(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-04
(45)【発行日】2023-12-12
(54)【発明の名称】細胞障害性薬物の複合体及び前記複合体のプロドラッグの形態
(51)【国際特許分類】
C07H 15/26 20060101AFI20231205BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20231205BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20231205BHJP
A61K 38/05 20060101ALI20231205BHJP
A61K 38/08 20190101ALI20231205BHJP
A61K 38/06 20060101ALI20231205BHJP
A61K 31/4745 20060101ALI20231205BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20231205BHJP
A61K 31/7056 20060101ALI20231205BHJP
A61K 47/60 20170101ALI20231205BHJP
A61K 47/64 20170101ALI20231205BHJP
C07K 14/76 20060101ALN20231205BHJP
C07K 5/027 20060101ALN20231205BHJP
【FI】
C07H15/26 CSP
A61P29/00
A61P35/00
A61K38/05
A61K38/08
A61K38/06
A61K31/4745
A61P43/00 123
A61K31/7056
A61K47/60
A61K47/64
C07K14/76
C07K5/027
(21)【出願番号】P 2021503203
(86)(22)【出願日】2019-04-02
(86)【国際出願番号】 EP2019058226
(87)【国際公開番号】W WO2019192979
(87)【国際公開日】2019-10-10
【審査請求日】2022-02-02
(32)【優先日】2018-04-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】520384976
【氏名又は名称】シンディヴィア
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】オレクサンドル・コニエフ
(72)【発明者】
【氏名】セルギー・コロディッチ
(72)【発明者】
【氏名】ジャン-イヴ・ボヌフォワ
【審査官】吉森 晃
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-532132(JP,A)
【文献】特表2017-506628(JP,A)
【文献】LEGIGAN, T et al.,Synthesis and Antitumor Efficacy of a β-Glucuronidase-Responsive Albumin-Binding Prodrug of Doxorubicin,Journal of Medicinal Chemistry,2012年,Vol.55, No.9,p.4516-4520
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07H
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)
【化1】
[式中、Aは、細胞障害性薬物に由来する基を表し、
Gは、自壊性部分であり、
mは、0又は1である]
により表される複合体であって、
細胞障害性薬物が、アントラサイクリン、ドラスタチン又はカンプトテシンアナログから選択され、
Gは、
【化2】
から選択される式により表され、
複合体が、単一の
鏡像異性体として、純度が90%を超えて存在している、
複合体及び薬学的に許容されるその塩。
【請求項2】
アントラサイクリンが、ドキソルビシンであり、ドラスタチンが、ドラスタチン10、ドラスタチン15、アウリスタチンE、アウリスタチンEB(AEB)、アウリスタチンEFP(AEFP)、モノメチルアウリスタチンF(MMAF)、モノメチルアウリスタチンD(MMAD)、モノメチルアウリスタチンE(MMAE)、5-ベンゾイル吉草酸-AEエステル(AEVB)又はそれらの誘導体から選択され、カンプトテシンアナログが、SN-38である、請求項1に記載の複合体。
【請求項3】
細胞障害性薬物が、SN-38、ドキソルビシン、MMAF、MMAE、MMAD及びそれらの誘導体からなる群から選択される、請求項2に記載の複合体。
【請求項4】
請求項1から
3のいずれか一項に記載の複合体の少なくとも1個の分子を含むプロドラッグであって、複合体の前記分子が、タンパク質分子、又はそのフラグメント若しくは誘導体への共有結合によって連結され、共有結合が、複合体の前記分子のマレイミド基と前記タンパク質分子との間に確立される、プロドラッグ。
【請求項5】
タンパク質分子がアルブミンであり、共有結合が、アルブミンの34位において、システインのチオール官能基で確立される、請求項
4に記載のプロドラッグ。
【請求項6】
式(II)
【化3】
[式中、Aは、細胞障害性薬物に由来する基を表し、
Prtは、タンパク質に由来する基を表し、
nは、0.1から16の間に含まれ、
Gは、自壊性部分であり、
mは、0又は1である]
により表され、
細胞障害性薬物が、アントラサイクリン、ドラスタチン又はカンプトテシンアナログから選択さ
れ、
Gは、
【化4】
から選択される式により表される、
請求項
4に記載のプロドラッグ及び薬学的に許容されるその塩。
【請求項7】
Prtが、アルブミンに由来する基を表し、nが、1である、請求項
6に記載のプロドラッグ。
【請求項8】
請求項1から
3のいずれか一項に記載の少なくとも1種の複合体又は請求項
4から
7のいずれか一項に記載の少なくとも1種のプロドラッグの少なくとも有効量、及び薬学的に許容される担体を含む、医薬組成物。
【請求項9】
がん及び/又は炎症性疾患を処置する上で用いるための、請求項1から
3のいずれか一項に記載の複合体。
【請求項10】
がん及び/又は炎症性疾患を処置する上で用いるための、請求項
4から
7のいずれか一項に記載のプロドラッグ。
【請求項11】
がん及び/又は炎症性疾患を処置する上で用いるための、請求書
8に記載の医薬組成物。
【請求項12】
a)4-ヒドロキシ-3-ニトロベンズアルデヒドからrac-4-(1-ヒドロキシブタ-3-イン-1-イル)-2-ニトロ-フェノールを調製する工程と;
b)(R)-4-(1-ヒドロキシブタ-3-イン-1-イル)-2-ニトロ-フェノールを分離し単離する工程と;
c)塩基条件下で、(R)-4-(1-ヒドロキシブタ-3-イン-1-イル)-2-ニトロ-フェノールを、グルクロン酸誘導体と反応させる工程と;
d)工程(c)において得られた化合物を、4-ニトロフェニルクロロホルマートと反応させる工程と;
e)工程(d)において得られた化合物を、細胞障害性薬物と又はA-G-H部分(Aは、アントラサイクリン、ドラスタチン又はカンプトテシンアナログから選択される細胞障害性薬物に由来する基を表し、Gは、自壊性部分を表す)と結合する工程と;
f)工程(e)において得られた化合物のグルクロニド部分を脱保護する工程と;
g)工程(f)において得られた化合物を、式N
3-(CH
2-CH
2-O)
10-(CH
2)
2-NH-(CO)-(CH
2)
5-X(式中、Xは、マレイミド基である)のアジドと結合させる工程とを含む、請求項1から
3のいずれか一項に記載の複合体を調製するための方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、がん及び炎症性疾患を処置するのに用いるための、細胞障害性薬物の特異的な複合体及び前記複合体のプロドラッグの形態に関する。
【背景技術】
【0002】
がん及び炎症性疾患は、現在では、最も高頻度の病気の1つである。特に、がんは、先進工業国において最も重大な死因の1つであり、がんと診断された人の数は、現在でも増え続けている。
【0003】
いくつかの処置モードは、これまで開発されているが、化学療法は、依然として、循環性腫瘍、例えば、リンパ腫及び白血病等、並びに転移に対して用いることができる唯一のものである。
【0004】
化学療法において、1つの戦略は、チューブリンの重合を阻害し、したがって、細胞分裂を防止することにある(有糸分裂阻害薬)。この戦略は、ドラスタチンファミリーの化合物、特に、天然のドラスタチン10を用いることにより達成することができ、この天然のドラスタチン10は、インド洋アメフラシ(タツナミガイ(Dolabella auricularia))から単離することができ、4種のアミノ酸からなり、そのうち3種は、それに特異的である。ドラスタチン10の合成の誘導体、例えば、アウリスタチンPE、アウリスタチンE及びモノメチルアウリスタチンE(MMAE)等も存在し、効率的な阻害薬であることが証明されている。かかる化合物の主な欠点は、がん細胞に関する選択性の欠如にあり、健康な組織を破壊し、したがって、激しい副作用、例えば、脱毛又は悪心をもたらす。かかる有効な薬剤のタンパク質薬物(protein-drug)複合体の開発は、選択性の欠如を克服するために、洗練された及び効率的な戦略と思われる。
【0005】
タンパク質薬物複合体は、はるかに、非常に強力な、有効な医薬成分の最速の成長クラスである。タンパク質薬物複合体構成物には、一般に、タンパク質、例えば、リンカー基のある末端に共有結合される抗体が関与し、そのもう一方の末端上は、細胞毒、すなわち、非常に強力な、細胞を死滅させる毒素である。生体分子のタンパク質成分は、標的特異性を示す。この複合体が細胞に入った後、毒素は、例えば、細胞酵素の作用により放出される。ほとんどのタンパク質薬物複合体は、実際、がんの処置を対象にしている。市販されているトラスツズマブエムタンシン(T-DM1又はKadcyla(登録商標)とも称される)及びブレンツキシマブベドチン(Adcetris(登録商標))の他に、多くのタンパク質薬物複合体は、現在、様々ながんへの適応についての臨床試験が行われている。
【0006】
かかる複合体の活性のための主な必要条件の1つは、がん細胞による内部移行後の細胞障害性薬物の効率的な放出であり、タンパク質と薬物との間のリンカーは、複合体が、その生物学的標的に達する前に、血液循環において安定するべきである。
【0007】
この点において、酵素により切断可能なリンカーを、複合体構成物に導入することにより、真の飛躍的進歩が達成された。
【0008】
したがって、WO2015/118497は、式(I)
【0009】
【0010】
[式中、Aは、一般的に、MMAEである]のβ-グルクロニダーゼ-反応性アルブミン結合複合体を記載している。そのマレイミド末端部分は、静脈内投与後に、循環アルブミンとの選択的カップリングを提供することが意図されている。グルクロニダーゼ感受性である、グルクロニド部分はまた、その分子中に存在し、自己反応性アームに連結される。アルブミンが、腫瘍に蓄積し、β-グルクロニダーゼが、腫瘍環境中に存在するため、化合物は、腫瘍部位に到達し、そこで、酵素は、グリコシド結合の切断を触媒し、その後、薬物(MMAE)の放出を誘発する。複合体は、2つの異性体の1:1の混合物として存在し、様々な不斉中心は、(式(I)に星形で標識された)自己反応性アーム上にある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】WO2015/118497
【文献】WO2015/063331
【非特許文献】
【0012】
【文献】Polym.Chem.2011年、2巻、773~790頁
【文献】Huseら、1989年、Science、246巻:1274~1281
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明者らは、従来の技法によって分離することができない、上記複合体の2つの異性体が、初期の中間体のHPLC鏡像異性分離から得ることができるということを実証した。2つの単離された異性体によって、特に、ヒト血漿において安定することが証明されたが、様々な不斉中心がR配置を有する異性体は、もう一方よりも酵素の切断速度が速いことを示す。1つの異性体で観察されるこのより速い速度は、不斉中心が、酵素により認識されるファーマコフォアの一部でないことが一層予想外である。このような予想外の特徴は、特に、酵素の発現がより低い患者に有益であり得る。
【0014】
本発明者らはまた、自壊性部分、より詳細には、細胞障害性薬物と複合体の残部との間のこの構造への挿入が、切断される(すなわち、細胞障害性薬物を放出する)その能力を保存しながら、複合体の安定性を増加させることができるということを実証した。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明が関連する前記異性体は、式(I)
【0016】
【0017】
[式中、Aは、細胞障害性薬物に由来する基を表し、
Gは、自壊性部分であり、
mは、0又は1である]
により表される複合体及び薬学的に許容されるその塩である。
【0018】
本発明は、
a)4-ヒドロキシ-3-ニトロベンズアルデヒドからrac-4-(1-ヒドロキシブタ-3-イン-1-イル)-2-ニトロ-フェノールを調製する工程と;
b)好ましくは、キラル高速液体クロマトグラフィーにより、(R)-4-(1-ヒドロキシブタ-3-イン-1-イル)-2-ニトロ-フェノールを分離し単離する工程と;
c)塩基条件下で、(R)-4-(1-ヒドロキシブタ-3-イン-1-イル)-2-ニトロ-フェノールを、グルクロン酸誘導体、例えば、メチルアセトブロモ-α-D-グルクロン酸と反応させる工程と;
d)工程(c)において得られた化合物を、4-ニトロフェニルクロロホルマートと反応させる工程と;
e)工程(d)において得られた化合物を、細胞障害性薬物と又はA-G-H部分(Aは、細胞障害性薬物に由来する基を表し、Gは、自壊性部分を表す)と結合する工程と;
f)好ましくは、塩基条件下で、工程(e)において得られた化合物のグルクロニド部分を脱保護する工程と;
g)工程(f)において得られた化合物を、式N3-(CH2-CH2-O)10-(CH2)2-NH-(CO)-(CH2)5-X(式中、Xは、マレイミド基である)のアジドと結合させる工程とを含む、上記で定義される複合体を調製するための方法を更に提供する。
【0019】
本発明はまた、上記で定義される複合体の少なくとも1個の分子を含むプロドラッグに関し、複合体の前記分子は、タンパク質分子、好ましくは、アルブミン、又はそのフラグメント若しくは誘導体への共有結合によって連結される。
【0020】
本発明は、少なくとも有効量の上記で定義される少なくとも1種の複合体又は上記で定義される少なくとも1種のプロドラッグ、及び薬学的に許容される担体を含む医薬組成物を更に対象にしている。
【0021】
本発明は更に、独立に、がん及び/又は炎症性疾患を処置することにおける使用のための、上記で定義される複合体、上記で定義されるプロドラッグ又は上記で定義される医薬組成物に関する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】X-線結晶学から得られた化合物R1aの分子構造を示す図である。置換楕円体(Displacement ellipsoid)は、50%確率レベルで描く。
【
図2】化合物R5及びS5の血漿溶液中のMMAEのβ-グルクロニダーゼにより誘導された放出の速度を示す図である。
【
図3】化合物R6及びS6の血漿溶液中のMMAFのβ-グルクロニダーゼにより誘導された放出の速度を示す図である。
【
図4】化合物R7及びS7の血漿溶液中のSN-38のβ-グルクロニダーゼにより誘導された放出の速度を示す図である。
【
図5】化合物R8及びS8の血漿溶液中のドキソルビシンのβ-グルクロニダーゼにより誘導された放出の速度を示す図である。
【
図6】pH7.4におけるPBS中の化合物R5及びS5の安定性を示す図である。
【
図7】化合物R5及びS5の血漿-結合速度を示す図である。
【
図8】アルブミンにより結合されたR5及びS5の血漿安定性を示す図である。
【
図9】R5及びS5の1:1の混合物のHPLCプロフィールを示す図である。
【
図10】R4及びS4の1:1の混合物のHPLCプロフィールを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
複合体
本発明は、次式(I):
【0024】
【0025】
[式中、Aは、細胞障害性薬物に由来する基を表し、
Gは、自壊性部分であり、
mは、0又は1である]
を有する複合体及び薬学的に許容されるその塩に関する。
【0026】
本発明と関連して、「薬学的に許容される塩」とは、本発明による複合体又はプロドラッグ又は薬物の塩、並びにアルカリ金属、アルカリ土類金属の塩、又は有機アンモニウム塩基により得られた塩を含むアンモニウムの塩、又は本発明による複合体若しくはプロドラッグ若しくは薬物の塩、及び有機若しくは無機酸の塩に関する。
【0027】
本発明に更に特に適している塩は、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、第四級アンモニウム塩、例えば、テトラメチルアンモニウム又はテトラエチルアンモニウム等、及びアンモニアとの付加塩並びに薬学的に許容される有機アミン、例えば、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、トリエチルアミン、エタノールアミン又はトリス(2-ヒドロキシエチル)アミンであり得る。
【0028】
本発明による複合体、又はプロドラッグ若しくは薬物の塩、並びに本発明に適している無機酸の塩は、塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸又はリン酸により得ることができる。
【0029】
本発明による複合体、又はプロドラッグ若しくは薬物の塩、及び本発明に適している有機酸の塩は、カルボン酸及びスルホン酸、例えば、ギ酸、酢酸、シュウ酸、クエン酸、乳酸、リンゴ酸、コハク酸、マロン酸、安息香酸、マレイン酸、フマル酸、酒石酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸又はp-トルエンスルホン酸等により得ることができる。
【0030】
本発明によれば、「自壊性部分」とは、細胞障害性薬物に由来する基を、複合体の残部と結合し、活性化(例えば、グルクロニド残基の酵素の切断)において不安定になり、遊離部分、特に、細胞障害性薬物の放出をもたらす二価の化学基を示す。自壊性部分は、当業者に周知である(Polym.Chem.2011年、2巻、773~790頁)。
【0031】
一実施形態では、mは、0である。
【0032】
他の実施形態では、mは、1であり、Gは、
【0033】
【0034】
から選択される式により表される。
【0035】
好ましい実施形態では、Gは、次式:
【0036】
【0037】
により表される。
【0038】
本発明によれば、「細胞障害性薬物に由来する基」は、複合体の残部と反応しているその官能基(例えば、H原子)のうちの1つのうち1個又は複数の原子が取り除かれる細胞障害性薬物からなる部分を示す。
【0039】
本発明による薬物は、細胞障害性薬物である。本明細書では、用語「細胞障害性薬物」とは、場合によっては、細胞への内部移行後に、細胞と接触して入る場合、細胞機能(例えば、細胞成長及び/又は増殖及び/又は分化及び/又は代謝、例えば、タンパク質及び/又はDNA合成)を、有害なやり方で、変更する又は細胞死をもたらす分子を意味する。本明細書では、用語「細胞障害性薬物」は、毒素、特に、細胞毒を包含する。原則として、細胞障害性薬物は、LO1 ATC分子(「解剖治療化学分類法(Anatomical Therapeutic Chemical Classification System)」であり、LO1は、WHO Collaborating Centre for Drug Statistics Methodologyにより定義された抗悪性腫瘍薬及び免疫調節薬(immunomodulating agent)を定義するサブグループである)と定義される。
【0040】
本発明による細胞障害性薬物は、ドラスタチン、例えば、ドラスタチン10、ドラスタチン15、アウリスタチンE、アウリスタチンEB(AEB)、アウリスタチンEFP(AEFP)、モノメチルアウリスタチンF(MMAF)、モノメチルアウリスタチン-D(MMAD)、モノメチルアウリスタチンE(MMAE)、5-ベンゾイル吉草酸-AEエステル(AEVB)又はそれらの誘導体から選択することができる。
【0041】
好ましいドラスタチンは、MMAF、MMAD、MMAE、又はそれらの誘導体である。
【0042】
より好ましいドラスタチンは、MMAE、MMAF、又はそれらの誘導体である。
【0043】
詳細な実施形態では、本発明による細胞障害性薬物は、アントラサイクリン、例えば、ドキソルビシン、イダルビシン、エピルビシン、ダウノルビシン、又はバルルビシンであり、好ましくは、ドキソルビシンである。
【0044】
別の詳細な実施形態では、本発明による細胞障害性薬物は、カンプトテシンファミリー(本明細書中で、「カンプトテシンアナログ」とも称される)の薬物であり、例えば、カンプトテシン、SN-38、トポテカン、イリノテカン、エキサテカン、シラテカン(silatecan)、コシテカン(cositecan)、ルートテカン(lurtotecan)、ギマテカン(gimatecan)、ベロテカン(belotecan)、又はルビテカン(rubitecan)であり、好ましくは、SN-38、エキサテカン、ベロテカンであり、更に好ましくは、SN-38である。
【0045】
好ましい実施形態では、細胞障害性薬物は、ドキソルビシン、SN-38、MMAE、MMAF、MMAD、及びそれらの誘導体から選択される。
【0046】
一般に天然に見出された20種のアミノ酸と異なるため、ドラスタチンは、少なくとも4種のアミノ酸、好ましくは、4種のアミノ酸の構造を有する化合物のファミリーであり、そのうち少なくとも3種は、それに特異的である。本発明によれば、ドラスタチンの誘導体は、ドラスタチンファミリーの少なくとも1種の化合物に非常に関連する化学構造を有し、類似の抗有糸分裂特性を示す。前記誘導体とドラスタチンファミリーの化合物との間の構造上の相違は、一般に見出される任意の適した置換基による、少なくとも1種のアミノ酸の少なくとも1本の側鎖上の置換にあり得る。例えば、前記置換基は、
- アルキル基、すなわち、直鎖状又は分枝状の飽和炭化水素鎖、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル又はデシル基等;
- ヘテロアルキル基、すなわち、1個又は複数のヘテロ原子、主に、O、N及びS、例えば、メトキシ又はエトキシ基等により中断される直鎖状又は分枝状の炭化水素鎖;
- アリール基、すなわち、芳香族炭素環式基、例えば、フェニル又はナフチル基(場合によっては、それだけには限らないが、-COOH、-SO3H、-OCH3、-F、-Cl、-Br、-I、-OH、-NH2、-NO2、-CNを含めた、4つまでの基で置換することができる);
- ヘテロアリール基、すなわち、1個又は複数のヘテロ原子を含む芳香族基、例えば、ピリジル、オキサゾリル、フラニル若しくはチアゾリル基等;又は
- ハロゲン原子、例えば、-F、-Cl、-Br、-I等であり得る。
【0047】
構造上の相違はまた、考慮に入れるリンカーアームとの共有結合の確立と適合性のこの機能を与えるために、例えば、N-末端の位置において、その第3級アミンのレベルで、ドラスタチン、例えば、ドラスタチン10、ドラスタチン15、アウリスタチンE、アウリスタチンEB(AEB)、アウリスタチンEFP(AEFP)、モノメチルアウリスタチンF(MMAF)、モノメチルアウリスタチン-D(MMAD)、モノメチルアウリスタチンE(MMAE)、又は5-ベンゾイル吉草酸-AEエステル(AEVB)の修飾からなり得る。
【0048】
当業者は、これらの目的のために、適した修飾、特に適した置換基を選択することが可能である。
【0049】
別の実施形態によれば、薬物は、ミタンシン(mytansin)、例えば、DM1及びDM4等、アントラサイクリン、例えば、ドキソルビシン、ネモルビシン(nemorubicin)及びPNU-159682等、カリケアマイシン、デュオカルマイシン(duocarymycin)、例えば、CC-1065及びデュオカルマイシンA等、ピロロベンゾジアゼピン、ピロロベンゾジアゼピン2量体、インドリノ-ベンゾジアゼピン、インドリノ-ベンゾジアゼピン2量体、α-アマニチン、エリブリン、アカラブルチニブ、ブレオマイシン、ベリチニブ(beritinib)、クラドリビン、クロファラビン、コビメチニブ、コパンリシブ、クリゾチニブ、シタラビン、ダブラフェニブ、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、デシタビン、エピルビシン、イブルチニブ、イダルビシン、ラパチニブ、レナリドミド、マイトマイシンC、ミトキサントロン、ネララビン、ニラパリブ、パクリタキセル、パノビノスタット、ポマリドミド、プレドニゾン、リボシクリブ、パルボシクリブ(palbocicilb)、ロラピタント、ルカパリブ、ソニデギブ、タモキシフェン、テムシロリムス、トポテカン、トラベクテジン、バルルビシン、ビンブラスチン、ビンクリスチン、及び薬学的に許容されるそれらの塩から選択することができる。
【0050】
詳細な実施形態では、細胞障害性薬物は、SN-38であり、mは、1であり、Gは、
【0051】
【0052】
である。
【0053】
別の詳細な実施形態では、細胞障害性薬物は、ドラスタチン又はアントラサイクリンであり、mは、0である。
【0054】
方法
用語「溶媒」とは、有機溶媒、無機溶媒、例えば、水、又はその混合物を意味する。有機溶媒の例には、それだけには限らないが、脂肪族炭化水素、例えば、ペンタン又はヘキサン等、脂環式炭化水素、例えば、シクロヘキサン等、芳香族炭化水素、例えば、ベンゼン、スチレン、トルエン、ortho-キシレン、meta-キシレン又はpara-キシレン等、ハロゲン化炭化水素、例えば、ジクロロメタン、クロロホルム又はクロロベンゼン等、窒素系溶媒、例えば、ピリジン、アセトニトリル又はトリエチルアミン等、酸素系溶媒、特に、ケトン、例えば、アセトン等、エーテル、例えば、ジエチルエーテル、tert-ブチルメチルエーテル(TBME)、シクロペンチルメチルエーテル(CPME)、テトラヒドロフラン(THF)又はメチルテトラヒドロフラン(Me-THF)等、及びアルコール、例えば、メタノール又はエタノール等、エステル、例えば、酢酸n-ブチル等、又はアミド、例えば、ジメチルホルムアミド(DMF)等、並びにそれらの混合物が含まれる。
【0055】
「酸条件」とは、1種又は複数の酸が用いられる条件を意味する。酸の例には、それだけには限らないが、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、フッ化水素酸、硝酸、硫酸、ヘキサフルオロリン酸、テトラフルオロホウ酸、トリフルオロ酢酸、酢酸、スルホン酸、例えば、メタンスルホン酸等、モノ-若しくはポリカルボン酸、又はそれらの混合物が含まれ、好ましくは、塩酸が含まれる。
【0056】
「塩基条件」とは、1種又は複数の塩基が用いられる条件を意味する。塩基の例には、それだけには限らないが、水酸化リチウム又は水酸化ナトリウム、炭酸塩、例えば、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム又は炭酸水素ナトリウム等、アルコキシド、例えば、ナトリウムメトキシド等、アミン、例えば、トリエチルアミン等、及び窒素系環状塩基、例えば、イミダゾール、N-メチルイミダゾール、ピリジン又はジメチル-アミノ-ピリジン(DMAP)等が含まれ、好ましくは、水酸化リチウムが含まれる。
【0057】
本発明による複合体は、キラル高速液体クロマトグラフィー(HPLC)によるrac-4-(1-ヒドロキシブタ-3-イン-1-イル)-2-ニトロ-フェノール中間体の鏡像体分離の工程を含めた、多段階合成によって、市販の4-ヒドロキシ-3-ニトロベンズアルデヒドから調製することができる。
【0058】
各工程について以下に記載の条件(温度、濃度、溶媒、反応物、反応物の相当物)は、有機合成における一般のバックグラウンドを用いて、当業者により調整することができる。工程の終了時に得られた各中間体又は生成物は、単離し、場合によっては、精製することができ、或いは、いくつかの工程は、前記中間体又は生成物を単離せずに、ワンポットで行うことができる。以下に記載の工程段階の順序は、変更することができる。
【0059】
工程(a)
一実施形態では、rac-4-(1-ヒドロキシブタ-3-イン-1-イル)-2-ニトロ-フェノールは、一工程において、4-ヒドロキシ-3-ニトロベンズアルデヒドから調製することができる。反応は、4-ヒドロキシ-3-ニトロベンズアルデヒドのアルデヒド官能基において後者を加えることにより、プロパルギル基を導入する工程からなる。一般的に、前記反応は、4-ヒドロキシ-3-ニトロベンズアルデヒドを、求核性プロパルギル基、すなわち、求電子部位上で加えることができるプロパルギル基の任意の陰イオン性又は有機金属の形態と反応させることにより行うことができる。前記反応は、触媒、例えば、HgCl2等で補助することができる。前記求核性プロパルギル基は、別々の容器中で、任意のプロパルギル供給源、例えば、プロパルギルブロミドから調製し、in situで又は事前に形成することができる。好ましい実施形態では、反応は、アルミニウム金属及びHgCl2の存在下で、4-ヒドロキシ-3-ニトロベンズアルデヒド及びプロパルギルブロミドにより行われる。
【0060】
工程(b)
次いで、rac-4-(1-ヒドロキシブタ-3-イン-1-イル)-2-ニトロ-フェノールの2つの鏡像異性体は、技法、例えば、キラルHPLC、ジアステレオマー塩の形成及び分離、結晶化、触媒分解能又は酵素分解能、又はそれらの組合せによって分離することができる。好ましくは、2つの鏡像異性体は、キラルHPLCにより分離される。キラルHPLCは、固定相が、キラルであるクロマトグラフィー技法である。キラル固定相は、アミロース系、シクロデキストリン系又はセルロース系相であり得る。好ましくは、キラル固定相は、アミロース系相である。
【0061】
鏡像体分離の本工程によって、(R)-4-(1-ヒドロキシブタ-3-イン-1-イル)-2-ニトロ-フェノールを単離することが可能になる。分離工程後の(R)-4-(1-ヒドロキシブタ-3-イン-1-イル)-2-ニトロ-フェノールの鏡像異性の純度は、有利には、90%を超え、好ましくは、95%を超える。鏡像異性の純度は、分析用キラルHPLCによって測定することができる。
【0062】
工程(c)
グルクロニド部分を導入するために、(R)-4-(1-ヒドロキシブタ-3-イン-1-イル)-2-ニトロ-フェノールは、フェノール基の選択的O-グルクロン酸抱合を可能にする条件下で、グルクロン酸誘導体と反応させることができる。好ましくは、前記グルクロン酸誘導体は、完全に保護されたグルクロン酸、一般的に、アセチル化グルクロン酸であり、フェノール基と反応することができるように官能基化される。前記グルクロン酸誘導体は、好ましくは、アルキルアセトブロモ-α-D-グルクロン酸であり、更に好ましくは、メチルアセトブロモ-α-D-グルクロン酸である。好ましい実施形態では、フェノール基のO-グルクロン酸抱合は、塩基条件下で行われる。例えば、反応は、Ag2CO3及びHMTTA(1,1,4,7,10,10-ヘキサメチルトリエチレンテトラミン)の存在下で行うことができる。
【0063】
工程(d)
工程(c)において得られたO-グルクロン酸抱合生成物は、結合工程(e)の目的のために転換することができる。このためには、前記生成物の第2級アルコール官能基は、クロロホルマート、好ましくは、4-ニトロフェニルクロロホルマートと反応させて、カルボナートを形成させることができる。反応は、求核試薬により触媒することができ、これはまた、塩基、例えば、ピリジン等として作用することができる。
【0064】
工程(e)、(f)及び(g)
工程(e)において、工程(d)において得られた化合物は、次いで、上記で定義される細胞障害性薬物(例えば、MMAE等)に、又はA-G-H部分(Aは、細胞障害性薬物に由来する基を表し、Gは、自壊性部分を表す)と連結される。第1の実施形態では、細胞障害性薬物が、工程(d)において得られた化合物に直接連結される場合、前記細胞障害性薬物のアミン基(又はヒドロキシ基)は、工程(d)において得られた化合物のカルボナートと反応して、アミド基を生成する。活性化剤は、例えば、HOAt、HOBt、HOCt等を用いることができる。好ましくは、前記活性化剤は、HOBtである。
【0065】
そのような第1の実施形態に続いて、以下に記載される工程(f)及び(g)の実施により、上記で定義される式(I)の複合体をもたらし、mは0である。
【0066】
第2の実施形態では、細胞障害性薬物が、自壊性部分によって工程(d)において得られた化合物に連結される場合、工程(d)において得られた化合物は、A-G-H部分(Aは、細胞障害性薬物に由来する基を表し、Gは、自壊性部分を表す)と反応させる。
【0067】
A-G-Hは、官能基によって工程(d)において得られた化合物に結合し、これは、有利には、-NH2又は-NH-である。
【0068】
A-G-H部分の例には、それだけには限らないが、
【0069】
【0070】
が含まれる。
【0071】
前記A-G-H部分は、細胞障害性薬物を、式X-G-Hの化合物[式中、Xは、脱離基、例えば、スルホン酸塩(例えば、メタンスルホン酸塩、トリフルオロメタンスルホン酸塩、トルエンスルホン酸塩、ニトロベンゼンスルホン酸)、又はハロゲン(例えば、塩素、臭素、ヨウ素)を表す]と反応させることにより、一般的に調製することができる。好ましくは、Xは、臭素である。細胞障害性薬物は、その(若しくはそのうちの1つの)アミン又はヒドロキシ基によって、一般的にX-G-Hと反応させて、上記で定義されるA-G-Hを形成する。詳細な実施形態では、X-G-Hは、細胞障害性薬物と反応させる場合、保護された形態である。「保護された形態」とは、本化合物の1つ又は複数の反応性官能基が、非反応性の形態で存在する形態、例えば、N3基の形態で保護されたNH2基を意味する。X-G-Hを、細胞障害性薬物と反応させた後、A-G-Hは、得られ、同様に「保護された形態」であり得る。前記A-G-Hは、反応性官能基を取り除く(例えば、N3基をNH2基に転換する)ために、「脱保護する」ことができる。
【0072】
そのような第2の実施形態に続いて、以下に記載される工程(f)及び(g)の実施により、上記で定義される式(I)の複合体をもたらし、mは1である。
【0073】
一実施形態では、次いで、ヒドロキシ及びカルボン酸官能基へのそれぞれグルクロニド部分におけるアセチル及びエステル官能基の脱保護は、工程(f)において行われる。工程(e)において得られた化合物のグルクロニド部分を脱保護する前記工程(f)は、好ましくは、塩基条件下で、更に好ましくは、低い温度での塩基条件下で行われる。或いは、前記工程(f)は、酸条件下で、及び任意の有機溶媒、例えば、アセトニトリル中で行うことができる。次いで、工程(f)において得られた化合物のアルキン官能基は、周知のクリックケミストリー条件下で、式N3-(CH2-CH2-O)10-(CH2)2-NH-CO-(CH2)5-X[式中、Xは、マレイミド基である]のアジドと結合させ、1,4-二置換トリアゾール位置異性体の選択的な形成、したがって、本発明の複合体の形成が可能になる。
【0074】
式N3-(CH2-CH2-O)10-(CH2)2-NH-CO-(CH2)5-X[式中、Xは、マレイミド基である]のアジドは、N3-(CH2-CH2-O)10-(CH2)2-NH2を、2,5-ジオキソピロリジン-1-イル6-(2,5-ジオキソ-2,5-ジヒドロ-1H-ピロル-1-イル)ヘキサノアートと反応させることにより、一般的に得ることができる。
【0075】
他の実施形態では、工程(f)は、クリックケミストリー条件下で、工程(e)において得られた化合物の、式N3-(CH2-CH2-O)10-(CH2)2-NH2のアジドとの結合からなり、1,4-二置換トリアゾール位置異性体の選択的な形成が可能になる。工程(g)では、-NH2基は、一般的に、工程(f)において得られた化合物を、2,5-ジオキソピロリジン-1-イル6-(2,5-ジオキソ-2,5-ジヒドロ-1H-ピロル-1-イル)ヘキサノアートと反応させることにより、アルキル鎖の末端でマレイミド基と置換されるアルキルアミドに転換される。次いで、工程(g)において得られた化合物のグルクロニド部分の最終の脱保護が行われる。この脱保護は、好ましくは、塩基条件下で、更に好ましくは、低い温度での塩基条件下で行われる。
【0076】
本発明による方法は、単一の異性体として存在している複合体へのアクセスを提供し、この純度は、有利には、90%を超え、好ましくは、95%を超える。
【0077】
プロドラッグ
本発明による複合体は、マレイミド基を含有し、これは、求核基、より詳細には、チオール基(-SH)に非常に反応性がある。かかる基は、一般的に、マイケル付加反応によってマレイミド部分において付加される。したがって、マレイミド基は、本発明の複合体を高分子と結合させるための選択の反応性基である。本発明と関連して、高分子は、好ましくは、内在性の分子である。
【0078】
本発明によれば、プロドラッグは、高分子、より詳細には、タンパク質に共有結合される少なくとも1種の複合体を意味する。前記プロドラッグは、不活性型で、生物中に細胞障害性薬物を輸送することが可能であり、前記薬物を、臓器、組織又は細胞に放出することが可能であり、これは、β-グルクロニダーゼの作用下で特異的に標的化される。プロドラッグは、高分子、より詳細には、タンパク質と反応させることにより、in vivoで又はin vitroで形成することができる。
【0079】
特に、タンパク質は、がん細胞の膜で存在する分子、好ましくは、タンパク質、糖タンパク質、糖脂質、炭水化物、又はその組合せからなる群から選択される分子を特異的に結合するものから選択され、更に好ましくは、タンパク質は、がん細胞の膜で存在するタンパク質を特異的に結合する。タンパク質が結合することが可能である膜分子は、主に又は排他的に、がん細胞の膜で存在する分子である。詳細な実施形態では、タンパク質によって認識される膜分子は、がん細胞の膜で過剰発現するタンパク質である。好ましい実施形態では、タンパク質は、抗体及びアルブミンからなる群から選択することができる。
【0080】
本明細書では、用語「抗体」とは、免疫グロブリン分子及び免疫グロブリン分子の免疫学的に活性な部分、すなわち、抗原を免疫特異的に結合する抗原結合部位を含む分子を意味する。そのようなものとして、用語抗体は、全抗体分子だけでなく、抗原-結合抗体フラグメント並びに抗体及び抗体フラグメントの変異体(誘導体を含めた)をも包含する。特に、本発明による抗体は、モノクローナル抗体(例えば、キメラ、ヒト化若しくはヒト抗体)、又はモノクローナル抗体のフラグメントに対応することができる。用語抗体とは、古典的な抗体並びに重鎖抗体及びフラグメント及びそれらの誘導体、例えば、(VHH)2フラグメント及びシングルドメイン抗体を意味する。
【0081】
特異的なエピトープを認識する抗体フラグメントは、公知の技法により生成することができる。抗体フラグメントは、抗体の抗原結合部分、例えば、F(ab')2、Fab、Fv、scFv等である。他の抗体フラグメントには、それだけには限らないが、抗体分子のペプシン消化により生成することができるF(ab')2フラグメント及びF(ab')2フラグメントのジスルフィド架橋を減少させることにより生成することができるFab'フラグメントが含まれる。或いは、Fab'発現ライブラリーは、所望の特異性を有するモノクローナルFab'フラグメントの急速な及び容易な同定を可能にするために構成することができる(Huseら、1989年、Science、246巻:1274~1281)。
【0082】
本発明による抗体は、当技術分野で公知の任意の技法、例えば、限定せずに、任意の化学的、生物学的、遺伝的又は酵素的技法により、単独で又は組み合わせて生成することができる。本発明の抗体は、ハイブリドーマを生成する及び培養することにより得ることができる。合成シングルドメイン抗体の生成についてWO2015/063331をやはり参照のこと。
【0083】
本発明による抗体は、単量体抗体でも多量体抗体でもよく、本発明による抗体は、特に、抗体が、多量体である場合、少なくとも1つの可変ドメインを含むことができる。
【0084】
好ましくは、本発明による抗体は、IgG、好ましくは、サブタイプIgG1又はIgG4、例えば、トラスツズマブ又はリタキシマブである。
【0085】
本発明の最も好ましい実施形態では、タンパク質は、アルブミン分子であり、これは、遊離チオール官能基を有する。内因性若しくは外因性アルブミン、特に、ヒト血清アルブミン、組換えアルブミン又はアルブミンのフラグメントは、想定することができる。
【0086】
内因性アルブミンは、充実性腫瘍の微小環境における「EPR」(「強化された透過性及び保持(Enhanced Permeability and Retention)」)効果によって蓄積することが知られており、したがって、本発明による複合体の内因性アルブミン分子とのin situ結合によって、腫瘍微小環境中に、プロドラッグとも呼ばれる、上記のように形成された、結合した実体を標的化し、いくつかの細胞障害性薬物誘導体、例えば、ドラスタチンの遊離の形態の選択性の欠如を克服することが可能になる。そのような「EPR」効果が、炎症性組織の微小環境に適用されることに留意すべきである。
【0087】
したがって、プロドラッグは、その反応性マレイミド基によって、複合体と、タンパク質、好ましくは、内因性アルブミン分子、更に好ましくは、ヒト血清アルブミン又はそれらの誘導体の遊離の及び相補的な反応性官能基、一般的に、チオール官能基との間の共有結合の、in vivoにおける選択的な形成によって得ることができる。前記プロドラッグは、タンパク質分子又はその分子のフラグメント若しくは誘導体に共有結合される、本発明による複合体の少なくとも1個の分子を含むことができる。
【0088】
アルブミンの場合では、前記共有結合は、アルブミンの34位のシステインのチオール官能基によって確立することができる。
【0089】
詳細な実施形態では、本発明のプロドラッグは、その投与前に調製することができる。本発明のプロドラッグは、本発明の少なくとも1種の複合体と、タンパク質、例えば、アルブミン分子、組換えアルブミン分子又はそのフラグメント若しくは誘導体の、遊離の及び相補的な官能基、一般的に、チオール官能基との間の共有結合の形成によって、in vitroで形成することができる。前記共有結合は、アルブミンの34位におけるシステインのチオール官能基によって確立することができる。
【0090】
本発明と関連して、「アルブミン分子のフラグメント」とは、満足なバイオアベイラビリティ、腫瘍組織に対する透過性及び上記で述べたように生成したプロドラッグの、健康な組織の内皮のバリアーに対する不透過性を保証するのに十分なサイズを有するアルブミン分子のフラグメントを表す。詳細な実施形態では、アルブミン分子のフラグメントは、内因性アルブミン配列のシステイン34に対応するシステインを含有する。
【0091】
本発明によるプロドラッグは、式(II):
【0092】
【0093】
[式中、A、G、及びmは、上記で定義される通りであり、
Prtは、タンパク質に由来する基を表し、
nは、0.1から16の間、好ましくは、0.1から8の間を含む]
及び薬学的に許容されるその塩により表すことができる。
【0094】
詳細な一実施形態では、Prtは、抗体に由来する基を表し、nは、前記抗体に付着される複合体の平均数であり、0.1から16の間、好ましくは、0.1から8の間を含む。
【0095】
別の詳細な実施形態では、Prtは、アルブミンに由来する基を表し、nは、1である。
【0096】
nは、質量分析(MS)及び疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)により測定することができる。
【0097】
本発明によれば、「タンパク質に由来する基」とは、複合体の残部と反応しているその官能基のうちの1つのうち1個又は複数の原子が取り除かれるタンパク質からなる部分を示す。より詳細には、「タンパク質に由来する基」は、その-SH基の水素原子が取り除かれている少なくとも1つのシステイン部分を含むタンパク質を表す。
【0098】
医薬組成物
本発明の複合体又はプロドラッグは、少なくとも有効量の本発明の少なくとも1種の複合体又は本発明の少なくとも1種のプロドラッグ、及び薬学的に許容される担体を含む医薬組成物の形態で送達することができる。医薬組成物は、固体若しくは液体の状態であり得、ヒト及び/又は獣医学において一般に用いられる医薬品の形態のうちいずれかの形態、例えば、単純な錠剤又は糖衣錠、丸剤、口中錠、ゲルカプセル、液滴、顆粒剤、注射用製剤、軟膏剤、クリーム又はゲルの形態であり得る。医薬組成物は、通常の方法に従って、調製することができる。
【0099】
本明細書では、用語「薬学的に許容される担体」とは、医薬組成物中に存在する有効成分(すなわち、賦形剤)を除く、任意の成分を意味する。その添加は、最終製品に、ある特定のコンシステンシー又は他の物理的又は味覚の特性を与えることを目的とし得る。賦形剤又は薬学的に許容される担体は、特に、化学的な、有効成分との任意の相互作用を欠いていなくてはならない。従来の賦形剤は、当業者により周知の技法に従って、用いることができる。本明細書では、用語有効量とは、有効成分の物質量を意味し、これは、疾患の有害な効果を防ぐ、除去する又は低下させる。
【0100】
使用
本発明の複合体又は本発明のプロドラッグは、がん及び/又は炎症性疾患を処置するために用いることができる。
【0101】
本明細書では、用語「処置」、「処置する」又は「処置している」とは、患者の健康状態を寛解させることを目的とした任意の行為、例えば、疾患の療法、防止、予防及び遅延等を意味する。いくつかの実施形態では、かかる用語は、疾患若しくは疾患に伴う症状の寛解又は根絶を意味する。他の実施形態では、本用語とは、そのような疾患を伴う対象への、1種又は複数の治療薬の投与から生じる疾患の拡大又は悪化を最小限にすることを意味する。
【0102】
本明細書では、用語「対象」、「個体」又は「患者」は、置き換え可能であり、動物、好ましくは、哺乳動物、更に好ましくは、ヒトを意味する。しかしながら、用語「対象」はまた、非ヒト動物、特に、哺乳動物を意味し得る。本発明による対象は、動物、好ましくは、哺乳動物、更に好ましくは、ヒトである。対象は、その中でもとりわけ、哺乳動物、例えば、イヌ、ネコ、ウマ、雌ウシ、ブタ、ヒツジ及び非ヒト霊長類から特に選択される、非ヒト動物であり得る。好ましくは、対象は、ヒト、好ましくは、成人、更に好ましくは、少なくとも40歳の成人、更に一層好ましくは、少なくとも50歳の成人、更に好ましくは、少なくとも60歳の成人である。
【0103】
本発明はまた、医薬の調製のための、本発明による複合体、本発明によるプロドラッグ又は本発明による医薬組成物の使用に関する。好ましくは、本発明は、対象においてがん及び/又は炎症性疾患を処置するための医薬の調製用の、本発明による複合体、本発明によるプロドラッグ又は本発明による医薬組成物に関する。
【0104】
本発明は更に、対象においてがん及び/又は炎症性疾患を処置するための方法に関し、本発明による複合体の治療有効量、本発明によるプロドラッグの治療有効量又は本発明による医薬組成物の治療有効量は、がん及び/又は炎症性疾患に罹患している前記対象に投与される。
【0105】
本発明はまた、対象においてがん及び/又は炎症性疾患処置するための方法に関し、本発明による複合体の治療有効量、本発明によるプロドラッグの治療有効量又は本発明による医薬組成物の治療有効量は、化学療法、放射線治療、少なくとも1種の抗炎症薬による処置、及びそれらの組合せからなる群から選ばれる別の処置と組み合わせて、がん及び/又は炎症性疾患に罹患している前記対象に投与される。
【0106】
本発明による複合体、本発明によるプロドラッグ又は本発明による医薬組成物は、任意の好都合な経路により、それを必要とする対象に投与することができる。例えば、これは、全身経路により、特に、皮下、筋肉内、静脈内又は皮内注射により、好ましくは、静脈内注射により投与することができる。本発明による複合体、本発明によるプロドラッグ又は本発明による医薬組成物は、単回用量として又は複数回の用量の形態で投与することができる。本発明による複合体、本発明によるプロドラッグ又は本発明による医薬組成物は、毎日から毎月の間で、好ましくは、毎週又は2週間おきに、より好ましくは、毎週投与することができる。本発明による複合体、本発明によるプロドラッグ又は本発明による医薬組成物による処置期間は、好ましくは、1から20週間の間、好ましくは、1から10週間の間が含まれる。或いは、処置は、疾患の症状が持続する限り、続き得る。投与されようとする本発明による複合体、本発明によるプロドラッグ又は本発明による医薬組成物の量は、当業者により周知の標準的な手順により決定しなければならない。患者の生理的データ(例えば、年齢、サイズ、及び体重)及び投与の経路は、治療有効量が、患者に投与されるように、適切な投与量を決定することを考慮しなければならない。
【0107】
がん
本明細書では、用語「がん」又は「腫瘍」とは、がんを引き起こす細胞に特有の特徴、例えば、制御の効かない増殖、及び/又は不死性、及び/又は転移能、及び/又は急速な成長及び/又は増殖速度、及び/又はいくつかの特徴的な形態学的特徴等を有する細胞の存在を意味する。本用語は、対象の任意のタイプにおける悪性度(原発性又は転移)の任意のタイプを意味する。本用語は、充実性腫瘍並びに造血器腫瘍を意味し得る。
【0108】
好ましくは、本発明によるがんは、前立腺がん、肺がん、乳がん、胃がん、腎がん、卵巣がん、肝細胞がん、骨肉腫、黒色腫、下咽頭がん、食道がん、子宮体がん、子宮頚がん、膵がん、肝がん、結腸又は結腸直腸がん、神経内分泌腫瘍、筋肉の悪性腫瘍、副腎がん、甲状腺がん、子宮がん、皮膚がん、膀胱がん、頭頚部がん、リンパ腫、及び白血病からなる群から選択される。
【0109】
本発明の複合体、本発明のプロドラッグ又は本発明の医薬組成物は、特に、乳がん、結腸がん、卵巣がん、前立腺がん、膵がん及び肺がんを処置することを目標としている。
【0110】
本発明の複合体、本発明のプロドラッグ又は医薬組成物は、転移の防止及び/又は処置におけるその使用のために、使用することができる。
【0111】
炎症性疾患
用語「炎症性疾患」とは、本明細書では、特に、腸の慢性的な病的状態又はリウマチ様の病的状態を意味する。
【実施例】
【0112】
本発明は、次の例に照らしてより良く理解され、これらは、例示的な目的にのみ示される。
【0113】
方法1 - 分取HPLC
分取HPLC系は、2つのShimadzu LC-8Aポンプ、SPD-10A VP検出器(株式会社島津製作所)、SCL-10A VPコントローラー(株式会社島津製作所)、SIL-10Aオートサンプラー、2mLサンプルループ及びSunFire C18カラム(150mm×19mm i.d.、水5μm)からなる。サンプルを、サンプルループに注射し、流量17ml/分で溶出した(50分運転、254nmでの検出;緩衝液A:H2O miliQ+TFA 0.05%;緩衝液B:アセトニトリル;勾配:40分 - B 5%~95%、5分 - B 95%、5分 - B 5%)。
【0114】
方法2 - 分析用HPLC
分析用HPLCを、Waters 2487 UV検出器及びGemini-NX、5μm、C18、150×4.6mmカラムを装備したWaters 2695分離モジュールで実行した。流量は、1ml/分であった。溶媒A:水中の0.05% TFA。溶媒B:アセトニトリル中の0.05% TFA。勾配は、次の通り行われた。0~1分 - B 30%;1~11分 - B 30%~80%;11~12分 - B 80~95%;12~14.5分 - B 95%;14.5~14.7分 - B 95%~30%;14.7~17分 - B 30%。
【0115】
方法3 - LCMS
LCMSを、Waters 2487UV検出器、Waters Acquity QDa質量検出器及びCORTECS、2.7μm、C18、50×4.6mmカラムを装備したWaters 2695分離モジュールにおいて実行した。流量は、1ml/分であった。溶媒A:水中のHCOOH 0.05%。溶媒B:アセトニトリル中のHCOOH 0.05%。勾配は、次の通り行われた。0~5分 - B 5%~95%;5~6分 - B 95%;6~7.8分 - B 5%。質量検出器を、プローブ温度が600℃、キャピラリー電圧が1.5kV及びコーン電圧が10Vである正MS走査モードで操作した。
【0116】
方法4 - キラルHPLC
キラルHPLCを、Shimadzu SIL-10Aオートサンプラー、Shimadzu SCL-10AVP UV検出器(254nmに設定)、2つのShimadzu LC-8Aポンプ、CHIRALPAK(登録商標)IG Semi-Prepカラム(5μm、ID20mm×L250mm)及び2mLサンプルループを装備した、Shimadzu SCL-10AVP系において実行した。流量は、20ml/分であった。溶離液は、ジクロロメタンであった。分離を、5分間実行した。
【0117】
方法5 - キラルHPLC
キラルHPLCを、Shimadzu SIL-10Aオートサンプラー、Shimadzu SCL-10AVP UV検出器(254nmに設定)、2つのShimadzu LC-8Aポンプ、CHIRALPAK(登録商標)IG Semi-Prepカラム(5μm、ID20mm×L250mm)及び2mLサンプルループを装備した、Shimadzu SCL-10AVP系において実行した。流量は、20ml/分であった。溶離液を、ヘプタン及びエタノール(70:30)の混合物であった。分離を、25分間実行した。
【0118】
化合物R1及びS1のラセミ混合物の合成
【0119】
【0120】
冷媒及び追加の漏斗を装備したフラスコに、アルミニウム粉末(6.17当量、14156mg、524mmol)及びHgCl2の触媒量(0.00248当量、57.2mg、0.211mmol)を、無水THF(218mL)で覆った。次いで、トルエン中のプロパルギルブロミド(6.2当量、78439mg、58.8mL、527mmol)80%溶液を、滴加した(注意:発熱反応;発熱のピーク及びアルミニウム粉末の分散度に応じたその強度)。追加物が超えた場合、得られた反応混合物を、6時間還流した。次いで、溶液を、0℃まで冷却し、4-ヒドロキシ-3-ニトロベンズアルデヒド(1当量、14210mg、85mmol)のTHF(109mL)溶液を、滴加した。撹拌の30分後、アルデヒドを、完全に消失させ(TLCにより制御された)、反応物を、0℃まで冷却した。反応混合物を、1N HCl(10mL)を滴加することにより、急冷し、次いで、EtOAcで3回抽出した。有機層を、MgSO4で脱水し、次いで、蒸発させて、褐色の油を生成し、これを、フラッシュクロマトグラフィー(シクロヘキサン/EtOA - 70/30)により精製した。ウルツ反応副生成物の痕跡を除去するために、得られた黄色の油を、DCM(655mL)に可溶化し、有機層を、1N NaOH溶液で3回抽出した(毎回DCM体積の1/3)。次いで、得られた、合わせた水層に、DCM(等体積)を加えた。反応混合物を、pH1まで、濃HClで酸性化した。水性相を、DCMで3回以上抽出した(それぞれの水溶液の体積の1/3)。組み合わせた有機層を、MgSO4で脱水し、蒸発させて、(R)-4-(1-ヒドロキシブタ-3-イン-1-イル)-2-ニトロフェノール及び(S)-4-(1-ヒドロキシブタ-3-イン-1-イル)-2-ニトロフェノール混合物のラセミ混合物(7927mg、38.3mmol、45%)を生成した。
1H NMR (クロロホルム-d) シフト: 10.63 (s, 1H), 8.23 (s, 1H), 7.73 (dd, J = 8.5, 1.5 Hz, 1H), 7.25 (d, J = 8.5 Hz, 1H), 4.97 (t, J = 6.1 Hz, 1H), 2.67 - 2.97 (m, 3H), 2.20 (t, J = 2.5 Hz, 1H).
13C NMR (クロロホルム-d) シフト: 154.6, 135.2, 135.0, 133.3, 122.3, 120.1, 79.6, 71.9, 70.8, 29.3.
MS (ESI, 方法3) m/z: 230.1 [M+Na]+
【0121】
鏡像異性体R1及びS1の分離
鏡像異性体R1及びS1を、キラルクロマトグラフィーを用いて分離した。キラルクロマトグラフィーを、Shimadzu SIL-10Aオートサンプラー、Shimadzu SCL-10AVP UV検出器(254nmに設定)、Shimadzu FRC-10Aフラクションコレクター、2つのShimadzu LC-8Aポンプ、CHIRALPAK(登録商標)IGセミ分取カラム(5μm、ID20mm×L250mm)及び2mLサンプルループを装備したShimadzu SCL-10AVP系において実行した。精製を、溶離液としてヘプタン及びエタノール(70:30)の混合物を用いて、流量20mL/分で行った。R1及びS1の混合物250mgに、エタノール0.15mL及びヘプタン0.35mLを加えた。得られた混合物を、サンプルループに注射し、精製を、25分間行った。純粋なR1異性体を含有する第1の画分を、4分から8分の間で収集した。純粋なS1異性体を含有する第2の画分を、10分から22分の間で収集した。溶離液を、蒸発させ、純粋な鏡像異性体R1及びS1を、次の工程において用いた。R1及びS1の鏡像異性の純度を、キラルHPLCにより確認した(方法5)。
化合物R1 HPLC(方法5)RT:6.53分
化合物S1 HPLC(方法5)RT:16.79分
【0122】
化合物R2
【0123】
【0124】
HMTTA(0.7当量、2.11g、2.5mL、9.17mmol;1,1,4,7,10,10-ヘキサメチルトリエチレンテトラミン、CAS3083-10-1)及びAg2CO3(3.7当量、13.4g、48.5mmol)の無水アセトニトリル(20mL)溶液を、室温で2h撹拌した。アセトニトリル(11.9mL)中の(R)-4-(1-ヒドロキシブタ-3-イン-1-イル)-2-ニトロフェノール(1当量、2.71g、13.1mmol)及び(2R,3R,4S,5S,6S)-2-ブロモ-6-(メトキシカルボニル)テトラヒドロ-2H-ピラン-3,4,5-トリイルトリアセタート(1.1当量、5.7g、14.3mmol)溶液を、0℃で加え、得られた混合物を、室温で4h撹拌した。反応物を、水で急冷し、その後、EtOAc(50mL)を加えた。得られた反応混合物を、3分間撹拌し、次いで、ろ過して、銀の塩を除去した。Et2Oの4つ以上の部分による抽出を実施し;合体した有機画分を、MgSO4で脱水し、蒸発させた。得られた粗物質を、フラッシュクロマトグラフィー(シクロヘキサン/EtOAc勾配 20分におけるEtOAc 0~100%;30カラム体積)により精製して、淡黄色固形物として、メチルR2(3428mg、6.55mmol、50%)を生成した。
1H NMR (クロロホルム-d) シフト: 7.86 (dd, J = 6.1, 1.9 Hz, 1H), 7.49 - 7.65 (m, 1H), 7.36 (d, J = 8.5 Hz, 1H), 5.25 - 5.39 (m, 3H), 5.17 - 5.25 (m, 1H), 4.90 (t, J = 6.1 Hz, 1H), 4.21 (d, J = 8.8 Hz, 1H), 3.74 (s, 3H), 2.53 - 2.70 (m, 2H), 1.98 - 2.20 (m, 10H).
13C NMR (クロロホルム-d) シフト: 170.0, 169.3, 169.3, 166.7, 148.5, 141.2, 138.9, 131.2, 122.6, 120.0, 99.8, 90.3, 79.4, 72.6, 72.0, 71.2, 70.7, 70.2, 68.8, 53.0, 29.4, 20.6, 20.5.
MS (方法3) m/z: 546.2 [M+Na]+
【0125】
化合物S2
【0126】
【0127】
HMTTA(0.7当量、3.4g、4mL、14.76mmol;1,1,4,7,10,10-ヘキサメチルトリエチレンテトラミン、CAS3083-10-1)及びAg2CO3(3.7当量、21.5g、78mmol)の無水アセトニトリル(30mL)溶液を、室温で2h撹拌した。アセトニトリル(20mL)中の(S)-4-(1-ヒドロキシブタ-3-イン-1-イル)-2-ニトロフェノール(1当量、4.37g、21.1mmol)及びメチル(2R,3R,4S,5S,6S)-2-ブロモ-6-(メトキシカルボニル)テトラヒドロ-2H-ピラン-3,4,5-トリイルトリアセタート(1.1当量、10g、25.3mmol)溶液を、0℃で加え、得られた混合物を、室温で4h撹拌した。反応物を、水で急冷し、その後、EtOAc(80mL)を加えた。得られた反応混合物を、3分間撹拌し、次いで、ろ過して、銀の塩を除去した。Et2Oの4つ以上の部分による抽出を実施し;合体した有機画分を、MgSO4で脱水し、蒸発させた。得られた粗物質を、フラッシュクロマトグラフィー(シクロヘキサン/EtOAc勾配 20分におけるEtOAc 0~100%;30カラム体積)により精製して、淡黄色固形物として、S2(6100mg、11.6mmol、55%)を生成した。
1H NMR (クロロホルム-d) シフト: 7.86 (dd, J = 6.1, 1.9 Hz, 1H), 7.49 - 7.65 (m, 1H), 7.36 (d, J = 8.5 Hz, 1H), 5.25 - 5.39 (m, 3H), 5.17 - 5.25 (m, 1H), 4.90 (t, J = 6.1 Hz, 1H), 4.21 (d, J = 8.8 Hz, 1H), 3.74 (s, 3H), 2.53 - 2.70 (m, 2H), 1.98 - 2.20 (m, 10H).
13C NMR (クロロホルム-d) シフト: 170.0, 169.3, 169.3, 166.7, 148.5, 141.2, 138.9, 131.2, 122.6, 120.0, 99.8, 90.3, 79.4, 72.6, 72.0, 71.2, 70.7, 70.2, 68.8, 53.0, 29.4, 20.6, 20.5.
MS (方法3) m/z: 546.3 [M+Na]+
【0128】
化合物R3
【0129】
【0130】
R2(1当量、1600mg、3.05mmol)及び4-ニトロフェニルクロロホルマート(2当量、1230mg、6.1mmol)の乾燥DCM(30mL)溶液に、0℃でピリジン(2.5当量、0.62mL、7.62mmol)を加えた。混合物を、室温で1時間撹拌し、次いで、飽和NaHCO3水溶液で急冷した。混合物を、DCM(反応体積と同じ)で3回抽出し、組み合わせた有機層を、MgSO4で脱水し、ろ過し、真空中で濃縮した。フラッシュクロマトグラフィー(シクロヘキサン/EtOAc勾配 20分におけるEtOAc 0~100%;30カラム体積)により精製して、オフホワイト色の固形物として、R3(1469mg、2.13mmol、70%)を生成した。
1H NMR (クロロホルム-d) シフト: 8.17 - 8.34 (m, 2H), 7.94 (d, J = 2.0 Hz, 1H), 7.65 (dd, J = 8.7, 2.1 Hz, 1H), 7.43 (d, J = 8.5 Hz, 1H), 7.33 - 7.40 (m, 2H), 5.81 (t, J = 6.5 Hz, 2H), 5.21 - 5.43 (m, 4H), 4.25 (d, J = 8.8 Hz, 1H), 3.74 (s, 3H), 2.78 - 3.02 (m, 2H), 2.13 (s, 3H), 2.09 - 2.12 (m, 1H), 2.02 - 2.09 (m, 6H).
13C NMR (クロロホルム-d) シフト: 169.9, 169.2, 169.1, 166.7, 155.2, 151.5, 149.5, 145.6, 141.2, 133.4, 132.1, 125.3, 123.6, 121.7, 119.9, 99.5, 72.7, 72.5, 71.0, 70.2, 68.6, 53.0, 26.3, 20.6, 20.5, 20.5.
MS (方法3) m/z: 711.2 [M+Na]+
HPLC (方法4) RT: 2.77分
【0131】
化合物S3
【0132】
【0133】
S2(1当量、2600mg、5.0mmol)及び4-ニトロフェニルクロロホルマート(2当量、2000mg、9.9mmol)の乾燥DCM(50mL)溶液に、0℃でピリジン(2.5当量、1mL、12.42mmol)を加えた。混合物を、室温で1時間撹拌し、飽和NaHCO3水溶液で急冷した。混合物を、DCM(反応体積と同じ)で3回抽出し、組み合わせた有機層を、MgSO4で脱水し、ろ過し、真空中で濃縮した。シクロヘキサン/酢酸エチル(シクロヘキサン/EtOAc勾配 20分におけるEtOAc 0~100%;30カラム体積)中のフラッシュクロマトグラフィーにより精製して、オフホワイト色の固形物として、S3(2300mg、2.13mmol、68%)を生成した。
1H NMR (クロロホルム-d) シフト: 8.17 - 8.34 (m, 2H), 7.94 (d, J = 2.0 Hz, 1H), 7.65 (dd, J = 8.7, 2.1 Hz, 1H), 7.43 (d, J = 8.5 Hz, 1H), 7.33 - 7.40 (m, 2H), 5.81 (t, J = 6.5 Hz, 2H), 5.21 - 5.43 (m, 4H), 4.25 (d, J = 8.8 Hz, 1H), 3.74 (s, 3H), 2.78 - 3.02 (m, 2H), 2.13 (s, 3H), 2.09 - 2.12 (m, 1H), 2.02 - 2.09 (m, 6H).
13C NMR (クロロホルム-d) シフト: 170.0, 169.3, 169.2, 166.7, 155.2, 151.5, 149.5, 145.6, 141.1, 133.4, 132.1, 125.4, 123.7, 121.7, 119.9, 99.5, 72.6, 72.5, 71.0, 70.2, 68.6, 53.1, 26.2, 20.6, 20.6, 20.5.
MS (方法3) m/z: 711.2 [M+Na]+
HPLC (方法4) RT: 2.84分
【0134】
化合物R4
【0135】
【0136】
R3(1当量、41.3mg、0.06mmol)及びMMAE(1当量、43.1mg、0.06mmol)のDMF(1.15mL)溶液に、HOBt(1当量、8.11mg、0.06mmol)のピリジン(0.287mL)溶液を加えた。混合物を、室温で24h撹拌し、次いで、MeOH(11.5mL)で希釈し、0℃まで冷却した。得られた溶液に、LiOH(10当量、H2O中の1M、0.6mL、0.6mmol)を加え、混合物を、4℃で16hインキュベートした。得られた溶液を、HCOOH(20当量、H2O中の1M、1.2mL、1.2mmol)で急冷し、減圧下で3mLまで濃縮した。残基を、分取HPLC(方法1)により精製して、淡黄色固形物としてR4(41.9mg、0.0372mmol、62%)を生成した。
HPLC(方法2)RT:7.81分
MS(方法3)m/z:1127.7[M+H]+
【0137】
化合物S4
【0138】
【0139】
S3(1当量、37.9mg、0.055mmol)及びMMAE(1当量、39.5mg、0.055mmol)のDMF(1.05mL)溶液に、HOBt(1当量、7.43mg、0.055mmol)のピリジン(0.263mL)溶液を加えた。混合物を、室温で24h撹拌し、次いで、MeOH(10.5mL)で希釈し、0℃まで冷却した。得られた溶液に、LiOH(10当量、H2O中の1M、0.55mL、0.55mmol)を加え、混合物を、4℃で16hインキュベートした。得られた溶液を、HCOOH(20当量、H2O中の1M、1.1mL、1.1mmol)で急冷し、減圧下で3mLまで濃縮した。残基を、分取HPLC(方法1)により精製して、淡黄色固形物としてS4(36.6mg、0.0325mmol、59%)を生成した。
HPLC(方法2)RT:7.66分
MS(方法3)m/z:1127.9[M+H]+
【0140】
化合物R5
【0141】
【0142】
32-アジド-3,6,9,12,15,18,21,24,27,30-デカオキサドトリアコンタン-1-アミン(1.2当量、19mg、0.036mmol)の乾燥DMF(0.5mL)溶液に、2,5-ジオキソピロリジン-1-イル6-(2,5-ジオキソ-2,5-ジヒドロ-1H-ピロル-1-イル)ヘキサノアート(1.2当量、11.1mg、0.036mmol)を加えた。混合物を、21℃で1時間撹拌し、次いで、R4(1当量、33.8mg、0.03mmol)を加えた。TBTA-Cu(II)複合体を、トリス[(1-ベンジル-1H-1,2,3-トリアゾル-4-イル)メチル]アミン(0.2当量,DMF中の0.2M、0.03mL、0.006mmol)及び硫酸銅五水和物(0.2当量、H2O中の0.2M、0.03mL、0.006mmol)を混合し、21℃で2分間インキュベートすることにより、調製した。TBTA-Cu(II)複合体(0.2当量、DMF/H2O50/50中の0.1M、0.06mL、0.006mmol)を、反応混合物に加え、その後、アスコルビン酸ナトリウム(1当量、H2O中の1M、0.03mL、0.03mmol)に加えた。得られた混合物を、21℃で1時間インキュベートし、分取HPLCにより精製して、白色固形物として、R5(30.5mg、0.0165mmol、55%)を生成した。
HPLC(方法2)RT:6.85分
MS(方法3)m/z:924.2[M+2H]2+/2
【0143】
化合物S5
【0144】
【0145】
32-アジド-3,6,9,12,15,18,21,24,27,30-デカオキサドトリアコンタン-1-アミン(1.2当量、15.8mg、0.03mmol)の乾燥DMF(0.417mL)溶液に、2,5-ジオキソピロリジン-1-イル6-(2,5-ジオキソ-2,5-ジヒドロ-1H-ピロル-1-イル)ヘキサノアート(1.2当量、9.25mg、0.03mmol)を加えた。混合物を、21℃で1時間撹拌し、次いで、S4(1当量、28.2mg、0.025mmol)を加えた。TBTA-Cu(II)複合体を、トリス[(1-ベンジル-1H-1,2,3-トリアゾル-4-イル)メチル]アミン(0.2当量、DMF中の0.2M、0.025mL、0.005mmol)及び硫酸銅五水和物(0.2当量、H2O中の0.2M、0.025mL、0.005mmol)を混合し、21℃で2分間インキュベートすることにより、調製した。TBTA-Cu(II)複合体(0.2当量、DMF/H2O 50/50中の0.1M、0.05mL、0.005mmol)を、反応混合物に加え、その後、アスコルビン酸ナトリウム(1当量、1M、0.025mL、0.025mmol)に加えた。得られた混合物を、21℃で1時間インキュベートし、分取HPLCにより精製して、白色固形物として、S5(26.8mg、0.0145mmol、58%)を生成した。
HPLC(方法2)RT:6.65分
MS(方法3)m/z:924.1[M+2H]2+/2
【0146】
化合物R6a
【0147】
【0148】
R3(1当量、41.5mg、0.06mmol)及びMMAF(1当量、47.5mg、0.06mmol)のDMF(1.3mL)溶液に、HOBt(1当量、8.14mg、0.06mmol)のピリジン(0.291mL)溶液を加えた。混合物を、室温で66h撹拌し、HCOOH(3当量、6.8μL、0.18mmol)で急冷し、分取HPLC(方法1)により精製して、白色固形物として、R6a(57mg、0.043mmol、収率71%)を生成した。
HPLC(方法2)RT:6.0分
MS(方法3)m/z:669.5[M+2H]2+/2
【0149】
化合物S6a
【0150】
【0151】
S3(1当量、41.5mg、0.06mmol)及びMMAF(1当量、47.5mg、0.06mmol)のDMF(1.3mL)溶液に、HOBt(1当量、8.14mg、0.06mmol)のピリジン(0.291mL)溶液を加えた。混合物を、室温で66h撹拌し、HCOOH(3当量、6.8μL、0.18mmol)で急冷し、分取HPLC(方法1)により精製して、白色固形物としてS6a(26.6mg、0.02mmol、収率33%)を生成した。
HPLC(方法2)RT:6.0分
MS(方法3)m/z:669.4[M+2H]2+/2
【0152】
化合物R6b
【0153】
【0154】
R6a(1当量26.5mg、0.02mmol)のMeCN(233μL)溶液に、濃HCl水溶液(233μL)を加え、溶液を、40℃で20h撹拌した。次いで、混合物を、MeCN 0.5mLで希釈し、遠心して、沈殿物を分離した。上澄みを、分取HPLC(方法1)により精製して、オフホワイト色の固形物として、R6b(6.7mg、5.9μmol、収率30%)を生成した。
HPLC(方法2)RT:4.4分
MS(方法3)m/z:1141.6[M+H]+
【0155】
化合物S6b
【0156】
【0157】
S6a(1当量26.5mg、0.02mmol)のMeCN(233μL)溶液に、濃HCl水溶液(233μL)を加え、溶液を、40℃で20h撹拌した。次いで、混合物を、MeCN 0.5mLで希釈し、遠心して、沈殿物を分離した。上澄みを、分取HPLC(方法1)により精製して、オフホワイト色の固形物として、S6b(10.4mg、9.1μmol、収率46%)を生成した。
HPLC(方法2)RT:4.4分
MS(方法3)m/z:1141.6[M+H]+
【0158】
化合物R6
【0159】
【0160】
32-アジド-3,6,9,12,15,18,21,24,27,30-デカオキサドトリアコンタン-1-アミン(1.2当量、3.53mg、6.7μmol)の乾燥DMF(0.15mL)溶液に、2,5-ジオキソピロリジン-1-イル6-(2,5-ジオキソ-2,5-ジヒドロ-1H-ピロル-1-イル)ヘキサノアート(1.2当量、2.07mg、6.7μmol)の乾燥DMF(0.15mL)溶液を加えた。混合物を、21℃で1時間撹拌し、次いで、DMSO(0.15mL)中のR6b(1当量、6.4mg、5.6μmol)を加えた。THPTA-Cu(II)複合体を、トリス(3-ヒドロキシプロピルトリアゾリルメチル)アミン(1.5当量、DMF中の0.1M、0.084mL、8.4μmol)及び硫酸銅五水和物(1.5当量、H2O中の0.1M、0.084mL、8.4μmol)を混合し、21℃で1分間インキュベートすることにより調製した。THPTA-Cu(II)複合体(1.5当量、DMF/H2O50/50中の0.05M、0.168mL、8.4μmol)を、反応混合物に加え、その後、アスコルビン酸ナトリウム(7.46当量、H2O中の0.5M、0.084mL、41.5μmol)に加えた。得られた混合物を、21℃で15分間インキュベートし、分取HPLC(方法1)により精製して、白色固形物として、R6(3.7mg、1.99μmol、36%)を生成した。
HPLC(方法2)RT:4.18分
MS(方法3)m/z:931.1[M+2H]2+/2
【0161】
化合物S6
【0162】
【0163】
32-アジド-3,6,9,12,15,18,21,24,27,30-デカオキサドトリアコンタン-1-アミン(1.2当量、4.63mg、8.8μmol)の乾燥DMF(0.15mL)溶液に、2,5-ジオキソピロリジン-1-イル6-(2,5-ジオキソ-2,5-ジヒドロ-1H-ピロル-1-イル)ヘキサノアート(1.2当量、2.71mg、8.8μmol)の乾燥DMF(0.15mL)溶液を加えた。混合物を、21℃で1時間撹拌し、次いで、DMSO(0.15mL)中のS6b(1当量、8.3mg、7.3μmol)を加えた。THPTA-Cu(II)複合体を、トリス(3-ヒドロキシプロピルトリアゾリルメチル)アミン(1.5当量、DMF中の0.1M、0.109mL、10.9μmol)及び硫酸銅五水和物(1.5当量、H2O中の0.1M、0.109mL、10.9μmol)を混合し、21℃で1分間インキュベートすることにより調製した。THPTA-Cu(II)複合体(1.5当量、DMF/H2O50/50中の0.05M、0.218mL、10.9μmol)を、反応混合物に加え、その後、アスコルビン酸ナトリウム(7.46当量、H2O中の0.5M、0.109mL、54.4μmol)に加えた。得られた混合物を、21℃で15分間インキュベートし、分取HPLC(方法1)により精製して、白色固形物として、S6(6.2mg、3.33μmol、46%)を生成した。
HPLC(方法2)RT:4.14分
MS(方法3)m/z:931.1[M+2H]2+/2
【0164】
化合物7a
【0165】
【0166】
SN-38(1当量、72.2mg、0.18mmol)及び1-アジド-4-(ブロモメチル)ベンゼン(1当量、39mg、0.18mmol)のDMF(7.22mL)溶液に、K2CO3(3当量、76.3mg、0.55mmol)を加えた。得られた溶液を、窒素でパージし、室温で1h撹拌して、7aを形成させた。粗7a(92mg、0.18mmol、96%)を、更に精製せずに次の工程に用いた。
MS(方法3)m/z:524.2[M+H]+
【0167】
化合物7b
【0168】
【0169】
7a(1当量、96mg、0.18mmol)のDMF(3mL)溶液に、トリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン塩酸塩(TCEP、1.3当量、68.33mg、0.24mmol)を加え、その後、K2CO3(3当量、76mg、0.55mmol)を加えた。混合物を、1時間撹拌し、次いで、EtOAcの5×体積を加え、その後、水1×体積を加えた。有機層を、分離し、水層を、更にEtOAc5×体積で抽出した。組み合わせた有機層を、MgSO4で脱水し、減圧下で濃縮して、淡黄色固形物として7b(90mg、0.18mmol、99%)を生成した。粗7bは、更に精製せずに次の工程に用いた。
MS(方法3)m/z:498.2[M+H]+
【0170】
化合物R7c
【0171】
【0172】
R3(1当量、82mg、0.12mmol)、7b(1当量、59mg、0.12mmol)及びHOBt(1当量、16mg、0.12mmol)のDMF(2.4mL)溶液を、25℃で16時間撹拌した。得られた混合物を、分取HPLC(方法1)により精製して、淡黄色固形物として、R7c(45mg、0.043mmol、36%)を生成した。
MS(方法3)m/z:1047.3[M+H]+
【0173】
化合物S7c
【0174】
【0175】
S3(1当量、82mg、0.12mmol)、7b(1当量、59mg、0.12mmol)及びHOBt(1当量、16mg、0.12mmol)のDMF(2.4mL)溶液を、25℃で16時間撹拌した。得られた混合物を、分取HPLC(方法1)により精製して、淡黄色固形物として、S7c(63mg、0.06mmol、50%)を生成した。
MS(方法3)m/z:1047.3[M+H]+
【0176】
化合物R7d
【0177】
【0178】
R7c(1当量、23mg、22μmol)のMeOH(20mL)溶液に、1M LiOH水溶液(200当量、4.4mL、4.4mmol)を加えた。得られた反応混合物を、25℃で4h撹拌し、分取HPLCにより精製して、淡黄色固形物として、R7d(16mg、0.018mmol、80%)を生成した。
MS(方法3)m/z:907.3[M+H]+
【0179】
化合物S7d
【0180】
【0181】
S7c(1当量、23mg、22μmol)のMeOH(20mL)溶液に、1M LiOH水溶液(200当量、4.4mL、4.4mmol)を加えた。得られた反応混合物を、25℃で4h撹拌し、分取HPLCにより精製して、淡黄色固形物として、S7d(13.9mg、0.016mmol、69.6%)を生成した。
MS(方法3)m/z:907.3[M+H]+
【0182】
化合物R7
【0183】
【0184】
32-アジド-3,6,9,12,15,18,21,24,27,30-デカオキサドトリアコンタン-1-アミン(1.5当量、5.92mg、11.3μmol)の乾燥DMF(0.1mL)溶液に、2,5-ジオキソピロリジン-1-イル6-(2,5-ジオキソ-2,5-ジヒドロ-1H-ピロル-1-イル)ヘキサノアート(1.5当量、3.47mg、11.3μmol)の乾燥DMF(0.1mL)溶液を加えた。混合物を、21℃で1時間撹拌し、次いで、DMSO(0.1mL)中のR7d(1当量、6.8mg、7.5μmol)を加えた。THPTA-Cu(II)複合体を、トリス(3-ヒドロキシプロピルトリアゾリルメチル)アミン(0.5当量、DMF中の0.1M、37.5μL、3.75μmol)及び硫酸銅五水和物(0.5当量、H2O中の0.1M、37.5μL、3.75μmol)を混合し、21℃で1分間インキュベートすることにより調製した。THPTA-Cu(II)複合体(0.5当量、DMF/H2O50/50中の0.05M、75μL、3.75μmol)を、反応混合物に加え、その後、アスコルビン酸ナトリウム(2.5当量、H2O中の0.5M、37.5μL、18.75μmol)に加えた。得られた混合物を、21℃で15分間インキュベートし、分取HPLC(方法1)により精製して、白色固形物として、R7(6.95mg、4.28μmol、57%)を生成した。
HPLC(方法2)RT:3.92分
MS(方法3)m/z:813.9[M+2H]2+/2
【0185】
化合物S7
【0186】
【0187】
32-アジド-3,6,9,12,15,18,21,24,27,30-デカオキサドトリアコンタン-1-アミン(1.5当量、5.92mg、11.3μmol)の乾燥DMF(0.1mL)溶液に、2,5-ジオキソピロリジン-1-イル6-(2,5-ジオキソ-2,5-ジヒドロ-1H-ピロル-1-イル)ヘキサノアート(1.5当量、3.47mg、11.3μmol)の乾燥DMF(0.1mL)溶液を加えた。混合物を、21℃で1時間撹拌し、次いで、DMSO(0.1mL)中のS7d(1当量、6.8mg、7.5μmol)を加えた。THPTA-Cu(II)複合体を、トリス(3-ヒドロキシプロピルトリアゾリルメチル)アミン(0.5当量、DMF中の0.1M、37.5μL、3.75μmol)及び硫酸銅五水和物(0.5当量、H2O中の0.1M、37.5μL、3.75μmol)を混合し、21℃で1分間インキュベートすることにより調製した。THPTA-Cu(II)複合体(0.5当量、DMF/H2O50/50中の0.05M、75μL、3.75μmol)を、反応混合物に加え、その後、アスコルビン酸ナトリウム(2.5当量、H2O中の0.5M、37.5μL、18.75μmol)に加えた。得られた混合物を、21℃で15分間インキュベートし、分取HPLC(方法1)により精製して、白色固形物として、S7(7.44mg、4.58μmol、61%)を生成した。
HPLC(方法2)RT:3.95分
MS(方法3)m/z:813.9[M+2H]2+/2
【0188】
化合物R8a
【0189】
【0190】
R3(1当量、317mg、0.46mmol)のアセトニトリル(2mL)溶液に、濃HCl(52.2当量、2mL、24mmol)を加え、混合物を、37℃で16h撹拌した。得られた混合物に、EtOAc(8mL)を加え、その後、水(8mL)を加えた。有機層を、分離し、水層を、EtOAcで3回抽出した。組み合わせた有機層を、MgSO4で脱水し、減圧下で濃縮して、粗R8a(250mg、0.46mmol、99%)を生成し、これを、更に精製せずに次の工程に用いた。
MS(方法3)m/z:549.1[M+H]+
【0191】
化合物S8a
【0192】
【0193】
S3(1当量、317mg、0.46mmol)のアセトニトリル(2mL)溶液に、濃HCl(52.2当量、2mL、24mmol)を加え、混合物を、37℃で16h撹拌した。得られた混合物に、EtOAc(8mL)を加え、その後、水(8mL)を加えた。有機層を、分離し、水層を、EtOAcで3回抽出した。組み合わせた有機層を、MgSO4で脱水し、減圧下で濃縮して、粗S8a(247mg、0.45mmol、98%)を生成し、これを、更に精製せずに次の工程に用いた。
MS(方法3)m/z:549.1[M+H]+
【0194】
化合物R8b
【0195】
【0196】
ドキソルビシン塩酸塩(1当量、10mg、0.017mmol)のDMF(0.35mL)溶液に、TEA(2当量、0.35mL、DMF中の0.1M、0.035mmol)溶液を加え、その後、R8a(1当量、9.5mg、0.017mmol)を加えた。得られた混合物を、25℃で16h撹拌し、分取HPLC(方法1)により精製して、赤色固形物としてR8b(12.2mg、0.013mmol、74%)を生成した。
MS(方法3)m/z:953.3[M+H]+
【0197】
化合物S8b
【0198】
【0199】
ドキソルビシン塩酸塩(1当量、10mg、0.017mmol)のDMF(0.35mL)溶液に、TEA(2当量、0.35mL、DMF中の0.1M、0.035mmol)溶液を加え、その後、S8a(1当量、9.5mg、0.017mmol)を加えた。得られた混合物を、25℃で16h撹拌し、分取HPLC(方法1)により精製して、赤色固形物として、S8b(13.2mg、0.014mmol、80%)を生成した。
MS(方法3)m/z:953.3[M+H]+
【0200】
化合物R8
【0201】
【0202】
32-アジド-3,6,9,12,15,18,21,24,27,30-デカオキサドトリアコンタン-1-アミン(1.5当量、11.82mg、22.45μmol)の乾燥DMF(0.2mL)溶液に、2,5-ジオキソピロリジン-1-イル6-(2,5-ジオキソ-2,5-ジヒドロ-1H-ピロル-1-イル)ヘキサノアート(1.5当量、6.92mg、22.45μmol)の乾燥DMF(0.2mL)溶液を加えた。混合物を、21℃で1時間撹拌し、次いで、DMSO(0.2mL)中のR8b(1当量、12mg、14.97μmol)を加えた。THPTA-Cu(II)複合体を、トリス(3-ヒドロキシプロピルトリアゾリルメチル)アミン(1当量、DMF中の0.1M、150μL、14.97μmol)及び硫酸銅五水和物(1当量、H2O中の0.1M、150μL、14.97μmol)を混合し、21℃で1分間インキュベートすることにより調製した。THPTA-Cu(II)複合体(1当量、DMF/H2O50/50中の0.05M、300μL、14.97μmol)を、反応混合物に加え、その後、アスコルビン酸ナトリウム(2当量、H2O中の0.5M、60μL、29.94μmol)に加えた。得られた混合物を、21℃で15分間インキュベートし、分取HPLC(方法1)により精製して、赤色固形物として、R8(14.35mg、9.43μmol、63%)を生成した。
HPLC(方法2)RT:3.70分
MS(方法3)m/z:836.9[M+2H]2+/2
【0203】
化合物S8
【0204】
【0205】
32-アジド-3,6,9,12,15,18,21,24,27,30-デカオキサドトリアコンタン-1-アミン(1.5当量、11.82mg、22.45μmol)の乾燥DMF(0.2mL)溶液に、2,5-ジオキソピロリジン-1-イル6-(2,5-ジオキソ-2,5-ジヒドロ-1H-ピロル-1-イル)ヘキサノアート(1.5当量、6.92mg、22.45μmol)の乾燥DMF(0.2mL)溶液を加えた。混合物を、21℃で1時間撹拌し、次いで、DMSO(0.2mL)中のS8b(1当量、12mg、14.97μmol)を加えた。THPTA-Cu(II)複合体を、トリス(3-ヒドロキシプロピルトリアゾリルメチル)アミン(1当量、DMF中の0.1M、150μL、14.97μmol)及び硫酸銅五水和物(1当量、H2O中の0.1M、150μL、14.97μmol)を混合し、21℃で1分間インキュベートすることにより調製した。THPTA-Cu(II)複合体(1当量、DMF/H2O 50/50中の0.05M、300μL、14.97μmol)を、反応混合物に加え、その後、アスコルビン酸ナトリウム(2当量、H2O中の0.5M、60μL、29.94μmol)に加えた。得られた混合物を、21℃で15分間インキュベートし、分取HPLC(方法1)により精製して、赤色固形物として、S8(15.5mg、10.18μmol、68%)を生成した。
HPLC(方法2)RT:3.65分
MS(方法3)m/z:836.9[M+2H]2+/2
【0206】
X-線結晶学により、R1aによる、R1の絶対配置の決定
1)R1aの調製
【0207】
【0208】
R1の絶対配置を決定するために、エステルR1aを、合成し、結晶化させ、X線結晶学により分析した。THF(3.61mL)中のR1(1当量、111mg、0.536mmol)及びトリエチルアミン(2当量、108mg、0.149mL、1.07mmol)の0℃まで冷却した溶液に、4-ニトロベンゾイルクロリド(1.5当量、149mg、0.804mmol)のTHF(3.61mL)溶液を、滴加した。得られた溶液を、室温まで加温し、30分間放置した。酢酸エチル(22mL)を、加え、その後、水7mLを加えた。有機層を、分離し、飽和NaCl溶液で洗浄した。有機層を、蒸発させ、残基を、フラッシュクロマトグラフィー(シクロヘキサン/EtOAc勾配20分におけるEtOAcの0~100%;30カラム体積)により精製して、R1a(60.5mg、0.17mmol、収率88%)を生成した。
【0209】
2)X-線結晶学によりR1aの絶対配置の決定
R1a(60mg)を、ジクロロメタン3mLに溶解させ、ヘプタン3mLで希釈した。混合物を2週間にわたってゆっくりと蒸発させ、R1a結晶の形成を誘導した。結晶を油中に入れ、寸法が、0.50×0.40×0.18mmの無色の板状の単結晶を選択し、ガラス繊維に固定し、低温N2気流に入れた。X線回折データ収集を、Cu-Kα照射(λ=1.54178Å)を用いたOxford Cryosystem liquid N2デバイスを装備したBruker APEX II DUO Kappa-CCD回折計で行った。結晶-検出器の距離は、40mmであった。細胞パラメータを、各10sの曝露で、20フレームの3セットから得られた反射から、(APEX3ソフトウェア)決定した。構造を、SHELXT-2014プログラムを用いて、解析した。改良及びすべての更なる算出を、SHELXL-2014を用いて行った。1つのOH基の水素原子を、フーリエ差から位置付けた。他のH-原子は、算出された位置において含まれ、SHELXLデフォルトパラメータを用いて、ライディング原子(riding atom)として処理された。非H原子を、F2において重み付けフルマトリックス最小二乗を用いて、異方性の方法で改良した。半経験的な吸収補正を、APEX3においてSADABSを用いて適用し;転写因子:Tmin/Tmax=0.6111/0.7528であった。
【0210】
【0211】
MMAEのβ-グルクロニダーゼにより誘導された放出の速度の測定
・R異性体のサンプル溶液を、R5 10μL(DMSO中の10mM)を、ヒト血漿990μLに加え、37℃で20分間インキュベートすることにより調製した。
・S異性体のサンプル溶液を、S5 10μL(DMSO中の10mM)を、ヒト血漿990μLに加え、37℃で20分間インキュベートすることにより調製した。
・急冷する溶液(Q)を、1M HCl水溶液50μLを、アセトニトリル1.5mLに加えることにより調製した。
・β-グルクロニダーゼ溶液(Glu)を、大腸菌(Escherichia coli)(6.5mg/mL)から得られたβ-グルクロニダーゼのグリセロール水溶液20μLを、H2O180μLに加えることにより、調製した。
・参照溶液(Ref)を、MMAE10μL(DMSO中の10mM)を、ヒト血漿990μLに加え、37℃で20分間インキュベートすることにより調製した。
【0212】
各異性体及び参照溶液1mLに、Glu40.9uLを加えた。得られた混合物を、37℃でインキュベートした。各溶液の45μLアリコートを、次の時点、1分、2分、3分、4分、5分、6分及び7分でQ155μLで急冷した。急冷したアリコートを、5分間15000gで遠心し、上澄みを、([MMAE+H]
+に対応する)719Daまでの選択されたイオン記録セットを有するLCMS(方法3)により分析した。毎時点における放出されたMMAEの量を、(サンプルピーク面積)/(参照ピーク面積)×100%として算出した(
図2)。
【0213】
細胞障害性薬物のβ-グルクロニダーゼにより誘導された放出の速度の測定のための一般的な手順
・R異性体のサンプル溶液を、化合物R6、R7又はR8 5μL(DMSO中の10mM)を、ヒト血漿及びリン酸カリウム緩衝液(0.1M、pH7.0)の50/50混合物500μLに加え、37℃で20分間インキュベートすることにより調製した。
・S異性体のサンプル溶液を、化合物S6、S7又はS8 5μL(DMSO中の10mM)を、ヒト血漿及びリン酸カリウム緩衝液(0.1M、pH7.0)の50/50混合物500μLに加え、37℃で20分間インキュベートすることにより調製した。
・急冷する溶液(Q)を、1M HCl水溶液50μLを、アセトニトリル1.5mLに加えることにより調製した。
・β-グルクロニダーゼ溶液(Glu)を、大腸菌(Escherichia coli)(6.5mg/mL)から得られたβ-グルクロニダーゼのグリセロール水溶液20μLを、H2O 180μLに加えることにより、調製した。
・参照溶液(Ref)を、対応する遊離の細胞障害性薬物5μL(DMSO中の10mM)を、ヒト血漿及びリン酸カリウム緩衝液(0.1M、pH7.0)の50/50混合物500μLに加え、37℃で20分間インキュベートすることにより調製した。
【0214】
各サンプル及び参照溶液に、Glu10uLを加えた。得られた混合物を、25℃でインキュベートした。各溶液の45μLアリコートを、グラフ(
図3~
図5)に示される正確な時点で、Q155μLで急冷した。急冷したアリコートを、5分間15000gで遠心し、上澄みを、[M+H]
+(式中、Mは、遊離の細胞傷害性薬剤の分子量に対応する)までの選択されたイオン記録セットを有するLCMS(方法3)により分析した。毎時点における放出された細胞傷害性薬剤の量を、(サンプルピーク面積)/(参照ピーク面積)×100%として算出した。
【0215】
結果を、
図2から
図5中に例示する。
図2.R5及びS5の血漿溶液中のMMAEのβ-グルクロニダーゼにより誘導された放出の速度によって、S5と比較して、血漿によって結合されたR5の有意により高速な切断が実証される、すなわち、インキュベーションの7分後、MMAE24%が、血漿によって結合されたR5から放出され、血漿によって結合されたS5から放出されたのは、12%にすぎなかった。
【0216】
図3.R6及びS6の血漿溶液中のMMAFのβ-グルクロニダーゼにより誘導された放出の速度によって、S6と比較して、血漿によって結合されたR6の有意により高速な切断が実証される、すなわち、インキュベーションの40分後、MMAE86%が、血漿によって結合されたR6から放出され、血漿によって結合されたS6から放出されたのは、57%にすぎなかった。
【0217】
図4.R7及びS7の血漿溶液中のSN-38のβ-グルクロニダーゼにより誘導された放出の速度によって、S7と比較して、血漿によって結合されたR7のより高速な切断が実証される、すなわち、インキュベーションの40分後、SN-38 24%が、血漿によって結合されたR7から放出され、血漿によって結合されたS7から放出されたのは、18%にすぎなかった。
【0218】
図5.R8及びS8の血漿溶液中のドキソルビシンのβ-グルクロニダーゼにより誘導された放出の速度によって、S8と比較して、血漿によって結合されたR8のより高速な切断が実証される、すなわち、インキュベーションの40分後、ドキソルビシン99%が、血漿によって結合されたR8から放出され、血漿によって結合されたS8から放出されたのは、80%であった。
【0219】
pH7.4における水性緩衝液中のR5及びS5の安定性の測定
・サンプル溶液R5-PBSを、R5(DMSO中の10mM)20μLを、リン酸緩衝食塩水(pH7.4)180μLに加えることにより調製した。
・サンプル溶液S5-PBSを、S5(DMSO中の10mM)20μLを、リン酸緩衝食塩水(pH7.4)180μLに加えることにより調製した。
・サンプルを、25℃でインキュベートし、924Daまで([R5+2H]2+/2及び[S5+2H]2+/2に対応する)及び933Daまで(主な不純物は、加水分解産物[R5+H2O+2H]2+/2及び[S5+H2O+2H]2+/2に対応して形成される)、選択されたイオン記録セットを有するLCMS(方法3)により分析した。サンプルを、次の時点、すなわち、0分、99分、195分、291分、387分、543分、699分、855分、980分で注射した。0分で注射したサンプルのピーク面積を、参照ピーク面積と考えた。
・%ピーク面積を、(924Daピーク面積)/((924Daピーク面積)+(933Daピーク面積))×100%として算出した。
【0220】
結果を、
図6中に例示する。両方のサンプルの場合、化合物(R5又はS5)のゆっくりとした加水分解が、pH7.4において観察され:化合物の30~40%が、1000分後に加水分解される。
【0221】
同じ実験を、pH6.0のリン酸緩衝食塩水中で行った。R5又はS5の分解は、これらの条件で任意の時点で観察されなかった。
【0222】
R5及びS5の血漿-結合速度
・急冷する溶液(Q)を、1M HCl水溶液50μLを、アセトニトリル1.5mLに加えることにより調製した。
・サンプル溶液R-Albを、R5 10μL(DMSO中の10mM)を、ヒト血漿990μLに加え、37℃でインキュベートすることにより調製した。
・サンプル溶液S-Albを、S5 10μL(DMSO中の10mM)を、ヒト血漿990μLに加え、37℃でインキュベートすることにより調製した。
・各サンプル溶液の45μLアリコートを、次の時点、すなわち、0分、1分、2分、3分、4分、5分、6分、7分で、急冷する溶液155μLに加えた。
・急冷したアリコートを、5分間15000gで遠心し、上澄みを、924Daまで([R5+2H]2+/2及び[S5+2H]2+/2に対応する)、選択されたイオン記録セットを有するLCMS(方法3)により分析した。0分で急冷したアリコートのピーク面積を、参照ピーク面積と考えた。
・毎時点での残存する遊離の薬物%を、(サンプルピーク面積)/(参照ピーク面積)×100%として算出した。
【0223】
2つの化合物R5及びS5は、血清アルブミンと急速な結合反応を起こし、その結果、
図7中に示す通り、これらの遊離の形態の濃度の大幅な低下をもたらす。インキュベーションの2分後、S5又はR5約90%は、血清アルブミンに結合され、全変換を、4分後に得た。
【0224】
アルブミンにより結合されたR5及びS5の血漿安定性
・サンプル溶液R5-Albを、R5 10μL(DMSO中の10mM)を、ヒト血漿990μLに加えることにより調製した。
・サンプル溶液S5-Albを、S5 10μL(DMSO中の10mM)を、ヒト血漿990μLに加えることにより調製した。
・急冷する溶液(Q)を、1M HCl水溶液50μLを、アセトニトリル1.5mLに加えることにより調製した。
・参照溶液(Ref)を、MMAE(DMSO中の10mM)10μLを、ヒト血漿990μLに加えることにより調製した。
・サンプル溶液及び参照溶液を、37℃でインキュベートした
・各サンプル溶液の45μLアリコートを、次の時点、すなわち、0h、8h、24h、48h、102h、192hで、急冷する溶液155μLに加えた。
・急冷したアリコートを、5分間15000gで遠心し、上澄みを、719Da([MMAE+H]+に対応する)まで、選択されたイオン記録セットを有するLCMS(方法3)により分析した。
・毎時点における放出されたMMAE%を、(サンプルピーク面積)/(参照ピーク面積)×100%として算出した。
【0225】
図8中に示す通り、アルブミンにより結合されたR5及びS5は、ごく微量の細胞障害性薬物(MMAE)を、長期のインキュベーション(インキュベーションの192時間後、すなわち、8日後、10%未満)で放出したため、依然として、血漿中で安定したままである。
【0226】
分離試験
1:1の混合物中で化合物R5及びS5を分離することを目的とする試験を、方法2によるHPLCにより実行したが、
図9中に示される通り、不成功であることが証明され、6.72及び6.83分の非常に近いRTのものが得られた。
類似の試験を、R4及びS4の1:1の混合物で行ったが、分離は、7.56及び7.72分のRTのものが得られたため、不成功であることがやはり証明された(
図10)。