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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-04
(45)【発行日】2023-12-12
(54)【発明の名称】液晶パネルおよび液晶表示装置
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/13363 20060101AFI20231205BHJP
   G02F 1/1335 20060101ALI20231205BHJP
   G02B 5/30 20060101ALI20231205BHJP
   G02B 5/20 20060101ALN20231205BHJP
【FI】
G02F1/13363
G02F1/1335 510
G02B5/30
G02B5/20 101
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2022141990
(22)【出願日】2022-09-07
(62)【分割の表示】P 2018113193の分割
【原出願日】2018-06-13
(65)【公開番号】P2022173251
(43)【公開日】2022-11-18
【審査請求日】2022-09-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000154
【氏名又は名称】弁理士法人はるか国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】林 大輔
(72)【発明者】
【氏名】有賀 草平
(72)【発明者】
【氏名】飯田 敏行
【審査官】近藤 幸浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-114449(JP,A)
【文献】特開2008-040486(JP,A)
【文献】特開2011-118004(JP,A)
【文献】特開2011-039176(JP,A)
【文献】特開2007-264480(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/13363
G02F 1/1335
G02B 5/30
G02B 5/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無電界状態でホモジニアス配向した液晶分子を含む液晶層と、前記液晶層の第一主面に配置され、少なくとも緑色透過領域および赤色透過領域を有するカラーフィルタとを備える液晶セル;
前記液晶セルの第一主面に配置された第一偏光子;
前記液晶セルの第二主面に配置された第二偏光子;および
前記第一偏光子と第二偏光子の間に配置された光学異方性素子を備える液晶パネルであって、
前記液晶セルのプレチルト角が1°以下であり、
前記第一偏光子の吸収軸方向と、前記第二偏光子の吸収軸方向とが直交しており、
前記光学異方性素子の遅相軸方向と、前記第二偏光子の吸収軸方向とが平行であり、
前記光学異方性素子は、波長650nmにおける正面レターデーションRe650と厚み方向レターデーションRt650の比Rt650/Re650が0.4~0.6であり、
前記カラーフィルタの緑色透過領域は、波長550nmにおける厚み方向レターデーションCt550が50nm以下であり、
前記カラーフィルタの赤透過領域は、波長650nmにおける厚み方向レターデーションCt650が0より大きく50nm以下であり、
前記液晶セルの無電界状態における前記液晶分子の配向方向と、前記第二偏光子の吸収軸方向とが直交しており、
前記光学異方性素子は、前記液晶セルと前記第二偏光子の間に配置されており、
前記光学異方性素子の波長550nmにおける厚み方向レターデーションRt550(nm)と前記Ct550(nm)とが、下記式(8a)を満たし、
0.69(Ct550)+70≦Rt550≦1.35(Ct550)+200 …(8a)
前記Rt650(nm)と前記Ct650(nm)とが、下記式(6a)または(7a)を満たす、液晶パネル:
Rt650≧0.37(Ct650)+116 …(6a)
Rt650≦-0.44(Ct650)+120 …(7a)
【請求項2】
前記Rt550と前記Ct550とが、下記式(8b)を満たす、請求項に記載の液晶パネル。
0.69(Ct550)+98≦Rt550≦1.35(Ct550)+171 …(8b)
【請求項3】
前記Rt650と前記Ct650とが、下記式(6b)または(7b)を満たす、請求項1または2に記載の液晶パネル。
Rt650≧0.37(Ct650)+121 …(6b)
Rt650≦-0.44(Ct650)+108 …(7b)
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の液晶パネルと、前記液晶パネルの第二主面側に配置された光源と、を備える、液晶表示装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶セルと偏光子の間に光学異方性素子とを備える液晶パネルに関する。また、本発明は、上記液晶パネルを用いた液晶表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶パネルは、一対の偏光子の間に、液晶セルを備える。液晶セルは、一対の基板間に液晶層を備え、一般的な液晶セルでは、液晶層の視認側に配置される基板(カラーフィルタ基板)にカラーフィルタが設けられており、光源側に配置される基板(TFT基板)に画素電極やTFT素子等が設けられている。
【0003】
インプレーンスイッチング(IPS)方式の液晶セルは、無電界状態において液晶分子が基板面と略平行な方向にホモジニアス配向しており、横方向の電界印加により液晶分子を基板面に平行な面内で回転させ、光の透過(白表示)と遮蔽(黒表示)を制御している。IPS方式のように、無電界状態で液晶分子がホモジニアス配向した横電界方式の液晶パネルは、視野角特性に優れている。
【0004】
IPS方式の液晶表示装置は、液晶セルの無電界状態における液晶分子の配向方向(以下、「初期配向方向」と記載する場合がある)と、液晶用セルの表裏に配置された偏光子の吸収軸方向との関係に基づいて、OモードとEモードに大別される。Oモードでは、液晶セルの光源側に配置された偏光子の吸収軸方向と、液晶の初期配向方向とが平行である。Eモードでは、液晶セルの光源側に配置された偏光子の吸収軸方向と、液晶の初期配向方向とが直交している。
【0005】
IPS方式の液晶表示装置は、偏光子の吸収軸に対して45度の角度(方位角45度、135度、225度、315度)において斜め方向から視認した場合に、黒表示の光漏れが大きく、コントラストの低下やカラーシフトが生じ易い。この光漏れは、斜め方向から視認した場合には、液晶セルの表裏に配置された偏光子の「見かけ上の吸収軸方向」のなす角度が、90°からズレることに起因している。
【0006】
斜め方向からの視認時の光漏れの低減を目的として、液晶セルと偏光子の間に光学異方性素子(位相差板)を配置する方法が提案されている。例えば、特許文献1では、液晶セルと一方の偏光子の間に、nx>nz>nyの屈折率異方性を有する光学異方性素子を配置することが提案されている。nxは面内遅相軸方向の屈折率、nyは面内進相軸方向の屈折率、nzは厚み方向(法線方向)の屈折率である。
【0007】
偏光子の見かけ上の吸収軸方向の角度のズレを補償する観点において、光学異方性素子は、レターデーションが波長の1/2であり、Nz=(nx-nz)/(nx-ny)で表されるNz係数が0.5であるものが理想的である(図5のポアンカレ球参照)。光学異方性素子のレターデーションは波長により異なる。光学異方性素子を用いた液晶表示装置の光学補償では、一般に、比視感度の高い緑色の光(波長550nm付近)の光漏れが小さくなるように光学設計が行われる。そのため、偏光子の見かけ上の軸方向の角度のズレを補償するためには、波長550nmにおけるレターデーションが275nm程度の光学異方性素子を用いればよい。
【0008】
偏光子の見かけ上の軸方向のズレに加えて、他の光学素子の特性も、黒表示時の光漏れの原因となり得る。例えば、特許文献2では、偏光子の液晶セル側の表面に、保護フィルムとして設けられるトリアセチルセルロース(TAC)フィルムの複屈折を考慮して、光学補償のための光学異方性素子の光学特性を調整することが提案されている。特許文献3では、偏光子の表面に設ける保護フィルムとして、ノルボルネン系樹脂フィルム等の低複屈折フィルムを用いることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開平4-371903号公報
【文献】特開2001-258041号公報
【文献】特開2004-4641号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
液晶セルの基板に設けられているカラーフィルタは、面内のレターデーションは略0であるが、厚み方向に数nm~数十nmのレターデーションを有している。上記のように、偏光子と液晶セルの間に配置される光学素子が複屈折を有している場合は、その光学特性を考慮して光学異方性素子の光学特性を調整することにより、斜め方向から視認した際の光漏れをさらに低減できる。
【0011】
上記のように、液晶パネルの光学補償は、比視感度の高い緑色(波長550nm付近)の光に対して最適化されている。そのため、黒表示時には、最適値からの光学設計のズレが大きい波長の光が漏れて、画面が着色して視認される。光学設計上、斜め方向から視認した際の色相を完全なニュートラルとすることは困難であるため、黒表示時には、光漏れを生じた光の波長に応じて画面がわずかに着色して視認される。青(波長450nm付近)は赤(波長650nm付近)よりも比視感度低いため、黒表示の色相は青系が好まれる傾向がある。
【0012】
本発明者らの検討によれば、特定の構成の液晶パネルでは、カラーフィルタの厚み方向レターデーションの影響を考慮して、緑色の光漏れが最小となるように光学異方性素子の設計を行った場合に、赤色の光の光漏れが大きく、斜め方向から視認した際の黒表示の画面が赤系の色相で視認される傾向があることが判明した。具体的には、液晶セルの光源側に配置される偏光子の吸収軸方向と、光学異方性素子の遅相軸方向とが直交する場合は、カラーフィルタの厚み方向レターデーションの影響を考慮して緑色の光漏れが小さくなるように光学設計を行えば、赤色の光漏れも抑制される傾向がある。一方、液晶セルの光源側に配置される偏光子の吸収軸方向と、光学異方性素子の遅相軸方向とが平行である場合は、カラーフィルタの厚み方向レターデーションの影響を考慮して緑色の光漏れが最小となるように光学設計を行うと、赤色の光漏れが大きく、黒表示が赤系の色相となりやすいとの課題が見出された。
【0013】
本発明は、光源側偏光子の吸収軸方向と光学異方性素子の遅相軸方向とが平行に配置された液晶パネルにおいて、カラーフィルタの影響を考慮して、斜め方向から視認した際の黒表示の光漏れを低減するとともに、黒表示時の赤色の着色を低減し、視認性に優れる画像表示装置を提供すること目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の液晶パネルは、無電界状態でホモジニアス配向した液晶分子を含む液晶層と、液晶層の第一主面(視認側)に配置されたカラーフィルタとを備える液晶セル、液晶セルの第一主面(視認側)に配置された第一偏光子、および液晶セルの第二主面(光源側)に配置された第二偏光子を備える。第一偏光子の吸収軸方向と、第二偏光子の吸収軸方向は直交している。液晶セルのプレチルト角は1°以下である。
【0015】
カラーフィルタは、少なくとも緑色透過領域および赤色透過領域を有する。カラーフィルタの緑色透過領域は、波長550nmにおける厚み方向レターデーションCt550が50nm以下であることが好ましい。カラーフィルタの赤色領域は、波長650nmにおける厚み方向レターデーションCt650が50nm以下であることが好ましい。Ct550およびCt650は、いずれも0より大きい。Ct550およびCt650は、例えば、1nm以上、3nm以上または5nm以上であり得る。
【0016】
本発明の液晶パネルは、第一偏光子と第二偏光子の間に配置された光学異方性素子を備える。光学異方性素子の遅相軸方向は、第二偏光子の吸収軸方向と平行である。光学異方性素子は、波長650nmにおける正面レターデーションRe650と厚み方向レターデーションRt650の比Rt650/Re650が0.4~0.6である。
【0017】
光学異方性素子の波長650nmにおける厚み方向レターデーションRt650(nm)とカラーフィルタの赤色透過領域の波長650nmにおける厚み方向レターデーションCt650(nm)は、下記式(1a)または(2a)を満たすことが好ましい。
Rt650≧0.37(Ct650)+116 …(1a)
Rt650≦-0.44(Ct650)+116 …(2a)
【0018】
本発明の実施形態の液晶パネルは、Eモードであり、液晶セルの液晶分子の初期配向方向と、第二偏光子の吸収軸方向とが直交している。Eモードの液晶パネルでは、液晶セルと第二偏光子の間、すなわち、液晶セルの光源側に、光学異方性素子が配置される。
【0019】
光学異方性素子の波長550nmにおける厚み方向レターデーションRt550(nm)とカラーフィルタの緑色透過領域の波長550nmにおける厚み方向レターデーションCt550(nm)が、下記式(8a)を満たすことが好ましい。
0.69(Ct550)+70≦Rt550≦1.35(Ct550)+200 …(8a)
【0020】
本発明の液晶表示装置は、上記の液晶パネルの第二主面側に配置された光源を備える。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、カラーフィルタの複屈折を考慮して光学設計を行うことにより、斜め方向から視認した際の黒輝度を低減できるとともに、黒表示の赤色の着色を抑制し、視認性に優れる液晶表示装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】第一実施形態の液晶パネル(Oモード)の構成概念図である。
図2】第一実施形態の液晶表示装置(Oモード)の模式的断面図である。
図3】第二実施形態の液晶パネル(Eモード)の構成概念図である。
図4】第二実施形態の液晶表示装置(Eモード)の模式的断面図である。
図5】光学異方性素子により偏光子の見かけ上の軸方向のズレの光学補償の様子のポアンカレ球による説明図である。
図6】参考例の液晶パネル(Oモード)の構成概念図である。
図7】参考例の液晶パネル(Eモード)の構成概念図である。
図8】Oモードの液晶パネルにおける光学補償の様子のポアンカレ球による説明図である。
図9】Eモードの液晶パネルにおける光学補償の様子のポアンカレ球による説明図である。
図10】Oモードの液晶表示装置の黒表示の色度のシミュレーション結果である。
図11】Eモードの液晶表示装置の黒表示の色度のシミュレーション結果である。
図12】Oモードの液晶表示装置の黒表示の色度u’が所定値となる条件をプロットしたグラフである。
図13】Oモードの液晶表示装置の黒表示の輝度が所定値となる条件をプロットしたグラフである。
図14】Eモードの液晶表示装置の黒表示の色度u’が所定値となる条件をプロットしたグラフである。
図15】Eモードの液晶表示装置の黒表示の輝度が所定値以下となる条件をプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
[液晶パネル全体の概略]
図1は、第一実施形態の液晶パネル101における光学素子の配置を表す構成概念図である。図2は、液晶パネル101と光源110とを含む液晶表示装置201の模式断面図である。図3は、第二実施形態の液晶パネル102における光学素子の配置を表す構成概念図である。図4は、液晶パネル102と光源110とを含む液晶表示装置202の模式断面図である。
【0024】
液晶パネルは、液晶セル20の第一主面(視認側)に配置された第一偏光子30、および液晶セル20の第二主面(光源側)に配置された第二偏光子40を備える。第一偏光子30の吸収軸方向35と第二偏光子40の吸収軸方向45は直交している。
【0025】
第一実施形態の液晶パネル101および液晶表示装置201はOモードであり、液晶セル20の光源110側に配置された第二偏光子40の吸収軸方向45と、液晶層10における液晶分子の初期配向方向11とが平行である。第二実施形態の液晶パネル102および液晶表示装置202はEモードであり、液晶セル20の光源110側に配置された第二偏光子40の吸収軸方向45と、液晶層10における液晶分子の初期配向方向11とが直交している。
【0026】
本発明の液晶パネルは、第一偏光子30と第二偏光子40の間に光学異方性素子を備える。第一実施形態のOモードの液晶パネル101は、液晶セル20と第一偏光子30の間に光学異方性素子50を備える。第二実施形態のEモードの液晶パネル102は、液晶セル20と第二偏光子40の間に光学異方性素子60を備える。いずれの形態においても、第二偏光子40の吸収軸方向45と、光学異方性素子50,60の遅相軸方向53,63とが平行である。
【0027】
なお、本明細書において、「直交」とは、完全に直交する場合のみならず、実質的に直交することを包含し、その角度は一般に90±2°の範囲であり、好ましくは90±1°、より好ましくは90±0.5°の範囲である。同様に、「平行」とは、完全に平行であるもののみならず、実質的に平行であることを包含し、その角度は一般に±2°以内であり、好ましくは±1°以内、より好ましくは±0.5°以内である。
【0028】
[液晶セル]
液晶セル20は、第一基板21と第二基板25の間に液晶層10を備える。液晶層の視認側に配置される第一基板21(カラーフィルタ基板)にはカラーフィルタ22が設けられている。カラーフィルタ22は、少なくとも緑色透過領域22Gおよび赤色透過領域22Rを有している。液晶層10の光源側に配置される第二基板25(TFT基板)には、液晶の配向方向を制御するためのスイッチング素子(一般にはTFT素子)等が設けられている。
【0029】
カラーフィルタ22の緑色透過領域22Gには、波長500~600nm付近の光に対して相対的に高い透過率を有する緑色フィルタが設けられている。緑色フィルタは、波長500~600nm付近に透過率の極大を有していることが好ましい。緑色透過領域における波長550nmの透過率は、例えば30%以上である。緑色透過領域における波長450nmの透過率は10%以下が好ましい。緑色透過領域における波長650nmの透過率は10%以下が好ましく、5%以下がより好ましい。
【0030】
赤色透過領域22Rには、波長600nmよりも長波長の可視光に対して相対的に高い透過率を有する赤色フィルタが設けられている。赤色透過領域における波長650nmの透過率は、例えば30%以上である。赤色透過領域における波長550nmの透過率および波長450nmの透過率は、いずれも10%以下が好ましく、5%以下がより好ましい。
【0031】
カラーフィルタ22は、緑色透過領域22Gおよび赤色透過領域22R以外の領域を含んでいてもよく、一般には、青色透過領域22Bを含む。青色透過領域22Bは、波長500nmよりも短波長の可視光に対して相対的に高い透過率を有する青色フィルタが設けられている。青色透過領域における波長450nmの透過率は、例えば30%以上である。青色透過領域における波長550nmの透過率および波長650nmの透過率は、いずれも10%以下が好ましく、5%以下がより好ましい。
【0032】
カラーフィルタは、上記以外の特定の波長領域に対して相対的に高い光透過率を有する光透過領域をさらに有していてもよい。隣接する透過領域の境界には、ブラックマトリクスが設けられていることが好ましい。
【0033】
液晶層10は、無電界状態でホモジニアス配向した液晶分子を含む。ホモジニアス配向した液晶分子とは、液晶分子の配向ベクトルが基板平面に対して、平行かつ一様に配向した状態のものをいう。なお、液晶分子の配向ベクトルは基板平面に対してわずかに傾いていてもよい(プレチルト)。液晶セルのプレチルト角は、一般には3°以下であり、好ましくは1°以下、より好ましくは0.5°以下である。
【0034】
無電解状態でホモジニアス配向した液晶分子を含む液晶セルとしては、インプレーンスイッチング(IPS)モード、フリンジフィールドスイッチング(FFS)モード、強誘電性液晶(FLC)モード等が挙げられる。液晶分子としては、ネマチック液晶やスメクチック液晶等が用いられる。一般には、IPSモード、およびFFSモードの液晶セルには、ネマチック液晶が用いられ、FLCモードの液晶セルにはスメクチック液晶が用いられる。
【0035】
[偏光子]
液晶セル20の第一主面側には第一偏光子30が配置され、第二主面側には第二偏光子40が配置される。偏光子は、自然光や任意の偏光を直線偏光に変換するものである。第一偏光子30および第二偏光子40としては、目的に応じて任意の適切な偏光子が採用され得る。例えば、ポリビニルアルコール系フィルム、部分ホルマール化ポリビニルアルコール系フィルム、エチレン・酢酸ビニル共重合体系部分ケン化フィルム等の親水性高分子フィルムに、ヨウ素や二色性染料等の二色性物質を吸着させて一軸延伸したもの、ポリビニルアルコールの脱水処理物やポリ塩化ビニルの脱塩酸処理物等のポリエン系配向フィルム等が挙げられる。
【0036】
これらの偏光子の中でも、高い偏光度を有するという観点から、ポリビニルアルコールや、部分ホルマール化ポリビニルアルコール等のポリビニルアルコール系フィルムに、ヨウ素や二色性染料等の二色性物質を吸着させて所定方向に配向させたポリビニルアルコール(PVA)系偏光子が好ましく用いられる。例えば、ポリビニルアルコール系フィルムに、ヨウ素染色および延伸を施すことにより、PVA系偏光子が得られる。
【0037】
PVA系偏光子として、厚みが10μm以下の薄型の偏光子を用いることもできる。薄型の偏光子としては、例えば、特開昭51-069644号公報、特開2000-338329号公報、WO2010/100917号パンフレット、特許第4691205号明細書、特許第4751481号明細書等に記載されている薄型偏光膜を挙げることができる。このような薄型偏光子は、例えば、PVA系樹脂層と延伸用樹脂基材とを積層体の状態で延伸する工程と、ヨウ素染色する工程とを含む製法により得られる。
【0038】
[光学異方性素子]
光学異方性素子50,60は、面内の遅相軸方向の屈折率nx、面内の進相軸方向の屈折率ny、および厚み方向の屈折率nzが、nx>nz>nyを満たす位相差フィルムである。液晶セル20の上下に配置される偏光子30,40は、吸収軸方向35,45が直交するように配置されているが、液晶パネルを斜め方向から視認すると、偏光子30,40の見かけ上の吸収軸方向のなす角が90°よりも大きくなる(クロスニコルからのズレが生じる)ため、光漏れが生じる。
【0039】
液晶セル20と偏光子30,40の間にnx>nz>nyを満たす位相差フィルムを配置することにより、偏光子の見かけ上の軸のズレを補償して、画面を斜め方向から視認した際の光漏れが低減される。特に、偏光子の吸収軸に対して45度の角度(方位角45度、135度、225度、315度)における黒輝度が低減し、コントラストが向上する。
【0040】
第一実施形態のOモードの液晶パネル101では、液晶セル20と視認側の第一偏光子30の間に光学異方性素子50が配置される。第二実施形態のEモードの液晶パネル102では、液晶セル20と光源側の第二偏光子40の間に光学異方性素子60が配置される。
【0041】
光学異方性素子50,60の波長550nmにおける正面レターデーションRe550は、150~400nmが好ましく、180~370nmがより好ましく、200~350nmがさらに好ましい。光学異方性素子の波長550nmにおける厚み方向レターデーションRt550は、75~200nmが好ましく、90~185nmがより好ましく、100~175nmがさらに好ましい。なお、正面レターデーションRe、および厚み方向レターデーションRtは、面内の遅相軸方向の屈折率nx、面内の進相軸方向の屈折率ny、および厚み方向の屈折率nzを用いて、以下で定義される。
Re=(nx-ny)×d
Rt=(nx-nz)×d
【0042】
カラーフィルタの厚み方向レターデーションを考慮した光学異方性素子のReおよびRtの範囲については後に詳述する。
【0043】
光学異方性素子50,60は、好ましくは、Nz=(nx-nz)/(nx-ny)で定義されるNz係数が0.2~0.8である。上記のReおよびRtの定義に基づいて、Nz=Rt/Reと表すこともできる。本明細書において、Nz係数は、波長650nmの屈折率に基づいて算出される。すなわち、Nz係数は、波長650nmにおける正面レターデーションRe650と厚み方向レターデーションRt650の比Rt650/Re650である。したがって、光学異方性素子は、Rt650/Re650が0.2~0.8であることが好ましい。なお、ポリマーフィルムの延伸により作製した位相差フィルムでは、一般には、波長550nmの屈折率に基づいて算出したNz係数と、波長650nmの屈折率に基づいて算出したNz係数は略同一である。
【0044】
光学異方性素子のNz係数は、0.3~0.7がより好ましく、0.4~0.6がさらに好ましい。Nz係数が0.5に近いほど、広い視野角範囲において、光漏れが低減する傾向がある。
【0045】
光学異方性素子を構成する材料としては、ポリカーボネート系樹脂、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレート等のポリエステル系樹脂、ポリアリレート系樹脂、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン等のサルホン系樹脂、ポリフェニレンスルフィド等のスルフィド系樹脂、ポリイミド系樹脂、環状ポリオレフィン系(ポリノルボルネン系)樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂、セルロースエステル類等が挙げられる。光学異方性素子の材料として液晶材料を用いることもできる。
【0046】
ポリマー材料が用いられる場合、ポリマーフィルムを少なくとも一方向に延伸または収縮させることにより、所定方向の分子配向性を高めて、光学異方性素子(位相差フィルム)を作製できる。ポリマーフィルムと熱収縮性フィルムとを積層した状態で、一方向に延伸しながら、熱収縮性フィルムの収縮力を利用して延伸方向と直交する方向にフィルムを収縮させることにより、nx>nz>nyの屈折率異方性を有する光学異方性素子が得られる。
【0047】
光学異方性素子の厚みは、光学異方性素子を構成する材料等に応じて適宜選択され得る。ポリマー材料が用いられる場合、光学異方性素子の厚みは、一般に3μm~200μm程度である。液晶材料が用いられる場合、光学異方性素子の厚み(液晶層の厚み)は、一般に0.1μm~20μm程度である。
【0048】
光学異方性素子は、所定のReおよびRtを有していればよく、光学異方性素子の材料、厚みおよび作製方法は上記に限定されない。
【0049】
[光学異方性素子による光学補償原理]
本発明においては、カラーフィルタの複屈折に応じて光学異方性素子の光学特性を設定することにより、偏光子の見かけ上の軸方向のズレと、カラーフィルタの複屈折による影響の両方を光学的に補償して、斜め方向から視認した際の光漏れが少なく、かつ黒表示の色相がニュートラルな液晶表示装置が得られる。具体的には、カラーフィルタ22の緑色透過領域22Gにおける波長550nmの厚み方向ターデーションCt550と光学異方性素子50,60の波長550nmにおける厚み方向ターデーションRt550とが所定の関係を満たし;かつ、カラーフィルタ22の赤色透過領域22Rにおける波長650nmの厚み方向ターデーションCt650と光学異方性素子50,60の波長650nmにおける厚み方向ターデーションRt650とが所定の関係を満たすように、光学異方性素子の光学特性が設定される。
【0050】
<カラーフィルタの複屈折を考慮しない場合の光学補償>
まず、図5を参照して、nx>nz>nyの屈折率異方性を有する光学異方性素子を用いて、偏光子の見かけ上の軸方向のズレを補償する原理について説明する。図5では、図1に示すOモードの液晶パネル101における偏光子30,40の見かけ上の軸方向のズレを、光学異方性素子50により補償する様子を、ポアンカレ球を用いて説明している。
【0051】
光源側偏光子40を透過した光は直線偏光であり、液晶表示装置を正面から視認する場合、偏光子を透過した光は、ポアンカレ球の赤道上の点Pで表される。視認側偏光子30の吸収軸方向35と光源側偏光子40の吸収軸方向45とは直交しているため、視認側偏光子30を透過する光は、ポアンカレ球の赤道上の点Pで表される。
【0052】
液晶セル20における液晶分子の初期配向方向11は、偏光子40の吸収軸方向45と平行であるから、偏光子40を透過した光の偏光状態は、液晶セルを透過後も変化しない。すなわち、液晶セルを透過した光の偏光状態は、ポアンカレ球上の点Pから移動しない。液晶セル20を透過した光Pと、視認側偏光子30を透過する光Pとが互いに直交する直線偏光であるため、液晶セル20を透過した光の全てが視認側偏光子30により吸収され、黒表示を実現できる。
【0053】
液晶表示装置を、偏光子の吸収軸方向を基準として方位角45°、画面の法線方向を基準とした傾き(極角)θの方向から視認すると、光源側偏光子40の見かけ上の軸方向は、PからP’に移動し、視認側偏光子30の見かけ上の軸方向は、PからP’に移動する。極角θが大きいほど、偏光子の見かけ上の軸方向の変化が大きくなる。
【0054】
光源側偏光子40を透過した光P’と視認側偏光子30を透過する光P’とが直交関係にないため、黒表示の光漏れが生じる。このような見かけ上の軸方向のズレに起因する光漏れを防止するためには、液晶セル20を透過後の光の偏光状態を、視認側偏光子30が透過する光P’と直交する直線偏光Pとする必要がある。
【0055】
図1に示すOモードの液晶パネル101では、光源側偏光子40の吸収軸方向45と、液晶セル20の初期配向方向11とが平行であるため、斜め方向から視認した際の見かけ上の初期配向方向11は、光源側偏光子の吸収軸方向45と同様に移動する。そのため、偏光子40を透過した光の偏光状態は、液晶セルを透過後も変化せず、ポアンカレ球上の点P’から移動しない。
【0056】
液晶セル20を透過した光は、光学異方性素子50に入射する。Nz係数が0.5である光学異方性素子50は、どの角度から視認しても見かけ上の光学軸方向は変化せず、PとPを結んだ線上に遅相軸が存在する。光学異方性素子50の正面レターデーション(法線方向の光に対するレターデーション)Reは波長λの1/2である。Nz=0.5の場合は、光の透過方向が変化しても見かけ上のレターデーションは変化せず、λ/2で一定である。λ/2のレターデーションは位相差πに対応するから、液晶セル20を透過した光P’は、光学異方性素子50を透過することにより、軸P-Pを中心としてポアンカレ球上を時計回りに180°回転し、点Pに移動する。
【0057】
上記のように、直線偏光Pは、視認側偏光子30が透過する光P’と直交する直線偏光であるから、光学異方性素子50により偏光状態が変化した光Pは、視認側偏光子30により吸収され、黒表示を実現できる。
【0058】
図6に示すように、第二偏光子40の吸収軸方向45と光学異方性素子50の遅相軸方向53とが直交するOモードの液晶パネル106では、光学異方性素子50による偏光状態の変換が、ポアンカレ球上で半時計回りとなるため、図5の一点鎖線で示すように、ポアンカレ球上の軌跡が南半球を通る。回転角度は180°であるため、図1に示す液晶パネルの場合と同様、光学異方性素子50を透過した光の偏光状態は、ポアンカレ球上の点Pで表され、視認側偏光子30により吸収されるため、黒表示を実現できる。
【0059】
図3に示すEモードの液晶パネル102では、液晶セル20における液晶分子の初期配向方向11が、光源側偏光子40の吸収軸方向45と直交しているため、斜め方向から視認した際の見かけ上の初期配向方向11と光源側偏光子40の吸収軸方向45とは90°からのズレが生じる。そのため、光源側偏光子40と液晶セル20の間に光学異方性素子60を配置し、光源側偏光子40を透過した直線偏光P’を、光学異方性素子60によりポアンカレ球上の点Pに移動させる。このように、光源側偏光子40からの直線偏光P’を、光学異方性素子60により直線偏光Pに変換した後に液晶セル20に入射させることにより、液晶セルを透過した光の偏光状態はPから変化せず、視認側偏光子30により吸収されるため、黒表示を実現できる。
【0060】
図7に示すように、第二偏光子40の吸収軸方向45と光学異方性素子60の遅相軸方向63とが直交するEモードの液晶パネル107では、光学異方性素子60による偏光状態の変換のポアンカレ球上での軌跡が北半球となるか南半球となるかとの点において相違するが、光学補償の原理は、図3に示す液晶パネル102と同様である。
【0061】
上記のように、カラーフィルタの複屈折の影響を考慮しない場合は、光学異方性素子の光学設計は、光学異方性素子の光軸方向と偏光子の光軸方向とのなす角(平行であるか直交であるか)、および液晶セルの初期配向方向と偏光子の光軸方向とのなす角(OモードであるかEモードであるか)には依存しない。
【0062】
<カラーフィルタの厚み方向レターデーション>
前述のように、液晶セル20において液晶層10の視認側に設けられるカラーフィルタ22は、面内のレターデーションは略0であるが、厚み方向に数nm~数十nmのレターデーションを有している。緑色透過領域22Gでは、透過率が最も高い波長550nm付近の光に対する厚み方向レターデーションが視認性に影響を与える。同様の理由で、赤色透過領域22Rでは、透過率が高い波長650nm付近の光に対する厚み方向レターデーションが視認性に影響を与える。そのため、カラーフィルタの厚み方向レターデーションを評価する際には、緑色透過領域(緑のカラーフィルタ)については、波長550nmの厚み方向ターデーションCt550を用い、赤透過領域(赤のカラーフィルタ)については、波長650nmの厚み方向ターデーションCt650を用いて評価を行うことが適切である。
【0063】
斜め方向から視認した際の光漏れを抑制するためには、カラーフィルタの厚み方向レターデーションは小さい方が好ましい。緑色透過領域の波長550nmにおける厚み方向レターデーションCt550は、50nm以下が好ましく、40nm以下がより好ましく、35nm以下がさらに好ましく、30nm以下が特に好ましい。カラーフィルタの赤色領域の波長650nmにおける厚み方向レターデーションCt650は、50nm以下が好ましく、40nm以下がより好ましく、35nm以下がさらに好ましく、30nm以下が特に好ましい。カラーフィルタの厚み方向レターデーションは理想的には0であるが、カラーフィルタの厚み方向レターデーションを完全に0とすることは、困難である。したがって、Ct550およびCt650は、0より大きい。Ct550およびCt650は、例えば、1nm以上、3nm以上または5nm以上であり得る。
【0064】
<カラーフィルタの複屈折を考慮した光学補償の原理>
まず、図8Aを参照して、図1に示すOモードの液晶パネル101におけるカラーフィルタの厚み方向レターデーションの影響、およびこれを考慮した光学補償について説明する。斜め方向から視認した場合に、液晶セル20の液晶層10を透過後の光の偏光状態がポアンカレ球上の点P’で表されることは、カラーフィルタの複屈折を考慮しない場合(図5)と同様である。
【0065】
液晶層を透過した光はカラーフィルタ22に入射する。カラーフィルタは、正面レターデーションが略0であり、所定の厚み方向レターデーションを有するから、nx=ny>nzの屈折率異方性を有するネガティブCプレートとして近似できる。斜め方向の光は、ネガティブCプレートの厚み方向レターデーションの影響により、偏光状態が変化し、ポアンカレ球上の経線に沿って点P’から南下して、点Pに移動する。
【0066】
図5の場合と同様に、光学異方性素子の位相差がπである場合(ポアンカレ球上で180°回転する場合)、光学異方性素子を透過した光の偏光状態は図8Aの点P’で表され、ポアンカレ球の北半球に位置している。光学異方性素子50を透過後の光を、赤道上の点Pで表される直線偏光とするためには、光学異方性素子によるポアンカレ球上の回転角度を180°よりも大きくする必要がある。すなわち、カラーフィルタの複屈折の影響を考慮すると、図1に示すOモードの液晶パネル101において、光学異方性素子50を透過後の光を直線偏光とするためには、光学異方性素子50の位相差をπよりも大きくする必要がある。
【0067】
図8Bは、第二偏光子40の吸収軸方向45と光学異方性素子50の遅相軸方向53とが直交する図6のOモードの液晶パネル106における光学補償の様子を表している。ネガティブCプレートとして近似されるカラーフィルタ22を透過後の光の偏光状態は、図8Aの場合と同様、ポアンカレ球の南半球の点Pで表される。光学異方性素子の位相差がπである場合、点Pからポアンカレ球上で半時計回りに180°回転させると、赤道を通り過ぎて北半球の点P’に到達する。光学異方性素子50を透過後の光を、赤道上の点Pで表される直線偏光とするためには、光学異方性素子によるポアンカレ球上の回転角度を180°よりも小さくする必要がある。すなわち、カラーフィルタの複屈折の影響を考慮すると、図6に示すOモードの液晶パネル106において、光学異方性素子50を透過後の光を直線偏光とするためには、光学異方性素子50の位相差をπよりも小さくする必要がある。
【0068】
図9Aは、第二偏光子40の吸収軸方向45と光学異方性素子60の遅相軸方向63とが直交する図7のEモードの液晶パネル107における光学補償の様子を表している。図8Aおよび図8Bの場合と同様、液晶セルを透過後の光PがネガティブCプレートとして近似されるカラーフィルタ22を透過すると、偏光状態が変化して、ポアンカレ球上の経線に沿って南下する。カラーフィルタを透過後の光を直線偏光Pとして、視認側偏光子30により吸収させるためには、液晶セルを透過後の光Pがポアンカレ球上の北半球に位置している必要がある。
【0069】
図5の場合と同様に、光学異方性素子の位相差がπであり、光源側偏光子を透過した直線偏光P’を、光学異方性素子によりポアンカレ球上の点Pに移動させると、液晶セルを透過した光の偏光状態はPから変化しない。しかし、液晶セルを透過後の光は、カラーフィルタの厚み方向レターデーションの影響により、ポアンカレ球上の経線に沿って南下するため、カラーフィルタを透過後の光は、南半球に位置する楕円偏光となり、視認側偏光子30により吸収されない光が光漏れとして視認される。
【0070】
図7に示すEモードの液晶パネル107では、図9Aに示すように、光学異方性素子60の位相差をπよりも小さくする(光学異方性素子によるポアンカレ球上の回転角度を180°よりも小さくする)ことにより、適切な光学補償が可能となる。位相差がπよりも小さい光学異方性素子を透過した光の偏光状態は、ポアンカレ球の南半球上の点Pで表される。液晶層10の位相差の影響により偏光状態が変換され、軸P-P’を中心としてポアンカレ球上を時計回りに回転するため、液晶層10を透過後の光の偏光状態は、ポアンカレ球の北半球上の点Pで表される。上述のように、液晶セルを透過後の光Pがカラーフィルタ22を透過すると、ポアンカレ球上の経線に沿って南下して、赤道上の点Pに到達する。そのため、カラーフィルタを透過後の光Pは、視認側偏光子30により適切に吸収され、光漏れを防止できる。
【0071】
図9Bは、第二偏光子40の吸収軸方向45と光学異方性素子60の遅相軸方向63とが平行である図3のEモードの液晶パネル102における光学補償の様子を表している。液晶パネル102では、光学異方性素子60の位相差をπよりも大きく(光学異方性素子によるポアンカレ球上の回転角度を180°よりも大きく)すれば、光学異方性素子を透過した光の偏光状態は、ポアンカレ球の南半球上の点Pに位置する。以降は、図9Aの場合と同様、液晶層10を透過することにより、北半球上の点Pに移動し、カラーフィルタ22を透過することにより、赤道上の点Pに到達するため、カラーフィルタを透過後の光Pは、視認側偏光子30により適切に吸収される。
【0072】
上記のように、光学異方性素子によってカラーフィルタの複屈折による影響を打ち消すように光学補償を行うためには、カラーフィルタの厚み方向レターデーションの大きさに応じて、光学異方性素子の位相差を調整する必要がある。光源側偏光子の吸収軸方向と光学異方性素子の遅相軸方向とが平行である場合、すなわち、図1に示すOモードの液晶パネル101(図8A参照)、および図3に示すEモードの液晶パネル102(図9B参照)では、適切な光学補償を行うためには、光学異方性素子の位相差をπよりも大きく(レターデーションをλ/2よりも大きく)する必要がある。一方、光源側偏光子の吸収軸方向と光学異方性素子の遅相軸方向とが直交する場合、すなわち、図6に示すOモードの液晶パネル106(図8B参照)、および図7に示すEモードの液晶パネル107(図9A参照)では、適切な光学補償を行うためには、光学異方性素子の位相差をπよりも小さく(レターデーションをλ/2よりも小さく)する必要がある。
【0073】
[光学異方性素子の光学設計]
以下では、液晶セルのカラーフィルタの厚み方向レターデーションに応じた光学異方性素子の好ましい光学特性について、光学シミュレーションによる検討結果を交えて説明する。
【0074】
光学シミュレーションには、シンテック社製、液晶表示器用シミュレーター「LCD MASTER Ver.8.1.0.3」を用い、LCD Masterの拡張機能を使用して、方位角45°、極角60°の方向における、黒表示の輝度、および黒表示のCIE1976色空間における色度(u’,v’)を求めた。
【0075】
Oモードの液晶表示装置のシミュレーションでは、図2に示すように、光源110側から、光源側偏光子40、液晶層10の視認側にカラーフィルタ22を備えるIPS液晶セル20、光学異方性素子50、および視認側偏光子30を順に積層したものを、シミュレーションモデルとした。Eモードの液晶表示装置のシミュレーションでは、図4に示すように、光源110側から、光源側偏光子40、光学異方性素子60、液晶層10の視認側にカラーフィルタ22を備えるIPS液晶セル20、および視認側偏光子30を順に積層したものを、シミュレーションモデルとした。
【0076】
シミュレーションにおいて、IPS液晶セルの液晶層の正面レターデーションは339nm、プレチルト角は0°とした。光学異方性素子は、Nz係数が0.5、レターデーションの波長分散は、Re650/Re550=Rt650/Rt550=0.95とし、Rt650を種々の値に変更した。カラーフィルタは、緑色透過領域の波長550nmにおける厚み方向レターデーションCt550、および赤色透過領域の波長650nmにおける厚み方向レターデーションCt650を、0~60nmの範囲において5nm刻みで変更した。
【0077】
Oモードの液晶パネルにおいて、Ct650およびRt650を種々の値に変更した際の黒表示の色度を図10Aおよび図10Bに示す。Eモードの液晶パネルにおいて、Ct650およびRt650を種々の値に変更した際の黒表示の色度を図11Aおよび図11Bに示す。
【0078】
図10Aは、図1に示すように光源側偏光子40の吸収軸方向45と光学異方性素子50の遅相軸方向53が平行である液晶パネル101(光学補償原理について図8A参照)のシミュレーション結果である。図10Bは、図6に示すように光源側偏光子40の吸収軸方向45と光学異方性素子50の遅相軸方向53が直交する液晶パネル106(光学補償原理について図8B参照)のシミュレーション結果である。図11Aは、図7に示すように光源側偏光子40の吸収軸方向45と光学異方性素子60の遅相軸方向63が直交する液晶パネル107(光学補償原理について図9A参照)のシミュレーション結果である。図11Bは、図3に示すように光源側偏光子40の吸収軸方向45と光学異方性素子60の遅相軸方向63が平行である液晶パネル102(光学補償原理について図9B参照)のシミュレーション結果である。
【0079】
図10Bおよび図11Aに示すように、光源側偏光子の吸収軸方向と光学異方性素子の遅相軸方向が直交する場合は、カラーフィルタの赤色透過領域の厚み方向レターデーションCt650が大きくなるにしたがって、光学異方性素子の厚み方向レターデーションRt650を変化させた際のu’の最大値が小さくなる傾向がみられた。また、Ct650が0~60nmの範囲では、光学異方性素子の厚み方向レターデーションRt650の値に関わらず、u’が0.35を超えることはなかった。すなわち、光源側偏光子の吸収軸方向と光学異方性素子の遅相軸方向が直交する場合は、図6に示すOモードの液晶パネル106および図7に示すEモードの液晶パネル107のいずれにおいても、斜め方向から視認した際に、黒表示の画面が赤色に著しく着色することはないことが分かる。
【0080】
一方、図10Aおよび図11Bに示すように、光源側偏光子の吸収軸方向と光学異方性素子の遅相軸方向が平行である場合は、カラーフィルタの赤色透過領域の厚み方向レターデーションCt650が大きくなるにしたがって、光学異方性素子の厚み方向レターデーションRt650を変化させた際のu’の最大値が大きくなる傾向がみられた。また、図10Aおよび図11Bでは、図10Bおよび図11Aに比べて、カラーフィルタの赤色透過領域の厚み方向レターデーションCt650および光学異方性素子の厚み方向レターデーションRt650に依存して、u’が大きく変化しており、0.35を超える場合もみられた。
【0081】
これらの結果から、光源側偏光子の吸収軸方向と光学異方性素子の遅相軸方向が平行である場合は、図1に示すOモードの液晶パネル101および図3に示すEモードの液晶パネル102のいずれにおいても、カラーフィルタの赤色透過領域の複屈折の影響により、斜め方向からの視認時に、黒表示が赤色に着色することが分かる。すなわち、光源側偏光子の吸収軸方向と光学異方性素子の遅相軸方向が平行である液晶パネルにおいて、カラーフィルタの複屈折の影響を考慮して光学補償を行う場合は、緑色の光漏れを小さくしてコントラストを向上することに加えて、赤色の光漏れに起因する黒表示の着色を低減するように、光学異方性素子の光学設計を行う必要があることが分かる。
【0082】
<第一実施形態:Oモードの液晶パネルの光学設計>
(色度の調整)
図12は、図1に示すOモードの液晶パネル101のシミュレーション結果に基づいて、黒表示の色度が所定値となる条件をプロットしたグラフである。横軸はカラーフィルタの赤色透過領域における波長650nmの厚み方向レターデーションCt650であり、縦軸は光学異方性素子の波長650nmにおける厚み方向レターデーションRt650である。それぞれのCt650において、方位角45°、極角60°の方向における、黒表示の色度u’が0.35となる点を、黒塗りの丸印および黒塗りの三角印で示している。Rt650が、黒塗りの丸印と黒塗りの三角印の間にある場合は、u’が0.35を上回り、黒表示が赤色に着色して視認される。Rt650が、黒塗りの丸印よりも上側、または黒塗りの三角印よりも下側である場合は、u’が0.35未満であり、黒表示の赤色の着色が抑制される。
【0083】
図12から理解できるように、u’=0.35の境界は、上限側および下限側ともに、直線で近似可能である。グラフ中の直線は、下記の式(1)および式(2)で表される。
Rt650=0.37(Ct650)+116 …(1)
Rt650=-0.44(Ct650)+116 …(2)
【0084】
したがって、カラーフィルタ22の赤色透過領域22Rにおける波長650nmの厚み方向ターデーションCt650と、光学異方性素子50の波長650nmにおける厚み方向レターデーションRt650とが、下記式(1a)または(2a)を満たす場合に、u’が0.35以下となり、赤味の低減された黒表示を実現できる。
Rt650≧0.37(Ct650)+116 …(1a)
Rt650≦-0.44(Ct650)+116 …(2a)
【0085】
図12における白塗りの丸印および白塗りの三角印は、黒表示の色度u’が0.314となる点を示している。Rt650が、白塗りの丸印と黒塗りの丸印の間にある場合は、u’が0.314~0.35であり、白塗りの丸印よりも上側にある場合は、u’が0.314よりも小さい。同様に、Rt650が、白塗りの三角印と黒塗りの三角印の間にある場合は、u’が0.314~0.35であり、白塗りの三角印よりも下側にある場合は、u’が0.314よりも小さい。
【0086】
白塗りの丸印で示すu’=0.314の境界は、上記の式(1)と平行な直線:Rt650=0.37(Ct650)+121で近似可能である。白塗りの三角印で示すu’=0.314の境界は、上記の式(2)と平行な直線:Rt650=-0.44(Ct650)+108で近似可能である。
【0087】
したがって、カラーフィルタの赤色透過領域における波長650nmの厚み方向ターデーションCt650と、光学異方性素子の波長650nmにおける厚み方向レターデーションRt650とが、下記式(1b)または(2b)を満たす場合に、u’が0.314以下となり、赤味がさらに低減された黒表示を実現できる。
Rt650≧0.37(Ct650)+121 …(1b)
Rt650≦-0.44(Ct650)+108 …(2b)
【0088】
上記の結果から、図1に示すOモードの液晶パネルでは、Ct650とRt650とが、下記式(1c)または(2c)を満たす場合に、赤味が低減された黒表示を実現できるといえる。
Rt650≧0.37(Ct650)+C …(1c)
Rt650≦-0.44(Ct650)+C …(2c)
【0089】
上記のように、u’=0.35を境界とする場合、式(1c)におけるCは116nmであり、式(2c)におけるCは116nmである。換言すれば、u’≦0.35を満たすように条件を設定する場合は、上記の式(1a)および式(2a)のように、C=116nm、C=116nmとすればよい。同様の観点から、u’≦0.314を満たすように条件を設定する場合は、上記の式(1b)および式(2b)のように、C=121nm、C=108nmとすればよい。黒表示のu’をさらに小さくするためには、Cを大きく設定し、Cを小さく設定すればよい。
【0090】
式(1c)におけるCは116以上の任意の数であり得る。Cは、116nm、121nm、124nm、126nm、128nm、130nm、132nm、134nm、136nm、138nm、または140nmであってもよい。同様に、式(2c)におけるCは116以下の任意の数であり得る。Cは、116nm、112nm、108nm、105nm、102nm、100nm、98nm、96nm、94nm、92nm、または90nmであってもよい。
【0091】
斜め方向からの視認時の黒表示の色度u’を小さくする観点において、光学異方性素子50の波長650nmにおけるRt650は、上記の式(1c)または(2c)を満たしていれば、その上限または下限は特に限定されない。ただし、後述のように、黒輝度を低減させるためのRt550の範囲、および光学異方性素子50のレターデーションの波長分散Rt650/Rt550を考慮すると、Rt650の上限および下限は自ずと定められる。
【0092】
(輝度の調整)
上記のように、カラーフィルタの厚み方向レターデーションCt650に応じて、光学異方性素子のRt650を調整することにより、赤色の光漏れを抑制し、黒表示のu’を低減できる。一方、黒表示時における光漏れ量(黒輝度)を低減させるためには、比視感度の高い緑色の光の光漏れが小さくなるように、光学設計を行うことが好ましい。
【0093】
図13は、図1に示すOモードの液晶パネル101のシミュレーション結果に基づいて、黒輝度が所定値となる条件をプロットしたグラフである。横軸はカラーフィルタの緑色透過領域における波長550nmの厚み方向レターデーションCt550であり、縦軸は光学異方性素子の波長550nmにおける厚み方向レターデーションRt550である。それぞれのCt550において、方位角45°、極角60°の方向における黒輝度が、同一のCt550を有し、光学異方性素子を用いない液晶表示装置の半分となる点を、黒塗りの丸印および黒塗りの三角印で示している。Rt550が、黒塗りの丸印と黒塗りの三角印の間にある場合は、光学異方性素子を有していない場合に比べて、斜め方向から視認した際の黒輝度が半分以下に低減される。
【0094】
図13から理解できるように、光学異方性素子を用いない場合と比較して黒輝度が1/2となる領域の境界は、上限側および下限側ともに、直線で近似可能である。グラフ中の直線は、下記の式(3)および式(4)で表される。
Rt550=0.97(Ct550)+73 …(3)
Rt550=0.49(Ct550)+205 …(4)
【0095】
したがって、カラーフィルタ22の緑色透過領域22Gにおける波長550nmの厚み方向ターデーションCt550と、光学異方性素子50の波長550nmにおける厚み方向レターデーションRt550とが、下記式(3a)を満たす場合に、光学異方性素子を用いない場合に比べて斜め方向の黒輝度が1/2以下となる。
0.97(Ct550)+73≦Rt550≦0.49(Ct550)+205 …(3a)
【0096】
図13における白塗りの丸印および白塗りの三角印は、黒輝度が、光学異方性素子を用いない液晶表示装置の黒輝度の1/5となる点を示している。Rt550が、白塗りの丸印と白塗りの三角印の間にある場合は、光学異方性素子を有していない場合に比べて、黒輝度が1/5以下に低減される。
【0097】
白塗りの丸印で示す境界は、上記の式(3)と平行な直線:Rt550=0.97(Ct550)+98で近似可能である。白塗りの三角印で示す境界は、上記の式(4)と平行な直線:Rt550=0.49(Ct550)+180で近似可能である。したがって、カラーフィルタの緑色透過領域における波長550nmの厚み方向ターデーションCt550と、光学異方性素子の波長550nmにおける厚み方向レターデーションRt550とが、下記式(3b)を満たす場合に、光学異方性素子を用いない場合と比較して黒輝度を1/5以下に低下させ、コントラストの高い表示を実現できる。
0.97(Ct550)+98≦Rt550≦0.49(Ct550)+180 …(3b)
【0098】
上記の結果から、図1に示すOモードの液晶パネルでは、Ct550とRt550とが、下記式(3c)を満たす場合に、カラーフィルタの複屈折の影響をキャンセルして、斜め方向の黒輝度が低減された表示を実現できるといえる。
0.97(Ct550)+C≦Rt550≦0.49(Ct550)+C …(3c)
【0099】
上記のように、黒輝度を、光学異方性素子を用いない液晶表示装置の黒輝度の1/2以下とする場合は、上記の式(3a)のように、C=73nm、C=205nmとすればよい。同様の観点から、黒輝度を、光学異方性素子を用いない液晶表示装置の黒輝度の1/5以下とする場合は、上記の式(3b)のように、C=98nm、C=180nmとすればよい。斜め方向の黒輝度をさらに小さくするためには、Cを大きく設定し、Cを小さく設定すればよい。式(3c)におけるCは73以上の任意の数であり得る。Cは、73nm、88nm、98nm、108nm、113nm、118nm、123nm、または128nmであってもよい。同様に、式(3c)におけるCは205以下の任意の数であり得る。Cは、205nm、190nm、180nm、173nm、168nm、163nm、158nm、153nm、または148nmであってもよい。
【0100】
図13に示されるように、カラーフィルタの厚み方向レターデーションCt550が大きいほど、斜め方向から視認した際の黒輝度を低減させるための光学異方性素子のRt550の最適値が大きくなる。これは、図8Aに示す光学補償の原理からも理解可能である。カラーフィルタの厚み方向レターデーションCt550が大きいことは、図8Aにおいて、P’とPcの距離が大きいこと(Pの南緯が大きいこと)に対応している。Pの南緯が大きく赤道から外れているほど、光学異方性素子50を透過後の光をポアンカレ球の赤道上に移動させるために、光学異方性素子の位相差を大きくする必要がある。そのため、図13に示すように、Ct550が大きいほど、黒輝度を低減させるためにはRt550を大きくする必要がある。
【0101】
(黒輝度低減と色度の両立)
斜め方向から視認した際の黒輝度を低減するためには、カラーフィルタの厚み方向レターデーションCt550に応じて、上記の式(3c)を満たすように光学異方性素子のRt550を設定し、かつ上記の式(1c)または(2c)を満たすように光学異方性素子のRt650を設定すればよい。ただし、Rt550およびRt650は、それぞれを個別に設定できるわけではなく、Rt650/Rt550は、光学異方性素子のレターデーションの波長分散に応じた一定の値である。
【0102】
例えば、カラーフィルタの緑色透過領域における厚み方向レターデーションCt550が10nmである場合、光学異方性素子のRt550が130nmであれば、斜め方向から視認した際の黒輝度が小さく、高コントラストの表示を実現可能である。上記シミュレーションにて設定したように、光学異方性素子がRt650/Rt550=0.95の波長分散を有している場合、Rt550=130nmであれば、Rt650=124nmである。
【0103】
赤色カラーフィルタと緑色カラーフィルタは材料が異なるため、両者のRthは異なり、赤色カラーフィルタのCt650は緑色カラーフィルタのCt550よりも大きい場合がある。例えば、カラーフィルタ22の赤色透過領域22Rにおける厚み方向レターデーションCt650が30nmであると、Rt650=124nmの場合は、上記の式(1a)および式(1b)のいずれも満たさず、斜め方向から視認した際の色度u’が0.35を上回り、黒表示が赤色に着色されて視認される。
【0104】
上記の例から理解できるように、図1に示すOモードの液晶パネルでは、黒輝度が小さくなるように光学異方性素子の光学設計を行っても、黒表示の色度u’が大きくなり、黒表示が赤色に着色する場合がある。これに対して、カラーフィルタの厚み方向レターデーションCt550およびCt650、ならびに光学異方性素子のレターデーションの波長分散Rt650/Rt550を考慮して、上記の式(3c)を満たし(ただし、Cは73nm以上であり、Cは205nm以下である)、かつ上記の式(1c)または(2c)を満たすように(ただし、Cは116nm以上であり、Cは116nm以下である)、光学異方性素子の厚み方向レターデーションを設定すればよい。
【0105】
なお、位相差フィルムの厚み方向レターデーションの波長分散Rt650/Rt550は、一般に、正面レターデーションの波長分散Re650/Re550と略等しく、0.8~1.2の範囲内である。一般的な波長分散の範囲を考慮すると、Ct650が10nm以上の場合は、Rt550が式(3c)を満たし、かつRt650が式(2c)を満たすことは少ない。そのため、Rt550が上記の式(3c)を満たし、かつRt650が上記の式(1c)を満たすように、光学異方性素子のレターデーションを設定することが好ましい。
【0106】
光学異方性素子50の正面レターデーションRe550およびRe650は、Rt550およびRt650が上記範囲となるように設定すればよい。上記のように、光学異方性素子50は正面レターデーションReに対する厚み方向レターデーションRtの比Nz=Rt/Reが0.2~0.8であるから、この拘束条件の下で、光学異方性素子の厚み方向レターデーションRt550およびRt650、ならびにNz係数に応じて、正面レターデーションRe550およびRe650が定められる。
【0107】
具体的には、光学異方性素子50の波長650nmにおける正面レターデーションRe650は、Rt650の2倍程度が好ましい。したがって、Re650は、下記式(1d)または(2d)を満たすことが好ましい。
Re650≧0.74(Ct650)+C11 …(1d)
Re650≦-0.88(Ct650)+C12 …(2d)
【0108】
11はCの2倍であり、具体的にはC11は232nm以上である。C11は、232nm、236nm、242nm、248nm、252nm、256nm、260nm、264nm、268nm、272nm、276nm、または280nmであってもよい。C12はCの2倍であり、具体的にはC12は232nm以下である。C12は、232nm、224nm、216nm、210nm、204nm、200nm、196nm、192nm、188nm、184nm、または180nmであってもよい。光学異方性素子のレターデーションの波長分散を考慮すると、光学異方性素子50のRe650は、上記の式(1d)を満たすことが好ましい。
【0109】
光学異方性素子50の波長550nmにおける正面レターデーションRe550は、Rt550の2倍程度が好ましい。したがって、Re550は、下記式(3d)を満たすことが好ましい。
1.94(Ct550)+C13≦Re550≦0.98(Ct550)+C14 …(3d)
【0110】
13はCの2倍であり、具体的にはC13は146nm以上である。C13は、145nm、175nm、185nm、215nm、225nm、235nm、245nm、または255nmであってもよい。C14はCの2倍であり、具体的にはC14は410nm以下である。C14は、410nm、380nm、360nm、345nm、335nm、325nm、315nm、305nm、または295nmであってもよい。
【0111】
<第二実施形態:Eモードの液晶パネルの光学設計>
図14は、図3に示すEモードの液晶パネル102のシミュレーション結果に基づいて、黒表示の色度が所定値となる条件をプロットしたグラフである。図12と同様、方位角45°、極角60°の方向における、黒表示の色度u’が0.35となる点を、黒塗りの丸印および黒塗りの三角印で示し、黒表示の色度u’が0.314となる点を白塗りの丸印および白塗りの三角印で示している。
【0112】
図12の場合と同様、図14においてもu’=0.35の境界は、下記の式(6)および式(7)で表される直線で近似可能である。
Rt650=0.37(Ct650)+116 …(6)
Rt650=-0.44(Ct650)+120 …(7)
【0113】
したがって、液晶パネル102では、カラーフィルタ22の赤色透過領域22Rにおける波長650nmの厚み方向ターデーションCt650と、光学異方性素子50の波長650nmにおける厚み方向レターデーションRt650とが、下記式(6a)または(7a)を満たす場合に、u’が0.35以下となり、赤味の低減された黒表示を実現できる。
Rt650≧0.37(Ct650)+116 …(6a)
Rt650≦-0.44(Ct650)+120 …(7a)
【0114】
なお、式(6)は、Oモードの液晶パネル101に関する式(1)と同一である。式(7)はOモードの液晶パネル101に関する式(2)と平行な直線で表される。図14においては、参考として、式(2)の直線を点線で示している。
【0115】
白塗りの丸印で示すu’=0.314の境界は、上記の式(6)と平行な直線:Rt650=0.37(Ct650)+121で近似可能である。白塗りの三角印で示すu’=0.314の境界は、上記の式(2)と平行な直線:Rt650=-0.44(Ct650)+108で近似可能である。
【0116】
したがって、カラーフィルタの赤色透過領域における波長650nmの厚み方向ターデーションCt650と、光学異方性素子の波長650nmにおける厚み方向レターデーションRt650とが、下記式(6b)または(7b)を満たす場合に、u’が0.314以下となり、赤味がさらに低減された黒表示を実現できる。
Rt650≧0.37(Ct650)+121 …(6b)
Rt650≦-0.44(Ct650)+108 …(7b)
【0117】
上記の結果から、図3に示すEモードの液晶パネル102では、Ct650とRt650とが、下記式(6c)または(7c)を満たす場合に、赤味が低減された黒表示を実現できるといえる。
Rt650≧0.37(Ct650)+C …(6c)
Rt650≦-0.44(Ct650)+C …(7c)
【0118】
u’≦0.35を満たすように条件を設定する場合は、上記の式(6a)および式(7a)のように、C=116nm、C=120nmとすればよく、u’≦0.314を満たすように条件を設定する場合は、上記の式(6b)および式(7b)のように、C=121nm、C=108nmとすればよい。黒表示のu’をさらに小さくするためには、Cを大きく設定し、Cを小さく設定すればよい。
【0119】
式(6c)におけるCは116以上の任意の数であり得る。Cは、前述のCと同等の数値であってもよく、Cは、116nm、118nm、121nm、124nm、126nm、128nm、130nm、132nm、134nm、136nm、138nm、または140nmであってもよい。同様に、式(7c)におけるCは120以下の任意の数であり得る。C前述のCと同等の数値であってもよく、121nm、116nm、112nm、108nm、105nm、102nm、100nm、98nm、96nm、94nm、92nm、または90nmであってもよい。光学異方性素子のレターデーションの波長分散を考慮すると、光学異方性素子60のRt650は、上記の式(6c)を満たすことが好ましい。
【0120】
斜め方向からの視認時の黒表示の色度u’を小さくする観点において、光学異方性素子60の波長650nmにおけるRt650は、上記の式(6c)または(7c)を満たしていれば、その上限または下限は特に限定されない。ただし、第一実施形態に関して前述した通り、黒輝度を低減させるためのRt550の範囲、および光学異方性素子60のレターデーションの波長分散Rt650/Rt550を考慮すると、Rt650の上限および下限は自ずと定められる。
【0121】
図15は、図3に示すEモードの液晶パネル102のシミュレーション結果に基づいて、黒輝度が所定値となる条件をプロットしたグラフである。図13と同様、方位角45°、極角60°の方向における黒輝度が、光学異方性素子を用いない液晶表示装置の半分となる点を、黒塗りの丸印および黒塗りの三角印で示し、黒輝度が光学異方性素子を用いない液晶表示装置の1/5となる点を白塗りの丸印および白塗りの三角印で示している。
【0122】
図13の場合と同様、図15においても、光学異方性素子を用いない場合と比較して黒輝度が1/2となる領域の境界は直線で近似可能であり、グラフ中の直線は、下記の式(8)および式(9)で表される。
Rt550=0.69(Ct550)+70 …(8)
Rt550=1.35(Ct550)+200 …(9)
【0123】
したがって、液晶パネル102では、カラーフィルタ22の緑色透過領域22Gにおける波長550nmの厚み方向ターデーションCt550と、光学異方性素子50の波長550nmにおける厚み方向レターデーションRt550とが、下記式(8a)を満たす場合に、光学異方性素子を用いない場合に比べて黒輝度が1/2以下となる。
0.69(Ct550)+70≦Rt550≦1.35(Ct550)+200 …(8a)
【0124】
白塗りの三角印で示す点は、上記の式(8)と平行な直線:Rt550=0.69(Ct550)+98で近似可能である。白塗りの丸印で示点は、上記の式(9)と平行な直線Rt550=1.35(Ct550)+180で近似可能である。したがって、Ct550とRt550が下記式(8b)を満たす場合に、光学異方性素子を用いない場合に比べて黒輝度が1/5以下となる。
0.69(Ct550)+98≦Rt550≦1.35(Ct550)+171 …(8b)
【0125】
上記の結果から、図3に示すEモードの液晶パネル102では、Ct550とRt550とが、下記式(8c)を満たす場合に、カラーフィルタの複屈折の影響をキャンセルして、斜め方向から視認した際の黒輝度が低減された表示を実現できるといえる。
0.69(Ct550)+C≦Rt550≦1.35(Ct550)+C …(8c)
【0126】
斜め方向の黒輝度を、光学異方性素子を用いない場合の1/2以下とする場合は、上記の式(8a)のように、C=70nm、C=200nmとすればよい。同様の観点から、斜め方向の黒輝度を、光学異方性素子を用いない場合の1/5以下とする場合は、上記の式(8b)のように、C=98、C=171nmとすればよい。斜め方向の黒輝度をさらに小さくするためには、Cを大きく設定し、Cを小さく設定すればよい。
【0127】
式(8c)におけるCは70以上の任意の数であり得る。Cは、78nm、88nm、98nm、108nm、113nm、118nm、123nm、または128nmであってもよい。同様に、式(8c)におけるCは200以下の任意の数であり得る。Cは、200nm、190nm、180nm、173nm、168nm、163nm、158nm、153nm、または148nmであってもよい。
【0128】
図15に示されるように、カラーフィルタの厚み方向レターデーションCt550が大きいほど、斜め方向から視認した際の黒輝度を低減させるための光学異方性素子のRt550の最適値が大きくなる。これは、図9Bに示す光学補償の原理からも理解可能である。
【0129】
図3に示すEモードの液晶パネル102において、斜め方向から視認した際の黒輝度を低減するためには、カラーフィルタの厚み方向レターデーションCt550に応じて、上記の式(8c)を満たすように光学異方性素子のRt550を設定し、かつ上記の式(6c)または(7c)を満たすように光学異方性素子のRt650を設定すればよい。
【0130】
Oモードの液晶パネルの例について説明したのと同様、光学異方性素子の波長分散Rt650/Rt550を考慮すると、Ct650が10nm以上の場合は、Rt550が式(8c)を満たし、かつRt650が式(7c)を満たすことは少ない。そのため、Rt550が上記の式(8c)を満たし、かつRt650が上記の式(6c)を満たすように、光学異方性素子60のレターデーションを設定することが好ましい。
【0131】
光学異方性素子60の正面レターデーションRe550およびRe650は、Rt550およびRt650が上記範囲となるように設定すればよい。光学異方性素子60の波長650nmにおける正面レターデーションRe650は、Rt650の2倍程度が好ましい。したがって、Re650は、下記式(6d)または(7d)を満たすことが好ましい。
Re650≧0.74(Ct650)+C16 …(6d)
Re650≦-0.88(Ct650)+C17 …(7d)
【0132】
16はCの2倍であり、具体的にはC16は232nm以上である。C16は、232nm、236nm、242nm、248nm、252nm、256nm、260nm、264nm、268nm、272nm、276nm、または280nmであってもよい。C17はCの2倍であり、具体的にはC17は240nm以下である。C12は、240nm、232nm、224nm、216nm、210nm、204nm、200nm、196nm、192nm、188nm、184nm、または180nmであってもよい。光学異方性素子のレターデーションの波長分散を考慮すると、光学異方性素子60のRe650は、上記の式(6d)を満たすことが好ましい。
【0133】
光学異方性素子60の波長550nmにおける正面レターデーションRe550は、Rt550の2倍程度が好ましい。したがって、Re550は、下記式(8d)を満たすことが好ましい。
1.38(Ct550)+C18≦Re550≦2.70(Ct550)+C19 …(8d)
【0134】
18はCの2倍であり、具体的にはC18は140nm以上である。C18は、155nm、175nm、185nm、215nm、225nm、235nm、245nm、または255nmであってもよい。C19はCの2倍であり、具体的にはC19は400nm以下である。C19は、400nm、380nm、360nm、345nm、335nm、325nm、315nm、305nm、または295nmであってもよい。
【0135】
[各光学部材の配置]
上記の通り、第一実施形態の液晶パネル101は、カラーフィルタ22の厚み方向レターデーションCt550およびCt650に対応して、液晶セル20の視認側に配置される光学異方性素子50が所定の光学特性を有するように光学設計が行われる。第二実施形態の液晶パネル102は、Ct550およびCt650に対応して、液晶セル20の光源側に配置される光学異方性素子60が所定の光学特性を有するように光学設計が行われる。
【0136】
第一実施形態の液晶パネル101は、視認側偏光子30と光学異方性素子50との間、または光源側偏光子40と液晶セル20との間に、偏光子保護フィルムとして光学等方性フィルムを備えていてもよい。第二実施形態の液晶パネル102は、視認側偏光子30と液晶セル20との間、または光源側偏光子40と光学異方性素子60との間に、偏光子保護フィルムとして光学等方性フィルムを備えていてもよい。偏光子の表面に偏光子保護フィルムを設けることにより、偏光子の耐久性を高めることができる。
【0137】
偏光子保護フィルムとして用いられる光学等方性フィルムは、法線方向及び斜め方向のいずれの方向を透過する光に対しても、その偏光状態を実質的に変換しないものを指す。具体的には、光学等方性フィルムは、正面レターデーションReが10nm以下であることが好ましく、厚み方向レターデーションRtが20nm以下であることが好ましい。光学等方性フィルムの正面レターデーションは5nm以下がより好ましい。光学等方性フィルムの厚み方向レターデーションは10nm以下がより好ましく、5nm以下がさらに好ましい。
【0138】
液晶パネルは、上記以外の光学層やその他の部材を含むこともできる。例えば、偏光子30,40の外面(液晶セル20と対向しない面)には、偏光子保護フィルムが設けられることが好ましい。偏光子の外面に設けられる偏光子保護フィルムは、光学等方性でもよく、光学異方性を有するものでもよい。一方、視認側偏光子30の液晶セル20側の面、および光源側偏光子40の液晶セル20側に設けられる偏光子保護フィルムは、上記のように光学等方性であることが求められる。
【0139】
第一実施形態の液晶パネル101は、視認側偏光子と液晶セル20の間には、光学異方性素子50以外に光学異方性素子を含まないことが好ましく、光源側偏光子40と液晶セル20の間には、光学異方性素子を含まないことが好ましい。第二実施形態の液晶パネル102は、光源側偏光子と液晶セル20の間には、光学異方性素子60以外に光学異方性素子を含まないことが好ましく、視認側偏光子30と液晶セル20の間には、光学異方性素子を含まないことが好ましい。
【0140】
液晶セルと上記の各光学部材を積層することにより液晶パネルが形成される。その形成過程においては、液晶セル上に各部材を順次別個に積層してもよく、予めいくつかの部材を積層したものを用いることもできる。これらの光学部材の積層順序は特に制限されない。偏光子と光学異方性素子を積層して予め積層偏光板を形成し、この積層偏光板を、粘着剤(不図示)を介して、液晶セルと貼り合わせてもよい。前述のように、偏光子の表面には偏光子保護フィルムが設けられていてもよい。偏光子と光学異方性素子の間には、偏光子保護フィルムとして光学等方性フィルムが設けられていてもよい。
【0141】
各部材の積層には、接着剤や粘着剤が好ましく用いられる。接着剤や粘着剤としては、アクリル系重合体、シリコーン系ポリマー、ポリエステル、ポリウレタン、ポリアミド、ポリビニルエーテル、酢酸ビニル/塩化ビニルコポリマー、変性ポリオレフィン、エポキシ系ポリマー、フッ素系ポリマー、ゴム系ポリマー等をベースポリマーとするものを適宜に選択して用いることができる。
【0142】
[液晶表示装置]
上記の液晶パネルの第二主面側(偏光子40側)に光源110を配置することにより、液晶表示装置が形成される。液晶パネルと光源の間には、輝度向上フィルム(不図示)を設けることもできる。輝度向上フィルムは、光源側偏光子と一体で設けてもよい。例えば、第二偏光子の外面(光源側の面)に、接着剤層を介して輝度向上フィルムを貼り合わせたものを用いることができる。また、偏光子と輝度向上フィルムの間に、偏光子保護フィルムが設けられていてもよい。
【符号の説明】
【0143】
20 液晶セル
21 カラーフィルタ基板
22 TFT基板
10 液晶層
11 初期配向方向
30,40 偏光子
35,45 吸収軸(方向)
50,60 光学異方性素子(位相差板)
53,63 遅相軸(方向)
101,102 液晶パネル
110 光源
201,202 液晶表示装置

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15