(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-04
(45)【発行日】2023-12-12
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
C08L 15/00 20060101AFI20231205BHJP
C08L 9/00 20060101ALI20231205BHJP
C08K 3/06 20060101ALI20231205BHJP
B60C 1/00 20060101ALI20231205BHJP
【FI】
C08L15/00
C08L9/00
C08K3/06
B60C1/00 Z
(21)【出願番号】P 2019239131
(22)【出願日】2019-12-27
【審査請求日】2022-10-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003395
【氏名又は名称】弁理士法人蔦田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】内田 絢菜
【審査官】武貞 亜弓
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-145342(JP,A)
【文献】特開2020-078967(JP,A)
【文献】特開2021-075711(JP,A)
【文献】国際公開第2018/110413(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00- 101/14
C08K 3/00- 13/08
B60C 1/00- 19/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ビニル-共役ジエン共重合体が水素添加された水添共重合体であって、ゲル浸透クロマトグラフィーにより測定された重量平均分子量が30万以上であり、共役ジエン部の水素添加率が80モル%以上である水添共重合体を70~100質量%含むゴム成分と、硫黄とを含有するゴム部材Aと、
ジエン系ゴムを含むゴム成分と硫黄とを含有するゴム部材Bとを有し、
前記ゴム部材Aと前記ゴム部材Bとが界面を持って接しており、
前記ゴム部材Aの硫黄含有量が0.25vol%以上であり、前記ゴム部材Bの硫黄含有量が0.25vol%以上であり、前記ゴム部材Aの硫黄含有量と前記ゴム部材Bの硫黄含有量との合計が0.7vol%以上であ
り、
前記ゴム部材Aが、更にグアニジン系加硫促進剤とジチオカルバミン酸塩系加硫促進剤とを含有し、グアニジン系加硫促進剤とジチオカルバミン酸塩系加硫促進剤との含有割合(グアニジン系加硫促進剤/ジチオカルバミン酸塩系加硫促進剤)が質量比で0.5~3.0である、空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記ゴム部材Bのゴム成分中に含まれるジエン系ゴムの含有量が、70~100質量%である、請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りタイヤに関するものである。
【背景技術】
【0002】
高強度で耐摩耗性に優れるゴム材料として、水添共重合体を使用することが知られている。しかしながら、水添共重合体は二重結合が水添され、架橋点が少ないために、他のゴム部材との接着性が悪く、タイヤの成型工程において、部材同士が剥離するなどの不良が生じ易いという問題があった。
【0003】
接着性を改善する方法として、引用文献1では過酸化物を用いることが記載され、引用文献2では特定の構造を有するスルフェンアミド系加硫促進剤を用いることが記載されている。
【0004】
しかしながら、引用文献1,2に記載の方法を、水添共重合体を配合したゴム組成物に適用した場合、加硫速度を調整する必要が生じ、また、水添共重合体が持つ高強度性が損なわれるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2011-105848号公報
【文献】特開2010-150502号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、以上の点に鑑み、水添共重合体が持つ高強度性を維持しつつ、水添共重合体を含有するゴム部材と、ジエン系ゴムを含有するゴム部材との接着性に優れた空気入りタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る空気入りタイヤは、上記課題を解決するために、芳香族ビニル-共役ジエン共重合体が水素添加された水添共重合体であって、ゲル浸透クロマトグラフィーにより測定された重量平均分子量が30万以上であり、共役ジエン部の水素添加率が80モル%以上である水添共重合体を70~100質量%含むゴム成分と、硫黄とを含有するゴム部材Aと、ジエン系ゴムを含むゴム成分と硫黄とを含有するゴム部材Bとを有し、上記ゴム部材Aと上記ゴム部材Bとが界面を持って接しており、上記ゴム部材Aの硫黄含有量が0.25vol%以上であり、上記ゴム部材Bの硫黄含有量が0.25vol%以上であり、上記ゴム部材Aの硫黄含有量と上記ゴム部材Bの硫黄含有量との合計が0.7vol%以上であるものとする。
【0008】
上記ゴム部材Bのゴム成分中に含まれるジエン系ゴムの含有量は、70~100質量%であるものとすることができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、水添共重合体が持つ高強度性を維持しつつ、水添共重合体を含有するゴム部材と、ジエン系ゴムを含有するゴム部材との接着性に優れた空気入りタイヤを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施に関連する事項について詳細に説明する。
【0011】
[ゴム部材A]
本実施形態に係るゴム部材Aのゴム成分は、芳香族ビニル-共役ジエン共重合体が水素添加された水添共重合体であって、ゲル浸透クロマトグラフィーにより測定された重量平均分子量が30万以上であり、共役ジエン部の水素添加率が80モル%以上である水添共重合体を含むものである。ここで、本明細書において、「ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により測定された重量平均分子量」とは、検出器として示差屈折率検出器(RI)を用い、溶媒としてテトラヒドロフラン(THF)を用い、測定温度を40℃、流量を1.0mL/min、濃度を1.0g/L、注入量を40μLとし、市販の標準ポリスチレンを用いてポリスチレン換算で算出した値とする。また、水素添加率は、H1-NMRを測定して得られたスペクトルの不飽和結合部のスペクトル減少率から計算した値とする。
【0012】
上記芳香族ビニル-共役ジエン共重合体を構成する芳香族ビニルとしては、特に限定されないが、例えばスチレン、α-メチルスチレン、1-ビニルナフタレン、3-ビニルトルエン、エチルビニルベンゼン、ジビニルベンゼン、4-シクロヘキシルスチレン、2,4,6-トリメチルスチレンなどが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0013】
上記芳香族ビニル-共役ジエン共重合体を構成する共役ジエンとしては、特に限定されないが、例えば1,3-ブタジエン、イソプレン、1,3-ペンタジエン、2,3-ジメチルブタジエン、2-フェニル-1,3-ブタジエン、1,3-ヘキサジエンなどが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0014】
上記芳香族ビニル-共役ジエン共重合体は、特に限定されないが、スチレン及び1,3-ブタジエンの共重合体(スチレンブタジエン共重合体)であることが好ましい。従って、水添共重合体としては、水添スチレンブタジエン共重合体であることが好ましい。また、水添共重合体は、ランダム共重合体であっても、ブロック共重合体であっても、交互共重合体であってもよい。
【0015】
上記水添共重合体は、例えば、芳香族ビニル-共役ジエン共重合体を合成し、水素添加処理を行うことで合成することができる。芳香族ビニル-共役ジエン共重合体の合成方法は、特に限定されないが、溶液重合法、気相重合法、バルク重合法等を挙げることができ、特に溶液重合法が好ましい。また、重合形式は、回分式及び連続式のいずれであってもよい。なお、芳香族ビニル-共役ジエン共重合体は市販のものを使用することも可能である。
【0016】
水素添加の方法は、特に限定されず、公知の方法、公知の条件で水素添加すればよい。通常は、20~150℃、0.1~10MPaの水素加圧下、水添触媒の存在下で実施される。なお、水素添加率は、水添触媒の量、水添反応時の水素圧力、反応時間等を変えることにより、任意に選定することができる。水添触媒として、通常は、元素周期表4~11族金属のいずれかを含む化合物を用いることができる。例えば、Ti、V、Co、Ni、Zr、Ru、Rh、Pd、Hf、Re、Pt原子を含む化合物を水添触媒として用いることができる。より具体的な水添触媒としては、Ti、Zr、Hf、Co、Ni、Pd、Pt、Ru、Rh、Re等のメタロセン系化合物;Pd、Ni、Pt、Rh、Ru等の金属をカーボン、シリカ、アルミナ、ケイソウ土等の担体に担持させた担持型不均一系触媒;Ni、Co等の金属元素の有機塩又はアセチルアセトン塩と有機アルミニウム等の還元剤とを組み合わせた均一系チーグラー型触媒;Ru、Rh等の有機金属化合物又は錯体;水素を吸蔵させたフラーレンやカーボンナノチューブ等を挙げることができる。
【0017】
水添共重合体の水素添加率(芳香族ビニル-共役ジエン共重合体の共役ジエン部に対して水素添加された割合)は80モル%以上であり、好ましくは80~95モル%であり、より好ましくは85~95モル%であり、さらに好ましくは90~95モル%である。水素添加率が80モル%以上であることにより、架橋の均質化による耐摩耗性の改善効果に優れる。
【0018】
水添共重合体の重量平均分子量は、30万以上であれば特に限定されないが、30万~200万であることが好ましく、30万~100万であることがより好ましく、30万~60万であることがさらに好ましい。
【0019】
ゴム部材Aのゴム成分には、上記水添共重合体以外のジエン系ゴムが含まれていても良く、例えば、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、スチレン-イソプレン共重合体ゴム、ブタジエン-イソプレン共重合体ゴム、スチレン-イソプレン-ブタジエン共重合体ゴムなどが挙げられる。これらジエン系ゴムは、いずれか1種単独で、又は2種以上ブレンドして用いることができる。
【0020】
ゴム成分中の上記水添共重合体の含有割合は、特に限定されないが、70~100質量%であることが好ましく、80~100質量%であることがより好ましい。
【0021】
上記ゴム部材Aは、上記加硫剤として、粉末硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄などの硫黄成分を含有するものであり、その含有量はゴム部材Aに対して、0.25vol%以上である。上記含有量で硫黄を含有することにより、ゴム部材Aとゴム部材Bとの接着性に優れる。
【0022】
[ゴム部材B]
本実施形態に係るゴム部材Bにおいて用いられるゴム成分は、ジエン系ゴムを含有するものであり、ゴム成分中のジエン系ゴムの含有割合は、特に限定されないが、70~100質量%であることが好ましく、80~100質量%であることがより好ましい。
【0023】
ジエン系ゴムとしては、例えば、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、スチレン-イソプレン共重合体ゴム、ブタジエン-イソプレン共重合体ゴム、スチレン-イソプレン-ブタジエン共重合体ゴムなどが挙げられる。これらジエン系ゴムは、いずれか1種単独で、又は2種以上ブレンドして用いることができる。
【0024】
上記ゴム部材Bは、加硫剤として、粉末硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄などの硫黄成分を含有するものであり、その含有量はゴム部材Bに対して0.25vol%以上である。上記含有量で硫黄を含有することにより、ゴム部材Aとゴム部材Bとの接着性に優れる。
【0025】
上記ゴム部材Aの硫黄含有量と上記ゴム部材Bの硫黄含有量との合計が、0.7vol%以上である。上記含有量で硫黄を含有することにより、ゴム部材Aとゴム部材Bとの接着性に優れる。
【0026】
本実施形態に係る空気入りタイヤは、界面を持って接するゴム部材Aとゴム部材Bとが所定の含有量で硫黄を含有することにより、優れた接着性が得られる。このメカニズムは定かではないが、次のように推測できる。水添共重合体は二重結合量が少ないため、通常の含有量で硫黄を配合する場合、ゴム部材Aにおける硫黄と二重結合がゴム部材Aとゴム部材Bとの界面での接着に寄与する前に、ゴム部材Aの水添共重合体内での架橋に消費されてしまう。一方、本実施形態では、硫黄量を通常よりも高配合にすることにより、硫黄ラジカルの数が増加することで、ゴム部材Aとゴム部材Bとの界面に存在する二重結合と反応する機会が増加し、ゴム部材Aとゴム部材Bとの界面において架橋構造が形成され、優れた接着性が得られるものと推測できる。
【0027】
[その他の配合薬品類]
本実施形態に係るゴム部材A及びゴム部材Bには、上記した各成分に加え、通常のゴム工業で使用されている、補強性充填剤、加工助剤、亜鉛華、ステアリン酸、軟化剤、可塑剤、液状ゴム、樹脂、ワックス、老化防止剤、加硫促進剤などの配合薬品類を通常の範囲内で適宜配合することができる。ゴム部材Aとゴム部材Bとでは、それぞれ配合薬品類の配合が異なっていてもよい。
【0028】
補強性充填剤としては、シリカやカーボンブラックが挙げられ、シリカとカーボンブラックを併用するものであってもよい。すなわち、補強性充填剤は、シリカ単独でも、カーボンブラック単独でも、シリカとカーボンブラックとの併用でもよい。好ましくは、シリカとカーボンブラックとの併用である。補強性充填剤の含有量は、特に限定されず、ゴム成分100質量部に対して、10~150質量部であることが好ましく、20~100質量部であることがより好ましく、30~80質量部であることがさらに好ましい。
【0029】
シリカとしても、特に限定されないが、湿式沈降法シリカや湿式ゲル法シリカなどの湿式シリカが好ましく用いられる。シリカの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、1~150質量部であり、1~100質量部であることが好ましい。
【0030】
また、スルフィドシラン、メルカプトシランなどのシランカップリング剤をさらに含有してもよい。シランカップリング剤を含有する場合、その含有量はシリカ含有量に対して2~20質量%であることが好ましい。
【0031】
カーボンブラックとしては、特に限定されず、公知の種々の品種を用いることができる。カーボンブラックの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、1~70質量部であることが好ましく、1~30質量部であることがより好ましい。
【0032】
加硫促進剤としては、スルフェンアミド系加硫促進剤、グアニジン系加硫促進剤、ジチオカルバミン酸塩系加硫促進剤、チウラム系加硫促進剤、チアゾール系加硫促進剤、チオウレア系加硫促進剤などを用いることができる。これらの中でも、スルフェンアミド系加硫促進剤、グアニジン系加硫促進剤、ジチオカルバミン酸塩系加硫促進剤であることが好ましい。
【0033】
スルフェンアミド系加硫促進剤としては、例えば、N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(CZ)、N-tert-ブチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(NS)、N-オキシジエチレン-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(MBS)、N,N-ジイソプロピル-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミド(DZ)が挙げられる。
【0034】
グアニジン系加硫促進剤としては、例えば、1,3-ジフェニルグアニジン(D)、ジ-O-トリルグアニジン(DT)などが挙げられる。
【0035】
ジチオカルバミン酸塩系加硫促進剤としては、例えば、ジベンジルジチオカルバミン酸亜鉛(ZnBzDTC)、ジメチルジチオカルバミン酸亜鉛(ZnMDC)、ジエチルジチオカルバミン酸亜鉛(ZnEDC)、ジ-n-ブチルジチオカルバミン酸亜鉛(ZnBDC)、N-ペンタメチレンジチオカルバミン酸亜鉛(ZnPDC)、エチルフェニルジチオカルバミン酸亜鉛(ZnEPDC)、ジメチルジチオカルバミン酸ナトリウム(NaMDC)、ジエチルジチオカルバミン酸ナトリウム(NaEDC)、ジ-n-ブチルジチオカルバミン酸ナトリウム(NaBDC)、ジエチルジチオカルバミン酸テルル(TeEDC)、ジメチルジチオカルバミン酸銅(CuMDC)、ジメチルジチオカルバミン酸鉄(FeMDC)などが挙げられる。
【0036】
スルフェンアミド系加硫促進剤を含有する場合、その含有量は、特に限定されないが、ゴム成分100質量部に対して、0.1~3質量部であることが好ましく、0.2~2質量部であることがより好ましい。
【0037】
グアニジン系加硫促進剤を含有する場合、その含有量は、特に限定されないが、ゴム成分100質量部に対して、0.1~3質量部であることが好ましく、0.2~2質量部であることがより好ましい。
【0038】
ジチオカルバミン酸塩系加硫促進剤を含有する場合、その含有量は、特に限定されないが、ゴム成分100質量部に対して、0.1~3質量部であることが好ましく、0.2~2質量部であることがより好ましい。
【0039】
ゴム部材Aにおいては、ジチオカルバミン酸塩系加硫促進剤とグアニジン系加硫促進剤とを併用することが好ましく、その配合割合(グアニジン系加硫促進剤/ジチオカルバミン酸塩系加硫促進剤)は、質量比で、0.5~3.0であることが好ましい。
【0040】
各ゴム部材における加硫促進剤の合計の含有量は、それぞれゴム成分100質量部に対して0.1~9質量部であることが好ましく、0.5~6質量部であることがより好ましい。
【0041】
本実施形態に係るゴム組成物は、通常用いられるバンバリーミキサーやニーダー、ロール等の混合機を用いて、常法に従い混練して作製することができる。すなわち、第一混合段階で、ゴム成分に対し、加硫剤及び加硫促進剤を除く添加剤を添加混合し、次いで、得られた混合物に、最終混合段階で加硫剤及び加硫促進剤を添加混合してゴム組成物を調製することができる。
【0042】
このようにして得られるゴム組成物は、タイヤ用として用いることができ、乗用車用、トラックやバスの大型タイヤなど各種用途・サイズの空気入りタイヤのトレッド部やサイドウォール部などタイヤの各部位に適用することができる。ゴム組成物は、常法に従い、例えば、押出加工によって所定の形状のゴム部材A及びゴム部材Bに成形され、他の部品と組み合わせた後、例えば140~180℃で加硫成形することにより、空気入りタイヤを製造することができる。
【0043】
ゴム部材Aとゴム部材Bは、界面を持って接していれば、適用部位は特に限定されず、例えば、ベルト層のタイヤ径方向外側に配置されるベースゴムと、ベースゴムのタイヤ径方向外側に配置されるキャップゴムとを有するトレッド部において、キャップゴムとしてゴム部材Aを、ベースゴムとしてゴム部材Bを用いてもよく、異なるゴム部材が幅方向に配置されているトレッド部において、インサイド側(タイヤ装着時の車両内側)がゴム部材A、アウトサイド側(タイヤ装着時の車両外側)がゴム部材Bであってもよく、アウトサイド側がゴム部材A、インサイド側がゴム部材Bであってもよい。また、ゴム部材Aの適用部位がトレッド部であり、ゴム部材Bの適用部位が、ショルダー部やサイド部やベルト層であってもよい。
【0044】
本実施形態に係る空気入りタイヤの種類としては、特に限定されず、乗用車用タイヤ、トラックやバスなどに用いられる重荷重用タイヤなどの各種のタイヤが挙げられる。
【実施例】
【0045】
以下、本発明の実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0046】
〈水添共重合体1の合成例〉
窒素置換された耐熱反応容器に、シクロヘキサンを2.5L、テトラヒドロフラン(THF)を50g、n-ブチルリチウムを0.12g、スチレンを100g、1,3-ブタジエンを400g入れ、反応温度50℃で重合を行った。重合が完了した後にN,N-ビス(トリメチルシリル)アミノプロピルメチルジエトキシランを1.7g加えて、1時間反応させた後、水素ガスを0.4MPa-ゲージの圧力で供給し、20分間撹拌した。次いで、水素ガス供給圧力を0.7MPa-ゲージ、反応温度を90℃とし、チタノセンジクロリドを主とした触媒を用いて目的の水素添加率となるまで反応させ、溶媒を除去することにより、水添共重合体1を得た。
【0047】
得られた水添共重合体1の重量平均分子量は、測定装置として(株)島津製作所製「LC-10A」を用い、カラムとしてPolymer Laboratories社製「PLgel-MIXED-C」を、検出器として示差屈折率検出器(RI)を用い、溶媒としてTHFを用い、測定温度を40℃、流量を1.0mL/min、濃度を1.0g/L、注入量を40μLとして測定し、標準ポリスチレンによるポリスチレン換算で35万であった。結合スチレン量は20質量%であり、ブタジエン部の水素添加率は90モル%であった。なお、結合スチレン量はH1-NMRを用いて、スチレン単位に基づくプロトンと、ブタジエン単位(水素添加部を含む)に基づくプロトンとのスペクトル強度比から求めた。
【0048】
〈実施例及び比較例〉
バンバリーミキサーを使用し、下記表1に示す配合(質量部)に従い、まず、第一混合段階(ノンプロ練り工程)で、加硫促進剤及び硫黄を除く成分を添加混合し(排出温度=160℃)、次いで、得られた混合物に、最終混合段階(プロ練り工程)で、加硫促進剤及び硫黄を添加混合して(排出温度=90℃)、ゴム組成物を調製した。
【0049】
表1中の各成分の詳細は以下の通りである。
・水添SBR1:上記合成例1に従い作製した水添共重合体1
・ESBR:JSR(株)製「SBR1502」、乳化重合スチレンブタジエンゴム、重量平均分子量=42万
・変性SSBR:JSR(株)製「HPR350」、スチレン含有量21質量%、アルコキシル基及びアミノ基末端変性溶液重合SBR
・NR:RSS#3 ガラス転移点=-60℃
・BR:宇部興産(株)製「BR150B」
・シリカ:エボニックジャパン社製「UltrasilVN3」
・シランカップリング剤:エボニックジャパン社製「Si69」
・カーボンブラック:東海カーボン(株)製「シースト3」
・アロマ系オイル:JXTGエネルギー(株)製「プロセスNC140」
・酸化亜鉛:三井金属鉱業(株)製「酸化亜鉛2種」
・老化防止剤:住友化学(株)製「アンチゲン6C」
・ステアリン酸:花王(株)製「ルナックS-20」
・ワックス:日本精蝋(株)製「OZOACE0355」
・樹脂:C5/C9系石油樹脂、東ソー(株)製「ペトロタック90」
・加硫促進剤1:住友化学(株)製「ソクシノールCZ」、スルフェンアミド系加硫促進剤
・加硫促進剤2:大内新興化学工業(株)製「ノクセラ-D」、グアニジン系加硫促進剤
・加硫促進剤3:三新化学工業(株)製「サンセラーZBE」、ジチオカルバミン酸塩系加硫促進剤
・硫黄:鶴見化学工業(株)製「微粉末硫黄」、比重=2
【0050】
【0051】
得られた配合Aのゴム組成物について、破断強度を評価した。さらに、得られた配合Aのゴム組成物と配合Bのゴム組成物とを、表3に記載の組み合わせで接着させ、160℃で30分間加硫した試験片を用いて、接着性を評価した。測定・評価方法は以下の通りであり、破断強度の評価結果は表2に、接着性の評価結果は表3に示す。
【0052】
・破断強度:JIS K6251に準じて、引張試験(ダンベル状3号形)を実施して引っ張り強さを測定し、比較例1の値を100とした指数で表示した。数値が大きいほど、破断強度が大きく、補強性に優れることを示す。
【0053】
・接着性:短冊状にした配合AのゴムサンプルAと配合BのゴムサンプルBとを重ね合わせて一部にPETフィルムを挟んで160℃で30分間加硫し、ゴムサンプルAとゴムサンプルBとを接着させた。加硫後、ゴムサンプルAとゴムサンプルBの未接着部分を島津製作所(株)製「オートグラフ DCS500」に把持させて、接着したゴムサンプルがT字形になるように、剥離速度50mm/分で剥離した。剥離後、剥離断面がゴム破壊である場合、ゴムサンプルAとゴムサンプルBとは優れた接着性を有していたとして「○」と評価し、界面剥離である場合、ゴムサンプルAとゴムサンプルBとは接着性が劣っていたとして「×」と評価した。
【0054】
【0055】
【0056】
結果は、表2に示す通りであり、配合A-1と配合A-2~A-6との対比から、硫黄含有量を増量した場合、ゴム部材Aの破断強度は向上したことがわかる。また、表3に示すように、実施例1~5では優れた接着性が得られた。
【0057】
比較例1は、ゴム部材Aの硫黄含有量が所定範囲外である例であり、接着性が劣っていた。
【0058】
比較例2は、ゴム部材Aの硫黄含有量とゴム部材Bの硫黄含有量との合計が所定範囲外である例であり、接着性が劣っていた。
【0059】
比較例3は、ゴム部材Bの硫黄含有量が所定範囲外である例であり、接着性が劣っていた。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の空気入りタイヤは、乗用車、ライトトラック・バス等の各種タイヤとして用いることができる。