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特許7396992上皮成長因子受容体に対する親和性が増加した抗体およびそれに由来するフラグメント
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  • 特許-上皮成長因子受容体に対する親和性が増加した抗体およびそれに由来するフラグメント 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-04
(45)【発行日】2023-12-12
(54)【発明の名称】上皮成長因子受容体に対する親和性が増加した抗体およびそれに由来するフラグメント
(51)【国際特許分類】
   C07K 16/28 20060101AFI20231205BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20231205BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20231205BHJP
   C12N 15/13 20060101ALN20231205BHJP
   C12P 21/08 20060101ALN20231205BHJP
【FI】
C07K16/28 ZNA
A61K39/395 N
A61K39/395 T
A61P35/00
C12N15/13
C12P21/08
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020547282
(86)(22)【出願日】2018-11-20
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-02-15
(86)【国際出願番号】 CU2018050004
(87)【国際公開番号】W WO2019105492
(87)【国際公開日】2019-06-06
【審査請求日】2021-11-18
(31)【優先権主張番号】CU-2017-0148
(32)【優先日】2017-11-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CU
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】509352381
【氏名又は名称】セントロ デ インミュノロヒア モレキュラル
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】トゥンディドール カバド ヤイマ
(72)【発明者】
【氏名】ロハス ドランテス ヘルトゥルディス
(72)【発明者】
【氏名】レオン モンソン カレト
【審査官】山本 晋也
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第05891996(US,A)
【文献】国際公開第2006/090930(WO,A1)
【文献】特表2017-514471(JP,A)
【文献】特表2015-533141(JP,A)
【文献】特表2015-510761(JP,A)
【文献】国際公開第2016/207089(WO,A1)
【文献】WARK K L; ET AL,LATEST TECHNOLOGIES FOR THE ENHANCEMENT OF ANTIBODY AFFINITY,ADVANCED DRUG DELIVERY REVIEWS,NL,ELSEVIER,2006年08月07日,VOL:58, NR:5-6,PAGE(S):657 - 670,HTTP://DX.DOI.ORG/10.1016/J.ADDR.2006.01.025
【文献】JANICE M REICHERT,MARKETED THERAPEUTIC ANTIBODIES COMPENDIUM,MABS,2012年05月,VOL:4, NR:3,PAGE(S):413 - 415,http://dx.doi.org/10.4161/mabs.19931
【文献】KIM HYUNG-YONG; ET AL,AFFINITY MATURATION OF MONOCLONAL ANTIBODIES BY MULTI-SITE-DIRECTED MUTAGENESIS,MONOCLONAL ANTIBODIES: METHODS AND PROTOCOLS,米国,2014年,VOL:1131,PAGE(S):407 - 420,http://dx.doi.org/10.1007/978-1-62703-992-5_24
【文献】JUAN C ALMAGRO; ET AL,ANTIBODY ENGINEERING: HUMANIZATION, AFFINITY MATURATION, AND SELECTION TECHNIQUES,THERAPEUTIC MONOCLONAL ANTIBODIES: FROM BENCH TO CLINIC,米国,2009年10月,PAGE(S):311 - 334,http://dx.doi.org/10.1002/9780470485408.ch13
【文献】RENAUT LAURENCE; ET AL,METHODS IN MOLECULAR BIOLOGY,2007年,VOL:907,PAGE(S):1-11,http://dx.doi.org/10.1007/978-1-61779-974-7_26
【文献】E-C BROCKMANN; ET AL,PROTEIN ENGINEERING, DESIGN AND SELECTION,英国,2011年06月16日,VOL:24, NR:9,PAGE(S):691 - 700,http://dx.doi.org/10.1093/protein/gzr023
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N
C07K
UniProt/GeneSeq
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/BIOSIS/EMBASE(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト上皮成長因子受容体(Her1)の細胞外領域を認識する組換えモノクローナル抗体(mAb)であって、重鎖の可変領域のCDR2配列が、
- 配列番号17および
- 配列番号18からなる群から選択され、
これらの重鎖において、CDR1の配列が、配列番号であり、CDR3の配列が、配列番号3であり、軽鎖の可変領域のCDR配列が、
- CDR 1:配列番号22
- CDR 2:配列番号23
- CDR 3:配列番号24であり、
重鎖および軽鎖の可変領域のフレームワーク領域(FW)が、以下の配列を有する:
重鎖
- FW 1:配列番号4
- FW 2:配列番号5
- FW 3:配列番号6
- FW 4:配列番号7
軽鎖
- FW 1:配列番号25
- FW 2:配列番号26
- FW 3:配列番号27
- FW 4:配列番号28
ことを特徴とする、組換えモノクローナル抗体。
【請求項2】
重鎖定常領域の配列が、ヒトIgG1であることを特徴とする、請求項1に記載のモノクローナル抗体。
【請求項3】
軽鎖の定常領域が、ヒトカッパであることを特徴とする、請求項1に記載のモノクローナル抗体。
【請求項4】
Fab型のフラグメントであることを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載のモノクローナル抗体に由来する抗原結合フラグメント。
【請求項5】
(Fab)2型のフラグメントであることを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載のモノクローナル抗体に由来する抗原結合フラグメント。
【請求項6】
一本鎖可変領域フラグメントであることを特徴とする、請求項1に記載のモノクローナル抗体に由来する抗原結合フラグメント。
【請求項7】
活性成分として50~400mgの範囲の請求項1~6のいずれか1項に記載のモノクローナル抗体またはフラグメントと、薬学的に許容されるビヒクルとを有する、がん治療に有用な医薬組成物。
【請求項8】
活性成分として1~9mgの範囲の請求項1~6のいずれか1項に記載のモノクローナル抗体またはフラグメントと、薬学的に許容されるビヒクルとを有する、腫瘍の診断に有用な医薬組成物。
【請求項9】
EGFRを発現する腫瘍の治療法における使用のための、請求項1~6のいずれか1項に記載のモノクローナル抗体またはフラグメントを含む医薬組成物。
【請求項10】
適切なマーカーにコンジュゲートされた場合の、EGFRを有する腫瘍のインビボ診断のための使用のための、請求項1~6のいずれか1項に記載のモノクローナル抗体またはフラグメントを含む医薬組成物。
【請求項11】
免疫学的目的のタンパク質またはタンパク質ドメインにコンジュゲートされた場合の、EGFR陽性腫瘍に対して免疫応答を指向させるための使用のための、請求項1~6のいずれか1項に記載のモノクローナル抗体またはフラグメントを含む医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオテクノロジーおよび医薬の分野に関し、具体的には、重鎖の可変領域のCDR1およびCDR2に変異を有し、ヒト上皮成長因子受容体(hEGFR)の細胞外領域を、より高い親和性で認識する、モノクローナル抗体(mAb)ニモツズマブのバリアントおよびそれに由来する抗原結合フラグメント、ならびにその診断および治療適用に関する。
【背景技術】
【0002】
EGFRは、細胞外リガンド結合領域と、チロシンキナーゼ活性を有する細胞内領域とを有する、膜貫通糖タンパク質である。これらのリガンドとしては、上皮成長因子(EGF)、アンフィレグリン、形質転換成長因子-α、ベータセルリン、エピレグリン、およびヘパリン結合EGFが挙げられる。(Olayioye, M.y et al., The EMBO Journal, 19: 3159-3167, 2000、Yarden, Y. and Sliwkowski, M., Nature Reviews, 2: 127-137, 2001)。受容体へのリガンドの結合により、受容体の二量体化および活性化が引き起こす、細胞外領域における立体構造の変化および配置が誘導される(Ogiso, H. et al., Cell 110: 775-787, 2002)。この受容体は、上皮細胞の維持および生存に寄与する様々な細胞プロセスに関与する。しかしながら、過剰発現または構成的活性化によるEGFR/EGF経路の調節解除は、腫瘍細胞の増殖、侵攻を促進し、さらには多くの悪性腫瘍における予後不良と関連付けられている(Yarden, Y. and Sliwkowski, M., Nature Reviews. 2: 127-137, 2001)。この理由から、EGFRは、抗腫瘍治療薬の開発のための非常に重要な腫瘍関連抗原(Ag)と考えられている。
現在市販されている抗EGFRモノクローナル抗体には、セツキシマブ(Erbitux)、パニツムマブ(Vectibix)、およびニモツズマブ(TheraCIM)の3つが存在し(Reichert, J., MAbs.4: 413-415, 2012)、その他に7つが、第I相~第III相の臨床試験中である(Reichert, J. and Dhimolea, E., Drug Discovery Today, 17: 954-963, 2012)。これらは、EGFRの細胞外領域を認識し、リガンドの結合および受容体の二量体化を競合的に阻害し、したがって、受容体の自己リン酸化およびその活性化をもたらすシグナル伝達カスケードを阻害するように、特別に設計されたものである(Burgess, A. and others, Molecular Cell, 12: 541-552, 2003)。
【0003】
ニモツズマブ(モノクローナル抗体R3)は、ior egf/r3マウスモノクローナル抗体の超可変領域ならびに重鎖および軽鎖の可変領域および定常領域のヒトフレームワーク(それぞれ、REIおよびNEWN)のDNAをクローニングすることによって得られた、IgG1アイソタイプのヒト化モノクローナル抗体である(Mateo, C. et al., Immunotechnology 3: 71-8 1, 1997)。R3モノクローナル抗体は、そのマウス先行物と同様の親和性でEGFRを認識し、EGFが受容体に結合するのを阻害する同じ能力を有する。このバリアントは、モノクローナル抗体ior egf/r3のキメラバージョンよりも免疫原性が低い(Mateo, C. et al., Immunotechnology 3: 71-8 1, 1997)。ニモツズマブは、EGFRの細胞外領域のドメインIIIにおけるリガンドの結合部位とオーバーラップする、ドメインIIIにおけるエピトープを認識するが、このことにより、リガンド結合および後続の受容体活性化を遮断するその能力が説明される(Tundidor, Y. et al., mAbs 6: 1013-1025, 2014)。ニモツズマブの有効性は、頭頸部腫瘍(Crombet, T. et al., J Clin Oncol 22: 1646-1654, 2004)、神経膠腫(Ramos, T. et al., Cancer Biol. Ther.5: 375-379, 2006、MacDonald, T. et al., Neuro Oncol., 13: 1049-1058, 2011)、および食道腫瘍(Ramos-Suzarte, M. et al., Cancer Biology & Therapy 13: 600-605, 2012)を有する患者における臨床試験において実証されている。この抗体(Ab)は、鼻咽頭がん、局所進行性食道がん、および食道扁平上皮細胞癌(Galluzzi, L. et al., OncoImmunology, 1: 28-37, 2012)について、第III相臨床試験中である。
【0004】
EGFRに対する他の抗体とは異なり、ミドリザル、セルコピテカス・エチオプス・サベウス(Cercopithecus aethiops sabaeus)(Arteaga, M. and others, Cancer Biology & Therapy. 6: 1390-1395, 2007)における前臨床研究および臨床研究(Crombet, T. et al., J Clin Oncol 22: 1646-1654, 2004、Ramos, T. et al., Cancer Biol Ther 5: 375-379, 2006、Ramos-Suzarte, M. et al., Cancer Biology & Therapy 13: 600-605, 2012、Strumberg, D. et al., Invest New Drugs, 30: 1138-1143, 2010)の両方において、ニモツズマブでは、通常はこの抗原に対する薬物に付随する重度の毒性の兆候は検出されていない。これらの根拠により、ニモツズマブが、慢性的に使用することができる唯一の抗EGFR剤であることが示唆される(Allan, D., The Oncologist, 10: 760-761, 2005)。このモノクローナル抗体の、抗腫瘍効果はあるが、毒性は低いプロファイルは、その中間的な親和性(10-8)に起因し得る(Crombet, T. et al., J Clin Oncol 22: 1646-1654, 2004)。著者らは、中間的な親和性を有するモノクローナル抗体が、腫瘍(高いEGFR発現)への取り込みが正常組織(低いEGFR発現)への取り込みよりも優先されるため、高い抗腫瘍効果および低い毒性を有するはずであると予測している。一方、高親和性モノクローナル抗体(たとえば、セツキシマブ)は、腫瘍および正常細胞の両方によって捕捉され、低親和性モノクローナル抗体は、腫瘍への取り込みの低さから効果をほとんど有さないであろう(Crombet, T. et al., J Clin Oncol 22: 1646-1654, 2004)。しかしながら、ニモツズマブの抗腫瘍効果は、その有効性が、中等度または低いEGFR発現を有する腫瘍では低減されるため、この受容体の発現に依存することが説明されている(Akashi, Y. et al., British Journal of Cancer, 98: 749-755, 2008)。したがって、受容体に対する親和性に中等度の増加を有するニモツズマブのバリアントを得ることは、抗腫瘍効果がより高いだけでなく、同時に低い毒性を維持する、抗体(Ab)と解釈することができる。ニモツズマブからこの中間的親和性バリアントを得ること、およびその優れたエピトープ特異性(EGFRに対する治療用抗体の中で固有である)を維持することは(Tundidor, Y. et al., mAbs 6: 1013-1025, 2014)、もともとの抗体の貴重な特性を保存することに寄与するであろう。
【0005】
抗体の親和性成熟は、自然に生じるプロセスであるが、しかしながら、コンビナトリアル生物学の発達により、この現象は、研究室において再現されている。これらの指向性進化技術は、変異、ディスプレイ、選択、および増幅の様々なステップを必要とする(Wark, K. and Hudson, P., Advanced Drug Delivery Reviews, 58: 657-670, 2006)。ファージディスプレイ技術は、新規なヒト抗体の生成およびインビトロにおけるその親和性の改善のための強力なプラットフォームを提供する(Hoogenboom, H., Nat Biotechnol, 23: 1105-1116, 2005)。
【0006】
本発明の発明者らは、hEGFRの細胞外領域への結合能力の増加を有する、ファージディスプレイされた変異型ニモツズマブのバリアントを発見した。これらのバリアントを有する変異のセットは、これまでに説明されておらず、また、ニモツズマブの抗原結合フラグメント(Fab)の結晶構造の分析から予測可能なものでもない。したがって、本発明の新規性は、より高い親和性(3~4倍高い)でhEGFRを認識し、そのため、中等度のEGFR発現を有する株をニモツズマブよりも効率的に認識することができる、新規なフラグメントおよびモノクローナル抗体を提供することからなる。同様に、これらのモノクローナル抗体は、ニモツズマブと比較して、リガンドに媒介されるEGFRのリン酸化を阻害するより高い能力を示し、これは、ニモツズマブよりも優れた抗腫瘍効果を有することを示す。上記のすべてが、中間的なEGFR発現を有する腫瘍の診断または治療におけるこれらのフラグメントおよびモノクローナル抗体の使用を支持することを可能にする。
【発明の概要】
【0007】
本発明は、Her1 hEGFRの細胞外領域を認識し、ニモツズマブ抗体に対して95%より高い同一性を有する、組換えモノクローナル抗体に関する。
一実施形態において、それは、重鎖の可変領域の相補性決定領域(CDR)のCDR2の配列が、
- 配列番号20および
- 配列番号21を含む群から選択され、
重鎖のCDR1およびCDR3の配列が、それぞれ、配列番号9および配列番号3であり、軽鎖の可変領域のCDR配列が、
- CDR 1、配列番号22
- CDR 2、配列番号23
- CDR 3、配列番号24である、モノクローナル抗体を指す。
別の実施形態において、本発明の組換えモノクローナル抗体は、重鎖の可変領域のCDR2の配列が、
- 配列番号10、
- 配列番号11、
- 配列番号12、
- 配列番号17、
- 配列番号18、および
- 配列番号29を含む群から選択され、
該重鎖において、CDR1の配列が、配列番号9であり、CDR3の配列が、配列番号3であり、軽鎖の可変領域のCDRの配列が、
- CDR 1、配列番号22、
- CDR 2、配列番号23、
- CDR 3、配列番号24であることを特徴とする。
【0008】
本発明の別の実施形態は、重鎖の可変領域のCDR2配列が、
- 配列番号2および
- 配列番号8を含む群から選択され、
重鎖のCDR1およびCDR3の配列が、それぞれ、配列番号1および配列番号3であり、軽鎖の可変領域のCDR配列が、
- CDR 1、配列番号22、
- CDR 2、配列番号23、
- CDR 3、配列番号24である、モノクローナル抗体に関する。
【0009】
さらなる実施形態において、本発明のモノクローナル抗体は、重鎖の可変領域のCDR1配列が、
- 配列番号13および
- 配列番号19を含む群から選択され、
重鎖のCDR2およびCDR3配列が、それぞれ、配列番号14および配列番号3であり、軽鎖の可変領域のCDR配列が、
- CDR 1、配列番号22
- CDR 2、配列番号23
- CDR 3、配列番号24であることを特徴とする。
具体的には、本発明は、重鎖および軽鎖の以下の可変領域配列
重鎖
- CDR1、配列番号15
- CDR2、配列番号16
- CDR3、配列番号3
軽鎖
- CDR 1、配列番号22
- CDR 2、配列番号23
- CDR 3、配列番号24
を有することを特徴とするモノクローナル抗体に関する。
【0010】
本発明は、重鎖および軽鎖の可変領域のフレームワーク領域(FW)が、以下の配列
重鎖
- FW 1、配列番号4
- FW 2、配列番号5
- FW 3、配列番号6
- FW 4、配列番号7
軽鎖
- FW 1、配列番号25
- FW 2、配列番号26
- FW 3、配列番号27
- FW 4、配列番号28
を有する、すべての前述のモノクローナル抗体を包含する。
加えて、本開示の抗体は、重鎖にヒトIgG1定常領域を含み、軽鎖にヒトカッパを含む。
【0011】
特定の実施形態において、それは、前述の抗体に由来するフラグメントを指し、ここで、該フラグメントは、Fab型、(Fab)2、および一本鎖可変領域フラグメントのものであり得る。
別の実施形態において、本発明は、活性成分として、50~400mgの範囲の開示されるモノクローナル抗体またはフラグメント、ならびに薬学的に許容される担体を有する、がん治療に有用な医薬組成物に関する。加えて、本発明は、活性成分が、1~9mgの範囲の開示されるモノクローナル抗体またはフラグメントであり、薬学的に許容されるビヒクルを含む、腫瘍の診断に有用な医薬組成物に関する。
別の実施形態において、本発明は、EGFRを発現する腫瘍の治療、ならびにそれらが適切なマーカーにコンジュゲートした場合の、EGFRを有する腫瘍の診断における、開示されるモノクローナル抗体およびフラグメントの使用に関する。また、免疫学的目的のタンパク質またはタンパク質ドメインとコンジュゲートされた場合の、EGFR陽性腫瘍に対して免疫応答を指向させるための、これらのモノクローナル抗体およびフラグメントの使用にも関する。
【発明を実施するための形態】
【0012】
ヒトEGFRの細胞外領域への結合能力の増加を有するニモツズマブに由来するフラグメントを得ること
本発明は、ニモツズマブのアミノ酸配列との97%より高い同一性を共有し、hEGFRの細胞外領域に結合する能力の増加を有する、ニモツズマブに由来する13個のフラグメントに関する。本発明において記載されるバリアントの変異により、ニモツズマブのもともとのFabと比較して、中等度のEGFR発現を有するより多くのヒト細胞を認識する能力を有する、ニモツズマブのバリアントの獲得がもたらされる。
本発明において記載されるフラグメントは、107個を上回る繊維状ファージにディスプレイされた分子のライブラリーから、hEGFRの細胞外領域に結合するその能力に起因して、ニモツズマブのFabの変異型バリアントを選択することによって、得ることができる。これらのバリアントに対応する遺伝子を、ファージミド型発現ベクター(繊維状ファージのキャプシドタンパク質をコードする遺伝子のうちの1つに融合したもの)に挿入することができ、タンパク質バリアントが表面上に露出したウイルス粒子の産生に使用することができる。開始ライブラリーは、相補性決定領域(CDR)の位置のセットに異なる程度の多様性を含み得、これにより、抗原-抗体の相互作用に機能的に重要であるこの領域の十分な試験が可能となるであろう。これらの位置にあるもともとの残基のそれぞれを、20個のアミノ酸の混合物によって、いくらかの物理化学的特性、たとえば、疎水性、芳香族特性、正味の電荷、および/もしくはサイズを共有する残基の事前に定義されたセットによって、置き換えることができるか、または、それぞれの対応するコドン位置(これは、もともとの配列の優勢度を維持する)に、わずかな比率のヌクレオチドのランダム混合物を導入することによるソフトランダム化に供することができる。選択される位置は、同じライブラリーにおいて、または複数の別個のライブラリーにおいて、同時に多様化させてもよい。これらのライブラリーは、もともとのニモツズマブFabに対して、保存的または保存的でない、1つまたは複数の変異を有する、変動する比率の分子を含み得る。
【0013】
hEGFRの細胞外領域への結合能力の増加を有する、ニモツズマブの類似体フラグメントおよびモノクローナル抗体の選択
hEGFRの細胞外領域への結合能力の増加を有するバリアントを有するファージの選択は、固体表面に固定化したhEGFR抗原と接触させたライブラリー由来のファージ混合物のインキュベーション、洗浄による未結合ファージの除去、およびタンパク質相互作用に干渉する条件下における結合したファージの溶出に基づき得る。いくつかの連続的な選択サイクルを、同様の条件下において行うことができる。選択したファージミドに挿入されたDNA配列の分析により、規則性が判明し得、これによりEGFR結合能力の増加と関連するであろうもっとも存在度の高い置換の特定がもたらされる。個別の改変であるか、またはライブラリーか直接的に選択された変化の組合せであるかにかかわらず、見出された反復的な変異を、それらの間で組み合わせて、新しいバリアントを形成させ、EGFR結合能力のさらなる増加を得ることができる。
【0014】
ライブラリーから直接的に選択したか、または後で設計および構築された、バリアントのそれぞれの、hEGFRへの結合能力は、複数のバリアントの同時の特徴付けを可能にするファージディスプレイ形式を利用して、免疫化学的技法によって評価することができる。
あるいは、本発明のフラグメントは、コンビナトリアル生物学の他のプラットフォーム、たとえば、リボソームまたは酵母ディスプレイを利用することによって、得ることができる。
加えて、新規な可変領域をコードする遺伝子を、哺乳動物細胞の発現ベクターにクローニングし、新規な変異を含む組換えモノクローナル抗体を産生することができる。この形式の場合、得られたモノクローナル抗体が、表面プラズモン共鳴(BIAcore)に基づく親和性測定を通じて、ニモツズマブと比較して、hEGFRの細胞外領域を優先的に認識する能力を保持することも検証することができる。
【0015】
ニモツズマブに由来する新規なモノクローナル抗体およびフラグメントの機能的優越性の実証
ライブラリーから直接的に選択されたか、または後でフラグメントもしくは完全な抗体の形式で構築された、フラグメントバリアントのそれぞれの機能的優越性は、インビトロまたはインビボのアッセイにおいて、実証することができる。それぞれのバリアントに対して、異なるEGFR発現を有する細胞株の認識を、フローサイトメトリーによって評価し、新規なバリアントが、より高いパーセンテージおよびより高い蛍光平均強度で陽性細胞を認識することを検証することができ、この効果は、中等度または低いEGFR発現を有する株において、より明白である。この目的で、以下の特徴を有する細胞が使用される。
- 高いEGFR発現:ヒト起源の扁平上皮細胞癌のA431、ヒト起源の胸水転移を有する乳房腺癌のMDA-MB-468などであるが、これらに限定されない
- 中等度のEGFR発現:ヒト起源の肺腺癌のH125およびH292であるが、これらに限定されない。
- 低いEGFR発現:ヒト起源の小細胞肺がんのU1906、ヒト起源の乳房腺癌のMDA-MB-231、卵巣癌のSKOV3、乳がんのSKBR3であるが、これらに限定されない。
【0016】
EGFRのリガンド(EGF)によって媒介されるEGFRのリン酸化を阻害する、それぞれのモノクローナル抗体またはフラグメントの能力もまた、異なる濃度および異なるEGFR発現を有する細胞株において、評価することができる。アラマーブルーによる増殖阻害アッセイもまた、異なる受容体発現を有する株に行うことができる。加えて、抗体依存性細胞性細胞毒性を誘導する、それぞれのモノクローナル抗体の能力を、異なる受容体発現を有する株において判定することができる。すべての事例において、より高い親和性のバリアントが、より高い効果を示すこと、およびそれが、中等度または低いEGFR発現を有する株において、より明白であろうことが、予測され得る。
一方で、異なるEGFR発現を有するヒト腫瘍を保持する無胸腺マウスにおけるモノクローナル抗体またはフラグメントの抗腫瘍効果を、測定することができ、その場合、腫瘍成長における遅延が、測定されるであろう。
加えて、フラグメントまたはモノクローナル抗体を、放射性同位体またはフルオロフォアで標識し、異なるEGFR発現を有するヒト腫瘍を保持する無胸腺マウスに植え付けることができる。これにより、インビボで腫瘍認識を検出するフラグメントの能力の評価が可能となり、これにより、画像を得ることによるがんの診断のためのツールとしての使用が支持される。
【0017】
新規なモノクローナル抗体およびそれに由来するフラグメントの治療適用および処置の方法
本発明において得られる新規なモノクローナル抗体およびフラグメントは、ニモツズマブよりも高い親和性を有するため、それらを、ニモツズマブでは制限を有する状況、たとえば、低いかまたは中間的なEGFR発現を有する細胞において、使用することが可能である。該モノクローナル抗体は、頭頸部腫瘍、神経膠腫、食道、肺、および膵臓を有する患者の処置において使用することができる。
治療的使用については、モノクローナル抗体およびフラグメントは、疾患を有する対象に、独立して、またはがんの処置のための従来的な治療法、たとえば、放射線療法もしくは化学療法と組み合わせてその治療作用を増強するために、投与されるものとする。投与の経路は、薬物の非経口投与のための当該技術分野において説明されているもののうちのいずれか、好ましくは、静脈内または皮下経路によるものであり得る。
【0018】
所望される治療効果を得るために、本発明のモノクローナル抗体およびフラグメントは、毒性が顕在化することなく、抗腫瘍効果をもたらす濃度範囲の用量で、投与されるべきである。試験しようとする用量範囲は、6回の週ごとの処置サイクルにおいて、患者当たり、50mg~400mgで変動し得る。より高い親和性を有する新規なバリアントでの処置は、ニモツズマブのものよりも低い用量を投与し、ニモツズマブと同様の効果を維持するように調節することができるか、またはニモツズマブの推奨用量(200mg)を使用して、より高い抗腫瘍効果を示すこともできるが、これは、新規なモノクローナル抗体およびフラグメントの毒性プロファイルに依存するであろう。
本発明のモノクローナル抗体およびフラグメントは、それらを、放射性同位体またはフルオロフォアとコンジュゲートすることによって、EGFR陽性腫瘍の診断のための用途を有し得るが、これは、それらが、中等度または低いEGFR発現を有する細胞を認識するより高い親和性および能力を有するためであり、これは、この特性を有する腫瘍の診断において、ニモツズマブと比較して有利である。
【0019】
検出ツールとして使用するために、これらのモノクローナル抗体およびフラグメントは、腫瘍を保持する患者に投与され、イメージングにより、腫瘍または可能性としてEGFR陽性転移の位置が特定される。放射性同位体またはフルオロフォアにコンジュゲートされたモノクローナル抗体およびフラグメントは、組織における分布およびそれらの排出の動態により、高速で高品質な画像を得ることが可能となる濃度範囲の用量で、投与されるべきである。この範囲は、患者当たり0.5mg~9mg、好ましくは、3mgであり得る。
加えて、本発明において記載されるフラグメントは、EGFR陽性腫瘍細胞に対して免疫応答を指向させる目的で、免疫学的目的のタンパク質またはタンパク質ドメインに融合させることができる。この適用は、腫瘍部位に応答を集中させることによって、両方の治療法の能力を別個に組み合わせる利点を有する。Fabフラグメントが、抗原を発現する腫瘍細胞に対する特異性を提供し、一方で、タンパク質または融合されたタンパク質ドメインが、免疫学的役割を果たし、これが、単剤療法よりも優れた効果を有し得る。
【0020】
医薬組成物
本発明において記載されるモノクローナル抗体およびフラグメントは、がん治療に有用な医薬組成物の一部として投与される。好ましくは、本発明は、薬学的に許容される担体を含む、医薬組成物を包含する。薬学的に許容される担体としては、生理食塩水、リン酸緩衝食塩水、および類似物が挙げられるが、これらに限定されない。患者への投与に好適な他の緩衝剤、分散剤、および非毒性不活性物質が、本発明の組成物に含まれてもよい。組成物は、通常、滅菌であり、望ましくない粒子を含まない。
本発明は、さらに、以下の実施例および図面とともに詳述される。しかしながら、これらの実施例は、本発明の範囲を制限すると解釈されるべきではない。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】繊維状ファージにディスプレイされたFabR3の認識に関するELISAによる評価。精製したファージの様々な調製物を、1012個のウイルス粒子/mlに等しい濃度に調節した。吸光度を、490nmで測定した。
図2】ヒトEGFRの細胞外領域に対する3回の選択の後の、FabR3ライブラリーのファージ混合物の反応性に関するELISAによる評価。様々な精製したファージ調製物を、1011個のウイルス粒子/mlに等しい濃度に調節した。吸光度を、490nmで測定した。
図3】ヒトEGFRの細胞外領域に対する3回のライブラリー選択の後の、ニモツズマブおよび固有の配列を有するFabR3の11個のバリアントの重鎖可変領域(VH)の3つのCDRのアミノ酸配列のアライメント。ダッシュ記号は、もともとのアミノ酸がその位置において維持されたことを示す。配列が繰り返されている回数を、丸括弧内に示す。
図4】ヒトEGFRの細胞外領域に対する3回の選択の後の、ソフトランダム化ライブラリーから得られた固有の配列を有するファージにディスプレイされたFabR3バリアントの認識に関するELISAによる評価。ファージ調製物は、事前に、ディスプレイされたタンパク質の量により正規化した。(A)群1に含まれるバリアントは、VHのCDR2にしか変異を有さない。(B)群2のバリアントは、VHのCDR1およびCDR2に変異を呈する。吸光度を、490nmで測定した。
図5】群1の上位FabR3バリアントのもっとも反復的なCDR1変異およびCDR2変異の組合せにより構築したファージにおけるFabR3のバリアント。(A)もともとのニモツズマブおよび2つの構築されたバリアントのVHの3つのCDRのアミノ酸配列のアライメント。(B)構築されたバリアントの認識に関するELISAによる評価。吸光度を、490nmで測定した。
図6】ニモツズマブ、K4およびK5モノクローナル抗体に由来するFabによるH125株の細胞の認識。(A)ドットプロットグラフは、認識されたEGFR陽性細胞のパーセンテージを示す。(B)蛍光平均強度(EGFR陽性細胞)のヒストグラム。
図7】ニモツズマブならびにK4およびK5モノクローナル抗体によって誘導される、EGFにより媒介されるEGFRリン酸化の阻害。(A)中等度のEGFR発現を有するH125株。(B)高いEGFR発現を有するMDA-MB-468株。
【実施例
【0022】
(実施例1)
ニモツズマブの抗原結合フラグメント(FabR3)のM13繊維状ファージディスプレイの成功
それぞれApaLI/XhoIおよびSfiI/BstEII制限部位が隣接する、ニモツズマブの軽鎖の可変領域(VL)および重鎖の可変領域(VH)をコードする遺伝子を、PCRによって増幅させた。VLおよびVHの両方の遺伝子フラグメントを、pCES1ベクター(Haard, H., Methods in Molecular Biology.178: 87-100, 2002)にクローニングした後、それぞれ、カッパ軽鎖定常領域(CK)および重鎖定常領域(CH1)をコードする遺伝子をクローニングした。CH1領域をコードする遺伝子を、c-mycタグペプチドをコードする遺伝子に連結させた後、遺伝子IIIに連結させた。この遺伝子コンストラクトにより、ニモツズマブに由来する抗原結合フラグメント(FabR3)をコードした。大腸菌種のTG1株のコンピテント細菌に、得られた遺伝子コンストラクトを形質転換し、それを使用して、50mLの規模で、ウイルスキャプシドのP3タンパク質に融合した、ファージにディスプレイされたFabR3を産生させ、それを精製した(Marks, J. et al. J. Mol. Biol. 222: 581-597, 1991)。精製されたファージディスプレイされたこの分子の特異的な認識を、ELISAによって評価した(図1)。これを行うために、ポリスチレンプレート(MaxiSorp、USA)に、ニモツズマブの抗原であるヒトEGFR(Her1)の細胞外領域(Ramirez, B. et al., Int. J. Cancer, 119: 2190-2199, 2006)、抗c-mycタグ9E10モノクローナル抗体(Center of Genetic Engineering and Biotechnology of Sancti Spiritus、Cuba)、および無関係な分子としてBSAをコーティングした。結合したファージを、西洋ワサビペルオキシダーゼ(GE Healthcare、USA)にコンジュゲートした抗M13モノクローナル抗体および対応する酵素の基質で検出した。図1に示されるように、ファージにディスプレイされたFabR3は、ディスプレイレベルを検出する9E10モノクローナル抗体認識によって測定され、Her1を特異的に認識するニモツズマブの能力を保持していたため、適切にフォールディングされていた。
【0023】
(実施例2)
ヒトEGFRの細胞外領域に対してより高い反応性を有する、繊維状ファージによりディスプレイされるFabR3バリアントのフラグメントの選択および特徴付け
ニモツズマブの重鎖の3つのCDR(AbM定義による)の突出するセグメントに位置する25個の残基のソフトランダム化戦略を、設計した。可能性として20個すべてのアミノ酸を含むが、ライブラリーの分子のほとんどにおいてもともとの残基を保持する、混合物によって、それらのうちのほとんど(24/25)を、置き換えた。これを行うために、それぞれの位置の90%においてもともとのヌクレオチドを保存する縮重コドンを導入したが、残りの10%は、他の3つのヌクレオチドの等モル混合物に対応していた。他の残基(F29)は、他の疎水性残基(I、L、M、V)によって置き換えられただけであるが、もともとの残基が、ライブラリーの分子の大半を占めていた。これを行うために、縮重コドンを、もともとのヌクレオチドの90%を維持するトリプレットの1位および3位に使用し(それぞれ、TおよびC)、一方で残りの10%は、他の3つのヌクレオチドの等モル混合物に対応し、トリプレットの2位(T)は、改変させなかった。設計したライブラリーは、可変領域をpCES-1ベクターにクローニングすることによって、Fab形式で構築した。この様式で、1.5×107個のメンバーから構成されるニモツズマブのFabバリアントのライブラリーを構築した。
【0024】
ライブラリーから産生されたファージは、これまでに構築されている手順に従って、ポリエチレングリコールでの沈降によって精製した(Marks, J. et al., J. Mol. Biol. 222: 581-597, 1991)。抗原へのより高い結合能力を有する、機能性ファージによりディスプレイされたFabR3の変異型バリアントを単離するために、ウイルス粒子を、Her1をコーティングしたイムノチューブ(Nunc、Denmark)においてインキュベートした。洗浄して未結合ファージを除去した後、結合したファージを、トリエチルアミンの塩基性溶液とともにインキュベートすることによって、溶出させた。TG1株の細菌に、選択したファージを感染させ、これを、M13KO7ヘルパーファージで増幅させ、新しい回の選択の開始材料として使用した。3回のファージ選択を行い、サイクル数の増加に伴う、ファージ混合物のHer1による反応性の増加を、観察した(図2)。3回目の選択サイクルから得られた、選択したファージミドに挿入された遺伝子のシーケンシングにより、2つの群に分けられる11個の固有な配列が判明した(図3)。第1の群は、CDR2のみがランダム化されたバリアントからなり、第2の群では、CDR1およびCDR2における変異が出現した。
【0025】
(実施例3)
hEGFRの細胞外領域による、新規な繊維状ファージによりディスプレイされたFabR3バリアントの反応性の増加の実証
大腸菌TG1株のコンピテント細菌に、3回の選択の後に回収した、もともとのニモツズマブのものとは異なる固有な配列を含む、遺伝子コンストラクトを形質転換した。これらの配列から、ファージにディスプレイされたFabR3バリアントを、産生させ、精製した。Her1によるこれらの新規なバリアントの反応性を判定するために、異なる濃度のウイルス粒子でのファージ調製物の認識を、ELISAによって判定した。6つがCDR2にのみ変異を有し(図4A)、5つがCDR1およびCDR2に変異を有する(図4B)、評価したすべてのバリアントが、評価した様々な濃度において、もともとのFabR3よりも高いHer1に対する反応性を示した。加えて、反応性がもっとも増加したCDR2変異を、もっとも反復性の高いCDR1変異と組み合わせた、2つの新規なバリアントを、Kunkel変異生成によって構築した(図5A)。これらの新規なバリアントの認識を、ELISAによって評価した。変異の組合せは、両方のバリアントが、もともとのファージにディスプレイされたFabR3よりも高いHer1に対する反応性を示したため、適合性があった(図5B)。
【0026】
(実施例4)
哺乳動物細胞において可溶性タンパク質として産生された新規なニモツズマブのバリアントの親和性の増加の実証
ニモツズマブ(R3モノクローナル抗体)のもともとのVH、ならびに実施例3に記載されるようなCDR1およびCDR2に変異を有する(図5A)K4およびK5と命名された2つの構築されたニモツズマブのバリアントのVH、ならびにニモツズマブのもともとのカッパ軽鎖可変領域(VK)をコードする遺伝子を、哺乳動物発現ベクターpSV-gptおよびpSV-hygに、それぞれ、クローニングした(Orlandi, R. et al., PNAS: 3833-3837, 1989)。目的の遺伝子を有するベクターを、Pvu I酵素により線形化し、エタノールの存在下において沈降させた。リン酸緩衝食塩水中で再構成されたDNAを使用して、NS0細胞を電気穿孔した。R3、K4、およびK5モノクローナル抗体を産生するクローンを得るために、対応するVHを有するpSV-gptベクター4μg(表1)およびもともとのニモツズマブのpSV-hyg-VKベクター8μgを、コトランスフェクトした。安定なクローンを得るための手順を、キサンチン、ヒポキサンチン、およびミコフェノール酸を選択薬として用いて実行した。この手法により、目的とされる3つの分子を、IgG1アイソタイプおよび軽鎖カッパの抗体として得ることが可能となった。産生された抗体を、プロテインA親和性クロマトグラフィーによって、上清から精製した。
【0027】
【表1】
ファージにおいて得られた変異が、その形式で、Her1に対してより高い反応性を示し、完全な抗体におけるものと同じ効果を引き起こしたことを示すために、Biacoreによって親和性を測定することに決定した。まず、R3、K4、およびK5モノクローナル抗体に由来するFabを、パパインで酵素消化し、続いて、プロテインAにより分離することによって、得た。表2に示されるように、新規なK4およびK5モノクローナル抗体は、モノクローナル抗体R3と比べて、それぞれ、親和性の3倍および3.6倍の増加を示した。
【0028】
【表2】
【0029】
(実施例5)
哺乳動物細胞において産生されたK4およびK5モノクローナル抗体に由来するFabは、ニモツズマブに由来するFabよりも高い、H125肺腺癌ヒト細胞株の認識を示した
Her1分子を認識するK4およびK5モノクローナル抗体に由来するFabの能力を、判定した。この事例において、Her1の認識は、細胞株において、その天然の環境で、フローサイトメトリーによって評価した。これを行うために、R3、K4、およびK5モノクローナル抗体に由来するFabを、1.25μg/mlで、中等度の受容体発現を有するH125肺腺癌ヒト細胞株とともにインキュベートした。細胞の膜においてHer1に結合したFabを、フィコエリトリンにコンジュゲートしたマウス抗ヒトカッパ軽鎖モノクローナル抗体で検出した。図6Aにおいて明白なように、K4およびK5モノクローナル抗体に由来するFabは、R3モノクローナル抗体に由来するFabと比較して、より高いパーセンテージのHer1陽性細胞を、より高い蛍光中央値強度(FMI)(図6B)で認識した。
【0030】
(実施例6)
K4およびK5モノクローナル抗体の親和性の増加は、EGFに媒介されるEGFRリン酸化を阻害するこれらの抗体のより高い能力をもたらした
EGFに媒介されるリン酸化を阻害する新規なモノクローナル抗体の能力を判定するために、ウエスタンブロットアッセイを行った。2つの細胞株を使用した。
- 肺腺癌ヒト細胞株H125(中等度のEGFR発現)。
- ヒト起源の胸水転移を有する乳房腺癌のMDA-MB-468(高いEGFR発現)。
【0031】
細胞を、10μg/ml、5μg/ml、および2.5μg/mlのR3、K4、およびK5モノクローナル抗体で、2時間処置した。続いて、培地を除去して、細胞に結合していないモノクローナル抗体を排除し、ヒトEGFを有する新しい培地を、10分間添加して、受容体のリン酸化を誘導した。次に、RIPA緩衝液において、異なる処置に曝露したこれらの細胞からの溶解を行った。タンパク質濃度を、ビシンコニン酸試薬キット(Pierce)の説明に従って、定量化した。ライセート由来のタンパク質25μgを、9% SDS-PAGEゲルに適用し、タンパク質を、ニトロセルロース膜に移した。ウサギ抗pEGFR(Y1068)において産生した一次抗体を使用して、リン酸化EGFR(ホスホ-EGFR)を検出した。タンパク質含量を、HRPフルオロフォアに結合した抗ウサギ二次抗体、続いて、化学発光物質(Pierce)で、視覚化した。グラフは、ホスホ-EGFRで得られたシグナルを示し、これは、細胞ライセート中のこのタンパク質の量を示す。図7において明らかなように、評価したすべての濃度において、K4およびK5モノクローナル抗体は、両方の細胞株において、ニモツズマブと比較して、EGFに媒介されるEGFRリン酸化を阻害する、より高い能力を示した。さらに、評価したもっとも低い濃度において、いずれのモノクローナル抗体も、評価したもっとも高い濃度のニモツズマブ(4倍高い濃度)より高いかまたはそれと同じ効果を有する。すべてのモノクローナル抗体について、阻害は、より高い受容体発現を有するMDA-MB-468株においてはより高かったが(図7B)、低い受容体発現を有する細胞株において、ニモツズマブでは阻害効果の消失が生じるが、K4およびK5モノクローナル抗体の阻害効果は消失されないことに注目することが重要である(図7A)。上記は、ニモツズマブの可変領域に変異を組み込むことにより得られ、そのリガンドに対するより高い親和性およびより高い生物学的活性をもたらす、これらの新規なモノクローナル抗体を使用する利点を提供する。
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5A
図5B
図6
図7
【配列表】
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