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特許7397079SARS-CoV-2ウイルス薬の調製におけるトランスフェリン、トランスフェリン受容体及びそれらの抗体の応用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-04
(45)【発行日】2023-12-12
(54)【発明の名称】SARS-CoV-2ウイルス薬の調製におけるトランスフェリン、トランスフェリン受容体及びそれらの抗体の応用
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/40 20060101AFI20231205BHJP
   A61K 38/17 20060101ALI20231205BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20231205BHJP
   A61P 31/14 20060101ALI20231205BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20231205BHJP
【FI】
A61K38/40
A61K38/17
A61K39/395 D
A61K39/395 N
A61P31/14
C12N15/09 Z ZNA
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2021530290
(86)(22)【出願日】2020-06-29
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-11-16
(86)【国際出願番号】 CN2020098861
(87)【国際公開番号】W WO2022000167
(87)【国際公開日】2022-01-06
【審査請求日】2021-05-26
(73)【特許権者】
【識別番号】510030331
【氏名又は名称】中国科学院昆明▲動▼物研究所
【氏名又は名称原語表記】KUNMING INSTITUTE OF ZOOLOGY .CAS(CHINESE ACADEMY OF SCIENCES )
【住所又は居所原語表記】NO.32 Jiaochang East Road Kunming, Yunnan 650223 (CN)
(73)【特許権者】
【識別番号】521228569
【氏名又は名称】中国医学科学院医学生物学研究所
【氏名又は名称原語表記】INSTITUTE OF MEDICAL BIOLOGY, CHINESE ACADEMY OFMEDICAL SCIENCES
【住所又は居所原語表記】935 Jiaoling Road, Wuhua District, Kunming, Yunnan 650031, China
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】▲頼▼▲仭▼
(72)【発明者】
【氏名】彭小忠
(72)【発明者】
【氏名】唐小▲梵▼
(72)【発明者】
【氏名】廖祉亦
(72)【発明者】
【氏名】▲魯▼▲帥▼▲堯▼
(72)【発明者】
【氏名】▲劉▼▲紅▼旗
【審査官】井上 能宏
(56)【参考文献】
【文献】Zhang, S. et al.,Ttansferrin receptor 1 is a supplementary receptor that assists transmissible gastroenteritis virus entry into porcine intestinal epithelium,Cell Communication and Signaling,2018年10月20日,Vol. 16, No. 1,DOI:10.1186/s12964-018-0283-5
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K、C12N
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗SARS-CoV-2ウイルス薬の調製におけるトランスフェリンの使用。
【請求項2】
前記トランスフェリンの濃度が250nmol/L以上であることを特徴とする請求項1に記載の使用。
【請求項3】
トランスフェリンを含む、抗SARS-CoV-2ウイルス薬。
【請求項4】
抗SARS-CoV-2ウイルス薬の調製におけるトランスフェリン受容体の使用。
【請求項5】
前記トランスフェリン受容体の濃度が、100nmol/L以上であることを特徴とする請求項4に記載の使用。
【請求項6】
トランスフェリン受容体を含む、抗SARS-CoV-2ウイルス薬。
【請求項7】
抗SARS-CoV-2ウイルス薬の調製におけるトランスフェリン受容体抗体の使用。
【請求項8】
前記トランスフェリン受容体抗体の濃度が、70nmol/L以上であることを特徴とする請求項7に記載の使用。
【請求項9】
トランスフェリン受容体抗体を含む、抗SARS-CoV-2ウイルス薬。
【請求項10】
SARS-CoV-2ウイルスのスパイクタンパク質のトランスフェリン受容体への結合を阻害する生物学的製品の調製におけるトランスフェリン及び/又はトランスフェリン受容体抗体の使用。
【請求項11】
トランスフェリン及び/又はトランスフェリン受容体抗体を含むことを特徴とする、SARS-CoV-2ウイルスのスパイクタンパク質のトランスフェリン受容体への結合を阻害するための生物学的製品。
【請求項12】
SARS-CoV-2ウイルスのスパイクタンパク質に結合する生物学的製品の調製におけるトランスフェリン受容体の使用。
【請求項13】
トランスフェリン及びトランスフェリン受容体抗体を含み;前記トランスフェリンとトランスフェリン受容体抗体のモル比が、1:1以上であることを特徴とする抗SARS-CoV-2ウイルスの組成物。
【請求項14】
抗SARS-CoV-2ウイルス薬の調製における請求項13に記載の組成物の使用。
【請求項15】
有効成分及び添加剤を含む抗SARS-CoV-2ウイルス薬であって、
前記有効成分には、トランスフェリン及びトランスフェリン受容体抗体が含まれ;
前記トランスフェリンとトランスフェリン受容体抗体のモル比が1:1以上であることを特長とする抗SARS-CoV-2ウイルス薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗ウイルス薬の技術分野に属し、特に、SARS-CoV-2ウイルス薬の調製におけるトランスフェリン、トランスフェリン受容体及びそれらの抗体の応用に関する。
【背景技術】
【0002】
21世紀以来、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS-CoV)、中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV)、及び新規コロナウイルスSARS-CoV-2は、種の壁を越え、動物を介して人間に広がり、人間に重度の肺炎を患わせる。症例の早期発見や隔離などの公衆衛生介入措置を通じて、SARS-CoVの流行は首尾よく封じ込められた。2019年12月に、新しいコロナウイルスが発見され、2020年1月にシーケンス及び分離された。2020年1月30日、世界保健機関は、国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態としてSARS-CoV-2の流行を発表した(非特許文献1~3)。SARS-CoV-2コロナウイルスは、RNAゲノムが陽性のエンベロープウイルスであり、コロナウイルス亜科に属している。それらは4つの属(α、β、γ、及びδ)に分類され、β-CoVはさらに4つの種(A、B、C、及びD)に分類される。
【0003】
トランスフェリン(transferrin)は血漿中の主要な鉄含有タンパク質であり、トランスフェリンの分子量は約77,000であり、一本鎖糖タンパク質であり、消化管によって吸収された鉄と、赤血球分解によって放出された鉄を運ぶ役割を果たす。現時点の研究により、トランスフェリンの生理学的機能は、鉄イオンを輸送する機能に加えて、抗菌性や細胞の成長と分化への関与などの重要な機能も持っていることを示している(非特許文献4)。トランスフェリンは、また、トランスフェリン受容体のエンドサイトーシス経路を介して鉄を細胞に移動させるため、トランスフェリン受容体は細胞の鉄ホメオスタシスにおいて重要な役割を果たしている(非特許文献5)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】A. C. Walls et al., Structure, Function, and Antigenicity of the SARS-CoV-2 Spike Glycoprotein. Cell 181, 281-292 e286(2020).
【文献】R. Li et al., Substantial undocumented infection facilitates the rapid dissemination of novel coronavirus (SARS-CoV-2). Science 368, 489-493 (2020).
【文献】W. Wang et al., Detection of SARS-CoV-2 in Different Types of Clinical Specimens. JAMA, (2020).
【文献】P. T. Gomme, K.B.McCann,J.Bertolini,Transferrin:structure,function and potential therapeutic actions. Drug Discov Today 10, 267-273 (2005).
【文献】H. Fuchs, U. Lucken, R. Tauber, A. Engel, R. Gessner, Structural model of phospholipid-reconstituted human transferrin receptor derived by electron microscopy. Structure6,1235-1243(1998).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
これを考慮して、本発明の目的は、トランスフェリンの新しい用途、即ちSARS-CoV-2ウイルス薬の調製におけるトランスフェリンの応用を提供することである。
【0006】
本発明の目的はまた、抗SARS-CoV-2ウイルス薬の調製におけるトランスフェリン受容体又はトランスフェリン受容体抗体の応用を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、抗SARS-CoV-2ウイルス薬の調製におけるトランスフェリンの応用を提供する。
【0008】
好ましくは、前記トランスフェリンの濃度は、250nmol/L以上である。
【0009】
本発明は、抗SARS-CoV-2ウイルスにおけるトランスフェリンの応用を提供する。
【0010】
本発明は、抗SARS-CoV-2ウイルス薬の調製におけるトランスフェリン受容体の応用を提供する。
【0011】
好ましくは、前記トランスフェリン受容体の濃度は、100nmol/L以上である。
【0012】
本発明は、抗SARS-CoV-2ウイルスにおけるトランスフェリン受容体の応用を提供する。
【0013】
本発明は、抗SARS-CoV-2ウイルス薬の調製におけるトランスフェリン受容体抗体の応用を提供する。
【0014】
好ましくは、前記トランスフェリン受容体抗体の濃度は、70nmol/L以上である。
【0015】
本発明は、抗SARS-CoV-2ウイルスにおけるトランスフェリン受容体抗体の応用を提供する。
【0016】
本発明は、SARS-CoV-2ウイルスのスパイクタンパク質に結合する生物学的製品の調製におけるトランスフェリン及び/又はトランスフェリン受容体抗体の応用を提供する。
【0017】
本発明は、トランスフェリン及び/又はトランスフェリン受容体抗体を含む、SARS-CoV-2ウイルスに結合するスパイクタンパク質の生物学的製品を提供する。
【0018】
本発明は、SARS-CoV-2ウイルスのスパイクタンパク質に結合する生物学的製品の調製におけるトランスフェリン受容体の応用を提供する。
【0019】
本発明は、トランスフェリン及びトランスフェリン受容体抗体を含み;前記トランスフェリンとトランスフェリン受容体抗体のモル比が、1:1以上である抗SARS-CoV-2ウイルスの組成物を提供する。
【0020】
本発明は、抗SARS-CoV-2ウイルス薬の調製における前記組成物の応用を提供する。
【0021】
本発明は、有効成分及び添加剤を含む抗SARS-CoV-2ウイルスの薬を提供し、前記有効成分には、トランスフェリン及びトランスフェリン受容体抗体が含まれる;
前記トランスフェリンとトランスフェリン受容体抗体のモル比は1:1以上である。
【0022】
本発明は、抗SARS-CoV-2ウイルス薬の調製におけるトランスフェリンの応用を提供する。本発明は、表面プラズモン共鳴(SPR)及び免疫蛍光の2つの方法を使用して、細胞レベルでSARS-CoV-2がスパイクタンパク質(spike)を介してトランスフェリン受容体に結合することを証明する。したがって、トランスフェリンは生体のトランスフェリン受容体に競合的結合に使用されて、トランスフェリン受容体の活性サイトをブロックし、トランスフェリン受容体へのSARS-CoV-2の結合を阻害することによって、SARS-CoV-2ウイルスが細胞を感染する経路をブロックして、生体の抗ウイルス効果を達成する。実験では、レムデシビルが陽性対照薬として使用され、トランスフェリンがSARS-CoV-2ウイルスに感染された細胞の治療に使用され、結果では、トランスフェリンがSARS-CoV-2ウイルスによる感染を効果的に阻害でき、且つ阻害の強さは用量依存的であることが証明された。
【0023】
本発明は、抗SARS-CoV-2ウイルス薬の調製におけるトランスフェリン受容体の応用を提供する。本発明は、表面プラズモン共鳴(SPR)及び免疫蛍光の2つの方法を使用して、細胞レベルでSARS-CoV-2がスパイクタンパク質(spike)を介してトランスフェリン受容体に結合することが証明されたので、トランスフェリン受容体を使用してSARS-CoV-2ウイルスに競合的結合させて、SARS-CoV-2ウイルスの結合サイトをブロックし、SARS-CoV-2と生体のトランスフェリン受容体の結合を阻害することによって、SARS-CoV-2ウイルスが細胞を感染する経路をブロックして、生体の抗ウイルス効果を達成する。実験では、レムデシビルが陽性対照薬として使用され、トランスフェリン受容体がSARS-CoV-2ウイルスに感染された細胞の治療に使用され、結果では、トランスフェリン受容体がSARS-CoV-2ウイルスによる感染を効果的に阻害でき、且つ阻害の強さは用量依存的であることが証明された。
【発明の効果】
【0024】
本発明は、抗SARS-CoV-2ウイルス薬の調製におけるトランスフェリン受容体抗体の応用を提供する。本発明は、表面プラズモン共鳴(SPR)及び免疫蛍光の2つの方法を使用して、細胞レベルでSARS-CoV-2がスパイクタンパク質(spike)を介してトランスフェリン受容体に結合することが証明されたので、トランスフェリン受容体抗体はトランスフェリン受容体に競合的結合して、トランスフェリン受容体の結合サイトをブロックし、SARS-CoV-2と生体のトランスフェリン受容体の結合を阻害することによって、SARS-CoV-2ウイルスが細胞を感染する経路をブロックして、生体の抗ウイルス効果を達成する。実験では、レムデシビルが陽性対照薬として使用され、トランスフェリン受容体のモノクローナル抗体がSARS-CoV-2ウイルスに感染された細胞の治療に使用され、結果では、トランスフェリン受容体抗体がSARS-CoV-2ウイルスによる感染を効果的に阻害でき、且つ阻害の強さは用量依存的であることが証明された。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】実施例1と実施例2における表面プラズモン共鳴(SPR)と免疫蛍光により、SARS-CoV-2-spike(スパイクタンパク質)のトランスフェリン受容体への結合が証明された;その中で、上から下への曲線は、それぞれ250nM、125nM、62.5nM、31.25nM、15.625nM、7.8125nM、及び3.90625nMを表し;Bは免疫蛍光によりSARS-CoV-2-スパイク(スパイクタンパク質)がトランスフェリン受容体に結合することが検証された結果を示す図であり;
図2】比較例1における陽性対照薬レムデシビルでSARS-CoV-2に感染されたVeroE6細胞を治療した形態図であり;
図3】実施例3におけるさまざまな濃度の(31.25nM、62.5nM、125nM、250nM、500nM及び1000nM)トランスフェリンにより、治療されたSARS-CoV-2に感染したVeroE6細胞の比較図;
図4】実施例3におけるSARS-CoV-2に感染された細胞に対するトランスフェリンの阻害率に関するCPE及びqPCRによる統計結果であり、その中で、Aは、SARS-CoV-2に感染された細胞に対するトランスフェリンの阻害率のCPE分析による統計結果であり;Bは、SARS-CoV-2に感染された細胞に対するトランスフェリンの阻害率のqPCR分析による統計結果であり;
図5】実施例4におけるさまざまな濃度の(25nM、50nM、100nM、200nM、400nM及び800nM)トランスフェリン受容体に治療された、SARS-CoV-2に感染されたVeroE6細胞の比較図;
図6】実施例4におけるSARS-CoV-2に感染された細胞に対するトランスフェリン受容体の阻害率に関するCPE及びqPCRによる統計結果であり、その中で、Aは、SARS-CoV-2に感染された細胞に対するトランスフェリンの阻害率のCPE分析による統計結果であり;Bは、SARS-CoV-2に感染された細胞に対するトランスフェリンの阻害率のqPCR分析による統計結果であり;
図7】実施例5におけるさまざまな濃度の((12.5nM、25nM、50nM、100nM、200nM及び400nM)トランスフェリン受容体のモノクローナル抗体に治療された、SARS-CoV-2に感染されたVeroE6細胞の比較図;
図8】実施例5におけるSARS-CoV-2に感染された細胞に対するトランスフェリン受容体のモノクローナル抗体の阻害率に関するCPE及びqPCRによる統計結果であり、その中で、Aは、SARS-CoV-2に感染された細胞に対するトランスフェリンの阻害率のCPE分析による統計結果であり;Bは、SARS-CoV-2に感染された細胞に対するトランスフェリンの阻害率のqPCR分析による統計結果である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明は、抗SARS-CoV-2ウイルス薬の調製におけるトランスフェリンの応用を提供する。
【0027】
本発明は、前記トランスフェリンの供給源を特に限定せず、当技術分野でよく知られているトランスフェリンを使用することができる。本発明の実施形態では、前記トランスフェリンはSigmaから購入され、製品番号はT4382である。一連の連続した濃度勾配のトランスフェリンを使用して、SARS-CoV-2ウイルスに感染された細胞を治療した結果により、トランスフェリンがSARS-CoV-2ウイルスによる感染を効果的に阻害でき、且つ阻害の強さは用量依存的であることが証明された。細胞変性効果(CPE)分析の結果では、前記トランスフェリンのEC50が125nMol/Lであることが示され;逆転写リアルタイムPCR(qRT-PCR)の定量分析では、前記トランスフェリンのEC50が160nMol/Lであることが示された。前記トランスフェリンの濃度は、好ましくは250nmol/L以上である。
【0028】
本発明は、抗SARS-CoV-2ウイルス薬の調製におけるトランスフェリン受容体の応用を提供する。
【0029】
本発明は、前記トランスフェリン受容体供給源を特に限定せず、当技術分野でよく知られているトランスフェリン受容体を使用することができる。本発明の実施形態において、前記トランスフェリン受容体は、Sino Biologicalから購入され、製品番号は、11020-H07Hである。一連の濃度勾配のトランスフェリン受容体を使用して、SARS-CoV-2ウイルスに感染された細胞を治療した結果により、トランスフェリン受容体がSARS-CoV-2ウイルスによる感染を効果的に阻害でき、且つ阻害の強さは用量依存的であることが証明された。細胞変性効果(CPE)分析の結果では、前記トランスフェリン受容体のEC50が80nmol/Lであることが示され;逆転写リアルタイムPCR(qRT-PCR)の定量分析では、前記トランスフェリン受容体のEC50が93nmol/Lであることが示された。前記トランスフェリン受容体の濃度は、100nmol/L以上である。
【0030】
本発明は、抗SARS-CoV-2ウイルス薬の調製におけるトランスフェリン受容体抗体の応用を提供する。
【0031】
本発明は、前記トランスフェリン受容体抗体の種類を特に限定せず、当技術分野でよく知られているポリクローナル抗体又はモノクローナル抗体を使用することができる。本発明は、前記抗体の供給源を特に限定せず、当技術分野でよく知られているトランスフェリン受容体抗体を使用することができる。本発明の実施例において、前記トランスフェリン受容体モノクローナル抗体は、Abcamから購入され、製品番号はab1086である。一連の濃度勾配のトランスフェリン受容体モノクローナル抗体を使用して、SARS-CoV-2ウイルスに感染された細胞を治療した結果により、トランスフェリン受容体モノクローナル抗体がSARS-CoV-2ウイルスによる感染を効果的に阻害でき、且つ阻害の強さは用量依存的であることが証明された。細胞変性効果(CPE)分析の結果では、前記トランスフェリン受容体モノクローナル抗体のEC5が80nmol/Lであることが示され;逆転写リアルタイムPCR(qRT-PCR)の定量分析では、前記トランスフェリン受容体モノクローナル抗体のEC50が50nmol/Lであることが示された。前記トランスフェリン受容体の濃度は、16.6nmol/L以上である。前記トランスフェリン受容体抗体の濃度は、70nmol/L以上である。
【0032】
実験により、トランスフェリン又はトランスフェリン受容体抗体は、SARS-CoV-2の生体のトランスフェリン受容体への結合をブロックすることによって、抗ウイルス効果を発揮し、そして、前記結合は、前記ウイルスがスパイクタンパク質を介して生体のトランスフェリン受容体に結合することによって達成されることが証明された。したがって、本発明は、SARS-CoV-2ウイルスのスパイクタンパク質に結合する生物学的製品の調製におけるトランスフェリン及び/又はトランスフェリン受容体抗体の応用を提供する。同時に、本発明はまた、SARS-CoV-2ウイルスのスパイクタンパク質に結合する生物学的製品の調製におけるトランスフェリン受容体の応用を提供する。本発明は、前記生物学的製品の種類を特に限定せず、当技術分野でよく知られている生物学的製品を製造すればよい。
【0033】
本発明は、トランスフェリンとトランスフェリン受容体抗体を含む抗SARS-CoV-2ウイルスの組成物を提供し;前記トランスフェリンとトランスフェリン受容体抗体のモル比は、1:1以上である。
【0034】
本発明は、前記トランスフェリンとトランスフェリン受容体抗体の供給源を特に限定せず、当技術分野でよく知られているトランスフェリンとトランスフェリン受容体抗体を使用することができる。前記トランスフェリンとトランスフェリン受容体抗体のモル比は、好ましくは2~5:1、より好ましくは3~4:1である。
【0035】
本発明は、抗SARS-CoV-2ウイルス薬の調製における前記組成物の応用を提供する。
【0036】
本発明において、前記薬物の剤形を特に限定せず、当技術分野でよく知られている薬物の剤形を使用することができる。前記薬物には、さまざまな剤形に応じてさまざまな種類の添加剤が含まれる。本発明は、前記添加剤の種類を特に限定せず、当技術分野でよく知られている添加剤を使用することができる。
【0037】
本発明は、抗SARS-CoV-2ウイルスにおけるトランスフェリン、トランスフェリン受容体、又はトランスフェリン受容体抗体の応用を提供する。本発明は、前記トランスフェリン、トランスフェリン受容体、又はトランスフェリン受容体抗体の供給源を特に限定せず、当技術分野でよく知られているトランスフェリン、トランスフェリン受容体、又はトランスフェリン受容体抗体を使用することができる。
【0038】
本発明は、有効成分及び添加剤を含む抗SARS-CoV-2ウイルス薬を提供し、前記有効成分にはトランスフェリンとトランスフェリン受容体抗体を含む;前記トランスフェリンとトランスフェリン受容体抗体のモル比が1:1以上であり、好ましくは2~5:1であり、より好ましくは3~4:1である。本発明は、前記添加剤の種類及び含有量を特に限定せず、当技術分野でよく知られている薬物の添加剤を使用することができる。本発明は、前記薬物の調製方法を特に限定せず、当技術分野でよく知られている薬物の調製方法を使用することができる。
【0039】
以下では、実施例を組み合わせて本発明によって提供される抗SARS-CoV-2ウイルス薬の調製におけるトランスフェリン、トランスフェリン受容体及びその抗体の応用に対して詳細に説明を行うが、それらは、本発明の保護の範囲を制限するものとして理解すべきではない。
実施例1
【0040】
SARS-CoV-スパイク(spike)とトランスフェリン受容体の結合の表面プラズモン共鳴(SPR)による検証
BIAcore 2000(General Electric Company、USA)を使用して、トランスフェリン受容体とスパイクタンパク質(spike)との間の相互作用を分析した。まず、トランスフェリン受容体(製品番号11020-H07H)を200μlの酢酸ナトリウムバッファー(10mM、pH5)で20μg/mlに希釈し、CM5センサーチップ(BR100012、GE)を5μl/min流量で通過させ、共振ユニット(RU)は2000に達し;チップ上の残りの活性化サイトは、75μlのエタノールアミン溶液(1M、pH8.5)でブロックされる。スパイクタンパク質(3.90625nM、7.8125nM、15.625nM、31.25nM、62.5nM、125nM、250nM;製品番号Z03481)の連続濃度を、10μl/minの流速で、それらと固定化トランスフェリン受容体との相互作用について分析した。BIAソフトウェア(GE、USA)を使用して、結合のKD及びKaとKdの速度定数を決定した。
【0041】
結果を図1Aに示す。図1Aから、SARS-CoV-2スパイクタンパク質がトランスフェリン受容体に結合し、強い結合能力を持っていることがわかる。
実施例2
【0042】
細胞レベルでのトランスフェリン受容体とSARS-CoV-2-スパイクタンパク質の結合の免疫蛍光による検証
Vero E6細胞の膜表面にあるトランスフェリン受容体とスパイクタンパク質の複合体を検出するために、細胞(MOCK)をSARS-CoV-2(MOI=0.2)に2時間感染させ、感染していないMOCKを対照とした。PBSで洗浄した後、MOCK細胞をPBS中の4%パラホルムアルデヒドで15分間固定し、1%BSA溶液を用いて室温で1時間ブロックし、次に抗トランスフェリン受容体抗体(1:200で希釈;11020-MM04 Sino Biological、中国)と抗スパイクタンパク質(1:200で希釈;40150-R007、Sino bioological、中国)の抗体とともに37℃で1時間インキュベートした。PBSで3回洗浄して過剰な一次抗体を除去した後、切片を蛍光標識した二次抗体とともに37℃で1時間インキュベートした。PBSで洗浄して過剰な二次抗体を除去した後、細胞をDAPI(P36941、Life Technologies、USA)で染色し、共焦点顕微鏡(FluoViewTM1000、Olympus、USA)で画像化した。
【0043】
結果を図1のBに示した。SARS-CoV-2スパイクタンパク質とトランスフェリン受容体は、細胞レベルで結合した。
比較例1
【0044】
レムデシビルを陽性対照薬とし、SARS-CoV-2に感染されたアフリカミドリザル胎児腎臓細胞(VeroE6)に対するその影響を研究した。
【0045】
具体的な手順は次のとおりである。VeroE6細胞をレムデシビル(4μM)で1時間前処理し、SARS-CoV-2ウイルスを追加して1時間感染させた。次に、ウイルス-タンパク質混合物を除去し、新鮮な4μMのレムデシビルを含む培地で細胞をさらに培養した。48時間処理した後、細胞上清を回収し、溶解バッファー(15596018、Thermo、USA)で溶解し、顕微鏡で処理前及び処理後の細胞の形態を観察し、写真を撮った。
【0046】
結果を図2に示す。処理前後の細胞形態の比較により、レムデシビルは、細胞のSARS-CoV-2による感染を阻害することが分かった。
実施例3
【0047】
さまざまな濃度のトランスフェリンによるSARS-CoV-2に感染されたVero-E6細胞の治療
Vero E6細胞をさまざまな濃度(31.25nM、62.5nM、125nM、250nM、500nM、及び1000nM)のトランスフェリンで1時間前処理した後、SARS-CoV-2ウイルスを加えて1時間感染させた。次に、ウイルス-タンパク質混合物を除去し、新鮮なさまざまな濃度(31.25nM、62.5nM、125nM、250nM、500nM、及び1000nM)のトランスフェリン含有培地で、細胞をさらに培養した。48時間培養した後、細胞上清液を回収し、溶解バッファー(15596018、Thermo、USA)で溶解し、顕微鏡で処理前と処理後の細胞の形態を観察し、写真を撮った。
【0048】
次に、細胞変性効果(CPE)(M.Wang et al., Remdesivir and chloroquine effectively inhibit the recently emerged novel coronavirus (2019-nCoV) in vitro. Cell Res 30, 269-271 (2020)を参照)とリアルタイム定量RT-PCR(qRT-PCR)を使用して定量分析した。その中で、RT-qPCRは明細書に従って操作され、それぞれRNA抽出キット(DP419)と逆転写キット(A5000)を使用して、RNA抽出及びcDNA逆転写プロセスを実行した。RT-qPCRの検出方法は次のとおりである。
NP遺伝子プライマー及びプローブのヌクレオチド配列は次のとおりである。
【0049】
Target-2-F:5’-ggggaacttctcctgctagaat-3’(SEQ ID No.1);
Target-2-R:5’-cagacattttgctctcaagctg-3’(SEQ ID No.2);
Target-2-P: 5’-FAM-ttgctgctgcttgacagatt-TAMRA-3’(SEQ ID No.3)。
【0050】
PCR増幅手順は次のとおりである。25℃2分;50℃2分;95℃2分;95℃5秒、58℃31秒で、40サイクルを実行する。PCR増幅システムは次のとおりである。フォワードプライマーF、リバースプライマーと蛍光プローブPはそれぞれ0.5μlであり;4×qPCR反応MIX2.5μl、ddHOで10μlになるまで添加した。
【0051】
結果は、図3及び図4に示される。前記の結果から分かるように、CPEによって計算されたトランスフェリンのEC50は125nMであり、RT-qPCRの結果によって計算されたトランスフェリンのEC50は160nMである。トランスフェリンの濃度が高くなるにつれて、SARS-CoV-2ウイルスに対する阻害効果が強くなる。トランスフェリンはSARS-CoV-2感染を阻害できる。
実施例4
【0052】
さまざまな濃度(25nM、50nM、100nM、200nM、400nM、及び800nM)のトランスフェリン受容体でSARS-CoV-2に感染されたVero-E6細胞を治療した。特定のステップは、実施例3の説明を参照する。
【0053】
結果は、図5及び図6に示される。前記の結果から分かるように、CPEによって計算されたトランスフェリンのEC50は80nMであり、RT-qPCRの結果によって計算されたトランスフェリンのEC50は93nMである。トランスフェリンの濃度が高くなるにつれて、SARS-CoV-2ウイルスに対する阻害効果が強くなる。トランスフェリン受容体はSARS-CoV-2感染を阻害できる。
実施例5
【0054】
さまざまな濃度のトランスフェリン受容体モノクローナル抗体で、SARS-CoV-2に感染されたVero-E6細胞を治療した。特定の手順については、実施例3の説明を参照する。
【0055】
結果は、図7及び図8に示される。前記の結果から分かるように、CPEによって計算されたトランスフェリンのEC50は50nMであり、RT-qPCRの結果によって計算されたトランスフェリンのEC50は16.6nMである。トランスフェリンの濃度が高くなるにつれて、SARS-CoV-2ウイルスに対する阻害効果が強くなる。トランスフェリン受容体モノクローナル抗体はSARS-CoV-2感染を阻害できる。
【0056】
以上の記載は、ただ本発明の好ましい実施形態にすぎず、当業者にとって、本発明の原理から逸脱することなく、いくつかの改善及び補正を行うことができ、これらの改善及び補正は、また、本発明の保護範囲と見なされるべきであることに留意されたい。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【配列表】
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