IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本碍子株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-ガスセンサ 図1
  • 特許-ガスセンサ 図2
  • 特許-ガスセンサ 図3
  • 特許-ガスセンサ 図4
  • 特許-ガスセンサ 図5
  • 特許-ガスセンサ 図6
  • 特許-ガスセンサ 図7
  • 特許-ガスセンサ 図8
  • 特許-ガスセンサ 図9
  • 特許-ガスセンサ 図10
  • 特許-ガスセンサ 図11
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-04
(45)【発行日】2023-12-12
(54)【発明の名称】ガスセンサ
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/409 20060101AFI20231205BHJP
   G01N 27/41 20060101ALI20231205BHJP
   G01N 27/419 20060101ALI20231205BHJP
   G01N 27/416 20060101ALI20231205BHJP
【FI】
G01N27/409 100
G01N27/41 325H
G01N27/419 327H
G01N27/416 331
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020021150
(22)【出願日】2020-02-12
(65)【公開番号】P2021128007
(43)【公開日】2021-09-02
【審査請求日】2022-10-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100077665
【弁理士】
【氏名又は名称】千葉 剛宏
(74)【代理人】
【識別番号】100116676
【弁理士】
【氏名又は名称】宮寺 利幸
(74)【代理人】
【識別番号】100191134
【弁理士】
【氏名又は名称】千馬 隆之
(74)【代理人】
【識別番号】100136548
【弁理士】
【氏名又は名称】仲宗根 康晴
(74)【代理人】
【識別番号】100136641
【弁理士】
【氏名又は名称】坂井 志郎
(74)【代理人】
【識別番号】100180448
【弁理士】
【氏名又は名称】関口 亨祐
(72)【発明者】
【氏名】新妻 匠太郎
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 悠介
(72)【発明者】
【氏名】平川 敏弘
(72)【発明者】
【氏名】青田 隼実
【審査官】黒田 浩一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2006/097414(WO,A1)
【文献】特開2005-326394(JP,A)
【文献】国際公開第2011/090064(WO,A1)
【文献】特表平11-504117(JP,A)
【文献】特表2000-509823(JP,A)
【文献】特表2005-529331(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/409
G01N 27/41
G01N 27/419
G01N 27/416
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
センサ素子と、
前記センサ素子が挿通する軸方向の貫通孔を有する金属製の筒状体と、
前記貫通孔内に配置され、該貫通孔の内周面と前記センサ素子との間に充填された封止材と、を備え、
前記封止材は、前記センサ素子の表面の一部を覆い、かつ前記センサ素子の長手方向に当たる第1の方向に垂直な第2の方向から前記センサ素子を断面視したときに、前記表面に対して、10°以上80°以下の第1の傾斜角をなす、端面を有し、
前記端面が、前記表面に接触する第1の面と、前記表面から離間する第2の面と、前記第1、第2の面間の境界と、を有し、
前記境界での前記第1、第2の面の傾きが異なり、
前記第2の面の傾きは、前記表面に対して90°未満である、ガスセンサ。
【請求項2】
請求項1記載のガスセンサにおいて、
前記第1の傾斜角が、70°以下である、ガスセンサ。
【請求項3】
請求項1または2記載のガスセンサにおいて、
前記第1の傾斜角は、前記表面に対する、前記表面から前記封止材の厚さの1/4の基準高さでの、前記端面の傾きである、ガスセンサ。
【請求項4】
請求項3記載のガスセンサにおいて
記表面からの前記境界の高さが、前記基準高さより、大きく、
前記第1の傾斜角が、前記表面に対する、前記基準高さでの、前記第1の面の傾きである、ガスセンサ。
【請求項5】
請求項記載のガスセンサにおいて、
前記表面に対する、前記境界での、前記第2の面の傾きである第2の傾斜角が、前記第1の傾斜角より、大きい、ガスセンサ。
【請求項6】
請求項記載のガスセンサにおいて、
前記表面が、前記第1の方向及び前記第2の方向に垂直な第3の方向に垂直であり、
前記第1、第3の方向に沿う基準面上において、前記第1、第2の面、及び前記表面がそれぞれ第1、第2、第3の線をなし、
前記第1、第2の線の間に、前記境界に対応する境界点が配置され、
前記第1の傾斜角が、前記第3の線に対する、前記境界点における前記第1の線の傾きであり、
前記表面に対する、前記境界での、前記第2の面の傾きである第2の傾斜角が、前記第3の線に対する、前記境界点における前記第2の線の傾きである、ガスセンサ。
【請求項7】
請求項3記載のガスセンサにおいて、
前記表面からの前記境界の高さが、前記基準高さより、小さく、
前記第1の傾斜角が、前記表面に対する、前記基準高さでの、前記第2の面の傾きである、ガスセンサ。
【請求項8】
請求項1~のいずれか1項に記載のガスセンサにおいて、
前記貫通孔内にはセラミック部材が配置され、
前記セラミック部材は凹部を有し、
前記封止材は、前記凹部に充填される、ガスセンサ。
【請求項9】
請求項記載のガスセンサにおいて、
前記セラミック部材は前記封止材よりも靭性が高く、
前記金属製の筒状体は前記セラミック部材よりも靭性が高い、ガスセンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスの濃度を測定するガスセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、セラミックサポータ、圧粉体などを封止材として用い、センサ素子をハウジング内に封止したガスセンサを開示する。封止材は貫通孔を有し、センサ素子を覆う。センサ素子を気密に封止することで、被測定ガスと基準ガスを分離し、被測定ガスの測定精度を確保できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-173221号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、封止材はその端部(貫通孔の開口部)において、センサ素子の表面に垂直に接するのが通例である。このため、ガスセンサに衝撃(応力)が加わった際に、特にその封止材の端部近傍に応力が集中し易くなる。この結果、ガスセンサの気密維持が困難となり、その測定精度が低下するおそれがある。
【0005】
本発明は、上述した課題に鑑みなされたものであり、衝撃による気密性の劣化を低減できるガスセンサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様によるガスセンサは、センサ素子と、前記センサ素子が挿通する軸方向の貫通孔を有する金属製の筒状体と、前記貫通孔内に配置され、該貫通孔の内周面と前記センサ素子との間に充填された封止材と、を備える。前記封止材は、前記センサ素子の表面の一部を覆い、かつ前記センサ素子の長手方向に当たる第1の方向に垂直な第2の方向から前記センサ素子を断面視したときに、前記表面に対して、10°以上80°以下の第1の傾斜角をなす、端面を有する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、衝撃による気密性の劣化を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本実施形態に係るガスセンサを示す断面図である。
図2】センサ素子の構成の一例を概略的に示した断面模式図である。
図3図3A図3Cは、封止材の端部付近を模式的に表す断面図である。
図4図4A図4Bは、封止材の端部付近を模式的に表す断面図である。
図5図5A図5Cは、封止材の端部付近を模式的に表す断面図である。
図6図6A図6Bは、封止材の端部付近を模式的に表す断面図である。
図7図7A図7Bは、封止材の端部付近を模式的に表す断面図である。
図8図8A図8Bは、封止材の端部付近を模式的に表す断面図である。
図9】基準面を模式的に表す斜視図である。
図10】評価結果を示す表である。
図11】変形例に係るガスセンサを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明に係るガスセンサについて、好適な実施形態を挙げ、添付の図面を参照して以下に詳細に説明する。
【0010】
本実施形態に係るガスセンサ10は、図1に示すように、センサ素子12を備える。センサ素子12は長尺な直方体形状をしており、このセンサ素子12の長手方向(図2の左右方向)を前後方向(センサ素子12が延伸する第1の方向の一例)とし、センサ素子12の厚み方向(図2の上下方向)を上下方向(後述するセンサ素子12の主面(表面)12a、12bに垂直な第3の方向の一例)とする。また、センサ素子12の幅方向(前後方向及び上下方向に垂直な方向)を左右方向とする。
【0011】
図1に示すように、ガスセンサ10は、センサ素子12と、センサ素子12の前端側を保護する保護カバー14と、セラミックハウジング16を含むセンサ組立体20とを備えている。セラミックハウジング16は、センサ素子12の後端部を保持し、センサ素子12と電気的に接続する端子部材18が装着されることで、コネクタ24として機能する。
【0012】
このガスセンサ10は、図示するように、例えば車両の排ガス管などの配管26に取り付けられて、被測定ガスとしての排気ガスに含まれるNOxやO2などの特定ガスの濃度を測定するために用いられる。
【0013】
保護カバー14は、センサ素子12の前端を覆う有底筒状の内側保護カバー14aと、この内側保護カバー14aを覆う有底筒状の外側保護カバー14bとを備えている。内側保護カバー14a及び外側保護カバー14bには、被測定ガスを保護カバー14内に流通させるための複数の孔が形成されている。内側保護カバー14aで囲まれた空間としてセンサ素子室28が形成されており、センサ素子12の前端はこのセンサ素子室28内に配置されている。
【0014】
センサ組立体20は、センサ素子12を封入固定する素子封止体30と、素子封止体30に取り付けられたナット32と、外筒34と、センサ素子12の後端の表面(上下面)に形成された図示しない電極に接触してこれらと電気的に接続されたコネクタ24と、を備えている。
【0015】
素子封止体30は、筒状の主体金具40と、主体金具40と同軸に溶接固定された筒状の内筒42(金属製の筒状体の一例)と、主体金具40及び内筒42の内側の貫通孔内に封入された封止材46と、を備えている。センサ素子12は素子封止体30の中心軸上に位置しており、素子封止体30を前後方向に貫通している。
【0016】
ナット32は、主体金具40と同軸に固定されており、外周面に雄ネジ部が形成されている。ナット32の雄ネジ部は、配管26に溶接され内周面に雌ネジ部が設けられた固定用部材52内に挿入されている。これにより、ガスセンサ10のうちセンサ素子12の前端や保護カバー14の部分が配管26内に突出した状態で、ガスセンサ10が配管26に固定されている。
【0017】
外筒34は、センサ素子12、内筒42、コネクタ24の周囲を覆っており、コネクタ24に接続された複数のリード線54が後端から外部に引き出されている。このリード線54は、コネクタ24を介してセンサ素子12の各電極(後述)と導通している。外筒34とリード線54との隙間はグロメットなどで構成された弾性絶縁部材56によって封止されている。外筒34内の空間50は基準ガス(本実施形態では大気)で満たされている。センサ素子12の後端はこの空間50内に配置されている。
【0018】
一方、センサ素子12は、図2に示すように、それぞれがジルコニア(ZrO2)などの酸素イオン伝導性固体電解質層からなる第1基板層60と、第2基板層62と、第3基板層64と、第1固体電解質層66と、スペーサ層68と、第2固体電解質層70の6つの層が、図面視で下側からこの順に積層された積層体を有する素子である。また、これら6つの層を形成する固体電解質は緻密な気密のものである。センサ素子12は、例えば、各層に対応するセラミックスグリーンシートに所定の加工及び回路パターンの印刷などを行った後にそれらを積層し、さらに、焼成して一体化させることによって製造される。
【0019】
センサ素子12の一端(図2の左側)であって、第2固体電解質層70の下面と第1固体電解質層66の上面との間には、ガス導入口80と、第1拡散律速部82と、緩衝空間84と、第2拡散律速部86と、第1内部空所88と、第3拡散律速部90と、第2内部空所92と、第4拡散律速部94と、第3内部空所96とが、この順に連通する態様にて隣接形成されてなる。
【0020】
ガス導入口80と、緩衝空間84と、第1内部空所88と、第2内部空所92と、第3内部空所96とは、スペーサ層68をくり抜いた態様にて設けられた上部を第2固体電解質層70の下面で、下部を第1固体電解質層66の上面で、側部をスペーサ層68の主面で区画されたセンサ素子12内部の空間である。
【0021】
第1拡散律速部82と、第2拡散律速部86と、第3拡散律速部90とはいずれも、2本の横長の(図面に垂直な方向に開口が長手方向を有する)スリットとして設けられる。また、第4拡散律速部94は、第2固体電解質層70の下面との隙間として形成された1本の横長の(図面に垂直な方向に開口が長手方向を有する)スリットとして設けられる。なお、ガス導入口80から第3内部空所96に至る部位を被測定ガス流通部とも称する。
【0022】
また、被測定ガス流通部よりも一端側から遠い位置には、第3基板層64の上面と、スペーサ層68の下面との間であって、側部を第1固体電解質層66の側面で区画される位置に基準ガス導入空間98が設けられている。基準ガス導入空間98には、NOx濃度の測定を行う際の基準ガスとして、例えば大気(図1の空間50内の雰囲気)が導入される。
【0023】
大気導入層100は、多孔質アルミナなどのセラミックスからなり、基準ガス導入空間98に露出している層である。この大気導入層100には基準ガス導入空間98を通じて基準ガスが導入されるようになっている。また、大気導入層100は、基準電極102を被覆するように形成されている。この大気導入層100は、基準ガス導入空間98内の基準ガスに対して所定の拡散抵抗を付与しつつ、これを基準電極102に導入する。なお、大気導入層100は、基準電極102よりもセンサ素子12の後端側(図2の右側)でのみ基準ガス導入空間98に露出するように形成されている。換言すると、基準ガス導入空間98は、基準電極102の直上までは形成されていない。但し、基準電極102が基準ガス導入空間98の図2における真下に形成されていてもよい。
【0024】
基準電極102は、第3基板層64の上面と第1固体電解質層66とに挟まれる態様にて形成される電極であり、上述のように、その周囲には、基準ガス導入空間98につながる大気導入層100が設けられている。なお、基準電極102は、第3基板層64の上面に直に形成されており、第3基板層64の上面に接する部分以外が大気導入層100に覆われている。また、後述するように、基準電極102を用いて第1内部空所88内、第2内部空所92内、第3内部空所96内の酸素濃度(酸素分圧)を測定することが可能となっている。基準電極102は、多孔質サーメット電極(例えば、PtとZrO2とのサーメット電極)として形成される。
【0025】
被測定ガス流通部において、ガス導入口80は、外部空間に対して開口してなる部位であり、該ガス導入口80を通じて外部空間からセンサ素子12内に被測定ガスが取り込まれるようになっている。第1拡散律速部82は、ガス導入口80から取り込まれた被測定ガスに対して、所定の拡散抵抗を付与する部位である。緩衝空間84は、第1拡散律速部82より導入された被測定ガスを第2拡散律速部86へと導くために設けられた空間である。
【0026】
第2拡散律速部86は、緩衝空間84から第1内部空所88に導入される被測定ガスに対して、所定の拡散抵抗を付与する部位である。被測定ガスが、センサ素子12の外部から第1内部空所88内まで導入されるにあたって、外部空間における被測定ガスの圧力変動(被測定ガスが自動車の排気ガスの場合であれば排気圧の脈動)によってガス導入口80からセンサ素子12内部に急激に取り込まれた被測定ガスは、直接第1内部空所88へ導入されるのではなく、第1拡散律速部82、緩衝空間84、第2拡散律速部86を通じて被測定ガスの濃度変動が打ち消された後、第1内部空所88へ導入されるようになっている。
【0027】
これによって、第1内部空所88へ導入される被測定ガスの濃度変動はほとんど無視できる程度のものとなる。第1内部空所88は、第2拡散律速部86を通じて導入された被測定ガス中の酸素分圧を調整するための空間として設けられている。係る酸素分圧は、後述する主ポンプセル110が作動することによって調整される。
【0028】
主ポンプセル110は、第1内部空所88の内面に設けられた内側ポンプ電極112と、第2固体電解質層70の上面のうち、内側ポンプ電極112と対応する領域に外部空間(図1のセンサ素子室28)に露出する態様にて設けられた外側ポンプ電極114と、これらの電極に挟まれた第2固体電解質層70とによって構成されてなる電気化学的ポンプセルである。
【0029】
内側ポンプ電極112は、第1内部空所88を区画する上下の固体電解質層(第2固体電解質層70及び第1固体電解質層66)、及び、側壁を与えるスペーサ層68にまたがって形成されている。具体的には、第1内部空所88の天井面を与える第2固体電解質層70の下面には内側ポンプ電極112の天井電極部112aが形成され、また、第1内部空所88の底面を与える第1固体電解質層66の上面には底部電極部112bが直に形成され、そして、これら天井電極部112aと底部電極部112bとを接続するように、側部電極部(図示省略)が第1内部空所88の両側壁部を構成するスペーサ層68の側壁面(内面)に形成されて、該側部電極部の配設部位においてトンネル形態とされた構造として配設されている。
【0030】
内側ポンプ電極112と外側ポンプ電極114とは、多孔質サーメット電極(例えば、Auを1%含むPtとZrO2とのサーメット電極)として形成される。なお、被測定ガスに接触する内側ポンプ電極112は、被測定ガス中のNOx成分に対する還元能力を弱めた材料を用いて形成される。
【0031】
主ポンプセル110においては、内側ポンプ電極112と外側ポンプ電極114との間に所望のポンプ電圧Vp0を印加して、内側ポンプ電極112と外側ポンプ電極114との間に正方向あるいは負方向にポンプ電流Ip0を流すことにより、第1内部空所88内の酸素を外部空間に汲み出し、あるいは、外部空間の酸素を第1内部空所88に汲み入れることが可能となっている。
【0032】
また、第1内部空所88における雰囲気中の酸素濃度(酸素分圧)を検出するために、内側ポンプ電極112と、第2固体電解質層70と、スペーサ層68と、第1固体電解質層66と、基準電極102によって、電気化学的なセンサセル、すなわち、主ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル120が構成されている。
【0033】
主ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル120における起電力V0を測定することで、第1内部空所88内の酸素濃度(酸素分圧)がわかるようになっている。さらに、起電力V0が一定となるように可変電源122のポンプ電圧Vp0をフィードバック制御することでポンプ電流Ip0が制御されている。これによって、第1内部空所88内の酸素濃度は所定の一定値に保つことができる。
【0034】
第3拡散律速部90は、第1内部空所88で主ポンプセル110の動作により酸素濃度(酸素分圧)が制御された被測定ガスに所定の拡散抵抗を付与して、該被測定ガスを第2内部空所92に導く部位である。
【0035】
第2内部空所92は、予め第1内部空所88において酸素濃度(酸素分圧)が調整された後、第3拡散律速部90を通じて導入された被測定ガスに対して、さらに補助ポンプセル124による酸素分圧の調整を行うための空間として設けられている。これにより、第2内部空所92内の酸素濃度を高精度に一定に保つことができるため、このガスセンサ10においては精度の高いNOx濃度測定が可能となる。
【0036】
上記補助ポンプセル124は、第2内部空所92の内面に設けられた補助ポンプ電極126と、外側ポンプ電極114(外側ポンプ電極114に限られるものではなく、センサ素子12の外側の適当な電極であれば足りる)と、第2固体電解質層70とによって構成される、補助的な電気化学的ポンプセルである。
【0037】
この補助ポンプ電極126は、上記第1内部空所88内に設けられた内側ポンプ電極112と同様なトンネル形態とされた構造において、第2内部空所92内に配設されている。つまり、第2内部空所92の天井面を与える第2固体電解質層70に対して天井電極部126aが形成され、また、第2内部空所92の底面を与える第1固体電解質層66の上面には、底部電極部126bが直に形成され、そして、それらの天井電極部126aと底部電極部126bとを連結する側部電極部(図示省略)が、第2内部空所92の側壁を与えるスペーサ層68の両壁面にそれぞれ形成されたトンネル形態の構造となっている。なお、補助ポンプ電極126についても、内側ポンプ電極112と同様に、被測定ガス中のNOx成分に対する還元能力を弱めた材料を用いて形成される。
【0038】
補助ポンプセル124においては、補助ポンプ電極126と外側ポンプ電極114との間に所望の電圧Vp1を印加することにより、第2内部空所92内の雰囲気中の酸素を外部空間に汲み出し、あるいは、外部空間から第2内部空所92内に汲み入れることが可能となっている。
【0039】
また、第2内部空所92内における雰囲気中の酸素分圧を制御するために、補助ポンプ電極126と、基準電極102と、第2固体電解質層70と、スペーサ層68と、第1固体電解質層66とによって電気化学的なセンサセル、すなわち、補助ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル130が構成されている。
【0040】
なお、この補助ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル130にて検出される起電力V1に基づいて電圧制御される可変電源132にて、補助ポンプセル124がポンピングを行う。これにより第2内部空所92内の雰囲気中の酸素分圧は、NOxの測定に実質的に影響がない低い分圧にまで制御されるようになっている。
【0041】
また、これと共に、そのポンプ電流Ip1が、主ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル120の起電力V0の制御に用いられるようになっている。具体的には、ポンプ電流Ip1は、制御信号として主ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル120に入力され、その起電力V0が制御されることにより、第3拡散律速部90から第2内部空所92内に導入される被測定ガス中の酸素分圧の勾配が常に一定となるように制御されている。NOxセンサとして使用する際は、主ポンプセル110と補助ポンプセル124との働きによって、第2内部空所92内での酸素濃度は約0.001ppm程度の一定の値に保たれる。
【0042】
第4拡散律速部94は、第2内部空所92で補助ポンプセル124の動作により酸素濃度(酸素分圧)が制御された被測定ガスに所定の拡散抵抗を付与して、該被測定ガスを第3内部空所96に導く部位である。第4拡散律速部94は、第3内部空所96に流入するNOxの量を制限する役割を担う。
【0043】
第3内部空所96は、予め第2内部空所92において酸素濃度(酸素分圧)が調整された後、第4拡散律速部94を通じて導入された被測定ガスに対して、被測定ガス中の窒素酸化物(NOx)濃度の測定に係る処理を行うための空間として設けられている。NOx濃度の測定は、主として、第3内部空所96において、測定用ポンプセル140の動作により行われる。
【0044】
測定用ポンプセル140は、第3内部空所96内において、被測定ガス中のNOx濃度の測定を行う。測定用ポンプセル140は、第3内部空所96に面する第1固体電解質層66の上面に直に設けられた測定電極134と、外側ポンプ電極114と、第2固体電解質層70と、スペーサ層68と、第1固体電解質層66とによって構成された電気化学的ポンプセルである。測定電極134は、多孔質サーメット電極である。測定電極134は、第3内部空所96内の雰囲気中に存在するNOxを還元するNOx還元触媒としても機能する。
【0045】
測定用ポンプセル140においては、測定電極134の周囲の雰囲気中における窒素酸化物の分解によって生じた酸素を汲み出して、その発生量をポンプ電流Ip2として検出することができる。
【0046】
また、測定電極134の周囲の酸素分圧を検出するために、第1固体電解質層66と、測定電極134と、基準電極102とによって電気化学的なセンサセル、すなわち、測定用ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル142が構成されている。測定用ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル142にて検出された起電力V2に基づいて可変電源144が制御される。
【0047】
第2内部空所92内に導かれた被測定ガスは、酸素分圧が制御された状況下で第4拡散律速部94を通じて第3内部空所96の測定電極134に到達することとなる。測定電極134の周囲の被測定ガス中の窒素酸化物は還元されて(2NO→N2+O2)酸素を発生する。そして、この発生した酸素は測定用ポンプセル140によってポンピングされることとなるが、その際、測定用ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル142にて検出された起電力V2が一定となるように可変電源144の電圧Vp2が制御される。測定電極134の周囲において発生する酸素の量は、被測定ガス中の窒素酸化物の濃度に比例するものであるから、測定用ポンプセル140におけるポンプ電流Ip2を用いて被測定ガス中の窒素酸化物濃度が算出されることとなる。
【0048】
また、第2固体電解質層70と、スペーサ層68と、第1固体電解質層66と、第3基板層64と、外側ポンプ電極114と、基準電極102とから電気化学的なセンサセル146が構成されており、このセンサセル146によって得られる起電力Vrefによりセンサ外部の被測定ガス中の酸素分圧を検出可能となっている。
【0049】
さらに、第2固体電解質層70と、スペーサ層68と、第1固体電解質層66と、第3基板層64と、外側ポンプ電極114と、基準電極102とから電気化学的な基準ガス調整ポンプセル150が構成されている。この基準ガス調整ポンプセル150は、外側ポンプ電極114と基準電極102との間に接続された可変電源152が印加する電圧Vp3により制御電流Ip3が流れることで、ポンピングを行う。これにより、基準ガス調整ポンプセル150は、外側ポンプ電極114の周囲の空間(図1のセンサ素子室28)から基準電極102の周囲の空間(大気導入層100)に酸素の汲み入れを行う。可変電源152の電圧Vp3は、制御電流Ip3が所定の値(一定値の直流電流)となるような直流電圧として、予め定められている。
【0050】
このような構成を有するガスセンサ10においては、主ポンプセル110と補助ポンプセル124とを作動させることによって酸素分圧が常に一定の低い値(NOxの測定に実質的に影響がない値)に保たれた被測定ガスが測定用ポンプセル140に与えられる。従って、被測定ガス中のNOxの濃度に略比例して、NOxの還元によって発生する酸素が測定用ポンプセル140より汲み出されることによって流れるポンプ電流Ip2に基づいて、被測定ガス中のNOx濃度を知ることができるようになっている。
【0051】
さらに、センサ素子12は、固体電解質の酸素イオン伝導性を高めるために、センサ素子12を加熱して保温する温度調整の役割を担うヒータ部160を備えている。ヒータ部160は、ヒータコネクタ電極162と、ヒータ164と、スルーホール166と、ヒータ絶縁層168と、圧力放散孔170と、リード線172とを備えている。
【0052】
ヒータコネクタ電極162は、第1基板層60の下面に接する態様にて形成されてなる電極である。ヒータコネクタ電極162を外部電源と接続することによって、外部からヒータ部160へ給電することができるようになっている。
【0053】
ヒータ164は、第2基板層62と第3基板層64とに上下から挟まれた態様にて形成される電気抵抗体である。ヒータ164は、リード線172及びスルーホール166を介してヒータコネクタ電極162と接続されており、該ヒータコネクタ電極162を通して外部より給電されることにより発熱し、センサ素子12を形成する固体電解質の加熱と保温を行う。
【0054】
また、ヒータ164は、第1内部空所88から第3内部空所96の全域に渡って埋設されており、センサ素子12全体を上記固体電解質が活性化する温度に調整することが可能となっている。
【0055】
ヒータ絶縁層168は、ヒータ164の上下面に、アルミナなどの絶縁体によって形成された多孔質アルミナからなる絶縁層である。ヒータ絶縁層168は、第2基板層62とヒータ164との間の電気的絶縁性、及び、第3基板層64とヒータ164との間の電気的絶縁性を得る目的で形成されている。
【0056】
圧力放散孔170は、第3基板層64を貫通し、基準ガス導入空間98に連通するように設けられてなる部位であり、ヒータ絶縁層168内の温度上昇に伴う内圧上昇を緩和する目的で形成されてなる。
【0057】
なお、図2に示した可変電源122、144、132、152などは、実際にはセンサ素子12内に形成された図示しないリード線や図1のコネクタ24及びリード線54を介して、各電極と接続されている。
【0058】
図1に示すように、本実施形態は、センサ素子12の後端部から露出する素子パッド200には、後方に延びる端子部材18が電気的に接続されている。センサ素子12の後端部の周囲にセラミックハウジング16が設置され、上述した素子パッド200とセラミックハウジング16との間に端子部材18がはめ込まれることで、センサ素子12の素子パッド200と端子部材18とが圧着して電気的に接続される。すなわち、セラミックハウジング16は、センサ素子12と電気的に接続する端子部材18が装着され、センサ素子12の後端部を保持する。
【0059】
端子部材18の後部は、セラミックハウジング16の後方に延び、弾性絶縁部材56内に挿入されたリード線54と半田などによって電気的に接続される。弾性絶縁部材56は、センサ素子12の軸方向に複数の貫通孔202が形成されている。この貫通孔202を通してリード線54が挿入されて、センサ素子12から延びる端子部材18とリード線54とが半田などによって電気的に接続される。
【0060】
本実施形態では、封止材46の端面46aが、センサ素子12の主面12a、12bに対して斜めになっている。すなわち、後述の傾斜角θ1が90°(垂直)ではない。
【0061】
図3A図3C図4A図4B図5A図5C図6A図6B図7A図7B図8A図8Bは、封止材46とセンサ素子12を基準面S0で切断した状態を表す。
【0062】
基準面S0は、図9に示すように、センサ素子12の前後方向(第1の方向:センサ素子12の延伸方向)の軸A1及び上下方向(第3の方向:センサ素子12の主面12a、12bに垂直な方向)の軸A2を含む平面として規定できる。
【0063】
ここでは、主面12a、12bを互いに反対向き(向きが180°異なる面)の面とし、主面12a、12bの基準面S0を共通としている。主面12a、12bの向きが逆方向でない(互いに斜めに配置)場合には、主面12a、12bそれぞれで基準面S0を別個に規定する必要がある。
【0064】
以下、主面12a、12bを互いに反対側とし、主として主面12a側での傾斜角θ1、θ2(第1、第2の傾斜角)を説明する。なお、主面12b側も、主面12a側と、同様に考えることができる。
【0065】
封止材46の端面46aと基準面S0が交わることで、線分L(端面46aの縁)が示される。また、センサ素子12の主面12aと基準面S0が交わることで、基準線L0(端面46aの縁)が示される。傾斜角θ1は、線分Lと基準線L0のなす角度(本質的には、センサ素子12の主面12aに対して、封止材46の端面46aがなす角度)である。
【0066】
図3A図3C図4A図4Bでは、この線分L(図9参照)が単一または複数の直線から構成される。図5A図5C図6A図6Bでは、この線分Lが単一または複数の曲線から構成される。図7A図7B図8A図8Bでは、この線分Lが直線と曲線の組み合わせから構成される。
【0067】
図3A図5Aそれぞれでは、線分Lは単一の直線L1または曲線L1から構成され、基準線L0(センサ素子12の主面(表面)12a)と傾斜角θ1で傾斜している。
【0068】
ここで、センサ素子12の主面12aから基準高さh0の面と線分Lの交点P0(以下、基準点P0という)が表される。基準高さh0は、例えば、封止材46の厚さdの1/4の高さとする(h0=d/4)。この基準点P0は傾斜角θ1の基準であり、この基準点P0での線分Lの傾き(線分Lの接線の傾き、本質的には、基準点P0における端面46aの接平面の傾き)によって傾斜角θ1を定義する。
【0069】
図3Aのように、線分Lが単一の直線のみの場合は、基準点P0に着目する必要はない。線分Lが曲線であったり、複数の線(直線や曲線)を含んだりする場合に、基準点P0が有効に機能することになる。
【0070】
このように、基準線L0に対する、基準点P0での線L1の傾き(線L1が曲線の場合、基準点P0での線L1の接線の傾き)として、傾斜角θ1を定義できる。この定義は、線L1が直線、曲線のいずれであっても適用できる。
【0071】
傾斜角θ1は、10°以上80°以下であることが好ましく、70°以下であることがより好ましい。傾斜角θ1を90°より小さくすることで(センサ素子12に対して封止材46が斜めに接触する)、ガスセンサ10に衝撃が加わったときの応力をセンサ素子12の長手(前後方向)方向にそらし、センサ素子12の垂直方向に印加される応力を緩和できる。この結果、衝撃時のセンサ素子12の折れなどを抑制できる。
【0072】
線分Lが、複数の線を有してもよい(端面46aが、境界で区分される複数の面を有する)。この場合、この境界を境として、端面46aは第1の面、第2の面に区分できる。第1の面は主面12aに接触し、第2の面は主面12aから離間する。
【0073】
このとき、図3B図5Bでは、線分Lが、線L1、L2(本質的には、2つの面)と、これらを繋ぐ境界点P1(本質的には、2つの面間の境界)を有する。すなわち、図3Bでは、傾きの異なる直線L1、L2が境界点P1で接続される。図5Bでは、曲線L1、L2が境界点P1で接続され、この境界点P1における、曲線L1、L2の傾き(曲線L1、L2の接線の傾き)が異なる。すなわち、境界点P1における線分L(端面46aの接平面)の傾きが不連続である。
【0074】
このように、線分Lが境界点P1を有する場合、基準点P0との関係が問題となる。ここでは、境界点P1が基準点P0の外側(上方)にあるとしている。このとき、線分Lは、傾斜角θ1の他に、傾斜角θ2を有する。
【0075】
傾斜角θ2は、基準線L0に対する、境界点P1での線L2の傾き(線L2の接線の傾き、本質的には、端面46a(図9参照)の接平面の傾き)として定義できる。
【0076】
このように、傾斜角θ1、θ2がある場合でも、傾斜角θ1は、10°以上80°以下であることが好ましく、70°以下であることがより好ましい。
【0077】
また、傾斜角θ1は、傾斜角θ2より小さいことが好ましい(θ1<θ2)。この場合、センサ素子12の主面12aと封止材46の角度(傾斜角θ1)がより小さくなり易く、センサ素子12や封止材46の破損の抑制が容易となる。一方、θ1>θ2の場合、センサ素子12への角度(傾斜角θ1)が増大し、かつ境界点Pへの応力集中が過剰になり、封止材46の破損につながる。
【0078】
なお、図3C図5Cは、傾斜角θ1は、傾斜角θ2より大きい場合を示す。
【0079】
図4A図6Aでは、境界点P1が基準点P0の内側にあるとしている。この場合、傾斜角θ1は、基準線L0に対する、基準点P0での線L2の傾きとして定義される。すなわち、基準高さh0の内側の境界点は、傾斜角θ1を考慮する上で無視されることになる。なお、この場合、傾斜角θ2は、定義されない。
【0080】
ここで、境界点Pは、2つ、あるいは3つ以上とすることができる。図4B図6Bでは、3つの線L1~L3、2つの境界点P1、P2を有する。直線L1、L2が境界点P1で接続され、直線L2、L3が境界点P2で接続される。図4B図6Bでは、境界点P1が基準点P0の外側に配置されている。この結果、直線L1、L2に対応する傾斜角θ1、θ2が決まる。なお、境界点P1が基準点P0の内側に配置されている場合、直線L2、L3に対応する傾斜角θ1、θ2が決まる。
【0081】
以上では、線分Lが直線のみ、または曲線のみであった。線分Lが直線、曲線の線を組み合わされて構成されていてもよい。図7A及び図7Bそれぞれでは、線分Lを構成する線L1、L2はそれぞれ、直線、曲線の組み合わせ及び曲線、直線の組み合わせである。図8A及び図8Bそれぞれでは、線分Lを構成する線L1、L2、L3はそれぞれ、直線、曲線、曲線の組み合わせ及び曲線、直線、直線の組み合わせである。このように、線L1~L3はそれぞれ、直線、曲線のいずれであってもよい。
【0082】
以上では、内筒42内に、封止材46が充填されている。ここでは、封止材46は主体金具40、及び内筒42と直接に接触する。
【0083】
なお、封止材46は、複数の部材を組み合わせて構成してもよい。例えば、セラミックサポータ、圧粉体を交互に配置して、封止材46とすることができる。この場合、少なくとも一つの部材がセンサ素子12に対して、10°以上80°以下の傾斜角θ1を有すれば足りる。このように、複数の部材を組み合わせて封止材46を構成した場合でも、一の部材での傾斜角θ1を10°以上80°以下とすることで、センサ素子12の折れなどを低減できる。
【実施例
【0084】
ここで、実験例を示す。この実験では、傾斜角θ1、線分Lの直線、曲線、境界点の有無を変化させ、耐衝撃試験でのセンサ素子12に欠け、折れ及び導通の有無をチェックした。
【0085】
[判定方法]
以下、試験及びその評価の方法を説明する。
【0086】
試験条件:1.5mの高さから、センサ組立体20の封止材46がある箇所へ錘(重量:100g)を落下させ、接点部に衝撃を加えた(ストーンインパクト)。その後、ガスセンサ10を解体・観察し、センサ素子12の折れなどの不良が発生しているかを調べた(強度測定)。
【0087】
[評価]
A:5回以上のストーンインパクトで、センサ素子12に折れが発生、または発生しなかった
B:3~4回のストーンインパクトで、センサ素子12に折れが発生
C:2回以下のストーンインパクトで、センサ素子12に折れが発生
【0088】
ここでは、封止材46の端面46aの状態を次の(1)~(4)に区分した。
(1)図3A対応(基準面S0上において、端面46aが単一の直線L1をなす)
(2)図3B対応(基準面S0上において、端面46aが傾きの異なる2つの直線L1、L2をなす)
(3)図5A対応(基準面S0上において、端面46aが単一の曲線L1をなす)
(4)図5B対応(基準面S0上において、端面46aが2つの曲線L1、L2をなし、その境界点P1における、曲線L1、L2の傾きが異なる)
【0089】
実施例1~4、実施例5~8、実施例9~12、実施例13~16はそれぞれ、封止材46の端面46aが状態(1)~(4)に対応する形状を有する。また、比較例1は状態(1)に対応する形状とした。また、境界点P1を有する実施例5~8、実施例13~16いずれでも、境界点P1の高さは基準高さh0より高いものとした。すなわち、これらの場合、傾斜角θ1は、線L1によって定まり、線L2は無関係となる。
【0090】
実施例1~4はそれぞれ、傾斜角θ1を80、70、50、20[°]とした。実施例5~8はそれぞれ、傾斜角θ1を80、70、30、10[°]とした。実施例9~12はそれぞれ、傾斜角θ1を80、70、50、20[°]とした。実施例13~16はそれぞれ、傾斜角θ1を80、70、30、10[°]とした。比較例1は傾斜角θ1を90[°]とした。
【0091】
封止材46は、磁器やタルク(滑石)などを成形したり、ガラス材料を溶融、固化したりすることで、形成できる。磁器やタルクなどは、粘土状または粉末状の材料を目的の形状に合わせた金型や冶具で成形し、ガラス材料も金型などによって成形することで、封止材46の端面46aのなす傾斜角θ1を規定した。
【0092】
図10に示すように、試験の結果、実施例1~16はそれぞれ、評価B、A、A、A、B、A、A、A、B、A、A、A、B、A、A、Aであり、比較例1は評価Cであった。傾斜角θ1は10~80[°]とすることで、評価AまたはBが得られ、その内、傾斜角θ1が70[°]以下の範囲で、評価Aが得られた。
【0093】
以上のように、封止材46をセンサ素子12の主面12a、12bに対して傾斜させることで、衝撃発生時の応力を緩和することができ、センサ素子12の折れなどの不良を抑制できたことで、耐久性向上が可能となる。
【0094】
(変形例)
以下、変形例を説明する。図11は、変形例に係るガスセンサ10を示す断面図である。
【0095】
変形例に係る素子封止体30は、実施形態と異なり、内筒42を備えず、筒状の主体金具40と、主体金具40及び外筒34(金属製の筒状体の一例)内に保持された碍子47(セラミック部材の一例)と、を備える。
【0096】
碍子47は、大径部47a、小径部47b、段部47cを有する。大径部47aは、略円柱形状であり、外筒34内に保持され、略円柱形状の凹部47dを有する。凹部47dには、封止材46が充填され、センサ素子12を封止する。小径部47bは、略円柱形状を有し、外筒34、さらに主体金具40内に保持される。段部47cは、大径部47a、小径部47bとの境界に形成され、外筒34内の主体金具40の後端に配置される。封止材46は保護カバー14内のセンサ素子室28と外筒34内の空間50との間を封止すると共に、センサ素子12を固定している。封止材46は、例えば、粉末またはペレット状のガラス材料を溶融、固化することで、形成できる。
【0097】
ここで、碍子47は封止材46よりも靭性が高く、主体金具40は碍子47よりも靭性が高い。この結果、外的応力がかかった際、碍子47、封止材46が緩衝材の役割を果たし、素子表面にかかる応力を緩和することができる。
【0098】
この変形例においても、実施形態と同様、封止材46をセンサ素子12の主面12a、12bに対して傾斜させることで、衝撃発生時の応力を緩和することができ、センサ素子12の折れなどの不良を抑制できたことで、耐久性向上が可能となる。
【0099】
以上では、外筒34(メタルハウジング)内に、碍子47が配置され、その凹部47d内に封止材46が充填されている。この場合、封止材46は外筒34と直接には接触しない。これに対して、碍子47を用いず、外筒34(メタルハウジング)内に、封止材46を充填してもよい。この場合、封止材46は外筒34と直接に接触する。
【0100】
本変形例では、封止材46と外筒34の間に碍子47が存在するため、封止材46が外筒34(メタルハウジング)に直接接触している場合よりも応力を緩和できる。
【0101】
ここで、碍子47は、封止材46よりも靭性が高く、金属製の外筒34は碍子47よりも靭性が高いことが好ましい。これにより、碍子47、封止材46が緩衝材の役割を果たし、素子表面にかかる応力をさらに緩和することができる。
【0102】
[本実施形態から得られる発明]
上記実施形態及び変形例から把握しうる発明について、以下に記載する。
【0103】
[1] 本実施形態に係るガスセンサ(10)は、センサ素子(12)と、前記センサ素子(12)が挿通する軸方向の貫通孔を有する金属製の筒状体(42、34)と、前記貫通孔内に配置され、該貫通孔の内周面と前記センサ素子(12)との間に充填された封止材(46)と、を備える。前記封止材(46)は、前記センサ素子(12)の表面(12a)の一部を覆い、かつ前記センサ素子(12)の長手方向に当たる第1の方向に垂直な第2の方向から前記センサ素子(12)を断面視したときに、前記表面(12a)に対して、10°以上80°以下の第1の傾斜角(θ1)をなす、端面(46a)を有する。
【0104】
これにより、ガスセンサ(10)に衝撃が加わったときの応力を第1の方向(センサ素子12の長手方向)にそらし、センサ素子(12)の折れなどを抑制できる。
【0105】
[2] 本実施形態において、前記第1の傾斜角(θ1)が、70°以下である。これにより、応力を第1の方向(センサ素子(12)の長手方向)にさらにそらし、センサ素子(12)の折れなどをさらに抑制できる。
【0106】
[3] 本実施形態において、前記第1の傾斜角(θ1)は、前記表面(12a)に対する、前記表面(12a)から前記封止材(46)の厚さの1/4の基準高さ(h0)での、前記端面(46a)の傾きである。これにより、端面(46a)が曲面形状を有する場合であっても、第1の傾斜角(θ1)を明確に定義できる。
【0107】
[4] 本実施形態において、前記端面(46a)が、前記表面(12a)に接触する第1の面と、前記表面(12a)から離間する第2の面と、前記第1、第2の面間の境界と、を有し、前記境界での前記第1、第2の面の傾きが異なり、前記表面(12a)からの前記境界の高さが、前記基準高さ(h0)より、大きく、前記第1の傾斜角(θ1)が、前記表面(12a)に対する、前記基準高さ(h0)での、前記第1の面の傾きである。これにより、端面(46a)が、境界で傾きが異なる第1、第2の面を有する場合でも、第1の傾斜角(θ1)を明確に定義できる。
【0108】
[5] 本実施形態において、前記表面(12a)に対する、前記境界での、前記第2の面の傾きである第2の傾斜角(θ2)が、前記第1の傾斜角(θ1)より、大きい。これにより、端面(46a)が、表面(12a)に対して、第1、第2の傾斜角(θ1、θ2)を有する場合、表面(12a)から遠い方の第2の傾斜角(θ2)を表面(12a)から近い方の第1の傾斜角(θ1)より大きくすることで、これらの境界での応力集中、ひいては封止材(46)の破損を防止できる。
【0109】
[6] 本実施形態において、前記表面(12a)が、前記第1の方向及び前記第2の方向に垂直な第3の方向に垂直であり、前記第1、第3の方向に沿う基準面(S0)上において、前記第1、第2の面、及び前記表面(12a)がそれぞれ第1、第2、第3の線(L1、L2、12a)をなし、前記第1、第2の線(L1、L2)の間に、前記境界に対応する境界点(P1)が配置され、前記第1の傾斜角(θ1)が、前記第3の線(12a)に対する、前記境界点(P1)における前記第1の線(L1)の傾きであり、前記第2の傾斜角(θ2)が、前記第3の線(12a)に対する、前記境界点(P1)における前記第2の線(L2)の傾きである。これにより、センサ素子(12)が延伸する第1の方向、及びその表面(12a)に垂直な第3の方向によって、基準面(S0)を定義することで、第1、第2の傾斜角(θ1、θ2)をより明確に定義できる。
【0110】
ここで、本実施形態において、前記第1、第2の線(L1、L2)が、直線、曲線のいずれでもよい。第1の線(L1)が曲線の場合、「境界点(P1)における第1の線(L1)の傾き」は、境界点(P1)における第1の線(L1)の線の傾きに対応する。また、第2の線(L2)が曲線の場合、「境界点(P1)における第2の線(L2)の傾き」は、境界点(P1)における第2の線(L2)の接線の傾きに対応する。
【0111】
[7] 本実施形態において、前記貫通孔内にはセラミック部材(47)が配置され、前記セラミック部材(47)は凹部(47d)を有し、前記封止材(46)は、前記凹部(47d)中に充填される。
【0112】
[8] 本実施形態において、前記セラミック部材(47)は前記封止材(46)よりも靭性が高く、前記金属製の筒状体(42、34)はセラミック部材(47)よりも靭性が高い。これにより、セラミック部材(47)、封止材(46)が緩衝材の役割を果たし、センサ素子(12)の表面(12a)にかかる応力をさらに緩和することができる。
【0113】
なお、本発明の実施に当たっては、本発明の思想を損なわない範囲で自動車用部品としての信頼性向上のための諸手段が付加されてもよい。
【符号の説明】
【0114】
10…ガスセンサ 12…センサ素子
14…保護カバー 16…セラミックハウジング
18…端子部材 20…センサ組立体
24…コネクタ 26…配管
28…センサ素子室 30…素子封止体
34…外筒 40…主体金具
42…内筒 46…封止材
47…碍子
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11