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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-04
(45)【発行日】2023-12-12
(54)【発明の名称】樹脂組成物及びその溶液
(51)【国際特許分類】
   C08L 53/02 20060101AFI20231205BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20231205BHJP
   C08G 59/18 20060101ALI20231205BHJP
   C08J 5/00 20060101ALI20231205BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20231205BHJP
【FI】
C08L53/02
C08L101/00
C08G59/18
C08J5/00
H05K1/03 610J
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2020035058
(22)【出願日】2020-03-02
(65)【公開番号】P2021138795
(43)【公開日】2021-09-16
【審査請求日】2022-10-24
(73)【特許権者】
【識別番号】515107720
【氏名又は名称】MCPPイノベーション合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100117400
【弁理士】
【氏名又は名称】北川 政徳
(72)【発明者】
【氏名】石原 稔久
【審査官】中落 臣諭
(56)【参考文献】
【文献】特開平03-072512(JP,A)
【文献】特開2017-159590(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L1/00-101/14
C08K3/00-13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
変性環状ポリオレフィンと、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、フェノール樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリイミド樹脂及びビスマレイミド樹脂から選ばれる少なくとも1種の熱硬化性樹脂、更に硬化剤を含む樹脂組成物であって、
該変性環状ポリオレフィンの重量平均分子量(Mw)が60,000以下であり、
該変性環状ポリオレフィンが、不飽和カルボン酸及び/又はその無水物による変性体である環状ポリオレフィンであり、
該環状ポリオレフィンが、少なくとも1種の芳香族ビニルモノマー単位及び少なくとも1種の共役ジエンモノマー単位を含むブロックコポリマーの水素化体である水素化ブロックコポリマーからなり、
前記水素化ブロックコポリマーが、前記芳香族ビニルモノマー単位からなるポリマーブロックの水素化体である水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位、及び前記共役ジエンモノマー単位からなるポリマーブロックの水素化体である水素化共役ジエンポリマーブロック単位を有する樹脂組成物。
【請求項2】
前記水素化ブロックコポリマーは、前記水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位を少なくとも2個有すると共に、前記水素化共役ジエンポリマーブロック単位を少なくとも1個有する、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位が90%以上の水素化レベルをもち、且つ、前記水素化共役ジエンポリマーブロック単位が95%以上の水素化レベルをもつ、請求項2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記変性環状ポリオレフィンの、不飽和カルボン酸及び/又はその無水物による変性率が0.1~2質量%である、請求項1~3のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記変性環状ポリオレフィンの、測定周波数10GHzにおける誘電損失が0.001未満である、請求項1~4のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
前記変性環状ポリオレフィンの含有率が、10~60質量%(樹脂組成物全体に対して)、前記の熱硬化性樹脂及び硬化剤の合計の含有率が40~90質量%(樹脂組成物全体に対して)である、請求項1~5のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の樹脂組成物を、10~90質量%の固形分濃度で有機溶媒に溶解した、樹脂組成物溶液。
【請求項8】
請求項1~6のいずれか一項に記載の樹脂組成物を硬化させてなる、樹脂組成物硬化物。
【請求項9】
請求項1~6のいずれか一項に記載の樹脂組成物を用いてなる、電気・電子回路用積層板。
【請求項10】
測定周波数10GHzにおける誘電損失が0.01未満である、請求項8に記載の樹脂組成物硬化物。
【請求項11】
測定周波数10GHzにおける誘電損失が0.01未満である、請求項9に記載の電気・電子回路用積層板。
【請求項12】
請求項7に記載の樹脂組成物溶液の溶媒を除去した後に硬化して樹脂組成物硬化物を製造する方法。
【請求項13】
請求項7に記載の溶液の樹脂組成物溶媒を除去した後に硬化して電気・電子回路用積層体を製造する方法。
【請求項14】
測定周波数10GHzにおける誘電損失が0.01未満である、請求項12に記載の樹脂組成物硬化物を製造する方法。
【請求項15】
測定周波数10GHzにおける誘電損失が0.01未満である、請求項13に記載の電気・電子回路用積層体を製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は低誘電特性に優れた樹脂組成物、これを用いた低誘電特性に優れた樹脂組成物硬化物、及び電気・電子回路用積層板に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、電気・電子回路基板としては、銅張積層板(CCL)と言われる、紙やガラス等の基材に樹脂を含侵させたシート(プリプレグ)を重ね、加圧加熱処理して得た絶縁板の表面に銅箔を施したものや、フレキシブルプリント基板(FPC)と言われる、ベースフィルムの上に絶縁接着層を形成してその上に銅等の導体箔を張り合わせたものが主に使われる。
【0003】
ここでプリプレグ用樹脂や絶縁接着層としては、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、フェノール樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリイミド樹脂、ビスマレイミド樹脂等の熱硬化性樹脂が用いられ、積層後に加熱加圧によって熱硬化し、耐熱性や接着性、耐水性、機械的強度、及び電気的特性に優れた回路基板となる。
近年、電気・電子機器に使用される多層回路基板は、機器の小型化、軽量化及び高機能化が進んでおり、更なる多層化、高密度化、薄型化、軽量化と信頼性及び成形加工性の向上等が要求されている。
【0004】
電気・電子回路用積層板等の電気・電子部品の材料と樹脂材料に要求される重要な性能として、低誘電特性が挙げられる。近年、情報伝達量、速度の向上のため、通信周波数の高周波数化が進んでおり、その中で、伝送損失(α)の増大が大きな課題となっている。この伝送損失(α)の値が低いほど、情報信号の減衰が少なく、通信の高い信頼性が確保できることを意味する。
伝送損失(α)は周波数(f)に比例するため、高周波数領域での通信ではαが大きくなり、信頼性の低下につながる。伝送損失(α)を抑える手法として、周波数(f)と同じく、αが比例する誘電正接(tanδ)を低減する方法が挙げられる。通信信号の高速伝送のためには、誘電正接(tanδ)の低い材料、即ち、低誘電特性を有する材料が求められている。
【0005】
例えば、エポキシ樹脂は接着性や耐熱性に優れることから広く回路基板用樹脂として用いられているが、tanδが大きいことから様々な改良、発明が行なわれている。
例えば、特許文献1では、ポリフェニレンエーテル変性エポキシ樹脂に第三成分を導入したエポキシ樹脂が開示されており、また、特許文献2では、エステル変性エポキシ樹脂が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2019-052278号公報
【文献】特開2017-193649号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1や特許文献2に記載のいずれの樹脂も、そのtanδは高周波数領域では未だ不十分なものであった。
そこで、本発明の課題は、簡易な操作でも高周波数領域で低誘電特性に優れた熱硬化性樹脂組成物及びその硬化物、並びに該組成物からなる電気・電子回路用積層板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、特定の変性環状ポリオレフィンを用い、これを熱硬化性樹脂と配合した樹脂組成物とすることにより、上記課題を解決し得ることを見出した。
即ち、本発明は以下の特徴を有する。
【0009】
[1]変性環状ポリオレフィンと、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、フェノール樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリイミド樹脂及びビスマレイミド樹脂から選ばれる少なくとも1種の熱硬化性樹脂、更に硬化剤を含む樹脂組成物であって、該変性環状ポリオレフィンの重量平均分子量(Mw)が60,000以下であり、該変性環状ポリオレフィンが、不飽和カルボン酸及び/又はその無水物による変性体である環状ポリオレフィンであり、該環状ポリオレフィンが、少なくとも1種の芳香族ビニルモノマー単位及び少なくとも1種の共役ジエンモノマー単位を含むブロックコポリマーの水素化体である水素化ブロックコポリマーからなる樹脂組成物。
【0010】
[2]前記水素化ブロックコポリマーが、前記芳香族ビニルモノマー単位からなるポリマーブロックの水素化体である水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位、及び前記共役ジエンモノマー単位からなるポリマーブロックの水素化体である水素化共役ジエンポリマーブロック単位を有し、該水素化ブロックコポリマーは、前記水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位を少なくとも2個有すると共に、前記水素化共役ジエンポリマーブロック単位を少なくとも1個有する、[1]に記載の樹脂組成物。
[3]前記水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位が90%以上の水素化レベルをもち、且つ、前記水素化共役ジエンポリマーブロック単位が95%以上の水素化レベルをもつ、[2]に記載の樹脂組成物。
【0011】
[4]前記変性環状ポリオレフィンの、不飽和カルボン酸及び/又はその無水物による変性率が0.1~2質量%である、[1]~[3]のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
[5]前記変性環状ポリオレフィンの、測定周波数10GHzにおける誘電損失が0.001未満である、[1]~[4]のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
[6]前記変性環状ポリオレフィンの含有率が、10~60質量%(樹脂組成物全体に対して)、前記の熱硬化性樹脂及び硬化剤の合計の含有率が40~90質量%(樹脂組成物全体に対して)である、[1]~[5]のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【0012】
[7][1]~[6]のいずれか一項に記載の樹脂組成物を、10~90質量%の固形分濃度で有機溶媒に溶解した、樹脂組成物溶液。
[8][1]~[6]のいずれか一項に記載の樹脂組成物を硬化させてなる、樹脂組成物硬化物。
[9][1]~[6]のいずれか一項に記載の樹脂組成物を用いてなる、電気・電子回路用積層板。
[10]測定周波数10GHzにおける誘電損失が0.01未満である、[8]に記載の樹脂組成物硬化物。
[11]測定周波数10GHzにおける誘電損失が0.01未満である、[9]に記載の電気・電子回路用積層板。
【0013】
[12][7]に記載の樹脂組成物溶液の溶媒を除去した後に硬化して樹脂組成物硬化物を製造する方法。
[13][7]に記載の溶液の樹脂組成物溶媒を除去した後に硬化して電気・電子回路用積層体を製造する方法。
[14]測定周波数10GHzにおける誘電損失が0.01未満である、[12]に記載の樹脂組成物硬化物を製造する方法。
[15]測定周波数10GHzにおける誘電損失が0.01未満である、[13]に記載の電気・電子回路用積層体を製造する方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明の樹脂組成物を用いることで、極めて低いtanδとなる硬化膜を提供することができ、伝送損失の少なく高速、高密度通信に適した回路基板用積層板に好適である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に本発明について詳細に説明するが、以下の説明は、本発明の実施の形態の一例であり、本発明はその要旨を超えない限り、以下の記載内容に限定されるものではない。
以下において「~」という表現を用いる場合、その前後の数値又は物性値を含む表現として用いるものとする。
【0016】
<樹脂組成物>
本発明は、変性環状ポリオレフィンと、特定の熱硬化性樹脂、更に硬化剤を含む樹脂組成物に係る発明である。
【0017】
[熱硬化性樹脂]
本発明で用いる熱硬化性樹脂は、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、フェノール樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリイミド樹脂及びビスマレイミド樹脂から選ばれる少なくとも1種の熱硬化性樹脂である。
これらの熱硬化性樹脂はいずれも公知の技術で得られるものである。
【0018】
エポキシ樹脂は最も広範に用いられている樹脂であり、各種の構造、技術が開示されている。例えば、特開平8-333437号公報、特開2005-97473号公報、特開2019-172996号公報に開示されるものである。
【0019】
フェノール樹脂としては、特許第6025952号公報に記載されるようなビニルベンジル化フェノール化合物を用いることができる。
ポリフェニレンエーテル樹脂としては、特開2017-47648号公報に記載されるような末端に反応性官能基が付与されたものを用いることができる。
【0020】
ポリイミド樹脂としては、再表2018/079707号公報に記載されるようなテトラカルボン酸成分とジアミン成分とから得られるものを用いることができる。
ビスマレイミド樹脂としては、特開2001-028367号公報に記載されるようなビスマレイミドを用いることができる。
【0021】
[硬化剤]
本発明で用いる硬化剤は、例えば、エポキシ樹脂のエポキシ基間の架橋反応及び/又は鎖長延長反応に寄与する物質を示す。
尚、本発明においては通常「硬化促進剤」と呼ばれるものであってもエポキシ樹脂のエポキシ基間の架橋反応及び/又は鎖長延長反応に寄与する物質であれば、硬化剤とみなすこととする。
【0022】
エポキシ樹脂に用いる硬化剤としては、特に制限はなく一般的にエポキシ樹脂硬化剤として知られているものはすべて使用できる。
アクリル樹脂、フェノール樹脂、ビスマレイミド樹脂に用いられる硬化剤としては、耐熱性を高める観点から好ましいものとしてフェノール系硬化剤、アミド系硬化剤、イミダゾール類及び活性エステル系硬化剤等が挙げられる。
これら硬化剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0023】
ポリフェニレンエーテル樹脂に用いる硬化剤としては、ポリフェニレンエーテルを3次元架橋する硬化剤を用いることができる。具体的には、架橋型硬化剤として、多官能ビニル化合物、ビニルベンジルエーテル系化合物、アリルエーテル系化合物、又はトリアルケニルイソシアヌレートを用いることができる。
【0024】
多官能ビニル化合物は、ジビニルベンゼン、ジビニルナフタレン、ジビニルビフェニルを含む。ビニルベンジルエーテル系化合物は、フェノール及びビニルベンジルクロライドの反応によって合成される。アリルエーテル系化合物は、スチレンモノマー、フェノール、及びアリルクロライドの反応によって合成される。トリアルケニルイソシアヌレートは相溶性が良好であり、トリアリルイソシアヌレート又はトリアリルシアヌレートを用いることができる。
【0025】
ポリイミド樹脂に用いる硬化剤としてはとしては1,2-ジメチルイミダゾール等のイミダゾール化合物、イソキノリン等の窒素原子を含有した複素環化合物、トリエチルアミンやトリエタノールアミン等の塩基性化合物等が挙げられる。
【0026】
[その他の成分]
本発明の樹脂組成物に加え得るその他の成分としては、熱硬化性樹脂の触媒が使用できる。触媒は、熱硬化性樹脂単体又は熱硬化性樹脂と硬化剤の反応を促進するような触媒能を持つ化合物であればどのようなものでもよい。
【0027】
例えば、エポキシ樹脂に対しては第3級アミン、環状アミン類、イミダゾール類、有機リン化合物、第4級アンモニウム塩等が挙げられる。ポリフェニレンエーテル樹脂に対してはα,α’-ビス(t-ブチルパーオキシ-m-イソプロピル)ベンゼン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)-3-ヘキシン、過酸化ベンゾイル、3,3’,5,5’-テトラメチル-1,4-ジフェノキノン、クロラニル、2,4,6-トリ-t-ブチルフェノキシル、t-ブチルペルオキシイソプロピルモノカーボネート、アゾビスイソブチロニトリル等の酸化剤を用いることができる。ここで、必要に応じてカルボン酸金属塩等を添加して、硬化反応をさらに促進させてもよい。
【0028】
本発明の樹脂組成物には、その機能性の更なる向上を目的として、以上で挙げたもの以外の成分を含んでいてもよい。例えば、熱硬化性樹脂や光硬化性樹脂、硬化促進剤(但し「硬化剤」に含まれるものを除く。)、紫外線防止剤、酸化防止剤、カップリング剤、可塑剤、フラックス、難燃剤、着色剤、分散剤、乳化剤、低弾性化剤、希釈剤、消泡剤、イオントラップ剤、無機フィラー、有機フィラーが挙げられる。
【0029】
[各成分の含有率]
前記樹脂組成物中の前記変性環状ポリオレフィンの含有率は、前記樹脂組成物全体(100質量%)に対して、10~60質量%が好ましく、30~50質量%がより好ましい。
前記変性環状ポリオレフィンの含有率が上記下限以上であれば、十分な誘電損失低下効果を発現するので好ましい。また、上記上限以下であれば、硬化物の耐熱性や機械的強度が十分に得られるため好ましい。
【0030】
前記樹脂組成物中の前記熱硬化性樹脂及び前記硬化剤の合計の含有率は、前記樹脂組成物全体(100質量%)に対して、40~90質量%が好ましく、50~70質量%がより好ましい。
前記熱硬化性樹脂及び前記硬化剤の含有率が上記下限以上であれば、熱硬化性樹脂の各種特性が損なわれないので好ましい。また、上記上限以下であれば、誘電損失が悪化することがないので好ましい。
【0031】
前記硬化剤の含有量は、前記熱硬化性樹脂100質量部に対して、0.1~100質量部が好ましい。より好ましくは90質量部以下であり、更に好ましくは80質量部以下である。
前記熱硬化性樹脂がエポキシ樹脂である場合、前記硬化剤の含有量は、エポキシ樹脂100質量部に対して、10~100質量部が好ましい。その下限は20質量部以上がより好ましい。また、その上限は90質量部以下がより好ましく、80質量部以下が更に好ましい。
硬化剤の含有量が上記範囲内であれば、エポキシ樹脂の架橋が十分となり、目的とする耐熱性や機械強度が発現する。
【0032】
<変性環状ポリオレフィン>
本発明の変性環状ポリオレフィンは、後述する環状ポリオレフィンの、不飽和カルボン酸及び/又はその無水物による変性体である。この環状ポリオレフィンの変性操作は、後述する。
【0033】
変性環状ポリオレフィンの重量平均分子量(以下、「Mw」と略する。)の下限は、好ましくは10,000以上、より好ましくは15,000以上である。また、Mwの上限は、好ましくは60,000以下であり、好ましくは30,000以下である。
変性環状ポリオレフィンのMwが上記下限以上であれば、耐熱性や誘電特性が向上するため好ましい。また、Mwが上記上限以下であれば、有機溶媒への溶解性が良好となるので好ましい。
変性環状ポリオレフィンのMwは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)の測定によって決定され、その具体的な測定方法は実施例の項に記載される通りである。
【0034】
前記変性環状ポリオレフィンのMwは、環状ポリオレフィンを変性する際に用いる有機過酸化物の量で制御することができる。
環状ポリオレフィンの変性操作については後述の通りである。また、環状ポリオレフィンの変性操作と同様に、変性環状ポリオレフィンに有機過酸化物を配合し、ブレンドして混練機、押出機に投入し加熱溶融混練しながら押出を行なうことにより、Mwを変化させた変性環状ポリオレフィンを得ることができる。
【0035】
環状ポリオレフィンや変性環状ポリオレフィンは、有機過酸化物と処理することにより、環状ポリオレフィンや変性環状ポリオレフィンを構成するブロック単位の1つである水素化共役ジエンポリマーブロック単位の炭素-水素結合が一旦開裂し、生じた炭素ラジカル構造から、β水素脱離を伴う炭素-炭素結合開裂が生じて低分子量化を引き起こし、高い分子量の環状ポリオレフィン又は変性環状ポリオレフィンから、低い分子量の変性環状ポリオレフィンを得ることができる。
この操作は変性後に行なってもよいし、変性と同時に行なってもよい。即ち、分子量低下を変性と同時に行なうため、有機過酸化物を多く配合することで、変性と同時に低分子量化を生じさせることができる。
【0036】
<変性環状ポリオレフィンの特性>
本発明で用いる変性環状ポリオレフィンは、誘電損失が十分に低いことが特徴である。
変性環状ポリオレフィンを少量添加することにより樹脂組成物全体の誘電損失を抑えることが可能となり、電気・電子回路用積層板としたときに信号伝達効率の向上が期待できる。
【0037】
変性環状ポリオレフィンの、測定周波数10GHzにおける誘電損失は0.001未満であることが好ましく、0.0005未満であることがより好ましい。
環状ポリオレフィンの誘電損失は、不飽和カルボン酸及び/又はその無水物による変性によってわずかに悪化する傾向となる。従って、誘電損失を低く保つため、後述するように変性率を制御する必要がある。
【0038】
<環状ポリオレフィンの変性操作>
次に、環状ポリオレフィンの変性操作について説明する。この変性操作は、環状ポリオレフィンに、変性剤として不飽和カルボン酸及び/又はその無水物を添加して反応させることによって行なわれる。
【0039】
前記変性剤としての不飽和カルボン酸及び/又はその無水物としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、α-エチルアクリル酸、マレイン酸、フマール酸、テトラヒドロフタル酸、メチルテトラヒドロフタル酸、イタコン酸、シトラコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸、ナジック酸類等の不飽和カルボン酸、及びこれらの無水物が挙げられる。
また、酸無水物としては、具体的には、無水マレイン酸、無水シトラコン酸、無水ナジック酸類が挙げられる。
尚、ナジック酸類又はその無水物としては、エンドシス-ビシクロ[2.2.1]ヘプト-2,3-ジカルボン酸(ナジック酸(商標))、メチル-エンドシス-ビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン-2,3-ジカルボン酸(メチルナジック酸(商標))等及びその無水物が挙げられる。
【0040】
これらの不飽和カルボン酸及び/又はその無水物の中では、アクリル酸、マレイン酸、ナジック酸、無水マレイン酸、無水ナジック酸が好ましい。
不飽和カルボン酸及び/又はその無水物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0041】
上記環状ポリオレフィンを上記の不飽和カルボン酸及び/又はその無水物で変性することにより、変性環状ポリオレフィンを得ることができる。変性の方法としては、溶液変性、溶融変性、電子線や電離放射線の照射による固相変性、超臨界流体中での変性等が好適に用いられる。
中でも設備やコスト競争力に優れた溶融変性が好ましく、連続生産性に優れた押出機を用いた溶融混練変性がより好ましい。
この時用いられる装置としては、例えば、単軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサー、ロールミキサーが挙げられる。中でも連続生産性に優れた単軸押出機、二軸押出機が好ましい。
【0042】
一般に、環状ポリオレフィンへの不飽和カルボン酸及び/又はその無水物による変性は、環状ポリオレフィンを構成するブロック単位の1つである水素化共役ジエンポリマーブロック単位の炭素-水素結合を開裂させて炭素ラジカルを発生させ、これに不飽和官能基が付加するというグラフト反応によって行なわれる。
炭素ラジカルの発生源としては、上述した電子線や電離放射線の他、高温度とする方法や、有機過酸化物、無機過酸化物、アゾ化合物等のラジカル発生剤を用いることもできる。ラジカル発生剤としては、コストや操作性の観点から有機過酸化物を用いることが好ましい。
【0043】
上記アゾ化合物としては、例えば、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスジメチルバレロニトリル、アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、ジアゾニトロフェノールが挙げられる。
上記無機過酸化物としては、例えば、過酸化水素、過酸化カリウム、過酸化ナトリウム、過酸化カルシウム、過酸化マグネシウム、過酸化バリウムが挙げられる。
【0044】
上記有機過酸化物としては、ハイドロパーオキサイド、ジアルキルパーオキサイド、ジアシルパーオキサイド、パーオキシエステル及びケトンパーオキサイド群に含まれるものが挙げられる。
具体的には、キュメンハイドロパーオキサイド、t-ブチルハイドロパーオキサイド等のハイドロパーオキサイド;ジクミルパーオキサイド、ジt-ブチルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキシン-3等のジアルキルパーオキサイド;ラウリルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド等のジアシルパーオキサイド;t-ブチルパーオキシアセテート、t-ブチルパーオキシベンゾエイト、t-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート等のパーオキシエステル;シクロヘキサノンパーオキサイド等のケトンパーオキサイドが挙げられる。
これらのラジカル発生剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0045】
[溶融混練変性]
一般的に用いられる溶融混練変性の操作は、環状ポリオレフィン、不飽和カルボン酸及び/又はその無水物、有機過酸化物を配合し、混練機、押出機に投入し、加熱溶融混練しながら押出を行ない、先端ダイスから出てくる溶融樹脂を水槽等で冷却して変性環状ポリオレフィンを得るものである。
【0046】
環状ポリオレフィンと不飽和カルボン酸及び/又はその無水物との配合比率は、環状ポリオレフィン100質量部に対し、不飽和カルボン酸及び/又はその無水物が0.2~5質量部である。
環状ポリオレフィンに対する不飽和カルボン酸及び/又はその無水物の配合比率が上記下限以上であれば、本発明の効果を奏するために必要な所定の変性率が得られる。また、上記上限以下であれば、未反応の不飽和カルボン酸及び/又はその無水物が残留することがなく、誘電特性としても好ましい。
【0047】
上記不飽和カルボン酸及び/又はその無水物と上記有機過酸化物との配合比率は、上記不飽和カルボン酸及び/又はその無水物100質量部に対し、上記有機過酸化物が20~100質量部である。
上記不飽和カルボン酸及び/又はその無水物に対する上記有機過酸化物の配合比率が上記下限以上であれば、本発明の効果を奏するために必要な所定の変性率が得られる。また、上記上限以下であれば、環状ポリオレフィンの劣化が生じず、色相が悪化することがない。
【0048】
また溶融混練変性条件としては、例えば、単軸押出機、二軸押出機においては150~300℃の温度にて押出すことが好ましい。
【0049】
[変性環状ポリオレフィンの分子量低下]
上記変性環状ポリオレフィンの分子量低下を行なう場合、変性環状ポリオレフィンと有機過酸化物との配合比率は、上記変性環状ポリオレフィン100質量部に対し、上記有機過酸化物が0.01~2質量部である。
また溶融混練変性条件としては、例えば単軸押出機、二軸押出機においては150~300℃の温度にて押出すことが好ましい。
【0050】
[変性率]
上記変性環状ポリオレフィンの、上記不飽和カルボン酸及び/又はその無水物による変性率は0.1~2質量%が好ましい。
変性率が上記下限以上であれば、エポキシ等の熱硬化性樹脂との相溶性が良好となり、結果として塗膜強度が向上するので好ましい。また、上記上限以下であれば、臭気の発生や色の悪化がなく、有機溶媒への溶解性も良好となる。
上記変性環状ポリオレフィンの変性率は、上記変性環状ポリオレフィンをメチルエステル化処理した後、HNMRにて測定することができる。
【0051】
<環状ポリオレフィン>
本発明で用いる変性環状ポリオレフィンの原料となる環状ポリオレフィンは、少なくとも1種の芳香族ビニルモノマー単位及び少なくとも1種の共役ジエンモノマー単位を含むブロックコポリマーの水素化体である水素化ブロックコポリマーからなる。
該水素化ブロックコポリマーは、前記芳香族ビニルモノマー単位からなるポリマーブロックの水素化体である水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位、及び、前記共役ジエンモノマー単位からなるポリマーブロックの水素化体である水素化共役ジエンポリマーブロック単位を有する。
また、該水素化ブロックコポリマーは、前記水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位を少なくとも2個有すると共に、前記水素化共役ジエンポリマーブロック単位を少なくとも1個有するものである。
【0052】
本発明で用いる環状ポリオレフィンは、透明性及び誘電特性、具体的には低い誘電損失(正接)の観点から、前記水素化ブロックコポリマーからなることが好ましい。
尚、「ブロック」とは、後記するように、本明細書において、コポリマーの構造的又は組成的に異なった重合セグメントからのミクロ層分離を表すコポリマーの重合セグメントをいう。このため、例えば「ブロック単位を少なくとも2個有する」とは、水素化ブロックコポリマーの中に、構造的又は組成的に異なった重合セグメントからのミクロ層分離を表すコポリマーの重合セグメントを少なくとも2個有することをいう。
【0053】
前記の芳香族ビニルモノマー単位の原料となる芳香族ビニルモノマーは、一般式(1)で示されるモノマーである。
【0054】
【化1】
ここでRは、水素又はアルキル基、Arはフェニル基、ハロフェニル基、アルキルフェニル基、アルキルハロフェニル基、ナフチル基、ピリジニル基又はアントラセニル基である。
【0055】
前記アルキル基は、ハロ基、ニトロ基、アミノ基、ヒドロキシ基、シアノ基、カルボニル基及びカルボキシル基のような官能基で単置換若しくは多重置換されていてもよい。アルキル基の炭素数は1~6が好ましい。
前記のArは、フェニル基又はアルキルフェニル基が好ましく、フェニル基がより好ましい。
【0056】
芳香族ビニルモノマーとしては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン(全ての異性体を含み、特にp-ビニルトルエン)、エチルスチレン、プロピルスチレン、ブチルスチレン、ビニルビフェニル、ビニルナフタレン、ビニルアントラセン(全ての異性体)、及びこれらの混合物が挙げられる。
【0057】
前記の共役ジエンモノマーは2個の共役二重結合を持つモノマーであればよく、特に限定されるものではない。
共役ジエンモノマーとしては、例えば、1,3-ブタジエン、2-メチル-1,3-ブタジエン(イソプレン)、2-メチル-1,3ペンタジエンとその類似化合物、及びこれらの混合物が挙げられる。
【0058】
前記1,3-ブタジエンの重合体であるポリブタジエンは、水素化で1-ブテン繰り返し単位の等価物を与える1,2配置、又は水素化でエチレン繰り返し単位の等価物を与える1,4配置のいずれかを含むことができる。
【0059】
前記の芳香族ビニルモノマーや、1,3-ブタジエンを含む前記共役ジエンモノマーから構成される重合性ブロックの水素化体は、本発明で使用される水素化ブロックコポリマーに含まれる。好ましくは、水素化ブロックコポリマーは官能基のないブロックコポリマーである。
尚、「官能基のない」とはブロックコポリマー中に如何なる官能基、即ち、炭素と水素以外の元素を含む基を存在しないことを意味する。
【0060】
前記の水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位の好ましい例としては、水素化ポリスチレンを挙げることができ、前記の水素化共役ジエンポリマーブロック単位の好ましい例としては、水素化ポリブタジエンを挙げることができる。
そして、水素化ブロックコポリマーの好ましい一態様としては、スチレンとブタジエンの水素化トリブロック又はペンタブロックコポリマーを挙げることができ、他の如何なる官能基又は構造的変性剤も含まないことが好ましい。
【0061】
「ブロック」とは、コポリマーの構造的又は組成的に異なった重合セグメントからのミクロ層分離を表すコポリマーの重合セグメントとして定義される。ミクロ層分離は、ブロックコポリマー中で重合セグメントが混じり合わないことにより生ずる。
尚、ミクロ層分離とブロックコポリマーは、PHYSICS TODAYの1999年2月号32-38頁の“Block Copolymers-Designer Soft Materials”で広範に議論されている。
【0062】
水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位の含有率は、前記環状ポリオレフィンに対して、好ましくは50~99モル%、より好ましくは60~90モル%である。
水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位の比率が上記下限以上であれば剛性が低下することがなく、上記上限以下であれば脆性が悪化することがない。
【0063】
また、水素化共役ジエンポリマーブロック単位の含有率は、前記環状ポリオレフィンに対して、好ましくは1~50モル%、より好ましくは10~40モル%である。
水素化共役ジエンポリマーブロック単位の比率が上記下限以上であれば脆性が悪化することがなく、上記上限以下であれば剛性が低下することがない。
【0064】
尚、前記のとおり、本願発明にかかるポリオレフィンは、「環状ポリオレフィン」であるが、この「環状」とは、前記水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位が有する、芳香族環の水素化により生じる脂環式構造のことをいう。
【0065】
本発明の水素化ブロックコポリマーはSBS、SBSBS、SIS、SISIS、及びSISBS(ここで、Sはポリスチレン、Bはポリブタジエン、Iはポリイソプレンを意味する。)のようなトリブロック、マルチブロック、テーパーブロック及びスターブロックコポリマーを含むブロックコポリマーの水素化によって製造される。
【0066】
本発明の水素化ブロックコポリマーはそれぞれの末端に芳香族ビニルポリマーからなるセグメントを含む。このため、本発明の水素化ブロックコポリマーは、少なくとも2個の水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位を有することとなる。そして、この2個の水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位の間には、少なくとも1つの水素化共役ジエンポリマーブロック単位を有することとなる。
【0067】
前記水素化ブロックを構成する水素化前のブロックコポリマーは、何個かの追加ブロックを含んでいてもよく、これらのブロックはトリブロックポリマー骨格のどの位置に結合していてもよい。このように、線状ブロックは例えばSBS、SBSB、SBSBS、そしてSBSBSBを含む。コポリマーは分岐していてもよく、重合連鎖はコポリマーの骨格に沿ってどの位置に結合していてもよい。
【0068】
水素化ブロックコポリマーのMwの下限は、好ましくは10,000以上、より好ましくは20,000以上である。また、Mwの上限は、好ましくは120,000以下、より好ましくは100,000以下、更に好ましくは95,000以下、特に好ましくは90,000以下、最も好ましくは85,000以下、極めて好ましくは80,000以下である。
Mwが上記下限以上であれば機械強度が低下せず、上記上限以下であれば得られる変性環状ポリオレフィンの溶剤溶解性が向上する。
本明細書のMwは、GPCの測定によって決定される。
【0069】
ブロックコポリマーの水素化レベルは、好ましくは水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位が90%以上、水素化共役ジエンポリマーブロック単位が95%以上;より好ましくは水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位が95%以上、水素化共役ジエンポリマーブロック単位が99%以上;更に好ましくは水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位が98%以上、水素化共役ジエンポリマーブロック単位が99.5%以上;特に好ましくは水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位が99.5%以上、水素化共役ジエンポリマーブロック単位が99.5%以上である。
このように高レベルの水素化は、誘電損失を低減させるために好ましい。
尚、水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位の水素化レベルとは、芳香族ビニルポリマーブロック単位が水素化によって飽和される割合を示し、水素化共役ジエンポリマーブロック単位の水素化レベルとは、共役ジエンポリマーブロック単位が水素化によって飽和される割合を示す。
【0070】
水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位の水素化レベルと水素化共役ジエンポリマーブロック単位の水素化レベルは、プロトンNMRを用いて決定される。
【0071】
本発明の環状ポリオレフィンのメルトフローレート(MFR)は特に限定されないが、通常0.1g/10分以上であり、成形方法や成形体の外観の観点から、好ましくは0.5g/10分以上である。また通常200g/10分以下であり、材料強度の観点から、好ましくは100g/10分以下、より好ましくは50g/10分以下である。
MFRは、ISO R1133に従って、測定温度230℃、測定荷重2.16kgの条件で測定した。
【0072】
環状ポリオレフィンは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
本発明の環状ポリオレフィンとしては、市販のものを用いることができ、具体的には三菱ケミカル(株)製:ゼラス(商標登録)が挙げられる。
【0073】
<樹脂組成物溶液>
本発明の樹脂組成物は、有機溶媒に溶解させて樹脂組成物溶液とすることができる。
本発明では、樹脂組成物を製造する工程で有機溶媒を用いることも可能であるし、樹脂組成物の反応途中で高粘性生成物が生じたときに有機溶媒を追加添加して、反応を継続することもできる。
反応の途中で有機溶媒を添加した場合、反応終了後に有機溶媒を除去してもよいし、更に追加してもよい。
【0074】
樹脂組成物を溶液とする場合、固形分濃度は10~90質量%とすることが好ましい。
ここで「固形分」とは有機溶媒を除いた成分を意味し、固形の樹脂成分のみならず、半固形や粘稠な液状物のものをも含むものとする。
【0075】
ここで用いる有機溶媒としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;酢酸エチル等のエステル類;エチレングリコールモノメチルエーテル等のエーテル類;N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等のアミド類;メタノール、エタノール等のアルコール類;ヘキサン、シクロヘキサン等のアルカン類;トルエン、キシレン等の芳香族類が挙げられる。
これらの有機溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0076】
<樹脂組成物硬化物>
本発明の樹脂組成物を硬化してなる樹脂組成物硬化物は、耐熱性と低吸水性、低誘電特性のバランスに優れ、良好な硬化物性を示すものである。
ここでいう「硬化」とは熱及び/又は光等により樹脂組成物を意図的に硬化させることを意味するものであり、その硬化の程度は所望の物性、用途により制御すればよい。
硬化の程度としては完全硬化であっても半硬化であってもよいが、例えば熱硬化性樹脂部分の反応率として通常5~95%である。
【0077】
本発明の樹脂組成物を硬化させて硬化物とする際の硬化方法は、樹脂組成物中の配合成分や配合量によって異なるが、いずれも上述の各先行技術記載の条件に従って行なうことができる。
例えば、熱硬化性樹脂がエポキシ樹脂の場合、通常80~280℃で60~360分の加熱条件が挙げられる。この加熱は80~160℃で10~90分の一次加熱と、120~200℃で60~150分の二次加熱との二段処理を行なうことが好ましく、また、ガラス転移温度(Tg)が二次加熱の温度を超える配合系においては更に150~280℃で60~120分の三次加熱を行なうことが好ましい。
このように二次加熱、三次加熱を行なうことは、硬化不良や溶剤の残留を低減する観点から好ましい。
【0078】
また、熱硬化性樹脂がポリフェニレンエーテルの場合、170~230℃の条件で適切な時間加熱することが好ましい。
さらに、熱硬化性樹脂がビスマレイミド樹脂の場合、200~400℃で一次硬化を行ない、次いで400~500℃で完全硬化させることが好ましい。
【0079】
半硬化物を作製する際には、加熱等により形状が保てる程度に樹脂組成物の硬化反応を進行させることが好ましい。樹脂組成物が溶剤を含んでいる場合には、通常、加熱、減圧、風乾等の手法で大部分の溶剤を除去するが、半硬化物中に5質量%以下の溶剤を残留させてもよい。
【0080】
[樹脂組成物硬化物の特性]
本発明の樹脂組成物硬化物は、誘電損失が十分に低いことが特徴である。
樹脂組成物硬化物の、測定周波数10GHzにおける誘電損失は0.01未満であることが好ましく、より好ましくは0.008未満である。誘電損失は低ければ低いほど回路基板とした際の電気信号の伝達効率、高速化が得られるために好ましい。
【0081】
[樹脂組成物硬化物の製造]
前記樹脂組成物硬化物は、前記樹脂組成物溶液から溶媒を除去した後に、前記の方法で硬化することにより製造することができる。
尚、本発明の樹脂組成物を用いることにより、この方法で得られる樹脂組成物硬化物の誘電損失は、上記範囲を満たすことができる。
【0082】
<用途>
本発明の樹脂組成物は製膜性に優れる。また、耐熱性と低誘電特性に優れ、更に低吸水性に優れた硬化物を与えるという効果を奏する。このため、接着剤、塗料、土木建築用材料、電気・電子部品の絶縁材料等、様々な分野に適用可能であり、特に、電気・電子分野における絶縁注型、積層材料、封止材料等として有用である。
【0083】
本発明の樹脂組成物の用途の一例としては、銅箔積層板、フレキシブルプリント基板、多層プリント配線基板、キャパシタ等の電気・電子回路用積層板、フィルム状接着剤、液状接着剤等の接着剤、半導体封止材料、アンダーフィル材料、3D-LSI用インターチップフィル、絶縁シート、プリプレグ、放熱基板が挙げられるが、何らこれらに限定されるものではない。
【0084】
<導電性金属層含有積層体>
本発明の樹脂組成物は、導電性金属層の上にこの樹脂組成物からなる層を形成することにより、導電性金属層含有積層体とすることができる。
この導電性金属層含有積層体は、本発明の樹脂組成物皮膜層と導電性金属層とを積層したものであり、本発明の樹脂組成物皮膜層と導電性金属層とを積層したものであれば、電気・電子回路や、キャパシタを有する回路等として使用できる。
尚、導電性金属層含有積層体中には2種以上の樹脂組成物からなる層が形成されていてもよく、少なくとも1つの層において本発明の樹脂組成物が用いられていればよい。また、2種以上の導電性金属層が形成されていてもよい。
【0085】
前記導電性金属層含有積層体は、導電性金属の上に直接、樹脂組成物溶液を塗布したり、導電性金属を樹脂組成物溶液に浸漬したりする等の塗工による方法や、ベースとなる材である心材に樹脂組成物溶液を塗布したり、心材を樹脂組成物溶液に浸漬したりする等の塗工による方法で得られた樹脂組成物含有材を導電性金属に積層したりすることにより、積層体を得、積層の段階又は積層後に溶媒を除去し、次いで、前記の方法で硬化することにより製造することができる。
【0086】
前記心材としては、ガラス繊維、ポリエステル繊維、アラミド繊維、セルロース、ナノファイバーセルロース等の無機及び/又は有機の繊維材料を用いた不織布やクロス等が挙げられる。
【0087】
尚、本発明の樹脂組成物を用いることにより、この方法で得られる導電性金属層含有積層体の誘電損失は、上記範囲を満たすことができる。
【0088】
[電気・電子回路積層板]
前記導電性金属層含有積層体が電気・電子回路用積層板であるとき、電気・電子回路用積層板における樹脂組成物からなる層の厚みは通常10~200μm程度である。また、導電性金属層の厚みは通常0.2~70μm程度である。
【0089】
本発明の電気・電子回路用積層板は、誘電損失が十分に低いことが特徴である。
電気・電子回路用積層板の、測定周波数10GHzにおける誘電損失は0.01未満であることが好ましく、より好ましくは0.008未満である。誘電損失は低ければ低いほど回路基板とした際の電気信号の伝達効率、高速化が得られるために好ましい。
【0090】
[導電性金属]
電気・電子回路用積層板における導電性金属としては、銅、アルミニウム等の金属や、これらの金属を含む合金が挙げられる。本発明において電気・電子回路用積層板の導電性金属層においては、これらの金属の金属箔、あるいはメッキやスパッタリングで形成された金属層を用いることができる。
【0091】
[電気・電子回路用積層板の製造方法]
本発明における電気・電子回路用積層板の具体的な製造方法としては、例えば次のような方法が挙げられる。
(1)ガラス繊維、ポリエステル繊維、アラミド繊維、セルロース、ナノファイバーセルロース等の無機及び/又は有機の繊維材料を用いた不織布やクロス等に、本発明の樹脂組成物又はこれを含む溶液を含浸させてプリプレグとし、溶液を用いた場合には適宜溶媒を除去し、導電性金属箔及び/又はメッキにより導電性金属層を設けた後、フォトレジスト等を用いて回路を形成し、こうした層を必要数重ねて積層板とする。
【0092】
(2)上記(1)のプリプレグを心材とし、その上(片面又は両面)に、樹脂組成物又はこれを含む溶液(溶媒は適宜除去する)からなる層と導電性金属層を積層する(ビルドアップ法)。この樹脂組成物からなる層は有機及び/又は無機のフィラーを含んでいてもよい。
(3)心材を用いず、樹脂組成物又はこれを含む溶液(溶媒は適宜除去する)からなる層と導電性金属層のみを交互に積層して電気・電子回路用積層板とする。
【実施例
【0093】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明は本実施例により何ら限定されるものではない。尚、以下の実施例及び比較例においては、下記の方法により各種物性を測定した。
【0094】
<分子量>
・装置:東ソー(株)製 GPC HLC-832GPC/HT
・検出器:MIRAN社製 1A赤外分光光度計(測定波長、3.42μm)
・カラム:昭和電工(株)製:AD806M/S 3本(カラムの較正は東ソー製単分散ポリスチレン(A500,A2500,F1,F2,F4,F10,F20,F40,F288の各0.5mg/ml溶液)の測定を行ない、溶出体積と分子量の対数値を3次式で近似した。
・測定温度:135℃
・濃度 :20mg/10mL
・注入量:0.2ml
・溶媒 :o-ジクロロベンゼン
・流速 :1.0ml/分
【0095】
<ポリマーブロックの比率>
[カーボンNMRによる測定]
・装置:Bruker社製「AVANCE400分光計」
・溶媒:o-ジクロロベンゼン-h/p-ジクロロベンゼン-d混合溶媒
・濃度:0.3g/2.5mL
・測定:13C-NMR
・共鳴周波数:400MHz
・積算回数:3600
・フリップ角:45度
・データ取得時間:1.5秒
・パルス繰り返し時間:15秒
・測定温度:100℃
H照射:完全デカップリング
【0096】
<水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位、水素化共役ジエンポリマーブロック単位の水素化レベル>
[プロトンNMRによる測定]
・装置:Bruker社製「AVANCE400分光計」
・溶媒:テトラクロロエタン
・濃度:0.045g/1.0mL
・測定:H-NMR
・共鳴周波数:400MHz
・フリップ角:45度
・データ取得時間:4秒
・パルス繰り返し時間:10秒
・積算回数:64
・測定温度:80℃
・水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位の水素化レベル:6.8~7.5ppmの積分値低減率
・水素化共役ジエンポリマーブロック単位の水素化レベル:5.7~6.4ppmの積分値低減率
【0097】
<変性環状ポリオレフィンの変性率>
[プロトンNMRによる測定]
・装置:BRUKER社製「AVANCE400分光計」
・溶媒:重オルトジクロロベンゼン
・濃度:20mg/0.62mL
・測定:H-NMR
・共鳴周波数:400MHz
・フリップ角:45度
・データ取得時間:4秒
・パルス繰り返し時間:10秒
・積算回数:64
・測定温度:120℃
・酸変性環状ポリオレフィンの変性率:3.42~3.94ppmの積分値低減率
【0098】
<誘電率、誘電損失測定>
誘電体レンズ付き透過減衰測定治具にて測定を行なった。
・装置:KEYSIGHT社製「ベクトルネットワークアナライザN5227A」
VIRGINIA DIODES社製「ミリ波モジュールWR10-VNAX」
KEYSIGHT社製「ネットワークアナライザE8361A」
・測定環境:26℃、湿度40%
・測定周波数:10GHz
【0099】
変性環状ポリオレフィンは、200℃での熱プレスにより厚み1mm、10cm×10cmサイズのシートを作成し、これを測定に供した。
硬化物は、実施例1に記載の手法により離型PETフィルム上から剥がしたものを10cm×10cmのサイズにカットし、これを測定に供した。
【0100】
<溶液状態>
目視観察により、液の均一性及び流動性で判定した。
○:液状態が均一であり、容器を傾けると液面が速やかに流動する状態
△:液状態は均一ではないが、容器を傾けると液面は速やかに流動する状態
×:液状態は均一でなく、容器を傾けた程度では流動しない状態
【0101】
<塗工膜状態>
目視観察により、気泡、ダマ、塗り残し及び弾きの有無で判定した。
○:気泡、ダマ、塗り残し及び弾きがナシ
△:気泡、ダマ、塗り残し及び弾きが僅かにアリ
×:気泡、ダマ、塗り残し及び弾きが多くアリ
【0102】
<硬化膜状態>
目視観察により、気泡、ダマ、塗り残し及び弾きの有無で判定した。
○:気泡、ダマ、塗り残し及び弾きがナシ
△:気泡、ダマ、塗り残し及び弾きが僅かにアリ
×:気泡、ダマ、塗り残し及び弾きが多くアリ
【0103】
<原材料>
[環状ポリオレフィン]
・a-1:
環状ポリオレフィンとして、三菱ケミカル(株)製ゼラスMC930を用い、これと無水マレイン酸及び有機過酸化物(日本油脂(株)製:パーヘキサ25B(2,5?ジメチル?2,5?ジ(t?ブチルパーオキシ)ヘキサン))を、環状ポリオレフィン100質量部に対して無水マレイン酸を1.3質量部、有機過酸化物0.0065質量部となる配合比率にてよく攪拌した後、二軸押出機(日本製鋼(株)製、TEX25αIII)を使用し、シリンダー温度280℃、スクリュー回転数400rpm、吐出量10kg/hで溶融混練し、押出された溶融ストランドを水冷、カッティングすることにより、変性環状ポリオレフィンa-1を得た。得られたa-1の物性を表1に示す。
【0104】
[変性環状ポリオレフィン]
・A-1:
無水マレイン酸の配合量を1.0質量部、有機過酸化物の配合量を2質量部とすること以外はa-1と同様にして、変性環状ポリオレフィンA-1を得た。A-1の物性を表1に示す。
【0105】
・A-2:
a-1を100質量部、パーヘキサ25Bを1質量部の配合比率でよく攪拌した後、a-1と同様にして変性環状ポリオレフィンA-2を得た。A-2の物性を表1に示す。
【0106】
・a-2:
環状ポリオレフィンとして三菱ケミカル(株)製ゼラスMC930を、変性処理せずにそのまま使用した。a-2の物性を表1に示す。
【0107】
・a-3:
スチレン-ブタジエンブロック共重合体水素化物のマレイン酸変性体として、旭化成(株)製タフテックM1943を用いた。
a-3は、ポリオレフィンのマレイン酸変性体であるが、原料となるポリオレフィンの芳香族ビニルポリマーブロック単位が水素化されていないものである。a-3の物性を表1に示す。
【0108】
【表1】
【0109】
[熱硬化性樹脂]
・B-1:
三菱ケミカル(株)製:商品名「jER YX7700」(キシレノール骨格含有ノボラック型エポキシ樹脂、エポキシ当量:271g/当量、Mn:660、1分子中の平均エポキシ基数:2.4個);85g、安息香酸-2-ナフチル(活性当量:248g/当量);38.41g、4-(ジメチルアミノ)ピリジン;0.01gを撹拌機付き反応容器に入れ、窒素ガス雰囲気下で、反応温度140℃、反応時間6時間で反応を行ない、固形状態のエポキシ樹脂を得た。得られたエポキシ樹脂を用いた。
【0110】
・B-2:
三菱ケミカル(株)製:商品名「jER1007」(ビスフェノール-A型エポキシ樹脂、エポキシ当量:2000g/当量、Mn:2900)を用いた。
【0111】
[硬化剤]
・C-1:
住友化学(株)製:商品名「ユニファイアー W575」(官能基等量:220g/等量、数平均分子量;3500)を用いた。
【0112】
・C-2:
群栄化学工業(株)製:「PSM-4261」(フェノール樹脂)を用いた。
【0113】
[触媒]
四国化成工業(株)製:商品名「キュアゾール 2E4MZ」(イミダゾール系エポキシ樹脂硬化促進剤)を用いた。
【0114】
<実施例1>
表2に従い、変性環状ポリオレフィンA-1を5g、熱硬化性樹脂B-1を9g、溶媒としてトルエン68mL、メチルエチルケトン(MEK)16.3gを200mLのセパラブルフラスコに入れ、攪拌しながら60℃へ加熱し、溶液とした。次に液温を40℃まで低下させ、硬化剤C-2を1.65g投入し、攪拌しながら全て溶解したら触媒0.05gを投入し、更に20分攪拌溶解させた。
得られた溶液を離型PETフィルム(東レフィルム加工(株)製、セラピールPJ271)の離型面上にコート厚10ミルで塗工し、溶媒をドライヤーで除去した後にオーブン中にて160℃、2時間加熱処理を行ない、硬化処理を行なった。
得られた膜を離型PETフィルムより剥離し、誘電正接を測定した。結果を表2に示す。
【0115】
<実施例2>
硬化剤としてC-1を用い、溶媒としてはトルエンのみを用いる他は実施例1と同様にし、但し表2記載の比率にて溶液を作成し、同様にして誘電正接を測定した。
【0116】
<実施例3>
変性環状ポリオレフィンとしてA-2を用いる他は実施例2と同様にし、但し表2記載の比率にて溶液を作成し、同様にして誘電正接を測定した。
【0117】
<比較例1>
変性環状ポリオレフィンは用いず、表2記載の比率で溶液を作成し、実施例1と同様にして誘電正接を測定した。
【0118】
<比較例2>
熱硬化性樹脂としてB-2を用い、硬化剤としてC-2を用いる他は比較例1と同様にし、但し表2記載の比率にて溶液を作成し、同様にして誘電正接を測定した。
【0119】
<比較例3>
変性環状ポリオレフィンとしてa-1を用いる他は実施例2と同様にして溶液を作成し、硬化膜を作成した。得られた硬化膜は脆く、離型PETフィルムから剥離する際に粉々に割れてしまい、誘電正接を測定することができなかった。
【0120】
<比較例4>
変性環状ポリオレフィンとしてA-1の代わりにa-2を用いる他は実施例2と同様にして溶液を作成し、硬化膜を作成した。得られた硬化膜は脆く、離型PETフィルムから剥離する際に粉々に割れてしまい、誘電正接を測定することができなかった。
【0121】
<比較例5>
変性環状ポリオレフィンとしてA-1の代わりにa-3を用いる他は実施例2と同様にして溶液を作成した。離型PETフィルム上に塗工しようとしたが、溶液はゲル化して不均一となり、塗工することができなかった。
【0122】
【表2】
【0123】
<結果>
これらの結果から、水素化が不十分な芳香族ビニルポリマーブロック単位を有するブロックコポリマー(a-3:比較例5)、水素化が十分な環状ポリオレフィンであっても酸変性がなされていないもの(a-2:比較例4)、及び、酸変性された環状ポリオレフィンであってもMwが大きすぎるもの(a-1:比較例3)では、熱硬化性樹脂との組成物では良好な硬化膜を得られないことがわかった。
【0124】
これに対して、Mwの制御された変性環状ポリオレフィンを用いた熱硬化性樹脂組成物(実施例1及び2)は、誘電損失が大幅に改良された熱硬化膜を与えることがわかった。