(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-05
(45)【発行日】2023-12-13
(54)【発明の名称】乗物用シート
(51)【国際特許分類】
B60N 2/58 20060101AFI20231206BHJP
A47C 31/02 20060101ALI20231206BHJP
B68G 7/05 20060101ALI20231206BHJP
【FI】
B60N2/58
A47C31/02 A
B68G7/05 A
(21)【出願番号】P 2019225808
(22)【出願日】2019-12-13
【審査請求日】2022-11-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000220066
【氏名又は名称】テイ・エス テック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088580
【氏名又は名称】秋山 敦
(74)【代理人】
【識別番号】100195453
【氏名又は名称】福士 智恵子
(74)【代理人】
【識別番号】100205501
【氏名又は名称】角渕 由英
(72)【発明者】
【氏名】阿久津 修一
(72)【発明者】
【氏名】美馬 壱晃
(72)【発明者】
【氏名】青木 優人
【審査官】松江 雅人
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-88370(JP,A)
【文献】特開2010-005104(JP,A)
【文献】特開平11-290162(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60N 2/58
A47C 31/02
B68G 7/05
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パッドと該パッドを覆う表皮とを有するシート部材を備える乗物用シートであって、
前記表皮の端部を固定する取付部材と、
前記取付部材に掛る引掛部を有し、前記表皮の端部に結合される掛止部材と、を備え、
前記取付部材は、前記引掛部を掛け入れる貫通孔が形成されていて、前記貫通孔の開口部が台形状であり、前記引掛部が係止する前記貫通孔の第一辺の長さより、前記第一辺に対向する第二辺の長さが大きいことを特徴とする乗物用シート。
【請求項2】
前記貫通孔の前記第一辺の長さは、前記引掛部の前記第一辺に係止する部分の長さと略同じ大きさであることを特徴とする請求項1に記載の乗物用シート。
【請求項3】
前記掛止部材は前記引掛部を複数有し、前記複数の引掛部は、前記表皮の端部と平行な方向に沿って並べて配置されることを特徴とする請求項1又は2に記載の乗物用シート。
【請求項4】
前記シート部材は、該シート部材の骨組みを構成するフレームを有し、
前記取付部材は、前記フレームを保持する保持部を備えることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の乗物用シート。
【請求項5】
前記取付部材は前記保持部を複数有し、前記複数の保持部は前記フレームと平行な方向に沿って並べて配置されることを特徴とする請求項4に記載の乗物用シート。
【請求項6】
前記取付部材は、長尺に形成された平板状の部材であり、前記シート部材の外側又は外側に向けられる前記取付部材の面に短手方向に延びる溝が形成されていることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の乗物用シート。
【請求項7】
前記引掛部は前記貫通孔に挿入される爪部を有し、該爪部は前記シート部材の内側に向けて配置されていることを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の乗物用シート。
【請求項8】
前記表皮の裏面の一部が、前記パッドの端部に面ファスナを用いて固定されることを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載の乗物用シート。
【請求項9】
前記表皮の裏面に、前記表皮の一部を前記シート部材の内側に引き込む弓形のワイヤを備えることを特徴とする請求項1から8のいずれか一項に記載の乗物用シート。
【請求項10】
前記取付部材及び前記掛止部材を覆うフラップを備えることを特徴とする請求項1から9のいずれか一項に記載の乗物用シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗物用シートに係り、特に、シートの表皮を固定する取付部材を備える乗物用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
乗物シートでは、シートバックのバックパッドに表皮を取り付けるために、表皮の端部に樹脂製のフックを設け、その樹脂製のフックを所定の取付部に引掛けて固定することが行われている。従来の樹脂製のフックは長尺状の樹脂板によって形成されていて、表皮の端部に沿って連続的に設けられている。長尺状の樹脂製のフックを所定の取付部に押し付けながら引掛けていた。また、例えば、特許文献1に記載の乗物用シートでは、背面の表皮の下端縁部に設けられたの引掛具を、他方の表皮に設けられたトリムコードの貫通孔に挿入して取り付ける構造となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の乗物用シートでは、引掛具の幅の大きさと貫通孔の幅の大きさとが概ね同じであるため、取り付ける際、作業の厳密さが要求され、作業性が良くないという課題があった。
【0005】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、表皮を取り付ける際の作業性を向上させた乗物用シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題は、本発明の乗物用シートによれば、パッドと該パッドを覆う表皮とを有するシート部材を備える乗物用シートであって、前記表皮の端部を固定する取付部材と、前記取付部材に掛る引掛部を有し、前記表皮の端部に結合される掛止部材と、を備え、前記取付部材は、前記引掛部を掛け入れる貫通孔が形成されていて、前記貫通孔の開口部が台形状であり、前記引掛部が係止する前記貫通孔の第一辺の長さより、前記第一辺に対向する第二辺の長さが大きいことにより解決される。
【0007】
上記の様に構成された本発明の乗物用シートによれば、引掛部を掛け入れる貫通孔の開口部が台形状であり、引掛部が係止する貫通孔の第一辺の長さより、第一辺に対向する第二辺の長さが大きいことで、引掛部を貫通孔に挿入しやすくなる。そのため、作業の厳密性が要求されず、作業性が向上する。
【0008】
また、上記の構成において、前記貫通孔の前記第一辺の長さは、前記引掛部の前記第一辺に係止する部分の長さと略同じ大きさであるとよい。
貫通孔の第一辺の長さと、引掛部の第一辺に係止する部分の長さとを略同じ大きさにすることで、引掛部を取付部材に引掛けた後、引掛部が横ずれすることが抑制され、乗物用シートを組み立てた後の品質が安定する。
【0009】
また、上記の構成において、前記掛止部材は前記引掛部を複数有し、前記複数の引掛部は、前記表皮の端部と平行な方向に沿って並べて配置されるとよい。
複数の引掛部が表皮の端部と平行な方向に沿って並べられることで、表皮が均一に引き込まれるようになり、掛止部材を取付部材に取り付けた後の品質が安定する。
【0010】
また、上記の構成において、前記シート部材は、該シート部材の骨組みを構成するフレームを有し、前記取付部材は、前記フレームを保持する保持部を備えるとよい。
取付部材がフレームを保持することで、取付部材の位置が固定される。そのため、表皮端部が浮くことなくその移動が抑制され、組み立て後の乗物用シートの品質が安定する。
【0011】
また、上記の構成において、前記取付部材は前記保持部を複数有し、前記複数の保持部は前記フレームと平行な方向に沿って並べて配置されるとよい。
複数の保持部がフレームと平行な方向に沿って並べられることで、取付部材の位置がフレームに対して傾斜してずれることが抑制され、それにより表皮の端部の位置がずれることがないため、品質が安定する。
【0012】
また、上記の構成において、前記取付部材は、長尺に形成された平板状の部材であり、前記シート部材の外側又は内側に向けられる前記取付部材の面に短手方向に延びる溝が形成されているとよい。
外側又は内側に向けられる取付部材の面に短手方向に延びる溝が形成されることで、取付部材が撓みやすくなり、取付部材を乗物用シートの内側に凹むよう撓ませることで、取付部に取り付けられる表皮を凹面状にすることができ、生技性に優れる。
【0013】
また、上記の構成において、前記引掛部は前記貫通孔に挿入される爪部を有し、該爪部は前記シート部材の内側に向けて配置されているとよい。
爪部がシート部材の内側に向けて配置されることで、乗物用シートの外観に凹凸が発生することが抑制され、品質が安定すると共に意匠性が向上する。
【0014】
また、上記の構成において、前記表皮の裏面の一部が、前記パッドの端部に面ファスナを用いて固定されるとよい。
従来、表皮の裏面は、トリムコードを用いてシート部材の内側に引き込みフレームに掛けることで固定されていたが、表皮の裏面の一部が、パッドの端部に面ファスナを用いて固定されることで、表皮の固定が容易になり、乗物用シートを組み立てる際の作業性が向上する。
【0015】
また、上記の構成において、前記表皮の裏面に、前記表皮の一部を前記シート部材の内側に引き込む弓形のワイヤを備えるとよい。
従来、表皮をシート部材の内側に凹む凹面状とするには、表皮裏面に取り付けられた取付片を、トリムコードを用いてシート部材の内側に引き込みフレームに固定することで形成していた。表皮の裏面に、表皮の一部をシート部材の内側に引き込む弓形のワイヤを備えることで、容易に凹面状を形成することができ、乗物用シートを組み立てる際の作業性が向上する。
【0016】
また、上記の構成において、前記取付部材及び前記掛止部材を覆うフラップを備えるとよい。
取付部材及び掛止部材を覆うフラップを備えることで、乗物用シートの外観上、取付部材及び掛止部材が見え難くなり、乗物用シートの意匠性が向上する。
【発明の効果】
【0017】
本発明の乗物用シートによれば、引掛部を掛け入れる貫通孔の開口部が台形状であり、引掛部が係止する貫通孔の第一辺の長さより、第一辺に対向する第二辺の長さが大きいことで、引掛部を貫通孔に挿入しやすくなる。そのため、作業の厳密性が要求されず、作業性が向上する。
また、貫通孔の第一辺の長さと、引掛部の第一辺に係止する部分の長さとを略同じ大きさにすることで、引掛部を取付部に引掛けた後、横ずれすることが抑制され、乗物用シートを組み立てた後の品質が安定する。
また、複数の引掛部が表皮の端部と平行な方向に沿って並べられることで、表皮が均一に引き込まれるようになり、掛止部材を取付部に取り付けた後の品質が安定する。
また、取付部材がフレームを保持することで、取付部材の位置が固定される。そのため、取付部材に取り付けられる表皮の端部の位置がずれることがなく、品質が安定する。
また、複数の保持部がフレームと平行な方向に沿って並べられることで、取付部材の位置が安定し、それにより表皮の端部の位置がずれることがないため、品質が安定する。
また、外側又は内側に向けられる取付部材の面に短手方向に延びる溝が形成されることで、取付部材が撓みやすくなり、取付部材を乗物用シートの内側に凹むよう撓ませることで、取付部に取り付けられる表皮を凹面状にすることができ、生技性に優れる。
また、爪部がシート部材の内側に向けて配置されることで、乗物用シートの外観に凹凸が発生することが抑制され、品質が安定すると共に意匠性が向上する。
また、表皮の裏面の一部が、パッドの端部に面ファスナを用いて固定されることで、表皮の固定が容易になり、乗物用シートを組み立てる際の作業性が向上する。
また、表皮の裏面に、表皮の一部をシート部材の内側に引き込む弓形のワイヤを備えることで、容易に凹面状を形成することができ、乗物用シートを組み立てる際の作業性が向上する。
また、取付部材及び掛止部材を覆うフラップを備えることで、乗物用シートの外観上、取付部材及び掛止部材が見え難くなり、乗物用シートの意匠性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の一実施形態に係る車両用シートを斜め前方から見た斜視図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る車両用シートのフレームを示す斜視図である。
【
図3】車両用シートを斜め後方から見た斜視図である。
【
図4】
図3のIV-IV線に沿ったシートバックの断面図である。
【
図5】背面表皮材の一部を開けた状態であり、シートバックの内部を示す図である。
【
図6】取付部材に掛止部材が掛け止められた状態を示す図である。
【
図7】シートバックのロアフレームに取付部材が取り付けられた状態を示す斜視図である。
【
図8】掛け止められた状態の取付部材及び掛止部材を示す、
図7のVIII-VIII線に沿った断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の一実施形態(本実施形態)に係る乗物用シートの構成について図面を参照しながら説明する。ただし、以下に説明する実施形態は、本発明の理解を容易にするための一例であり、本発明を限定するものではない。すなわち、本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれることは勿論である。
【0020】
なお、以下では、乗物用シートの一例として車両用シートを挙げ、その構成例について説明することとする。ただし、本発明は、自動車・鉄道など車輪を有する地上走行用乗物に搭載される車両用シートに限定されるものではなく、地上以外を移動する航空機や船舶などに搭載されるシートであってもよい。
【0021】
また、以下の説明において、「前後方向」とは、車両用シートの前後方向であり、車両走行時の進行方向と一致する方向である。また、「シート幅方向」とは、車両用シートの幅方向であり、車両用シートに着座した乗員から見た左右方向と一致する方向である。また、「上下方向」とは、車両用シートの上下方向であり、車両が水平面を走行しているときには鉛直方向と一致する方向である。
また、以下の説明において、「シート幅方向」、「シート高さ方向」のように各種方向に「シート」を付して記載する場合には、車両用シートに対する方向を示し、「車両内側」、「車両外側」のように「車両」を付して記載する場合には、車両に対する方向を示すものとする。
また、以下に説明する車両用シート各部の形状、位置及び姿勢等については、特に断る場合を除き、車両用シートが着座可能な状態にあるケースを想定して説明することとする。
【0022】
<<本実施形態に係る車両用シートの基本構成>>
本実施形態に係る車両用シート(以下、車両用シートS)の基本構成について、
図1から
図3を参照しながら説明する。
図1は車両用シートを前方斜めから見た斜視図である。
図1中、車両用シートSの一部については図示の都合上、トリムカバー(クッション用トリムカバー17、バック用トリムカバー27)を外した構成で図示している。
【0023】
車両用シートSは、車体フロア上に載置され、車両の乗員が着座するシートである。本実施形態において、車両用シートSは、車両の前部座席に相当するフロントシートとして利用される。ただし、これに限定されるものではなく、車両用シートSは、車両のリアシートであってもよく、また、前後方向に三列のシートを備える車両において二列目のミドルシートや三列目のリアシートとしても利用可能である。
【0024】
車両用シートSは、
図1に示すように、着座者の臀部を支える着座部分となるシートクッションS1、着座者の背部を支える背もたれ部分となるシートバックS2及びシートバックS2の上部に配され、着座者の頭部を支えるヘッドレストS3を主な構成要素とする。なお、シートクッションS1及びシートバックS2は、本発明のシート部材に相当する。シートクッションS1とシートバックS2とはリクライニング機構60を挟んで連結されている。また、図示しないが、シートクッションS1の下部にはスライドレールが設置されており、このスライドレールにより、車両用シートSは、前後方向にスライド移動可能な状態で車体フロアに載置されている。
【0025】
車両用シートSの中には、
図2に示すシートフレームFが設けられており、シートフレームFは、主にクッションフレーム1とバックフレーム2とにより構成される。クッションフレーム1は、シートフレームFにおけるシートクッションS1の骨格をなし、バックフレーム2は、シートフレームFにおけるシートバックS2の骨格をなす。
【0026】
シートクッションS1は、その後端部がシートバックS2の下端部に連結されている。また、シートクッションS1は、クッションフレーム1に、クッションパッド16を載置し、更にクッションパッド16をクッション用トリムカバー17により覆うことで構成される。シートバックS2は、バックフレーム2に、バックパッド26を配し、更にバックパッド26をバック用トリムカバー27により覆うことで構成される。
【0027】
バック用トリムカバー27は、バックパッド26の背面を覆う背面表皮材28とバックパッド26の前面、両側面等を覆う前面表皮材29とを備える。
図4に示すように、前面表皮材29の下方端部29aが、シートクッションS1とシートバックS2との間の隙間を潜って、シートバックS2の下端に配置され、背面表皮材28の下方端部28aに連結されるよう構成されている。バック用トリムカバー27は本発明の表皮に対応する。
【0028】
クッションパッド16及びバックパッド26は、例えばウレタン発泡剤を用いて、発泡成型により成型されたウレタン基材である。また、クッション用トリムカバー17及びバック用トリムカバー27は、本発明の表皮に相当し、布、フィルム、クロス、革やシート等により構成され、所定のテンションが掛かるように張られた状態でクッションパッド16、バックパッド26を覆うよう取り付けられている。
本実施形態においてバック用トリムカバー27をバックパッド26に張る際には、バック用トリムカバー27の端部を所定箇所に取り付けることになるが、その取付方法については後述する。
【0029】
クッションフレーム1は、不図示の脚部で支持されていて、この脚部には、アッパーレールが取り付けられ、車体フロアに設置されているロアレールとの間で、前後方向において位置調整可能なスライド式に組み立てられている。クッションフレーム1の後端部は、リクライニング機構60を介してバックフレーム2と連結されている。
【0030】
本実施形態において、クッションフレーム1は、
図2に示すように、略方形枠状の外形形状をなす。そして、クッションフレーム1は、シート幅方向左右の端部をそれぞれ構成する一対のクッションサイドフレーム12と、クッションフレーム1の前端部を構成するパンフレーム11と、左右のクッションサイドフレーム12を後端部において連結する連結パイプ13と、スプリング14(受圧部)とを主たる構成要素としている。
【0031】
バックフレーム2は、主に、方形枠状に加工されたパイプからなり、
図2に示すように、バックフレーム2は、逆さU字形のアッパーフレーム21と、シート幅方向左右の端部をなす一対のバックサイドフレーム22と、一対のバックサイドフレーム22の下端部を連結するロアフレーム23と、を備える。また、バックフレーム2には、バックフレーム2に懸架された受圧プレート24が設けられていて、受圧プレート24を懸架するための懸架フレーム25aが左右のバックサイドフレーム22に渡るよう設けられている。また、アッパーフレーム21の上下に延びる部分を連結して支持する連結フレーム25bが設けられている。アッパーフレーム21の上端中央には二つのヘッドレストガイド21aが設けられていて、ヘッドレストS3から延びるヘッドレストピラー61を挿入して保持することができる。
【0032】
クッションフレーム1及びバックフレーム2を構成する各部材の構成材料としては、荷重を受けたときに大きく変形しないよう十分な剛性をもつ材料、例えば、鋼材やアルミニウム合金等の金属材料が挙げられる。クッションフレーム1及びバックフレーム2を構成する各部材同士の接合手段は溶接であるが、接合手段としては、ボルト、接着剤による接合を併用してもよい。
【0033】
<<バックパッドとバック用トリムカバー>>
次に、バックパッド26を覆うバック用トリムカバー27の構成について
図3~
図8を参照しながら説明する。以下の説明中、「シートバック上下方向」とは、シートバックS2上端から下端に向かう方向であり、車両用シートSの上下方向と一致する。シートバックS2の上下方向において「下方」とは、シートクッションS1と連結している側を意味し、「上方」とは、ヘッドレストS3が位置する方である。
【0034】
バックパッド26は、上述のように、バックフレーム2に取り付けられ、乗員の背中を支える部材である。シートバックS2において、バックパッド26は、骨組みとなるバックフレーム2を包囲するように設けられている(
図4参照)。
【0035】
バック用トリムカバー27は、シートバックS2のバックパッド26を覆う部材である。バック用トリムカバー27は、バックパッド26の前面、両側面、及びバックパッド26の後面の一部を覆う前面表皮材29と、バックパッド26の背面側に形成された開口する部分を覆う背面表皮材28とから構成されている。背面表皮材28の上方端部28bと、前面表皮材29の上方端部29bとは縫製により接合されていて接合部51を形成している。また、
図3に示すように背面表皮材28の両側部は、前面表皮材29の側部と線ファスナ57により結合されている。また、背面表皮材28の下方端部29aは、後述する取付部材30に着脱可能に固定されている。取付部材30の固定を外し、線ファスナ57の結合を解除することで、
図5に示すようにシートバックS2の背面を開けることができる。
【0036】
また、従来の車両用シートは、その背面をフラット面としたものが主流であるが、本実施形態の車両用シートSの背面(より具体的には背面表皮材28)は、
図3に示すようにシート内側に凹む凹面状に形成されている。背面を凹面状に形成することで、例えば後方に着座する乗員のレッグスペースをより広くすることができる。
【0037】
<<取付部材及び掛止部材>>
本実施形態の車両用シートSのバック用トリムカバー27は、掛止部材40を備え、掛止部材40は、断面J字状に形成された引掛部41を有し、背面表皮材28の下方端部28aに結合される。また、車両用シートSは、背面表皮材28の下方端部28aを、掛止部材40を介して固定する取付部材30を備える。取付部材30は、
図7に示すように長尺に形成された平板状の部材であり、取付部材30の上端部には、鉤状に形成された二つの保持部34を備える。取付部材30は、二つの保持部34により、シートバックS2の骨組みを構成するバックフレーム2のロアフレーム23の上端を保持し、取付部材30がシートバックS2の下端に固定される。取付部材30の下方端部には、前面表皮材29の下方端部29aが縫製により結合されている。
【0038】
取付部材30は、掛止部材40の引掛部41の対応する位置に、引掛部41を掛け入れる貫通孔31が形成されている。貫通孔31の開口部は台形状に形成されていて、引掛部41が係止する貫通孔31の上辺31a(第一辺)の長さL1より、上辺31aに対向する下辺31b(第二辺)の長さL2が大きい。また、引掛部41の貫通孔31の上辺31aに係止する部分の長さL3(幅方向の長さ)と、貫通孔31の上辺31aの長さL1とは、略同じ大きさで形成されている。従来の取付部に形成されていた貫通孔の開口部は、その上辺と下辺とが同じ大きさの長方形であったため、引掛部41を掛け入れる際、厳密性が要求され、作業性が良くなかった。本実施形態の取付部材30に形成された貫通孔31のように、開口部を台形状に形成することで、掛け入れる際、引掛部41の貫通孔31への挿入が容易になり、作業性が向上する。また、引掛部41の幅方向の長さL3と、貫通孔31の上辺31aの長さL1とを略同じ大きさにすることで、引掛部41を取付部材30に掛けた後も、引掛部41が横ずれすることが抑制され、組み立てた後の品質が安定する。
【0039】
また、
図5から
図7に示すように、掛止部材40は三つの引掛部41を備えていて、三つの引掛部41は、背面表皮材28の下方端部28aと平行な方向(シート幅方向)に並べて配置されている。また、取付部材30には、三つの引掛部41が掛け入れられるよう、三つの貫通孔31が形成されていて、それぞれの開口部が台形状に形成されている。引掛部41の数は三つに限定されず、一つでも二つ以上備えても良い。複数の引掛部41が掛止部材40に設けられることで、背面表皮材28が均一に引き込まれ、掛止部材40を取付部材30に取り付けた後の品質が安定する。
【0040】
また、
図5から
図7に示すように、取付部材30は二つの保持部34を備えていて、二つの保持部34により、取付部材30はロアフレーム23の上端に固定されている。二つの保持部34は、ロアフレーム23の上端に平行な方向に並べて配置される。保持部34の数は一つでも、三つ以上備えても良い。複数の保持部34を設けることで、取付部材30がロアフレーム23に対して傾斜してずれることが抑制され、組み立て後の乗物用シートの品質が安定する。
【0041】
また、
図7及び
図8に示すように、取付部材30の上端は他の部分よりも厚く形成されていて、掛止部材40の引掛部41を係止する係止部32を構成する。係止部32を他の部分より厚くすることで強度が高くなり、引掛部41により強く引っ張られることによる損傷が抑制される。
【0042】
取付部材30は、上述のように長尺に形成された平板状の部材であり、シート幅方向に延びるよう配置される。また、取付部材30は、
図5から
図8に示すように、シート外側に向く外面に短手方向(長手方向に対して垂直な方向、シートの上下方向)に延びる溝33が複数形成されている。溝33を形成することにより、取付部材30が撓みやすくなる。本実施形態では、取付部材30の外面に複数の溝33が形成されているが、複数の溝33は取付部材30の内面(シート内側に向く面)に形成されてもよい。取付部材30を車両用シートSの内側に凹むよう撓ませることで、取付部材30に取り付けられる掛止部材40も撓み、背面表皮材28を凹面状にすることができる。
【0043】
掛止部材40の引掛部41は、
図4及び
図7に示すように貫通孔31に挿入される爪部42を有し、爪部42はシートバックS2の内側に向けて配置される。爪部42をシートバックS2の内側に向けて配置することで、掛止部材40の外側の面に表れる凹凸部分が減少する。そのため、後述するフラップ56が掛止部材40を覆うように取り付けられても、爪部42は外側に向けられていないため、フラップ56に凹凸が発生することが抑制され、品質が安定すると共に意匠性が向上する。
【0044】
取付部材30がロアフレーム23に取り付けられた後、引掛部41を取付部材30の貫通孔31に掛け止めることで掛止部材40が掛り、背面表皮材28が張設される。この状態では、
図6に示すように、取付部材30及び掛止部材40は外部に露出している。背面表皮材28の下方端部28aには、シート下方に延びるフラップ56が取り付けられていて、フラップ56により、取付部材30及び掛止部材40を隠すことができる。フラップ56の下端部が、前面表皮材29の下方端部29aに面ファスナ58により、着脱可能に取り付けられる。なお、フラップ56の取付には面ファスナ58以外にスナップボタン又はクリップが用いられてもよい。
【0045】
<<面ファスナによる取付け>>
本実施形態のシートバックS2では、背面表皮材28の上方端部28bと前面表皮材29の上方端部29bとが縫製により接合されている(以下、連結している部分を接合部51と称する)。従来、この接合部51をトリムコードの一端を用いてシートバックS2の内側に引き込み、トリムコードの他端をシート前側にあるバックフレーム2又はバックパッド26に固定することで、バック用トリムカバー27をバックパッド26に張設していた。バック用トリムカバー27の張設には、作業員が接合部51に取り付けられたトリムコードをシートバックS2の前方側にあるバックフレーム2又はバックパッド26まで手を伸ばして取り付けていたため、作業が煩雑となり、この取付作業の機械化も困難であった。また、
図2に示すバックフレーム2では、懸架フレーム25aと連結フレーム25bとの間が狭く、手を伸ばしてトリムコードを取り付けることが難しい。
【0046】
本実施形態のシートバックS2では、
図4に示すように、バックパッド26の上側の端部26a、より詳しくはバックパッド26の開口部周辺のうち上側に位置する部分に面ファスナ50を配置し、接合部51をバックパッド26の端部26aに着脱可能に固定できるようにしている。面ファスナ50を用いて、背面表皮材28の一部(より詳細には接合部51)をバックパッド26の端部26aに固定しているため、従来、固定するため用いられていたトリムコードが不要となり、部品点数を削減することができる。また、シートバックS2の内部まで手を伸ばすことなく、接合部51をバックパッド26の端部26aに設けられた面ファスナ50により取り付けることができ、取付作業が簡便になった。なお、接合部51の固定にはスナップボタン又はクリップが用いられてもよい。
【0047】
<<凹面用ワイヤ>>
シートバックS2は、上述のように、
図3に示すように背面がシート内側に凹む凹面状に形成されている。凹面状に形成することで、後席に着座する乗員のレッグスペースをより広くすることができる。従来は、シートバックS2の背面を凹面状にするため、背面表皮材28の裏面に取り付けられた取付片を、トリムコードを用いてシートバックS2の内側に引き込み、フレーム等に固定することで実現していた。
【0048】
本実施形態の車両用シートSでは、背面表皮材28の裏面に弓形のワイヤ52を取り付け、背面表皮材28の中央部分を弓形のワイヤ52によりシートバックS2の内側に引き込むことで、背面の凹面状を実現している。
より、具体的には、ワイヤ52は、背面表皮材28のシート幅方向の長さより長く形成されていて、背面表皮材28の両側部に設けられた支持部54,54により、ワイヤ52の両端部52a,52aを支持することで、ワイヤ52の弓形の形状を維持している。ワイヤ52の中央部と背面表皮材28の中央部とが結合部53により連結されていることから、背面表皮材28の中央部がワイヤ52に引かれて背面表皮材28が凹面状となる。
【0049】
ワイヤ52は、棒状、線状、管状等の金属製又は樹脂製のものを用いることが好ましい。また、ワイヤ52の直径は、1~8mmであることが好ましく、1.5~5mmであることがより好ましい。
また、背面表皮材28は、複数の表皮ピースを結合することにより作製されていて、ワイヤ52は複数の表皮ピースの結合された場所に配置される。結合箇所にワイヤ52を配置することで、背面表皮材28の裏面にワイヤ52を設けていることが目立ちにくくなり意匠性が向上する。
【0050】
以上、本実施形態に係る乗物用シートについて図を用いて説明した。上記実施例では、主にシートバックS2のバックパッド26を覆うバック用トリムカバー27の下方端部に取り付けられる掛止部材40及びそれを固定する取付部材30について説明した。しかしながら、これは一例であり、本発明をシートクッションS1に適用してもよい。すなわち、シートクッションS1の、クッションパッド16を覆うクッション用トリムカバー17の後方端部に取付部材を配置し、表面を覆う表皮材の後方端部に掛止部材を取り付け、取付部材に形成された開口部が台形状の貫通孔に掛止部材の引掛部を掛止するようにしてもよい。シートクッションS1に適用した場合でも、シートバックS2と同様、クッション用トリムカバー17をクッションパッド16に取り付ける際、作業の厳密性が軽減され、作業性が向上するようになる。
【符号の説明】
【0051】
S 車両用シート(乗物用シート)
S1 シートクッション
S2 シートバック
S3 ヘッドレスト
F シートフレーム
1 クッションフレーム
11 パンフレーム
12 クッションサイドフレーム
14 スプリング
16 クッションパッド
17 クッション用トリムカバー(表皮)
2 バックフレーム
21 アッパーフレーム
21a ヘッドレストガイド
22 バックサイドフレーム
23 ロアフレーム
24 受圧プレート
25a 懸架フレーム
25b 連結フレーム
26 バックパッド(パッド)
26a 端部
27 バック用トリムカバー(表皮)
28 背面表皮材
28a 下方端部
28b 上方端部
29 前面表皮材
29a 下方端部
29b 上方端部
30 取付部材
31 貫通孔
31a 上辺(第一辺)
31b 下辺(第二辺)
32 係止部
33 溝
34 保持部
40 掛止部材
41 引掛部
42 爪部
50、58 面ファスナ
51 接合部
52 ワイヤ
53 結合部
54 支持部
56 フラップ
57 線ファスナ
60 リクライニング機構