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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-04
(45)【発行日】2023-12-12
(54)【発明の名称】作業機械
(51)【国際特許分類】
   E02F 9/24 20060101AFI20231205BHJP
   E02F 9/26 20060101ALI20231205BHJP
   E02F 3/43 20060101ALI20231205BHJP
   E02F 9/20 20060101ALI20231205BHJP
【FI】
E02F9/24 B
E02F9/26 A
E02F3/43 M
E02F9/20 C
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2023510209
(86)(22)【出願日】2021-11-10
(86)【国際出願番号】 JP2021041423
(87)【国際公開番号】W WO2022208974
(87)【国際公開日】2022-10-06
【審査請求日】2023-02-16
(31)【優先権主張番号】P 2021056108
(32)【優先日】2021-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005522
【氏名又は名称】日立建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】弁理士法人開知
(72)【発明者】
【氏名】森川 雅俊
(72)【発明者】
【氏名】西川 真司
(72)【発明者】
【氏名】田中 宏明
【審査官】佐久間 友梨
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-41388(JP,A)
【文献】特開2020-143449(JP,A)
【文献】特開平4-136324(JP,A)
【文献】特開平2-308018(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02F 9/20
E02F 9/24
E02F 9/26
E02F 3/43
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下部走行体と、
前記下部走行体の上部に旋回可能に搭載された上部旋回体と、
前記上部旋回体の前部に上下方向に回動可能に取り付けられた作業機と、
前記作業機が予め設定された侵入不可領域面を超えて侵入不可領域内に侵入しないよう領域制限制御を行うコントローラとを備えた作業機械において、
前記侵入不可領域面の目標位置の設定に用いられる設定操作装置を備え、
前記コントローラは、
前記設定操作装置により設定された前記目標位置と前記上部旋回体の旋回中心との距離が、前記上部旋回体の旋回中心から前記上部旋回体の後端までの距離に基づいて設定された閾値よりも大きい場合に、前記目標位置に前記侵入不可領域面を設定することを特徴とする作業機械。
【請求項2】
請求項1記載の作業機械において、
モニタを更に備え、
前記コントローラは、
前記設定操作装置により設定された前記目標位置と前記上部旋回体の旋回中心との距離が前記閾値よりも大きいときは、前記モニタに前記侵入不可領域面の設定成功の情報を表示させ、前記設定操作装置により設定された前記目標位置と前記上部旋回体の旋回中心との距離が前記閾値以下であるときは、前記モニタに前記侵入不可領域面の設定失敗の情報を表示させることを特徴とする作業機械。
【請求項3】
請求項1記載の作業機械において、
前記コントローラは、
前記設定操作装置により設定された前記目標位置と前記上部旋回体の旋回中心との距離が前記閾値以下のときは、前記侵入不可領域面として補正侵入不可領域面を設定し、
前記補正侵入不可領域面は、前記目標位置に前記侵入不可領域面を設定した場合に前記侵入不可領域面のうち前記閾値を半径とする仮想円の内側となる範囲を除外した領域面であることを特徴とする作業機械。
【請求項4】
請求項1記載の作業機械において、
前記コントローラは、
前記設定操作装置により設定された前記目標位置と前記上部旋回体の旋回中心との距離が前記閾値以下のときは、前記侵入不可領域面として補正侵入不可領域面を設定し、
前記補正侵入不可領域面は、前記目標位置に前記侵入不可領域面を設定した場合に前記侵入不可領域面のうち前記閾値を半径とする仮想円の内側となる範囲を除外すると共に、除外された前記範囲を前記仮想円の円弧に置き換えた領域面であることを特徴とする作業機械。
【請求項5】
請求項3又は4記載の作業機械において、
モニタを更に備え、
前記コントローラは、
前記設定操作装置により設定された前記目標位置と前記上部旋回体の旋回中心との距離が前記閾値よりも大きいときは、前記モニタに前記侵入不可領域面の設定成功の情報を表示させ、前記設定操作装置により設定された前記目標位置と前記上部旋回体の旋回中心との距離が前記閾値以下であるときは、前記補正侵入不可領域面を表示させることを特徴とする作業機械。
【請求項6】
請求項1記載の作業機械において、
前記上部旋回体の旋回角度を検出する角度センサと、
前記作業機に設けられ、前記作業機の姿勢を検出する複数の姿勢センサとを更に備え、
前記コントローラは、
前記設定操作装置が操作されたときに、前記角度センサ及び複数の姿勢センサからの信号に基づいて前記目標位置を算出することを特徴とする作業機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業機の侵入不可領域を設定して作業を行う油圧ショベルや油圧クレーン等の作業機械に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、油圧ショベルに代表される作業機械は、作業機を構成するブーム、アーム等の複数の部材を同時に駆動することで、複雑な動作を効率よく行うことができる。
【0003】
そのような作業機械において、近年、オペレータの熟練度に依らず作業効率を確保することを目的として、作業機が目標面に近づくと作業機を減速することで、作業機が周囲の障害物に接触することを防止する作業支援システムが提案されている。
【0004】
例えば特許文献1では、作業開始前にオペレータが、作業機の動作可能な範囲内に侵入不可領域を設定し、作業時に、センサ情報に基づいて侵入不可領域と車体の距離を測定し、作業機が侵入不可領域に侵入しないよう作業機を減速、停止させる領域制限制御の技術が開示されている。特許文献1には、また、作業機の爪先位置を検出し、領域制限制御の侵入不可領域面を設定する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平4-136324号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
領域制限制御を行う場合の侵入不可領域面の形状として、例えば特許文献1の第9図、第19図等に示されるように、クローラ底面に対して垂直な面を設定することで、作業機の伸ばし方向への逸脱抑制を行うものがある。
【0007】
ここで、クローラ底面に対して垂直な面を侵入不可領域面として設定する場合、上部旋回体の後端半径円内に侵入不可領域面が設定されると、作業機の逸脱抑制が実現できる一方、上部旋回体が旋回動作したとき、上部旋回体の後端が侵入不可領域に入り込んでしまう可能性がある。
【0008】
上部旋回体の後部が入り込まない位置に侵入不可領域面を設定するには、オペレータは試行錯誤を繰り返す必要があり、オペレータの負担となっていた。
【0009】
発明の目的は、領域制限制御の侵入不可領域面を設定する際にオペレータの負担を軽減することができる作業機械を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために、本発明は、下部走行体と、前記下部走行体の上部に旋回可能に搭載された上部旋回体と、前記上部旋回体の前部に上下方向に回動可能に取り付けられた作業機と、前記作業機が予め設定された侵入不可領域面を超えて侵入不可領域内に侵入しないよう領域制限制御を行うコントローラとを備えた作業機械において、前記侵入不可領域面の目標位置の設定に用いられる設定操作装置を備え、前記コントローラは、前記設定操作装置により設定された前記目標位置と前記上部旋回体の旋回中心との距離が、前記上部旋回体の旋回中心から前記上部旋回体の後端までの距離に基づいて設定された閾値よりも大きい場合に、前記目標位置に前記侵入不可領域面を設定するものとする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、侵入不可領域面の位置設定時に旋回の可不可を車体側が判断するため、オペレータの侵入不可領域面の位置設定時の負担を低減することができる
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明に係る作業機械の一例としてクローラ型の油圧ショベルを示す図である。
図2】本発明に係わる油圧ショベルのキャビンの内部(運転室)を運転席側から見た図である。
図3】作業機(ブーム、アーム、バケット)、下部走行体(左右のクローラ)及び上部旋回体を駆動するための油圧システムを示す図である。
図4】本発明の第1の実施形態に係わる油圧ショベルの制御システムを示す図である。
図5A】侵入不可領域面の目標位置の指示方法として、作業機の位置合わせによる方法を示す図である。
図5B】侵入不可領域面の目標位置の指示方法として、作業機の位置合わせによる他の方法を示す図である。
図5C】侵入不可領域面の目標位置の指示方法として、モニタ操作装置の数値入力による方法を示す図である。
図5D】侵入不可領域面の目標位置の指示方法として、モニタ操作装置の数値入力による他の方法を示す図である。
図5E】侵入不可領域面の目標位置の指示方法として、モニタ操作装置の数値入力によるさらに他の方法を示す図である。
図6】本発明の第1の実施形態におけるメインコントローラの侵入不可領域面の設定の処理手順を示すフローチャートである。
図7】第1の実施形態におけるメインコントローラにより設定される侵入不可領域面と油圧ショベルとの位置関係を示す図である。
図8】本発明の第2の実施形態におけるメインコントローラの侵入不可領域面の設定の処理手順を示すフローチャートである。
図9】第2の実施形態におけるメインコントローラにより設定される侵入不可領域面と油圧ショベルとの位置関係を示す図である。
図10】本発明の第3の実施形態におけるメインコントローラの侵入不可領域面の設定の処理手順を示すフローチャートである。
図11】第3の実施形態におけるメインコントローラにより設定される侵入不可領域面と油圧ショベルとの位置関係を示す図である。
図12】本発明の第4の実施形態におけるメインコントローラの侵入不可領域面の設定の処理手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0014】
<第1の実施形態>
<作業機械>
図1は、本発明に係る作業機械の一例としてクローラ型の油圧ショベルを示す図である。なお、本発明は、クローラ型の油圧ショベルに限らず、ホイール型の油圧ショベル、油圧クレーン等の作業機械にも適用可能である。
【0015】
図1において、油圧ショベルは、下部走行体100と、下部走行体100の上部に旋回可能に搭載された上部旋回体102と、上部旋回体102の前部に上下方向に回動可能に取り付けられ、ブーム103a、アーム103b、バケット103c(複数のフロント部材)を上下方向に回動可能に連結して構成された作業機103とを備えている。
【0016】
下部走行体100は左右のクローラ100a,100bを備えている。
【0017】
ブーム103a、アーム103b、バケット103cはそれぞれブームシリンダ104a、アームシリンダ104b、バケットシリンダ104cにより駆動される。左右のクローラ100a,100bはそれぞれ左右の走行モータ104d,104eにより駆動される。上部旋回体102は、旋回フレーム102a上に設置された旋回モータ104fにより駆動される。
【0018】
上部旋回体102の旋回フレーム102a上には、また、上部旋回体102側に位置する油圧配管と下部走行体100側に位置する油圧配管を上部旋回体102の旋回によってねじれないように接続するセンタジョイント(図示せず)が設けられ、そのセンタジョイントに下部走行体100に対する上部旋回体102の旋回角度を検出する角度センサ24が備えられている。
【0019】
また、ブーム103a、アーム103b、バケット103cには、作業機103の姿勢を検出する複数の姿勢センサとして、ブームIMUセンサ25、アームIMUセンサ26、バケットIMUセンサ27が備えられている。ブームIMUセンサ25、アームIMUセンサ26、バケットIMUセンサ27は、それぞれ、センサ要素の運動量の変化により作業機103の姿勢を検出するものである。
【0020】
上部旋回体102の左側前部には運転室を形成するキャビン105が設置されている。
【0021】
<キャビン内部>
図2は、本発明に係わる油圧ショベルのキャビン105の内部(運転室)を運転席側から見た図である。
【0022】
図2において、キャビン105内には、オペレータが着座する運転席2と、上部旋回体102及び作業機103(ブーム103a、アーム103b、バケット103c)の動作を指示する操作レバー装置3,4と、下部走行体100(左右のクローラ100a,100b)の動作を指示する操作レバー装置5,6が配置されている。
【0023】
操作レバー装置3,4は運転席2の前部左右に設けられ、左側の操作レバー装置3はアーム103bと上部旋回体102の動作を指示し、右側の操作レバー装置4は、ブーム103aとバケット103cの動作を指示する。
【0024】
操作レバー装置5,6は、運転席2の前側床部の中央部分に左右に並べて設けられ、左側の操作レバー装置5は、左クローラ100aの動作を指示し,右側の操作レバー装置6は、右クローラ100bの動作を指示する。
【0025】
また、キャビン105は、屋根部の前側を支持する2本のピラー7a,7bを有し、2本のピラー7a,7bにフロントガラス8がはめ込まれている。また、運転席2から見て右側のピラー7bに、侵入不可領域面の設定やその他の車体設定、視界補助に用いるモニタ9が設置されている。また、モニタ9は領域制限制御の詳細(領域制限制御のON/OFF、侵入不可領域面の位置と有効/無効、減速制御の有効/無効)を表示する機能を有している。
【0026】
更に、運転席2の右側の操作レバー装置4の後側であって、運転席2に着座したオペレータの右側にはコンソールボックス10が設けられ、コンソールボックス10に、領域制限制御の侵入不可領域面の目標位置の設定に用いられる設定操作装置として、コンソールスイッチ11及びモニタ操作装置12が備えられている。
【0027】
<油圧システム>
図3は、作業機103(ブーム103a、アーム103b、バケット103c)、下部走行体100(左右のクローラ100a,100b)及び上部旋回体102を駆動するための油圧システムを示す図である。
【0028】
図3において、油圧システムは、油圧ポンプ15と、油圧ポンプ15から吐出される圧油により駆動される複数のアクチュエータ(ブームシリンダ104a、アームシリンダ104b、バケットシリンダ104c、左右の走行モータ104d,104e、旋回モータ104f)と、油圧ポンプ15から複数のアクチュエータに供給される圧油の流量と流れ方向を制御する複数のスプール弁を備えたコントロールバルブ16と、コントロールバルブ16の複数のスプール弁を切り換えるための操作パイロット圧を生成する上述した操作レバー装置3,4,5,6とを備えている。
【0029】
なお、図3において、操作レバー装置3を、アーム103bと上部旋回体102の動作を指示する部分3aと、上部旋回体102の動作を指示する部分3bとに分けて図示し、操作レバー装置4を、ブーム103aの動作を指示する部分4aと、バケット103cの動作を指示する部分4bとに分けて図示している。以下、これらの部分3a,3b,4a,4bもそれぞれ操作レバー装置という。
【0030】
操作レバー装置3a,3b,4a,4b,5,6はそれぞれパイロットライン17a,17b,17c,17d,17e,17fを介してコントロールバルブ16に接続され、生成した操作パイロット圧がパイロットライン17a,17b,17c,17d,17e,17fを介してコントロールバルブ16のスプール弁に導かれる。コントロールバルブ16のスプール弁は操作パイロット圧によって切り換えられ、油圧ポンプ15から複数のアクチュエータに供給される圧油の流量と流れ方向を制御する。
【0031】
操作レバー装置3a,4a,4bのパイロットライン17a,17c,17dにはそれぞれ減圧弁18a,18b,18cが設置され、領域制限制御を行う際にこれら減圧弁18a,18b,18cを作動させて操作パイロット圧を減圧し、作業機103の減速と停止制御を行う。
【0032】
なお、操作レバー装置3a,3b,4a,4b,5,6は、それぞれ、ブーム103a、アーム103b、バケット103c、上部旋回体102,左右のクローラ100a,100bの逆方向の動作を指示する2つの操作パイロット圧を生成するため、1つの操作レバー装置に対してパイロットライン17a,17b,17c,17d,17e,17fは2本づつ設けられているが、図2では図示の簡略化のため、2本のパイロットラインを1本のパイロットラインで示している。減圧弁18a,18b,18cは2本のパイロットライン17a,17b,17dのそれぞれに設けられている。
【0033】
<制御システム>
図4は、本実施形態に係わる油圧ショベルの制御システムを示す図である。
【0034】
図4において、制御システムは、上述した角度センサ24、ブームIMUセンサ25、アームIMUセンサ26、バケットIMUセンサ27、モニタ9、コンソールスイッチ11及びモニタ操作装置12、減圧弁18a,18b,18cと、領域制限制御、侵入不可領域面設定、その他の諸機能を実施するメインコントローラ21及びモニタ制御を実施するモニタコントローラ22とを備えている。
【0035】
メインコントローラ21は、例えば、運転席2の後側に配置されている。モニタコントローラ22は、例えば、コンソールボックス10の下側に配置されている。
【0036】
メインコントローラ21には、後述するように垂直面を含む侵入不可領域面が予め設定されており、メインコントローラ21は、作業機103が予め設定された侵入不可領域面を超えて侵入不可領域内に侵入しないよう領域制限制御を行う。
【0037】
また、メインコントローラ21は、コンソールスイッチ11又はモニタ操作装置12(設定操作装置)により設定された侵入不可領域面の目標位置と上部旋回体102の旋回中心との距離が、上部旋回体102の旋回中心から上部旋回体102の後端までの距離に基づいて設定された閾値よりも大きい場合に、当該目標位置に侵入不可領域面を設定する。
【0038】
本発明では、侵入不可領域面として垂直面を含むものを対象としている。垂直面とは下部走行体100のクローラ底面(左右のクローラ100a,100bの底面)に対して垂直な面を意味する。侵入不可領域面は、垂直面を含む面であれば、それ以外の面、例えば傾斜面や湾曲面等を含んでいてもよい。
【0039】
以下では、侵入不可領域面が垂直面である場合について説明する。侵入不可領域面が垂直面以外の面を含んでいる場合は、侵入不可領域面の垂直面部分に対して以下の操作や、メインコントローラ21の処理を適用すればよい。
【0040】
オペレータは、侵入不可領域面を設定するとき、モニタ操作装置12を操作して侵入不可領域面設定モードをONにする。
【0041】
侵入不可領域面設定モードのON信号は、モニタコントローラ22からメインコントローラ21に送信され、メインコントローラ21は侵入不可領域面の設定機能を待機状態とする。
【0042】
また、オペレータは、侵入不可領域面を設定するとき、侵入不可領域面の目標位置を指示する操作を行う。侵入不可領域面の目標位置の指示方法には、作業機103の位置合わせによる方法と、モニタ操作装置12の数値入力による方法とがある。
【0043】
図5A及び図5Bは作業機103の位置合わせによる方法を示す図であり、図5C図5D及び図5Eはモニタ操作装置12の数値入力による方法を示す図である。
【0044】
侵入不可領域面は上部旋回体102の後端が入り込まない位置に設定する必要がある。
【0045】
また、図5A図5Eにおいて、侵入不可領域面の目標位置が符号Mで示されている。図5A図5Eでは侵入不可領域面を垂直上方向から見ており、目標位置Mは侵入不可領域面の水平断面で示されている。
【0046】
図5A
【0047】
オペレータは、図5Aに示すように、操作レバー装置3a,3b,4a,4bにより、侵入不可領域面の目標位置Mにバケット103cの先端に形成された複数の爪103c1の全ての爪先を合わせる操作を行い、複数の爪103c1の全ての爪先が侵入不可領域面の目標位置Mに合ったときに、コンソールスイッチ11を押す。コンソールスイッチ11が押されると、スイッチ信号がコンソールスイッチ11からモニタコントローラ22を介してメインコントローラ21に送信される。メインコントローラ21は、コンソールスイッチ11からの信号を入力すると、角度センサ24、ブームIMUセンサ25、アームIMUセンサ26、バケットIMUセンサ27からのセンサ信号に基づいて、そのときのバケット103cの複数の爪103c1の全ての爪先に接する線分の位置情報を算出し、更にその線分の位置情報から侵入不可領域面の目標位置Mの情報(後述する例えばr1、θ)を算出し、侵入不可領域面の目標位置情報として記憶する。
【0048】
図5B
図5Bでは、オペレータは、操作レバー装置3a,3b,4a、4bの操作により、バケット103cの先端の特定の点(例えば複数の爪103c1の中央の爪先)を侵入不可領域面の目標位置M上の2点A,Bのそれぞれに合わせ、2点A,Bのそれぞれの位置でコンソールスイッチ11を押す。このとき、スイッチ信号がコンソールスイッチ11からモニタコントローラ22を介してメインコントローラ21に送信され、メインコントローラ21は、コンソールスイッチ11からの信号を入力すると、角度センサ24、ブームIMUセンサ25、アームIMUセンサ26、バケットIMUセンサ27からのセンサ信号に基づいて、そのときの2点A,Bの位置情報を算出し、更に2点A,Bの位置情報から侵入不可領域面の目標位置Mの情報(後述する例えばr1、θ)を算出し、侵入不可領域面の目標位置情報として記憶する。
【0049】
図5C
オペレータは、モニタ操作装置12を用い、図5Cに示すように、モニタ9の画面に油圧ショベルの上面図と、上部旋回体102の旋回中心を原点とし、車体左右方向に延びる直線をx軸とし、車体前後方向に延びる(x軸に直交する)直線をy軸とする直交座標系を表示させる。次いで、オペレータは、モニタ操作装置12を用いて、モニタ9の画面上に侵入不可領域面の目標位置M上の2点C,Dを指示する。この2点C,Dの指示は2点C,Dの座標値(x1,y1)、(x2,y2)を数値入力することによって行う。2点C,Dの座標値(x1,y1)、(x2,y2)は直交座標系のx軸方向及びy軸方向の距離情報である。入力された座標値(x1,y1)、(x2,y2)の距離情報はモニタコントローラ22を介してメインコントローラ21に送信され、メインコントローラ21は、その座標値の距離情報を侵入不可領域面の目標位置Mの情報として入力する。
【0050】
図5D
図5Dでは、オペレータは、モニタ操作装置12を用いて、モニタ9の画面に直交座標系に代えて極座標系を表示させる。次いで、オペレータは、モニタ操作装置12を用いて、モニタ9の画面上に、侵入不可領域面の目標位置Mの旋回中心(原点)からの動径rと偏角θを指示する。この指示も、動径rと偏角θを数値入力することにって行う。旋回中心から侵入不可領域面までの距離は動径rと一致し、偏角θに応じて侵入不可領域面の位置が回転する。モニタ操作装置12によって入力された動径rと偏角θはモニタコントローラ22を介してメインコントローラ21に送信され、メインコントローラ21は、動径rと偏角θを侵入不可領域面の目標位置Mの情報として入力する。
【0051】
図5E
オペレータは、モニタ操作装置12を用いて、図5Dの場合と同様にモニタ9の画面に極座標系を表示させ、動径rと偏角θ1を入力することで、侵入不可領域面の目標位置M上に1点Eを指示する。次いで、オペレータは、点Eと旋回中心を通る線分に対する角度θ2を入力することで、モニタ9の画面上に侵入不可領域面の目標位置Mを指示する。モニタ操作装置12によって入力された動径rと偏角θ1及び角度θ2はモニタコントローラ22を介してメインコントローラ21に送信され、メインコントローラ21は、動径rと偏角θ1及び角度θ2を侵入不可領域面の目標位置Mの情報として入力する。
【0052】
<メインコントローラ>
次に、メインコントローラ21が行う侵入不可領域面の設定処理の詳細を、図6及び図7を用いて説明する。
【0053】
図6は、メインコントローラ21の侵入不可領域面の設定の処理手順を示すフローチャートであり、このフローチャートの処理手順はメインコントローラ21が動作している間、サンプリング時間ごとに繰り返し実行される。図7は、メインコントローラ21により設定される侵入不可領域面と油圧ショベルとの位置関係とを示す図である。
【0054】
また、図6の処理手順は、侵入不可領域面の目標位置の指示方法として、図5A又は図5Bに示す作業機103の位置合わせによる方法を用いている。
【0055】
図6において、メインコントローラ21は、まず、コンソールスイッチ11が操作されたかどうかを繰り返し判定する(ステップS100)。一方、この間、オペレータは、バケット103cの複数の爪103c1の全ての爪先を侵入不可領域面の目標位置Mに合わせる操作をしており、バケット103cの複数の爪103c1の全ての爪先が侵入不可領域面の目標位置Mに合うと、オペレータはコンソールスイッチ11を押す。このコンソールスイッチ11の信号はモニタコントローラ22を介してメインコントローラ21に送信される。メインコントローラ21は、コンソールスイッチ11からの信号を入力すると、ステップS100において、コンソールスイッチ11が操作されたと判定し、そのときの角度センサ24、ブームIMUセンサ25、アームIMUセンサ26、バケットIMUセンサ27の信号を入力する(ステップS105)。
【0056】
次いで、メインコントローラ21は、入力したセンサ信号に基づいて、バケット103cの複数の爪103c1の全ての爪先に接する線分の位置情報を算出し、更にその線分の位置情報から、侵入不可領域面の目標位置Mと上部旋回体102の旋回中心Oとの距離r1と偏角θを算出し、侵入不可領域面の目標位置情報として記憶する(ステップS110)。
【0057】
ここで、侵入不可領域面の目標位置Mと上部旋回体102の旋回中心Oとの距離r1は、図7に示すように、上部旋回体102の旋回中心Oを通る目標位置Mに対する垂線Nの長さであり、この長さは目標位置Mと旋回中心Oとの最短距離である。偏角θとは、作業機103の長手方向の中心軸線Lに対する垂線Nの角度である。
【0058】
次いで、メインコントローラ21は、距離r1が、上部旋回体102の旋回中心Oから上部旋回体102の後端までの距離r2に基づいて設定された閾値より大きいかどうかを判定する(ステップS115)。本実施形態では、閾値は、上部旋回体102の旋回中心Oから上部旋回体102の後端までの距離r2に等しい値として設定されている。すなわち、閾値=r2である。
【0059】
メインコントローラ21は、距離r1が閾値r2より大きいときは、距離r1と偏角θとを侵入不可領域面の目標位置情報として有効化し、侵入不可領域面を目標位置Mに設定するとともに(ステップS120)、モニタ9に侵入不可領域面の設定が成功したことを表示する(ステップS125)。
【0060】
一方、メインコントローラ21は、距離r1が閾値r2以下であるときは、記憶した目標位置情報(距離r1と偏角θ)を消去、破棄し(ステップS130)、モニタ9に侵入不可領域面の設定が失敗したことを表示する(ステップS135)。
【0061】
<効果>
このように構成した本実施形態においては、上部旋回体102の後端が侵入しない侵入不可領域面だけが自動で選択され、設定されるとともに、侵入不可領域面が設定された場合は、キャビン105内のモニタ9に侵入不可領域面の設定が成功したことが表示され、侵入不可領域面が設定されなかった場合は、モニタ9に侵入不可領域面の設定が失敗したことが表示される。このため、オペレータは侵入不可領域面の設定結果を明確に把握することができ、領域制限制御の侵入不可領域面を設定する際のオペレータの負担を軽減することができる。
【0062】
なお、本実施形態では、距離r1の判定に用いる閾値として上部旋回体102の旋回中心Oから上部旋回体102の後端までの距離r2に等しい値を設定したが、距離r2に所定距離を加算した、距離r2よりも大きな値を当該閾値として設定してもよい。
【0063】
作業現場の状況によっては、侵入不可領域内の侵入不可領域面の近くに他の作業者が何らかの作業をしている場合がある。このような場合、距離r1の判定に用いる閾値を旋回体後端半径r2よりも大きな値に設定することにより、万一、作業者が侵入不可領域内から侵入不可領域面を超えて油圧ショベルの作業領域に入り込んだとしても、上部旋回体102の後端と当該作業者との距離を確保することができる。
【0064】
<第2の実施形態>
本発明の第2の実施形態を図8及び図9を用いて説明する。
【0065】
図8は、本実施形態に係わるメインコントローラ21の侵入不可領域面の設定の処理手順を示すフローチャートである。図9は、メインコントローラ21により設定される侵入不可領域面と油圧ショベルとの位置関係を示す図である。
【0066】
図8において、本実施形態のステップS100~S125の処理手順は第1の実施形態の図6に示したフローチャートの処理手順と同じである。本実施形態は、ステップS125の後の処理手順が第1の実施形態の図6に示したステップS130、S135の処理手順と異なる。
【0067】
すなわち、本実施形態では、メインコントローラ21は、ステップS115において、コンソールスイッチ11(設定操作装置)により設定された侵入不可領域面の目標位置Mと上部旋回体102の旋回中心Oとの距離r1が閾値r2以下のときは、侵入不可領域面として補正侵入不可領域面を設定する(ステップS140)。補正侵入不可領域面は、目標位置Mに侵入不可領域面を設定した場合に侵入不可領域面のうち閾値r2を半径とする仮想円Sの内側となる範囲を除外した領域面である。
【0068】
より詳しくは、メインコントローラ21は、ステップS140において、目標位置Mに侵入不可領域面を設定した場合に侵入不可領域面のうち閾値r2を半径とする仮想円Sと侵入不可領域面との2つの交点C1,C2の位置を算出し、侵入不可領域面のうち2つの交点C1,C2の内側範囲(閾値r2を半径とする仮想円Sの内側となる範囲)Raの目標位置情報を侵入不可領域面の目標位置情報から除外した目標位置M1,M2を設定し、この目標位置M1,M2に補正侵入不可領域面を設定する。
【0069】
次いで、メインコントローラ21は、モニタ9にその補正侵入不可領域面として目標位置M1,M2を表示する(ステップS150)。
【0070】
このように構成した本実施形態においては、ステップS115の判定が肯定されたときは、第1の実施形態と同様の処理が行われるので、第1の実施形態と同様の効果が得られる。
【0071】
また、オペレータが侵入不可領域面を設定して作業を行うとき、オペレータは車体周囲の状況を十分に把握しており、上部旋回体102の後部が侵入不可領域面にわずかに入り込んでも、旋回動作を許容できると判断できる場合がある。侵入不可領域面を過掘削防止などで用いる場合などは、旋回動作を許容できる。
【0072】
本実施形態は、このような場合に、侵入不可領域面として、閾値r2を半径とする仮想円Sの内側となる範囲Raを除外した補正侵入不可領域面を設定し、モニタ9にその補正侵入不可領域面を表示することで、オペレータに設定された侵入不可領域面の採用の可否を判断する機会を与え、オペレータが採用可能と判断した場合は、その侵入不可領域面を設定して作業を行うことができる。これによりオペレータは、再度、侵入不可領域面を設定する作業が不要となり、侵入不可領域面の設定の利便性が向上する効果が得られる。
【0073】
<第3の実施形態>
本発明の第3の実施形態を図10及び図11を用いて説明する。
【0074】
図10は、本実施形態に係わるメインコントローラ21の侵入不可領域面の設定の処理手順を示すフローチャートである。図11は、メインコントローラ21により設定される侵入不可領域面と油圧ショベルとの位置関係を示す図である。
【0075】
図10において、本実施形態は、ステップS145の処理手順が図8に示したステップS140の処理手順と異なっている。
【0076】
すなわち、本実施形態では、メインコントローラ21は、ステップS115において、コンソールスイッチ11(設定操作装置)により設定された侵入不可領域面の目標位置Mと上部旋回体102の旋回中心Oとの距離r1が閾値r2以下のときは、侵入不可領域面として補正侵入不可領域面を設定する(ステップS145)。本実施形態での補正侵入不可領域面は、目標位置Mに侵入不可領域面を設定した場合に侵入不可領域面のうち閾値r2を半径とする仮想円Sの内側となる範囲を除外すると共に、除外された範囲を仮想円Sの円弧に置き換えた領域面である。
【0077】
より詳しくは、メインコントローラ21は、ステップS145において、目標位置Mに侵入不可領域面を設定した場合に、閾値r2を半径とする仮想円Sと侵入不可領域面との2つの交点C1,C2の位置を算出した後、侵入不可領域面のうち2つの交点C1,C2の内側範囲(閾値r2を半径とする仮想円Sの内側となる範囲)Raの目標位置情報を、仮想円Sの2つの交点C1,C2の内側範囲Raの円弧Saの位置情報に置き換えた目標位置M1,Sa,M2を設定し、この目標位置M1,Sa,M2に補正侵入不可領域面を設定する。
【0078】
次いで、メインコントローラ21は、モニタ9にその補正侵入不可領域面として目標位置M1,Sa,M2を表示する(ステップS150)。
【0079】
本実施形態によっても、第2の実施形態と同様の効果が得られる。
【0080】
<第4の実施形態>
本発明の第4の実施形態を図12を用いて説明する。
【0081】
図12は、本実施形態に係わるメインコントローラ21の侵入不可領域面の設定の処理手順を示すフローチャートである。
【0082】
第1~第3の実施形態は、侵入不可領域面の目標位置の指示方法として、図5A又は図5Bに示す作業機103の位置合わせによる方法を用いている。本実施形態は、侵入不可領域面の目標位置の指示方法として、図5C,図5D又は図5Eに示すモニタ操作装置12の数値入力による方法を用いた場合のものである。
【0083】
図5C図5D又は図5Eに示すモニタ操作装置12を用いた侵入不可領域面の目標位置の指示方法では、モニタ操作装置12からメインコントローラ21に送信される入力情報に侵入不可領域面の目標位置を算出するため位置情報が含まれている。このため図12に示される本実施形態に係わるフローチャートの処理手順には、第1の実施形態の図6に示されるフローチャートの処理手順にあったセンサ信号を入力するステップS105の処理手順は含まれていない。
【0084】
また、侵入不可領域面の目標位置の指示にコンソールスイッチ11ではなくモニタ操作装置12を用いるため、メインコントローラ21は、モニタ操作装置12からの入力情報の送信があったかどうかを判定し(ステップS100A)、モニタ操作装置12からの入力情報の送信があったときに、モニタ操作装置12からの入力情報に基づいて、侵入不可領域面の目標位置情報として、上部旋回体102の旋回中心Oから設定したい侵入不可領域面までの距離r1と偏角θを算出し、侵入不可領域面の目標位置情報として記憶する(ステップS110A)。

【0085】
それ以下の手順は第1の実施形態の図6に示すフローチャートと同じである。
【0086】
このように構成した本実施形態においても、モニタ操作装置12を用いて第1の実施形態と同様な効果が得られる。
【0087】
なお、第4の実施形態は、図6に示した第1の実施形態のフローチャートのステップS100~ステップS110の手順を、図5C図5D又は図5Eに示すモニタ操作装置12の数値入力による位置情報を用いたものに変更したが、図8及び図10に示した第2及び第3の実施形態のフローチャートのステップS100~ステップS110の手順を、図5C図5D又は図5Eに示すモニタ操作装置12の数値入力による位置情報を用いたものに変更してもよく、その場合も、第2及び第3の実施形態と同様な効果が得られる。
【符号の説明】
【0088】
3,4 操作レバー装置
9 モニタ
10 コンソールボックス
11 コンソールスイッチ
12 モニタ操作装置
21 メインコントローラ(コントローラ)
22 モニタコントローラ
24 角度センサ
25 ブームIMUセンサ
26 アームIMUセンサ
27 バケットIMUセンサ
100 下部走行体
102 上部旋回体
103 作業機
103a ブーム(フロント部材)
103b アーム(フロント部材)
103c バケット(フロント部材)
105 キャビン
M,M1,M2 目標位置
r1 距離
r2 旋回体後端半径(閾値)
θ 偏角
C1,C2 交点
S 仮想円
Ra 内側範囲
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図5C
図5D
図5E
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12