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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-04
(45)【発行日】2023-12-12
(54)【発明の名称】コンパウンドヘリコプタ
(51)【国際特許分類】
   B64C 27/26 20060101AFI20231205BHJP
【FI】
B64C27/26
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020009491
(22)【出願日】2020-01-23
(65)【公開番号】P2021115925
(43)【公開日】2021-08-10
【審査請求日】2022-10-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉尾 匡史
【審査官】大宮 功次
(56)【参考文献】
【文献】欧州特許出願公開第03527487(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B64C 27/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
胴体と、
前記胴体から一側方へ延びる第1主翼部と、
前記胴体から他側方へ延びる第2主翼部と、
前記胴体よりも上側に設けられたメインロータと、
前記胴体の前記一側方に設けられて前後方向へ延びる第1回転軸の回りを回転する複数の第1プロペラブレードを有する第1プロペラと、
前記胴体の前記他側方に設けられて前後方向へ延びる第2回転軸の回りを回転する複数の第2プロペラブレードを有する第2プロペラと、を備え、
前記第2プロペラブレードは、上から視て前記メインロータが前記胴体の機尾側から前記第1主翼部側を経て前記胴体の機首側へ回転する場合に、ピッチ角及び回転速度を同一にして回転したときにそれぞれ発生する後方への推力が、前記第1プロペラブレードよりも大きくなる形状を有し
前記第1プロペラブレード及び前記第2プロペラブレードはねじり下げが付けられており、
前記第1プロペラ及び前記第2プロペラを駆動するプロペラ馬力上限値は、前進飛行時にホバリング時よりも大きく、
前記第2プロペラブレードのねじり下げ角は、前記第1プロペラブレードのねじり下げ角よりも小さく、さらに、ホバリング時における、前記第2プロペラブレードのねじり下げ角に対する前記第1プロペラの必要馬力と前記第2プロペラの必要馬力との和、及び、前記プロペラ馬力上限値に基づいた上限と、前進飛行時における、前記第2プロペラブレードのねじり下げ角に対する前記第1プロペラの必要馬力と前記第2プロペラの必要馬力との和、及び、前記プロペラ馬力上限値に基づいた下限との間に設定される、
コンパウンドヘリコプタ。
【請求項2】
前記第2プロペラブレードは、上から視て前記メインロータが前記胴体の機尾側から前記第1主翼部側を経て前記胴体の機首側へ回転する場合に、回転速度を同一にし且つ正ピッチ角及び負ピッチ角をそれぞれ同一にして回転したときにそれぞれ発生する推力の絶対値の差が、前記第1プロペラブレードよりも小さくなる形状を有している、請求項1に記載のコンパウンドヘリコプタ。
【請求項3】
前記第2プロペラブレードは、キャンバーが前記第1プロペラブレードよりも小さい形状を有している、請求項1又は2に記載のコンパウンドヘリコプタ。
【請求項4】
前記第1プロペラブレードは、前記キャンバーが0よりも大きいキャンバー翼であり、
前記第2プロペラブレードは、前記キャンバーが0である対称翼である、請求項に記載のコンパウンドヘリコプタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンパウンドヘリコプタに関する。
【背景技術】
【0002】
従来のコンパウンドヘリコプタとして、特許文献1の回転翼航空機が知られている。この回転翼航空機は、胴体、メインロータ、一対の推進プロペラ及びスタビライザを有している。メインロータは胴体の上に配置され、一対の推進プロペラは胴体の両側に配置され、スタビライザは胴体の後端に配置されている。各推進プロペラは複数のブレードを有しており、スタビライザにはフラップが設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】米国特許出願公開第2010/0243792号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1の回転翼航空機では、一対の推進プロペラ及びフラップが飛行安定化のために調整されている。しかしながら、推進プロペラにおける飛行効率化については記載されていない。このため、回転翼航空機の飛行効率について改善の余地がある。
【0005】
本発明はこのような課題を解決するためになされたものであり、飛行効率の向上を図ったコンパウンドヘリコプタを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある態様に係るコンパウンドヘリコプタは、胴体と、前記胴体から一側方へ延びる第1主翼部と、前記胴体から他側方へ延びる第2主翼部と、前記胴体よりも上側に設けられたメインロータと、前記胴体の前記一側方に設けられて前後方向へ延びる第1回転軸の回りを回転する複数の第1プロペラブレードを有する第1プロペラと、前記胴体の前記他側方に設けられて前後方向へ延びる第2回転軸の回りを回転する複数の第2プロペラブレードを有する第2プロペラと、を備え、前記第2プロペラブレードは、上から視て前記メインロータが前記胴体の機尾側から前記第1主翼部側を経て前記胴体の機首側へ回転する場合に、ピッチ角及び回転速度を同一にして正転したときにそれぞれ発生する後方への推力が、前記第1プロペラブレードよりも大きくなる形状を有している。
【0007】
これによれば、コンパウンドヘリコプタの飛行時には、第1プロペラブレードは前方への推力(正推力)を発生し、第2プロペラブレードは正推力及び後方への推力(負推力)を発生する。このため、第2プロペラブレードが第1プロペラブレードよりも大きな負推力を発生する形状に形成されていることにより、コンパウンドヘリコプタの飛行効率の向上が図られる。
【0008】
コンパウンドヘリコプタでは、前記第2プロペラブレードは、上から視て前記メインロータが前記胴体の機尾側から前記第1主翼部側を経て前記胴体の機首側へ回転する場合に、回転速度を同一にして正ピッチ角及び負ピッチ角をそれぞれ同一にしたときにそれぞれ発生する推力の絶対値の差が、前記第1プロペラブレードよりも小さくなる形状を有していてもよい。
【0009】
これによれば、コンパウンドヘリコプタの飛行時には、第1プロペラブレードは正推力を発生し、第2プロペラブレードは正推力及び負推力を発生する。このため、正推力の絶対値と負推力の絶対値との差が第1プロペラブレードよりも小さくなるように、第2プロペラブレードが形成されていることによって、コンパウンドヘリコプタの飛行効率の向上が図られる。
【0010】
コンパウンドヘリコプタでは、前記第1プロペラブレード及び前記第2プロペラブレードはねじり下げが付けられており、前記第2プロペラブレードは、ねじり下げ角が前記第1プロペラブレードよりも小さくてもよい。これによれば、第2プロペラブレードが第1プロペラブレードよりも大きな負推力を発生することができるため、コンパウンドヘリコプタの飛行効率の向上が図られる。
【0011】
コンパウンドヘリコプタでは、前記第2プロペラブレードは、キャンバーが前記第1プロペラブレードよりも小さい形状を有していてもよい。これによれば、第2プロペラブレードが第1プロペラブレードよりも大きな負推力を発生することができるため、コンパウンドヘリコプタの飛行効率の向上が図られる。
【0012】
コンパウンドヘリコプタでは、前記第1プロペラブレードは、前記キャンバーが0よりも大きいキャンバー翼であり、前記第2プロペラブレードは、前記キャンバーが0である対称翼であってもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、以上に説明した構成を有し、飛行効率の向上を図ったコンパウンドヘリコプタを提供することができるという効果を奏する。
【0014】
本発明の上記目的、他の目的、特徴、及び利点は、添付図面参照の下、以下の好適な実施態様の詳細な説明から明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施形態1に係るコンパウンドヘリコプタを示す斜視図である。
図2図2(a)は、図1の第1プロペラブレードの斜視図であり、図2(b)は、図2(a)の第1プロペラブレードの断面図である。
図3図3(a)は、図1の第2プロペラブレードの斜視図であり、図3(b)は、図3(a)の第2プロペラブレードの断面図である。
図4図1のコンパウンドヘリコプタにおける力を示した概略図である。
図5図5(a)は、図1のホバリング時におけるコンパウンドヘリコプタの効率を示したグラフである。図5(b)は、図1の高速飛行時におけるコンパウンドヘリコプタの効率を示したグラフである。
図6図6(a)は、発明の実施形態2に係るコンパウンドヘリコプタの第1プロペラブレードの断面図である。図6(b)は、第2プロペラブレードの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しながら具体的に説明する。なお、以下では全ての図面を通じて同一又は相当する要素には同一の参照符号を付して、その重複する説明を省略する。
【0017】
(実施の形態1)
<コンパウンドヘリコプタの構成>
本発明の実施の形態1に係るコンパウンドヘリコプタ10は、揚力を発生する手段に加えて、推進力を発生する手段を備える航空機である。例えば、コンパウンドヘリコプタ10は、胴体20、主翼30、メインロータ40、一対のプロペラ(第1プロペラ50及び第2プロペラ60)を備えている。さらに、コンパウンドヘリコプタ10は、降着装置70、尾翼80及び制御部90を備えていてもよい。
【0018】
メインロータ40及び降着装置70は上下方向において胴体20を挟むように配置されている。降着装置70よりもメインロータ40側を上側と称し、その反対側を下側と称する。また、第1プロペラ50及び第2プロペラ60は左右方向において胴体20を挟むように配置されている。第2プロペラ60よりも第1プロペラ50側を右側と称し、その反対側を左側と称する。
【0019】
さらに、上下方向及び左右方向に対して直交する方向において、胴体20は一方端部の機首21及び他方端部の機尾22を有している。この機尾22よりも機首21側を前側と称し、その反対側を後側と称する。但し、コンパウンドヘリコプタ10の配置は、これらの方向に限定されない。
【0020】
胴体20は、左右方向の中点において左右方向に直交する仮想対称面VPに対して対称な形状であってもよい、例えば、前後方向に長い長球形状を有していてもよい。また、胴体20の機首21に、ユーザによって操作される操縦装置が設けられていてもよい。ただし、胴体20は仮想対称面VPに対して対称な形状でなくてもよい。また、操縦装置は機首21以外の場所に設けられていてもよい。
【0021】
胴体20の上部には、メインロータ40を回転駆動するメイン駆動部41が配置されている。メイン駆動部41は、例えば、エンジン等の原動機により構成されている。
【0022】
メインロータ40は、揚力発生部であって、胴体20よりも上側に配置されており、メインロータ回転軸42及び複数(例えば、4つ)のメインロータブレード43を有している。メインロータ回転軸42は、胴体20における左右方向の中央であって、前後方向の中央又はそれよりも前側に配置されている。メインロータ回転軸42は、その下端がメイン駆動部41の出力部に取り付けられており、そこから上方へ延びている。なお、メインロータ回転軸42は上下方向に対して傾斜してもよい。
【0023】
メインロータブレード43は、例えば、矩形状の長尺部材であって、一端部がメインロータ回転軸42に接続されており、メインロータ回転軸42に対して交差(例えば、直交)する方向に延びている。複数のメインロータブレード43は、メインロータ回転軸42を中心に周方向に等間隔に配置されて、メインロータ回転軸42から放射線状に延びている。
【0024】
メイン駆動部41の出力はメインロータ回転軸42を介してメインロータブレード43に与えられて、メインロータブレード43はメインロータ回転軸42を中心に回転して、メインロータ40は揚力を発生する。なお、メインロータブレード43は、メインロータ40により発生する揚力が最大になるようにピッチ角が制御されていてもよい。
【0025】
主翼30は、揚力発生部であって、胴体20から左右方向に張り出している。主翼30は、第1主翼部31及び第2主翼部32を有しており、第1主翼部31と第2主翼部32との間にメインロータ回転軸42を挟むように配置されている。
【0026】
第1主翼部31は胴体20の右側面から右側に延びており、第2主翼部32は胴体20の左側面から左側に延びている。第1主翼部31及び第2主翼部32は、仮想対称面VPに対して対称に形成され、仮想対称面VPに対して交差(例えば、直交)する方向に延びている。
【0027】
各主翼部31、32は、左右方向において、胴体20に接続される端部(翼根33)、及び、翼根33の反対側の端(翼端34)を有している。各主翼部31、32は、例えば、上側から視て、前後方向における寸法が翼端34よりも翼根33が大きい台形状を有している。
【0028】
第1主翼部31の翼端34に、第1プロペラ50を回転駆動する第1駆動部51が設けられている。第2主翼部32の翼端34に、第2プロペラ60を回転駆動する第2駆動部61が設けられている。第1駆動部51及び第2駆動部61は、例えば、メイン駆動部41と接続されたドライブシャフトにより駆動される。
【0029】
第1プロペラ50及び第2プロペラ60は、推進力発生部であって、左右方向において胴体20を挟んで、仮想対称面VPに対して対称に配置されている。第1プロペラ50は第1回転軸52及び複数(例えば、4つ)の第1プロペラブレード53を有し、第2プロペラ60は第2回転軸62及び複数(例えば、4つ)の第2プロペラブレード63を有している。
【0030】
第1回転軸52は前後方向に延び、その後端部が第1駆動部51の出力部に取り付けられている。第2回転軸62は前後方向に延び、その後端部が第2駆動部61の出力部に取り付けられている。これにより、各駆動部51、61によって各回転軸52、62は、例えば、定速で回転する。
【0031】
第1回転軸52の前端部には複数の第1プロペラブレード53が取り付けられており、複数の第1プロペラブレード53は第1回転軸52を中心に周方向において互いに等間隔に配置され、第1回転軸52に対して交差(例えば、直交)する方向に延びている。第2回転軸62の前端部には複数の第2プロペラブレード63が取り付けられており、複数の第2プロペラブレード63は第2回転軸62を中心に周方向において互いに等間隔に配置され、第2回転軸62に対して交差(例えば、直交)する方向に延びている。なお、各プロペラブレード53、63が取り付けられる各回転軸52、62の前端部は、前方へ突出する円錐形等の錐体形状であってもよい。
【0032】
各駆動部51、61の出力は各回転軸52、62を介して各プロペラブレード53、63に与えられて、各プロペラブレード53、63は各回転軸52、62を中心に回転する。この際、例えば、前から視たとき、第1プロペラブレード53は反時計回りに定速vで回転し、第2プロペラブレード63は時計回りに定速vで回転する。このように、第1プロペラブレード53及び第2プロペラブレード63は、互いに逆向きの回転方向で、互いに同じ回転速度で回転する。
【0033】
第1回転軸52に対する第1プロペラブレード53の取付部分には、第1回転軸52周りにおける第1プロペラブレード53のピッチ角を可変する第1ピッチ可変機構54が設けられている。第2回転軸62に対する第2プロペラブレード63の取付部分には、第2回転軸62周りにおける第2プロペラブレード63のピッチ角を可変する第2ピッチ可変機構64が設けられている。このピッチ角により、各プロペラブレード53、63により発生する推進力の方向と大きさが制御される。
【0034】
つまり、第1ピッチ可変機構54は、第1プロペラ50が前向きの推進力(正推力)を発生するように、正のピッチ角に第1プロペラブレード53を調整する。一方、第2ピッチ可変機構64は、第2プロペラ60が正推力を発生するように、正のピッチ角に第2プロペラブレード63を調整する。また、第2ピッチ可変機構64は、第2プロペラ60が後向きの推進力(負推力)を発生するように、負のピッチ角に第2プロペラブレード63を調整する。
【0035】
各プロペラブレード53、63は、例えば、メインロータブレード43よりも小さく、矩形状であって、各回転軸52、62から放射線状に長く延びている。各プロペラブレード53、63は、この長手方向における両端部に基端部53a、63a及び先端部53b、63bを有している。各プロペラブレード53、63の基端部53a、63aが各回転軸52、62に接続されている。
【0036】
各プロペラブレード53、63は、回転方向において先行する側の縁(前縁53c、63c)、及び、前縁53c、63cに後続する側の縁(後縁53d、63d)を有している。つまり、各プロペラブレード53、63が回転する際に、前縁53c、63cが後縁53d、63dよりも前方に位置している。前縁53c、63cは、回転方向における基端部53a、63aの一端と先端部53b、63bの一端とに接続されている。後縁53d、63dは、回転方向における基端部53a、63aの他端と先端部53b、63bの他端とに接続されている。
【0037】
図2及び図3に示すように、各プロペラブレード53、63は、長手方向に直交する断面が、例えば、前縁53c、63c側が丸く、後縁53d、63d側が尖った形状であって、後縁53d、63d側よりも前縁53c、63c側の厚みが大きい形状を有している。
【0038】
各プロペラブレード53、63は、その長手方向及び前後方向に直交する方向において、先端部53b、63bの前縁53c、63cが基端部53a、63aの前縁53c、63cよりも一方側(下側)であって、先端部53b、63bの後縁53d、63dが基端部53a、63aの後縁53d、63dよりも他方側(上側)になるようにねじられている。
【0039】
このねじり下げ角は、基端部53a、63aのコード線53a1、63a1と先端部53b、63bのコード線53b1、63b1とがなす鋭角であって、例えば、10度以上であって、50度以下である。なお、コード線53a1は、基端部53aにおける前縁53cと後縁53dとを結ぶ線であって、コード線53b1は、先端部53bにおける前縁53cと後縁53dとを結ぶ線である。コード線63a1は、基端部63aにおける前縁63cと後縁63dとを結ぶ線であって、コード線63b1は、先端部63bにおける前縁63cと後縁63dとを結ぶ線である。
【0040】
第1プロペラブレード53の形状と第2プロペラブレード63の形状とは互いに異なる。第2プロペラブレード63は、上から視て、メインロータ40は反時計回りに回転する場合に、ピッチ角及び回転速度を同一にして回転したときにそれぞれ発生する後方への推力(負推力)が、第1プロペラブレード53よりも大きくなる形状を有している。ここで、第2プロペラブレード63は、回転速度を同一にし且つ正ピッチ角及び負ピッチ角をそれぞれ同一にして回転したときにそれぞれ発生する推力の絶対値の差が、第1プロペラブレード53よりも小さくなる形状を有している。
【0041】
例えば、第1プロペラブレード53のねじり下げ角θ1と第2プロペラブレード63のねじり下げ角θ2とは互いに異なり、第2プロペラブレード63のねじり下げ角θ2が第1プロペラブレード53のねじり下げ角θ1よりも小さい。これらのねじり下げ角θ1、θ2は、後述するように、各プロペラブレード53、63の推進力の効率により設定される。
【0042】
尾翼80は、胴体20の機尾22に設けられ、例えば、T字形状であって、垂直尾翼81及び水平尾翼82を有している。垂直尾翼81は、胴体20の機尾22において、胴体20の上面から上方へ突出している。水平尾翼82は、垂直尾翼81の上端部に接続されており、垂直尾翼81から左右方向のそれぞれへ延びている。垂直尾翼81は、上から視て、メインロータ40は反時計回りに回転する場合に、右向きの揚力を発生する機能を有する。
【0043】
降着装置70は、胴体20の下部に設けられ、例えば、スキッド等の着陸脚が用いられる。降着装置70は、コンパウンドヘリコプタ10が地上に着陸する際に、衝撃を受けて、胴体20等を支持する装置である。
【0044】
制御部90は、プロセッサ等の演算処理装置により構成されており、例えば、胴体20内に配置されている。制御部90は、操縦装置及び各種センサ等からの出力に基づき、メイン駆動部41及び各ピッチ可変機構54、64等の各部を制御している。
【0045】
<コンパウンドヘリコプタに作用する力>
コンパウンドヘリコプタ10の飛行時に発生する力を、図4に示す。なお、ここでは、コンパウンドヘリコプタ10の飛行時に発生する力のうち、推進力及び機体のヨー回転に寄与する一部の力を図4に表している。また、コンパウンドヘリコプタ10の飛行における各部の制御は、制御部90により行われる。
【0046】
コンパウンドヘリコプタ10の飛行中には、上側から視たとき、例えば、メインロータ40は反時計回りに回転する。このため、メインロータブレード43は、上から視て、メインロータ回転軸42の回りを、胴体20の機尾22側(後側)、第1主翼部31側(右側)を経て、胴体20の機首21側(前側)へ回転する。
【0047】
また、コンパウンドヘリコプタ10の飛行中には、第1プロペラ50及び第2プロペラ60は一定速度及び一定方向にそれぞれ回転する。この第1プロペラ50及び第2プロペラ60は、互いに同じ回転速度で回転している。なお、第1プロペラ50及び第2プロペラ60の回転速度は互いに異なっていてもよい。また、第1プロペラ50及び第2プロペラ60は互いに反対方向に回転する。例えば、第1プロペラ50は、前から視て反時計回りに回転し、第2プロペラ60は、前から視て時計回りに回転する。
【0048】
コンパウンドヘリコプタ10のホバリング時には、前進速度が0ktであって、コンパウンドヘリコプタ10は空中に静止している。この際、メインロータ40の回転により機体の自重に相当する揚力を発生させるため、メインロータ40の回転トルクが大きくなる。また、この回転トルクによって胴体20は、メインロータ40の回転方向の反対方向(時計回り)のモーメントM0を受ける。このモーメントM0は回転トルクに伴い大きい。
【0049】
このモーメントM0による胴体20の回転を止めるために、各ピッチ可変機構54、64が調整される。第1ピッチ可変機構54により第1プロペラブレード53は正のピッチ角に調整され、第1プロペラ50により正推力F0が発生する。また、第2ピッチ可変機構64により第2プロペラブレード63は負のピッチ角に調整され、第2プロペラ60により負推力S0が発生する。
【0050】
正推力F0及び負推力S0により、モーメントM0が相殺されて、コンパウンドヘリコプタ10はヨー方向に停止する。また、負推力S0は正推力F0と同じ又はほぼ同じであり、コンパウンドヘリコプタ10は前後方向にも移動しない。
【0051】
続いて、コンパウンドヘリコプタ10が低速(例えば、80kt)で前進する。この前進方向の推進力を発生するため、第1プロペラ50の正推力をF0からF1に増加する。
【0052】
この前進によって、主翼30により揚力が発生し、メインロータ40による揚力の寄与が小さくなり、メインロータ40の回転トルクが減少する。このため、回転トルクの反作用である胴体20のモーメントM1はモーメントM0よりも小さくなる。これに伴い、モーメントによる回転を止めるための第2プロペラ60の負推力を、S0からS1に減少させる。また、垂直尾翼81に揚力R1が右向きに発生する。
【0053】
この揚力R1、正推力F1及び負推力S1によりモーメントM1が相殺されて、コンパウンドヘリコプタ10はヨー方向に停止する。また、正推力F1が負推力S1よりも大きく、コンパウンドヘリコプタ10は正推力T1を有し、前進する。
【0054】
さらに、コンパウンドヘリコプタ10の前進する速度が増し、例えば、150ktになる。この際、前進方向の推進力を上昇するため、第1プロペラ50の正推力をF1からF2に増加する。また、第2ピッチ可変機構64により第2プロペラブレード63を負のピッチ角から正のピッチ角に変更し、第2プロペラ60から正推力S2を発生させる。これにより、第1プロペラ50及び第2プロペラ60の推力は、コンパウンドヘリコプタ10の推力に用いられ、コンパウンドヘリコプタ10は正推力T2にて速度を増して前進する。
【0055】
この速度が増すことに伴い、主翼30による揚力がさらに増加し、これに伴い胴体20のモーメントがM2に低下する。さらに、垂直尾翼81の揚力がR1からR2に増加する。この揚力R2、正推力F2及び正推力S2によりモーメントM2が相殺されて、コンパウンドヘリコプタ10はヨー方向に停止する。
【0056】
そして、コンパウンドヘリコプタ10の前進する速度が一層、増し、例えば、200ktになる。この前進方向の推進力を上昇するため、第1プロペラ50の正推力をF2からF3に増加し、第2プロペラ60の正推力をS2からS3に増加する。この和であるコンパウンドヘリコプタ10の正推力は、T3に増加して、高速で前進する。なお、正推力S3は正推力F3に等しい又はほぼ等しい。
【0057】
高速化による主翼30による揚力の更なる増加に伴い、胴体20のモーメントがM3に低下する。また、垂直尾翼81の揚力がR3に増加する。このモーメントM3は揚力R3により打ち消されて、コンパウンドヘリコプタ10はヨー方向に停止する。
【0058】
<第1プロペラブレード及び第2プロペラブレードのねじり下げ角>
図5(a)は、コンパウンドヘリコプタ10のホバリング時における各プロペラの効率のグラフを示し、図5(b)は、コンパウンドヘリコプタ10の高速(200kt)飛行時における各プロペラの効率のグラフを示している。各グラフにおいて、横軸は各プロペラブレード53、63のねじり下げ角を示し、縦軸は各飛行状態の際に必要な推力を発生させるために各プロペラを回転させる必要馬力を示している。
【0059】
各グラフにおいて、四角形ドットを通る線が第1プロペラ50の必要馬力と、第1プロペラブレード53のねじり下げ角θ1との関係を示している。三角形ドットを通る線が第1プロペラ50の必要馬力と第2プロペラ60の必要馬力との和と、第2プロペラブレード63のねじり下げ角θ2との関係を示している。太線は、プロペラ馬力上限値(メイン駆動部41の馬力上限値からメインロータ40を回転させる必要馬力を差し引いたもの)を示している。
【0060】
なお、図5(a)と図5(b)の各縦軸のスケールは必ずしも同一ではない。また、コンパウンドヘリコプタ10が前進すると、メイン駆動部41は空冷される。このため、図5(b)の高速飛行時におけるプロペラ馬力上限値は、図5(a)のホバリング時におけるプロペラ馬力上限値よりも大きい値を示す。
【0061】
第1プロペラ50は、上記の通り、飛行状態によらず正推力を発生する。このため、図5(a)及び図5(b)に示すように、第1プロペラブレード53のねじり下げ角θ1が大きいほど、第1プロペラ50の必要馬力が小さくなる。この場合には、ねじり下げ角θ1が40度で、第1プロペラ50の必要馬力が最小になる。このため、ねじり下げ角θ1が大きい(例えば、ねじり下げ角θ1が40度に近い)ほど、第1プロペラ50の推力効率が向上する。
【0062】
一方、第2プロペラ60は、コンパウンドヘリコプタ10の速度に応じて推力の方向が変わり、ホバリング時には負推力を発生するのに対し、高速飛行時には正推力を発生する。このため、図5(b)に示すように、高速飛行時には、第1プロペラ50と同様に、第2プロペラブレード63のねじり下げ角θ2が大きいほど、第2プロペラ60の必要馬力が小さくなる。このため、ねじり下げ角θ2が大きい(例えば、ねじり下げ角θ2が40度に近い)ほど、第2プロペラ60の推力効率が向上する。
【0063】
これに対し、図5(a)に示すように、ホバリング時には、第2プロペラブレード63のねじり下げ角θ2が小さいほど、第2プロペラ60の必要馬力が小さくなる。このため、ねじり下げ角θ2が小さいほど、第2プロペラ60の推力効率が向上する。
【0064】
このように、ねじり下げ角θ2に対する推力効率の傾向が、飛行状態により異なる。このため、第2プロペラブレード63のねじり下げ角θ2については、第2プロペラ60の必要馬力のうち、プロペラ馬力上限値よりも小さい範囲においてできるだけ両方の必要馬力が小さくなるように決定される。
【0065】
この場合、図5(a)によりねじり下げ角θ2の上限が設けられ、例えば、26度である。図5(b)によりねじり下げ角θ2の下限が設けられ、例えば、18度である。この範囲において、マージンを考慮し、例えば、ねじり下げ角θ2は、22度に設定される。
【0066】
<作用、効果>
このように、第2プロペラブレード63のねじり下げ角θ2は、第1プロペラブレード53のねじり下げ角θ1よりも小さい。これにより、第1プロペラブレード53及び第2プロペラブレード63が互いに同一の回転速度及び同一の負ピッチ角で回転する場合、第2プロペラブレード63の負推力は第1プロペラブレード53の負推力よりも大きくなる。
【0067】
また、例えば、第1プロペラブレード53及び第2プロペラブレード63が互いに同一の回転速度及び同一の正ピッチ角で回転した際、第1プロペラブレード53により正推力+Fpが発生し、第2プロペラブレード63により正推力+Spが発生する。また、第1プロペラブレード53及び第2プロペラブレード63が互いに同一の回転速度及び同一の負ピッチ角で回転した際、第1プロペラブレード53により負推力-Fmが発生し、第2プロペラブレード63により負推力-Smが発生する。
【0068】
このとき、ねじり下げ角が0度であって、正ピッチ角の絶対値と負ピッチ角の絶対値が等しい時、正ピッチ角で発生する正推力の絶対値と、負ピッチ角で発生する負推力の絶対値が等しくなる。また、正ピッチ角の絶対値と負ピッチ角の絶対値が等しい時、ねじり下げ角が大きくなるほど、正推力の絶対値が負推力の絶対値よりも大きくなる。この場合、第2プロペラブレード63の推力の絶対値の差(Sp-Sm)は、第1プロペラブレード53の推力の絶対値の差(Fp-Fm)よりも小さくなる。
【0069】
このため、第1プロペラブレード53は、正推力を発生するのに適した形状に形成される。一方、第2プロペラブレード63は、正推力及び負推力に対する効率の低下を抑制した形状に形成される。よって、コンパウンドヘリコプタ10の飛行効率の向上が図られる。
【0070】
また、第1プロペラ50及び第2プロペラ60による推力によって、コンパウンドヘリコプタ10の高速化が図られると共に、ヨー方向におけるコンパウンドヘリコプタ10の動きを制御することができる。
【0071】
(実施の形態2)
実施の形態2に係るコンパウンドヘリコプタ10は、図6に示すように、第1プロペラブレード153及び第2プロペラブレード163の形状が実施の形態1と異なる。これ以外の構成等は実施の形態1と同様であるため、その説明を省略する。
【0072】
第2プロペラブレード163は、キャンバーが第1プロペラブレード153よりも小さい。例えば、図6(a)に示すように、第1プロペラブレード153は、キャンバーが0よりも大きいキャンバー翼である。図6(b)に示すように、第2プロペラブレード163は、キャンバーが0である対称翼である。なお、各プロペラブレード153、163にはねじり下げが付けられていない。
【0073】
このキャンバーは、コード線153g、163gと中心線153f、163fとの差である。外形線153e、163eは、各プロペラブレード153、163の長手方向に直交する断面の形状を表す線である。中心線153f、163fは、外形線153e、163eのうち、前縁153c、163cと後縁153d、163dとを直線で結んだコード線153g、163gよりも上側と下側との間の中心を通る線である。
【0074】
第1プロペラブレード153では、中心線153fがコード線153gよりも上側に位置しており、キャンバー153hが0よりも大きくなる。この場合、第1プロペラブレード153は、コード線153gから一方側に反っていることにより、第1プロペラブレード153は正推力を発生し易い。
【0075】
第2プロペラブレード163では、中心線163fがコード線163gと一致しており、キャンバーが0になる。このように、第2プロペラブレード163は、コード線163gに対して対称な形状であることにより、第2プロペラブレード163は正推力及び負推力の両方を発生し易い。
【0076】
このため、例えば、同一の回転速度及び同一の負ピッチ角で回転するときに発生する後方への推力(負推力)は、第2プロペラブレード163が第1プロペラブレード153よりも大きくなる。よって、コンパウンドヘリコプタ10は、飛行効率の向上を図ることができる。
【0077】
(その他の実施の形態)
実施の形態2に係る各プロペラブレード153、163について、実施の形態1と同様のねじり下げ角θ1、θ2をつけてもよい。つまり、対称翼の第2プロペラブレード163及びキャンバー翼の第1プロペラブレード153のそれぞれにねじり下げが付けられており、第2プロペラブレード163のねじり下げ角θ2は、第1プロペラブレード153のねじり下げ角θ1よりも小さい。
【0078】
上記全ての実施の形態において、ねじり下げ及び断面形状の違いを除いた形状について、第1プロペラブレード153及び第2プロペラブレード163は、互いに同じであってもよいし、互いに異なっていてもよい。例えば、基端部153a、163a、先端部153b、163b、前縁153c、163c及び後縁153d、163dにより囲まれた平面形状は、第1プロペラブレード153及び第2プロペラブレード163で同じであっても異なっていてもよい。
【0079】
上記全ての実施の形態において、第1プロペラ50及び第1駆動部51が第1主翼部31に取り付けられ、第2プロペラ60及び第2駆動部61が第2主翼部32に取り付けられている。但し、第1プロペラ50が胴体20の一方側に設けられ、第2プロペラ60が胴体20の他方側に設けられていれば、これらの位置はこれに限定されない。例えば、第1プロペラ50及び第1駆動部51が胴体20の一方側に取り付けられ、第2プロペラ60及び第2駆動部61が胴体20の他方側に取り付けられていてもよい。
【0080】
また、上記全実施の形態は、互いに相手を排除しない限り、互いに組み合わせてもよい。上記説明から、当業者にとっては、本発明の多くの改良や他の実施形態が明らかである。従って、上記説明は、例示としてのみ解釈されるべきであり、本発明を実行する最良の態様を当業者に教示する目的で提供されたものである。本発明の精神を逸脱することなく、その構造及び/又は機能の詳細を実質的に変更できる。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明のコンパウンドヘリコプタは、飛行効率の向上を図ったコンパウンドヘリコプタ等として有用である。
【符号の説明】
【0082】
10 :コンパウンドヘリコプタ
20 :胴体
21 :機首
22 :機尾
30 :主翼
31 :第1主翼部
32 :第2主翼部
40 :メインロータ
50 :第1プロペラ
52 :第1回転軸
53 :第1プロペラブレード
60 :第2プロペラ
62 :第2回転軸
63 :第2プロペラブレード
153 :第1プロペラブレード
163 :第2プロペラブレード
図1
図2
図3
図4
図5
図6