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特許7397246ドクターチャンバーコーター及び塗工物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-05
(45)【発行日】2023-12-13
(54)【発明の名称】ドクターチャンバーコーター及び塗工物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B05C 1/08 20060101AFI20231206BHJP
   B05C 11/10 20060101ALI20231206BHJP
   B05D 1/28 20060101ALI20231206BHJP
   B05D 3/00 20060101ALI20231206BHJP
【FI】
B05C1/08
B05C11/10
B05D1/28
B05D3/00 A
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2020022744
(22)【出願日】2020-02-13
(65)【公開番号】P2020163371
(43)【公開日】2020-10-08
【審査請求日】2022-10-06
(31)【優先権主張番号】P 2019059034
(32)【優先日】2019-03-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000207436
【氏名又は名称】日鉄鋼板株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】中村 浩茂
(72)【発明者】
【氏名】田村 紀智
(72)【発明者】
【氏名】樋口 均
【審査官】鏡 宣宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-239976(JP,A)
【文献】特開2000-84453(JP,A)
【文献】特開平10-296961(JP,A)
【文献】特開2015-89620(JP,A)
【文献】特開2003-251241(JP,A)
【文献】特開平8-300616(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05C 1/00-21/00
B05D 1/00-7/26
B41F 31/00ー35/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
不溶物を含む塗工液を被塗工物に塗工するドクターチャンバーコーターであって、
開口部を有するドクターチャンバーと、
周面が前記開口部を通して前記ドクターチャンバーの内部に臨むように配置されたロール体と、
前記ロール体の軸方向に関する前記ドクターチャンバーの一端側下部に設けられた供給口と、
前記ロール体の軸方向に関する前記ドクターチャンバーの他端側下部に設けられた排出口と、
前記供給口に接続されて、前記供給口を通して前記ドクターチャンバー内に前記塗工液を供給する供給装置と
を備え、
前記供給装置は、前記ドクターチャンバーの底部における前記軸方向に沿う前記塗工液の流速が0.1m/s以上となるように、前記供給口から前記ドクターチャンバー内に前記塗工液を供給する、
ドクターチャンバーコーター。
【請求項2】
前記供給口及び排出口の少なくとも一方は、前記ドクターチャンバーの内部の側壁面に設けられている、
請求項1記載のドクターチャンバーコーター。
【請求項3】
前記供給口及び排出口の少なくとも一方の下縁は、前記ドクターチャンバーの内部の底壁面と同じ高さに配置されている、
請求項1又は請求項2に記載のドクターチャンバーコーター。
【請求項4】
前記供給装置は、前記塗工液の液面が鉛直方向に係る前記供給口の中央以上の位置となり、かつ前記供給口の上部から前記供給口の内径以下の位置となるように前記塗工液を供給する、
請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載のドクターチャンバーコーター。
【請求項5】
前記ドクターチャンバーの内部の底壁面は、前端が奥端よりも上方に位置するように前上がりに設けられている、
請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載のドクターチャンバーコーター。
【請求項6】
前記供給口及び排出口は、前記ドクターチャンバーの内部の側壁面に設けられているとともに、前記ドクターチャンバーの奥行方向に関して前記底壁面の前端よりも前記ドクターチャンバーの奥壁面に近い位置に配置されている、
請求項5記載のドクターチャンバーコーター。
【請求項7】
前記供給口及び排出口は、前記供給口及び排出口の外縁が前記底壁面及び前記奥壁面に接する位置に配置されており、
前記底壁面と前記奥壁面との接続面は、前記供給口及び排出口の外縁と同じ曲率半径を有する曲面とされている、
請求項6記載のドクターチャンバーコーター。
【請求項8】
不溶物を含む塗工液を被塗工物に塗工するドクターチャンバーコーターであって、
開口部を有するドクターチャンバーと、
周面が前記開口部を通して前記ドクターチャンバーの内部に臨むように配置されたロール体と、
前記ロール体の軸方向に関する前記ドクターチャンバーの一端側下部に設けられた供給口と、
前記ロール体の軸方向に関する前記ドクターチャンバーの他端側下部に設けられた排出口と、
前記供給口に接続されて、前記供給口を通して前記ドクターチャンバー内に前記塗工液を供給する供給装置と
を備え、
前記ドクターチャンバーの内部の底壁面は、前端が奥端よりも上方に位置するように前上がりに設けられている、
ドクターチャンバーコーター。
【請求項9】
前記供給口及び排出口は、前記ドクターチャンバーの内部の側壁面の下部に設けられているとともに、前記ドクターチャンバーの奥行方向に関して前記底壁面の前端よりも前記ドクターチャンバーの奥壁面に近い位置に配置されている、
請求項8記載のドクターチャンバーコーター。
【請求項10】
前記供給口及び排出口は、前記供給口及び排出口の外縁が前記底壁面及び前記奥壁面に接する位置に配置されており、
前記底壁面と前記奥壁面との接続面は、前記供給口及び排出口の外縁と同じ曲率半径を有する曲面とされている、
請求項9記載のドクターチャンバーコーター。
【請求項11】
前記供給口及び排出口の少なくとも一方の下縁は、前記ドクターチャンバーの内部の最下部に配置されている、
請求項1から請求項10までのいずれか一項に記載のドクターチャンバーコーター。
【請求項12】
前記ドクターチャンバーは、前記ロール体の回転軸を中心に前記ロール体の周方向に回動可能に設けられている、
請求項1から請求項11までのいずれか一項に記載のドクターチャンバーコーター。
【請求項13】
前記ドクターチャンバーは、
チャンバー本体と、
前記ロール体の回転方向に係る前記開口部の下流側に配置され、先端が前記ロール体の周面に突き当てられた下流側ドクターブレードと
を備え、
前記下流側ドクターブレードは、先端が前記ロール体の下部周面に突き当てられている、
請求項1から請求項12までのいずれか一項に記載のドクターチャンバーコーター。
【請求項14】
請求項1から請求項13までのいずれか一項に記載のドクターチャンバーコーターを使用して被塗工物に塗工液を塗工することを含む、塗工物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被塗工物に塗工液を塗工するドクターチャンバーコーター及び塗工物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来用いられていたこの種のドクターチャンバーコーターとしては、例えば下記の特許文献1等に示されている構成を挙げることができる。すなわち、従来構成では、インクタンクからインク供給路を通してドクターチャンバーの内部空間にインク(塗工液)を供給し、ドクターチャンバーの内部空間に臨むように配置されたロール体の周面に付着したインクを被塗工物に塗工している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平8-58069号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のような従来のドクターチャンバーコーターを用いて、例えば顔料又は骨材等の不溶物を含む塗工液を被塗工物に塗工しようとしたところ、被塗工物の塗工面に意図しない模様(スジ)が発生することがあった。その原因を調査したところ、以下のことが分った。
【0005】
図9は従来のドクターチャンバーコーター1を示す構成図であり、図10図9のドクターチャンバー2を示す正面図であり、図11図9のドクターチャンバー2、ロール体3及び下流側ドクターブレード22を示す下面図である。従来のドクターチャンバーコーター1では、塗工液1aが貯められるドクターチャンバー2の下部中央に供給口201が設けられ、ドクターチャンバー2の上部両側に排出口202が設けられている。供給口201からドクターチャンバー2内に塗工液1aが供給され、ドクターチャンバー2内で一定高さに貯まった塗工液1aが排出口202から排出される。
【0006】
このような塗工液1aの供給及び排出態様の場合、例えば供給口201と排出口202との間の領域等、ドクターチャンバー2の内部で塗工液1aが滞留する領域が生じていた。塗工液1aが滞留する領域では不溶物が徐々に沈降し、その沈降している不溶物が舞い上がった際に、ドクターチャンバー2に供給されたばかりの新たな塗工液1a(新液1b)とドクターチャンバー2内で滞留している塗工液1a(滞留液1c)との間に不溶物の濃度に違いが生じる。そして、この新液1bと滞留液1cとの間の不溶物濃度の違いにより、上述のような模様(スジ)1dが発生していた(図11参照)。
【0007】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、その目的は、被塗工物の塗工面に意図しない模様が発生する虞を低減できるドクターチャンバーコーター及び塗工物の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るドクターチャンバーコーターは、不溶物を含む塗工液を被塗工物に塗工するドクターチャンバーコーターであって、開口部を有するドクターチャンバーと、周面が開口部を通してドクターチャンバーの内部に臨むように配置されたロール体と、ロール体の軸方向に関するドクターチャンバーの一端側下部に設けられた供給口と、ロール体の軸方向に関するドクターチャンバーの他端側下部に設けられた排出口と、供給口に接続されて、供給口を通してドクターチャンバー内に塗工液を供給する供給装置とを備え、供給装置は、ドクターチャンバーの底部における軸方向に沿う塗工液の流速が0.1m/s以上となるように、供給口からドクターチャンバー内に塗工液を供給する。
【0009】
また、本発明に係るドクターチャンバーコーターは、不溶物を含む塗工液を被塗工物に塗工するドクターチャンバーコーターであって、開口部を有するドクターチャンバーと、周面が開口部を通してドクターチャンバーの内部に臨むように配置されたロール体と、ロール体の軸方向に関するドクターチャンバーの一端側下部に設けられた供給口と、ロール体の軸方向に関するドクターチャンバーの他端側下部に設けられた排出口と、供給口に接続されて、供給口を通してドクターチャンバー内に塗工液を供給する供給装置とを備え、ドクターチャンバーの内部の底壁面は、前端が奥端よりも上方に位置するように前上がりに設けられている。
【0010】
また、本発明に係る塗工物の製造方法は、上記のドクターチャンバーコーターを使用して被塗工物に塗工液を塗工することを含む。
【発明の効果】
【0011】
本発明のドクターチャンバーコーター及び塗工物の製造方法によれば、ロール体の軸方向に関するドクターチャンバーの一端側下部に供給口が設けられ、ロール体の軸方向に関するドクターチャンバーの他端側下部に排出口が設けられ、ドクターチャンバーの底部におけるロール体の軸方向に沿う塗工液の流速が0.1m/s以上となるように、供給装置が供給口からドクターチャンバー内に塗工液を供給するので、ドクターチャンバーの内部に不溶物が沈降する虞を低減でき、被塗工物の塗工面に意図しない模様が発生する虞を低減できる。
【0012】
また、本発明のドクターチャンバーコーター及び塗工物の製造方法によれば、ドクターチャンバーの内部の底壁面は、前端が奥端よりも上方に位置するように前上がりに設けられているので、不溶物の沈降が発生したとしても不溶物をロール体3から遠ざけることができ、被塗工物の塗工面に意図しない模様が発生する虞を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施の形態1によるドクターチャンバーコーターを示す構成図である。
図2図1のドクターチャンバーを示す正面図である。
図3図1のドクターチャンバー、ロール体及び下流側ドクターブレードを示す下面図である。
図4】本発明の実施の形態2によるドクターチャンバーコーターを示す構成図である。
図5図4のドクターチャンバーを示す正面図である。
図6図4のドクターチャンバー、ロール体及び下流側ドクターブレードを示す下面図である。
図7】本発明の実施の形態3によるドクターチャンバーコーターを示す構成図である。
図8】本発明の実施の形態4によるドクターチャンバーコーターを示す構成図である。
図9】従来のドクターチャンバーコーターを示す構成図である。
図10図9のドクターチャンバーを示す正面図である。
図11図9のドクターチャンバー、ロール体及び下流側ドクターブレードを示す下面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照して説明する。本発明は各実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、各実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施の形態に示される全構成要素からいくつかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態の構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【0015】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1によるドクターチャンバーコーター1を示す構成図である。なお、図1のドクターチャンバー2は、図2の線A-Aに沿う断面で示されている。図1に示すドクターチャンバーコーター1は、不溶物を含む塗工液1aを被塗工物に塗工するための設備である。不溶物とは、例えば顔料又は骨材等、溶剤に溶けずに分散されているものである。被塗工物としては、例えば紙、プラスチック又は金属等の素材からなる帯状部材を挙げることができる。金属製の帯状部材には、鋼帯及びステンレス鋼帯が含まれる。
【0016】
ドクターチャンバーコーター1には、ドクターチャンバー2、ロール体3及び供給装置4が含まれている。
【0017】
ドクターチャンバー2は前部に開口部2aが形成された容器体であり、ドクターチャンバー2の内部には塗工液1aが溜められる。
【0018】
ロール体3は、図示しない駆動装置の駆動力により回転可能に設けられた円柱状部材であり、その周面が開口部2aを通してドクターチャンバー2の内部に臨むように配置されている。ロール体3が回転駆動されることで、ドクターチャンバー2内の塗工液1aがロール体3の周面に順次付着する。ロール体3の周面に付着した塗工液1aが被塗工物に塗工される。ロール体3と被塗工物との間に他のロールが介在されてもよいし、ロール体3から被塗工物に直接的に塗工液1aの塗工が行われてもよい。
【0019】
供給装置4は、ドクターチャンバー2内に塗工液1aを供給するための装置であり、図示しない管等によりドクターチャンバー2に接続されている。限定はされないが、供給装置4は、タンク及びポンプにより構成することができる。タンクには、塗工液1aが貯められる。ポンプは、タンク内の塗工液1aをドクターチャンバー2に供給する。ドクターチャンバー2に供給された塗工液1aは、ドクターチャンバー2からタンクに戻される。すなわち、塗工液1aは、タンクとドクターチャンバー2との間で循環されることができる。
【0020】
ドクターチャンバー2には、チャンバー本体20、上流側ドクターブレード21及び下流側ドクターブレード22が含まれている。
【0021】
チャンバー本体20は、ロール体3の軸方向3aに延在する断面略C字状の部材である。チャンバー本体20に上流側ドクターブレード21及び下流側ドクターブレード22が取り付けられている。
【0022】
上流側ドクターブレード21は、ロール体3の回転方向に係る開口部2aの上流側に配置された長手状部材である。上流側ドクターブレード21は、先端がロール体3の周面に突き当てられるようにチャンバー本体20の上部から延出されている。同様に、下流側ドクターブレード22は、ロール体3の回転方向に係る開口部2aの下流側に配置された長手状部材である。下流側ドクターブレード22は、先端がロール体3の周面に突き当てられるようにチャンバー本体20の下部から延出されている。ドクターチャンバー2の開口部2aは、上流側ドクターブレード21及び下流側ドクターブレード22の先端間の空隙によって定義できる。各ブレード21,22の先端がロール体3の周面に突き当てられていることで、チャンバー本体20の内部は周囲が全体として囲われた空間とされている。
【0023】
図示しないが、ロール体3の周面には凹部が形成されている。下流側ドクターブレード22は、凹部内の塗工液1aを残すように、ロール体3の周面に付着した塗工液1aを掻きとる。これにより、一定量の塗工液1aがロール体3の周面に残るようにされている。
【0024】
本実施の形態の下流側ドクターブレード22は、ロール体3側の先端がチャンバー本体20側の基端よりも上方に位置するように前上がりに配置されている。また、下流側ドクターブレード22の延在方向とロール体3の接線との間のドクターチャンバー2内における角度θは90°未満とされている。この角度θを90°未満とすることで、下流側ドクターブレード22の先端がロール体3の周面に押し付けられる力(ドクター圧)が大きくなり、下流側ドクターブレード22による塗工液1aの掻きとりをより確実に行うことができる。下流側ドクターブレード22の延在方向とロール体3の接線との間のドクターチャンバー2内における角度θを40°以上かつ60°以下とすることが好ましく、50°以上かつ60°以下とすることがより好ましい。
【0025】
次に、図2図1のドクターチャンバー2を示す正面図であり、図3図1のドクターチャンバー2、ロール体3及び下流側ドクターブレード22を示す下面図である。
【0026】
図2に特に示すように、チャンバー本体20には、塗工液1aを貯めるための内部空間を形成する内壁面200が設けられている。内壁面200には、底壁面200a、一対の側壁面200b及び奥壁面200cが含まれている。
【0027】
底壁面200aは、チャンバー本体20の内部下側でチャンバー本体20の奥行方向20aに延在された壁面である。本実施の形態の底壁面200aは、ドクターチャンバーコーター1の使用時に水平に対して傾斜するように延在されている(図1参照)。底壁面200aは、前端が奥端よりも下方に位置するように前下がりに設けられている。
【0028】
一対の側壁面200bは、底壁面200aの両側端からチャンバー本体20の高さ方向20bに立設された壁面である。
【0029】
奥壁面200cは、底壁面200aの奥端からチャンバー本体20の高さ方向20bに立設された壁面である。奥壁面200cには、各側壁面200bの奥端が接続されている。
【0030】
チャンバー本体20の内壁面200には、チャンバー本体20の内部空間に向けて開口する供給口201及び排出口202が設けられている。本実施の形態の供給口201は、ロール体3の軸方向3aに関するドクターチャンバー2の一端側下部に設けられている。本実施の形態の排出口202は、ロール体3の軸方向3aに関するドクターチャンバー2の他端側下部に設けられている。本実施の形態の供給口201及び排出口202は、奥壁面200cの下部において形成されている。供給装置4からチャンバー本体20内に供給口201を通して塗工液1aが供給され、チャンバー本体20内の塗工液1aが排出口202を通して排出される。
【0031】
供給装置4は、ドクターチャンバー2の底部における軸方向3aに沿う塗工液1aの流速が0.1m/s以上となるように、供給口201からドクターチャンバー2内に塗工液1aを供給する。換言すると、ドクターチャンバー2の底部における軸方向3aに沿う塗工液1aの流速が0.1m/s以上となるように、供給装置4による塗工液1aの単位時間当たりの供給量(圧送量)が設定される。この供給装置4による塗工液1aの供給は、ドクターチャンバーコーター1の稼働時に常時行われる。供給口201及び排出口202の開口面積は、上述の塗工液1aの流速を許容することができる大きさに設定される。
【0032】
なお、ドクターチャンバー2の底部とは、チャンバー本体20の底壁面200a及び下流側ドクターブレード22の上面の近傍を指す。例えば、ドクターチャンバー2の底部は、チャンバー本体20の底壁面200a及び下流側ドクターブレード22の上面、供給口201の内径底部位置、または排出口202の内径底部位置として理解することができる。
【0033】
また、ドクターチャンバー2の底部における軸方向3aに沿う塗工液1aの流速は、以下の方法により求めることができる。すなわち、供給口201からドクターチャンバー2の底部に流入する塗工液1aの流量をA(L/s)として、供給口201の内径断面積をS(cm2)としたとき、供給口201における塗工液1aの流速は、A/S×0.01(m/s)である。例えば、供給口201の内径断面積Sが5cm2の場合、供給口201から流量1L/sの塗工液1aがドクターチャンバー2の底部に流入するとき、供給口201における塗工液1aの流速は、2m/sである。
【0034】
供給口201及び排出口202はチャンバー本体20の底壁面200aから離れた位置に配置されていてもよいが、本実施の形態の供給口201及び排出口202は、それらの下縁がドクターチャンバーの底面と同じ高さに位置するように配置されている。
【0035】
また、供給装置4は、塗工液1aの液面が鉛直方向に係る供給口201の中央以上の位置となり、かつ供給口201の上部から供給口201の内径以下の位置となるように塗工液1aを供給する。
【0036】
次に、供給口201及び排出口202の配置等による作用について説明する。上述のように、塗工液1aは不溶物を含んでいる。この不溶物は、例えばロール体3の回転速度が遅いとき等、ドクターチャンバー2内での塗工液1aの流動が小さいときにドクターチャンバー2内に沈降する場合がある。ドクターチャンバー2内で不溶物の沈降が生じると、被塗工物の塗工面に意図しない模様が発生する虞が生じる。
【0037】
これに対して、本実施の形態のドクターチャンバーコーター1及び塗工物の製造方法では、ロール体3の軸方向3aに関するドクターチャンバー2の一端側下部に供給口201が設けられ、ロール体3の軸方向3aに関するドクターチャンバー2の他端側下部に排出口202が設けられ、ドクターチャンバー2の底部におけるロール体3の軸方向3aに沿う塗工液1aの流速が0.1m/s以上となるように供給装置4が供給口201からドクターチャンバー2内に塗工液1aを供給する。このため、図2及び図3にて矢印で示すように、ドクターチャンバー2の一端側から他端側にかけてドクターチャンバー2の底部で塗工液1aを常に流動させることができる。従って、ドクターチャンバー2の内部に不溶物が沈降する虞を低減でき、被塗工物の塗工面に意図しない模様が発生する虞を低減できる。
【0038】
また、供給口201及び排出口202の下縁がドクターチャンバー2の底面と同じ高さに配置されているので、より確実にドクターチャンバー2の底部で塗工液1aを流動させることができ、被塗工物の塗工面に意図しない模様が発生する虞をより確実に低減できる。
【0039】
さらに、供給装置4は、ドクターチャンバー2の底面から塗工液1aの液面までの高さが塗工液1aの液面が鉛直方向に係る供給口201の中央以上の位置となり、かつ供給口201の上部から供給口201の内径以下の位置となるように塗工液1aを供給するので、より確実にドクターチャンバー2の底部で塗工液1aを流動させることができ、被塗工物の塗工面に意図しない模様が発生する虞をより確実に低減できる。
【0040】
実施の形態2.
図4は本発明の実施の形態2によるドクターチャンバーコーター1を示す構成図であり、図5図4のドクターチャンバー2を示す正面図であり、図6図4のドクターチャンバー2、ロール体3及び下流側ドクターブレード22を示す下面図である。なお、図4のドクターチャンバー2は、図5の線B-Bに沿う断面で示されている。
【0041】
実施の形態1のドクターチャンバーコーター1では、奥壁面200cの下部に供給口201及び排出口202が形成されている。これに対して、図4図6に示すように、実施の形態2のドクターチャンバーコーター1では、ドクターチャンバー2の側壁面200bの下部に供給口201及び排出口202が形成されている。すなわち、実施の形態2のドクターチャンバーコーター1は、供給口201からロール体3の軸方向3aに向かって塗工液1aが流出し、ロール体3の軸方向3aに沿って塗工液1aが排出口202に流入するように構成されている。このように供給口201及び排出口202が設けられることで、ドクターチャンバー2の一端側から他端側にかけてより確実にドクターチャンバー2の底部で塗工液1aを常に流動させることができる。従って、ドクターチャンバー2の内部に不溶物が沈降する虞をより確実に低減でき、被塗工物の塗工面に意図しない模様が発生する虞をさらに低減できる。その他の構成は、実施の形態1と同様である。
【0042】
なお、実施の形態2のドクターチャンバーコーター1では供給口201及び排出口202の両方が側壁面200bに設けられるように説明したが、供給口201及び排出口202の一方が例えば奥壁面200c等の他の場所に設けられていてもよい。
【0043】
実施の形態3.
図7は、本発明の実施の形態3によるドクターチャンバーコーターを示す構成図である。なお、図7のドクターチャンバーコーターの正面図は、図5図4のドクターチャンバー2を示す正面図)と同様である。実施の形態1,2では、前端が奥端よりも下方に位置するように底壁面200aが前下がりに設けられているように説明した。しかしながら、本実施の形態3のドクターチャンバーコーターでは、図7に示すように、前端が奥端よりも上方に位置するように底壁面200aが前上がりに設けられている。仮に不溶物の沈降が発生したとしても、底壁面200aの傾斜により不溶物が奥壁面200c側に集まるため、不溶物がロール体3から遠ざけられる。
【0044】
本実施の形態のドクターチャンバーコーター1の使用時における水平に対する底壁面200aの傾斜角度は5°とされている。底壁面200aの傾斜角度は0°以上であり、2°以上であることが好ましく、4°以上であることがより好ましく、6°以上であることがさらに好ましい。底壁面200aの傾斜角度が大きいほど、不溶物を奥壁面200c側に集めることができる。底壁面200aの傾斜角度を大きくし過ぎると、チャンバー本体20と前端と下流側ドクターブレード22との間の段差が大きくなる。底壁面200aの傾斜角度の上限は、チャンバー本体20と前端と下流側ドクターブレード22との間の段差が所定の大きさ以下となるように、下流側ドクターブレード22の延在方向とロール体3の接線との間のドクターチャンバー2内における角度θに基づき決定することができる。
【0045】
本実施の形態の供給口201及び排出口202は、ドクターチャンバー2の側壁面200bの下部に設けられている。また、供給口201及び排出口202は、チャンバー本体20の奥行方向20aに関して底壁面200aの前端よりも奥壁面200cに近い位置に配置されている。奥壁面200c側に集まる不溶物を、供給口201からの塗工液1aの流れにより排出口202に向かわせることができ、ドクターチャンバー2の内部に不溶物が沈降する虞をより確実に低減できる。供給口201及び排出口202の位置は、チャンバー本体20の奥行方向20aに関する供給口201及び排出口202の中心位置を基準とすることができる。本実施の形態の供給口201及び排出口202は、供給口201及び排出口202の外縁が奥壁面200cに接する位置に配置されている。また、本実施の形態の供給口201及び排出口202は、供給口201及び排出口202の外縁が底壁面200aに接する位置に配置されている。本実施の形態の供給口201及び排出口202の下縁は、ドクターチャンバー2の内部の最下部に配置されている。供給口201及び排出口202の下縁がドクターチャンバー2の内部の最下部に配置されていることで、不溶物が沈降する虞をより確実に低減できる。但し、供給口201及び排出口202のいずれか一方の下縁が他方の下縁よりも上方に配置されていてもよい。
【0046】
底壁面200aと奥壁面200cとの接続面は、供給口201及び排出口202の外縁と同じ曲率半径を有する曲面とされている。供給口201からの塗工液1aの流れを底壁面200aの奥及び奥壁面200cの下部に沿わせることができ、ドクターチャンバーの内部に不溶物が沈降する虞をより確実に低減できる。
【0047】
実施の形態4.
図8は、本発明の実施の形態4によるドクターチャンバーコーターを示す構成図である。実施の形態4によるドクターチャンバーコーター1の全体としての構成は、実施の形態3の構成と同様である。
【0048】
図8に示すように、上流側ドクターブレード21が省略されて、ロール体3の回転方向に係る下流側ドクターブレード22の上流側でチャンバー本体20の内部が開放されていてもよい。上流側ドクターブレード21が省略されているとき、チャンバー本体20の上部前端20cと下流側ドクターブレード22の先端との間の空隙によって開口部2aを定義できる。
【0049】
本実施の形態4のドクターチャンバー2は、ロール体3の回転軸を中心にロール体3の周方向に回動可能に設けられている。ドクターチャンバー2が回動されるとき、下流側ドクターブレード22の先端がロール体3の周面に突き当てられた状態が維持される。また、供給口201及び排出口202の外縁が奥壁面200c及び底壁面200aに接する位置に配置されていることで、ドクターチャンバー2が回動されるときに、供給口201及び排出口202の下縁がドクターチャンバー2の内部の最下部に位置する状態がより確実に維持される。但し、ドクターチャンバー2は、厳密にロール体3の回転軸を中心に回動されなくてよい。ドクターチャンバー2が回動されるとき、チャンバー本体20からの下流側ドクターブレード22の突出量を変更しつつ、ドクターチャンバー2とロール体3との間の距離を変更してもよい。
【0050】
ドクターチャンバー2は、下流側ドクターブレード22の先端がロール体3の下部周面に突き当てられる角度位置に配置されることが好ましい。下流側ドクターブレード22の先端がロール体3の下部周面に突き当てられることにより、ロール体3の下部から塗工液1aが垂れ落ちる虞を低減できる。ロール体3の下部周面は、鉛直方向に係るロール体3の下側の周面と理解できる。このように、下流側ドクターブレード22の先端がロール体3の下部周面に突き当てられる態様は、ドクターチャンバー2が回動に設けられていない態様においても有用である。
【0051】
ドクターチャンバー2を回動させた後の鉛直方向に係る塗工液1aの液面と下流側ドクターブレード22の先端との間の距離は、5mm以上であることが好ましい。5mm以上であることで、ロール体3の周面に十分な量の塗工液1aを付着させることができる。また、ドクターチャンバー2を回動させた後の鉛直方向に係る塗工液1aの液面と供給口201の上端部との間の距離は、10mm以下であることが好ましい。10mm以下であることで、塗工液1aの液面の近傍で塗工液1aの滞留部分が生じる虞を低減できる。
【0052】
本実施の形態の塗工物の製造方法は、上述の実施の形態1~4で説明したようなドクターチャンバーコーター1を使用して被塗工物に塗工液を塗工することを含む。
【0053】
次に、実施例を挙げる。塗工液1aの液面の高さは、供給装置4(流入ポンプおよび排出ポンプ)によってコントロールされる。塗工液1aの液面は、供給口201の上端部より10mm高い位置と供給口201の上端部から10mm低い位置との間でコントロールした。なお、供給口201の断面積は6.15cm2であり、供給口201の内径は2.8cmである。排出口202の断面積及び内径は、供給口201の断面積及び内径と同じである。供給口201は、供給口201の下縁がドクターチャンバーの底面と同じ高さに位置するように配置されている。また、供給口201及び排出口202は、図7(実施の形態3)に示すようにドクターチャンバー2の側壁面200bの下部に設けられている。
【0054】
循環に用いた塗工液1a(塗料)は、粘度が#4フォードカップにて80秒である黒色塗料であり、骨材として平均粒径4μmの骨材粒子を5%含有し、有機溶剤を40%含んでいるものを用いた。
【0055】
一定流速で30分間塗工液を循環した場合の不溶物(骨材等)の沈降状況を目視確認し、さらに、鋼板へ塗工(塗装)し、到達板温度230℃で焼付けた場合の塗工物の表面外観を調査した。その結果を表1に示す。表1では、表面にスジ模様のない良好外観を○で示し、スジ模様が1本以上発生したものを×で示した。表1の通り、ドクターチャンバー2の底部における軸方向3aに沿う塗工液1aの流速が0.1m/s以上の場合、スジ模様は発生せず、表面外観が良好であった。
【0056】
【表1】
【0057】
次に、供給口201の内径を変えつつドクターチャンバーの底面を基準とする塗工液1aの液面高さを変更して鋼板への塗工を行い、塗工物の表面外観を調査した。その結果を表2に示す。なお、塗工液1a等の基本的な条件は上記の表1の実施例と同様である。表2では、表面にスジ模様のない良好外観を○で示し、スジ模様が1本以上発生したものを×で示し、塗料切れが発生し、未塗装部を含むまだらに塗装されたものを××で示している。
【0058】
【表2】
【0059】
表2のNo.1~5は、供給口201の内径を2.8cmとした実施例である。No.1~3は、塗工液1aの液面が鉛直方向に係る供給口201の中央以上の位置となり、かつ供給口201の上部から供給口201の内径以下の位置となるように塗工液1aの供給を制御した実施例である。このような液面高さとすることで、スジ模様の発生を回避しつつ、良好な表面外観が得ることができた。No.4は、塗工液1aの液面を鉛直方向に係る供給口201の中央よりも低い位置とした実施例である。No.5は、塗工液1aの液面を供給口201の上部から供給口201の内径よりも高い位置とした実施例である。No.4では、塗料切れが発生し、未塗装部を含むまだらに塗装された。No.5では、スジ模様が1本以上発生した。
【0060】
表2のNo.6~10は供給口201の内径を1.6cmとした実施例であり、No.11~15は供給口201の内径を4.2cmとした実施例である。No.1~3と同様に、塗工液1aの液面が鉛直方向に係る供給口201の中央以上の位置となり、かつ供給口201の上部から供給口201の内径以下の位置となるように塗工液1aの供給を制御したNo.6~8,11~13では、スジ模様の発生を回避しつつ、良好な表面外観が得ることができた。
【符号の説明】
【0061】
1 ドクターチャンバーコーター
1a 塗工液
2 ドクターチャンバー
2a 開口部
20 チャンバー本体
200b 側壁面
201 供給口
202 排出口
3 ロール体
4 供給装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11