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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-04
(45)【発行日】2023-12-12
(54)【発明の名称】荷電粒子線装置
(51)【国際特許分類】
   H01J 37/22 20060101AFI20231205BHJP
   H01J 37/244 20060101ALI20231205BHJP
   H01J 37/28 20060101ALI20231205BHJP
【FI】
H01J37/22 502H
H01J37/244
H01J37/28 B
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020065591
(22)【出願日】2020-04-01
(65)【公開番号】P2021163664
(43)【公開日】2021-10-11
【審査請求日】2023-01-13
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】備前 香織
(72)【発明者】
【氏名】水原 譲
(72)【発明者】
【氏名】山崎 実
(72)【発明者】
【氏名】備前 大輔
(72)【発明者】
【氏名】高橋 範次
【審査官】植木 隆和
(56)【参考文献】
【文献】特表平09-507331(JP,A)
【文献】特開2011-119446(JP,A)
【文献】特開2011-247808(JP,A)
【文献】特開2019-169406(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/22
H01J 37/244
H01J 37/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子線を試料に照射する線源と、前記試料から放出される二次荷電粒子の角度弁別に用いられる開口を有する絞りと、前記絞りよりも前記試料の側に設けられ前記絞りに前記二次荷電粒子が衝突することにより発生する前記二次荷電粒子の一部を検出する第一検出器と、前記絞りよりも前記線源の側に設けられ前記開口を通過する二次荷電粒子を検出する第二検出器と、前記第一検出器から出力される第一信号または前記第二検出器から出力される第二信号に基づいて画像を生成する画像生成部を備える荷電粒子線装置であって、
平坦な表面を有する試料である校正試料に対する前記第一信号または前記第二信号に基づいて視野内の位置毎に合成比率を算出する合成比率算出部をさらに備え、
前記画像生成部は、観察試料に対する前記第一信号と前記第二信号とを前記合成比率を用いて合成することにより合成画像を生成することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項2】
請求項1に記載の荷電粒子線装置であって、
前記合成比率算出部は、前記校正試料に対する前記第一信号または前記第二信号の分布を、指定の関数で近似して得られる近似関数を用いて前記合成比率を算出することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項3】
請求項2に記載の荷電粒子線装置であって、
前記合成比率算出部は、前記近似関数を前記試料の種類毎または観察条件毎に算出することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項4】
請求項3に記載の荷電粒子線装置であって、
記試料に対する観察条件の設定に用いられる画面が表示される入出力部をさらに備え、
前記画面は、前記試料の種類毎または観察条件毎に前記近似関数を算出するか否かが設定される校正可否設定部を有することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項5】
請求項2に記載の荷電粒子線装置であって、
前記試料と前記第一検出器との間に前記二次荷電粒子の軌道を制御するための軌道制御レンズと、
予め定められた基準関数と前記近似関数との差異が閾値以下になるように前記軌道制御レンズのレンズ強度を制御するレンズ強度制御部をさらに備えることを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項6】
請求項5に記載の荷電粒子線装置であって、
前記基準関数の設定に用いられる入出力部をさらに備えることを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項7】
請求項2に記載の荷電粒子線装置であって、
前記指定の関数はガウス関数であることを特徴とする荷電粒子線装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は荷電粒子線装置に係り、特に視野内の画質が均一な合成画像を生成する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
荷電粒子線装置は、電子線等の荷電粒子線を試料に照射することによって試料から放出される二次電子等の二次荷電粒子を検出し、試料の微細な構造を観察するための画像を生成する装置であり、半導体の製造工程等に用いられる。微細化にともなって多層化された半導体では、下層から放出される二次電子が側壁に阻まれて検出されにくくなるため、下層の形状が不明瞭な画像が生成される場合がある。
【0003】
特許文献1には、放出される方向に応じて二次電子を選択的に検出することで角度弁別し、下層の形状が明瞭な画像を生成することが開示されている。特に、試料に照射される電子線が通過する開口を用いて二次電子を角度弁別するにあたり、開口に向けて電子線に沿うように二つの偏向器で二次電子を偏向することにより、開口の上下に設けられる各検出器の検出効率を向上させている。また、上下の検出器で検出された結果に基づいて生成された二つの画像の明るさを乗除算し、一方の画像から他方の画像を減算することで、所望の観察位置における明るさのダイナミックレンジが広げられた合成画像が生成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5948084号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら特許文献1では、合成画像の生成に用いられる合成比率が視野内の位置に依らず一定である。角度弁別に用いられる開口の上下に設けられる各検出器の検出効率は視野内に位置によって異なるので、角度弁別された二つの画像を位置に依らず一定である合成比率を用いて生成される合成画像では視野内の画質が不均一になる場合がある。
【0006】
そこで本発明は、視野内の画質が均一な合成画像を生成可能な荷電粒子線装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために本発明は、荷電粒子線を試料に照射する線源と、前記試料から放出される二次荷電粒子の角度弁別に用いられる開口を有する絞りと、前記絞りよりも前記試料の側に設けられ前記二次荷電粒子の一部を検出する第一検出器と、前記絞りよりも前記線源の側に設けられ前記開口を通過する二次荷電粒子を検出する第二検出器と、前記第一検出器から出力される第一信号または前記第二検出器から出力される第二信号に基づいて画像を生成する画像生成部を備える荷電粒子線装置であって、平坦な表面を有する試料である校正試料に対する前記第一信号または前記第二信号に基づいて視野内の位置毎に合成比率を算出する合成比率算出部をさらに備え、前記画像生成部は、観察試料に対する前記第一信号と前記第二信号とを前記合成比率を用いて合成することにより合成画像を生成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、視野内の画質が均一な画像を生成可能な荷電粒子線装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施例1に係わる走査電子顕微鏡の一例の概略図である。
図2】第一検出器及び第二検出器の出力に基づいて生成される画像の一例を示す図である。
図3】実施例1に係わる合成比率を算出する処理の流れを示す図である。
図4】画像に対する座標系について説明する図である。
図5】実施例1に係わる合成画像の生成処理の流れを示す図である。
図6】合成比率のマップの一例を示す図である。
図7】実施例2に係わる走査電子顕微鏡の一例の概略図である。
図8】実施例2に係わる走査電子顕微鏡の他の例の概略図である。
図9】実施例2に係わる合成比率を算出する処理の流れを示す図である。
図10】実施例3に係わるGUIを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して、本発明の荷電粒子線装置の実施例について説明する。荷電粒子線装置は、荷電粒子線が照射される試料から放出される二次荷電粒子を検出することによって、試料を観察する装置である。以下では、荷電粒子線装置の一例として、電子線で試料を走査することにより試料を観察するための画像を生成する走査電子顕微鏡(SEM;Scanning Electron Microscope)について説明する。
【実施例1】
【0011】
図1を用いて本実施例の走査電子顕微鏡の全体構成について説明する。図1中の鉛直方向をZ方向、水平方向をX方向及びY方向とする。走査電子顕微鏡は、電子線で試料を走査する電子線光学系と、真空中で試料を保持するステージ機構系と、電子線の走査によって試料から放出される二次電子を検出する検出系と、各部から出力されるデータを処理するとともに各部を制御する制御系を備える。
【0012】
電子線光学系は、電子線源101、対物レンズ103、偏向器104、シャッター120を有する。電子線源101は、所定の加速電圧によって加速された一次電子線102を試料105に照射する線源である。対物レンズ103は一次電子線102を試料105の表面で収束させるレンズである。偏向器104は、試料105の表面を走査するために一次電子線102を偏向させる磁界や電界を発生させるコイルや電極である。なお、電子線源101と対物レンズ103の中心とを結ぶ直線は光軸121と呼ばれ、偏向器104によって偏向されない一次電子線102は光軸121に沿って試料105へ照射される。シャッター120は、機械的に光軸121を開閉したり、電気的または磁気的に一次電子線102を偏向したりすることにより、試料105への一次電子線102の照射を制御する。
【0013】
ステージ機構系は、可動ステージ106を有する。可動ステージ106は、試料105を保持するとともに、X方向及びY方向に試料105を移動させる。可動ステージ106に保持される試料105には、接地電圧よりも低い負電圧が印加されてもよく、印加される負電圧によって一次電子線102は減速作用を受ける。
【0014】
検出系は、二次電子絞り109、第一検出器111、第二検出器112を有する。二次電子絞り109は、例えば円形の開口109aを有する金属板であり、試料105から放出される二次電子108の一部が開口109aを通過する。開口109aを通過する二次電子108は、試料105から放出される方向と光軸121とのなす角度が比較的小さいので、開口109aを通過するか否かによって二次電子108が角度弁別される。すなわち開口109aは、試料105から放出される二次電子108の角度弁別に用いられる。なお開口109aの位置を光軸121に一致させて一次電子線102が開口109aを通過できるようにしても良いし、一次電子線102が通過する孔とは別に二次電子108の角度弁別用の開口109aが設けられても良い。以降では、二次電子絞り109の開口109aの位置が光軸121に一致する場合について説明する。
【0015】
第一検出器111は、二次電子絞り109よりも試料105の側に設けられ、二次電子絞り109に二次電子108が衝突することにより発生する三次電子110を検出する検出器である。すなわち第一検出器111は、三次電子110を検出することにより、二次電子絞り109の開口109aを通過しない二次電子108を間接的に検出する。
【0016】
第二検出器112は、二次電子絞り109よりも電子線源101の側に設けられ、開口109aを通過する二次電子108を検出する検出器である。第一検出器111や第二検出器112には、シンチレータ・ライトガイド・光電子増倍管で構成されるE-T検出器や半導体検出器が用いられても良いし、他の構成の検出器が用いられても良い。例えば、円環形状の半導体検出器やMCP(Micro-Channel Plate)で二次電子絞り109を構成することにより、二次電子絞り109を第一検出器111として機能させても良い。
【0017】
制御系は、リターディング制御部107、第一検出器制御部113、第二検出器制御部114、画像生成部115、入出力部116、記憶部117、合成比率算出部118、SEM制御部119を有する。リターディング制御部107は、可動ステージ106の上の試料105に印加される負電圧を制御する回路である。第一検出器制御部113及び第二検出器制御部114は、第一検出器111及び第二検出器112をそれぞれ制御し、ゲインやオフセットを調整する回路である。
【0018】
画像生成部115は、第一検出器111から出力される第一信号または第二検出器112から出力される第二信号に基づいて画像を生成する演算器であり、例えば、MPU(Micro Processing Unit)やGPU(Graphics Processing Unit)等である。
【0019】
入出力部116は、試料105を観察するための条件である観察条件が入力されたり、画像生成部115によって生成される画像が表示されたりする装置であり、例えばキーボードやマウス、タッチパネル、液晶ディスプレイ等である。
【0020】
記憶部117は、各種データやプログラムが記憶される装置であり、例えばHDD(Hard Disk Drive)やSSD(Solid State Drive)等である。記憶部117には、SEM制御部119等によって実行されるプログラムや入出力部116から入力される観察条件、画像生成部115によって生成される画像等が記憶される。
【0021】
合成比率算出部118は、画像生成部115が第一信号と第二信号とを合成して合成画像を生成するときに用いる合成比率を算出する演算器であり、例えばMPU等である。合成比率が算出される処理の流れについては図3を用いて後述される。
【0022】
SEM制御部119は、各部を制御するとともに、各部で生成されるデータを処理したり送信したりする演算器であり、例えばCPU(Central Processing Unit)やMPU等である。
【0023】
図2を用いて、画像生成部115によって生成される画像の一例について説明する。図2には、表面が平坦な試料105から放出された二次電子108を第一検出器111と第二検出器112が検出することによって生成される画像がそれぞれ示される。視野の中心付近から放出される二次電子108は二次電子絞り109の開口109aを通過して第二検出器112で検出されるのに対し、視野の辺縁に向かうに従って二次電子絞り109に衝突して第一検出器111で検出される二次電子108が増加する。その結果、第一検出器111の画像では視野の中心付近が暗く辺縁に向かうに従って明るくなり、第二検出器112の画像では視野の中心付近が明るく辺縁に向かうに従って暗くなる。なお図2に示される二つの画像を単純に加算すると、表面が平坦な試料105であるので、明るさが均一な画像が生成される。
【0024】
本実施例では、多層化された試料105の下層の形状が明瞭であるとともに視野内の画質が均一な合成画像を生成するために、角度弁別によって生成される二つの画像の合成に用いられる合成比率を視野内の位置毎に算出する。視野内の位置毎の合成比率の算出には、平坦な表面を有する試料105である校正試料に対する画像の明るさの分布である輝度分布を表す関数が用いられる。
【0025】
図3を用いて、合成比率の算出に用いられる関数を算出する処理の流れの一例について、ステップ毎に説明する。
【0026】
(S301)
平坦な表面を有する試料105である校正試料が可動ステージ106に保持されて、走査電子顕微鏡に搬入される。なお校正試料は平坦な表面を有するだけでなく、均質な材質であることが好ましい。例えばシリコンのベアウェハが校正試料として用いられる。
【0027】
(S302)
第一検出器制御部113または第二検出器制御部114が、第一検出器111または第二検出器112のゲインとオフセットを調整する。ゲインとオフセットは、画像生成部115によって生成される画像の輝度が上限および下限において飽和しないように調整される。
【0028】
(S303)
シャッター120によって一次電子線102の照射が停止された状態における第一検出器111または第二検出器112からの出力に基づいて、画像生成部115がノイズ画像Img_0を生成する。ノイズ画像Img_0は、第一検出器111または第二検出器112の電気ノイズの成分を表す画像である。生成されたノイズ画像Img_0は、記憶部117に記憶される。
【0029】
(S304)
SEM制御部119はN=1を設定するとともにシャッター120を開き、校正試料への一次電子線102の照射を開始する。なおNは画像の枚数である。
【0030】
(S305)
可動ステージ106は、平坦な表面が視野内に配置されるように、校正試料を移動させる。なおS305からS308のループによって本ステップが複数回繰り返される場合、前回視野内に配置された位置とは異なる位置が視野内に配置されることが好ましい。
【0031】
(S306)
第一検出器111または第二検出器112からの出力に基づいて、画像生成部115が校正試料の画像Img_Nを生成する。生成される画像Img_Nは、図2に例示されるような画像であり、第一検出器111の画像と第二検出器112の画像との少なくとも一方が生成される。なおS305からS308のループによって本ステップが複数回繰り返される場合、前回生成された画像と同じ種類の画像が生成される。すなわち、第一検出器111の画像が前回生成された場合は第一検出器111の画像が今回も生成され、第一検出器111の画像と第二検出器112の画像との二つの画像が前回生成された場合は今回も二つの画像が生成される。生成された画像Img_Nは、記憶部117に記憶される。
【0032】
(S307)
SEM制御部119は、Nの値が予め定められた閾値Nthに達したか否かを判定する。Nの値が閾値Nthに達していなければS308へ処理が進められ、達していればS309へ処理が進められる。
【0033】
(S308)
SEM制御部119は、Nの値に1を加算して更新し、S305へ処理を戻す。
【0034】
(S309)
画像生成部115は、画像Img_1から画像Img_Nthを記憶部から読み出し、画像Img_1から画像Img_Nthまでの平均画像Img_aveを生成する。生成された平均画像Img_aveは、記憶部117に記憶される。平均画像Img_aveでは、一次電子線102の揺らぎ成分や校正試料の平坦度のばらつき等が抑制される。
【0035】
(S310)
画像生成部115は、S303で生成されたノイズ画像Img_0とS309で生成された平均画像Img_aveとの差分画像Img_subを生成する。生成された差分画像Img_subは、記憶部117に記憶される。
【0036】
(S311)
合成比率算出部118は、S310で生成された差分画像Img_subの輝度分布を指定の関数によってフィッティング、すなわち近似して近似関数を得る。指定の関数f(x、y)には、例えば次式に示されるようなガウス関数が用いられる。
【0037】
【数1】
【0038】
ここで、(x、y)の原点は視野の中心すなわち光軸121の位置であり、例えば第一検出器111の画像に対して図4に例示されるような座標系になる。なおx、yの単位は長さであって例えばμmやnmである。またa、b、c、d、e、fはガウス関数の係数であって最小二乗法等を用いたフィッティングによって算出される。フィッティングによって算出された係数a、b、c、d、e、fの値は、記憶部117に記憶される。
【0039】
以上説明した処理の流れによって、指定の関数を特定するために、例えば数1に含まれる係数a、b、c、d、e、fが、校正試料に対する第一検出器111または第二検出器112の画像の輝度分布に基づいて算出される。これらの係数によって特定される指定の関数は、観察対象の試料105である観察試料に対して生成される角度弁別された二つの画像、すなわち観察試料に対する第一検出器111の画像と第二検出器112の画像とを合成する比率である合成比率の算出に用いられる。
【0040】
図5を用いて、観察試料の合成画像を生成する処理の流れの一例について、ステップ毎に説明する。
【0041】
(S501)
観察対象の試料105である観察試料が可動ステージ106に保持されて、走査電子顕微鏡に搬入される。
【0042】
(S502)
SEM制御部119は、観察試料に対する観察条件を取得する。観察条件は、例えば画像の倍率や画素数であり、入出力部116を介して操作者によって入力されたり、観察試料の種類に応じて予め定められる条件が記憶部117から読み出されたりする。
【0043】
(S503)
合成比率算出部118は、図3のS311でのフィッティング結果、例えば係数a、b、c、d、e、fを記憶部117から読み出す。
【0044】
(S504)
合成比率算出部118は、S503で読み出されたフィッティング結果を用いて、視野内の各位置に合成比率がマッピングされた合成比率マップを作成する。指定の関数が数1であるとき、第一検出器111の合成比率マップg(Nx、Ny)及び第二検出器112の合成比率マップh(Nx、Ny)は、例えば次式によって表される。
【0045】
【数2】
【0046】
【数3】
【0047】
ここで、(Nx、Ny)は視野の中心を原点とする座標系における各画素の位置、Pは一画素あたりの長さ、例えば5nm/画素、g(Nx、Ny)及びh(Nx、Ny)の単位は%である。図6に、第一検出器111の合成比率マップg(Nx、Ny)の一例を示す。
【0048】
(S505)
画像生成部115は、S504で作成された合成比率マップを用いて、観察試料に対する第一検出器111の画像と第二検出器112の画像とを合成することにより合成画像を生成する。合成画像の生成には、例えば次式が用いられる。
【0049】
【数4】
【0050】
ここで、Img1(Nx、Ny)は第一検出器111の画像、Img2(Nx、Ny)は第二検出器112の画像、Img12(Nx、Ny)は合成画像である。
【0051】
(S506)
SEM制御部119は、S505で生成された合成画像を、入出力部116に表示させたり、記憶部117に記憶させたりする。
【0052】
以上説明した処理の流れによって、観察試料に対する第一検出器111の画像と第二検出器112の画像、すなわち角度弁別された二つの画像が合成されるので、多層化された試料105の下層の形状が明瞭な合成画像が生成される。また合成画像の生成に用いられる合成比率が、平坦な表面を有する校正試料に対する第一検出器111の画像または第二検出器112の画像に基づいて算出されるので、視野内の画質が均一な合成画像が生成される。
【実施例2】
【0053】
実施例1では、平坦な表面を有する校正試料に対する第一検出器111の画像または第二検出器112の画像の輝度分布を指定の関数で近似して得られる近似関数に基づいて合成比率を算出することについて説明した。本実施例では、第一検出器111の画像または第二検出器112の画像の輝度分布から得られる近似関数の機差を調整する機能を有する走査電子顕微鏡について説明する。
【0054】
図7を用いて、本実施例の走査電子顕微鏡の構成の一例について説明する。なお、実施例1と同じ構成には同じ符号を付与して説明を省略する。本実施例の走査電子顕微鏡は、実施例1の構成に加えて、軌道制御レンズ701とレンズ強度制御部702を備える。
【0055】
軌道制御レンズ701は、試料105と偏向器104との間に設けられ、二次電子108の軌道を制御するための磁界や電界を発生させるコイルや電極である。レンズ強度制御部702は、軌道制御レンズ701によって発生させられる磁界や電界の強度を制御する回路である。二次電子108の軌道を制御するための磁界や電界の強度がレンズ強度制御部702によって制御されることにより、二次電子絞り109の開口109aを通過する二次電子108の分布が変化する。すなわち軌道制御レンズ701とレンズ強度制御部702によって、第一検出器111の画像または第二検出器112の画像の輝度分布が制御されることにより、輝度分布から得られる近似関数が調整される。
【0056】
図8を用いて、本実施例の走査電子顕微鏡の構成の他の例について説明する。図8では、図7の軌道制御レンズ701とは異なり、軌道制御レンズ801が偏向器104と第一検出器111との間に設けられる。なお軌道制御レンズ801も軌道制御レンズ701と同様に、二次電子108の軌道を制御するための磁界や電界を発生させるコイルや電極であり、レンズ強度制御部702によって磁界や電界の強度が制御される。すなわち軌道制御レンズ801とレンズ強度制御部702によって、第一検出器111の画像または第二検出器112の画像の輝度分布から得られる近似関数が調整される。
【0057】
図9を用いて、本実施例における合成比率の算出に用いられる関数を算出する処理の流れの一例について説明する。なお、図3と同じ処理には同じステップ番号を付与して説明を省略する。
【0058】
(S301)~(S311)
実施例1と同様である。
【0059】
(S901)
SEM制御部119は、S311でフィッティングされた結果が基準範囲内であるか否かを判定する。フィッティング結果が基準範囲内でなければS902へ処理が進められ、基準範囲内であれば処理の流れは終了となる。基準範囲内であるか否かは、例えば次式によって判定される。
【0060】
【数5】
【0061】
ここで、Δは予め定められた閾値、f(x、y)はフィッティング結果として得られた近似関数、f0(x、y)は予め定められた基準関数である。基準関数は、記憶部117に予め記憶されたものが必要に応じて読み出されても良いし、入出力部116を介して操作者によって設定されても良い。
【0062】
(S902)
レンズ強度制御部702は、軌道制御レンズ701または軌道制御レンズ801が発生する磁界や電界の強度を設定し、S304へ処理を戻す。なお本ステップで設定される磁界や電界の強度は、数5の右辺の値が小さくなるように設定されることが好ましい。
【0063】
以上説明した処理の流れによって、校正試料に対する第一検出器111の画像または第二検出器112の画像の輝度分布から得られる近似関数の機差を調整することができる。
【実施例3】
【0064】
実施例1では、校正試料の画像の輝度分布に基づいて算出された合成比率を用いて、観察試料の合成画像を生成することについて説明した。観察試料には様々な種類が存在し、観察試料の種類や観察条件に応じて表面の帯電状態が変化する。試料表面の帯電は、二次電子108の軌道を変化させるので角度弁別される画像の輝度分布も変化させる。そこで本実施例では、試料105の種類や観察条件に応じて合成比率を変更することについて説明する。
【0065】
具体的には、試料105の種類や観察条件毎に図3の処理の流れに従って合成比率の算出に用いられる関数f(x、y)が算出され、記憶部117に記憶される。試料105の種類や観察条件毎に算出され、記憶部117に記憶された関数f(x、y)は、観察試料の種類や観察条件に応じて読み出され、合成画像の生成に用いられる。
【0066】
図10を用いて、本実施例に係るGUI(Graphical User Interface)の一例について説明する。図10に例示されるGUIは、試料105の種類や観察条件毎に関数f(x、y)を算出するときに用いられる。なお図10のGUIは、試料名表示部1001、加速電圧表示部1002、プローブ電流表示部1003、倍率表示部1004、走査種類表示部1005、フレーム数表示部1006、合成比率表示部1007、校正可否設定部1008を有する。
【0067】
試料名表示部1001には、試料の種類を表す試料名が表示される。加速電圧表示部1002には、一次電子線102が加速される電圧が表示される。プローブ電流表示部1003には、一次電子線102の電流量が表示される。倍率表示部1004には、画像の倍率が表示される。走査種類表示部1005には、走査種類が表示される。フレーム数表示部1006には、画像のフレーム数が表示される。合成比率表示部1007には、合成比率の代表値、例えば視野の中心における合成比率が表示される。校正可否設定部1008では、図10のGUIに表示される試料105の種類や観察条件に対して関数f(x、y)を算出しなおすか否かが設定される。すなわち、校正可否設定部1008のチェックボックスにチェックが付与されれば、図3の処理の流れに従って関数f(x、y)が算出しなおされ、記憶部117に記憶される。
【0068】
以上説明したように本実施例によれば、試料105の種類や観察条件に応じて、合成比率の算出に用いられる関数f(x、y)が算出されるので、観察試料の帯電状態に応じた合成比率が用いられて合成画像が生成される。その結果、多層化された試料105の表面が帯電した場合であっても、下層の形状が明瞭であって視野内の画質が均一な合成画像が生成される。
【0069】
以上、本発明の複数の実施例について説明した。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれても良い。また上記の実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0070】
101:電子線源、102:一次電子線、103:対物レンズ、104:偏向器、105:試料、106:可動ステージ、107:リターディング制御部、108:二次電子、109:二次電子絞り、109a:開口、110:三次電子、111:第一検出器、112:第二検出器、113:第一検出器制御部、114:第二検出器制御部、115:画像生成部、116:入出力部、117:記憶部、118:合成比率算出部、119:SEM制御部、120:シャッター、121:光軸、701:軌道制御レンズ、702:レンズ強度制御部、801:軌道制御レンズ、1001:試料名表示部、1002:加速電圧表示部、1003:プローブ電流表示部、1004:倍率表示部、1005:走査種類表示部、1006:フレーム数表示部、1007:合成比率表示部、1008:校正可否設定部
図1
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図9
図10