デバイス10を他の電子装置に接続するための、外部実装端子30cを設けてある。支持パッド30bと外部実装端子30cとは、図示しないビア配線によって接続してある。
また、容器30の凹部30aを囲む土手部に、好適な蓋部材35を接合して、水晶片20は容器30内に封止されている。
【0016】
さらに、この水晶片20では、水晶のZ′軸に交差する側面は、以下のような構造となっている。
水晶片20の、水晶のZ′軸と交差する側面(Z′面)各々は、
図3(A)、(B)に示したように、第1の面20c,第2の面20dおよび第3の面20eの、3つの面で構成された側面としてある。しかも、第1の面20cは、この水晶片
20の主面20fと交わっている面であり、かつ、主面20fを水晶のX軸を回転軸としてθ1回転させた面に相当する面である。
【0017】
然も、この水晶片20では、第1の面20c、第2の面20dおよび第3の面20eがこの順で交わっている。しかも、第2の面20dは、主面20fを水晶のX軸を回転軸としてθ2回転させた面に相当する面であり、第3の面20eは、主面20fを水晶のX軸を回転軸としてθ3回転させた面に相当する面である。然も2つの側面は水晶片の中心点Oに対し点対称の関係となっている。
そして、上記の角度θ1、θ2、θ3は、この出願人に係る実験から、下記が好ましいことが分かっている。θ1=4°±3.5°、θ2=-57°±5°、θ3=-42°±5°、より好ましくは、θ1=4°±3°、θ2=-57°±3°、θ3=-42°±3°である。
この
図3を用いて説明した側面を持つ水晶片の場合、側面が独特な嘴状になっているため、Z′方向に伝搬する不要な振動を減衰でき、圧電デバイスの特性の改善に寄与できる。なお、この構造に関しては、この出願人に係る、特開2016-197778号公報に記載されているので、ここではその詳細な説明は省略する。
なお、水晶片20の水晶のX軸に沿った断面(P-P線に沿った断面)は、
図2(B)に示したように、X軸方向に沿った両端部側がそれぞれ凸状の形状になっている。
【0018】
さらに、水晶片20は、この発明の特徴として、水晶片20の第2の辺20bの側の2つの角部20x、20yが、平面視したとき、各々、略直角となっている。
具体的には、
図1(A)、
図2(A)に示したように、角部20xを構成する2つの辺である短辺すなわち第2の辺20bと水晶片20の長辺20zとが交差する角度θx、また、角部20yを構成する2つの辺である短辺すなわち第2の辺20bと水晶片20の長辺20zとが交差する角度θyは、それぞれ、平面視したとき85~90度の範囲の角度であることが好ましく、さらに好ましくは、87~90度の範囲が良い。このような角度であると、そうでない場合に比べ、圧電デバイス10のCIを改善できる(詳細は実施例参照)。
なお、角度θxおよびθyは、同じでも異なっても良いが、典型的には、水晶の結晶軸の異方性が原因で、若干異なっている。
また、2つの角部20x、20yの略直角について、2つの角部のC面取りの表記のC寸法の観点から見ると、20μm以下であるのが良い。このようなC寸法であると、そうでない場合に比べ、圧電デバイス10のCIを改善できる(詳細は実施例参照)。
【0019】
さらに水晶片20は、第2の辺20bが2つの角部20x、20yの間において直線状となっている。この第2の辺20bの直線状の部分の長さをW1とし、水晶片20のZ′方向に沿った幅寸法、すなわち水晶片20の中央付近の幅寸法をW0としたとき、W1/W0が0.93以上であることが好ましく、より好ましくは、W1/W0が0.96以上であることが良い。ただし、W1/W0は最大でも1である。W1/W0の値を上記の範囲にすると、そうしない場合に比べ、圧電デバイス10のCIを改善できる(詳細は実施例参照)。
なお、直線状の部分の長さW1は、後述する製造方法において説明する第4のパタンの寸法W(
図4(C)参照)の値や、水晶ウエハをフッ酸系のエッチャントによってエッチングする時間によって変化する。W1/W0は1若しくは1に近い方が好ましいので、第4のパタンの寸法Wの値や、水晶ウエハをフッ酸系のエッチャントによってエッチングする時間は、W1/W0が1に近くなるように設定するのが良い。
【0020】
2.圧電デバイスの製造方法の説明
次に、
図4(A)~(C)、
図5(A)、(B)を参照して、実施形態の圧電デバイス10を製造する好ましい方法について説明する。なお、
図4(A)~(C)は圧電デバイス10に用いる水晶片20を製造する工程の要部を説明する図である。特に
図4(A)は中間状態の水晶ウエハ
20Wを説明する平面図である。
図4(B)は、この水晶ウエハに耐エッチングマスク40を形成した状態を示す図であって、
図4(A)中のM部分を拡大して示した平面図である。
図4(C)は、水晶片20の角部20x、20yを略直角にする手段を説明するための図であって、
図4(B)中のR部分を拡大して示した平面図である。また、
図5(A)、(B)は、
図4(B)の状態から工程が進んだ状態を説明する図である。
【0021】
この出願の製造方法の発明では、フォトリソグラフィ技術およびウエットエッチング技術によって、水晶片20を製造する。
具体的には、ウエットエッチング用の耐エッチングマスク40(
図4(B)参照)であって、ATカット水晶片20のパタンをマトリクス状に形成する第1マスク部40aと、前記マトリクスの間で、前記Z′軸に相当する方向に沿って伸び、前記X方向に沿って順次に配列された桟形成用のパタンを形成する第2マスク部40bと、当該ウエットエッチング後にATカット水晶片を桟に保持するためのブリッジパタンを形成する第3マスク部40cと、当該ATカット水晶片の前記第2の辺側の角部と前記第3マスク部との間に設けられ当該ウエットエッチング完了時には当該箇所の水晶を消失させる所定幅Wを持つ第4マスク部40dと、を有した耐エッチングマスク40を、水晶ウエハ20wに形成する工程を用いる。ここで、第4マスク部40dは、第1マスク部40aの水晶片の先端側の2つの角部に相当する部分と、第2マスク部40bとの間に設ける。
この耐エッチングマスク40は、具体的には、水晶ウエハ20Wの表裏前面に耐エッチング性を持つ金属膜を形成し、その表面にフォトレジストを塗布し、このフォトレジストに対し、上記第1~第4マスク部形成用のホトマスクを用いて露光等をして、その後0、金属膜を選択的に除去して、形成することができる。
なお、第4マスク部40dの水晶のZ′軸に沿う方向の幅W(
図4(C)参照)は、第4マスク部40d下の水晶部分が、後述の第2エッチング工程終了後に、消失するような所定の幅(実施例等参照)としてある。
【0022】
次に、耐エッチングマスク40を形成した水晶ウエハをフッ酸系のウエットエッチング液に所定時間浸漬する、第1エッチング工程を実施する。この第1エッチング工程は、水晶片20の外形を形成するためのものである。
次に、第1エッチングが済んだ水晶ウエハから、前記第1マスク部40aと、第4マスク部40dとを除去する。なお、この実施形態の場合は、第3マスク部40cも除去する。このようなマスク部の加工は、周知のフォトリソグラフィ技術で行える。ただし、既に説明した通り、第3マスク部40cはその大きさが小さい場合は、除去せずに残存させた方が好ましい。
上記の耐エッチングの加工が済むと、第1、第2及び第3マスク部で覆われていた水晶部分が露出する(
図5(A)参照)。
【0023】
次に、第1、第2及び第3マスク部を除去した水晶ウエハをフッ酸系のウエットエッチング液に所定時間浸漬する、第2エッチング工程を実施する。この第2エッチング工程は、水晶片20の、周波数調整のため、および、水晶軸のZ′軸と交差する側面に、所定の第1~第3の面を形成するためのものである。上記の第4マスク部40dの除去で露出された水晶部分は、その幅Wを所定幅としてあったので、この第2エッチングにおいて、消失する。このため、水晶片20の、容器に固定しない側の辺である第2の辺20bの両角部20x、20yは、第2エッチング終了ごろに初めて角部として出現するので、ウエットエッチング後でも角部20x、20yは略直角になり、かつ、第2の辺20bの、これら角部20x、20yの間の部分は直線状になる。
【0024】
この第2エッチング工程が済んだ水晶ウエハに励振用電極及び引出電極を形成し、この励振用電極等の形成が済んだ水晶ウエハから当該ATカット水晶片を個片化し、個片化した水晶片を容器30(
図1参照)に導電性接着剤によって固定し、その後、容器内を所定雰囲気にした状態で容器を蓋部材で封止することにより、この発明に係る圧電デバイスを製造できる。
【0025】
3. 実施例および比較例
次に、
図6、
図7、
図8を参照して実施例及び比較例を説明する。
実施例の圧電デバイスとして、発振周波数が27.12MHz、水晶片20のX寸法が約870μm、水晶片20のZ′寸法が約640μmの水晶片を、上記した製造方法によって複数個製造し、それらを容器に実装し、さらに容器を蓋部材によって封止して実施例の圧電デバイスを複数個製造した。
また、比較例の圧電デバイスとして、周波数、X寸法、Z′寸法は上記実施例と同じであるが、製造の際には第4マスク部40d(
図4(B)参照)を有していない耐エッチングマスクを用いて、比較例の晶片を複数個製造し、それらを容器に実装し、さらに容器を蓋部材によって封止して、比較例の圧電デバイスを複数個製造した。
【0026】
図6は、比較例で用いた水晶片120を示した平面図、
図7(A)は実施例で用いた水晶片20を上方から観察したSEM写真、
図7(B)は比較例で用いた水晶片120を上方から観察したSEM写真である。
図6及び
図7(B)から、比較例で用いた水晶片120は、その先端側、すなわち水晶片の導電性接着剤によって支持する側とは反対側を平面的に見たとき、先端の中央P1から両角部に向かう領域R1、R2各々が略三角形状にエッチングされてしまい、その分だけ水晶片の面積が減少していることが分かる。
一方、実施例で用いた水晶片20は、
図7(A)から、その先端側の両角部20x、20yは略直角になっており、然も、両角部20x、20yの間は直線状になっていることが分かる。すなわち、水晶片20は平面的に見てしっかりとして長方形状のものになっていることが分かる。
【0027】
実施例で用いた複数個の水晶片20について、両角部20x、20yの、上述した角度θx、θy(
図1、
図2参照)測定顕微鏡によって測定したところ、角度θx、θyは85から90度の範囲になっていることが分かり、又、W1は605~632μmの範囲になっていることが分かった。一方、水晶片の中央付近のZ′寸法、すなわち幅寸法W0は640μmが狙い目であるが、実測したところ、638~650μの範囲になっていることが分かった。従って、上記W1、W0各々の実測値から、W1/W0を見積もると、下限は、605/650≒0.93であり、上限は632/638≒0.99であるので、実製品ではW1/W0は、0.93~0.99であると言える。多くは、0.96~0.99であった。
【0028】
また、実施例で用いた複数個の水晶片20および比較例で用いた複数個の水晶片120の各々の先端部の2つの角部について、C面取りの観点によるC寸法を測定顕微鏡によって測定した。すなわち、
図7(A)、(B)に示したSEM写真中の角部でのC面取りの表記で言うC寸法を、測定顕微鏡によって測定した。その結果、実施例の水晶片20の場合は、C寸法は10~18μmであり、いずれも20μm以下であった。一方、比較施例の水晶片120の場合は、C寸法は70~95μmであり、いずれも実施例に比べて7倍~9倍も大きくなっていた。
また、比較例の水晶片120の先端部の直線部分の寸法を測定したところ、その寸法は130~160μm程度と狭いことが分かった。然も、直線状の部分の端から水晶片の角部に向かってなで肩の形状になっていた。
【0029】
また、実施例及び比較例の圧電デバイス各々の電気的特性として、CIを測定した。実施例の圧電デバイスのCIの分布を
図8(A)に示し、比較例の圧電デバイスのCIの分布を
図8(B)に示した。いずれの図も、横軸にCI(Ω)をとり、縦軸に頻度をとって示してある。いずれもサンプル数は12固である。
実施例の圧電デバイスのCIの分布では、平均値が83.5Ω、標準偏差が6.6Ωであり、比較例の圧電デバイスのCIの分布では、平均値が123.6Ω、標準偏差が13.0Ωであった。実施例の方が、CIの平均値で40.1Ω優れており、標準偏差で6.4 Ω優れていた。この結果から、本発明の圧電デバイスが従来に比べて優れることが分かる。
【0030】
このCI測定の結果から、本発明でいう水晶片の先端側の2つの角部が略直角であるとCI改善が図れることが分かる。具体的には、水晶片の先端側の2つの角部の角度θx、θyや、水晶片の先端側の直線状部分の水晶片の幅との比W1/W0や、C寸法が、上記した範囲であると、CI改善に好ましいことが分かる。
4.他の実施形態
上述においては、圧電デバイス及びその製造方法の各発明の実施形態について説明したが、本発明は上記例に限られなし。例えば、用いる容器は上記例に限られず、例えば、平板状のベースと、水晶片を収納する凹部を持つキャップ状の蓋部材とから成る容器を用いた圧電デバイス等、他の構造の圧電デバイスに対しても本発明を適用できる。また、適用できる周波数や水晶片の大きさも上記の例に限られない。水晶片の小型化が進めば進むほど、本発明の貢献度は高まる。
【符号の説明】
【0031】
10:実施形態の圧電デバイス、 20:実施形態の水晶片
20a:第1の辺、 20b:第2の辺
20c:第1の面、 20d:第2の面
20e:第3の面、 20f:主面
20x、20y:角部、 20W:3水晶ウエハ
30:容器
40:耐エッチングマスク、 40a:第1マスク部
40b:第2マスク部、 40c:第3マスク部
40d:第4マスク部、 120:比較例の圧電デバイス
C:C面取りの表記のC寸法