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特許7397086縮合ポリマーの制御された分解促進のための添加剤組成物の使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-04
(45)【発行日】2023-12-12
(54)【発明の名称】縮合ポリマーの制御された分解促進のための添加剤組成物の使用
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/00 20060101AFI20231205BHJP
   C08K 5/053 20060101ALI20231205BHJP
   C08K 5/49 20060101ALI20231205BHJP
   C08L 67/00 20060101ALI20231205BHJP
【FI】
C08L101/00
C08K5/053
C08K5/49
C08L67/00
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2021541116
(86)(22)【出願日】2020-01-17
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-03-16
(86)【国際出願番号】 EP2020000019
(87)【国際公開番号】W WO2020148089
(87)【国際公開日】2020-07-23
【審査請求日】2022-03-24
(31)【優先権主張番号】102019200596.9
(32)【優先日】2019-01-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】515230084
【氏名又は名称】フラウンホーファー-ゲゼルシャフト ツゥア フェアデルング デア アンゲヴァンドテン フォァシュング エー.ファウ.
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】ポリダー マティアス
(72)【発明者】
【氏名】メッツェシュ-ツィリゲン エルケ
(72)【発明者】
【氏名】プフェンダー ルドルフ
【審査官】宮内 弘剛
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-107092(JP,A)
【文献】特開2011-236401(JP,A)
【文献】特開2012-107180(JP,A)
【文献】特開2009-132851(JP,A)
【文献】特表2002-543261(JP,A)
【文献】国際公開第2015/166896(WO,A1)
【文献】特開2010-270311(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105949763(CN,A)
【文献】特開2015-071714(JP,A)
【文献】国際公開第2017/073623(WO,A1)
【文献】特表2014-525506(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K
C08L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
A)脂肪族又は脂環式ポリオール類を含む群から選択される少なくとも1つのポリオールと、
B)少なくとも1つの有機リン化合物と、からなる混合物の、
プロトン性条件下における重縮合ポリマーの加水分解を触媒するための添加剤としての使用。
【請求項2】
プロトン性条件下で、前記重縮合ポリマーを熱安定化する、縮合ポリマーの添加剤としての、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記縮合ポリマーが、脂肪族若しくは芳香族ジカルボン酸とジオール、又はヒドロカルボン酸のポリエステルと;
ポリカーボネート又はポリエステルカーボネートと
リアミドと;
芳香族ポリアミドと;
上記ポリマー類の2又は複数の混合物、組合せ又はブレンドと;を含む群から選択されることを特徴とする、請求項1又は2に記載の使用。
【請求項4】
前記縮合ポリマーが、ポリ乳酸(PLA、ポリ(ブチレンアジペート)(PBA)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリ-3-ヒドロキシブチレート、ポリ-4-ヒドロキシブチレート、ポリ-3-ヒドロキシバレレート、ポリ(ヘキサメチレンサクシネート)、ポリ(ブチレンサクシネート)及びポリ(ブチレンサクシネートアジペート)から選択されるコポリマー、並びに上記ポリマー類の2又は複数の混合物又はブレンドを含む群から選択されることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の使用。
【請求項5】
前記縮合ポリマーが、PLA、PBA、及びそれらのコポリマーを含む群から選択されることを特徴とし、
ここでPLAコポリマーは、ヒドロカルボン酸、ジオール及び/又はカルボン酸から選択されるコモノマーと共に、D-ラクチド及び/又はL-ラクチドの開環重合によって得られたものである請求項1~4のいずれか一項に記載の使用。
【請求項6】
前記少なくとも1つの脂肪族又は脂環式ポリオールが、少なくとも4つのOH基を有するポリオール類を含む群から選択されることを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の使用。
【請求項7】
前記少なくとも4つのOH基を有するポリオール類が、少なくとも4つのOH基を有するアルジトールおよび/又はシクリトールからなる群から選択されることを特徴とする請求項6に記載の使用。
【請求項8】
前記少なくとも4つのOH基を有するアルジトールおよび/又はシクリトールが、トレイトール、エリスリトール、ガラクチトール、マンニトール、リビトール、ソルビトール、キシリトール、アラビトール、イソマルト、イノシトール、ラクチトール、マルチトール、アルトリトール、イジトール、マルトトリオール、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール、およびそれらの混合物からなる群から選択されることを特徴とする、請求項7に記載の使用。
【請求項9】
前記少なくとも1つの有機リン化合物が、有機ホスファイト、有機ホスホナイト、有機ホスホネート、有機ホスフェート、並びにこれらの混合物及び組み合わせを含む群から選択されることを特徴とする、請求項1~のいずれか一項に記載の使用。
【請求項10】
前記少なくとも1つの有機ホスファイトが加水分解性ホスファイトであることを特徴とする、請求項に記載の使用。
【請求項11】
前記少なくとも1つの有機ホスファイトが、下記式(II)又は(III)のうちの一つを有することを特徴とする、請求項9又は10に記載の使用。
【化2】
ここで、Rは、任意に置換されたC~C32-アルキル-、-シクロアルキル-又はアリール残基から選択される。
【請求項12】
前記少なくとも1つの有機ホスファイトが以下の化合物から選択されるか、
【化3】
【化4】
【化5】
ここで、n=1~100であり、又は、
トリラウリルホスファイト、トリイソデシルホスファイト、トリデシルホスファイト、トリヘキサデシルホスファイト、トリオクタデシルホスファイト、トリベヘニルホスファイト、トリアラキジルホスファイト、トリセリルホスファイト、トリセチルホスファイト、トリオレイルホスファイトを含む群から選択されることを特徴とする、請求項11のいずれか一項に記載の使用。
【請求項13】
前記少なくとも1つの有機ホスファイトが式(IV)の化合物を含まないことを特徴とする、請求項~1のいずれか一項に記載の使用。
【化6】
ここで、R20及び/又はR21は、各々互いに独立して、水素原子、C1-8-アルキル基、C5-8-シクロアルキル基、C6-12-アルキルシクロアルキル基、C7-12-アラルキル基又はフェニル基であり、
23及びR24は、各々互いに独立して、水素原子、C1-8-アルキル基、C5-8-シクロアルキル基、C6-12-アルキルシクロアルキル基、C7-12-アラルキル基又はフェニル基であり、
22は、各々水素原子又はアルキル基であり、
は、式(IVa)による単結合、硫黄原子、又は二価の基であり、
【化7】
ここで、R25は、水素原子、C1-8-アルキル基、又はC5-8-シクロアルキル基を意味し、
は、C2-8-アルキレン基又は式(IVb)による二価の基であり、
【化8】
ここで、Lは単結合又はC1-8-アルキレン基であり、*は酸素結合部位であり、
及びZの一方はヒドロキシル基、C1-8-アルキル基、C1-8-アルコキシ基又はC7-12-アラルキルオキシ基であり、他方は水素原子又はC1-8-アルキル基である。
【請求項14】
前記少なくとも1つのホスフェートが、トリラウリルホスフェート、トリイソデシルホスフェート、トリデシルホスフェート、トリヘキサデシルホスフェート、トリオクタデシルホスフェート、トリベヘニルホスフェート、トリアラキジルホスフェート、トリセリルホスフェート、トリセチルホスフェート及びトリオレイルホスフェート、ジホスフェート及びポリホスフェート、並びに、モノステアリルホスフェート、ジステアリルホスフェート、及び、モノアルキルホスフェート、ジアルキルホスフェート及び/又はトリアルキルホスフェートの混合物を含む群から選択されることを特徴とする、請求項に記載の使用。
【請求項15】
成分(A)と成分(B)の重量比が1:10~10:1である混合物を使用する、請求項1~1のいずれか一項に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも1つの脂肪族又は脂環式ポリオール、特にアルジトール又はシクリトールと、少なくとも1つの有機リン化合物とからなる混合物を、縮合ポリマーの加水分解をプロトン性条件下で触媒する添加剤(加水分解触媒)として使用することに関するものである。本発明はさらに、少なくとも1つの脂肪族又は脂環式ポリオール、特にアルジトール及び/又はシクリトール、少なくとも1つの有機リン化合物、及び少なくとも1つの縮合ポリマーを含み、下記に定義される式IVの化合物を含まない縮合ポリマー組成物に関する。本発明の別の態様は、本発明による縮合ポリマー組成物から製造され得る成形化合物又は成形部品である。最後に、本発明は、縮合ポリマー組成物の製造方法に関する。
【0002】
PETなどのポリエステルやPA6などのポリアミドは、包装や技術的な用途にとって重要なプラスチックである。これらのプラスチックは、長期的な使用目的のために提供されている。そのため、外部からの影響に対するポリマーの高い安定性が望まれている。
【0003】
しかし、最近では比較的速い分解性を有するプラスチックの需要も高まっている。縮合ポリマーはこの要求を満たすために特別に適している。その理由は、縮合ポリマーを加水分解して、官能基を有する低分子短鎖画分に切断することができるからである。画分はいくつかの微生物によって代謝され、それによって自然の代謝サイクルに供給することができる。
【0004】
加えて、持続可能な化学という意味での試みは、再生可能な天然資源から生産されることが多くなっている重縮合生成物に向けられている。ポリ乳酸(PLA)、ポリ-3-ヒドロキシブチレート、ポリ-3-ヒドロキシバレレート、ポリ(ブチレンサクシネート)又はポリ(ブチレンサクシネート-co-アジペート)などの縮合ポリマーの重要性が増している。これらは油性のプラスチックに代わって、ますます頻繁に使用されるようになり、既に包装業界や農業用途でその地位を確立している。
【0005】
再生可能な天然資源からの重縮合生成物は、従来の縮合ポリマーと比較して比較的高い分解速度を有し、比較的良好にコンポスト化することができるが、これらのポリマーの分解をさらに促進することも求められている。しかしながら、同時に、未加工の重縮合生成物の加工において問題が生じることや、様々なプラスチック部品の製造において熱的(プレ)損傷が生じることを回避すべきである。
【0006】
分解促進と生産の安定化の両方について、文献には既に異なるアプローチがある。しかし、これらのアプローチは互いに互換性がないため、熱損傷なしに成形部品に加工することができ、かつ使用後の分解が早い縮合ポリマー組成物は、これまで入手することができなかった。
【0007】
<分解促進の手法>
縮合ポリマーの分解は、特別な環境条件、例えば、選択された微生物(W.Pattanasuttichonlakul et al., International Biodeterioration & Biodegradation, 2018, 132, 74-83)又は酵素(WO 2005/063037 A1)の使用によって促進することができる。もう一つの可能性は、分解を促進する添加剤の添加である。一方で、光触媒による分解が知られているシリカナノ粒子が挙げられる(P. Georgiopoulus et al., Journal of Biomaterials Applications, 2014, 29, 662-674)。ステアリン酸マンガン(CN 103408827)のような酸化を促進する添加剤も考えられる。PLAの分解速度に影響を及ぼすさらなる方法は、MgOやZnOなどの無機フィラーの添加(US 2014/0360728 A1)、又はキトサンやケラチンなどの有機フィラーの添加である(M. A. Elsawy et al., Renewable and Sustainable Energy Reviews 2017, 79, 1346-1352)。さらに、PLAと急速分解性ポリマーとのブレンド、例えば、PLAとポリ(ブチレンサクシネート)とのブレンド(Y. Wang et al., Polym. Bull. 2016, 73, 1067-1083)もまた、当然製造することができる。
【0008】
しかしながら、上述した分解促進方法は、プラスチック部品を本来の目的で使用した後でなければ使用することができない(微生物、酵素)などの不都合が生じる。例えば、光触媒作用や酸化促進添加剤は、ポリマーの分解特性を原理的に変化させるものであり、一方、フィラーの添加や他のポリマー類とのブレンドの調製は、材料の異なる機械的特性をもたらす。
【0009】
さらに、公知の縮合ポリマーの分解は、酸触媒又は塩基触媒によるエステル基の分解が必要であるため、特に低いpH値又は高いpH値でのみ起こることが多い(A. Goepferich, Biomaterials 1996, 17, 103-114)。しかしながら、加工時に酸や塩基の環境にすると、ポリマーに対する大きな損傷が生じるので、逆効果である。
【0010】
<安定化のためのアプローチ>
縮合ポリマーがホスファイトによって安定化され得ることは、WO 94/07949 A1から知られている。ホスファイトとさらなる安定剤、例えば酸化防止剤との組み合わせもまた一般的であり、例えばWO 2010/000638 A1に記載されている。EP 2 558 737 A1はさらに、選択されたホスファイト安定剤及び環状ポリオールを含む縮合ポリマー組成物を開示している。
【0011】
さらなる添加剤の組み合わせは、記載された文脈では知られていない。
【0012】
そこで、本発明の目的は、原料状態の縮合ポリマーの安定化とそれから製造される成形品の分解促進とを、成形品を目的に応じて使用した後に実施することができる方法を提供することにある。本発明のさらなる目的は、促進された分解性を有する、対応する安定化された縮合ポリマー組成物を提供することである。
【0013】
この目的は、請求項1に記載の方法に関して達成される。縮合ポリマー組成物に関して、上記の目的は、請求項13に記載の特徴によって達成される。請求項17は、縮合ポリマー組成物を製造することができる方法を提供する。請求項19によると、本発明は、縮合ポリマー組成物から製造され得る成形化合物又は成形部品に関する。縮合ポリマー組成物の用途は、請求項20に記載されている。各従属クレームは有利な展開を示す。
【0014】
したがって、本発明は、プロトン性条件下で縮合ポリマーの加水分解を触媒する添加剤(加水分解触媒)として、脂肪族又は脂環式ポリオール類(A)からなる群から選択される少なくとも1つのポリオールと、少なくとも1つの有機リン化合物(B)とからなる混合物の使用に関する。
【0015】
加水分解触媒は、縮合ポリマー中の共有結合の加水分解的切断を促進し、それによって加水分解による縮合ポリマーの分解速度を増加させる物質混合物として理解される。
【0016】
加水分解劣化(hydrolytic degradation)の増加は、例えば、記載された混合物を含む重縮合ポリマーと、記載された混合物を含まない重縮合ポリマーとの、プロトン性条件下(例えば水の存在下)での比較実験を用いて決定することができる。加水分解劣化は、例えば、メルトフローインデックス(例:溶融体積流量(MVR)、EN ISO 1133-1: 2011に従って求めることができる)を用いて特定することができ、メルトフローインデックスの増加は分解の増加、したがって加水分解速度の増加を意味する。
【0017】
驚くべきことに、記載された混合物を重縮合ポリマーに組み込むことによって、当該混合物を含む重縮合ポリマーがプロトン性の加水分解条件にさらされたときに、加水分解速度が大幅に増加することが見出された。
【0018】
好ましくは、当該混合物は、非プロトン性条件下(例えば水分がない場合)で熱安定化する重縮合ポリマーの添加剤として同時に使用することができる。
【0019】
熱安定化添加剤は、縮合ポリマーの温度による分解を低減する物質混合物として理解される。分解の低減は、原料ポリマーの更なる加工において特に重要である。各ポリマーの望ましくない熱分解がほとんどの場合で観察されるポリマー溶融物の押出において、例えば、安定化添加剤を効果的に使用することができる。
【0020】
熱安定性の程度は、分子量、粘度、又はメルトフローインデックス(例:溶融体積流量(MVR))が、縮合ポリマーを高温に曝す前及び後の両方で測定されることによって決定され得る。上述の測定値の変化が僅かであることは、高度な熱安定性を示している。
【0021】
非プロトン性条件は、水素原子がプロトンとして放出される官能基を持たない分子のみが存在すると理解される。このような条件は、例えば、実質的に水分が存在しない状態での重縮合ポリマー、特に熱可塑性重縮合ポリマーの熱可塑性加工(特に押出中)において生じる。これとは対照的に、プロトン性条件下では、水のようなプロトンを放出する少なくとも1つの溶媒又は別の化合物が存在する。
【0022】
同じ混合物が、一方では、重縮合ポリマーの加水分解劣化を促進し、他方では、非プロトン性条件下での重縮合ポリマーの熱安定化を同時に確実にすることができることは、全く驚くべきことであり、予測できないものである。
【0023】
好ましい実施形態において、縮合ポリマーは、以下を含む群から選択される。
・ポリ乳酸(PLA)、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート-co-アジペート、ポリ(ブチレンアジペート)(PBA)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリプロピレンテレフタレート(PPT)、ポリエチレンナフタレート、ポリ-1,4-ジメチルオルシクロヘキサンテレフタレート、ポリヒドロキシベンゾエート、ポリヒドロキシナフタレートなどの脂肪族若しくは芳香族ジカルボン酸とジオール、又はヒドロカルボン酸のポリエステル;
・ポリカーボネート又はポリエステルカーボネート;
・PA6、PA6.6、PA6.10、PA4.6、PA4.10、PA6.12、PA10.10、PA12.12、PA10.12、PA11、PA12などのポリアミド;
・例えばテレフタル酸及び/又はイソフタル酸及び脂肪族ジアミンから、又はアジピン酸若しくはセバシン酸などの脂肪族ジカルボン酸及び1,4-又は1,3-ジアミンベンゾールなどの芳香族ジアミンから調製される、ポリフタラミドなどの半芳香族ポリアミド;
・上記ポリマー類の2又は複数の混合物、組合せ又はブレンド。
【0024】
縮合ポリマーは、PLA、ポリ(ブチレンアジペート)(PBA)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリ-3-ヒドロキシブチレート、ポリ-4-ヒドロキシブチレート、ポリ-3-ヒドロキシバレレート、ポリ(ヘキサメチレンサクシネート)、ポリ(ブチレンサクシネート)及びポリ(ブチレンサクシネート-co-アジペート)などのコポリマー、並びに上記ポリマー類の2又は複数の混合物又はブレンドを含む群から選択されることが好ましい。
【0025】
前記重縮合ポリマーは、α、ω官能性モノマーの縮合反応、又は複数の二官能モノマーの縮合反応により、例えば、慣用の技術的プロセスを用いて水を放出しながら調製することができる。しかしながら、開環重合によってこれらのポリマーを合成することも同様に可能であり、例えば、開環イオン重合によりラクチドからポリラクチド(ポリ乳酸)が得られる。
【0026】
脂肪族又は脂環式ポリオール類を含む群から選択される少なくとも1つのポリオールと、PLA、PBA及びそれらのコポリマーの安定剤又は加水分解触媒としての少なくとも1つの有機リン化合物との混合物が有利に使用され、ここで、PLAコポリマーは、好ましくは、ヒドロカルボン酸、特にグリコール酸、4-ヒドロキシブタン酸、3-ヒドロキシブタン酸、3-ヒドロキシバレリアン酸、若しくはマンデル酸から選択される;ジオール、特にエチレングリコール若しくはブタンジオール;及び/又はカルボン酸、特にアジピン酸、セバシン酸若しくはテレフタル酸、から選択されるコモノマーと共に、D-ラクチド及び/又はL-ラクチドの開環重合によって得られたものである。
【0027】
上記の縮合ポリマーがコポリマーである場合、それらは統計的な(「ランダム」な)ブロック構造又はテーパー構造の形態で存在し得る。
【0028】
さらに、少なくとも1つの脂肪族又は脂環式ポリオール(A)が、少なくとも4つのOH基を有するポリオール類、好ましくは少なくとも4つのOH基を有するアルジトール類及び/又はシクリトール類を含む群から選択されることが好ましく、特に、トレイトール、エリスリトール、ガラクチトール、マンニトール、リビトール、ソルビトール、キシリトール、アラビトール、イソマルト、イノシトール、ラクチトール、マルチトール、アルトリトール、イジトール、マルトトリオール、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール、及びこれらの混合物を含む群から選択されることが好ましく、myo-イノシトール及びソルビトールが特に好ましい。
【0029】
少なくとも1つの有機リン化合物は、有機ホスファイト、有機ホスホナイト、有機ホスホネート、若しくは有機ホスフェート、並びにこれらの混合物及び組み合わせを含む群から選択されることが好ましい。
【0030】
少なくとも1つの有機ホスファイト(B)が混合物中に含まれることが特に好ましい。例えば、脂肪族基を有するホスファイトなどの容易に加水分解され得るホスファイトであり得る。少なくとも1つのホスファイトは、一般式(I)を有するホスファイトであることが好ましい。
【化1】
ここで、置換基R、R及びRは、任意に置換されたC~C32-アルキル-、シクロアルキル-及びアリール残基、又は置換基Rは、任意に置換されたC~C32-アルキル-、シクロアルキル-及びアリール残基を含む群から選択され、Rは、環状系、特にスピロ環を形成するためにRに結合している。
【0031】
使用される混合物中の少なくとも1つの有機ホスファイト(B)が下記式(II)又は(III)のいずれかを有する場合に、非常に良好な特性を有する縮合ポリマー組成物が得られる。
【化2】
は、任意に置換されたC~C32-アルキル-、-シクロアルキル-又はアリール残基から選択される。
【0032】
さらに、少なくとも1つの有機ホスファイト(B)が以下の化合物から選択される混合物を使用することが好ましい。
【化3】
【化4】
ここで、n=1~100、好ましくは2~10であり、又は、トリラウリルホスファイト、トリイソデシルホスファイト、トリデシルホスファイト、トリヘキサデシルホスファイト(トリセチルホスファイト)、トリオクタデシルホスファイト、トリベヘニルホスファイト、トリアラキジルホスファイト、トリセリルホスファイト、トリセチルホスファイト、トリオレイルホスファイトからなる群から選択される。
【0033】
さらに好ましいホスファイトは、置換基として1又は複数のベンゾフラン基を含む。これらの化合物は、例えば、WO 2017/025431 A1に記載されているように得ることが可能である。上記ベンゾフラン置換ホスファイトに関するこの刊行物の開示もまた、本特許出願の対象である。例示的なホスファイトは、例えば以下である。
【化5】
【0034】
さらに、少なくとも1つの有機ホスファイト(B)は、式(IV)の化合物を含まないことが有利である。
【化6】
ここで、R20及び/又はR21は、各々互いに独立して、水素原子、C1-8-アルキル基、C5-8-シクロアルキル基、C6-12-アルキルシクロアルキル基、C7-12-アラルキル基又はフェニル基であり、
23及びR24は、各々互いに独立して、水素原子、C1-8-アルキル基、C5-8-シクロアルキル基、C6-12-アルキルシクロアルキル基、C7-12-アラルキル基又はフェニル基であり、
22は、各々水素原子又はアルキル基であり、
は、式(IVa)による単結合、硫黄原子、又は二価の基であり、
【化7】
ここで、R25は、水素原子、C1-8-アルキル基、又はC5-8-シクロアルキル基を意味し、
は、C2―8-アルキレン基又は式(IVb)による二価の基であり、
【化8】
ここで、Lは単結合又はC1-8-アルキレン基であり、*は酸素結合部位であり、Z及びZの一方はヒドロキシル基、C1-8-アルキル基、C1-8-アルコキシ基又はC7-12-アラルキルオキシ基であり、他方は水素原子又はC1-8-アルキル基である。
【0035】
これは、本発明による混合物が、好ましくは一般式IVの化合物を含まないことを意味する。
【0036】
好ましいホスフェートは、構造的に上記ホスファイトに対応し、例えば、これらのホスファイトを対応するホスフェートに酸化することによって得ることができる。好ましいホスフェートは、特に、トリラウリルホスフェート、トリイソデシルホスフェート、トリデシルホスフェート、トリヘキサデシルホスフェート、トリオクタデシルホスフェート、トリベヘニルホスフェート、トリアラキジルホスフェート、トリセリルホスフェート、トリセチルホスフェート、及びトリオレイルホスフェートである。ジホスフェート及びポリホスフェートはさらに好適である。ホスフェートのもとになるリン酸は、モノステアリルホスフェート、又はジステアリルホスフェート、又は、モノアルキルホスフェート、ジアルキルホスフェート及び/又はトリアルキルホスフェートの混合物などの部分的にエステル化されている形のみで存在することもできる。
【0037】
好ましいホスホナイトは以下のものである。
【化9】
【0038】
好ましい実施形態では、成分(A)と成分(B)の重量比が1:10~10:1、好ましくは1:5~2:1である混合物が使用される。
【0039】
第2の態様において、本発明は、以下を含むか又はそれからなる縮合ポリマー組成物に関する。
A)脂肪族又は脂環式ポリオール類を含む群から選択される少なくとも1つのポリオール、
B)少なくとも1つの有機リン化合物、及び
C)少なくとも1つの縮合ポリマーであって、上記式(IV)の化合物を含まない。
【0040】
個々の成分(A)~(C)に関する好ましい実施形態に関して、組成物に制限なく適用される前述の実施形態を参照する。
【0041】
縮合ポリマー組成物は、少なくとも1つのポリオールを0.01~5.00重量部、好ましくは0.05~3.00重量部、少なくとも1つの有機リン化合物を0.01~5.00重量部、好ましくは0.05~1.00重量部、及び縮合ポリマーを90.00~99.98重量部、好ましくは96~99.90重量部含むか又はからなることが好ましい。
【0042】
縮合ポリマー組成物は、成分(A)~(C)に加えて、一次酸化防止剤、二次酸化防止剤、UV吸収剤、光安定剤、金属不活性化剤、フィラー不活性化剤、抗オゾン剤、核剤、抗核剤、強化剤、可塑剤、金型潤滑剤、レオロジー改質剤、チキソトロピー剤、鎖延長剤、加工助剤、離型剤、難燃剤、色素、染料、光学増白剤、抗菌活性剤、帯電防止剤、スリップ剤、抗ブロッキング剤、カップリング剤、架橋剤、抗架橋剤、親水化剤、疎水化剤、結合剤、分散剤、相溶化剤、脱酸素剤、酸捕捉剤、膨張剤、分解添加剤、消泡剤、消臭剤、マーキング剤、防曇剤、フィラー、補強材及びこれらの混合物を含む群から選択される少なくとも1つの添加剤を含んでもよい。
【0043】
縮合ポリマー組成物が、以下から選択される少なくとも1つの添加剤をさらに含むことも同様に可能である。
i)分解添加剤、好ましくは遷移金属カルボキシラート、特にステアリン酸鉄(III)及び/又はステアリン酸マンガン(II)などの有機遷移金属化合物;
ii)可塑剤、好ましくはトリブチルアセテートシトレート、トリブチルシトレート、トリエチルアセチルシトレート、グリセロールトリアセテート、エポキシ化大豆油、及び/又はエポキシ化亜麻仁油;
iii)核剤、好ましくは単官能性及び多官能性カルボン酸のタルカム、アルカリ塩又はアルカリ土類塩、特に安息香酸、コハク酸、アジピン酸、例えば安息香酸ナトリウム及びアルミニウムヒドロキシ-ビス(4-tert-ブチル)安息香酸;グリセリン酸亜鉛、2,2′-メチレン-ビス-(4,6-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスフェート、トリメシン酸トリシクロヘキシルアミド、トリメシン酸トリ(4-メチルシクロヘキシルアミド)、トリメシン酸トリ(tert-ブチルアミド)、N,N′,N″-1,3,5-ベンゾールトリイルトリス(2,2-ジメチルプロパンアミド)、2,6-ナフタレンジカルボン酸ジシクロヘキシルアミドなどのトリスアミド及びジアミド;及び/又はオロチン酸;
iv)鎖延長剤、好ましくはジエポキシド、ビスオキサゾリン、ビスオキサゾロン、ビスオキサジン、ジイソシアネート、二無水物、ビスアリルラクタム、ビスマレイミド、ジシアネート、カルボジイミド、及び/又はポリマー鎖延長剤、例えばポリスチレンポリアクリレートポリグリシジル(メタ)アクリレートコポリマー、ポリスチレンマレイン酸無水物コポリマー、及びポリエチレンマレイン酸無水物コポリマー;
v)フィラー、好ましくは炭酸カルシウム、シリケート、タルカム、雲母、カオリン、金属酸化物、金属水酸化物、ブラックカーボン、グラファイト、木粉、セルロースなどの天然物の繊維;モンモリロナイト、ベントナイト、ベイデライト、雲母、ヘクトライト、サポナイト、バーミキュライト、レディカイト、マガダイト、イライト、カオリナイト、ウォラストナイト、アタパルジャイトなどのハイドロタルサイト、ゼオライト及び/又はフィロシリケート。
【0044】
また、本発明は、上述の縮合ポリマー組成物から製造される成形用化合物又は成形部品に関する。成形組成物又は成形部品は、特に、射出成形部品、箔、フィルム、バンド、中空体、発泡体、及び/又は繊維から選択される。
【0045】
本発明のさらなる態様は、上述の縮合ポリマー組成物の製造方法に関するものであり、少なくとも1つのアルジトール及び少なくとも1つの有機ホスファイトからなる混合物を、少なくとも1つの縮合ポリマー中に導入する。混合物は、好ましくは少なくとも0.05重量%の割合で縮合ポリマー中に導入される。
【0046】
混合物は、最初に固体として少なくとも1つの縮合ポリマーと混合され、これにより得られた混合物が続いて押出機内で溶融されて、少なくとも1つの縮合ポリマーに導入することができる。
【0047】
加工機械としては、シングルスクリュー押出機、ツインスクリュー押出機、プラネタリギア押出機、リング押出機、及び共混練機などの、好ましくは真空脱気を備えた押出機が好ましい。この加工は、空気下で、又は任意に不活性ガス条件下で行うことができる。
【0048】
本発明による混合物は、例えば本発明による混合物の20~90%を含むマスターバッチ又は濃縮物の形態で、少なくとも1つの縮合ポリマーに導入することもできる。
【0049】
本発明はさらに、包装の製造、特に食品又は化粧品の包装のための;製薬業界において、特に有効成分や他の生物学的活性物質のカプセル化のための;医療技術において、特に包帯材料と外科縫合材料の製造のための;及び/又は衛生用品において、特に使い捨ておむつ、生理用ナプキン、及びタンポンの成分としての;農業用途において、特に、マルチフィルム、トンネルフィルム又は有孔フィルムなどの農業用フィルムの製造のための;上述の縮合ポリマー組成物の使用に関するものである。
【0050】
以下の実施例を参照して本発明をより詳細に説明するが、本発明を図示の好ましいパラメータに限定する意図はない。
【0051】
種々の縮合ポリマー組成物(VB1~VB4及びB1~B5)を製造した。
【0052】
PLAはCorbion社のLuminy L 130(≦0.5% D-乳酸、証明書に基づく。MVR=8.8cm/10分、190℃/スタンプ重量2.16kgで測定)を使用した。ポリマーを、加工前に真空乾燥キャビネット中で80℃で少なくとも16時間乾燥させた。
【0053】
添加剤として以下の化合物を用いた。
【化10】
【0054】
本発明による縮合ポリマー組成物(B1~B5)及び比較例(VB1~VB4)の製造は、Thermo Scientific社の、スクリュー直径が11mmであり、長さと直径の比(LD)が40である平行ツインスクリュー押出機「Process 11」を用いて押出することによって達成された。
【0055】
添加剤をプラスチックバッグ中でマトリックスポリマーと手動で混合し、組成物VB2~VB4及びB1~B5について体積を測定した。加工は、処理量1kg/時間、スクリュー速度200r.p.m.、200℃で行った。
【0056】
加水分解速度を調べるために、ポリマーをペレットとして58℃で水中に保存し、42時間後又は162時間後にそれぞれMVRを測定した。MVRの測定は、Goettfert社のメルトインデックステストユニットMI-2で、テスト温度190℃、スタンプ重量2.16kgで行った。測定前に、試料を真空炉中で少なくとも16時間、80℃で乾燥した。予熱時間は4分であった。MVRはcm/10分で示す。加工試験の結果を表1に、加水分解試験の結果を表2に示す。
【0057】
【表1】
【0058】
加工安定性試験から分かるように、ホスファイト又はホスフェートの添加は、MVRの増加、すなわちポリマーの望ましくない分解をもたらす。この加工中の分解は、本発明による組み合わせによって低減することができる。
【0059】
【表2】
【0060】
本発明による組成物の加工安定性が向上したことにより、より高分子量(より低いMVR)から始まるポリマーの分解が水保存中に起こる。したがって、特定の低分子量ではより多くの鎖切断が必要となるため、水保存中の分解も遅延すると考えるべきである(アルジトールの単独添加によって証明されている)。驚くべきことに、本発明による組成物によって分解が遅れることはなく、むしろ少なくとも同じか、又は促進されることさえある。
【0061】
さらなる一連の実験において、Corbionによって供給されるLuminy L 175(≦0.5% D-乳酸、証明書に基づく。MVR=4.7cm/10分、190℃/スタンプ重量2.16kgで測定)がPLAとして使用された。
【化11】
【0062】
加工試験及び加水分解試験の結果を表3に示す。
【0063】
【表3】
【0064】
本発明による組成物は、添加剤を含まない試験と比較して、押出後のMVR値の増加は僅かであり、より高いMVR値、すなわちより低い分子量によって示される、水保存中の促進された分解を示す。ポリオールの割合が高いほど加工安定性に寄与し、リン成分の割合が高いほど分解の促進に寄与するので、ポリオールとリンの割合によって分解の促進をモニターし設定することができる。