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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-04
(45)【発行日】2023-12-12
(54)【発明の名称】窒化物半導体装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/336 20060101AFI20231205BHJP
   H01L 29/78 20060101ALI20231205BHJP
   H01L 29/12 20060101ALI20231205BHJP
【FI】
H01L29/78 658G
H01L29/78 652C
H01L29/78 652E
H01L29/78 652T
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2020022622
(22)【出願日】2020-02-13
(65)【公開番号】P2021129014
(43)【公開日】2021-09-02
【審査請求日】2022-08-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】富田 英幹
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 健太
(72)【発明者】
【氏名】大川 峰司
(72)【発明者】
【氏名】森 朋彦
【審査官】田付 徳雄
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-045943(JP,A)
【文献】国際公開第2013/132783(WO,A1)
【文献】特開2010-225767(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2011-0098579(KR,A)
【文献】特開2019-153726(JP,A)
【文献】特開2016-162879(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0280112(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/336
H01L 29/12
H01L 29/78
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化物半導体層と、
前記窒化物半導体層の一方の主面上に設けられているソース電極と、
前記窒化物半導体層の他方の主面上に設けられているドレイン電極と、
絶縁ゲート部と、を備えており、
前記窒化物半導体層は、
n型のドリフト領域と、
前記ドリフト領域上に設けられており、前記窒化物半導体層の前記一方の主面に露出する位置に設けられているn型のJFET領域と、
前記ドリフト領域上に設けられており、前記窒化物半導体層の前記一方の主面に露出する位置に設けられており、前記JFET領域に隣接しているp型のボディ領域と、
前記ボディ領域によって前記JFET領域から隔てられており、前記窒化物半導体層の前記一方の主面に露出する位置に設けられているn型のソース領域と、を有しており、
前記絶縁ゲート部は、前記JFET領域と前記ソース領域を隔てている部分の前記ボディ領域のチャネル領域に対向している、窒化物半導体装置の製造方法であって、
前記チャネル領域に残存する炭素を除去する炭素除去工程と、
前記炭素を除去することによって前記チャネル領域に形成された空孔を水素で終端させる水素終端工程と、を備え、
前記炭素除去工程は、
前記窒化物半導体層の前記一方の主面上にマスク膜を成膜することと、
前記JFET領域上に残存させながら前記チャネル領域が露出するように前記マスク膜の一部を除去することと、を有している、窒化物半導体装置の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書が開示する技術は、窒化物半導体装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
非特許文献1には、チャネル領域に対向する絶縁ゲート部を有する窒化物半導体装置が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】「ホモエピGaN上ノーマリオフ型MOSFETの開発」 応用物理 第86巻 第5号 p.376(2017)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
窒化物半導体装置のチャネル領域には、製造過程において意図せずに導入される炭素が残存している。チャネル領域に残存する炭素は、ドナーとして振る舞うことから、閾値を低下させる原因となる。本明細書は、閾値の低下が抑えられた窒化物半導体装置を製造する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書は、チャネル領域に対向する絶縁ゲート部を有する窒化物半導体装置を製造する方法を提供することができる。本明細書が開示する製造方法は、前記チャネル領域に残存する炭素を除去する炭素除去工程と、前記炭素を除去することによって前記チャネル領域に形成された空孔を水素で終端させる工程と、を備えることができる。上記製造方法によると、前記チャネル領域に残存する炭素を除去することにより、閾値の低下が抑えられた窒化物半導体装置を製造することができる。さらに、上記製造方法は、炭素を除去することによって前記チャネル領域に形成された空孔を水素で終端させる工程を備えている。前記チャネル領域の空孔は、ダングリングボンドを形成し、キャリアをトラップする界面準位を増加させる。このため、前記チャネル領域の空孔は、キャリア移動度を低下させる原因となる。上記製造方法によると、前記チャネル領域に形成された空孔を水素で終端させることにより、界面準位を減少させ、キャリア移動度の低下を抑えることができる。このように、上記製造方法によると、高い閾値と高いキャリア移動度を両立した窒化物半導体装置を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】窒化物半導体装置の一実施形態の要部断面図を模式的に示す。
図2】(A)チャネル領域に残存する炭素の様子を説明する図である。(B)チャネル領域に残存する炭素が水素によって置換された様子を説明する図である。
図3図1の窒化物半導体装置の第1の製造方法の一製造過程における要部断面図を模式的に示す。
図4図1の窒化物半導体装置の第1の製造方法の一製造過程における要部断面図を模式的に示す。
図5図1の窒化物半導体装置の第1の製造方法の一製造過程における要部断面図を模式的に示す。
図6図1の窒化物半導体装置の第1の製造方法の一製造過程における要部断面図を模式的に示す。
図7図1の窒化物半導体装置の第1の製造方法の一製造過程における要部断面図を模式的に示す。
図8図1の窒化物半導体装置の第1の製造方法の一製造過程における要部断面図を模式的に示す。
図9図1の窒化物半導体装置の第1の製造方法の一製造過程における要部断面図を模式的に示す。
図10図1の窒化物半導体装置の第1の製造方法の一製造過程における要部断面図を模式的に示す。
図11図1の窒化物半導体装置の第1の製造方法の一製造過程における要部断面図を模式的に示す。
図12図1の窒化物半導体装置の第2の製造方法の一部のフロー図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0007】
図1に、第1実施形態の窒化物半導体装置1の要部断面図を示す。窒化物半導体装置1は、窒化物半導体層20、窒化物半導体層20の裏面を被覆するように設けられているドレイン電極32、窒化物半導体層20の表面を被覆するように設けられているソース電極34、及び、窒化物半導体層20の表面上の一部に設けられている絶縁ゲート部36を備えている。窒化物半導体層20は、n+型のドレイン領域21、n型のドリフト領域22、n型のJFET領域23、p型のボディ領域24、n+型のソース領域25、及び、p+型のボディコンタクト領域26を有している。
【0008】
ドレイン領域21は、窒化物半導体層20の裏面に露出する位置に設けられており、ドレイン電極32にオーミック接触している。ドレイン領域21は、n型不純物を含む窒化ガリウム(GaN)を材料としている。
【0009】
ドリフト領域22は、ドレイン領域21上に設けられており、ドレイン領域21とJFET領域23の間、且つ、ドレイン領域21とボディ領域24の間に配置されている。ドリフト領域22は、n型不純物を含む窒化ガリウム(GaN)を材料としている。
【0010】
JFET領域23は、ドリフト領域22上に設けられており、窒化物半導体層20の表面に露出する位置に設けられており、ドリフト領域22の表面から窒化物半導体層20の表面まで厚み方向に延びており、ドリフト領域22の表面から突出した形態を有している。換言すると、JFET領域23は、窒化物半導体層20の表面からボディ領域24を貫通してドリフト領域22まで延びている。JFET領域23は、n型不純物を含む窒化ガリウム(GaN)を材料としている。この例では、JFET領域23の不純物濃度は、ドリフト領域22の不純物濃度と等しい。
【0011】
ボディ領域24は、ドリフト領域22上に設けられており、JFET領域23の側面に隣接している。ボディ領域24は、高濃度ボディ領域24a及び低濃度ボディ領域24bを有している。ボディ領域24は、p型不純物を含む窒化ガリウム(GaN)を材料としている。
【0012】
高濃度ボディ領域24aは、ドリフト領域22と低濃度ボディ領域24bの間に配置されているとともに、JFET領域23の下側の側面に接している。高濃度ボディ領域24aは、低濃度ボディ領域24bよりもp型不純物を高濃度に含んでおり、オフのときに低濃度ボディ領域24bがパンチスルーするのを抑えるために設けられている。
【0013】
低濃度ボディ領域24bは、高濃度ボディ領域24a上に設けられており、窒化物半導体層20の表面に露出する位置に設けられており、JFET領域23の上側の側面に接している。低濃度ボディ領域24bの不純物濃度は、所望のゲート閾値電圧となるように調整されている。窒化物半導体層20の表面に露出する位置にあるとともにJFET領域23とソース領域25の間に位置する低濃度ボディ領域24bの一部を特にチャネル領域CHという。
【0014】
ソース領域25は、低濃度ボディ領域24b上に設けられており、窒化物半導体層20の表面に露出する位置に設けられており、低濃度ボディ領域24bによってJFET領域23から隔てられている。ソース領域25は、n型不純物を含む窒化ガリウム(GaN)を材料としている。ソース領域25は、ソース電極34にオーミック接触している。
【0015】
ボディコンタクト領域26は、低濃度ボディ領域24b上に配置されており、窒化物半導体層20の表面に露出する位置に設けられている。ボディコンタクト領域26は、p型不純物を含む窒化ガリウム(GaN)を材料とする。ボディコンタクト領域26は、ソース電極34にオーミック接触している。
【0016】
絶縁ゲート部36は、窒化物半導体層20の表面上の一部に設けられており、酸化シリコンのゲート絶縁膜36a及びポリシリコンのゲート電極36bを有する。ゲート電極36bは、JFET領域23とソース領域25を隔てる部分の低濃度ボディ領域24bのチャネル領域CH、及び、JFET領域23にゲート絶縁膜36aを介して対向している。
【0017】
図2に、チャネル領域CH近傍(図1の破線42に対応する部分)の結晶構造図を模式的に表した図を示す。図2(A)は比較例のチャネル領域CH近傍の結晶構造図を示しており、図2(B)が本実施形態のチャネル領域CH近傍の結晶構造図を示している。図2(A)の比較例の窒化物半導体装置では、ゲート絶縁膜36aと低濃度ボディ領域24bの界面24cに炭素が残存している。この炭素は、製造過程において意図せずに導入されたものであり、例えば原料ガスに由来した炭素が界面24cに導入することもあれば、大気暴露によって大気中の炭素が界面24cに導入されることもある。一方、図2(B)に示されるように、本実施形態の窒化物半導体装置1では、ゲート絶縁膜36aと低濃度ボディ領域24bの界面24cの炭素が水素に置換されている。このような置換は、後述の製造方法において説明されるように、少なくとも炭素除去工程と水素終端工程を実施することによるものである。
【0018】
次に、窒化物半導体装置1の動作を説明する。使用時には、ドレイン電極32に正電圧が印加され、ソース電極34が接地される。ゲート電極36bにゲート閾値電圧よりも高い正電圧が印加されると、JFET領域23とソース領域25を隔てる部分の低濃度ボディ領域24bのチャネル領域CHに反転層が形成され、窒化物半導体装置1がターンオンする。このとき、反転層を経由してソース領域25からJFET領域23に電子が流入する。JFET領域23に流入した電子は、そのJFET領域23を縦方向に流れてドレイン電極32に向かう。これにより、ドレイン電極32とソース電極34が導通する。ゲート電極36bが接地されると、反転層が消失し、窒化物半導体装置1がターンオフする。このように、窒化物半導体装置1は、ゲート電極36bに印加する電圧に基づいてドレイン電極32とソース電極34の間のオンとオフを切り換えるスイッチング動作を実行することができる。
【0019】
図2を参照して説明したように、比較例の窒化物半導体装置では、ゲート絶縁膜36aと低濃度ボディ領域24bの界面24cに炭素が残存している。界面24cに残存する炭素は、ドナーとして振る舞うことから、閾値を低下させる原因となる。一方、本実施形態の窒化物半導体装置1では、界面24cに炭素が残存していない。このため、本実施形態の窒化物半導体装置1は、高い閾値電圧という特性を有することができる。
【0020】
また、後述の製造方法において説明されるように、界面24cに残存する炭素を除去すると、除去された部分に空孔が形成される。このような空孔は、ダングリングボンドを形成し、電子をトラップする界面準位を増加させる。このため、界面24cの空孔は、電子移動度を低下させる原因となる。本実施形態の窒化物半導体装置1では、炭素を除去することによって形成された空孔を水素で終端させている。このため、本実施形態の窒化物半導体装置1では、界面24cの界面準位が低く、電子移動度の低下が抑えられている。このように、本実施形態の窒化物半導体装置1は、高い閾値と高い電子移動度という特性を両立している。
【0021】
(窒化物半導体装置の第1の製造方法)
まず、図3に示されるように、エピタキシャル成長技術を利用して、GaN基板であるドレイン領域21の表面からn型GaNのドリフト領域22、p型GaNの高濃度ボディ領域24a及びp型GaNの低濃度ボディ領域24bをこの順で積層し、窒化物半導体層20を形成する。次に、p型不純物を活性化させるために、アニール処理(約850℃、約5分)を実施する。GaN基板であるドレイン領域21は、厚さが約400μmであり、不純物濃度が約1×1018cm-3である。ドリフト領域22は、厚さが約5.0μmであり、不純物濃度が約2×1016cm-3である。高濃度ボディ領域24aは、厚さが約0.5μmであり、不純物濃度が約5×1019cm-3である。低濃度ボディ領域24bは、厚さが約1.5μmであり、不純物濃度が約5×1017cm-3である。必要に応じて、ドレイン領域21とドリフト領域22の間に、厚さが約0.3μmであり、不純物濃度が約2×1016cm-3のn型GaNのバッファ層を形成してもよい。
【0022】
次に、図4に示されるように、ドライエッチング技術を利用して、窒化物半導体層20の表面から低濃度ボディ領域24bと高濃度ボディ領域24aを貫通してドリフト領域22に達するトレンチTR1を形成する。トレンチTR1の底面には、ドリフト領域22の表面が露出する。
【0023】
次に、図5に示されるように、エピタキシャル成長技術を利用して、トレンチTR1を充填するようにn型GaNのJFET領域23を形成する。JFET領域23は、不純物濃度が約2×1016cm-3である。
【0024】
次に、図6に示されるように、CMP(Chemical Mechanical Polishing)技術を利用して、低濃度ボディ領域24bの表面上に成膜されたJFET領域23を除去してJFET領域23及び低濃度ボディ領域24bの表面を平坦化する。
【0025】
次に、図7に示されるように、イオン注入技術及びアニール技術を利用して、低濃度ボディ領域24bの表面の一部にソース領域25を形成する。ドーパントにはシリコンが用いられ、ドーズ量が約3×1015cm-2である。アニール条件は、約1000℃、約20分である。
【0026】
次に、図8に示されるように、蒸着技術を利用して、窒化物半導体層20の表面上にマスク酸化膜52を成膜する。次に、マスク酸化膜52の表面上にレジスト54を成膜した後に、フォトリソグラフィ技術及びドライエッチング技術を利用して、少なくともチャネル領域CHが露出するようにマスク酸化膜52の一部を除去する(炭素除去工程の一例)。このドライエッチング工程において、少なくともチャネル領域CHに残存していた炭素が除去される。必要に応じて、ドライエッチング工程の実施した後に、マスク酸化膜52から露出する窒化物半導体層20の表面に対して酸素プラズマ照射処理又はオゾン照射処理を実施し、残存する炭素を除去してもよい(炭素除去工程の一例)。その後、マスク酸化膜52及びレジスト54を除去する。
【0027】
次に、図9に示されるように、蒸着技術を利用して、窒化物半導体層20の表面上にゲート絶縁膜36aを成膜する。蒸着技術としては、原子層堆積法又はプラズマCVD法が利用される。次に、ポストアニール処理を実施してゲート絶縁膜36aの膜質を改善する。次に、蒸着技術を利用して、ゲート絶縁膜36aの表面上にゲート電極36bを成膜する。
【0028】
次に、図10に示されるように、エッチング技術を利用して、ゲート絶縁膜36a及びゲート電極36bを加工した後に、イオン注入技術を利用して、低濃度ボディ領域24bの表面の一部にボディコンタクト領域26を形成する。
【0029】
次に、図11に示されるように、層間絶縁膜を成膜した後に、窒化物半導体層20の表面を被覆するようにソース電極34を形成する。ソース電極34を形成した後に、水素ガスを含む雰囲気下で熱処理を実施する(水素終端工程の一例)。温度範囲は、例えば200℃~1000℃である。また、水素終端工程は、水素ガスを含む雰囲気に代えて、アルゴン水素混合ガス又はアンモニアガスを含む雰囲気で実施されてもよい。この水素終端工程を実施すると、炭素除去工程でチャネル領域CHの炭素を除去して形成された空孔を水素で終端させることができる。この後、既知の製造技術を利用して、窒化物半導体層20の裏面にドレイン電極32を形成することで、図1に示す窒化物半導体装置1を製造することができる。なお、水素終端工程は、ゲート絶縁膜36aを成膜した後であれば、どの段階で実施してもよい。
【0030】
第1の製造方法では、マスク酸化膜52をドライエッチングで除去するときに、少なくともチャネル領域CHに残存していた炭素を除去することができる。このため、第1の製造方法によれば、ドナーとして振る舞う炭素を除去することから、閾値の低下が抑えられた窒化物半導体装置1を製造することができる。さらに、水素ガスを含む雰囲気下で熱処理を実施することにより、炭素を除去して形成された空孔を水素で終端させることができる。このため、第1の製造方法によれば、電子トラップとなる空孔を減少させることから、電子移動度の低下が抑えられた窒化物半導体装置を製造することができる。このように、第1の製造方法によれば、高い閾値電圧と高い電子移動度という特性を両立した窒化物半導体装置1を製造することができる。
【0031】
(窒化物半導体装置の第2の製造方法)
第2の製造方法は、第1の製造方法と対比すると、ゲート絶縁膜36aを成膜するまでの前処理の工程の一部が相違する。図12に、第2の製造方法の製造フローの一部を示す。
【0032】
まず、図3図7までの工程は、第1の製造方法と同一とすることができる。その後、図12に示されるように、窒化物半導体層20の表面を洗浄した後に、窒化物半導体層20をゲート絶縁膜成膜装置に導入する。次に、窒化物半導体層20の表面に対して酸素プラズマ照射処理を実施する(炭素除去工程の一例)。これにより、窒化物半導体層20の表面に残存していた炭素が除去される。酸素プラズマ処理に代えて、オゾン照射処理を実施してもよい。
【0033】
酸素プラズマ照射処理又はオゾン照射処理を実施して炭素を除去すると、その除去された部分に酸化物が形成されることがある。このような酸化物は、ドナーとして振る舞うことから、閾値を低下させる原因となる。したがって、図12に示されるように、酸素プラズマ照射処理又はオゾン照射処理による炭素除去工程を実施した後、窒化物半導体層20の表面に対して窒素プラズマを照射する。これにより、窒化物半導体層20の表面に形成された酸化物を除去することができる。窒素プラズマを照射するのに代えて、ヘリウムプラズマ、アルゴンプラズマ又は水素プラズマを照射してもよい。
【0034】
次に、図12に示されるように、窒化物半導体層20の表面上にゲート絶縁膜36aを成膜し、ポストアニール処理を実施する。次に、ゲート絶縁膜36aの表面上にゲート電極36bを成膜する。なお、これらの工程は、図9を参照して説明した第1の製造方法と同一とすることができる。
【0035】
次に、図12に示されるように、水素ガスを含む雰囲気下で熱処理を実施する(水素終端工程の一例)。温度範囲は、例えば200℃~1000℃である。また、水素終端工程は、水素ガスを含む雰囲気に代えて、アルゴン水素混合ガス又はアンモニアガスを含む雰囲気で実施されてもよい。この水素終端工程を実施すると、炭素除去工程で炭素を除去して形成された空孔及び窒素プラズマ処理で酸化物を除去して形成された空孔を水素で終端させることができる。この後、図11を参照して説明した第1の製造方法と同一の方法により、図1に示す窒化物半導体装置1を製造することができる。なお、水素終端工程は、ゲート絶縁膜36aを成膜した後であれば、どの段階で実施してもよい。
【0036】
第2の製造方法では、酸素プラズマ照射処理及び窒素プラズマ照射処理がゲート絶縁膜成膜装置内で実施される。このため、酸素プラズマ照射処理を実施してからゲート絶縁膜36aを成膜するまでの間、ゲート絶縁膜装置を真空状態に維持することにより、窒化物半導体層20が大気に曝されることが防止される。例えば、酸素プラズマ処理によって窒化物半導体層20の表面から炭素を除去した後、ゲート絶縁膜36aを成膜するまでの間に窒化物半導体層20が大気に曝されると、窒化物半導体層20の表面に炭素が再導入されることがある。第2の製造方法では、このような炭素の再導入を防止することができる。
【0037】
第2の製造方法では、酸素プラズマ照射処理を実施することにより、少なくともチャネル領域CHに残存していた炭素を除去することができる。また、窒素プラズマ照射処理を実施することにより、酸素プラズマ照射処理によって生成された酸化物を除去することができる。このため、第2の製造方法によれば、ドナーとして振る舞う炭素及び酸化物を除去することから、閾値の低下が抑えられた窒化物半導体装置1を製造することができる。さらに、水素ガスを含む雰囲気下で熱処理を実施することにより、炭素を除去して形成された空孔及び酸化物を除去して形成された空孔を水素で終端させることができる。このため、第2の製造方法によれば、電子トラップとなる空孔を減少させることから、電子移動度の低下が抑えられた窒化物半導体装置1を製造することができる。このように、第2の製造方法によれば、高い閾値電圧と高い電子移動度という特性を両立した窒化物半導体装置1を製造することができる。
【0038】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。また、本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0039】
1 :窒化物半導体装置
20 :窒化物半導体層
21 :ドレイン領域
22 :ドリフト領域
23 :JFET領域
24 :ボディ領域
24a :高濃度ボディ領域
24b :低濃度ボディ領域
25 :ソース領域
26 :ボディコンタクト領域
32 :ドレイン電極
34 :ソース電極
36 :絶縁ゲート部
36a :ゲート絶縁膜
36b :ゲート電極
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12