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特許7397083剥離性コーティング剤における芳香族基を有するオルガノシロキサンの使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-04
(45)【発行日】2023-12-12
(54)【発明の名称】剥離性コーティング剤における芳香族基を有するオルガノシロキサンの使用
(51)【国際特許分類】
   C09D 183/04 20060101AFI20231205BHJP
   C09D 5/00 20060101ALI20231205BHJP
   C09D 183/07 20060101ALI20231205BHJP
   C09K 3/00 20060101ALI20231205BHJP
【FI】
C09D183/04
C09D5/00 Z
C09D183/07
C09K3/00 R
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2021535847
(86)(22)【出願日】2019-12-10
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-03-14
(86)【国際出願番号】 EP2019084374
(87)【国際公開番号】W WO2020126655
(87)【国際公開日】2020-06-25
【審査請求日】2021-11-10
(31)【優先権主張番号】18213853.7
(32)【優先日】2018-12-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】519414848
【氏名又は名称】エボニック オペレーションズ ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】Evonik Operations GmbH
【住所又は居所原語表記】Rellinghauser Strasse 1-11, 45128 Essen, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ハーディ デーラー
(72)【発明者】
【氏名】アイレム カラブルト
【審査官】松原 宜史
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-078333(JP,A)
【文献】特表平08-502092(JP,A)
【文献】特開2012-072322(JP,A)
【文献】特表2010-500462(JP,A)
【文献】特表2010-528152(JP,A)
【文献】国際公開第94/007965(WO,A1)
【文献】米国特許第05576356(US,A)
【文献】国際公開第2008/019953(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0255205(US,A1)
【文献】国際公開第2008/153767(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0166970(US,A1)
【文献】特開昭64-029459(JP,A)
【文献】特開平10-292026(JP,A)
【文献】特開平03-017146(JP,A)
【文献】特開平01-230669(JP,A)
【文献】特開平09-137128(JP,A)
【文献】特開2009-242606(JP,A)
【文献】特開2003-260761(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D
C08L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非芳香族有機基Zを介してケイ素原子に結合している少なくとも1つの芳香族基R(アリール)を有する少なくとも1つのオルガノシロキサン(I)の、放射線硬化剥離性コーティング剤への使用であって、
Zは、それぞれ互いに独立して、2~20個の炭素原子を有する2価の脂肪族炭化水素基からなる群から選択される、使用。
【請求項2】
(アリール)は、それぞれ互いに独立して、一般式
【化1】
による基からなる群から選択され、ここで、
Yは、それぞれ互いに独立して、H、および1~20個の炭素原子を有する1価の脂肪族炭化水素基からなる群から選択される、請求項1記載の使用。
【請求項3】
前記オルガノシロキサン(I)は、基-CH-CH-を介してケイ素原子に結合している少なくとも1つのフェニル基を有する、請求項1または2記載の使用。
【請求項4】
前記オルガノシロキサン(I)のケイ素原子のうちの少なくとも2%に、基R(アリール)が基Zを介して結合している、請求項1から3までのいずれか1項記載の使用。
【請求項5】
基R(アリール)が基Zを介して前記オルガノシロキサン(I)の末端ケイ素原子に結合している、請求項1から4までのいずれか1項記載の使用。
【請求項6】
前記オルガノシロキサン(I)は、10~500個のケイ素原子を有する、請求項1から5までのいずれか1項記載の使用。
【請求項7】
成分(I)および(II)を含む放射線硬化性コーティング材料用組成物であって、前記成分(I)は、請求項1から6までのいずれか1項記載の少なくとも1つのオルガノシロキサン(I)であり、前記成分(II)は、オルガノシロキサン(I)とは異なり、かつ少なくとも1つのエチレン性不飽和ラジカル重合性基を有する少なくとも1つのオルガノシロキサン(II)であり、
前記組成物は、剥離性コーティング剤用である、組成物(ただし、水を加え乳化分散させたものを除く)。
【請求項8】
前記オルガノシロキサン(II)が、50~500個のケイ素原子を有する、請求項7記載の組成物。
【請求項9】
前記オルガノシロキサン(II)のケイ素原子のうちの0.4~10%が、エチレン性不飽和ラジカル重合性基を有し、ケイ素原子は、前述の基を1つ、2つまたは3つ有することができる、請求項7または8記載の組成物。
【請求項10】
前記エチレン性不飽和ラジカル重合性基は、メタクリル酸エステル基およびアクリル酸エステル基からなる群から選択される、請求項7から9までのいずれか1項記載の組成物。
【請求項11】
少なくとも1つのエチレン性不飽和ラジカル重合性基を有する純粋な有機リン含有またはリン不含化合物、オルガノシロキサン(I)およびオルガノシロキサン(II)とは異なり、かつ少なくとも1つのエチレン性不飽和ラジカル重合性基を有するオルガノシロキサン(III)、光開始剤、光増感剤、充填剤、顔料、溶媒、硬化促進剤、ミスト防止剤、アミン相乗剤、安定剤、酸化防止剤、および酸素捕捉剤からなる群から選択される成分をさらに含む、請求項7から10までのいずれか1項記載の組成物。
【請求項12】
放射線硬化性コーティング材料としての、請求項7から11までのいずれか1項記載の組成物の使用。
【請求項13】
請求項1から6までのいずれか1項記載の少なくとも1つのオルガノシロキサン(I)を含む、放射線硬化剥離性コーティング剤。
【請求項14】
請求項13記載の放射線硬化剥離性コーティング剤の製造方法であって、間接的または直接的に連続する以下のステップ:
a.請求項7から11までのいずれか1項記載の組成物を少なくとも1つの表面に施与するステップと、
b.前記組成物に紫外線を照射するステップと
を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、剥離性コーティング剤における少なくとも1つの芳香族基を有するオルガノシロキサンの使用;該オルガノシロキサンを含む組成物、放射線硬化性コーティング材料、および剥離性コーティング剤;ならびに該オルガノシロキサンを使用した剥離性コーティング剤の製造方法に関する。該オルガノシロキサンは、少なくとも1つの芳香族基が、非芳香族有機基を介してケイ素原子に結合していることを特徴とする。
【0002】
剥離性コーティング剤(しばしば、粘着コーティング剤、または剥離コーティング剤とも呼ばれる)は、従来技術から知られている。これらは、例えば粘着テープやラベルラミネートなどに使用されている。この場合、例えばプラスチックフィルム、紙、または厚紙などの平坦な支持体に剥離性コーティング剤を施与するのが一般的である。剥離性コーティング剤を施与した支持体は、未コーティングの支持体に比べて付着材料への付着性が低下する。剥離性コーティング剤やそれを施与した支持体は、粘着ラベル、粘着テープ、衛生分野、医療用膏薬、自己粘着性の装飾および保護フィルム、またはオーブンシートなどにおいて、粘着性のある表面を汚染や不意の固着から保護するために日常的に使用されることが多い。剥離性コーティング剤を特に紙やフィルムなどの平坦な材料に使用することで、付着物がこれらの表面に付着する傾向が抑えられる。
【0003】
シリコーン材料製の剥離性コーティング剤が特に優れていることが判っている。ここで、剥離性コーティング剤は、1つ以上のオルガノシロキサンから架橋によって製造される。この架橋は、ヒドロシリル官能性化合物とエチレン性不飽和化合物とのヒドロシリル化反応により、触媒の存在下に通常は100℃超の高温で熱的に進行することが多い。また、高エネルギー放射線の照射や熱により、適切な開始剤やラジカル開始剤の存在下で、エチレン性不飽和ラジカル重合性基を有するシリコーンを架橋させて剥離性コーティング剤を製造することもできる。照射による架橋は、特に支持体材料が熱に弱いために熱硬化が適さない場合に用いられる。これは特に、ポリエチレン製やポリプロピレン製のプラスチックフィルムを平坦な支持体として使用した場合に言えることであり、なぜならば、こうした支持体材料の軟化温度は比較的低いためである。
【0004】
エチレン性不飽和ラジカル重合性基を有するシリコーンは、例えば、(メタ)アクリレート変性オルガノシロキサンである。(メタ)アクリレート変性オルガノシロキサンは、例えば米国特許第6211322号明細書や米国特許第4978726号明細書など、多数の特許明細書に記載されている。これらのオルガノシロキサンは、フリーラジカルによって3次元的に架橋させ、熱的に、例えば過酸化物を加えて、または紫外線や電子線などの高エネルギー放射線の作用下に非常に短時間で硬化させて、機械的および化学的に耐久性のある層とすることができる。照射源として紫外光を使用する場合には、好ましくは、例えばベンゾフェノン、ベンゾイン、α-ヒドロキシアルキルフェノン、アシルホスフィンオキシド、またはそれらの誘導体などの光開始剤および/または光増感剤の存在下で架橋が行われる。一般的な光重合開始剤は、例えば“A Compilation of Photoinitiators Commercially available for UV today” (K. Dietliker, SITA Technology Ltd, London 2002)に記載されている。
【0005】
平坦な支持体上の接着コーティング剤は、多くの用途で、特に低い剥離値、すなわち粘着材料から特に容易に剥がれることが要求される。この特性は、例えばラベルの型抜き後に格子を引き離す際やラベルの自動供給装置などで重要となる。この特性はさらに、アスファルトやシール材のように、粘着材料が強い接着力を有しながらも凝集力が低い場合にも重要である。これらは、屋根のシールや電子機器の封止などに使用されている。
【0006】
(メタ)アクリレート変性オルガノシロキサンは、分子量とは無関係に、その修飾密度を広範囲で変化させることができる。国際公開第2016096595号に記載されているように、(メタ)アクリレート変性オルガノシロキサンの接着性コーティング剤は、特にシロキサン鎖がシロキサン鎖の有機修飾によって乱されない高いシリコーン性を有する場合に、低い剥離値を示す。
【0007】
欧州特許出願公開第1276825号明細書では、極めて長いシリコーン鎖を有し、反応性のある(メタ)アクリレート基の割合が極めて少ない(メタ)アクリレート変性オルガノシロキサンが提案されている。このような(メタ)アクリレート変性オルガノシロキサンは、合成による入手が困難であり、再現性も低い。架橋性(メタ)アクリレート基の割合が少ないため、良好な硬化が起こらない。剥離性コーティング剤には非硬化性成分が残る。しかし、これらのシロキサンの剥離値は、多くの用途で十分に低くない。
【0008】
特公平03-052498号公報には、熱架橋性シロキサンにフェニルメチルシロキサンを使用して、粘着材料に対する剥離挙動を向上させることが記載されている。このような熱架橋性シロキサンは、1970年代から市場で知られている。熱誘導性の反応は、典型的には、ビニル二重結合または末端二重結合へのSiH基の触媒的な付加反応である。しかし、特公平03-052498号公報に記載されているフェニルメチルシロキサンは、(メタ)アクリル酸エステル基などのエチレン性不飽和ラジカル重合性基を有し、かつ高エネルギー放射線下で架橋されるシリコーンにおいて、剥離値の所望の改善を生じない。
【0009】
フェニルメチルシロキサン、すなわちメチル基およびフェニル基がケイ素原子に直接結合したオルガノシロキサンは、熱負荷に対して特に安定している。しかし、高温負荷時や長時間の温度負荷時、特に燃焼時に、ベンゼンが放出されるおそれがある。シリコーン剥離性コーティング剤を含むフィルムや紙は、通常は使用後に廃棄物として処理する必要があり、通常は再利用やリサイクルが望めない。特にシリコーンコート紙は、シリコーン層が紙の印刷性に悪影響を及ぼすため、再生紙の製造には適さない。そのため、シリコーンコーティングされた紙に加えシリコーンコーティングされたフィルムもエネルギー回収のために焼却されることが多いが、これはベンゼンの放出を招き得る。
【0010】
また、芳香族基がケイ素原子に直接結合せず、脂肪族架橋を介して結合しているシリコーン化合物も知られている。例えば、欧州特許出願公開第1640418号明細書には、熱可塑性エラストマーの表面コーティング、耐引掻性、および耐摩耗性を改善するための添加剤として、このようなシリコーン化合物を使用することが開示されている。一方、剥離性コーティング剤での使用や、それにより得られる有利な特性は、従来技術には記載されていない。
【0011】
本発明の課題は、従来技術の少なくとも1つの欠点を克服することであった。
【0012】
特に、改良された剥離性コーティング剤の提供が課題であった。有利に、特に、(メタ)アクリレートエステル基などのエチレン性不飽和ラジカル重合性基を有するオルガノシロキサンから高エネルギー放射線下での架橋により製造できる剥離性コーティング剤を提供することが望ましい。ここで、こうした剥離性コーティング剤は、好ましくは、低い剥離値、すなわち粘着材料に対する優れた剥離挙動を可能にし、熱負荷や分解プロセスで示すベンゼンの脱離や放出が可能な限り少なく、かつ複雑で困難な合成を必要としないことが望ましい。
【0013】
驚くべきことに、非芳香族有機基Zを介してケイ素原子に結合した少なくとも1つの芳香族基R(アリール)を有するオルガノシロキサン(I)を剥離性コーティング剤に使用することで、この課題が解決されることが判明した。
【0014】
したがって、本発明の課題は、独立請求項の主題によって解決される。本発明の有利な実施形態は、従属請求項、実施例、および発明の詳細な説明に示されている。
【0015】
本発明による主題を以下に例示的に説明するが、本発明はこれらの例示的な実施形態に限定されるものではない。以下に範囲、一般式、または化合物クラスが示されている場合、これらは、明示的に言及されている対応する化合物の範囲または群だけでなく、個々の値(範囲)または化合物を除外して得られる化合物のすべての部分範囲および部分群をも含むものとする。本明細書で文献が引用されている場合、その内容は完全に本発明の開示内容の一部を構成するものとする。
【0016】
以下に平均値が記載されている場合は、特に記載がない限り、これらは数平均である。以下に測定値、パラメータ、または物性が記載されており、それらが測定によって求められる場合、特に記載がない限り、これらは25℃で、好ましくは101325Paの圧力(常圧)で、さらに好ましくは追加的に50%の相対湿度で測定された測定値、パラメータ、または物性である。
【0017】
以下に数値範囲が「X~Y」の形で示されている場合、XおよびYは、数値範囲の限界を表しており、これは、特に記載がない限り「少なくともXからYまで」という表現と同義である。したがって、範囲指定には、特に記載がない限り、範囲限界であるXおよびYが含まれる。
【0018】
「(メタ)アクリル」という用語は、「メタクリル」および/または「アクリル」を意味する。
【0019】
分子や分子断片が1つ以上のキラル中心を有する場合や、対称性に基づいて異性体に区別できる場合や、回転制限などの他の効果に基づいて異性体に区別できる場合には、考え得るすべての異性体が本発明に包含される。
【0020】
下記式(Ia)、(Ib)、(II)、および(III)の異なる断片は、統計的に分布していてもよい。統計的な分布は、任意の数のブロックで任意の順序でブロック状に構成されているか、またはランダム分布に従うものであり、これらはまた交互に構成されていてもよく、また、鎖が存在する場合には鎖全体にわたって勾配を形成してもよく、特に、それらはまた、任意で異なった分布の群が連続してもよい任意の混合形態を形成してもよい。
【0021】
以下の式(Ia)、(Ib)、(II)、および(III)は、繰返しの断片、ブロック、またはモノマー単位などの繰返し単位から構成された化合物を表し、かつ分子量分布を有していてもよい。繰返し単位の頻度は、添え字で示される。特に、式に用いられている添え字は、統計的平均値(数平均)と見なされるべきである。よって、用いられている添え字の数字および与えられた添え字の値の範囲は、実際に存在する構造および/またはその混合物の可能な統計的分布の平均値であると理解される。
【0022】
特定の実施では、統計的分布が実施によって制限されることがある。制限を受けない範囲についてはすべて、統計的分布は変化しない。
【0023】
したがって、本発明の第1の主題は、非芳香族有機基Zを介してケイ素原子に結合している少なくとも1つの芳香族基R(アリール)を有する少なくとも1つのオルガノシロキサン(I)の、剥離性コーティング剤への使用である。
【0024】
本発明による使用によって、剥離効率が向上し、かつ/またはベンゼン放出が低減される。よって、オルガノシロキサン(I)は、剥離効率の向上および/またはベンゼン放出の低減のための薬剤として剥離性コーティング剤に使用される。
【0025】
理論に縛られるものではないが、フェニル基などの芳香族基がケイ素原子に直接、つまり直に結合するとベンゼンなどの芳香族化合物の放出が助長されるが、一方でこの芳香族基が非芳香族有機基を介してケイ素原子に直接にではなく、つまり間接的に結合すると、対応する芳香族化合物の放出が阻害されると考えられる。
【0026】
オルガノシロキサンとは、有機基がケイ素原子に結合した化合物であり、式≡Si-O-Si≡(「≡」は、当該ケイ素原子の残りの3つの原子価を表す)の構造単位を有すると理解される。好ましくは、オルガノシロキサンは、M=[RSiO1/2]、D=[RSiO2/2]、T=[RSiO2/2]からなる群から選択される単位から構成され、任意に追加で式Q=[RSiO3/2]の単位を有する化合物であり、ここで、Rは、1価の有機基である。ここで、基Rは、それぞれ互いに独立して選択することができ、一対一の比較において、同一であるかまたは異なる。
【0027】
ここで、本発明によれば、オルガノシロキサン(I)は、ケイ素原子に直接かつ直に結合している非芳香族有機基Zと、この非芳香族有機基Zに直接かつ直に結合している少なくとも1つの芳香族基R(アリール)とを有する。
【0028】
したがって、この非芳香族有機基Zは、基R(アリール)が(z-1)個、ただし少なくとも1つは結合しているz価の基である。したがって、z≧2である。好ましくは、z=2~4、さらに好ましくは2~3、特に好ましくは2である。したがって、非芳香族有機基Zと少なくとも1つの芳香族基R(アリール)とが一緒になって、式Z(R(アリール)(z-1)の1価の有機基を形成し、この基を、以下で(R(アリール)(z-1)Z、-Z-(R(アリール)(z-1)、あるいは(R(アリール)(z-1)-Z-とも称する。基Z(R(アリール)(z-1)は、ケイ素原子に直接かつ直に結合している。したがって、式≡Si-Z(R(アリール)(z-1)の構造単位が存在し、ここで、「≡」は、ケイ素原子の残りの3つの原子価を表す。ここで、1つのケイ素原子は、1、2または3つの基Z(R(アリール)(z-1)を有することができ、好ましくは1または2、特に好ましくは1つの基Z(R(アリール)(z-1)を有することができる。
【0029】
好ましくは、非芳香族有機基Zは、それぞれ互いに独立して、炭素、水素、および任意に酸素からなる2価の非芳香族有機基からなる群から選択される。この場合、非芳香族有機基Zは、さらに好ましくは2~130個、さらにより好ましくは2~10個、特に好ましくは2~3個の炭素原子を有する。
【0030】
例えば、基Zは、それぞれ互いに独立して、2価の脂肪族炭化水素基および2価の非芳香族ポリエーテル基からなる群から選択することができる。
【0031】
芳香族基R(アリール)は、少なくとも6~50個、さらに好ましくは6~12個、さらにより好ましくは6~7個、特に好ましくは6個の炭素原子を有することが好ましい。基R(アリール)がフェニル基であることが特に好ましい。
【0032】
さらに、オルガノシロキサン(I)は、非芳香族有機基Zおよび芳香族基R(アリール)に加えて、つまり式Z(R(アリール)(z-1)の1価の有機基に加えて、追加的になおもさらなる有機基を有することが好ましく、これらのさらなる有機基は、それぞれ互いに独立して、脂肪族炭化水素基、好ましくは1~20個の炭素原子を有する脂肪族炭化水素基、さらに好ましくは1~10個の炭素原子を有する脂肪族炭化水素基、特に好ましくはメチル基(「CH」または「-CH」とも称される)からなる群から選択される。
【0033】
さらに好ましくは、ケイ素原子に結合したオルガノシロキサン(I)の有機基の最大98%、好ましくは50~97%、特に好ましくは60~95%が、それぞれ互いに独立して、好ましくは1~20個の炭素原子を有する脂肪族炭化水素基、さらに好ましくは1~10個の炭素原子を有する脂肪族炭化水素基、特に好ましくはCHから選択される。
【0034】
オルガノシロキサンのケイ素原子のある割合がある様式で置換されているという表示は、特に記載がない限り、それぞれの成分のすべての分子の数値の統計的平均におけるすべてのケイ素原子のモル分率を指す。
【0035】
好ましい実施形態において、オルガノシロキサン(I)は、以下を特徴とする:
Zは、それぞれ互いに独立して、2~20個、好ましくは2~3個、特に好ましくは2個の炭素原子を有する2価の脂肪族炭化水素基からなる群から選択され、
(アリール)は、それぞれ互いに独立して、一般式
【化1】
による基からなる群から選択され、ここで、
Yは、それぞれ互いに独立して、H、および1~20個の炭素原子を有する1価の脂肪族炭化水素基、好ましくはHおよび/またはCH、特に好ましくはHからなる群から選択される。
【0036】
ここで、有利に、
Zは、それぞれ互いに独立して、2価の基-(C2n)-からなる群から選択され、ここで、n=2~20、好ましくは2~3、特に好ましくは2であり、
Yは、それぞれ互いに独立して、1価の基-(Cn‘2n‘+1)からなる群から選択され、n‘=0~20、好ましくは0および1、特に好ましくは0である。
【0037】
特に好ましくは、オルガノシロキサン(I)は、基-CH-CH-を介してケイ素原子に結合している少なくとも1つのフェニル基を有する。つまり、特に好ましくは、少なくとも1つのフェニルエチル基がケイ素原子に結合している。
【0038】
オルガノシロキサン(I)のケイ素原子のうちの少なくとも2%、好ましくは3~50%、特に好ましくは5~40%に、基R(アリール)が基Zを介して結合していることが好ましい。好ましくは、オルガノシロキサン(I)のケイ素原子に結合した有機基のうち、少なくとも2%、好ましくは3~50%、特に好ましくは5~40%が基R(アリール)を含む。したがって、オルガノシロキサン(I)のケイ素原子のうち、少なくとも2%、好ましくは3~50%、特に好ましくは5~40%が基(R(アリール)(z-1)Zを有することが好ましい。
【0039】
基R(アリール)が基Zを介してオルガノシロキサン(I)の末端ケイ素原子に結合している、つまり、例えばα,ω位に結合していることが可能である。ただし、基R(アリール)は、基Zを介してオルガノシロキサン(I)の末端ケイ素原子に結合しておらず、オルガノシロキサン(I)の非末端ケイ素原子に結合していることが好ましい。よって、基(R(アリール)(z-1)Zは、末端ケイ素原子に結合した状態では存在せず、オルガノシロキサン(I)の非末端ケイ素原子に結合していることが好ましい。さらに、基R(アリール)が基Zを介してオルガノシロキサン(I)の非末端ケイ素原子のみに結合していることが好ましい。したがって、基(R(アリール)(z-1)Zがオルガノシロキサン(I)の非末端ケイ素原子のみに結合していることがさらに好ましい。さらに上述したように、好ましくはz=2~4、さらに好ましくは2~3、特に好ましくは2である。
【0040】
オルガノシロキサン(I)は、10~500個、好ましくは15~300個、より好ましくは20~200個、特に好ましくは30~180個のケイ素原子を有することがさらに好ましい。
【0041】
好ましい実施形態において、少なくとも1つのオルガノシロキサン(I)は、一般式(Ia):
(Ia)
[式中、
=[R‘SiO1/2]であり、
=[R‘SiO2/2]であり、
=[R‘SiO2/2]であり、
=[R’SiO3/2]であり、ここで、
R‘は、それぞれ互いに独立して、R‘‘およびR‘‘‘からなる群から選択され、ここで、
R‘‘は、それぞれ互いに独立して、1価の有機非芳香族基、好ましくは1~20個の炭素原子を有する脂肪族炭化水素基、特に好ましくはメチル基から選択され、
R‘‘‘は、それぞれ互いに独立して、上記で定義した式(R(アリール)(z-1)Zの1価の基から選択され、
m=2~(2+t+2×q)であり、
d=0~600、好ましくは10~350、特に好ましくは15~200であり、
t=0~50、好ましくは0~5、特に好ましくは0であり、
q=0~50、好ましくは0~5、特に好ましくは0であるが、
ただし、オルガノシロキサン(I)は、基R‘‘‘を、少なくとも1個、好ましくは2~200個、特に好ましくは3~150個有する]
の化合物である。
【0042】
基R’のうちの、少なくとも2%、さらに好ましくは3~50%、特に好ましくは5~40%が、基R‘‘‘からなる群から選択されることが好ましい。
【0043】
さらに好ましくは、少なくとも1つのオルガノシロキサン(I)は、一般式(Ib):
m1 m2 d1 d2 t1 (Ib)
[式中、
=[R SiO1/2]であり、
=[R SiO1/2]であり、
=[RSiO2/2]であり、
=[RSiO2/2]であり、
=[RSiO3/2]であり、ここで、
は、それぞれ互いに独立して、1~20個の炭素原子、好ましくは1~10個の炭素原子を有する1価の脂肪族炭化水素基、特に好ましくはメチル基からなる群から選択され、
は、それぞれ互いに独立して、式-[(OAlk)-(O)k1-R(i)の基からなる群から選択され、
(i)は、それぞれ互いに独立して、H、1~20個の炭素原子を有する1価の脂肪族炭化水素基、および式-(CH-CHR(ii)-(O)k2-Ph(R(iii)の基からなる群から選択され、
(ii)は、それぞれ互いに独立して、Hおよび/またはCHからなる群から選択され、
(iii)は、それぞれ互いに独立して、C1~20-アルキル基、好ましくはCHからなる群から選択され、
Alkは、それぞれ互いに独立して、C1~4-アルキレン基からなる群から選択され、
Phは、フェニル基であり、ここで、
m1=0~(2+t1)であり、
m2=0~(2+t1)であり、
d1=0~500、好ましくは10~300、特に好ましくは15~200であり、
d2=0~100、好ましくは0~50、特に好ましくは0であり、
t1=0~50、好ましくは0~5、特に好ましくは0であり、
a=0~30であり、
b=0または1であり、
c=0または1であり、ここで、c=0の場合には(k1+k2)=0または1であり、
f=0~5、好ましくは0~1、特に好ましくは0であり、
k1=0または1であり、
k2=0または1であり、
n=0または1であるが、
ただし、オルガノシロキサン(I)は、式-(CH-CHR(ii)-(O)k2-Ph(R(iii)の基を、少なくとも1個、好ましくは2~200個、特に好ましくは3~150個有する]
の化合物である。
【0044】
単位-(CH-CHR(ii))-は、隣接する基または原子と様々に結合していてよい。式(Ib)において、-(CH-CHR(ii))-は、それぞれ互いに独立して、式-(CH-CHR(ii))-および/または式-(CHR(ii)-CH)-の群を表すが、好ましくは、式-(CH-CHR(ii))-の群を表す。
【0045】
オルガノシロキサン(I)のケイ素原子のうちの少なくとも2%、好ましくは3~50%、特に好ましくは5~40%に、一般式-(CH-CHR(ii)-(O)-Ph(R(iii)の基R(i)が結合していることが好ましい。
【0046】
オルガノシロキサン(I)の少なくとも1つの芳香族基R(アリール)と非芳香族有機基Zとが一緒になって、1価の基-(CH-CHR(ii))-Ph(CHを形成することがさらに好ましく、ここで、R(ii)は、それぞれ互いに独立して、Hおよび/またはCHから選択され、f=0または1である。したがって、基Z(R(アリール)(z-1)、または式(Ia)の基R‘‘‘、または式(Ib)の基Rが、式-(CH-CHR(ii))-Ph(CHの1価の基であり、ここで、Phはフェニル基であり、R(ii)は、それぞれ独立して、Hおよび/またはCH、好ましくはHから選択され、f=0または1、好ましくは0であることが好ましい。
【0047】
したがって、オルガノシロキサン(I)の少なくとも1つの芳香族基R(アリール)と非芳香族有機基Zとが一緒になって、それぞれ互いに独立して、-(CH-CH(CH))-Ph(CH)、-(CH-CH(CH))-Ph、-(CH-CH)-Ph(CH)、-(CH-CH)-Ph、特に好ましくは、-(CH-CH)-Phからなる群から選択される1価の基を形成することが好ましい。したがって、基Z(R(アリール)(z-1)、または式(Ia)の基R‘‘‘、または式(Ib)の基Rが、それぞれ互いに独立して、-(CH-CH(CH))-Ph(CH)、-(CH-CH(CH))-Ph、-(CH-CH)-Ph(CH)、-(CH-CH)-Ph、特に好ましくは、-(CH-CH)-Phからなる群から選択される1価の基を形成することが特に好ましい。したがって、オルガノシロキサン(I)について、-Z-(R(アリール)(z-1)=R‘‘‘=R=-(CH-CH)-Phであることが特に好ましい。
【0048】
さらに、オルガノシロキサン(I)のZ(R(アリール)(z-1)以外の有機基は、それぞれ互いに独立して、1価の脂肪族炭化水素基であって、好ましくは1~20個の炭素原子を有する炭化水素基を有するもの、さらに好ましくは1~10個の炭素原子を有するもの、特に好ましくはCHからなる群から選択されることが好ましい。したがって、R‘‘=R=CHであることが特に好ましい。
【0049】
オルガノシロキサン(I)のケイ素原子に結合しているが基R(アリール)を含まない有機基のうち、少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%、特に好ましくは少なくとも99%がメチル基であることが好ましい。
【0050】
オルガノシロキサン(I)のケイ素原子には、有機基として、メチル基および式-(CH-CH)-Phの1価の基が、少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%、特に好ましくは少なくとも99%結合していることがさらに好ましい。有機基としてオルガノシロキサン(I)のケイ素原子に結合しているのは、メチル基および式-(CH-CH)-Phの1価の基のみであることが特に好ましい。
【0051】
メチル基と式-(CH-CH)-Phの基とのモル比が20:1~1.5:1であることがさらに好ましい。
【0052】
好ましくは、オルガノシロキサン(I)は直鎖状である。この好ましい実施形態において、オルガノシロキサン(I)は、D単位と2つのM単位とから構成されている。
【0053】
好ましくは、オルガノシロキサン(I)は、例えば欧州特許出願公開第1640418号明細書に記載されているように、当業者に知られている方法でヒドロシリル化によって製造される。この場合、対応するヒドロシリル官能性オルガノシロキサンを、既知の方法によりオレフィン性不飽和化合物と反応させる。好ましくは、前述のオレフィン性不飽和化合物は、スチレン、2-メチルスチレン、3-メチルスチレン、4-メチルスチレン、およびα-メチルスチレン、好ましくはスチレンからなる群から選択される。この場合、ヒドロシリル化反応を、当業者に周知の白金族触媒、より好ましくはKarstedt触媒を用いて触媒することが好ましい。
【0054】
オルガノシロキサン(I)は、剥離性コーティング剤の特性を向上させる。これらの剥離性コーティング剤は、好ましくは、少なくとも1つのさらなるオルガノシロキサン(II)を含む組成物から製造される。このさらなるオルガノシロキサン(II)は、少なくとも1つのエチレン性不飽和ラジカル重合性基を有するため、この組成物は、放射線、特に紫外線、または熱により、任意に熱または放射線により活性化可能な開始剤を用いて、硬化させることができる。
【0055】
したがって、本発明のさらなる主題は、成分(I)および(II)を含む組成物であって、成分(I)は、少なくとも1つのオルガノシロキサン(I)であり、成分(II)は、オルガノシロキサン(I)とは異なり、少なくとも1つのエチレン性不飽和ラジカル重合性基を有する少なくとも1つのオルガノシロキサン(II)である組成物である。したがって、成分(II)は、オルガノシロキサン(I)とは異なる1つ以上のオルガノシロキサン(II)からなる。
【0056】
オルガノシロキサン(II)が、50~500個、好ましくは55~300個、より好ましくは60~200個、特に好ましくは60~180個のケイ素原子を有すると有利である。
【0057】
オルガノシロキサン(II)のケイ素原子のうちの0.4~10%、好ましくは0.6~8%、より好ましくは0.8~7%が、エチレン性不飽和ラジカル重合性基を有し、ケイ素原子が、そのような基を1つ、2つまたは3つ有することができるとさらに有利である。
【0058】
したがって、オルガノシロキサン(II)のケイ素原子に結合した有機基のうち、0.4~10%、好ましくは0.6~8%、より好ましくは0.8~7%が、エチレン性不飽和ラジカル重合性基を有することがさらに有利である。
【0059】
好ましくは、少なくとも1つのオルガノシロキサン(II)は、一般式(II):
m3 m4 d3 d4 (II)
[式中、
=[R SiO1/2]であり、
=[R SiO1/2]であり、
=[R SiO2/2]であり、
=[RSiO2/2]であり、
は、それぞれ互いに独立して、1~20個の炭素原子、好ましくは1~10個の炭素原子を有する1価の脂肪族炭化水素基、特に好ましくはメチル基からなる群から選択され、
は、それぞれ互いに独立して、炭素、水素および酸素からなり、好ましくは2~100個の炭素原子を有し、かつ1~5個のエステル基を有する1価の非芳香族有機基からなる群から選択され、ここで、エステル基は、エチレン性不飽和ラジカル重合性エステル基、および任意に非ラジカル重合性エステル基からなる群から選択され、
m3=0~2であり、
m4=0~2であり、m3+m4=2であり、
d3=50~490、好ましくは60~290、より好ましくは70~190、特に好ましくは80~170であり、
d4=0~15、好ましくは0~10である]
の化合物である。
【0060】
好ましくは、さらに、
合計(d3+d4+2)に対する合計(m4+d4)の比率が、0.004~0.1、好ましくは0.006~0.8、より好ましくは0.008~0.7であり、かつ
合計(d3+d4+2)は、50~500、好ましくは60~300、より好ましくは70~200、特に好ましくは80~180である
ことを条件とする。
【0061】
好ましくは、式(II)の化合物における基Rは、エチレン性不飽和ラジカル重合性エステル基として、アクリル酸エステル基および/またはメタクリル酸エステル基、特に好ましくはアクリル酸エステル基から選択される基を有する。
【0062】
好ましくは、式(II)の化合物におけるR基は、非ラジカル重合性エステル基として、飽和モノカルボン酸エステル基を有する。好ましくは、非ラジカル重合性エステル基は、酢酸エステル基、プロピオン酸エステル基、酪酸エステル基、吉草酸エステル基、および安息香酸エステル基、特に好ましくは酢酸エステル基から選択される。より好ましくは、飽和モノカルボン酸エステル基は、式(II)の化合物の全エステル基の数に対して、0~20%、好ましくは0%超~15%の数値割合で含まれている。好ましくは、式(I)の化合物におけるR基は、非ラジカル重合性エステル基を有していない。
【0063】
好ましくは、成分(I)の質量分率は、組成物の全質量に対して、0.1~20%、より好ましくは0.2~15%、より好ましくは0.5~10%であり、成分(II)の質量分率は、組成物の全質量に対して、20~99.9%、さらに好ましくは40~99.8%、より好ましくは60~99.5%である。
【0064】
特に好ましいのは、国際公開第2016096595号に開示されているような成分(II)あるいはオルガノシロキサン(II)であり、これらは、該文献では、成分(II)もしくは式(I)の化合物と呼ばれている。
【0065】
成分(II)あるいはオルガノシロキサン(II)は、例えばEvonik Nutrition & Care GmbH社からTEGO(登録商標)RC 902およびTEGO(登録商標)RC 702の名称で市販されている。
【0066】
組成物が、成分(I)および(II)に加えて、成分(III)をさらに含み、成分(III)が、オルガノシロキサン(I)および(II)とは異なる少なくとも1つのオルガノシロキサン(III)であることが好ましい。したがって、成分(III)は、オルガノシロキサン(I)および(II)とは異なる1つ以上のオルガノシロキサン(III)からなる。
【0067】
オルガノシロキサン(III)は、4~40個、好ましくは10~30個のケイ素原子を有していることが有利である。
【0068】
さらに、ケイ素原子のうちの15~100%、好ましくは20~50%が、エチレン性不飽和ラジカル重合性基を有しており、ケイ素原子が、そのような基を1つ、2つまたは3つ有することができることが有利である。
【0069】
したがって、オルガノシロキサン(III)のケイ素原子に結合した有機基のうちの15~100%、好ましくは20~50%がエチレン性不飽和ラジカル重合性基を有することがさらに有利である。
【0070】
好ましくは、少なくとも1つのオルガノシロキサン(III)は、一般式(III):
m5 m6 d5 d6 (III)
[式中、
=[R SiO1/2]であり、
=[R SiO1/2]であり、
=[R SiO2/2]であり、
=[RSiO2/2]であり、
は、それぞれ互いに独立して、1~20個の炭素原子、好ましくは1~10個の炭素原子を有する1価の脂肪族炭化水素基、特に好ましくはメチル基からなる群から選択され、
は、それぞれ互いに独立して、炭素、水素および酸素からなり、好ましくは2~100個の炭素原子を有し、かつ1~5個のエステル基を有する1価の非芳香族有機基からなる群から選択され、ここで、エステル基は、エチレン性不飽和ラジカル重合性エステル基、および任意に非ラジカル重合性エステル基からなる群から選択され、
m5=0~2であり、
m6=0~2、好ましくは0であり、m5+m6=2であり、
d5=0~38、好ましくは10~26であり、
d6=0~20、好ましくは4~15である]
の化合物である。
【0071】
好ましくは、さらに、
合計(d5+d6+2)に対する合計(m6+d6)の比率が、0.15~1、好ましくは0.2~0.5であり、かつ
合計(d5+d6+2)は、4~40、好ましくは10~30である
ことを条件とする。
【0072】
好ましくは、式(III)の化合物における基Rは、エチレン性不飽和ラジカル重合性エステル基として、アクリル酸エステル基および/またはメタクリル酸エステル基、特に好ましくはアクリル酸エステル基から選択される基を有する。
【0073】
好ましくは、式(III)の化合物におけるR基は、非ラジカル重合性エステル基として、飽和モノカルボン酸エステル基を有する。好ましくは、非ラジカル重合性エステル基は、酢酸エステル基、プロピオン酸エステル基、酪酸エステル基、吉草酸エステル基、および安息香酸エステル基、特に好ましくは酢酸エステル基から選択される。より好ましくは、飽和モノカルボン酸エステル基は、式(III)の化合物の全エステル基の数に対して、3~20%、好ましくは5~15%の数値割合で含まれている。
【0074】
好ましくは、成分(III)の質量分率は、組成物の全質量に対して、0~70%、さらに好ましくは20~50%、より好ましくは25~45%である。
【0075】
特に好ましいのは、国際公開第2016096595号に開示されているような成分(III)あるいはオルガノシロキサン(III)であり、これらは、該文献では、成分(III)あるいは式(II)の化合物と呼ばれている。
【0076】
成分(III)あるいはオルガノシロキサン(III)は、Evonik Nutrition & Care GmbH社からTEGO(登録商標)RC 711の名称で市販されている。
【0077】
アクリル酸エステル基を有するオルガノシロキサンは、例えば、ヒドロシリル官能性オルガノシロキサンに、アリルグリシジルエーテルまたはオレフィン性二重結合を有する他の適切なエポキシドをヒドロシリル化反応により付加させ、付加後、エポキシドをアクリル酸でエステル化してエポキシド環を開環させることにより製造することができる。この方法様式は、独国特許発明第3820294号明細書および欧州特許出願公開第0979851号明細書に記載されている。
【0078】
アクリレート変性オルガノシロキサンのもう1つの製造方法は、白金触媒の存在下で、ヒドロシリル官能性オルガノシロキサンにオレフィン性二重結合を有するアルコール、例えばアリルアルコールを付加させてから、このアルコールのヒドロキシル基を、アクリル酸またはアクリル酸と任意に他の任意に飽和したモノカルボン酸との混合物と反応させることである。このプロセスは、例えば、独国特許発明第3810140号明細書および欧州特許出願公開第0979851号明細書に記載されている。
【0079】
他のエチレン性不飽和酸、またはさらには飽和酸を用いた場合、他のエチレン性不飽和ラジカル重合性エステル基、またはさらには非ラジカル重合性エステル基を有するオルガノシロキサンも同様に得ることができる。
【0080】
鎖長および/または修飾タイプが異なる複数の(メタ)アクリル化オルガノシロキサンのブレンドは、従来技術から、例えば、米国特許第6,548,568号明細書、米国特許第6,268,404号明細書、米国特許第6,548,568号明細書、刊行物“TEGO(登録商標)RC Silicones, Application Guide”、および製品TEGO(登録商標)RC 902、RC 726、RC 711、RC 708、RC 709、RC 715、RC 706の製品データシートから知られている。ここで、低変性の高分子シリコーンアクリレートが主に剥離性を担い、高変性のシリコーンアクリレートが基材への良好な付着性を提供する。さらに、複数の(メタ)アクリル化オルガノシロキサンの1つまたはブレンドに、例えば接着成分として、または反応性希釈剤として、1つ以上の有機(メタ)アクリル化化合物を添加してもよい。このような(メタ)アクリレート化合物の組合せを使用すると、個々の成分に比べて、例えば、下地への付着性の向上、接着性の狙いどおりの調整、または粘度の低下もしくは増加などの利点がある。
【0081】
したがって、組成物が、オルガノシロキサン(I)、(II)および(III)とは異なる少なくとも1つの化合物(IV)である成分(IV)を含むことがさらに好ましい。
【0082】
したがって、組成物は、成分(I)および(II)に加えて、任意に成分(III)および/または成分(IV)を含む。
【0083】
化合物(IV)は、炭素、水素、および酸素の元素からなる有機化合物で、2~6個のエチレン性不飽和ラジカル重合性基と、少なくとも1つのオキシエチレン基とを有する。したがって、化合物(IV)あるいは成分(IV)は、ケイ素原子を含まない。このような化合物は、例えば、European Coatings Tech Files, Patrick Gloeckner et al. “Radiation Curing Coatings and printing inks”, 2008, Vincentz Network, Hanover, Germanyに記載されているように、純粋に有機ベースの放射線硬化性コーティング材料であることができる。
【0084】
特に好ましいのは、国際公開第2016096595号に記載されているような、純粋に有機ベースの放射線硬化性コーティング材料である。特に好ましいのは、国際公開第2016096595号に開示されているような成分(IV)あるいは化合物(IV)であり、それらは、該文献では成分(I)と呼ばれている。したがって好ましくは、成分(IV)あるいは化合物(IV)は、エチレン性不飽和ラジカル重合性基1つあたり1~25個、好ましくは1~5個のオキシエチレン基を有し、特に好ましくは、アクリル酸エステル基および/またはメタクリル酸エステル基1つあたり1~25個、好ましくは1~5個のオキシエチレン基を有する。さらに好ましくは、成分(IV)あるいは化合物(IV)は、少なくとも1つのオキシエチレン基に加えてオキシプロピレン基も有しており、より好ましくは、オキシプロピレン基の数はオキシエチレン基の数よりも少なく、特に好ましくは、成分(IV)あるいは化合物(IV)のオキシアルキル基の総数に対して、オキシアルキル基のうちオキシエチレン基でないのは、最大でも20%のみである。
【0085】
成分(IV)あるいは化合物(IV)は、ベルギーのAllnex社からEbecryl TMPTA、Ebecryl OTA480、Ebecryl TPGDA、Ebecryl DPGDA、Ebecryl 892、およびEbecryl 11の商品名で市販されている。
【0086】
好ましくは、成分(IV)の質量分率は、組成物の全質量に対して、0~40%、さらに好ましくは2~20%、より好ましくは3~15%である。
【0087】
成分(II)、(III)および(IV)、あるいはオルガノシロキサン(II)および(III)および化合物(IV)は、エチレン性不飽和ラジカル重合性基を有する。好ましくは、エチレン性不飽和ラジカル重合性基は、エチレン性不飽和ラジカル重合性エステル基である。さらに好ましくは、エチレン性不飽和ラジカル重合性基は、それぞれ互いに独立して、メタクリル酸エステル基およびアクリル酸エステル基、さらにより好ましくはアクリル酸エステル基からなる群から選択される。例えば、オルガノシロキサン(II)および/またはオルガノシロキサン(III)は、式-CHCHCHOCHCH(OH)CHOC(=O)CH=CHの基および/または式-CHCHCHOCHCH(OH)CHOC(=O)C(CH)=CHの基を有することができる。エチレン性不飽和ラジカル重合性基を有する特に好ましい基は、式-CHCHCHOCHCH(OH)CHOC(=O)CH=CHの基である。
【0088】
オルガノシロキサン(II)および/またはオルガノシロキサン(III)は、非ラジカル重合性エステル基を有していてもよい。例えば、オルガノシロキサン(II)および/またはオルガノシロキサン(III)は、式-CHCHCHOCHCH(OH)CHOC(=O)CH-CHの基を有することができる。
【0089】
本発明による組成物の特に好ましい実施形態は、成分(II)あるいはオルガノシロキサン(II)が、非ラジカル重合性エステル基を有していないのに対し、成分(III)あるいはオルガノシロキサン(III)が、非ラジカル重合性エステル基を有することを特徴とする。成分(II)あるいはオルガノシロキサン(II)が、エステル基を有する基として、式-CHCHCHOCHCH(OH)CHOC(=O)CH=CHの基のみを有し、成分(III)あるいはオルガノシロキサン(III)が、エステル基を有する基として、式-CHCHCHOCHCH(OH)CHOC(=O)CH=CHの基と、式-CHCHCHOCHCH(OH)CHOC(=O)CH-CHの基との双方を有することが特に好ましい。
【0090】
好ましくは、成分(II)あるいはオルガノシロキサン(II)は、非ラジカル重合性エステル基を有していない。
【0091】
さらに、成分(III)あるいはオルガノシロキサン(III)が、エチレン性不飽和ラジカル重合性基に加えて、非ラジカル重合性エステル基も有していることが好ましい。
【0092】
特に好ましいのは、以下を含む組成物である(組成物の全質量に対する質量分率として表す):
成分(I)0.1~20%、
成分(II)20~99.9%、
成分(III)0~45%、
成分(IV)0~15%。
【0093】
好ましい組成物は、成分(I)および(II)、任意の成分(III)および(IV)に加えて、成分(I)、(II)(III)および(IV)とは異なる1つ以上の追加の成分をさらに含む。
【0094】
本発明による組成物は、放射線硬化性コーティング材料として使用されることがさらに好ましい。したがって、好ましくは、本発明による組成物は、放射線硬化性コーティング材料である。
【0095】
本発明による放射線硬化性コーティング材料は、フリーラジカルによって3次元的に架橋させ、熱的に、例えば過酸化物を加えて、または紫外線や電子線などの高エネルギー放射線の作用下に非常に短時間で硬化させて、機械的および化学的に耐久性のある層とすることができ、この層は、本発明によるコーティング材料の適切な組成が与えられると、所定の接着特性および付着特性を示す。
【0096】
放射線として紫外線を使用する場合、架橋/硬化は、光開始剤および/または光増感剤の存在下で行われることが好ましい。好ましいのは、ノリッシュI型の光開始剤、例えば、ベンゾフェノン、ベンゾイン、α-ヒドロキシアルキルフェノン、アシルホスフィンオキシドまたはそれらの誘導体である。一般的な光開始剤は、例えば、A Compilation of Photoinitiators Commercially available for UV today” (K. Dietliker, SITA Technology Ltd., London 2002)に記載されている。本発明による好ましい放射線硬化性コーティング材料は、光開始剤および/または光増感剤を、コーティング材料全体の質量に対して0.01~10%、特に0.1~5%の質量分率で有する。光開始剤および/または光増感剤は、好ましくは本発明による組成物に可溶であり、より好ましくは、コーティング材料全体の質量に対して0.01~10%、特に0.1~5%の質量分率で可溶である。
【0097】
したがって、好ましい組成物は、成分(I)および(II)ならびに任意の成分(III)および(IV)に加えて、それとは異なる成分であって、好ましくは紫外線下で重合する少なくとも1つのエチレン性不飽和ラジカル重合性基を有する純粋な有機リン含有またはリン不含化合物、光開始剤、光増感剤、充填剤、顔料、溶媒、硬化促進剤、ミスト防止剤、アミン相乗剤、および安定剤、例えばホスファイトまたはヒンダードアミン系光安定剤(HALS)、酸化防止剤、および酸素捕捉剤からなる群から選択される成分をさらに含む。好ましくは、前述の少なくとも1つのエチレン性不飽和ラジカル重合性基を有する純粋な有機リン含有またはリン不含化合物は、紫外線下で重合する。
【0098】
さらに、硬化したコーティング材料が剥離性コーティング剤となるように組成物を使用することが好ましい。
【0099】
この剥離性コーティング剤は、オルガノシロキサン(I)を含む。したがって、本発明のさらなる主題は、オルガノシロキサン(I)を含む剥離性コーティング剤である。
【0100】
本発明のさらなる主題は、剥離性コーティング剤の製造方法であって、間接的または直接的に連続する以下のステップ:
a.本発明による組成物を表面に施与するステップと、
b.該組成物に紫外線を照射するステップと
を含む方法である。
【0101】
ここで、好ましくは、表面は、支持体の表面であり、有利に平坦な支持体の表面である。ここで、本発明による組成物は、平坦な支持体の片面または両面に施与することができる。好ましくは、平坦な支持体は、紙、布地、金属箔、およびプラスチックフィルムからなる群から選択される。支持体は、平滑であってもよいし表面構造を有していてもよい。特に好ましい支持体は、ポリプロピレンフィルムおよびポリエチレンフィルムである。
【0102】
本発明によるコーティング材料を硬化させるのに適した紫外線源は、任意にドープされた中圧水銀蒸気ランプ、または低圧水銀蒸気ランプ、UV-LEDランプ、またはいわゆるエキシマランプである。紫外線照射装置は、多色性であっても単色性であってもよい。好ましくは、照射装置の発光範囲は、光開始剤および/または光増感剤の吸収範囲内にある。
【0103】
さらに、本発明による方法によって得ることができる方法生成物が特に好ましい。
【0104】
したがって、本発明のさらなる主題は、本発明による方法によって得ることができる剥離性コーティング剤である。
【0105】
したがって、本発明による放射線硬化性コーティング材料を用いて得ることができ、硬化したコーティング材料が剥離性コーティング剤である、剥離性コーティング剤も本発明のさらなる主題である。
【0106】
したがって、本発明による組成物を、好ましくは本発明による組成物への照射により、特に本発明による組成物への紫外線の照射により硬化させることによって得ることができる剥離性コーティング剤も本発明のさらなる主題である。
【0107】
したがって、成分(I)および(II)を含む組成物を、好ましくは照射により、特に紫外線の照射により硬化させることによって得ることができる剥離性コーティング剤であって、成分(I)は、少なくとも1つのオルガノシロキサン(I)であり、成分(II)は、オルガノシロキサン(I)とは異なり、かつ少なくとも1つのエチレン性不飽和ラジカル重合性基を有する少なくとも1つのオルガノシロキサン(II)である剥離性コーティング剤も本発明のさらなる主題である。
【0108】
好ましくは、剥離性コーティング剤で仕上げられた支持体は、剥離性コーティング剤が少なくとも1つのオルガノシロキサン(I)を含み、かつ/または少なくとも1つのオルガノシロキサン(I)を含む本発明による組成物から製造でき、支持体は、好ましくは、紙、布地、金属箔、プラスチックフィルム、特に好ましくはポリプロピレンフィルムおよびポリエチレンフィルムからなる群から選択されることを特徴とする。
【0109】
したがって、紙、布地、金属箔、プラスチックフィルム、特に好ましくはポリプロピレンフィルムおよびポリエチレンフィルムからなる群から選択される支持体上の剥離性コーティング剤におけるオルガノシロキサン(I)の本発明による使用が特に好ましい。
【0110】
剥離性コーティング剤は、例えば、粘着テープ、ラベル、自己粘着性衛生用品の包装、食品包装、自己粘着性感熱紙、またはアスファルト系屋根用膜のカバーシートに使用される。剥離性コーティング剤は、これらの用途で使用される粘着材料に対する良好な剥離作用を示す。
【0111】
粘着材料は、工業的用途では主に粘着テープやラベルであり、これらに対する剥離作用は剥離値で表され、剥離値が低いほど剥離作用が良好であることを表している。剥離値は、FINAT Handbook 8th Edition, The Hague/NL, 2009に準拠してFTM 10という名称で求められるが、40℃での加圧保管を行うよう変更を加える。剥離値は、剥離性コーティング剤の品質(例えば、コーティング剤の均一性、厚さ、および/または平滑性)、粘着材料あるいは接着剤、および試験条件に依存する。そのため、剥離性コーティング剤の評価には、同一の接着剤あるいは粘着材料および試験条件が存在するべきである。剥離値を調べるために、粘着テープTesa(登録商標)7475(Tesa SE社(ドイツ、ハンブルク)の商標)を2.5cm幅で使用する。
【0112】
好ましくは、本発明による剥離性コーティング剤は、最大で20cN/2.5cm、より好ましくは最大で10cN/2.5cm、特に好ましくは最大で8cN/2.5cmの剥離値を有し、ここで、剥離値は、少なくとも0.5cN/2.5cm、好ましくは少なくとも1cN/2.5cmである。
【0113】
以下に示す実施例において本発明を例示的に説明するが、本発明の適用範囲は、本明細書全体および特許請求の範囲から生じるものであり、本発明は、実施例で言及された実施形態に限定されるものと読み取ることはできない。
【0114】
実施例
全般的方法
オルガノシロキサンの特性決定を、H-および29Si-NMR分光法により行う。これらの方法は、当業者によく知られている。
【0115】
本発明によらないフェニル基含有オルガノシロキサン
本発明によらないオルガノシロキサンとして、The DOW Chemical CompanyおよびGelest Inc.より市販されているフェニル含有オルガノシロキサンを使用した(表1a参照)。
【0116】
【表1】
【0117】
テクニカルデータシートによれば、これらの製品は、ケイ素にフェニル基が直接結合したオルガノシロキサンである。このことは、29Si-NMR試験により、-35ppm付近にシグナルが存在することで確認することができた。
【0118】
本発明によるオルガノシロキサンと直接比較するために、本発明によらない2つの追加のオルガノシロキサンを合成した(表1b参照)。これらの合成を、環状フェニルメチルシロキサンから、Cheng Li et al. “Ring-Opening Copolymerization of Mixed Cyclic Monomers: A Facile, Versatile and Structure-Controllable Approach to Preparing Poly(methylphenylsiloxane) with Enhanced Thermal Stability”, Ind. Eng. Chem. Res. 2017, 56, 7120-7130にしたがって行った。
【0119】
【表2】
【0120】
本発明によるオルガノシロキサン(I)
本発明によるオルガノシロキサン(I)は、欧州特許出願公開第1640418号明細書に記載されているように、それぞれポリジメチルハイドロジェンシロキサンを平衡化し、その後、白金触媒下でスチレンまたはアルファメチルスチレンを用いてヒドロシリル化することにより製造した。29Si-NMRでは、-35ppm付近のシグナルが欠落している(表2参照)。
【0121】
【表3】
【0122】
本発明による化合物E-1は、構造上、本発明によらない化合物NE-5に相当する。本発明による化合物E-2は、構造上、本発明によらない化合物NE-6に相当する。
【0123】
ラジカル重合性オルガノシロキサン(II)および(III)
本発明によるフェニル基含有オルガノシロキサンと、本発明によらないフェニル基含有オルガノシロキサンとを、広く適用されているEvonik Nutrition & Care GmbH社のTEGO(登録商標)RCオルガノシロキサンに使用した。アクリレート基で修飾されたシリコーンを選択した。2種類のシリコーンブレンドを使用した(表3):
【表4】
【0124】
TEGO(登録商標)RC 902およびTEGO(登録商標)RC 702は、オルガノシロキサン(II)である。29Si-NMRおよびH-NMR分析によれば、これらのオルガノシロキサンは、アクリレート基でわずかに修飾された長鎖シリコーンである。TEGO(登録商標)RC 711は、オルガノシロキサン(III)である。29Si-NMRおよびH-NMR分析によれば、このオルガノシロキサンは、アクリレート基を多く含む短鎖シリコーンである。テクニカルデータシートのデータによれば、このTEGO(登録商標)RC 711は、基材へのコーティング材料の良好な定着性を提供する。
【0125】
ベンゼン脱離の応用技術的検証
試料を、TGA(測定機器:TA Instruments, Discovery TGA)で熱分解させる。この試験を、表1a、1bおよび2の純粋なフェニル基含有オルガノシロキサンに対して行う。他のブレンド成分による汚染を排除するため、表3に記載の他の成分は含まれていない。試料を0.5mg秤量し、200℃/分の昇温速度で30℃から400℃まで昇温する。400℃の温度を5分間保持する。加熱段階および400℃での滞留時間の間に、Tenax(登録商標)TA(ポリ(2,6-ジフェニル-p-フェニレンオキシド)ベースの高分子吸着樹脂、Buchem BVより市販)に放出物を捕捉し、熱脱着システム-GC/MS(Gerstel、Agilent)で分析する。結果を、トルエン換算でμg/g単位で報告する。この試験の結果を表4に示す。
【0126】
【表5】
【0127】
表4から判るように、ケイ素にフェニル基が直接結合した市販のフェニルシロキサンは、芳香族基が非芳香族有機基Zを介してケイ素原子に結合している本発明によるシリコーンの場合と比べて、明らかにより多くのベンゼンを放出する。ベンゼン放出の相違は、約4分の1~80分の1である。同等の構造であるE-1/NE-5およびE-2/NE-6を比較すると、倍数はそれぞれ20および13である。よって、従来技術に対して明らかな利点が生じる。
【0128】
組成
本発明によるフェニル基含有オルガノシロキサンに加え、本発明によらないフェニル基含有オルガノシロキサンも、オルガノシロキサンブレンドM-1およびM-2に2質量%で添加した。それらのブレンドおよび応用技術試験の結果を、表5および6に示す。
【0129】
本発明によるオルガノシロキサンE-1と、構造が同等である本発明によらないオルガノシロキサンNE-5とを、オルガノシロキサンブレンドM-1およびM-2に、異なる濃度で加えた。それらのブレンドおよび応用技術試験の結果を、表7に示す。
【0130】
剥離挙動の応用技術的検証
放射線硬化性コーティング材料を製造するために、表5、表6および表7による組成物各100gを混合した。これらのコーティング材料を、不均質性が見られなくなるまでヘラを使って手で撹拌した。これらのコーティング材料を、平坦な支持体に施与した。支持体は、いずれの実施例でも幅50cmのBOPPフィルム(BOPP:二軸延伸ポリプロピレン)であり、これは、1kWの発電機出力で予めコロナ前処理に供しておいたものである。これらのコーティング材料を、COATEMA(登録商標)Coating Machinery GmbH社(ドルマーゲン、ドイツ)の5ロールコーティングユニットを用いて単位面積当たりの質量が約1g/mとなるように施与し、IST(登録商標)Metz GmbH社(ニュルティンゲン、ドイツ)の中圧水銀ランプの紫外光を作用させることにより、60W/cmでウェブ速度を100m/minとして、窒素雰囲気下にて残留酸素含有量50ppm未満で硬化させた。コーティングした試料を、剥離値に関する試験に供した。
【0131】
粘着性物質は、工業的用途では主に粘着テープやラベルであり、これらに対する剥離作用は剥離値で表され、剥離値が低いほど剥離作用が良好であることを表している。剥離値は、剥離性コーティング剤の品質、接着剤、および試験条件に依存する。そのため、剥離性コーティング剤の評価には、同一の接着剤および試験条件が存在するべきである。剥離値を調べるために、粘着テープまたはラベルラミネートを2.5cm幅にカットし、粘着面を試験対象のシリコーンコーティング剤に施与する。この試験は、FTM 10という名称で、FINAT Handbook 8th Edition, The Hague/NL, 2009に準拠して行うが、40℃での加圧保管を行うよう変更を加えた。粘着テープTesa(登録商標)7475(Tesa SE社(ドイツ、ハンブルク)の商標)を使用した。報告値は5回測定の平均値であり、[cN/2.5cm]単位で報告する。剥離挙動の応用技術的検証の結果を、表5、6、および7にまとめた。
【0132】
【表6】
【0133】
【表7】
【0134】
【表8】
【0135】
表5から、本発明によらない組成物を用いたコーティング剤では、ベースブレンドM-1およびM-2の剥離値が明らかには低下しなかったことが判る。一方で、表6の本発明による組成物を用いたコーティング剤は、剥離挙動が一貫して明らかに向上していた。表7によれば、本発明によるシリコーンの添加濃度がより低い場合にもより高い場合にも、明らかにより良好な剥離挙動が一貫して観察された。このことは、本発明によらないシリコーンには当てはまらない。