(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-04
(45)【発行日】2023-12-12
(54)【発明の名称】メチルアンモニウムハロゲン化鉛ペロブスカイト量子ドットの製造方法
(51)【国際特許分類】
C09K 11/66 20060101AFI20231205BHJP
B82Y 40/00 20110101ALI20231205BHJP
C07F 7/24 20060101ALI20231205BHJP
【FI】
C09K11/66
B82Y40/00
C07F7/24
(21)【出願番号】P 2020069816
(22)【出願日】2020-04-08
【審査請求日】2022-10-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504133110
【氏名又は名称】国立大学法人電気通信大学
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100147555
【氏名又は名称】伊藤 公一
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100133835
【氏名又は名称】河野 努
(74)【代理人】
【識別番号】100208225
【氏名又は名称】青木 修二郎
(72)【発明者】
【氏名】増田 泰造
(72)【発明者】
【氏名】沈 青
(72)【発明者】
【氏名】丁 超
(72)【発明者】
【氏名】張 耀紅
(72)【発明者】
【氏名】劉 鋒
【審査官】神野 将志
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-536054(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第109835946(CN,A)
【文献】特開2017-142486(JP,A)
【文献】Leimeng Xu et al.,ACS APPLIED MATERIALS & INTERFACES,2019年,11,2100-2108,doi: 10.1021/acsami.9b04761
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F 7/24
C09K 11/66
B82Y 40/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
オレイン酸に溶解することができるPb源、オレイン酸、及び無極性溶媒を含有する、Pb-オレイン酸溶液を提供すること、
酢酸メチルアンモニウム及びオレイン酸を含有する、メチルアンモニウム-オレイン酸溶液を提供すること、
ハロゲン化テトラブチルアンモニウムとオレイルアミンとの反応液を提供すること、並びに
前記Pb-オレイン酸溶液、前記メチルアンモニウム-オレイン酸溶液、及び前記反応液を混合すること、
を含む、メチルアンモニウムハロゲン化鉛ペロブスカイト量子ドットの製造方法。
【請求項2】
Pb-オレイン酸溶液における前記Pb源が、酢酸鉛又は酸化鉛である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
ハロゲン化テトラブチルアンモニウムとオレイルアミンとを混合して、180℃~190℃で加熱することによって前記反応液を得ることを含む、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記Pb-オレイン酸溶液、前記メチルアンモニウム-オレイン酸溶液、及び前記反応液を混合する際に、前記Pb-オレイン酸溶液に前記メチルアンモニウム-オレイン酸溶液及び前記反応液の一方を混合した後に、他方を混合する、請求項1~3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記Pb-オレイン酸溶液に前記反応液を混合する際の、前記反応液の温度が70℃~130℃である、請求項1~4のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記ハロゲン化テトラブチルアンモニウムのハロゲンがClであり、かつ
前記Pb-オレイン酸溶液に前記反応液を混合する際の、前記反応液の温度が70℃~100℃である、請求項1~5のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記ハロゲン化テトラブチルアンモニウムのハロゲンがBrであり、かつ
前記Pb-オレイン酸溶液に前記反応液を混合する際の、前記反応液の温度が115℃~130℃である、請求項1~
5のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項8】
前記ハロゲン化テトラブチルアンモニウムのハロゲンがIであり、かつ
前記Pb-オレイン酸溶液に前記反応液を混合する際の、前記反応液の温度が90℃~110℃である、請求項1~
5のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項9】
前記Pb-オレイン酸溶液、前記メチルアンモニウム-オレイン酸溶液、及び前記反応液を、ホットインジェクション法を用いて混合する、請求項1~8のいずれか一項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、メチルアンモニウムハロゲン化鉛ペロブスカイト量子ドットの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ペロブスカイト量子ドットは、高い発光効率や広い範囲で発光波長が調整できるため、新蛍光材料として近年注目を集め始めている。
【0003】
非特許文献1は、ペロブスカイト量子ドットの一つであるメチルアンモニウムハロゲン鉛量子ドットを製造する方法を開示している。
【0004】
具体的には、非特許文献1は、ホットインジェクション法により、メチルアミン溶液(メチルアミンを溶解したテトラヒドロフラン)を酸化鉛溶液(酸化鉛粉末/オレイン酸/オレイルアミン/オクタデカン混合溶液)中に滴下し、その後ハロゲン源となるベンゾイルハライド溶液(ベンゾイルハライド/オレイン酸/オレイルアミン)を注入することでメチルアンモニウムハロゲン化鉛ペロブスカイト量子ドットを製造できることを記載している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Imran, et al. Benzoyl Halides as Alternative Precursors for the Colloidal Synthesis of Lead-Based Halide Perovskite Nanocrystals, J.Am.Chem. Soc, 2018, 140, 2656-2664
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
非特許文献1が開示する製造方法により製造されたメチルアンモニウムハロゲン化鉛ペロブスカイト量子ドットは、ハロゲンがBrの場合には92%、Iの場合には45%、及びClの場合には5%という発光効率を有している。また、同文献が開示する製造方法により製造されたメチルアンモニウムハロゲン化鉛ペロブスカイト量子ドットは、製造後、数日間発光する。
【0007】
しかしながら、より発光効率が高く、かつより耐久性が高いメチルアンモニウムハロゲン化鉛ペロブスカイト量子ドットを製造することが求められている。
【0008】
本開示は、高い発光効率及び高い耐久性を有するメチルアンモニウムハロゲン化鉛ペロブスカイト量子ドットを製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示者は、以下の手段により上記課題を達成することができることを見出した:
《態様1》
オレイン酸に溶解することができるPb源、オレイン酸、及び無極性溶媒を含有する、Pb-オレイン酸溶液を提供すること、
酢酸メチルアンモニウム及びオレイン酸を含有する、メチルアンモニウム-オレイン酸溶液を提供すること、
ハロゲン化テトラブチルアンモニウムとオレイルアミンとの反応液を提供すること、並びに
前記Pb-オレイン酸溶液、前記メチルアンモニウム-オレイン酸溶液、及び前記反応液を混合すること、
を含む、メチルアンモニウムハロゲン化鉛ペロブスカイト量子ドットの製造方法。
《態様2》
Pb-オレイン酸溶液における前記Pb源が、酢酸鉛又は酸化鉛である、態様1に記載の製造方法。
《態様3》
ハロゲン化テトラブチルアンモニウムとオレイルアミンとを混合して、180℃~190℃で加熱することによって前記反応液を得ることを含む、態様1又は2に記載の製造方法。
《態様4》
前記Pb-オレイン酸溶液、前記メチルアンモニウム-オレイン酸溶液、及び前記反応液を混合する際に、前記Pb-オレイン酸溶液に前記メチルアンモニウム-オレイン酸溶液及び前記反応液の一方を混合した後に、他方を混合する、態様1~3のいずれか一つに記載の製造方法。
《態様5》
前記Pb-オレイン酸溶液に前記反応液を混合する際の、前記反応液の温度が70℃~130℃である、態様1~4のいずれか一つに記載の製造方法。
《態様6》
前記ハロゲン化テトラブチルアンモニウムのハロゲンがClであり、かつ
前記Pb-オレイン酸溶液に前記反応液を混合する際の、前記反応液の温度が70℃~100℃である、態様1~5のいずれか一つに記載の製造方法。
《態様7》
前記ハロゲン化テトラブチルアンモニウムのハロゲンがBrであり、かつ
前記Pb-オレイン酸溶液に前記反応液を混合する際の、前記反応液の温度が115℃~130℃である、態様1~6のいずれか一つに記載の製造方法。
《態様8》
前記ハロゲン化テトラブチルアンモニウムのハロゲンがIであり、かつ
前記Pb-オレイン酸溶液に前記反応液を混合する際の、前記反応液の温度が90℃~110℃である、態様1~7のいずれか一つに記載の製造方法。
《態様9》
前記Pb-オレイン酸溶液、前記メチルアンモニウム-オレイン酸溶液、及び前記反応液を、ホットインジェクション法を用いて混合する、態様1~8のいずれか一つに記載の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、高い発光効率及び高い耐久性を有するメチルアンモニウムハロゲン化鉛ペロブスカイト量子ドットを製造する方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、ハロゲン化テトラブチルアンモニウムとオレイルアミンとの反応式を示す図である。
【
図2】
図2は、本開示の製造方法によって製造された各例の量子ドット溶液の発光効率を測定するために用いた装置の概略図である。
【
図3】
図3は、本開示の製造方法によって製造されたMAPbI
3量子ドットの発光スペクトルを示すグラフである。
【
図4】
図4は、本開示の製造方法によって製造されたMAPbBr
3量子ドットの発光スペクトルを示すグラフである。
【
図5】
図5は、本開示の製造方法によって製造されたMAPbCl
3量子ドットの発光スペクトルを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示の実施の形態について詳述する。なお、本開示は、以下の実施の形態に限定されるのではなく、開示の本旨の範囲内で種々変形して実施できる。
【0013】
なお、本開示において、「量子ドット」と言う場合には、特に断らない限り、メチルアンモニウムハロゲン化鉛ペロブスカイト量子ドットを指すものとする。
【0014】
メチルアンモニウムハロゲン化鉛ペロブスカイト量子ドットを製造する本開示の方法は、
(A)オレイン酸に溶解することができるPb源、オレイン酸、及び無極性溶媒を含有する、Pb-オレイン酸溶液を提供すること、
(B)酢酸メチルアンモニウム及びオレイン酸を含有する、メチルアンモニウム-オレイン酸溶液を提供すること、
(C)ハロゲン化テトラブチルアンモニウムとオレイルアミンとの反応液を提供すること、並びに
(D)Pb-オレイン酸溶液、メチルアンモニウム-オレイン酸溶液、及び反応液を混合すること、
を含む。
【0015】
原理によって限定されるものではないが、本開示の方法によって、高い発光効率及び高い耐久性を有するメチルアンモニウムハロゲン化鉛ペロブスカイト量子ドットを製造することができる原理は、以下のとおりである。
【0016】
一般に、量子ドットは、自身が発光する波長よりも短い波長の光を吸収し、再発光する。そして、吸収した光子の数に対する発光した光子の数の割合が発光効率である。
【0017】
量子ドットによって吸収された光エネルギーの一部は、量子ドット内でキャリアの非発光再結合を起こし熱エネルギー等として失われる場合があり、この損失が、量子ドットの発光効率を低下させる原因の一つである。この損失は、量子ドットの欠陥及び歪を低減させること、及びオレイン酸やオレイルアミン等のリガンドを量子ドット内へ十分に導入することによって低減することができる。
【0018】
また、量子ドットの溶液は、製造方法によっては、製造後数日後には、溶液が透明になり、吸収・発光しなくなる場合、すなわち耐久性が低い場合がある。この原因は、溶液中において量子ドットが凝集し沈殿してしまうためである。したがって、量子ドットの凝集を抑制することにより、量子ドットの耐久性を向上させることができる。
【0019】
この点に関して、非特許文献1が開示する製造方法では、揮発性の高いメチルアミンを用いており、例えば65℃付近という低温で量子ドットの形成を行う必要があるため、得られる量子ドットの欠陥及び歪が多く、また、オレイン酸やオレイルアミン等のリガンドを量子ドット内に十分に導入できない。また、非特許文献1が開示する方法では、メチルアミンを溶解するための溶媒として、極性溶媒であるテトラヒドロフランを用いている。そのため、量子ドットの形成時において、量子ドットが凝集し、かつ/又はリガンドが離脱してしまう。そして、凝集した量子ドットの特性は、その中で一番特性の悪い量子ドットの特性の影響を受ける。
【0020】
これらの原因により、非特許文献1が開示する方法は、量子ドットの発光効率を向上させることが困難である。
【0021】
また、非特許文献1が開示する方法は、極性溶媒であるテトラヒドロフランを用いており、製造された量子ドットは凝集しやすい。なお、極性溶媒であるテトラヒドロフランは、製造された量子ドットを洗浄しても完全に除去することは困難である。また、この洗浄を複数回行うことは、量子ドットの製造コストを増加させる原因にもなる。
【0022】
したがって、非特許文献1が開示する方法は、量子ドットの耐久性を向上させることが困難である。
【0023】
これに対して、本開示の製造方法は、オレイン酸に溶解することができるPb源、オレイン酸、及び無極性溶媒を含有するPb-オレイン酸溶液、酢酸メチルアンモニウム及びオレイン酸を含有するメチルアンモニウム-オレイン酸溶液、並びにハロゲン化テトラブチルアンモニウムとオレイルアミンとの反応液を用いている。これらの溶液は、いずれも100℃以上に加熱しても安定であり、またリガンドとなる分子を含有しており、かつ極性溶媒を含有していない。
【0024】
そのため、これらの溶液を混合して量子ドットを形成する際に、十分に高い温度で調製を行うことができ、かつリガンドを量子ドット内へ十分に導入することが可能である。また、これらの溶液はいずれも極性溶媒を含有していないため、量子ドットの凝集を抑制することができる。
【0025】
したがって、本開示の製造方法により製造された量子ドットは、高い発光効率及び高い耐久性を有する。更に、本開示の製造方法により製造された量子ドットは、無極性溶媒を用いて形成しており、洗浄回数が少なくても凝集が起こりにくいため、製造工程の簡素化による低コスト化が可能である。
【0026】
《工程A》
工程Aは、オレイン酸に溶解することができるPb源、オレイン酸、及び無極性溶媒を含有する、Pb-オレイン酸溶液を提供する工程である。Pb-オレイン酸溶液の提供は、予め調製されたものを用いることによって、又は本開示の製造方法を実施する際に調製することによって行ってもよい。
【0027】
Pb-オレイン酸溶液は、例えばPb源、オレイン酸、及び無極性溶媒を混合することによって調製することができる。Pb-オレイン酸溶液の調製は、例えば窒素雰囲気下で行ってもよい。
【0028】
Pb-オレイン酸溶液を調製する際におけるPb源、オレイン酸、及び無極性溶媒の混合比は、無極性溶媒にPb源及びオレイン酸を溶解することができれば特に限定されないが、例えばPb源1.0molに対してオレイン酸は6.0ml以上、無極性溶媒は20ml以上であってよい。
【0029】
なお、Pb-オレイン酸溶液の調製において、Pb源、オレイン酸、及び無極性溶媒を混合した後に、不純物を除去するために加熱して脱ガス処理を行ってもよい。脱ガス処理は、例えば100℃~150℃で1分~60分行ってもよい。この加熱温度は120℃以上であってよい。
【0030】
脱ガス処理の温度条件は、100℃以上、110℃以上、又は120℃以上であってよく、150℃以下、140℃以下、又は130℃以下であってよい。また、脱ガス処理の時間は、1分以上、10分以上、又は20分以上であってよく、60分以下、40分以下、又は30分以下であってよい。
【0031】
〈Pb源〉
Pb源は、Pbを成分として含有しており、かつオレイン酸に溶解することができる、任意の化合物であってよい。このような化合物としては、例えば酸化鉛又は酢酸鉛を挙げることができる。酢酸鉛は三水和物であってもよい。
【0032】
〈無極性溶媒〉
無極性溶媒は、Pb源及びオレイン酸を溶解させることができる任意の無極性溶媒であってよい。また、無極性溶媒は、本開示の製造方法において、無極性溶媒を用いる工程に要求される温度条件よりも沸点が高く、かつ上記の溶質又は分散質を安定的に溶解し又は分散させることができる任意の無極性溶媒であってよい。この様な無極性溶媒としては、例えば1-オクタデカンを挙げることができる。
【0033】
《工程B》
工程Bは、酢酸メチルアンモニウム及びオレイン酸を含有する、メチルアンモニウム-オレイン酸溶液を提供する工程である。メチルアンモニウム-オレイン酸溶液の提供は、予め調製されたものを用いることによって、又は本開示の製造方法を実施する際に調製することによって行ってもよい。
【0034】
メチルアンモニウム-オレイン酸溶液は、更に無極性溶媒を含有していることができる。無極性溶媒は、酢酸メチルアンモニウム及びオレイン酸を溶解させることができる任意の無極性溶媒であってよい。また、無極性溶媒は、本開示の製造方法において、無極性溶媒を用いる工程に要求される温度条件よりも沸点が高く、かつ上記の溶質又は分散質を安定的に溶解し又は分散させることができる任意の無極性溶媒であってよい。この様な無極性溶媒としては、例えば1-オクタデカンを挙げることができる。
【0035】
メチルアンモニウム-オレイン酸溶液は、例えば酢酸メチルアンモニウム及びオレイン酸、並びに随意に無極性溶媒を混合して加熱することによって調製することができる。メチルアンモニウム-オレイン酸溶液の調製は、例えば窒素雰囲気下で行ってもよい。また、加熱の前に、不純物を除去するために脱ガス処理を行ってもよい。脱ガス処理は、例えば室温で1分~60分行ってもよい。
【0036】
脱ガス処理の温度条件は、0℃以上、10℃以上、又は20℃以上であってよく、30℃以下、25℃以下、又は15℃以下であってよい。また、脱ガス処理の時間は、1分以上、10分以上、又は20分以上であってよく、60分以下、40分以下、又は30分以下であってよい。
【0037】
メチルアンモニウム-オレイン酸溶液の調製において、メチルアンモニウム及びオレイン酸の比は特に限定されないが、例えば酢酸メチルアンモニウム1.0molに対してオレイン酸は6.0ml以上であってよい。
【0038】
メチルアンモニウム-オレイン酸溶液の調製において、加熱温度は酢酸メチルアンモニウムを完全に溶解することができる温度、例えば50℃~100℃であってよい。この加熱温度は70℃以上であってよい。
【0039】
この加熱温度は50℃以上、60℃以上、又は70℃以上であってよく、100℃以下、90℃以下、又は80℃以下であってよい。
【0040】
《工程C》
工程Cは、ハロゲン化テトラブチルアンモニウムとオレイルアミンとの反応液を提供する工程である。この反応液の提供は、予め調製されたものを用いることによって、又は本開示の製造方法を実施する際に調製することによって行ってもよい。
【0041】
この反応液は、無極性溶媒を含有していることができる。無極性溶媒は、ハロゲン化テトラブチルアンモニウム及びオレイルアミンを溶解させることができる任意の無極性溶媒であってよい。また、無極性溶媒は、本開示の製造方法において、無極性溶媒を用いる工程に要求される温度条件よりも沸点が高く、かつ上記の溶質又は分散質を安定的に溶解し又は分散させることができる任意の無極性溶媒であってよい。この様な無極性溶媒としては、例えば1-オクタデカンを挙げることができる。
【0042】
この反応液は、例えばハロゲン化テトラブチルアンモニウム及びオレイルアミンを混合し、加熱してハロゲン化テトラブチルアンモニウムとオレイルアミンとを反応させることによって調製することができる。この加熱温度は、180℃~190℃であってよい。
【0043】
この加熱温度は180℃以上、183℃以上、又は185℃以上であってよく、190℃以下、187℃以下、又は185℃以下であってよい。
【0044】
また、ハロゲン化テトラブチルアンモニウムとオレイルアミンとの反応は、窒素雰囲気下で行ってもよい。
【0045】
また、ハロゲン化テトラブチルアンモニウムとオレイルアミンとの反応を行う前に、不純物を除去するための脱ガス処理を行ってもよい。脱ガス処理は、例えば100℃~150℃で1分~60分行ってもよい。
【0046】
脱ガス処理の温度条件は、100℃以上、110℃以上、又は120℃以上であってよく、150℃以下、140℃以下、又は130℃以下であってよい。また、脱ガス処理の時間は、1分以上、10分以上、又は20分以上であってよく、60分以下、40分以下、又は30分以下であってよい。
【0047】
ハロゲン化テトラブチルアンモニウムとオレイルアミンとの反応は、例えば
図1に示す反応式によって表される反応であってよい。
【0048】
〈ハロゲン化テトラブチルアンモニウム〉
ハロゲン化テトラブチルアンモニウムにおけるハロゲンは、Cl、Br、若しくはI、又はこれらの組み合わせであってよい。Cl、Br、及びIの比率を変えることによって、調製される量子ドットの発光スペクトルを随意調節することができる。
【0049】
《工程D》
工程Dは、Pb-オレイン酸溶液、メチルアンモニウム-オレイン酸溶液、及び反応液を混合する工程である。
【0050】
工程Dは、例えばPb-オレイン酸溶液にメチルアンモニウム-オレイン酸溶液及び反応液の一方を混合した後に、他方を混合することによって行ってよい。また、工程Dは、メチルアンモニウム-オレイン酸溶液及び反応液を先に混合した後に、これらをPb-オレイン酸溶液に混合することによって行ってよい。なお、これらの混合は、窒素雰囲気下で行ってもよい。
【0051】
Pb-オレイン酸溶液、メチルアンモニウム-オレイン酸溶液、及び反応液の混合比は特に限定されない。
【0052】
Pb-オレイン酸溶液にメチルアンモニウム-オレイン酸溶液を混合させる際の温度は、70℃~150℃であってよい。
【0053】
Pb-オレイン酸溶液にメチルアンモニウム-オレイン酸溶液を混合させる際の温度は、70℃以上、90℃以上、又は100℃以上であってよく、150℃以下、130℃以下、又は120℃以下であってよい。
【0054】
また、Pb-オレイン酸溶液に反応液を混合させる際の反応液の温度は、70℃~130℃であってよい。
【0055】
Pb-オレイン酸溶液にメチルアンモニウム-オレイン酸溶液を混合させる際の温度は、70℃以上、90℃以上、又は100℃以上であってよく、130℃以下、120℃以下、又は110℃以下であってよい。
【0056】
ここで、ハロゲン化テトラブチルアンモニウムのハロゲンがClである場合には、Pb-オレイン酸溶液に反応液を混合する際の反応液の温度は、70℃~100℃であってよい。また、ハロゲン化テトラブチルアンモニウムのハロゲンがBrである場合には、Pb-オレイン酸溶液に反応液を混合する際の反応液の温度は、115℃~130℃であってよい。また、ハロゲン化テトラブチルアンモニウムのハロゲンがIである場合には、Pb-オレイン酸溶液に反応液を混合する際の反応液の温度は、90℃~110℃であってよい。
【0057】
工程Dにおいて、Pb-オレイン酸溶液、メチルアンモニウム-オレイン酸溶液、及び反応液を全て混合すると、メチルアンモニウムハロゲン化鉛ペロブスカイト量子ドットが形成される。量子ドットの形成反応は、Pb-オレイン酸溶液、メチルアンモニウム-オレイン酸溶液、及び反応液の混合液を室温又はそれ以下に冷却することによって停止させることができる。
【0058】
量子ドットの形成反応は、5~60秒行った後に停止させてもよい。量子ドットの形成反応は、5秒以上、10秒以上、又は15秒以上行ってもよく、60秒以下、45秒以下、又は30秒以下行ってもよい。
【0059】
なお、工程Dは、例えばホットインジェクション法を用いて行うことができる。より具体的には、加熱されたPb-オレイン酸溶液中に、メチルアンモニウム-オレイン酸溶液及び反応液を噴射注入する方法によって行ってもよい。
【0060】
《その他の工程》
本開示の製造方法は、工程Dの後に、得られた混合液を遠心分離して沈殿物を得る工程(工程E)、及び得られた沈殿物を無極性溶媒に分散させる工程(工程F)を更に含んでいてよい。
【0061】
〈工程E〉
工程Eは、工程Dによって得られた混合液を遠心分離して沈殿物を得る工程である。
【0062】
工程Eを行うことにより、未反応物や不純物等を量子ドットから分離することができ、量子ドット溶液の発光効率及び耐久性等を更に向上させることができる。
【0063】
工程Eにおいて、遠心分離は工程Dによって得られた混合液に対して酢酸メチルを添加して、又は添加せずに遠心分離を行うことによって行ってもよい。また、工程Eにおいて、遠心分離は工程Dによって得られた混合液を一度遠心分離し、得られた沈殿物を無極性溶媒及び酢酸メチルの混合液に分散させ、更に遠心分離することによって行ってもよい。
【0064】
この工程における無極性溶媒は、工程Dによって形成された量子ドットをコロイド状態にて安定的に分散させておくことが可能な任意の無極性溶媒であってよい。この様な無極性溶媒としては、例えばトルエンを挙げることができる。
【0065】
〈工程F〉
工程Fは、工程Eによって得られた沈殿物、すなわち量子ドットを無極性溶媒に分散させる工程である。この工程における無極性溶媒は、量子ドットをコロイド状態にて安定的に分散させておくことが可能な任意の無極性溶媒であってよい。この様な無極性溶媒としては、例えばオクタンを挙げることができる。
【実施例】
【0066】
《実施例1~3》
以下のようにして、実施例1~3の量子ドット溶液を調製し、それぞれの量子ドット溶液の性能を評価した。
【0067】
〈実施例1〉
(Pb-オレイン酸溶液の調整)
50mlフラスコ内に、酢酸鉛三水和物0.74mmol(0.281g)、オレイン酸6ml、及び1-オクタデカン20mlを入れ、酢酸鉛三水和物が完全に溶解するまで混合した。その後、得られた溶液を窒素雰囲気下にて120℃で10分間脱ガス処理することによって不純物を除去して、Pb-オレイン酸溶液を調整した。
【0068】
(メチルアンモニウム-オレイン酸溶液の調整)
50mlフラスコ内に、酢酸メチルアンモニウム5.00mmol(0.521g)及びオレイン酸10mlを入れ、混合して室温にて2分間脱ガス処理することによって不純物を除去した。その後、フラスコ内を窒素ガスで満たして温度を70℃に昇温し、フラスコ内の溶液が完全に透明になるまで、すなわち酢酸メチルアンモニウムがオレイン酸に完全に溶解するまで保持し、その後、室温に戻した。
【0069】
(ヨウ化テトラブチルアンモニウムとオレイルアミンとの反応液の調整)
50mlフラスコ内に、ヨウ化テトラブチルアンモニウム(TBAI)7.30mmol及びオレイン酸10mlを入れ、混合して120℃で10分間脱ガス処理することによって不純物を除去した。その後、窒素雰囲気下にて温度を180℃に昇温し、フラスコ内の溶液が完全に透明になるまで、すなわちヨウ化テトラブチルアンモニウムとオレイルアミンとが完全に反応するまで保持し、その後、室温に戻した。
【0070】
(量子ドット溶液の調整)
ホットインジェクション法にて実施例1の量子ドット溶液を調製した。
【0071】
具体的には、まず調製したPb-オレイン酸溶液を全てフラスコ内に入れ、更に窒素雰囲気下においてヨウ化テトラブチルアンモニウムとオレイルアミンとの反応液を3ml加えつつ、マントルヒーターにて120℃に昇温して30分間保持した。
【0072】
その後、このPb-オレイン酸溶液とヨウ化テトラブチルアンモニウムとオレイルアミンとの反応液との混合液を150℃に変化させ、窒素雰囲気下において60℃に昇温したメチルアンモニウム-オレイン酸溶液6mlを加え、10秒間反応させた後にフラスコ10を氷水に入れて、反応を停止させ、量子ドットを含有する粗量子ドット溶液を調製した。
【0073】
この粗量子ドット溶液の温度が室温まで下がったところで、トルエン1ml及び酢酸メチル5mlを加えて、8000rpmで10分間、遠心分離を行った。
【0074】
得られた沈殿物、すなわち量子ドットを無極性溶媒としてのオクタン5ml中に分散させて、実施例1の量子ドット溶液を調製した。
【0075】
〈実施例2〉
ヨウ化テトラブチルアンモニウムを臭化テトラブチルアンモニウムとしたことを除いて実施例1と同様にして、実施例2の量子ドット溶液を調製した。
【0076】
〈実施例3〉
ヨウ化テトラブチルアンモニウムを塩化テトラブチルアンモニウムとしたことを除いて実施例1と同様にして、実施例3の量子ドット溶液を調製した。
【0077】
《性能の評価》
〈発光効率の評価〉
(方法)
製造直後における各例の量子ドット溶液の発光効率を次の方法で測定した。すなわち、
図2に示すように、励起光源1として、グリーンHe一Neレーザー(543nm pms Electro-Optics LHGR-0050)が用いられ、そのレーザー光が積分球2(Labsphere社、3P GPS-020-SL)内へ、積分球内2に配置される試料溶液3を照射するよう導入された。そして、試料溶液3を透過した光のパワーがパワーメー夕―4(ADVANTEST社:OPTICAL POWER METER TQ8210)にて計測される一方、試料溶液3から放出され積分球2内で反射され集光される光が光ファイバ5を通して、分光計6(Ocean Optics社:FLAME一S)へ導入され、その光量が波長毎(分解能0.33 nm)に単位時間当たり光子数として計測された。そして、分光計6に於ける計測・制御処理は、コンピュータ7にて実行された。ここで、実施例1の量子ドット溶液の励起光の波長は450nm、実施例2及び3の量子ドット溶液の励起光の波長は350nmであった。各例の量子ドット溶液は、フルオロフォアの再吸収を最小限に抑えるために、0.1以下の光学密度(対応する励起波長で)に希釈して測定した。
【0078】
(結果)
各例の量子ドット溶液の評価結果を以下の表1及び
図3~5に示した。なお、表1において、MAPbI
3はメチルアンモニウムヨウ化鉛ペロブスカイト量子ドットを、MAPbBr
3はメチルアンモニウム臭化鉛ペロブスカイト量子ドットを、MAPbCl
3はメチルアンモニウム塩化鉛ペロブスカイト量子ドットを、それぞれ意味している。
【0079】
【0080】
非特許文献1に開示されているように、非特許文献1が開示する方法によって製造された量子ドット、すなわちメチルアンモニウムヨウ化鉛ペロブスカイト量子ドット、メチルアンモニウム臭化鉛ペロブスカイト量子ドット、及びメチルアンモニウム塩化鉛ペロブスカイト量子ドットの溶液の発光効率は、それぞれ順に45%、92%、及び5%であった。
【0081】
これに対して、表1及び
図3~5に示すように、実施例1及び2の量子ドット溶液、すなわちメチルアンモニウムヨウ化鉛ペロブスカイト量子ドット及びメチルアンモニウム臭化鉛ペロブスカイト量子ドットの溶液は、100%の発光効率を有していた。また、実施例3の量子ドット溶液、すなわちメチルアンモニウム塩化鉛ペロブスカイト量子ドットの溶液は、20%の発光効率を有していた。
【0082】
したがって、実施例1~3の量子ドット溶液は、非特許文献1が開示する方法によって製造された量子ドットよりも改善された発光効率を有しているといえる。
【0083】
〈耐久性の評価〉
(方法)
実施例1の量子ドット溶液について、製造後6カ月経過後に、上記の発光効率の評価におけるのと同様の方法を用いて、発光効率を測定した。
【0084】
(結果)
製造後6カ月経過後の実施例1の量子ドット溶液の発光効率は100%であり、製造直後における測定値から変化していなかった。