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特許7396862工作機械の制御装置および工作機械の制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-04
(45)【発行日】2023-12-12
(54)【発明の名称】工作機械の制御装置および工作機械の制御方法
(51)【国際特許分類】
   G05B 19/416 20060101AFI20231205BHJP
   B23Q 15/00 20060101ALI20231205BHJP
   G05B 19/18 20060101ALI20231205BHJP
   B23G 1/16 20060101ALI20231205BHJP
【FI】
G05B19/416 K
B23Q15/00 303B
G05B19/18 C
B23G1/16 D
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019201367
(22)【出願日】2019-11-06
(65)【公開番号】P2021076955
(43)【公開日】2021-05-20
【審査請求日】2022-07-20
(73)【特許権者】
【識別番号】390008235
【氏名又は名称】ファナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118913
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 邦生
(74)【代理人】
【識別番号】100142789
【弁理士】
【氏名又は名称】柳 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100163050
【弁理士】
【氏名又は名称】小栗 眞由美
(74)【代理人】
【識別番号】100201466
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】竹内 直也
(72)【発明者】
【氏名】高原 徹志
【審査官】亀田 貴志
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-120310(JP,A)
【文献】特開平09-085535(JP,A)
【文献】特開2003-181722(JP,A)
【文献】特開2009-237929(JP,A)
【文献】特開2009-282829(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 19/18 - 19/46
B23Q 15/00
B23G 1/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークを保持するテーブルと、タップ加工用の工具を保持する主軸と、前記テーブルおよび前記主軸を該主軸の長手軸に平行な第1方向に相対移動させる第1送りモータと、前記テーブルおよび前記主軸を前記長手軸に交差する第2方向に相対移動させる第2送りモータと、前記主軸を前記長手軸回りに回転させる主軸モータとを備える工作機械の制御装置であって、
前記第1送りモータを制御して前記工具の先端を前記ワークから退避した退避点と前記ワークの所定の深さ位置との間で移動させ、前記第2送りモータを制御して前記ワークの複数のタップ位置のそれぞれを前記工具に対して位置決めし、前記主軸モータを制御して前記工具の回転を制御する制御部を備え、
該制御部は、
前記工具を正方向に回転させながら前記工具の先端を前記退避点から前記所定の深さ位置まで移動させることによって一の前記タップ位置にタップ加工を施すタップ工程と、
前記工具を逆方向に回転させながら前記工具の先端を前記所定の深さ位置から前記退避点まで停止させることなく移動させることによって前記工具を前記ワークから引き抜く引き抜き工程と、
次の前記タップ位置を前記工具に対して位置決めすると共に、前記工具の回転方向を前記逆方向から前記正方向に切り替える位置決め工程と、を順番に繰り返し、
さらに、前記制御部は、
前記引き抜き工程において前記工具の先端が前記ワークと前記退避点との間の基準点を通過すると同時に前記位置決め工程の前記ワークおよび前記工具の相対移動を開始し、
前記タップ工程において前記工具の先端が前記基準点を通過すると同時に前記位置決め工程の前記ワークおよび前記工具の相対移動を完了し、
前記一のタップ位置から前記次のタップ位置までの前記第2方向の距離に基づいて、前記タップ工程における前記ワークおよび前記工具の相対移動の加速の完了のタイミングと、前記引き抜き工程における前記ワークおよび前記工具の相対移動の減速の開始のタイミングとを制御する、工作機械の制御装置。
【請求項2】
前記タップ工程および前記引き抜き工程において、前記制御部は、前記ワークおよび前記工具の前記第1方向の相対速度を切削送り速度まで加速し、前記ワークおよび前記工具を前記切削送り速度で相対移動させ、前記ワークおよび前記工具の前記第1方向の相対速度を前記切削送り速度から減速させる、請求項1に記載の工作機械の制御装置。
【請求項3】
前記タップ工程における加速時間の長さと前記引き抜き工程における減速時間の長さとの合計が前記位置決め工程の位置決め時間の長さ以下である場合、
前記制御部は、
前記引き抜き工程において、前記工具の先端が前記基準点を通過すると同時に前記ワークおよび前記工具の前記第1方向の相対速度の減速を開始し、
前記タップ工程において、前記工具の先端が前記基準点を通過すると同時に前記ワークおよび前記工具の前記第1方向の相対速度の加速を完了する、請求項1または請求項2に記載の工作機械の制御装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記タップ工程における前記ワークおよび前記工具の前記第1方向の加速度および前記引き抜き工程における前記ワークおよび前記工具の前記第1方向の減速度をそれぞれ、サイクルタイムが増大しない範囲内で最大加速度および最大減速度よりも低減する、請求項3に記載の工作機械の制御装置。
【請求項5】
前記タップ工程における加速時間の長さと前記引き抜き工程における減速時間の長さとの合計が前記位置決め工程の位置決め時間の長さよりも長い場合、
前記制御部は、
前記引き抜き工程において、前記工具の先端が前記基準点を通過する前に前記ワークおよび前記工具の前記第1方向の相対移動の減速を開始し、
前記タップ工程において、前記工具の先端が前記基準点を通過した後に前記ワークおよび前記工具の前記第1方向の相対速度の加速を完了する、請求項1または請求項4に記載の工作機械の制御装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記工具の先端が前記引き抜き工程において前記基準点を通過してから次の前記タップ工程において前記基準点を通過するまでの時間の長さが、前記位置決め時間の長さと同一となるように、前記引き抜き工程における前記減速の開始のタイミングを制御する、請求項5に記載の工作機械の制御装置。
【請求項7】
ワークを保持するテーブルと、タップ加工用の工具を保持する主軸と、前記テーブルおよび前記主軸を該主軸の長手軸に平行な第1方向に相対移動させる第1送りモータと、前記テーブルおよび前記主軸を前記長手軸に交差する第2方向に相対移動させる第2送りモータと、前記主軸を前記長手軸回りに回転させる主軸モータとを備える工作機械の制御方法であって、
前記第1送りモータを制御して前記工具の先端を前記ワークから退避した退避点と前記ワークの所定の深さ位置との間で移動させ、前記第2送りモータを制御して前記ワークの複数のタップ位置のそれぞれを前記工具に対して位置決めし、前記主軸モータを制御して前記工具の回転を制御する制御方法であり、
前記工具を正方向に回転させながら前記工具の先端を前記退避点から前記所定の深さ位置まで移動させることによって一の前記タップ位置にタップ加工を施すタップ工程と、
前記工具を逆方向に回転させながら前記工具の先端を前記所定の深さ位置から前記退避点まで停止させることなく移動させることによって前記工具を前記ワークから引き抜く引き抜き工程と、
次の前記タップ位置を前記工具に対して位置決めすると共に、前記工具の回転方向を前記逆方向から前記正方向に切り替える位置決め工程と、を順番に繰り返し、
さらに、
前記引き抜き工程において前記工具の先端が前記ワークと前記退避点との間の基準点を通過すると同時に前記位置決め工程の前記ワークおよび前記工具の相対移動を開始し、
前記タップ工程において前記工具の先端が前記基準点を通過すると同時に前記位置決め工程の前記ワークおよび前記工具の相対移動を完了し、
前記一のタップ位置から前記次のタップ位置までの前記第2方向の距離に基づいて、前記タップ工程における前記ワークおよび前記工具の相対移動の加速の完了のタイミングと、前記引き抜き工程における前記ワークおよび前記工具の相対移動の減速の開始のタイミングとを制御する、工作機械の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械の制御装置および工作機械の制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ワークにタップ加工を行う工作機械が知られている(例えば、特許文献1から3参照。)。特許文献3には、ワークに対して工具を滑らかに連続する経路に沿って移動させることによってタップ加工のサイクルタイムを短縮することができる工作機械の制御方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-187799号公報
【文献】特開2011-073069号公報
【文献】特開平09-120310号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ワークの複数のタップ位置に順番にタップ加工を行う場合、タップ位置間の距離等の加工条件に応じて、サイクルタイムの向上に適した工具の移動の制御は異なる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一態様は、ワークを保持するテーブルと、タップ加工用の工具を保持する主軸と、前記テーブルおよび前記主軸を該主軸の長手軸に平行な第1方向に相対移動させる第1送りモータと、前記テーブルおよび前記主軸を前記長手軸に交差する第2方向に相対移動させる第2送りモータと、前記主軸を前記長手軸回りに回転させる主軸モータとを備える工作機械の制御装置であって、前記第1送りモータを制御して前記工具の先端を前記ワークから退避した退避点と前記ワークの所定の深さ位置との間で移動させ、前記第2送りモータを制御して前記ワークの複数のタップ位置のそれぞれを前記工具に対して位置決めし、前記主軸モータを制御して前記工具の回転を制御する制御部を備え、該制御部は、前記工具を正方向に回転させながら前記工具の先端を前記退避点から前記所定の深さ位置まで移動させることによって一の前記タップ位置にタップ加工を施すタップ工程と、前記工具を逆方向に回転させながら前記工具の先端を前記所定の深さ位置から前記退避点まで停止させることなく移動させることによって前記工具を前記ワークから引き抜く引き抜き工程と、次の前記タップ位置を前記工具に対して位置決めすると共に、前記工具の回転方向を前記逆方向から前記正方向に切り替える位置決め工程と、を順番に繰り返し、さらに、前記制御部は、前記引き抜き工程において前記工具の先端が前記ワークと前記退避点との間の基準点を通過すると同時に前記位置決め工程の前記ワークおよび前記工具の相対移動を開始し、前記タップ工程において前記工具の先端が前記基準点を通過すると同時に前記位置決め工程の前記ワークおよび前記工具の相対移動を完了し、前記一のタップ位置から前記次のタップ位置までの前記第2方向の距離に基づいて、前記タップ工程における前記ワークおよび前記工具の相対移動の加速の完了のタイミングと、前記引き抜き工程における前記ワークおよび前記工具の相対移動の減速の開始のタイミングとを制御する、工作機械の制御装置である。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】一実施形態に係る工作機械の概略構成図である。
図2】一実施形態に係る工作機械の制御方法によるワークおよび工具の相対移動を説明する図である。
図3】第1制御モードにおける、ワークに対する工具の移動経路と工具の移動速度とを説明する図である。
図4】第2制御モードにおける、ワークに対する工具の移動経路と工具の移動速度とを説明する図である。
図5】第1制御モードにおける主軸(Z軸)およびテーブル(X軸)の速度および位置の時間変化を表すグラフである。
図6】第2制御モードにおける主軸(Z軸)およびテーブル(X軸)の速度および位置の時間変化を表すグラフである。
図7】第1制御モードにおける、ワークに対する工具の移動経路と工具の移動速度との変形例を説明する図である。
図8】比較例における主軸(Z軸)およびテーブル(X軸)の速度および位置の時間変化を表すグラフである。
図9】他の比較例における主軸(Z軸)およびテーブル(X軸)の速度および位置の時間変化を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下に、一実施形態に係る工作機械1について図面を参照して説明する。
工作機械1は、例えば、複数の工具を収納する工具マガジンと、一の工具を保持する主軸とを備え、工具マガジンと主軸との間で工具を自動交換する機能を有するマシニングセンタである。
【0008】
工作機械1は、図1に示されるように、工具Tを保持する主軸2と、ワークWを保持するテーブル3と、主軸2を該主軸2の長手軸回りに回転させる主軸モータ4と、主軸2をテーブル3に対してZ方向(第1方向)に移動させるZ軸送りモータ(第1送りモータ)5と、テーブル3を主軸2に対してX方向(第2方向)に移動させるX軸送りモータ(第2送りモータ)6と、モータ4,5,6を制御する制御装置7とを備える。
Z方向は、主軸2の長手軸に平行な方向であり、X方向は、主軸2の長手軸に直交する方向である。
【0009】
主軸2は、鉛直方向に配置され、図示しない支持機構によって鉛直方向に移動可能に支持されている。したがって、図1の工作機械1において、Z方向は鉛直方向であり、X方向は水平方向である。主軸2は、下端部に工具Tを保持している。工具Tは、図2に示されるように、ワークWに形成された下穴Hにねじを切るタップ加工用である。工具Tは、主軸2と同軸であり、主軸2と一体的に回転し移動する。
テーブル3は、主軸2の下方に水平に配置されている。テーブル3の上面上に載置されたワークWは、図示しない治具によってテーブル3に固定されている。
【0010】
主軸モータ4は、主軸2の上端に接続されたスピンドルモータである。
Z軸送りモータ5およびX軸送りモータ6は、それぞれサーボモータである。テーブル3をY方向に移動させるためのY軸送りモータがさらに設けられていてもよい。Y方向は、Z方向およびX方向に直交する水平方向である。
【0011】
制御装置7は、例えば、数値制御装置である。制御装置7は、記憶部7aおよび制御部7bを有する。
記憶部7aは、例えば、RAM、ROMおよびその他の記憶装置を有する。記憶部7aには、図2に示されるように、ワークWの複数のタップ位置Pi(i=1,2,…,n,n+1,…)の下穴Hに順番にタップ加工を行うための加工プログラムが格納されている。タップ位置Piは、相互に間隔ΔPを空けてX方向に配列している。
【0012】
制御部7bは、中央演算処理装置のようなプロセッサを有する。制御部7bは、加工プログラムに従ってモータ4,5,6に制御指令を送信することによって、主軸2およびテーブル3の動作を制御し、複数のタップ位置Piの下穴Hに順番に工具Tによるタップ加工を実行させる。
【0013】
具体的には、制御部7bは、主軸モータ4を制御することによって、主軸2および工具Tの回転方向および回転速度を制御する。
また、制御部7bは、Z軸送りモータ5を制御することによって、工具Tの先端を所定のR’点(退避点)と、下穴Hの底に相当するワークWの所定の深さ位置との間で往復移動させるように、主軸2を繰り返しZ方向に下降および上昇させる。R’点は、ワークWの上面よりも上方の位置であり、各タップ位置Piのタップ加工後に工具Tの先端が退避する位置である。
また、制御部7bは、X軸送りモータ6を制御することによって、複数のタップ位置Piのそれぞれを工具Tの鉛直下方に位置決めするように、テーブル3を繰り返しX方向に移動および一時停止させる。
【0014】
次に、加工プログラムに従った制御部7bによるモータ4,5,6の制御方法について詳細に説明する。
制御部7bは、図2に示されるように、タップ工程S1、引き抜き工程S2および位置決め工程S3を順番に繰り返す。図2には、後述する第1制御モードでのワークWに対する工具Tの相対移動の経路が示されている。
【0015】
タップ工程S1において、制御部7bは、一のタップ位置Pnが工具Tに対してX方向に位置決めされた状態で主軸2を正方向に回転させながら主軸2を下降させ、正方向に回転する工具Tの先端をR’点から所定の深さ位置まで下降させる。これにより、一のタップ位置Pnの下穴Hにタップ加工が施される。
【0016】
ここで、制御部7bは、工具Tの先端がR’点からの移動を開始すると同時に主軸2のZ方向の加速を開始して主軸2を切削送り速度まで加速する。続いて、制御部7bは、主軸2を切削送り速度で下降させ、その後、所定の深さ位置において工具Tの先端のZ方向の速度がゼロになるように主軸2をZ方向に切削送り速度から減速させる。切削送り速度は、主軸2の回転数および工具Tのピッチによって決まる。例えば、切削送り速度は、主軸2の最高回転数に対応する速度である。
また、制御部7bは、主軸2のZ方向の加速と同期して主軸2の回転を加速し、主軸2のZ方向の減速と同期して主軸2の回転を減速させる。
【0017】
次に、引き抜き工程S2において、制御部7bは、工具Tの先端が所定の深さ位置に達したときに主軸2の回転を停止させ、その後、主軸2を逆方向に回転させる。続いて、制御部7bは、主軸2を逆方向に回転させながら主軸2を上昇させ、工具TのZ方向の移動を一度も停止させることなく、工具Tの先端を所定の深さ位置からR点まで上昇させる。これにより、工具Tは、下穴Hから抜かれ、工具Tの先端がワークWと干渉しない高さまで退避する。
【0018】
ここで、制御部7bは、工具Tの先端が所定の深さ位置からの移動を開始すると同時に主軸2のZ方向の加速を開始して主軸2を切削送り速度まで加速する。続いて、制御部7bは、主軸2を切削送り速度で上昇させ、その後、R’点において工具Tの先端のZ方向の速度がゼロになるように主軸2をZ方向に切削送り速度から減速させる。
また、制御部7bは、主軸2のZ方向の加速と同期して主軸2の回転を加速し、主軸2のZ方向の減速と同期して主軸2の回転を減速させる。
【0019】
次に、位置決め工程S3において、制御部7bは、テーブル3を早送りでX方向に移動させ、工具Tの鉛直下方に次のタップ位置Pn+1を位置決めする。また、制御部7bは、主軸2の回転方向を逆方向から正方向に切り替える。
早送りにおいて、X軸送りモータ6は、早送り速度でテーブル3をX方向に移動させる。早送り速度は、X軸送りモータ6が達成することができるテーブル3の最高速度である。また、早送りにおいて、X軸送りモータ6は、X軸送りモータ6の最大加速度でテーブル3を早送り速度まで加速させ、X軸送りモータ6の最大減速度でテーブル3を早送り速度から減速させる。
【0020】
また、制御部7bは、引き抜き工程S2の終了前に位置決め工程S3を開始する。
具体的には、制御部7bは、引き抜き工程S2において上昇する工具Tの先端が所定のR点(基準点)を通過すると同時に、位置決め工程S3のテーブル3の移動を開始させる。R点は、ワークWの上面とR’点との間の位置であり、ワークWの上面よりも上方の位置である。例えば、ワークWの上面とR点との間のZ方向の間隔は、1mm~5mmである。これにより、工具Tの先端がR点からR’点に到達するまで主軸2のZ方向の移動およびテーブル3のX方向の移動が時間的にオーバラップし、R点からR’点までの間のワークWに対する工具Tの先端の移動経路は、円弧状または略円弧状となる。
【0021】
また、制御部7bは、位置決め工程S3の終了前に次のタップ工程S1を開始する。
具体的には、制御部7bは、次のタップ工程S1において下降する工具Tの先端がR点を通過すると同時に位置決め工程S3のタップ位置Pn+1の位置決めが完了するように、工具Tの下降を開始させる。これにより、工具Tの先端がR’点からR点に到達するまでテーブル3のX方向の移動および主軸2のZ方向の移動が時間的にオーバラップし、R’点からR点までの間のワークWに対する工具Tの先端の移動経路は、円弧状または略円弧状となる。
また、制御部7bは、タップ工程S1において工具Tが正方向に回転しながら工具Tの先端がR点を通過するように、位置決め工程S3において、主軸2の回転方向を制御する。
【0022】
さらに、制御部7bは、図3および図4に示されるように、タップ工程S1における主軸2のZ方向の加速の完了のタイミングと、引き抜き工程S2における主軸2のZ方向の減速の開始のタイミングとを、タップ位置Pn,Pn+1間のX方向の距離ΔPに基づいて、第1制御モードおよび第2制御モードのいずれかで制御する。このように距離ΔPに応じた制御モードを使用することによって、距離ΔPに関わらず、前述した円弧状または略円弧状の移動軌跡を実現することができる。
第1制御モードおよび第2制御モードのいずれを選択するかは、例えば、加工プログラムに基づいて制御部7bによって自動で決定されるか、または、ユーザによって決定され制御装置7に設定される。
【0023】
図3および図4において、実線の矢印は、一定の切削送り速度での工具Tの移動軌跡を表し、破線の矢印は、減速中の工具Tの移動軌跡を表し、一点鎖線の矢印は、加速中の工具Tの移動軌跡を表している。
図5は、第1制御モードにおける主軸2(Z軸)およびテーブル3(X軸)の速度および位置の時間変化を表している。図6は、第2制御モードにおける主軸2(Z軸)およびテーブル3(X軸)の速度および位置の時間変化を表している。図5および図6において、横軸は時間である。
【0024】
第1制御モードは、図3に示されるように、タップ位置Pn,Pn+1間の距離ΔPが比較的遠い場合に選択される。具体的には、第1制御モードは、タップ工程S1での主軸2のZ方向の加速時間の長さと引き抜き工程S2での主軸2のZ方向の減速時間の長さとの合計が、位置決め工程S3の位置決め時間の長さ以下である場合に選択される。
【0025】
主軸2のZ方向の減速時間は、主軸2の速度が切削送り速度からゼロまで所定の減速度で減速するのに要する時間である。所定の減速度は、例えば、Z軸送りモータ5の最大減速度である。主軸2のZ方向の加速時間は、主軸2の速度がゼロから切削送り速度まで所定の加速度で加速するのに要する時間である。所定の加速度は、例えば、Z軸送りモータ5の最大加速度である。
位置決め時間の長さは、位置決め工程S3において、テーブル3が移動を開始してから、次のタップ位置Pn+1が工具Tに対して位置決めされてテーブル3が停止するまでの時間の長さである。
【0026】
第1制御モードにおいて、制御部7bは、引き抜き工程S2において、工具Tの先端がR点を通過すると同時に主軸2のZ方向の減速を開始する。また、制御部7bは、タップ工程S1において、工具Tの先端がR点を通過すると同時に主軸2のZ方向の加速を完了する。
【0027】
第2制御モードは、図4に示されるように、タップ位置Pn,Pn+1間の距離ΔPが比較的近い場合に選択される。具体的には、第2制御モードは、タップ工程S1での主軸2のZ方向の加速時間の長さと引き抜き工程S2での主軸2のZ方向の減速時間の長さとの合計が、位置決め工程S3の位置決め時間の長さよりも長い場合に選択される。
【0028】
第2制御モードにおいて、制御部7bは、引き抜き工程S2において、工具Tの先端がR点を通過する前に主軸2のZ方向の減速を開始する。また、制御部7bは、タップ工程S1において、工具Tの先端がR点を通過した後に主軸2のZ方向の加速を完了する。距離ΔPが短い程、減速を開始するタイミングは早くなる。好ましくは、制御部7bは、工具Tの先端が引き抜き工程S2においてR点を通過してから次のタップ工程S1においてR点を通過するまでの時間の長さが、位置決め時間の長さと同一となるように、引き抜き工程S2における主軸2の減速の開始のタイミングを制御する。
【0029】
次に、工作機械1の作用について説明する。
制御部7bは、X軸送りモータ6によってテーブル3のX方向の移動と一時停止とを繰り返すことによって、ワークWの複数のタップ位置Piを順番に工具Tの鉛直下方に位置決めする。また、制御部7bは、主軸モータ4によって主軸2および工具Tを回転させながら、テーブル3の動作と同期させて、Z軸送りモータ5によって主軸2のZ方向の下降と上昇とを繰り返す。これにより、複数のタップ位置Piの下穴Hに順番に工具Tによってタップ加工が施される。
【0030】
ここで、工具Tの先端がR’点とRとの間でZ方向に移動する期間において、主軸2のZ方向の移動とテーブル3のX方向の移動とが時間的にオーバラップする。これにより、引き抜き工程S2が全て終了した後に次の位置決め工程S3を開始し、位置決め工程S3が全て終了した後にタップ工程S1を開始する場合と比較して、サイクルタイムの短縮を図ることができる。
【0031】
また、上昇する主軸2の減速のタイミングおよび下降する主軸2の加速の完了のタイミングが、タップ位置Pn,Pn+1間の距離ΔPに応じた制御モードで制御される。このような制御によって、距離ΔPに関わらず、タップ位置Pnからタップ位置Pn+1までのワークWに対する工具Tの移動軌跡が滑らかに連続する、すなわち、工具Tが一時停止することなくタップ位置Pnからタップ位置Pn+1までワークWに対して移動する。これにより、距離ΔPに関わらずテーブル3を常に早送りで移動させることができ、サイクルタイムのさらなる短縮を図ることができる。
【0032】
図8は、図3の第1制御モードによる制御方法の比較例を示し、図9は、図4の第2制御モードによる制御方法の比較例を示している。
図8において、引き抜き工程S2の終了と同時に位置決め工程S3が開始し、位置決め工程S3の終了と同時にタップ工程S1が開始する。
図9において、引き抜き工程S2において、工具Tの先端がR点を通過すると同時に主軸2の減速が開始し、タップ工程S1において、工具の先端がR点を通過すると同時に主軸2の加速が完了する。
図3図8との比較および図4図9との比較から、本実施形態の第1制御モードおよび第2制御モードによってサイクルタイムが短縮されることが分かる。
【0033】
また、ワークWの上面よりも上方にR点が設定され、R点よりも上方において工具Tの先端の移動経路が円弧状または略円弧状になる。これにより、ワークWの厚さのばらつきに関わらず、円弧状または略円弧状の経路に沿って移動する工具Tの先端が下穴Hの開口部の角と干渉することを防止することができる。
【0034】
上記実施形態において、第1制御モードでのR点とR’点との間での主軸2のZ方向の加速度および減速度をそれぞれ、サイクルタイムが増大しない範囲内で最大加速度および最大減速度よりも低減してもよい。
減速度が最大減速度よりも小さい場合、主軸2の減速距離が長くなるため、R点とR’点との間のZ方向の距離はより大きくなり、工具Tの先端はより上方の位置まで退避する。
加速度および減速度が大きい程、加速時および減速時のZ軸送りモータ5の消費電力および発熱が大きくなる。主軸2の加速度および減速度を低減することによって、Z軸送りモータ5の消費電力および発熱を抑制することができる。
【0035】
例えば、図2において、タップ位置Pn,Pn+1間に、主軸2がテーブル3に対してX方向に直線移動する期間が存在する。一方、図7に示されるように、低減された減速度で主軸2を減速し、その後、低減された加速度で直ちに主軸2の加速を開始したとしても、サイクルタイムは図2の場合と同じである。
【0036】
R点とR’点との間での減速度および加速度は、例えば、図7に示されるように、R点とR’点との間でのワークWに対する工具Tの移動経路が、直線を含まず、滑らかな円弧状または略円弧状の曲線になるように、決定される。これにより、減速と加速との間で主軸2の移動速度を、サイクルタイムの延長を引き起こさない範囲で最大限緩やかに変化させ、消費電力および発熱をより効果的に抑制することができる。
【0037】
上記実施形態において、第2方向がX方向であることとしたが、第2方向は、Z方向に直交する任意の方向であってもよい。すなわち、第2方向は、Y方向であってもよく、または、XおよびYの両方向であってもよい。
一例として、複数のタップ位置PiがY方向に配列する場合、制御部7bは、位置決め工程S3において、Y軸送りモータ(第2送りモータ)を制御し、テーブル3をY方向に移動させてもよい。
他の例として、複数のタップ位置PiがX方向およびY方向に2次元的に配列する場合、制御部7bは、位置決め工程S3において、X軸送りモータ6およびY軸送りモータの両方を同時に制御し、テーブル3をX方向およびY方向の両方に移動させてもよい。
【0038】
上記実施形態において、テーブル3が、主軸2の長手軸に交差するX方向およびY方向に移動することとしたが、主軸2およびテーブル3のX方向およびY方向の相対移動は、主軸2およびテーブル3のいずれか一方または両方の移動によって達成されればよい。同様に、上記実施形態において、主軸2が、主軸2の長手軸に平行なZ方向に移動することとしたが、主軸2およびテーブル3のZ方向の相対移動は、主軸2およびテーブル3のいずれか一方または両方の移動によって達成されればよい。
例えば、送りモータ5,6に代えて、テーブル3をZ方向に移動させる第1送りモータと、主軸2をX方向およびY方向に移動させる第2送りモータとが設けられていてもよい。
【0039】
また、上記実施形態において、第1方向が鉛直方向(Z方向)であり、第2方向が水平方向(X方向およびY方向)であることとしたが、第1方向および第2方向の具体的な方向は工作機械の仕様に応じて適宜変更可能である。例えば、主軸2が水平に配置される工作機械の場合、第1方向が水平方向であり、第2方向が、第1方向に交差する任意の方向であってもよい。
【符号の説明】
【0040】
1 工作機械
2 主軸
3 テーブル
4 主軸モータ
5 Z軸送りモータ(第1送りモータ)
6 X軸送りモータ(第2送りモータ)
7b 制御部
H 下穴
Pn,Pn+1 タップ位置
R’ 退避点
R 基準点
T 工具
W ワーク
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9