(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-04
(45)【発行日】2023-12-12
(54)【発明の名称】転移検出のために単一細胞の機械的フェノタイピングを行う分析
(51)【国際特許分類】
G01N 33/48 20060101AFI20231205BHJP
C12Q 1/04 20060101ALI20231205BHJP
G01N 21/27 20060101ALI20231205BHJP
G01N 33/483 20060101ALI20231205BHJP
C12M 1/34 20060101ALN20231205BHJP
【FI】
G01N33/48 M
C12Q1/04
G01N21/27 B
G01N33/483 C
C12M1/34 B
(21)【出願番号】P 2019567622
(86)(22)【出願日】2018-06-06
(86)【国際出願番号】 US2018036309
(87)【国際公開番号】W WO2018226863
(87)【国際公開日】2018-12-13
【審査請求日】2021-06-03
(32)【優先日】2017-06-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2018-03-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】518223823
【氏名又は名称】ユニバーシティ オブ メリーランド,カレッジ パーク
(74)【代理人】
【識別番号】100094112
【氏名又は名称】岡部 讓
(74)【代理人】
【識別番号】100128668
【氏名又は名称】齋藤 正巳
(74)【代理人】
【氏名又は名称】臼井 伸一
(72)【発明者】
【氏名】スカルチェリ,ジュリアーノ
(72)【発明者】
【氏名】チャン,ジタオ
【審査官】大瀧 真理
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/040959(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0235500(US,A1)
【文献】特表2013-545110(JP,A)
【文献】特表2016-515141(JP,A)
【文献】特開2012-211904(JP,A)
【文献】特表2013-521487(JP,A)
【文献】ZHANG, J. et al.,Brillouin flow cytometry for label-free mechanical phenotyping of the nucleus,Lab on a Chip,2017年02月21日,Vol.17, No.4,pp.663-670,DOI:10.1039/c6lc01443g
【文献】ANTONACCI, G. and BRAAKMAN, S.,Biomechanics of subcellular structures by non-invasive Brillouin microscopy,Scientific Reports,2016年11月15日,Vol.6, No.37217,pp.1-6 and Supplementary Figures,DOI: 10.1038/srep37217
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48 - 33/98
G01N 21/27
C12Q 1/04
C12M 1/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンプル内の複数の細胞の1つ以上の機械的特性を検出する方法であって、
ラベルフリー分光法ベースサイトメトリーを使用して、前記複数の細胞の機械的シグネチャの少なくとも1つの指標についてのデータセットを取得することと、
前記データセットの統計的特徴に基づいてメリット関数を計算することと、
前記指標の指標値のうち前記メリット関数に最大値を送出する最適指標値を決定することと、
機械的シグネチャ及び前記最適指標値に基づいて前記複数の細胞を分類することと、
を含み、
前記データセットの前記統計的特徴は、感度及び特異度である、方法。
【請求項2】
前記取得したデータセットに基づいて前記複数の細胞の前記機械的シグネチャを表す少なくとも1つのヒストグラムを生成することであって、前記少なくとも1つのヒストグラムは、前記データセット内に存在する複数の指標値の各々について細胞の数を提供する、生成することと、
前記少なくとも1つのヒストグラムの各々から、前記複数の指標値について前記データセットの前記統計的特徴を決定することと、
を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記機械的シグネチャは、弾性率、剛性、粘度、圧縮性、電歪、及びその組み合わせからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記指標は、ブリルアン周波数シフト、ブリルアン線幅、及びその組み合わせからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記メリット関数は、各指標値について感度を特異度で掛けた値として計算される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記最適指標値は比、感度:(1-特異度)を最適化する、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記メリット関数は、少なくとも2つの異なる指標に基づいて生成される、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
各細胞についての前記指標値は、
単一細胞から取得した前記
指標のデータセットの平均値として計算される、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
各細胞についての前記指標
値は、
単一細胞から取得した前記
指標のデータセットのピーク値として計算される、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記サンプルは、生物有機体、組織、又は生体細胞を含む生体サンプルであり、前記生体細胞は、生細胞を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記生体細胞は、懸濁されるか、2D基体に付着しているか、3D細胞外マトリックス内で培養されるか、又は、マイクロ流体チップの1つ以上のチャネルを通って流れる、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記データセットにおいて、細胞質に関連するデータから細胞核に関連するデータを分離することを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記細胞核に関連するデータ及び前記細胞質に関連するデータの各々は、少なくとも1つの指標に基づいて分析される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記細胞核の前記機械的特性は、材料弾性率、剛性、粘度、圧縮性、電歪、及びその組み合わせを含む群から選択される、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記ラベルフリーサイトメトリーは、
第1の方向に沿って光ビームによって前記サンプルを照明するステップと、
前記照明光ビームに応答して前記サンプルから放出されるブリルアン散乱光を収集するステップと、
前記ブリルアン散乱光を、前記ブリルアン散乱光の空間スペクトルパターンを生成する検出ユニットに送るステップであって、前記検出ユニットは第2の方向に沿って位置決めされる、ステップと、
前記検出ユニット上で前記ブリルアン散乱光の前記空間スペクトルパターンを検出するステップであって、前記照明光ビームに沿った前記サンプルの複数の点は同時に測定される、ステップと、
前記検出ユニットにおいて、各空間点における前記スペクトルパターンを較正するステップと、
前記検出された空間スペクトルパターンに基づいて、各測定サンプル点において前記1つ以上の指標値を計算して、前記データセットを生成するステップと、
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
サンプル内の複数の細胞の1つ以上の機械的特性を検出するシステムであって、
ラベルフリー分光法ベースサイトメトリーを使用して、前記複数の細胞の機械的シグネチャの少なくとも1つの指標についてのデータセットを取得するブリルアン分光計と、
プロセッサであって、
前記データセットの統計的特徴に基づいてメリット関数を計算するための命令と、
前記指標の指標値のうち前記メリット関数に最大値を送出する最適指標値を決定するための命令と、
前記機械的シグネチャ及び前記最適指標値に基づいて前記複数の細胞を分類するための命令と、
を実行する、プロセッサと、
を備え、
前記データセットの前記1つ以上の統計的特徴は、感度及び特異度である、システム。
【請求項17】
前記プロセッサは、
前記取得したデータセットに基づいて前記複数の細胞の機械的シグネチャを表す少なくとも1つのヒストグラムを生成するための命令であって、前記ヒストグラムは、前記データセット内に存在する複数の指標値の各々について細胞の数を提供する、命令と
前記少なくとも1つのヒストグラムの各々から、前記複数の指標値について前記データセットの前記統計的特徴を決定するための命令と、
を更に実行する、請求項16に記載のシステム。
【請求項18】
前記機械的シグネチャは、弾性率、剛性、粘度、圧縮性、電歪、及びその組み合わせからなる群から選択される、請求項16に記載のシステム。
【請求項19】
前記指標は、ブリルアン周波数シフト、ブリルアン線幅、及びその組み合わせからなる群から選択される、請求項16に記載のシステム。
【請求項20】
前記メリット関数は、各指標値について感度を特異度で掛けた値として計算される、請求項16に記載のシステム。
【請求項21】
前記最適指標値は、比、感度:(1-特異度)を最適化する、請求項16に記載のシステム。
【請求項22】
前記メリット関数は、少なくとも2つの異なる指標に基づいて生成される、請求項16に記載のシステム。
【請求項23】
各細胞についての前記指標値は、
単一細胞から取得した前記
指標のデータセットの平均値として計算される、請求項16に記載のシステム。
【請求項24】
各細胞についての前記指標
値は、
単一細胞から取得した前記
指標のデータセットのピーク値として計算される、請求項16に記載のシステム。
【請求項25】
前記サンプルは、生物有機体、組織、又は生体細胞を含む生体サンプルであり、前記生体細胞は、生細胞を含む、請求項16に記載のシステム。
【請求項26】
前記生体細胞は、懸濁されるか、2D基体に付着しているか、3D細胞外マトリックス内で培養されるか、又は、マイクロ流体チップの1つ以上のチャネルを通って流れる、請求項25に記載のシステム。
【請求項27】
前記データセットにおいて、細胞質に関連するデータから細胞核に関連するデータを分離するための命令を更に含む、請求項16に記載のシステム。
【請求項28】
前記細胞核に関連するデータ及び前記細胞質に関連するデータの各々は、少なくとも1つの指標に基づいて分析される、請求項27に記載のシステム。
【請求項29】
前記細胞核の前記機械的特性は、材料弾性率、剛性、粘度、圧縮性、電歪、及びその組み合わせを含む群から選択される、請求項27に記載のシステム。
【請求項30】
第1の方向に沿って前記サンプルを照明する光ビームと、
前記照明光ビームに応答して、前記サンプルから放出されるブリルアン散乱光を収集する1つ以上のレンズと、
前記ブリルアン散乱光を受光し、前記ブリルアン散乱光の空間スペクトルパターンを生成する検出ユニットであって、前記検出ユニットは、第2の方向に沿って位置決めされ、
前記検出ユニットは、前記検出ユニット上で前記ブリルアン散乱光の前記空間スペクトルパターンを検出し、前記照明光ビームに沿った前記サンプルの複数の点は同時に測定される、検出ユニットと、
プロセッサであって、
前記検出ユニットにおいて、各空間点における前記スペクトルパターンを較正するための命令と、
前記検出された空間スペクトルパターンに基づいて、各測定サンプル点において前記1つ以上の指標値を計算して、前記データセットを生成するための命令と、
を実行する、プロセッサと、
を更に備える、請求項16に記載のシステム。
【請求項31】
前記複数の細胞の1つ以上の機械的特性を検出することは、前記サンプル内で癌細胞を識別する、請求項1に記載の方法。
【請求項32】
前記複数の細胞の1つ以上の機械的特性を検出することは、前記サンプル内で癌細胞を識別する、請求項16に記載のシステム。
【請求項33】
複数の細胞を含むサンプル内の癌細胞を検出する方法であって、
ラベルフリー分光法ベースサイトメトリーを使用して、前記複数の細胞の機械的シグネチャの少なくとも1つの指標についてのデータセットを取得することと、
前記データセットの統計的特徴に基づいてメリット関数を計算することと、
前記指標の指標値のうち前記メリット関数に最大値を送出する最適指標値を決定することと、
機械的シグネチャ及び前記最適指標値に基づいて前記複数の細胞を分類することと、
前記複数の細胞内の癌細胞を識別することと、
を含み、
前記データセットの前記統計的特徴は、感度及び特異度である、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本出願は、2017年6月6日に出願された米国仮特許出願第62/515,873号の利益を主張するとともに、2018年3月1日に出願された米国特許出願第15/909,699号の一部継続出願であり、米国特許出願第15/909,699号は、2017年3月1日に出願された米国仮特許出願第62/465,230号の利益を主張するとともに、2016年12月22日に出願された米国特許出願第15/388,582号の一部継続出願であり、米国特許出願第15/388,582号は、2015年12月22日に出願された米国仮特許出願第62/270,982号;2016年5月20日に出願された米国仮特許出願第62/339,512号;2016年4月15日に出願された米国仮特許出願第62/323,176号;及び、2016年11月21日に出願された米国仮特許出願第62/425,070号の利益を主張する。上記で挙げた出願の全ては、引用することによりその全体が本明細書の一部をなす。
【0002】
本発明は、単一の生きた真核細胞の転移を、その機械的フェノタイピングに基づいて検出する方法及びシステムに関する。細胞の機械的フェノタイピングは、ラベルフリーブリルアンフローサイトメトリーを使用して取得される。
【背景技術】
【0003】
癌は、米国と世界中の両方で主たる死亡原因の1つである。遺伝的及び外的環境要因に加えて、癌細胞の生体機構は、その活性の重要な決定要因である。細胞機構は、その生体機能及び活性、例えば、増殖、遊走、遺伝子発現に密接に関係することが知られている(非特許文献1及び非特許文献2)。例えば、細胞が前方に移動する必要があるとき、収縮力が細胞本体内で生成されることになる(非特許文献3)。癌細胞が正常細胞及び良性細胞より軟質であること、及び、この細胞伸展性が転移能の増加に相関することが、種々の生物物理測定から一貫して見出される(非特許文献4及び非特許文献5)。この相関は、3Dマトリックスを通して効率的に遊走する及び/又は転移中に内皮を通して入り込む癌細胞の必要とされる最適機械的特性によるものである可能性が高い。それは、したがって、細胞剛性が癌進行及び転移を等級付ける固有のフェノタイピングである可能性があることを強く示す。
【0004】
過去20年において、マイクロピペット吸引、光ピンセット、光ストレッチャー、変形能サイトメトリー(deformability cytometry)、原子間力顕微鏡法(AFM)、磁気ツイスティングサイトメトリー、及びマイクロレオロジー等の細胞の機械的特性を探査する多くの方法が開発されてきた。しかしながら、既存の方法は、細胞を変形させるために物理的接触を必要とする(マイクロピペット吸引及びAFM等)、又は、全細胞の平均測定値を提供し得るだけである(マイクロピペット吸引、光ピンセット、光ストレッチャー、及び変形能サイトメトリー等)、又は、侵襲的である(光ピンセット、磁気ツイスティングサイトメトリー、及びマイクロレオロジー等)。さらに、既存の方法のほとんどは、非常に低いスループットを有し、したがって、多数の細胞を制限された時間内で分析できない。
【0005】
最近、ラベルフリーフローサイトメトリー(ブリルアンフローサイトメトリーと呼ばれる)が、マイクロ流体チャネルを通して流れるときの細胞の機械的特性を定量化するために使用され、サブミクロン分解能を有する細胞内領域の機械的特性を直接探査するその能力を成功裏に実証した。この技法は、ブリルアン光散乱の基本原理に依存し、ブリルアン光散乱は、サンプル内での、到来する光と音響フォノンとの相互作用から生じる(非特許文献6)。
【0006】
特に、ブリルアン散乱は、材料の音響フォノンによって誘発される非弾性光散乱現象である。弾性的に散乱した光から小さい(通常、GHzオーダーの)ブリルアン周波数シフトを分離するために、マルチパス走査型ファブリ-ペロー干渉計等の高分解能分光計が、従来のブリルアン分光法では通常使用される(非特許文献7)。音響フォノンの動態は物質の粘弾性特性に直接結び付けられるため、機械的情報は、散乱光のブリルアン周波数シフトを測定することによって取得され得る(非特許文献6)。
【0007】
特に、機械的縦弾性率は、非接触、非侵襲的、かつラベルフリーの方法で、散乱光の周波数シフトを測定することによって取得することができる。ブリルアン技法によって測定される高周波縦弾性率は、従来の応力・歪試験によって測定される一般的な準静的弾性率と対数・対数線形関係を有し(非特許文献8)、そのことは、ブリルアン技法が機械的特性の真の定量的指標であることを示す。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【文献】Bao及びSuresh、Nature materials 2, 715-725(2003)
【文献】Vogel及びSheetz、Nat Rev Mol Cell Biol. 7, 265-275 (2006)
【文献】Stossel、Science 260, 1086-1094(1993)
【文献】Crossら「Nanomechanical analysis of cells from cancer patients」Nat. Nanotechnology 2, 780-783 (2007)
【文献】Guckら「Optical deformability as an inherent cell marker for testing malignant transformation and metastatic competence」Biophys J. 88, 3689-3698 (2005)
【文献】Dil, J G「Brillouin scattering in condensed matter」Rep. Prog. Phys. 45, 286-334 (1982)
【文献】Lindsay S M、Burgess S及びShepherd I W「Correction of Brillouin linewidths measured by multipass Fabry-Perot spectroscopy」Appl. Opt. 16(5), 1404-1407 (1977)
【文献】Scarcelli G、Kim P及びYun SH「In Vivo Measurement of Age-Related Stiffening in the Crystalline Lens by Brillouin Optical Microscopy」Biophysical J. 101, 1539-1545 (2011)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、細胞の機械的フェノタイピングに基づいて、癌細胞を非癌細胞から区別する新しい技法が必要とされる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、ブリルアン光散乱技法に基づくラベルフリー細胞分析を通して細胞の機械的特性を識別する方法及びシステムに関する。本出願は、細胞の機械的特性に基づいて癌性細胞を識別する方法及びシステムを更に提供する。
【0011】
本発明の1つの態様において、サンプル内の複数の細胞の1つ以上の機械的特性を検出する方法及びシステムが提示される。特に、データセットは、ラベルフリー分光法ベースサイトメトリーを使用して、複数の細胞についての機械的シグネチャを特徴付ける少なくとも1つの指標について取得される。複数の細胞の機械的シグネチャを表す少なくとも1つのヒストグラムは、取得したデータセットに基づいて生成される。各ヒストグラムは、取得したデータセット内に存在する複数の指標値の各々について細胞の数を示す。次のステップは、ヒストグラムの各々から、複数の指標値の各々について、取得したデータセットの1つ以上の統計的特徴を決定することを対象とする。その後、メリット関数は、元のデータセットの1つ以上の統計的特徴に基づいて計算される。最後に、メリット関数に最大値を送出する最適指標値が決定され、機械的シグネチャ及び最適指標値に基づいて複数の細胞を分類することができる。1つの実施形態において、複数の細胞の1つ以上の機械的特性を検出することは、サンプル内の癌細胞を識別する。
【0012】
1つの実施形態において、機械的シグネチャは、弾性率、剛性、粘度、圧縮性、電歪、及びその組み合わせからなる群から選択される。更に別の実施形態において、指標は、ブリルアン周波数シフト、ブリルアン線幅、及びその組み合わせからなる群から選択される。
【0013】
幾つかの実施形態において、データセットの1つ以上の統計的特徴は、感度及び特異度であり、メリット関数は、取得したデータセット内に存在する各指標値について感度を特異度で掛けた値として計算される。最適指標値は、比、感度:(1-特異度)を最適化する。更に別の実施形態において、メリット関数は、細胞の機械的シグネチャを特徴付ける少なくとも2つの異なる指標に基づいて生成することができる。
【0014】
1つの実施形態において、細胞についての指標値は、細胞に関連する取得したデータセット内のデータの平均値として計算される。更に別の実施形態において、細胞についての指標は、細胞に関連する取得したデータセットのピーク値として計算される場合がある。
【0015】
一例として、限定はしないが、サンプルは、生物有機体、組織、又は生体細胞を含む生体サンプルとすることができ、生体細胞は、生細胞を含む。1つの実施形態において、生体細胞は、懸濁されるか、2D基体に付着しているか、3D細胞外マトリックス内で培養されるか、又は、マイクロ流体チップの1つ以上のチャネルを通って流れる。
【0016】
1つの実施形態において、細胞核に関連するデータを、取得したデータセット内の細胞質に関連するデータから分離することができる。その後、細胞核に関連するデータ及び細胞質に関連するデータの各々は、少なくとも1つの指標に基づいて別個に分析される。細胞核の機械的特性は、材料弾性率、剛性、粘度、圧縮性、電歪、及びその組み合わせを含む群から選択することができる。
【0017】
更に別の実施形態において、元のデータセットを取得するために使用されるラベルフリーサイトメトリーは、第1の方向に沿って光ビームによってサンプルを照明するステップと、照明光ビームに応答してサンプルから放出されるブリルアン散乱光を収集するステップと、ブリルアン散乱光を、ブリルアン散乱光の空間スペクトルパターンを生成する検出ユニットに送るステップであって、検出ユニットは第2の方向に沿って位置決めされる、ステップと、検出ユニット上でブリルアン散乱光の空間スペクトルパターンを検出するステップであって、照明光ビームに沿ったサンプルの複数の点は同時に測定される、ステップと、検出ユニットにおいて、各空間点におけるスペクトルパターンを較正するステップと、検出された空間スペクトルパターンに基づいて、各測定サンプル点において1つ以上の指標値を計算して、元のデータセットを生成するステップとを含む。
【0018】
本特許ファイル又は出願ファイルはカラー仕上げの少なくとも1つの図面を含む。
【0019】
本明細書に組み込まれ、明細書の一部を形成する添付の図面は、本開示の主題に関する種々の実施形態を示す。図面において、同じ参照符号は、同一の、又は機能的に類似の要素を示す。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】逐点走査モードのためのブリルアン分光法構成を示す図である。
【
図2】本発明の1つの実施形態による、多重化走査モードのためのブリルアン分光法構成を示す図である。
【
図3】本発明の別の実施形態による、多重化走査モードのためのブリルアン分光法構成を示す図である。
【
図4】
図4a、
図4b、
図4c、
図4d及び
図4eは、
図2の構成を使用することによって取得されるスペクトルパターンの原画像を示す図であり、
図4fは、
図4a~
図4eに関連付けられる測定値に関する空間分解能の特性評価を例示する図であり、正方形が測定データを表し、青線が直線当てはめデータを表す。
【
図5】マイクロ流体チャネルを通って流れる2つの異なる液体に関連付けられるブリルアン周波数を例示する図である。
【
図6】本発明による多重化ブリルアン分光法と、従来の逐点ブリルアン分光法との間の信号対雑音比(SNR)の比較を示す図である。
【
図7】本発明の1つの実施形態による、多重化走査モードのためのブリルアン分光法構成を示す図である。
【
図8】
図7の構成を使用することによって取得された空間領域内の単一のピクセルにおける推定ブリルアン周波数シフトの精度の特性評価を例示する図であり、
図8aは、カメラによって捕捉される典型的な多重化スペクトルパターンを例示する図、
図8bは、単一空間点におけるスペクトルパターンを例示する図、
図8cは、SNR対照明エネルギーの対数プロットを例示する図、
図8dは、時間トレースデータの推定ブリルアン周波数の分布を例示する図である。
【
図9】
図7に従って取得された測定値に関する空間分解能の特性評価を例示する図であり、正方形は測定データを表し、赤線は直線当てはめデータを表す。
【
図10】
図10aは、キュベット内のポリメチルメタクリレート(PMMA)レンズの写真を例示する図であり、その写真はキュベットを屈折率整合液で満たす前に撮影され、
図10bは、カメラによって取得されたブリルアンスペクトルパターンのスナップショットを例示する図であり、
図10cは、屈折率整合液のブリルアンスペクトルを例示する図であり、点及び実曲線はそれぞれ、測定データ及び当てはめデータを表し、
図10dは、PMMAレンズのブリルアンスペクトルを例示する図である。
【
図11】PMMAレンズの2D及び3Dブリルアン画像を例示する図であり、
図11aは、
図7による構成によって走査されたPMMAレンズの断面を例示する図であり、
図11bは、
図10aに点線によって示される場所におけるPMMAレンズの断面ブリルアン画像を例示する図であり、
図11cは、PMMAレンズの3D走査の図解を例示する図であり、
図11dは、PMMAレンズの3Dブリルアン結像を例示する図であり、各スライスは、z軸に沿った場所におけるPMMAレンズの断面画像を表す。
【
図12】本発明の1つの実施形態による、逐点走査モードのためのブリルアン分光法構成を示す図である。
【
図13】
図12によるブリルアン分光法構成に関連付けられる制御インターフェースのスナップショットを示す図である。
【
図14】
図14aは、異なる時点におけるブリルアン信号及び明視野像の両方のスナップショットを例示する図であり、
図14bは、異なる時点におけるブリルアン信号及び明視野像の両方のスナップショットを例示する図であり、
図14cは、異なる時点におけるブリルアン信号及び明視野像の両方のスナップショットを例示する図であり、
図14dは、
図14aの未処理のブリルアン信号から計算されたブリルアン周波数の時間トレースであり、
図14eは、
図14bの未処理のブリルアン信号から計算されたブリルアン周波数の時間トレースであり、
図14fは、
図14cの未処理のブリルアン信号から計算されたブリルアン周波数の時間トレースである。
【
図15】
図15a及び
図15bは、ブリルアン周波数に及ぼすシースフローの影響を示す図である。
【
図16】本発明による、流動している細胞をレーザービームの合焦スポットに位置合わせする原理を示す図である。
【
図18】
図18aは、
図12によるブリルアン分光法構成を使用することによって取得された測定値から生じる細胞スペクトル分析を示す図であり、
図18bは、2Dブリルアン細胞画像から生じるスペクトル分析を示す図である。
【
図19】
図19aは、同じ細胞の明視野画像を示す図であり、
図19bは、同じ細胞の蛍光画像を示す図であり、
図19cは、
図19aの明視野画像及び
図19bの蛍光画像を融合した画像を示す図であり、
図19dは、同じ細胞のブリルアン画像を示す図であり、
図19eは、
図19cの画像に基づいて一緒にプロットされた細胞核及び細胞質両方のヒストグラムを示す図である。
【
図21】本発明の別の実施形態による、逐点走査モードのためのブリルアン分光法構成を示す図である。
【
図22】
図21のブリルアン分光法構成によって取得された細胞画像を示す図であり、画像内の各点は細胞内の或る特定の領域において取り込まれた1つの測定値を表し、異なる濃淡はデータ点の相対密度を符号化する。
【
図23】
図23a及び
図23bは、
図21のブリルアン分光法構成によって取得された、細胞核に及ぼすサイトカラシンDの影響を示す図である。
【
図24】
図7のブリルアン分光法構成を使用することによって2D画像を取得する概念図である。
【
図25】ルビジウムガスを含むガスチャンバーの測定された吸収スペクトルを例示する図である。
【
図26】本発明の別の実施形態(例4において使用される)による、逐点走査モードのためのブリルアン分光法構成を示す図である。
【
図27】
図27a、
図27b及び
図27cは、異なる時点においてマイクロ流体チャネルを通って流れている細胞のスナップショットであり、スケールバーは30μmであり、
図27dは、対応するブリルアン信号の時間トレースを例示する図であり、点は測定データを表し、実線は見やすくするために引いた線である。
【
図28】
図28aは、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)及び細胞の両方のシグネチャを含む元のデータを例示する図であり、
図28bは、PBS自体のシグネチャを例示する図であり、
図28cは、細胞のシグネチャを例示する図である。
【
図29】
図29aは、細胞集団(29個の細胞)の2D画像を例示する図であり、
図29bは、2D画像からのデータ点の分布を示す図であり、
図29cは、細胞内の複数の点においてブリルアン周波数を取得することに基づく流動実験からのデータ点の分布を示す図である。
【
図30】細胞の蛍光画像によって検証される細胞のブリルアンシグネチャを例示する図であり、ヒストグラムはそれぞれ細胞核及び細胞質からのブリルアンシグネチャを表し、挿入写真は、(i)明視野画像、(ii)蛍光画像、(iii)(i)及び(ii)の融合画像、並びに(iv)ブリルアン画像である。
【
図32】本発明の1つの実施形態によるシステムを示すブロック図である。
【
図33】
図33A及び
図33Bは、本発明の第1の実施形態の例示的な結果を示す図であり、例示的な結果は、アクチンフィラメントの抑制が細胞核を軟化することになることを示し、代わりに、微小管フィラメントの抑制は細胞核を硬化することになる。
【
図34】本発明の第2の実施形態の例示的な結果を示す図であり、例示的な結果は、細胞核機構を、癌進行を等級付けるために使用することができることを示す。
【
図35】本発明の第3の実施形態の例示的な結果を示す図であり、細胞質特性が不変である間、細胞核は、ラミンA/Cノックダウンサンプル内で剛性が優位に低い。
【
図36】
図36A及び
図36Bは、同一パラメーターを使用して撮影された蛍光画像の例示的な結果を示す図であり、例示的な結果は、ラミンA/C発現がノックダウンサンプル内ではるかに低いことを示す。
【
図37】ブリルアンフローサイトメトリーによって取得されたデータセットを示す図である。
【
図38】M4及びM1細胞の全体的な剛性の分布(ブリルアン周波数シフト)を示す図である。
【
図39】
図39Aは、M4細胞株をM1細胞株から区別する、感度対(1-特異度)曲線(ROC)を示す図であり(ブリルアンシフトは
図37に示す単一細胞からのデータセットの平均値として計算される)、
図39Bは、基準値の関数としての感度、特異度、及びメリット関数を示す図であり(ブリルアンシフトは
図37に示す単一細胞からのデータセットの平均値として計算される)、
図39Cは、M4細胞株をM1細胞株から区別する、感度対(1-特異度)曲線(ROC)を示す図であり(ブリルアンシフトは
図37に示す単一細胞からのデータセットのピーク値として計算される)、
図39Dは、基準値の関数としての感度、特異度、及びメリット関数を示す図であり(ブリルアンシフトは
図37に示す単一細胞からのデータセットのピーク値として計算される)、
図39Fは、M4細胞株をM2細胞株から区別する、及び、M2細胞株をM1細胞株から区別する、感度対(1-特異度)曲線(ROC)を示す図である(ブリルアンシフトは
図37に示す単一細胞からのデータセットのピーク値として計算される)。
【
図40】平均したブリルアン線幅に基づく3つの癌細胞株(M1、M2、及びM4)のデータ分布を示す図である。
【
図41】
図41Aは、ブリルアン線幅を指標として使用するM4対M1についてのROC曲線を示す図であり、
図41Bは、ブリルアン線幅を指標として使用するM4対M2及びM2対M1についてのROC曲線を示す図である。
【
図42】
図42Aは、M4及びM1についてのブリルアン線幅の分布を示すヒストグラムを示す図であり、
図42Bは、M4及びM1についてのブリルアンシフトの分布を示すヒストグラムを示す図であり、
図42Cは、2次元指標下での互いから分離するM1及びM4細胞群についての散布図である。
【
図43】
図43Aは、ブリルアンシフト及びブリルアン線幅の組み合わされた基準についての2D平面内のメリット関数を示す図であり、
図43Bは、2パラメーター指標に基づいてM1対M2及びM2対M4を試験することによって得られる感度対(1-特異度)曲線(ROC曲線)を示す図である。
【
図44】
図44Aは、1及び2パラメーター指標に基づいてM1対M2を試験することによって得られる感度対(1-特異度)曲線(ROC曲線)を示す図であり、
図44Bは、1及び2パラメーター指標に基づいてM2対M4を試験することによって得られる感度対(1-特異度)曲線(ROC曲線)を示す図である。
【
図45】本発明によるデータ処理を示すフローチャートである。
【
図46】指標閾値に基づく癌試験結果の分布及び分析を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明は幾つかの実施形態を有し、当該技術分野において既知の細部に関しては種々の特許、特許出願及び他の参考文献に頼る。それゆえ、本明細書において或る特許、特許出願又は他の参考文献が引用されるか、又は繰り返されるとき、その特許、特許出願又は他の参考文献は、あらゆる目的のために、そして説明される提案のために、引用することによりその全体が本明細書の一部をなすことは理解されたい。
【0022】
ラベルフリーフローサイトメトリー(例えば、ブリルアンフローサイトメトリー)は、マイクロ流体チャネルを通して流れるときの細胞の機械的特性を定量化するために使用され、サブミクロン分解能を有する細胞内領域の機械的特性を直接探査するその能力の実証に成功した。この技法は、ブリルアン光散乱の基本原理に依存し、ブリルアン光散乱は、サンプル内での、到来する光と音響フォノンとの相互作用から生じる。機械的縦弾性率は、したがって、非接触、非侵襲的、かつラベルフリーの方法で、散乱光の周波数シフトを測定することによって取得することができる。ブリルアン技法によって測定される高周波縦弾性率は、従来の応力・歪試験によって測定される一般的な準静的弾性率と対数・対数線形関係を有し(非特許文献8)、そのことは、ブリルアン技法が機械的特性の真の定量的指標であることを示す。したがって、細胞の機械的フェノタイピングに基づいて、癌細胞を非癌細胞から区別するためにこの新しい技法を適用することは非常に有望である。
【0023】
本発明は、細胞の機械的シグネチャに基づいて単一細胞の転移を検出する方法に関する。ブリルアンフローサイトメトリーから取得される細胞の細胞内機械的データを使用して、本発明による方法は、単一細胞の機械的シグネチャが定量化され、癌細胞が非癌細胞から区別されることを可能にする。細胞は、in vitroで培養及び調製され、分析のためにフローサイトメトリーに送出することができる。細胞はマイクロ流体チャネルの内部を流れる間に測定することができ、細胞は懸濁液内に静止したままであるときにマッピングすることができ、細胞は既知の方法に従って3Dゲル又は他の細胞外マトリックスの小滴内に封入し、懸濁液内で又は静的に小滴内で分析することができ;また、細胞は細胞凝集体を形成している間に測定することができる。代替的に、マイクロ流体デバイスを用いて、又は用いることなく、細胞は、基体上に付着している間に、又は3Dゲル内にある間に、又は凝集体を形成している間に、明視野又は共焦点撮像手法によって細胞内情報のブリルアン取得を誘導することによって、他の設定(皿又はフラスコ内等)において分析することができる。分析は、細胞集団又は個々の細胞のいずれかに対して実施することができる。
【0024】
本発明の1つの態様では、これを果たすために、サンプルが第1の方向に沿って光ビームによって照明され、サンプルによって放射されたブリルアン散乱光が第2の方向に沿って収集され、検出される。第1の方向に沿ったサンプルの複数の位置を同時に測定することができ、それにより、測定スループットを実効的に改善することができる。さらに、ブリルアンスペクトルから取得された細胞内情報に基づいて、サンプル内の生体細胞を分類することができる。
【0025】
等方性物質のブリルアン周波数シフトf
bは以下のように表すことができる。
【数1】
ただし、nは物質の屈折率であり、λはレーザーの波長であり、
【数2】
は音響速度であり、Eは弾性率であり、ρは密度であり、θは散乱角(ここでは、θ=90度)である。
【0026】
サンプル内の複数の点におけるブリルアン散乱スペクトルに関連付けられる1つ以上の指標を測定することによって、測定サンプルの機械的及び/又は物理的特性を直接読み出すことができる。1つの実施形態において、指標としてブリルアン周波数シフトが使用される。サンプルの機械的及び/又は物理的特性は、粘弾性率、密度、屈折率及び電歪を含むことができる。測定サンプルの機械的及び/又は物理的特性を特定するために、ブリルアンスペクトル線幅、ブリルアン利得又は損失スペクトル及びその組み合わせ等の他の指標を使用することができる。
【0027】
図1は、マイクロ流体チャネル111とともにエピ検出を用いる逐点走査モードのためのブリルアン分光法構成を例示する。具体的には、到来するレーザービーム110が、最初に、ビームスプリッター113によって導光され、その後、対物レンズ112によってマイクロ流体チャネル111上に合焦する。励起されたブリルアン散乱光が、同じ対物レンズ112によって収集され、ビームスプリッター113及びミラー114によってコリメーター115に導光される。コリメーター115に後続するコリメートされたビームは、最初に、円柱レンズ116によって合焦し、その後、VIPA117に送り込まれる。到来する散乱光の異なるスペクトル成分がVIPA117によって空間分離され、球面レンズ118によって合焦し、スペクトルパターンが生成される。スペクトルパターンは、その後、球面レンズ119によって検出ユニット120上に結像される。一例として、検出ユニット120はカメラとすることができる。幾つかの実施形態において、球面レンズ119は不要な場合があり、その場合、カメラ120は、球面レンズ118の前方焦点面に直接配置することができる。マイクロ流体チャネル111の中にサンプルが流されるとき、そのブリルアンシグネチャを識別し、その固有の物理的特性に相関させることができる。したがって、各時点において、対物レンズ112の焦点面において1つの点しか測定することができないので、結像のために逐点走査が必要とされる。
【0028】
図2は、マイクロ流体チップとともに多重化ブリルアン分光法を用いる本発明の1つの実施形態に関する。具体的には、到来する照明光ビーム210が対物レンズ211によって再整形され、サンプルを有するマイクロ流体チップ212内にペンシルビームが生成される。検出ユニット227に通じる検出経路(x方向に沿っている)は、照明経路(y方向に沿っている)に直交する。一例として、検出ユニット227はカメラとすることができる。チップ212内に生成される散乱光は、最初に、第2の対物レンズ220によって収集され、チューブレンズ221の焦点面において中間像が生成される。1つの実施形態において、中間像面内に空間フィルター又はアパーチャ228が位置決めされ、サンプルから到来する焦点外の光が除去される。中間像がその後方焦点面上にあるように球面レンズ222が配置され、それゆえ、光が球面レンズ222によってコリメートされる。コリメートされた光は、その後、円柱レンズ223によって、z方向においてVIPA224上に合焦する。到来する散乱光の異なるスペクトル成分がVIPA224によって空間分離され、球面レンズ225によって合焦し、スペクトルパターンが生成される。スペクトルパターンは、その後、球面レンズ226によってカメラ227上に結像される。検出経路において、ビームラインの3つのグループが、サンプルの異なる位置を示す。対物レンズ220の視野内で、サンプルの複数の位置を同時に測定できることが、
図2から明らかである。幾つかの実施形態において、カメラ227が球面レンズ225の前方焦点面に直接配置されるように、球面レンズ226を除くことができる。
【0029】
照明ビームに沿った全ての測定位置から収集された散乱光が同じ球面レンズ222によってコリメートされるので、異なる位置からのコリメートされたビームは、VIPA224に関するxy平面において異なる角度を有する。この結果として、軸上の点に対して、軸外の点に関するスペクトルに更なる空間的なシフトが生じることになり、それゆえ、空間次元(すなわち、y方向)に沿ったスペクトルは、カメラ227において一直線ではなく、湾曲する。したがって、照明ラインを横切る異なる点からの散乱光の入射角は異なる。これは、サンプル内の異なる点からの散乱がVIPAエタロン内でわずかに異なる経路長及び分散を有することを意味する。角分散を、それゆえ、スペクトル線の曲がりを除去するために、レンズ221の中間結像面において生じる結像倍率が最小化された。VIPA224においてスペクトル分散が生じた後に、カメラ227上のスペクトル線の湾曲に影響を及ぼすことなく、結像倍率を復元することができる。
【0030】
さらに、角分散を補償するために、スペクトル較正が必要とされる場合がある。カメラ227上で検出されたスペクトル内に照明ビームラインが存在するとき、VIPAエタロンの種々の異なる回折次数におけるシフトされない照明ビームラインの場所を用いて、空間ラインの各ピクセル(サンプルの1つの点に対応する)においてスペクトル較正を実行することができる。照明ビームラインが利用できないとき、各空間点における較正のために必要とされる2つの未知のパラメーター、すなわち、自由スペクトル領域(FSR)及びスペクトル分散係数がある。それゆえ、未知のパラメーターを求めるのに、2つ以上の既知のサンプルの結果を組み合わせれば十分である。
【0031】
代替的には、
図3において例示されるような多重化ブリルアン分光法に基づく本発明の別の実施形態を使用することによって、空間較正を回避することができる。
【0032】
図3は、本発明の別の実施形態による、レンズアレイを使用する多重化ブリルアン分光法構成を示す。照明経路は
図2に示される照明経路と同じである。対物レンズ311を用いて再整形された光310のビームによって、マイクロ流体チップ312が照明される。検出経路(x方向に沿っている)は、照明経路(y方向に沿っている)の法線方向にある。チップ312内に生成される散乱光は、最初に、第2の対物レンズ320によって収集される。チューブレンズ321の焦点面において中間像が生成される。1つの実施形態において、中間像面内に空間フィルター又はアパーチャ330が位置決めされ、サンプルから到来する焦点外の光が除去される。
図2の球面レンズ222が、コリメーションのためのレンズアレイ322に置き換えられる。像全体が数多くの部分に分割され、それぞれがレンズレットによって独立してコリメートされるように、レンズアレイ322の各レンズレットが、中間像の小さな部分からの光のみを受光する。各小部分がレンズレットに対して軸上にあると近似され、全てのレンズレットが十分に位置合わせされるので、コリメートされたビーム全体が平行であり、対応するスペクトルは一直線になるであろう。コリメートされた光は、その後、VIPA224の中に送り込まれる。第2のレンズアレイ327のレンズレットの口径を適合させるために、一対の円柱レンズ325及び326を用いて、VIPA224の出力光を圧縮する。レンズアレイ327の前方焦点面においてスペクトルパターンが生成され、球面レンズ328によって検出ユニット329上に結像される。一例として、検出ユニット329はカメラとすることができる。幾つかの実施形態において、レンズアレイ327の前方焦点面にカメラ329を直接配置できるように、球面レンズ328を除くことができる。
【0033】
例1
本発明の検証の一例として、
図2の構成を用いて多重化ブリルアン分光法の空間分解能を実証するために実験が実施された。この実験において、光源として、単一モード532nm連続波レーザーが使用され、サンプルとして、メタノールを含むプラスチックキュベットが使用された。照明経路(y軸に沿っている)内の対物レンズ211は、0.0175の開口数(NA)を有し、検出経路(x軸に沿っている)内の対物レンズ220は0.1のNAを有する。VIPA224は、17GHzの自由スペクトル領域(FSR)と、20mmの入射窓とを有する。カメラ227は、電子増倍電荷結合素子(EMCCD:electron multiplying coupled charge device)である。サンプル(プラスチックキュベット)と対物レンズ220との間にナイフエッジが配置された。ナイフエッジは、並進ステージを用いて、y方向に沿って動かすことができる。ナイフエッジをy方向に向かって動かすとき、キュベットからの散乱信号が部分的に遮断される。ナイフエッジの変位と、カメラの記録された信号とを比較することによって、分光法の空間分解能を取得することができる。
図4a~
図4eは、ナイフエッジが異なる位置にあったときにカメラによって取り込まれた原画像を示す。これらの画像において、スペクトル領域内の複数のスペクトル次数が示された。各次数は3つの縞のグループを含み、両側に2つのブリルアン周波数(ストークス及び反ストークスシフト)と、その間にレーザー周波数とを有する。
図4fは、ナイフエッジの動きと測定された変位との間の線形関係を示す。カメラの1ピクセルはサンプルの2.45μmのサイズに対応することが示された。また、
図2に示されるような現在の構成は、800μm程度の大きいサンプルを測定することができ、結果として、300点より多くの点を同時に測定できることを示す。
【0034】
図2に示されるような本発明の実施形態を使用するマイクロ流体チャネル内の流動液体の測定が
図5において例示された。溶融石英ガラスから形成されるマイクロ流体チャネルは、100μmの幅と、250μmの深さとを有する。チャネル層は、500μmの幅を有する2つのガラス窓によって挟持される。チャネルは、光ビームが通過できるようにするためのその両側が研磨された1インチ×2インチのチップの中央に位置した。測定中に、液体がz方向に沿ってチャネル内で流動できるように、チップは直立するように配置された。レーザービーム210が、チップの側方からチャネルを照明する。水(5.2GHzのブリルアン周波数シフトを有する)及びメタノール(3.9GHzのブリルアン周波数シフトを有する)が、ハンドヘルドシリンジによって管を通して交互にチャネルの中に注入された。カメラの積分時間は、測定シーケンスの時間でもある0.2秒であった。
図5は、多重化ブリルアン分光法によって、マイクロ流体チャネル内の流動液体を明確に識別できることを示す。この実験は、フローサイトメトリーの適用例における本発明の能力を実証する。
【0035】
図2において例示される実施形態による、本発明の利点の別の証拠として、本発明(
図2)と従来のエピ検出構成(
図1)との間の信号対雑音比(SNR)が比較された。各構成のSNRは、光の異なる入力電力密度及びカメラの異なる露光時間において測定された。
図6は、本発明がショット雑音限界であり(理論的な当てはめ)、同じ入力エネルギー密度において従来のエピ検出よりはるかに高いSNRを有することを示す。言い換えると、本発明によれば、同じSNRレベルにおいて、従来のエピ検出より速く測定できるようになる。
【0036】
上記の方法以外に、測定スループットを更に改善する他の方法がある。1つの実施形態において、マイクロ流体チャネルの真下に励起源としてトランスデューサーを配置し、サンプルによって生成される音響信号を高めることができる。さらに、刺激されたブリルアン散乱は、一般に、自然発生のブリルアン散乱よりはるかに強い。単波長光源を使用する代わりに、可変の波長を有する2つのレーザーを用いて、マイクロ流体チャネル内に刺激されたブリルアン散乱を生成し、信号を更に高めることができる。さらに、1つの超短パルスレーザーを用いて、インパルス性の刺激されたブリルアン散乱を生成することもできる。
【0037】
例2
例2は、
図7に示されるような本発明の実施形態による、多重化(ライン走査)ブリルアン分光法の特性評価に関する。
図7は、ミラー724と、対物レンズ711、713及び714と、ビームコリメーション用の球面レンズ715と、円柱レンズ716、718及び719と、結像用の球面レンズ722とを含む、ライン走査ブリルアン分光法構成を例示する。1つの実施形態において、中間像面内に空間フィルター又はアパーチャ725が位置決めされ、サンプルから到来する焦点外の光が除去される。
【0038】
図7による分光計のスペクトル分解能が、この例において特性評価された。1つの非限定的な実施形態において、光源710は、単一モードの532nm cw(連続波)レーザー(Torus、LaserQuantum社)であった。レーザーヘッドからの光は対物レンズ711(NA=0.0175)によって合焦し、サンプル712を照明するためのラインビームが生成された。90度において、ビームラインに沿った散乱光が最初に、一対の対物レンズ713及び714(いずれも4X/0.1NAであった)によって結像され、その後、球面レンズ715(f=400mm)によってコリメートされた。コリメートされた光は、その後、円柱レンズ716(f=200mm)によって、VIPA717(FSR=17GHz、フィネス=35)の入口において合焦した。VIPA717に後続する分散光は、一対の円柱レンズ718(f=1000mm)及び719(f=400mm)によってスリット720の平面上に結像された。この平面は、球面レンズ722(f=60mm)によってカメラ723(iXon、Andor社)上に再び結像された。スリット720の隙間を調整することによって、望ましくない周波数を遮断することができ、ブリルアン周波数成分のみを通過させることができた。
【0039】
サンプルとして、純メタノールを含むプラスチックキュベット712が使用される。散乱光は、
図7の構成を通して進み、その後、CCDカメラ723によって収集される。カメラ723によって取得された未処理のスペクトルパターンが
図8aに示される。上側及び下側の2つのグレーラインは弾性散乱周波数(レーザーの周波数と同じ)であり、その間にある2つの明るいラインはブリルアン周波数(ストークス及び反ストークス成分)である。横軸及び縦軸はそれぞれ、空間領域及びスペクトル領域に対応する。
【0040】
図8bは、
図8aにおいて点線によって示される場所におけるブリルアンスペクトルを示す。VIPAの自由スペクトル領域は17GHzであったので、スペクトル分解能がピクセルあたり0.177GHzであったと計算することができた。レーザー周波数の連続するピークと半値全幅との空間比を計算することによって、約35のフィネスも確認された。推定ブリルアン周波数シフトの精度は、空間領域においてピクセルごとの信号対雑音比(SNR)を計算することによって特性評価された。
図8cは、SNR対照明エネルギーの対数プロットを示す。
図8cのSNRは、異なる照明エネルギーで計算された。測定データは、概ね平方根依存性を示し、ショット雑音限界挙動を示した。
図8dは、単一の点において100回測定した場合の推定ブリルアン周波数の典型的な分布を示しており、その分布はガウス形状を有する。この分布の標準偏差を用いて、推定ブリルアン周波数の精度を推定した。この場合、それは8.5MHzであり、0.22%の相対的不確実性に相当する。
【0041】
空間分解能を特性評価するために、キュベット712に後続してすぐに、ただし検出対物レンズ713に先行して、ナイフエッジが配置される。1つの実施形態において、ナイフエッジを搬送する並進ステージが25.4μmのステップサイズでx方向に動かされ、ナイフエッジの対応する像が分光計のカメラ723によって監視された。その結果が
図9に示される。測定データが直線に当てはめられ、それにより、空間分解能はピクセルあたり3.29μmと計算された。カメラ723は全部で512×512ピクセルを有し、それはサンプル面内の概ね1.68mmに対応する。
図8aに示されるように、スペクトル線は空間次元にわたって完全に一直線ではなく、VIPA717における軸外の点の入射角の偏差に起因してわずかな湾曲を有する。この湾曲の結果として、カメラにわたってスペクトル分解能が変動する場合があるが、その変動はピクセルあたり0.2MHz未満まで、すなわち、1mmの空間的視野を超える範囲内で10MHz以下まで最小化された。幾つかの実施形態において、この誤差は、必要な場合に各点においてスペクトル分解能を較正することによって回避することができる。
【0042】
例3
2次元及び3次元結像
例3は、
図7による多重化ブリルアン分光法に基づく2次元及び3次元結像の特性評価に関する。
【0043】
非球面PMMAレンズのブリルアンシフトが、
図10aに示される構成において測定された。
図10aは、屈折率整合液でキュベットを満たす前に撮影されたPMMAレンズの写真を示す。下はPMMAレンズを拡大撮影した写真であり、スケールバーは500μmの長さを有する。PMMAレンズはプラスチックキュベットの中に配置され、サンプルの表面における散乱を低減するために、キュベットは屈折率整合液であらかじめ満たされた。キュベットは、垂直に配置された電動並進ステージによって搬送され、その並進ステージによって、サンプルをy方向に走査できるようにした。1つの実施形態において、キュベット(
図7のサンプル712)は、10mm×10mmのサイズを有する。非球面ポリメチルメタクリレート(PMMA)レンズをキュベット712の中央領域に浮かせておくために、PMMAレンズの縁が光学接着剤を用いて注射器の針の先端に取り付けられ、その後、針の端部がキュベットの壁に固定された。一例として、限定はしないが、電動並進ステージ(T-LSM025A、Zaber社)は、25mm移動範囲とRS-232制御とを有した。並進ステージの最大速度は7mm/s程度に速くすることができる。
【0044】
1つの実施形態において、走査を自動的に実行できるように、Lab Viewプログラムを用いて、ステージの移動とカメラによる取得とを同期させる。レーザー電力は70mWであり、カメラの露光時間は0.1秒であった。ステージの速度は、30秒以内に300フレームが取り込まれるように50μm/secと設定され、それは全部で1.5mmの変位に対応した。サンプル(PMMAレンズ)が液体の中に浸漬されたとき、屈折率整合のために、裸眼ではほとんど見ることができなかった。しかしながら、サンプル及び整合液の剛性が異なったので、それらはブリルアンスペクトルによって容易に識別することができた。
図10bは、カメラ723によって取得された典型的な信号のスナップショットであり、スリット720によって弾性周波数が遮断されたために、ブリルアン周波数成分のみが示された。PMMAレンズが整合液によって包囲されたことが
図10bにおいて明確に示される。
図10c及び
図10dはそれぞれ、単一の点における屈折率整合液及びPMMAのブリルアンスペクトルを示す。点及び実線はそれぞれ、測定データ及び当てはめられたデータに対応する。スペクトル分解能の特性評価データを使用するとき、PMMA及び整合液のブリルアン周波数シフトはそれぞれ、11.32GHz及び9.11GHzと特定された。
【0045】
図11は、PMMAレンズの2Dブリルアン画像及び3Dブリルアン画像を示す。
図11aは、
図10a内の点線に沿って走査された断面を示す。矢印は、照明ビームを示す。
図11bは、測定されたブリルアン周波数シフトに基づく、整合液内に浸漬されたPMMAレンズの2D結像を示す。1つの実施形態において、画像の全体サイズは約1.1mm×1.5mmであった。PMMAレンズと整合液との界面は、画像から明確に確認することができ、PMMAレンズの内側領域は極めて均一である。異なる物質の界面において、各物質に対応する2つのブリルアンシグネチャ間にクロストークがある。2つの物質が類似のブリルアンシフトを有する場合には、このクロストーク効果が界面において不明瞭な領域を導入することになる。この実験において、PMMAレンズ及び屈折率整合液は異なるブリルアンシフトを有し、それにより、不明瞭な領域を、2ピクセル、すなわち、6.58μm以内にあると定量化できるようになる。
図11cに示される走査方法を使用することによって、この分光法が迅速な3D結像を実施できることが実証された。
図11dは、別の並進ステージを用いてPMMAレンズがz軸に沿って動かされるときに取得された断面画像の5つのスライスを示す。
【0046】
要するに、
図1~
図11dを参照すると、本発明の1つの実施形態において、照明ビームはレーザービームとすることができ、検出ユニット120、227、329及び723は、CCD、CMOSカメラ、又は検出器のアレイとすることができる。更に別の実施形態において、照明光は、その中心値に固定されるか、又はその中心値付近において調整可能である、UV、可視光又はIR方式における単一波長を有する照明源によって与えられる。各測定サンプル点において計算された1つ以上のブリルアン指標に基づいてサンプルの画像を生成するために、サンプルは、結像又は取得中に照明光ビームに対して移動する可動プラットフォーム上に配置することができる。更に別の実施形態において、照明光ビームは、結像中に静止したサンプルに対して移動している場合がある。一例として、限定はしないが、サンプルは、生物有機体、組織又は生体細胞を含む、生体サンプルとすることができる。1つの実施形態において、生体細胞は生細胞である。生体細胞は、ブリルアン指標を測定している間に、懸濁される場合があるか、2D基体に付着している場合があるか、又は3D細胞外マトリックス内で培養される場合がある。
【0047】
1つの実施形態において、カメラ120、227、329及び723上で検出されたスペクトルは、ブリルアン散乱光の空間スペクトルパターンである。検出された空間スペクトルパターンに基づいて、各測定サンプル点において1つ以上のブリルアン指標を計算することができる。一例として、限定はしないが、ブリルアン指標はブリルアン周波数シフト、ブリルアンスペクトル線幅、ブリルアン利得又は損失スペクトル、及びその組み合わせとすることができる。サンプル点において測定されたブリルアン指標の各々は、この時点におけるサンプルの物理的特性を示す。一例として、限定はしないが、サンプルの物理的特性は、粘弾性率、密度、屈折率、電歪及びその組み合わせとすることができる。1つの実施形態において、ブリルアン散乱光に関連付けられる指標は、ブリルアン周波数シフトである。
【0048】
各測定サンプル点における1つ以上のブリルアン指標に基づいて、サンプルの画像を生成することができる。
図2、
図3及び
図7は90度の角度をなすように配置される照明経路及び検出経路を示すが、いずれの構成も、互いに対して0度より大きい任意の角度に配置される照明経路及び検出経路を用いて実現することができる。
【0049】
図2、
図3及び
図7を参照すると、スペクトル分散を誘発する光学配置は、球面レンズ、円柱レンズ、VIPAを備えることができる。具体的には、その光学配置は、
図2の要素222、223、224、225及び226、
図3の要素322、323、324、325、326、327及び328、並びに
図7の要素715、716、717、719、720及び722を備える。1つの実施形態において、スペクトル分散を誘発する光学配置は、仮想画像化フェーズドアレイ(VIPA)、ファブリ-ペローエタロン又はエシェル格子を備える。更に別の実施形態において、光学配置は、サンプルから検出ユニットまでの光路内の空間スペクトルパターンのサイズ、形状及び/又は角度の広がりを変更する光学要素を更に備える。具体的には、照明光ビームは、サンプルを含む容器内にペンシルビームを生成するために、第1のレンズ211、311及び711によって再整形される。空間光変調器又は変形可能ミラー(
図7、ミラー724)を用いて、第1のレンズ(
図7、レンズ711)に入射する照明光ビームを再整形することができる。更に別の実施形態において、サンプル容器内で生成されるブリルアン散乱光は、第2のレンズ220、320、713を備え、第3のレンズ221、321、715の焦点面において中間像を生成する第1の結像系によって収集される。中間像の倍率は、VIPA224、324及び717における測定サンプル点の角分散を最小化するように最適化される。サンプルから到来する焦点外の光を除去するために、中間像面において空間フィルター又はアパーチャ228、330及び725を使用することができる。
【0050】
図2の要素222、225、226、
図3の要素322、326、327及び328、
図7の要素715、718及び722の組み合わせである第2の結像系が中間像を検出ユニット227、329、723上に投影し、VIPAを含む光学配置は、第2の結像系の無限遠空間(infinity space)内にある。本発明の更なる態様において、ブリルアン散乱光は、球面レンズ(
図2、レンズ222;
図7、レンズ715)によってコリメートされ、円柱レンズ(
図2、レンズ223;
図7、レンズ716)によってz方向においてVIPA上に合焦し、異なる位置からのコリメートされたビームは、VIPAに関するxy平面において異なる角度を有する。ブリルアン空間スペクトルパターンの焦点を検出ユニット227、329、723上に厳密に合わせるために、VIPAの出力光は幾つかの円柱レンズ及び球面レンズ225、226、718、719、722によって変更される。さらに、本発明の別の態様において、ブリルアン散乱光は第1のレンズアレイ322によってコリメートされ、第1のレンズアレイの各レンズレットが中間像の一部からの光のみを受光し、像全体は複数の部分に分割され、各部分はレンズレットによって独立してコリメートされる。VIPAの出力光は、第2のレンズアレイ327のレンズレットの口径を適合させるために、一対の円柱レンズ325及び326によって補償される。ブリルアン空間スペクトルパターンは、第2のレンズアレイ327の前方焦点面において生成され、検出ユニット329上に結像される。
【0051】
更に別の実施形態において、空間スペクトルパターン内のレーザーラインを吸収する狭帯域フィルターであり、狭帯域フィルターは吸収ガスセル及びファブリ-ペローエタロンデバイスからなる群から選択される。照明源の波長及び狭帯域フィルターによって吸収される波長は互いにロック(lock)される。
【0052】
1つの実施形態において、ブリルアン空間スペクトルパターンは、光学配置の異なる回折次数によって生成される異なるレーザーライン又は弾性散乱ライン間の距離を検出ユニット227、329、723上で測定することによって較正される。更に別の実施形態において、レーザーラインが狭帯域フィルターによって吸収され、較正のために利用できないとき、既知のブリルアン特性の基準物質を用いて、光学配置のスペクトル分散特性を計算する。
【0053】
図7において例示されるような構成の利点及び制約を理解するために、角度のある幾何学的配置のスペクトル効率が、
図1において例示されるような共焦点エピ検出構成を使用する従来の構成と比較された。照明ビームが垂直偏光され、それゆえ、散乱面に対して垂直である場合には、微分断面積は散乱角から独立しており(Girard M J A、Dupps W J、Baskaran M、Scarcelli G、Yun S H、Quigley H A、Sigal I A及びStrouthidis N G「Translating Ocular Biomechanics into Clinical Practice: Current State and Future Prospects」Curr. Eye Res. 40(1), 1-18 (2015))、それゆえ、直交する照明経路-検出経路を備える構成は、エピ検出と同じ微分断面積を有する。しかしながら、角度のある幾何学的配置は結果として、単一の点あたりの幾何学的効率が減少することになる(すなわち、測定の実質的な並列化に起因する利点を排除する)。収集された散乱電力はP=I
ill・V・Ω・Rと書くことができる。ただし、I
illは照明光の強度であり、Vは散乱の相互作用体積であり、Ωは収集立体角であり、Rは散乱係数であり、それはm
-1の単位を有し、ここでは定数と見なすことができる。直交構成において、相互作用体積は、半径r=0.61λ/NA
col及び長さl=0.61λ/NA
illを有する円柱形によって近似することができる。ただし、NA
col及びNA
illはそれぞれ、照明対物レンズ及び収集対物レンズのNAである。収集立体角は、収集開口数Ω=πNA
col
2によって決まる。それゆえ、収集散乱電力は、P
90=I
ill・R・π
2・0.61
3・λ
3/NA
illである。エピ構成の場合、代わりに、相互作用体積は約0.61
2・λ
3/NA
epi
4である。ただし、NA
epiは対物レンズのNAであり、収集立体角はΩ=πNA
epi
2である。したがって、収集散乱電力は、P
epi=I
ill・R・π
2・0.61
2・λ
3/NA
epi
2である。同じ照明強度の場合、2つの構成間の収集電力の比は、結局、η=P
90/P
epi=0.61・NA
epi
2/NA
illになる。直交構成では、視野にわたって均一な長い照明ビームラインを生成するために、一般に低いNA
illが好ましい。例えば、1.737mmの使用可能なレイリー範囲に対応するNA
ill=0.0175が使用された。本発明による特定の実験構成をNA
epi=0.1を有するエピ構成(x方向において同じ分解能を与える)と比較すると、その比は34.8%である。この計算は、対物レンズの異なる組み合わせが使用された他の研究(非特許文献8)による予測と一致する。重要なことに、この計算は、
図2の実験結果、そして他のエピ検出結果(Guilluy, Cら「Isolated nuclei adapt to force and reveal a mechanotransduction pathway in the nucleus」Nature Cell Biology 16, 376 (2014))と一致する。直交及びエピ検出における散乱効率は、照明体積と検出体積との間の重なりによって決定され、それゆえ、並列化の利点を最大化するために、角度のある幾何学的配置を、単一点測定あたりエピ検出と同じ効率になるように設計することができる。ライン並列検出を含むとき、多重ブリルアン分光法は、エピ検出における1時間超の長さと比べて、数十秒内に数ミクロンの分解能でmmサイズのサンプルの走査を成し遂げることができる。ビームラインに沿って測定可能なサイズは、照明NAと、カメラのピクセル数との両方によって決定される。空間分解能は、検出NA(x方向、ビームラインに沿っている)及び照明NA(y方向及びz方向)によって決定される。
【0054】
背景除去に関して、角度のある構成は、エピ検出より本質的に低い背景雑音を有する。一般の共焦点構成では、照明光の後方反射が分光計の中に容易に結合され、背景雑音の一因になる。ライン走査構成では、照明経路及び検出経路が直交して配置されるので、後方反射を完全に回避することができる。さらに、ラインビームによって照明される領域のみが励起されるので、ライン走査構成は、光学的分割(optical sectioning)に関して、共焦点構成と類似の機能を有する。一方、1ステージVIPAのみが使用されるので、分光計の消光比は制限される。これは、界面、又はイントラリピッド媒質若しくは組織等の光学的に不透明なサンプルを測定するのを難しくする。機器の全体的な消光比を改善するために、ライン走査構成を、アポディゼーション、狭帯域バンドパスフィルタリング、及びガスチャンバー狭帯域吸収フィルタリング等の、背景雑音を抑圧することができる既存の方法と組み合わせることができる。
【0055】
本発明の別の態様は、細胞内物理的(機械的)特性に基づいて、生細胞を分類するシステム及び方法に関する。一例として、限定はしないが、分類されることになる細胞は、ヒト細胞、動物細胞又は植物細胞とすることができる。細胞内物理的情報は、細胞内部の音響特性に関連するブリルアン光散乱のスペクトル分析から取得される。分類は、細胞集団又は個々の細胞のいずれかに基づくことができる。1つの実施形態において、細胞は、懸濁された状態で、2D基体に付着している状態で、及び/又は3D合成/天然細胞外マトリックス内で培養された状態で分析することができる。更に別の実施形態において、細胞は、静止状態において、又は細胞流動を介して分析することができる。
【0056】
図12は、ブリルアン信号を励起/収集するエピ検出経路、監視結像手法、マイクロ流体デバイス(又は他の細胞播種(cell plating)デバイス)、ブリルアン分光計、及びこれら全てのサブ構成要素をリンクする、ソフトウェアを備えるコンピューターの新規の組み合わせから生じる本発明の例示的な実施形態を示す。第1の到来する照明ビーム1210が、ビームスプリッター1211及び対物レンズ1212を使用することによって、マイクロ流体デバイス1230内部の1つのスポット上に合焦する。照明レーザービーム1210はレーザービームとすることができる。1つの実施形態において、第1の到来するレーザービーム1210は1μm~10μmのスポットの中に合焦する。後方ブリルアン散乱光が同じ対物レンズ1212によって収集され、ビームスプリッター1211、反射ミラー1213及びカップリングレンズ1214を介して、ブリルアン分光計1215に導光される。ブリルアン分光計1215は、ブリルアン周波数シフトを正確に測定することができるデバイスである。ブリルアン分光計1215の1つの例がScarcelli Polachech 2015 Nature Methodsにおいて開示されている。マイクロ流体デバイス1230の上方に、第2の光源1220(一般にレーザービーム1210とは異なる波長を有する)、ビームスプリッター1221、チューブレンズ1222、対物レンズ1224及び2D画像記録デバイス1225からなる明視野顕微鏡が存在する。この顕微鏡構成の目的は、マイクロ流体デバイス1230内部の細胞の流動状況を監視することである。1つの実施形態において、その顕微鏡構成はスペクトルフィルター1223を更に含み、スペクトルフィルターは、レーザービーム1210からの光を遮断するが、光源1220からの光が通過できるようにする。対物レンズ1212からの合焦スポットが対物レンズ1224の像面上にあるのを確実にするように、対物レンズ1212及び1224が調整される。
【0057】
1つの実施形態において、ソフトウェアインターフェースを用いて、2D画像記録デバイス1225によって取得された明視野像と、ブリルアン分光計1215のブリルアン信号とを同期させることができる。これにより、ブリルアン信号を測定サンプルの正確な場所に割り当てることができる。
【0058】
図13は、
図12のブリルアン分光法構成とともに使用されるインターフェースのスナップショットを示す。インターフェースの主な機能は、その中に細胞を有するマイクロ流体デバイスの未処理のブリルアン信号1310(空間スペクトルパターン)及び明視野像1320を同時に記録することである。2つの白色の点1310はブリルアン信号(空間スペクトルパターン)であり、点間の距離はブリルアンピークを表す。レーザーラインからブリルアンピークまでの距離は、所望の周波数シフトである。この表現において、ここで適切な較正が行われた場合、2つのブリルアンピーク間の距離を計算することによって、ブリルアンシフトを測定することができる。この場合に、2つのピーク間の距離が短いほど、大きな周波数シフト、それゆえ、高い剛性に対応する。
【0059】
図14において、ブリルアン信号検出を実際にいかに実施できるかについての非限定的な例が示される。具体的には、
図14a~
図14cはそれぞれ、0.85sec、1.35sec及び1.65secにおいて同時に取得された未処理のブリルアン信号(空間スペクトルパターン)及び明視野像の両方のスナップショットである。そのスナップショットは、上から下にチャネル内部を流れる細胞を示す。丸1402は、細胞が横切っている照明(プローブ)ビームスポットの場所を示す。
図14d~
図14fは、
図14a~
図14cの未処理のブリルアン信号から計算されたブリルアン周波数シフトの時間トレースを示す。
図14a~
図14cの同期した画像から、ブリルアン信号の元の場所を、曖昧にすることなく特定することができる。ブリルアン周波数シフトを特定の細胞内の場所に割り当てること以外に、画像処理技法を組み込むことと、細胞容器を並進させること、又はブリルアンプローブビームの位置を制御することのいずれかとによって、この能力を用いてブリルアンプローブビームを特定の場所に導光することもできる。
【0060】
1つの非限定的な実施形態において、細胞を合焦したプローブビームスポットに位置合わせするために、
図12に示されるようなマイクロ流体デバイス1230を2D並進ステージ上に配置することができる。一例として、限定はしないが、マイクロ流体デバイス1230は、長方形の断面を有するか、又はフローサイトメータの大部分と同様に円形の断面を有する一直線のチャネルとすることができる。チャネルのサイズ(一例として、100μm×100μm)が、細胞のサイズ(一例として、直径が10μm~20μm)よりはるかに大きい場合には、細胞は、マイクロ流体デバイス1230を通ってランダムな場所に流れる場合があるので、測定精度、そして潜在的には測定スループットが減少する。1つの実施形態において、全ての細胞を照明ビーム1210によって探査できるように、細胞をチャネル内部の同じトレースに沿って位置合わせするために、シースフローと呼ばれる流体力学的合焦技法を実施することができる。これは、各細胞の中心がプローブビーム1210の合焦スポットに絶えず位置合わせされるのを確実にする実効的な方法である。
【0061】
図15a及び
図15bは、シースフロー技法を使用することによって取得された実験データ(
図15b)と、シースフロー技法を使用することなく取得された実験データ(
図15a)との比較を示す。流量及び分光計1215の取得時間を調整することによって、細胞が光ビーム1210を横切って進むときに、1つの細胞の幾つかの場所を探査することができる。
図15a及び
図15bのプロットに関して、単一の細胞の平均剛性を記述するために、細胞内で取得された全てのブリルアン周波数シフトの平均が計算された。それゆえ、
図15a及び
図15bにおいて、ヒストグラムの各データ点は1つの細胞を表す。それらの結果は、非シースフローによって引き起こされる人工的な広がりが取り除かれるので、測定データの広がり(分布の線幅)が、シースフロー技法を使用することによって約40%狭くされる。1つの非限定的な実施形態において、NIH 3T3細胞株が実験において使用された。
【0062】
更に別の実施形態において、画像誘導位置合わせ(image-guided alignment)と呼ばれる第2の手法を用いて、流動する細胞をレーザービーム1210の合焦スポットに位置合わせすることができる。その概念の概要が
図16に示される。この手法も
図12に示される構成内で実施することができるが、以下の変更が加えられる。
図12において、レーザービーム1210の合焦スポットは、顕微鏡1212の視野の中心に位置する。しかしながら、
図16において、合焦スポット1620は、マイクロ流体チャネル1610の底部に動かされ、x方向に沿った中間点に、すなわち、x
0に設定された。細胞1630がy方向に(上から下に)流れていると仮定して、細胞が視野内に現れると、その場所(x
1)及び合焦スポット1620に対する水平シフト(x
0-x
1)を特定することができる。その後、マイクロ流体チャネル1610を搬送する並進ステージを自動的に、又は手動で動かして、細胞1630を合焦スポット1620に完全に位置合わせすることができる。代替的には、更に別の実施形態において、ブリルアンプローブビームは、レーザー走査補助部品(例えば、検流計スキャナー、ポリゴン)又は他の既知のビーム位置決め技法を用いて調整することができる。この手法の成功は、2つの条件に基づく。第一は、流動実験の全てが層流であることであり、それは、細胞がチャネルに入ると、横方向にドリフトするのではなく、そのトレースを維持するのを確実にする。第二は、細胞及びプローブの場所を調整するフィードフォワードアルゴリズムが、チャネルの位置調整を行うだけの十分な時間があるように流速より速いことである。
図12のブリルアン分光法構成を使用することによって取得された典型的な実験結果が、
図17aに示される。細胞が培養され、実験直前に緩衝液の中に懸濁された。1つの実施形態において、緩衝液として、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)が使用された。流量を調整することによって、細胞が光ビームを横切って進むときに、各細胞内の5~10の位置が探査される。この場合に、測定データ点の全てを用いて、
図17a内のヒストグラムグラフをプロットした。
図17aのヒストグラムは3つの部分からなり、それらの部分の輪郭が3つの実曲線1702、1704及び1706によって描かれる。第1のピーク1704はPBSのシグネチャであり、それは
図17bに示されるように、容易に認識し、位置を特定し、除去することができる。光ビーム1210は、2つの隣接する細胞間の時間間隔内でのみ緩衝液を探査することになるので、測定データ内のPBSのシグネチャの出現が予想される。1つの非限定的な実施形態において、上記のように、細胞流動実験のために、NIH 3T3細胞株が使用される場合がある。
【0063】
細胞内情報を抽出するために、曲線当てはめ法を用いて、
図17aから細胞のシグネチャを抽出することができる。3つのガウス分布1702、1704及び1706の線形重ね合わせを用いて、元のヒストグラムを当てはめた。PBS溶液のシグネチャ1704は、
図17bのデータをあらかじめ当てはめることによって十分に特定することができるので、この情報は、当てはめの既知のパラメーターとして使用することができる。
図17aの元のヒストグラムに最も適合するように破曲線を当てはめた後に、
図17cに示されるように、PBS溶液1704のシグネチャを差し引くことによって、細胞の情報が取得された。
図17cのヒストグラムは2つのピークからなり、それらのピークは、2つのガウス分布1708及び1710の重ね合わせである。実際には、ガウス分布1708及び1710は、細胞内の異なる領域(すなわち、細胞質及び細胞核)からの機械的シグネチャを表す。
【0064】
図17a内のフローデータが、細胞集団の機構を正しく表すことを検証するために、細胞集団のフローデータと、細胞の組の2D画像とが直接比較された。最初に、細胞が
図12のマイクロ流体デバイス1230の中に送達され、その後、2~3分間、チャネル内部で細胞が懸濁されるのを確実にするために停止された。比較として、同じ細胞内の複数の場所において、同一の方法で調製された同じ細胞株を用いてブリルアン周波数を取得することに基づく流動実験が、
図12のブリルアン分光法構成を使用することによって行われた。
図18aは、チャネルを通って流れている細胞がレーザーを横切るラインに沿った一群の点に対して測定されたブリルアン周波数シフトの分布を示すヒストグラムである。1つの実施形態において、577個の細胞(3546個の細胞内の点)が測定された。
図18aのヒストグラムは、2つのガウス分布1802及び1804の重ね合わせによって当てはめられる。
図18bは、2つのガウス分布1806及び1808の重ね合わせによって当てはめられた流動細胞の2Dブリルアン画像から生じるヒストグラムである。1つの実施形態において、全部で4378個の細胞内の点を含む、29個の細胞が測定された。
図18a及び
図18bのヒストグラムは、2ピークプロファイル及び各ピークの周波数シフトを含む、同じ特徴を共有することがわかる。上記で規定されたような細胞及び測定値の数は、限定するものではなく、任意の数の細胞及び測定値を用いて、
図18a及び
図18bのヒストグラムを取得できることに留意されたい。
【0065】
さらに、
図17cの2つのピークが、細胞質/細胞骨格及び細胞核の機械的シグネチャに対応することが検証された。細胞の細胞核のみを染色するために蛍光染料が使用され、その後、同じ細胞の明視野/蛍光画像(
図19a及び
図19b)並びに2Dブリルアン画像(
図19d)の両方が取得された。
図19a及び
図19bの画像を融合することによって取得された
図19cの画像を
図19dのブリルアン2D画像と比較することによって、細胞質から細胞核を分離することができる。細胞核及び細胞質の両方のヒストグラムが
図19eに合わせてプロットされており、ピーク1904は細胞核に由来し(
図19bの蛍光領域に対応する)、ピーク1902は細胞質に由来する(
図19bの非蛍光領域に対応する)。
図19eと
図17cとの間の比較に基づいて、細胞がプローブビームを横切るときに、
図12のブリルアン分光法構成を用いて細胞内の複数の点においてブリルアン周波数を取得する流動実験によって、細胞集団内で細胞核及び細胞質の機械的シグネチャを区別できると結論付けられる。蛍光/ブリルアンを組み合わせた構成を用いて、蛍光で標識される特定の細胞内成分のブリルアン取得を正確に割り当てることができるか、又は画像誘導することができる。
【0066】
本発明の別の態様において、細胞内物理的(機械的)フェノタイピングに基づいて細胞を分類する能力が例示される。例えば、細胞に及ぼすサイトカラシンD(CytoD)の影響が分析された。細胞の全体剛性(変形能)は、細胞骨格及び細胞核の両方によって決まることが広く受け入れられている(Fletcher DA、Mullins RD「Cell mechanics and the cytoskeleton」Nature 463, 485-492 (2010))。細胞骨格は3つの主な重合体、すなわち、アクチン、微小管及び中間径フィラメントからなる。F-アクチンはアクチンの重合した状態であり、細胞形状及び機械的特性を制御する際に主要な役割を有する。それゆえ、F-アクチンの重合及び解重合が、細胞形状及び剛性の変化を推進する有向力を生成する。CytoDは、F-アクチンの重合を抑制する薬物である。F-アクチンはCytoDで処置された付着細胞において著しく低減されることになり、結果として、細胞全体がその剛性を低下させることが報告された(Wakatsuki T、Schwab B、Thompson NC、Elson EL.「Effects of cytochalasin D and latrunculin B on mechanical properties of cells.」J Cell Sci. 114, 1025-1036 (2001))。細胞内レベルにおいて、細胞核及び細胞骨格はいずれも、その両方内にアクチンが存在するときに、剛性を低下させることになる。さらに、細胞核及び細胞骨格は機械的に接続されるので、細胞核は細胞骨格からのプレストレスを受ける(Wang N、Tytell JD、Ingber DE.「Mechanotransduction at a distance: mechanically coupling the extracellular matrix with the nucleus」Nat Rev Mol Cell Biol. 10, 75- 82 (2009))。したがって、F-アクチンの崩壊は、最終的に細胞核を軟化させるようなプレストレスも低減するはずである(Chalut KJ、Hoepfler M、Lautenschlaeger F、Boyde L、Chan CJ、Ekpenyong A、Martinez-Arias A、Guck J.「Chromatin decondensation and nuclear softening accompany Nanog downregulation in embryonic stem cells」Biophys J. 103, 2060-2070 (2012))。
【0067】
1つの実施形態において、CytoDは細胞上に塗布され、その後、トリプシンを用いて剥離される。その後、処置された細胞はPBSに再懸濁され、
図12の構成において測定される。投与量依存性を観測するために、CytoDの3つの投与量が使用された。一例として、限定はしないが、CytoD投与量は、0.5ug/ml、2ug/ml及び5ug/mlであった。処置された細胞(279、232及び577)は投与量ごとに探査され、対照のために、処置されない細胞(268)が探査された。細胞全体にわたる平均値を用いて、細胞の機械的フェノタイピングを表した。
図20aの結果は、細胞の剛性へのCytoDの投与量依存効果を示す。したがって、細胞全体にわたる平均ブリルアン周波数シフト値を用いて、高スループットの機械的フェノタイピングを取得することができる。1つの非限定的な実施形態において、NIH 3T3細胞株を用いて、実験を実行した。
【0068】
平均された細胞値の他に、
図17a~
図17cを参照しながら説明された方法は、細胞内情報を取得することができる。CytoDの異なる投与量に対応する
図20b~
図20eに示されるように、ピーク2004、2008、2012及び2016のブリルアン周波数シフトは小さくなり、それゆえ、
図20bから
図20eに左に移動した。これは、高い投与量のCytoDによる処置ほど細胞核が軟化していることを示している。一方、細胞質を表すピーク2002、2006、2010、2014は、この実験において概ね変化しないことに留意されたい。これは、フラスコ基体から細胞を剥離するために使用されるトリプシン処理ステップが全てのF-アクチンストレス線維を崩壊させるので、結果として、懸濁された細胞に関する細胞骨格に測定可能な影響をほとんど及ぼさないためである。付着細胞において、細胞骨格剛性が著しく低減されることが検証された。
【0069】
図21は、本発明の別の実施形態による、ブリルアン分光法構成を示す。この実施形態において、細胞がブリルアンビームによって探査されると同時に、一緒に記録される細胞の共焦点蛍光画像を取得するために、第2の光学手法が追加される。第2の光学手法は、ダイクロイックミラー2127と、チューブレンズ2122と、ピンホールマスク2126と、光検出器2125とを備えることができる。ダイクロイックミラー2127は、レーザービーム2110及びブリルアン信号を通過させるが、蛍光を反射する。
図12の明視野顕微鏡と比べて、共焦点構成は、焦点外れの面からの蛍光を除去することによって、より良好な横断及び横方向光学分解能を有する。実際には、蛍光標識された細胞を用いて、細胞のサブ領域(例えば、細胞核)を識別することができ、レーザービーム2110の合焦スポットを用いて、蛍光放射を直接励起することができる。その後、共焦点構成を用いて、カメラ2125によって蛍光放射光を検出する。蛍光放射光の強度に基づいて、ブリルアン信号を目標点に割り当てることができるように、細胞内部の合焦スポット(それゆえ、ブリルアン信号)の場所を正確に特定することができる。この手法を用いて、測定中にブリルアンビームを細胞の特定の領域に導光することもできる。更に別の実施形態において、反転構成に加えて、共焦点顕微鏡の直立構成を使用することもできる。この場合、共焦点構成は、マイクロ流体デバイス2130の上に存在することになる。また、蛍光情報を用いて、細胞の縁部における測定値を較正するために、3次元結像ボクセル内に存在する非細胞媒質(例えば、PBS)の量を推定することができる。
【0070】
図22の画像は
図21の実施形態によるブリルアン分光法構成を使用することによって取得されたが、共焦点顕微鏡法ではなく、明視野蛍光が使用された。蛍光染料を用いて、マイクロ流体デバイス2130の中に後に送達される細胞の細胞核を染色した。細胞が懸濁液内に静止したままになると、マイクロ流体デバイスを動かすことによって、単一細胞の2Dマッピングが実行された。ブリルアンビームスポット及び蛍光が空間内で互いに重ね合わせられるので、ブリルアン信号を測定点ごとに蛍光強度に結び付けることができる。その結果を表現する1つの取り得る方法が
図22に示される。各点が細胞内の或る特定の領域において取り込まれた1つの測定値を表し、異なる色は、データ点の相対密度を符号化する。散乱スポットから、横軸上にプロットされた蛍光強度に従って、各ブリルアン信号の場所を明確に見定めることができる。例えば、破線の丸はそれぞれ、細胞核(蛍光領域)及び細胞質(非蛍光領域)からの測定点を示す。
【0071】
図21の実施形態を使用して細胞を分類する一例として、細胞に及ぼすCytoDの影響が分析された。処置する場合、及び処置しない場合の細胞のブリルアン及び蛍光両方の2D結像が行われ、
図22の方法を用いて、データを分析した。その結果が
図23a及び
図23bに示されており、
図23a及び
図23bはそれぞれ、対照群及びCytoD処置群の結果である。細胞がCytoDで処置された後に、細胞核ははるかに軟化することが観測された。
【0072】
図12及び
図21の実施形態において、ブリルアン信号が逐点走査モードにおいて取得され、そのモードは全体的なスループットの制限である。その場合に、個々の細胞を分析するのに十分な、細胞あたりの細胞内点を取得するのは難しい場合がある。したがって、
図12及び
図21の実施形態は、細胞集団分析に関して有用であるが、単一細胞の機械的フェノタイピングに関して強力というほどでない場合があり、それゆえ、細胞選別の適用例には適していない。この問題への1つの解決策は、単一の細胞を分析するのに十分な細胞内点を有するように流速を下げることである。別の解決策は、2つ以上の分光計を利用して、一度に2つ以上の場所を測定することである。代替的には、
図7によるブリルアン分光法構成が、細胞の複数の点を同時に測定することができる。
図7の光学配置は、
図12及び
図21の配置に比べて決定的に重要な変更を有する。この場合の主な変更は、CCDカメラによって記録された湾曲したブリルアンスペクトルパターンを一直線にするために、一対の対物レンズ713及び714が高分解能において利用されることである。これは、取得されたブリルアン信号が照明ラインビームに沿った対応する場所に正確に割り当てられるのを確実にするので決定的に重要である。具体的には、レーザー源710からのビームは最初にミラー724によって導光され、その後、x方向において照明ラインビームになるように対物レンズ711によって合焦する。ラインビームは、マイクロ流体デバイス712の縁部から、そのチャネルの中に差し込む。細胞は、y方向に沿って流動することによって、ラインビームを通り抜けることができる。ラインビームによって励起されたブリルアン散乱信号は、ブリルアン分光計の並列構成によって検出され、その構成は、一対の対物レンズ713及び714と、コリメートレンズ715と、円柱レンズ716と、分散デバイス(すなわち、VIPA)717と、円柱レンズ718及び719と、マスク720と、球面レンズ722と、高感度CCDカメラ723とからなる。
【0073】
図12及び
図21の分光計とは異なり、
図7の多重化ブリルアン分光計は、照明ラインビームに沿って数多くの点からのブリルアン信号を同時に取得することができる。例えば、適切な対物レンズを選択し、分光計内の光学系を調整することによって、x方向において1μm未満の分解能を達成することができる。細胞の通常のサイズは約10μm~15μmであるので、細胞が流動しているときに、1ショットの場合に約10個の点を、単一の細胞の場合に最大で100個を超える点を取り込むことができる。このデータセットは、単一の細胞の細胞内機構を取得するのに十分な情報を確実に与えることになる。それゆえ、
図7の実施形態は、その細胞内機械的フェノタイピングに基づいて、単一の細胞を分類する、より実効的な方法を提供する。幾つかの実施形態において、照明経路及び検出経路が直角に配置されることに加えて、
図7の構成は、45度及び60度の配置角度を含む、0度より大きい任意の角度において機能することもできる。
【0074】
図24は、
図7の実施形態の概念図を示す。照明レーザーライン2410は左縁部(x方向)からマイクロ流体チャネル2430を照明し、細胞2420は、チャネルの内部をy方向に沿って流れる。細胞2420がレーザーライン2410に当たると、細胞2420の照明された領域からのブリルアン信号が同時に取得されることになる。細胞が通り抜けるとき、そのラインビームによって細胞体全体を走査することができる。最終的に、
図24に示されるように、細胞2420の2D画像2440を再構成することができる。
【0075】
図7の実施形態は、細胞又はチャネルから反射されるか、又は散乱するレーザーからのスプリアス光を除去するために、フィルタリング要素を追加することによって更に改善することができる。このために、ファブリ-ペローフィルターを使用することができる。ファブリ-ペローフィルターは、実際には、選択された周波数を有する光が通過できるようにし、他の光を遮断できるようにするエタロンである。フィルターを適切に設計することによって、フィルターの透過ピークを、ブリルアン信号と重なり合うように調整することができる。スプリアス光は、ブリルアン信号とは異なる周波数を有し、抑圧されることになる。しかしながら、
図7の方法は、位置合わせの問題及び潜在的なアーティファクトを導入する場合があり、正確に較正することによって解決されるべきである。
【0076】
代替的には、吸収ガスチャンバーを使用することができる(Piironen P、Eloranta EW.「Demonstration of a high-spectral-resolution lidar based on an iodine absorption filter」Opt. Lett. 19, 234-236 (1994))。ガスチャンバーは、ビームの方向変更(redirection)によるスペクトル分散を導入せず、それゆえ、並列分光計に極めて適している。ガスチャンバーは一般にガラスから製造され、明確に規定された吸収スペクトルを有する特定の原子元素からの蒸気を含む。光は入口を介してガスチャンバーを通り抜け、いかなる光学歪みも導入することなく、窓から出る。吸収ガスは、特定の光学波長において非常に狭い(1GHz未満の)分子吸収スペクトルを有する。吸収ガスを適切に選択することによって、その吸収ラインが光源710の波長と完全に重なり合うガスチャンバーを設計することができる。例えば、ガスチャンバーは、レンズ712と713との間に配置することができ、ブリルアン信号が通り抜ける間に、スプリアス光(レーザー光源710と同じ波長を有する)が吸収されることになる。吸収スペクトルの線幅は非常に狭いので、レーザーの周波数の任意の小さなドリフトがあると、ガスチャンバーの実効性がなくなる。ガスチャンバーを
図7の実施形態とともに十分に機能させるために、レーザー源の波長をガスチャンバーの吸収ラインにロックする必要がある。一例として、
図25は、ルビジウムガスを含む、ガスチャンバーの測定吸収スペクトルを示す。このガスチャンバーは780.24nmの波長において機能し、その結果は、チャンバーが94.5℃まで加熱されたときに、ピーク吸収は約34dBであり、挿入損失が2dBであることを示す。得られたスペクトル減衰によって、強い背景雑音を有する生体サンプルを測定できるようになる。
【0077】
例4
本発明の例示的な構成が
図26に示される。垂直偏光レーザービーム2628が最初に偏光ビームスプリッター(PBS)2634によって反射され、対物レンズ2632によって底部側からマイクロ流体チャネル2624の中央に合焦する。1つの実施形態において、ブリルアン散乱を励起するための光源として、11mW単一モード直線偏光532nm cwレーザー(Torus、Laser Quantum社)が使用された。4分の1波長板(QWP)2626に起因して、合焦したビームは円偏光される。後方散乱光が同じ対物レンズ2632によって収集され、QWP2626に再び通される。円偏光した光は最終的に、PBS2634によって完全に透過する水平偏光した光に変換される。散乱光は、その後、ミラー2630によって導光され、ファイバーカップリングレンズ(FC)2636によってブリルアン分光計2638に結合される。ブリルアン分光計2638は、交差軸構成において、標準的な2ステージ仮想画像化フェーズドアレイ(VIPA)によって構成される。マイクロ流体チャネル2624の上側に、チャネル2624内部の細胞の流動状況を監視するために、明視野顕微鏡が構築された。破線矢印は、チャネル2624内部の細胞の流動方向を示す。照明のために赤色LED2616が使用され、ブリルアンビームを遮断するためにロングパスフィルターが使用された。一例として、限定はしないが、LED2616の波長は660nmとすることができ、ロングパスフィルターはFEL0600、Thorlabs社とすることができる。合焦したブリルアンビームの場所は、ロングパスフィルター(LP)2612を取り外すことによってあらかじめ決定された。ブリルアン信号に及ぼすLED光2616の影響を排除するために、ブリルアン分光計2638の前方に狭帯域フィルターが配置された。1つの実施形態において、分光計のデータを測定サンプルの対応する場所に割り当てることができるように、CCDカメラ2610及びブリルアン分光計2638をLab VIEWプログラムによって同期させた。1つの実施形態において、実験中に、分光計のサンプリング時間が50msと設定された。
図27a~
図27dは、細胞内の複数の点においてブリルアン周波数を取得することに基づく、細胞流動実験の測定手順を示す。実験が行われているとき、ブリルアン分光計2638は絶えず信号を記録する。細胞がビームの場所を通り抜けるとき(矢印によって示される白色の点)、そのブリルアンシフトが測定される。
【0078】
マイクロ流体デバイス
図26の構成において使用されるチップは、入口においてシースフロー構成を備える単一の一直線のチャネル2624を有する。1つの実施形態において、チャネルの断面は150μm(幅)×50μm(深さ)のサイズを有し、長さは約50mmである。チップは顕微鏡の2Dステージ上に組み付けられ、細胞懸濁液をチャネルの中に送り込むためのシリンジポンプに接続される。シースフロー技法を用いて、細胞をチャネルの中央に位置合わせすることができる。1つの実施形態において、流速は約20μm/s~40μm/sである。全体的なスループットは一時間あたり細胞約160個から300個まで変化し、平均では一時間あたり細胞230個である。
【0079】
サンプル調製
細胞が培養され、Mg2+及びCa2+不含のリン酸緩衝生理食塩水(PBS)の溶液内に再懸濁される。1つの実施形態において、最終的な細胞濃度は、100万細胞/ml~1000万細胞/mlである。クロマチン脱凝縮実験の場合、古い培地が吸引され、完全な成長培地内の100ng/mLトリコスタチンA(TSA)溶液と置き換えられる。その後、細胞は2時間、インキュベートされる。インキュベーション後に、細胞が、0.25%トリプシンEDTAを用いて採取され、250×gにおいて5分間、遠心分離され、約250万細胞/mLにおいて、Mg2+及びCa2+不含のPBSに再懸濁された。細胞核を蛍光染色する場合、Vybrant DyeCycle Ruby染料(ThermoFisher社)が使用され、推奨プロトコルに従った。要するに、50万細胞/mLの濃度を有する細胞懸濁液に1μL染料が添加され、十分に混合される。最終的な染料濃度は5μMである。その後、その混合物は37℃で15分~30分間、インキュベートされ、光から保護される。その際、細胞は、洗浄することなく、蛍光実験の準備ができている。1つの実施形態において、実験のために、NIH 3T3細胞株が使用される。
【0080】
細胞の2次元画像
本発明の1つの実施形態において、細胞懸濁液が、シリンジポンプを用いて、マイクロ流体チャネルの中に徐々に送り込まれる。チャネル内に細胞が満たされると、ポンプが停止される。数分後に、細胞はチャネルの底部に沈殿するが、依然として、丸みを帯びた形状を保持する。その後、レーザービームスポットの高さが細胞の中心に調整され、顕微鏡のステージを走査することによって、水平面において2D走査が実行される。走査のステップサイズは、両方の次元において0.5μmと設定される。1つの実施形態において、実験のために、NIH 3T3細胞株が使用される。
【0081】
元のフローデータからの細胞のシグネチャの抽出
緩衝液内に懸濁された細胞は一般に丸い形状を有する。1つの実施形態において、細胞の直径は10μmから20μmに及ぶ。合焦したブリルアンビームは約0.5μmのスポットサイズを有するので、細胞がビームスポットを横切って流れるときに複数の位置を測定することができる。1つの実施形態において、流動実験中に、ブリルアン分光計は、20Hzの速度において絶えずデータを取得する。
図27a~
図27dは、測定手順を例示する。具体的には、
図27a~
図27cは、異なる時点(t1、t2及びt3)において細胞がマイクロ流体チャネルを通って流れる場合を示す。スケールバーは30μmである。矢印によって示される白色の点は、レーザービームスポットの場所である。
図27dにおいて、ブリルアン信号の時間トレースが提示される。点は測定データを表し、実線は見やすくするために引いた線である。
【0082】
データの後処理において、明視野画像の助けを借りて、時間窓を用いて元のデータストリームから細胞事象を選出することができる。
図28a~
図28cは、577個の細胞について測定されたブリルアン周波数シフトの分布を表す。各データ点は、ブリルアン周波数シフトを測定するブリルアン分光計の1つの測定事象に対応する。細胞の機械的情報を保持するために、時間窓は一般に、各細胞事象の継続時間より広い。それゆえ、細胞及びPBS緩衝液両方の機械的シグネチャが記録され、
図28aに示される。ヒストグラムの第1のピーク2802はPBS緩衝液のシグネチャであり、それは、そのブリルアン周波数シフトに基づいて容易に識別することができる。その際、このシグネチャは、PBS緩衝液のみを流すことによって特徴付けられ、その結果が
図28bに示される。そのフローデータは正規分布に十分に当てはめることができ、それは、ブリルアンシフトが7.51GHzであり、0.047GHzの幅を有することを示す。
図28aからPBS緩衝液のシグネチャ2804を除去することにより、直接、細胞の機械的シグネチャを抽出することができ、その結果が
図28cに示される。細胞のシグネチャは2つのピークを明らかにする。測定データを当てはめるために、2つの正規分布2806及び2808の線形重ね合わせが使用された。それらの結果が
図28cにおいて実曲線2806及び2808によって示され、それぞれ7.57GHz及び7.80GHzの中心周波数を有する。細胞核は細胞の最も剛性が高い細胞小器官であることが当該技術分野において既知である(Friedl, P.、Wolf, K.及びLammerding, J.「Nuclear mechanics during cell migration」Current Opinion in Cell Biology 23, 55-64 (2011);Girard M J A、Dupps W J、Baskaran M、Scarcelli G、Yun S H、Quigley H A、Sigal I A及びStrouthidis N G「Translating Ocular Biomechanics into Clinical Practice: Current State and Future Prospects」Curr. Eye Res. 40(1), 1-18 (2015))。それゆえ、実曲線はそれぞれ、細胞質及び細胞核のシグネチャである。これは、細胞核を染色し、蛍光画像をそのブリルアンデータと比較することによって確認することができる。さらに、3T3細胞の場合の細胞核の体積比は、30%より大きいことが報告されており、それは、細胞質と細胞核との直径比が約3:7であることを意味する。それゆえ、細胞内の複数の点においてブリルアン周波数を取得することに基づく流動実験中に、細胞核のシグネチャは、細胞質より、ブリルアン分光計によって測定される機会が2倍より大きく、それも
図28cの2つのピーク2806及び2808の振幅によって確認される。
【0083】
フローデータが細胞集団機構を表す
懸濁された細胞は丸みを帯びた形状を有し、それは簡単にするために球として近似することができる。シースフローの助けを借りて、細胞がマイクロ流体チャネルを通って流れるときに、細胞の中心を幅方向においてレーザービームスポットの場所に位置合わせすることができる。チャネルの深さが細胞サイズより大きいので、細胞の中心は、深さ方向において細胞ごとに異なることになる。このような場合には、細胞がレーザービームスポットを横切って進むときに、各単一細胞の直径を含む断面内の1つのラインがサンプリングされることになる。細胞流動中のブリルアン周波数シフトの測定値が、細胞集団の機構を表すのを確実にするために、それらの測定値が、細胞の中心を通る断面の画像と比較される。具体的には、細胞の2D画像が、
図29aに示されるように取得された。
図29bは、2つの曲線2902及び2904の重ね合わせによって当てはめられる細胞集団の全体的な機構を表す、
図29aの画像データの全ての分布を示す。細胞がレーザーを横切るラインに沿った一群の点に対応するブリルアンフローデータの分布が
図29cにプロットされ、曲線2908及び2906の重ね合わせによって当てはめられる。
図29bの2Dブリルアン画像データを
図27cのブリルアンフローデータと比較することによって、両方の分布が2ピークシグネチャを有することが観測される。より重要なことに、両方の分布に関するこれら2つのピークのブリルアンシフトは同じであり、すなわち、7.57GHz及び7.80GHzである。したがって、フローデータが、細胞集団の機械的特性を正確に明らかにすると結論付けられる。
【0084】
ブリルアンシグネチャが細胞核を細胞質から区別する
懸濁された細胞を球であると見なすと、固定されたビームスポットによって1つの直径が検知されるように、細胞がシースフローを介して位置合わせされる。しかしながら、実際の実験において、垂直方向における細胞の場所はわずかに上下変動するので、ビームスポットは実際には、その直径を通る断面をマッピングしている。
図28cの2ピークシグネチャを更に検証するために、蛍光染料を用いて、細胞の細胞核のみを染色した。
図30に示されるように、明視野(I)、蛍光(II)及びブリルアン2D(IV)の画像が取得された。明視野画像及び蛍光画像を含む融合画像(III)をブリルアン画像と比較することによって、ヒストグラム3002及び3004によってそれぞれ示されるように、細胞核のブリルアンシグネチャを細胞骨格のブリルアンシグネチャから容易に分離することができる。集団内の細胞間の小さな差を考えるとき、細胞内の複数の点においてブリルアン周波数を取得することに基づいて流動実験から取得されたデータの分布は、細胞結像からの分布に類似しているはずであり、それが、
図30と
図28cとの間の高い類似度によって確認される。したがって、
図28cの流動データの2つのピークがそれぞれ細胞核及び細胞骨格のシグネチャに対応することが検証される。
【0085】
クロマチン脱凝縮が細胞核を軟化させる
クロマチンはDNA及びタンパク質の複合物であり、細胞核内に染色体を形成する。その機能は、細胞の細胞核に収まるように、かつDNA構造及び配列を保護するように、DNAを小さな体積の中に効率的に詰め込むことである。研究の積み重ねが、クロマチンの凝縮レベルが細胞核の剛性に密接に関連することを示唆する。例えば、クロマチン脱凝縮の結果として、細胞核の剛性が低下する。逆に、クロマチン凝縮の増加が、細胞核の硬化につながる。1つの実施形態において、機械的サイトメトリーを用いて、TSA、ヒストンデアセチラーゼ阻害剤によって引き起こされるクロマチン脱凝縮の影響を特徴付けた。
【0086】
図31a~
図31cは、クロマチン脱凝縮による細胞核の軟化の実験的な観測結果を与える。1つの非限定的な実施形態において、356個及び353個の細胞が、TSA処置群及び対照(非TSA処置)群からそれぞれ収集される。
図31a及び
図31bに示されるように、細胞がTSAで処置された後に、細胞核のブリルアンシフトが7.80GHz(曲線3108)から7.71GHz(曲線3104)に動かされ、それは細胞核の明確な軟化を示す。一方、細胞質のブリルアンシフトは概ね同じままであり(7.56GHz(曲線3102及び3106))、それは細胞質がTSAによって影響を及ぼされなかったことを意味する。
図31cに示されるように、TSA処置細胞及び対照細胞の細胞質に関する平均ブリルアンシフトにそれぞれ関連付けられる棒グラフ3110及び3112は、同じ高さを有し、ブリルアン周波数に変化がないことを示す。対照的に、TSA処置細胞及び対照細胞の細胞核に関する平均ブリルアンシフトにそれぞれ関連付けられる棒グラフ3114及び3116は、異なる高さを有し、ブリルアン周波数に変化があることを示す。
【0087】
したがって、本発明による機械的サイトメトリーは、オンチップブリルアン技法を用いて、細胞の細胞核シグネチャを識別することができる。それは、細胞集団の細胞核の機械的特性を測定するラベルフリーの非接触、非侵襲的方法を提供する。1つの実施形態において、総合スループットは一時間あたり約230細胞であり、それは、原子間力顕微鏡法(AFM)及びマイクロピペット吸引等の既存の技法よりはるかに効率的である。さらに、本発明による機械的サイトメトリーを用いて、細胞核の剛性に及ぼすクロマチン脱凝縮の影響を評価することができる。TSA処置後に明確に軟化することがわかっている。細胞核剛性の変化は、遊走、分化及び悪性転換等の細胞の数多くの重要な活動に関与するので、本発明による機械的サイトメトリーは、細胞集団の細胞核機構の効率的で、ラベルフリーの特性評価が必要とされる場合に適用される可能性がある。
【0088】
要するに、
図12~
図31cを参照すると、本発明による生体細胞を分類する方法は、各生体細胞内の複数の点においてブリルアン散乱スペクトルを測定することに基づく。測定されたブリルアン散乱スペクトルに基づいて、生体細胞内の異なる空間点において細胞内物理的特性に関連する1つ以上の指標が特定される。生体細胞は、生体細胞内の異なる空間点における細胞内物理的特性に基づいて分類される。
【0089】
1つの実施形態において、生体細胞内の各測定点を含む、ブリルアン周波数シフトに関するヒストグラムが生成される。そのヒストグラムを当てはめるために、ガウス分布の線形重ね合わせが適用される。次に、ヒストグラム内の各ピークが特定され、各ピークは、細胞内の異なる領域からの機械的シグネチャを表す。生体細胞内の異なる空間点における物理的特性は、特定された機械的シグネチャと相関がある。
【0090】
生体サンプルは、生物有機体、組織又は生体細胞を含むことができる。1つの実施形態において、生体細胞は生細胞である。更に別の実施形態において、指標としてブリルアン周波数シフトが選択される。さらに、1つの実施形態において、生体細胞内の異なる空間点において細胞内物理的特性を特定するステップは、画像を形成することと、特定された物理的シグネチャの空間による違いに基づいて、パラメーターを分割することとを含む。サンプルの物理的特性は、粘弾性率、密度、屈折率、電歪及びその組み合わせからなる群から選択される。
【0091】
1つの実施形態において、生体サンプルを有する容器は、マイクロ流体デバイスのマイクロ流体チャネルである。生体細胞は、スペクトルが測定される間に、マイクロ流体チャネルを通って流れる。
【0092】
1つの実施形態において、ブリルアン散乱の元の場所を識別するために、そして照明光ビームをマイクロ流体チャネル内の特定の場所に導光するために、ブリルアン光スペクトルパターンと同時に明視野2D画像が取得される。更に別の実施形態において、多次元ヒストグラムを作成して生体細胞を分類するために、蛍光散乱、ラマン散乱、前方散乱及び側方散乱とともに1つ以上のブリルアン指標が使用される。1つの実施形態において、細胞核を細胞質から分離するために、2D明視野細胞画像及び2D蛍光細胞画像を含む融合画像が、ブリルアン周波数シフトに基づく細胞画像と比較される。
【0093】
ブリルアン周波数シフトは、点走査モードにおいて、又は多重化走査モードにおいて測定することができる。細胞内から取得された抽出された物理的特性は、単一の生体細胞又は生体細胞の集団の分析結果を指す場合がある。
【0094】
1つの実施形態において、ブリルアンスペクトルを表すヒストグラムは、細胞質及び細胞核にそれぞれ対応する2つのピークを有する。更に別の実施形態において、ブリルアンスペクトルによって規定された細胞の細胞内機械的特性に基づいて、改変された生体細胞が無傷の生体細胞から区別され、細胞は、細胞骨格又は細胞核等の細胞内成分を標的にする薬物によって改変される。細胞内物理的特性を用いて、細胞を選別する。
【0095】
図32は、本発明の1つの実施形態によるシステムを示すブロック図である。ブリルアン分光計3202が、ブリルアン散乱光の空間スペクトルパターン3404と、ブリルアン光スペクトルとをユーザーインターフェース3208に与える。プロセッサ3206が、ブリルアン分光計3202、ユーザーインターフェース3208、及びメモリ3210と通信する。プロセッサ3206は、メモリ3210内の命令を実行するように構成される。1つの実施形態において、メモリ3210は、検出された空間スペクトルパターンに基づいて、各測定サンプル点における1つ以上のブリルアン指標を計算するための命令を含む。更に別の実施形態において、メモリ3210は、測定されたブリルアン散乱スペクトルに基づいて、生体細胞内の異なる空間点において細胞内物理的特性に関連する1つ以上の指標を抽出する命令と、生体細胞内の異なる空間点における物理的特性に基づいて、生体細胞を分類するための命令とを含む。さらに、メモリ3210は、ブリルアン周波数シフトに関するヒストグラムをプロットし、ヒストグラムをユーザーインターフェース3208に通信するための命令、ヒストグラムを当てはめるためにガウス分布の線形重ね合わせを適用するための命令、ヒストグラム内の各ピークを特定するための命令であって、ピークは細胞内の異なる領域からの機械的シグネチャを表す、命令、及び媒質に関連付けられるデータをヒストグラムから除去するための命令を含むことができる。幾つかの実施形態において、メモリ3210は、取得した元のデータセットに基づいて複数の細胞の機械的シグネチャを表す少なくとも1つのヒストグラムを生成するための命令を更に含み、ヒストグラムは、元のデータセット内に存在する複数の指標値の各々について細胞の数を提供する。メモリ3210に記憶される更なる命令は、ヒストグラムの各々から、複数の指標値について元のデータセットの1つ以上の特徴を決定するための命令、元のデータセットの1つ以上の特徴に基づいてメリット関数を計算するための命令、メリット関数に最大値を送出する最適指標値を決定するための命令、及び、機械的シグネチャ及び最適指標値に基づいて複数の細胞を分類するための命令を含むことができる。
【0096】
細胞核の機械的特性
アクチンフィラメント、微小管、及び中間径フィラメントから構成される細胞骨格は細胞核に機械的に密に相互接続する(Ingber DE、Wang N、Stamenovic D「Tensegrity, cellular biophysics, and the mechanics of living systems」Rep Prog Phys. 77, 046603 (2014))。アクチンフィラメントは、細胞核に引っ張りプレストレスを加えて、細胞核を硬質にする。微小管フィラメントは、このプレストレスの釣り合いを保つ圧縮ストラットとして働く。そのため、細胞核の剛性は、これらの2つの細胞骨格フィラメントの釣り合いによって取り持たれることになる(Wakatsukiら、J Cell Sci. 114, 1025-1036 (2001); Chalutら、Biophys J. 103, 2060-2070 (2012))。
【0097】
抑制されたアクチン及び微小管を有する細胞の識別
2つの薬物、サイトカラシンD(cytoD)及びノコダゾール(Noco)は、アクチンフィラメント及び微小管フィラメントをそれぞれ抑制するために3T3細胞に適用された。アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(ATCC:American Type Culture Collection)から購入されたNIH 3T3線維芽細胞が全ての実験について使用された。細胞は、標準プロトコルに従って培養された。微小管フィラメントの抑制の場合、細胞は、最初に、1μg/mLのNocoによって30分間、処置され、その後、トリプシン処理によって収穫され、測定前に、ML当たり約十万の細胞の濃度で、Mg
2+及びCa
2+不含のリン酸緩衝生理食塩水(PBS)の溶液内で再懸濁された。濃度が低いため、流動により細胞は殆ど取り込まれなかった。代わりに、懸濁液内の単一細胞は、マイクロ流体デバイス内に送出された後に撮像された。
図33Aに示すように、棒グラフ3311及び3312は、それぞれ、対照及び処置された細胞の細胞核の平均ブリルアンシフトを表す。処置された細胞3312のブリルアンシフトは、0.29GHz高く、その細胞核の明らかな硬化を示す。計器の感度が約0.01GHzであることを考慮すると、微小管フィラメント抑制細胞は、細胞核の機械的硬化に基づいて正常細胞から容易に識別された。
【0098】
アクチンフィラメントの抑制の場合、細胞は、最初に、2μg/mLのcytoDによって10分間、処置され、その後、トリプシン処理によって収穫され、測定前に、ml当たり約百万の細胞の濃度で、Mg
2+及びCa
2+不含のリン酸緩衝生理食塩水(PBS)の溶液内で再懸濁された。ブリルアンベースラベルフリーフローサイトメトリーを使用して、それぞれ、368個の細胞が対照群から取得され、232個の細胞が処置群から取得された。
図33Bは測定結果を示し、棒グラフ3321及び3322は、それぞれ、対照群及び処置群の細胞核の平均ブリルアンシフトを表す。処置群3322は、対照群3321と比較して0.12GHzの明らかな減少を特徴とし、アクチンフィラメントの崩壊による細胞核の軟化を示す。
【0099】
悪性細胞の識別
図34は、第2の例示的な実施形態を示す。ブリルアンベースラベルフリーフローサイトメトリーを使用して、5つの癌関連細胞株が試験された。それらのうちの4つ(バーバラアンカルマノス研究所(Barbara Ann Karmanos Institute)から得られたM1、M2、M3、及びM4)(Santnerら「Malignant MCF10CA1 cell lines derived from premalignant human breast epithelial MCF10AT cells」Breast Cancer Res Treat. 65, 101-110 (2001))は、同質遺伝子的でかつ益々腫瘍形成性の細胞株であり、その細胞株は、ヒト乳癌進行をモデル化する標準的なアプローチである、MCF10A細胞株に由来する(Santnerら, Breast Cancer Res Treat. 65, 101-110 (2001))。5番目は、高転移性乳癌細胞株MDA-MB-231(ATCCから得られた)である。MCF10A(M1)は、ヒト上皮(epithelial)非腫瘍形成性細胞株である。MCF10AT1k.cl2(M2)は、マウスに注入されると、持続性限局性良性病変を生成する前悪性細胞である。MCF10CA1h(M3)及びMCF10CAla.cl1(M4)細胞は、それらがマウスの尾静脈に注入されると、遠隔の肺に転移する能力を有する。また、M4細胞が、より速く成長する腫瘍を形成し得るため、M3細胞株より速く転移することを、実験は示す(Santnerら(2001))。
【0100】
全ての細胞株は、標準プロトコルに従って培養された。全ての細胞株は、同じ培地、すなわちMCF10A細胞株(M1~M4)のための標準完全培地で成長した。細胞は、低濃度トリプシンによって培養組織から収穫され、実験前に、1mL当たり約2百万の細胞の濃度で、Mg2+及びCa2+不含のPBS内で再懸濁された。223個、343個、233個、538個、及び430個の細胞が、細胞株M1~M4及びMDA-MB-231から収集され、平均化した細胞核剛性は、棒グラフ3421、3422、3423、3424、及び3425としてそれぞれ示される。棒グラフ3421、3422は、限局性腫瘍M2細胞株が、ブリルアン周波数シフトの差(0.16GHz)に基づいて非腫瘍形成性細胞株M1から明確に分離され得ることを示す。さらに、棒グラフ3423、3424、及び3425は、転移性細胞株M3、M4及びMDA-MB-231がまた、統計的有意差(p値<0.01)を持って、非腫瘍形成性M1と限局性M2の両方から分離され得ることを示す。M3とM4との間の統計的有意差は見出されなかった、なぜならば、それらのブリルアンシフト測定値が互いに類似していたからである。しかしながら、統計的有意差(p値<0.01)は、M3(M4)とMDA-MB-231との間で見出された。細胞核の機械的シグネチャの測定に基づいて、正常細胞及び良性病変細胞は、悪性癌細胞から分離され、したがって、癌進行が等級付けされ得る。
【0101】
細胞内のラミン発現の識別
図35は、本発明の第3の例示的な実施形態を示す。細胞核の主要な構造成分の1つは、ラミンとして知られるタンパク質の群である。核ラミナの主要な成分として、ラミンA/Cは、細胞核の構造的支持、クロマチン編成の促進、遺伝子調節、並びに、DNA複製及び修復等の複数の機能を伝える(Ho及びLammerding、J Cell Sci. 125, 2087-2093 (2012))。ラミンは、広範囲のヒト疾病にリンクすることも見出されている。例えば、10より多い癌型からの証拠は、ラミンが、癌進行において役割を果たすか又は癌に対する応答を変更することを示唆する(Iriantoら、Cell Mol Bioeng. 9, 258-267 (2016))。A型ラミンの突然変異がハッチントン・ギルフォード・プロジェリア症候群(HGPS:Hutchinson-Gilford progeria syndrome)等の加齢疾病の一因であることも見出された(Mounkes及びStewart、Current Opinion In Cell Biology. 16, 322-327(2004))(Butin-Israeli、Trends Genet. 28(9):464-71 (2012))。さらに、ラミンA/Cの過剰発現が細胞核の剛性を高めることになり、一方、ノックダウンが剛性をなくさせることを実験が示した(Pajerowskiら、Proc Natl Acad Sci USA 104, 15619-15624 (2007); Lammerdingら、J Biol. Chem. 281, 25768-25780 (2006); Davidson (2014); Schaepeら、Biophys. J 96, 4319-4325 (2009); Swiftら、Science 341, 1240104 (2013))。
【0102】
ラミン発現を調節することによって起こる細胞核の機械的変化を測定するために必要とされる感度が、この方法を使用して可能であったため、それが細胞分類のために使用され得ることを確認するために試験が実施された。そうするために、NIH/3T3細胞が培養され、商用の脂質ベーストランスフェクション試薬(Dharmafect)が、ラミンA/C発現を選択的にノックダウンするために使用された。Dharmafect及びsiRNAの溶液は、前もって複合体化し、その後、細胞は、トランスフェクション複合体を含有する培地内で培養された。2つの市販のsiRNA、すなわちラミンA/Cを標的とすることが知られているsiRNA及び知られている細胞標的を全く持たないsiRNAスクランブル配列が使用された。siRNA標的化ラミンA/Cの場合、2つの異なる投与量(25nM及び50nM)が、低効率及び高効率ノックダウンをそれぞれ達成するために使用された。また、トランスフェクションを受けなかった対照は、含まれなかった。72時間のインキュベーション後、細胞は、トリプシン処理によって収穫され、ラベルフリーブリルアンベースフローサイトメトリー構成を使用して即座に分析された。122個、195個、208個、114個の細胞が、
図35の3512、3522、3532、3542の棒グラフで示すように、対照、スクランブル対照、低効率ノックダウン、及び高効率ノックダウンについて収集された。細胞核の機械的特性は、ノントランスフェクト対照群3512と比較して、スクランブル対照群3522においてほぼ不変(0.01GHz未満)であり、一方、剛性の顕著な減少(0.04GHz及び0.07GHz)は、
図35の棒グラフ3532及び3542に示すように、siRNA標的化ラミンA/Cによってトランスフェクトされたサンプルにおいて観測された。一方、細胞質の剛性は、棒グラフ3511、3521、3531、及び3541に示すように、影響を受けないままである。
【0103】
並行してラミンA/C発現を可視化するために、標準プロトコルに続いて、免疫細胞染色が実施された。付着細胞は、各ステップの間にPBSで3回リンスしながら、上述した72時間トランスフェクション後に中性緩衝ホルマリンで固定され、Triton-X 100で透過処理され、ウシ血清アルブミンの溶液でブロックされ、一次抗ラミン抗体で一晩インキュベートされ、最後に、蛍光団共役二次抗体によって短時間インキュベートされた。蛍光画像は、一定の撮像条件(光強度、露光時間)で各サンプルについて撮影された。
図36に示すように、
図36Bのノックダウン群の蛍光強度は、
図36Aのスクランブル群の蛍光強度よりずっと弱く、ラミンA/C発現が、スクランブルsiRNAサンプルと比較して、ラミンA/C標的化siRNAで処置されたサンプルにおいてノックダウンされたことを示す。ラミンA/Cノックダウンを大まかに定量化するために、核タンパク質抽出物が、トランスフェクション後の全てのサンプルから採取された。
【0104】
図37は、
図2、
図3、及び
図7に示すように、ブリルアンフローサイトメトリーによって取得された元のデータセットを示す。
図37で例示するように、各ドットは単一測定を示す。測定用レーザービームを横切って流れる細胞が全く存在しなかったとき、緩衝培地のブリルアンシグネチャ(約7.5GHz)は、ベースラインとして測定された。細胞がレーザービームに達すると、ブリルアン信号がスパイクし、培地と比較して細胞のより大きい剛性を示す。したがって、各スパイク様事象は単一細胞の測定に対応する。例えば、
図37において影領域で覆われるスパイクは、ブリルアン分光計によって捕捉された1つの細胞事象を示す。この事象中に、細胞の複数の細胞内位置が、細胞がレーザービームを横切って流れたときに測定された。
【0105】
例として、また、限定することなく、ブリルアン信号は、
図37に示すブリルアン周波数シフト又はブリルアン線幅とすることができる。1つの実施形態において、単一細胞分析のために、複数のデータ点の平均値が、この細胞の全体的な剛性を表すために使用される。更に別の実施形態において、各細胞についてのピーク値が、この細胞の全体的な剛性を表すために使用される。こうして、測定された各細胞は、記録されたデータセットに基づいてその機械的シグネチャでタグ付けされ得る。
【0106】
図38は、M4及びM1細胞の機械的シグネチャを表すM4及びM1細胞の全体的な剛性の分布を示す。ブリルアンフローサイトメトリーを使用して、2つの癌関連細胞株(例として、また、限定することなく、バーバラアンカルマノス研究所から得られたM1及びM4)が試験された。細胞株はともに、ヒト乳癌進行をモデル化する標準的なアプローチである、MCF10A細胞株に由来した。MCF10A(M1)は、ヒト上皮非腫瘍形成性細胞株であり、MCF10CAla.cl1(M4)細胞は、それらがマウスの尾静脈に注入されると、遠隔の肺に転移する能力を有する。1つの実施形態において、全ての細胞株は、標準プロトコルに従って培養された。全ての細胞株は、MCF10A細胞株のための標準完全培地で成長した。細胞は、低濃度トリプシンによって培養組織から収穫され、実験前に、1mL当たり約2百万の細胞の濃度で、Mg
2+及びCa
2+不含のPBS内で再懸濁された。フロー実験を実行した後、223個の細胞がM1から得られ、538個の細胞がM4から得られた。
図38のヒストグラム3801及び3802は、M4及びM1細胞の全体的な剛性の分布を表す。ブリルアン周波数シフトは、
図38のヒストグラムの指標として使用された。
【0107】
感度及び特異度は、バイナリー分類試験の性能の統計的尺度(特徴)である。感度(真陽性率とも呼ぶ)は、正しく識別される陽性の割合自体(例えば、正しく識別される癌細胞のパーセンテージ)を測定する。特異度(真陰性率とも呼ぶ)は、正しく識別される陰性の割合自体(例えば、正しく識別される正常(非癌性)細胞のパーセンテージ)を測定する。
図46に示すように、閾値線は、「試験陽性(test positive)」及び「試験陰性(test negative)」実験データ点を分割する。「試験陽性」データ点は「真陽性」(TP:true positive)及び「偽陽性」(FP:false positive)データ点を含む。「試験陰性」データ点は「真陰性」(TN:true negative)及び「偽陰性」(FN:false negative)データ点を含む。
【0108】
任意の試験について、尺度、低特異度と高感度との間にトレードオフが通常存在する。このトレードオフは、受信者動作特性(ROC:receiver operating characteristic)曲線を使用して図で表され得る。ROC曲線は、種々の閾値設定において(例として、また、限定することなく、閾値として採取される種々のブリルアンフシフト値において及び/又は種々のブリルアン線幅値において)偽陽性率(FPR:false positive rate)に対して真陽性率(TPR:true positive rate)をプロットすることによって生成される。完全予測器は、全ての癌細胞が正しく識別されることを意味する100%感度があるものとしてかつ正常細胞が癌性であると全く不正に識別されないことを意味する100%特異度があるものとして述べられることになる。
【0109】
1つの実施形態において、例として、また、限定することなく、感度及び特異度は、
図38で提示されるデータの統計的特徴として使用される。
図39A及び
図39Bで例示されるように、単一細胞分析に基づいて転移検出の感度(真陽性確率)及び特異度(1-偽陽性確率)を定量化するために、ブリルアン周波数シフトに相関する単一細胞の全体的な剛性が指標として使用された。真陽性及び偽陽性(例として、M4は陽性として設定され、M1は陰性として設定される)の確率は、指標の値(単一細胞の全体的な剛性を表す複数のブリルアンシフトの平均値)が7.5GHz~8.5GHzまで変化するときに、
図38のヒストグラムに基づいて試験された。結果として得られるROC(受信者動作特性)曲線は
図39Aにプロットされる。
【0110】
1つの実施形態において、感度を特異度で掛けた値(感度×特異度)として規定されるメリット関数は、指標の最適化値を定量化するために使用された。例えば、
図39Bに示すように、メリット関数、感度×特異度(黒実線)のピークは、指標値が7.8GHzである場所に位置し、その位置は、
図39AのROC曲線上で0.80:0.13の感度と(1-特異度)との比に対応する。この指標値は、「真陽性」及び「偽陽性」データ点の数を決定するために
図38のヒストグラムに適用されるブリルアン周波数シフトの閾値を規定する。
【0111】
代替的に、ピーク値(
図38に示す)は、その機械的フェノタイピングを表すために、単一細胞からのデータセットの平均値の代わりに指標値として使用することができる。真陽性及び偽陽性の確率(例として、M4は陽性として設定され、M1は陰性として設定された)が試験され、
図39C及び
図39Dをもたらした。この場合、メリット関数(感度×特異度)のピークは、指標値が8.0GHzである場所に位置し、
図3CのROC曲線上の対応する比は0.85:0.16である。
【0112】
この方法は他の細胞株についても使用され得る。例えば、MCF10AT1k.cl2(M2)は、マウスに注入されると、持続性限局性良性病変を生成する前悪性細胞であり、癌進行に関するM1とM2との間にある。例えば、フロー実験は、M2細胞株を用いて実行することができる。上述したのと同じ方法は、癌細胞M4を良性細胞M2から分離するとともに、良性細胞M2を正常細胞M1から分離するために適用され、
図39Fにおいてそれぞれ曲線3902及び3901として示す。
【0113】
図40は、平均化されたブリルアン線幅に基づく3つの癌細胞株(M1、M2、及びM4)のデータ分布を示す。ブリルアン光散乱の原理によれば、ブリルアン周波数シフトν
Bは、式
【数3】
で決定され、ここで、nは材料の屈折率であり、Eは弾性率であり、ρは密度であり、θは散乱角度であり、λは光の波長である。さらに、ブリルアンスペクトルの測定される線幅Δν
Bは、式
【数4】
によって材料の粘度に関連し、ここで、αは、粘度特性を表す音響減衰係数である。
図2、
図3、及び
図7で提示するフロー実験において、ブリルアンシフトν
B及び線幅Δν
Bはともに、ブリルアン分光計によって記録された。幾つかの実施形態において、ブリルアンシフトを指標として使用する代わりに、ブリルアン線幅が、転移進行を検出する別の内因性シグネチャとして使用される。
【0114】
複数の細胞についてブリルアン線幅を記録するためのブリルアンフローサイトメトリーを使用することによるデータ取得に続いて、平均化された線幅が、各単一細胞について得られ得る。さらに、集団の平均化した値が、各細胞株について全ての細胞にわたって平均化することによって得られ得る。
図40の棒グラフに示すように、棒4001は正常細胞株(M1)を表し、棒4002は良性細胞株(M2)を表し、棒4003は癌細胞株(M4)を表す。3つの細胞株が顕著なブリルアン線幅を有することが
図40において示される。
【0115】
1つの実施形態において、癌進行を検出するための感度及び特異度を定量化するために、ブリルアン線幅が、癌細胞M4を正常細胞M1から分離する指標として使用された。ブリルアン線幅を指標として使用することによって得られるROC曲線は
図41Aに示される。
図41Aを
図39Aと比較すると、ブリルアン線幅が、癌細胞M4を正常細胞M1から検出するために、ブリルアンシフトより良好な指標であることが明らかである。ブリルアン線幅指標についてのメリット関数(感度×特異度)を使用して、最良の感度:(1-特異度)が、0.93:0.06であると判定される。M2対M4及びM1対M2についてのROC曲線4101及び4102は、
図41Bに示すように、ブリルアン線幅指標についてそれぞれ得られ得る。
【0116】
さらに、転移検出のために線幅データによって提供される特別な情報が利用され得る。
図42Bのヒストグラムプロット4201及び4202は、M4及びM1のブリルアンシフトの分布をそれぞれ表す。一方、
図42Aのヒストグラムプロット4203及び4204は、M4及びM1のブリルアン線幅の分布をそれぞれ表す。1つの実施形態において、
図42A及び42Bのヒストグラムプロット内の各データ点は、
図37に示すように単一細胞からのデータセットの平均値である。
図42Cの散布図は、M1及びM4群を互いから分離するために
図37の測定された各点についてのブリルアン周波数シフト及びブリルアン線幅を視覚的に示す。
図42Cのカラーコードは、データ点の分布密度を表す。
【0117】
ブリルアンシフトとブリルアン線幅の結合基準によって、メリット関数、感度×特異度は、
図43Aに示すように、2D平面で提示され得る。特に、
図43Aのプロットを得るために、第1の指標(ブリルアンシフト)の値は、第1の値から第2の値へ一定幅で移る。実施形態において、
図43Aに示すように、ブリルアン周波数シフトは、0.01の幅で7.5GHz~8.5GHzに変動する。第1の指標の各値において、第2の指標(ブリルアン線幅)の値は、第3の値と第4の値との間で変動する。実施形態において、
図43Aに示すように、ブリルアン線幅は、0.01の幅で0.9~1.9に変動する。こうして、2D座標が生成される。2D座標の各ロケーションにおけるメリット関数の値(感度を特異度で掛けた値)は、
図42Cに従って計算される。
図43Aの白線は、単調増加を示すメリット関数の計算された2D値から選択された最適化された経路である。特に、白曲線は、x軸(ブリルアン線幅)上のロケーションを変更し、識別のために最良の指標値を与えるy軸(ブリルアン周波数シフト)上の連続する点を探すことによって得られる。
【0118】
図43Bの赤曲線4302は、
図43Aの白線に基づいてプロットされ、「感度」及び「特異度」の値は、「真陽性」及び「偽陽性」を計算するために使用される。
図43Aの最適化経路(白実線)に追従することによって、ROC曲線4302が、
図43Bの2パラメーター指標に基づいて得られる。単一パラメーター指標(
図39Aと同じプロット)に基づくROC曲線4301(破線)と比較すると、2パラメーター指標は、転移検出の感度/特異度を著しく改善し得る。例えば、感度と(1-特異度)との比は、
図43BのROC曲線4302に従って0.95:0.10程度に高くなり得る。
図43Bは、2つの(又は、一般に、複数の)パラメーターを基準として使用する単一細胞分析に基づいて癌細胞株の転移を検出する利点を示す。
【0119】
1つの実施形態において、細胞骨格の機械的フェノタイピングは、おそらく、正常細胞と転移性細胞との間の細胞核の機械的フェノタイピングと異なって作用するため、細胞骨格のフィーチャ(feature:特徴)は、実験データであって、蛍光技法の助けを借りて設定され、検出感度を改善するための独立した基準として使用される、実験データの中で細胞核フィーチャから分離され得る。例えば、薬物が細胞の特異的成分に作用する(例えば、一般的な薬物パクリタキセルは微小管に作用する)と仮定される場合、細胞骨格(微小管を含む)が染色され、微小管に対する薬物の特異的作用対細胞核に対する副作用が決定される可能性がある。
【0120】
更に別の実施形態において、上記で開示した2パラメーター指標に基づく分析は、異なる癌関連細胞株を区別するために適用され得る。特に、M1対M2及びM2対M4の感度/特異度は、
図44A及び
図44BのROC曲線4401、4402及び4411、4412を得るために試験される。ROC曲線4401及び4411が0.83:0.13の感度と(1-特異度)との比を有することが示される。単一パラメーター(すなわち、ブリルアンシフト)によって得られるROC曲線は、破線曲線4402及び4412(
図39Fの3901及び3902と同じ)としてそれぞれ再プロットされる。単一パラメーター指標と比較すると、2パラメーター指標を使用することによるROC曲線の改善が明確に実証される。
【0121】
図45は、例えば、少なくとも
図2、
図3、及び
図7に示す構成によって取得された
図37のデータセット等のデータセットを処理するためのステップを例示するフローチャートである。特に、ステップ4501にて、データセットは複数の細胞のための少なくとも1つの指標について取得される。1つの実施形態において、指標は、ブリルアン周波数シフト、ブリルアン線幅、及びその組み合わせからなる群から選択することができる。ステップ4502にて、各指標について、データセット内に存在する複数の指標値の各指標値について細胞の数を示すヒストグラムが生成される。次に、ステップ4503にて、データセットの感度及び特異度が、
図46に示すように各指標閾値について決定される。メリット関数は、各指標閾値についてデータセットの感度及び特異度に基づいて計算される(ステップ4504)。1つの実施形態において、メリット関数は、各指標閾値について感度及び特異度を掛けることによって計算される。ステップ4505にて、メリット関数に最大値を送出する最適指標値(例として、また、限定することなく、ブリルアン周波数シフト及び/又はブリルアン線幅)が決定される。最適指標値は、1:0の理想的な比に最も近い、感度と(1-特異度)との比を提供する最適閾値設定を規定する。最後に、複数の細胞が、ヒストグラムに関連する機械的シグネチャ及び最適閾値として使用される最適指標値(例として、また、限定することなく、ブリルアン周波数シフト及び/又はブリルアン線幅)に基づいて分類される(ステップ4506)。異なる指標及び指標の異なる組み合わせについてのROC曲線が、最適指標又は指標の組成を選択するために比較され得る。
【0122】
したがって、本発明は、細胞の機械的特性が定量化され、癌細胞と非癌細胞が機械的特性に基づいて区別されることを可能にする。本発明によるデータ処理法と連携した、ラベルフリーブリルアンフローサイトメトリーを使用するデータ取得構成(
図2、
図3及び
図7)は、種々の癌細胞の転移検出を可能にする。特異的指標又は複数の指標の組み合わせは、細胞の機械的特性を反映するデータセットを評価するために選択することができ、それにより、感度と(1-特異度)との比は、最大限、1:0の理想的な比に近づく。2つ以上の指標を選択し、それらの組み合わせを本発明に従って実施されるデータ分析のために使用することは、サンプル内の癌細胞の存在に関してより正確な判定を行うことを可能にする。これは、
図43B並びに
図44A及び
図44Bにおいて例示される。
【0123】
そのため、1つの実施形態において、複数の細胞を含むサンプル内で癌細胞を検出する方法が提供され、方法は、(i)ラベルフリー分光法ベースサイトメトリーを使用して、複数の細胞の機械的シグネチャの少なくとも1つの指標についてのデータセットを取得するステップと、(ii)データセットの1つ以上の統計的特徴に基づいてメリット関数を計算するステップと、(iii)メリット関数に最大値を送出する最適指標値を決定するステップと、(iv)機械的シグネチャ及び最適指標値に基づいて複数の細胞を分類するステップと、(v)複数の細胞内で癌細胞を識別するステップと含む。
【0124】
本発明を説明する文脈において(特に添付の特許請求の範囲の文脈において)「一("a" and "an")」及び「その(the)」という用語並びに類似の指示物を使用することは、本明細書において他に指示されない限り、又は文脈によって明確に否定されない限り、単数形及び複数形の両方を含むと解釈されるべきである。「備える」、「有する」、「含む」及び「含有する」という用語は、他に言及されない限り、オープンエンドの用語(すなわち、「含むが、それに限定されない」を意味する)と解釈されるべきである。本明細書において値の範囲を列挙することは、本明細書において他に指示されない限り、その範囲内に入る別々の各値を個々に参照する簡潔な方法としての役割を果たすことを意図するにすぎず、本明細書において個々に列挙されたかのように、別々の各値が本明細書に組み込まれる。例えば、範囲10~15が開示される場合には、11、12、13及び14も開示される。本明細書において説明される全ての方法は、本明細書において他に指示されない限り、又は文脈によって明確に否定されない限り、任意の適切な順序において実行することができる。本明細書において与えられるありとあらゆる例、又は例示する用語(例えば、「~等の(such as)」)の使用は、本発明の理解をより容易にすることを意図するにすぎず、別に特許請求されない限り、本発明の範囲に制限を課すものではない。本明細書における文言は、任意の特許請求されない要素を、本発明を実施する上で不可欠であると示すものと解釈されるべきでない。
【0125】
本発明の方法及び構成は、様々な実施形態の形で組み込むことができ、その幾つかのみが本明細書において開示されることは理解されよう。上記の説明を読むと、それらの実施形態の変形が当業者に明らかになる場合がある。本発明者らは、当業者が必要に応じてそのような変形を利用することを期待しており、本発明者らは、本発明が本明細書において具体的に説明されたのとは別のやり方で実施されることを意図している。
【0126】
したがって、本発明は、適用法令によって許されるような添付の特許請求の範囲において列挙される主題の全ての変更及び均等物を含む。さらに、本明細書において他に指示されない限り、又はそうでなくても文脈によって明確に否定されない限り、本発明の全ての取り得る変形における上記の要素の任意の組み合わせが本発明によって包含される。