(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-05
(45)【発行日】2023-12-13
(54)【発明の名称】乗物用シート及び製造方法
(51)【国際特許分類】
B60N 2/58 20060101AFI20231206BHJP
A47C 31/02 20060101ALI20231206BHJP
B68G 7/05 20060101ALI20231206BHJP
【FI】
B60N2/58
A47C31/02 A
B68G7/05 A
(21)【出願番号】P 2019225807
(22)【出願日】2019-12-13
【審査請求日】2022-11-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000220066
【氏名又は名称】テイ・エス テック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088580
【氏名又は名称】秋山 敦
(74)【代理人】
【識別番号】100195453
【氏名又は名称】福士 智恵子
(74)【代理人】
【識別番号】100205501
【氏名又は名称】角渕 由英
(72)【発明者】
【氏名】阿久津 修一
(72)【発明者】
【氏名】美馬 壱晃
【審査官】松江 雅人
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-30392(JP,A)
【文献】特開2008-296599(JP,A)
【文献】特開2012-116286(JP,A)
【文献】特開2011-142976(JP,A)
【文献】実開昭62-79500(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60N 2/58
A47C 31/02
B68G 7/05
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
連結された二つのシート部材を有する乗物用シートであって、
前記二つのシート部材はそれぞれ、パッドと、該パッドを覆う表皮と、前記シート部材の骨格を構成するフレームとを備え、
一方のシート部材のパッドは、他方のシート部材と連結される部分において、前記一方のシート部材のフレームと前記他方のシート部材との間に配置される突出部を有し、
前記一方のシート部材の表皮は、前記他方のシート部材と連結する側において、端部から所定距離延びて前記突出部の表面を覆う延長部と、前記突出部を把持して前記突出部の裏面を覆う把持部とを有することを特徴とする乗物用シート。
【請求項2】
前記一方のシート部材は、乗員が着座するシートクッションであり、前記他方のシート部材は前記シートクッションの後端部に連結され乗員の背中を受けるシートバックであり、
前記延長部及び前記把持部は、前記シートクッションの表皮の後端部から延びて前記シートクッションの前記突出部を覆うことを特徴とする請求項1に記載の乗物用シート。
【請求項3】
前記延長部の厚みは前記表皮の厚みより薄いことを特徴とする請求項1又は2に記載の乗物用シート。
【請求項4】
前記延長部の両側部と前記把持部の両側部とが接合され、前記延長部と前記把持部とが筒体を形成しており、前記突出部は前記筒体の内部を通り配置されることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の乗物用シート。
【請求項5】
前記フレームは、前記パッドを支持する受圧部を有し、
前記表皮の端部には、前記受圧部に固定される取付部が設けられていることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の乗物用シート。
【請求項6】
前記フレーム又は前記受圧部に、爪部が形成されていて、
前記表皮の前記取付部は、前記爪部に掛けて固定されることを特徴とする請求項5に記載の乗物用シート。
【請求項7】
前記取付部は、前記フレーム又は前記受圧部に形成された複数の前記爪部に掛けられるワイヤ部材を有することを特徴とする請求項6に記載の乗物用シート。
【請求項8】
連結された二つのシート部材を有する乗物用シートの製造方法であって、
前記二つのシート部材はそれぞれ、パッドと、該パッドを覆う表皮と、前記シート部材の骨格を構成するフレームとを備え、一方のシート部材のパッドは、他方のシート部材と連結される部分において、突出部を有し、前記一方のシート部材の表皮は、他方のシート部材と連結する側において、端部から、所定距離延びて前記突出部の表面を覆う延長部と、前記突出部を把持して前記突出部の裏面を覆う把持部を有し、
前記突出部が前記延長部と前記把持部とに覆われた状態で、前記突出部を、前記一方のシート部材のフレームと前記他方のシート部材との間に通す工程を含むことを特徴とする乗物用シートの製造方法。
【請求項9】
前記フレームは前記パッドを支持する受圧部を有し、
前記表皮の端部に設けられた取付部を、前記フレーム又は前記受圧部に形成された爪部に掛けて、前記パッドを前記フレームに固定する工程を含むことを特徴とする、請求項8に記載の乗物用シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗物用シートとその乗物用シートの製造方法に係り、特に、連結された二つのシート部材を備えた乗物用シートとその乗物用シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
表皮を有するシートクッションを、クッションフレームに取り付ける際、シートクッションの後端部を、シートバックとクッションフレームのリアパイプとの間の隙間に通すことが行われている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、通常、シートバックとクッションフレームのリアパイプとの間の隙間の大きさが、シートクッションの後端部の高さより狭いため、後端部をその隙間に通す際、後端部がリアパイプに突き当たり、隙間に通らないおそれがあった。そのため、乗物用シートを製造する際、作業員は後端部の突き当たりを避けるよう後端部を押さえながら挿入作業を行うため、作業性が低下するという課題があった。
【0005】
そこで、本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、パッドの端部から突出する突出部を、骨格となるフレームとシート部材との間に容易に挿入可能な乗物用シート及び乗物用シートの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題は、本発明の乗物用シートによれば、連結された二つのシート部材を有する乗物用シートであって、前記二つのシート部材はそれぞれ、パッドと、該パッドを覆う表皮と、前記シート部材の骨格を構成するフレームとを備え、一方のシート部材のパッドは、前記他方のシート部材と連結される部分において、前記一方のシート部材のフレームと前記他方のシート部材との間に配置される突出部を有し、前記一方のシート部材の表皮は、他方のシート部材と連結する側において、端部から所定距離延びて前記突出部の表面を覆う延長部と、前記突出部を把持して前記突出部の裏面を覆う把持部とを有することにより解決される。
【0007】
上記のように構成された本発明の乗物用シートによれば、パッドの端部から突出する突出部が、延長部と把持部とにより覆われる。そのため、突出部を隙間に通すとき、突出部がフレームに突き当たることが抑制され、突出部をフレームと別のシート部材のパッドの間に容易に挿入することができる。そのため、乗物用シートを組み立てるときの作業性が向上する。
【0008】
また、上記の構成において、前記一方のシート部材は、乗員が着座するシートクッションであり、前記他方のシート部材は前記シートクッションの後端部に連結され乗員の背中を受けるシートバックであり、前記延長部及び前記把持部は、前記シートクッションの表皮の後端部から延びて前記シートクッションの前記突出部を覆うとよい。
上記構成により、シートクッション後端にある突出部を、シートクッションのフレームにとシートバックとの間を通す際、突出部がフレーム、例えばパイプ部材に突き当たることが抑制され、突出部をフレームとシートクッションとの間に容易に通すことができる。
【0009】
また、上記の構成において、前記延長部の厚みは前記表皮の厚みより薄いとよい。
表皮から延びる延長部の厚みを表皮の厚みより薄くすることで、延長部を表皮と同じ素材で作製した場合であっても、製造コストを安くすることができる。
【0010】
また、上記の構成において、前記延長部の両側部と前記把持部の両側部とが接合され、前記延長部と前記把持部とが筒体を形成しており、前記突出部は前記筒体の内部を通り配置されるとよい。
突出部が、延長部及び把持部による筒体の内部を通ることで、フレームと他方のシート部材との間に配置する際、突出部が乗物用シートの幅方向にずれることを抑制し、より容易に通すことが可能になる。
【0011】
また、上記の構成において、前記フレームは、前記パッドを支持する受圧部を有し、前記表皮の端部には、前記受圧部に固定される取付部が設けられているとよい。
表皮の端部に、受圧部に固定される取付部が設けられることで、パッドの固定を容易にすることができる。
【0012】
また、上記の構成において、前記フレーム又は前記受圧部に、爪部が形成されていて、
前記表皮の前記取付部は、前記爪部に掛けて固定されるとよい。
爪部に取付部を掛けて固定することで、簡単に取付部をフレーム又は受圧部に固定することができる。
【0013】
また、上記の構成において、前記取付部は、前記フレーム又は前記受圧部に形成された複数の前記爪部に掛けられるワイヤ部材を有するとよい。
取付部のワイヤ部材を爪部に掛けることで、例えば従来の鉤状に形成された取付部よりもコストが安く、容易に取付部を固定することができる。
【0014】
また、前記課題は、本発明の乗物用シートの製造方法によれば、連結された二つのシート部材を有する乗物用シートの製造方法であって、前記二つのシート部材はそれぞれ、パッドと、該パッドを覆う表皮と、前記シート部材の骨格を構成するフレームとを備え、一方のシート部材のパッドは、他方のシート部材と連結される部分において、突出部を有し、前記一方のシート部材の表皮は、他方のシート部材と連結する側において、端部から、所定距離延びて前記突出部の表面を覆う延長部と、前記突出部を把持して前記突出部の裏面を覆う把持部を有し、前記突出部が前記延長部と前記把持部とに覆われた状態で、前記突出部を、前記一方のシート部材のフレームと前記他方のシート部材との間に通す工程を含むことにより解決される。
【0015】
本発明による乗物用シートの製造方法により、パッドから突出する突出部が延長部と把持部とにより覆われていることで、パッドがフレームに突き当たることが抑制され、突出部をフレームと別のシート部材との間に容易に挿入することができ、乗物用シートを組み立てる際の作業性が向上する。
【0016】
また、上記の乗物用シートの製造方法において、前記フレームは前記パッドを支持する受圧部を有し、前記表皮の端部に設けられた取付部を、前記フレーム又は前記受圧部に形成された爪部に掛けて、前記パッドを前記フレームに固定する工程を含むとよい。
表皮の端部に設けられた取付部を、フレーム又は受圧部に形成された爪部に掛けることで、容易にパッドをフレームに固定することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の乗物用シートによれば、パッドの端部から突出する突出部が、延長部と把持部とにより覆われる。そのため、突出部がフレームに突き当たることが抑制され、突出部をフレームと別のシート部材のパッドの間に容易に挿入することができる。そのため、乗物用シートを組み立てるときの作業性が向上する。
上記構成により、シートクッション後端にある突出部を、シートクッションのフレームにとシートバックとの間を通す際、突出部がフレーム、例えばパイプ部材に突き当たることが抑制され、突出部をフレームとシートクッションとの間に容易に通すことができる。
また、表皮から延びる延長部の厚みを表皮の厚みより薄くすることで、延長部を表皮と同じ素材で作製した場合であっても、コストを安くすることができる。
また、突出部が、延長部及び把持部による筒体の内部を通ることで、フレームと他方のシート部材との間に配置する際、突出部が乗物用シートの幅方向にずれることを抑制し、より容易に通すことが可能になる。
また、表皮の端部に、受圧部に固定される取付部が設けられることで、パッドの固定を容易にすることができる。
また、爪部に取付部を掛けて固定することで、簡単に取付部をフレーム又は受圧部に固定することができるようになる。
また、取付部のワイヤ部材を爪部に掛けることで、例えば従来の鉤状に形成された取付部よりもコストが安く、容易に取付部を固定することができるようになる。
また、本発明による乗物用シートの製造方法により、パッドから突出する突出部が延長部と把持部とにより覆われていることで、パッドがフレームに突き当たることが抑制され、突出部をフレームと別のシート部材との間に容易に挿入することができ、乗物用シートを組み立てる際の作業性が向上する。
また、表皮の端部に設けられた取付部を、フレーム又は受圧部に形成された爪部に掛けることで、容易にパッドをフレームに固定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の一実施形態に係る車両用シートの斜視図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る車両用シートのフレームを示す斜視図である。
【
図3】車両用シートのシートクッションの平面図である。
【
図4】車両用シートのシートクッションの底面図である。
【
図6】シートクッションの後端部を示す斜視図である。
【
図8】車両用シートの製造方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の一実施形態(本実施形態)に係る乗物用シートの構成について図面を参照しながら説明する。ただし、以下に説明する実施形態は、本発明の理解を容易にするための一例であり、本発明を限定するものではない。すなわち、本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれることは勿論である。
【0020】
なお、以下では、乗物用シートの一例として車両用シートを挙げ、その構成例について説明することとする。ただし、本発明は、自動車・鉄道など車輪を有する地上走行用乗物に搭載される車両用シートに限定されるものではなく、地上以外を移動する航空機や船舶などに搭載されるシートであってもよい。
【0021】
また、以下の説明において、「前後方向」とは、車両用シートの前後方向であり、車両走行時の進行方向と一致する方向である。また、「シート幅方向」とは、車両用シートの幅方向であり、車両用シートに着座した乗員から見た左右方向と一致する方向である。また、「上下方向」とは、車両用シートの上下方向であり、車両が水平面を走行しているときには鉛直方向と一致する方向である。
また、以下の説明において、「シート幅方向」、「シート高さ方向」のように各種方向に「シート」を付して記載する場合には、車両用シートに対する方向を示し、「車両内側」、「車両外側」のように「車両」を付して記載する場合には、車両に対する方向を示すものとする。
また、以下に説明する車両用シート各部の形状、位置及び姿勢等については、特に断る場合を除き、車両用シートが後述する着座状態にあるケースを想定して説明することとする。
【0022】
<<本実施形態に係る車両用シートの基本構成>>
本実施形態に係る車両用シート(以下、車両用シートS)の基本構成について、
図1及び
図2を参照しながら説明する。
図1は車両用シートSの斜視図である。
図1中、車両用シートSの一部については図示の都合上、トリムカバー(クッション用トリムカバー17、バック用トリムカバー27)を外した構成で図示している。
【0023】
車両用シートSは、車体フロア上に載置され、車両の乗員が着座するシートである。本実施形態において、車両用シートSは、車両の前部座席に相当するフロントシートとして利用される。ただし、これに限定されるものではなく、車両用シートSは、車両のリアシートであってもよく、また、前後方向に三列のシートを備える車両において二列目のミドルシートや三列目のリアシートとしても利用可能である。
【0024】
車両用シートSは、
図1に示すように、着座者の臀部を支える着座部分となるシートクッションS1、着座者の背部を支える背もたれ部分となるシートバックS2、及び、シートバックS2の上部に配され、着座者の頭部を支えるヘッドレストS3を主な構成要素とする。シートクッションS1は本発明の一方のシート部材に相当し、シートバックS2は、本発明の他方のシート部材に相当する。シートクッションS1とシートバックS2とはリクライニング機構60を挟んで連結されている。また、図示しないが、シートクッションS1の下部にはスライドレールが設置されており、このスライドレールにより、車両用シートSは、前後方向にスライド移動可能な状態で車体フロアに載置されている。
【0025】
車両用シートSの中には、
図2に示すシートフレームFが設けられており、シートフレームFは、主にクッションフレーム1とバックフレーム2とにより構成される。クッションフレーム1は、シートフレームFにおけるシートクッションS1の骨格をなし、バックフレーム2は、シートフレームFにおけるシートバックS2の骨格をなしている。
【0026】
シートクッションS1は、その後端部がシートバックS2の下端部に連結されている。また、シートクッションS1は、クッションフレーム1に、クッションパッド16を載置し、更にクッションパッド16をクッション用トリムカバー17により覆うことで構成される。シートバックS2は、バックフレーム2に、バックパッド26を配し、更にバックパッド26をバック用トリムカバー27により覆うことで構成される。
【0027】
クッションパッド16及びバックパッド26は、例えばウレタン発泡剤を用いて、発泡成型により成型されたウレタン基材である。クッションパッド16及びバックパッド26は、本発明のパッドに相当する。また、クッション用トリムカバー17及びバック用トリムカバー27は、本発明の表皮に相当し、布、フィルム、クロス、革やシート等により構成され、所定のテンションが掛かるように張られた状態でクッションパッド16、バックパッド26を覆うよう取り付けられている。
本実施形態においてクッション用トリムカバー17をクッションパッド16に張る際には、クッション用トリムカバー17の端部を所定箇所に取り付けることになるが、その取付方法については後述する。
【0028】
本実施形態において、クッションフレーム1は、
図2に示すように、略方形枠状の外形形状をなす。そして、クッションフレーム1は、シート幅方向左右の端部をそれぞれ構成する一対のクッションサイドフレーム12と、クッションフレーム1の前端部を構成するパンフレーム11と、スプリング14(受圧部)とを主たる構成要素としている。
【0029】
2本のクッションサイドフレーム12は、クッションフレーム1の幅を規定するため、左右方向に離間して、車両の前後方向に延びるように配置されている。そして、2本のクッションサイドフレーム12を連結するフロントパイプ13aが前端部に、リアパイプ13bが後端部に取り付けられている。
【0030】
また、パンフレーム11が、一対のクッションサイドフレーム12の前方側に固着接合されており、パンフレーム11により左右のクッションサイドフレーム12が前方側で連結される。より詳細には、パンフレーム11の左右方向の端部は、それぞれ、溶接などの固定手段によりクッションサイドフレーム12に設けられたフランジに固定される。
【0031】
パンフレーム11は、主として着座者(乗員)の大腿部を支持するためのものであり、その上面がほぼ平坦な略矩形形状に形成された金属製の板材から形成されるフレームである。
【0032】
左右のクッションサイドフレーム12の間には、受圧部としてのスプリング14(Sバネ)がシート幅方向に複数並べて設けられている。このスプリング14は、シート前後方向に長く延出している。スプリング14の前端部は、係合フック14cによりフロントパイプ13aに固定され、スプリング14の後端部は係合フック14dによりリアパイプ13bに留められている。また、スプリング14には受圧板14aが設けられている。
【0033】
バックフレーム2は、主に、方形枠状に加工されたパイプからなり、
図2に示すように、バックフレーム2は、逆さU字形のアッパーフレーム21と、シート幅方向左右の端部をなす一対のバックサイドフレーム22と、一対のバックサイドフレーム22の下端部を連結するロアフレーム23と、を備える。また、バックフレーム2には、バックフレーム2に懸架された受圧プレート24が設けられていて、受圧プレート24を懸架するための懸架フレーム25が左右のバックサイドフレーム22に渡るよう設けられている。バックフレーム2の上端中央部には、筒型状のヘッドレストガイド21aが取り付けられている。このヘッドレストガイド21aに、ヘッドレストS3の下端から延びるヘッドレストピラー61が挿入されることで、ヘッドレストS3がシートバックS2に取り付けられる。
【0034】
クッションフレーム1を構成する各部材の構成材料としては、荷重を受けたときに大きく変形しないよう十分な剛性をもつ材料、例えば、鋼材やアルミニウム合金等の金属材料が挙げられる。クッションフレーム1を構成する各部材同士の接合手段は溶接であるが、接合手段としては、ボルト、接着剤による接合を併用してもよい。
【0035】
<<クッションパッドとクッション用トリムカバー>>
次に、クッションパッド16とクッション用トリムカバー17との構成について、
図3から
図5を参照しながら説明する。以下の説明中、「クッション前後方向」とは、シートクッションS1の前端から後端に向かう方向であり、車両用シートSの前後方向と一致する。クッションの前後方向において「前方」とは、シートクッションS1の自由端が位置する方であり、シートバックS2と連結していない側を意味する。
【0036】
クッションパッド16は、上述のように、クッションフレーム1に載置され、乗員の臀部を受ける部材である。シートクッションS1において、クッションパッド16は、骨組みとなるクッションフレーム1を包囲するよう設けられている。クッションパッド16は、クッションフレーム1に固定するために、クッション用トリムカバー17により覆われた後、シートバックS2とクッションフレーム1のリアパイプ13bとの間の隙間Vに挿入される(
図5参照)。そのため、クッションパッド16は、クッションパッド16の後端部において隙間Vに挿入される突出部16aを有する。言い換えれば、クッションパッド16は、シートクッションS1とシートバックS2とが連結される部分において、シートクッションS1のクッションフレーム1(より詳細にはリアパイプ13b)と、シートバックS2との間に配置される突出部16aを有する。
【0037】
クッション用トリムカバー17は、シートクッションS1のクッションパッド16を覆う部材であり、カバー本体17aと延長部18とを有する。カバー本体17aは、クッションパッド16の上面、前面及び両側面を覆う。延長部18は、
図3に示すように、クッション用トリムカバー17の後端部、より詳細にはカバー本体17aの後端部において、後方に向けて所定距離L延びるよう設けられている。延長部18は、クッションパッド16の突出部16aの表面を覆う。
【0038】
クッションパッド16をクッションフレーム1に取り付ける際、延長部18は突出部16aと共に隙間Vに挿入され、リアパイプ13bを越える部分は、折り返されクッションパッド16の底面側に取り付けられる(
図5参照)。より具体的には、延長部18の先端には取付部18cが設けられていて、スプリング14の受圧板14aに形成された爪部15cに取り付けられる。
【0039】
クッション用トリムカバー17は、
図4及び
図5に示すように、延長部18の裏側に、突出部16aを把持して、突出部16aの裏面を覆う把持部19を有する。延長部18はカバー本体17aから延びて突出部16aの表面を覆っている。また、
図4~
図6に示すように、延長部18の両側部と、把持部19の両側部とは、縫製により接合されており、延長部18と把持部19とにより筒体Cが形成されている。クッションパッド16の突出部16aは、筒体Cの内部を通って配置される。
【0040】
従来のクッション用トリムカバーには、突出部16aを把持する把持部19が設けられていない。そのため、隙間Vに延長部18及び突出部16aを通そうとすると、突出部16aがリアパイプ13bに突き当たり、延長部18を引張っても突出部16aが隙間Vを通らないおそれがあった。そのため、クッションパッド16を取り付ける際、作業者は突出部16aを押さえ、突出部16aの厚みを小さくした状態で、延長部18と突出部16aとを隙間Vに挿入していた。突出部16aを押えながら挿入するため作業性が低くなっていた。
【0041】
本実施形態の車両用シートSで用いられるクッション用トリムカバー17(一方のシート部材)は、把持部19が突出部16aを把持して裏面を覆っていることから、突出部16aの厚みが抑制される。そのため、作業者は、隙間Vに挿入する際、突出部16aを押さえなくても、延長部18を引張るだけで、容易にクッションパッド16の突出部16aを、リアパイプ13bを越えて隙間Vに挿入することができる。
また、作業者は、突出部16aを隙間Vに挿入した後、延長部18をリアパイプ13bで折り返し、端部18bの取付部18c(ワイヤ部材18d)をスプリング14の受圧板14aの背面に設けられた爪部15cに掛ける。それにより、クッション用トリムカバー17及びクッションパッド16をクッションフレーム1に取り付けることができる。
【0042】
本実施形態では、
図5に示すように、延長部18の厚みT1は、カバー本体17aの厚みT0より薄く形成されている。延長部18の厚みT1をカバー本体17aの厚みT0より薄くすることにより、同様の素材で作製した場合であっても製造コストを下げることができる。また、隙間Vに延長部18を通す際、薄いほうがより通りやすくなる。
【0043】
また、上述のように延長部18と把持部19とにより筒体Cを形成し、突出部16aを筒体Cの内部に通すことで、突出部16aがシート幅方向に移動することが抑制され、突出部16aがずれることなく、突出部16aを容易に隙間Vに通すことができる。
【0044】
クッション用トリムカバー17の前方及び左右の端部17bには、
図4に示すようクッションフレーム1にクッション用トリムカバー17を取り付けるための取付部17cが設けられている。取付部17cは、クッション用トリムカバー17の端部17bにおいてワイヤ部材17dを保持することにより実現される。そして、端部17bにおいて切り欠かれた部分から露出したワイヤ部材17dを、一対のクッションサイドフレーム12、パンフレーム11に設けられた爪部15a、15bに掛けることにより、取付部17cがクッションフレーム1に固定される。
【0045】
ワイヤ部材17dは、棒状、線状、管状等の金属製又は樹脂製のワイヤを用いることが好ましい。また、ワイヤ部材17dの直径は、1~8mmであることが好ましく、1.5~5mmであることがより好ましい。
取付部17cは、クッション用トリムカバー17の端部17bにおいて、端部17bを各々折り返して、縫合し袋状とした中にワイヤ部材17dを通し収納している。そして、後述するクッションサイドフレーム12、パンフレーム11に形成された爪部15a、15bの位置に対応するワイヤ部材17dを掛けることにより、所定のテンションを掛けてクッション用トリムカバー17をクッションパッド16に固定している。
【0046】
図7に示すように、クッションフレーム1には、上述のクッション用トリムカバー17の取付部17cを固定するための爪部15a,15bが複数形成されている。本実施形態では、パンフレーム11の底面において、断面L字状の爪部が切り起しにより爪部15aが四か所形成されており、クッション用トリムカバー17の前方端部に設けられた取付部17cが掛るようになっている。
【0047】
また、左右のクッションサイドフレーム12のそれぞれには、断面L字状の爪部15bが二か所、溶接により取り付けられている。クッション用トリムカバー17の左右の端部に設けられた取付部17cが、爪部15bに掛るようになっている。
また、クッションフレーム1に設けられたスプリング14の受圧板14aの底面に切り起しにより爪部15cが形成されている。この爪部15cには、リアパイプ13bにより折り返された、延長部18の端部18bに設けられた取付部18c(ワイヤ部材18d)が掛る。
【0048】
クッションフレーム1に、クッション用トリムカバー17により覆われたクッションパッド16を載置し、端部17b、18bに設けられたワイヤ部材17d、18dをクッションフレーム1に設けられえた爪部15a~15cに掛けることにより固定できるため、クッションパッド16のクッションフレーム1に対する固定を容易にすることができる。
【0049】
図8を用いて、本実施形態の車両用シートSの製造方法について説明する。
図2に示すシートフレームFは予め用意され、シートフレームFにバックパッド26が配置されていて、バックパッド26を覆うバック用トリムカバー27は取り付けられているものとする(S101)。
【0050】
後端に突出部16aを有するクッションパッド16と、延長部18及び把持部19を有するクッション用トリムカバー17とを準備する(S102)。延長部18及び把持部19からなる筒体Cを裏返し、裏返された筒体Cに突出部16aを通した後、筒体Cを元に戻し、突出部16aを延長部18及び把持部19により覆う(S103)。
【0051】
クッション用トリムカバー17により覆われたクッションパッド16を、クッションフレーム1に載置し、クッションパッド16の突出部16aと、突出部16aを覆う延長部18及び把持部19とを、リアパイプ13bとシートバックS2との間(隙間V)に通す(S104)。突出部16aが、リアパイプ13bとシートバックS2の間に挟まれた後、クッション用トリムカバー17の延長部18を、リアパイプ13bにより折り返し、延長部18の取付部18cを、受圧板14aの底部に配置する。
次に、クッション用トリムカバー17の端部に設けられた取付部17c、18cのワイヤ部材17d、18dを、クッションフレーム1及びスプリング14の受圧板14aに設けられた爪部15a~15cに掛ける。クッション用トリムカバー17に覆われたクッションパッド16が、クッションフレーム1に取り付けられ、車両用シートSが完成する。(S105)
【0052】
以上、本実施形態に係る乗物用シート及びその製造方法について図を用いて説明した。上記実施例では、シートバックS2とクッションフレーム1の間を通る突出部16aを有するシートクッションS1について説明した。しかしながら、これは一例であり、本発明をシートバックS2に適用してもよい。すなわち、シートバックS2の、バックパッド26の下端部において下方に延びる突出部を設けて、その突出部が、バックフレーム2のロアフレーム23とシートクッションS1との間に配置されてもよい。突出部は、バック用トリムカバーの下端から延びる延長部と把持部とにより覆われており、それにより、シートバックS2の突出部を挿入する際、突出部を押さえることがなくなり、組み立ての作業性が向上するようになる。
【符号の説明】
【0053】
S 車両用シート(乗物用シート)
S1 シートクッション(シート部材)
S2 シートバック(シート部材)
S3 ヘッドレスト
F シートフレーム
1 クッションフレーム(フレーム)
11 パンフレーム
12 クッションサイドフレーム
13a フロントパイプ
13b リアパイプ
14 スプリング(受圧部)
14a 受圧板
14c、14d 係合フック
15a、15b、15c 爪部
16 クッションパッド(パッド)
16a 突出部
17 クッション用トリムカバー(表皮)
17a カバー本体
17b 端部
17c 取付部
17d ワイヤ部材
18 延長部
18b 端部
18c 取付部
18d ワイヤ部材
19 把持部
C 筒体
2 バックフレーム(フレーム)
21 アッパーフレーム
21a ヘッドレストガイド
22 バックサイドフレーム
23 ロアフレーム
24 受圧プレート
26 バックパッド
27 バック用トリムカバー
60 リクライニング機構
61 ヘッドレストピラー
V 隙間
T0、T1 厚み