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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-05
(45)【発行日】2023-12-13
(54)【発明の名称】転圧機械
(51)【国際特許分類】
   F16H 61/42 20100101AFI20231206BHJP
   E01C 19/26 20060101ALI20231206BHJP
【FI】
F16H61/42
E01C19/26
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2022565227
(86)(22)【出願日】2021-11-12
(86)【国際出願番号】 JP2021041748
(87)【国際公開番号】W WO2022113784
(87)【国際公開日】2022-06-02
【審査請求日】2022-08-04
(31)【優先権主張番号】P 2020195676
(32)【優先日】2020-11-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005522
【氏名又は名称】日立建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090022
【弁理士】
【氏名又は名称】長門 侃二
(72)【発明者】
【氏名】切田 勝之
(72)【発明者】
【氏名】田中 正道
(72)【発明者】
【氏名】阿部 祐斗
【審査官】倉田 和博
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-107410(JP,A)
【文献】特開2009-168060(JP,A)
【文献】国際公開第2010/070962(WO,A1)
【文献】特開昭54-064257(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 61/40-61/478
E01C 19/26-19/27
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
機体と、
前記機体に回転可能に設けられた前輪及び後輪と、
前記機体の走行速度を制御するように構成された速度制御装置と、を備え、
前記速度制御装置は、
前記機体の実速度を検出し、当該検出結果に基づいて実速度信号を送信するように構成された速度検出手段と、
前記実速度信号を受信し、前記実速度と前記機体の目標速度とを比較し、当該比較結果に基づいて前記実速度を前記目標速度に到達させるための目標速度信号を算出し、前記目標速度信号を送信するように構成されたコントローラと、
前記コントローラから送信された前記目標速度信号に基づいて押しのけ容積を制御するように構成された油圧ポンプと、
前記コントローラから送信された前記目標速度信号に基づいて、押しのけ容積を制御し、前記前輪及び前記後輪の各々を該押しのけ容積に応じた回転数で駆動するように構成された前輪用油圧モータ及び後輪用油圧モータと、を備える転圧機械において、
前記コントローラは、前記実速度が切換用閾値より小さい場合、前記油圧ポンプの押しのけ容積を制御するように構成されており、且つ、前記実速度が前記切換用閾値よりも大きい場合、前記前輪用油圧モータ及び前記後輪用油圧モータの押しのけ容積を制御するように構成されており、且つ、前記実速度が前記切換用閾値に達してから一定の間、前記油圧ポンプの押しのけ容積、前記前輪用油圧モータの押しのけ容積、及び前記後輪用油圧モータの押しのけ容積を一定に維持するように構成されている、ことを特徴とする転圧機械。
【請求項2】
前記速度制御装置は、前記機体の走行速度を制御するために、オペレータの操作量に応じた第1操作量信号を送信するように構成された速度調整手段と、前記機体の最高速度を設定するために、オペレータの操作量に応じた第2操作量信号を送信するように構成された最高速度設定手段と、を更に備え、
前記コントローラは、前記第1操作量信号及び前記第2操作量信号に基づいて前記目標速度を設定するように構成されており、且つ、前記速度調整手段及び前記最高速度設定手段の少なくともいずれか一方の操作により前記実速度が前記切換用閾値に達した場合、前記切換用閾値に達してから一定の間、前記油圧ポンプの押しのけ容積、前記前輪用油圧モータの押しのけ容積、及び前記後輪用油圧モータの押しのけ容積を一定に維持するように構成されている、ことを特徴とする請求項1記載の転圧機械。
【請求項3】
前記コントローラは、前記最高速度設定手段の操作によって前記最高速度の設定が変更された場合、変更前の最高速度を実現する前記速度調整手段の操作量と同じ操作量で変更後の最高速度が実現されるように、前記油圧ポンプの押しのけ容積、前記前輪用油圧モータの押しのけ容積、及び前記後輪用油圧モータの押しのけ容積を制御する、ことを特徴とする請求項2記載の転圧機械。
【請求項4】
前記速度制御装置は、前記機体に取付けられたモニタを更に備え、
前記コントローラは、前記第2操作量信号に基づいて前記最高速度を前記モニタに表示するとともに、前記実速度信号に基づいて前記実速度を前記モニタに表示するように構成されている、ことを特徴とする請求項2記載の転圧機械。
【請求項5】
前記コントローラは、前記実速度が前記切換用閾値より小さい場合、前記実速度の上昇に伴って前記油圧ポンプの押しのけ容積を増加させるように制御し、且つ、前記実速度が前記切換用閾値よりも大きい場合、前記実速度の上昇に伴って前記前輪用油圧モータ及び前記後輪用油圧モータの押しのけ容積を減少させるように制御し、且つ、前記実速度が前記切換用閾値に達してから一定の間、前記油圧ポンプの押しのけ容積、前記前輪用油圧モータの押しのけ容積、及び前記後輪用油圧モータの押しのけ容積を一定に維持するように制御する、ことを特徴とする請求項1記載の転圧機械。
【請求項6】
前記コントローラは、前記実速度が前記切換用閾値より小さい場合、前記実速度の上昇に伴って前記油圧ポンプの押しのけ容積を増加させるように制御し、且つ、前記実速度が前記切換用閾値よりも大きい場合、前記実速度の上昇に伴って前記前輪用油圧モータ及び前記後輪用油圧モータの押しのけ容積を減少させるように制御し、且つ、前記実速度が前記切換用閾値に達してから一定の間、前記油圧ポンプの押しのけ容積、前記前輪用油圧モータの押しのけ容積、及び前記後輪用油圧モータの押しのけ容積を一定に維持するように制御する、ことを特徴とする請求項3記載の転圧機械。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は転圧機械に関し、特に速度制御装置を備える転圧機械に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、転圧ローラ等を備える転圧機械では、オペレータの操作に応じて当該転圧機械の走行速度を制御することが行われている(特許文献1)。
【0003】
例えば特許文献1には、エンジンにより駆動される油圧ポンプと、当該油圧ポンプから吐出された圧油により駆動される2個の走行用油圧モータと、一方の走行用油圧モータにより駆動される前輪と、他方の走行用油圧モータにより駆動される後輪とを含むHST走行システムについて記載されている。
【0004】
具体的には、当該HST走行システムは、始動時にアクセルペダルを踏み込むと、エンジン回転数の上昇に伴って、油圧ポンプの回転数が増加するとともに、油圧ポンプの傾転量が増加し、これにより油圧ポンプの吐出流量が増大するように構成されている。走行開始時の油圧モータの傾転量は最大に設定されているため、油圧ポンプの吐出流量が増大すると油圧モータの回転数が増加し、それに従って走行速度が上昇する。また、当該システムは、油圧ポンプの吐出流量が増大して走行速度が上昇するに従い油圧モータの傾転量を減少させ、これにより油圧モータの回転速度が増加して走行速度が更に上昇するように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2006-258119号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載のHST走行システムでは、油圧ポンプの吐出流量が増大することによる走行速度の上昇と、油圧モータの傾転量が減少することによる走行速度の上昇とが同時に発生するおそれがあった。この場合、転圧機械の走行速度が大きく変化(急上昇)することから、転圧機械のオペレータは大きな衝撃を受け、転圧作業における機械の操作性を悪化するおそれがあった。
【0007】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、急激な速度変化を抑制し、操作性の向上を図る転圧機械を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の転圧機械は、機体と、前記機体に回転可能に設けられた前輪及び後輪と、前記機体の走行速度を制御するように構成された速度制御装置と、を備え、前記速度制御装置は、前記機体の実速度を検出し、当該検出結果に基づいて実速度信号を送信するように構成された速度検出手段と、前記実速度信号を受信し、前記実速度と前記機体の目標速度とを比較し、当該比較結果に基づいて前記実速度を前記目標速度に到達させるための目標速度信号を算出し、前記目標速度信号を送信するように構成されたコントローラと、前記コントローラから送信された前記目標速度信号に基づいて押しのけ容積を制御するように構成された油圧ポンプと、前記コントローラから送信された前記目標速度信号に基づいて、押しのけ容積を制御し、前記前輪及び前記後輪の各々を該押しのけ容積に応じた回転数で駆動するように構成された前輪用油圧モータ及び後輪用油圧モータと、を備える転圧機械において、前記コントローラは、前記実速度が切換用閾値より小さい場合、前記油圧ポンプの押しのけ容積を制御するように構成されており、且つ、前記実速度が前記切換用閾値よりも大きい場合、前記前輪用油圧モータ及び前記後輪用油圧モータの押しのけ容積を制御するように構成されており、且つ、前記実速度が前記切換用閾値に達してから一定の間、前記油圧ポンプの押しのけ容積、前記前輪用油圧モータの押しのけ容積、及び前記後輪用油圧モータの押しのけ容積を一定に維持するように構成されている、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の転圧機械において、コントローラは、実速度が切換用閾値より小さい場合、油圧ポンプの押しのけ容積を制御するように構成されており、且つ、実速度が切換用閾値よりも大きい場合、前輪用油圧モータ及び後輪用油圧モータの押しのけ容積を制御するように構成されており、且つ、実速度が切換用閾値に達してから一定の間、油圧ポンプの押しのけ容積、前輪用油圧モータの押しのけ容積、及び後輪用油圧モータの押しのけ容積を一定に維持するように構成されている。従って、切換用閾値を跨いで機体の走行速度が変化する場合、即ち油圧ポンプによる機体の速度制御と、前輪用油圧モータ及び後輪用油圧モータによる機体の速度制御とを切り換える場合であっても、機体の実速度が切換用閾値に達してから一定の間、油圧ポンプの押しのけ容積、前輪用油圧モータの押しのけ容積、及び後輪用油圧モータの押しのけ容積が一定に維持されることから、この間、機体の走行速度は変化せず一定に保たれる。よって、油圧ポンプの押しのけ容積が増大することによる走行速度の上昇と、前輪用油圧モータ及び後輪用油圧モータの押しのけ容積が減少することによる走行速度の上昇との同時発生が回避される。このため、転圧機械の走行速度の大きな変化(急上昇)を回避することができるため、転圧作業を行う際にオペレータが大きな衝撃を受けることがなく、ひいては操作性の向上を実現することができる。このようにして、急激な速度変化を抑制し、操作性の向上を図る転圧機械を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施形態に係る転圧機械の概略構成を示す側面図である。
図2図1に示す転圧機械に設けられた速度制御装置の油圧回路を概略的に示すものである。
図3図1に示す転圧機械に設けられた速度制御装置の制御ブロックを概略的に示すものである。
図4図1に示す転圧機械に設けられたモニタの表示例を概略的に示すものである。
図5図1に示す転圧機械に設けられた速度制御装置の最高速度設定スイッチの操作角度と押しのけ容積との関係を概略的に示す図であり、破線により油圧ポンプの押しのけ容積を示し、実線により前輪用油圧モータ及び後輪用油圧モータの押しのけ容積を示す。
図6図1に示す転圧機械に設けられた速度制御装置の走行レバーの操作角度と走行速度との関係を概略的に示す図であり、最高速度設定スイッチで機体の最高速度の設定を変更した場合を比較して示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面に基づき本発明の実施形態について説明する。
【0012】
図1は、本発明の実施形態に係る転圧機械1の概略構成を示す側面図である。図2は、図1に示す転圧機械1に設けられた速度制御装置30の油圧回路を概略的に示すものである。図3は、図1に示す転圧機械1に設けられた速度制御装置30の制御ブロックを概略的に示すものである。図4は、図1に示す転圧機械1に設けられたモニタ46の表示例を概略的に示すものである。
【0013】
なお、説明の便宜上、転圧機械1の進行方向を基準にキャビン20内の作業者から見て「前」、「後」、「左」、「右」をそれぞれ定義し、重力を基準に「上」、「下」を定義する。即ち、図1に示される矢印「前」及び「後」は、転圧機械1の前進方向及び後進方向を示し、矢印「上」及び「下」は転圧機械1の上下方向を示している。なお、転圧機械1の左右(車幅)方向とは、前後方向及び上下方向に垂直な方向を意味する。
【0014】
図1に示すように、転圧機械1は、アーティキュレート式(関節式)の振動ローラであって、機体10と、機体10に回転可能に設けられた前輪14及び後輪18と、機体10の走行速度を制御するように構成された速度制御装置30と、を備える。機体10は、前側機体11と、後側機体12とを含み、前側機体11及び後側機体12は、連結装置22を介してアーティキュレート式に連結されている。
【0015】
図1に示すように、前側機体11は、フロントフレーム11aを含んで構成されており、当該フロントフレーム11aに回転可能に前輪14が支持されている。前輪14は、ドラム形に形成された転圧輪であり、フロントフレーム11aの枠体の内部に収容されている。なお、前輪14内には、当該前輪14を振動させる振動発生機(図示せず)が内蔵され、当該振動発生機を駆動することで、前輪14を振動させることが可能となっている。
【0016】
図1に示すように、後側機体12は、リアフレーム12aを含んで構成されており、当該リアフレーム12aには、後輪18と、キャビン20と、エンジンカバー24とが設けられている。後輪18は、タイヤローラとして機能するものであり、リアフレーム12aに回転可能に支持されている。又、キャビン20は、リアフレーム12aの上部に設けられている。当該キャビン20内には、速度調整手段として走行レバー34(図3)、最高速度設定手段として最高速度設定スイッチ36(図3)、機体10の稼働状況を視認するためのモニタ46(図3)、エンジン回転数切換スイッチ(図示せず)、ハンドル(図示せず)等の操作機器が設けられている。そして、オペレータが上記操作機器を適宜操作することにより、現場において転圧作業が実施されるようにしてある。更に、リアフレーム12aには、エンジンルームを開閉可能に覆うエンジンカバー24が設けられている。
【0017】
連結装置22は、前側機体11及び後側機体12をロール方向(前後方向軸線周りの回転方向)、ピッチ方向(左右方向軸線周りの回転方向)、及びヨー方向(上下方向軸線周りの回転方向)に相対回動可能に連結するものである。なお、連結装置22の構成は公知であるため、その詳細な説明を省略する。
【0018】
次いで、転圧機械1を構成する速度制御装置30について説明する。図2及び図3に示すように、速度制御装置30は、回転数センサ32(速度検出手段)と、走行レバー34(速度調整手段)と、最高速度設定スイッチ36(最高速度設定手段)と、コントローラ38と、油圧ポンプ40と、前輪用油圧モータ42と、後輪用油圧モータ44と、モニタ46とを含んで構成されている。
【0019】
図1及び図2に示すように、エンジンカバー24によって覆われたエンジンルーム内には、エンジン50及び油圧ポンプ40が配置されている。油圧ポンプ40は、エンジン50によって駆動され、前輪14を駆動する前輪用油圧モータ42及び後輪18を駆動する後輪用油圧モータ44に対して圧油を供給する。後輪用油圧モータ44には減速機58が連結されており、当該減速機58に連結された車軸60を介して後輪18が駆動される。油圧ポンプ40及び前輪用油圧モータ42は、主管路51、52、53、54を介して閉回路接続され、油圧ポンプ40及び後輪用油圧モータ44は主管路51、52、55、56を介して閉回路接続され、前輪用油圧モータ42及び後輪用油圧モータ44は油圧ポンプ40に対して互いに並列接続されている。油圧ポンプ40は、圧油の流れ方向を変えることができ、これにより転圧機械1の前進走行及び後進走行を切り換えることができる。例えば、油圧ポンプ40が、主管路51、53を介して前輪用油圧モータ42に圧油を供給し、且つ主管路51、55を介して後輪用油圧モータ44に圧油を供給する場合、転圧機械1が前進走行するように構成されている。又、油圧ポンプ40が、主管路52、54を介して前輪用油圧モータ42に圧油を供給し、且つ主管路52、56を介して後輪用油圧モータ44に圧油を供給する場合、転圧機械1が後進走行するように構成されている。
【0020】
図2及び図3に示すように、回転数センサ32は、機体10の実速度を検出し、当該検出結果に基づいて実速度信号をコントローラ38に送信するように構成されている。回転数センサ32は後輪用油圧モータ44に設けられており、当該後輪用油圧モータ44の回転軸の回転数を検出し、当該回転数を実速度信号としてコントローラ38に送信するように構成されている。
【0021】
図3に示すように、走行レバー34は、機体10の走行速度を制御するために、オペレータの操作量に応じた第1操作量信号をコントローラ38に送信するように構成されている。走行レバー34は、無段階式の操作レバーであり、中立位置を基準に前後に操作することで機体10の前進走行及び後進走行を切り換えるとともに、その操作量(操作角度)に応じて機体10の走行速度を制御するように構成されている。具体的には、走行レバー34が中立位置にある状態(以下、「中立状態」ともいう。)では、機体10は停止した状態を維持する。これに対し、走行レバー34が前側に100%の操作角度で操作された状態(以下、「前側フルレバー状態」ともいう。)又は走行レバー34が後側に100%の操作角度で操作された状態(以下、「後側フルレバー状態」ともいう)では、機体10は最高速度設定スイッチ36により設定された最高速度で前進走行又は後進走行する。
【0022】
図3に示すように、最高速度設定スイッチ36は、機体10の最高速度を設定するために、オペレータの操作量に応じた第2操作量信号をコントローラ38に送信するように構成されている。最高速度設定スイッチ36は、走行レバー34を前側フルレバー状態及び後側フルレバー状態にしたときの最高速度を設定するものである。最高速度設定スイッチ36は、無段階で左右回転するダイヤル式のつまみであり、その操作量(操作角度)に応じて機体10の最高速度を変更するように構成されている。具体的には、最高速度設定スイッチ36が初期位置にある状態(以下、「初期状態」ともいう。)では、機体10の最高速度が最小速度(例えば1km/h)に設定され、走行レバー34を前側フルレバー状態及び後側フルレバー状態にした場合、機体10は当該最小速度で前進走行又は後進走行する。なお、最小速度は1km/hでなくてもよく、例えば0km/hであってもよい。又、最高速度設定スイッチ36が100%の操作角度で操作された状態(以下、「最大設定状態」)では、機体10の最高速度が例えば10km/hに設定され、走行レバー34を前側フルレバー状態又は後側フルレバー状態にした場合、機体10は当該最高速度で前進走行又は後進走行する。
【0023】
図3に示すように、コントローラ38は、入力側において回転数センサ32、走行レバー34、及び最高速度設定スイッチ36に電気接続され、出力側において油圧ポンプ40、前輪用油圧モータ42、後輪用油圧モータ44、及びモニタ46に電気接続されている。コントローラ38は、速度制御装置30の動作を制御する装置であり、例えばCPU、RAM、ROM等を備えるコンピュータである。具体的には、コントローラ38は、回転数センサ32から実速度信号を受信し、実速度と機体10の目標速度とを比較し、当該比較結果に基づいて実速度を目標速度に到達させるための目標速度信号を算出し、当該目標速度信号を油圧ポンプ40、前輪用油圧モータ42、後輪用油圧モータ44、モニタ46に送信するように構成されている。又、コントローラ38は、走行レバー34からの第1操作量信号及び最高速度設定スイッチ36からの第2操作量信号を受信し、第1操作量信号及び第2操作量信号に基づいて目標速度を設定するように構成されている。更に、図3及び図4に示すように、コントローラ38は、最高速度設定スイッチ36から受信した第2操作量信号に基づいて最高速度をモニタ46に表示するとともに、回転数センサ32から受信した実速度信号に基づいて実速度をモニタ46に表示するように構成されている。このように、コントローラ38は、実速度と目標速度との比較、目標速度の設定、目標速度信号の算出、目標速度信号の送信等の各機能要素に対応するプログラムをROMから読み出してRAMにロードし、各機能要素に対応する処理をCPUに実行させるように構成されている。
【0024】
油圧ポンプ40は、コントローラ38から受信した目標速度信号に基づいて押しのけ容積を制御するように構成されている。図2に示すように、油圧ポンプ40は可変容量型であり、斜板の角度及び回転数を変更することで、押しのけ容積を増減するように構成されている。具体的には、油圧ポンプ40には第1傾転量制御手段40aが設けられており、第1傾転量制御手段40aは、コントローラ38から送信された目標速度信号に基づいて油圧ポンプ40を構成する斜板の角度を変えるように構成されている。又、油圧ポンプ40は、例えばオペレータの操作により、3ポジション(アイドルモード:900rpm、エコモード:1900rpm、パワーモード:2200rpm)のエンジン回転数で駆動されるように構成されている。このため、オペレータが例えばパワーモードを選択した場合、エンジン50は2200rpmの回転数を維持する。エンジン50の回転数が一定に維持された状態、即ち油圧ポンプ40の回転数が一定に維持された状態で、例えば走行レバー34を中立状態から前側フルレバー状態に操作すると、第1傾転量制御手段40aが油圧ポンプ40の斜板の傾転量(角度)を増大させ、これにより油圧ポンプ40の押しのけ容積が増加する。ここで、油圧ポンプ40は両傾転タイプであり、斜板の傾転方向を変えることで圧油の流れ方向を変えることができ、これにより機体10の前進走行及び後進走行が切り換えられる。
【0025】
前輪用油圧モータ42及び後輪用油圧モータ44は、コントローラ38から受信した目標速度信号に基づいて、油圧ポンプ40から供給を受けた圧油の押しのけ容積を制御し、前輪14および後輪18の各々を当該押しのけ容積に応じた回転数で駆動するように構成されている。図2に示すように、前輪用油圧モータ42及び後輪用油圧モータ44は可変容量型であり、斜板の角度を変更することで回転数が増減され、これにより押しのけ容積を制御するように構成されている。具体的には、前輪用油圧モータ42及び後輪用油圧モータ44には、それぞれ第2傾転量制御手段42a及び第3傾転量制御手段44aが設けられており、第2傾転量制御手段42a及び第3傾転量制御手段44aは、コントローラ38から送信された目標速度信号に基づいて前輪用油圧モータ42及び後輪用油圧モータ44を構成する斜板の角度を変えるように構成されている。このため、例えばオペレータが走行レバー34を中立状態から前側フルレバー状態に操作すると、第2傾転量制御手段42a及び第3傾転量制御手段44aが前輪用油圧モータ42及び後輪用油圧モータ44の斜板の傾転量(角度)を減少させ、これにより当該油圧モータ42、44の押しのけ容積が減少する一方で回転数は増加し、ひいては機体10の走行速度が上昇する。つまり、前輪用油圧モータ42及び後輪用油圧モータ44の斜板の傾転量(角度)を減少させると、当該油圧モータ42、44の1回転あたりに必要な圧油の量が減少するため、油圧ポンプ40から供給される圧油の量が一定であっても、当該油圧モータ42、44の回転数が増加する。なお、当該油圧モータ42、44は、片傾転タイプであり、油圧ポンプ40から供給される圧油の流れ方向が変更されることで、当該油圧モータ42、44の回転方向が変更される。
【0026】
図4に示すように、モニタ46は、コントローラ38から送信された第2操作量信号に基づいて最高速度を表示するとともに、コントローラ38から送信された実速度信号に基づいて実速度を表示するように構成されている。図4に示すように、モニタ46には、機体10の実速度として10km/hが表示され、最高速度設定スイッチ36により設定された機体10の最高速度として11km/hが表示されている。なお、機体10の最高速度は、図4に示す11km/hに限定されるものではなく、任意の最高速度が設定されてよい。
【0027】
次いで、コントローラ38を中心とした機体10の走行速度の制御について説明する。図5は、図1に示す転圧機械1に設けられた速度制御装置30の最高速度設定スイッチ36の操作角度と押しのけ容積との関係を概略的に示す図であり、破線により油圧ポンプ40の押しのけ容積を示し、実線により前輪用油圧モータ42及び後輪用油圧モータ44の押しのけ容積を示す。具体的には、図5では、走行レバー34が前側フルレバー状態であることを前提として、最高速度設定スイッチ36が最大設定状態に操作された場合、最高速度設定スイッチ36が70%の操作角度で操作された場合、及び、最高速度設定スイッチ36が30%の操作角度で操作された場合における、油圧ポンプ40、前輪用油圧モータ42、及び後輪用油圧モータ44の押しのけ容積の変化について説明する。
【0028】
ここでは、最高速度設定スイッチ36が最大設定状態に操作されると機体10の最高速度は10km/hに設定されるものとし、走行レバー34が前側フルレバー状態である場合、機体10は当該最高速度で前進走行する。同様に、最高速度設定スイッチ36が70%又は30%の操作角度に操作されると機体10の最高速度は7km/h又は3km/hに設定されるものとし、走行レバー34が前側フルレバー状態である場合、機体10は当該最高速度で前進走行する。このため、走行レバー34が前側フルレバー状態である場合において、例えば最高速度設定スイッチ36を初期状態から最大設定状態に操作すると、コントローラ38は、機体10が最小速度(例えば1km/h)から10km/hに速度変化するように、油圧ポンプ40の押しのけ容積、前輪用油圧モータ42及び後輪用油圧モータ44の押しのけ容積を制御する。同様に、最高速度設定スイッチ36を初期位置から70%又は30%の操作角度に操作すると、コントローラ38は、機体10が上記最小速度から7km/h又は上記最小速度から3km/hに速度変化するように、油圧ポンプ40の押しのけ容積、前輪用油圧モータ42及び後輪用油圧モータ44の押しのけ容積を制御する。
【0029】
図5に示すように、走行レバー34が前側フルレバー状態である場合に最高速度設定スイッチ36を最大設定状態又は70%の操作角度に操作すると、コントローラ38は、目標速度信号に基づいて、油圧ポンプ40の斜板の角度を増大させて、油圧ポンプ40から供給される圧油の押しのけ容積を増加する制御を行う(図5の領域1)。領域1において、コントローラ38は、油圧ポンプ40の押しのけ容積が最大となるまで、前輪用油圧モータ42及び後輪用油圧モータ44の斜板の角度を最大の状態に維持する制御を行う。これにより、油圧ポンプ40の吐出流量の増加に伴って、機体10の走行速度が上昇する。このように、コントローラ38は、機体10の実速度が切換用閾値より小さい場合、油圧ポンプ40の押しのけ容積を制御するように構成されている。具体的には、コントローラ38は、機体10の実速度が切換用閾値より小さい場合、当該実速度の上昇に伴って油圧ポンプ40の押しのけ容積を増加させるように制御する。ここで、切換用閾値とは、油圧ポンプ40の斜板の角度が最大となり、油圧ポンプ40により実現可能な最大の実速度を意味する。このため、切換用閾値は、油圧ポンプ40の性能(押しのけ容積)に応じて変更され得る値である。
【0030】
次いで、コントローラ38は、油圧ポンプ40の斜板の角度が最大となった場合、即ち当該油圧ポンプ40の押しのけ容積が最大となった場合、一定の間、油圧ポンプ40、前輪用油圧モータ42、及び後輪用油圧モータ44の斜板の角度を一定に維持する制御を行う(図5の領域3)。このため、領域3において、油圧ポンプ40の押しのけ容積、前輪用油圧モータ42及び後輪用油圧モータ44の押しのけ容積は一定に維持され、機体10の走行速度が一定に維持される。このように、コントローラ38は、機体10の実速度が切換用閾値に達してから一定の間、油圧ポンプ40の押しのけ容積、前輪用油圧モータ42の押しのけ容積、及び後輪用油圧モータ44の押しのけ容積を一定に維持するように構成されている。具体的には、コントローラ38は、最高速度設定スイッチ36の操作により機体10の実速度が切換用閾値に達した場合、当該切換用閾値に達してから一定の間、油圧ポンプ40の押しのけ容積、前輪用油圧モータ42の押しのけ容積、及び後輪用油圧モータ44の押しのけ容積を一定に維持するように構成されている。なお、最高速度設定スイッチ36の操作により機体10の走行速度を制御する場合、領域3の範囲とは、最高速度設定スイッチ36の一定の操作角度範囲(例えば5%の範囲)を意味する。なお、領域3の範囲が広すぎると、最高速度設定スイッチ36の操作に応じて機体10の速度が変化しない範囲が広くなり、最高速度設定スイッチ36の操作に対する応答性が悪くなり好ましくない。このため、領域3の範囲は、オペレータに応答性の低下を感じさせないように適切に設定される。
【0031】
次いで、最高速度設定スイッチ36の操作角度を領域3の範囲を超えて増大させた場合、コントローラ38は、目標速度信号に基づいて、前輪用油圧モータ42及び後輪用油圧モータ44の斜板の角度を減少させて、前輪用油圧モータ42及び後輪用油圧モータ44の押しのけ容積を低減し、当該モータ42、44の回転数を増加する制御を行う(図5の領域2)。最高速度設定スイッチ36を最大設定状態まで操作する場合、領域2において、コントローラ38は、前輪用油圧モータ42及び後輪用油圧モータ44の押しのけ容積が最小となるまで、油圧ポンプ40の斜板の角度を最大の状態に維持する制御を行う。又、最高速度設定スイッチ36を70%の操作角度まで操作する場合、領域2において、コントローラ38は、前輪用油圧モータ42及び後輪用油圧モータ44の押しのけ容積が最大押しのけ容積の例えば65%となるまで、油圧ポンプ40の斜板の角度を最大の状態に維持する制御を行う。これにより、機体10の走行速度は更に上昇する。このように、コントローラ38は、機体10の実速度が切換用閾値よりも大きい場合、前輪用油圧モータ42及び後輪用油圧モータ44の押しのけ容積を制御するように構成されている。具体的には、コントローラは、機体10の実速度が切換用閾値よりも大きい場合、実速度の上昇に伴って前輪用油圧モータ42及び後輪用油圧モータ44の押しのけ容積を減少させるように制御する。
【0032】
他方、走行レバー34が前側フルレバー状態である場合に最高速度設定スイッチ36を30%の操作角度に操作すると、コントローラ38は、目標速度信号に基づいて、油圧ポンプ40の斜板の角度を増大させて、油圧ポンプ40から供給される圧油の押しのけ容積を増加する制御を行う(図5の領域1)。この場合、油圧ポンプ40の押しのけ容積を制御するだけで最高速度を達成することができるため、コントローラ38は、領域3及び領域2における押しのけ容積の制御を行うことがない。
【0033】
図6は、図1に示す転圧機械1に設けられた速度制御装置30の走行レバー34の操作角度と走行速度との関係を概略的に示す図であり、最高速度設定スイッチ36で機体10の最高速度の設定を変更した場合を比較して示す。具体的には、図6では、最高速度設定スイッチ36を最大設定状態にした場合(実線:最高速度10km/h)、70%の操作角度に設定した場合(破線:最高速度7km/h)、30%の操作角度に設定した場合(一点鎖線:最高速度3km/h)のそれぞれにおいて、走行レバー34を中立位置から前側フルレバー状態に操作したときの走行速度の変化について説明する。なお、走行レバー34を中立位置から後側フルレバー状態に操作した場合のグラフは、図6の縦軸を基準に左右対称となるためその説明を省略する。
【0034】
図6に示すように、最高速度設定スイッチ36を最大設定状態にした場合、走行レバー34を中立位置から前側フルレバー状態に操作すると、機体10の実速度は「A→B→C→D→E→F」という軌跡を辿る。同様に、最高速度設定スイッチ36を70%の操作角度に設定した場合、機体10の実速度は「A→B→G→H→I→J」という軌跡を辿る。同様に、最高速度設定スイッチ36を30%の操作角度に設定した場合、機体10の実速度は「A→B→K→L」という軌跡を辿る。なお、図6における「A→B→C」、「A→B→G」、「A→B→K」は、図5における領域1に対応し、走行レバー34の操作に応じて油圧ポンプ40の押しのけ容積が増大する領域である。又、図6の「D→E→F」、「H→I→J」は、図5の領域2に対応し、走行レバー34の操作に応じて前輪用油圧モータ42及び後輪用油圧モータ44の押しのけ容積が減少する領域である。更に、図6の「C→D」、「G→H」は、図5の領域3に対応し、走行レバー34の操作角度を変更しても、油圧ポンプ40の押しのけ容積、前輪用油圧モータ42の押しのけ容積、及び後輪用油圧モータ44の押しのけ容積が一定に維持される領域である。
【0035】
図6に示すように、コントローラ38は、最高速度設定スイッチ36の操作によって最高速度の設定が変更された場合、変更前の最高速度を実現する走行レバー34の操作量と同じ操作量で変更後の最高速度が実現されるように、油圧ポンプ40の押しのけ容積、前輪用油圧モータ42の押しのけ容積、及び後輪用油圧モータ44の押しのけ容積を制御する。具体的には、図6に示すように、機体10の最高速度は走行レバー34の操作角度が90%に操作されたときに達成されるところ、当該最高速度の設定が変更された場合であっても、当該最高速度を実現する走行レバー34の操作角度は90%のままである。つまり、最高速度を10km/h、7km/h、3km/hのいずれに設定した場合であっても、走行レバー34の操作角度を90%に操作した際に各最高速度が達成される。このため、図6に示すように、走行レバー34の操作角度に対する走行速度の変化(傾き)は、油圧ポンプ40の押しのけ容積を制御する領域において、「BK」が最も小さく、次いで「BG」が小さく、「BC」が最も大きくなる。同様に、当該傾きは、前輪用油圧モータ42及び後輪用油圧モータ44の押しのけ容積を制御する領域において、「DE」よりも「HI」の方が小さくなる。
【0036】
図6に示すように、コントローラ38は、走行レバー34の操作角度が例えば0%から10%の間(A→B)では、機体10の走行速度を0km/hに維持する。次いで、走行レバー34の操作角度が10%を超えると、最高速度設定スイッチ36を最大設定状態に設定した場合及び70%の操作角度に設定した場合、いずれの場合であっても、コントローラ38は、走行レバー34の操作角度が増大するのに応じて、目標速度信号に基づいて油圧ポンプ40の斜板の角度を増大させて、油圧ポンプ40から供給される圧油の押しのけ容積を増加する制御を行う(図6のB→C、B→G(図5の領域1に対応))。この間、コントローラ38は、油圧ポンプ40の押しのけ容積が最大となるまで、前輪用油圧モータ42及び後輪用油圧モータ44の斜板の角度を最大の状態に維持する制御を行う。これにより、機体10の走行速度が上昇する。
【0037】
次いで、コントローラ38は、油圧ポンプ40の押しのけ容積が最大となった場合、例えば機体10の走行速度が5km/hになった場合、一定の間、油圧ポンプ40、前輪用油圧モータ42、及び後輪用油圧モータ44の斜板の角度を一定に維持し、機体10の走行速度を一定に維持する制御を行う(図6のC→D、G→H(図5の領域3に対応))。この間、コントローラ38は、油圧ポンプ40の押しのけ容積、前輪用油圧モータ42及び後輪用油圧モータ44の押しのけ容積を変化させず一定に維持する制御を行う。これにより、機体10の走行速度は一定に維持される。このように、コントローラ38は、走行レバー34の操作により機体10の実速度が切換用閾値に達した場合、切換用閾値に達してから一定の間、油圧ポンプの押しのけ容積、前輪用油圧モータの押しのけ容積、前記後輪用油圧モータの押しのけ容積を一定に維持するように構成されている。切換用閾値は、ここでは、油圧ポンプ40の斜板の角度が最大となり、油圧ポンプ40の制御により実現可能な最大の実速度(図6の場合5km/h)を意味する。
【0038】
次いで、油圧ポンプ40の押しのけ容積の最大値を超えて走行レバー34の操作角度を増大した場合、コントローラ38は、目標速度信号に基づいて、前輪用油圧モータ42及び後輪用油圧モータ44の斜板の角度を減少させて、前輪用油圧モータ42及び後輪用油圧モータ44の押しのけ容積を低減させ、当該モータ42、44の回転数を増加する制御を行う(図6のD→E、H→I(図5の領域2に対応))。最高速度設定スイッチ36が最大設定状態に設定された場合、コントローラ38は、前輪用油圧モータ42及び後輪用油圧モータ44の押しのけ容積が最小となるまで、油圧ポンプ40の斜板の角度を最大の状態に維持する制御を行う。又、最高速度設定スイッチ36が70%の操作角度に設定された場合、コントローラ38は、前輪用油圧モータ42及び後輪用油圧モータ44の押しのけ容積が最大押しのけ容積の例えば65%となるまで、油圧ポンプ40の斜板の角度を最大の状態に維持する制御を行う。これにより、機体10の走行速度は更に上昇する。なお、コントローラ38は、走行レバー34の操作角度が例えば90%から100%の間(E→F、I→J)では、機体10の走行速度を一定に維持するように制御する。
【0039】
他方、最高速度設定スイッチ36を30%の操作角度に設定した場合、コントローラ38は、走行レバー34の操作角度が増大するのに応じて、目標速度信号に基づいて油圧ポンプ40の斜板の角度を増大させて、油圧ポンプ40から供給される圧油の押しのけ容積を増加する制御を行う(図6のB→K(図5の領域1に対応))。これにより、機体10の走行速度は上昇する。コントローラ38は、走行レバー34の操作角度が例えば90%から100%の間(K→L)では、機体10の走行速度を一定に維持するように制御する。この場合、油圧ポンプ40の押しのけ容積を制御するだけで最高速度を達成することができる。
【0040】
次いで、本発明の第1実施形態に係る転圧機械1の作用、効果について説明する。
【0041】
本発明の転圧機械1において、コントローラ38は、実速度が切換用閾値より小さい場合、油圧ポンプ40の押しのけ容積を制御するように構成されており、且つ、実速度が切換用閾値よりも大きい場合、前輪用油圧モータ42及び後輪用油圧モータ44の押しのけ容積を制御するように構成されており、且つ、実速度が切換用閾値に達してから一定の間、油圧ポンプ40の押しのけ容積、前輪用油圧モータ42の押しのけ容積、及び後輪用油圧モータ44の押しのけ容積を一定に維持するように構成されている。従って、切換用閾値を跨いで機体10の走行速度が変化する場合、即ち油圧ポンプ40による機体の速度制御と、前輪用油圧モータ42及び後輪用油圧モータ44による機体10の速度制御とを切り換える場合であっても、機体10の実速度が切換用閾値に達してから一定の間、油圧ポンプ40の押しのけ容積、前輪用油圧モータ42の押しのけ容積、及び後輪用油圧モータ44の押しのけ容積が一定に維持されることから、この間、機体10の走行速度は変化せず一定に保たれる。よって、油圧ポンプ40の押しのけ容積が増大することによる走行速度の上昇と、前輪用油圧モータ42及び後輪用油圧モータ44の傾転量が減少することによる走行速度の上昇との同時発生が回避される。このため、転圧機械1の走行速度の急上昇を回避することができるため、転圧作業を行う際にオペレータが大きな衝撃を受けることがなく、ひいては操作性の向上を実現することができる。
【0042】
又、本発明の実施形態に係る転圧機械1によれば、コントローラ38は、走行レバー34からの第1操作量信号及び最高速度設定スイッチ36からの第2操作量信号を受信し、当該第1操作量信号及び第2操作量信号に基づいて目標速度を設定するように構成されており、且つ、走行レバー34及び最高速度設定スイッチ36の少なくともいずれか一方の操作により実速度が切換用閾値に達した場合、切換用閾値に達してから一定の間、油圧ポンプ40の押しのけ容積、前輪用油圧モータ42の押しのけ容積、及び後輪用油圧モータ44の押しのけ容積を一定に維持するように構成されている。このため、オペレータ自身の操作によって設定された目標速度に基づいて、切換用閾値を跨いで機体10の走行速度が変化する場合であっても、転圧機械1の走行速度の急上昇を回避することができ、転圧作業を行う際にオペレータが大きな衝撃を受けることがなく、ひいては操作性の向上を実現することができる。
【0043】
又、本発明の実施形態に係る転圧機械1によれば、コントローラ38は、最高速度設定スイッチ36の操作によって最高速度の設定が変更された場合、変更前の最高速度を実現する走行レバー34の操作量と同じ操作量で変更後の最高速度が実現されるように、油圧ポンプ40の押しのけ容積、前輪用油圧モータ42の押しのけ容積、及び後輪用油圧モータ44の押しのけ容積を制御する。このため、変更後の最高速度を変更前の最高速度より小さく設定した場合、走行レバー34の操作角度変化に対する実速度の変化が鈍くなる。つまり、走行レバー34の操作に応じて実速度が敏感に変化する状態を回避でき、走行レバー34を微調整する必要が無くなり、オペレータによる転圧機械1の作業性向上、操作性向上を実現することができる。
【0044】
又、本発明の実施形態に係る転圧機械1によれば、コントローラ38は、最高速度設定スイッチ36からの第2操作量信号に基づいて最高速度をモニタ46に表示するとともに、回転数センサ32からの実速度信号に基づいて実速度をモニタ46に表示するように構成されている。このように、モニタ46に実速度と最高速度の設定値が並んで表示されるため、オペレータは、目標最高速度に対する現在の実速度を視覚的に確実に認識することができる。
【0045】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に係る転圧機械1に限定されるものではなく、本発明の概念及び特許請求の範囲に含まれるあらゆる態様を含む。また、上述した課題及び効果を奏するように、各構成を適宜選択的に組み合わせても良い。例えば、上記実施形態における各構成要素の形状、材料、配置、サイズ等は、本発明の具体的態様によって適宜変更され得る。
【0046】
例えば、上記実施形態では、転圧機械1を、アーティキュレート式(関節式)の振動ローラとして説明したが、転圧機械1は所謂ホイールローダであってもよい。
【0047】
又、上記実施形態では、機体10が前進走行する場合におけるコントローラ38を用いた機体10の速度制御について説明した。しかし、コントローラ38による機体10の速度制御は、機体10が後進走行する場合においても同様に適用することができる。
【符号の説明】
【0048】
1 転圧機械
10 機体
14 前輪
18 後輪
30 速度制御装置
32 回転数センサ(速度検出手段)
34 走行レバー(速度調整手段)
36 最高速度設定スイッチ(最高速度設定手段)
38 コントローラ
40 油圧ポンプ
42 前輪用油圧モータ
44 後輪用油圧モータ
46 モニタ

図1
図2
図3
図4
図5
図6