(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-04
(45)【発行日】2023-12-12
(54)【発明の名称】列車運行保安装置
(51)【国際特許分類】
B61L 23/00 20060101AFI20231205BHJP
B61L 3/12 20060101ALI20231205BHJP
G08B 25/04 20060101ALI20231205BHJP
G08B 25/10 20060101ALI20231205BHJP
【FI】
B61L23/00 Z
B61L3/12 Z
G08B25/04 C
G08B25/10 Z
(21)【出願番号】P 2020012417
(22)【出願日】2020-01-29
【審査請求日】2022-12-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000221616
【氏名又は名称】東日本旅客鉄道株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000001292
【氏名又は名称】株式会社京三製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100124682
【氏名又は名称】黒田 泰
(74)【代理人】
【識別番号】100104710
【氏名又は名称】竹腰 昇
(74)【代理人】
【識別番号】100090479
【氏名又は名称】井上 一
(72)【発明者】
【氏名】本間 慧
(72)【発明者】
【氏名】山中 淳
(72)【発明者】
【氏名】児玉 有司
(72)【発明者】
【氏名】嶋田 雅信
(72)【発明者】
【氏名】中島 克宜
【審査官】井古田 裕昭
(56)【参考文献】
【文献】再公表特許第2018/173694(JP,A1)
【文献】特開2016-193669(JP,A)
【文献】特開2007-069683(JP,A)
【文献】特開2009-202635(JP,A)
【文献】特開2009-029234(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B61L 23/00
B61L 3/12
G08B 25/04
G08B 25/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転台に通知装置が搭載された各列車の位置および進行方向を少なくとも含む在線情報を管理する在線管理手段と、
列車運行に関する支障を検知する複数種類の検知装置の検知位置
と、検知種別
と、当該検知位置を含む抑止警報範囲と、当該抑止警報範囲に隣接する予告警報範囲とを、当該検知装置の識別情報と関連付けて記憶する記憶手段と、
前記検知装置から発信された当該検知装置の識別情報および検知結果を示す検知信号を取得する取得手段と、
前記在線情報に基づいて、前記検知信号を発信した前記検知装置
の前記抑止警報範囲内に位置する全ての列車を第1度合列車とし、当該検知装置の前記予告警報範囲内に位置する全ての列車を第2度合列車として抽出する抽出手段と、
前記取得手段により前記検知信号が取得された場合に、当該検知信号を発信した前記検知装置の検知種別、および、当該検知装置の検知位置、を示す
警報であって、前記第1度合列車に対しては抑止を指示する抑止警報を、前記第2度合列車に対しては当該抑止警報の予告を示す予告警報を、
当該列車の前記通知装置から
当該列車の運転士に向けて通知させる制御を行う警報制御手段と、
を備えた列車運行保安装置。
【請求項2】
前記警報制御手段は、前記
抽出手段により抽出された列車が、前記検知信号を発信した前記検知装置の検知位置に到達する手前駅に未到着の場合、又は、当該手前駅に停車中の場合に、当該手前駅からの出発を抑止する通知を前記通知装置から通知させる制御を行う、
請求項1に記載の列車運行保安装置。
【請求項3】
前記検知装置には、駅における乗降客の安全に係る支障を検知する駅設置装置が含まれる、
請求項
1又は2に記載の列車運行保安装置。
【請求項4】
前記検知装置には、列車走行に支障する物体を検知する線路支障検知装置が含まれる、
請求項1~
3の何れか一項に記載の列車運行保安装置。
【請求項5】
前記検知装置には、風速規制又は雨量規制を検知する気象検知装置が含まれる、
請求項1~
4の何れか一項に記載の列車運行保安装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、列車運行に関する支障を運転士に通知する制御を行う列車運行保安装置に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道では、列車運行に関する支障により周辺の列車を緊急に停止させる必要が生じた場合にその旨を列車の運転士に通知するシステムの一つとして、駅ホームの非常停止ボタンがある(例えば、特許文献1参照)。列車運行に関する支障には、これ以外にも多数あり、例えば、駅ホームから線路への旅客の転落に関する支障(転落検知マット等により検知される)、落石や土砂崩壊による支障(落石検知装置により検知される)、列車の脱線による支障、風速や雨量等の気象に関する運転規制、が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
列車運行に関する支障を運転士に通知する主な方法として、鉄道沿線に設けた特殊信号発光機の点灯或いは点滅がある。特殊信号発光機の点灯或いは点滅を視認した運転士は、自身の判断で列車を停止させるようにブレーキ操作を行う必要がある。しかしながら、特殊信号発光機の点灯或いは点滅を視認しにくい場合が起こり得る。例えば、濃霧や大雨といった気象状況がそれである。運転台からの前方視界に関わらず、特殊信号発光機の点灯或いは点滅の見逃しは事故につながるため非常に危険である。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みて考案されたものであり、その課題は、列車運行に関する支障を運転士に確実に通知できるようにすること、である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための第1の発明は、
運転台に通知装置が搭載された各列車の位置および進行方向を少なくとも含む在線情報を管理する在線管理手段(例えば、
図6の在線管理部202)と、
列車運行に関する支障を検知する複数種類の検知装置の検知位置および検知種別を、当該検知装置の識別情報と関連付けて記憶する記憶手段(例えば、
図6の記憶部300)と、
前記検知装置から発信された当該検知装置の識別情報および検知結果を示す検知信号を取得する取得手段(例えば、
図6の検知取得部204)と、
前記検知信号を発信した前記検知装置の検知位置と、前記在線情報とに基づいて、当該検知位置に接近する接近列車を抽出する抽出手段(例えば、
図6の列車抽出部206)と、
前記取得手段により前記検知信号が取得された場合に、当該検知信号を発信した前記検知装置の検知種別、および、当該検知装置の検知位置、を示す所定の警報を、前記接近列車の前記通知装置から当該接近列車の運転士に向けて通知させる制御を行う警報制御手段(例えば、
図6の警報制御部208)と、
を備えた列車運行保安装置である。
【0007】
第1の発明によれば、列車運行に関する支障を接近列車の運転士に確実に通知することができる。つまり、列車運行保安装置により、検知信号を発信した検知装置の検知位置に接近する接近列車が抽出され、当該接近列車の運転台に搭載された通知装置から、その検知装置の検知種別および検知位置を示す所定の警報を運転士に向けて通知させる制御が行われる。これにより、接近列車の運転士は、車外の前方視界に関わらず、車内の運転台の通知装置の通知によって接近する支障箇所や支障の内容を把握することができる。支障箇所や支障の内容を把握できるため、適切な対処を落ち着いて実施することが可能となる。
【0008】
第2の発明は、第1の発明において、
前記警報制御手段は、前記接近列車が、前記検知信号を発信した前記検知装置の検知位置に到達する手前駅に未到着の場合、又は、当該手前駅に停車中の場合に、当該手前駅からの出発を抑止する通知を前記通知装置から通知させる制御を行う、
列車運行保安装置である。
【0009】
第2の発明によれば、検知信号を発信した検知装置の検知位置に到達する手前駅に未到着又は停車中の接近列車に対して、その手前駅からの出発を抑止する通知が行われるので、支障に伴う駅間での列車の抑止を回避できる。
【0010】
第3の発明は、第1又は第2の発明において、
前記抽出手段は、前記検知信号を発信した前記検知装置の検知位置までの接近の度合いが第1度合にある第1度合列車と、前記第1度合よりも接近の度合いが遠い第2度合にある第2度合列車とを前記接近列車として抽出し、
前記警報制御手段は、前記第1度合列車に対して抑止警報を前記通知装置から通知させ、前記第2度合列車に対して予告警報を前記通知装置から通知させる制御を行う、
列車運行保安装置である。
【0011】
第3の発明によれば、検知信号を発信した検知装置の検知位置までの接近の度合いに応じて異なる警報を通知することで、接近列車の運転士に対して緊急度の違いを認識させ、支障箇所への接近に対する段階的な注意を促すことができる。
【0012】
第4の発明は、第3の発明において、
前記在線情報には各列車の速度が含まれ、
前記抽出手段は、前記接近の度合いを、前記検知信号を発信した前記検知装置の検知位置と列車との距離、および、当該列車の速度に基づいて判定する、
列車運行保安装置である。
【0013】
第4の発明によれば、検知装置の検知位置までの接近の度合いを、列車と検知装置の検知位置との距離、および、列車の速度に基づいて判定することができる。つまり、検知位置との距離が同じであっても、列車の速度が異なると検知位置までの到達時分も異なる。このため、例えば、予測される検知位置までの到達時分を算出し、その到達時分に基づいて検知位置までの接近の度合いを判定することができる。そして、接近列車の運転士は、通知される警報によって、支障箇所に到達するまでの時間的な切迫感を即座に把握することができる。
【0014】
第5の発明は、第1~第4の何れかの発明において、
前記検知装置には、駅における乗降客の安全に係る支障を検知する駅設置装置が含まれる、
列車運行保安装置である。
【0015】
第5の発明によれば、列車運行に関する支障として駅における乗降客の安全に係る支障を検知して、接近列車の運転士に通知することができる。駅設置装置とは、例えば、駅のホームに設置されて押下信号を検知信号とする非常停止ボタン、ホームからの転落者を検知する転落検知マット等である。
【0016】
第6の発明は、第1~第5の何れかの発明において、
前記検知装置には、列車走行に支障する物体を検知する線路支障検知装置が含まれる、
列車運行保安装置である。
【0017】
第6の発明によれば、列車運行に関する支障として列車走行に支障する物体を検知して、接近列車の運転士に通知することができる。線路支障検知装置とは、例えば、落石や土砂崩壊、土石流、雪崩等を検知する落石検知装置、列車の脱線や自動車の線路へ転落等による建築限界の支障を検知する限界支障検知装置、沿線に設置される列車防護スイッチ等である。
【0018】
第7の発明は、第1~第6の何れかの発明において、
前記検知装置には、風速規制又は雨量規制を検知する気象検知装置が含まれる、
列車運行保安装置である。
【0019】
第7の発明によれば、列車運行に関する支障として風速規制又は雨量規制を検知して、接近列車の運転士に通知することができる。気象検知装置とは、例えば、風速計又は雨量計を有し、計測値が規制値に達したことを検知する装置である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施形態について説明する。なお、以下に説明する実施形態によって本発明が限定されるものではなく、本発明を適用可能な実施形態が以下の実施形態に限定されるものでもない。また、図面の記載において、同一要素には同符号を付す。
【0022】
[システム構成]
図1は、本実施形態の列車運行保安装置10の適用例である。本実施形態の列車運行保安装置10は、例えば中央指令室に設置され、通信ネットワークNを介して、線路を走行する列車20に搭載された車上装置22との無線通信、および、沿線に設置された検知装置30との無線通信が可能である。列車運行保安装置10は、各列車20の車上装置22や検知装置30と無線通信を行うことで、安全な列車運行を確保するための装置である。
【0023】
また、列車運行保安装置10は、各列車20の位置や速度、上り方向や下り方向といった進行方向を含む在線情報を管理している。列車の“位置”は、キロ程で表現される線路上の位置とするが、緯度経度などの地理的位置情報でもよい。在線情報は、列車運行保安装置10が、各列車20の車上装置22と無線通信を行うことで取得してもよいし、同じく中央指令室に設置された運行管理装置等の他の装置から取得してもよい。
【0024】
検知装置30は、無線通信装置を有しており、通信ネットワークNを介して、列車運行保安装置10や運行管理装置といった中央指令室に設置された各装置との無線通信が可能である。また、検知装置30は、列車運行に関する支障を検知する装置であり、支障の検知結果を示す検知信号を、装置ID等の識別情報とともに、列車運行保安装置10へ送信する。
【0025】
検知装置30には、検知種別として検知する支障が異なる複数種類の装置がある。具体的には、駅における乗降客の安全に係る支障を検知する駅設置装置と、列車走行に支障する物体を検知する線路支障検知装置と、風速規制又は雨量規制を検知する気象検知装置とが含まれる。駅設置装置は、例えば、駅のホームに設置されて押下信号を検知信号とする非常停止ボタン、ホームからの転落者を検知する転落検知マット等である。線路支障検知装置は、例えば、落石や土砂崩壊、土石流、雪崩等を検知する落石検知装置、列車の脱線や自動車の線路へ転落等による建築限界の支障を検知する限界支障検知装置、沿線に設けられる列車防護スイッチ等である。気象検知装置は、例えば、風速計又は雨量計を有し、計測値が規制値に達したことを検知する装置である。
【0026】
図2は、列車運行保安装置10の動作の概要図である。
図2に示すように、列車運行保安装置10は、検知装置30から支障の発生を示す検知信号を受信すると、ともに受信した識別情報から当該検知信号を発信した検知装置30を特定し、特定した検知装置30に接近する列車20(以下、適宜「接近列車20」という)を抽出する。そして、特定した検知装置30の検知種別および検知位置を示す所定の警報を接近列車20の運転台に設けられた通知装置24から当該接近列車20の運転士に向けて通知させるための制御信号を、接近列車20の車上装置22に送信する。
【0027】
ここで、“検知種別”とは、検知装置30が検知する支障内容である。“検知位置”とは、検知装置30による支障の検知の対象箇所である。“検知種別および検知位置を示す警報”とは、列車20の運転士に対して、前方の列車運行に関する支障を検知したことを報知して注意を促すための警報である。具体的には、“A駅(検知位置)で非常停止ボタンが押下された(検知種別)”、“〇〇トンネルの手前××キロ程付近(検知位置)で落石発生(検知種別)”、“B駅~C駅間(検知位置)で強風警報(検知種別)”、といったように、検知された支障の内容や発生箇所を報知する警報である。
【0028】
また、警報には、列車20に停止および減速を含む抑止を指示する抑止警報と、この抑止警報の予告を示す予告警報との2種類がある。後述のように、この2種類の警報のうち、検知装置30の検知位置までの接近の度合いに応じた警報が、列車20に対して通知される。
【0029】
通知装置24は、列車20の運転台に、運転士が視認可能な位置に搭載されている。そして、通知装置24における通知としては、例えば、通知装置24がディスプレイ等の画像表示装置を有する構成とし、警報の種類と、検知種別の名称および検知位置までの距離とを示す図柄やテキストメッセージを表示してもよいし、検知位置に設置されたカメラ(撮影装置)による検知位置の撮影画像を表示してもよい。或いは、通知装置24がスピーカ等の音声出力装置を有する構成とし、警報の種類と、検知種別の名称および検知位置までの距離とを示す音声メッセージを出力してもよいし、警報の種類に応じた警報音を出力してもよい。更には、通知装置24が1又は複数の表示灯を有する構成とし、警報の種類に応じてこれらの表示灯を点灯或いは点滅させる、としてもよい。これらを包括して“通知”と呼ぶ。
【0030】
列車運行保安装置10は、“接近列車”として抽出する列車20を、検知信号を発信した検知装置30の検知種別、および、当該検知装置30の検知位置と列車20との間の距離に基づいて判定する。
【0031】
[接近列車の抽出]
図3~
図5は、接近列車の抽出を説明する図である。
図3、
図4は、検知装置30が駅設置装置の一例である非常停止ボタンの例であり、
図5は、検知装置30が気象検知装置の例である。
図3~
図5に示すように、検知装置30それぞれには、警報範囲として、当該検知装置30の検知位置を含む範囲である抑止警報範囲と、この抑止警報範囲に隣接する予告警報範囲とが関連付けて定められる。検知装置30の検知位置に接近しており、且つ、この警報範囲に位置する列車20が、接近列車として抽出される。
【0032】
抑止警報範囲は、検知装置30の検知位置までの接近の度合いが近い第1度合であることを示す範囲である。列車運行保安装置10は、この抑止警報範囲に位置する列車を第1度合列車の接近列車として抽出し、抑止を指示する抑止警報を通知させるための制御信号を送信する。抑止警報として停止或いは減速のどちらを指示するかは、検知装置30の検知種別に応じて決まる。なお、抑止警報範囲は、検知装置30の検知種別に応じて支障時に動作(点灯或いは点滅)させるように対応付けられている既設の特殊信号発光機の設置位置を含む、或いは、その両端位置としてもよい。そして、接近列車への警報の通知とともに、この特殊信号発光機を動作せるようにしてもよい。
【0033】
予告警報範囲は、検知装置30の検知位置までの接近の度合いが第1度合よりも遠い第2度合であることを示す範囲である。列車運行保安装置10は、この予告警報範囲に位置する列車を第2度合列車の接近列車として抽出し、予告警報を通知させるための制御信号を送信する。また、予告警報範囲に駅(検知装置の検知位置に到達する手前駅、に相当)が含まれる場合、当該駅(手前駅)に未到着又は停車中の列車に対して、当該駅(手前駅)からの出発の抑止の指示を、予告警報に含めて通知する。
【0034】
図3に示すように、検知装置30が駅ホームに設置される非常停止ボタンである場合、駅ホームには、1又は複数の非常停止ボタン30Aが設置されており、これらの非常停止ボタン30Aは、無線通信装置を有する制御機32と通信ケーブルにより接続されている。非常停止ボタンが押下されると、非常停止ボタン30Aの押下を示す検知信号が、制御機32から列車運行保安装置10へ送信される。抑止警報範囲は、検知位置である非常停止ボタン30Aが設置された駅ホームを含むとともに、進入側の端部を、当該駅ホームに接近する列車が常用最大ブレーキ(或いは非常ブレーキ)をかけたときに停止するまでの制動距離に基づく位置とし、進出側の端部を、当該駅ホームを出発した列車が当該駅構内を完全に抜けきったとみなす位置として、範囲が定められる。そして、予告警報範囲は、抑止警報範囲の進入側に隣接する範囲として定められる。“列車が駅構内を完全に抜けきった”とは、列車の最後尾の位置が駅構内から進出したことを意味する。抑止警報範囲の進出側に駅構内を含むようにするのは、列車の出発直後に戸挟み等の支障によって非常停止ボタン30Aが押下されたときに、その列車に抑止警報を通知して停止させるためである。
【0035】
図3の例では、抑止警報範囲に位置する列車20B,20Cと、予告警報範囲に位置する列車20D,20Eとが、接近列車として抽出される。そして、列車運行保安装置10から、列車20B,20Cには抑止警報が通知され、列車20D,20Eには予告警報が通知される。より詳細には、抑止警報範囲に位置する列車20B,20Cには、抑止警報として、停止を指示する警報が通知される。この通知により、駅に停車中の列車20Bの運転士は、列車20Bを継続して停車させ、列車20Cの運転士は、直ちにブレーキをかけて列車20Cを停止させる。また、予告警報範囲内に駅(検知装置30の検知位置に到達する手前駅)が含まれており、この駅に停車中の列車20Eには、当該駅からの出発の抑止の指示を含む予告警報が通知される。この通知により、列車20Eの運転士は、列車20Eを継続して停車させる。
【0036】
なお、
図3は、駅ホームへの進入方向が1方向の例であるが、島式ホーム等の駅ホームへの進入方向が2方向である場合には、
図4に示すように、進入方向別に警報範囲(抑止警報範囲および予告警報範囲)を定めるようにしても良い。
図4の例では、下り方向および上り方向の進行方向別に、非常停止ボタン30Aが設置された駅ホームを含む抑止警報範囲と、この抑止警報範囲の進入側に隣接する予告警報範囲とが定められている。そして、抑止警報範囲に位置している列車20B,20C,20G,20Hが接近列車として抽出され、抑止警報が通知される。列車20Hは、駅ホームを出発した直後であり駅構内を抜けきっておらず、最後尾の位置が抑止警報範囲に位置している。また、予告警報範囲に位置している列車20D,20E,20Fが接近列車として抽出され、予告警報が通知される。列車20A,20Iは、警報範囲(抑止警報範囲又は予告警報範囲)に位置していないので、接近列車として抽出されない。
【0037】
また、検知装置30が気象検知装置である場合、
図5に示す例では、気象検知装置30Bは、風速計34と、無線通信装置を有する制御機36とを備えて構成される。風速計34が計測した風速値は、随時、制御機36に出力され、風速が所定の規制値に達すると、風速が規制値に達したことを示す検知信号が、制御機36から列車運行保安装置10へ送信される。抑止警報範囲は、既存の規制区間を含む範囲として定められ、全ての進行方向に共通の範囲である。そして、予告警報範囲は、進行方向別に、抑止警報範囲の進入側に隣接する範囲として定められる。
【0038】
図5の例では、抑止警報範囲に位置する列車20K,20L,20Oと、予告警報範囲に位置する列車20M,20Nとが接近列車として抽出される。そして、列車運行保安装置10から、列車20K,20L,20Oには抑止警報が通知され、列車20M,20Nには予告警報が通知される。なお、列車20J,20Pは、警報範囲(抑止警報範囲又は予告警報範囲)に位置していないので、接近列車として抽出されない。これは、気象(風速や雨量)による運転規制は、規制区間を走行する列車に対して適用されるからである。
【0039】
より詳細には、抑止警報範囲に位置する列車20K,20L,20Oには、抑止警報として、運転規制の内容(運転見合わせや速度規制)に応じて停止又は減速を指示する抑止警報が通知される。この通知により、列車20K,20L,20Oの運転士は、規制区間を徐行運転する。また、予告警報範囲に位置する列車20M,20Nには、予告警報が通知される。この通知により、列車20M,20Nの運転士は、規制区間の手前駅に停車する、或いは、規制区間に進入した後は徐行運転する。
【0040】
なお、風速の規制値を、運転規制の内容を速度規制とする第1の規制値、および、第1の規制値よりも高く(風速が速く)運転規制の内容を運転見合わせとする第2の規制値、の2段階としてもよい。そして、列車運行保安装置10は、風速が第1の規制値に達するが第2の規制値に達しない場合には、抑止警報として、徐行を指示する警報を通知し、第2の規制値に達する場合には、抑止警報として、停止を指示する警報を通知する。また、気象検知装置30Bは、複数の風速計34を有し、これらの風速計34それぞれの計測値に基づいて、規制値に達するか判断するようにしてもよい。また、気象検知装置30Bは、風速計34に替えて雨量計としても同様である。
【0041】
検知装置30が、駅設置装置の一例である非常停止ボタン或いは気象検知装置である例について示したが、他の検知種別の検知装置30についても同様である。例えば、駅設置装置の一例である転落検知マットについては、駅ホームから転落するおそれのある線路上の位置に設置されるので、非常停止ボタンの場合と同様に、検知位置である駅ホームを含むように抑止警報範囲を定め、その抑止警報範囲の進入側に隣接した予告警報範囲を定める。そして、抑止警報範囲又は予告警報範囲に位置する列車を接近列車として抽出し、抑止警報範囲に位置する接近列車には停止を指示する抑止警報を通知し、予告警報範囲に位置する列車には予告警報を通知する。
【0042】
また、線路支障検知装置の一例である落石検知装置、限界支障検知装置、列車防護スイッチについては、検知装置30の検知位置を含むように抑止警報範囲を定め、その抑止警報範囲の進入側に隣接した予告警報範囲を定める。そして、抑止警報範囲又は予告警報範囲に位置する列車を接近列車として抽出し、抑止警報範囲に位置する接近列車には停止を指示する抑止警報を通知し、予告警報範囲に位置する列車には予告警報を通知する。
【0043】
[機能構成]
図6は、列車運行保安装置10の機能構成を示すブロック図である。
図6によれば、列車運行保安装置10は、操作部102と、表示部104と、音出力部106と、無線通信部108と、有線通信部110と、処理部200と、記憶部300とを備え、一種のコンピュータシステムとして構成することができる。
【0044】
操作部102は、例えばキーボードやマウス、タッチパネル、各種スイッチ等の入力装置で実現され、なされた操作に応じた操作信号を処理部200に出力する。表示部104は、例えば液晶ディスプレイやタッチパネル等の表示装置で実現され、処理部200からの表示信号に応じた各種表示を行う。音出力部106は、例えばスピーカ等の音声出力装置で実現され、処理部200からの音声信号に応じた各種音出力を行う。無線通信部108は、無線通信装置で実現され、通信ネットワークNに接続して、各列車20の車上装置22や、検知装置30といった各種の外部装置との無線通信を行う。有線通信部110は、有線通信装置で実現され、列車運行管理装置といった各種の外部装置との有線通信を行う。
【0045】
処理部200は、CPU(Central Processing Unit)やFPGA(Field Programmable Gate Array)等の演算装置や演算回路で実現されるプロセッサーであり、記憶部300に記憶されたプログラムやデータ、操作部102からの入力データ等に基づいて、列車運行保安装置10の全体制御を行う。また、処理部200は、機能的な処理ブロックとして、在線管理部202と、検知取得部204と、列車抽出部206と、警報制御部208とを有する。処理部200が有するこれらの各機能部は、処理部200がプログラムを実行することでソフトウェア的に実現することも、専用の演算回路で実現することも可能である。本実施形態では、前者のソフトウェア的に実現することとして説明する。
【0046】
在線管理部202は、各列車20の位置や速度、進行方向を含む在線情報310を管理する。在線情報310は、各列車20の車上装置22と無線通信部108を介した無線通信を行うことで取得してもよいし、運行管理装置等の他の装置から有線通信部110を介した有線通信を行うことで取得してもよい。
【0047】
検知取得部204は、検知装置30から発信された当該検知装置30の識別情報および検知結果を示す検知信号を取得する。検知信号は、無線通信部108を介した無線通信によって受信する。
【0048】
列車抽出部206は、検知信号を発信した検知装置30の検知位置と在線情報310とに基づいて、当該検知位置に接近する接近列車を抽出する。つまり、検知信号を発信した検知装置30の検知位置までの接近の度合いが第1度合にある第1度合列車と、第1度合よりも接近の度合いが遠い第2度合にある第2度合列車とを接近列車として抽出する。
【0049】
具体的には、検知装置30の検知位置に接近しており、且つ、当該検知装置30に定められた警報範囲に位置する列車を、接近列車として抽出する。警報範囲は、検知位置までの接近の度合いが近い第1度合であることを示す抑止警報範囲と、この抑止警報範囲に隣接し、検知位置までの接近の度合いが第1度合よりも遠い第2度合であることを示す予告警報範囲とを含む。列車抽出部206は、抑止警報範囲に位置する列車を第1度合列車の接近列車として抽出し、予告警報範囲に位置する列車を第2度合列車の接近列車として抽出する(
図3~
図5参照)。検知装置30の警報範囲は、該当する検知装置管理情報320における警報範囲設定情報(
図7参照)として予め定められている。
【0050】
警報制御部208は、検知取得部204により検知信号が取得された場合に、当該検知信号を発信した検知装置30の検知種別および検知位置を示す所定の警報を、接近列車の通知装置24から当該接近列車の運転士に向けて通知させる制御を行う。つまり、第1度合列車である接近列車に対して、検知位置に接近する運転を抑止する抑止警報を通知装置24から通知させる制御信号を送信し、第2度合列車である接近列車に対して、予告警報を通知装置24から通知させる制御信号を送信する。また、警報制御部208は、接近列車が、検知信号を発信した検知装置30の検知位置に到達する手前駅に未到着の場合、又は、当該手前駅に停車中の場合に、当該手前駅からの出発を抑止する通知を通知装置24から通知させる制御を行う。
【0051】
記憶部300は、ROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)等のIC(Integrated Circuit)メモリやハードディスク等の記憶装置で実現され、処理部200が列車運行保安装置10を統合的に制御するためのプログラムやデータ等を記憶しているとともに、処理部200の作業領域として用いられ、処理部200が実行した演算結果や、操作部102からの入力データ等が一時的に格納される。本実施形態では、記憶部300には、列車運行保安プログラム302と、在線情報310と、検知装置管理情報320とが記憶される。
【0052】
図7は、検知装置管理情報320の一例を示す図である。
図7に示すように、検知装置管理情報320は、検知装置30毎に、当該検知装置30の識別情報である装置IDと、当該検知装置30の検知位置と、検知種別と、警報範囲設定情報と、手前駅と、検知履歴情報とを対応付けて格納している。警報範囲設定情報は、当該検知装置30に定められた警報範囲の情報であり、抑止警報範囲および予告警報範囲を格納している。警報範囲は、キロ程で表現される線路に沿ったその両端の位置によって示されている。検知履歴情報は、当該検知装置30の検知信号の発信による列車20に対する警報の通知に関する情報であり、検知取得部204による検知信号の取得時刻である支障検出時刻と、支障解消時刻と、支障の検出から解消までの期間に列車抽出部206によって抽出された接近列車の列車番号とを格納している。
【0053】
[処理の流れ]
図8は、列車運行保安装置10が行う列車運行保安処理を説明するフローチャートである。この処理は、列車運行保安装置10が管理する各検知装置30に対して並列的に行われる。
【0054】
先ず、検知取得部204が、検知装置30から発信された検知信号を取得すると(ステップS1:YES)、在線情報310および当該検知装置30に係る検知装置管理情報320に基づいて、列車抽出部206が、検知装置30の検知位置に接近する接近列車を抽出する(ステップS3)。すなわち、検知装置30に定められた抑止警報範囲に位置する第1度合列車を抑止警報の対象の接近列車とし、予告警報範囲に位置する第2度合列車を予告警報の対象の接近列車として抽出する。続いて、予告警報の対象の接近列車のうち、検知位置の手前駅に未到着又は停車中の接近列車が有るならば(ステップS5:YES)、その接近列車を、当該手前駅からの出発を抑止する抑止警告の対象とする(ステップS7)。そして、警報制御部208が、抽出された接近列車に、検知装置30の検知種別および検知位置を示す警報を、通知装置24から運転士に向けて通知させる制御を行う(ステップS9)。すなわち、抑止警報の対象の接近列車に停止又は減速を含む抑止を指示する抑止警報を通知させ、予告警報の対象の接近列車に予告警報を通知させる。
【0055】
その後、検知装置30が発信する検知信号等に基づいて支障が解消されたかを判断し、支障が解消されていないならば(ステップS11:NO)、ステップS3に戻り、同様の処理を繰り返す。支障が解消されたならば(ステップS11:YES)、警報制御部208が、接近列車に、警報の取り消しを通知する(ステップS13)。その後、ステップS1に戻る。
【0056】
[作用効果]
このように、本実施形態の列車運行保安装置10によれば、検知装置30が検知した列車運行に関する支障を、検知装置30の検知位置に接近する接近列車の運転士に確実に通知することができる。つまり、列車運行保安装置10は、検知装置30から検知信号を取得すると、当該検知装置30の検知位置に接近する接近列車20へ、当該接近列車20の通知装置24から、当該検知装置30の検知種別および検知位置を示す所定の警報を運転士に向けて通知させるための制御信号を送信する。これにより、接近列車20の運転士は、車内の運転台の通知装置24の通知によって、車外の前方視界に関わらず、接近する支障の箇所や内容を把握することができる。支障箇所や支障の内容を把握できるため、運転士は適切な対処を落ち着いて実施することが可能となる。
【0057】
[変形例]
なお、本発明の適用可能な実施形態は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能なのは勿論である。
【0058】
(A)警報範囲
上述の実施形態では、接近列車を抽出するための警報範囲(抑止警報範囲および予告警報範囲)を距離で定める固定の範囲としたが、列車の走行状況等に応じて可変に定めるようにしても良い。具体的には、警報範囲を、列車が検知装置30の検知位置に到達するまでの到達時分に基づく範囲とする。例えば、抑止警報範囲を、到達時分が所定時分T1未満の範囲とし、予告警報範囲を、到達時分が所定時分T1以上T2(>T1)以下の範囲とする。つまり、検知位置までの接近の度合いである第1度合および第2度合を、列車と検知装置30の検知位置との間の距離、および、当該列車の速度に基づいて判定する。列車の検知位置までの到達時分は、当該列車の位置と検知位置との間の距離、および、当該列車の速度から求めることができる。列車の速度は、列車性能や列車種別(特急や各駅停車など)に応じて定まる最高速度としてもよいし、実際の走行速度としてもよい。
【0059】
(B)強制停止
また、接近列車に送信する信号として、第1度合列車である接近列車に対しては、更に、通知装置24から警報を通知させる制御信号とともに、列車を強制停止させる非常ブレーキ指示信号を送信するようにしてもよい。運転士の操作を介さずに第1度合列車を非常ブレーキによって強制停止させることができるため、可及的速やかに第1度合列車を停止させることが可能となる。また、運転士にとっても、警報の通知がなされるため、非常ブレーキの自動的な発動に対して慌てること無く適切に対処することができる。
【0060】
(C)検知装置
また、検知装置30を、沿線に設置される装置としたが、列車に搭載されて乗務員が扱う防護無線や、線路の保守作業員が携帯する携帯用の防護無線発信機としてもよい。前者の場合、列車の位置を検知装置の検知位置とみなすことができ、警報範囲を、例えば、検知位置から所定距離以下の範囲、と定めることができる。また、後者の場合には、防護無線発信機が有するGPS等の位置検出機能による検出位置を検知装置の検知位置とする、或いは、予め申請された保守作業の区間全体を検知位置とすることができる。そして、警報範囲は、例えば、検知位置から所定距離以下の範囲、と定めることができる。
【0061】
(D)警報の通知
また、沿線の除雪作業時など、検知装置を設置しない場合にも、接近列車への警報の通知を行うこともできる。つまり、線路内や線路近傍の除雪作業を行う際に、警報範囲として、作業区間を含むように抑止警報範囲を設定するとともに、その両端側に隣接する予告警報範囲を設定する。そして、警報範囲に位置する列車に、“△△橋の手前(検知位置)で除雪作業中(検知種別)”といった内容の警報を通知する。
【0062】
また、駅ホームが混雑している場合に、例えば、駅ホームに設置される注意喚起ボタンの駅係員による操作や、列車運行保安装置の指令員による入力操作により、その混雑している駅ホームを含むように抑止警報範囲を設定するとともに、その両端側に隣接する予告警報範囲を設定して、当該駅ホームに接近する列車に“C駅の2番線ホーム(検知位置)が混雑(検知種別)”といった内容の警報を通知することもできる。
【0063】
(E)検知信号
また、検知装置30が発信する検知信号に、検知装置30が有する自己診断機能による故障の検出信号を含めてもよい。
【符号の説明】
【0064】
10…列車運行保安装置
102…操作部
104…表示部
106…音出力部
108…無線通信部
110…有線通信部
200…処理部
202…在線管理部
204…検知取得部
206…列車抽出部
208…警報制御部
300…記憶部
302…列車運行保安プログラム
310…在線情報
320…検知装置管理情報
20…列車
22…車上装置
24…通知装置
30…検知装置
30A…非常停止ボタン
32…制御機
30B…気象検知装置
34…風速計
36…制御機