(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-05
(45)【発行日】2023-12-13
(54)【発明の名称】2段遠心ポンプ
(51)【国際特許分類】
F04D 29/041 20060101AFI20231206BHJP
【FI】
F04D29/041
(21)【出願番号】P 2020135337
(22)【出願日】2020-08-07
【審査請求日】2023-04-04
(73)【特許権者】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】デロイトトーマツ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】仙石 幸治
【審査官】中村 大輔
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-503997(JP,A)
【文献】実開昭53-122702(JP,U)
【文献】特開平11-280694(JP,A)
【文献】特開2000-291587(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04D 1/00-13/16
F04D 17/00-19/02
F04D 21/00-25/16
F04D 29/00-35/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
支軸(6)と、
前記支軸(6)に回転自在に保持された中空のロータ軸(3)と、
前記ロータ軸(3)の端部外周に固着されている円筒状のロータ(14)と、
前記ロータ(14)の外周側に配置されて前記ロータ(14)を回転させるための回転磁界を発生するステータ(15)と、
吸入口(22a)を有するカバー部材(22)と、
隔壁(21A)を有する円筒状の筒状部(21)と、
前記吸入口(22a)側に開口して前記ロータ(14)が収納される有底円筒部(23A)を有して、前記ロータ(14)と前記ステータ(15)とを仕切るケース部材(23)とを備え、
前記ロータ軸(3)に2つの第1及び第2インペラ(4,5)を軸方向に沿って取り付け、前記筒状部(21)の軸方向で2つの開口部に前記カバー部材(22)及び前記ケース部材(23)をそれぞれ連結一体化して構成されているポンプケース(2)内で前記隔壁(21A)によって画成された2つのポンプ室(R1,R2)に前記第1インペラ(4)と前記第2インペラ(5)をそれぞれ収容して構成される2段遠心ポンプ(1)であって、
前記カバー部材(22)とこれに対向する前記第1インペラ(4)の前面シュラウド(4a)との間に、前記前面シュラウド(4a)の内周部に位置する第1ラビリンスシール部(L1)を設けるとともに、
前記ケース部材(23)とこれに対向する前記第2インペラ(5)の背面シュラウド(5b)との間に、前記背面シュラウド(5b)の外周部に位置する第2ラビリンスシール部(L2)を設け、
前記カバー部材(22)内の前記第1ラビリンスシール部(L1)よりも軸心側で前記吸入口(22a)を臨む第1空間(S1)と、前記第2ラビリンスシール部(L2)よりも軸心側で前記有底円筒部(23A)に臨む第2空間(S2)とを形成するとともに、前記第1空間(S1)及び前記第2空間(S2)相互間を互いに連通させる連通路(3a)が前記ロータ軸(3)に形成されていることを特徴とする2段遠心ポンプ。
【請求項2】
前記第2インペラ(5)の前面シュラウド(5a)とこれに対向する前記隔壁(21A)との間に第3ラビリンスシール部(L3)を設け、前記ポンプケース(2)内の前記第3ラビリンスシール部(L3)よりも軸心側に第3空間(S3)を形成したことを特徴とする請求項1に記載の2段遠心ポンプ。
【請求項3】
前記隔壁(21A)を、前記筒状部(21)と共に一体に樹脂成形したことを特徴とする請求項2に記載の2段遠心ポンプ。
【請求項4】
前記有底円筒部(23A)に前記ロータ(14)の体積の80%以上に亘る内部容積を有するリザーバ室を構成したことを特徴とする請求項1~3の何れかに記載の2段遠心ポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スラストバランス機構を備える2段遠心ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
流体機械の一形態としての2段遠心ポンプには、電動モータなどの駆動源によって回転駆動されるロータ軸に2つの第1及び第2インペラを軸方向に沿って取り付け、ポンプケース内に隔壁によって画成された2つのポンプ室に前記第1インペラと前記第2インペラをそれぞれ収容して構成されるものがある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
ところで、一般に遠心ポンプにおいては、インペラの吸入側である軸方向前面側は取扱流体の圧力が低く、インペラの吐出側である遠心方向では取扱流体の圧力が高まる。したがって、インペラの吸入側を臨むインペラの前面側と、インペラの吐出側に囲繞されているインペラの背面との間にはインペラの回転中に常に圧力差(吸入側<吐出側)が生じており、この圧力差が、インペラの吸入側に押すスラスト力の発生源となることが知られている。このスラスト力が過大である場合には、ロータ軸を介してインペラを回転可能に支持する滑り軸受が摩耗してその耐久性が低下するなどの問題が発生する。
【0004】
そこで、スラスト力を低減させるためのスラストバランス機構が今までに種々提案されている。
【0005】
例えば、特許文献2,3には、インペラの背面シュラウドの背面側にポンプケースとの間でスラストバランス室を形成し、かつ、インペラの背面シュラウドに形成されたバランスホールを介してスラストバランス室をインペラの吸入側(背面シュラウドの前面側)に連通させ、インペラの背面シュラウドの前面と背面との間に作用する圧力差を低減させ、これによりロータ軸に作用する吸入方向のスラスト力を小さく抑えるようにしたスラストバランス機構が提案されている。
【0006】
また、特許文献4には、ロータ軸にスラストバランスディスクを取り付けることによって、ロータ軸に作用するスラスト力を小さく抑える構成が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第5599463号公報
【文献】実開昭58-084394号公報
【文献】特開平9-042190号公報
【文献】実開昭54-002204号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところが、特許文献2,3において提案されたスラストバランス機構は、単段の遠心ポンプに対して有効ではあるが、多段の遠心ポンプに対しては有効ではない。つまり、多段遠心ポンプにおいては、2段目以降のインペラの前面側に前段のインペラの吐出圧が作用するため、インペラにバランスホールを形成するだけではポンプ全体のスラストバランスを適正に調整することが困難である。
【0009】
また、特許文献4において提案された構成においては、多段遠心ポンプのロータ軸に複数のインペラとは別にスラストバランスディスクを取り付けるため、構造が複雑化するとともに、多段遠心ポンプ全体の軸方向長さが長くなってポンプ自体が大型化するという問題がある。
【0010】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたもので、その目的は、構造の複雑化や大型化を招くことなく、ロータ軸に作用するスラスト力を小さく抑えて滑り軸受の耐久性を高めることができる2段遠心ポンプを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明は、支軸と、前記支軸に回転自在に保持された中空のロータ軸と、前記ロータ軸の端部外周に固着されている円筒状のロータと、前記ロータの外周側に配置されて前記ロータを回転させるための回転磁界を発生するステータと、吸入口を有するカバー部材と、隔壁を有する円筒状の筒状部と、前記吸入口側に開口して前記ロータが収納される有底円筒部を有して、前記ロータと前記ステータとを仕切るケース部材とを備え、前記ロータ軸に2つの第1及び第2インペラを軸方向に沿って取り付け、前記筒状部の軸方向で2つの開口部に前記カバー部材及び前記ケース部材をそれぞれ連結一体化して構成されているポンプケース内で前記隔壁によって画成された2つのポンプ室に前記第1インペラと前記第2インペラをそれぞれ収容して構成される2段遠心ポンプであって、前記カバー部材とこれに対向する前記第1インペラの前面シュラウドとの間に、前記前面シュラウドの内周部に位置する第1ラビリンスシール部を設けるとともに、前記ケース部材とこれに対向する前記第2インペラの背面シュラウドとの間に、前記背面シュラウドの外周部に位置する第2ラビリンスシール部を設け、前記カバー部材内の前記第1ラビリンスシール部よりも軸心側で前記吸入口を臨む第1空間と、前記第2ラビリンスシール部よりも軸心側で前記有底円筒部に臨む第2空間とを形成するとともに、前記第1空間及び前記第2空間相互間を互いに連通させる連通路が前記ロータ軸に形成されていることを第1の特徴とする。
【0012】
請求項2に記載の発明は、前記第1の特徴に加えて、前記第2インペラの前面シュラウドとこれに対向する前記隔壁との間に第3ラビリンスシール部を設け、前記ポンプケース内の前記第3ラビリンスシール部よりも軸心側に第3空間を形成したことを第2の特徴とする。
【0013】
請求項3に記載の発明は、前記第2の特徴に加えて、前記隔壁を、前記筒状部と共に一体に樹脂成形したことを第3の特徴とする。
【0014】
請求項4に記載の発明は、前記第1~第3の何れかの特徴に加えて、前記有底円筒部に前記ロータの体積の80%以上に亘る内部容積を有するリザーバ室を構成したことを第4の特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
請求項1に記載の発明によれば、前段側の第1インペラの吸入側である軸方向前面側を臨む第1空間と次段側の第2インペラの軸方向背面側を臨む第2空間とは互いに連通しているため、第1空間と第2空間の圧力がバランスして両圧力が略等しくなる。これに対して、第1インペラの軸方向背面側及び第2インペラの軸方向前面側を臨む第3空間には、第1インペラによって昇圧された液体の圧力がそれぞれ作用する。この場合、第3空間に流れ込む昇圧された液体の圧力の方が第1及び第2空間に作用する吸入圧力よりも高い。したがって、第1インペラの前背面相互間で同インペラの回転中に生じる圧力差(第1インペラの前面側<第1インペラの背面側)と、第2インペラの前背面相互間で同インペラの回転中に生じる圧力差(第2インペラの前面側>第2インペラの背面側)とが拮抗する。すなわち、第1インペラに作用する吸入方向へのスラスト力と第2インペラに作用する反吸入方向へのスラスト力とが略等しくなり、ロータ軸に作用するスラスト力がほぼ相殺される。このため、滑り軸受がロータ軸から受ける負荷が小さくなって該滑り軸受の摩耗が抑えられ、該滑り軸受の耐久性が高められる。そして、このような効果は、ロータ軸にスラストバランスディスクを設けることなく得られるため、当該2段遠心ポンプの構造の複雑化や大型化を招くことがない。
【0016】
また、第1インペラから送出された流体の第1空間への回り込みが第1ラビリンスシール部によって抑えられるため、流体の吐出流量が増えてポンプ効率が高められる。
【0017】
請求項2に記載の発明によれば、第2インペラにおいては、該第2インペラの前面シュラウドとこれに対向する前記隔壁との間に第3ラビリンスシール部を設けることにより、前面シュラウドの前背面双方にほぼ第3空間の圧力が作用する。これにより第2インペラの前面シュラウドでのスラスト力がほぼ相殺し合うため、前面シュラウドの前面に第2ポンプ室の圧力が作用するよりも反吸入口方向のスラスト力は小さく抑えられる。したがって、第2インペラからロータ軸に伝達される反吸入口方向へのスラスト力を校正して第1インペラからロータ軸に伝達される吸入口方向へのスラスト力と適正にバランスさせることができる。このため、第1インペラに作用する吸入方向のスラスト力と第2インペラに作用する反吸入方向の力とが適正に相殺し合い、ロータ軸から滑り軸受にスラスト力として作用する両スラスト力の差が可及的に小さく抑えられる。この結果、滑り軸受がロータ軸から受ける負荷が小さくなって該滑り軸受の摩耗が抑制される。
【0018】
また、第2インペラによって昇圧された流体の第2及び第3空間への回り込みが第2ラビリンスシール部と第3ラビリンスシール部によって抑えられるため、流体の吐出流量が増えてポンプ効率が高められる。
【0019】
請求項3に記載の発明によれば、第2インペラの前面シュラウドと対向して第3ラビリンスシール部を構成するポンプケースの隔壁を、筒状部と共に一体に樹脂成形したため、構造の単純化とコストダウンを実現することができる。
【0020】
請求項4に記載の発明によれば、比較的高圧の流体が流れ込む第2空間の容積がリザーバ室として機能する有底円筒部により拡張されるため、2段遠心ポンプの負荷変動による第2空間の内圧の変動が抑えられ、該第2空間と第1空間の圧力が適正にバランスしてロータ軸に作用するスラスト力が小さく抑えられる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明に係る2段遠心ポンプの縦断面図である。
【
図2】本発明に係る2段遠心ポンプの案内羽根部材を示す図であって、(a)は平面図、(b)は側面図、(c)は底面図である。
【
図3】本発明に係る2段遠心ポンプのスラストバランス機構部の基本構成を示す模式的断面図、(b)は同2段遠心ポンプの第1インペラと第2インペラに作用するスラスト力を従来との比較において示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【0023】
図1は本発明に係る2段遠心ポンプの縦断面図、
図2は同2段遠心ポンプの案内羽根部材を示す図であって、(a)は平面図、(b)は側面図、(c)は底面図である。
【0024】
図1に示す2段遠心ポンプ1は、キャンドモータポンプであって、
図1において上下(軸方向)に配置されたポンプ部Pと駆動源であるモータ部Mとを同一中心軸線に沿って連結一体化して構成されており、その中心軸線上には、支軸6と、この支軸6に回転自在に保持されモータ部Mの発揮する回転動力をポンプ部Pに伝達するための中空状のロータ軸3とが収容されており、このロータ軸3及び支軸6間には滑り軸受7,8が介設されている。なお、本実施の形態に係る2段遠心ポンプ1は、ポンプ部Pとモータ部Mが上下に配置された状態、つまり縦置き状態で使用されているが、ポンプ部Pとモータ部Mが左右方向に対置される横置き状態でも使用することができる。
【0025】
上記ポンプ部Pは、ポンプケース2内に形成された上下の第1ポンプ室R1と第2ポンプ室R2に、前記ロータ軸3の上半部で上下に並べて取り付けられた1段目の第1インペラ4、2段目の第2インペラ5と、該第1及び第2インペラ4,5間に挿入する形で設ける案内羽根部材10とをそれぞれ収容して構成されている。なお、本実施の形態においては、ポンプケース2と第1及び第2インペラ4,5及び案内羽根部材10は、何れも樹脂によって構成されている。
【0026】
上記ポンプケース2は、円筒状の筒状部21と、該筒状部21の上下2つの開口部をそれぞれ覆うカバー部材22及びケース部材23を軸方向に連結一体化して構成されている。ここで、筒状部21の内周壁の軸方向中間部からはリング円板状にして筒状部21の横断面に沿う方法に延在しつつ同筒状部21の内部空間を上下に画成する隔壁21Aが一体に設けられており、而してポンプケース2内には、隔壁21Aによって第1ポンプ室R1と第2ポンプ室R2が画成されている。そして、筒状部21の外周からは、第2ポンプ室R2に連通する円筒状の不図示の吐出管が接線方向に延びている。なお、隔壁21Aの中心軸線上には第1ポンプ室R1と第2ポンプ室R2間を連通する円孔21aが形成されており、この円孔21aと第1ポンプ室R1と第2ポンプ室R2にはロータ軸3が挿通している。また、隔壁21Aの第1ポンプ室R1側には案内羽根部材10が載置されており、この案内羽根部材10には円孔21aと同軸な中心孔10aが形成されている。そして、この円孔21a、中心孔10a、第1ポンプ室R1及び第2ポンプ室R2には上記ロータ軸3及び支軸6が挿通している。
【0027】
前記カバー部材22は、前記中心軸線に対応する部位に円筒状の吸入管22Aが一体に立設されており、この吸入管22Aの上端は、吸入口22aとして上方に向かって開口している。そして、カバー部材22内の吸入管22Aの基端部中央には、整流コーン22Bが一体に形成されており、この整流コーン22Bの周囲には、複数枚(図示例では、2枚)の整流板22bが形成されている。そして、上記第1インペラ4は、その外周が案内羽根部材10に囲繞され、且つ、その吸入側を前記吸入管22Aの基端部に臨ませる姿勢で筒状部21上側の第1ポンプ室R1内に収容され、ロータ軸3に固定されている。また、上記第2インペラ5は、隔壁21A下面側で、その吸入側を前記円孔21aに臨ませる姿勢で筒状部21下側の第2ポンプ室R2内に収容され、ロータ軸3に固定されている。
【0028】
前記ケース部材23は、その中心部にカップ状の有底円筒部23Aを備えており、この有底円筒部23Aの上端からはフランジ部23Bが径方向外方に向かって一体に形成されている。そして、このケース部材23の有底円筒部23Aの底部中心部には、円柱状のボス部23aが上方に向かって一体に立設されており、このボス部23aとカバー部材22に形成された整流コーン22Bの各中心部には、支軸6の両端がそれぞれ嵌着されている。
【0029】
また、カバー部材22の整流コーン22Bと上側の滑り軸受7との間には、支軸6によってスラストワッシャ9が連れ回り不能に保持されている。
【0030】
駆動源であるモータ部Mは、前記ケース部材23の下方から連結されるモータケース11を備えており、このモータケース11は、筒状の外郭部11Aと、この外郭部11Aの下面開口部を下方から覆う有底筒状のカバー部材11Bとを上下に連結一体化して構成されている。ここで、外郭部11Aは、ケース部材23のフランジ部23Bの下面にリング状のシール部材12を介して液密に連結されている。また、カバー部材11Bは、その上端面がリング状のシール部材13を介して外郭部11Aの下側へ液密に連結されている。
【0031】
そして、モータ部Mは、ロータ軸3の下半側に固着された円筒状のロータ14と、ケース部材23の有底円筒部23Aを介してロータ14に対向配置されたステータ15を備えている。ここで、ロータ14は、ポンプケース2のケース部材23に設けられた有底円筒部23Aの内部に収容されており、ロータ軸3の下端部外周に固着されている。なお、ロータ14は、永久磁石によって構成されている。
【0032】
ステータ15は、ステータコア16にインシュレータ17を介して三相のコイル18が巻装されて成るものであり、前記ステータコア16は、例えば筒状に形成されるヨーク16aと、そのヨーク16aの内周の周方向に等間隔をあけた複数箇所から半径方向内方に突出するT字状のティース16bとを一体に有する。
【0033】
前記インシュレータ17は、前記ティース16bの内周側先端部を前記有底円筒部23Aの外側に臨ませるために露呈しつつ前記ステータコア16を被覆する。一方、前記モータケース11の外郭部11Aは、この実施の形態では前記インシュレータ17をインサートした電気絶縁性樹脂材で成形され、これにより前記ステータ15は、その少なくとも一部が前記外郭部11Aで包まれて固定されている。なお、三相コイル18は、後述する制御基板19に形成された制御回路にそれぞれ電気的に接続されている。
【0034】
ところで、モータケース11の外郭部11Aの下面からは支持脚11aがカバー部材11B内に向かって一体に延びており、この支持脚11aの下端には、ステータ15の各三相コイル18への通電を制御するための制御基板19が支持脚11aの下端に形成されたスナップフィット爪11a1によって係合支持されている。
【0035】
次に、前記案内羽根部材10の構成の詳細を
図2に基づいて以下に説明する。
【0036】
上記したように、隔壁21Aの第1ポンプ室R1側に載置されている案内羽根部材10の中心部には中心孔10aが形成されており、この中心孔10aにはロータ軸3が挿通している。そして、
図2(a)に示すように、案内羽根部材10の上面外周部には、第1インペラ4の回転周面を臨む姿勢で平面視三角状の6枚のディフューザベーン(翼列)31が周方向に等角度ピッチ(60度間隔)で一体に突設されており、周方向に隣接する2枚のディフューザベーン31の間には、径方向外方に向かって通路面積が漸増しつつ周方向(第1インペラの回転方向)に湾曲する溝状のディフューザ通路32がそれぞれ形成されている。すなわち、案内羽根部材10の上面外周部には、ディフューザベーン31と同数の6つのディフューザ通路32が周方向に等角度ピッチ(本実施の形態では、60度間隔)かつその外周端が案内羽根部材10の外接円Cとして示す筒状部21の内壁面へと漸近的に近づく形状に区画されており、しかも、各ディフューザ通路32の溝底は、筒状部21の内壁へと近づくに連れて高さが低くなる(溝底が隔壁21Aに近づく)弦巻線状に形成されている。
【0037】
他方、案内羽根部材10の隔壁21Aに対向する下面には、
図2(c)に示すように、径方向外方から中心孔10aに向かって湾曲しながら渦巻状に延びる6枚のリターンガイドベーン(翼列)33が周方向に等角度ピッチ(60度間隔)で一体に突設されている。そして、周方向に隣接する2枚のリターンガイドベーン33の間には、リターンガイドベーン33と同数の6つのリターン通路34がそれぞれ区画されている。
【0038】
ここで、各6つのディフューザ通路32とリターン通路34とは第1ポンプ室R1内で連絡(連通)しており、各リターン通路34の外周端は、ディフューザ通路32と立体交差する姿勢でディフューザベーン31の下方に開口する矩形の流入口34aを有するように区画されており、しかも、各リターン通路34の流入口34aには隣接して各ディフューザ通路32の外周端である流出口32aが開口している。したがって、各ディフューザ通路32と各リターン通路34は、流出口32a及び流入口34aを介して連通している。
【0039】
ところで、本実施の形態に係る2段遠心ポンプ1には、ロータ軸3に作用するスラスト力を軽減するためのスラストバランス機構が備えられている。以下、このスラストバランス機構の構成を
図1及び
図3に基づいて説明する。
【0040】
前段側の第1インペラ4の前面シュラウド4aの内周部とこれに対向するカバー部材22の内面との間には、リング状の第1ラビリンスシール部L1が設けられており、ポンプケース2内において、第1ラビリンスシール部L1よりもロータ軸3側(軸心側)には、第1空間S1が形成されている。
【0041】
また、次段側の第2インペラ5の背面シュラウド5bの外周部とこれに対向するケース部材23のフランジ部23Bとの間には、リング状の第2ラビリンスシール部L2が設けられており、ポンプケース2内において、第2ラビリンスシール部L2よりもロータ軸3側(軸心側)で第2インペラ5の背面側には、第2空間S2が形成されている。ここで、第2空間S2は、ケース部材23の有底円筒部23Aと、これの上方開口を第2ラビリンスシール部L2を介して実質的に蓋している第2インペラ5と、有底円筒部23Aの底側に収容される前記ロータ14とによって囲繞される円筒状空間であって、この実施の形態においては、少なくとも前記ロータ14の体積の80%以上に亘る内部容積を有するリザーバ室として構成されている。
【0042】
さらに、第2インペラ5の前面シュラウド5aの外周部とこれに対向する隔壁21Aとの間には、リング状の第3ラビリンスシール部L3が設けられている。ここで、第3ラビリンスシール部L3は、前面シュラウド5aから隔壁21Aに向かって突出される軸方向視環状の絞り片L3aと、隔壁21Aに凹設されて絞り変L3aの周面を囲繞する絞り部L3bとで構成されており、ポンプケース2内において、第3ラビリンスシール部L3よりもロータ軸3側(軸心側)には、第3空間S3が形成されている。
【0043】
そして、本実施の形態では、
図1に示すように、ロータ軸3の周面と第1インペラ4及び第2インペラ5の間で、連通路3aがロータ軸3の軸方向(上下方向)に形成されており、この連通路3aの上端は、第1空間S1に開口しており、同連通路3aの下端は、第2空間S2に連通している。したがって、第1空間S1と第2空間S2とは、連通路3aを介して互いに連通している。
【0044】
而して、スラストバランス機構は、第1ラビリンスシール部L1とその内側に形成された第1空間S1と、第2ラビリンスシールL2とその内側に形成された第2空間S2と、第3ラビリンスシール部L3とその内側に形成された第3空間S3を備え、ロータ軸3に形成された連通路3aによって第1空間S1と第2空間S2とを連通することによって構成されている。
【0045】
次に、以上のように構成された2段遠心ポンプ1の作動について説明する。
【0046】
ステータ15の各三相コイル18への通電制御下に、ステータ15が発生する磁界によってロータ14及び該ロータ14を保持しているロータ軸3が支軸6を中心として所望の速度で回転駆動される。
【0047】
ポンプ部Pにおいて、ロータ軸3に取り付けられた第1インペラ4と第2インペラ5がポンプケース2内の第1ポンプ室R1と第2ポンプ室R2においてそれぞれ回転する。すると、第1インペラ4の回転によってポンプケース2のカバー部材22に形成された吸入管22A内に負圧が発生し、この負圧に引かれて取扱液体(冷却水)が
図1に矢印にて示すように吸入管22Aの吸入口22aから吸入管22A内に吸引される。そして、吸入管22A内に吸引された液体は、吸入管22A内を下方に向かって流れ、1段目の第1インペラ4に吸引される。
【0048】
第1インペラ4に吸引された液体は、回転する第1インペラ4から運動エネルギを与えられて昇圧されながら径方向外方へと流れ、この第1インペラ4の外周端から第1ポンプ室R1へと流出する。そして、第1ポンプ室R1内で案内羽根部材10の上面に形成された複数(本実施の形態では6つ)のディフューザベーン31により区画されたディフューザ通路32を
図2(a)に矢印にて示すように径方向外方に向かってそれぞれ流れ、各ディフューザ通路32の外周端に開口する流出口32aへと進行する。なお、液体は、案内羽根部材10の径方向外方に向かって通路断面積を漸増しつつ湾曲する各ディフューザ通路32を流れる過程で減速されてさらに圧力が高められる。
【0049】
而して、各ディフューザ通路32の外周開口端面に開口する流出口32aからそれぞれ流出する液体は、流出口32aと隣接して開口する流入口34aから案内羽根部材10の下面に区画された6つの各リターン通路34にそれぞれ流入する。
【0050】
その後、各リターン通路34へと流れ込んだ液体は、
図2(c)に矢印にて示すように、各リターン通路34を径方向内方に向かってそれぞれ進行し、
図1に矢印にて示すように、隔壁21Aの中心部に形成された円孔21aを通過して該円孔21aを臨む2段目の第2インペラ5の吸入側へと導かれる。そして、第2インペラの吸入側へと導かれた液体は、該第2インペラ5の回転によって運動エネルギを付与されながら径方向外方へと流れ、この第2インペラ5の外周端から第2ポンプ室R2へと流出するとともに、第2ポンプ室S2に形成されたボリュート部を流れる過程で減速されつつ一層圧力が高められた状態となる。このように第1インペラ4と第2インペラ5を通じて加圧された液体は、第2ポンプ室R2から不図示の吐出管へと接線方向に流れ込み、この吐出管からポンプケース2外へと吐出される。
【0051】
次に、スラストバランス機構の作用を
図3を参照しながら以下に説明する。
【0052】
前述のように第1空間S1内から前面シュラウド4aの背面(すなわち第1インペラ4の内側)には、吸入管22Aに吸入された昇圧前の液体が存在する。また、第1空間S1と第2空間S2とは、ロータ軸3に形成された連通路3aを介して互いに連通しているため、第2空間S2にも、吸入管22Aに吸入された昇圧前の液体が存在する。
【0053】
そして、第1インペラ4によって加速されて第1ポンプ室R1へと流出する液体は、案内羽根部材10において昇圧されつつ第2インペラ5の吸入側(第3空間S3)へと導入されるが、この昇圧された液体の一部は、前面シュラウド4aの
図3(a)において上方にある隙間(前面シュラウド4aの前面)にも進入する。けだし、前面シュラウド4aの内周部とこれに対向するカバー部材22の内面との間に形成されている第1ラビリンスシール部L1により堰止めされるため、前記昇圧された液体の一部は、前面シュラウド4aの上面部にほぼ滞留する。
【0054】
第3空間S3に導入された液体は、そこから第2インペラ5内に進行し、該第2インペラ5によって再加速されつつ第2ポンプ室R2へと導出されるが、この液体は、第2ラビリンスシール部L2及び第3ラビリンスシール部L3により堰止めされるため、第2ポンプ室R2から前面シュラウド5aの上方や背面シュラウド5bの下方にある隙間への液体の進入は阻止される。したがって、前面シュラウド5aの上方にある隙間には前記第3空間S3に導入された液体がほぼ滞留し、背面シュラウド5bの下方にある隙間には前記第2空間S2に導入された液体がほぼ滞留する。
【0055】
ここで、第1インペラ4においては、前面シュラウド4aの前面(上面)には案内羽根部材10で昇圧された第3空間S3の液体圧力p3が作用し、前面シュラウド4aの背面(第1インペラ4の内側)には第1空間S1の前記昇圧以前の液体圧力p1が作用する。また、第1空間S1を臨む背面シュラウド4bの前面(上面)には第1空間S1の液体圧力p1が作用し、第3空間S3を臨む背面シュラウド4bの背面(下面)には第3空間S3の液体圧力p3が作用する。ここで、第3空間S3の液体圧力p3の方が第1空間S1の液体圧力p1よりも高いため(p3>p1)、スラストバランス機構を備えていない従来の2段遠心ポンプでは、
図3(b)の左欄に示すように、
図3において上向き(吸入口方向)の比較的大きなスラスト力F1’が第1インペラ4に作用する。これに対して、スラストバランス機構を備えた本発明に係る2段遠心ポンプ1においては、前面シュラウド4aで、
図3において下向きの(反吸入口方向)のスラスト力F1downが作用し、且つ、背面シュラウド4bにおいては
図3において上向き(吸入口方向)のスラスト力F1upが作用している。そして、これらの作用方向が相反するスラスト力F1up,F1downを総じて第1インペラ4には、
図3(b)の右欄に示すように、吸入口方向のスラスト力F1(<F1’)が作用する。換言すると、本発明に係る2段遠心ポンプ1では、その第1インペラ4において、背面シュラウド4bの背面に従来生じていた吸入口方向のスラスト力F1’がスラストバランス機構である第1ラビリンスシール部L1を付加した前面シュラウド4aの前面に生じる下向きのスラスト力F1downで相殺されてF1(<F1’)に減少する。
【0056】
他方、第2インペラ5においては、スラストバランス機構を備えていない2段遠心ポンプでは、第2インペラ5の背面シュラウド5bの背面には、第2インペラ5の外周端から第2ポンプ室R2のボリュート部へと流出した不図示の液体圧力p4が作用するが、前述のように、ボリュート部で昇圧された液体圧力p4は、昇圧前である第2空間S2の圧力p2及び第3空間S3の圧力p3よりもさらに高いため(p4>p3>p2)、
図3(b)の左欄に示すように、
図3において上向き(吸入口方向)の比較的大きなスラスト力F2’が作用するのであるが、これに対して、スラストバランス機構である第2ラビリンスシール部L2、第3ラビリンスシール部L3及び連通路3aを備えた本発明に係る2段遠心ポンプ1においては、その前面シュラウド5aの前面(上面)と同前面シュラウド5aの背面及び背面シュラウド5bの前面(すなわち第2インペラ5の内側)には第3空間S3の液体圧力p3が作用し、そして、背面シュラウド5bの下面(第2インペラ5の外側かつ下面)には第2空間S2の液体圧力p2が作用する。前述のように、案内羽根部材10により昇圧された第3空間S3の液体圧力p3は、昇圧前である第2空間S2の圧力p2よりも高いため(p3>p2)、第2インペラ5の前面シュラウド5aでのスラスト力は、その表裏ではほぼ相殺されており、しかも、背面シュラウド5bにおいては、反吸入口方向(
図3において下向き)のスラスト力F2が作用する。
【0057】
したがって、本実施の形態に係る2段遠心ポンプ1のロータ軸3には、上記相反するスラスト力F1,F2が共に作用することとなる。換言すると、本発明に係る2段遠心ポンプ1では、そのロータ軸3において、第1インペラ4に残る吸入口方向へのスラスト力F1が第2インペラ5で発生される下向きのスラスト力F2で相殺されている。このため、滑り軸受7,8がロータ軸3から受ける負荷が小さくなって該滑り軸受7,8の摩耗が抑えられ、これらの滑り軸受7,8の耐久性が高められる。そして、このような効果は、ロータ軸3にスラストバランスディスクを設けることなく得られるため、当該2段遠心ポンプ1の構造の複雑化や大型化を招くことがない。
【0058】
また、第1インペラ4によって昇圧された流体の第1空間S1への回り込みが第1ラビリンスシール部L1によって抑えられるとともに、第2インペラ5によって昇圧された流体の第2空間S2と第3空間S3への回り込みが第2ラビリンスシール部L2と第3ラビリンスシール部L3によって抑えられるため、液体の吐出流量が増えて当該2段ポンプ1のポンプ効率が高められる。
【0059】
そして、本実施の形態においては、追加部品を要することなく、ロータ軸3に軸方向の連通路3aを形成するだけの簡単な構成によって第1空間S1と第2空間S2とを連通させることができるため、当該2段遠心ポンプ1の構造単純化とコストダウンを図ることができる。
【0060】
また、本実施の形態に係る2段遠心ポンプ1においては、比較的高圧の流体が流れ込む第2空間S2の容積が比較的大きく設定されており、該第2空間S2がリザーバ室として機能する。すなわち、吸入口22aに連通しつつ容積が比較的大きく設定されたリザーバ室は、第2インペラ5によって昇圧された液体が第2ラビリンスシール部L2を越えて第2空間S2へと漏出した流れに伴う圧力変化が小さいので、上記第2空間S2の液体圧力p2の変動が抑えられ、該液体圧力p2に係る上記スラスト力F2を円滑に作用させることができるという効果も得られる。
【0061】
なお、以上の実施の形態においては、冷却液を取扱液体として用いる2段ウォータポンプに対して本発明を適用した例について説明したが、本発明は、冷却液以外の任意の液体を取扱液体として用いる2段遠心ポンプに対しても同様に適用可能である。
【0062】
また、実施形態では、第3ラビリンスシール部L3を第2インペラ5の前面シュラウド5aの外周部に形成した例について説明したが、本発明は、これに限定されない。例えば、第3ラビリンスシール部L3を第2インペラ5の前面シュラウド5aの径方向中間部や、或いは前面シュラウド5aの内周部に形成することができる。これにより、反吸入口方向へ作用する上記スラスト力F2の大きさを調整することができるので、第1インペラ4のスラスト力F1と第2インペラ5のスラスト力F2とを適切に相殺させ滑り軸受7に作用するスラスト力を可及的に小さく抑えることができる。
【0063】
その他、本発明は、以上説明した実施の形態に適用が限定されるものではなく、特許請求の範囲及び明細書と図面に記載された技術的思想の範囲内で種々の変形が可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0064】
1 2段遠心ポンプ
2 ポンプケース
21 筒状部
21A 隔壁
22 カバー部材
22a 吸入口
23 ケース部材
23A 有底円筒部(リザーバ室)
3 ロータ軸
3a ロータ軸の連通路
4 第1インペラ
4a 第1インペラの前面シュラウド
5 第2インペラ
5a 第2インペラの前面シュラウド
5b 第2インペラの背面シュラウド
6 支軸
10 案内羽根部材
14 ロータ
15 ステータ
L1 第1ラビリンスシール部
L2 第2ラビリンスシール部
L3 第3ラビリンスシール部
M モータ部(駆動源)
P ポンプ部
R1 第1ポンプ室
R2 第2ポンプ室
S1 第1空間
S2 第2空間
S3 第3空間